カード名が殺されるとき/Name Killers
Doug Beyer
2007年11月28日
元記事:http://www.wizards.com/magic/magazine/Article.aspx?x=mtgcom/daily/db12
マジックのカードが、その鎧兜を一部のすき無く着込み出陣の準備を万端に整え、完成品として世に出るその遥かな前段階として非常に重要な仕事が成されている必要がある。
先に言っておくが今日のコラムはマジックのスマートで美しい外見(そとづら)の話ではない。多元宇宙にまたがって長いスパンで培われてきたフレイバーに関する集大成に他ならない。外見をはぎとり、マジックの内臓をのぞき見る作業だ。ゲームが「なぜそうなっている」のか、そして「なぜそうなっていない」のかを直視することだ。
もし君が、登場人物の目から見た世界やローウィンに眠っている不思議など、マジックの世界観を楽しもうと思って来たのであればブラウザの戻るボタンをクリックすることをオススメする。しかし、もし君が、そでをまくり自らの手を汚す覚悟があり、マジックというサーカスのテントの端をめくって創造の現場を見たいというのならこのまま先へ進むことだ。
今日、私たちが語るのはカードの名前についてだ。
怖くなったかい?
引き返すなら今のうちだ。
わずかな「~べし」、膨大な「~べからず」
なぜ私たちは今君たちが目にしているようなカード名を名づけているのか? どのようにしてカードたちはその名前をつけられているのか? 生まれたばかりのカードたちにつけられるべき名前を決めているのはどのような規則なのか?
実際には、ポジティブな方向性で名づけられることはあまりない。「このカードはこう名づけられるべき」という指針は非常に少ないのだ。
もちろん、常識的なルールはある。そのカードが何をするかを表す言葉やセット全体のテーマ、美的センスから選ばれる音の響きと弾かれる音の響き、韻を踏む、などだ。
しかしカードデザインの命名をするという段階において、特定の方向へ導こうとする力は非常に弱い。これこそ私たちのクリエイティブな仕事の楽しい面であり、同時に恐ろしい個人的判断を下さなければならない瞬間が訪れるときでもある。
名前の候補を出すとき、最初の一定期間は自分たちの創造力を自由気ままに発揮させることにしている。とはいえ、そこにはたくさんのネガティブなルール、つまり「べからず」があり、これによって私たちは潜在的に問題のある候補たちを遠ざけることができる。
全てのセット(ただしコアセットは除く。新しいカード名が必要ないからだ)において、フリーランスのフレイバーテキスト・ライターたちも各カードに名前の候補を出してくる。全ての候補が出揃ったところで、一度私たちはそれらをふるいにかける。マジックの命名ルールにある大量の「べからず」に該当する名前を全て除外する作業だ。
さて、そのルールとやらを書き出してみようか。
ここでは、君と私がマジックのクリエイティブチームだと思って欲しい。つまり新たに生まれるセットのカードの名前を選ぶ(もちろん作ったりもする)メンバーだ。私たちは働き者のフリーランス・ライターたちが候補として提案してきたカード名のリストを頭から順繰りに眺めている。そしてまず1つ目の候補がマジックのカード名としての適当なものであるかを判断しなければいけない。
私たちがすべきことは、ある質問を自身に問いかけること、そしてそれに対する回答を出せる限り出してしまうことだ。
質問:「なぜこの名前ではいけないのか?」
回答 その1:
なぜなら、その名前はすでに使われているから!
1つ目は簡単だ。
よく聞かれることに「なんでもっとシンプルな名前をつけないんだ?」や「クリーチャーがエルフでかつ戦士なら、名前は《エルフの戦士》でいいじゃないか」などがある。
答えは簡単だ。すでにその名前のカードが存在するからだ。候補が不適格とされる最初の判別方法は、過去に存在するカードと名前が競合するかどうかだ。
マジックのカード名は、他のカードと区別するための絶対的な唯一性を持った特性だ。それによって君は、そのカードの持つ一連のメカニズムを他のカードから区別している。
もしカードが他のあるカードと同じ名前を共有した場合、それは「多少似通ったところがあるから」ではないし「大まかなところで代替可能だから」でもない。同じ名前を持つ場合、その理由はそれがマジックというゲームにおいて「全く同じカードだから」に他ならない。覚えておいて欲しいのはオラクルが保証する公的なルールテキストは、イラストにも収録セットにも紐づいていないということだ。オラクルはあくまでもカードの名前、そのものにしか紐づかない。
よって、マジックに置いてその名前は常に唯一無二だ。
私たちは、機能の異なる2枚以上のカードに同じ名前をつけることは決してない。例えば《Teleport》のようなカッコいい名前を完全新規のカードにつけることは、私がどんなに望んだとしても、できない。なぜならすでに《Teleport》というカードが存在するからだ。
《ヴェンセールのテレポート/Venser’s Teleport》という名前をつけたい?
どうぞ、どうぞ。
《安全地帯へのテレポート/Teleport to Safety》だって?
いいねえ。
《テレポートのルーン/Rune of Teleportation》かい?
問題なしさ。
ただの《テレポート/Teleport》?
そいつはダメだね。
この記事を書いている今時点で、マジックには1万を超える名前がすでに存在している。当然、名前の競合が起きてしまう可能性は非常に高く、おそらく君が思っているよりずっと高い頻度でこの問題は起きている。
回答 その2:
なぜなら、その名前と非常によく似た名前がすでに使われているから!
さらに頻繁に起きるのは、候補となった名前が既存のカード名と非常に似通ってしまっている場合だ。この問題は同じ言葉を繰り返したり、響きが似た言葉を用いるだけで起きるため発生頻度が高く、同じセット内ですら起き得る。
ただし、意図的に同じ言葉を繰り返し用いることはある。《思考の糸のうねり/Surge of Thoughtweft》と《思考の糸の三人衆/Thoughtweft Trio》、もしくは《ツキノテブクロの毒/Lace with Moonglove》と《ツキノテブクロの選別者/Moonglove Winnower》のような例だ。これらの名前はそれぞれのカードをフレイバー的に関連付けたいため、同じ言葉を使っている。
しかし特定の単語があまりに頻繁に使われてしまうことがよくある。
ローウィンを例にとると「雲(Cloud)」という単語は、しばらく登場を歓迎されないほどに使われすぎたように思う。それ自体はいい言葉だ。地水火風の風のイメージをもたらしてくれるし、ファンタジーっぽいし、それなのに単語は短くて言いやすい。これらは名前に用いる単語に求められる重要な要素だ。
しかしスタンダードのそこら中で見かけるようになると陳腐化する。こういった単語を永遠に封印するつもりはまったくないが、ちょっとお休みいただくのも悪くない。そうすることでまた新鮮味が戻ってくる。野球で言うところの「ベンチに下げている状態」だと思ってくれればいい。
それとはまた別に、非常に似通った響きのカード名というのは混乱の元だ。私たちはできるかぎりそういったカードが印刷までたどり着いてしまわないように注意している。
《Clickslither(クリックスライサー)》《Quick Sliver(クイックスリヴァー)》《Quicksilver Dragon(クイックシルヴァードラゴン)》は全て同じオンスロートブロックのカードだ(それだけでなく、前者2枚は同じセットだ)。もっとも幸いなことにこれらは非常に違いのはっきりしたカードたちだ。実際に見れば、どっちがどっちか分からなくなるような心配はほとんどない。しかし名前という観点からのみ見ると、そうでもない。
この問題は特に部族をテーマにしたローウィンにおいて顕著だった。
ローウィンだけで23体のゴブリンがいた。彼らは、ほぼ例外なく「小さく」「飛んでおらず」「赤か黒のクリーチャー」だった。そのためそれぞれを区別可能なように名づけることは(すでにマジックに160体(!)を超えるゴブリンがいたこともあり)非常に難しい仕事だった。
新しいセットにおいて、ゴブリンがよく新しい名前(モグ、悪鬼、ボガートなど)を得るのは、今までのゴブリンときちんと区別がつきつつ、かつ良い名前をつけてあげられるように、というのも理由の1つなのだ。
回答 その3:
なぜなら、その名前はすでにクリーチャータイプとして使われているから!
フレイバー&機能的な要素を持ち合わせた複雑な迷路のようなシステム、クリーチャータイプ。そこをあえてつらい思いをしながら手探りで進むとき、私は自虐的な喜びをおぼえる。
そこは暗闇に閉ざされた底知れぬ迷宮だ。つい最近、Mark GottliebとBrady Dommermuthとその仲間によって編成された"決死のサブタイプ調査隊"がそこに入り、大まかな調査と測定を行ったばかりだ(この探索行は「大規模クリーチャータイプ更新/The Grand Creature Type Update」と言う名で知られている)。
9月にMark Gottliebが書いたように、この更新でクリーチャーに新たなサブタイプを与えた大きな理由の1つは「カードの名前」だ。《ドワーフ戦士団/Dwarven Warriors》はドワーフ(Dwarf)であるだけでなく戦士(Warrior)にもなり、《エルフの射手/Elvish Archers》は射手(Archer)のサブタイプを獲得した。
この基本原則は逆方向にも働く。カードに名前をつけるとき、そのサブタイプと矛盾するような名前はつけられるべきじゃない。もしそのクリーチャーのサブタイプがキスキン(Kithkin)の兵士(Soldier)であるならば、その名前は決して《ゴールドメドウの斥候/Goldmeadow Scout》であってはならない、ということだ。なぜなら斥候(Scout)というクリーチャータイプはすでに存在しているにも関わらず、このカードはそのサブタイプを持っていないからだ。
もしクリーチャータイプが精霊(Elemental)なら、そのカードに《暴走獣/Crasher Beast》と名づけてはいけない。ローウィンに収録されているいくつかの精霊(Elemental)はこのルールを守れているかかなり怪しい。例えば《薄れ馬/Wispmare》は馬(Horse)のサブタイプを持っていない。
なお、ここまでの説明を読む限り、多相(Changelings)はサブタイプとの整合性を気にしなくてもよいことになる。《変わり身の狂戦士/Changeling Berserker》? 問題ないよ!
念のため。当たり前のことだが《ドラゴン狩りのザホッド/Zaphod the Dragon Hunter》と名づけたからといって、それがドラゴンのサブタイプを持っている必要はない。また《Giant Albatross》に巨人(Giant)のサブタイプを加える必要もない。《ゴールドメドウの斥候/Goldmeadow Scout》の場合とは違い、これらは名前の中に特定のサブタイプを含んでいても実際にそのクリーチャータイプを持っていないことが問題になったりはしない。
回答 その4:
なぜなら、その名前だとカードタイプと矛盾するから!
ここで言っているのはクリーチャータイプじゃない、カードタイプだ。
クリーチャータイプのときよりも少し難しい話になる。クリーチャータイプと違い、そのカードとは異なるカードタイプが候補名に入ってしまっている、ということは滅多にないからだ。ライターたちだってそれくらいは分かっている(いや《秘宝の突然変異/Artifact Mutation》のことは脇に置いておくとしてだ)。
そういった話ではなくて、ここではもっとフィーリング寄りの話をしている。
例えば、ソーサリーの名前はどうあるべきか? または装備品にふさわしい名前は?
この問題は特にエンチャントで起きる。エンチャントのコンセプトを伝える場合(イラストレーターに指示を出す場合)、多くはインスタントやソーサリーと似たようなものとなる。その描写は、魔法使いが呪文を唱える瞬間であったり、クリーチャーや場所に魔法をかける様子であったりする。
しかしゲーム中、それらは戦場に残るのだ。
そのため私たちはエンチャントの名前に即時的な動作や行動(《外身の交換/Crib Swap》や《有象無象の発射/Fodder Launch》のような名前)がつけられるのを避ける。かわりにもっと継続性のある響きをもつ単語を名前に用いたり(例:《ボガートの悪ふざけ/Boggart Shenanigans》)、何かの状態を表す単語を使ったりする(例:《強き者の優位/Favor of the Mighty》)。
オーラは多くの場合、新たなスキルや魔法的な能力を名前に用いる(例えば《三つ目巨人の視線/Triclopean Sight》や《熟達した戦い/Battle Mastery》のように)。そうすることでオーラをつけられたクリーチャーが新たな能力を得たというイメージを持つことが出来る。
ときに判断に困る場合もあるし、決断を迫られる場合もある。
例えば《忘却の輪/Oblivion Ring》だ。初めてこの名前を聞いたとき、多くの人はこの名前からアーティファクトを連想するはずだ。
もし君が実際のカードを見ておらず、ふちが白で彩られているところや、移動を制限する魔法的な粉によって描かれたほの明るく光るリングのイラストを知らない状態で、ただカード名がつらなるリストだけを見たとしたらおそらく思い浮かぶのは手にはめる指輪(Ring)だろう。こういった要素を持つ輪(Ring)という単語を用いざるを得なくなったのは、元々このカード名に使いたかった円(Circle)という単語が使えなかったためだ。
なぜカード名にその単語が使えなかったのか、が次の回答につながる。
回答 その5:
なぜなら、その名前だと既存のマジックにおける共通認識と矛盾するから!
1万枚以上というカード枚数は膨大だが、マジックのカードにおける命名ルールのパターンを覚えるのは、新規のプレイヤーが想像するよりずっと簡単なことだ。なぜなら慣習的なネーミングルールが常にマジックのカード名にはつきまとい、新たに出てくるカードがそのルールをまた補強していくからだ。
ここで言っているパターンというのはクリーチャータイプの話ではない。
シェイド(Shades)やトロール(Trolls)や死霊(Specters)にはメカニズム的な暗黙の了解がある。シェイドはターン終了時まで+1/+1され、トロールは再生し、死霊は空を飛んで手札を破壊する。しかしこういったクリーチャータイプに紐づくことはコンセプトの段階ですでに決定されている。カード名の候補が上がる前のことだ。
ライターたちがどういった名前をつけようかと考え始める頃には、すでにイラストレーターへの指示も決まっており、そこにトロールが描かれることも分かっている。そのため、そのクリーチャーの名前をトロールと名づけるべきか否かについては、あまり選択の余地がない。
私が言っているのは、例えば物あさり(Looter)の話だ。
《セファリッドの物あさり/Cephalid Looter》、《Artful Looter》、《コー追われの物あさり/Looter il-Kor》などと同じく、《マーフォークの物あさり/Merfolk Looter》は「1枚引いて、1枚捨てる」能力を持っている。これらのクリーチャーたちは異なる種族に属しているが、彼らは全て物あさり(Looter)だ。新たに生まれるクリーチャーがそのイラスト内で宝箱をあさっていたとしても、もしそれが「1枚引いて、1枚捨てる」能力を持っていなかった場合、私たちはそれを物あさり(Looter)と呼ぶことを避けるはずだ。既存の共通認識を守るために。
円(Circle)の問題も似ている。
誰だってマジックにおける円(Circle)が何なのか知っているからだ。
1.それは白い全体エンチャントだ(《忘却の輪/Oblivion Ring》、1次試験を突破)
2.防御的な効果を持っている(《忘却の輪/Oblivion Ring》、2次試験も突破)
3.ダメージを軽減する起動能力を持つ(《忘却の輪/Oblivion Ring》、あと一歩で落選)
今まで数多くの円(Circle)が存在した(ちなみに全部で14個だ)。その伝統的な特性は驚くほどに一貫している。防御的な輪というコンセプトとイラストと守備的なフレイバーにも関わらず《忘却の輪/Oblivion Ring》がマジックにおける円(Circle)の仲間入りを果たせなかったのは、機能的な類似があとわずかに足りなかったためだ。その差のせいで、円(Circle)の名を冠することが出来なかった。
回答 その6:
なぜなら、その名前だとキーワード能力とごっちゃになるから!
よほどの理由が無い限り、カードの名前はキーワードを含むべきではない。
このルールのために時のらせんブロックにおいて名前を付ける作業が難航した。なぜなら過去から復帰したキーワード(および未来予知で未来からやってきたキーワード)がたくさんあったためだ。
《裂け目抜けの騎士/Riftmarked Knight》は当初《裂け目の影の騎士/Riftshadow Knight》となる予定だった。この名前は、白と黒の対照性が綺麗に表されていたし、次元の裂け目の影となる裏側についても上手く表現していた。しかし問題はこのクリーチャーがシャドー(Shadow)という能力を持っているかのような誤解を生むことだった。シャドー(Shadow)を持つクリーチャーがこのブロックに何体か収録されており、そのいくつかは《裂け目抜けの騎士/Riftmarked Knight》のような白くて軽いクリーチャーだった。
時のらせんブロックで、私たちは「ジレンマとしか言いようのないジレンマ」と私が呼ぶ状態に何度も陥った。そのカードの特色がそれの持つキーワードに依存する場合、カード名にそのキーワードを含むべきかどうかは非常に悩ましい問題だった。
《ドラゴンの嵐/Dragonstorm》は完璧だ。
それはたくさんのドラゴンがまるで嵐のように呼び出される呪文であり、またそのカードが持つ機能をまさにそのまま伝えている(そう、このカードはストームを持っており、ドラゴンを持ってきてくれる)。私たちは可能な限りこの例と同じくらい「そのまま」なネーミングをつけるようにしている。
しかしそのキーワードを持っているカードがあまりにたくさんある場合、その名前はすぐにワンパターンでありふれたものになり、どのカード名がどんな能力だったのかを思い出すことが非常に難しくなる。《翼の破片/Wing Shards》は《破片の嵐/Shardstorm》という名前にはならなかったし、《苦悶の触手/Tendrils of Agony》も《触手の嵐/Tendrilstorm》や《苦悶の嵐/Agonystorm》にはならなかった。
さらに言うと、こういった名前はやりすぎると鼻につく。あまりに機能的でフレーバー的な要素に欠けるためだ。
3/3のトランプル持ちは大抵の場合《トランプル象/Trampling Elephant》という名前を得ることはない。イラストレーターに依頼する際の指示が「何かを踏み潰して進む象」だけということは滅多にないから、ということだけが理由ではなく、万が一そのような指示があったとしても、私たちは可能なかぎりセットの雰囲気をかもしだしてくれるような名前やそのクリーチャーに何らかの個性を持たせるような名前を模索する。
単に1つのキーワードに依存してしまう名前より、そのほうがずっといい。私たちは少なくとも名前を決めてしまう前に類語辞典くらいは調べる。
「ジレンマとしか言いようのないジレンマ」の片翼が上記のような問題であり、つまりカードの持つキーワードをいつも名前に使えるわけではない、という話だ。
ジレンマのもう片翼は、カードがそのキーワードを持っていないならばカード名にそのキーワードを用いることはほぼ出来ない、ということだ。トランプルを持たないクリーチャーを《トランプル象/Trampling Elephant》と名づけたり、プロテクションを与える能力を持たないアーティファクトに《プロテクションの指輪/Ring of Protection》という名前をつけたりしたら、分かりづらいどころの騒ぎじゃない。こういったジレンマの結果、キーワードを避けざるを得ないことはよくあることだ。
対象のカードがストーム能力を持っていない場合、私たちは嵐(Storm)というカッコいい単語を名前に使うことを諦めなければいけなくなる。それだけでなく同時に、ストーム能力持ちだからと言って際限なく嵐(Storm)を含む名前をつけていいわけでもない。(そのため私たちはキーワード能力に用いる言葉を選ぶときは細心の注意を払っている……この話はまた別のコラムで語られることになるだろう)
しかしこのルールに反しつつも、問題とならない名前を生み出すこともできる。
未来予知で私のお気に入りの名前は《嵐の精体/Storm Entity》だ。こいつ自身は確かにストーム能力を持っていない。しかしストームによく似た能力を持ち、ストーム持ちのカードを大量に放り込まれたデッキとの相性は抜群だ。
公式サイトのGathererでストームという単語を含むカードを探してみて欲しい(カード名とルールテキストから探す、というデフォルト設定のままでいい)。《巣穴からの総出/Empty the Warrens》や《記憶の点火/Ignite Memories》に混じって《嵐の精体/Storm Entity》が出てくるはずだ。これら全てがストームというキーワード能力を持っているわけでもないのに、これらは同じデッキに入れてもよく馴染むように出来ている。
回答 その7:
なぜなら、その名前には将来のためにとっておいた大事な単語が使われてるから!
私たちはマジックが永遠に続くものと仮定している。そうだとして、私の計算が正しければあといくつのカード名が必要かと言うと1、2、3 ……(指を折って数えている)…… たくさんだ。
円(Circle)や物あさり(Looter)などのような名前に使われる単語たちはいともたやすくネーミングに暗黙の了解をもたらしてしまう。そのため私たちは、将来的に名前をつけるときに困ったことなるのを避けるために、特定の単語が望ましくない暗黙の了解を作ってしまわないよう気をつけている。
例えば私たちは未来予知において先触れ(Harbinger)という名前を意図的に避けた。そうすることでローウィンにおいて先触れ(Harbinger)という素晴らしいサイクルを登場させることができた(ちなみに《ラノワールの共感者/Llanowar Empath》は一時期《ラノワールの先触れ/Llanowar Harbinger》という名前になる可能性があった)。
もっとも私たちは予言者ではない。そのため将来的にどのような単語を名前のために必要とするかを全て見通すことはできない。好むと好まざると、名前の競合は起こってしまうこともある。それに、そのカードにもうどうしようもなくある名前をつけざるを得ないときもあるし、まったく内容が異なるカード2枚の名前両方に同じユニークな単語を使ったからといって人類が滅亡するわけでもない。元のカードが出たのが数年前なら滅亡の可能性はさらに低くなる。
しかし同時に私たちの手のうちには、いつか日の目を見るそのときまで大事に保管されている単語がある。そうすることで実際に世に出たときのインパクトがより強まるはずだから。
回答 その8:
なぜなら、その名前にはセットの雰囲気に反するから!
私にとって、名前をつける際に非常に大きな比重を占める要素は、そのカードが収録されるセットの世界観だ。これに関しては、そのセットのスタイルガイドが大きな助けとなる。
これはイラストレーターの指針となるだけでなく、これは名前を含めた文章面を担当するライターたちの助けにもなる。スタイルガイドには世界の詳細設定とバックストーリー、そしてカードの名前やフレーバーテキストに用いられるべき言葉や単語が大量に収められているからだ。ライターたちはそれによってどのような名前を適当かそうでないかを判断できるようになる。
ローウィンは陽気でおとぎ話的な雰囲気に満ちみちている。よって《ボガートの悪ふざけ/Boggart Shenanigans》や《ごたごた/Hurly-Burly》といった名前は他のセットよりもローウィンこそふさわしい。
逆に《ヘルドーザー/Helldozer》や《金切り声の混種/Shrieking Grotesque》などの名前はこの世界にふさわしくない。これらの名前に問題があるわけじゃない。ただ、私たちが作り出そうとしている世界観の響きに合わない、という理由により選ばれないのだ。
このルールに引っかかるかどうかスレスレのところをいっている例としては《死裂の剣/Deathrender》がある。ローウィンの世界観からすると結構「ロックな」響きだが、これは死(Death)という単語を用いても問題ない数少ない例の1つだ。私はこの魔法の剣によってセットにもたらされたちょっとワルい雰囲気を好ましく思っている。
回答 その9:
なぜなら、その名前はあまりに発音しにくいか、もしくは分かりにくいから!
これを最後に持ってきたのは、このルールがリストの中ではもっとも優先順位の低いものだからだ。
当たり前のことだが、あからさまに発音できない名前や、読む人にとってまったく意味をなさない単語を使った名前は却下される。しかし私たちは年に数回、少しずつこの線引きを押し広げつつある。基本的にどれかの辞書に載ってさえいれば将来的に使われる可能性を秘めている単語と考えてもらっていい(実際にカード名に使われたことのあるあまり一般的でない単語については、マジックの目録を見てもらえれば大体分かるはずだ)。
ローウィンに出て来た単語に「reejerey」というものがある。これはウェールズ語(訳註:スコットランド)の言葉で「騎士」や「王」を表している。またキスキン関連に用いられている「cenn」や「clachan」などもウェールズ語だ。これらは確かに英語ではないが、大体の人は初見でもなんとなくどう発音すればよいのか分かるだろう、と思われたので私たちは実際に採用することにした。
もちろんこのルールに従って却下される言葉もある。
《森林の庇護者/Timber Protector》の他の候補名は《Noble Taoiseach》だった。この「Taoiseach」というのはアイルランド語で「長」や「リーダー」を指す言葉だ(そしてアイルランドの首相を指す言葉でもある)。「Taoiseach」は美しい言葉だが、英語話者のマジックプレイヤーの大半はこれを初見で正しく発音することはできないだろう。(この単語の発音は「ティーショク(tee-shok)」か「ティーシェク(tee-shek)」に近いものになるはずだ。私の貧弱な語法知識ではこれが精一杯だ。申し訳ない)おそらくだが、多くの人は正しいか正しくないか以前に発声可能な発音すら思いつけないかもしれない。
明文化されたテスト方法ではないが、判断の一助にしている判定方法の1つにプレイヤーがためらいなく「じゃあ《カード名》を唱えるね」と言うかどうか、がある。もしプレイヤーがそうするなら、その候補名はあまり難しい発音ではないということを暗に示しており、おそらくこのチェック事項を突破できるだろう。
しかし、あらためて言うが私たちは「マジックのカード名に使ってもよいほど一般的かどうか」という判断基準を少しずつ緩和したいと考えている。
マジックに用いられる単語が非常に幅広い分野に及んでいて面白い、というメールを私はたくさんもらっている。私自身、《根絶/Extirpate》を次元の混乱に収録させていなかったら、今も普段の会話に《根絶/Extirpate》という単語を用いることはなかっただろう。「どうやらお隣さんは、自分の土地の古くなったコンクリートの土台を根こそぎ取り除く(=extirpate)のをようやく終えることができたみたいだね」
そして最終試験へ
これら全ての「~べからず」を生き延びた候補名のみ、カードの公式名として使われるチャンスを得る。
しかし、私たちクリエイティブチームが次の担当者へと手渡した名前はこれら全てのチェックを合格しているにも関わらず、必ずしも実際に君たちの手にしたブースターから登場するわけではない。
私たちのチームの手を離れたあともまだそこには1つか2つの関門が待ち構えており、そこでの審査の結果、選ばれた名前が殺されてしまうこともある。そうなると私たちはあらためて代替案を探さなくてはならない。しかしこれは例外的な話で、今日のコラムであげたチェック事項で候補となる名前の生死はほぼ決定づけられる。
さてそろそろおいとまさせてもらおう。
今後のセットのために用意されている数百にも及ぶ名前たちが容赦なく処刑台に乗せられていくのを見届けるという仕事が待っているんでね。
Doug Beyer
2007年11月28日
元記事:http://www.wizards.com/magic/magazine/Article.aspx?x=mtgcom/daily/db12
マジックのカードが、その鎧兜を一部のすき無く着込み出陣の準備を万端に整え、完成品として世に出るその遥かな前段階として非常に重要な仕事が成されている必要がある。
先に言っておくが今日のコラムはマジックのスマートで美しい外見(そとづら)の話ではない。多元宇宙にまたがって長いスパンで培われてきたフレイバーに関する集大成に他ならない。外見をはぎとり、マジックの内臓をのぞき見る作業だ。ゲームが「なぜそうなっている」のか、そして「なぜそうなっていない」のかを直視することだ。
もし君が、登場人物の目から見た世界やローウィンに眠っている不思議など、マジックの世界観を楽しもうと思って来たのであればブラウザの戻るボタンをクリックすることをオススメする。しかし、もし君が、そでをまくり自らの手を汚す覚悟があり、マジックというサーカスのテントの端をめくって創造の現場を見たいというのならこのまま先へ進むことだ。
今日、私たちが語るのはカードの名前についてだ。
怖くなったかい?
引き返すなら今のうちだ。
わずかな「~べし」、膨大な「~べからず」
なぜ私たちは今君たちが目にしているようなカード名を名づけているのか? どのようにしてカードたちはその名前をつけられているのか? 生まれたばかりのカードたちにつけられるべき名前を決めているのはどのような規則なのか?
実際には、ポジティブな方向性で名づけられることはあまりない。「このカードはこう名づけられるべき」という指針は非常に少ないのだ。
もちろん、常識的なルールはある。そのカードが何をするかを表す言葉やセット全体のテーマ、美的センスから選ばれる音の響きと弾かれる音の響き、韻を踏む、などだ。
しかしカードデザインの命名をするという段階において、特定の方向へ導こうとする力は非常に弱い。これこそ私たちのクリエイティブな仕事の楽しい面であり、同時に恐ろしい個人的判断を下さなければならない瞬間が訪れるときでもある。
名前の候補を出すとき、最初の一定期間は自分たちの創造力を自由気ままに発揮させることにしている。とはいえ、そこにはたくさんのネガティブなルール、つまり「べからず」があり、これによって私たちは潜在的に問題のある候補たちを遠ざけることができる。
全てのセット(ただしコアセットは除く。新しいカード名が必要ないからだ)において、フリーランスのフレイバーテキスト・ライターたちも各カードに名前の候補を出してくる。全ての候補が出揃ったところで、一度私たちはそれらをふるいにかける。マジックの命名ルールにある大量の「べからず」に該当する名前を全て除外する作業だ。
さて、そのルールとやらを書き出してみようか。
ここでは、君と私がマジックのクリエイティブチームだと思って欲しい。つまり新たに生まれるセットのカードの名前を選ぶ(もちろん作ったりもする)メンバーだ。私たちは働き者のフリーランス・ライターたちが候補として提案してきたカード名のリストを頭から順繰りに眺めている。そしてまず1つ目の候補がマジックのカード名としての適当なものであるかを判断しなければいけない。
私たちがすべきことは、ある質問を自身に問いかけること、そしてそれに対する回答を出せる限り出してしまうことだ。
質問:「なぜこの名前ではいけないのか?」
回答 その1:
なぜなら、その名前はすでに使われているから!
1つ目は簡単だ。
よく聞かれることに「なんでもっとシンプルな名前をつけないんだ?」や「クリーチャーがエルフでかつ戦士なら、名前は《エルフの戦士》でいいじゃないか」などがある。
答えは簡単だ。すでにその名前のカードが存在するからだ。候補が不適格とされる最初の判別方法は、過去に存在するカードと名前が競合するかどうかだ。
マジックのカード名は、他のカードと区別するための絶対的な唯一性を持った特性だ。それによって君は、そのカードの持つ一連のメカニズムを他のカードから区別している。
もしカードが他のあるカードと同じ名前を共有した場合、それは「多少似通ったところがあるから」ではないし「大まかなところで代替可能だから」でもない。同じ名前を持つ場合、その理由はそれがマジックというゲームにおいて「全く同じカードだから」に他ならない。覚えておいて欲しいのはオラクルが保証する公的なルールテキストは、イラストにも収録セットにも紐づいていないということだ。オラクルはあくまでもカードの名前、そのものにしか紐づかない。
よって、マジックに置いてその名前は常に唯一無二だ。
私たちは、機能の異なる2枚以上のカードに同じ名前をつけることは決してない。例えば《Teleport》のようなカッコいい名前を完全新規のカードにつけることは、私がどんなに望んだとしても、できない。なぜならすでに《Teleport》というカードが存在するからだ。
《ヴェンセールのテレポート/Venser’s Teleport》という名前をつけたい?
どうぞ、どうぞ。
《安全地帯へのテレポート/Teleport to Safety》だって?
いいねえ。
《テレポートのルーン/Rune of Teleportation》かい?
問題なしさ。
ただの《テレポート/Teleport》?
そいつはダメだね。
この記事を書いている今時点で、マジックには1万を超える名前がすでに存在している。当然、名前の競合が起きてしまう可能性は非常に高く、おそらく君が思っているよりずっと高い頻度でこの問題は起きている。
回答 その2:
なぜなら、その名前と非常によく似た名前がすでに使われているから!
さらに頻繁に起きるのは、候補となった名前が既存のカード名と非常に似通ってしまっている場合だ。この問題は同じ言葉を繰り返したり、響きが似た言葉を用いるだけで起きるため発生頻度が高く、同じセット内ですら起き得る。
ただし、意図的に同じ言葉を繰り返し用いることはある。《思考の糸のうねり/Surge of Thoughtweft》と《思考の糸の三人衆/Thoughtweft Trio》、もしくは《ツキノテブクロの毒/Lace with Moonglove》と《ツキノテブクロの選別者/Moonglove Winnower》のような例だ。これらの名前はそれぞれのカードをフレイバー的に関連付けたいため、同じ言葉を使っている。
しかし特定の単語があまりに頻繁に使われてしまうことがよくある。
ローウィンを例にとると「雲(Cloud)」という単語は、しばらく登場を歓迎されないほどに使われすぎたように思う。それ自体はいい言葉だ。地水火風の風のイメージをもたらしてくれるし、ファンタジーっぽいし、それなのに単語は短くて言いやすい。これらは名前に用いる単語に求められる重要な要素だ。
しかしスタンダードのそこら中で見かけるようになると陳腐化する。こういった単語を永遠に封印するつもりはまったくないが、ちょっとお休みいただくのも悪くない。そうすることでまた新鮮味が戻ってくる。野球で言うところの「ベンチに下げている状態」だと思ってくれればいい。
それとはまた別に、非常に似通った響きのカード名というのは混乱の元だ。私たちはできるかぎりそういったカードが印刷までたどり着いてしまわないように注意している。
《Clickslither(クリックスライサー)》《Quick Sliver(クイックスリヴァー)》《Quicksilver Dragon(クイックシルヴァードラゴン)》は全て同じオンスロートブロックのカードだ(それだけでなく、前者2枚は同じセットだ)。もっとも幸いなことにこれらは非常に違いのはっきりしたカードたちだ。実際に見れば、どっちがどっちか分からなくなるような心配はほとんどない。しかし名前という観点からのみ見ると、そうでもない。
この問題は特に部族をテーマにしたローウィンにおいて顕著だった。
ローウィンだけで23体のゴブリンがいた。彼らは、ほぼ例外なく「小さく」「飛んでおらず」「赤か黒のクリーチャー」だった。そのためそれぞれを区別可能なように名づけることは(すでにマジックに160体(!)を超えるゴブリンがいたこともあり)非常に難しい仕事だった。
新しいセットにおいて、ゴブリンがよく新しい名前(モグ、悪鬼、ボガートなど)を得るのは、今までのゴブリンときちんと区別がつきつつ、かつ良い名前をつけてあげられるように、というのも理由の1つなのだ。
回答 その3:
なぜなら、その名前はすでにクリーチャータイプとして使われているから!
フレイバー&機能的な要素を持ち合わせた複雑な迷路のようなシステム、クリーチャータイプ。そこをあえてつらい思いをしながら手探りで進むとき、私は自虐的な喜びをおぼえる。
そこは暗闇に閉ざされた底知れぬ迷宮だ。つい最近、Mark GottliebとBrady Dommermuthとその仲間によって編成された"決死のサブタイプ調査隊"がそこに入り、大まかな調査と測定を行ったばかりだ(この探索行は「大規模クリーチャータイプ更新/The Grand Creature Type Update」と言う名で知られている)。
(訳註)
原文では「The Grand Creature Type Update」に以下へのリンクが張られている。
http://www.wizards.com/Magic/Magazine/Article.aspx?x=mtgcom/feature/424a3
9月にMark Gottliebが書いたように、この更新でクリーチャーに新たなサブタイプを与えた大きな理由の1つは「カードの名前」だ。《ドワーフ戦士団/Dwarven Warriors》はドワーフ(Dwarf)であるだけでなく戦士(Warrior)にもなり、《エルフの射手/Elvish Archers》は射手(Archer)のサブタイプを獲得した。
この基本原則は逆方向にも働く。カードに名前をつけるとき、そのサブタイプと矛盾するような名前はつけられるべきじゃない。もしそのクリーチャーのサブタイプがキスキン(Kithkin)の兵士(Soldier)であるならば、その名前は決して《ゴールドメドウの斥候/Goldmeadow Scout》であってはならない、ということだ。なぜなら斥候(Scout)というクリーチャータイプはすでに存在しているにも関わらず、このカードはそのサブタイプを持っていないからだ。
もしクリーチャータイプが精霊(Elemental)なら、そのカードに《暴走獣/Crasher Beast》と名づけてはいけない。ローウィンに収録されているいくつかの精霊(Elemental)はこのルールを守れているかかなり怪しい。例えば《薄れ馬/Wispmare》は馬(Horse)のサブタイプを持っていない。
なお、ここまでの説明を読む限り、多相(Changelings)はサブタイプとの整合性を気にしなくてもよいことになる。《変わり身の狂戦士/Changeling Berserker》? 問題ないよ!
念のため。当たり前のことだが《ドラゴン狩りのザホッド/Zaphod the Dragon Hunter》と名づけたからといって、それがドラゴンのサブタイプを持っている必要はない。また《Giant Albatross》に巨人(Giant)のサブタイプを加える必要もない。《ゴールドメドウの斥候/Goldmeadow Scout》の場合とは違い、これらは名前の中に特定のサブタイプを含んでいても実際にそのクリーチャータイプを持っていないことが問題になったりはしない。
回答 その4:
なぜなら、その名前だとカードタイプと矛盾するから!
ここで言っているのはクリーチャータイプじゃない、カードタイプだ。
クリーチャータイプのときよりも少し難しい話になる。クリーチャータイプと違い、そのカードとは異なるカードタイプが候補名に入ってしまっている、ということは滅多にないからだ。ライターたちだってそれくらいは分かっている(いや《秘宝の突然変異/Artifact Mutation》のことは脇に置いておくとしてだ)。
そういった話ではなくて、ここではもっとフィーリング寄りの話をしている。
例えば、ソーサリーの名前はどうあるべきか? または装備品にふさわしい名前は?
この問題は特にエンチャントで起きる。エンチャントのコンセプトを伝える場合(イラストレーターに指示を出す場合)、多くはインスタントやソーサリーと似たようなものとなる。その描写は、魔法使いが呪文を唱える瞬間であったり、クリーチャーや場所に魔法をかける様子であったりする。
しかしゲーム中、それらは戦場に残るのだ。
そのため私たちはエンチャントの名前に即時的な動作や行動(《外身の交換/Crib Swap》や《有象無象の発射/Fodder Launch》のような名前)がつけられるのを避ける。かわりにもっと継続性のある響きをもつ単語を名前に用いたり(例:《ボガートの悪ふざけ/Boggart Shenanigans》)、何かの状態を表す単語を使ったりする(例:《強き者の優位/Favor of the Mighty》)。
オーラは多くの場合、新たなスキルや魔法的な能力を名前に用いる(例えば《三つ目巨人の視線/Triclopean Sight》や《熟達した戦い/Battle Mastery》のように)。そうすることでオーラをつけられたクリーチャーが新たな能力を得たというイメージを持つことが出来る。
ときに判断に困る場合もあるし、決断を迫られる場合もある。
例えば《忘却の輪/Oblivion Ring》だ。初めてこの名前を聞いたとき、多くの人はこの名前からアーティファクトを連想するはずだ。
もし君が実際のカードを見ておらず、ふちが白で彩られているところや、移動を制限する魔法的な粉によって描かれたほの明るく光るリングのイラストを知らない状態で、ただカード名がつらなるリストだけを見たとしたらおそらく思い浮かぶのは手にはめる指輪(Ring)だろう。こういった要素を持つ輪(Ring)という単語を用いざるを得なくなったのは、元々このカード名に使いたかった円(Circle)という単語が使えなかったためだ。
なぜカード名にその単語が使えなかったのか、が次の回答につながる。
回答 その5:
なぜなら、その名前だと既存のマジックにおける共通認識と矛盾するから!
1万枚以上というカード枚数は膨大だが、マジックのカードにおける命名ルールのパターンを覚えるのは、新規のプレイヤーが想像するよりずっと簡単なことだ。なぜなら慣習的なネーミングルールが常にマジックのカード名にはつきまとい、新たに出てくるカードがそのルールをまた補強していくからだ。
ここで言っているパターンというのはクリーチャータイプの話ではない。
シェイド(Shades)やトロール(Trolls)や死霊(Specters)にはメカニズム的な暗黙の了解がある。シェイドはターン終了時まで+1/+1され、トロールは再生し、死霊は空を飛んで手札を破壊する。しかしこういったクリーチャータイプに紐づくことはコンセプトの段階ですでに決定されている。カード名の候補が上がる前のことだ。
ライターたちがどういった名前をつけようかと考え始める頃には、すでにイラストレーターへの指示も決まっており、そこにトロールが描かれることも分かっている。そのため、そのクリーチャーの名前をトロールと名づけるべきか否かについては、あまり選択の余地がない。
私が言っているのは、例えば物あさり(Looter)の話だ。
《セファリッドの物あさり/Cephalid Looter》、《Artful Looter》、《コー追われの物あさり/Looter il-Kor》などと同じく、《マーフォークの物あさり/Merfolk Looter》は「1枚引いて、1枚捨てる」能力を持っている。これらのクリーチャーたちは異なる種族に属しているが、彼らは全て物あさり(Looter)だ。新たに生まれるクリーチャーがそのイラスト内で宝箱をあさっていたとしても、もしそれが「1枚引いて、1枚捨てる」能力を持っていなかった場合、私たちはそれを物あさり(Looter)と呼ぶことを避けるはずだ。既存の共通認識を守るために。
円(Circle)の問題も似ている。
誰だってマジックにおける円(Circle)が何なのか知っているからだ。
1.それは白い全体エンチャントだ(《忘却の輪/Oblivion Ring》、1次試験を突破)
2.防御的な効果を持っている(《忘却の輪/Oblivion Ring》、2次試験も突破)
3.ダメージを軽減する起動能力を持つ(《忘却の輪/Oblivion Ring》、あと一歩で落選)
今まで数多くの円(Circle)が存在した(ちなみに全部で14個だ)。その伝統的な特性は驚くほどに一貫している。防御的な輪というコンセプトとイラストと守備的なフレイバーにも関わらず《忘却の輪/Oblivion Ring》がマジックにおける円(Circle)の仲間入りを果たせなかったのは、機能的な類似があとわずかに足りなかったためだ。その差のせいで、円(Circle)の名を冠することが出来なかった。
回答 その6:
なぜなら、その名前だとキーワード能力とごっちゃになるから!
よほどの理由が無い限り、カードの名前はキーワードを含むべきではない。
このルールのために時のらせんブロックにおいて名前を付ける作業が難航した。なぜなら過去から復帰したキーワード(および未来予知で未来からやってきたキーワード)がたくさんあったためだ。
《裂け目抜けの騎士/Riftmarked Knight》は当初《裂け目の影の騎士/Riftshadow Knight》となる予定だった。この名前は、白と黒の対照性が綺麗に表されていたし、次元の裂け目の影となる裏側についても上手く表現していた。しかし問題はこのクリーチャーがシャドー(Shadow)という能力を持っているかのような誤解を生むことだった。シャドー(Shadow)を持つクリーチャーがこのブロックに何体か収録されており、そのいくつかは《裂け目抜けの騎士/Riftmarked Knight》のような白くて軽いクリーチャーだった。
時のらせんブロックで、私たちは「ジレンマとしか言いようのないジレンマ」と私が呼ぶ状態に何度も陥った。そのカードの特色がそれの持つキーワードに依存する場合、カード名にそのキーワードを含むべきかどうかは非常に悩ましい問題だった。
《ドラゴンの嵐/Dragonstorm》は完璧だ。
それはたくさんのドラゴンがまるで嵐のように呼び出される呪文であり、またそのカードが持つ機能をまさにそのまま伝えている(そう、このカードはストームを持っており、ドラゴンを持ってきてくれる)。私たちは可能な限りこの例と同じくらい「そのまま」なネーミングをつけるようにしている。
しかしそのキーワードを持っているカードがあまりにたくさんある場合、その名前はすぐにワンパターンでありふれたものになり、どのカード名がどんな能力だったのかを思い出すことが非常に難しくなる。《翼の破片/Wing Shards》は《破片の嵐/Shardstorm》という名前にはならなかったし、《苦悶の触手/Tendrils of Agony》も《触手の嵐/Tendrilstorm》や《苦悶の嵐/Agonystorm》にはならなかった。
さらに言うと、こういった名前はやりすぎると鼻につく。あまりに機能的でフレーバー的な要素に欠けるためだ。
3/3のトランプル持ちは大抵の場合《トランプル象/Trampling Elephant》という名前を得ることはない。イラストレーターに依頼する際の指示が「何かを踏み潰して進む象」だけということは滅多にないから、ということだけが理由ではなく、万が一そのような指示があったとしても、私たちは可能なかぎりセットの雰囲気をかもしだしてくれるような名前やそのクリーチャーに何らかの個性を持たせるような名前を模索する。
単に1つのキーワードに依存してしまう名前より、そのほうがずっといい。私たちは少なくとも名前を決めてしまう前に類語辞典くらいは調べる。
「ジレンマとしか言いようのないジレンマ」の片翼が上記のような問題であり、つまりカードの持つキーワードをいつも名前に使えるわけではない、という話だ。
ジレンマのもう片翼は、カードがそのキーワードを持っていないならばカード名にそのキーワードを用いることはほぼ出来ない、ということだ。トランプルを持たないクリーチャーを《トランプル象/Trampling Elephant》と名づけたり、プロテクションを与える能力を持たないアーティファクトに《プロテクションの指輪/Ring of Protection》という名前をつけたりしたら、分かりづらいどころの騒ぎじゃない。こういったジレンマの結果、キーワードを避けざるを得ないことはよくあることだ。
対象のカードがストーム能力を持っていない場合、私たちは嵐(Storm)というカッコいい単語を名前に使うことを諦めなければいけなくなる。それだけでなく同時に、ストーム能力持ちだからと言って際限なく嵐(Storm)を含む名前をつけていいわけでもない。(そのため私たちはキーワード能力に用いる言葉を選ぶときは細心の注意を払っている……この話はまた別のコラムで語られることになるだろう)
しかしこのルールに反しつつも、問題とならない名前を生み出すこともできる。
未来予知で私のお気に入りの名前は《嵐の精体/Storm Entity》だ。こいつ自身は確かにストーム能力を持っていない。しかしストームによく似た能力を持ち、ストーム持ちのカードを大量に放り込まれたデッキとの相性は抜群だ。
公式サイトのGathererでストームという単語を含むカードを探してみて欲しい(カード名とルールテキストから探す、というデフォルト設定のままでいい)。《巣穴からの総出/Empty the Warrens》や《記憶の点火/Ignite Memories》に混じって《嵐の精体/Storm Entity》が出てくるはずだ。これら全てがストームというキーワード能力を持っているわけでもないのに、これらは同じデッキに入れてもよく馴染むように出来ている。
回答 その7:
なぜなら、その名前には将来のためにとっておいた大事な単語が使われてるから!
私たちはマジックが永遠に続くものと仮定している。そうだとして、私の計算が正しければあといくつのカード名が必要かと言うと1、2、3 ……(指を折って数えている)…… たくさんだ。
円(Circle)や物あさり(Looter)などのような名前に使われる単語たちはいともたやすくネーミングに暗黙の了解をもたらしてしまう。そのため私たちは、将来的に名前をつけるときに困ったことなるのを避けるために、特定の単語が望ましくない暗黙の了解を作ってしまわないよう気をつけている。
例えば私たちは未来予知において先触れ(Harbinger)という名前を意図的に避けた。そうすることでローウィンにおいて先触れ(Harbinger)という素晴らしいサイクルを登場させることができた(ちなみに《ラノワールの共感者/Llanowar Empath》は一時期《ラノワールの先触れ/Llanowar Harbinger》という名前になる可能性があった)。
もっとも私たちは予言者ではない。そのため将来的にどのような単語を名前のために必要とするかを全て見通すことはできない。好むと好まざると、名前の競合は起こってしまうこともある。それに、そのカードにもうどうしようもなくある名前をつけざるを得ないときもあるし、まったく内容が異なるカード2枚の名前両方に同じユニークな単語を使ったからといって人類が滅亡するわけでもない。元のカードが出たのが数年前なら滅亡の可能性はさらに低くなる。
しかし同時に私たちの手のうちには、いつか日の目を見るそのときまで大事に保管されている単語がある。そうすることで実際に世に出たときのインパクトがより強まるはずだから。
回答 その8:
なぜなら、その名前にはセットの雰囲気に反するから!
私にとって、名前をつける際に非常に大きな比重を占める要素は、そのカードが収録されるセットの世界観だ。これに関しては、そのセットのスタイルガイドが大きな助けとなる。
これはイラストレーターの指針となるだけでなく、これは名前を含めた文章面を担当するライターたちの助けにもなる。スタイルガイドには世界の詳細設定とバックストーリー、そしてカードの名前やフレーバーテキストに用いられるべき言葉や単語が大量に収められているからだ。ライターたちはそれによってどのような名前を適当かそうでないかを判断できるようになる。
ローウィンは陽気でおとぎ話的な雰囲気に満ちみちている。よって《ボガートの悪ふざけ/Boggart Shenanigans》や《ごたごた/Hurly-Burly》といった名前は他のセットよりもローウィンこそふさわしい。
逆に《ヘルドーザー/Helldozer》や《金切り声の混種/Shrieking Grotesque》などの名前はこの世界にふさわしくない。これらの名前に問題があるわけじゃない。ただ、私たちが作り出そうとしている世界観の響きに合わない、という理由により選ばれないのだ。
このルールに引っかかるかどうかスレスレのところをいっている例としては《死裂の剣/Deathrender》がある。ローウィンの世界観からすると結構「ロックな」響きだが、これは死(Death)という単語を用いても問題ない数少ない例の1つだ。私はこの魔法の剣によってセットにもたらされたちょっとワルい雰囲気を好ましく思っている。
回答 その9:
なぜなら、その名前はあまりに発音しにくいか、もしくは分かりにくいから!
これを最後に持ってきたのは、このルールがリストの中ではもっとも優先順位の低いものだからだ。
当たり前のことだが、あからさまに発音できない名前や、読む人にとってまったく意味をなさない単語を使った名前は却下される。しかし私たちは年に数回、少しずつこの線引きを押し広げつつある。基本的にどれかの辞書に載ってさえいれば将来的に使われる可能性を秘めている単語と考えてもらっていい(実際にカード名に使われたことのあるあまり一般的でない単語については、マジックの目録を見てもらえれば大体分かるはずだ)。
ローウィンに出て来た単語に「reejerey」というものがある。これはウェールズ語
もちろんこのルールに従って却下される言葉もある。
《森林の庇護者/Timber Protector》の他の候補名は《Noble Taoiseach》だった。この「Taoiseach」というのはアイルランド語で「長」や「リーダー」を指す言葉だ(そしてアイルランドの首相を指す言葉でもある)。「Taoiseach」は美しい言葉だが、英語話者のマジックプレイヤーの大半はこれを初見で正しく発音することはできないだろう。(この単語の発音は「ティーショク(tee-shok)」か「ティーシェク(tee-shek)」に近いものになるはずだ。私の貧弱な語法知識ではこれが精一杯だ。申し訳ない)おそらくだが、多くの人は正しいか正しくないか以前に発声可能な発音すら思いつけないかもしれない。
明文化されたテスト方法ではないが、判断の一助にしている判定方法の1つにプレイヤーがためらいなく「じゃあ《カード名》を唱えるね」と言うかどうか、がある。もしプレイヤーがそうするなら、その候補名はあまり難しい発音ではないということを暗に示しており、おそらくこのチェック事項を突破できるだろう。
しかし、あらためて言うが私たちは「マジックのカード名に使ってもよいほど一般的かどうか」という判断基準を少しずつ緩和したいと考えている。
マジックに用いられる単語が非常に幅広い分野に及んでいて面白い、というメールを私はたくさんもらっている。私自身、《根絶/Extirpate》を次元の混乱に収録させていなかったら、今も普段の会話に《根絶/Extirpate》という単語を用いることはなかっただろう。「どうやらお隣さんは、自分の土地の古くなったコンクリートの土台を根こそぎ取り除く(=extirpate)のをようやく終えることができたみたいだね」
そして最終試験へ
これら全ての「~べからず」を生き延びた候補名のみ、カードの公式名として使われるチャンスを得る。
しかし、私たちクリエイティブチームが次の担当者へと手渡した名前はこれら全てのチェックを合格しているにも関わらず、必ずしも実際に君たちの手にしたブースターから登場するわけではない。
私たちのチームの手を離れたあともまだそこには1つか2つの関門が待ち構えており、そこでの審査の結果、選ばれた名前が殺されてしまうこともある。そうなると私たちはあらためて代替案を探さなくてはならない。しかしこれは例外的な話で、今日のコラムであげたチェック事項で候補となる名前の生死はほぼ決定づけられる。
さてそろそろおいとまさせてもらおう。
今後のセットのために用意されている数百にも及ぶ名前たちが容赦なく処刑台に乗せられていくのを見届けるという仕事が待っているんでね。
追記:訳している際に気になった点などは別記事で。
コメント
ウェールズ語を話すのは世界でウェールズだけです。
スコットランドでは英語、スコットランド・ゲール語、スコットランド語(低地語)などが使われます。
何と勘違いしたんだ……恥ずかしい。