タイムマシンの作り方/How to Make a Time Machine:Daily MTG
Tom LaPille
2011年01月14日
元記事:http://www.wizards.com/Magic/Magazine/Article.aspx?x=mtg/daily/ld/125

 マスターズエディションIIIとマスターズエディションIVの2つは、私がウィザード社にいるあいだに手がけたもっとも楽しいプロジェクトだ。両セットのプレビュー記事は書いたが、それに飽き足らず私はこれらマスターズエディションの開発プロセスについて歯ごたえのある記事を書きたいとずっと思っていた。

 そしてこの記事こそがそれだ。

 マジックオンラインがリリースされたとき、当時もっとも直近のブロックはInvasionとOdysseyだった。Invasionより後にリリースされていたセットは、オンラインでもリリースされた。その後、私たちはMirageオンラインも発売し、さらにMirage後のセットも同様にオンライン版がリリースされ始めた。今や私たちはUrza’s Legacyまで辿り着いた。しかしMirage以前のセットはいまだオンラインではリリースされていない。なぜか?

 まず最初にマジックオンラインの現実というものについて説明したい。紙のマジックでは多くのプレイヤーはカードが欲しいときにパックを購入する。それに対し、マジックオンラインの参加者たちはリミテッドを通じてカードを入手することを好む。考えてみれば、別に驚くようなことではない。マジックオンラインはこれ以上ないほどドラフトに適した空間なのだから。いつでも遊びたいときに相手が存在し、望むなら何度でも挑戦できる。

 私たちは The Dark のオンライン版をリリースすることも出来ないことはなかった。もっともそれはろくな結果にならなかっただろう。おそらくだが、君たちの多くはThe Darkでドラフトを試みたことはないと思う。私はある。あれはひどかった。ああ、私は決して The Dark のデザイナーや開発者を責めているわけじゃない。当時、ブースタードラフトなどという遊び方は存在しなかったからだ。ただ、それはそれとして、The Dark のドラフトは本当にひどいものだ。皆にこんな思いは味わって欲しくない。私以外にもMirage以前のセットを用いてドラフトを試みた人たちを何人か知っているが、彼らも私と大して変わらない目にあったようだ。

 当時、なぜこれらのドラフトが上手くいかないのか、その原因について、さらに調査しようという気は起きなかった。それから数年後、マスターズエディションのセットたちに取り組んだとき、その作業を通じて何が原因だったのかを知った。


旧セットのクリーチャーは弱すぎる

 昨今のリミテッドは全てクリーチャーによる戦闘を中心に回っている。よってクリーチャーのパワーはある一定の高さを求められるし、低いレアリティに一定数以上の数のクリーチャーがいないとゲームが上手く回らない。Mirage以前のセットではこれらのことが明らかに考慮されていなかった。

 例えばLegendsだ。コモンの赤い単色クリーチャーはKoboldたち、壁、それと《Blazing Effigy》だけだ(訳注:パワーが0のクリーチャーか、攻撃に参加できないクリーチャーしかいない、ということ)。
Blazing Effigy (1)(赤)
クリーチャー - エレメンタル(Elemental)
Blazing Effigyが戦場から墓地に置かれたとき、クリーチャー1体を対象とする。Blazing EffigyはそれにX点のダメージを与える。Xは、このターン名前が《Blazing Effigy》である他の発生源からBlazing Effigyに与えられたダメージに3を加えた点数である。
0/3
引用:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Blazing+Effigy

 これでドラフトを楽しめ、というのは無理な注文だ。それに仮に十分な数のクリーチャーをとれたとしても、今のクリーチャーに比べるとずっと質の劣るものしかない。


当時はインスタントがほとんど無い

 昨今のリミテッドで重要な位置を占めるのはクリーチャー同士による戦闘だということは最初に述べた。そのクリーチャー同士の戦闘が面白くなるための大事な要素として、ぶつかりあったあとの結果が簡単に予想できるものであってはならない、ということがある。戦闘に驚きを加えるもの、それこそがインスタントだ。

 戦闘にサプライズをもたらすために、私たちはセットをデザインするときには、戦闘中に対戦相手の予想を台無しにできるカードを大量に放り込むようにしている。さらには、それらのカードが全ての色にまんべんなく行き渡るように努力している。

 例えばMagic 2011には以下のようなカードが収録されている。《Mighty Leap》《Diminish》《Stabbing Pain》《Thunder Strike》《Giant Growth》これら全てがどんなデッキでもプレイに値するほど強いとは言えないが、これら5枚のカード全てに私は戦闘で痛い目に合ったことがある。Mirage以前のセットにはこういったカードが大して入っていなかった。おそらく、なぜなら誰もドラフトという遊び方を知らなかったからだろう。


白と緑はとくにひどい

 最近のセットでは白と緑の強みは主にクリーチャーだ。そのかわり呪文は多少弱めに作ってあることで、他の色とのパワーバランスをとっている。すでに述べたとおり、過去のセットではクリーチャーの強さが今に比べて随分と落ちる。白と緑のクリーチャーも例外ではない。これが何を意味するかというと、白と緑は他の色よりも割を食っているということだ。

 さらに特筆すべきこととして《Pacifism》の初出はMirageであり、それ自体もその亜種もMirage以前には存在していない。さらに今では習慣的に加えられることとなっている《Giant Growth》系のカードも緑にはなかった。最近のセットで白と緑の強さを支えている2つの最も重要な要素が過去のセットには欠けているということだ。これらのカードなしに、さらには他の色に与えられている強力な呪文に対抗するクリーチャーもない。白と緑はただただ不利だ。


レアがリミテッド向けの強さをもっていない

 リミテッドにおけるレアカードには2つの重要な仕事がある。

 1つにはプレイヤーに指針を与えるということがある。もし君がパックを開けて《Shivan Dragon》を引いたら、君は基本的に「よし、赤をやろう」と思うだろう。パックを開けて《Mahamoti Djinn》を引いたら、もちろん話は別だ。君は「青に向かうぞ」という考えを持つはずだ。レアが与えてくれる指針はそれだけじゃない。君に特定の方向に偏ったユニークなデッキを作るよう仕向ける力もある。例えば《Overwhelming Stampede》は非常に強力なカードで、初手に取らないなんてことはあり得ない。

 しかしそのカードを入れることによって普段よりも多めのクリーチャーをデッキに入れたくなる衝動に駆られるだろうし、《Overwhelming Stampede》を初手にとることによって、普段なら《Giant Growth》をとるところで《Sacred Wolf》をピックしてしまうかもしれない。このように、色やデッキ全体についてピックの指針を定めてくれる、ということに加えて、レアにはもう1つの仕事がある。

 ゲームを終わらせることだ。

 ゲームがグダってしまったとき、多くの場合は圧倒的なレアパワーが降臨してゲームと退屈を終わらせてくれる。デッキに指針を与えてくれること、ゲームを終わりへと導いてくれること、この2つがレアに求められている非常に重要な機能だ。

 Mirage以前のセットにはユニークで使ってみたくなる面白いレアがたくさんあるが、残念なことにそういったレアの多くは一般的なリミテッドに入れるにはあまりに効果が尖りすぎているのだ。これは、デッキに入れたくなるレアの枚数が足りないということを意味する。私たちはプレイヤーが、レアはデッキに入れることできっとすごいことを引き起こしてくれるはずだ、と信じていることを知っているにも関わらず、だ。


 ここまで述べてきたように、過去のセットでドラフトをするということには様々な問題があったが、ありがたいことに私とエリックはマスターズエディションIVでそれらの問題に上手く対処できたと思っている。さて、どうやったのか?


クリーチャー

 上で述べたとおり、古いセットのクリーチャーたちは弱い。本当に弱い。
 嬉しいことにポータルセットのクリーチャーについてはそのようなことはなかった。これによって私たちは随分と助けられた。ポータルには昨今のリミテッドでは主食に当たる《Ironhoof Ox》《Alaborn Musketeer》《Cloud Spirit》《Goblin Firestarter》《Foul Spirit》のようなカードたちがてんこ盛りだった。

 もちろん、これらのようなカードに出来ることは限られていて、フォーマットに特有の雰囲気やユニークさをもたらすことは難しい。しかし、そういった役割は Limited Edition Beta や Arabian Nights や Antiquities に任せればいい。私たちに欠けていたのはシンプルなカードたちで、ポータルがもたらしてくれたものこそ、まさにそれだったのだ。

 ポータルのクリーチャーを用いてコモンのスロットを埋めることによって、クリエイティブな面からセットを見たとき多少奇妙なことが起きてしまう。例えば、ここ最近の色の役割からすると《Alaborn Musketeer》の到達能力は白いクリーチャーが持つ能力にしては奇妙に見えるかもしれないが、これは彼の持つ立派な銃によって正当化されている。マスターズエディションIIIはさらに変なことになっていて、ヒロイックファンタジーそのものな《Marhault Elsdragon》や《Riven Turnbull》の隣で、現実の歴史上の人物である中国人たちがポータル三国志のセットから参加していた。

 私はたまに、もしポータルのセットを作ったデザイナーや開発チームが《Southern Elephant》を《Elephant Graveyard》で再生するところや、《Shu Elite Companions》が《Arcades Sabboth》の脇をすり抜けて行くのを見たらどう思うんだろう、と考えてしまう。

 何にせよ、上で説明したようなクリーチャーの強さやコモンにあるべきクリーチャーの枚数などが、遊んで楽しいマスターズのセットを作るために考慮すべきことだった。結果として、混沌としつつもユニークな雰囲気をセットに与えることにも成功した。私はこの結果を楽しんでいるよ。


インスタントについて

 この最後のインスタントに関する問題点については、クリーチャーに関する問題点とは対照的に、ポータルというセットはほとんど頼りにならない。なぜならポータルというセットはインスタントを除く形でデザインされたからだ。私たちはポータルから何枚かのカードをインスタントとして手直しして収録した。それらのカードは本来の機能がインスタントして用いられるべきものだったからだ。しかしそれによって得ることができたのはほんのわずかなカード、《False Summoning》と《Just Fate》のみだ。

 その他のインスタントについては他の場所を探さざるを得なかった。その結果、過去のマスターズセットで再録していなかったインスタントがまだまだ残っていることに気がつかされた。《Crumble》《Divine Offering》《Terror》などは最近のセットと比較しても強力なインスタントの除去呪文だ。《Gravebind》《Sandstorm》《Just Fate》《Howl From Beyond》《Fog》は、戦闘を対戦相手の予想外の方向へ導くことができる。

 これらのカードは昨今のセットに収録するようなカードと比べると見劣りするが、私たちには大した選択肢はなかった。戦闘に影響を与え得るものであると見れば、全ての(文字通り全ての)インスタントを再録した。《Healing Salve》さえもだ。セットに対する貢献の度合いからすると《Giant Growth》の再録がもっとも大きい。このカード以外に緑のパンプアップ呪文が1つもなかったため、すでに過去のマスターズのセット全てに含まれていることは分かっていてもこれは再録されるべきだった。Mirage以前のセットにおいて、同じような働きをしてくれるカードが本当に1つも無かったのだ。

 最終的に、リミテッドを楽しんでもらうに十分な枚数のインスタントがセットに収録された、と私は信じている。私はさらに多くのインスタントを収録したかった。そうすればいくらかをアンコモンに回すことになっただろう。それによって、目につく回数が少なめとなり and not be as correct to play around だったはずだ。しかし本当にそれ以上収録できるインスタントがまったく無かった。

 何にせよ、今の最終形で全て上手く回るはずだと信じている。


白と緑のカードについて

 最初に挙げた問題点のうち、白と緑の強さを高めることがもっとも難しい問題点だった。マスターズエディションIVで白は質の悪い《Pacifism》である《Serra Bestiary》とセット中でも特に強いコモンである《Divine Offering》を得ている。特に後者は《Obsianus Golem》や《Clay Statue》が戦闘で主力となるであろうこのセットでは汚いほどに強いはずだ。また白はアグレッシブに攻めることも出来る。戦場にクリーチャーを大量に並べているときにコモンの《Righteous Charge》の助けを借りればあっという間にゲームを終わらせることが出来る。

 緑を強くするのはもっと大変だった。とりあえず《Crumble》と《Scavenger Folk》は両方とも優秀な除去カードで、君の助けとなってくれるだろう。他にも《Citanul Druid》と《Argothian Pixies》は同様にアーティファクトに対して頼れるカードたちだ。《Ironhoof Ox》《Southern Elephant》《War Mammoth》はこのフォーマットでは効率の良いファッティと考えてよいだろう。ただ、もし対戦相手がアーティファクト少なめの緑を主体としたデッキだったときは、かなりの苦戦が予想される。

 まあ、それはそれとして、緑を使おうと思っているプレイヤーへ私からの助言だ。《Elephant Graveyard》を見逃さないように。これは上記に挙げた《War Mammoth》や《Southern Elephant》をさらに凶暴なものに出来るカードだ。


レアについて

 マスターズエディションIVにおいて構築フォーマット向けの強いレアを用意するのは非常に簡単だったが、リミテッドを面白くするレアを探すのが大変だった。

 これは本当に大変だった。何せレアというのが《Eye of Chaos》《Leeches》《Naked Singularity》と言ったカードたちだ。
これらをマジックオンラインに加えたいことは確かなのだが、リミテッドにおいては明らかに使い道がない。リミテッドで開封したパックにおいて、これらは無地のカードと大差ない。明らかにプレイヤーを失望させること間違いなしだ。

 リミテッド向けのカードを探すため、私たちはさらに底の底までさらってみる必要があった。またここでポータルが私たちを救ってくれた。《Cloud Dragon》《Dread Reaper》《Thunder Dragon》などのシンプルだがデカいクリーチャーたちが見つかるたびに収録することを決めた。しばらくして、ゲームを終わらせるパワーを持ったレアの比率は十分なほどに高まった。レガシーやクラシックのフォーマットで君をわくわくさせるカードが《Deathcoil Wurm》や《Minion of Tevesh Szat》ではなくなったわけだが、それでもこれらを引いたときは嬉しいに違いないと思う。(訳注:どうかなあ…)

 リミテッドでゲームを終わらせるだけのパワーをもったカードを入れようと四苦八苦した結果、よく似た効果の2枚のカードが収録されてしまう事態がちょくちょく発生した。例えば《Overwhelming Forces》と《Rain of Daggers》は両方とも単細胞的な大ぶりの重たい呪文だ。どちらもゲームを終わらせてくれるという意味でも同じだ。
Overwhelming Forces / 圧倒的武力 (6)(黒)(黒)
ソーサリー
対戦相手1人を対象とする。そのプレイヤーがコントロールするすべてのクリーチャーを破壊する。これにより破壊されたクリーチャー1体につき、カードを1枚引く。

Rain of Daggers / 短剣の雨 (4)(黒)(黒)
ソーサリー
対戦相手1人を対象とする。そのプレイヤーがコントロールするすべてのクリーチャーを破壊する。これにより破壊されたクリーチャー1体につき、あなたは2点のライフを失う。

引用:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Overwhelming+Forces/
引用:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Rain+of+Daggers/

 紙のマジックではこのようなことが起きないように注意を払うところだが、今回は新たなカードを作るわけにもいかない。それにこれら2枚のカードたちが示すデッキの指針は異なるものだ。《Overwhelming Forces》はこの呪文を唱えられるまで生き延びられるような気の長いコントロールデッキへ君を向かわせるが、ライフロスを強要する《Rain of Daggers》はより前のめりなデッキを要求する。こういった微妙な違いを持つペアがマスターズエディションIVにはいくつか存在する。その差異に合わせたドラフトを上手くプレイしてみて欲しい。


 私とエリックとはマスターズエディションIIIとマスターズエディションIVを作ることを心から楽しんだ。マスターズエディションIVのリリースイベントはほんの2日前(訳注:この記事は01月14日のもの)に始まったばかりだ。まだまだ楽しむ時間はたっぷり残されている。ただし、来週は「ミラディン包囲戦」のプレビューが始まるので、マスターズエディションだけでなくそっちにも目を向けて欲しい。

 さて、このちょっとした余談を楽しんでもらえただろうか。もしそうだとしたら非常に嬉しい。

 ではまた来週の金曜日に会おう。

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