【翻訳】《動く死体/Animate Dead》のありがたいお言葉/ What Animate Dead Says【Daily MTG】
Monty Ashley
2011年11月8日
元記事:http://www.wizards.com/Magic/Magazine/Article.aspx?x=mtg/daily/arcana/837

 マジックの最初のセットであるアルファ版が初めて世に出たのは1993年のことだ。

 その中にはこのカードも含まれていた。
原文:
 Enchant Dead Creature

 Any creature in either player’s graveyard comes into play on your side with -1 to its original power. If this enchantment is removed, or at end of game, target creature is returned to its owner’s graveyard. Target creature may be killed as normal.

私訳:
 エンチャント 墓地にあるクリーチャー

 いずれかのプレイヤーの墓地にあるいずれかのクリーチャーは元のパワーから-1された状態であなたの側の場に出る。もしこのエンチャントメントが取り除かれた場合か、もしくはゲーム終了時に、対象のクリーチャーは元の所有者の墓地に戻される。対象のクリーチャーは通常どおり殺すことが出来る。

 これは《動く死体/Animate Dead》だ。この文面は実際は上手く働かない。なぜなら、これには「Enchant Dead Creature(エンチャント 墓地にあるクリーチャー)」となっているが、これが唱えられて解決された瞬間から、そのクリーチャーはもう「Dead(墓地にある)」ではないからだ。

 しかしマジックの黎明期には変な文面を持つカードはいくらでもあった。第3版、つまりリバイスドが出たときには《動く死体/Animate Dead》も上手く版を重ねて改良されていた。
原文:
 Enchant Dead Creature

 Any creature in any graveyard comes into play on your side with -1 to its original power. At end of game, or if this enchantment is discarded without removing target creature from play, target creature is returned to its owner’s graveyard. Target creature may be killed as normal.

私訳:
 エンチャント 墓地にあるクリーチャー

 いずれかの墓地にあるいずれかのクリーチャーは元のパワーから-1された状態であなたの側の場に出る。ゲーム終了時か、対象のクリーチャーがゲームから取り除かれることなくこのエンチャントメントが破棄されたとき、対象のクリーチャーは元の所有者の墓地に戻される。対象のクリーチャーは通常どおり殺すことが出来る。

 これもそれほど分かりやすいとは言えない。単に中ほどにあった文章を書き直しただけだ。そうそう、ゲーム終了時には元の所有者へ返すことと書かれた但し書きがあることに気づいたかな。これは《嵐のイフリート/Tempest Efreet》のような奇妙な効果との混同を避けるためのものだ。

 さて第5版ではまた新たな文面が用意された。
原文:
 Enchantment

 When you play Animate Dead, choose target creature card in any graveyard. When Animate Dead comes into play, put that creature into play and Animate Dead becomes a creature enchantment that targets the creature. Enchanted creature gets -1/-0. If Animate Dead leaves play, bury the creature.

日本語訳:
 エンチャント (場)

 動く死体をプレイするとき、対象の、いずれかの墓地にあるクリーチャー・カード1枚を選ぶ。動く死体が場に出たとき、そのクリーチャーを場に出し、動く死体はそのクリーチャーを対象とするエンチャント(クリーチャー)になる。エンチャントされているクリーチャーは、-1/-0の修正を受ける。動く死体が場を離れた場合、このクリーチャーを埋葬する。

 このバージョンの《動く死体/Animate Dead》はすでにオーラではなくなっている。ああ、つまり「エンチャント クリーチャー」ではなくなっているということだ(当時はまだオーラという単語はなかったからね)。この文面も満足いく出来ではなかったと言える。

 このあとから段々文章が怪しくなってくる。なぜなら《動く死体/Animate Dead》は実際に印刷されるカードではなくなり、ルールチームは好きに色んな文面を試すことが出来るようになったからだ。以下が2005年の公式ルールテキストだ。
原文:
 Enchantment

 When Animate Dead comes into play, if it’s in play, it becomes an Aura with enchant creature. Put target creature card from a graveyard into play under your control and attach Animate Dead to it.
 Enchanted creature gets -1/-0.
 When Animate Dead leaves play, destroy enchanted creature. It can’t be regenerated.

日本語訳:
 エンチャント

 動く死体が場に出たとき、墓地にあるクリーチャー・カード1枚を対象とする。動く死体が場にある場合、動く死体はエンチャント(クリーチャー)を持つオーラになる。そのクリーチャー・カードをあなたのコントロール下で場に出し、動く死体をそれにつける。
 エンチャントされているクリーチャーは-1/-0の修整を受ける。
 動く死体が場を離れたとき、エンチャントされているクリーチャーを破壊する。それは再生できない。

 そして次にあるのが2007年に更新されたバージョンだ。「オーラ」が生まれたことにより、テキストボックス内にこのオーラが何をエンチャントするのかを具体的に記す必要が生じ、結果として複雑怪奇な説明が誕生した。
原文:
 Enchantment - Aura

 Enchant creature card in a graveyard
 When Animate Dead comes into play, if it’s in play, it loses "enchant creature card in a graveyard" and gains "enchant creature put into play with Animate Dead." Return enchanted creature card to play under your control and attach Animate Dead to it. When Animate Dead leaves play, that creature’s controller sacrifices it.
 Enchanted creature gets -1/-0.

日本語訳:
 エンチャント - オーラ(Aura)

 エンチャント(墓地にあるクリーチャー・カード)
 動く死体が場に出たとき、それが場に出ている場合、それは「エンチャント(墓地にあるクリーチャー・カード)」を失い、「エンチャント(動く死体により場に出たクリーチャー)」を得る。エンチャントされているクリーチャー・カードをあなたのコントロール下で場に戻し、動く死体をそれにつける。動く死体が場を離れたとき、そのクリーチャーのコントローラーはそれを生け贄に捧げる。
 エンチャントされているクリーチャーは-1/-0の修整を受ける。

 2009年にまたこれは更新された。理由は「in play(場)」という単語が「battlefield(戦場)」という単語に置き換わることになったためだ。
原文:
 Enchantment - Aura

 Enchant creature card in a graveyard
 When Animate Dead enters the battlefield, if it’s on the battlefield, it loses “enchant creature card in a graveyard” and gains “enchant creature put onto the battlefield with Animate Dead.” Return enchanted creature card to the battlefield under your control and attach Animate Dead to it. When Animate Dead leaves the battlefield, that creature’s controller sacrifices it.
 Enchanted creature gets -1/-0.

日本語訳:
 エンチャント - オーラ(Aura)

 エンチャント(墓地にあるクリーチャー・カード)
 動く死体が戦場に出たとき、それが戦場に出ている場合、それは「エンチャント(墓地にあるクリーチャー・カード)」を失い、「エンチャント(動く死体により戦場に出たクリーチャー)」を得る。エンチャントされているクリーチャー・カードをあなたのコントロール下で戦場に戻し、動く死体をそれにつける。動く死体が戦場を離れたとき、そのクリーチャーのコントローラーはそれを生け贄に捧げる。
 エンチャントされているクリーチャーは-1/-0の修整を受ける。

 ほいきたー! いやー、こりゃまた、込み入った文面になったね。しかしルールチームはこれなら正常にプレイできると保証してくれた。

 それに文面がヘンテコに見えるからってそれが問題になるだろうか? 別にこの《動く死体/Animate Dead》を再版しようなんてわけでもないだろう?

 ……本当に?

 なんだ、もし君が新しい製品である Graveborn のパッケージを注意深く見ていたら分かることだけど、実は私たちは近々この《動く死体/Animate Dead》を実際の紙のカードとして再版するんだ。11月18日が発売日だね。

 実際のカードはこんな感じになるはずさ!
 原文ではここにGraveborn版カード画像が表示されてる。文章欄がすごいことに…
 http://media.wizards.com/images/magic/daily/arcana/837_animatedeadwording.jpg

 素晴らしい!
【翻訳】主にリミテッドの観点から見た「陰鬱/Morbid」開発秘話/Morbid Thoughts【Daily MTG】
Zac Hill
2011年11月11日
元記事:http://www.wizards.com/Magic/Magazine/Article.aspx?x=mtg/daily/ld/168

 パーティ好きの諸君、あー、なんだ。こんちは。俺の名前はザックだ。俺宛てになんか言いたいことがある人用にツイッターのアカウントとEメールの送り先を載せとくぜ。(註)
(註) ツイッターのアカウントとEメールの送り先
 原文ではそれぞれ以下のURLへリンクが張られている(一部修正あり)。

 ツイッターのアカウント
 http://twitter.com/#!/zdch

 Eメールの送り先
 http://www.wizards.com/company/emailtoauthor.asp?author=Zac%20Hill

 いつもならこのLatest Developmentのコラムを担当しているはずのトムの代打として今週の記事を担当させてもらうことになったのが俺なんですよ……いや、なんだ、すまん。まだ「対外的に公開しているコンテンツにふさわしい口調」に自分を馴染ませようとしてるところなんだ。

 もう少しなんだ。ちょっと待ってくれ。

 よお。

 最近どう?

 ご機嫌いかが?

 よし。

 今日、俺はイニストラードの新しいメカニズムである 陰鬱/Morbid について話そうと思ってる。かわいそうなことにコイツはまだテーマ週間をもらっていないからだ(少なくとも今時点では)。

 おそらく死とか墓地とかをテーマにすると記事に(えへん)陰鬱な印象を与えるから、ゴミみたいにそのへんにうっちゃられてるんだろうな。しかし 陰鬱/Morbid がどのようにして作られたかという話は、R&Dがリミテッドの環境をどのように作り上げているかを上手く説明してくれるんじゃないかと思う。

 実のところ、このメカニズムに関する説明は、ゲームをプレイする「感じ」についてプレイヤーたちがどのようにコミュニケーションをとっているかを非常によく説明してくれる。この「感じ」というのは非常に説明が難しい。プレイヤーは皆、それぞれ「感じ」の……なんていうか「感じ方」が違うからだ。

気をつけろ! 死が来るぞ!

 イニストラードデザインの初期に時計の針を巻き戻してみよう。次のセットがホラーをテーマにすることは分かっていた。その世界の風景と肌触りを直観的に伝えてくれる豊かなあれやこれやが必要になることもまた分かっていた。

 そもそも根本的なところとして、ホラーとは一体なんなんだろう。すでにマーク・ローズウォーターや他の方々がこれでもかと書いてきたであろうことだが、あえて繰り返したい。

 ホラーとは驚き(Surprise)だ。

 俺たち人間が、自身の生命についてなんらコントロールできないという偶然性と不確実性に満ちた世界だ。さらにそれは感情だ。俺たちのもっとも大いなる財産である知性が力を失い、生きるために本能に従わざるをえなくなる世界だ。

 しかし最も重要なこと、それはホラーとは死そのものについてだ、ということだ。実体とは何かという問題であり、意識と精神のとらえどころのない非現実性の問題であり、俺たちが単なる骨と筋に包まれた物体以上の存在であるはずという観念だ(本当にそうかどうかは誰にも分からないが)。

 イメージしてくれ。

 ゾンビ、スケルトン、吸血鬼、幽霊。これらは全て「生きていないもの」が顕現したもの、心を持たない体だけの存在だ。ホラーを感じさせるもの、それはグール、モンスター、殺人者、またそれらを生み出す病変だ。人と呼ぶには足らぬものたち、満たされぬ影のような存在。

 実際はアンデッドでない狼男たちでさえもそうだ。命を失うわけじゃないが、自分自身という拠り所を失ってしまうんだ。結局のところ、木の杭や銀の弾丸、さらにニンニクや聖印などの示すように、彼らもまた「死から縁遠い存在」だ。

 どうとらえようとこれは変わらない。ホラーとは本質的に死についてなんだ。俺たちはこのテーマについて何度も確認し直すことになるだろうということをあらかじめ分かっていた。

 このテーマを達成するための手段の1つに、墓地をテーマにしたセットにするということがあった。またもう1つの手段としてプレイヤーが墓地を気にするように仕向けるためのメカニズムを過去から引っ張りだすことがあった(フラッシュバックのことだよ)。

 しかしこれらは全て「すでに死んだもの」についてだ。いずれも「何かが死ぬこと」について注意を払うようなものでなかった。プレイヤーがクリーチャーの死を気にかけるようにする最も良い手段とは何だろう。

 それはゲーム自体が「クリーチャーの死を気にするようにすること」だ。

 最初、これを実現する手段は「殺戮」的なメカニズムと思われた。つまり「いずれかのクリーチャーが墓地に落ちたとき~」だ。しかしこのメカニズムは、単一のクリーチャーの死を強調するよりも、逆にそれらを曖昧な単なる数字に過ぎないものにしてしまうことが分かった(結局のところ、プレイヤーはそれを何度も何度も発生させようとすることになる)。

 そしてかわりにデザインチームは、そのメカニズムを二元的なものにしなくてはならないということに気づいた。このターンにクリーチャーが死んだのか、死ななかったのか。そのいずれかだ。こうして新たなメカニズムが生まれ、これは当初 Deathwatch と呼ばれていた。

君の(もしくは相手の)大切なクリーチャーが殺されるとき

 そのようにして Deathwatch はセットに投入された。さらにそれは 陰鬱/Morbit となり、イニストラードのブースターパックに入れられた。こうして俺たちが生み出したメカニズムはカードとなって印刷された。

 分かりやすいし、いい話だ。もし本当にそう上手くいったんならな。そのとおり、もちろんそんな簡単な話じゃなかった。

 さて、Deathwatch がデベロップメントチームへと引き渡されてからの話だ。

 多くのプレイヤーはデベロップメントチームの仕事を、受け取ったデザインファイルのカードのコストを適正なものにするだけだと思っている。信じられないほどぶっ壊れたカードをバランスのとれたものにしてからセットをリリースするだけの仕事だとね。それは例えばアメリカ大統領の仕事が議会で演説するだけだと思っているようなもんだ。

 もちろんそれは俺たちの大事な仕事の一部であり、非常に対外的にも分かりやすく、かつ失敗すれば一目でバレてしまう部分だ。しかし全体像からはほど遠い。

 デベロップメントチームの最も重要な仕事は「ゲームの楽しさを保証すること」だ。

 疑問の余地は無い。

 デザインの構想、セットのテーマ、その他のマジックを素晴らしくするための全ては「ゲームを遊んで楽しいものにする」ためのものだ。そのためにアイデアを付け加えることもある。またそのためにあるアイデアを丸ごと諦めざるを得ないこともある。

 デベロップメントの初期段階において、判明したのは Deathwatch はクリーチャーの死を目立たせるどころか、実際にはそれが滅多に見られなくなってしまうということだった。さらに悪いことに、この Deathwatch というメカニズムはマジックの楽しさを減じさせた。ゲームにおける相互作用を減らし、かつ先手がもつアドバンテージを不必要に強めてしまった。

 どのようにして?

 俺が政策分析(Policy Analyst)として学んだこと、さらにはゲームデザイナーとして過ごした数年間から学んだことがあるとすれば、それは「人は報酬を求めて行動する(people respond to incentives)」という大原則だ。

 マジックで、もっともクリーチャーが死に追いやられるのは戦闘においてだ。もしこれら 陰鬱/Morbid 持ちのクリーチャーたちが全て戦闘でブロックされて死んだときにメリットをもたらすとしたら、プレイヤーたちは単にブロックすることを止めてしまうだろう。

 これは最悪の事態だ。

 ゲームは相互干渉のないダメージレースの様相を呈することになる。先に効果的な攻撃をしかけることが出来た側がそのまま埋めることのできないアドバンテージを得ることになるんだ。

 まあ、分かりやすいと言えば分かりやすい。ブロックしなければ、不安要素もない。ダメージは受けるが、あとで盛り返すことも出来るだろう、という具合だ。

 しかし逆にブロックしたらどうなるか?

 対戦相手のコンバットトリックに引っ掛かるかもしれないというだけでなく、対戦相手の 陰鬱/Morbit のスイッチを入れることにもなりかねない。放っておけばそうなることはない。

 八方塞がりだった。

 ところで俺がどのようなゲームにおいても絶対に好きになれない現象がある。それを俺は「無色透明なルールテキスト(Invisible Text)」と呼んでる。

 あるカードやメカニズムが「こう使って欲しい」と願っていれば、それはそのとおりに使われるべきだ。俺はそう固く信じており、この考えを変えるつもりはない。

 それを念頭に置いた上で、以下のようなカードがあったと想像してみてくれ。

 「~が対戦相手の呪文や能力の対象になるたび、あなたは5/5のドラゴン・クリーチャー・トークンを4体戦場に出し、カードを4枚引き、このターンに続いて追加の1ターンを行う」

 やったぜ! こいつはすげえや! 俺はドラゴンが大好きだし、カードを引きまくることも好きだし、そいつらを好きに使える追加ターンまでもらえるんだって!? これ以上を望んだら罰が当たる!

 ……ところがどっこい、残念なことにこの素晴らしい効果は絶対に誘発しない(《偏向/Deflection》やら《呪文滑り/Spellskite》やら何やらの小細工を使わない限り)。君は心底がっかりすることになるだろう。

 なぜなら君の対戦相手は単にそいつを対象にしないだけだ。そのカードは単に「呪禁」の2文字で済むところを長々と別の文章で埋めただけだ。

 こんなカードは詐欺だ。許せないね。

 この観点からすると、Deathwatchを持ったカードたちは実質的に「詐欺」同然だった。こいつらは確かに墓地に落ちたときに素晴らしい効果を誘発してくれることになっている。しかしそれはDeathwatch持ちのカードを同じターンに唱えるのに十分なほどマナコストの軽い除去呪文を君が持っているときだけだ。

 そして君は「こんなすごいことが出来るんだぜ」と書かれたカードが実際にそうしてくれるのを願いながら、実際はただそれを眺めるだけで終わる。

燃えよドラゴン

 Deatchwatch というメカニズムには明らかに問題があった。それは間違いなかったが、しかしメカニズム自体の目指すところにも間違いはなかった。俺たちはそれをどのようにして実現するかを考えなければならなかった。

 ありがたいことに俺たちにはエリック・ラウアーがいた。

 エリックはイニストラードのデベロップメント・リーダーであり、ここ数年のマジックの成功は彼に働きによるところが大きい。今もし君がイニストラードのリミテッドを楽しんでいるなら、それもまたほぼエリックのおかげと言っていいだろう。

 マジックにおける史上最高のデッキデザイナーの1人であるということに加え、エリックは、どうすればカードが最高の働きを見せるか、そしてゲームが面白くなるかを見つけ出すことに関して、抜け目ない才能を持っている。なお俺の知る限り最も賢い人間の1人でもある。

 もっとも重要な点として、おそらく彼は世界で唯一の「コンピュータの頭脳をもった狩猟犬的ドラゴン(なお見た目は人間)」だ。まあいい。これはまた別の機会に話すことにしよう。

 さて。

 エリックが気づいたのは、Deathwatch が上手く機能するためには、そのメカニズムの持つアドバンテージを最も上手く引き出せる色の組み合わせにそれをはめ込む必要がある、ということだ。

 エリックがそれに気づくまでは、Deathwatch は基本的に全ての色に等しく配置されていた。これが何を意味するかというと「ブロックが発生しない」という現象は非常に高い率で発生していたということだ。

 だけどもしこの能力がある特定の色に偏って配置されたとしたら?

 プレイヤーたちはもう「いついかなる場合も対戦相手がクリーチャーに死んで欲しいと思っているはず」と考えなくて済むようになる。何しろ、Deathwatch に一切頼らないアーキタイプがいくつも生まれることになるからだ。

 ゲームのプレイ環境を改善してくれるというだけでなく、これは Deathwatch がより頻繁に発生する可能性を飛躍的に高めてくれることにもなった。プレイヤーたちがクリーチャーの死をいつもいつも避ける必要がなくなったからだ。

 上手くいきそうな気がするだろ?

 実際上手くいったんだ。

 しかし、さて、このメカニズムはどの色に寄せられるべきなんだろう?

 特に規模の大きいセットにおいてデベロップメントチームがよく用いる分析の1つに、10種類ある2色の組み合わせごとにリミテッドでどのようなアーキタイプが生じ得るかをマッピングすることがある。

 この作業の目的は、全ての2色の組み合わせが等しい強さを持っているかどうか確認するためじゃない。これは、ブースタードラフトにおいて各組み合わせが何かしら意味のあることを出来るかどうか、をチェックするためのものだ。

 チェックの結果、有効色については問題ないことが分かった。だが一部の敵対色については十分な肉付けがなされていたとは言えなかった。

 もっともこれはこれで理にかなっている。

 有効色には、デザインチームがこのフォーマットのために非常に力を入れて取り組んだ「部族(Tribe)」が用意されていたからだ。とはいえ、この敵対色の問題がどうでもいいってことにもならない。

 敵対色のフラッシュバックカードたちはいくつかのアーキタイプ(白赤アグロ、赤青フラッシュバックなど)を生み出してくれる助けとなってくれていたし、《村の食人者/Village Cannibals》や《骨塚のワーム/Boneyard Wurm》とかは白黒トークンや緑青の墓地をテーマとしたアーキタイプを手堅く固めてくれるカードとなってくれた。

 しかし黒緑についてはこれらの色を結びつける何かに欠けていた。そしてエリックが気づいたことは、この緑黒という組み合わせが Deathwatch に実にしっくりくるという事実だった。

 クリーチャーを墓地に送ることに関してはおそらく黒が最高の色だ。生け贄に捧げてもいい、除去してもいい。

 それと同時に、緑はもっともクリーチャーを墓地に送りづらい色だ。言い換えると、特に強い Deathwatch 持ちのクリーチャーを与えるのにふさわしい色ということになる。さらにそういった Deathwatch 持ちのカードを緑の低いレアリティにばらまきリミテッドで使われる機会を増やすことにした。

 勘違いしないで欲しいのは、強い Deathwatch 持ちのカード(例えば《硫黄の流弾/Brimstone Volley》や《深淵からの魂刈り/Reaper from the Abyss》)が全てリミテッドのアーキタイプバランスだけをにらんでデザインされたわけじゃない、ってことだ(ただし大半のカードはその点からそれることのないように気を遣ったこともまた事実だ)。

 これらの変更は上手いことゲームプレイにも反映された。

 俺たちがセットの総仕上げを終えて、次のクリエイティブチームが60年代っぽい響きの「Deathwatch」という名前より「陰鬱/Morbit」のほうがいいだろうと判断したところで、このメカニズムはようやく産声をあげたわけさ!

いつもの番組表へ

 俺からは以上だ。

 来週のLatest Developmentのコラムは、今週みたいにおしゃべりなリスの出番はなくて、いつものトムが帰って来るはずだ(俺は自分を例えるときにリスを使うことにしてる。いつか《樫の力/Might of Oaks》のイラスト(註)に登場したいとも思ってるし、こう、どんぐりいっぱいに囲まれて、ふわっふわの尻尾で……頬をふくらませることに関しちゃ結構な自信もある)。

 じゃあ、また次の機会に会おう!(次の機会があればの話だけどな)
(註) 《樫の力/Might of Oaks》のイラスト
 リスうんぬんとのことなので、初代ウルザズサーガ版のカードイラストの話をしているものと思われる。イラストは以下のリンク先を参照のこと。
 http://magiccards.info/ul/en/106.html

【翻訳】モダンというフォーマットとその未来について/The Modern Future【DailyMTG】
Tom LaPille
2011年11月04日
元記事:http://www.wizards.com/Magic/Magazine/Article.aspx?x=mtg/daily/ld/167

 モダン週間も今日で終わりだ。今週は私にとって非常に親しみ深いテーマだった。モダンというフォーマットを実現するべく動いた中心の1人だからというだけではなく、テーマ週間にとりあげるというアイデアを売りこんだ張本人だからだ。

 私は過去にモダンに関する記事を2回書いている。1つ目(註)はマジックオンラインのコミュニティカップにこのフォーマットを用いる件について紹介したときの記事、2つ目(註)はその結果とプロツアーフィラデルフィア(註)のフォーマットがモダンに変更になったことを報告させてもらったときの記事だ。

 その後、プロツアーフィラデルフィアが開催され、いくつかのカードが禁止リストに加えられた。今日の記事はこのモダン・シリーズの3つ目の記事となる。
(註) 1つ目の記事
 原文では以下のURLへリンクが張られている。
 http://www.wizards.com/magic/magazine/article.aspx?x=mtg/daily/ld/144

(註) 2つ目の記事
 原文では以下のURLへリンクが張られている。1つ目の記事と同じなのでリンクミスかも
 http://www.wizards.com/magic/magazine/article.aspx?x=mtg/daily/ld/144

 おそらくこっちが正解。内容は大会の結果に即しての禁止リストの更新、および記事にあるとおりプロツアーフィラデルフィアのフォーマットがモダンに変更になった件。
 http://www.wizards.com/magic/magazine/article.aspx?x=mtg/daily/ld/155

(註) プロツアーフィラデルフィア
 原文では以下のURLへリンクが張られている。プロツアーフィラデルフィアのカバレージ
 http://www.wizards.com/Magic/Magazine/Article.aspx?x=mtg/daily/eventcoverage/ptphi11/welcome


 プロツアーフィラデルフィアのフォーマットにはモダンが採用された。私たちの正直な感想としては、フォーマットはかなりぶっ壊れていた。4ターン目が迎えられるようなフォーマットになることを期待していたのだが、実際はそうはならなかった。

 大量のコンボデッキが安定した3ターンキルをもたらし、コントロールデッキらしきものは全て《雲上の座/Cloudpost》によるビッグマナに追いやられ、これら両方のデッキに対抗できた数少ない攻撃的なデッキは、大量の妨害呪文が入っているものか、もしくはコンボデッキと同じかそれ以上の速度で相手を倒せるクロックを持ったものかだった。

 これは私たちの望んでいた姿ではなかったが、それから数週間というもの、プレイヤーたちはモダンに対する興味を増していったようだった。

 シアトル周辺のショップはモダンの大会をみずから開き、プレイヤーに常にない興味を抱かせる結果となった。またマジックオンラインでもモダンの大会が次々と開かれた。

 多くのプレイヤーはプロツアーで活躍したデッキをコピーし、一部のプレイヤーはオリジナルのデッキを生み出す作業に入った。これらのイベントはそれなりに成功を収めており、その事実は私たちを勇気づけた。

 しかし私たちはプロツアー時点でのフォーマットの状態を好ましいとは思っていなかった。前述した通り、それはあまりに速すぎる上に多様性に乏しかった。

 そのため私たちは禁止カードを増やした。

 それによって何がどう変わったか、変更後のデータはそれほど集まっていない。その理由は禁止カードが発表されて以降、このフォーマットに対するプレイヤーたちの興味が以前よりも薄れてしまったようだからだ。一部のプレイヤーは「モダンは死んだ」「もう何をしても手遅れだ」とまで言っている。

 なぜだろう?

 私はそういった「フォーマットが誤った方向へねじまげられた」ことに対する苦情をTwitterやEメールを通じて受け取っている。

 確かに私も不満に感じる気持ちは分からないでもない。しかし私自身この変更に関する議論と決定に加わっていた身として、この変更によって環境が必ずや改善されると信じている。

 それを証明できるのは時間だけだろう。

 この現象を説明づけるとすれば、単純に環境があまりに大きく変えられてしまったためだろう。一部のプレイヤーは確かに暗闇を手探りで進むかのように新たなフォーマットを模索することに楽しみを感じているが、大多数のプレイヤーはそうではなく、ある程度の指針を欲しがる。

 これがプロツアー予選のシーズンが来る前にプロツアーを開催する理由の1つであり、新たなフォーマットでまずグランプリを開催する理由の1つであり、また新セットのリリースのあとすぐに規模の大きいスタンダードの大会を開催する理由の1つでもある。

 プレイヤーはデッキリストを欲している。用意されたデッキリストをコピーしてすぐにプレイしたいプレイヤーたちがいるのだ。またどんなデッキをメタればいいのかを知りたいプレイヤーたちもいる。

 そこにある程度の前提があればこそ対応策や措置を講じることもできるわけだが、私たちがプロツアーのトップ8のうち7つのデッキを禁じてしまったことで、その前提が取り払われてしまった。現状では確かにこのフォーマットに対する動きが停滞してしまっても仕方がないと言える。

 この先を心配する人たちの気持ちも分かるが、モダンの未来を憂慮するには及ばないと言い切れるだけの材料もまたたくさん用意されている。以下がその理由だ。

理由その1:世界選手権がデッキリストをもたらしてくれる

 今月下旬に開催される今年のマジック世界選手権では、世界中のトッププレイヤーが最終目のトップ8へと勝ち進むためにモダンの構築デッキを3日目に披露してくれる。

 国別代表チームの3人のうちの1人もまたモダンのフォーマットでプレイすることになる。これによって大量のデッキリストが提供されることになり、このフォーマットに新たな幕開けをもたらすだろう。

 もし君が、使ってみて楽しいデッキのリストが用意されるのを待っていたのであれば、もしくは読みこむべき環境のメタが固まるのを待っていたのであれば、あと2週間ほどの辛抱だ。

 私たちは禁止リストがこれ以上更新されないことを願っているが、世界選手権後もまたフォーマットに多少の変更が加わる可能性は否定できない。何かが壊れているなら、それを直すのが私たちの仕事だ。モダンが長く続くためには、それに対する変更もまた必要経費だ。

 世界選手権の直後はまだ、プレミアイベントに属するような大会でモダン環境を経験したプレイヤーといえば、世界選手権に参加したプレイヤーかプロツアーフィラデルフィアに参加したプレイヤーに限られるだろう。

 しかし来年になればその範囲はグンと広がるはずだ。そうやって環境が広がってしまう前にフォーマットを「正しておくこと」は非常に重要なことだと私たちは考えている。

 いきなり先に進み過ぎた。ちょっと話を戻そう。

理由その2:私たちは来年からモダンを高いレベルでサポートしていく

 さっき私が、新しいフォーマットのデッキリストの種を撒いておくためにプロツアー予選のためにプロツアーを開催する、と言ったことを覚えているだろうか。今回もそれは変わらない。

 つい最近、私たちは2012年シーズンの最初のプロツアー予選がモダンでとりおこなわれると宣言したばかりだ。規模の大きいオンラインでないオープンな公認大会でモダンをプレイしたいのなら、来年の初めにさっそくその機会が待っているということだ。これらの予選を勝ち抜けば、来年開催される2つ目のプロツアーへの参加権が得られる。

 参加資格を問わないオープンな大会で、かつもっと賞金の高い大会に出たいと望んでいる君のために、私たちは2つのモダンフォーマットのグランプリを開催することにしている。

 1つはネブラスカ州リンカーンで2月に開催される。もう1つはイタリアはトリノで3月末に開催される。来年の残りのスケジュールについてはまだ発表されていないが、よほどのことがない限りはこれら以外にもモダンのフォーマットを用いたグランプリがさらに用意されることになると信じてくれていい。

理由その3:フォーマットが熟すのには時間がかかる

 モダンが死にかけているんじゃないかと心配している君のために、レガシーが生まれたときのことを話そう。

 レガシーというフォーマットは2004年に発表された。出来る限りたくさんのカードが利用可能で、かつローテーションのないフォーマットを生み出すために私たちはヴィンテージの制限カードをレガシーの禁止リストとして統合した。

 フォーマットの発表は華々しく行われたが、当初は不平不満しか聞かれなかった。

 プレイヤーたちはこのフォーマットをプレイできる場所を見つけられず、どのようなデッキが候補に上がるのかも分からず、プレイする前にカードを集める気にもならなかった。そのようなわけで大してプレイされることもなかった。

 初めてレガシーを採用したプレミアイベントは2005年11月に開催されたグランプリフィラデルフィアだった。フォーマットが発表されてから丸1年が経過していた。参加人数は約500人。初めて大規模な大会が開催されたフォーマットとしては悪くない人数だった。

 1ヶ月後、フランスのリールでまたレガシーを採用したグランプリが開催された。これにはグランプリフィラデルフィアのほぼ倍のプレイヤーが集まった。しかし次のレガシーの登場するグランプリは、2006年には無く、2007年のグランプリコロンバスを待たなくてはならなかった。

 それからまたレガシーのグランプリのない年を1年はさみ、2009年のシカゴグランプリのあと、2010年と2011年のそれぞれに2回ずつ開催されている。

 そうやって時が過ぎる中でいくつかのレガシーグランプリは稀に見る大盛況なイベントとなった。特に2010年のグランプリマドリードは、2,227人という史上最大規模のマジックの大会だった。

 ここまで説明した中には重要な大会が欠けている。そう、StarCityGames.comオープンシリーズだ。この大会はレガシーの成功に多大なる貢献をしている。

 この大会は2009年に始まり、それ以来途切れることなく続いている。この大会は、新たなデッキリストと高額の賞金が出るレガシーの大会の両方をプレイヤーに提供している。

 StarCityが週末に定期的なレガシーの大会を開くという決断を下すまで、レガシーは本当の意味では始まっていなかったのではないかと私は考えている。

 グランプリは確かに人気のある大会だ。しかしフォーマットが真に受け入れられたかどうかは世界中にある一般のショップがそのフォーマットで定期的な大会を開いてくれるようになったときであり、またそれらが広く認知されるようになったときだ。

 レガシーは今でこそ幅広い人気を集めているフォーマットだが、今の時点まで育つのに7年の歳月を要している。

 モダンはまだ生まれて数ヶ月であり、ショップが自らの手でイベントを開くようになってから1ヵ月やそこらしか経っていない。モダンとレガシーを今この瞬間に比べるのはあきらかに不公平というものだ。

 モダンにとっての良いニュースとしては、大規模な大会を開く、というサポートがレガシーよりもずっと早く与えられるということがあげられる。

 前述したとおり、最初のプロツアー予選にはモダンが採用されており、これによってたくさんのデッキリストとそれを用いるための機会が多くのプレイヤーに提供されるだろう。

 私たちはこれによってフォーマットが正しい方向へと進むのではないかと期待している。

私たちはモダンを楽しく息の長いフォーマットにしたい

 リアルタイム戦略ゲームやFPSのようなオンラインのデジタルゲームは、発売後も要所要所で調整が加えられることがある。単なる歩兵が強すぎたり、レールガンのダメージが高すぎたりしたときだ。

 これらはパッチで修正可能だ。平均的なプレイヤーは変更に気づかないかもしれないレベルの修正かもしれない。しかし熟練したプレイヤーはこれによって不均衡が是正されることを歓迎するだろう。

 マジックはアナログなゲームだ。そのため、デザインは慎重になされる必要がある。一度作ってしまった以上はもう何もできないのだ。

《石鍛冶の神秘家/Stoneforge Mystic》が出来ることを後から変えることは出来ない。《石鍛冶の神秘家/Stoneforge Mystic》はそのままであり続ける。何しろ私たちは物理的なカードを大量に印刷し終えたあとに、環境へばらまかれたそれら全てを回収してマナコストを修整したりはできないのだ。

 もちろん私たちはフォーマットに手を加えることはいつでもできるが、そうすることには当然強い抵抗感がある。よって私たちは気軽に変更を加えることは決してない。

 ここで述べたいことは、要するに私たちはモダンに末長く楽しまれて欲しいと思っている、ということだ。そう思ってないとすれば私たちはここまで心を砕いたりはしない。

 モダンには、大きく育つために必要なだけの時間とサポートが今後も提供される。

 そのサポートとは、高レベルな大会を開催していくことや、また皆がプレイしたいと思ってくれるようなフォーマットを作り上げることで成される。

 私たちは長い時間をかけてレガシーを管理してきた。その時間の中で私たちはプレイヤーが何を求めているのかを学び、その経験を活かすことでフォーマットを成長させてきた。モダンも同じように成長していくだろうと私は考えている。

 これからしばらくの間もプレイヤーたちはモダンについて不満に思うことがあるかもしれない。しかしこのフォーマットはマジックの他の分野に比べれば、まだ生まれたばかりの赤ん坊に過ぎないのだ。

 私たちは決してこのフォーマットを皮肉や当てつけのために生み出したわけではなく、このフォーマットが成熟するためのサポートを惜しむつもりもない。モダンが成長していく道のりを君たちが共に歩んでくれるのであれば幸いだ。
 蛇足かもしれないので迷ったけど、一応書いとく。《象牙の塔/Ivory Tower》というのは色々なものを指すけど、その中に「俗世間から離れて孤高に生きる人たち」がある。学問一筋で実体験をともなわず机上の空論を振り回してしまいがちな研究者を揶揄して呼ぶ言い方でもある。
 マジックの開発部というのはともすれば「一般のプレイヤーたちから見たマジック」という視点から完全に離れてしまいがちな立場でもある。そのズレを埋めるために開発部はどのような手段をとっているのか、ということを紹介してくれているのが今日の記事。


【翻訳】《象牙の塔》を《粉砕》せよ/Shattering the Ivory Tower【Daily MTG】
Tom LaPille
2011年10月28日
元記事:http://www.wizards.com/Magic/Magazine/Article.aspx?x=mtg/daily/ld/166

 11歳の頃から今にかけて、私はマジックを開発側とプレイヤー側という両方から関わって来た。3年と少し前までは(註)、その関わり方は多くのプレイヤーとほぼ変わらないものだった。

 子供の頃は家の中のテーブルで遊ぶことが多く、同時に地元のトーナメントへも不定期ながら参加していた。このトーナメントへの参加がその後の人生を決めたと言っていいだろう。

 しばらくして、私は最寄りのショップで週に2回のドラフトを欠かさずプレイするようになった。さらにはプロツアー予選に参加するようになり、グランプリに参加するようになり、最終的にはプロツアーへと辿り着いた。
(註) 3年と少し前まで
 著者であるTom LaPilleがウィザーズに入社したのは2008年のこと。

 この流れが断ち切られたのはウィザーズのオフィスに足を踏み入れたときだ。今や私は仕事のためにそこへ向かい、そこを出たあとのほとんどの時間はマジックに関係ないことに費やすようになった。ウィザーズで働くほとんどのメンバーは似たりよったりの人生を送っている。

 こういった形でしかマジックに接しなくなるということは明らかに危険だ。マジックに対する一般的な視点が失われてしまうからだ。私たちも当然この危険性には気づいており、様々な手段で対処を試みている。


その1 私たちはトーナメントに顔を出す

 マジックを遊ぶということはどのようなことなのか。それについて、ごく一般的な視点を取り戻すためのもっとも良い方法はたくさんのマジックプレイヤーが集まる場に赴き、彼らと一緒に時間を過ごすことだ。そして手軽にこれを達成したければ、規模の大きいトーナメントへ足を向ければいい。

 プロツアーでR&Dのメンバーを見かけるのはそう珍しいことじゃない。世界の強豪プレイヤーたちが私たちの生み出したカードをプレイするところを見るのは楽しいことだし、多くのプレイヤーはそのプロツアーでの結果を真似てデッキを作る。

 私たちはマジックのトッププレイヤーたちと個人的な付き合いを持つこともまた楽しみにしている。私たちと同じくらいマジックをより良いものにしたいという意欲に燃えているプレイヤーたちだし、また彼らとの付き合いによって開発の問題点に関する最新情報に疎くならずに済むことが分かってきた。

 しかしプロツアーや他の規模の大きいイベントに顔を出すのはそういった理由からだけではない。ここ何年か、どのプロツアーにもR&Dのメンバーとマジックの対戦ができるブースが必ず設けられてきた。このブースは「ガンスリンガー」「チャンピオンチャレンジ」「スペルスリンガー(註)」など様々な名前で呼ばれてきたが、その目指すところは常に一定だ。

 私たちと会うことをみんな楽しみにしてくれてるし、私たちもまた君たちと交流することで学ぶことがある。特に北米以外で開催されるイベントで得られるものは大きい。そこでは全世界のプレイヤーたちから新しいことを学べるからだ。

 もっともプロツアーはプライベートなイベントとなることが決まり(註)、ここで述べた目的のうち最初のものしか達成できなくなった。その他の大きな規模のイベントで君たちと会える機会があることを期待しているよ。
(註) スペルスリンガー
 前にTom Lapilleは、開発側がスペルスリンガーで使うデッキの内容や作り方についてコラムを書いている。そのコラムの拙訳が以下。

 【翻訳】ガンスリンガーじゃない、スペルスリンガーさ/Spellslinging【Daily MTG】
 http://regiant.diarynote.jp/201103130139077253/

(註) プロツアーはプライベートなイベントとなる
 来年度からプロツアーは完全にプライベートイベントとなり、併設イベントやサイン会などの催し物も行われなくなるらしい。詳しい事は以下の日本語公式サイトの記事を参照のこと。

 2012年のイベント構造に関する一問一答
 http://mtg-jp.com/reading/translated/001339/


 私は規模の小さいトーナメントにも機会を見つけては足を向けるようにしている。

 ウィザーズのオフィスから最も近いショップは Shane’s Cards and Comicというショップで、これは私の好きなベトナム料理屋とたまに買い物に行く日本食品店との隣にある。ときおり、私は金曜の午後にこれら3つの店に立ち寄り、ワシントン州レントンのマジックコミュニティの息吹に触れることにしている。

 これによって私はトーナメント志向のプレイヤーたちのよりカジュアルな面を知る窓口を得ることができ、同時に店主から最近の景気について話す機会も得られている。


その2 私たちはトーナメントでプレイする

 トーナメントにゲストとして顔を出すのも悪くはないが、プレイヤーとして参加することに換えられるものでもない。ぎりぎりの瞬間までサイドボードに悩み、ペアリングが張り出された掲示板に群衆として群がり、対戦相手を前にシャッフルする緊張感。これら全てがマジックの一部であり、そして内側からしか感じ取れないものである。

 ウィザーズの社員は認定トーナメントへの参加が制限されている。そのためこの手段を用いることはまれだが、私は機会を見つけては出来る限り参加するようにしている。もちろん私がマジックの大会でプレイすることが大好きだからということもあるが、同時に良いリサーチの機会でもあるからだ。

 ウィザーズで働き始めた頃、シアトルでは規模の大きい非公認のスタンダード・トーナメントがよく開催されていた。私は出来る限りこれらへ参加し、いくつかでそれなりの戦績を残した。2009年には、Nintendo DSX(註)のためのサイドイベントで優勝したりもした。

 最近参加した規模の大きめの大会となると、モダンが正式フォーマットとなる前にCard Kingdom(註)の本店で開催されたモダンのイベントに参加したり、アーリントンのMirkwood Cafe(註)で開催されたレガシーのトーナメントに2回参加したりしている。

 これらの大会は非常に楽しいものだった。どの大会でも、それまで知ることのなかった新しい知識を得ることができたし、それらは私の仕事に役立ってくれている。
(註) Nintendo DSX
 ニンテンドーDSのための外部記憶装置だかフラッシュメモリーだかなんだか? 調べてみたけどよく分からない。少なくとも日本では売ってない商品みたい。まさか会社の名前じゃないだろう。

(註) Card Kingdom
 ワシントン州シアトルにあるゲームショップ。日本にも同名のカードショップがあるけど、関連性についてはよく分からなかった。以下がホームページのアドレス。

  Card Kingdom(http://www.cardkingdom.com

(註) Mirkwood Cafe
 ワシントン州アーリントンにあるゲーム・ミュージックショップ。正式名称は Mirkwood & Shire Cafe らしい。以下がホームページのアドレス。

  Mirkwood & Shire Cafe(http://www.mirkwoodshirecafe.com


その3 私たちはマジックオンラインでプレイする

 マジックオンラインもまたプレイヤーと交流するのにとても良い手段となってくれている。もちろん面と向かっての交流は素晴らしいものだし、今後もそれをやめるつもりはまったくないが、マジックオンラインでのプレイにはそれとはまた違った利点がある。

 現実世界では、多くのプレイヤーは私が誰だか知っており、私のこの肩書きのために敬意を持って丁寧に接してくれる。ところがオンラインでは、私が誰だか示すのは名前の横に小さく表示されたウィザーズのロゴだけだ。私はこれがあるせいで匿名性も何もないと思っていたが、意外とみんな気づかないものらしい。つまり他の誰かしらと同じように皆が私に接してくれるということだ。

 それが何の役に立つのか?

 直に接している場合、多くのプレイヤーは私との時間を大切なものとし、私に嫌われないようにふるまってくれる。完全にロックを決めにくるようなデッキや私の土地を全て吹き飛ばすようなデッキは使わないし、私のデッキが紙束だと指摘することもないし、私が馬鹿で単に運が良かっただけでとっとと死ねばいいのにと言われることもない。

 そのため私たちは、実世界でプレイヤーたちと交流する際は、本来の姿よりも美化したマジックの世界を見せられているのではないかと不安になることがある。対して、マジックオンラインでは私と対戦する際に気を遣ってプレイする必要もなく、事態は少々異なったものとなる。

 私の土地を全て《不毛の大地/Wasteland》化したり、私のやることなすこと《もみ消し/Stifle》しまくったり、2ターン目に致死量の《苦悶の触手/Tendrils of Agony》を撃ち込んだり、私の土地を全て《液鋼の塗膜/Liquimetal Coating》と《タクタクの潰し屋/Tuktuk Scrapper》のコンボで吹きとばしたりすることに良心の呵責を覚えるプレイヤーはいないようだ。

 ゲームの最中に汚い言葉を投げつけられることもある。特に変わったコンボなどで勝利した場合などだ。もちろんこういったことが嬉しいわけではないが、こういった現場に立ち会える機会は貴重なものだと思っている。これらもまた本当のマジックの一部だからだ。


その4 私たちは新しいメンバーを雇う

 もちろん私たちはもっと直接的な手段を用いることもある。オフィスに新しい才能を招き入れることだ。新しいメンバーが加わるとき、その人物は必ず何かしら新しい視点をもたらしてくれる。

 入ったばかりのときのその新たな視点は実世界からもたらされたものであり、私たちが新メンバーから得られるものの中でも特に重要なものの1つだ。長い時間をかけてそれらの視点をまとめあげることで実世界におけるマジックの姿が見えてくる。

 興味深い点として、いずれの視点も単体では決して完璧なものではないということが挙げられる。

 雇われた当時の私は特定のプロツアーの権利を狙ってとれるだけの強さを持ったプレイヤーだった。しかしそれでもなお私は毎回予選を勝ち抜く必要があった。多くの同僚は私よりずっとマジックが上手かったが、プロツアー予選という過酷な戦場を私ほど多く経験したプレイヤーはいなかった。

 構築環境に対して私は彼らとは異なる視点を持ち、そのおかげで独自の意見を持つことができた。

 その一方で、Erik Lauerの図抜けたデッキ構築の才能やプロツアーベテランであるMike Turianの経験もまた、私たちに必要な多種多様な視点を得るのに必要不可欠なものだった。

 さらについ最近開発チームに加わったメンバーにはZak Hillがいる。彼はいくつかのプロツアーでプレイしたことがあり、そのマレーシアでの人生の大半をマジックに費やした男だ。Dam Humpherysは殿堂入りプレイヤーの1人であり、他のトレーディングカードゲームに数年以上携わった経験を私たちにもたらしてくれた。Max McCallは特定の環境のベストソリューションを見つけることに心血を注いでおり、役に立たなくなるその瞬間までひたすらそれを使い倒す名人だ。

 最も新しく開発に加わったメンバーと言えば、2005年のプロツアーロサンゼルスで最終日に残ったプレイヤーであり独創的なデッキの作り手でもあるBilly Moreno、そしてこの記事を書くほんの2日前にインターンとして開発に来たばかりのGavin Verheyがいる。Gavin Verheyの視点と意見がどのようなものかはまだ分からない。だけどそれが今いるメンバーの誰とも違ったものであることは間違いない。

 余談ながらつけ加えておくと、もし君に新たな意見と共に私たちの一員に加わりたいという野望があるのなら、この Great Developer Search を一読することをお薦めする。Gavin Verheyが最後の新メンバーというわけではない。君が多少の苦労をいとわないのであれば次の新たなメンバーとなる可能性だってもちろんある。


その5 私たちとはインターネット経由でコミュニケーションがとれる

 ちょっと探してもらえばすぐ分かることだが、私たちとコミュニケーションをとる方法を見つけるのはそう難しいことじゃない。どの記事にも「ご意見・ご感想のEメールはこちら」のリンクが張られている。全てのメールに返信することは出来ないが、私の知る限り、どのメンバーももらったメールは全て目を通している。

 また私たちの多くはメール以外にも交流の窓を開いている。Mark Rosewaterはありとあらゆるソーシャルメディアを好んで用いており、TwitterとTumblr(註)のどちらでも熱心に活動している。Zac HillとGavin Verhey、そして私もTwitterにはよくアクセスしている。
(註) Tumblr
 読みはタンブラー。ブログとTwitterを足して2で割らないようなサービス。他のユーザをフォローできたり、フォローしたユーザが更新した記事が自動的にリアルタイムで表示されたりする。日本語版もあるらしい。

 これらのメディアで私たちを見つけることは簡単だが、同時に私たちはこれらから得られる情報については注意深く吟味している。Twitter上で私たちにメッセージを送ってくれるプレイヤーの多くは、好みのプレイスタイルを非常に強く推す傾向がある。

 Twitter上でツイートを送ってくれるトーナメントプレイヤーたちはマジックのために何時間もの移動を強いられることを苦にしないタイプが多いし、ツイートを送ってくれるカジュアルプレイヤーたちは何百・何千枚というカードを持ちもう何年も何年もプレイしていることが多いし、その他のプレイヤーも同じだ。

 何が言いたいかというと、こういったプレイヤーたちの一部は、非常に特殊なマジック観を自身の中に築き上げていることが多い。彼らによってもたらされる意見については、これは特別な視点からもたらされたものであり一般的ではないかもしれない、という点に留意する必要があるということだ。

 何にせよ、こういったプレイヤーたちから意見をもらうのにインターネットはもっとも適した手段であり、私もその価値は認めている。



 さて、ここまでに挙げたとおり、私たちは様々な手段で一般の視点から見たマジックについて情報収集をしており、今までにこれらから累積的に得られた効果について私は満足している。

 私たちはいまだかつて一度も「完璧なマジック観」を描けたことはない。しかしそれはどのような手段を用いようと手に入れることは不可能に近いものであり、今時点で私たちがとっている手段は今日挙げさせてもらったとおりだ。
【翻訳】素晴らしき狂喜と過ぎ去りし狂喜/The Beauty and Bygone Times of Bloodthirst【DailyMTG】
Mike Flores
2011年8月4日
元記事:http://www.wizards.com/magic/magazine/article.aspx?x=mtg/daily/td/154

 公式のカード検索ページであるGathererで「狂喜/Bloodthirstを含むカード」という条件で検索をかけると23件のカードがヒットするが、そのうちの1枚は《血に飢えた大峨/Bloodthirsty Ogre 》なので、これはちょっと脇に置いておくことにする。

 実際に狂喜/Bloodthirstを持っている残りの22枚のカードのうち、11枚はギルドパクトのセットに収録されているもの、1枚は未来予知の「他セットからメカニズムを拝借してきたコモン」、残りの10枚のカードが基本セット2012のスタンダードリーガルなカードたちだ。

 そう、今日の記事は狂喜/Bloodthirstについてだ。まずはギルドパクトに収録されていた狂喜/Bloodthirst持ちのカードを見てみようと思う。それからあらためて基本セット2012におけるこれからの狂喜/Bloodthirstについて話したいと考えている。


ギルドパクトの狂喜/Bloodthirst持ちのカードについて

    - 1マナ
        《スカルガンの穴潜み/Skarrgan Pit-Skulk》
    - 2マナ
        《瘡蓋族のやっかい者/Scab-Clan Mauler》
    - 3マナ
        《軟骨背獣/Gristleback》
    - 4マナ
        《炎樹族の血鱗/Burning-Tree Bloodscale》
        《野次馬煽り/Rabble-Rouser》
    - 5マナ
        《ゴーア族の野人/Ghor-Clan Savage》
    - 6マナ
        《スカルガンの火の鳥/Skarrgan Firebird》
    - 7マナ
        《乱打するワーム/Battering Wurm》
        《石化した樹の血族/Petrified Wood-Kin》
        《スカルガンの空砕き/Skarrgan Skybreaker》

 マナコストに対して費用対効果の高い脅威を生み出せたときこそ、狂喜/Bloodthirstは最高の輝きを放つ。

 まず《乱打するワーム/Battering Wurm》と《スカルガンの空砕き/Skarrgan Skybreaker》を見てみよう。これらの7マナクリーチャーは対戦相手がすでにダメージを受けていればそれぞれ5/4と6/6となってくれる。
Battering Wurm / 乱打するワーム (6)(緑)
クリーチャー - ワーム(Wurm)
狂喜1(このターン、いずれかの対戦相手にダメージが与えられている場合、このクリーチャーはその上に+1/+1カウンターが1個置かれた状態で戦場に出る。)
乱打するワームよりパワーが小さいクリーチャーは、これをブロックできない。
4/3
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Battering+Wurm/

Skarrgan Skybreaker / スカルガンの空砕き (4)(赤)(赤)(緑)
クリーチャー - 巨人(Giant) シャーマン(Shaman)
狂喜3(このターン、いずれかの対戦相手にダメージが与えられている場合、このクリーチャーはその上に+1/+1カウンターが3個置かれた状態で戦場に出る。)
(1),スカルガンの空砕きを生け贄に捧げる:クリーチャー1体かプレイヤー1人を対象とする。スカルガンの空砕きはそれに、これ自身のパワーに等しい点数のダメージを与える。
3/3
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Skarrgan+Skybreaker/

 トーナメントの構築フォーマットで7マナクリーチャーが使われるために越えなければいけないハードルはただでさえ非常に高い。さらに、よほどの使える能力を持っていなければ7マナで6/6というサイズさえもスタンダードでは十分とは言えない。

 逆のケースを考えてみよう。
Scab-Clan Mauler / 瘡蓋族のやっかい者 (赤)(緑)
クリーチャー - 人間(Human) 狂戦士(Berserker)
狂喜2(このターン、いずれかの対戦相手にダメージが与えられている場合、このクリーチャーはその上に+1/+1カウンターが2個置かれた状態で戦場に出る。)
トランプル
1/1
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Scab-Clan+Mauler/

 ギルドパクトに収録されている狂喜/Bloodthirst持ちのクリーチャーの中で、広く実戦に用いられ、かつ実際に活躍したと呼べるものは《瘡蓋族のやっかい者/Scab-Clan Mauler》しかいなかった。

 それが最も活躍したのはなんと言ってもそのプロツアーでのデビュー戦だろう。

    ---------------------------------------------------------
    デッキ名:Heezy Street
    (Mark Herberholz、プロツアーホノルル06優勝)(註)

    メインデッキ 60枚

    土地 23枚

     6 《森/Forest》
     4 《カープルーザンの森/Karplusan Forest》
     7 《山/Mountain》
     2 《怒りの穴蔵、スカルグ/Skarrg, the Rage Pits》
     4 《踏み鳴らされる地/Stomping Ground》

    クリーチャー 27枚

     4 《炎樹族のシャーマン/Burning-Tree Shaman》
     4 《世慣れたドライアド/Dryad Sophisticate》
     3 《激情のゴブリン/Frenzied Goblin》
     4 《巨大ヒヨケムシ/Giant Solifuge》
     4 《密林の猿人/Kird Ape》
     4 《瘡蓋族のやっかい者/Scab-Clan Mauler》
     4 《焼け焦げたルサルカ/Scorched Rusalka》

    その他 10枚

     4 《黒焦げ/Char》
     3 《血の手の炎/Flames of the Blood Hand》
     3 《腐れ蔦の外套/Moldervine Cloak》


    サイドボード 15枚

     4 《血染めの月/Blood Moon》
     1 《血の手の炎/Flames of the Blood Hand》
     2 《帰化/Naturalize》
     2 《喧騒の貧霊/Rumbling Slum》
     2 《ブリキ通りの悪党/Tin Street Hooligan》
     4 《梅澤の十手/Umezawa’s Jitte》
    ---------------------------------------------------------
(註) プロツアーホノルル06
 プロツアーホノルル06の日本語版カバレージは以下のリンク先。
 http://www.wizards.com/Magic/Magazine/Events.aspx?x=mtgevent/pthon06ja/welcome

 狂喜/Bloodthirstの栄冠をいただくにふさわしいクリーチャーを挙げろと言われれば、それは間違いなく《瘡蓋族のやっかい者/Scab-Clan Mauler》だ。

 Mark Herberholzは、マナを安定させつつも非常に前のめりなグルール・ビートダウンデッキで戦うべくZooデッキの定番である白のカードたち(《番狼/Watchwolf》や《稲妻のらせん/Lightning Helix》など)を切り捨てた。

 コントロールデッキもビートダウンデッキも、どっちもデザイン出来るという稀有な才能を持つデッキデザイナーである彼は、非常に低いマナカーブを描くために1マナ域に《密林の猿人/Kird Ape》のみならず《激情のゴブリン/Frenzied Goblin》や《焼け焦げたルサルカ/Scorched Rusalka》までも投入した。

 大量の1マナクリーチャーを投入したことで2ターン目から対戦相手へ攻撃できるチャンスは非常に高くなり、それによって《瘡蓋族のやっかい者/Scab-Clan Mauler》を最大サイズで呼び出す確率を大幅に引き上げている。

 見るところのない1/1を2マナで呼び出したいと思うプレイヤーはいないだろうが、さてこれが2マナで3/3のトランプル持ちとくれば? そうこなくっちゃ!

 当時、このサイズに相対することのできる2マナ・クリーチャーを持ったデッキは少なかった(《番狼/Watchwolf》、《名誉の手/Hand of Honor》、《残虐の手/Hand of Cruelty》、あとは1ターン後に現れる《炎樹族のシャーマン/Burning-Tree Shaman》くらいだ)。

 加えて多くの対戦相手の2ターン目の行動が、戦闘に加われない1/2(訳註)や《吠えたける鉱山/Howling Mine》(禁止されてしまえ!)であったことを考えるに、まさにそこは狂喜/Bloodthirstyのための舞台だったと言えよう!
(訳註) 戦闘に加われない1/2
 どのカードを指しているのか不明。当時の主要なスタンダードのデッキに非戦闘員の1/2が見当たらない。ハウリングオウルにいる《三日月の神/Kami of the Crescent Moon》は、1/3だし……。

 素早く戦場に登場し、同じマナ域よりも大きなサイズを持ち、費用対効果が高い。これぞまさに狂喜/Bloodthirstの強みだ。その違いこそがベンツ(《瘡蓋族のやっかい者/Scab-Clan Mauler》)と構築に顔を出さない乗用車(例えば《ゴーア族の野人/Ghor-Clan Savage》)とを分けるものだ。

 もしR&Dの創造主たちがデメリットなしの5マナで5/6を提供したとしてとしても、それを構築デッキに入れるプレイヤーはおそらくいないだろう(それより遥かに優れたスペックを持つ《悪斬の天使/Baneslayer Angel》でようやくプレイに使われる程度だ)。4マナで5/5の《喧騒の貧霊/Rumbling Slum》も赤緑における回答にはなりえなかった。

 もし君が、単なる2/3ではなく、5/6を得るために狂喜/Bloodthirstを達成しようとしたとしよう。ゲームのその段階では対戦相手がすでに何かしらの防御体制を整え終えてしまっているはずだから、君はそのためにマナか呪文を消費する必要があり、結果として損をしている可能性が高い。

 5マナの狂喜/Bloodthirst持ちを用意するためだけに《ショック/Shock》を唱えなくてはいけないというのは大損だ。《ショック/Shock》のマナも含めるとすでに6マナ出せる状況にあるというだけでなく、君はさらにカードを1枚余分に消費しているのだ!

 さらに、成功者である2マナの《瘡蓋族のやっかい者/Scab-Clan Mauler》と、理論上はプレイ可能だが実際には一生プレイされることのない1マナの《スカルガンの穴潜み/Skarrgan Pit-Skulk》とを比較してみると色々と面白いことが分かる。

 この場合、1マナであることが2マナであることよりも損なのだ。

 《瘡蓋族のやっかい者/Scab-Clan Mauler》の立ち位置は絶妙だ。1ターン目に攻撃的な1マナクリーチャー(理想的なのは《密林の猿人/Kird Ape》だろう。スタンダードでは2ターン目に呼び出されることも多い)を呼び出し、2ターン目に《瘡蓋族のやっかい者/Scab-Clan Mauler》を3/3で呼び出す。 素晴らしい!

 かわいそうな《スカルガンの穴潜み/Skarrgan Pit-Skulk》。一体全体、いつコイツを呼び出せばいいんだ? 1マナで2/2と言えば聞こえはいい。特にそれに回避能力がついているとすればなおさらだが、問題は、実際に呼び出される機会がないということだ。

 Heezy Streetみたいなデッキにはすでに1マナのアタッカーがひしめいている。彼らの仕事は2ターン目に狂喜/Bloodthirstを達成することだ。さて《スカルガンの穴潜み/Skarrgan Pit-Skulk》の出番は何ターン目だろう? 唱えられるべきタイミングは? これはマナコストが軽いことによって不利益をこうむった非常に珍しいカードだ。もしかしたら唯一のカードかもしれない。

 さて私たちが《瘡蓋族のやっかい者/Scab-Clan Mauler》から学んだ教訓はなんだったのか。狂喜/Bloodthirstが構築デッキで最高の(そして唯一)良い働きを見せることが出来るのはマナコストに比して高い費用対効果を得られるときだ。

 もちろん必要な代価を支払わなければいけないが、それに見合うだけのリターンが見込めればいいのだ。


《ボガーダンの槍騎兵/Bogardan Lancer》を追悼する

 私たちが《ボガーダンの槍騎兵/Bogardan Lancer》についてあまり語りたがらない理由は想像がつくだろう。

 狂喜/Bloodthirst1と側面攻撃/Flankingを持っている《ボガーダンの槍騎兵/Bogardan Lancer》を比べる相手として適当なのはおそらく《墜ちたるアスカーリ/Fallen Askari》と思われる。このカードは構築デッキの常連だった。

 しかし《ボガーダンの槍騎兵/Bogardan Lancer》が登場した当時は同じ2マナ域に強力なライバルがいた。《血騎士/Blood Knight》と《ケルドの匪賊/Keldon Marauders》は疑いようも無く歴代の赤い2マナクリーチャーの中でもトップクラスの強さだ。

 本当に《ボガーダンの槍騎兵/Bogardan Lancer》にはすまないことをした。


基本セット2012:狂喜/Bloodthirst持ちのカードについて(4段階評価)(註)
(註) 4段階評価
 この記事の筆者であるMike Floresが様々な記事で用いている4段階評価については以下のリンク先にまとめておいた。ただ今回の記事の4段階はこれとはまたちょっと違うっぽいけど。

 【翻訳】マイク・フローレスのカード4段階評価
 http://regiant.diarynote.jp/201105301242053537/

【2マナの狂喜/Bloodthirst持ち】

 ドラフトで戦線を切り開いてくれる《放浪のエルフ/Nomadic Elf》だったり、前述のとおりプロツアーで狂喜/Bloodthirstを達成させた《瘡蓋族のやっかい者/Scab-Clan Mauler》が活躍したり、とにかく2マナのクリーチャーというのは競技マジックにおいて重要な位置を占める。

 2マナの狂喜持ちアタッカーの話をするに当たって、狂喜/Bloodthirstとは「サイズに対して安いマナで呼べる可能性がある能力」という点を念頭に置く必要がある。アグレッシブなデッキで用いようとするならなおさらで、何においても先に相手を殴りつける必要があるということだ!
Duskhunter Bat / 薄暮狩りのコウモリ (1)(黒)
クリーチャー - コウモリ(Bat)
狂喜1(このターン、いずれかの対戦相手にダメージが与えられている場合、このクリーチャーはその上に+1/+1カウンターが1個置かれた状態で戦場に出る。)
飛行
1/1
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Duskhunter+Bat/

 実のところ、これはなかなか興味深いクリーチャーだ。いつか構築環境に顔を出すことがあったとしても正直それほどは驚かないだろう。黒だけでなくその定番の相方である赤も、攻撃的でかつブロックしづらい1マナクリーチャーには事欠かない(例えば《吸血鬼の裂断者/Vampire Lacerator》や《ゴブリンの先達/Goblin Guide》などだ)。

 《薄暮狩りのコウモリ/Duskhunter Bat》は、ここが素晴らしい

 狂喜を達成しさせすれば、《薄暮狩りのコウモリ/Duskhunter Bat》は基本的に色違いの《レオニンの空狩人/Leonin Skyhunter》だ。《レオニンの空狩人/Leonin Skyhunter》は悪くないカードだった……が、白単ウィニーのようなこのカード向きのデッキであっても100%採用されるわけではないカードでもある。

 そしてここに挙げているのは、努力次第でようやっと《レオニンの空狩人/Leonin Skyhunter》並みになれるカードの話だ。空狩人より「悪くはない」が、より優れていると言うほどでもない。

 《薄暮狩りのコウモリ/Duskhunter Bat》は、ここがイマイチだ

 過去の伝説級な強さを誇る2マナクリーチャーで評価が「悪くはない」程度だった奴はいない。1/1で飛行の《薄暮狩りのコウモリ/Duskhunter Bat》は「悪くはない」が、ここで忘れてはいけないのは、私たちが戦っている相手が誰なのかということだ。

 そこには《溶鉄の尖峰、ヴァラクート/Valakut, the Molten Pinnacle》を見つけてくる《原始のタイタン/Primeval Titan》だけでなく、《極楽鳥/Birds of Paradise》の助けを借りて3ターン目に即死コンボを狙ってくる《詐欺師の総督/Deceiver Exarch》と《欠片の双子/Splinter Twin》がいるのだ。

 評価:出番あり(ぎりぎり)/Constructed Playable (fringe)
 (※ これは「構築での出番なし」の1つ上に当たる新しい評価だ)

Stormblood Berserker / 嵐血の狂戦士 (1)(赤)
クリーチャー - 人間(Human) 狂戦士(Berserker)
狂喜2(このターン、いずれかの対戦相手にダメージが与えられている場合、このクリーチャーはその上に+1/+1カウンターが2個置かれた状態で戦場に出る。)
嵐血の狂戦士は、2体以上のクリーチャーによってしかブロックされない。
1/1
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Stormblood+Berserker/

 基本的に《嵐血の狂戦士/Stormblood Berserker》の存在は Heezy Street(訳注:この記事で紹介されていたMark Herberholzのデッキ名)の再来を意味している。

 最近のMark Herberholzはまたしても大会で優勝を狙えるデッキをデザインし始めており(プロツアー名古屋でDavid SharfmanとPat Coxが使っていた《純鋼の聖騎士/Puresteel Paladin》デッキは彼の手によるものだ)、もしかしたら私たちは過去に活躍したあのデッキが、この偉大なデッキデザイナーの手によって復活するのを目の当たりにできるかもしれない。

 私が言いたいのは、《嵐血の狂戦士/Stormblood Berserker》は実質的によりプレイしやすい《瘡蓋族のやっかい者/Scab-Clan Mauler》だと言うことだ。

 《嵐血の狂戦士/Stormblood Berserker》は、ここが素晴らしい

 《嵐血の狂戦士/Stormblood Berserker》は単色だ。赤にはすでに狂喜/Bloodthirstを達成するための1マナたちがいっぱい用意されている(《ゴブリンの先達/Goblin Guide》、《渋面の溶岩使い/Grim Lavamancer》、《トゲ撃ちの古老/Spikeshot Elder》などだ)。

 もう安くアグレッシブに攻めるために緑を足しこむ必要などないのだ。もっとも君が古きよきステロイドを組みたいなら、それはそれで何の問題もない。

 《嵐血の狂戦士/Stormblood Berserker》は、ここがイマイチだ

 ライバルが多すぎることだ! スタンダードで採用したい候補にあふれかえっているのが今の赤という色だ。それは《燃え上がる憤怒の祭殿/Shrine of Burning Rage》に始まり、バーンデッキの雄である《稲妻/Lightning Bolt》や、他にも《焼尽の猛火/Searing Blaze》や《ゴブリンの手投げ弾/Goblin Grenade》などがある。

 《嵐血の狂戦士/Stormblood Berserker》がイマイチかどうかという問題ではなく、この充実した色の中で他の選択肢を上回るほどに良いカードかどうかが問題なのだ。

 評価:出番あり - ときどき(高)/Role Player (high)


【3マナの狂喜/Bloodthirst持ち】
Blood Ogre / 血のオーガ (2)(赤)
クリーチャー - オーガ(Ogre) 戦士(Warrior)
狂喜1(このターン、いずれかの対戦相手にダメージが与えられている場合、このクリーチャーはその上に+1/+1カウンターが1個置かれた状態で戦場に出る。)
先制攻撃(このクリーチャーは、先制攻撃を持たないクリーチャーより先に戦闘ダメージを与える。)
2/2
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Blood+Ogre/

 素出しすると「《灰色オーガ/Gray Ogre》よりはマシ」であり、条件を達成できれば「3マナ 3/3 先制攻撃」だ。

 《血のオーガ/Blood Ogre》は、ここが素晴らしい

 その昔、何のおまけもつかない3マナ3/3のクリーチャーがZvi Mowshowitzによって《梅澤の十手/Umezawa’s Jitte》と同等の評価をされたことがあった(しかも同じセット内での話だ)。《血のオーガ/Blood Ogre》は先制攻撃を持っていることにより、それを上回る性能だとも言えるが……

 《血のオーガ/Blood Ogre》は、ここがイマイチだ

 ……3マナで2/2は到底構築に顔を出せるレベルじゃない。

 評価:構築での出番なし/Constructed Unplayable

Bloodrage Vampire / 血怒りの吸血鬼 (2)(黒)
クリーチャー - 吸血鬼(Vampire)
狂喜1(このターン、いずれかの対戦相手にダメージが与えられている場合、このクリーチャーはその上に+1/+1カウンターが1個置かれた状態で戦場に出る。)
3/1
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Bloodrage+Vampire/

 ギルドパクトでは狂喜/Bloodthirstという能力は非常に「赤と緑な」能力だったが、基本セット2012でそれは黒にも与えられた。このセットの黒のメイン種族である吸血鬼との相性が抜群によろしかったからだ。狂喜/Bloodthirstと吸血鬼の牙は実によく似合うだろ?

 《血怒りの吸血鬼/Bloodrage Vampire》は、ここが素晴らしい

 狂喜/Bloodthirstによって得られる追加のパワーは、3マナでパワー4を実現できる。その他の点に目を向けないなら、結構いい感じに思えないか? えーと、ほら、《皮背のベイロス/Leatherback Baloth》みたいな。


 《血怒りの吸血鬼/Bloodrage Vampire》は、ここがイマイチだ

 狂喜/Bloodthirstを達成したとしても、こいつのタフネスは2点どまりだ。これは欠点以外の何ものでもない。何しろ対戦相手がこれを1点でも上回ることが非常に簡単だからだ。

 少なくとも《血のオーガ/Blood Ogre》は 3/3の先制攻撃として場に出ることがあり得る(そしてそれでもなお構築デッキに出番なしという評価だった)。対して、全力を出し切った《血怒りの吸血鬼/Bloodrage Vampire》は、素のままの1マナ・クリーチャーと戦闘で相打ちすることがあり得る。

 そいつはちょっと頂けないな。

 評価:構築での出番なし/Constructed Unplayable

Lurking Crocodile / 隠れ潜む鰐 (2)(緑)
クリーチャー - クロコダイル(Crocodile)
狂喜1(このターン、いずれかの対戦相手にダメージが与えられている場合、このクリーチャーはその上に+1/+1カウンターが1個置かれた状態で戦場に出る。)
島渡り(このクリーチャーは、防御プレイヤーが島(Island)をコントロールしている限りブロックされない。)
2/2
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Lurking+Crocodile/

 《隠れ潜む鰐/Lurking Crocodile》は、ここが素晴らしい

 このカードのデザインは美しい。これは隠れているんだ。水の中にね。隠れているけど、水に血の臭いが漂ってきたとき(つまり狂喜/Bloodthirstが達成されたとき)、こいつは獰猛な姿を露わにするのさ。

 《隠れ潜む鰐/Lurking Crocodile》は、ここがイマイチだ

 トーナメントで用いられる強さというのは大体決まっている。緑という色において3マナで3/3というのは構築フォーマットに用いられるかどうかのギリギリのラインだ。こいつはそのラインに達するのにさえ手間をかけてやる必要がある。

 評価:構築での出番なし/Constructed Unplayable


【4マナの狂喜/Bloodthirst持ち】

 昔から4マナというマナコストはある種の境界線を引いている。スタンダードでここ数年の間に暴れまわっていた4マナを思い出してみてくれ。《血編み髪のエルフ/Bloodbraid Elf》、《審判の日/Day of Judgment》、そして《精神を刻む者、ジェイス/Jace, the Mind Sculptor》という具合だ。

 つまり4マナのカードへの問いかけは「同じフォーマットで最強のカードたちと張り合えるのか?」になる。これが4マナ域に課せられる試練だ。
Gorehorn Minotaurs / 血まみれ角のミノタウルス (2)(赤)(赤)
クリーチャー - ミノタウルス(Minotaur) 戦士(Warrior)
狂喜2(このターン、いずれかの対戦相手にダメージが与えられている場合、このクリーチャーはその上に+1/+1カウンターが2個置かれた状態で戦場に出る。)
3/3
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Gorehorn+Minotaurs/

 狂喜/Bloodthirstを達成すればこいつは4マナで5/5だ。これはMark Herberholzの例のデッキのサイドボードに入れるだけの強さかもしれない。《稲妻のらせん/Lightning Helix》が現役だった時代なら、ってことだ。

 《血まみれ角のミノタウルス/Gorehorn Minotaurs》は、ここが素晴らしい

 昔々、プレイヤーが4マナで5/5の赤いクリーチャーを得るためなら手札を1枚犠牲にすることすらためらわなかった時代があった。4マナでそのサイズは、特にクリーチャーに乏しかった赤においては非常に有用なものだった。

 《血まみれ角のミノタウルス/Gorehorn Minotaurs》は、ここがイマイチだ

 狂喜/Bloodthirstを達成できなかった場合のこいつは単なる《丘巨人/Hill Giant》だ(そう、とても構築に出番があるとは思えないクリーチャーだ)。

 5/5になるためには、対戦相手の防御をかいくぐる必要がある。そうした場合、君は本来の狂喜/Bloodthirstのメリットを犠牲せざるを得ないことが多い。

 もし君が条件達成のために対戦相手へ《稲妻/Lightning Bolt》を撃ち込んだりしたら、手札を切っているの同じじゃないか? しかもさらに言うなら、それってもう「5マナで5/5」だよな?

 評価:出番あり(ぎりぎり。サイドボードなら)/Constructed Playable (fringe, possibly sideboard)

Vampire Outcasts / 吸血鬼ののけ者 (2)(黒)(黒)
クリーチャー - 吸血鬼(Vampire)
狂喜2(このターン、いずれかの対戦相手にダメージが与えられている場合、このクリーチャーはその上に+1/+1カウンターが2個置かれた状態で戦場に出る。)
絆魂(このクリーチャーがダメージを与える場合、さらにあなたは同じ点数のライフを得る。)
2/2
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Vampire+Outcasts/

 狂喜/Bloodthirstと吸血鬼のフレイバー的な相性の良さは、その牙に絆魂を宿らせることによってさらに高まる。

 《吸血鬼ののけ者/Vampire Outcasts》は、ここが素晴らしい

 黒において、4/4の絆魂持ちは到底無視できるクリーチャーじゃない。《ロクソドンの教主/Loxodon Hierarch》のよりも活躍できる状況だっていくらでもあるだろう。

 《吸血鬼ののけ者/Vampire Outcasts》は、ここがイマイチだ

 問題は一貫性なんだ。本当にね。カードの一貫性という話だけじゃない。すでの述べたとおり4マナのライバルたちはトップクラスのカードたちだというのに、狂喜/Bloodthirst抜きだとこいつは単なる2/2の絆魂でしかない。

 また一貫性というのはデッキの戦略のことでもある。

 この《吸血鬼ののけ者/Vampire Outcasts》が主に活躍することになるであろう戦場であるリミテッドでは、アタックとブロックに工夫をこらす余地がある。ところが構築では条件を整えるためには攻撃を通せるだけのアタッカーがすでにいる必要があり、そういう状況だとすれば4/4の絆魂に頼る必要なんてない。

 評価:構築での出番なし/Constructed Unplayable


【5マナの狂喜/Bloodthirst持ち】
Bloodlord of Vaasgoth / ヴァーズゴスの血王 (3)(黒)(黒)
クリーチャー - 吸血鬼(Vampire) 戦士(Warrior)
狂喜3(このターン、いずれかの対戦相手にダメージが与えられている場合、このクリーチャーはその上に+1/+1カウンターが3個置かれた状態で戦場に出る。)
飛行
あなたが吸血鬼(Vampire)クリーチャー呪文を唱えるたび、それは狂喜3を得る。
3/3
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Bloodlord+of+Vaasgoth/

 親和レアの吸血鬼! 大物の登場だ!

 《ヴァーズゴスの血王/Bloodlord of Vaasgoth》は、ここが素晴らしい

 狂喜/Bloodthirstを達成し、行く手を阻むもののないときの《ヴァーズゴスの血王/Bloodlord of Vaasgoth》は驚異的だ。5マナで6/6で飛行つきというタイタンたちすら上回るこのサイズに加えて、配下の吸血鬼たちをパワーアップさせる能力まで持っている。

 6/6で飛行もちをブロックすることは難しい。よって後続の吸血鬼たちがデカくなれないということはそうそうないだろう。

 非常に素晴らしい。

 《ヴァーズゴスの血王/Bloodlord of Vaasgoth》は、ここがイマイチだ

 このカードと似たようなクリーチャーが過去にいた。先代の吸血鬼のロードである《吸血鬼の夜侯/Vampire Nocturnus》だ。

 《吸血鬼の夜侯/Vampire Nocturnus》は言ってみれば、黒い《踏み荒らし/Overrun》だった。これを4マナで叩き付けてやれば、一撃必殺のダメージを見込めた。

 《ヴァーズゴスの血王/Bloodlord of Vaasgoth》はこの先代と比べると(確かに狂喜/Bloodthirstを達成すればサイズで上回れるとはいえ)1マナ重いという小さくはない差を持っている。

 評価:出番あり - ときどき/Constructed Playable (Role Player)


【7マナの狂喜/Bloodthirst持ち】

 7マナとくれば、よほどの何かを持っていない限り、実戦でお目にかかる機会はない。実際に使われたことのある《シミックの空呑み/Simic Sky Swallower》ときたら、これでもかとばかりに能力を詰め込まれている。このカードが7マナの越えるべきハードルの基準となるだろう。
Carnage Wurm / 殺戮のワーム (6)(緑)
クリーチャー - ワーム(Wurm)
狂喜3(このターン、いずれかの対戦相手にダメージが与えられている場合、このクリーチャーはその上に+1/+1カウンターが3個置かれた状態で戦場に出る。)
トランプル(このクリーチャーが、自身をブロックしているすべてのクリーチャーを破壊するのに十分な戦闘ダメージを割り振る場合、あなたはその残りのダメージを防御プレイヤーかプレインズウォーカーに割り振ってもよい。)
6/6
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Carnage+Wurm/

 《殺戮のワーム/Carnage Wurm》は、ここが素晴らしい

 9/9でトランプルだ。デカいね。

 《殺戮のワーム/Carnage Wurm》は、ここがイマイチだ

 9/9でトランプルだったとしても、こいつは同じ緑で7マナの《ゼンディカーの報復者/Avenger of Zendikar》以上に役立つことはないだろう。

 評価:構築での出番なし/Constructed Unplayable

Furyborn Hellkite / 憤怒生まれのヘルカイト (4)(赤)(赤)(赤)
クリーチャー - ドラゴン(Dragon)
狂喜6(このターン、いずれかの対戦相手にダメージが与えられている場合、このクリーチャーはその上に+1/+1カウンターが6個置かれた状態で戦場に出る。)
飛行
6/6
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Furyborn+Hellkite/

 ガオーッ!

 《憤怒生まれのヘルカイト/Furyborn Hellkite》は、ここが素晴らしい

 12/12で飛行持ちは本当にとんでもなくデカい。もし狂喜/Bloodthirstを達成できるなら、対戦相手を一撃で倒せるだろうね。

 《憤怒生まれのヘルカイト/Furyborn Hellkite》は、ここがイマイチだ

 7マナは非常に高い壁だ。特に赤にとっては。

 評価:出番あり/Constructed Playable

 《シヴ山のドラゴン/Shivan Dragon》に出番があったことを考えると、それより圧倒的に大きい攻撃力を持ちつつも1マナしか大きくない《憤怒生まれのヘルカイト/Furyborn Hellkite》が、問題外というほどにひどいスペックだとは思えない。

 現在、環境で起きていることを考えると(例えば、ヴァラクートデッキの《隠れしウラブラスク/Urabrask the Hidden》)、こいつがいつかどこかで何かを起こしてくれるかもしれないという期待を捨てきれずにいる。


 さて、狂喜/Bloodthirstについて私が語れることは以上だ。

 今週末は、このDailyMTGのサイトで私の一番好きな大会であるアメリカ選手権の推移を追うつもりでいる。残念なことに今年は参加できないからだ。ありがたいことに、素晴らしいカバレージを書いてくれる素晴らしい執筆者がDailyMTGにはたくさんいるから大丈夫だけどね!
 いわゆる注釈は(註)として文中に入れてある。翻訳に自信がない箇所はアスタリスクで示し、まとめて文末に置くことにした。また原文で「Commander」となっている箇所は、迷ったけど結局は「EDH」ではなく「統率者戦」と訳すことにした。著者の主張的にそっちのほうが正しそうだから(11月26日補記:各種指摘を受けた箇所を修正)

序文

 Cassidy McAuliffeはフォーラムの常連だ(フォーラムでは、DJ Catchemと名乗っている)。彼はこのフォーマットの真のファンだ。9月の殺人的なスケジュールに根を上げた私が助けを求めたところ、彼はもろ手をあげてチャンスに飛びついてきた。先週の金曜は私の誕生日だったんだが、これはなかなか素晴らしい誕生日プレゼントじゃないだろうか。
                                               --- Sheldon

【翻訳】本場アメリカのGen Conで垣間見たEDHの闇と光(ただしエラヨウ、てめえはダメだ)/Embracing The Chaos - Cheap Whiskey, Old-School Conan, And Erayo【SCG】
2011年09月21日
By Cassidy McAuliffe
元記事:http://www.starcitygames.com/magic/commander/22807_Embracing_The_Chaos_Cheap_Whiskey_OldSchool_Conan_And_Erayo.html

 テーブルの対面の相手はにやつきながら目を見開き、あまりにそわそわしているので間違って大アリの巣の上にでも腰を下ろしたのかと心配になるほどだった。先攻後攻を決めるダイスロールに勝った相手は迷わずに手札をキープし、こう言った。

「《島/Island》、《モックス・ダイアモンド/Mox Diamond》、《水蓮の花びら/Lotus Petal》、《上位の空民、エラヨウ/Erayo, Soratami Ascendant》を張ってから《メムナイト/Memnite》。エラヨウを反転させていいかな」

 ここはFerris Buellerの言葉を借りよう。

「こういうときだよ、Cassがブチ切れるのは」


まず、はじめに

 僕は典型的な30代半ばのカジュアルマジックプレイヤーだ。遊び始めたのは高校生の頃で、当時のマジックはリバイスドの時代だった。

 Al Gore(註)はまだインターネットを発明しておらず、僕らの小さな町から外部へ開いた窓は雑誌のScrye(註)しかなかった。

 地元のゲームショップには「2対1交換」という交換ルールが存在していた。2枚の《生命の色/Lifelace》を手放せば《Demonic Hordes》が手に入るという具合だった(当時のトレードと言えば「このつまんない《Tundra》数枚とその《シヴ山のドラゴン/Shivan Dragon》を取り替えてよ」ってな感じだったけど、まあ、それはまた別の機会に)

 そんな中、僕らも徐々に気づきだした。最終的には、古参プレイヤーが地元の週末に行われたトーナメントで《Black Lotus》を手放そうしているのに出くわしたとき、トレードを成立させるべくあらゆる手を尽くした。

 僕は手に入れたばかりのそのカードをデッキに放り込み、さっそく次の日の試合でテーブルにそれを叩きつけた。そして2ターン目に《水の精霊/Water Elemental》を呼び出したのさ!

 ……ああ、うん。子供ってそういうところあるよね。

 まあ、それはさておき、その後の「とあるマジックプレイヤーの辿った悲しきゲーム人生」を駆け足に紹介しよう。僕はヴィンテージに出会ってからしばらくしてカードを全て売り払いゲームから引退した。その後、レガシーに出会いしばらくしてカードを全て売り払いゲームから引退した。その後、フレイデーナイトマジックに出会い、スタンダードを少し遊び、しばらくしてカードを全て売り払い、プレリリースに出会いしばらくしてカードを全て売り払った。

 その通り、よくあることさ。

 そんな中、僕が出合ったのが「EDH」(註)と呼ばれるフォーマットだった。そして僕の中の「カジュアルゲーマー」が今再び目覚めたのさ。前々から遊びたいと願っていたマジックはまさにこれだった。

 デカいクリーチャーと派手な呪文にこれほどまでに胸をときめかせたのは、1994年に地元のトーナメントで《サルディアの巨像/Colossus of Sardia》に《賦活/Instill Energy》をエンチャントして勝ったとき以来だ。

 というわけで現在の話。

 僕の良き友人であるChadの独身最後の自由な時間をどうやって有効活用すべきかを、花婿の介添え人であるPatrickと僕は必死に考えていた。この最後の時間を盛大に祝ってあげるために何がしてあげられるんだろう。

 3人でGen Con 2011(註)へ行くしかない。そう思ったんだ。

 結局のところ、他の子供たちがアルコールとパーティに明け暮れていた中、僕らはもっとカッコいいことを、そう、一晩中、HeroQuest(註)のキャンペーンをこなすような少年時代を送ったいたんだ。(余談。妻はいまだに僕ら2人の間に子供が出来たことを奇跡だと思っている)

 僕は航空券を購入し、計画を実行に移すことになった。

(註) Al Gore
 アメリカの元副大統領、アル・ゴアのこと。Wikipediaによると彼の企画である「情報スーパーハイウェイ構想」によってアメリカのインターネットは急激に発達したらしい。
 参照:http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%AB%E3%83%BB%E3%82%B4%E3%82%A2

(註) 雑誌のScrye
 「Scrye」という名のトレーディングカードゲーム専門誌のこと。1994年から2009年にかけて刊行されていた。Wikipediaによると最も長く続いたTCG専門誌らしい。
 参照:http://en.wikipedia.org/wiki/Scrye

(註) 「EDH」
 エルダードラゴンハイランダーの略。1枚の伝説のクリーチャーと99枚のカードでデッキを組むが、同じカードは1枚まで。他にも色々と特殊なルールが存在する。

(註) Gen Con 2011
 Gen Conは世界でも最大級のゲームコンベンション。ここで言及されているのは2003年からインディアナ州インディアナポリスで開催されているGen Con Indy。
 公式サイト:http://www.gencon.com/

(註) HeroQuest
 Hero QuestではなくHeroQuestで正しいらしい。ロールプレイング的要素を持ったボードゲーム。2009年にロールプレイングゲーム版も出てる。
 参照:http://en.wikipedia.org/wiki/HeroQuest


旅のメモ(その1)

 デルタ航空は選ばないこと。コネチカット州にあるブラッドリー国際空港とインディアナポリスの距離は、834マイル。僕らが帰国便の乗り継ぎ先を変更する前のブラッドリー国際空港とアトランタの距離は、967マイル。(註)

 度重なる遅延とキャンセルされたフライトの代替としてアップグレードをしてくれと交渉したとき、受付の係員は僕の顔面を殴りつけてから財布を盗んでった。

 本当だよ。(註)
(註) デルタ航空は選ばないこと
 アメリカの地理に明るくないのでここの何が問題なのかよく分からない。自分で乗り継ぎ先を探したほうが効率が良かった、って話なんだろうか。

(註) 本当だよ
 この話が本当かどうかは分からないけど、少なくとも原文にはそう書いてある。


Gen Conに全てを賭ける男たち

 Patrickと僕(と、この2人ほどではないにしてもChadも)根っこからの統率者戦プレイヤーなので、イベントで開催されている統率者戦の試合をチェックしてみた。

 フォーラムでは悪い噂が流れていた。「EDHマフィア」どもがGen Conのトーナメントへと向かったというのだ。彼らはカジュアルを愛するプレイヤーたちを統率者戦のトーナメントで叩き潰すつもりなのだと。

 コンボデッキが会場を支配するってことだ。

 僕らは最悪を危惧した。Patrickは「Hate the Haters!(嫌われ者に嫌われろ)」デッキを作ろうと考え始めた。それは赤単色で《赤霊破/Red Elemental Blast》やその同類と《沸騰/Boil》を詰め込んだものだった。

 僕はそれよりは前向きかつ楽観的で、恐怖に負けてデッキを崩すような真似はしないことにした。

「きっと大丈夫だよ」と僕は言ったのさ(もしかしたら他にも「どんな問題が起きるってんだ?」とか「ばらけて様子を見よう」とか言ったかもしれない)。

 僕はGen Conをこのフォーマットをより広い視野でとらえるためのバロメーターにしようと考えた。より大きな舞台における統率者戦を体験することで、このフォーマットが競技的なプレイと上手く折り合えるのかを見極めるつもりだったんだ。

 結果としては、Patrickの目的であった「ウイスキーでも飲もうぜ!」のほうがマシだったかもしれない。

Indianapolisについて(その1)

 P.F.Chang(註)のバーテンダーは最高のLong Island Iced Tea(註)を作ってくれる。僕とPatrickの2人で5杯は頼んだ(Patrickが4杯分を担当し、別段それを苦にした様子もなかった)。

 ああ、それと野菜チャーハンにオレンジチキンが乗った料理も注文したな。この旅行で最高の料理だったよ。

(編註:明らかに彼らはHarry & Izzy’s(註)へ立ち寄りそびれている)
(註) P.F.Chang
 アメリカ全土に店舗のある中華料理屋のチェーン店。公式サイトのメニューを見たら月桂冠などの日本酒も置いてるらしい(店舗にもよるだろうけど)。
 参照:http://www.pfchangs.com/index.aspx

(註) Long Island Iced Tea
 Teaという名だけど、ウォッカやジンなどを用いて作るカクテルの一種、つまりお酒。一般的に紅茶は一切含まれていない。
 参照:http://en.wikipedia.org/wiki/Long_Island_Iced_Tea

(註) Harry & Izzy’s
 インディアナポリスにあるアメリカンレストラン。地元ではなかなか有名な店らしい。
 参照:http://www.harryandizzys.com/main/


競技的プレイにおける難題

 統率者戦のプレイヤーたちは皆飽き飽きしていた。僕らは自分たちのデカぶつと派手な呪文をカウンターに怯えずにプレイしたかった。僕らは何度も繰り返される《精神隷属器/Mindslaver》や《アーマゲドン/Armageddon》から解放された世界を望んだ。

 僕らはカジュアルプレイヤーであり、僕らは死んでも自身の権利を守る。

 巷の統率者戦スレを軽くのぞいて見てくれ。議論は何百回と繰り返されている。「トーナメントでプレイしたら《パリンクロン/Palinchron》が《High Tide》しやがった!」的な書き込みとそれに対する「トーナメントでプレイしたのが間違いだね」という返信がこれでもかと繰り返されている。

 統率者戦はカジュアルフォーマットであり競技的な環境にはそぐわない、というのが皆の共通認識だ。賞品を用意するや否や、このフォーマットの神髄はないがしろにされ、それが再び取り戻されることはない。

 とはいえ僕らはなかなか諦めが悪い。だから僕らは何度でも挑戦するんだ。誰かがこのトーナメントうんぬんの議論をスレッドに投下し続けなければいけないんだ。

 結論として、僕はGen Conに普段どおりのデッキを持ちこむつもりだ。どうやってかはまだ分からないけど、僕はそこで最高の統率者戦を体験してきてやるさ。

 というわけで、今回の旅行が始まるに当たって、僕は《血編み髪のクレシュ/Kresh the Bloodbraided》、《大祖始/Progenitus》、《夢見るものインテット/Intet, the Dreamer》そして《オルゾフの御曹子、テイサ/Teysa, Orzhov Scion》をカバンに詰め込んで南へ……西寄りの南へ向かったのさ。


ゲートから転がり出て

 フライトを捕まえるためにマサチューセッツで朝の4時に目覚めた僕らは、木曜の午後にはインディアナポリスにいた。予定ではまずホテルへ向かい、次にバッジ(註)とイベントチケットを回収するためにダウンタウンへ行き、さらにネットで知り合った統率者戦プレイヤーたちと夕飯を食べることになっていた。
(註) バッジ
 Gen Conの参加者はバッジをつける必要がある。このバッジがないとホールやらショーやらに出入り出来ない。特定のイベントではチケットを買うためにもバッジが必要となる。
 参照:http://www.gencon.com/2012/indy/cs/attendees/faq.aspx

 僕は午後11時から始まる統率者戦・スイストーナメントに参加する気満々だった。4人で1ポッドの3ラウンド制だ。ポッドで勝ちぬくと5ポイントもらえる。2位で3ポイント、3位で2ポイント、最下位は1ポイントだ。ペアリングは成績に従って行われ、最終的に最も高いポイント保持者が賞品を得られる。

 僕はクレシュを相棒に選び、最初のポッドは最高だった。誰も速攻で何かを決めに行く様子はなく、各プレイヤーに派手な見せ場があった。僕はその試合で《数多のラフィーク/Rafiq of the Many》を排除すべく《Berserk》した《禿鷹ゾンビ/Vulturous Zombie》をアタックさせたあとに《メリーキ・リ・ベリット/Merieke Ri Berit》を使うプレイヤーに負けて2位に終わった。

 皆が試合を楽しんだ。

 だけど僕らは単に運が良かっただけだった。別のポッドでは《上位の空民、エラヨウ/Erayo, Soratami Ascendant》を操るプレイヤーによってあっという間にゲームが制圧されていた。

 彼のデッキは最初の数ターンのうちに《上位の空民、エラヨウ/Erayo, Soratami Ascendant》を反転させることが可能で、その後《秘儀の研究室/Arcane Laboratory》によって卓の全員相手にロックを決める。そして《メムナイト/Memnite》による緩慢な死が他の3人にもたらされるまでの約80ターンが続く。

 さらに悪いことに、トーナメントではよくあることではあるけど、エラヨウを用いるプレイヤーがもう1人いたことだ。

 僕らは大半のプレイヤーが集まっている端のテーブルへ向かった。そこではすでに上記のデッキに関する議論が声高に始まっていた。議論は徐々に危険なレベルまで白熱しだした。何人かのプレイヤーは、このまま我慢するくらいなら暴力行為にすら訴えそうな勢いだった。 元々隠そうともしていなかった不平不満がそこでぶちまけられていた。何人かのプレイヤーは、このまま我慢するくらいなら暴力行為にすら訴えそうな勢いだった(*1)。プレイヤーたちはエラヨウ使いたちがいかにこのフォーマットを台無しにしているかについて不満を述べていた。

 話によると、エラヨウ使いのうちの1人を問い詰めたところ、相手はオンラインでも何度も議題に上がっているガチコンボや共謀の犠牲になったことが前にあり、今年は黙って犠牲者側に回るつもりはない、と言っていたらしい(*2)

 もちろんこの説明に納得したプレイヤーはいなかった。

 僕はPatrickを探した。彼は参加したポッドで《クローサの英雄、ストーンブラウ/Stonebrow, Krosan Hero》をプレイしていた。

 《雑食のハイドラ/Hydra Omnivore》のコントロールを得た彼は、《鏡割りのキキジキ/Kiki-Jiki, Mirror Breaker》と《サルカン・ヴォル/Sarkhan Vol》と《野生語りのガラク/Garruk Wildspeaker》によるアンタップを用いて、速やかに100点のダメージを生み出していた。

 彼に上記の話をしたところ「当たったら負けるしかないな」とのことだった。

 そうしてペアリングは進んでいった。

 2ラウンド目でPatrickが《結界師ズアー/Zur the Enchanter》相手に投了したあと、寝ぼけた目をしたChadを引き連れて朝の3時にホテルへと戻っていった(ちなみにChadは、上記の残念な状況をすでに予想していたため、それを避けて基本セット2012のドラフトをハシゴしていた)。

 僕は嵐のただ中で席につき、そこで父親とその2人の息子たちとプレイすることになった。

 これまた楽しい試合だった。

 またしてもテーブルに叩きつけられた《禿鷹ゾンビ/Vulturous Zombie》は巨大に膨れ上がった。だけどそれでも僕は追いつめられる側だった。反対側には《寛大なるゼドルー/Zedruu the Greathearted》がいて、彼の兄弟の《ボガートの汁婆/Wort, Boggart Auntie》に率いられたゴブリンの軍団を全て《手綱/Reins of Power》で奪った彼は僕の頭に一撃を振り下ろした。

 僕らは大笑いしながら楽しい時間を過ごしたんだ。だけど試合が終わったとき、また別の卓がエラヨウ使いたちによってあっという間に制圧されていたことを僕らは知ることとなった。この時点ですでに次の試合の組み合わせは壁に張り出されていたからだ。

 最終ラウンドのペアリングに僕は入っていた。対戦相手は以下の通り。《メリーキ・リ・ベリット/Merieke Ri Berit》と《上位の空民、エラヨウ/Erayo, Soratami Ascendant》……そしてもう1人の《上位の空民、エラヨウ/Erayo, Soratami Ascendant》。

 展開は予想通り。1ターン目に片方のエラヨウ使いが場をロックした。

 犠牲者うんぬんについて述べてたプレイヤーだ。

 念のために記しておこう。彼の目の輝きと他のデッキを金魚みたいに無力化するのに成功したときの喜びようを見て、こいつの主張は半分も信じられないと思った。こいつはこのデッキを心底楽しんでいる。

 その後、なんとかかんとかもう1人のエラヨウ使いが自身のエラヨウを場に出して反転させ、1人目のプレイヤーの《Erayo’s Essence / エラヨウの本質》を破壊することに成功した。

 1人目のプレイヤーは再度パーツを集めて自身のジェネラルを呼び出そうとした(それも次のターンに)。しかしそれは2人目のプレイヤーによって打ち消された。

 そうすると1人目のプレイヤーはアンタップしたあとに《未来予知/Future Sight》と《師範の占い独楽/Sensei’s Divining Top》、さらに《エーテリウムの彫刻家/Etherium Sculptor》を場に出してから自身のデッキを引き切り、対戦相手である僕ら全員を《天才のひらめき/Stroke of Genius》でライブラリアウトさせた。

 なかなか興味深かったよ。「麻酔がいまいち効いてなかったみたいで、外科医が僕の胆のうを摘出するのがそのまま感じられた」ってなもんだ。僕は何枚かの土地とジェネラルを場に出してはいたけど、何かを出来たわけじゃないし、出来るとも思ってなかった。

 その試合の一番の見せ場は、勝者であるエラヨウ使いが他の3人がどの順番に負けたのかを決める場面だった。実に簡単な決め方だったよ。

エラヨウ野郎
「さて、公平にやろうか。君たち3人をそれぞれ僕のデッキのカード3枚に割り当てて、僕がそれをランダム引きする。最初に引かれた人が最初に負けたプレイヤー、その次が次に負けたプレイヤーってことで」

 彼はそう言うと彼のデッキの上から3枚のカードを僕らに見せることなく手の中に入れた。そしてそれらをテーブルの下でシャッフルし始めた。別の卓に行っていたもう1人のエラヨウ使いはこの時点で卓に帰って来た。

 彼は「どのカードが誰なのか教えてくれないのか?」と尋ねた。エラヨウ野郎はこの言葉を無視して手元のカードを眺め、そのうちの1枚を表向きにし、僕を見た。

エラヨウ野郎
「おおっと、残念。こいつは君だね」

 僕はそのあと、傍観者であろうとしていた。

 僕は黙って席に座りながら静かに心の中で計算をしていた。暴力行為を理由に警察に捕まる前にこの州から飛行機で出立するために必要な時間の使い道だ。そうしているうちに最終順位が発表された。

 エラヨウが1位、エラヨウが2位。

 判決は下された。

 僕の疑問は果たして解を得られた。順位に応じた賞品を提示せよ、さすれば統率者戦は制限されたヴィンテージと同様のものとなるだろう。

 結局、どこまで行っても水と油さ。


あまり意味のない余談

・コナン・ザ・バーバリアンの映画(1982年版)のチケット:5.50ドル

・ポップコーン、ダイエットペプシ、タマレ(註)1箱:12.50ドル

・映画館で2人の客たちが片方のしゃべり声がデカいという理由でケンカを始めたのが偶然にもコナンが掘っ立て小屋で悪魔に姿を変えた魔女と戦うシーンとシンクロし、さらに片方が警備員に連れ去られながらも大声で不当な扱いだとわめいている瞬間がこれまた偶然にもコナンが魔女を炎の中に放り込むクライマックスとシンクロするのを目撃した瞬間:?ドル

(息継ぎ)

 払った金だけの価値はあったよ。これは作り話じゃない。っていうか、でっちあげようったって自力じゃ思いつかないよ、こんな話。


美味しいパンケーキのおかげで全てを許せるか?

 現地時間で朝の6時。もうこれで26時間ぶっ通しで起きていることになる。だけど僕の眼は冴えていた。僕は気分転換に通りの先にあるSteak ’N Shakeで朝食をとることにした。

 ひどい味のコーヒーを2杯、なかなかのブルーベリーパンケーキを一山、さらに素晴らしく美味いハッシュドポテトをたいらげた僕は、フォーマット全体に対する疑念を再確認していた。

 競技的なサポートは常に構築フォーマットの品質保証となってきた。それが無ければフォーマットはただしなびて死ぬしかない。

 統率者戦に関しては、統率者戦の構築済みデッキのリリースによってウィザーズのサポートが与えられたかに見える。だけどその代償は? もしコアなプレイヤーがその行きつく先を望んでいないのなら、この環境が長く生き永らえることにどれほどの意味があるんだ?

 僕らが遊んでいるフォーマットは本質的に競技的なプレイに向いておらず、またカード市場にもほとんど影響を与えないフォーマットだ。

 ここ最近、このフォーマットにおける5色について議論されていたあれやこれやについて、ようやく分かりかけてきた気がした僕は、5-Colorフォーマット(註)について議論されていたあれやこれやについてがようやく実感できるようになった僕は、ウェイトレスに代金を支払ってからひと眠りするために通りを戻っていった。
(註) 5-Colorフォーマット
 5色それぞれのカードが一定枚数入っていないといけないという特殊な非公式フォーマット。なおMTG Wikiでは「5-Color Magic」という項目名で紹介されている。

旅のメモ(その2)

 もし君が持ち運ぶ荷物にあまり気を遣わないタイプなら今後はそうしたほうがいい。

 Patrickはポーカーチップを1ケース持っていった(金属製のケースに入っているようなアレだ)。帰りの便では、これはChadのトランクに収まることとなった。

 空港の持ち物チェックに差し掛かったとき、Patrickが振り向いて僕に言った。「あれがチェックに引っ掛かるかどうか賭けないか?」

 賭けに乗らなくて良かったよ。

 あれ以来、Chadはゴム手袋の鳴る音(註)で見た目にも明らかに怯えるようになった。
(註) ゴム手袋の鳴る音
 アメリカの空港の警備員と言えば、金属探知機とゴム手袋がトレードマークらしい。日本の空港だと手袋は布だった気がするけど。


スイートスポット

 僕が思うに、ウィザーズは彼らが表立って認めている以上にこのゲームについて深く理解しているんじゃないだろうか(*3)

 彼らは統率者戦という環境に対する初手は構築済みを通してだった。それがフォーマットにもたらしたものは新しいカードと新規参入者をたくさん生み出すのに役立ったということだけでなく、同時に確実にこのフォーマットへ競技性をもたらすために打てる最善手を打ってきたのではないか、というのが僕の懸案だった
 彼らは統率者戦という環境に対するアプローチはまず構築済みを通してだった。それがフォーマットにもたらしたものは新しいカードとたくさんの新規参入者だけではない、というのが僕の個人的な見解だ。それは、このフォーマットに競技性を導入するよ、という通告だったのではないだろうか(*4)

 さて、土曜日、大した睡眠がとれなかっただけでなく最悪なことに通りの角にあるコンビニが実は酒屋だとPatrickが発見してしまった夜の次の日、僕らは統率者戦・シールド戦のイベントの為にコンベンションセンターへと向かっていた。

 参考までにシールド戦の形式について説明しておこう。1つのポッドに4人のプレイヤーが参加し、それぞれに統率者戦の構築済みが1つずつ配られ、1人が勝ち残るまで試合を続ける。君が倒すことに成功したプレイヤー1人につき3つの基本セット2012のパックが進呈される。

 僕ら3人は登録を済ませ、すぐ後ろにいた4人目のプレイヤーが記入し、4人で試合することとなった。僕は《擬態の原形質/The Mimeoplasm》と一緒に席についた。Patrickは《巨大なるカーリア/Kaalia of the Vast》と、Chadは《胞子の教祖、ゲイヴ/Ghave, Guru of Spores》と、そして4人目のプレイヤーは《寛大なるゼドルー/Zedruu the Greathearted》と一緒だった。

 僕らはすぐに「ゆっくり楽しもうぜ」というスタンスに落ち着いた。地元ではマリガンに制限はつけていなかった。皆がゲームに参加できるように、というのが目的だ。4人目のプレイヤーもこれに賛同してくれた。彼の地元でもそれが一般的だと言っていた。

 僕らのあいだにはすぐにジョークと笑いがあふれた。全員がゆっくりと自分の陣営を築きだした。僕は自分の手札を眺め、そのとき天啓のごとく気づいたんだ。

 これだ! これが「競技的な統率者戦」なんだ!

 それは例えば構築済みを手渡され他のプレイヤーも構築済みを持っているようなバランスのとれた環境で戦うことだ(*5)

 僕は普段のカジュアルな自分とはまるで反対のプレイングを楽しんでいる自分を見出した。

 Patrickが5ターン目に《巨大なるカーリア/Kaalia of the Vast》を唱えようとするのに対し、僕は喜んで《呪文丸め/Spell Crumple》を見せつけた。《絞り取る悪魔/Extractor Demon》と《トロールの苦行者/Troll Ascetic》を墓地に落としたあと、僕は《擬態の原形質/The Mimeoplasm》を戦場に登場させ、無防備だったChadを僕は無慈悲に自身のジェネラルで殴りつけた。

 妨害をかいくぐる普段とは違い、今回は僕が最初に場の脅威を演じていた。

 この試合の最も素晴らしかった点は、僕以外も全員がゲームに参加できていたことだ。

 何らかの理由で、食うか食われるかの非情なプレイングも十分に受け入れられていた。それでもなお皆が戦場に関与することが出来た。誰も虐げられているとは感じなかった。誰も不公平に扱われているとは感じなかった。

 それはまるでシールド戦の最も良いところと統率者戦が組み合わさったようだった。誰もがよくまとまったデッキでデカブツや派手な呪文を唱えあいつつも、誰も1人遊びに興じてしまうようなこともなかった。

 賞品なんて関係なかった。イベントが終了するその瞬間まで、間違いなくみんな賞品のことを忘れてたと思う。

 素晴らしいバランスだった。カジュアルな統率者戦を大好きなプレイヤーたちにもぜひ一度構築済みで対戦してみて欲しい。どれほどそれを薦めたいか、ここでは言い尽くせないほどだ。

 とはいえ、変わらないものもある。

 僕は速攻で先陣を切り、戦場に真っ先にとんでもない脅威を叩きつけることに成功したが、僕の《擬態の原形質/The Mimeoplasm》は遠からず戦場から追放され、気づいたら僕は馬鹿デカい《胞子の教祖、ゲイヴ/Ghave, Guru of Spores》に殴られていた。

 オーケイ、分かった。例の法則はまだ有効らしい。

 2日間で5時間しか睡眠をとってないと細かいミスは増えるし、マッドサイエンティストみたいに狂ったような笑い声を上げ続けることになる マッドサイエンティストみたいに狂ったような笑い声をぶっ倒れるまで上げ続けることになる(*6)

 まあ、しょうがないよね。

Indianapolisについて(その2)

 レンタカーはいらない。実のところGen Conに関連した施設は全て4ブロック以内の範囲に収まっている。空港からダウンタウンまでは1人頭8ドルの往復シャトルバスが20分おきに出てる。

 僕らがタクシー代に費やしたお金はチップを入れても40ドルほどだ。もしくは5杯分のLong Island Iced Teaだけの価値はある(*7)

学んだ教訓について

 帰りのデルタ航空のフライトで、機内後方のトイレとエンジンの間にある通路側の席に身を横たえながら、僕はiPodでIron Maidenを流しつつ鼻栓をした。そして週末のことを思い返していた。

■ 統率者戦はカジュアルなフォーマットだ

 この点に疑いはない。カジュアルってそもそもなんだという議論はこの際脇に置いておく。このフォーマットは、相互作用を持ちつつ互いのアクションに付き合ってくれるデッキを全てのプレイヤーたちが持ち寄ったときに最高の輝きを見せる。

 デッキの目的が「プレイする」ことであり「勝つため」ではないときに、だ。

 もちろんガチの対戦や1対1のトーナメントが好きなプレイヤーがいることは理解している。だけど呪文を1つでも唱える前に試合から締め出されてしまうようなゲームを僕は到底楽しいとは思えないんだ。

 それは僕にとって統率者戦じゃない。構築のスイスラウンドで起きたことに対する皆の反応を見る限り、僕はこの考えが多数派だと信じる。

■ 賞品とは9割の確率で純粋に混じりッ気なしに「悪」だ

 こいつらのせいで僕らは楽しい時間を過ごせないんだ。もちろん代替的な勝利条件(例えばポイントシステム)やコントロールの効いた環境(例えば全員が構築済みデッキ)が用いられる場合はその限りじゃない。

■ ルールチームの言うことは大部分において正しい

 驚いたのは、この長い週末の中で会話した統率者戦プレイヤーの中で「公式ルール」や「禁止カード」という単語について言及したプレイヤーがほぼゼロだったことだ。

 何人かのプレイヤーは何枚かのカードの禁止に(もしくは何枚かのカードが禁止されていないことに)いらついていたし、いつだってルールを変えて欲しいとか変えて欲しくないとかいう声はある(君のことを言ってるんだよ、「Tuck」(註)!)。

 何にせよ、ルールチームは本当に素晴らしい仕事をしてくれたと思っている。見事な基本ルールを構築し、それを大多数へ提供し、さらにはこう付けくわえてくれた。「これはカジュアルなんだよ! 納得いかないなら好きに変えてくれ!」

 素晴らしいバランスだ。

 まだまだ禁止されていないパワーカードはあるし、プレイヤーたちにこれらから興味深い相互作用やシナジーを生み出そうとしている。同時に、これらに対抗する手段を生み出そうと苦心しているプレイヤーたちのおかげでバランスは保たれている。

 20個の毒カウンターを乗せようと頑張るプレイヤーもいるし、通常ダメージに頼らないプレイヤーもいる。正直、誰かが無理やり制限を緩めようとしなくても統率者戦は十分に高い自由度を誇っているよ。

 上手く働いてる。

 だけど、お願いだ……エラヨウだけは勘弁してくれ!

 こいつだけは生かしておいちゃいけない ( ゝω・)
(註) Tuck
 ちょっと自信がないけど、どうやらジェネラルを2回目以降に唱える際に2コストずつ「課税される(Tax)」ルールを指しているらしい。
 全然違った。コメントによる情報提供とネットでさらに検索して確認したところ、どうやらTuckルールというのは「ジェネラルをライブラリに戻せる」ルールらしい。

 例えばネットの書き込みでも「We continue to believe that tuck (putting a general into the library) is an acceptable part of the format」とか「So you know those cards that tuck the general at the bottom of the library?」という表現が散見された。


Gen Conのまとめ

■ その1
 時間やカレンダーのことなんて全部頭から消し去ること。インディアナポリスのコンベンションセンターは24時間年中無休で、時間に縛られずにイベントは開催されている。僕は日中に睡眠をとり、朝の4時に基本セット2012のドラフトに参加していた。

■ その2
 Gen Conのイベントは事前に予約しておくこと。そしてチケットは前売り券を入手しておくこと。チケット売り場で2時間待たされてしまってイベントに参加できなかったというような「怖い話」をいくつも聞いたよ。

■ その3
 TGGホールだけにとらわれず、他のイベントに無理やりにも目を向けること。他にも映画やコンサート(僕らはNinja Gaiden(註)のテーマを演奏しているドラマーたちを見かけた。
 その後ろでは巨大なスクリーンで実際にゲームを猛スピードで遊んでるのが映し出されていた)、ボードゲームの広場、クイズ大会、名高い「True Dungeon」……さらにはロックバンドやDJ HeroやDance Centralが巨大なスクリーンに映し出されている「Rave」な部屋まであった。
 そこでは照明が落とされ、ライトアップされたステージと大音響の音楽、ロックスターがエナジードリンクを配って歩いてた。なかなかのものだったよ。

■ その4
 バトルテック(註)のシミュレーターを体験すること。このゲームのファンじゃなくても、密閉されたコクピットで半時間のあいだ巨大ロボットを操縦するのは結構楽しいもんだよ。さらにボーナスとして君がゲームを終えた直後に話す内容を聞いた人が向ける恐怖のまなざしがついてくる。例えば「奴の頭にブチ込んでやろうと思ったのに右腕を吹っ飛ばせただけだったよ!」みたいなセリフだ。

■ その5
 コスプレを楽しむこと。ウィザーズのKen Nagle(註)のファイレクシア人風衣装はなかなかカッコ良かったし、他にも映画そのものなジャック・スパローとダースベーダーが広場の通路を歩いてるのを見るのも楽しい。ランジェリーそのものな衣装もね。僕はアニメの大ファンってわけじゃないけど、見かけたいくつかコスプレは神に誓って素晴らしいものだったよ 僕はアニメの大ファンってわけじゃないけど、見かけたいくつかコスプレをネットに公開してくれるネ申が現れてくれれば言うことなしだ(*8)

■ その6
 盗難についての噂は全部本当だ。不必要なものはカードやバインダーを含め、全てホテルの部屋に置いてくること。持ち歩くものは片時も手から離さないこと。


 最後に、僕にこれを書く機会をくれたSheldonに感謝!

                                               -Cassidy McAuliffe
(註) Ninja Gaiden
 英語版の「忍者龍剣伝」。アーケード版もある。発音は「ガイデン」ではなく「ゲェイデン」。

(註) バトルテック
 バトルメックと呼ばれるメカを操るゲーム。元はシミュレーション・ボードゲームで、そこからビデオゲームやロールプレイングゲームなどに派生したもの。ここでは業務用の大型筐体ゲームを指している。

(註) Ken Nagle
 フルネームはKenneth Nagle。モーニングタイドからデザイナーとして参加している。元々はシステム・ソフトウェア・エンジニア。
 参照:http://wiki.mtgsalvation.com/article/Kenneth_Nagle


※ 訳が難しかったり自信がなかったりした(*1)~(*8)については別記事にする。理由はDiaryNoteの文字数制限に引っ掛かったから。
 馴染みのないには分かりづらいかもしれないという理由でプレイヤー名については基本的にフルネームで訳している。例えばPatrick Chapinは原文で「Chapin」と呼ばれたり「Pat」と呼ばれたりしているけど、全て「Patrick Chapin」としている。また、文中の(註)は単なる注釈で、(訳註)は訳が怪しい箇所を指している。

【翻訳】最も偉大なプレイヤーであるカイ・ブッディを偉大なプレイヤーであるPVがインタビューしてみた/From Great to Greatest【Channel Fireball】
Paulo Vitor Damo da Rosa
2011年02月02日
元記事:http://www.channelfireball.com/articles/pvs-playhouse-from-great-to-greatest/

 ハロー!

 僕はインタビュー記事を読むのが大好きだ。だけど1つだけどうにも困っていることがある。新たな発見がないんだ。どうしてかというと、どのインタビューも僕がそれまでに一緒に調整したり対戦したりしたことがあるプレイヤーが相手なんだ。つまりそれなりに僕が知っている人というわけで、考えや実績についてある程度すでに知ってしまっているんだ。

 だからインタビュー記事を見るたびに、僕が過去に話す機会が無かった人物や僕がすでに何かを学んだことのある人物以外、言ってみれば「僕の人生に登場したことのない人物」がインタビューの相手がだったらいいのにと思ってしまう。

 BradとMatignonを相手にしたAntoineのインタビュー記事を読み終えたとき、自分の道は自分で切り開くしかないんだ、と覚悟を決めた。候補として、真っ先にある人物が思いついた。なぜならその相手は僕にとってあまりに謎に包まれた人物だったからだ。

 全てのプレイヤーの中で、もっとも得るところのある人物であり、もっとも学ぶところのある人物であり、かつ僕が今までに一度も話したことのない人物。もっとも彼のインタビュー記事が過去に1つもないってことは、つまり皆にとって何が何でもインタビュー記事を読みたいプレイヤーではないらしいというわけで、ちょっと不安もないではない。

 さて、紳士淑女の皆さま、マジックの歴史上もっとも成功したプレイヤーであるKai Budde氏をここにお招きしております!

 まずはKaiにインタビューを受けてくれたことを感謝したい。このインタビューは非常に長いものだったし、これを受けることの労苦を耐えてくれたことを嬉しく思う。僕がこのインタビューを楽しんだのと同じように、君たちも楽しんでくれるといいな。

 さあ、始めよう。
以下、青文字がインタビューしている側で、答えているのがKai Budde。

質問:
 マジックを遊び始めたのはいつ、どのようにですか? 遊び始めたときからすでにトーナメント志向だったのでしょうか。それとも最初はあくまでホビーの1つとして始めたのでしょうか。


 遊び始めたのは学校でかな。確か1996年だったと思う。僕にマジックを紹介してくれた奴はあまりトーナメントに興味を持ってなかった。僕らは多人数プレイで遊んでたね。同じ学校の別の子は地元のお店に行って、そこのトーナメントに参加してた。僕もそれについてって、そこの常連と友達になったんだ。

質問:
 いつ頃から、単なるホビー以上のものとなったんですか?


 そこの常連の人達は結構強かった。その中にドイツ選手権に第1回から全部参加しているプレイヤーたちが何人かいて、初めてレーティングが導入されたときその中の1人がドイツのトップに立ったんだ。

 その人達はあちらこちらのプロツアーにも顔を出すようになって、そのうちFrank Adlerがアトランタで行われた最初(で最後)のプレリリースシールドデッキによるプロツアーを制した。そこで友人が高いレベルで成功するのを見たのが始まりかもね。

質問:
 あなたはプロツアーの歴史上、最も成功したチームであるPhoenix Foundationの一員でした。このチームはどのようにして結成されたのですか? また、チーム名の由来があれば教えてください。


 Dirk Baberowski(註)が地域の奉仕活動の為にケルンに引っ越してきたんだ。すぐに友達になったよ。

 僕たちは当時ドイツで最も成功していたプレイヤーであるAndre Konstanzerを加えて、最初と次のチームプロツアーに参加した。だけどそのうちMarco Blume(註)もケルンに引っ越してきて、一緒にプレイテストをするようになった。次のチーム戦がいつどんな形式で行われるか分からなかったからチームの構成について議論した記憶はないな(訳註)。

 トーナメントに出るにあたってチーム名を決めないといけなかったんだけど、ぶっちゃけ何も考えてなかったから、なんかネタに走るかって話になって、The MacGyverシリーズのPhoenix Foundation(註)からとることにしたんだ。
(註) Dirk Baberowski
 Dirk Baberowski。ドイツのトッププレイヤーの1人でPhoenix Foundationの一員。
 2008年に殿堂入りしている。

(註) Marco
 Marco Blume。ドイツのトッププレイヤーの1人でPhoenix Foundationの一員。

(訳註) 次のチーム戦がいつどんな形式で行われるか~
 原文「there was no real discussion as to what the line up for the next team event would be」
 訳が怪しい。

(註) Phoenix Foundation
 「The MacGyver」はアメリカのTVドラマ。日本でも放映されており邦訳は「冒険野郎マクガイバー」。「Phoenix Foundation(フェニックス財団)」はこのドラマに出てくる架空の組織。

質問:
 マジックをやめたのはなぜですか? やめたことを後悔していますか?


 単に興味がなくなったんだ。Maroco BlumeもDirk Baberowskiもやめてて、その時点でモチベーションを保つのはとても難しくなってた。マジックのための移動も結構大変だったし、楽しくも感じられなかった。

 精力的にマジックをプレイできた5年間は楽しかったけど、その時点ではもう十分だった。そろそろ違うことを始める時期かなと思ったんだ。今は色んな場所のトーナメントに出かけるのも楽しいけど、それでも全部に出ようとは思えないね。

質問:
 今現在のマジックとの「関係」はどのようなものですか?


 やめてからしばらくのあいだ、マジックにはまったく触れなかった。それまでがやりすぎだったからね。まったく触れなかったのは多分ラヴニカブロックからローウィン・シャドウムーアのブロックまでずっと(訳註)かな。

 新しいカードのチェックもしてなかったし、マジック・オンラインにもつないでなかった。プロツアーのカバレージも読んでない。

 最中に一度だけ世界選手権に参加したかな。そのとき、時のらせんのリミテッドは少し遊んだし事前にカードも読んだけど、結局はトーナメント中もカードをその場で何度も読む羽目になったよ。

 最近はもう少し遊んでるかもしれない。1週間に1回か2回はマジック・オンラインでドラフトしてるし、大体のトーナメントのカバレージは読んでるし、それと一緒にマジックの記事を読んだりもしてるよ。
(訳註) ラヴニカブロックからローウィン・シャドウムーアのブロックまでずっと
 原文では「whole Lorwyn Ravnica、Lorwyn and Shadowmoor blocks」となっており、直訳すると「ローウィン、ラヴニカ、ローウィン・シャドウムーアのブロックまで全部」となってイマイチ意味が通らない。
 よって最初の「Lorwyn」はタイプミスでないかと思われたので削った。

質問:
 あなたの考えを聞かせて下さい。「普通の生活(仕事、学業、その他の趣味)」を送りながらプロとして成功することは可能だと思いますか? もしくは、マジックにかけなければいけない時間とマジックのために必要な移動を考えるとそれは難しいと思いますか?


 学校や大学との両立は可能だと思うよ。ただ優先順位については本当に気をつける必要があるけどね。マジックを遊び過ぎて単位を落とすのは本当に簡単だから。一度でもマジックの大会のために試験をさぼるようになったらもう本当に手遅れだ。

 勤務時間が8時-5時の普通の仕事となると見込みなしだね。移動に時間をとりすぎるんだ。もし本当に他に一切の趣味がなくて、有給を全部マジックのイベントのために消費できて、かつ上司の理解が得られればいけるかもしれない。ただ僕に言わせれば、ストレスの溜まる生活になるだろうね。

質問:
 マジックのプロとして生きていくのは昔より楽になったと思いますか? それとも難しくなったと思いますか?


 個人的な意見だけど、実際問題、マジックの大会だけで生きていくのはかなり厳しいだろうね。当時だってそんな簡単じゃなかったけど、今よりはずっと簡単だったよ。

 マジック・オンラインがある世界とない世界、マジックの平均レベルの差を考えてごらんよ。今とは比べ物にならなかった。10年前よりも平均的プレイヤーのレベルはずっとずっと上手くなってる。

 もちろんプロ・プレイヤーたちのレベルもずっと上がってる。彼らにだってマジック・オンラインは助けになってるからね。だけどマジックはチェスとは違うんだ。テクニックより運の要素が占める割合が大きくなる段階までは結構簡単に辿りつける。

 それに最近の例で言えばLSV(註)とプロ・レベル4のプレイヤーとの差は、昔で言うグレイビートレイン(註)に乗ってるプレイヤーとJohn Finkel(註)の差ほどは開いてない。だから運の占める割合は以前よりずっと大きい。それと今のプロプレイヤーズクラブ(註)の恩恵も以前のマスターズや年度末の支給額に比べると随分見劣りするしね。
(註) LSV
 Luis Scott-Vargasの略。トッププレイヤーの1人であり、Channel Fireballのチームの一員でもある。説明不要な気もする。

(註) グレイビートレインに乗ってるプレイヤー
 原文では「Gravy Trainer」。一定数以上のプロポイントを保持しているプレイヤーは無条件にプロツアーの権利を得られた。権利保持者のことを「自動的にそこまで連れてってもらえる = 直通電車に乗ってる」的なイメージで「グレイビートレインに乗ってる」と呼んでたらしい。本当かどうかは知らない。

(註) John Finkel
 マジック史上最強は誰かという話になると、Kai Buddeとこの人の名前しか出てこないくらいすごい人。当然のように殿堂入り。2003年頃を最後に引退したと思ってたら、2008年のプロツアークアラルンプールでいきなり優勝してた。どんだけだよ。

(註) プロプレイヤーズクラブ
 マジックの規模の大きい大会で入賞すると順位に応じてプロポイントが得られ、年間で一定数以上のプロポイントを得たプレイヤーはその点数に応じて特典を得られる。このことを指してプロプレイヤーズクラブと呼ぶ。

質問:
 グランプリ・パリとプロツアー・パリ(註)には参加しますか? その他のプロツアーは?


 もちろんパリには行くつもりだよ。なんとか仕事の都合をつけられれば、身近なイベントには出来る限り参加したいって考えてる。例えばヨーロッパ開催のプロツアー、あともし出来ればアメリカ東海岸で開催される奴もかな。飛行機に乗ってまで太平洋周辺の地域の大会に出ることはあり得ない。銃で脅されでもしない限りはね。
(註) グランプリ・パリとプロツアー・パリ
 その後、Kai Buddeはこのグランプリ・パリに参加しベスト8に入っている。

質問:
 あなたの現役のピーク時、大会で特に当たりたくないプレイヤーはいましたか?


 Ben Rubin(註)との対戦戦績はあまり良くなかったかも。
(註) Ben Rubin
 Kai Buddeが現役の頃のアメリカのトッププレイヤー。前述のDirk Baberowskiと同じく2008年に殿堂入り。

質問:
 いきなり明日、プロツアーに参加しなければいけない、という状況に陥ったとします。あなた自身は一切のテストプレイをしていませんが、かわりに好きなプレイヤーの完全な75枚コピーデッキを使っていいことになりました。誰のデッキをコピーしますか?


 もしそれが2000年のプロツアーだったら、Dirkのデッキをコピーする。もし彼がちゃんとプレイテストをしてたならね。テストしたかどうかで全然変わってくる。Dirkはよくプレイテストしないで適当なデッキをひっつかんでくることがよくあったから、もしプレイテストしてないならBen Ronaldsonのデッキをコピーするよ。Benはたまにとんでもないデッキを使うけど、少なくとも数百回は回してみたデッキであることが保障されてるからね。

 最近のプレイヤーとなるとちょっと難しいな。

 Gabriel NassifとPatrick Chapin、LSVとBrad Nelsonあたり(註)はコンスタントに良いデッキを持ってる気がする。だけどLSV、Gabriel NassifとPatrick Chapinは追いつめられるととんでもないデッキを作るからなあ。例えば彼らが世界選手権で使った4色か5色のコントロールデッキとかね。あれはひどかった。

 青は僕も好きだけど、ときどきちょっと行きすぎちゃってる人がいる。ウィザーズ社のコントロールデッキをとことん弱体化させようとするのに対して、Patrick Chapinがまだ弱くないって証明するべくプレイし続けてるのはまるでチキンレースだね。

 どちらにせよ選ぶとしたらGabriel Nassifかな。僅差でBrian Kiblerが2位。この2人は必ずテストしたデッキを使うし、いつも環境を十分に把握してる。Brian Kiblerのいいところは特定のアーキタイプに固執しないこと。島をスリーブに入れるのが好きなタイプではあるけど、《野生のナカティル/Wild Nacatl》が旬だと思えば喜んでそれをプレイできるプレイヤーだよね。
(註) Gabriel NassifとPatrick Chapin、LSVとBrad Nelsonあたり
 原文では「Gabriel/Chapin and LSV/Brad」とスラッシュで区切られているんだけど、単なる羅列ではなく何か意味があるんだろうか。まさかカップリングなわけないし。

質問:
 私がよく聞くところでは、マジック史上もっとも才能あるプレイヤーはJohn Finkelであり、あなたが史上最強のトーナメントプレイヤーになれたのはテクニックだけでなく練習も上手かったからだと言われています。これは公平な意見だと思いますか?あなたの成功が主に練習によるとところなのか、テクニックによるところなのか、もしくはそれらの組み合わせが上手くいったからなのか、どれだと思いますか?


 組み合わせだよ。常にね。

 John Finkelのピーク時は彼の周辺にいたプレイヤーたち(Steven O’Mahoney-Schwartz、Bob Maher、Jamie Parke)もほぼピークだった。僕がピークを迎えたときはDirk BaberowskiやMarco Blumeが絶好調で頻繁にプレイもしていた。John Finkelが衰えてったのは彼の周辺のプレイヤーたちがプレイしなくなっていった頃で、実のところ僕もほぼ同じだ。

 彼はある時期プロツアーに君臨していて、それからしばらくは僕が君臨していて、その後は何人かの日本人プレイヤーとGabriel Nassifがその座を引き継いだ。このプレイヤーたちを単純に比較することはできないと思うよ。何しろ彼らが対戦したプレイヤーたちのレベルも全然違うし、対戦したゲーム自体も本質的には全く違うものだしね。

質問:
 当時、トーナメント対策としてどのような練習をしましたか?


 2000年の当時は僕はまだ学生だった。週末の休みを使うのは馬鹿みたいに簡単だったよ(訳註)。ショップでは週に1回ドラフトが行われてた。Dirk Baberowskiとは2人でよく対戦してた。他のプレイヤーともしてたけどね。大半はMarkus Bell、Thomas Esser、やTim Gloecknerとプレイしてた。

 Dirk Baberowskiの家に何度か集まったこともある。そこにはドイツ人プレイヤーが何人かいたり、単にPatrick MelloとMarcoと僕だけだったりで何日か過ごした。だけどプレイテストに占める一番大きい割合はApprentice(註)かな。

 この頃のハイライトは母が、あなたに手紙が届いたわよ、って言ったときだね。開けてみたら、Warren Marsh(註)からの手書きの手紙で内容はメタゲームに関する彼の推論だった。

 あとは少数のプロで構成されたIRCチャンネル(註)があって、参加してたのはJelger Wiegersma、Gary Wise、Raphel Levy、Dirk、Anton Jonson、Mattias Jorstedt……あと今すぐは思い出せないけど他にもいたはず。

 それと当時はNetDraftでよくドラフトしてた。そんなにいいものじゃなかったけどね。何しろドラフトしたデッキは実際にプレイしたとしても多くて1マッチ程度だったし。だけど、それでもないよりはずっとマシだった。
(訳註) 週末の休みを使うのは馬鹿みたいに簡単だったよ。
 原文は「it was annoying enough to get the weekends off」。素直に訳すと「週末を休むのは十分に腹立たしかった」となるけど「まだ学生だった」んだからそんなわけないだろ、と思って意訳。ツッコミ待ち。

(註) Apprentice
 マジックオンライン以前にネットで対戦するためによく用いられていたフリーソフト。日本でも使われていた。

(註) Warren Marsh
 イギリスのプレイヤー。2000年のプロツアーニューヨークで準優勝、2001年のグランプリロンドンで5位に入賞。それ以上はちょっと分からなかった。

(註) IRCチャンネル
 IRCは「Internet Relay Chat」の略で要するにチャットのこと。最近あまりチャットって聞かなくなった気がする。そうでもない?

質問:
 サイド後のテストもたくさんしましたか?


 基本的にはサイドボードのテストはしてなかった。それでも特定のカードがどの対戦で抜群の効果を発揮するかは常に頭に入れてたよ。あとデッキの候補を2つから3つくらいまで絞り込んでからは、最善のプレイを探るためにサイドボード戦もテストしてた。

質問:
 よく議論にあがるトピックの1つにプレイテストにおける「巻き戻し」があります。これに対するあなたのスタンスを教えてください。


 僕たちがプレイテストするときはよく巻き戻してたよ。テストプレイ時は自分も相手も、実際の大会で対戦するときほどに互いのデッキに慣れてないからね。

 マジックオンラインでテストするときに大きな問題となる点でもある。巻き戻せないからね。

 アムステルダムの大会の前にGabriel NassifとJohan(註)とプレイテストしてたときかな、誰かがとんでもないミスをしてしまって残りのゲーム展開は全部想像しながらやるしかなかったことが何度かあった。実際の試合だとそんなミスクリックやミスプレイは起こりようもないから、テストプレイをする上では困りものだね。
(註) Johan
 原文にはフルネームがない。おそらくスウェーデンのJohan Franzenのことと思われる。グランプリ・ストックホルムで入賞してる。まさか伝説のクリーチャー《ヨハン/Johan》じゃなかろう。

質問:
 どれほど事前から大会で使うデッキについて把握していましたか?


 最近のプレイヤーたちと同じじゃないかな。イベントの1週間か2週間前になってからデッキを用意し始めたり、ときには前夜になって泣きながら調整したり。

質問:
 プロツアーに10回参加してそのうちの7つでトップ8に入賞した今までに参加したプロツアーにおいてトップ8に10回入賞し、その中で7回優勝しているあなたは間違いなく史上最高のサンデープレイヤー(註)です。何か秘密はありますか? トップ8入りしたときの土曜日はいかがでしたか?


 前日はいつも十分な睡眠をとることにしてた。あと最低限、準々決勝のプレイテストだけはたくさんやっておいた。大体の場合は予想される準決勝のテストもしてた。何人かとサイドボードについて議論したりもしてた。僕のほうが対戦相手よりも準備万端なことが多かったから、そんなに焦りを感じたこともないな。前にも説明したようにポジティブになれるだけの要素がたくさんあったからね。

 試合数が3マッチに絞られるってことはマッチアップの相性が占める割合がグンと高くなる。僕が優勝した世界選手では、何人かの選手がタイブレーカーのせいでトップ8を逃してた。その中にはJohn Finkelもいた。僕のデッキは彼のデッキとの相性が最悪だったけど、彼が落ちたかわりにトップ8の準々決勝と決勝で対戦できたのが2つのアーティファクト除去なしの土地破壊デッキだった。僕のデッキはマナソース42枚入りのワイルドファイアデッキだったってのにね。

 あとはニューオーリンズ(註)の準々決勝と準決勝で当たった相手が両方とも僕のデッキに対して分の悪いリアニメイトデッキだった。

 ミスプレイしつつも勝っちゃった試合ってのはほとんどなくて、大抵のトップ8の試合でそんなヘマをやらかしたって記憶はないことも大きいかな。初めてのプロツアートップ8で勝ったときがとても簡単なマッチアップばかりだったおかげで、以降はそんな緊張することもなかった。それが対戦相手にも伝わったんじゃないかな。
(註) サンデープレイヤー
 原文では「Sunday player」。プロツアーは土曜と日曜に行われ、初日の足切りに残ったプレイヤーだけが2日目、つまり日曜日にもプレイを続けることができる。そこから、2日目まで残れるプレイヤーを「Sunday Player」と呼ぶ……はず。 ここの説明が間違ってた。プロツアーは基本的に金曜から日曜にかけて行われ、1日目で足切り、2日目でトップ8を決め、3日目にトップ8によるトーナメントが行われる。トップ8に残ったプレイヤーが「Sunday Player」。

(註) ニューオーリンズ
 2001年のプロツアーニューオーリンズ。《寄付/Donate》で《Illusions of Grandeur》を押しつけるドネイトデッキで優勝している。

質問:
 「勝ちを狙える」以外の点でデッキに求めるものはなんですか? どんな点がデッキの好き嫌いを分けますか?


 僕が嫌いなのは例えばフルバーンデッキのようなタイプのデッキだ。

 パワーカードが満載されたアグレッシブなデッキは問題ない。《呪われた巻物/Cursed Scroll》や《火炎破/Fireblast》や最近の吸血鬼デッキみたいなデッキはね。でも例えば「(赤) 対象の対戦相手に3点のダメージを与える」みたいなカードをプレイするようなデッキは絶対に使いたくない。

 何にしても大体の場合は、僕の個人的なプレイスタイルに合う合わないじゃなくてその時点で一番強いと思うデッキを使うことにしてる。

質問:
 あなたの個性(Characteristic)の中でもっともマジックに役立っているものはなんだと思いますか?


 集中力を失わないこと。それがグランプリで一番助けになることじゃないかな。5時間以下の睡眠しかとれなかったあと、2日目に参加してそのままトップ8まで残るってことは、当時のグランプリだと朝の8時から深夜以降までプレイし続けるってことだからね。毎回じゃないけど。それに運営の手際は今よりもずっと悪かったし、当然プレイヤーにも影響は出たよ。

 集中力のおかげで残れたってところは大きいかな。

質問:
 プロツアーに参加するために旅行するとき、街や観光名所を見て回るために時間をとりましたか? それともプロツアーはビジネスだと割り切ってましたか? マジックのために旅行した場所の中で一番良かったところはどこですか?


 大抵の場合、空港とホテルと会場しか行かなかった。3週間ごとに旅行してると、観光もすぐ飽きてくる。それとヨーロッパの大都市にそれほど大きな違いがあるとは思えないよ。今となってはアメリカもそうかな。

 大会の開催地が興味深い場所だったときはたまに長めに滞在したりもしたけどね。余談だけど、僕からのアドバイスとしては、観光旅行の予定は大会の後に持ってきたほうがいい。

 オーストラリアは最高だったな。シドニーでの世界選手権のあと3週間余計に滞在して観光旅行をしたよ。もっとも3週間じゃ全然足りなかったけどね。それでもChristoph LippertやJohn Ormerodみたいな東海岸をドライブしたのは本当に楽しい時間だった。それに対して、コロンブス、フィラデルフィアやマドリッドみたいな場所(註)で過ごした1週間の休暇はそれほどでもなかったかな。
(註) コロンブス、フィラデルフィアやマドリッドみたいな場所
 コロンブスは2004年にプロツアーが開催されている。フィラデルフィアは2005年にプロツアーフィラデルフィアが開催されている。マドリッドは2004年にグランプリが開催されている。

質問:
 大きな大会の際、時差ぼけ対策として何かされていましたか?


 幸いなことにアメリカへ旅行するときは時差ぼけの心配をしなくていいんだ。(註) 問題になるのは4~5回に1回くらいの割合で開催されてた日本での大会のときだけだね。アメリカへ移動するときはいつもより6~7時間余計に起きてないといけないだけだから特に問題はなかったよ。
(註) 時差ぼけの心配をしなくていい
 アメリカ東海岸の平均的な時差はGMT-5時間、ドイツはGMT+1時間。アメリカの午後6時がドイツの深夜0時になる計算なので、ドイツからアメリカへ行くと早寝早起きになる。基本的に逆の移動のほうがきついとされている(夜になっても眠れず、夜明け頃に急激に眠くなる)。

質問:
 間違いなく殿堂入りに値するのに全然注目されていないと考える人物はいますか?


 最初に言いたい事として、殿堂入りプレイヤーは多すぎて困ることはあっても少な過ぎて困ることはないと思ってる、ってこと。1シーズンだけで他のプレイヤー全てを置き去りにするような成績を残すプレイヤーがいきなり3人も4人も毎シーズン現れたりすることはないよ。

 少なくとも「すごいな、あのプレイヤーは間違いなく最高だ!」って思わず言ってしまうようなプレイヤーを毎年新たに4人も見つけたりしないよね? それだけの強さがあってトーナメントに君臨できるだけのプレイヤーってのは、1シーズンだけじゃなくて大抵の場合もっと長い期間にかけて実績を残してるもので、毎シーズンごとにそんな多くの殿堂入りプレイヤーを選出していいものなのかな、ってのが僕の意見だ。

 それを前提として、個人的にはWilliam Jensen(註)はもうちょっと注目を浴びてもいいと思う。
(註) William Jensen
 マスターズ優勝1回、グランプリ優勝1回、トップ8入賞多数のアメリカ人トッププレイヤー。生涯通算プロポイント214点。2011年度の殿堂入り投票では5位に入っている。

質問:
 今年あったようにプレイヤー・オブ・ザ・イヤーが同点首位になった際、もっとも良い決定方法はなんだと思いますか?(註)


 構築済みフォーマットで1試合(A single match)行うだけってのはダメだろうね。相性の影響が大きすぎる。その丸々1シーズンの結果を使ってタイブレーカーをすべきだと思う。具体的にどうすればいいのかは分からないけど、何か方法があると思うな。

 例えば、全てのプロツアーの結果の平均を取るとか、【獲得した総プロポイント数】を【全てのイベントで獲得可能な総プロポイント数】で割るとか、とにかく1回のマッチで決めてしまうよりふさわしいタイブレーカーの指標として使える方法はいくらでもあると思う。

 まあ、結局は称号とトロフィーの話だからあまりこの議論に意味はないかもね。称号のためよりも大きい何かのためにプレイしているというのなら、1試合するだけの価値はあると思うよ。(訳註)

(註) プレイヤー・オブ・ザ・イヤーが同点首位
 プレイヤー・オブ・ザ・イヤー(年間最優秀選手賞)はある1つのシーズン中にもっとも多くのプロポイントを稼いだ選手に与えられるタイトル。去年度はGuillaume MatignonとBrad Nelsonが同点となったため、2011年に首位決定戦を行った。形式については以下のサイトの中段付近にある訳註を参照のこと。
 年間最優秀プレイヤー決定戦(カバレージ)
 http://coverage.mtg-jp.com/ptparis11/article/001226/

(訳註) 称号のためよりも大きい何かのためにプレイしている~
 原文では「If you have a match, it would be better if they were playing for more than ’just’ the title」。訳に自信がない。

質問:
 インビテーショナルカード(註)についてどう思いますか?


 分かってくれると思うけど、僕があのカード(註)を作ったんじゃないよ。どのインビテーショナルでもみんなが提出するのはぶっ壊れたカードばかりで、開発側がそれらを見て勝手にあれやこれやとするのさ。だから《非凡な虚空魔道士/Voidmage Prodigy》のデザインに僕は一切かかわってない。僕が提出したのはこんな感じのカードだった。
(青)
エンチャント(場)
あなたの対戦相手は、手札を公開したままプレイする。
(青)、~を生け贄に捧げる:カードを1枚引く。
(青)(青)、~を生け贄に捧げる:呪文1つを対象とし、それを打ち消す。

 それと、Chris Pikulaが提出したのはこんな感じだったけど、実際は《翻弄する魔道士/Meddling Mage》が作られた。
random scrub (1)(青)(青)
クリーチャー
random scrubが場に出るに際し、呪文の名前を1つ指定する。
random scrubを生け贄に捧げる:指定された呪文を打ち消す。
2/3

 実際のところ最終的にそのカードが、ぶっ壊れたものになるか、キャンプファイアーの燃料にしか使えないものになるかは運任せ以外の何ものでもない。

 それはそれとして、プレイヤーがカードをデザインするという企画(註)を止めてしまったのは不思議でしょうがないね。いいアイデアだと思うんだけど。だってどうせ提案されたカードをまったく違ったものにしてしまうことだって出来るんだから難しいことなんて何もないはずだし、そういう企画なら毎セットごとにやっても問題ないと思う。

 あと、個人的な意見だけど、世界選手権の優勝者かプレイヤー・オブ・ザ・イヤーは自分だけのオリジナルカードを持つ権利があると思う。そうすればこれらのタイトルの価値もプロツアー優勝より上になるし、オリジナルカードを作るってのは誰にとっても最高のことだしね。
(註) インビテーショナルカード
 優勝者は好きなカードを1枚作れるというトーナメントがインビテーショナル。その名の通り、招待制のイベントでこれに招かれた時点でトッププレイヤーと認められたことになる。
 参加するプレイヤーが作ったカードがインビテーショナルカード……ということになっているが、実際は優勝者の提出したカードを開発側がバランスのとれたもの(もしくは全くの別物)に作り替えてから印刷される。

(註) あのカード
 Kai Buddeがインビテーショナルで優勝した際に作られた《非凡な虚空魔道士/Voidmage Prodigy》のこと。名目上は、Kai Buddeがデザインしたカード、ということになってしまっている(と言えなくもない)。

(註) プレイヤーがカードをデザインするという企画
 インビテーショナルとは別に「カードを作るのは君だ!(You make the card!)」という企画が今までに公式サイトで3回行われており、プレイヤーからの応募やプレイヤーによる投票などで新カードが作られている。最後に行われたのは2005年で、それ以降は行われていない。

 全くだ!

 最後にまとめて質問。

 好きなデッキは?
                ネクロドネイト

 好きな色は?
                青

 好きなフォーマットは?
                チームロチェスタードラフト

 好きなカードは?
                《変異種/Morphling》

 好きな映画は?
                パルプ・フィクション (その通り、おっさんだよ、僕は)

 好きな「名前がPで始まる
 ブラジル人プレイヤー」は?

                Carlos Pomao
 (ちぇっ)

 好きな本は?
                ベルガリアード物語とマロリオン物語

 好きな食べ物は?
                よく変わるから特に何ってことはない

 Kai Budde、本当にありがとう! 君たちも楽しんでくれたなら幸いだ!

 また来週!

 以下、この記事につけられていた58個のコメントのうち、最初のほうのいくつかだけ紹介しておく。


Zaiem Begのコメント: February 2、2011 @ 9:07 pm

 念のために追記。
 今回の記事のタイトルを決めたのも、トップページに概略を書いたのも僕だ。PV本人じゃない。誰かが「おいおい、PVの奴、自分で自分のことを偉大だって言ってんのかよ! うぬぼれやめ!」って言う前に書いとくよ。
 君が「ってことはやっぱりKai Buddeが『最も偉大』だったのか? それともJohn Finkel?」って悩む前に言っておくと、分かって欲しいのは「偉大なるプレイヤーから最も偉大なる2人のプレイヤーのうちの1人へ(もしかしたら最も偉大なるプレイヤーは1人かもしれないけど、最も偉大と呼ぶことに問題はないと思う)」って書いたほうが確かにより正確かもしれないけどタイトルにはふさわしくないよね。

kyle boggemesのコメント:February 2、2011 @ 9:26 pm

 素晴らしい読み物だった

aeoncsのコメント:February 2、2011 @ 9:55 pm

 いい記事……Kai Buddeがトップ8だった頃のビデオでも引っ張り出してみようかな

Ramelaのコメント:February 2、2011 @ 10:16 pm

 いいね。LSVに次のオールスタードラフトにKai BuddeとJohn Finkelも呼ぶよう、今すぐ伝えておいてくれ!

Adamのコメント:February 2、2011 @ 10:28 pm

 素晴らしいね。
 GOATにインタビューしたことは責められないね。

Kenseidenのコメント:February 2、2011 @ 10:52 pm

 ファンタスティック!、と呼ぶにふさわしい

PKCOのコメント:February 2、2011 @ 10:59 pm

 Carlos Pomaoには笑わせてもらった

 Carlos Pomaoと言えば、彼のインタビュー記事を書く予定はないのかな? 同じ国のプレイヤーだし、前世界王者だし、今現在のMTGO WCだし、いいと思うんだけど。MTGOがどれだけブラジル人のマジックに影響を与えたか、それと彼のスイッチを切り替えるのに役立ったか、などなど、とても興味がある。

Name (required)のコメント:February 2、2011 @ 11:00 pm

>好きな「名前がPで始まる
>ブラジル人プレイヤー」は?
>               Carlos Pomao
>(ちぇっ)

 笑った

Sphynxxのコメント:February 2、2011 @ 11:07 pm

 最後の質問が面白すぎる。
 PVの自虐的なところもナルシスト的なところもどっちも好きだ。

Jeffのコメント:February 2、2011 @ 11:24 pm

 素晴らしいインタビューだった

sigurdのコメント:February 2、2011 @ 11:57 pm

 何かに関して公言することで、それがなんであれ受け入れられるようになるってのは面白いところだよね(上記のナルシストうんぬんに関して)
日本語公式サイトに翻訳があがったので、非公式訳を削除。

 Daily MTG(英語)
 http://www.wizards.com/Magic/Magazine/Article.aspx?x=mtg/daily/twtw/156

 日本語公式
 http://mtg-jp.com/reading/translated/001967/

【翻訳】スケッチの世界:《瘡蓋族のやっかい者》/Sketches: Scab-Clan Mauler【Daily MTG】
2006年1月31日
元記事:http://www.wizards.com/magic/magazine/article.aspx?x=mtgcom/arcana/1004

 新たなスケッチの物語へようこそ!

 今週のMagicthegathering.comはグルール週間だ。そこでこの機会にアグレッシブな狂喜クリーチャーである《瘡蓋族のやっかい者/Scab-Clan Mauler》のダイナミックなイラストについて語ってみようか。おっと、その前にイラストレーターであるLiam Sharpの経歴を紹介しよう。

イラストレーターについて/Artist Portfolio

 Liam Sharpがマジックのイラストを描き始めたのは最近の話で、ギルドパクトでは3枚のイラストを手掛けている。3枚は全てグルールに属するもので《瘡蓋族のやっかい者/Scab-Clan Mauler》と《スカルガンの穴潜み/Skarrgan Pit-Skulk》と《グルールの潰し屋/Gruul Scrapper》だ。

 しかしLiamはコミックの世界では長いこと素晴らしいイラストを描いており、もし彼が今後もマジックのイラストに参与してくれるのであれば、今までよりもさらに優れた作品でマジックに貢献してくれることになる私たちは信じている。

イラストの描写/Art Description

 カードのイラストを作成するにあたり、最初のステップはイラストの描写についてだ。イラストの描写はイラストレーターに「カードが何をするものか」「そのフレイバーはどのようなものか」「イラストの雰囲気はどのようにあるべきか」を伝えるものだ。《瘡蓋族のやっかい者/Scab-Clan Mauler》のイラストの為にLiamへ伝えられた指示はいかのとおりだ。
色:
 赤/緑(赤/緑ギルド)

ロケーション:
 身近で住みやすい場所であったが、遠からず煙くすぶる荒廃の地と化す場所

アクション:
 突撃するMorlock乗りの集団 (盲目のデカい奴の上に足の無い小さい奴が乗っている)

焦点:
 Morlockの狂戦士

雰囲気:
 そちらの望むまま。とりあえず今のところは。

 このカードが体現するものはグルールが最も得意とするところ。街中のそこかしこを食料と資源の為に襲撃し略奪する。さらにこの集団は最前線を担当する略奪隊でもある。彼らは粗暴でかつ激情に駆られているように見えなければいけない。

 ここで用いられている「Morlock」というのは瘡蓋族のメンバーの中でも体に損傷を負っている者を指す言葉で、他の部族のたくらみなどによる怪我に苦しみ四肢さえも失ってしまったメンバーだ。こういったメンバーは当然他のメンバーよりも手柄に飢えている。

 イラストレーターにとっての次のステップは、そのイラストの描写から自身が思い浮かべたスケッチを提出することだ。

スケッチ/Sketches

これがLiamが最初に提出した《瘡蓋族のやっかい者/Scab-Clan Mauler》のスケッチだ。
Liam Sharpが描いた《瘡蓋族のやっかい者/Scab-Clan Mauler》のスケッチ
http://www.wizards.com/global/images/mtgcom_arcana_1004_pic2_ja.jpg (リンク切れ)

 アートチームはスケッチAの続きをぜひにも見たかったので、Liamに次のスケッチを提出してもらった。
Liam Sharpが描いた《瘡蓋族のやっかい者/Scab-Clan Mauler》のスケッチ
http://www.wizards.com/global/images/mtgcom_arcana_1004_pic3_ja.jpg (リンク切れ)

 わお! 怒り狂う様子と押し寄せる力をこれでもかと感じるね! これぞまさにアートチームが見たかったものだ。そこで彼らはLiamにフルカラーの完成版を提出するよう依頼したんだ。

最終版について/Final Art

 Liamは次のとおり最終版を出してくれた。
《瘡蓋族のやっかい者/Scab-Clan Mauler》の「最終」版
http://www.wizards.com/magic/images/mtgcom/arcana1000/1004_MaulerAlmostFinal.jpg

 アートチームのメンバーはこのフルカラーの最終版には実のところスケッチのときに持っていた勢いが失われてしまったように感じられた。そこで信じられないことかもしれないが、カードに用いる完成版にはスケッチの段階に戻したイラストを用いることにしたんだ! 2つ目のスケッチがブラッシュアップされ、私たちが今日知っているカードに用いられたというわけだ。
《瘡蓋族のやっかい者/Scab-Clan Mauler》の最終(!)版
http://www.wizards.com/magic/images/mtgcom/arcana1000/1004_MaulerReallyFinal.jpg

完成したカード/Finished Card

 これが最終段階のカードであり、君たちがギルドパクトのブースターパックで見ることになるイラストだ。来るリリーストーナメントで、この2マナの3/3トランプル持ちを使って殴りかかる準備をしといてくれ!(Liam Sharpの助けがあったことも忘れずに!)
《瘡蓋族のやっかい者/Scab-Clan Mauler》のカード画像が最後に置いてある

【翻訳】開発部の許容範囲/Engineering Tolerance【Daily MTG】
Tom LaPille
2011年7月15日
元記事:http://www.wizards.com/Magic/Magazine/Article.aspx?x=mtg/daily/ld/151

 今までに高層ビル群を見たことはあるだろうか?

 高層ビルは常に強い横方向の風にさらされている。そのため高層ビルの最上部は構造的完全性を妨げずに元の位置からいずれの方向へも数フィートの幅を揺れ動けるようになっている。

 もし君が高層ビルの設計者に、あなたの設計した高層ビルが今この世界のどこにあるかを数センチの単位で教えてください、などと尋ねたらおそらく変な顔をされるだけだろう。しかし、その手がけた高層ビルが、どれだけ前後左右に揺れる余地を持っているのかについてなら正確な値を返してくれるはずだ。

 ここ最近、私の記事の中で何度か言及してきたことだが、私はマジックのセットについて全ての面を把握しているわけではない。私がこれについて触れるたび、洪水のような批判を受ける。全てを把握せずにマジックを開発する責任を負っているのか、と人々は私に尋ねるのだ。

 まず初めに言っておきたい。リリース前にフォーマットがどのような変化を迎えるのかをあらかじめ知っているなどと主張したとすれば、思い上がりも甚だしいとしか言いようが無い。

 マジックは複雑だ。少なくとも数十万はいる消費者に対してそれを構築しているのはおよそ20名ほどのメンバーだ。自分たちが作っているものの全体像がどうなるかを把握することなど不可能だ。

 単純な話、絶対数が少なすぎるのだ。

 とはいえ、それでよいと思っている。

 マジックの開発における大きな秘密の1つに、自分たちが作っているフォーマットをその隅から隅まで理解している必要はない、ということが挙げられる。

 私たちの仕事は、そのフォーマットを間違いなく面白いものだと保証することだ。この仕事は幅広い知識を必要とするが、カード同士がどのように相互に影響するかを全て把握していなくても出来る仕事である。正しくは「決して知らずに済ませねばならない」ことなのだ。

 高層ビルの建築家と同じ手法を用いることで私たちはこの問題を解決している。フォーマットを構築する際に揺らぎを許容する余裕を設けておけば、構造的な面白さが固定されてしまうこともなくなる。また細部に至るまで全てを把握しておく必要もなくなる。

 これはありがたいことだ。なぜなら先に説明したとおり、細部まで全てを把握しておくことはそもそも不可能だからだ。

 私たち開発者がフォーマットに許容可能な余裕を持たせる方法の1つは、単体で使っても強くないが環境が大きく乱れたときに強さを発揮するカードを投入することだ。

 最近出たカードから1つ例をあげるとすれば《ヴァルショクの難民/Vulshok Refugee》だ。これは赤単色デッキが「対赤単色デッキ」に対するサイドボードカードとしてプレイされることを想定して開発されたカードだ。
Vulshok Refugee / ヴァルショクの難民 (1)(赤)(赤)
クリーチャー - 人間(Human) 戦士(Warrior)
プロテクション(赤)
3/2
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Vulshok+Refugee/

 構築デッキのミラーマッチでのみ強さを発揮するカードは興味深いバランスを生みだす。そのデッキがあまりに強く、ほとんどのプレイヤーがそれをプレイするようになった場合、多くのプレイヤーは自身のデッキをミラーマッチに備えて偏らせるようになる。

 しかしこの偏りはデッキの尖りを丸めてしまい、結果としてミラーマッチ以外の対戦にデッキが弱くなってしまうことへとつながる。基本セット2012には非常に赤単色デッキ向きな強カードが多く収録されている。

 そこで私たちはスタンダード環境に赤単色デッキを「共食い」させるカードがきちんと存在しているかどうかに気を遣った。

 他にも、環境のバランスが何かおかしくなっているときに他のデッキたちが強いデッキに追いつけるよう手助けしてくれるカードを作ったりもする。

 例えば、私たちは構築環境のデッキにある程度のクリーチャーが含まれている状態が好ましいと考えている。

 これは、私たちが特定のクリーチャーデッキに肩入れしている、というわけではない。ただ、何年もマジックを見続けてきた結果分かったこととして、クリーチャーが5体以下しか入っていないデッキばかりが活躍している環境のマジックを面白くないと感じるプレイヤーがほとんどだということだ。

 クリーチャーが多く入ったデッキに対して《否認/Negate》はイマイチなカードだ。逆にクリーチャーが少なめなデッキに対しては非常に強いカードとなる。

 《翻弄する魔道士/Meddling Mage》はコンボデッキに対して似たような役割を果たす。もし君のデッキが特定のカード1枚に依存しており、それが勝利へとつながるとどめのターンを演出する場合、《翻弄する魔道士/Meddling Mage》はその道筋を断ち切ることができる。これは普通の手段で戦いたいデッキが追いつく助けとなる。

 もちろん私たちはほとんどクリーチャーが入っていないデッキや相手との相互干渉が少ないコンボデッキが全てマジックにとって悪影響だと考えているわけではない。環境を支配するデッキ全てが上記のいずれかに属しているようなマジックは楽しくないだろう、と考えているだけだ。

 これらのカードに関して私がもっとも好きな点は、彼らが実際に狙い通り働いてくれたという点だ。まだ実際に《ヴァルショクの難民/Vulshok Refugee》をスタンダード環境で見かけるようになったわけではないが、私は赤単色デッキが活躍しているプロツアー名古屋でこいつらがたくさん使われているのを見た。

 基本セット2012は赤単色デッキに多くの新兵器を提供した。赤単色デッキはより強くそしてより広く使われるようになるだろうと私は予想している。それによって《ヴァルショクの難民/Vulshok Refugee》にスポットライトが当たることになるかもしれない。

 《否認/Negate》と《翻弄する魔道士/Meddling Mage》はすでに過去の例もあり、上手く働いてくれるであろうことに不安は無い。《否認/Negate》はスタンダードのコントロールデッキ同士のミラーマッチにおける非常に一般的な対策カードであるし、《翻弄する魔道士/Meddling Mage》はもう10年近くエクステンデッド環境を崩壊の運命から救い続けてきた。

 ときには彼らは同時に活躍することもある。

 例えば2009年の世界選手権におけるエクステンデッドはとんでもないコンボデッキの宝庫だった。超起源デッキ、ドレッジ、暗黒の深部デッキ、そして風景の変容デッキといった具合だ。

 クリーチャーデッキたちはこの総攻撃に対してどのような手をとったのか?

 彼らの多くは前述の2枚のカードを用いた。以下にあげる例は、くだんの大会でOsamu Fujitaや他の日本の強豪プレイヤーが成功を収めたデッキだ。

 ---------------------------------------------------------------------
 Saito Zoo Extended - 2009 World Championships

 メインデッキ 60枚

 土地 23枚

  4 《乾燥台地/Arid Mesa》
  1 《森/Forest》
  1 《神聖なる泉/Hallowed Fountain》
  1 《島/Island》
  4 《霧深い雨林/Misty Rainforest》
  1 《平地/Plains》
  1 《聖なる鋳造所/Sacred Foundry》
  4 《沸騰する小湖/Scalding Tarn》
  1 《蒸気孔/Steam Vents》
  2 《踏み鳴らされる地/Stomping Ground》
  2 《寺院の庭/Temple Garden》
  1 《樹上の村/Treetop Village》

 クリーチャー 20枚

  4 《悪斬の天使/Baneslayer Angel》
  4 《聖遺の騎士/Knight of the Reliquary》
  4 《貴族の教主/Noble Hierarch》
  4 《タルモゴイフ/Tarmogoyf》
  4 《野生のナカティル/Wild Nacatl》

 その他 17枚

  4 《バントの魔除け/Bant Charm》
  4 《稲妻/Lightning Bolt》
  3 《稲妻のらせん/Lightning Helix》
  4 《流刑への道/Path to Exile》
  2 《梅澤の十手/Umezawa’s Jitte》

 サイドボード 15枚

  4 《翻弄する魔道士/Meddling Mage》
  4 《否認/Negate》
  4 《貪欲な罠/Ravenous Trap》
  3 《トーモッドの墓所/Tormod’s Crypt》
 ---------------------------------------------------------------------

 私たちはまたリミテッドでも同様の手段をとる。

 例えば、基本セット2012だ。これには潜在的に大きな力を秘めたオーラが多数収録されている。そしてこのセットには通常よりもオーラをつけて欲しいと自己主張しているクリーチャーもまた多く存在している。

 《歯止め/Stave Off》は元々強力なコンバットトリックではあるが、私たちはプレイテストを通じてこれがオーラをはがせるという点でも強いということを発見した。

 また同じ理由から、基本セット2012における《帰化/Naturalize》は今までのコアセットにおけるそれよりも強力だということに気がついた。

 このことから、デベロップメントリーダーとして、私たちの想定よりもオーラが強すぎたときのためにオーラを除去する手段が通常よりも多く用意されているかどうかをきちんと確かめておく必要がある、と感じた。

 青には《送還/Unsummon》と《霊気の達人/AEther Adept》があった。これらは両方とも元々強く、またオーラに対してもよく働いてくれる。白には《啓蒙/Demystify》が用意されていた。《啓蒙/Demystify》をメインから投入したいかと聞かれると疑問符がつくが、それはそれでいい。誰かがそれを必要とすることがあり得るなら、それだけで十分だ。

 基本セット2012のオーラたちがどれほどの強さを発揮してくれるかはまだよく分からない。しかし私はそれらがいかに強力であったとしても対処する手段が十分に用意されていることに満足している。

 基本セット2012には3人の新たなプレインズウォーカーが収録されている。《炬火のチャンドラ/Chandra, the Firebrand》、《原初の狩人、ガラク/Garruk, Primal Hunter》、そして《記憶の熟達者、ジェイス/Jace, Memory Adept》だ。彼らはすでに多くの注目を集めている。

 記事を書くに当たって、これら3枚の強さを順位付けしたくなるのは当然の欲求だ。先日、基本セット2012のデザインリーダーであるMark Globusが私に教えてくれたところによると、3枚の順位付けは6通りのパターンがあるが、どの組み合わせも一度は誰かの記事に登場しているらしい。

 それぞれの主張する強さの順位がいずれであるかはさておき、これら3人のプレインズウォーカー全員について議論することを誰もが楽しんでいる。そうであることを私は非常に喜ばしく思っている。

 私も自分の中で「正しいと思われる強さの順位付け」を持っているが、同時に、それぞれの強さの上限と弱さの下限についても把握しているつもりだ。3枚のカードの強さが私の想定する許容範囲に収まっていてくれるのであれば、私の順位付けがどう間違っていようと一向に構わない。

 マジックと高層ビルの共通点について話してきたが、実際に揺らいだ際の動きについては、これらは大きく異なってくる。

 高層ビルとマジックのセットは、いずれも許容範囲について頭に入れておく必要がある。高層ビルは風の力に負けて倒れてしまわないように揺らぐ余地が用意されている必要がある。

 しかしそうだとしても、実際にビルの中にいる住居者は、ビルが強い風にさらされているときに足元の床が揺れることを歓迎することはないだろう。

 さてこれがマジックの場合はどうかというと、マジックの楽しさはまさにその揺らぎ、つまりは変化にあるのだ。マジックに変化を与えるために私たちがとるもっともよく知られた手段は新たなカードをリリースすることだ。

 しかし既存のカードに新たな使われ方が発見されることもまた、同じくらいマジックの変化に貢献してくれる。この種の変化についてもっともよい例と思われるのは、スタンダード環境におけるタイタンたちだろう。

 《原始のタイタン/Primeval Titan》はそのリリース当初から《溶鉄の尖峰、ヴァラクート/Valakut, the Molten Pinnacle》を戦場に引っ張り出しているが、その他のタイタンについてはまだ未知の部分が多くあり、スタンダード環境から姿を消したり現れたりしている状態だ。

 最初の頃、《霜のタイタン/Frost Titan》は多くのプレイヤーにイマイチと思われていたが、その後、青赤緑デッキで広く用いられるようになった。《霜のタイタン/Frost Titan》に出番が来たことを私が喜ばしく思ったそのとき、また別のプレイヤーたちは同じスロットに《業火のタイタン/Inferno Titan》を採用していた。

 数ヶ月の間、《太陽のタイタン/Sun Titan》は居場所を見つけられずにいた。しかし《精神を刻む者、ジェイス/Jace, the Mind Sculptor》がその強さを明らかにし始め、それに対してプレイヤーたちが追加の対策カードとして《ジェイス・ベレレン/Jace Beleren》を用いることにしたとき、《太陽のタイタン/Sun Titan》はベレレンを復活させるべく出番が訪れた。

 《墓所のタイタン/Grave Titan》はしばらくのあいだ青黒コントロールデッキにおけるフィニッシャーとして用いられていたが、この種の青黒デッキは環境の移り変わりの中で強くなったり弱くなったりしていた。

 こういった不確定性がマジックを新鮮に保つ助けとなってくれている。

 マジックに変化する余地が用意されていなかったら、こういった不確定性は生まれない。マジックの環境をすぐに先が読めるように作ることは可能だ。しかしそれはいいアイデアだとはとても思えない。

 ワシントン州レントンにある事務所の3階にいる20人のメンバーが3ヶ月で読み解けるようなフォーマットを作ったとしよう。世界に散らばる数百や数千のプレイヤーたちの手にかかれば、わずか数週間でフォーマットは解き明かされてしまうだろう。

 絶望的なまでにつまらない環境が予想される。

 さて、それを念頭に置いた上で、基本セット2012のリミテッドにおいて私がいまだ確信が持てていない点をあげてみた。

 ・《松明の壁/Wall of Torches》をサイドからメインへ移すことがどれほどあるのか
 ・《肉体のねじ切り/Wring Flesh》のピック順位の高さはどれほどなのか
 ・このセットにおける最強のコモンがどれなのか

 上記のいずれの場合についてもこうだという確信はない。しかしそう悪いことにはならないだろう、と思っている。

 私自身は《松明の壁/Wall of Torches》をサイドから入れたことはないし、入れるべきだとはあまり思わない。しかし数週間後のアメリカ選手権で、赤青デッキをドラフトしたプレイヤーがサイドから《松明の壁/Wall of Torches》を投入したとしても驚きはしないだろう。

 《肉体のねじ切り/Wring Flesh》が良いカードであることは分かっているが、良いクリーチャーカード(例えば《男爵領の吸血鬼/Barony Vampire》)よりも優先してとるほどのカードであるかどうかについては自信がない。

 今までの経験では、そこそこ使える程度のコンバットトリックよりかはクリーチャーを優先してピックしてきた。しかしタフネス1のクリーチャーを除去できるカードは過去のコアセットよりも基本セット2012において貴重なものだし、黒デッキに関しては戦闘でブロックされる可能性が今までよりも高いということもある。

 昨日まで、リミテッドで使われるコモンのベスト3は私の中で出そろっていた。しかしErik Lauerと話し合った結果、どれだったかは思い出せないが、そのうちの1枚は考慮に値しないという結論に達した。

 マジックのデベロップメントチームの仕事はマジックを遊んで楽しいものにすることだ。確かにこの作業にはマジックに関する高度で技術的なノウハウが必要とされる。

 しかしそれは決して細部に至るまで全てを把握していなければならないということではない。全てのものを揺るぎなく打ちつけてしまうのではなく、全てのものにどれだけの揺らぐ余地があるのかを見つけておくことに労力を注いでいるのだ。

 見定めた余地の限界内にものごとが収まってくれている限り、私たちは満足だ。

 そしてそれで十分だ。
【翻訳】うーん、12だね!/Mmmmmmmm Twelve!【Daily MTG】
Brian David-Marshall
2011年7月8日
元記事:http://www.wizards.com/Magic/Magazine/Article.aspx?x=mtg/daily/twtw/150

 何週間ものプレビュー記事や考察記事を経てきた私たちは、ついに基本セット2012プレリリース前夜を迎えることとなった。そう、オーブンから焼きたてほやほやのカードたちを鍋つかみを手にしつつ取り出せる、これが最初の機会だ。スタンダードから統率者戦さらにはレガシーまで、構築デッキに入れたくなること間違いなしなカードがこれでもかと詰め込まれたセットだ。

 今週のコラムでは、新セットの中から特に12枚のカードについて話したいと思う。私が明日という日を待ち望んでいる間、ずっと考えてきたあれやこれやについて君たちと共有できれば幸いだ。

1.《個人的聖域/Personal Sanctuary》
Personal Sanctuary / 個人的聖域 (2)(白)
エンチャント
あなたのターンの間、あなたに与えられるすべてのダメージを軽減する。
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Personal+Sanctuary/

 統率者を決めずとも統率者戦で赤白デッキを組みたいと私に思わせてくれるカードがこれだ。そのデッキに入れるカードは例えば《ミシュラのアンク/Ankh of Mishra》や《硫黄の渦/Sulfuric Vortex》や《罰する者、ゾーズー/Zo-Zu the Punisher》などだろう。これらを使って自分以外の皆を罰しつつ、自分自身はありがたく《個人的聖域/Personal Sanctuary》の中でぬくぬくと過ごそうというわけだ。

 さらには同じセットに、このデッキに入れるしかない《個人的聖域/Personal Sanctuary》と2枚で完璧なコンボとなるカードが用意されている。そのカード、《魔力のとげ/Manabarbs》は、そのまま統率者戦で使うにはなかなか難しいカードだ。何しろ他のプレイヤー同様、このフォーマットを全力で楽しむためには君も派手なカードを使うべく大量のマナを生み出さざるを得ない。

 ところがどっこい《個人的聖域/Personal Sanctuary》が戦場にあれば一切ライフの心配することなく心行くまでタップすることが出来るようになる。ああ、もちろん、自分のターンの話だけどね。

 ちなみにこれはスタンダードで赤白のコントロールデッキにも使えるコンボだ。エンチャントの後ろに隠れつつ《審判の日/Day of Judgment》で戦場を一掃し、場の戦力を再構築しようとする対戦相手に《魔力のとげ/Manabarbs》からのダメージを強いることが出来る。さらに次のターン、君はダメージを食らうことなくタップアウトして《ギデオン・ジュラ/Gideon Jura》を呼び出すというわけだ。

 このコンボを中心にスタンダードのデッキを組もうとは思わないかもしれないが、もし《魔力のとげ/Manabarbs》がスタンダードの常連となる日が来ればサイドボードに《個人的聖域/Personal Sanctuary》を入れることになるかもしれない。

 他にも《黒の万力/Black Vise》や《黒曜石の火心/Obsidian Fireheart》、さらに前述した《ミシュラのアンク/Ankh of Mishra》のようなカードからも《個人的聖域/Personal Sanctuary》は君を守ってくれるだろう。

 このカードは《黒死病/Pestilence》とも上手く働くし、法外な利息のために下僕を近くへはべらせておかずとも《奈落の王/Lord of the Pit》をプレイできる。同様に《Juzam Djinn》や《疫病スリヴァー/Plague Sliver》や《クークズ/Kookus》なども、基本セット2012で新たにお目見えしたこのエンチャントと相性が良いカードたちだ。


2.《堂々たる撤廃者/Grand Abolisher》
Grand Abolisher / 堂々たる撤廃者 (白)(白)
クリーチャー - 人間(Human) クレリック(Cleric)
あなたのターンの間、あなたの対戦相手は呪文を唱えられず、アーティファクトやクリーチャーやエンチャントの能力を起動できない。
2/2
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Grand+Abolisher/

 《堂々たる撤廃者/Grand Abolisher》も前述の《個人的聖域/Personal Sanctuary》と同じく、今が誰のターンなのかを気にするカードで、かつ対戦相手を居心地悪くさせることが出来るカードでもある。

 このカードに関して一番気に入っていることは、《欠片の双子/Splinter Twin》や《天使の運命/Angelic Destiny》といったカードをプレイするためにタップアウトする際、前方の安全を確保してくれることだ。

 またこのカードは対戦相手が《呪文滑り/Spellskite》の能力の陰に隠れようとするのを防いでくれる。何しろ相手は君のターンにクリーチャーの能力を起動することができないんだからね。君は邪魔されるおそれなしに、好きな時に相手の《出産の殻/Birthing Pod》を《神への捧げ物/Divine Offering》にしてしまえばいい。

 Daily MTGの記事を以前書いていたBen Bleiweissと新しいカードについて話したとき彼が熱く語ってくれたのは、《速足のブーツ/Swiftfoot Boots》を装備した《堂々たる撤廃者/Grand Abolisher》が対戦相手の希望を踏みにじってくれる様についてだ。

 それだけでなくこの撤廃者は君がどうしても次に唱える呪文を安全に通したいときには《沈黙/Silence》としても働いてくれるし、もし対戦相手が君の《堂々たる撤廃者/Grand Abolisher》との関わり合いを避けようとするなら、当然その対戦相手は君がそのターンに唱えようと思っている他の呪文に対して一切手出しが出来ないことになる。

 他の呪文というのは、そう、例えば私が次に話そうと思っているカードであり、Mike Floresのあの有名な記事「Who’s the Beatdown?」(註)を体現したかのようなカードだ。
(註) Who’s the Beatdown?
 記事では以下のURLへリンクが張られている。
 http://www.starcitygames.com/magic/fundamentals/3692_Whos_The_Beatdown.html

 以下、拙訳。
 http://regiant.diarynote.jp/201107161651198667/


3.《蒼穹の魔道士/Azure Mage》
Azure Mage / 蒼穹の魔道士 (1)(青)
クリーチャー - 人間(Human) ウィザード(Wizard)
(3)(青):カードを1枚引く。
2/1
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Azure+Mage/

 基本セット2012に収録されているのは5人の魔道士のサイクルで、これらはいずれもリミテッドで非常に有用なカードだ。決して無駄にならない能力をもった2マナでかつパワーが2あるという非の打ちどころのないクリーチャーたちだ。

 とは言いつつもこれらの能力の中には他に比べると構造的に柔軟性が欠けているものも確かにある。私は《翡翠の魔道士/Jade Mage》がお気に入りで、基本的にこれは(2)(緑)という相場より安いマナで苗木(Saproling)トークンを吐き出してくれる《セレズニアのギルド魔道士/Selesnya Guildmage》をより先鋭化させたようなクリーチャーだ。

 しかし私がリミテッドでもっともプレイして楽しいと感じるのは《蒼穹の魔道士/Azure Mage》だ。こいつを構築デッキで見ることになっても驚きはしない。構築フォーマットでプレイするほぼ全てのプレイヤーはサイドボーディングしたあとの状態での、コンボデッキとコントロールデッキの対戦を一度は経験したことがあるはずだ。

 コントロールデッキ側は次の試合に向けて《審判の日/Day of Judgment》に代表される全てのクリーチャー除去を抜くためにあれやこれやとデッキを変更する羽目に陥る。それに対して、コンボデッキは《ファイレクシアの抹殺者/Phyrexian Negator》や《クウィリーオンのドライアド/Quirion Dryad》を入れるという寸法だ。

 コンボデッキ側がサイド後に加えるクリーチャーとして《蒼穹の魔道士/Azure Mage》を使うというアイデアが気に入っている。これによってコンボデッキ側は第2の勝ち筋を得ることが出来るし、さらにコントロール側の打ち消し呪文の隙を縫ってカードアドバンテージを得る手段が手に入るわけだ。

 私たちのローカルなサークルで行われるドラフトでは、プロツアー殿堂入りをするようなトップクラスのプレイヤーの誰かさんが、カードアドバンテージを得つつ殴りにも行けるこの小型クリーチャーよりも他のカードを優先するとは到底思われないのだ。彼にとってこれより優先されるものと言ったら《ウスーンのスフィンクス/Sphinx of Uthuun》レベルのカードだろう。


4.《彼方の映像/Visions of Beyond》
Visions of Beyond / 彼方の映像 (青)
インスタント
カードを1枚引く。いずれかの墓地に20枚以上のカードがある場合、代わりにカードを3枚引く。
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Visions+of+Beyond/

 《彼方の映像/Visions of Beyond》は非常に楽しそうなカードに見える。私は追加要素持ちの「サイクリング」的なカードが好きで、そういった意味ではまさにこのカードはそれだ。

 このカードは私の持っている全ての青い統率者デッキに間違いなく入るだろう。何しろそれらの間違いなく長引く試合ならこのカードの「超スレッショルド」も簡単にクリアしてくれるだろうからね。それも大半のプレイヤーの手札がほとんど尽き果てて、誰もが軽いインスタント速度のドロー呪文に飢えているまさにそのときにだ。

 ところで、20枚以上のカードが墓地に存在しないといけない閾値を呼ぶのに「スレッショルド」よりも力強くてふさわしい名前はなんだと思う?(誰かがもっといい呼び方を教えてくれるまで、私はこれを「超スレッショルド」と呼ぶことにするよ)

 現在、各種フォーマットに存在する様々なデッキタイプには《彼方の映像/Visions of Beyond》を使いたくなるようなものがいくらでもある。発掘デッキ、一部のスレッショルドデッキ、他にも発掘デッキのように《面晶体のカニ/Hedron Crab》の力を借りて墓地を肥やす《復讐蔦/Vengevine》を用いるタイプのデッキ。発掘を用いてカードを引き戻すときなら1枚のカードを引く効果だけで墓地に7枚のカードを落とせる。これでエンジンに火を入れるんだ。

 もっと最近の墓地利用デッキで《復讐蔦/Vengevine》の大部隊を戦場に展開したいタイプのものであれば、1ターンに2体のクリーチャーをプレイしなくてはならないのだから、ぜひにもデッキを3枚余分に掘り進めたいはずだ。


5.《ソリンの復讐/Sorin’s Vengeance》
Sorin’s Vengeance / ソリンの復讐 (4)(黒)(黒)(黒)
ソーサリー
プレイヤー1人を対象とする。ソリンの復讐はそのプレイヤーに10点のダメージを与え、あなたは10点のライフを得る。
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Sorin%27s+Vengeance/

 《ソリンの復讐/Sorin’s Vengeance》は黒単コントロールをメタのトップに押し上げてくれるカードなのか? それとも単なる吸血鬼仕様の残念な《残酷な根本原理/Cruel Ultimatum》に過ぎないのか? 私は、考えれば考えるほど前者なのではないかと思えてくる。

 君のカード箱に並んでいる黒単用の選択肢の数々を見てくれ。クリーチャーとしては《ファイレクシアの抹消者/Phyrexian Obliterator》、《深淵の迫害者/Abyssal Persecutor》、そして《鞭打ち悶え/Lashwrithe》。除去には《ソリンの渇き/Sorin’s Thirst》(インスタント速度で使える《不純な飢え/Vicious Hunger》の上位互換)から、ボードだけでなくありデッキからも除去を行う《生命の終焉/Life’s Finale》まで幅広い選択肢がそろっている。

 さらにこの《ソリンの復讐/Sorin’s Vengeance》と2枚で即死コンボとなる《ソリン・マルコフ/Sorin Markov》までいる。彼なら対戦相手のライフを10点まで減らし、その復讐を用いることで残りを削りとることができる。

 ちなみに私は、5人のプレインズウォーカーと彼らに関連付けられた2枚ずつのカードたちによって形作られているサイクルに込められた奥深いフレイバーが非常に気に入っている。3枚で1セットとなるこのサイクルの多くがそのまま構築の60枚デッキに入ったとしても私は驚かないし、私自身もスタンダードのプレイテストを始めるに当たって25枚前後の《沼/Swamp》を用意しておくのはやぶさかではない。


6.《復讐に燃えたファラオ/Vengeful Pharaoh》
Vengeful Pharaoh / 復讐に燃えたファラオ (2)(黒)(黒)(黒)
クリーチャー - ゾンビ(Zombie)
接死(それが何らかのダメージをクリーチャーに与えた場合、それだけで破壊される。)
あなたかあなたがコントロールするプレインズウォーカーに戦闘ダメージが与えられるたび、復讐に燃えたファラオがあなたの墓地にある場合、攻撃クリーチャー1体を対象とする。それを破壊し、その後、復讐に燃えたファラオをあなたのライブラリーの一番上に置く。
5/4
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Vengeful+Pharaoh/

 もう1つ、プレインズウォーカーと2枚コンボになるカードとして私が期待しているのは《復讐に燃えたファラオ/Vengeful Pharaoh》だ。相方となるプレインズウォーカーとしては……まあ、どれでもいいのだが、特に《ギデオン・ジュラ/Gideon Jura》だろうか。

 《無慈悲/No Mercy》に似た効果は強烈で、この過去のエンチャントとは異なっている点としては1ターンかけて準備する必要もない。さらに手札をこっそりと捨てる手段があれば対戦相手の意表を突くことも可能だ。

 これは墓地に落ちていて欲しいカードの1つだが、そうするためには何かしらの手段を頼る必要がある。

 それではさっそくドローを目詰まりさせることなく墓地に落とす手段を探してみよう。手札にあるより墓地に葬られているほうが色々捗る《復讐に燃えたファラオ/Vengeful Pharaoh》のためだ。

 《面晶体のカニ/Hedron Crab》については前にも少し話したことがある。それ以外ではフェッチランドを手元に用意しておけば、もし《復讐に燃えたファラオ/Vengeful Pharaoh》を引くのが不都合な場面でも山札の中へシャッフルしてしまえる。

 また帰って来たばかりの《ゾンビの横行/Zombie Infestation》があれば手札から墓地へすぐに落とすことが出来る(私はこの《ゾンビの横行/Zombie Infestation》というカードから目を離さずにいるつもりだ。それがスタンダードリーガルな18ヶ月のあいだはね)。

 しかしこれは最高の使い方とは言い難い。毎ターンクリーチャーに攻撃されると毎ターンこれを引いては墓地に落とすだけの作業になるからだ。

 それと違って、まったく最高としか言いようがないのが《獣相のシャーマン/Fauna Shaman》だ。まず対戦相手の攻撃に対応して《復讐に燃えたファラオ/Vengeful Pharaoh》を捨てることが出来、さらに君のその瞬間に最も必要とするクリーチャーを手札に引き入れ、逆に対戦相手のクリーチャーを除去することが出来る。

 次のターンは、あらためて引きいれた《復讐に燃えたファラオ/Vengeful Pharaoh》で次に必要なクリーチャーをデッキから引っ張ってこれるという寸法だ。


7.《嵐血の狂戦士/Stormblood Berserker》と《ゴブリンの投火師/Goblin Fireslinger》
Stormblood Berserker / 嵐血の狂戦士 (1)(赤)
クリーチャー - 人間(Human) 狂戦士(Berserker)
狂喜2(このターン、いずれかの対戦相手にダメージが与えられている場合、このクリーチャーはその上に+1/+1カウンターが2個置かれた状態で戦場に出る。)
嵐血の狂戦士は、2体以上のクリーチャーによってしかブロックされない。
1/1
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Stormblood+Berserker/

Goblin Fireslinger / ゴブリンの投火師 (赤)
クリーチャー - ゴブリン(Goblin) 戦士(Warrior)
(T):プレイヤー1人を対象とする。ゴブリンの投火師はそのプレイヤーに1点のダメージを与える。
1/1
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Goblin+Fireslinger/

 新しいフォーマットにおいて《嵐血の狂戦士/Stormblood Berserker》は多くのプレイヤーの戦力となってくれるカードだ。なんでそう思うかって?

 すでに《瘡蓋族のやっかい者/Scab-Clan Mauler》というカードがMark Herberholzにプロツアーのタイトルをもたらしている。《嵐血の狂戦士/Stormblood Berserker》はそれよりさらにマナ拘束が緩く、それだけではなく現在のメタゲームにおいてはより有用な点がある。

 プレイヤーたちはすでに増殖というメカニズムを《永遠溢れの杯/Everflowing Chalice》や毒カウンター、そしてプレインズウォーカーたちのために活用している。これをさらに狂喜と組み合わせない手はないだろう?

 《嵐血の狂戦士/Stormblood Berserker》は単体でもブロックしづらいことこの上ないが、さらにそこへ《電位の負荷/Volt Charge》を使ってブロッカーを排除しつつ《嵐血の狂戦士/Stormblood Berserker》を2体以上でブロックしなければいけない4/4にすれば、ゲームはすみやかに終了へと導かれるだろう。《伝染病の留め金/Contagion Clasp》もここに放り込んでやれば混乱はさらに加速する。

 もちろん、そもそも狂喜を誘発させるためには対戦相手にダメージを与える手段が必要だ。それがなければ増殖も無駄になる。狂喜を誘発させるための手堅いダメージ発生源として《ゴブリンの投火師/Goblin Fireslinger》が使われることになったとしても驚くほどではない。多くの一目見て使い道がないと分かる他の1マナ1/1ゴブリンたちの明らかな上位互換だ。

 《ゴブリンの付け火屋/Goblin Arsonist》はすでにプロツアー予選レベルの構築で成功を収めているカードであり、戦闘に加わることが出来れば狂喜の達成は約束されたも同然だ。パワー0のブロッカーを持っていない対戦相手は、ブロックしようがしまいが本体に1ダメージをもらうことになる。

 プロツアー名古屋のミラディンの傷跡ブロック構築では《ヴァルショクの難民/Vulshok Refugee》がこれでもかとサイドボードに(そしてときにはメインにも)いるのが見られた。

 しかしありがたいことに《嵐血の狂戦士/Stormblood Berserker》には「2体以上のクリーチャーによってしかブロックされない」の能力がある。《ヴァルショクの難民/Vulshok Refugee》の横にいる奴らを焼き払い横を駆け抜けていけばいい。それも《四肢切断/Dismember》を引くまでの話だが。

 《稲妻/Lightning Bolt》、《ショック/Shock》、《火葬/Incinerate》、そして《噴出の稲妻/Burst Lightning》と、軽い火力呪文には事欠かないのが現在のスタンダードだ。私たちが若い頃は火力呪文で本体を焼くのは対戦相手のエンド時と教えられていたが、狂喜持ちクリーチャーの到来はこちらのメインフェイズに火力を使うという選択肢についても考慮に入れないといけないことを示唆している。

 もし君が忍耐強い人物で2ターン目以降に《嵐血の狂戦士/Stormblood Berserker》を唱えることも意に介さないというのであれば、新たに登場したみんな大好きな赤いプレインズウォーカーとこのあと紹介する彼女のペットと一緒に使うのもいいかもしれないね。


8.《チャンドラのフェニックス/Chandra’s Phoenix》
Chandra’s Phoenix / チャンドラのフェニックス (1)(赤)(赤)
クリーチャー - フェニックス(Phoenix)
飛行
速攻(このクリーチャーは、あなたのコントロール下で戦場に出てすぐに攻撃したり(T)したりできる。)
あなたがコントロールする赤のインスタント呪文1つか赤のソーサリー呪文1つか赤のプレインズウォーカー1人がいずれかの対戦相手にダメージを与えるたび、チャンドラのフェニックスをあなたの墓地からあなたの手札に戻す。
2/2
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Chandra%27s+Phoenix/

 《チャンドラのフェニックス/Chandra’s Phoenix》はこのセットの中でも特に私を興奮させてくれるカードの1枚だ。私は復活系のカードが昔から本当に好きで《復讐蔦/Vengevine》から《ゴブリンの太守スクイー/Squee, Goblin Nabob》、さらには《ボガーダンの鎚/Hammer of Bogardan》から果ては《Whiteout》(註)を使うために雪かぶり土地をデッキに入れる努力までしたものだ。
(註) 《Whiteout》
Whiteout (1)(緑)
インスタント
すべてのクリーチャーは、ターン終了時まで飛行を失う。
氷雪土地を1つ生け贄に捧げる:あなたの墓地にあるWhiteoutをあなたの手札に戻す。
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Whiteout/

 それから考えると私たちも随分と長い道のりを来たものだ。何しろこのフェニックスの一撃ときたら《ボガーダンの鎚/Hammer of Bogardan》以来の威力だ。主たるプレインズウォーカーとこの手下のコンボはお手軽そのもので、セットがスタンダードで利用可能となる来週のフライデーナイトマジックでその1回戦から君はこいつらに遭遇することになるだろうね。

 墓地を気にするカードとの組み合わせとして、私はすでに《獣相のシャーマン/Fauna Shaman》と《ゾンビの横行/Zombie Infestation》について触れている。

 そこから考えられるのは《復讐蔦/Vengevine》入りの赤緑デッキだ。これは素晴らしい。好きなだけ《チャンドラのフェニックス/Chandra’s Phoenix》と《復讐蔦/Vengevine》をサーチしてくることができるだけでなく、すぐに戦場に戻して、その速攻で殴りかかることができるのだ。


9.《原初の狩人、ガラク/Garruk, Primal Hunter》
Garruk, Primal Hunter / 原初の狩人、ガラク (2)(緑)(緑)(緑)
プレインズウォーカー - ガラク(Garruk)
[+1]:緑の3/3のビースト(Beast)・クリーチャー・トークンを1体戦場に出す。
[-3]:あなたがコントロールするクリーチャーの中で最大のパワーの値に等しい枚数のカードを引く。
[-6]:あなたがコントロールする土地1つにつき、緑の6/6のワーム(Wurm)・クリーチャー・トークンを1体戦場に出す。
3
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Garruk%2C+Primal+Hunter/

 そう思っているのは私だけかもしれないが、もしかしたら基本セットで最もドローに長けた色は緑じゃないだろうか。

 《狩人の眼識/Hunter’s Insight》も3枚か4枚のカードを引けること考えればなかなかのものだが、さすがに《原初の狩人、ガラク/Garruk, Primal Hunter》とは比べ物にならない。

 さらに緑には《秋の帳/Autumn’s Veil》もある。これのおかげで、島を置かずにドローする無かれ、と邪魔してくる青のデッキどもからガラクを守ることが出来るわけだ。

 私はすでに、この最新の緑カードを統率者戦で使うことを見越して、Foil版の《倍増の季節/Doubling Season》を緑のカード入れの箱から探し始めているところだ。

 このエンチャントがあれば6ターン目に10匹の6/6のクリーチャー・トークンを呼び出すことが出来る。やってやれないことはないはずだよ。


10.《棘投げの蜘蛛/Stingerfling Spider》
Stingerfling Spider / 棘投げの蜘蛛 (4)(緑)
クリーチャー - 蜘蛛(Spider)
到達(このクリーチャーは飛行を持つクリーチャーをブロックできる。)
棘投げの蜘蛛が戦場に出たとき、飛行を持つクリーチャー1体を対象とする。あなたはそれを破壊してもよい。
2/5
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Stingerfling+Spider/

 私自身は何度か使ったことがあるとはいえ、構築デッキにこの《棘投げの蜘蛛/Stingerfling Spider》が入れられることがあるかどうかと聞かれたら、分からないとしか言えない。しかしそれでも私はこのカードが大好きだ。

 こいつは間違いなく私の統率者戦デッキに入るだろうし、私の《出産の殻/Birthing Pod》デッキに入れる5マナ域の候補リストに挙がることも疑う余地なしだ。


11.《真面目な身代わり/Solemn Simulacrum》
Solemn Simulacrum / 真面目な身代わり (4)
アーティファクト クリーチャー - ゴーレム(Golem)
真面目な身代わりが戦場に出たとき、あなたはあなたのライブラリーから基本土地カードを1枚探し、それをタップ状態で戦場に出し、その後あなたのライブラリーを切り直してもよい。
真面目な身代わりが死亡したとき、あなたはカードを1枚引いてもよい。
2/2
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Solemn+Simulacrum/

 このセットで再録されたカードの中で《真面目な身代わり/Solemn Simulacrum》を特に取り上げるのはおかしいかもしれない。これは《渋面の溶岩使い/Grim Lavamancer》や《魔力のとげ/Manabarbs》などのパワーカードを差し置いてまで紹介するほどのものだろうか?

 しかしそうは言いつつも、前述した《出産の殻/Birthing Pod》デッキの4マナ域の第一候補はこの《真面目な身代わり/Solemn Simulacrum》だし、新しいスタンダードにおいては《ボーラスの工作員、テゼレット/Tezzeret, Agent of Bolas》にとって最高の相棒の1人となるだろう。

 それと、もしかしたら《ゲスの玉座/Throne of Geth》を1軍入りさせてくれるカードになるかもしれない(まあ、ないだろうけど、なって欲しいと思うのは自由だよね?)。


12.《無限の日時計/Sundial of the Infinite》
Sundial of the Infinite / 無限の日時計 (2)
アーティファクト
(1),(T):ターンを終了する。この能力は、あなたのターンの間にのみ起動できる。(スタック上のすべての呪文と能力を追放する。あなたの手札の枚数の最大値になるまで手札を捨てる。ダメージは取り除かれ、「このターン」と「ターン終了時まで」の効果は終了する。)
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Sundial+of+the+Infinite/


 このカードは、ほとんど全てのフォーマットでプレイに値するカードであり、その点で私が最も興奮させられたカードの1つだ。プレビューを見たときから期待が膨らみ続けている。

 《無限の日時計/Sundial of the Infinite》は最初私にとっては興味深い一方的な《孤独の都/City of Solitude》でしかなかったがこのカードで出来る悪さをどんどん見つけるにつれて、今では私の中で非常に大きな位置を占めるに至った。

 レガシーやヴィンテージまでいけば(そしてNoel deCordovaの記事(註)によれば)、《無限の日時計/Sundial of the Infinite》は《ファイレクシアン・ドレッドノート/Phyrexian Dreadnought》や《煙突/Smokestack》を悪用できるだけの潜在能力を秘めている。さらにこれらのカードを悪用する手段は他にも多く発見されている。
(註) Noel deCordovaの記事
 以下のURLへリンクが張られている。内容は《無限の日時計/Sundial of the Infinite》のプレビュー記事。英語。
 http://www.wizards.com/Magic/Magazine/Article.aspx?x=mtg/daily/ftl/149

 このドレッドノートのような「戦場に出たとき」にデメリットを誘発するカードならどれでも、クリーチャーが戦場に出てその誘発型能力がスタックに乗ったあとに《無限の日時計/Sundial of the Infinite》を起動することで、デメリットを無視したままターンを終えてしまうことが出来る。

 ドレッドノートを例にとれば、君は1マナで12/12を呼び出したあと、さらにもう1マナを費やすだけでパワー12のクリーチャーを生け贄に捧げる前にターンを終えられるということだ。

 このカードはまた「狩り立てられた/Hunted」のサイクルとも上手く働く。たったの3マナで君は相手に何も与えずに7/7でトランプルの《狩り立てられた恐怖/Hunted Horror》を得ることができる。

 何年も前のことだが私は《時エイトグ/Chronatog》(註)と《煙突/Smokestack》(註)の入ったデッキをエクステンデッドで使っていた。それら青のクリーチャーとアーティファクトの背後に隠れ、《煙突/Smokestack》の上にいくつかカウンターを置いたあとは対戦相手だけに残りのターンを過ごしてもらうというデッキだった。

 さらに《抵抗の宝球/Sphere of Resistance》が戦場にあれば(《Contagion》で私のエイトグを殺しでもしない限り)対戦相手は何も出来ないままだ。

 このデッキにおける《無限の日時計/Sundial of the Infinite》は、《時エイトグ/Chronatog》よりもさらに手堅い働きをしてくれる。自分のターンでスタックを用いることも出来るからだ。《煙突/Smokestack》に新たなカウンターを追加したあと、生け贄に捧げるという効果を沈黙させたままでターンを終えられるということだ。
(註) 《時エイトグ/Chronatog》と《煙突/Smokestack》
Chronatog / 時エイトグ (1)(青)
クリーチャー - エイトグ(Atog)
(0):時エイトグはターン終了時まで+3/+3の修整を受ける。あなたの次のターンを飛ばす。この能力は、各ターンに1回のみ起動できる。
1/2
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Chronatog/
Smokestack / 煙突 (4)
アーティファクト
あなたのアップキープの開始時に、あなたは煙突の上にスス(soot)・カウンターを1個置いてもよい。
各プレイヤーのアップキープの開始時に、そのプレイヤーは煙突の上に置かれたスス・カウンター1個につき、パーマネントを1つ生け贄に捧げる。
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Smokestack/

 《無限の日時計/Sundial of the Infinite》をさらに楽しむ方法として、《熟考漂い/Mulldrifter》(註)や《叫び大口/Shriekmaw》(註)の能力を誘発させたあとに《無限の日時計/Sundial of the Infinite》を起動することもできる。そうすることで生け贄に捧げる想起の効果をスタック上に留め置けるのだ。
(註) 《熟考漂い/Mulldrifter》や《叫び大口/Shriekmaw》
Mulldrifter / 熟考漂い (4)(青)
クリーチャー - エレメンタル(Elemental)
飛行
熟考漂いが戦場に出たとき、カードを2枚引く。
想起(2)(青)(あなたはこの呪文を、その想起コストを支払うことで唱えてもよい。そうした場合、戦場に出たときにこれを生け贄に捧げる。)2/2
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Mulldrifter/
Shriekmaw / 叫び大口 (4)(黒)
クリーチャー - エレメンタル(Elemental)
畏怖(このクリーチャーは、黒でもアーティファクトでもないクリーチャーによってはブロックされない。)
叫び大口が戦場に出たとき、アーティファクトでも黒でもないクリーチャー1体を対象とし、それを破壊する。
想起(1)(黒)(あなたはこの呪文を、その想起コストを支払うことで唱えてもよい。そうした場合、戦場に出たときにこれを生け贄に捧げる。)3/2
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Shriekmaw/

 現在のスタンダードであれば《ゼクター祭殿の探検/Zektar Shrine Expedition》(註)のトークンについて、その「次の終了ステップの開始時に、それを追放する」をスタック上に残したままターンを終えることでさらに長生きさせることができる。もちろんブロックされなかったと仮定した場合の話だが。
(註) 《ゼクター祭殿の探検/Zektar Shrine Expedition》

Zektar Shrine Expedition / ゼクター祭殿の探検 (1)(赤)
エンチャント
上陸 ― 土地が1つあなたのコントロール下で戦場に出るたび、ゼクター祭殿の探検の上に探索(quest)カウンターを1個置く。
ゼクター祭殿の探検から探索カウンターを3個取り除くとともに、それを生け贄に捧げる:トランプルと速攻を持つ赤の7/1のエレメンタル(Elemental)・クリーチャー・トークンを1体戦場に出す。次の終了ステップの開始時に、それを追放する。
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Zektar+Shrine+Expedition/

 同じように《精霊術の熟達/Elemental Mastery》や《精霊の嘆願/Elemental Appeal》のようなカードでも同じことが出来る(が、《地獄の雷/Hell’s Thunder》(註)や《ボール・ライトニング/Ball Lightning》(註)はダメだ。これらは対戦相手のターンに再び生け贄に捧げるよう要求されてしまうからだ)。
(註) 《地獄の雷/Hell’s Thunder》や《ボール・ライトニング/Ball Lightning》
Hell’s Thunder / 地獄の雷 (1)(赤)(赤)
クリーチャー - エレメンタル(Elemental)
飛行、速攻
終了ステップの開始時に、地獄の雷を生け贄に捧げる。
蘇生(4)(赤)((4)(赤):このカードを戦場に戻す。そのクリーチャーは速攻を得る。次のターン終了ステップの開始時か、それが戦場を離れる場合に、それを追放する。蘇生はソーサリーとしてのみ行う。)
4/4
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Hell%27s+Thunder/
Ball Lightning / ボール・ライトニング (赤)(赤)(赤)
クリーチャー - エレメンタル(Elemental)
トランプル(このクリーチャーが、自身をブロックしているすべてのクリーチャーを破壊するのに十分な戦闘ダメージを割り振る場合、あなたはその残りのダメージを防御プレイヤーかプレインズウォーカーに割り振ってもよい。)
速攻(このクリーチャーは、あなたのコントロール下になってすぐに攻撃したり(T)したりできる。)
終了ステップの開始時に、ボール・ライトニングを生け贄に捧げる。
6/1
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Ball+Lightning/

 《微光角の鹿/Glimmerpoint Stag》(註)と用いることで対象のパーマネントを永久的に追放することも出来る。「次の終了ステップの開始時に、そのカードをオーナーのコントロール下で戦場に戻す」の能力がスタック上にある状態で《無限の日時計/Sundial of the Infinite》を起動すればいい。
(註) 《微光角の鹿/Glimmerpoint Stag》
Glimmerpoint Stag / 微光角の鹿 (2)(白)(白)
クリーチャー - 大鹿(Elk)
警戒
微光角の鹿が戦場に出たとき、他のパーマネント1つを対象とし、それを追放する。次の終了ステップの開始時に、そのカードをオーナーのコントロール下で戦場に戻す。
3/3
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Glimmerpoint+Stag/

 より実践的な使い道としては、《無限の日時計/Sundial of the Infinite》があると対戦相手は《詐欺師の総督/Deceiver Exarch》と《欠片の双子/Splinter Twin》のコンボをスタートさせることが非常に難しくなる。通常、対戦相手は君のターンに《詐欺師の総督/Deceiver Exarch》を唱えようとするからだ。

 君に対処するための1ターンを丸々明け渡さないためには《詐欺師の総督/Deceiver Exarch》の召喚酔いを覚ましておく必要がある。しかし《無限の日時計/Sundial of the Infinite》が盤上にあると君のターンに唱えられた《詐欺師の総督/Deceiver Exarch》が解決する見込みはない。


 さて、というわけで、これらが週末から活躍するのではないかと私が期待しているカードたちだ。君たちがお近くのプレリリースで欲しいカードに出会えることを祈ってるよ!
 そのイラストの素晴らしさのあまりにプレビュー記事を翻訳。記事を読む前でも読んだ後でもいいけど、とりあえずそのイラストは見ておくことをおススメする。なお、このカードの壁紙が以下のリンク先で拾える。
 http://www.wizards.com/Magic/Magazine/Article.aspx?x=mtg/daily/arcana/745

追記:
 カードギャラリーに日本語版があがったのでカードテキストを公式訳にて更新。

【翻訳】プレビューカード:偉大となるべく運命づけられた《Angelic Destiny》について/Destined for Greatness【Daily MTG】
Brian David-Marshall
2011年07月01日
元記事:http://www.wizards.com/Magic/Magazine/Article.aspx?x=mtg/daily/twtw/149

 初めて新しいカードを見た時、君は最初に何を考えるだろうか?

 君はそのカードを最大限に活用する方法を模索するタイプのプレイヤーだろうか? 全ての《相応の敬意/Due Respect》は《中断/Abeyance》の再来と成り得る、と見た瞬間に感じるプレイヤーの1人だろうか? もしくは《知識槽/Knowledge Pool》の「そのカードのマナ・コストを支払うことなく唱えてもよい」の文言を見るや否や《引き裂かれし永劫、エムラクール/Emrakul, the Aeons Torn》を呼びだす《知識槽/Knowledge Pool》デッキを心に思い描くタイプのプレイヤーの1人だろうか?

 それとも君は自身の感性に自信を持てないプレイヤーだろうか? 《純鋼の聖騎士/Puresteel Paladin》や《聖別されたスフィンクス/Consecrated Sphinx》に対する判断を保留しているのだろうか? 「禁止カード」のハッシュタグをツイッター上に生じさせ、メタゲームを歪めてしまうような、その強さが明らかになる瞬間を待っているのだろうか?

 私の場合、新しいカードを見た瞬間、最初に投げかける問いかけは「ドラフトで初手に値するか?」だ。他のいかなるフォーマットよりも私はこの3つのブースターパックを一度に使うフォーマットにのめりこんでおり、このフォーマットを埋めるに値するピースとなるかどうかがカードに対する印象を左右する。「こいつはドラフトで3-0させてくれるのか?」「このカードのためなら、その色の取り合いに参加するだけの価値があるのか?」「このカードをプレイするだけで対戦相手が椅子から転げ落ちてくれるようなことになるのか?」

 これら3つの問いかけに対し、今日の基本セット2012のプレビューカードは「もちろん!」と答えた。この初手に値するカードを見てくれ。
Angelic Destiny / 天使の運命 - 基本セット2012 神話レア
エンチャント - オーラ(Aura)
エンチャント(クリーチャー)
エンチャントされているクリーチャーは
+4/+4の修整を受けるとともに飛行と先制
攻撃を持ち、それの他のタイプに加えて天使
でもある。
エンチャントされているクリーチャーが死亡
したとき、天使の運命をオーナーの手札に戻す。

参照:http://www.wizards.com/magic/tcg/article.aspx?x=mtg/tcg/magic2012/cig

 こいつは俗に言う初手確定の爆弾カードというものだ。基本セット2012のカードギャラリーのそこかしこに紹介されてしている 呪禁/Hexproof (註)持ちのクリーチャーたちと一緒なら、君たちがドラフトで緑白を選択から除外するタイプのプレイヤーでない限りは3-0しないほうが難しいだろう。
(註) 呪禁/Hexproof
 マジック2012では、新たな常設キーワードが登場します。それが呪禁です!
 呪禁を持つクリーチャーは、あなたの対戦相手がコントロールする呪文や能力の対象になりませんが、あなたはそれを通常通りに呪文や能力の対象にすることができます。
引用元:http://www.wizards.com/magic/tcg/article.aspx?x=mtg/tcg/magic2012/mechanics#1

 私はしばしば《鎧をまとった上昇/Armored Ascension》を《聖なる狼/Sacred Wolf》で有効活用するデッキを基本セット2011のドラフトで組んでいた。もっとも《聖なる狼/Sacred Wolf》と組み合わせれば大抵のオーラは「強いカード」ではあるが、《Angelic Destiny》は単体でも十分に強いカードだ。もし君がこれを着せてボタンをかけてあげたクリーチャーを対戦相手が除去できなければ、ゲームは数ターンとかからずに終わることだろう。

 4/4で先制攻撃持ちの飛行クリーチャーである天使はリミテッドで大活躍するだろうし、当然ドラフトで初手に値するカードであり、それ単体でゲームを簡単に支配できる。すでにコントロールしているクリーチャーの性能にそれを上乗せできるとあれば、君が生み出すそれは怪物そのものだ。それに加えて、もしエンチャントされているクリーチャーを除去できたとしても、そのエンチャントは次のクリーチャーにつけられることで再度目の前に立ちふさがるのだ。

 私がこの大砲のようなカードを見た瞬間に考えた2つ目の点について話すのにちょうどいいタイミングのようだ。それは「リミテッドで対戦相手にこいつを出されたときにどう対処したらいいんだ?」ということだ。

 このカードは実に相手どるのが難しく、かつ対戦相手の手札にあると知っているとタップアウトするのがためらわれるようなカードでもある。エンチャントされたクリーチャーが死亡するとこのオーラは持ち主の手に帰る(ところでこの「死亡する」というのはシニア・スーパー・シリーズ(註)のメンバーでもある私にさえ驚くほどよく馴染む新用語だ)。
(註) シニア・スーパー・シリーズ
 若い世代のみを対象にした「ジュニア・スーパー・シリーズ/Junior Super Series」があるなら、仕事や家庭を持っているせいで自由に時間がとれない30代以上のみを対象にした「シニア・スーパー・シリーズ/Senior Super Series」があってもいいじゃないか、という提案から生まれたものらしい。
 元記事では「古参プレイヤー」という意味で使われているっぽい。ずっと昔からこの新用語のない環境で遊んで来たプレイヤーである筆者でもすんなり受け入れられた、ということ。
 参照:http://www.starcitygames.com/magic/misc/654_The_Magic_Senior_Tour.html

 このカードの働きから最初に思い浮かべたのは《怨恨/Rancor》(註)だ。これは一度戦場に出てしまうと除去することがほぼ不可能な代物だった。今回の新カードはこれよりかは小回りが利かないものだが、それでも一癖あることに変わりはない。
(註) Rancor / 怨恨 (緑)
エンチャント - オーラ(Aura)
エンチャント(クリーチャー)
エンチャントされているクリーチャーは、+2/+0の修整を受けるとともにトランプルを持つ。
怨恨が戦場から墓地に置かれたとき、怨恨をオーナーの手札に戻す。
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Rancor/

 もっともよい方法は打ち消してしまうことだろう。古典的な手段だが《マナ漏出/Mana Leak》を用いたり、もう少し玄人好みな手段としては対象となったクリーチャーを除去したり対象不適正にしてしまうことだ。そのとおり、私は君の話をしているんだ、《歯止め/Stave Off》(註)! 経験豊かなプレイヤーであれば除去のマナを残したプレイヤー相手にみすみすと初手で取ったカードを明け渡したりはしないだろうが、ただ1点の白マナがアンタップしていたからといって何が出来るというんだ?
(註) Stave Off / 歯止め (白)
インスタント
クリーチャー1体を対象とする。あなたは色を1色選ぶ。それはターン終了時までプロテクション(その選ばれた色)を得る。(それは選ばれた色によって、ブロックされず、対象にならず、ダメージを与えられず、エンチャントされない。)
参照:http://www.wizards.com/magic/tcg/article.aspx?x=mtg/tcg/magic2012/cig

 《歯止め/Stave Off》は、かつて私とMike Floresが使い道を模索したカードであり、最近のポッドキャストで発見した使い道として、似たような効果を持つ多くのカードと異なり、自分のクリーチャーを危険から守ってくれるだけでなく、対戦相手のクリーチャーをその援護から「守ってくれる」カードとしても使えるのだ。構築では《欠片の双子/Splinter Twin》対策として十分な働きをしてくれるし、この基本セットのリミテッドでは自分のクリーチャーを守るのはもちろん、対戦相手の《Angelic Destiny》に対抗するためにこっそり手の平に隠しておくことになるカードだと思っている(比喩的な意味でだよ、もちろん!)。

 ところで、90年代半ばに勃発していた《浄火の鎧/Empyrial Armor》(註)の戦いを経験している古参兵として、バウンスもこのカードに対抗する有効な手段であることは承知している。《送還/Unsummon》(註)は長い事マジックの歴史におり、その中で幾度となくエンチャントのついたクリーチャーを手札に戻してきた。クリーチャーにつけられるのに対応してバウンスしてもよいし、ついたあとでも望むときに戻してしまうことが出来る。
(註) Empyrial Armor / 浄火の鎧 (1)(白)(白)
エンチャント - オーラ(Aura)
エンチャント(クリーチャー)
エンチャントされているクリーチャーは、あなたの手札にあるカード1枚につき+1/+1の修整を受ける。
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Empyrial+Armor/

(註) Unsummon / 送還 (青)
インスタント
クリーチャー1体を対象とし、それをオーナーの手札に戻す。
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Unsummon/

 ソーサリーのタイミングでもよいのであれば《霊気の達人/AEther Adept》(註)はこの仕事にうってつけだろう。《Angelic Destiny》が解決してしまったあとでもクリーチャーをバウンスすることでそれを墓地に落とすことが出来る。その場合、エンチャントされたクリーチャーからの手痛い一撃を受ける覚悟が必要だが、バウンスしてしまえばそのゲームの最中はもうこの厄介なオーラに悩まされずに済むわけだ。そうだろう?
(註) AEther Adept / 霊気の達人 (1)(青)(青)
クリーチャー - 人間(Human) ウィザード(Wizard)
霊気の達人が戦場に出たとき、クリーチャー1体を対象とし、それをオーナーの手札に戻す。
2/2
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/AEther+Adept/

 さて、さらにカードイメージギャラリーを眺めていて興味をそそられたのは《貪る大群/Devouring Swarm》だ。この大群が対戦相手の場にいると対戦相手の戦略は柔軟性を増し、《霊気の達人/AEther Adept》とともにいる君は居心地の悪い思いをすることになる。この大群はエンチャントされたクリーチャーを生け贄に捧げることができる。エンチャントされているのが《貪る大群/Devouring Swarm》自身であったとしてもだ。バウンスに対して、手札に戻すのをクリーチャーにするかエンチャントにするか選択できるようになるわけだ。

 またインスタントのタイミングで生け贄に捧げる能力はエンチャント破壊からこのオーラを守るのに使うこともできる。君の対戦相手が《Angelic Destiny》を《酸のスライム/Acidic Slime》しようとしても、対応してクリーチャーを生け贄に捧げることで《酸のスライム/Acidic Slime》の能力が解決される前にオーラを手札に戻すことができる。
(註) Devouring Swarm / 貪る大群 (1)(黒)(黒)
クリーチャー - 昆虫(Insect)
飛行
クリーチャーを1体生け贄に捧げる:貪る大群は、ターン終了時まで+1/+1の修整を受ける。
2/1
参照:http://www.wizards.com/magic/tcg/article.aspx?x=mtg/tcg/magic2012/cig

(註) Acidic Slime / 酸のスライム (3)(緑)(緑)
クリーチャー - ウーズ(Ooze)
接死(これが何らかのダメージをクリーチャーに与えた場合、それだけで破壊される。)
酸のスライムが戦場に出たとき、アーティファクト1つかエンチャント1つか土地1つを対象とし、それを破壊する。
2/2
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Acidic+Slime/

 基本セットの話をすると、もし対戦相手が君のエンチャントをなんとか破壊することに成功してしまったとしても、君は《オーラ術師/Auramancer》を使えばいつでも彼らの労力を無に帰すことができる。私は基本セット2012のリミテッドで「6/6 飛行、先制攻撃」となった《オーラ術師/Auramancer》を何度も見ることになるだろうと予想している。もし開けたパックから《Angelic Destiny》を引けたなら、再利用を可能にしてくれる《オーラ術師/Auramancer》の点数は少し上がることになるだろう。言うまでもないことだが、このオーラはそのためだけにデッキを歪めるほどの価値のあるカードだ。自身が使う場合にも、対戦相手に使われる場合にもね。
Auramancer / オーラ術師 (2)(白)
クリーチャー - 人間(Human) ウィザード(Wizard)
オーラ術師が戦場に出たとき、あなたの墓地にあるエンチャント・カード1枚を対象とする。あなたは、それをあなたの手札に戻してもよい。
2/2
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Auramancer/

 どんな天使にとっても追放されるということは耐えられないことであり、このカードもその原則の例外ではない。つい最近、基本セットに帰って来てくれた《忘却の輪/Oblivion Ring》はこのオーラによって翼を与えられたクリーチャーに対抗するのにふさわしいカードだ。もちろんエンチャントされたクリーチャーを対象にできればそれにこしたことはないが、もし 呪禁/Hexproof 持ちのクリーチャーにつけられてしまった場合でも大丈夫だ。そのときは単にエンチャントそれ自体を追放してしまえばよいのだ。
Oblivion Ring / 忘却の輪 (2)(白)
エンチャント
忘却の輪が戦場に出たとき、他の土地ではないパーマネント1つを対象とし、それを追放する。
忘却の輪が戦場を離れたとき、その追放されたカードをオーナーのコントロール下で戦場に戻す。
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Oblivion+Ring/

 新しいカードを見たときに私が考えることの3つ目は、それが構築での使用に耐えうるものだろうか、ということだ。60枚でデッキが組まれる環境にこのカードは値するのだろうか? これに対する私の解答は「イエス」だ。この1年間、私たちは装備をまとったクリーチャーたちが環境を席巻するのを見てきた。確かに装備品には高いアドバンテージがある。しかしこのカードにも装備品の持つアドバンテージがいくつか備わっているし、ここのところ多くのデッキのサイドボードに鎮座ましましているアーティファクト対策をかいくぐれるという利点がある。

 このカードを活かせるデッキの詳細と、このカードを身にまとうにふさわしいクリーチャーについてはここでは語らない。それは世界中のFloresたちと君に任せることにする。このカードを60枚デッキに入れることに関する君の考えをフォーラム(もしくはその他どこでも)で聞かせて欲しい。さて、このカードはスタンダードに参入することが出来るだろうか?

 君たちがそうしてくれている間、私はカードリストを漁る仕事に戻るとしよう。今、私の頭の中で芽吹こうとしている統率者用エンチャトレスデッキのためにバントカラーの統率者を探さないといけないからだ。新しいカードを見たときに統率者に使えるかどうか考えるのは最後の最後だが、あれやこれやと一番長く試すのも統率者に関してだね!
 以下の基本セット2012の紹介記事で言及されていた、過去の戦略記事を翻訳してみた。
 http://regiant.diarynote.jp/201108071520473612/

 以下の通り、既に訳されていた方がいたことにあとから気づいたけど、自分の翻訳記事からリンクを張るならやっぱり自力で訳した記事の方がよかろうということでアップしてみる。

 既訳:Who’s The Beatdown?
 http://72743.diarynote.jp/200612211801140000/

DOJOからまた1つ/Another Classic from THE DOJO
元記事:http://www.starcitygames.com/php/news/article/3692.html

 遥か昔、世界初のマジック専門サイトであるDojoがあった。このサイトはマジックのもっとも基礎的な原理をいくつも世に広めたという点において今なお伝説的な存在だ。ほぼ全ての戦術的なセオリーはその起源を辿ればDojoに記事を寄せていた偉大なるライターたちに辿り着く。本気でマジックに取り組んでいるプレイヤーであれば誰でも、これら古いベテランたちへ感謝の念を忘れてはいけない。

 残念ながら、経済的なあれやこれやという実にありがたい事情により、このDojoというサイトはビジネスが立ちゆかなくなり2000年に閉鎖されることとなってしまった。そのとき、4年という歳月をかけて集積された叡智を救うべく土壇場で、とある働きかけが為された。編集部は将来的にも記事が閲覧可能となるよう、マジックのコミュニティに対し記事のアーカイブ化を求めたのだ。

 Dojoの記事の中でも特に価値の高いものはこのサイトに再掲載している。なぜならこれらは今日のマジックにとっても今なお力となるものだからだ。このStarCityGames.comのサイトでは内容に手を加えずそのまま載せている。ただ最近のプレイヤーたちが見たことがないであろう古いカードにリンクを加えてはいる。そうすることで紹介されている戦術を理解する助けになるはずだと考えたからだ。

 Dojoに記事を寄せていたライターの多くは今なおマジックで活動しており、他のサイトでも記事を書いている。コミュニティが育った功労者である彼らへときにはエールを送ってくれ。

<編集部より>

ビートダウン VS ビートダウンはあり得ない/Who’s The Beatdown?
Mike Flores
1999年01月01日
元記事:http://www.starcitygames.com/php/news/article/3692.html

 トーナメントでもっともよく目撃するミスは(小さいもの、大きいもの含めて)似たようなデッキで対戦している際に、自分がビートダウン側なのかコントロール側なのかの見極めを誤っているというものだ。

 自身の立ち位置を見誤っている側が負けるのは自明の理だ。

 分かると思うが、似たようなデッキ同士のマッチアップは、それらのデッキが真の対称性を持っていない限り(つまり完璧なミラーマッチでない限り)片方のデッキがビートダウン側となり、もう片方がコントロール側とならざるを得ない。このことは、例えば両方のプレイヤーがアグレッシブなデッキを使っているときなどに激しいジレンマを産む。

 ここで具体的な例を挙げてみよう。

 ワシントンDCで行われたプロツアー予選での話だ。私のチームメイトであるAl Tranは、ベスト8を賭けてスライデッキ(註)と対戦していた。Alが使っていたのは白赤のジャンクデッキ(註1)だ。ジャンクデッキは、通常、アグレッシブなデッキとして分類される……しかし、スライデッキとの対戦時は別だ。
(註) スライデッキ
 低マナ域のクリーチャーと火力で固めた赤単。序盤から攻撃に特化した小型クリーチャーで攻め立て、ブロッカーは火力で排除し、相手のライフが残り少なくなったら火力を直接本体へ集中させて勝つ。

(註) 白赤のジャンクデッキ
 赤と白の低マナ域の優良カードを集めたビートダウンデッキ。《サバンナ・ライオン/Savannah Lions》などのウィニークリーチャーで攻めつつ、《稲妻/Lightning Bolt》、《呪われた巻物/Cursed Scroll》などの除去でブロッカーを排除し、同じ火力でとどめをさす。
 参照:http://mtgwiki.com/wiki/PT_Jank

 マッチアップは1勝1敗の五分五分となり、第3試合の結果によってベスト8が決まることとなった。Alの対戦相手が先攻を取り、《ジャッカルの仔/Jackal Pup》を場に出した。

 この時点でAlの手札には2枚の《呪われた巻物/Cursed Scroll》、2枚の《剣を鍬に/Swords to Plowshares》、1枚の《名誉の道行き/Honorable Passage》、そして数枚の土地があった。
Jackal Pup / ジャッカルの仔 (赤)
クリーチャー - 猟犬(Hound)
ジャッカルの仔にダメージが与えられるたび、それはあなたにそのダメージに等しい点数のダメージを与える。
2/1
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Jackal+Pup/

Cursed Scroll / 呪われた巻物 (1)
アーティファクト
(3),(T):クリーチャー1体かプレイヤー1人を対象とする。カード名を1つ指定する。あなたの手札からカードを1枚、無作為に公開する。そのカードが指定されたカードであった場合、呪われた巻物はそれに2点のダメージを与える。
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Cursed+Scroll/

Swords to Plowshares / 剣を鍬に (白)
インスタント
クリーチャー1体を対象とし、それを追放する。それのコントローラーは、そのパワーに等しい点数のライフを得る。
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Swords+to+Plowshares/

Honorable Passage / 名誉の道行き (1)(白)
インスタント
クリーチャー1体かプレイヤー1人を対象とする。このターン、あなたが選んだ発生源1つが次にそれに与えるすべてのダメージを軽減する。赤の発生源からのダメージがこれにより軽減された場合、名誉の道行きはその発生源のコントローラーに同じ点数のダメージを与える。
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Honorable+Passage/

 Alは《ジャッカルの仔/Jackal Pup》の牙を鍬に変えることはせず、最初の攻撃によって2点のダメージを受けることを選択した。対戦相手はさらにもう1体のジャッカルを用意した。Alはこれにも《剣を鍬に/Swords to Plowshares》を唱えず、《稲妻/Lightning Bolt》を引くか巻物のマナが溜まるのを待っていた。

 Alは自身の2ターン目にもう1枚土地を置き《呪われた巻物/Cursed Scroll》を設置した。これによってアンタップしている土地は1枚。

 対戦相手の3ターン目に3枚目の山が着地し、君の予想通り《ボール・ライトニング/Ball Lightning》が後に続いた。Alは《剣を鍬に/Swords to Plowshares》を《ボール・ライトニング/Ball Lightning》に唱えざるを得なかった。Alはこれによってその後の数ターンは稼げたが、結局は《稲妻/Lightning Bolt》に焼かれて死んでしまった。

 何が問題だったのだろうか?

 Alが使っていたのはビートダウンデッキだ。そのため彼は対戦相手にダメージを与えつつ《ジャッカルの仔/Jackal Pup》を除去したかった。しかし今回のマッチアップの限れば、彼は自身のデッキをコントロールデッキとしてプレイべきだった。

 分かってもらえると思うが、スライデッキはジャンクよりずっと速いデッキなのであり、ジャンク側が勝つためにはスライデッキの序盤を除去呪文で抑え込み、中盤から《呪われた巻物/Cursed Scroll》で相手をロックするという作戦で行くしかない。

 何しろスライデッキ側にはこちらより枚数の多い《稲妻/Lightning Bolt》や《呪われた巻物/Cursed Scroll》があるわけで、ジャンク側が勝つためには、自身のデッキに入っている同じカードたちを駆使してライフを安全圏に保っておく必要があるのだ。

 2匹の《ジャッカルの仔/Jackal Pup》を《剣を鍬に/Swords to Plowshares》で除去することによってスライデッキ側に4点のライフを回復させてしまうことは、ライフレースにおいて表面上は不利に見えるかもしれない。

 しかし上記の例を見てもらえば分かるとおり、結果的にAlは《ボール・ライトニング/Ball Lightning》に対してそれを唱えることで6点のライフを献上している。そうしてさえ、2体の《ジャッカルの仔/Jackal Pup》を除去するまでに少なくとも8点以上のダメージを受けてしまっているのだ。

 《ジャッカルの仔/Jackal Pup》を《剣を鍬に/Swords to Plowshares》し、《ボール・ライトニング/Ball Lightning》に対して《名誉の道行き/Honorable Passage》を唱えておいたほうが、ずっとAlにとって有益だったはずだ。

 そうしていればライフを20点近くに保ったまま中盤に突入することが可能となり、あらためてその時点から《ヴェクの聖騎士/Paladin en-Vec》や《サルタリーの僧侶/Soltari Priest》などで攻撃に転じることが出来ていたはずだからだ。

 似たような対比がコントロールデッキ同士がぶつかり合った際にも見られる。同じプロツアー予選で私はハイタイド(註)でカウンタースリヴァー(註)に挑んでいた。通常であれば不利なマッチアップだ。
(註) ハイタイド
 コンボデッキの一種。キーカードは、唱えたターンだけ《島/Island》から1点余分に青マナが出るようになる《High Tide》と各種フリースペル(唱えたらマナコスト分の枚数の土地をアンタップできる呪文の総称)。
 これらが組み合わさると1ターンにいくつも呪文を唱えつつマナがどんどん増えるという状態に持っていける。勝ち手段は複数あるが、この記事のデッキは生み出した大量のマナで《天才のひらめき/Stroke of Genius》(= X枚のカードを対象のプレイヤーに引かせるインスタント呪文)を相手に打ち込むタイプらしい。

(註) カウンタースリヴァー
 クロック・パーミッションの一種、というか元祖。低マナ域のクリーチャーで攻めつつ、余らせたマナで相手の動きを阻害して殴りきるタイプのデッキ。序盤から毎ターンコンスタントにダメージを刻み続けることを「クロックを刻む(時計の針を刻む)」と呼ぶことからその名がついたらしい。

 対戦相手のデッキにはこういったデッキで見慣れたスリヴァーたちと《崇拝/Worship》、さらに打ち消し呪文と《呪われた巻物/Cursed Scroll》とが入っていた。

 彼の過ちは、このマッチアップにおいて自身がコントロールデッキ側だと考えたことだ。

 2ターン目に《水晶スリヴァー/Crystalline Sliver》をプレイしたあと、さらにその2ターン後に彼は《崇拝/Worship》を唱えた。マナを使い切った相手に、私は《天才のひらめき/Stroke of Genius》を唱えてデッキを空にしてやった。

(1試合目で私は彼を《パリンクロン/Palinchron》で撲殺した。それだけでなく私が対戦相手に見せたカードは主に《撹乱/Disrupt》や《魔力の乱れ/Force Spike》やドロー呪文だけだったため、おそらく彼は私のデッキがヘビークリーチャーに頼ったデッキと判断したのだろう)
Palinchron / パリンクロン (5)(青)(青)
クリーチャー - イリュージョン(Illusion)
飛行
パリンクロンが戦場に出たとき、土地を最大7つまでアンタップする。
(2)(青)(青):パリンクロンをオーナーの手札に戻す。
4/5
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Palinchron/

 どうやって勝ったかはあまり関係ない。彼はこの対戦において自分の側がコントロールデッキだと考えていた。しかし実際は明らかにこちら側がコントロールデッキだったのだ。

 私は彼と同等かそれ以上の量の打ち消し呪文を持っており、彼がスリヴァーを入れているスペースに私はドローやデッキ操作を入れていた。彼がデュアルランドを入れているかわりに私は《Thawing Glaciers》を入れていた。
Thawing Glaciers
土地
Thawing Glaciersはタップ状態で戦場に出る。
(1),(T):あなたのライブラリーから基本土地カードを1枚探し、そのカードをタップ状態で戦場に出す。その後、あなたのライブラリーを切り直す。次のクリンナップ・ステップの開始時に、Thawing Glaciersをオーナーの手札に戻す。
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Thawing+Glaciers/

 私は《Thawing Glaciers》によって土地が止まらないことを保証されており、また私は彼の《渦まく知識/Brainstorm》を何枚かすでに《撹乱/Disrupt》してもいた。これはつまり長期戦になりさえすれば私の勝ちが決まっているということだ。

 彼がすべきだったのは、こっちの体制が整う前に私のライフをゼロにすることだったのだ。

 彼のデッキの勝ちパターンは、パワー2以上のスリヴァーを何体かプレイしてそれらで毎ターン攻撃をしつつ、立たせておいたマナで相手の脅威となる呪文だけを打ち消す、というものだ(脅威となる呪文とは、ご存知の通り《神の怒り/Wrath of God》や《仕組まれた疫病/Engineered Plague》、さらには今回の対戦でいえばコンボの要である《High Tide》も含まれる)。

 まず初めに彼はもっとアグレッシブに攻めるべきだった。今回のようにたった1体の《水晶スリヴァー/Crystalline Sliver》で攻めるだけでは、私に《Thawing Glaciers》とドロー呪文を使う時間をそれだけ与えることになってしまう。次に、タップアウトすることは死と同義だ。私からしてみれば《転換/Turnabout》を撃つ手間を省いてもらっているだけだ。

 似たようなデッキで対戦する際に、自身がどちら側としてプレイすべきかを確認する指針としては以下のような点が挙げられる。

 1. よりダメージ源を持っている側は? 通常、そっちがビートダウン側であるべきだ。
 2. より除去を持っている側は? 通常、そっちがコントロール側であるべきだ。
 3. より打ち消しとドローを持っている側は? ほぼ確実にそっちがコントロール側だ。

 もし君がビートダウン側であれば、君のすべきことは対戦相手よりも早く相手を倒すことだ。もし君がコントロール側であれば、君のすべきことは序盤のビートダウンからの攻撃を切り抜け、カードアドバンテージを得られる中盤以降へ辿り着くことだ。

 ビートダウン側とコントロール側の見極めに関する良い例として、1998年のアメリカ選手権のトップ8で発生した、David PriceとAndrew Pacificoによるスライデッキ同士の対戦を見てみよう。

 表面上はこれら2人のプレイヤーは非常に似通ったデッキ(註)を使っているように見える。しかしよく見るとそこには大きなデザインの違いがあることが分かる。
(註) デッキ
 原文にデッキ内容は載っていないが、別のページで運良く発見したので紹介しておく。

Andrew Pacifico

 メインデッキ

  4 《ボール・ライトニング/Ball Lightning》
  1 《蛮行ゴブリン/Goblin Vandal》
  4 《ジャッカルの仔/Jackal Pup》
  4 《モグの狂信者/Mogg Fanatic》
  4 《モグの下働き/Mogg Flunkies》
  3 《スークアタの槍騎兵/Suq’Ata Lancer》
  2 《ヴィーアシーノの砂漠の狩人/Viashino Sandstalker》

  3 《呪われた巻物/Cursed Scroll》
  4 《火炎破/Fireblast》
  4 《火葬/Incinerate》
  4 《ショック/Shock》
  2 《音波の炸裂/Sonic Burst》
  
  17 《山/Mountain》
  4 《不毛の大地/Wasteland》
  
 サイドボード

  3 《モグの偏執狂/Mogg Maniac》
  3 《ネビニラルの円盤/Nevinyrral’s Disk》
  3 《発展の代価/Price of Progress》
  3 《紅蓮破/Pyroblast》
  3 《呪文ショック/Spellshock》

David Price

 メインデッキ

  4 《ボール・ライトニング/Ball Lightning》
  4 《投火師/Fireslinger》
  4 《鉄爪のオーク/Ironclaw Orcs》
  4 《ジャッカルの仔/Jackal Pup》
  4 《モグの狂信者/Mogg Fanatic》
  
  4 《呪われた巻物/Cursed Scroll》
  4 《火炎破/Fireblast》
  2 《ボガーダンの鎚/Hammer of Bogardan》
  4 《火葬/Incinerate》
  4 《ショック/Shock》
  1 《音波の炸裂/Sonic Burst》
  
  17 《山/Mountain》
  4 《不毛の大地/Wasteland》
  
 サイドボード

  4 《ボトルのノーム/Bottle Gnomes》
  3 《ドワーフ鉱夫/Dwarven Miner》
  1 《ドワーフの秘術師/Dwarven Thaumaturgist》
  1 《炎の嵐/Firestorm》
  4 《紅蓮破/Pyroblast》
  1 《拷問室/Torture Chamber》
  1 《破壊的脈動/Shattering Pulse》

参照元:http://www.starcitygames.com/php/news/print.php?Article=13967

 DavidのデッキはPacificoよりも《呪われた巻物/Cursed Scroll》の枚数が多く、また彼のデッキには《ボガーダンの鎚/Hammer of Bogardan》と《投火師/Fireslinger》も入っている。彼のデッキでビートダウンと呼べるのは《ジャッカルの仔/Jackal Pup》と《ボール・ライトニング/Ball Lightning》くらいのものだ。それら以外のカードは、どちらかというとコントロール寄りであったり、汎用性に富んだものと言える。

 Pacificoのデッキはそれよりもずっとダメージを与える機能に寄ったものだ。除去に貢献することのない攻撃に特化した軽いクリーチャーが大半を占めている。《ジャッカルの仔/Jackal Pup》と《ボール・ライトニング/Ball Lightning》に加えて、彼のデッキには《蛮行ゴブリン/Goblin Vandal》、《モグの下働き/Mogg Flunkies》、《スークアタの槍騎兵/Suq’Ata Lancer》、そして《ヴィーアシーノの砂漠の狩人/Viashino Sandstalker》が入っている。さらに言うと、Pacificoのデッキには《投火師/Fireslinger》と《ボガーダンの鎚/Hammer of Bogardan》が無く、《呪われた巻物/Cursed Scroll》も3枚しか入っていない。

 先手をとれるのは間違いなくDavidのデッキだが、この対戦において彼のデッキはより長期戦に適したデッキであり、つまりはコントロール側である。ある試合で、Davidがプレイしたのはほとんど土地と巻物だけだった。彼はPacificoのクリーチャーを相打ちや火力で除去してから巻物でロックを固め、カードアドバンテージを多少得たところでゲームを終わらせてしまった。

 もしDavidがPacificoに正面切ってダメージレースを挑んでいたら、勝てていたかどうかは分からない。2人のプレイヤーがひたすら互いのクリーチャーを相手プレイヤーへ突撃させた場合、より攻撃に特化したカードを持っているほうが勝つはずだ(とはいえDavidは「King of Red」の通称で呼ばれる男であり、スライデッキの戦い方も当然熟知しているはずではあるが)。

 最後に、スーサイドブラック(註)とスライのマッチアップを考えてみよう。
(註) スーサイドブラック
 異様に前のめりな黒単。低マナコストかつ高性能なかわりに自分のリソースをがりがり削ってしまうカードを大量にぶちこんだデッキ。自殺志願者のようなそのプレイからSuicide(=自殺)の名がつけられた。

 よりダメージに特化しているデッキはどっちだ?

 スーサイドブラックだ。

 コストに比して高いパワーを持つクリーチャーを多く持つ。例えば《カーノファージ/Carnophage》や《肉占い/Sarcomancy》、たまに《肉裂き怪物/Flesh Reaver》も見かける。ときには《憎悪/Hatred》まで入っている。これは自分のライフさえも削ってくれるカードだ。
Carnophage / カーノファージ (黒)
クリーチャー - ゾンビ(Zombie)
あなたのアップキープの開始時に、あなたがライフを1点支払わない限り、カーノファージをタップする。
2/2
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Carnophage/

Sarcomancy / 肉占い (黒)
エンチャント
肉占いが戦場に出たとき、黒の2/2のゾンビ(Zombie)・クリーチャー・トークンを1体戦場に出す。
あなたのアップキープの開始時に、ゾンビが1体も戦場に存在しない場合、肉占いはあなたに1点のダメージを与える。
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Sarcomancy/

Flesh Reaver / 肉裂き怪物 (1)(黒)
クリーチャー - ホラー(Horror)
肉裂き怪物がクリーチャーか対戦相手にダメージを与えるたび、肉裂き怪物はあなたにその点数に等しい点数のダメージを与える。
4/4
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Flesh+Reaver/

Hatred / 憎悪 (3)(黒)(黒)
インスタント
憎悪を唱えるための追加コストとして、X点のライフを支払う。
クリーチャー1体を対象とする。それはターン終了時まで+X/+0の修整を受ける。
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Hatred/

 より除去を持っているデッキはどっちだ?

 スライだ。

 仮にスーサイドブラック側が《呪われた巻物/Cursed Scroll》を使っていたとしても、スライ側は常にそれを上回るだろう。さらにスライにはウィニークリーチャーだけでなく火力がある。

 スライデッキは非常に早い(平均して4ターンキル出来る)が、スーサイドブラックは(そのデッキ内容や儀式の引きにもよるが)2~3ターンキルが可能だ。

 ここまで見ると、明らかにビートダウン側はスーサイドブラックであり、コントロール側はスライだ。しかしそれでもなお、スーサイドブラックはビートダウン側になることはできない。

 クロックを刻むためのクリーチャーを並べることが出来ないからだ。特に《肉占い/Sarcomancy》と《肉裂き怪物/Flesh Reaver》を出せない。なぜならスライには大量の火力が用意されている。

 またスーサイドブラックには《憎悪/Hatred》をプレイする機会は訪れないだろう。本体がそのまま《火葬/Incinerate》されてしまう恐れがあるからだ。

 これらの点により、実際のところスーサイドブラックがビートダウンすることはあり得ず、コントロール側に回らざるを得ない。

 このマッチアップを目撃したことのある人であれば(少なくともスライ側が事故っていないときのこのマッチアップを目撃したことがあれば)、スーサイドブラックがいかにコントロール寄りにプレイされるかをご存知のはずだ。

見切りを誤る = 敗北

 サイドボード後は、スーサイドブラック側が有利だと言われている。

 大量の「自分を傷つける」カードたちのかわりにクリーチャー除去とライフ回復を加えることで、より的確にコントロールデッキを演じることが可能となり、相性は随分と改善される(もしくは一方的となる)からだ。
【翻訳】ゴブリンが私にさせたこと/Mons Made Me Do It【Daily MTG】
Mark Rosewater
2002年10月7日
元記事:http://www.wizards.com/Magic/Magazine/Article.aspx?x=mtgcom/daily/mr41

 ゴブリン週間へようこそ!

 今週はマジックに最も古くから存在し、かつ最も愛された種族を探っていこうと思う。 

 実のところ、椅子に腰を下ろしていざこの記事を書き始めようとしたときには、あまりにも膨大なネタを持つこのトピックについてどう取り扱ったものか見当もつかなかった。しかしそこで閃いたんだ。

 私が書くべきはゴブリンそれ自体のようにデタラメで馬鹿馬鹿しいものに決まっているじゃないか。もし君が曖昧で風変りな記事を読みたくないなら、今週の記事は飛ばしたほうがいいかもしれないね。もし君がついて来てくれるなら、帽子が飛ばされないようにちゃんと押さえていたほうがいい。トバすからね。

ゴブリンについてあまり知られていない10の事実

 1.ゴブリンは自分たちが石を開発したと思っている。世界最古の武器として。
 2.ゴブリンは10匹から15匹程度の個体が集まって暮らしている
 3.ゴブリンは返り討ちにあう危険性のないものであれば大体食べる
 4.ゴブリンの好む日課はセックス、ギャンブル、真新しい武器防具をいじることである
 5.ゴブリンはデカイことは良いことだと信じている。
   (20kgの棍棒よりいいものって何? 50kgの棍棒に決まってるだろう!)
 6.ゴブリンが征服と略奪を繰り返すのはより多くの居住スペースが必要だからである
 7.ゴブリンにとって、より大きな鼻と足と手を持つものがより魅力的な異性である
 8.ゴブリンの名前は生まれ落ちる瞬間の母親のうなり声からとってつけられる
 9.ゴブリンの両親は自分の子供を多くの場合、捨てたり、物々交換に使ったり、
   配偶者と同じように賭けのチップに使ったり、家族ごと交換したりする。
 10.ゴブリンにとって最も大きな財産はその生産性の高さである
   (試行の回数が多ければそれだけ試行錯誤から得られる経験値も大きい)

スクイーの名前の由来

 ビジョンズの開発時、私は命名とフレイバーテキストを担当するチームに所属していた。あるミーティングの開始時、私はその時点で決まっていた《連続突撃/Relentless Assault》のフレイバーテキストが気に入らない旨を伝えた。それは「ゴブリンの童謡/ときの声」という題名の童謡だった。題名は私好みだったが、その童謡自体は好きになれなかったからだ。

 チームのリーダーであるPete Venters(その通り、カードのイラストレーターとしても有名な彼だ。当時、今なおクリエイティブテキスト部として存続している部署を率いていたのは彼だった)は、変えたければ変えてもよいがタイムリミットはこのミーティングが終わるまでだ、と告げた。

 そこでミーティングが行われている間、私は代わりとなる童謡を生み出そうと必死になった。まず最初に考えたのはゴブリンにとって「ときの声」とは「逃げ出したくなる何か」のはずだということだった。そこから浮かんだ「Flee/逃げる」に対して「Tree/木」と韻を踏ませることにした。

 考えたのは、何匹かの木を登れるゴブリンが敵の軍勢を発見した、という状況だ。童謡に登場させる2匹のゴブリン(2匹登場させた理由はそのほうが童謡っぽい気がしたからだ)の名前については1音節でかつ韻を踏むものである必要があった。特に2匹目については「Tree/木」と上手いこと韻を踏む必要があった。

 まず最初に思いついた名前は「Flog/フロッグ」だった。これは実にゴブリンっぽい名前に感じられた。さらに「Tree/木」と韻を踏む1音節の名前も思いついた。「Squee/スクイー」だ。これでいいんじゃなかろうか、ということでそれに決めた。

 ちょうどそのときミーティングが終わった。

 数ヶ月後、ストーリーマネージャーであるMichael Ryanと一緒にウェザーライトの物語に取り組んでいたとき、道化役としての役割を持つ登場人物であるゴブリンに名前をつける必要が生じた。私たちは両方ともくだんの童謡を思い出した(Michaelもまたフレイバーテキストチームに参加していた)。私たちはスクイーという名前が気に入っていたんだ。

 これがスクイーという名前の由来というわけだ。

実際のゴブリン・カードについて

 ゴブリン・カードは良くふざけた名前がつけられる。以下に挙げたゴブリン・カードは全て実際に印刷されたことがあるものだ(え? はいはい、分かったよ、正しく言うならば以下の1枚は実際に印刷されたわけじゃなくコンピューター上にしか存在しない)。

 ・Goblin Artisans / ゴブリン職工団 (アンティキティー
 ・Goblin Bookie (アングルード
 ・Goblin Bowling Team (アングルード
 ・Goblin Bully/ごろつきゴブリン (ポータル
 ・Goblin Chirurgeon (フォールン・エンパイア
 ・Goblin Commando (スターター
 ・Goblin Flotilla (フォールン・エンパイア
 ・Goblin Gardener / ゴブリンの庭師 (ウルザズ・デスティニー
 ・Goblin Lackey / ゴブリンの従僕 (ウルザズ・サーガ
 ・Goblin Legionnaire / ゴブリンの軍団兵 (アポカリプス
 ・Goblin Masons / ゴブリンの石工 (ウルザズ・デスティニー
 ・Goblin Medics / ゴブリンの衛生兵 (ウルザズ・レガシー
 ・Goblin Mutant / ゴブリンの突然変異 (アイスエイジ
 ・Goblin Polka Band (アストラルセット
 ・Goblin Pyromancer / ゴブリンの紅蓮術士 (オンスロート
 ・Goblin Ringleader / ゴブリンの首謀者 (アポカリプス
 ・Goblin Sharpshooter / ゴブリンの名手 (オンスロート
 ・Goblin Ski Patrol (アイスエイジ
 ・Goblin Sledder / ゴブリンのそり乗り (オンスロート
 ・Goblin Snowman / ゴブリンの雪だるま (アイスエイジ
 ・Goblin Soothsayer / ゴブリンの占い屋 (ミラージュ
 ・Goblin Spelunkers / ゴブリンの洞窟探検家 (ウルザズ・サーガ
 ・Goblin Spy / ゴブリンのスパイ (インベイジョン
 ・Goblin Swine-Rider / 豚乗りゴブリン (ビジョンズ
 ・Goblin Welder / ゴブリンの溶接工 (ウルザズ・レガシー

Goblin Chirurgeonの "Chirurgeon" って何?

 長い間、私はこの単語を造語だと思っていた。

 しかしそうではなかった。

 アメリカン・ヘリテッジ・ディクショナリーという辞書によると、この "Chirurgeon" (発音は「キー・ラー・ジェン」となる)は、ラテン語を元とするフランスの言葉からきた中世の英語らしい。その意味は「Surgeon/外科医」だそうだ。

君たちが見たことのないゴブリン・カードについて

 開発部のデータベースを覗いたところ、一度も世に出ることなく終わった(もしくは終わるかもしれない)ゴブリンたちを見つけたのでここに紹介する。

 ・Goblin Armorer
 ・Goblin Assault Leader
 ・Goblin Cheerleading Squad
 ・Goblin Cleric Mocker
 ・Goblin Duelist
 ・Goblin Fanatic
 ・Goblin Firestarter
 ・Goblin Gatling Gun
 ・Goblin Hit Squad
 ・Goblin Homeowners
 ・Goblin Megaboss
 ・Goblin Pumpster
 ・Goblin Sandstalker
 ・Goblin Vulture Riders

《ゴブリンの山岳民/Goblin Mountaineer》のフレイバーテキスト

 原文:
   Goblin Mountaineer, barely keeps his family fed.

 日本語訳:
   ゴブリンの山岳民は、家族を食べさせていくのさえ難しい現状だ。

ゴブリン・カードのデザインについて

 この記事は分類上デザインについての記事ということになっているので、ここでは私がデザインした何枚かのゴブリン・カードについて話そうと思う。

Goblin Bookie (赤) - アングルード
- ゴブリン(Goblin)
(赤),(T):直前に投げられたコイン1枚を投げ直すか、直前に振られたダイス1個を振り直し、代わりにその出目を使用する。
1/1
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Goblin+Bookie/

 何年もの間、私はあるカードをマジックに登場させてようと試みては失敗していた。それの仮の名は「Reflip/コイン投げ直し」で、プレイヤーにコインを投げ直させてくれるマナコストが(赤)のインスタントだった。

 このカードを見た各セットのデベロップメント・チームはことごとくセットからそれを除外した。何しろR&Dは構築環境からコイン投げを締め出すことに細心の注意を払っていたからだ。

 アングルードを手掛けることになって、このカードを登場させてみてはどうだろうという考えがよぎった。何せこのセットがトーナメントリーガルになる日は永遠に来ないはずだ。

 強くするために繰り返しその効果を使えるカードとし、またアングルードには乱数発生要素がコイン以外にもダイスもあったので「振り直し」の文言も付け足した。

Goblin Gardener / ゴブリンの庭師 (3)(赤) - ウルザズ・デスティニー
クリーチャー - ゴブリン(Goblin)
ゴブリンの庭師が戦場から墓地に置かれたとき、土地1つを対象とし、それを破壊する。
2/1
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Goblin+Gardener/

Goblin Masons / ゴブリンの石工 (1)(赤) - ウルザズ・デスティニー
クリーチャー - ゴブリン(Goblin)
ゴブリンの石工が戦場から墓地に置かれたとき、壁(Wall)1つを対象とし、それを破壊する。
2/1
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Goblin+Masons/

 ウルザズ・デスティニーのデザインで、私は「場を離れたとき」の効果を色々試していた。赤には2つの「何かを破壊する」効果を入れることにしていた。1つは土地を壊し、もう1つは壁を壊す。

 さて何かを壊すことに関してゴブリンたちより向いている種族はいるだろうか? いるわけがない。さらにゴブリンの伝統に従い、カード名には壊される対象の何かを作る職業名を用いることにした……そう、他の種族であればそれを作るのだが、さてゴブリンの場合は?

 その通り、彼らの場合は、同じ職業でもそれらを作るより壊すことの方に長けているんだ。そのようなわけでカード名は《ゴブリンの庭師/Goblin Gardener》と《ゴブリンの石工/Goblin Masons》 と相成ったわけだ。

Mogg Fanatic / モグの狂信者 (赤) - テンペスト
クリーチャー - ゴブリン(Goblin)
モグの狂信者を生け贄に捧げる:クリーチャー1体かプレイヤー1人を対象とする。モグの狂信者はそれに1点のダメージを与える。
1/1
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Mogg+Fanatic/

 テンペストのデザイン時には、私が Martyr(殉教者)と呼んでいたサイクルがあった。それぞれは生け贄に捧げると効果を誘発する能力を持つ C の1/1クリーチャーだった(Cというのは、R&Dが色マナ1点のマナコストを持つカードを呼ぶ俗称で、Cは「Colored mana」の略だ)。

 デベロップメント・チームのチェックを潜り抜けることが出来たのはそのうちの2枚、《モグの狂信者/Mogg Fanatic》と《ブラッド・ペット/Blood Pet》だけだった。それ以外の3枚のうちの2枚、《不運な研究者/Hapless Researcher》と《心優しきボディガード/Benevolent Bodyguard》は何年かののちにジャッジメントに収録された。

 緑の Martyr(殉教者)はどうなったかって? まあ、いつの日か登場するかもね。

Squee, Goblin Nabob / ゴブリンの太守スクイー (2)(赤) - メルカディアン・マスクス
伝説のクリーチャー - ゴブリン(Goblin)
あなたのアップキープの開始時に、あなたはあなたの墓地にあるゴブリンの太守スクイーをあなたの手札に戻してもよい。
1/1
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Squee%2C+Goblin+Nabob/

 ウェザーライト・サーガが主要なストーリー部分を占めていた時代、各セットに最低1人はウェザーライト号のクルーを収録したいと考えていた。メルカディアン・マスクスのデザイン中、私たちは収録するクルーをスクイーとすることに決めた。

 さて、スクイーが非常に人気のあるキャラクターであることを私はよく分かっていた。実のところ、全てのウェザーライト号のクルー中で最も人気のあるキャラクターだと私は信じていた。そのため使い勝手がよいだけでなく、かつフレイバー的に合致したカードにする必要があると考えたわけだ。。

 彼の物語上の役割を考えたとき、天啓が閃いた。スクイーはギャグ担当であり、それは彼が漫画的な存在であり、つまり彼はただただ死なないということだ。そこでそのフレイバーをカードのメカニズムに反映することにしてみた。君が何をどうしようと、こいつを退場したままにしておくことは出来ないんだ。

 カードが世に出てあと、小説版のストーリーでも実際に何度でも蘇れるようにと小説家はスクイーに再生能力を与えてくれた。

"Mons" って誰?

 Mons JohnsonというのはRichard Garfieldの友人だ。

 そしてこのMonsはゴブリンが大好きだった。

 この「大好き」というのは「ゴブリンに夢中だった」とかそんなレベルじゃない。ここで言っている「大好き」というのは、「ゴブリンに狂い、ゴブリンにとりつかれ、ゴブリンへの愛にあまりに胸が張り裂けんばかり」に大好きだったということだ。

 MonsはR&Dにほんの少しのあいだ在籍していた。R&Dにいる間、彼は大量のゴブリンデッキを作った。「ゴブリン・ステイシス」、「ゴブリンポテンス」、「ゴブリゲドン」などなどだ。

 Monsはゴブリンのために生きた。そんな彼のために、Richardはアルファの開発時に、Monsという単語をゴブリン全般を指す単語にすべきだと感じた。いや、まあ、全般は言い過ぎか。ゴブリンのリーダー的な存在にしたかった。

 そのようなわけでMonsという言葉はマジックとゴブリンの歴史に名を刻んだんだ。

Mons Johnsonの飲み会で使えるちょっとしたクイズについて

 もし君が(飲酒できる年齢に達しているとして)友人のマジック・プレイヤーたちと酒場にいて、1杯賭けようという話になった。そんなときに役に立つマジック・クイズだ。

 アルファのには、マナコストが(赤)で1/1ゴブリンがいる(ヒント。ついさっきまで話していた単語。ついでに言っておくと《ゴブリン気球部隊/Goblin Balloon Brigade》じゃないよ)。さて、そいつの名前を何も見ないで書けるかどうか。

 まあ、試しにどんな綴りだったか思い出してみてくれ。答えはこの下にある。







































 まだまだ下だよ。







































 まだまだ。







































 まだだよ。







































 まだだってば。







































 そうだね、ここらで止めてもいいんだけど、なんか楽しくなってきた。







































 よし!







































 そろそろイライラしてきた?







































 こういうことがゴブリンがするようなことなんだよ。







































 いや、マジで。







































 いや、ゴブリンがパソコン持ってたらの話だけどね。







































 質問を忘れちゃった人のためにもう1回。
 アルファの1/1のバニラのゴブリンの綴りはなーんだ? 答えはこの下。







































 おっと、まだ終わらせるつもりはないよ。







































 まだだね。







































 こんだけ時間を使ってしまったからには、もう止められないだろ?
 まだギブアップするには早すぎるぞ。







































 映画「オースティン・パワーズ」のオーディオコメンタリーでマイク・マイヤーズが言ってた。
 ジョークのオチは引っ張れるだけ引っ張れ、って。







































 面白さがそれだけ増すんだそうな。







































 さらに引っ張ると、さらに増す。







































 ただ、ある点を超えた時点でつまらなくなる。







































 だけどさらに引っ張ると、また面白くなってくる。







































 面白さが戻ってきただろ?







































 今はどう?







































 今は?







































 これについてたくさんのEメールが来るだろうなあ。







































 いつでも止めていいんだぜ? ほら。







































 ほーら、止めらんなかった。ね?







































 君は私の手の平の上だ! 逃げられないぞ! ふわはははっ!







































 分かったよ。もういいか。答えの時間だ。下へどうぞ。







































 また引っ掛かった。







































 とはいえそろそろ時間だ。最後に答えをお見せすることにしよう。







































 君はきっと、いつかチャーリー・ブラウンもルーシーの持ってるボールを蹴ってくれると信じているタイプの人間だろうね。







































 実は私もなんだ。高校の卒業アルバムでは「一番の楽観主義者」で1位をとったよ。







































 1位をとれると自分でも信じてたしね。







































 あまりにも楽観的だから血液型もB型さ。「レット・イット・ビー」ってね。







































 このジョーク(そう呼べるのであれば)は小さい頃からの持ちネタだよ。







































 さて、さすがに今回は本当に答えを明かす時間だ。







































 さすがにここまで引っ張ってしまうと盛り上がりには欠けてしまうだろうけど、このコラムもどこかで終わらせないといけない。さて、答えは……







































 チャーリー・ブラウンはいつまでもボールを蹴らないだろうね!







































 どちらにせよ、答えは教えてあげよう。さてそのカードの綴りは? 答えは「Mons’s Goblin Raiders」さ。おそらく大半の君たちは「Mons’s」の s の片方を見落としただろうね。

 さて、これでゴブリン週間の記事は終わりだ。みんながこの記事を楽しんでくれたことを祈ってるよ。ああ、ここで言っているみんなというのはここまで飽き飽きしつつも読み終えてくれた君たちだ。

 来週はオンスロートの舞台裏について語ろうと思う。

 それまでは次の文章に辿りつくまで画面をスクロールさせてくれ。

<文章・終わり>





































訳注:
 先に終わりだけ見ようとした人は反省してから上に戻って、ちゃんとMark Rosewater氏のジョークに付き合ってあげること。

【翻訳】より良いエンチャントのために(その2)/Enchantment For Better Things, Part Two【Daily MTG】(前編)
Mark Rosewater
2007年7月2日
元記事:http://www.wizards.com/Magic/Magazine/Article.aspx?x=mtgcom/daily/mr286

 エンチャント週間その2へようこそ! ……おや? エンチャント週間の2週目に突入したのは私だけのようだ。たった1人のテーマ週間といったところか。考えてみたら、テーマ週間と言うよりテーマ日と言うべきかもしれない。

 私が何の話をしているのかさっぱり分からない、という人は、先週のコラムに目を通して欲しい(またの名を「エンチャント週間その1」(註1)だ)。先週のコラムで私は、私がデザインしたエンチャントが1枚でも収録されている10個のブロックそれぞれから、1つずつエンチャントを選び、それについて話すということを始めた。先週は、最初の5個について話し終えた。今週は6個目から10個目について話そうと思う。
(註1) エンチャント週間その1
 原文では以下のURLへリンクが張られている。内容は記事にあるとおり。
 http://www.wizards.com/Magic/Magazine/Article.aspx?x=mtgcom/daily/mr285

 以下、そのコラムの拙訳。
 http://regiant.diarynote.jp/201106220720372950/

 ああ、それと11個目についても。

 いや、どうやら私は、数字よりも文字を扱うのが得意なようだ。そう、私はエンチャントを11個のブロックに対して作っていたらしい(まあ、まだ君たちの目に触れていないものを数えてもよいなら、11個よりも多いことになるが)。もしかしたら神河ブロックを無意識のうちに除外してしまっていたのだろうか?

 いやいや、もしブロックを1つ除外してよいのであれば迷わずメルカディアンマスクスブロックを除外しただろうから、それはない。何にせよ、私は大したデザイン能力を持ってはいるが、その反面、どうやら2桁以上の数字を数えるのが苦手らしい。これが何を意味するかというと、今日のコラムでは1枚追加で話を聞けるということだ(11枚目のカードのためだけに3週目へ突入するのはいいアイデアとは思えないからね)。

 さて言うべきは言った。ショーを始めよう。


総体の知識/Holistic Wisdom - オデッセイ
Holistic Wisdom / 総体の知識 (1)(緑)(緑)
エンチャント
(2),あなたの手札からカードを1枚、追放する:あなたの墓地にあるカード1枚を対象とする。それがこれにより追放されたカードと共通のカード・タイプを持つ場合、そのカードをあなたの手札に戻す。(アーティファクト、クリーチャー、エンチャント、インスタント、土地、プレインズウォーカー、ソーサリー、部族がカード・タイプである。)
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Holistic+Wisdom/

 創作活動の現場において興味深い点の1つに、自身の作品の中でもっとも誇るべき作品がどれなのかに気づくのに、ある程度の時間がかかることがしばしばある、という点が挙げられる。良いデザインが出来たと作った直後に分かることもある。他方で、良さが芽吹くまでに時間がかかるデザインもある。私にとって《総体の知識/Holistic Wisdom》はそんなカードの1つだ。

 セットのデザインをする際には、基本的に大量のカードについてブレインストーミングを行う時間をとることにしている。セットのテーマについてまず考え、あとは考えの赴くままに任せることにしている。思索を終えたあとにはいつも手元に「(セット名) のカードアイデア、(No. N)」という名のファイルが残される。(N番目)の数字は、最後にブレインストーミングを行った際に用いた番号に1を足したものだ。

 以下のカード、《Exchanger》のアイデアは「Argonのカードアイデア、No.2」のファイル作成中に生まれたものだ(オデッセイはそのデザインの最中、「Argon」というコードネームを与えられていた。それに続くセットのコードネームは「Boron」と「Carbon」だった。様々なコードネームがどのように生まれるのかについて知りたければ、私のコラム「Codename of the Game」(註2)を読んでくれ)。
(註2) Codename of the Game
 原文では以下のURLへリンクが張られている。内容は記事にあるとおり。
 http://www.wizards.com/Magic/Magazine/Article.aspx?x=mtgcom/daily/mr33

 これがその《Exchanger》だ。

  Exchanger(註3)
  2
  Artifact
  3, T, Remove a card in your hand from the game: Return target card of
  the same card type as the removed card from your graveyard to your hand.
(註3) 以下、非公式訳

 交換する者/Exchanger (2)
 アーティファクト
 3, (T), 手札からカードを1枚追放する:その追放されたカードと
 同じカードタイプであるあなたの墓地のカード1枚を手札に戻す。

 その通り。《総体の知識/Holistic Wisdom》は最初アーティファクトだったのだ。

 なんでかって? よく覚えていないが、おそらくこういうことだろう。これは多分私の好きな2枚の古いカードを2枚かけあわせた結果なのだと思う。1つがレジェンドの《回想/Recall》、もう1つがダークの《オームの頭蓋骨/Skull of Orm》だ。

 私は《回想/Recall》が墓地のカードを手札と交換してくれるのを楽しんでいたし、カードを繰り返し使えるように《オームの頭蓋骨/Skull of Orm》を中心にしたデッキを作ることも楽しかった。推測するにオデッセイのテーマである墓地利用に焦点を合わせたとき、心がふらりと昔のお気に入りであった2枚の墓地利用カードへと飛んでしまったのだろう。

 カードタイプを共有するカードしか交換できないというのは、《回想/Recall》の「交換する」というメカニズムを残しつつもそれを少し制限することで繰り返し利用可能という危険性を弱めようする私なりの案だったのだろう。またその制限は今まであまり使ったことの無い方法だったので、試しに使ってみるのも面白いんじゃないだろうか、と私たちは考えた。

 そう決まったところで次の疑問がわいてくるのではないだろうか。どうしてこのカードは「緑」になったんだ?、という疑問だ。うーん。アーティファクトをデザインしている最中、たまに後頭部を軽くつついてくる何かがあるんだ。その何かが話しかけてきたと仮定しよう。こんな会話になりはずだ。
何か
  マーク!

  やあ、何かじゃないか
何か
  話があるんだ。このカードについてなんだけど……

  当ててみせようか。何かがおかしい、ってんだろ?
何か
  もちろん何かがおかしいのさ。だから僕が来たんだよ!

  冗談だよ、分かってるさ……で、何がおかしいんだい?
何か
  《Exchange》だよ。これについて話があるんだ。

  これが気に入らないのかい?
何か
  ううん。大好き。

  微妙かな。
何か
  ううん。メカニズムはいいと思うよ。

  もうちょっと簡単にしたほうがいい?
何か
  メカニズムはいいと思う、って言ってるじゃん!

  だとすると……?
何か
  これ、アーティファクトじゃないと思うんだ。

  アーティファクトでもいいんじゃない? 前にもこういうのあったよ。
何か
  アーティファクトでもいいかもしれないけど、有色カードのほうがもっといい。

  そうか、どの色でも出来ることじゃないもんな。
何か
  どの色でもいいなんて僕は言ってないよ。

  おいおい、随分とつっかかってくるなあ。分かったよ。
  要するにアーティファクトより単色カードにふさわしい、って話だね。
何か
  うん。

  じゃあ、何色がいいかな。
何か
  ねえ、僕は何者でもないんだ。アイデアを膨らませるのは僕の仕事じゃないよ。
  ここまで話を聞けただけでも運が良かったと思わなきゃ。
  本当なら自分で気づくべきことなんだよ。

  君が「それは緑だよ」って言うのを聞きたかっただけなんだ。
何か
  分かってるならなんで僕に聞くのさ?

  おいおい、私たちはそういう関係だろうに。
何か
  で、なんで緑なの?

  緑は再生の色だからさ。私は君の考えてることなら何でもお見通しだよ。
何か
  今あるカードのどれかと入れ替える?

  緑に欠員が出たらね。
何か
  出なかったら?

  単なる何かの割りには随分と頑張るね。大丈夫だよ、きっと必要になるさ。
  いつだって追加のカードは必要になるんだから。

 実際に必要になった。以下のカードが私たちによって亡き者にされたためだ。

  Twilight’s Regrowth(註4)
  2GG
  Sorcery
  Salvage 5GG #(If this card is in your graveyard, you may play it as though
  it were in your hand. If you do, its mana cost is 5GG, and remove it from
  the game as part of the spell’s effect.)#
  Return target card in your graveyard to your hand.
  Remove from the game all other cards in your graveyard of the same card type.
(註4) 以下、非公式訳

 黄昏の再成長/Twilight’s Regrowht (2)(緑)(緑)
 ソーサリー
 回収 (5)(緑)(緑)(もしこのカードがあなたの墓地にあった場合、
 あなたは手札にあるかのようにこれを唱えてよい。そうした場合、
 これのマナコストは(5)(緑)(緑)であり、呪文の効果の一部として追放する)
 あなたの墓地にあるカード1枚を対象とし、それをあなたの手札に戻す。
 あなたの墓地にあるそれとカードタイプを共有する全てのカードを追放する。

 ちなみに上記の Salvage というのは、デザインフェイズにおけるプレイテスト期間の flashback の仮名称だ。このカードはちょっとした混乱の元で、デザイン・チームはこれのスロットを埋める代替案を探していた。

 なるほど。「レア」で「緑」で「再利用の呪文」の代わりが欲しいとな?

 出番だぞ、《Exchanger》!

 そのようなわけで、《総体の知識/Holistic Wisdom》は緑に居場所を見つけたというわけさ。マナコストと起動コストに少し手を加えたほかは、オデッセイのデベロップメントチームもこのカードをそのままにしておいてくれた。

 このカードから得たデザイン上の教訓、それはデザインが向かおうとしている方向へ行かせてあげることが大事だということだ。私が最初このカードをアーティファクトとしてデザインしたからといって、それがあるべき姿だとは限らない。

 良いデザインとは、カードが息づき成長するのを見守り、自らのあるべき姿へ辿り着けるようにしてあげることだ(皮肉にもこれは実際の子供たちに対する姿勢に対しても同じことが言える)。脚本の授業で教師が教えてくれたことの1つに以下の言葉がある。「君のアーティストとしての仕事は、興味深いキャラクターを作ること、そして彼らが言いたいことを彼らの側から言わせることだ」


稲妻の裂け目/Lightning Rift - オンスロート
Lightning Rift / 稲妻の裂け目 (1)(赤)
エンチャント
プレイヤーがカードをサイクリングするたび、あなたは(1)を支払ってもよい。そうした場合、クリーチャー1体かプレイヤー1人を対象とする。稲妻の裂け目はそれに2点のダメージを与える。
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Lightning+Rift/

 物事が順調に進んでいれば、デザインチームはそのセットで新たに用いられる全てのメカニズムを記したファイルをデベロップメントチームへ手渡すことになる。しかし多くのセットではそうはいかなかった。私はデベロップメント側でいくつものカードが殺されてきたことをしばしば書いてきた。メカニズムについても同じことだ。

 デベロップメント側でメカニズムが亡き者にされてしまう理由は様々だ。パワーレベル、おかしなシナジー、ルール問題、テンプレート問題、単純にそのメカニズムがつまらないから、などなどだ。いずれにせよ、当時私たちはオンスロートの開発にどっぷりと浸かっており、かつ私たちは何らかのメカニズムを探していた。幸いなことにすでに私たちの手には変異のメカニズムがあったので、各セットに1つは必要となる革新的なメカニズムについては問題はなかった。

 私たちに本当に必要だったのは、汎用性の高い基本的なメカニズムだった。プレイしやすく、リミテッドを円滑に回し、現在あるいかなるカードとも上手く合わせられるような柔軟性の高いものだ。「分かるだろ、サイクリング(註5)みたいなものが必要なんだ」と私は言った。
(註5) サイクリング
 手札にあるときだけ使える起動型能力で、カードごとに設定されたコストを支払うことで「このカードを捨てる:カードを1枚捨てる」という効果を誘発する。カードによっては「サイクリングしたとき」に追加効果を誘発するものもある。

 そう、私たちに必要なメカニズムはサイクリングのようなものだった。私たちは何週間ものあいだ、アイデアをぶつけ合ったり意見を出し合ったりした。ある日、私が口に出した言葉がその作業に終わりを告げた。

「サイクリングみたいなものってサイクリングじゃないか?」

 それに対する回答は以下のとおりだ。

「サイクリングはサイクリング「みたいな」ものじゃない、それはサイクリングそのものだ! 同じものを単にもう一度使うなんて出来るわけがない」

 なんでダメなの?、と重ねて尋ねる。

「キーワードメカニズムをただ再利用するなんてしちゃダメだろう」

 なんで?、とまた尋ねる。

「各セットには革新的な何かが必要で、新たなメカニズムでそれがもたらされるからだ」

 私は、サイクリングでその革新的な何かを作り出せばいいじゃないか、と返した。

「そうだね。やってみたら?」

 だから私はやったのだ。

 私は、それは出来ないと言われたからという理由だけでそれをやりたくなるタイプの人間の1人だ(もしかしたら私の中の特に「ジョニーな部分」がそうさせるのかもしれない)。どちらにせよ、当時のサイクリングの扱われ方は少々保守的に過ぎた。革新的な変化を受け入れる余地は十分にあるはずだ。まず手をつけるべき場所ははっきりしていた。サイクリング・コストだ。それは十分に練られていなかった(註6)。
(註6) 十分に練られていなかった
 初登場時のウルザ・ブロックでは全てのサイクリングコストは一律に(2)であり、それ以外のサイクリングコストは一切存在しなかった。

 次に私は「サイクリングしたとき~」という効果を持つカードを作ってみた。よーし、エンジンが温まってきたぞ。この試行錯誤の最中に私が作ったカードの1つが以下のカードだ。

  Bolt of Lightning(註7)
  1R
  Sorcery
  CARDNAME deals 3 damage to target creature or player.
  Cycling R (You may pay R and discard this card from your hand to draw a card.
  Play this ability as an instant.)
  When CARDNAME cycles, CARDNAME deals 1 damage to target creature or player.
(註7) 以下、非公式訳

 稲妻の稲妻 (1)(赤)
 クリーチャー1体かプレイヤー1人を対象とする。
 ~ はそれに3点のダメージを与える。
 サイクリング (赤)(このカードを捨てる:カードを1枚引く。
 この効果はインスタントタイミングでプレイできる。)
 あなたが ~ をサイクリングしたとき、あなたはクリーチャー1体か
 プレイヤー1人を対象とする。~ はそれに1点のダメージを与える。

 私はこのカードが気に入った。このカードは私に興味深い選択を迫る。(1)(赤)で3点のダメージか、(赤)で1点のダメージとキャントリップか。そこで私はさらに貪欲になった。ダメージとキャントリップを両方得る手段はないか? ただサイクリングするだけで利益を得ることはできないか? この考えは、逆に他のカードをサイクリングしたときに効果が誘発するカードを私に思いつかせた。以下の通りだ。

  Standing Shocker(註8)
  1RR
  Enchantment
  Whenever a card is cycled, you may have CARDNAME deal 1 damage to
  target creature or player.
(註8) 以下、非公式訳

 立ちつくすショッカー
 1赤赤
 エンチャント
 カードがサイクリングされたとき、あなたはクリーチャー1体かプレイヤー1人を
 対象としてもよい。~ はそれに1点のダメージを与える。

 このカードと一緒に、「サイクリングしたとき」の効果を持つカードと(2)以外のサイクリング・コストを持つカードを携えて私はR&Dへ向かった。そしてこれらのサイクリングに関するカードをセットに入れるよう売込みをかけた。

 《立ちつくすショッカー/Standing Shocker》は明らかに良いカードだったが、それでもなお手直しが入った。マナコストが減少し、ダメージが増やされた。それからこのカードをレアにしようという話があがったが、私や他のR&Dメンバーは、このカードはリミテッドを面白くしてくれるはずだからアンコモンがふさわしい、と主張した。

 最後の変更として、その能力の起動コストにマナが追加された。その頃には、サイクリングがオンスロートブロックの大きな位置を占めることがデベロップメント・チームにも分かっていた。そのため、このカードが手におえなくなる可能性が常に見え隠れしており、起動にマナコストを必要とすることでカードの危険性を抑えたのだ(不思議なことに、誰も同じ調整が《霊体の地滑り/Astral Slide》にも必要だとは考えなかった)。

 このカードから得た教訓は、すでに用いられたアイデアを再分析することの価値だ。多くのカードやメカニズムは、そのうちにデザインの可能性が脈々と流れている。しばしばデザイナーは新しくて異なるものに惹かれてしまう。私はこれを「下手なフライドチキンの食べ方」と呼んでいる。

 たくさんのフライドチキンを食べてる人を見たことがあるだろう。彼らは各ピースから数口食べただけで次のピースに移ってしまう。次のチキンがたくさんあるせいで、もう少しの労力を使ってさらなる数口を得る努力を怠ってしまうんだ。

 デザインにも同じことが言える。アイデアに見切りをつけることは簡単だ。本当の挑戦とは、最初の数口を食べたあとのフライドチキンにまだ肉が残されて見つけることだ。その部分を得るにはさらなる労力を要するかもしれない。しかしそこにはそれだけの旨みがあるのだ。
後編へ続く
http://regiant.diarynote.jp/201107022102023807/

【翻訳】より良いエンチャントのために(その2)/Enchantment For Better Things, Part Two【Daily MTG】(後編)

終わりなき囁き/Endless Whispers - フィフスドーン
Endless Whispers / 終わりなき囁き (2)(黒)(黒)
エンチャント
各クリーチャーは「このクリーチャーが戦場から墓地に置かれたとき、対戦相手を1人対象とする。次の終了ステップの開始時に、そのプレイヤーはこのクリーチャー・カードを、その墓地から自分のコントロール下で戦場に戻す。」を持つ。
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Endless+Whispers/

 もし君がいつかウィザーズに仕事を得ることが出来たら、出社初日にぜひともやってみて欲しいことがある。まず、Multiverseへアクセスすること。これは私たちがマジックのために用いているデータベースだ。次に、どれかエキスパンションを選び、Dev Commentと呼ばれる製作者たちのコメントを読み始めるんだ(ちなみに「Dev Comment」の「Dev」はデベロッパーの略だが、実際にはデザインチームとデベロップメントチームの両方がここを使っている)。

 マジックの制作プロセスに関するより豊かな洞察を君はここから得ることが出来るだろう(私とAaron Forsytheが機会のあるごとに君たちにここを覗き見させているのはそういうわけだ)。

 なぜ私はここでMultiverseの話を持ち出したのか? なぜならこの記事を書くに当たってリサーチを行った際(そのとおり、驚くかもしれないが、私だってたまにはそういうことをしているのだ)、私はMultiverseの《終わりなき囁き/Endless Whispers》に関する箇所に目を通してみた。

 その結果、なかなか面白い事実が判明した。このカードに関して話そうと思っていたこと、全てを押しのけてしまうほどに興味深い内容だった。さて、それについて話す前に説明しておくべきことがある。まずは、《終わりなき囁き/Endless Whispers》の最初期のバージョンを紹介しよう。

  Death Chime(註9)
  4
  Artifact
  Whenever a creature goes to a graveyard from play, any opponent of
  that creature’s controller may pay 1 to put that creature from
  the graveyard into play under their control.
(註9) 以下、非公式訳

 死のチャイム/Death Chime (4)
 アーティファクト
 クリーチャーが戦場から墓地に置かれたとき、そのクリーチャーの
 コントローラーのどの対戦相手も(1)を払うことでそのクリーチャーを
 墓地から自分のコントロール下で戦場に戻してよい。

 そのとおり。またしても「生まれたときにはアーティファクト」なカードだ。もっとも、このカードに関しては、生まれがミラディンブロックだったから、という言い訳が出来る。Multiverseでこのカードに関してつけられていたコメントは以下の通りだ。R&Dのメンバーをイニシャルから判断するのが苦手な人のために、どれが誰だか解説をつけておこう。
AF:アーロン・フォーサイス/Aaron Forsythe
 今やR&Dのディレクターだが、フィフスドーンの頃はR&Dのメンバーですらなかった。当時の彼はまだ Magicthegathering.com を運営しており、その彼をフィフスドーンのデザインチームに入れたのは私とRandy Buehlerだった。その理由は、チームに引き込むことで実際にR&Dがどのように機能しているのかを肌で感じてもらい、それによって彼が公式サイトの「Behind the Scenes」の記事をより良いものに出来るのでは、と考えたためだ。少なくともその経験を元にした素晴らしい記事を書いてくれるはずだった(まさかかわりに素晴らしい職歴を加えることになるとは誰も予想できなかったよ)。もし君がAron Forsytheを知らないというのなら、公式サイトで金曜日に掲載される「Latest Development」のコラムをチェックしたまえ。

MR:私だ。

BS:ブライアン・シュナイダー/Brian Schneider
 彼はのちにデベロッパーのトップになる。確か当時はただのシニア・デベロッパーの1人だったはずだ。

RB:ランディ・ビューラー/Randy Buehler
 今ではデジタルゲーム部門の副責任者だ。あの頃は(今ではAaron Forsytheが担当している)R&Dのディレクターだった。フィフスドーンではデザインチームに加わっていた。

BT:ブライアン・ティンスマン/Brian Tinsman
 デザイナーだ。フィフスドーンの当時、彼はデザインチームでもデベロップメントチームでもなかった。しかしR&Dのメンバーであれば誰でも好きにカードに関するコメントを残すことができたんだ。ちなみに彼はミラディンのデザインチームの一員でもある。

PB:ポール・バークレイ/Paul Barclay
 確か当時の彼はルール・マネージャーだったはずだ。

TB:タイラー・ビールマン/Tyler Bielman
 彼はミラディンのデザインチームのメンバーだった。

 さあ、参加者について分かってもらえたところで、当時にダイブしてみよう。
  AF 03月07日:
     このカードは《Accursed Centaur》と問題を起こすかもしれない

  MR 03月28日:
     アーティファクトから黒のエンチャントに変更したらどうか
     すでにレアのアーティファクトは多くあるが、黒のレアが足りない

  BS 04月04日:
     1回読んだだけじゃ何をするのか理解できない
     面白そうではあるけど、ちょっと複雑すぎる

  RB 04月11日:
     個人的にはアーティファクトのほうがいいと思う
     黒だと他のリアニメイトな効果の中に埋もれてしまいそうだ

  MR 04月11日:
     良いレアのアーティファクトが多すぎ、かつ黒のレアが足りないので移動

  MR 04月14日:
     環境に影響を与えるようなアーティファクトを増やしたいので、戻した

  MR 04月15日:
     多人数戦でもっとクリーチャー戦が盛んになって欲しい

  AF 04月17日:
     念のため。このカードにそんな効果はない

  MR 04月21日:
     念のため。テンプレートチームにそうなるよう伝えてくれ

  BS 04月28日:
     これは黒であるべきか?

  AF 04月28日:
     このルールテキストが成立することにびっくりだ

  BF 05月02日:
     イカレてるね

  BS 05月05日:
     その文言では解決にならない。
     多人数戦に配慮し過ぎてその他のプレイヤーをがっかりさせるのは避けたい
     現在ある以下の文言はカットすべきだ
     「そのプレイヤーの各対戦相手は(1)を支払ってもよい。
      もしちょうど1人のプレイヤーがそうした場合、
      そのクリーチャーをそのプレイヤーのコントロール下で場に出す。
      もし2人以上のプレイヤーがそうした場合、この処理を繰り返す」

  MR 05月06日:
     このカードの効果にはコストが必要
     さもなければキメラなどのカードがインスタント速度で行ったり来たりして
     無限ドローにつながるおそれがある

  PB 05月07日:
     イライラは減ったし、伝説のクリーチャーの問題もなくなったけど
     相変わらず読みづらい

  BS 05月07日:
     このカードが秘めてる政略的な要素は好きなんだが……
     本当に私たちが望むとおりの動きをしてくれるんだろうか

  TB 06月03日:
     複雑すぎるし、出来ればアーティファクトにしたい
     黒のエンチャントでも問題はないが、このブロックに関しては
     こういう効果もアーティファクトに割り振るべきでは?

  AF 06月04日:
     面白いね、何かが変わるたびに同じカードで同じ議論が再燃だ

  BS 06月04日:
     問題なく機能するテンプレートがいまだに得られてない
     世に出るべきでないカードとして終わる可能性がある
     もっとシンプルなカードがふさわしいのかもしれない

  MR 06月05日:
     これはアーティファクトだ
     これはエンチャントだ
     アーティファクトだ
     エンチャントだ
     頭がぐるぐるしてきた

 個人的にこの変遷の興味深い点は、特定のカードには複数の問題点が常につきまとうという現象を見事に再現していることだ。あるグループはカードの色について議論し、別のグループはその機能性を憂慮し、さらに別のグループはそれが多人数戦でどう働くかを気にしている。


 このカードから得た教訓は次の通りだ。多くの視点から眺めるべし。全てのメンバーはそれぞれ固有の視点からそのカードを評価し、その結果、1人では決して得られない洞察を加えてくれる。カードのデザインとはグループワークだ。グループをそこから遠ざけてはいけないんだ。


春の鼓動/Heartbeat of Spring - 神河物語
Heartbeat of Spring / 春の鼓動 (2)(緑)
エンチャント
プレイヤーがマナを引き出す目的で土地をタップするたび、そのプレイヤーは自分のマナ・プールにその土地が生み出した好きなタイプのマナ1点を加える。
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Heartbeat+of+Spring/

 これは緑の《ほとばしる魔力/Mana Flare》だ。

 これをデザインするのがそんなに大変だったのか、って? 大変じゃなかったよ。実のところ、これのために「デザインする」という工程があったのかどうかすら定かではない。おそらく、リチャードはアルファ版に対して非常に深い敬意を抱いている、ということくらいしか分からない。

 そのとおり。ここで話したいのはどのようにして生まれたかではなく、それが実際にセットに収録されるまでの道のりについてだ。私たちは第5版のデベロップメントの最中まで遡る必要がある。

 デザインチームは以下の3人だった。
 Skaff Elias:
    プロツアーの発案者でありその他もろもろの発案者でありR&Dの生ける伝説だ。
    冗談だと思うなら、検索エンジンに彼の名前を放り込んでみてくれ。
    検索結果に出てくるであろう私の記事を1つでもいいから読んでくれれば分かる。

 Robert Gutschera:
    R&Dに10年以上在籍している一握りのベテランたちの1人、それがロバートだ。
    マジックにも軽く手を出しているが、同時に他の多くのゲームにも関わっている

 Mark Rosewater:
    私だ。

 ああ、そのとおり。基本セットに《ネクロポーテンス/Necropotence》を持ちこんだのはこの3人だ。何にせよ、第5版を構築している最中、デザインの必要ありと思われるカードの一覧を私たちは作った。このリストはいくつにもカテゴリ分けされていた。

 あるカテゴリは、良いカードではあるもののカードパワーが高すぎるか低すぎるため適正なマナコストでリメイクする必要があるカードたちが集められていた。あるカテゴリは、よりシンプルな効果であるべきなのに一度もそのようなリメイクがされなかったカードたちが集められていた。あるカテゴリは、単に今まで一度も作られたことのないカードたちが集められていた。

 そして最後に、単に違う色で作られるべきだったカードたちを集めたカテゴリがあった。そのリストの中頃に「green Mana Flare」という3つの単語が並んでいたわけだ。

 このリストが作成されたのが1996年。神河物語が発売されたのが2004年。8年後だ。

 何があったのだろうか?

 単純に私たちがこのリストの存在を忘れてしまい、カビ臭い引き出しから何年も後になって発掘したのだろうか? 違う(なぜならそんなことは実際には決して起こり得ないと聞いているからだ)(註10)。
(註10) カビ臭い引き出しから何年も後になって発掘した
 アイスエイジ・ブロックの2つ目のエキスパンションであるコールドスナップは、コアセットであるアイスエイジ(1995年)と1つ目のエキスパンションであるアライアンス(1996年)に遅れること10年、2006年に発売された。
 なぜこんなに間が開いたのかについては当初「オフィスの引っ越しの最中に古い段ボール開けたら、誰も存在すら知らなかったアイスエイジのエキスパンションセットが見つかったよ!」というとんでもない説明がなされていたが、これは冗談だった。信じた人もいたんじゃないかな。いたと言ってくれ。1人じゃさびしい。

 事実はまったくの逆だ。私は持てる力の限りを尽くして、このカードが実際に印刷されるよう頑張ったのだ。私がデザイン・リーダーを務めたありとあらゆるセットにこのカードをねじ込み、私がカードを作る機会のあったありとあらゆるセットでこのカードを提出した(つまりアライアンス以降の全てのセットでそれを行ったということだ)。

 何がこのカードが世に出るのを邪魔したのか? 何か、だ。毎回、「何か」がやって来てデベロップメント・チームはこのカードをふるい落とすか変更する必要に迫られた。いくつか例を挙げてみようか。

 テンペスト
 デベロップメント・チームは《大地の知識/Earthcraft》(註11)が似たような効果を持っていると感じた。両方とも土地に通常以上のマナを出させてくれる。彼らは《大地の知識/Earthcraft》のほうが「green Mana Flare」より面白いと感じた。

 ウルザズサーガ
 デベロップメント・チームは、もう少し常識にとらわれない感じにしたい、と感じたためこのカードを《花盛りの春/Vernal Bloom》(註12)にしてしまった。

 インベイジョン
 デベロップメント・チームは《過ぎたる実り/Overabundance》(註13)が気に入っており、これと「green Mana Flare」は同じセットには存在できないと判断した。

 ミラディン
 デベロップメント・チームは《超次元レンズ/Extraplanar Lens》(註14)が気に入っており、これと「green Mana Flare」は合わないと感じた。そして《超次元レンズ/Extraplanar Lens》は 刻印/Imprint というブロックの目玉キーワードを持っており、抜くことは出来なかった。
(註11) Earthcraft / 大地の知識 (1)(緑)
 エンチャント
 あなたがコントロールするアンタップ状態のクリーチャーを1体タップする:基本土地1つを対象とし、それをアンタップする。
 引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Earthcraft/

(註12) Vernal Bloom / 花盛りの春 (3)(緑)
 エンチャント
 森(Forest)がマナを引き出す目的でタップされるたび、それのコントローラーは自分のマナ・プールに(緑)を加える(そのマナは、その土地が生み出すマナに追加で加えられる)。
 引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Vernal+Bloom/

(註13) Overabundance / 過ぎたる実り (1)(赤)(緑)
 エンチャント
 プレイヤーがマナを引き出す目的で土地をタップするたび、そのプレイヤーは自分のマナ・プールにその土地が生み出すことのできる好きなタイプのマナ1点を加え、過ぎたる実りはそのプレイヤーに1点のダメージを与える。
 引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Overabundance/

(註14) Extraplanar Lens / 超次元レンズ (3)
 アーティファクト
 刻印 ― 超次元レンズが戦場に出たとき、あなたがコントロールする土地1つを対象とする。あなたはそれを追放してもよい。
 その追放されているカードと同じ名前の土地がマナを引き出す目的でタップされるたび、それのコントローラーのマナ・プールに、その土地から引き出された好きなタイプのマナ1点を加える。
 引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Extraplanar+Lens/

 それ以外のときもこのカードは似たような何かに押しのけられてきたわけだ。こういう扱いを受けたカードは今までに何枚も見て来た。では一体全体どうやってこのカードを神河物語に私がねじこんだのだろうか?

 私はやってない。Brian Schneiderがねじ込んだ。

 なんでかって?

 なぜなら彼はそれはどのセットにだって入るべきカードであり、これが収録されないのであればデベロップメント・チームなんて必要ないと思っていたからだ。それを知ったとき、私の第一声は「ああ、じゃあ、やっと収録されるのか」。

 私がこのカードから得た教訓はシンプルなものだ。

 ネバーギブアップ、さ。

 デザインとはその大半がひらめきだ。しかしそこには必ず努力も含まれている。セットにカードを加えたいと考えている未来のデザイナーたちへ伝えたいアドバイスは「必要なものは2つ。デザインの質と忍耐だ」。これら2つがあるのなら、どんなカードであってもいつかは目的地へ辿りつける。

 この話を終えるに当たってちょっとした余談を付け加えておきたい。《春の鼓動/Heartbeat of Spring》は第10版に収録されかけたが、R&Dは当時の環境はこのカードと距離を置くべきだと考えたため、脱落してしまった。

 これが何を意味するのか?

 これが意味するところは、これがいつか帰って来る、ということだ。いつ帰って来るか、だって? そんなこと知らないよ。私に分かっていることは、これから基本セットの選定を行うたびに私はこのカードを候補に挙げる、ってことさ。これがスタメン入りするまでね。10年と少しの年月の中で私が学んだことがあるとすれば、それは忍耐さ。


倍増の季節/Doubling Season - ラヴニカ
Doubling Season / 倍増の季節 (4)(緑)
エンチャント
いずれかの効果があなたのコントロール下で1個以上のトークンを出す場合、代わりにそれはその2倍の数を戦場に出す。
いずれかの効果があなたがコントロールするパーマネントの上に1個以上のカウンターを置く場合、代わりにそれはその2倍の数をそのパーマネントの上に置く。
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Doubling+Season/

 今まで私のコラムの中で幾度となく言及してきたことの1つに、いかにMark Gottliebと私が「ヒーロー」と「悪党」の役割をそれぞれ演じてきたか、ということがある(そのとおりだよ。私が「ヒーロー」だ。なんで誰も信じてくれないんだ!)。

 何にせよ、良い「ヒーローと悪党」の対立関係とは特定のトピックに関してその2人が異なる主義主張を持ち、それを理由とした継続的な衝突を通して作品の根底に流れるテーマをかすかに匂わせることにある。Mark Gottliebと私にもそのようなトピックがある。「Doubling(2倍)」だ。

 あれは、遠い昔のことだ。当時、私が持ち歩いていたデッキは緑青のウィニーデッキだった。マジックにはヴィンテージしか存在しなかった頃だ。構築フォーマットが1つしか存在しなかったんだ。所持するカードであればなんでも使えた(え? 分かった、分かった。確かに何枚かの制限カードと、数枚の禁止カードもあった)。

 私のデッキは、0/1や1/1のおチビさんたちを2ターン目か3ターン目に +20/+0 してあげることが全てだった。例えば、1ターン目に《極楽鳥/Birds of Paradise》を出したとする。対戦相手は、なんとお粗末な1ターン目だろう、と嘲笑し、当然その0/1の飛行クリーチャーを放っておいてくれる。

 2ターン目は、《森/Forest》+《Mox Sapphire》+《Black Lotus》+《不安定性突然変異/Unstable Mutation》+《巨大化/Giant Growth》+《Berserk》+《Regrowth》+《Berserk》で、パワー24の攻撃だ(引きが良すぎる? 確かにそうかもしれないが、正直自分でも驚くほどの回数の2ターンキルに今まで成功してきたよ)。(註15)
(註15) ~で、パワー24の攻撃
 以下のカードを組み合わせると、ひ弱な 0/1 も、24/7 のマッチョになる。ただし、次のターンのアップキープに死ぬ。理由を知りたい人は以下の簡略版ではなく《不安定性突然変異/Unstable Mutation》のテキスト全文を読むこと。

 《Mox Sapphire》
        :タップすると青1マナでる0マナのArtifact
 《Black Lotus》
        :生け贄に捧げると好きな色が3マナ出る0マナのArtifact
 《Unstable Mutation》
        :クリーチャーを+3/+3する青のAura。コストは(青)
 《Giant Growth》
        :クリーチャーを+3/+3する緑のInstant。コストは(緑)
 《Berserk》
        :クリーチャーのパワーを2倍にする緑のInstant。コストは(緑)
 《Regrowth》
        :墓地のカードを1枚手札に戻せる緑のSorcery。コストは(1)(緑)

 これが「Doubling(2倍)」と何の関係があるのかって? おいおい、話を聞いてなかったのか! 私の2ターン目には《Berserk》が2回出て来ただろう?

 6点のダメージを24点に変える方法なーんだ? 坊や、それは「Doubling(2倍)」よ。

 リバイスドが出た際、この《Berserk》は基本セットから脱落した。雑誌のThe DuelistでR&Dが《Berserk》の落ちた理由について「Doublingという効果が強力過ぎるため」と回答していた(念のため。これは私がR&Dに入るずっと前の話だ)。

 これを見たとき、私は固く誓った。私はこれからウィザーズ社に入社するべく粉骨砕身の努力をしてみせる。そして出世競争を勝ち上がり、このゲームに再び「Doubling(2倍)」を復活させる権限を持つだけの地位についてみせる。私はそれほどまでにこの「Doubling(2倍)」に惚れこんでいた。そうとも。マジックに「Doubling(2倍)」が復活するまで私が立ち止まることはない。

 カード案を提出する権利を得た私は「Doubling(2倍)」を持つカードを復活させた。もちろん、最初そこには抵抗勢力が存在したが、私は一歩も引くつもりはなかった。その頃の私は、ついにセットのリーダーという地位を手に入れていたからだ。私こそがデザインを左右する番人だった。「Doubling(2倍)」カードたちは前線へと送られていった。(私がリード・デザイナーを務めたセットかどうかを判断したければ、そこに「Doubling(2倍)」なカードがあるかをチェックすればいい。ちなみにフィフスドーンには3枚あるよ!)

 しかしそんな私が失念していたことが1つあった。

 ルール・マネジャーの存在だ。

 ルールは、ある種の値を「Doubling(2倍)」することを嫌った。例えば、クリーチャーのパワーだ。なぜそうなのかをここに書くことはできる。しかしそれをここに書いてしまうと、Mark Gottliebが口が酸っぱくなるほど「それは出来ない」と私に言い聞かせていることが「本当に出来ないのだ」ということを私が理解しているのがバレてしまう。

 そんなことはごめんこうむる。私の「Doubling(2倍)」探求の旅はまだ終わっていないからだ(なので、どうしても知りたければ、質問コーナーにMark Gottlieb宛てのお便りを送ってくれ。私はそれに目を通さないことを約束するよ)。

 そんなこんなで《倍増の季節/Doubling Season》だ。

 ラヴニカの緑が持つ主要なテーマは「Growth/成長」だ。緑白のギルドであるセレニアにとって、緑とは1/1トークンを作り出すことだった。黒緑のギルドであるゴルガリにとって、緑とは単体のクリーチャーを+1/+1カウンターで成長させることだった。

 なるほど、と私は考えた。

 緑はトークンとカウンターを作るとな?

 さて、どうやったら緑のこのテーマを活かせるだろうか。このとき、聖なる一条の光が空を覆う暗雲を貫いて私を照らし、賛美の歌が天高く空気を満たした。2つのものを「Doubling(2倍)」するカードを作ればいい。「Doubling(2倍)」を2倍にするんだ!

 その幸せな気持ちは私を不安にした。

 あまりに幸せだったからだ。

 私が作り出したそれはあまりに美しかった。そういったものが破滅の運命を辿るに決まっていることは、アメコミを読みこんでいる私には自明のことだった。「救おうとした私の力は届かず、最大の敵によって大橋から投げ落とされた彼女の首は無残にも砕かれる」運命にあるのだ(註16)。間違いない。Mark Gottliebはその巧妙に隠されたアジトで巨大なモニターに映る私を哄笑しているのだ。
(註16) 運命
 以下、原文。「Webbing」とあるので、スパイダーマンの1シーンが元ネタのはず。確か映画の1作目にそんな感じのシーンがあった気がする。漫画版は知らない。

  "Tossed off a bridge by my greatest enemy and broke her neck
  when I tried to save her with my webbing" doomed.

 我々2人が、次に遭遇したときの会話はこんな感じだった。
 Mark Rosewater(以下、MR):やあ、Gottlieb。

 Mark Gottlieb(以下、GB):ああ、Rosewaterじゃないか!

 MR:更新されたラブニカのファイルには目を通したかい?

 GB:ああ。

 MR:何か気になることはあった?

 GB:そりゃ、まあ色々とね。何かあったの?

 MR:……茶番はよそう。私がどのカードの話をしているのか分かってるはずだ。

 MG:ふむ、君は「Doubling(2倍)」を2倍するカードを作れると思ってるわけだね。

 MR:作ったんだよ。大丈夫かな?

 MG:もちろんさ。何の問題もないよ。

 MR:つまり、このまま印刷しても問題なしってことだね?

 MG:そうだね。「Double」って単語は「Twice」に置き換えたけど、後はそのままさ。

 MR:地獄に堕ちろ、Gottlieb!

 私がこのカードから得た教訓、それは感情の赴くままに行動せよ、だ。もしそれが君のデザインセンスを刺激するなら、他のメンバーのそれも刺激するはずだ。偉大なるカードは、天高く光る星に手を伸ばすところから生まれる。そして《倍増の季節/Doubling Season》に対して何らかの反応が得られたということは、彼らの何かを刺激したということだ。


光糸の場/Lumithread Field - 未来予知
Lumithread Field / 光糸の場 (1)(白)
エンチャント
あなたがコントロールするクリーチャーは+0/+1の修整を受ける。
変異(1)(白)(あなたはこのカードを、(3)を支払うことで2/2クリーチャーとして裏向きに唱えてもよい。その変異コストを支払うことで、それをいつでも表向きにしてよい。)
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Lumithread+Field/

 よくプレイヤーたちから、どこからアイデアを得ているんですか?、と聞かれる。私の回答は、そこら中から、だ。そもそも《光糸の場/Lumithread Field》は、私が自身に以下の制約を加えたところから始まる。「変異持ちのエンチャントを作れ」とね。

 それについて少し考えを巡らしたところで気づいたのは、私が作らねばならないエンチャントとは、非変異した際にちょっとした驚きを生み出すものでなければならない、ということだ(はいはい、非変異じゃなくて「表向きにする」ね。出るとこ出てもいいよ)。

 何らかのシンプルで静的な効果。キーワードは「シンプルな」だったので、私はこれをコモンにしたかった。なぜコモンか? なぜならクリーチャーでないパーマネントタイプで変異持ち
のサイクルを自分で作るとと決めていたからだ。

 土地はアンコモンのサイクルが決定しており、変異持ちのアーティファクトはコモンにはふさわしくない気がした。アーティファクトは基本的にコモンには向かないのだ。よってコモンに入れられるのはエンチャントのみだ。

 そして、紙とペンであれこれ考える時間は終わり、実際にカードを作る段階になった。

 最初期のバージョンは以下の通りだ。

  Swarm of Hell(註17)
  2B
  Enchantment
  All creatures get -1/-0.
  Morph B
(註17) 以下、非公式訳。

 地獄の大群/Swarm of Hell
 エンチャント
 すべてのクリーチャーは-1/-0の修整を受ける。
 変異(黒)

 今日の記事で紹介しているエンチャントたちは、その初期バージョンからすでに最終版のわずかな兆しを見せている。このカードも同様なのだが、少々分かりづらいかもしれない。一体全体、最終版にいたるまでに何があったのだろうか。そのためには全く違う場所に格納されているこのカードを見せる必要がある。

  Helpful Wards(註18)
  Enchantment
  2W,(T): Target creature gets protection from the color of your choice
  until the end of the turn.
(註18) 以下、非公式訳。
 有益なる護法印/Helpful Wards
 エンチャント
 2W, (T):
 クリーチャー1体を対象とする。あなたは色を1色選ぶ。それはターン終了時までプロテクション(その選ばれた色)を得る。

 このカードの効果は繰り返し使うには少々強すぎた。そこで私はタップ能力を持つエンチャントをあらためて作り直した。(このデザインは非常に未来的であると同時に私たちがかつて成し得たことのないものであると私は感じている。そして二度と成さないであろうとも)

 最終的にはこんなカードになった。
Witch’s Mist / 魔女の霧 (2)(黒)
エンチャント
(2)(黒),(T):このターンにダメージを与えられているクリーチャー1体を対象とし、それを破壊する。
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Witch%27s+Mist/

 そのとおり。白いカードを作ろうとしたデザインは最終的に黒いカードに終わったのだ。この黒いカードを私は気に入っていたが、1つ問題があった。黒のカードを作りすぎて白いカードが少なすぎたのだ。この問題を解決するべく、変異持ちのエンチャントは白に加える必要が生じた。

 私は《地獄の大群/Swarm of Hell》をまったく逆のものにする作業に入った。「すべてのクリーチャーは-1/-0の修整を受ける」の逆とは何か? それは「すべてのクリーチャーは+0/+1の修整を受ける」だろう。さらに、のちほど私は「あなたがコントロールする」を加えた。その方がなんか《城壁/Castle》っぽく、より白にふさわしいように感じられたからだ。

 このカードから得た教訓は、異なる地点に立つことで得られる利益の重要性だ。カードをある色から別の色へ移すことは、その色の観点からは見つけることのできなかった効用を発見してくれる役立ってくれることがしばしばある。

 デザインの回答に悩んだ際には、ちょっと時間をとって今いる地点とは違う別の角度からそれを眺めてみることをおススメする。私の好きな本「A Whack on the Side of the Head」から1つ引用させて欲しい。"The creative explorer looks for history in a hardware store and fashion in an airport."(拙訳:クリエイティブな人は、歴史について探求するべくコンピュータショップを訪れ、ファッションについて探求するべく空港を訪れる。)。

エンチャントの未来

 エンチャントのデザインの世界を巡る旅もこれで終わりだ。この「その2」が「その1」と同じくらい楽しんでもらえたなら幸いだ。(そうそう、先週から続々届いている「学校生活の中でマジックがこんな風に役に立った」話には楽しませてもらっているよ。これからもどんどん送ってくれ)

 来週はデザインという箱の中を(それともパックの中?)を覗きに行こうと思っている。

 それまで、平日が過ぎるのを楽しみに待っていてくれ。
【翻訳】Tom LaPilleのプロツアー名古屋旅行記/Magical Mystery Tour【Daily MTG】
Tom LaPille
2011年6月24日
元記事:http://www.wizards.com/Magic/Magazine/Article.aspx?x=mtg/daily/ld/148

 ただいま。

 この3週間、私がいなかったことに気づいてくれてたかな。私は日本にいたんだ。名目上はプロツアーのためなんだけど、ウィザーズがくれたチケットを使って1週間半ほど早めに行ってみた。

 私は日本の中世時代の大ファンだ。そこで私は5つの城を巡り歩き、京都では今年度の能フェスティバルを2晩とも観賞し、小柄な日本人女性に千年前の公家の服を着せてもらったりしていた。

 とはいえ、旅の目的はやっぱりマジックの為だ。今日はそれについて話そうと思う。

マジックはどこにでもある

 プロツアーの10日前、私は「晴れる屋」を訪ねた。東京は新宿にあるゲームストアだ。日本のゲームストアの中でも「晴れる屋」はもっとも変わっている。

 トレーディングカードは日本で大流行しており、少なく見積もっても50種類のトレーディングカードゲームが今なお現役で、大半のゲームストアは様々なカードゲームを広く扱っている。

 「晴れる屋」はマジックしか扱っていないんだ。

 日本ではオフィススペースの賃貸料金が非常に高額だ。そのため大半のゲームストアは販売スペースとレジに加えて8人用くらいのプレイスペースが精一杯だ。

 「晴れる屋」はプレイスペースが58人ものプレイヤーが座れるだけのスペースがある。ここはゲームストアじゃない。マジックストアなんだ。また、店にはなかなか感動的なコレクションも並んでいた。

 さて、私が店に訪れたとき、そこでは8人のプレイヤーがレガシーのイベントを行っているところだった。8つのデッキでデュアルランドが披露されているのをみて、古いカードの入手が困難である、というような問題とは無縁のように見えた。

 私は統率者戦に混ぜてもらった。心優しい青年が彼の《アーカム・ダグソン/Arcum Dagsson》デッキを貸してくれた。それには多くの素晴らしいフォイルが入っていた。

 そのデッキには多くの見慣れないカードが入っており、慣れていないせいで私はいくつかの無限コンボを見逃してしまったらしい。彼は日本語で私にそれを説明しようとしてくれたが、私にはいまいち伝わらなかった。

 さらに幸運なことに、月曜日はドラフトの日だったらしい。人数に欠けがあったので入れてもらうことにした。通常は公認大会らしいのだが、私が入ると非公認になってしまうことを念のために伝えた。彼らは、それでもよいと快諾してくれたので、私は腰をおろし日本語のパックをむきはじめた。

 以下が私のドラフトデッキだ
トムの「晴れる屋」ドラフトデッキ/Tom’s Hareruya Draft Deck

フォーマット:新たなるファイレクシアミラディン包囲戦ミラディンの傷跡

メインデッキ(40枚)

土地(17枚)

 9 Island
 8 Mountain

クリーチャー(12枚)

 1 Blisterstick Shaman
 1 Flameborn Hellion
 2 Gust-Skimmer
 1 Peace Strider
 1 Riddlesmith
 1 Serum Raker
 1 Spined Thopter
 1 Spire Monitor
 1 Tormentor Exarch
 1 Trespassing Souleater
 1 Vulshok Replica

その他の呪文(11枚)

 1 Burn the Impure
 1 Mutagenic Growth
 1 Panic Spellbomb
 1 Psychic Barrier
 1 Quicksilver Geyser
 1 Shatter
 1 Steel Sabotage
 1 Strandwalker
 1 Tumble Magnet
 1 Volition Reins
 1 Volt Charge

 私のマジックのキャリアにおいて、今現在の私は、大抵のゲームストアでは強い方から数えた方が早いドラフトプレイヤーのはずだ。

 そのため、すぐに0-2してしまったことは私に衝撃を与えた。さらにもう1人の0-2のプレイヤーが私と当たるかわりにドロップを選択したことにもね。

 ゲームストアという空間で参加したことのあるドラフトの中では、今回のゲームが最強の面子だったかもしれない。もし君が日本にいてマジックを強くなりたいと思っているなら、ここでプレイし始めるのもいいかもしれないよ。

 またドラフトそれ自体が興味深い経験となった。特筆すべき点は、私が英語でも日本語でも意思疎通できない状況だったことだ。

 君たちが気づいているかどうかは知らないが、マジックとは言語だ。

 遅い順目で《毒の屍賊/Toxic Nim》を隣に回すことは、どんな言葉よりも明確に相手へ「私は黒をやってないよ。あと君に感染デッキをやって欲しいと思っている」と伝える行為となる。そして今回も的確に伝わった。

 ミラディンの傷跡のパックを開いたとき、そこには《決断の手綱/Volition Reins》と《大霊堂の王、ゲス/Geth, Lord of the Vault》があった。

 私はすでに青を決めていたので《決断の手綱/Volition Reins》をピックし、《大霊堂の王、ゲス/Geth, Lord of the Vault》を隣に回した。隣のプレイヤーはそれを見てピックする前に驚いた顔を私に向けた。

 ドラフトが終わったあと、私は《決断の手綱/Volition Reins》を見せつつ「分かるだろ?」という表情を向け、肩をすくめた。言葉が通じない相手とこんなにも密度の高いコミュニケーションがとれた、と感じられたのは多分これが初めてだ。

 ゲーム外でもこの調子だったし、ゲームそれ自体もほとんど大した障害なく進行した。

 「晴れる屋」の訪問は日本滞在のあいだでも最も「いるべき場所にいる」と感じられた瞬間だった。それを体感できたこと、そして私の仕事が人々に何かを提供出来ていると知ったこと。これら両方ともに心から感謝している。

 しかし、その一方で、言語による壁は確かに存在する。

 特にマジックのカードを用いるような複雑なゲームではそれが顕著だ。

 私は、すでにミラディンの傷跡ミラディン包囲戦のカードはイラストで大体判別可能だし、加えて、新たなるファイレクシアのコモンとアンコモンも押さえてある。しかし、ここにきて私は自分が新たなるファイレクシアのレアを十分に把握していないことを知った。

 最初の試合の対戦相手が《ぎらつく油/Glistening Oil》をプレイした。それが何をするのか、なんとなくは理解していたが、私が詳細を理解していなかったせいで何度もカードについて確認する羽目になってしまった。

 親切な店員が私の為にオラクルの文面を印刷してくれたが、そのせいでゲームは3分ほど中断してしまった。

 2回戦目ではさらにひどいことになった。それは対戦相手が《呪文滑り/Spellskite》をプレイしたときだ。

 私は込み入った戦闘を仕掛けた。戦闘後の私の計画では《責め苦の総督/Tormentor Exarch》を使って相手の《呪文滑り/Spellskite》以外のクリーチャーを除去することになっていた。

 私がそれを実行に移したとき、彼は私をちらっと見ると、メモに書かれた自身のライフを2点減らし、《呪文滑り/Spellskite》を指さした。

 私は今回もオラクルの文面を見せてもらうようお願いし、そこで確かに《呪文滑り/Spellskite》は呪文だけでなく能力も移しかえられることを発見したのだ。

 その時点ではさすがにターンを巻き戻すには遅すぎた。

 あのカードの効果を正しく把握していれば勝てたかというと自信はない。しかしこのミスによって負けが確定したのは確かだ。

 これはあまり楽しい出来事ではなかったが、同じミスは世界のどこかでも起こっているだろうと思う。そう考えると、こんな目にあったのも無駄ではない。

 私の理解では、日本のリミテッドでは日本語製品が使われているようだ。しかし「晴れる屋」や他で見かけるプレイヤーたちの多くはその構築デッキに英語のカードを使っている。

 私はすでに多くのマジックのカードをイラストだけで判断できるようになってしまっている身だ。そのため、日本のプレイヤーが初めて参加したフレイデーナイトマジックで結構な率で英語のカードに出くわしてしまうのがどれほど大変なのかは分からない。しかしあまり嬉しいことではないだろう、と思う。

 私に何が出来るのかは分からないけれど、これについてはちょっと考えるようになった。

マジックのカードは永遠の輝き

 「晴れる屋」を訪れてから10日後、プロツアー名古屋が開幕した。

 私はその時間の大半を、通りすがる人をつかまえてはスペルスリンガーの対戦をすることに費やした。

 私たちの手元には、親切にもDave Guskinが作ってくれたたくさんのスタンダードとブロック構築のデッキがあり、加えてKen Nagleが作ってくれたエクステンデッドのデッキとAaron Forsytheのくれたレガシーのデッキがあった。

 さらに私たちは今までに作られたほぼ全種類のデュエルデッキを持ってきていたので、デッキがなくても私たちと対戦してもらうことができた。

 もっとも大半のプレイヤーは自身のデッキを見せつけることを選んだけどね。

 週末を通して遊んでいる最中、私の脳裏によみがえったのは、統率者のデベロップメント・リーダーであるMark Globusと数年前に交わした会話だった。

 当時、私はArchenemyの開発を終えたところで、Mark Globusに対し、複数人でプレイする製品の開発についてやR&Dの外から来た人と一緒に開発を行うことについて、自身の経験から学んだアドバイスを伝えていた。

 何はともあれ、私たちは統率者のデッキへ機能的に新しいカードを加えようという決断を下したところで、Mark Globusは私にそれらのカードを作るときに気をつけるべき点はなんだろうか、と尋ねた。

 私は「このカードはプレイヤーが統率者をもっと面白く、そして長く遊ばせることができるだろうか?」という問いを持ちだしてみた。この問いに対して「Yes」となる変更であれば、それは良い変更じゃないかな、と私は言った。Markはこの言葉を深く胸に刻み込んでくれたようだった。

 《統率の塔/Command Tower》は統率者を末長く面白くしてくれるだろうか?
 私は「Yes」だと思っている。

《擬態の原形質/The Mimeoplasm》は統率者を末長く面白くしてくれるだろうか?
 これもまた「Yes」だろうね。

 では、《家路/Homeward Path》は統率者を末長く面白くしてくれるだろうか?
 誰に聞いたかで異なるかもしれないけど、最終的にはそうなるのではと思っている。
Command Tower / 統率の塔
土地
(T):あなたのマナ・プールに、あなたの統率者の固有色のいずれか1色の色のマナ1点を加える。
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Command+Tower/

The Mimeoplasm / 擬態の原形質 (2)(緑)(青)(黒)
伝説のクリーチャー - ウーズ(Ooze)
擬態の原形質が戦場に出るに際し、あなたは墓地にあるクリーチャー・カードを2枚追放してもよい。そうした場合、それはそれらのカードのうちの1枚のコピーとして、もう1枚のカードのパワーに等しい数の追加の+1/+1カウンターが置かれた状態で戦場に出る。
0/0
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/The+Mimeoplasm/ ※ 文面を一部修正

Homeward Path / 家路
土地
(T):あなたのマナ・プールに(1)を加える。
(T):各プレイヤーは、自分がオーナーであるすべてのクリーチャーのコントロールを得る。
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Homeward+Path/


 より一般的な問いに変えるのであれば、もちろん、それは「そのカードはマジックを末長く面白くしてくれるだろうか?」となる。

 この問いが強く思い起こされたのは、とある試合をしているときだった。

 それはレガシー試合で、対戦相手はミラージュ限定構築からそのまま持ってきたようなコンボデッキを用いる日本人の男性だった。デッキは《時の砂/Sands of Time》と《平衡/Equipoise》を組み合わせたものだった。

 《平衡/Equipoise》はカードをフェイズアウトさせる。フェイズインしてくるのはアンタップステップだが、そこで《時の砂/Sands of Time》があると何も帰ってこれなくなる。

 結果として、対戦相手が土地なしクリーチャーなしの状態でこれら両方のカードをコントロールしていると、毎ターン、君のクリーチャーと土地は消えてしまい、二度と帰って来なくなるのだ。

 こいつは面白い!
Equipoise / 平衡 (2)(白)
エンチャント
あなたのアップキープの開始時に、プレイヤー1人を対象とする。そのプレイヤーがコントロールする土地が、あなたがコントロールする数を上回る1つにつき、そのプレイヤーがコントロールする土地を選ぶ。その後、選ばれたパーマネントはフェイズ・アウトする。この過程を、アーティファクトとクリーチャーについて繰り返す。(それらがフェイズ・アウトしている間、それはそれが存在しないかのように扱う。それらはそのプレイヤーの次のアンタップ・ステップの間でそのプレイヤーがアンタップする前にフェイズ・インする。)
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Equipoise/

Sands of Time / 時の砂 (4)
アーティファクト
各プレイヤーは自分のアンタップ・ステップを飛ばす。
各プレイヤーのアップキープの開始時に、そのプレイヤーは同時に、自分がコントロールするすべてのタップ状態のアーティファクト、クリーチャー、土地をアンタップし、自分がコントロールするすべてのアンタップ状態のアーティファクト、クリーチャー、土地をタップする。
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Sands+of+Time/


 ミラージュブロック構築時代のこのコンボデッキが自身の土地を破壊するのに使っていたカードは、今回のこの人物が使っていたものよりずっと原始的なカードだった。

 ちなみに彼が今回使っていたのは《裏切り者の都/City of Traitors》、《宝石鉱山/Gemstone Mine》、そして《知られざる楽園/Undiscovered Paradise》などだ。

 対戦相手が《虚空の力線/Leyline of the Void》と《Helm of Obedience》を用意して私を殺してくれるまでのあいだ、私は20ターンほど、土地を伸ばすこともクリーチャーを増やすこともできずにターンを返した。

 こんな面白おかしいことはそうそうあることじゃない。そこで私はカメラマンのCraig Gibsonに頼んで写真を撮ってもらい、この写真は彼の「Day One Photo Essay」に使われることとなった。

 さて《時の砂/Sands of Time》と《平衡/Equipoise》はマジックを末長く面白くしてくれるだろうか? 私の意見としては「No」だ。

 彼と遊んだゲームは面白かったが、もう1回同じことをしても楽しいとは思えないだろう。優しいことに、彼がまた再度訪れた際には、スタンダード環境のデッキでプレイを申し込んでくれた。

 他にも奇妙極まりないレガシーのデッキとプレイする機会があった。

 実のところ、なかなか楽しかったよ。

 私が好きだったのは《ファイレクシアン・ドレッドノート/Phyrexian Dreadnought》と《もみ消し/Stifle》の入った赤青のデッキで、これにはさらに《直観/Intuition》、《ゴブリンの溶接工/Goblin Welder》、さらには刺戟的な新たなるファイレクシアから《倦怠の宝珠/Torpor Orb》も加えられていた。
Torpor Orb / 倦怠の宝珠 (2)
アーティファクト
戦場に出るクリーチャーは能力を誘発させない。
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Torpor+Orb/

 私は、そのゲームの勝ちはほぼ確定したと思っていた。彼が《直観/Intuition》を使って、2枚の《倦怠の宝珠/Torpor Orb》と4枚目の《ファイレクシアン・ドレッドノート/Phyrexian Dreadnought》を弾いてくるまではね。

 私の緑白デッキでは複数の《ファイレクシアン・ドレッドノート/Phyrexian Dreadnought》に対応することは出来なかった。ゲーム終了だ。

 私の個人的な意見として、《もみ消し/Stifle》はそのフェッチランドの相互作用のせいでマジックプレイヤーに嫌われているのではないかと思っているが、ここで使われた他のカードたちについてはそんなことはないと信じている。もちろん《倦怠の宝珠/Torpor Orb》を含めてだ。こいつはちょっとしたヘンテコ野郎だからね。

《時の砂/Sands of Time》と《平衡/Equipoise》が深い時の底から蘇り、私にちょっとした不幸を届けてくれたことは不思議な体験だった。

 私は、《倦怠の宝珠/Torpor Orb》(もしくは他の私が手掛けたカード)がいつか同じような体験を未来のデベロッパーにもたらすのかもしれない、ということに初めて気づいたのだ。

 私は「このカードはこのセットのドラフトをもっと面白くしてくれるだろうか?」という問いには慣れている。また、私は「このカードはスタンダード環境をもっと面白くしてくれるだろうか?」という問いを普段から行っているし、この問いに対する答えが「Yes」だったことから何枚かのカードをMagic 2012へ加えた。

 しかし私は「マジックをもっと面白くしてくれるだろうか?」という全体的な疑問を自分に投げかけたことは滅多にない。そしてこれからはもっと頻繁に自分にそれを問うことになるだろう、と言える。

 名目上、リサーチは私の仕事の一部だ。私たちは時々はターゲットを絞ったリサーチを行う。対象を決めたテストやアンケートなどだ。

 しかしリサーチすべき情報はそこからだけではなく、例えばプロツアーのスペルスリンガーからも、ふらりと立ち寄るフライデーナイトマジックのイベントからも、もしくは単にプレイヤーとツイッター上で交わす会話からもたくさんの情報を得ることが出来る。日本への旅の中で私はマジックについてたくさんのことを学んだ。

 さて、来週からはいつもどおりのデベロップメントのコラムに戻ることにするよ。

 ただ、コラムを終える前に、月曜日のアナウンスについて一言述べておきたい。私は今回の件に関する背景についてのAaron Forsytheの説明に満足している。

 もしもっと知りたいと思うのなら、再度、Aaronの記事を読むことをお勧めするよ。あの記事は複数回読むに値するだけの濃い内容が書かれているからね。
長過ぎて1つの記事に収まらなかったため、前編/後編に分けた。なお、コラムのタイトルに[その1]とあるのは、エンチャント週間の記事が長過ぎたせいで、2週間に渡って掲載されたため。


【翻訳】より良いエンチャントのために (1)/Enchantment For Better Things, Part One【Daily MTG】
Mark Rosewater
2007年6月25日
元記事:http://www.wizards.com/Magic/Magazine/Article.aspx?x=mtgcom/daily/mr285

 エンチャント週間へようこそ!

 今まで時間をかけて各カードタイプそれぞれをテーマとして取り上げてきた。今時点で完了しているのはアーティファクト週間(註1)、インスタント週間(註2)、ソーサリー週間(註3)だ(なおソーサリー週間の記事は2つある「Slow and Steady」というタイトルのコラムの新しい方だ。何かの手違いで私はこのタイトルを2回使ってしまった)。
(註1) アーティファクト週間
 原文では当時のコラムの題名(Just the Artifacts, Ma’am)とその記事へのリンク(以下のURL)が張られている。
 http://www.wizards.com/default.asp?x=mtgcom/daily/mr165

(註2) インスタント週間
 原文では当時のコラムの題名(Instant Winners)とその記事へのリンク(以下のURL)が張られている。
 http://www.wizards.com/default.asp?x=mtgcom/daily/mr77

(註3) ソーサリー週間
 原文では当時のコラムの題名(Slow and Steady)とその記事へのリンク(以下のURL)が張られている。
 http://www.wizards.com/default.asp?x=mtgcom/daily/mr120

 付け加えると、私たちはいくつかサブ・テーマ的なものもテーマ週間で取り扱ってきた。

 エンチャント・クリーチャー週間(註4)、特殊地形週間(註5)、それらに加えて特定のクリーチャータイプに関するテーマ週間なら石を投げれば当たるほどある(その中でもゴブリン週間の記事である"Mons Made Me Do It"(註6)は私の中のオールタイムベストの1つだ)
(註4) エンチャント・クリーチャー週間
 原文では当時のコラムの題名とその記事へのリンク(以下のURL)が張られている。なお文中ではコラムのタイトルが「Some Enchanted Creature」となっているがリンク先では「Some Enchanted Card Type」となっている。
 http://www.wizards.com/magic/magazine/Article.aspx?x=mtgcom/daily/mr16

(註5) 特殊地形週間
 原文では当時のコラムの題名(This Land Is My Land)とその記事へのリンク(以下のURL)が張られている。
 http://www.wizards.com/default.asp?x=mtgcom/daily/mr65

(註6) "Mons Made Me Do It"
 以下のURLへリンクが張られている。文中にあるとおり、ゴブリン週間に書かれた記事。
 http://www.wizards.com/magic/magazine/article.aspx?x=mtgcom/daily/mr41

 しかしここしばらくカードタイプはテーマとして扱っていなかった。そこで、まだ取り上げていないいくつかの題材から1つ選んでみてもよいのではと思った次第だ(私は、君たちが年内にもう1回はカードタイプ週間を見ることになるだろう、という予言をここに記しておく。何しろローウィンで新たなタイプがまた1つゲームに加わるんだからね。(註7))
(註7) ローウィンで新たなタイプがまた1つゲームに加わる
 プレインズウォーカーというカードタイプが新たに加わったのローウィンから。

 ここまで長々と書いてきたが、実質、私が語ったことと言えば今週がエンチャント週間であるということだけだ。

 さて、じゃあここからは何について書いたらよいだろう?

 少なくともエンチャントについて書かないといけないし、このコラムはデザインに関することを書く場所だ。よってここで語るべきはエンチャントのデザインについて、になるだろう。

 よし、こうしよう。

 過去の10個のブロックからそれぞれ1枚ずつ私がデザインしたエンチャントを選んでみた(私がエンチャントをデザインしたブロック数が10個だ。アライアンスでもいくつかカードをデザインしたけど、全てエンチャント以外のカードだった)。

 それぞれのエンチャントについて、どのように(そしてどうして)そんなデザインになったかを紹介しようと思う。それと、語るに値する小ネタがあればそれもね。

 加えて、そのカードから得たデザイン上の教訓についても語ろうと思う。

死体の花/Cadaverous Bloom - ミラージュ
Cadaverous Bloom / 死体の花 (3)(黒)(緑)
エンチャント
あなたの手札のカードを1枚追放する:あなたのマナ・プールに(黒)(黒)か(緑)(緑)を加える。
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Cadaverous+Bloom/

 私が初めてデザインチームとして参加したのはテンペストだ(同時に、私がリーダーを務めたセットでもある。いやはや、今はこういうことは起こらないようにしているよ)。

 とはいえ、私がデザインしたカードが初めて世に出たのがテンペストだったということを意味しているわけではない。

 テンペストから遡ること1年半前(註8)、私はデベロップメントチームの一員として力いっぱい働いていた(当時のマジックR&Dの規模は小さく、全てのメンバーはいずれかのデベロップメントチームに属していた)。
(註8) 1年半前
 要するに、ミラージュの開発。

 デベロップメントの工程の最中、私たちはしばしばカードをふるいにかける。そうするとき、そこには私たちが「穴」と呼ぶものが生まれる。

 デベロップメント・チームの作業の結果、一定数の「穴」が生みだされたとき、全てのR&Dのメンバー(特にデザイナー)に向けてメッセージが送信される。「穴」埋めに使えるカードを提出するよう依頼するメッセージだ。

 《死体の花/Cadaverous Bloom》はそんな「穴埋め」カードの1枚だったのだ。

 そのとき埋めなければいけない穴は明確だった。私たちに必要だったのは「レア」で、かつ「黒緑」の多色カードだった。

 黒緑っぽさを感じさせてくれるカードに必要なものは2つある。黒っぽさを感じさせてくれる部分、そして緑っぽさを感じさせてくれる部分だ。

 それについて思いをめぐらした結果、私が辿り着いたアイデアは、起動コストに片方の色の要素を持ちつつも、その効果に別の色の要素を持たせるというものだった。

 手札からカードを捨てるという行為は今ほど広く認知されているコストではなかったため、当時はそこに自傷的な痛みを思わせる何かが存在していた。このフレイバーによってカードは「黒」もしくは「赤」に近づいた。

 そしてマナを加えるのは非常に「緑」だ。

 これら2つの効果を組み合わせることは非常に自然に思われた。そう、このエンチャントは君のカードをマナと交換させてくれる。この時点では、これがどれほどまでに壊れた効果なのかを私は知る由も無かった。

 ところで《死体の花/Cadaverous Bloom》に関する逸話の中で私が好きなのは、プロツアーの悪童、かつ、2回の殿堂入り候補でもあるマイク・ロング(註9)その人が、《死体の花/Cadaverous Bloom》を中心に据えたコンボデッキ(プロスブルームという名で知られているデッキだ)を使ってプロツアー・パリ(註10)で優勝したあと、私に話しかけてきたときのことだ。
(註9) マイク・ロング
 文中で悪童(原文ではBad Boy)と書かれているように、強いプレイヤーであると同時に悪いプレイヤーとしても評判だった、往年の強豪プレイヤー。
 殿堂入りに関しては、2005年に行われた最初の投票では28人中 7位、2006年は47人中 11位、という風に決して低い順位ではない。良くも悪くも印象に残るプレイヤーっぽい。
 なお、このコラムが書かれた2007年以降の結果について書くと、2007年は62人中 20位、2008年は66人中 14位、2009年は62人中 13位、2010年は73人中 13位。
 もしかしたらいつかは、と思わせる順位ではある。

(註10) プロツアー・パリ
 1997年にパリで行われたプロツアー。フォーマットは、ミラージュ・ブロック構築。

 そこでマイクは私に歩み寄るとこう言ったのだ。

マイク:
 R&Dにはマジで感謝しないとな。

私:
 なんで?

マイク:
 このデッキだよ。こいつは狂ってやがる。

私:
 マイク、そのデッキを作ったのは私たちじゃない。
 作ったのは君だ。

マイク:
 はいはい、あんたの言うとおりだよ。《死体の花/Cadaverous Bloom》、《資源の浪費/Squandered Resources》、《自然の均衡/Natural Balance》、《繁栄/Prosperity》、それと《冥府の契約/Infernal Contract》。これの全部が全部、ミラージュとビジョンズに入ってたのが偶然だったとね。

私:
 いや、そうだよ?

マイク:
 マーク。
 俺はこのデッキをプレイしたんだ。
 今まで見てきたどんなデッキも、こいつほどシナジーにあふれてる奴はなかった。
 ミラージュとビジョンズ以外のカードを使って改良していいと言われても加えるカードを思いつかない。
 この2つのセットしか使っちゃいけないってプロツアーがあって、こいつが生まれたのが偶然だって?
 ありえないだろ。

私:
 何が言いたいんだ?
 まさかとは思うが、私たちがこのデッキを作ったあとに、あらためてその必要なパーツをミラージュブロックの2つのセットにばらまいたとでも?

マイク:
 お、認める気になったな。

私:
 違うよ。まったく逆だ。
 私は《死体の花/Cadaverous Bloom》をデザインしたのが誰か、よく知っている。私だ。だが《自然の均衡/Natural Balance》を作ったのはMike Elliottだ。《繁栄/Prosperity》は、Bill Roseが作った。
 パリでの君のプロツアー優勝のために私たちがこれを作った、なんて陰謀論は捨てることだね。

マイク:
 俺のため、とは言ってないぜ?

私:
 マイク、私たちはこのデッキを作ったりはしていない。

マイク:
 了解、了解(ウィンク)。
 そういうことにしておこう。

 私が思うに、今日に至ってもマイクはプロスブルームというデッキが可能だったのはR&Dが意図的にセットに仕込んだからであり、それ以外に説明がつかないと信じ込んでいるだろう。

 さて、前述したとおり、紹介する各エンチャントごとにそこから得ることができたデザイン上の教訓について語ろう。

 《死体の花/Cadaverous Bloom》からは、コストを必要としないエンジン・カードの秘める危険性に注意を払う必要があることを学んだ(エンジン・カードとは、定義するなら、あるリソースを他のリソースに変換するカードだ。例えば手札をマナに換えるような)。

 リソースの変換は強い力を持つ。それを無料で行わせるのは、面倒を引き起こしてくれと頼んでいるようなものだ。

 覚えておいて欲しいのは、プロスブルームデッキはマナを得るために上記のルールを破るエンチャントが2つも使われているということだ。

 そう《死体の花/Cadaverous Bloom》と《資源の浪費/Squandered Resources》だ。

 リソースをマナに変換するカードは特に危険だ。なぜならリソースの変換を制限する手段に「マナを使わせる」という選択肢がほとんど意味をなくしてしまうためだ。

 このカードから得られた教訓。それは、エンジン・カードはデザイン時から制限を織り込んでおく必要がある、ということだ。

 好きなだけのリソースAを好きなだけリソースBにコストなしで変換できるというのは、面倒を引き起こしてくれとこちらから頼んでいるようなものなのだ。

霊の鏡/Spirit Mirror - テンペスト
Spirit Mirror / 霊の鏡 (2)(白)(白)
エンチャント
あなたのアップキープの開始時に、反射(Reflection)トークンが戦場に存在しない場合、白の2/2の反射クリーチャー・トークンを1体戦場に出す。
(0):反射1つを対象とし、それを破壊する。
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Spirit+Mirror/

 往々にして私はデザインをシンプルなアイデアから始めることにしている。

 《霊の鏡/Spirit Mirror》に関する私のアイデアは、エンチャント破壊でしか対処できないクリーチャーを作りたい、というものだった。

 エンチャントでもあるクリーチャーというアイデアもなんとなくは考えていたが、当時、その考えはあまりに時代を先取りしすぎているように思われた。

(もしかしたら君は、私が将来のためにアイデアを温存したんじゃないか?、と思っているかもしれない。正解だ。また、このアイデアに関して述べた私の他の記事を読んでいない君のために付け加えておくと、《輝く透光/Lucent Liminid》(註11)には、もっとはっきりと自身がエンチャントでもあると自己主張できる効果を持たせることが出来ていれば、と今でも残念に思っている)
(註11) 《輝く透光/Lucent Liminid》
 どんなクリーチャーかは以下を参照。一見したところ、単なる5マナの割に能力値の低い飛行クリーチャーにしか見えないが、ポイントはカードタイプ欄。
 まあ、マナの割に弱いという結論は変わらないんだけど。
Lucent Liminid / 輝く透光 (3)(白)(白)
エンチャント クリーチャー - エレメンタル(Elemental)
飛行
3/3
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Lucent+Liminid/

 私は、エンチャントをクリーチャーに変える、というアイデアを考えてみたが、それでは単なるクリーチャー除去で対処されてしまう。

 そうじゃない。私の望みは「エンチャント破壊を持ってないだって? そりゃ大変だね」と書いてあるも同然のクリーチャーだ。

 次に私が辿り着いたのは、クリーチャー・トークンを生み出すエンチャントだった。

 もしトークンが破壊されてもエンチャントが戦場に残るのであれば、それは単に新たなトークンを生み出すだけであり、つまりクリーチャー除去はこのカードに対する回答にはならないわけだ。

 もっとも、それだけではダメだ。このカードが単体でクリーチャー・トークンの軍団を生み出してしまわないようにしなくてはいけない。

 この問題を避けるために、私は「反射(Reflection)トークンが戦場に存在しない場合」にしか、反射/Reflection トークンを生み出せないという一文を追記してみた。

 ちなみにこれによってこのカードのためだけのクリーチャータイプが必要となった(なお、反射/Reflection は、のちにインベイジョンの《完全な反射/Pure Reflection》でまた顔を出すこととなった)。

 そこで私が気づいたのは、エンチャントが新たなトークンを生み出すのに何らかの制限をつけないといけない、ということだ。

 なぜなら、クリーチャー・トークンを生け贄に捧げたあと続けざまにクリーチャー・トークンを生み出すことが出来てしまうと、クリーチャーを生け贄に捧げることのみがコストであるカードで度を越す悪用が出来てしまうからだ。

 これによってトークン生成は誘発型能力と相成った。

 直後のプレイテストで、私が開けたパックからは《霊の鏡/Spirit Mirror》が出てきた(なかなかラッキーな話だ。これがレアであることを考えるとね)。

 さっそくプレイしてみた。

 4マナに到達するには少し時間がかかったが、私はなんとか《霊の鏡/Spirit Mirror》を戦場に叩き付けることに成功した。

 次の私のアップキープ時に、2/2の 反射/Reflection トークンが場に出た。次の対戦相手のターンに、対戦相手は私のトークンに《平和な心/Pacifism》を唱えた。

 私は対応して「そんなことのために作ったんじゃないぞ!」と叫んだ。

 そんなわけで、最後の一文が加わることとなったのだ。このカードをどうにかしたかったら、トークンにかかずらっても無駄だ。このカード自体を破壊したまえ。

 面白いことに、この「鏡」と「反射」というフレイバーは「なんでこのカードは絶え間なくトークンを生み出すことができるんだ?」という問いに対する答えを模索していたクリエイティブ・チームによって、かなり後半になってからようやく生み出されたものだ。

 生みの親として、実に面白いと感じているのはこのカードの非常に幅広い汎用性だ。

 あるプレイヤーは、これを「非常に除去しづらいクリーチャー」として用いた。

 あるプレイヤーは、「毎ターン、2/2トークンを生み出せるカード」として用いた(これは多くの場合その2/2トークンが何らかのために毎ターン生け贄に捧げられていることを意味している)。

 あるプレイヤーは、マナを用いずに対象を破壊できるという能力に目をつけた。私は《霊の鏡/Spirit Mirror》をクリーチャー破壊(ときにはパーマネント破壊)に用いるデッキを何種類も見たことがある(多くの場合、これには他のクリーチャーやパーマネントを「反射/Reflection」に変えることが出来るカードが一緒に用いられている)。

 私のデザイナーノートがこのカードから得た教訓は、プレイヤーがどのようにカードを用いるかを恐れてはいけない、ということだ。

 多くのプレイヤーが私が元々意図していなかった方法で《霊の鏡/Spirit Mirror》を用いたという事実はむしろ私を喜ばせた。

 これは私が繰り返し述べている「道具をデザインする(designs as tools)」というメタファーに当てはまる事例だ。

 職人が 道具/Tool を作るとき、エンドユーザがそれをどのように用いるかについてある程度の予想している。

 しかし職人にとって真に成功した仕事とは、元々の目的のためだけに使える何かを作ることではなく、エンドユーザが色んな使い道を見出せる高い汎用性を秘めた道具を作り出すことだ。

 カードのデザインにも同じことが言える。

 デザイナーが、特定のデッキにしか入らないカードを作るようなことは滅多にない。むしろ、特定のことしかできないカードを、それらを最も効率よく活用できるデッキへ自然と収まるように作るのだ。

後編へ続く
http://regiant.diarynote.jp/201106220719143190/

騙し討ち/Sneak Attack - ウルザズ・サーガ
Sneak Attack / 騙し討ち (3)(赤)
エンチャント
(赤):あなたは、あなたの手札にあるクリーチャー・カードを1枚戦場に出してもよい。そのクリーチャーは速攻を得る。次の終了ステップの開始時に、そのクリーチャーを生け贄に捧げる。
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Sneak+Attack/

 私がこのカードを作った理由は、その色のフレイバーが自然とにじみ出るようなカードを各色にデザインしようとしていたからだ。

 そこで赤のカードとして、これだ、と思ったのは「短期的アドバンテージで、長期的ディスアドバンテージ」というアイデアだった。

 赤という色は衝動的に行動し、長期的な影響を視野に入れずに実行に移してしまう。このフレイバーに特化すればいいカードが出来るぞ、と私は考えたわけだ。

 さて、後に得られる何かを諦めることをコストに即座に利益を与えてくれる、というのを赤で表現するにはどうすればいい?

 加えて言うなら、赤という色のフレイバーに忠実であるべく、そのカードから得られる効果は攻撃的であるべきだと私は感じた。

 赤が長期的なアドバンテージを諦めるのは、対戦相手の顔にドデカい何かを叩きつけてやりたいから……いや、「今すぐ叩きつけてやりたい」からだ。

 過去の経験が、クリーチャーと絡めてはどうだろう、という考えへ導いてくれた。

 どうすれば通常より早くクリーチャーを活用できるだろうか。マナをいくらか払うことで戦場に出せるとしたらどうだろう?(もちろん速攻付きでだ。攻撃できなきゃ意味が無い。私たちが今話しているのは「赤」についてなんだぜ?)

 それは非常な強力な効果だろう。

 じゃあ、デメリットはどうする?

 それは悩むまでもないように思われた。そのクリーチャーはターン終了時に死んでしまうのさ。実に「赤」っぽいじゃないか。

 このカードは結構古い時代のものだから、もしかしたら君たちの中にはこのカードを使ったり敵に回したりする機会に恵まれなかった人もいるかもしれない。

 そこで、このカードが世に出たときに何が起きたかを教えておこうと思う。

 このカードは強かった。

 ただ私が予想していた方向とは少々異なる方向に、だった。このカードを強からしめたのは、戦場に出たそのターンに強さの大半を発揮するクリーチャーたちが存在していたためだ。

 例えば「戦場に出たとき」の能力(もしくは同じように「戦場を離れたとき」)を持つクリーチャーは《騙し討ち/Sneak Attack》と素晴らしいシナジーを形成した。

 なぜなら戦場に置いて1ターンあれば彼らの脅威は十分に発揮出来たからだ。

 他のカードで言えば《ボール・ライトニング/Ball Lightning》(通常、ターン終了時に生け贄に捧げられてしまう)のようなカードも、2ターン目以降の命を失う代わりに少ないマナでプレイできるという取引に喜んで応じた。

 最後に、このカードの起動コストは赤のみであったため、赤デッキに他の色のクリーチャーを(1ターンに限ればの話ではあるが)戦場へ出すことを可能にしてくれた。

 このカードからは興味深い教訓を得たが、その教訓とは、長いこと《騙し討ち/Sneak Attack》をそのオリジナルほどの強さを発揮しないようにリメイクしようと試みた挙句に、ようやく得られたものでもある。

(リメイクについては、それなりに成功した例も多少はあったが、いずれも《騙し討ち/Sneak Attack》の出来には達しなかった)

 デザイナーはカードの強さがどこから来ているのかを理解する必要がある。しかしそれはカードをリメイクするためではない(とはいえリメイクの必要が生じることはあるが)。

 プレイテストに持ち込むのに妥当な強さのカードを作れるようになるためだ。

 さて《騙し討ち/Sneak Attack》の何がそこまで強かったのだろうか。

(そのとおり、一般常識から鑑みて《騙し討ち/Sneak Attack》の強さは超えてはならないレベルを超えていた。だからこそ私たちはこのカードを決して再版しなかった。コアセットやエキスパートセット、そしてさらにはタイムシフトでも再版の候補として挙がったにも関わらず、これは再版されなかった)

 もっとも大きな問題点は、マジックの基本に関わるものだ。私たちはプレイヤーにマナコストを踏み倒す手段を与えてしまった。マナコストはカードの強さをコントロールするためのキーとなるものなのに。

 さらに、私たちの与えたその手段には十分なデメリットが付随せず、あまりにお手軽すぎた。当初、私が重いデメリットとなるであろうと考えていた「クリーチャーを1ターンしか得ることができない」という制約は、想像以上に軽すぎたことが証明された。

 2つ目の問題点、プレイヤーに他の色のカードを簡単にプレイさせてくれるカードはパワーレベルが跳ね上がる、ということは、このカードによって証明された。

 最終的に私が学んだのは、多くのクリーチャーは1ターンもあれば十分にその力を発揮できる、ということだ。

奸謀/Conspiracy - メルカディアン・マスクス
Conspiracy / 奸謀 (3)(黒)(黒)
エンチャント
奸謀が戦場に出るに際し、クリーチャー・タイプを1つ選ぶ。
あなたがオーナーである戦場に出ていないクリーチャー・カードと、あなたがコントロールするクリーチャー呪文と、あなたがコントロールするクリーチャーは選ばれたタイプである。
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Conspiracy/

 このカードが生まれた理由は 傭兵/Mercenary に負うところが大きい。

(念のため。R&Dが雇っている助っ人たちを指して傭兵と言っているわけではない。私たちは雇い入れた助っ人のうち、その大半をすでに切っている。あの大々的な「助っ人募集」(註12)を覚えている人も多いだろう)
(註12) 助っ人募集
 原文では「The Great Mercenary Search」。おそらく一般からMTGのデザイナーを公募した「The Great Designer Search」のことを指しているものと思われる。
 以下、このコンテストに関する記事(リンク先は英語)。episodeは1から7まである。
 http://www.wizards.com/Magic/Magazine/Article.aspx?x=mtgcom/designersearch/episode1

 そうじゃないんだ。

 私が取り上げたいのはメルカディアン・マスクス・ブロックにいた、ライブラリーから次から次へと仲間を戦場へ引っ張りだしてくれるクリーチャーだ……違う、レベル/Rebel じゃない。

 レベル/Rebel はこのメカニズムをあまりに強力な形で持ってしまった。その結果、いくつものフォーマットを歪めてしまった。

 違うんだ。このメカニズムを持った、もう片方について話そうと思っている。

 知ってのとおり、レベルたちは互いにつながっている。小さい奴らがデカい奴らを呼び出せる。

 しかし、いかなる理由かは不明だが、傭兵/Mercenary は逆方向に働いた。小さい奴らがさらに小さい奴らを呼び出したんだ。

 そんなこんなで、レベル/Rebel が 傭兵/Mercenary に多少優れていることはプレイテストの段階で明らかになった。

 そしてこの「多少優れている」というのは、本当にありとあらゆる面で優れていたのだ。デザイナーとして、私はなんとか 傭兵/Mercenary デッキを援護したかった。

 デッキの全てのカードを 傭兵/Mercenary にすることが出来たらどうだろう、というアイデアが浮かんだのはそのときだ。

 そうすれば、君は手元の 傭兵/Mercenary を使ってデッキの中にいる好きなクリーチャーを呼び出せるようになる。

 ああ、分かった分かった、デッキの中にいる好きなクリーチャー(ただしマナコストがより安いもの)を呼び出せるようになる。これ以上は譲れないぞ。

 しかし「デッキの中にいる全てのクリーチャー・カードは 傭兵/Mercenary である」というカードは、少々用途が狭すぎるように感じられた。

 じゃあ、こうしてみたらどうだろう。

 それはライブラリーだけじゃなくて君の全てのカードを、傭兵/Mercenary に限らず好きなクリーチャー・タイプに変えてくれるんだ。

 オンスロートブロック(すなわち部族デッキ)が到来するのまでにはまだ数年を残していたが、それでもクリーチャータイプを考慮するカードは当時からすでにそこかしこに存在していた。

 全て上手く行くかに見えた。

 たった1つの問題を除いては。

 なんで黒の魔法が君の全てのクリーチャーのタイプを変更できるんだ? それは、青の仕事じゃないのか?

 その通り、と認めざるを得ない。

 しかしこのカードはあくまで 傭兵/Mercenary を助けるために作られたのだ。このカードを青に転じてしまっては本末転倒だ。そこで私は、フレイバー付け次第でこの問題は乗り越えられる、と主張した。

 つまりね、なんでクリーチャータイプが変更されてしまうかというと、それは陰謀によるものだったのさ。

 へえ、なるほど、陰謀ね。

 それは確かに黒っぽいね。

 私がこのカードから得たデザイン上の教訓は、それすなわち上記の決断をどれだけ後悔しているかということに他ならない。

 この効果は黒の担当ではない。

 (黒の効果でもっとも近いものがあるとすれば、全てのクリーチャーを既存の黒特有のクリーチャータイプで上書きするというものだろう。その場合でも、そこにはおそらく、なぜ全てのクリーチャーがゾンビだか何だかに変わってしまったのかを説明するような追加効果が付随するはずだ)

 メカニズムを無理やりフレイバーで正当化しようとするのは、労力を惜しんだみっともないデザインでしかない。私が 傭兵/Mercenary を助けたかったのであれば、青い何かに頼るのではなく、あくまで黒い何かを模索すべきだったのだ。

破滅的な行為/Pernicious Deed - アポカリプス
Pernicious Deed / 破滅的な行為 (1)(黒)(緑)
エンチャント
(X),破滅的な行為を生け贄に捧げる:点数で見たマナ・コストがX以下の、すべてのアーティファクトとすべてのクリーチャーとすべてのエンチャントを破壊する。
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Pernicious+Deed/

 マジックのデザインにおける楽しみの1つに、あるカードから別のカードが生まれる過程を観察することが挙げられる。

 その好例が《ネビニラルの円盤/Nevinyrral’s Disk》だ。

 このカードはシンプルで有能だった。あまりに有能であったため、特定の色が持つべき弱点を補完するために使われるようになり始めた。

 例えば、青はパーマネント破壊が苦手だった。しかし《ネビニラルの円盤/Nevinyrral’s Disk》を手にした青はその問題を乗り越えてしまった。

 またさらに言うと、このカードのパワーレベルはあまりに高いため、ついにはメタゲームを歪めるほどになった。

 そのようなわけで、ラリー・ニーヴンの円盤(註13)は封印されることと相成った。
(註13) ラリー・ニーヴンの円盤
 《ネビニラルの円盤/Nevinyrral’s Disk》のこと。ネビニラル/Nevinyrral という名前の元ネタは、ラリー・ニーヴン/Larry Niven というSF作家の名前を逆に読んだもの。

 それから何年もの間、様々なデザイナーがこの《ネビニラルの円盤/Nevinyrral’s Disk》を新たな形で再誕させる方法を捜し求めた。

 私もその例外ではない。

 ウルザズ・デスティニーのデザインを担当していたとき、私は新たな円盤を手がける決心をした。私の生み出した再誕の解は《火薬樽/Powder Keg》だ。

 このカードの意図するところは、リセット能力を持たせつつも(全てを破壊するのではなく)あくまで限られた一部のグループを破壊する、というものだった。

 デベロップメントの段階で、何度も議論されたのは、このカードの効果が及ぶ範囲が「点数で見たマナ・コストが、火薬樽の上に置かれた導火線カウンターの数に等しい」であるべきか、それとも「点数で見たマナ・コストが、火薬樽の上に置かれた導火線カウンターの数以下」であるべきか、ということだ。

 当時、私は「どちらの効果であっても十分に面白いが、デザインの観点から鑑みるに前者であるべきだ」と主張した。個人的に、一度に対処できるのが特定のマナ域のみ、というアイデアが気に入っていたからだ。

 これによって、プレイするのが楽しいだけでなく、新たにカウンターを加えるかどうか決断する際に興味深い緊張感を生み出すはずだ、と感じていたのがその理由だ。

 最終的に私の意見が通り、《火薬樽/Powder Keg》はそのように印刷された(つまり、十分な数のデベロッパーを私の側につくよう説得できたということだ)。

 しかし頭の片隅では、もう片方のアイデアもカード化するに十分値するものだ、ということを理解していた。そこでインベイジョンのデザインをする際に、私は《破滅的な行為/Pernicious Deed》を作ったのだ。

 破壊したいものはアーティファクト、クリーチャー、そしてエンチャントだということは分かっていた。

(土地は破壊したくなかった。なぜなら、円盤がそうであったように、マナを阻害することなくリセットすることでプレイヤーたちが素早く場を復帰出来るようにしたかったからだ)

 色として、青は明らかにふさわしくない。また全体破壊をするときに何を破壊して何を破壊しないかを選択するという効果は白には似つかわしくないように感じられた。

 残った色は黒、赤、そして緑だ。

 黒も赤もエンチャントを破壊することが出来ないのだから、緑は必須だ。

 赤よりも黒がふさわしかった理由は、ダメージによらないクリーチャー破壊は私には赤っぽくないように感じられたためだ。確かに黒は赤と違ってアーティファクト破壊が苦手だが、幸いそれは緑の得意分野だ。よって、それは問題にはならなかった。

 そのような経緯で決断はなされ、《破滅的な行為/Pernicious Deed》の色は黒緑と相成った。

 1つ、小さな問題があった。

 インベイジョンのデザインの最中、私たちは全ての敵対色マルチカラーのカードは最後のセットまで温存しとこう、と決めた。そのほうが面白くなると考えたためだ。

 しかしそれでは《破滅的な行為/Pernicious Deed》へ「アポカリプスが来るまで待っててねファイル」に閉じこもっていろ、と命ずることになる。

 何らかの形で待機を命じられたカードは、そのまま時の狭間に消え去ってしまうことが多い。なぜなら新たなデザイン・チームは、自分たちのセットを自分たちのカードで構築しようとするためだ。

 ところがアポカリプスのデザイン・チームは、Billの試みで、初めてデザイナーを務めるメンバーばかりで構成されていた。

 彼らはインベイジョン・デザイン・チームが作ったカードに興味津々だった。結果、《破滅的な行為/Pernicious Deed》は無事セットに収録されたというわけだ。

 《破滅的な行為/Pernicious Deed》に関する話で、私のお気に入りは、最後のぎりぎりになってその名前が変更された件だ。

 当時、クリエィティブ・チームは急激な成長に伴う痛みの最中にあったため、新たなメンバーを雇い入れることができるまでは私がカード名とフレイバーテキストをチェックすることになっていた。

 その一環として、私はアポカリプスのカード名に問題がないか、最後の最後になって目を通すこととなった。

 ざっと眺めただけでも、問題のある名前が見つかった。

 1つ目として、そこには Spirit Link 能力(註14)を持っていないにも関わらず《Spirit Lynx》と名づけられたカードがあった(Spirit Link 能力というのは、今でいう 絆魂/Lifelink の能力だ)。

 これは混乱を招くことになるから変更する必要がある、と私は言った。
(註14) Spirit Link 能力
 文中にもある通り、絆魂/Lifelink の能力のことを指す。この効果の元祖である《魂の絆/Spirit Link》というカードから来ている。
Spirit Link / 魂の絆 (白)
エンチャント - オーラ(Aura)
エンチャント(クリーチャー)(これを唱える際に、クリーチャー1体を対象とする。このカードはそのクリーチャーにつけられている状態で戦場に出る。)
エンチャントされているクリーチャーがダメージを与えるたび、あなたは同じ点数のライフを得る。
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Spirit+Link/

 2つ目は《破滅的な行為/Pernicious Deed》だ。

 変更前の名は《Planar Bombardment》だった。

 この名前の何が問題かというと、《破滅的な行為/Pernicious Deed》は既に同じブロックに収録されていた《次元の門/Planar Portal》と《次元の被覆/Planar Overlay》のいずれとも関連性を持たないカードだということだ。

 そこで私は最後の瞬間になって、このカードの名前を変える決断を下した。

 ここで問題が生じた。

 この決断は作業の本当に最後ギリギリになってから下されたため、すでにカード番号は変更不可能な段階だった。

 それが何を意味するかというと、変更後の名前も現在と同じ順目に収まるカード名でなければならなかったのだ(マルチカラーは単体の色とみなして番号がふられている)。

 《Spirit Lynx》の新しい名前は《義務と道理の盾/Shield of Duty and Reason》と《軍旗の旗手/Standard Bearer》の間に収まるものである必要があった。

 幸運なことに解決策は意外と簡単に見つかり、このカードは《幽体オオヤマネコ/Spectral Lynx》と名づけられた。

 それに対して《破滅的な行為/Pernicious Deed》の命名は難航した。

 これの名前が入るべき隙間は《草茂る屋敷/Overgrown Estate》と《パワーストーンの地雷原/Powerstone Minefield》の間にあった。

 《Spirit Lynx》と違い、なかなか天啓は降りてきてくれなかった。

 このような事態が発生したときの常として(そして君たちが考えているよりもこの問題はずっと高い頻度で発生するのだが)、私たちは辞書へ向かった。

 私たちは「Overgrown」の項目から読み始めた。

 「Pernicious」まで来たとき、私はその意味を読む必要があった。正直に言おう。この単語を見たのはこのときが初めてだったからだ。

 意味は「知らぬ間に損害や破滅を生じさせる; 死に至る危険性; 致死性の」だそうだ。

 まさに私たちが捜し求めていたものじゃないか。

 この単語に少々懐疑的なメンバーもいた。何しろそれはあまり聞きなれない単語だったからだ。

 私の回答としては「これはレアだし、Pernicious という言葉の響きはカッコいい。そういうことをさておいても、MTGのプレイヤーたちのボキャブラリを増やすのは別に悪いことじゃないだろう?」

 それから何年も経ったある日のこと、私はあるプレイヤーから手紙をもらった。彼はSAT(註15)を受験した直後だったそうだ(アメリカに住んでいない人のために説明しておくと、SATとは重要な大学入学試験の1つだ)。
(註15) SAT
 Scholastic Assessment Testの略。日本の共通一次試験(通称センター試験)的な存在らしい。

 彼の書いたところによると、その試験の単語を問う設問で「Pernicious」が出てきたらしい。そしてもしマジックを遊んでなかったら絶対に分からなかっただろう、とのことだ。

(余談だが、もし読者の中に「学校生活の中でマジックがこんな風に役に立った」という面白い話を知っていたら、ぜひとも私に知らせてくれ)

 私がこのカードから得た教訓、それは他のカードで却下されたアイデアにも注意を払うこと、だ。

 あるアイデアが、そのときのカードの問題を解決できなかったとしても、かわりに他のカードに対して有効に働くということはよくある話だ。

 よいデザインを心がけたいのであれば、ある問題に対して提案はされたが使われなかった解決法が、もしそれ自体はいいアイデアであればきちんと記録しておくことだ。

ちょっと待った、まだまだあるぞ

 このコラムを書き始めた段階では、10個のエンチャントについて書くつもり満々だった。何しろ、私は10個の異なるブロックそれぞれでエンチャントをデザインしたんだからね。

 しかし、5つ目のエンチャントについて書き上げて文字数チェックを走らせたところ、すでに3000語を超えていることが判明した。

 私は次のコラム担当者と同じくらい(もしくはそれ以上に)書くことが大好きだが、私はこれを毎週やらなくちゃいけないんだ。

 来週またコラムを書かないといけないことを考えると、無理して6000語以上のコラムを書こうとするのはおかしな話だ。だから私はこれを前編と後編に分けることにした。

 来週は、後半の5つのブロックぞれぞれのエンチャントについて分析し、デザインに関する話を披露しようと思う。君たちがこういうコラムを面白いと思ってくれることを願っているよ。

 今週はこれまで。

 来週のテーマは……って、聞いてなかったのか? たった今、来週何を話すか伝えたばかりだよ。それまで、平日が過ぎるのを楽しみに待っていてくれ。
 05月20日の記事でウィンチェスタードラフトという遊び方が紹介されてた。

 公式サイト:http://www.wizards.com/Magic/Magazine/Article.aspx?x=mtg/daily/ld/143

 この記事のウィンチェスタードラフトについては Testingさんが紹介されている。

 closet belief 2:http://74598.diarynote.jp/201105201220083024/

 今日、ここで訳したのは、上記の記事の序文で「ウィンチェスタードラフトの前にも1対1のドラフトが紹介されてたけど、そっちにはいくつか問題点があった」とリンクが張られる形で紹介されていた「ウィンストンドラフト」に関する2005年の記事。

【翻訳】ウィンストンドラフトとは?/Winston Draft【Daily MTG】
Aaron Forsythe
2005年03月25日
元記事:http://www.wizards.com/magic/magazine/Article.aspx?x=mtgcom/daily/af59

 先週、スコットは私が以前書いた記事を再掲せざるを得なかった。その理由は私が病気で動けなかったからだ。私の覚えている限り、先日の火曜日の夜まで掲示され続けていた休載理由には、風邪をひいたためと書かれていたはずだ。

 そうであればまだ良かったんだが。

 私が先週の月曜日にプロツアー・アトランタから家に帰ってきたとき、特に体調に問題はなかった。そこで私は旅行から帰ってきたら誰でもするであろうことに精を出した。

 子供遊んだり、妻と語らったり、親を呼んだり、荷解きを半分だけ終えたり、そしてシャワーを浴びたりした。シャワーを浴びたあと髪を乾かしていたときのことだ。突然、猛烈な寒気に襲われた。

 正直なところ、ちょっとした恐怖だった。全身の筋肉が張り詰め、ひどく寒気がした。そしてとても弱くなった気がした。歯がカチカチと鳴り始め、空気を求めてあえいだ。

 妻はそんな私をベッドに放り込み毛布をかけてくれた。私はその夜の大半を眠ろうと努力することに費やした。

 火曜日の朝、今にも死ぬかもしれないというような気分で目覚めた私は会社を休むことにした。私の左足はひどい痛みを抱えており、少しむくみ始めていた。

 私は小さい頃この左足にひどい怪我をしたことがあり、当時はしばしば調子が悪くなることがあった。どうやら今またそれが起きているようだ。それとももしかしたら、昨日のシカゴのオヘア空港でターミナルからターミナルへ必死に走ったことでどこか悪化させたのかもしれない。

 いや、もしくはこの風邪が、足に何か悪さをしている可能性もある。いずれにせよ、私のすべきことはこの風邪を体からたたき出すことだ。そこで私はコントレックス(註)をとったり、まずいセラフル(註)を飲むことで丸一日を費やした。
(註) コントレックス
 風邪による鼻づまりのための薬。ちなみに硬度が高いことで有名な輸入ミネラルウォーターのコントレックスのつづり「Contrex」で、ここで挙がっている薬のつづり「Comtrex」。微妙につづりが異なる。

(註) セラフル
 お湯に溶かして飲む粉末タイプの風邪薬。原文では「TheraFlu」と「F」が大文字になっているが、実際の製品のロゴには「F」が大文字のものと小文字のもの、どちらもあるみたい。


 水曜日に起きたとき、気分は随分良くなっていた。風邪の諸症状は消え去っていた。

 しかし私の足は真っ赤に膨れ上がっており、とても歩ける状態ではなかった。私はそれを妻に見せて、医者の予約をとろうかと考えているんだが、とそれとなく伝えてみた。

 彼女は足を一目見て、すぐに緊急治療室に行くわよ、と私に告げた。

 あまり長くなりすぎても何なので話を端折ると、緊急治療室へ旅立った私はその後の4日間の大半を病院で過ごすことになった。(NCAAトーナメント(註)が開催されてて助かったよ!)。
(註) NCAAトーナメント
 NCAAは「全米大学体育協会(National Collegiate Athletic Association)」。アメリカの大学に所属するスポーツクラブを管理するだけでなく、大会の主催も行っている。
 ここで挙げられているのは、3月末という時期的に見ておそらく大学男子バスケットボールの大会。日本の甲子園大会に匹敵する盛り上がりを見せるらしい。

 私は血栓や糖尿病や心臓病の検査を受けることとなったが、最終的には組織感染症である蜂巣炎と診断された。ここまで悪化した原因の一端は幼少時代に負った怪我が長引いていたためだそうだ。

 24年間という長い時間、一切の深刻な後遺症を生じさせることのなかった傷がこのような事態を引き起こすなど、誰も想像出来ないことだろう。

 それはさておき、長い休息と信じられないほど大量の抗生物質を後にして、私はようやく火曜日から仕事に戻ることが出来た。治ったばかりの足を引きずり、ポケットにたくさんの薬を詰め込んでだ。

 なんて1週間だ!

 さて、なぜこんなことを君たちに語って聞かせるのか? 同情を買おうとしているのだろうか? いや、単に何を書いても良かったからだ。毎週毎週、何千もの単語で記事を埋めるのはそう簡単なことじゃない!

避けるべきドラフトについて

 先週のこのサイトではドラフト週間が催されており、私はそれに参加しそびれたわけだ。まったく残念でならない。なぜなら実のところふさわしいテーマを用意できていたからだ。

 幸運なことに今週のテーマは特に定められていない。つまり私の書きたいことを書いてよいわけで、それは先週のテーマであっても構わないわけだ。

 なお、私がドラフト週間に書こうと思っていた記事は、開発チームがどのようにドラフトを手がけるかについて主眼を置いたものではない。

 ドラフトのあるべき姿を考えると、開発チームのドラフトに対するアプローチがどのようなものかについて公にするのは避けるべきであり、つまりそのようなテーマでドラフトの記事を書こうとしても紙面は埋めるだけの内容を書くことはできない。

 かわりに私は面白くて新しいドラフトのフォーマットを紹介したい。私が会社で教えてもらったこのフォーマットは、誰あろうリチャード・ガーフィールド氏によって発明されたものだ。

 その前に、R&Dとドラフトというフォーマットの関係について、いくつか伝えることがある。

開発者の選択について

・ドラフトの「自ら正解を探す」という性質は、開発側で環境のバランスをとる必要がそれほどにはないことを意味している。もしある色が他の色よりも本質的に強かった場合(ウルザズ・サーガの黒のように)、より多くのプレイヤーたちがその色をドラフトすることになりカードパワーはそれぞれのデッキへ均等化され、結果として勝敗を左右するものは個々の技術となる。そのため、開発時にはシールドデッキが遊ばれることが多い。シールドのほうが、色のバランスに問題があった場合に表面化しやすく、また色のバランスの影響も大きいからだ。

・開発の終盤にはドラフトによるテストも行われる。シールドでは表面化しない様々な戦術(ずべらデッキが良い例だ)を確認し、それらの戦術を推し進めることで不当に強すぎないかどうかを検証する。

・つい最近のことだが、大会の運営組織はプロツアー予選、プロツアー本戦、そしてその他の高レベルなイベントにおいて、今後はロチェスタードラフトを取り扱わないことを発表した。このフォーマットを楽しめるプレイヤーはほとんどおらず(このフォーマットは時間がかかる。またミスに対して容赦がない。何しろ君のミスは全プレイヤーに対してテーブルの上に公開されてしまうのだから)、高いレベルにになるほど意外性に乏しいものとなる。いつの時代にもましてカード評価が研ぎ澄まされている昨今(マジック・オンラインのおかげだ)、どのカードがいつピックされるかを予想することは容易い。全ての情報が公開されている以上、君のとれる選択肢はそう多くはないのだ。そのため、今しばらくのあいだは、すでに面白さが実証済みのブースタードラフトのフォーマットを継続することにしようと考えている。

ウィンストンドラフトについて

 マジックの優れている点は、手早く遊べて気軽に持ち運べるという点だ。2人のプレイヤーが腰を下ろしてデッキを取り出せば対戦開始だ。

 構築デッキの対戦は2人いれば遊べる。シールド戦も基本的には2人あれば十分だ。しかしドラフトだけはテーブルを囲めるだけの人数がいないと上手くいかない。

 もし君が今までに1対1のドラフト(ブースター、ソロモン、ロチェスターのいずれのドラフトでも構わない)を十分な回数試したことがあれば、その場合のドラフト戦術が4人や8人で行われるドラフトとは全く違ったものであることにすぐ気づくだろう。

 1対1のドラフトにおけるゴールは、普通のドラフトのように最高のデッキを手に入れることではない。むしろ対戦相手のピックを記憶し、その情報を元にヘイトドラフト(訳注:対戦相手の邪魔をすることを優先させるピック)を行うことで対戦相手のマナバランスを崩すことが目的となる。
(註) ヘイトドラフト
 自分の欲しいカードではなく、相手が欲しがるであろうカードを優先的にピックすることで相手のデッキ構築を妨害するドラフト戦術。
 特にとるものがないときになんとなく他の色の強そうなカードをとる、という程度ではヘイトドラフトとは言わない。多分。

 私はこういったドラフトが楽しいとは到底思えない。そのため私はもう少しランダム性に富み、かつ面白い1対1のドラフトのやり方はないかと常に模索していた。

 ありがたいことにR&Dの副責任者であるBill Roseがそれを1つ私に紹介してくれた。

 それは「ウィンストンドラフト」と呼ばれるもので、リチャード・ガーフィールドによって生み出された。リチャードは、私と同じように1対1で遊べ、かつ少し運の要素が入ったドラフトのフォーマットを求めていた。

 以下が彼の考案したルールだ。

《手順1》
 各プレイヤーには45枚分の未開封のカードが配られる(ブースターパック3つ、もしくはトーナメントパックから土地を除いたもの)。

《手順2》
 カードを見ないまま、90枚のカードを混ぜて1つの大きなデッキにする。

《手順3》
 どちらが先にドラフトするかを決めてから、デッキの上から3枚のカードを伏せたまま並べる。デッキの横に1枚ずつの小さい山札/Pileが出来た感じだ。

《手順4》
 最初にピックするプレイヤーはまず1つ目の小さい山札/Pileのカードを確認する。気に入ったならそれをピックしてよい。

《手順5》
 ピックするならば、デッキから1枚カードを引き、1つ目の山札/Pileがあった場所に補充し、相手にターンを渡す。

《手順6》
 ピックしないのであれば、確認したカードを1つ目の山札/Pileのあった場所に戻し、かつデッキから1枚カードを引いてそれを今戻した1つ目の山札/Pileに足す。それからあらためて2つ目の山札/Pileを見る。

《手順7》
 その山札/Pileのカードがピックするかどうか決める。もしピックするなら空になったその2つ目の山札/Pileをデッキから引いたカード1枚で補充する。

《手順8》
 3つ目の山札/Pileからもピックしないのであれば、そこへデッキから引いたカード1枚を補充してから、デッキの1番上のカードを引く、つまりランダムでカードを手に入れることになる。

《手順9》
 全90枚が全てピックされるまでこれを繰り返し、40枚以上のデッキを作りプレイする。


 このフォーマットの素晴らしいところは、相手の持っているカードの半分程度までしか知り得ないということだ。

 それでも相手が君に残してくれたカードから相手の色をおおまかなところまで推測することは出来るし、その情報があればどういったカードなら多少長めに卓へ放置できるかを知ることができる。

 私はこのフォーマットが非常に気に入った。

 兄弟のNeilと一緒に先日の連休にウィンストンドラフトに明け暮れたせいでブースターパック2ボックスを消費し尽してしまった。しかし全てのパックを開封してしまっても大丈夫……単にそこから90枚をランダムに選び、シャッフルし、それで準備完了だ。

実際のドラフトについて

 以下が、私とNeilのあいだで行われたウィンストンドラフトの実例だ。

 私たちは、神河物語のトーナメントパックから土地を除いたものと神河謀反のブースター3パックを用意した。これでちょうど90枚となる。完璧だ。

 私はコイン投げに勝ち、ドラフトの先手をとった。Neilが90枚のカードをシャッフルし、3枚の裏向きのカードでデッキの隣に3つの山札/Pileを用意した。

 最初の山札/Pileを確認してみると、そこにあったのは《思考縛り/Thoughtbind》だった。
Thoughtbind / 思考縛り (2)(青)
インスタント
点数で見たマナ・コストが4以下の呪文1つを対象とし、それを打ち消す。
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Thoughtbind/

 大喜びするようなカードではない。もっといいカードがあるはずだ。

 私はそれをピックしないことにした。元あった場所にそれを裏向きで戻し、デッキから1枚引いてその山札/Pileに足す。

 それから2番目の山札を確認してみた。《桜族の長老/Sakura-Tribe Elder》だ。
Sakura-Tribe Elder / 桜族の長老 (1)(緑)
クリーチャー - 蛇(Snake) シャーマン(Shaman)
桜族の長老を生け贄に捧げる:あなたのライブラリーから基本土地カードを1枚探し、それをタップ状態で戦場に出す。その後あなたのライブラリーを切り直す。
1/1
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Sakura-Tribe+Elder/

 このおチビさんを拒否するのは難しい話だ。

 そのようなわけでこいつが私の最初のピックとなった(なおこのカードは裏向きのまま私の前に置かれ、いつでも確認できる)。

 最後に私はデッキからカードを1枚引くと、それを裏向きのまま、2つ目の山札/Pileがあった場所に補充した。

 さあ、Neilの番だ。

 彼はまず今や2枚のカードとなった1つ目の山札/Pileを確認した。うち1枚は《思考縛り/Thoughtbind》だが、もう1枚は私の知らないカードだ。

 彼はそれを欲しくはならなかったらしく、3枚目のカードをそこへ足した。2つ目の山札/Pileも彼のお気に召さず、彼はそこへもあらたにカードを足した。

 3つ目の山札/Pileは、それが何であったかは分からないが、彼の欲しいカードであったらしい。彼はそれをピックし、かわりに裏向きのカードを1枚補充した。私の番だ。

 最初の山札/Pileには今では3枚のカードがある。

 まず両者ともに知っている《思考縛り/Thoughbind》、次にこの時点で両者の知るカードとなった《孤独の守護者/Guardian of Solitude》、最後の《天羅至の掌握/Terashi’s Grasp》。これはまだNeilが一度も見ていないカードだ。

 この時点になってもまだこの山札/Pileを欲しいとは思えなかったので、私は4枚目のカードをそこに足して、次へと移ることにした。

 2つ目の山札/Pileにあったのは《霧中の到達/Reach Through Mists》と《蛇の皮/Serpent Skin》。

 お断りだ。

 私が優先的に探しているのはクリーチャーと除去なので、3枚目のカードを足して次へ。

 3つ目の山札は《滝の源獣/Genju of the Falls》だった。
Genju of the Falls / 滝の源獣 (青)
エンチャント - オーラ(Aura)
エンチャント(島(Island))
(2):エンチャントされている島は、ターン終了時まで飛行を持つ青の3/2のスピリット(Spirit)・クリーチャーになる。それは土地でもある。
エンチャントされている島が墓地に置かれたとき、あなたの墓地にある滝の源獣をあなたの手札に戻してもよい。
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Genju+of+the+Falls/

 悪くない。

 少し考えてからそれをピックしつつ、今まで残してきた青の二軍カードたちをあとで回収できるといいんだが、と考えた。3つ目の山札/Pileに新しいカードを裏向きに置く。

 今や私の手元には良い緑のカード1枚、良い青のカード1枚がある。どちらも超がつくような爆弾カードではないから、色ごと諦めることにためらいはない。

 ドラフトは進み、私は8枚のカードを含む山札/Pileを回収することとなった(《思考縛り/Thoughbind》、《孤独の守護者/Guardian of Solitude》、《天羅至の掌握/Terashi’s Grasp》、《オーラのとげ/Aura Barbs》、《最後の河童の甲羅/Shell of the Last Kappa》、《樹海の胴/Body of Jukai》、《かまどの神/Hearth Kami 》、そして《摩滅/Wear Away》だ)。
枚数が多いので、カードデータは省略。

 最初に、3つ目の山札/Pileも諦めてランダムに賭けることとなったのはNeilだった。

 しばらくのちに、私は運良く《地揺すり/Earthshaker》を手に入れることができた。ぜひとも赤をやりたいを思わせるカードだ(ちなみにこれには《貪る憤怒/Devouring Rage》がついてきた)。
Earthshaker / 地揺すり (4)(赤)(赤)
クリーチャー - スピリット(Spirit)
あなたがスピリット(Spirit)か秘儀(Arcane)呪文を唱えるたび、地揺すりは、飛行を持たない各クリーチャーにそれぞれ2点のダメージを与える。
4/5
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Earthshaker/

Devouring Rage / 貪る憤怒 (4)(赤)
インスタント - 秘儀(Arcane)
貪る憤怒を唱えるための追加コストとして、好きな数のスピリット(Spirit)を生け贄に捧げてもよい。
クリーチャー1体を対象とする。それはターン終了時まで+3/+0の修整を受ける。これにより生け贄に捧げられたスピリット1つにつき、そのクリーチャーはさらにターン終了時まで+3/+0の修整を受ける。
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Devouring+Rage/

 さらに順目が進んだところで、私はデッキからのランダム引きに挑戦し、《肉体の奪取/Rend Flesh》を手に入れることに成功した(これとすでに入手している《鼠の墓荒らし/Nezumi Graverobber》は、私の目を黒に向けさせた)。
Rend Flesh / 肉体の奪取 (2)(黒)
インスタント - 秘儀(Arcane)
スピリット(Spirit)でないクリーチャー1体を対象とし、それを破壊する。
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Rend+Flesh/

Nezumi Graverobber / 鼠の墓荒らし (1)(黒)
クリーチャー - ネズミ(Rat) ならず者(Rogue)
(1)(黒):いずれかの対戦相手の墓地にあるカード1枚を対象とし、それを追放する。その墓地にカードが1枚もない場合、鼠の墓荒らしを反転する。
2/1
Nighteyes the Desecrator / 冒涜する者、夜目 (1)(黒)
伝説のクリーチャー - ネズミ(Rat) ならず者(Rogue)
(4)(黒):墓地にあるクリーチャー・カード1枚を対象とし、それをあなたのコントロール下で戦場に出す。
4/2
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Nezumi+Graverobber/

 そのあと連続してピックできた《大牙の衆の忍び/Okiba-Gang Shinobi》と《鬼の下僕、墨目/Ink-Eyes, Servant of Oni》は私を黒に染めるに十分なカードたちだった。
Okiba-Gang Shinobi / 大牙の衆の忍び (3)(黒)(黒)
クリーチャー - ネズミ(Rat) 忍者(Ninja)
忍術(3)(黒)((3)(黒),あなたがコントロールする、ブロックされなかった攻撃しているクリーチャー1体を手札に戻す:あなたの手札からこのカードを、タップ状態かつ攻撃している状態で戦場に出す)
大牙の衆の忍びがプレイヤーに戦闘ダメージを与えるたび、そのプレイヤーはカードを2枚捨てる。
3/2
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Okiba-Gang+Shinobi/

Ink-Eyes, Servant of Oni / 鬼の下僕、墨目 (4)(黒)(黒)
伝説のクリーチャー - ネズミ(Rat) 忍者(Ninja)
忍術(3)(黒)(黒)((3)(黒)(黒),あなたがコントロールする、ブロックされなかった攻撃しているクリーチャー1体を手札に戻す:あなたの手札からこのカードを、タップ状態かつ攻撃している状態で戦場に出す。)
鬼の下僕、墨目がプレイヤーに戦闘ダメージを与えるたび、あなたはそのプレイヤーの墓地にあるクリーチャー・カード1枚を対象とする。あなたはそれをあなたのコントロール下で戦場に出してもよい。
(1)(黒):鬼の下僕、墨目を再生する。
5/4
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Ink-Eyes%2C+Servant+of+Oni/


 以下が私のデッキだ。
ウィンストンドラフト・デッキ/Winston Draft Deck

メインデッキ(41枚)

土地(18枚)

 7 Forest
 6 Mountain
 5 Swamp

クリーチャー(17枚)

 1 Body of Jukai
 1 Child of Thorns
 1 Earthshaker
 1 Ember-Fist Zubera
 1 Feral Deceiver
 1 Frostling
 1 Hana Kami
 1 Hearth Kami
 1 Ink-Eyes, Servant of Oni
 1 Matsu-Tribe Sniper
 1 Nezumi Graverobber
 2 Okiba-Gang Shinobi
 1 Ronin Houndmaster
 1 Sakura-Tribe Elder
 1 Scaled Hulk
 1 Shinka Gatekeeper

その他(6枚)

 1 Call for Blood
 1 Devouring Rage
 1 First Volley
 1 Journeyer’s Kite
 1 Rend Flesh
 1 Roar of Jukai

 《地揺すり/Earthshaker》とシナジーとなるカードが少なく、除去も正直物足りない。しかしこれでなんとかするしかないだろう。私のひ弱なカードプールではこれが精一杯だったからだ。

 さあ、デュエル開始だ……!

1 2 3 4 5 6

 

お気に入り日記の更新

この日記について

日記内を検索