【翻訳】ドワーフに関する32の小コラム/Thirty-Two Short Columns About Dwarves【Daily MTG】
Mark Rosewater
2005年11月21日
元記事:http://www.wizards.com/magic/magazine/article.aspx?x=mtgcom/daily/mr203

適材適所

 J・R・R トールキンやゲリー・ガイギャックスやウォルト・ディズニーといった巨匠たちは、マジックが世に誕生するずっと前に、「ドワーフとはなんぞや」という命題に対する基本原則を制定してくださった。

 背が低い? その通り。

 穴を掘るのが好き? その通り(かも)。

 鎧を作るのが上手い? その通り。

 さて気になるのは(少なくともマジックのコラムで取り扱う上で気になるのは)、マジックザギャザリングが新たに生み出した「ドワーフとはなんぞや」が何かということだ。皆の興味を引けそうなネタでいうと以下のような感じか。

 ・ドワーフは(そして類人猿(Ape)も)基本地形ではない土地が大嫌い
 ・ドワーフは何かを爆破するのが大好き
 ・ドワーフは怒りっぽい
 ・ドワーフの髪型はモヒカン刈り(血気盛んなヤツは)
 ・ドワーフは「ケツ」と言うのが大好き
 ・ドワーフは不思議なことにバーバリアンとミニオンに対して支配力をもっている
 ・ドワーフは子馬をもっている
 ・ドワーフは子供のおもちゃから鎧を作ることができる
 ・ドワーフはどうやら野菜のカブが大好きらしい
 ・ドワーフの社会では戦士(Warrior)と放浪者(Nomad)は同じ働きをするらしい
 ・ドワーフは栄光の猛火の粋を極めたらしい(それが何であるにせよ)
 ・ドワーフには自警団と爆弾部隊と打撃部隊と秘術師と海の一族がいる
 ・ドワーフの男は自分の女に言い寄る奴がいないか気にする必要がない(婉曲的表現)
 ・ドワーフはフラーグのゴブリンのケツを蹴り上げる(そして「ケツ」と言うのが大好き)


それでパカはどうしたのか?

 以下に挙げているのは、私が《ドワーフ鉱夫/Dwarven Miner》のフレイバーテキストについて以前コラムで語った内容だ。なお、コラムが書かれたのは遥か昔、2002年03月18日のこと。あいだに入っている赤文字は今回私が新たに書き足したコメントだ。参照用にカードデータも置いておこうか。
Dwarven Miner / ドワーフ鉱夫 (1)(赤)
クリーチャー - ドワーフ(Dwarf)
(2)(赤),(T):基本でない土地1つを対象とし、それを破壊する。
1/2
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Dwarven+Miner/

フレイバーテキスト(原文):
 "Fetch the pestridder, Paka ─ we’ve got dwarves in the rutabagas!"
 ─ Jamul, Femeref farmer

フレイバーテキスト(日本語訳):
 パカ、虫殺しの薬を持ってきてくれ ─── カブがドワーフにやられとる!
 ─── フェメレフの農夫、ジャムール

 ~~~~~~~~~~~~~~~ ここから引用 ~~~~~~~~~~~~~~~

 私はときについついふざけてしまうという一面がある(驚かせてしまっただろうね。すまない)。アングルードではこの面を遺憾なく発揮する機会をもらったが、競技用マジックでは私のこの悪癖を披露することはほとんど出来ずにいる。

 ……と当時は書いていたが、これは真っ赤な嘘だ。《ラースの猿人/Apes of Rath》、《スクイーのオモチャ/Squee’s Toy》、《このぐらい大きいバナナが欲しい!》、《ズシーン! ズシーン!》、リス関連のカード……よく考えてみたらいつも披露しっぱなしじゃないか。

 ヨーロッパの古い言い伝えとトールキンの生み出した神話において、ドワーフは鉱夫として生み出されている。ドワーフは地面を掘り返すのが好きなのだ。

 そのとき私の頭に閃いたのは、リス(Gophers)も同様に地面を掘り返すということだ。ふむ、ドワーフがリスみたいに扱われてたら面白いんじゃなかろうか?

 ちなみリスはそれ自体が面白さだ。リアルなリスの話をしているわけじゃない。リスにまつわるネタが面白いんだ。
 一度、うちの芝生がリスに荒らされたことがあった。腹立たしかったよ。しかしリスという存在はやっぱりコメディ世界の金メダリストだ。(もし証拠を見せろというなら映画「Caddyshack」をおススメする)
 ドワーフを面白おかしくするためには(いや、ドワーフはもともと面白いんだが、さらに面白くするためには)、彼らをコメディな世界へ連れて行くべきでその乗り物こそがリスというわけだ。


 書き手というものは時が経つにつれて自身が過去に書いたものを不思議とより魅力的に感じられてくるものだ。理由はわからない。しかしこのフレイバーテキストは個人的に大傑作だと思っている。

 あまりにも傑作だと思ったのでセットへ収録されるよう全身全霊を賭けた。知ってるかもしれないが、コメディにはどれくらい面白いかを表すグラフみたいなものがあるんだ。こんな感じだ。

 ほんの少しだと面白い。それより少し多いとつまらない。度が過ぎるとまた面白い。

 これは真実だ。私が過去に書いた「Mons Made Me Do It」というコラムを読んでもらえればよく分かると思う。え? なんでここでゴブリンの話なんだ、って? おいおい、今週はドワーフ週間だ。なんでゴブリンの話をしないわけがあるんだい?(赤くて小さい奴らは面白いってことさ)

 私の計画は実にシンプルなものだった。フレイバーテキストのメンバーが第3段階に届くまでひたすらこのジョークを押し通すこと。そんなわけで私は機会があるごとにこのジョークを繰り返したわけさ。メンバーたちが私に殺意を覚えはじめた数週間ののち、ついにジョークはまた面白さを増す段階に届いた。

 この手法はカードのデザインでも有効だ。

 この引用にいくつか付け加えておきたい。まずなんで私が登場人物にPakaという名前をつけたのかというと、響きがこのフレイバーテキストにふさわしく田舎者っぽかったからだ。

 さらに虫殺しの薬の名前になぜ「Pestridder」というネーミングを用いた理由は、それが私が思いつける限りのファンタジーっぽい害虫駆除剤の名前だったからだ。そして「カブ(Rutabaga)」を選んだ理由はそれが野菜の中でも特に面白みを感じるものだったからだ。

 そうそう。このフレイバーテキストの中で一番面白い単語がどれなのかを書き忘れた。それは「また(Again)」だ。このカードが「面白いフレイバーテキスト」に終わらず「名作」と成り得た(と私は信じている)理由はこれだ。この文章が美しくまとまっているのは「普通でない」からではなく、むしろ「いつもいつも起きている」からなのだ。(訳註:実際のフレイバーテキストには「again」という単語が見つからない。なんかの勘違いかな?)

 ちょっと関係ない話をさせてくれ。私がまだ小さいころ、友達と「面白くない、面白い、とても面白い(Not Funny, Funny, Very Funny)」という遊びをしていた。遊び方は、まず1人がお題を決める(たとえば「野菜」のように)。別の1人がそのお題に当てはまるものを3つあげる。

 1つ目には、面白くないものをあげなくてはいけない。2つ目は面白いもの、ただし面白すぎないものをあげないといけない。そして3つはとても面白いものをあげないといけない。もしお題が「野菜」だったら、以下のような感じだ。

  お題「野菜!」

   1つ目:
      Corn/とうもろこし(面白くない)
   2つ目:
      Eggplant/ナス(面白い)
   3つ目:
      Rutabaga/カブ(とても面白い)

 試しにもう1回やってみようか。

  お題「動物!」

   1つ目:
      Bird/鳥(面白くない)
   2つ目:
      Cow/ウシ(面白い)
   3つ目:
      Platypus/カモノハシ(とても面白い)

 みんなもぜひ遊んでみてくれ。

 この箇所は省いてもよかったかもしれない。フレイバーテキストにはあまり関係ないくだりだからだ。しかし今あらためて読み返してみて、残しておくに値すると思われた。

 ~~~~~~~~~~~~~~~ ここまで引用 ~~~~~~~~~~~~~~~

 放火魔週間を楽しみにしていてくれ。そのときは《補償金/Reparations》のフレイバーテキストについて話そうと思う。(訳註:上記の引用元であるフレイバーテキスト週間のコラムで第1位のカードが《補償金/Reparations》だった)


ドワーフの狂戦士、ドワーフのイメージについて語る

 マジックで幸せそうなドワーフってやつを見たことがないことに気づいてたか? 悲しそうなやつでもいい。そもそも感情ってやつを表に出してるやつをだ。そう怒り以外のだ。

 そりゃどんな人間だってドワーフってやつがムカツくチビだってことは知ってるもんだ。俺たちゃ小さすぎて怒りがあふれんばかりだ。

 おおっと、気をつけろよ! 俺たちを馬鹿にしないほうがいい。煽られりゃ、すぐにでも殴り込みに行くぞ。殴るんでなけれりゃ、爆破しに行くかもしれん。それともお前らを燃やせる何かを持ち出すかもしれん。

 もちろん穴を掘ったり鎧を作ったりで忙しいときゃ別だ。ああ、もちろんお前らから見ればそれをしているときすら怒ってるように見えるんだろうがな。神がそうあれとドワーフに望んだ姿でしか人の目に映らないように神の御手が働いてるんだろうさ。

 俺たちがまったくお前らのイメージどおりの、かんしゃくもちでコミカルなキャラクターでなくなったら世界が崩壊する、ってな寸法だ。それがまた俺をいらだたせるんだ。まあ、でもお前らはそんな俺たちが大好きなんだろう。


ちょっとしたゲーム

 マジックには32体のドワーフがおり、そのうち21体の名前は「ドワーフの(Dwarven)」で始まる。ここでどの「Dwarven」が「どのセットに登場したか」を覚えているかどうか試すクイズを出してみようと思う。以下の「Dwarven ~」がそれぞれ最初に登場した基本セット/エキスパンション名と組み合わせてみて欲しい。

  <Dwarven ~>
                   <セット名>
 1) Armorer
                  a) アライアンス/Alliances
 2) Berserker
                  b) アルファ/Alpha
 3) Blastminer
                  c) アポカリプス/Apocalypse
 4) Driller
                  d) フォールンエンパイア/Fallen Empires
 5) Demolition Team
                  e) ホームランド/Homelands
 6) Patrol
                  f) ジャッジメント/Judgment
 7) Sea Clan
                  g) オデッセイ/Odyssey
 8) Strike Force
                  h) オンスロート/Onslaught
 9) Vigilantes
                  i) ビジョンズ/Visions
 10) Weaponsmith
                  j) ウェザーライト/Weatherlight


 答えは以下の通りだ(反転で表示)。

     <カード名>
                   <セット名>
 1) 《Dwarven Armorer》
                  d) フォールンエンパイア/Fallen Empires
 2) 《Dwarven Berserker》
                  j) ウェザーライト/Weatherlight
 3) 《Dwarven Blastminer》
                  h) オンスロート/Onslaught
 4) 《Dwarven Driller》
                  f) ジャッジメント/Judgment
 5) 《Dwarven Demolition Team》
                  b) アルファ/Alpha
 6) 《Dwarven Patrol》
                  c) アポカリプス/Apocalypse
 7) 《Dwarven Sea Clan》
                  e) ホームランド/Homelands
 8) 《Dwarven Strike Force》
                  g) オデッセイ/Odyssey
 9) 《Dwarven Vigilantes》
                  i) ビジョンズ/Visions
 10)《Dwarven Weaponsmith》
                  a) アライアンス/Alliances



構築環境におけるドワーフの輝かしい戦歴について

 確かプロツアーのフィーチャーマッチで《ドワーフ鉱夫/Dwarven Miner》を見かけたことがあるような、なかったような……分かった分かった、ちゃんと言うよ。

 1998年、Scott Johnsが世界チャンピオンになるチャンスを失ったのは、Ben Rubinとの準々決勝の最終ゲームで《ドワーフの秘術師/Dwarven Thaumaturgist》と《ドワーフ鉱夫/Dwarven Miner》が彼を打ちのめした瞬間だった。

 本当の話さ。


我がドワーフ的人生(その1)

 私の「Making Magic」のコラムに共通するテーマの1つとして、コラムの要点を強調したいときに私のプライベートを用いる、ということがある。そして、今日、私たちはドワーフについて話している。

 さて「ドワーフであるということはどういうことか」を理解する助けとなるような私の過去の経験について、君たちと共有したら面白いんじゃないかと考えたわけだ。

 私は背の高い人間ではない。いや、実のところ、私は開発部でもっとも背の低いメンバーだ(状況は悪化する一方だ。何しろ新たに雇われるメンバーの平均身長は高くなるばかりだ)。

 私は背の低い家系に生まれた。私の両親も背は低いし、私の子供たちも背が低い。しかも私が結婚相手として選んだ人も背が低い女性だった。

 しかし思春期を迎えるまでは、私は単に背が低いというわけではなかった……私は「とても」背が低かったのだ。私はクラスで最も背が低い子だった。そう、もっとも背が低い男の子ではなくね。

 なんてこった。

 私たちのクラスには君たちが見たこともないほど小さい女の子が1人いた。彼女はピーターパンの劇でティンカーベルを演じた。縮尺があまり変わらなかったからだ。彼女は私より背が高かった。

 私はあまりにも背が低かったので、周囲の人々は私を実際よりも2歳か3歳か若いものだと思っていた。私が小さい子供がやるようなことをしていると、周囲の人々は私のことを天才だと思って拍手してくれた。

 ありがたいことに子供というものは(特に男の子は)優しい心を持っていて、身体的特徴などを理由にして仲間外れにするようなことはしなかった。

 ……そういえば聞いた話だが皮肉というものは活字だと伝わりづらいらしいね。

 さっきのは皮肉だよ!

 幼少期の頃、冬の休み時間に私が遊んでいたゲームは「大きい子から逃げろゲーム」というものだった(ここでいう「大きい」というのは「年上の」という意味じゃない。物理的に「私より大きい」という意味だ)。

 念のために言っておくと自分から進んで参加したわけじゃない。気が付いたらそういう遊びになってしまっていたというべきかもしれない。どういうことかというと、でかい子供たちはすぐ私をつかまえて雪の中に転がそうとするので逃げ回っていたのだ。

(ちょっとした余談。現在の私は夢であった仕事につくことが出来た上に素晴らしい家族にも恵まれている。対して雪の中で私を追い回していたやつらはおそらく離婚の慰謝料を支払うためだけに退屈でつまらない仕事をこなしているに違いない。因果は巡る。覚えておくように)

 さて、これから何が分かるか? 私がこのことから学んだのは、なぜドワーフがあんなにもぶっきらぼうな態度をとっているのかだ。

 彼らは「大きい子から逃げろゲーム」なんか遊ぶつもりはないんだ。むしろ「俺に触りたければそうするがいい、その額にツルハシをぶち込んでやるぜゲーム」を開催するだろう。

 私は確かにドワーフのようなぶっきらぼうな態度はもっていない(ツルハシもだ)。しかしそれでも小さいことによって被るあれやこれやについては理解できる気がする。


ドワーフに聞いてみよう

問い:戦闘で何体までのゴブリンなら一度に相手にできますか?

《バルソー》
「生死は? ……ああ、俺のな」

《沸血のドワーフ/Bloodfire Dwarf》
「6体。小さいやつなら7体まで」

《ドワーフ巡視部隊/Dwarven Patrol》
「10体から12体」

《ドワーフの秘術師/Dwarven Thaumaturgist》
「5体」

《パーディック山の鉱夫/Pardic Miner》
「7体」

《火花魔道士/Spark Mage》
「6体」

《爆弾兵団/Bomb Squad》
「15体」

《ドワーフの狂戦士/Dwarven Berserker》
「30から40くらいか」

《ドワーフの兵卒/Dwarven Grunt》
「1匹かな……運が良ければ」

《ドワーフ自警団/Dwarven Vigilantes》
「9体」

《ムチ打ち人/Whipkeeper》
「14体」

《焼き焦がすドワーフ/Dwarven Scorcher》
「8体だ。相手がモグじゃなければな。モグ相手じゃ3体がいいとこだ」


ジョーの考えてることはよく分からん

 私はときどきゲームそれ自体の話ではなく、ゲームをプレイする人に焦点を当てた話をすることがある。R&Dに関するときでもよくそういう話をさせてもらっている。運の良いことに、ドワーフ関連でもネタがあった。

 さて、開発部にいる特権の1つとして、他のメンバーが作ったゲームのプレイテストに参加できる点が挙げられる。これはそういった話の1つだ。

 これはずっと前の話で、当時はまだリチャード(リチャード・ガーフィールドのこと)がオフィスにいた頃だ(今でも彼はときどき顔を出してはいるけれど、これは彼がウィザーズでフルタイムで働いていたときの話だ)。

 リチャードは家族向けのパーティゲームをデザインしようとしていた。ドイツのゲームに着想を得て、とある手ごろなゲームを彼は作り上げた。彼はそれを「Hive Mind」(集団意識)と呼んでいた。

(もしかしたらいつか「What Were You Thinking」(何考えてるの?)という名前で発売されるかもしれない。発売元はウィザーズ社以外かもしれないけど、もしEbayやおもちゃ屋さんで見かけたらぜひ手に取ってみて欲しい)

 ゲームの流れはこんな感じだ。まず君は質問をされる。それに対して「他のプレイヤーと一致するような回答」を書く。つまりポイントはもっとも多数派となれるよう、プレイヤーたちの考えを予想して「もっとも一般的な答え」を思いつくことだ。

 ほとんどの開発部のメンバーはこの「Hive Mind」がなかなか上手かったが、ただ1人、例外がいた。彼の名前はジョー・グレイスといった。

 マジックの仕事にはあまり携わっていなかったが、アングルードの《Timmy, Power Gamer》のイラストのモデルになった人物だ(当時の開発部で「もっともティミーな」プレイヤーが彼だったからだ)。

 理由は不明だが、とにかくジョーは「Hive Mind」が下手だった。

 いや、下手だった、は不正確だね。

 彼は「ド下手」だった。

 何らかの理由で、彼の遺伝子には「他人と同じ考えをする」という能力が欠けていた。それにも関わらず、ジョーはこのゲームに繰り返し参加した。ずっと下手なままではないと証明するためだ。

 しかし遊べば遊ぶほど、皆は彼はこのゲームに向いていないのだと確信せざるを得なかった。そしてジョーと「Hive Mind」を遊ぶのが最後になったゲームでのことだ。

 そのときのお題は「有名な3人のドワーフの名前をあげろ」だった(今日のコラムに関係ある話題だ、って言ったろ?)。皆が答えを書き上げた。

 ジョーは笑みを浮かべていた。彼は確信していたたのだ。ついに運命の女神は微笑んだのだ。これこそが俺の「お題」だ。今回に限って孤立することなどない。ついに有象無象の1人になれるのだ。ジョーは興奮のあまり、答えを最初に公開させてくれと申し出た。

 念のため。今回のお題は「有名な3人のドワーフの名前をあげろ」であり、他のプレイヤーと答えを一致させることがゲームの目的だ。

 ジョーは答えを書いた紙を取り出した。さらに自信のほどを見せつけるためか指まで鳴らした。「よし」と彼は始めた。「まずギムリ!」(余談ながら追記しておくと、他の皆の答えは「白雪姫と七人のドワーフ」に登場するドワーフたち、「ドーピー、グランピー、ドク」だった)


ドワーフの狂戦士、土地破壊とドワーフについて語る

 お前ら、なんで俺らドワーフがやっきになって土地をぶっ壊して回ってるか、知ってるか? ありゃ、好きでやってんじゃねえんだ! そうするように言われてるからやってんだ!

 ……あ? なんでそうするように言われるかって!? あいつら、俺らにトーナメント会場に顔を出して欲しくないのさ!

 みんな知ってることだろ、開発部の奴らは土地破壊カードをこれでもかとクソカードに変えてやがる。そりゃそうさ、誰だって土地を片っ端からぶっ壊されたくはないわな。

 さて、じゃあクソカードを背負わせるのにふさわしいのは誰だ? ちっこい奴らだ!

 それだけならまだしも、あいつら、たまに上質な土地破壊カードを作りはするが、それだけはなぜか絶対にドワーフにしねえんだ!

 俺たちだって、必要とありゃなだれの1つにくらい乗ってみせるぜ! だけど違うんだな、奴らは俺たちにダメなやつらのままでいて欲しいのさ。

 俺たちの居場所を見つけてくれようとしている? 10円レアのボックスの中にだろうよ!


ドワーフに聞いてみよう

問い:自分より背の高い相手とデートしたことありますか?

《ドワーフ徴募兵/Dwarven Recruiter》
「あるよ」

《地雷の敷設者/Mine Layer》
「ある」

《ドワーフの兵卒/Dwarven Grunt》
「ある」

《Dwarven Trader》
「そもそも選択肢がないんだが」

《焼き焦がすドワーフ/Dwarven Scorcher》
「ある」

《ドワーフ鉱夫/Dwarven Miner》
「あるよ」

《ドワーフの狂戦士/Dwarven Berserker》
「自分より背の高い相手とデートはしない」

《Dwarven Armorer》
「ある」

《Dwarven Sea Clan》
「あいよ」

《開放されたドワーフ/Liberated Dwarf》
「もちろん」

《パーディック山の刀工/Pardic Swordsmith》
「ある」

《Dwarven Lieutenant》
「ある」

《ドワーフ爆破作業班/Dwarven Demolition Team》
「ある」
「ある」
「ある」


ドワーフの嫌う言い回し

 "come up short" (足りない)
 "short comings" (短所)
 "short sighted" (短絡的)
 "short tempered" (短気)
 "for short" (短縮系で)
 "in short" (手短に)
 "short for" (短縮系で)
 "short of" (不足している)
 "short end of the stick" (貧乏くじを引く)
 "short films" (短編映画)
 "short people" (小さい人)
 "little people" (一般人)
 "vertically challenged" (縦方向にハンデを負っている = ちび)
 "ground lickers" (地をなめる人 = ちび)
 "low men on the totem pole" (トーテムポールの下段担当 = ちび)
 "small pickings" (重箱の隅をつつく)
 "small time" (取るに足らない)
 "small talk" (世間話)
 "small good that’ll do" (それで足りるだろ)
 "Smallville" (作品名。邦題:ヤング・スーパーマン)
 "feel small" (肩身が狭い)
 "a little" (少々)
 "little by little" (少しずつ)
 "pick it up a little"
 "little importance" (重要性が低い)
 "tiny dancer" (作品名)
 "tom thumb" (作品名。邦訳:親指トム)
 "wee _____ " (小さな ~)
 "little fella" (坊や、お嬢ちゃん)
 "knee high to a grasshopper" (バッタの膝くらいの高さ)
 "below knee level" (ひざ下レベル)
 "dwarf short" (小人症)
 "How’s the weather down there?" (下界の天気はどうだい?)
 "Would you mind shining my shoes?" (ちょうどいいや、靴磨いてくれよ)
 "Oops, I almost stepped on you." (あぶねえ、踏んづけるところだった)


我がドワーフ的人生(その2)

 さっきはその場にいるもっとも小さきものであることによって遭遇しうる物理的な危険性について述べた。次は精神的なものについて語ろうと思う。

 もしかしたら君たちは、あまりにも背が低いと逆にそれをあげつらう人もいないかもしれない、と考えるかもしれない(それによって何かが多少ましになるというわけでもないが、非常に背が高い友人たちによると、彼らもまた私とは正反対の方向において同じような境遇だったそうだ)。

 身長が私にとって大きな問題となったのは、それが周囲の皆にとっても大きな関心事だったからだ。私は同じ子供たちによってからかわれることに対する心の準備は出来ていた。しかし同様に大人たちからもからかわれることは予想していなかったのだ。

 分かるだろう? 私は大人たちは味方だと思っていたんだ。

 しかし私は負け犬だった(余談だが、私がUnderdogの大ファンなのはそれが理由だと思う)

 権威は弱者を守ってくれるんじゃなかったのか?

 大人は大人びた振る舞いをしてくれるんじゃないのか?

 そう考えるのが普通だろう。ところが大人たちも他の人間と同じように私の身長をからかいの種にした。なぜだかは分からないが、身長についてからかうことはひどいことだと思われていないふしがある。

 いや、だって考えてもみてくれ。背丈についてからかう人たちだって、太った子供を同じようにからかったりはしないだろう?(もしかしたらするのかもしれないけどね。もしそうだとしたらそれはとても悲しいことだ。大人たちは大人なんだからちゃんと大人びた対応をしてくれるはずだ、と子供が思ってはいけないということになる)

 しかし大人たちによるもっともひどい嫌がらせはここぞというときまで、そう、とある特別な夜まで大事にとっておかれた。

 それは私の初めての学内ダンスパーティだった。確かあれは私が小学校6年生のときだったと思う(そのとおり。私を成長させてくれるはずの思春期という時期は、逆に出来る限りその仕事を終えるのを先延ばしにしようと粘り続けたのだ)。

 小学生のダンスパーティというものを覚えていない(もしくは意図的に忘れた)みんなのために書いておこう。それはとてもダンスと呼べるような代物じゃなかった(まあ、私も今や老いぼれの身だ。もしかしたら今ではすっかり違うものになっているのかもしれないが、何にせよ、当時はそういうものだったと思ってくれ)。

 当時の子供たちはデートなんてしたことない子が大半で、大人としてはもっと積極的になれと後押ししたくてしょうがなかったらしい。

 大人たちはダンスパーティをたった一組のカップル、その2人っきりでスタートさせたんだ。ふむ。さて誰がふさわしいだろうか?

 いやいや、もっとも面白い取り合わせのカップル以外ありえないだろう? そう、たとえばもっとも背が低い男子ともっとも背が高い女子のカップルさ。

 それ以外ないだろう? せっかくのダンスパーティだ。

 すでに普段から十分に居心地の悪い思いをしている2人をさらにどん底に突き落とさなくてどうする? ……ちなみに私は逃げなかったよ。踊るように言われたし、なんというか先生に反抗するようなタイプでもなかったしね。

 私より頭2つ分は高い女子とダンスを踊りながら、私はひどく腹を立てていたことを覚えている。毎日、嫌な思いをしてきているだけでもたくさんだというのに、公立の小学校みずから率先して辱めを与えてくるとは!

 こんなことは間違ってる。これと同じくらいの辱めなんてありえるのか!? 一番にきびが多い男子と一番胸が小さい女子とか!?

 さてこれがドワーフの話とどう関係してくるのか。この出来事から私はなぜドワーフが単一の種として存続しているのかが分かったからだ。彼らは社交的ではないからだ。

 その理由は?

 自明のことだ。もし社交的だったらサイクロプスの女子とでもダンスさせられてることだろう。


ドワーフの狂戦士、あごひげについて語る

 なんでドワーフが誰も彼もあごひげを伸ばさせられてるのか、不思議に思ったことはねえか? 俺たちの顔を見たくねえからだよ。

 人間どもは狡猾さ。

 どうやって俺たち小せえ奴らを見張ってるか知ってるかい? テレビだろうが映画だろうが、とにかく出てくるドワーフは全部あごひげつきさ。ああ、ただ1人をのぞいてな。

 こうすりゃ、うちらの1人があごひげをそって歩き回ろうなんて考えようもんなら、何十人もの芸人どもにこう呼ばれるのさ。「おう、ドーピー!」ってな!
訳註:
 ドーピーはディズニーアニメの白雪姫に出てくる七人のドワーフの中で、唯一あごひげを生やしていないキャラクター。なおドーピー(Dopey)という名前は「お間抜け」もしくは「ぼんやり」というような意味をもつ。


ドワーフと小人症の違いについて

 君も気になってることだと思う。医学的な話をすると、ドワーフは小柄な体型をしており(4フィート10インチ以上であることはまれだ)、これは生物学的もしくは遺伝的な理由によるものだ。また特徴として全体的に小柄であり、腕と足と胴体がさらに相対的に短めでもある。小人症は医学用語で体型が小さい人の呼称だ。彼らは相対的に腕と足と胴体が短めでこれはホルモンの異常が原因だ。


生まれそうで生まれなかったドワーフたち

 ミラージュには《Dwarven Scouts/ドワーフの斥候》という呪文があった。これは赤の呪文で3体の1/2ドワーフ・トークンを生み出す効果だった。しかしこれは実際に世に出ることはなかった。何が起きたかって? これを見てくれ。
訳註:原文では以下のイラストが表示されている。
 http://www.wizards.com/magic/images/mtgcom/fcpics/making/mr203_scouts.jpg

 まあ、聞いて欲しい。私たちは「3体のドワーフが敵の陣地に潜入しているイラスト」を依頼したところ、この絵が出てきたんだ。これを見るや否や、私は当時のアート・ディレクターであったスー=アンの元へ向かった。

私:やあ、スー・アン。《ドワーフの斥候》のイラストを見たかい?
スー:ええ、見たわよ。気に入った?
私:実はそうでもないんだ。ちょっと問題があってね。
スー:なに?
私:一緒に確認したほうがいいと思ってね、イラストを持ってきたんだ。ほら、これだよ。
スー:Geofの色使いは素晴らしいと思うわ。
私:違うんだ。イラストの質は問題じゃないんだ。
スー:はいはい、じゃあ何が問題なの?
私:このカードの名前は《ドワーフの斥候》だ。
スー:それで?
私:もう1回カード名を言うよ。《ドワーフの斥候》だ。「ドワーフの」ね。
スー:やっと分かったわ。あなたはこれが斥候には見えないって言いたいのね。
私:違うよ! 私が言いたいのはこれがドワーフには見えないって話だ!
スー:見えるわ?
私:絶対に見えないね。
スー:ドワーフに見えないってことはないわ。
    イラストレーターの裁量に多少の幅は持たせてあげないとダメよ。
私:これは今回限りのオリジナルなクリーチャーじゃないんだ。
   ドワーフにはドワーフなりの見た目というものがあるんだ。
スー:ちょっと心が狭いんじゃないかしら。
    自分の見たいものだけを見ようとしてる気がするわ。
私:ドワーフには決まった見た目ってものがあるんだよ。特徴的な体型もしてるし、
   あごひげも生やしてる。イラストのクリーチャーたちはひげが生えてないじゃないか。
スー:ドワーフだからってあごひげが生えてなきゃいけないってことはないわよ。
私:いけないんだよ、マジックの世界だけじゃなくて、
   ここ何十年というポップ・カルチャーの歴史においてもね。
スー:ミラージュのドワーフはこうなのかもしれないわ。
私:これがドワーフに見えないということだけじゃなくて、
   これが別な何かに見えるということも分かってもらえるよね?
スー:何かって?
私:よく見てくれ。
スー:で?
私:チビで、緑で、尖った耳をしてる。
スー:ごめんなさい、何を言いたいのかよく分からないわ。
私:君はファンタジー世界に関わる仕事をしてるんだよね?
スー:まだ分からないわ。
私:ゴブリンだよ! こいつらはゴブリンだ!!
スー:私にはドワーフに見えるけど。
私:君にはそう見えるのかもしれないし、イラストレーターにもそう見えるのかもしれない。
   けど、世界の残りのみんなにはそうは見えないんだ。なんでか分かるかい?
スー:なんで?
私:こいつらがドワーフじゃないからさ! こいつらはゴブリンなんだよ!!
スー:あなたにとってはね。
私:そのとおり、私にはね。そしてファンタジー好きなら誰でもね!
   たとえばマジックのプレイヤーたちとかね!!
スー:そう言われても今更イラストを変更することはできないわよ。
私:え、いや、だけど私たちはドワーフのイラストを発注したんだよ?
スー:Geof Darrowの解釈ではこれがドワーフなの。
私:……分かった。分かったよ。どうやら相談する先を間違えたらしい。
   これはイラストの問題じゃないんだな。デベロップメント・チームのところに行くよ。

 そして《ゴブリン斥候隊/Goblin Scouts》が生まれたというわけさ。


ドワーフに聞いてみよう

問い:白雪姫に出てくるドワーフたちってリアル?

《ドワーフの狂戦士/Dwarven Berserker》
「あんなベッピンさんが7人のチビどもと1つ屋根の下に住んで何もないなんてあり得ねえ」

《ドワーフの放浪者/Dwarven Nomad》
「たったの7人ぽっちで鉱山で働いてて、どことも知れない場所にある小さな小屋に詰め込まれて暮らすのがリアルかどうかだって?」

《血たぎるドワーフ/Dwarven Bloodboiler》
「あんな馬鹿っぽい歌をうたうドワーフはいない」

《Enslaved Dwarf》
「スリーピー(ねぼすけ)とかスニージー(くしゃみ屋)とかドク(博士)みたいにアホな名前したドワーフはいないよ。たぶんね」

《パーディック山の鉱夫/Pardic Miner》
「俺はそこそこリアルだと思ったけどな」

《ドワーフの秘術師/Dwarven Thaumaturgist》
「ドーピー(ぼんやり)だけは無い。30秒以上黙ってられるドワーフなんてあり得ねえ」

《Dwarven Trader》
「グランピー(怒りん坊)は俺のおやじに似てる気がする」

《Dwarven Lieutenant》
「口笛を吹くドワーフなんていないから。ああ、あと一列になって歩くドワーフも」

《開放されたドワーフ/Liberated Dwarf》
「エンディングは泣けたね」

後編へ続く
http://regiant.diarynote.jp/201305061530428933/

前編
http://regiant.diarynote.jp/201305061531295027/

バルソー誕生秘話

 デザインをする中で好きな作業の1つに、既存のイメージに合わせてデザインするというのがある(制約と創造性。ふむふむ)。これが当てはまるのは特に伝説のクリーチャーをデザインするときだ。

 しばしば背景ストーリーにはレギュラーとなるキャラがいて、クリエイティブ・チームからそのキャラをカード化して欲しいという依頼がくるわけだ。

 バルソーはその2つのバージョン両方ともについて、依頼がきた。

 バルソーが特別だったのは、彼がブロックの背景ストーリー半ばで一度死に、ゾンビと化して蘇ってくるということが分かっていたことだ。同じブロック内で同じ伝説のクリーチャーを2バージョン作るというのはそうそうあることじゃない。

 アーテイ、クロウヴァクス、カマールなどは違うバージョンをまったく違う時期にデザインされたものだ。しかしバルソーは隣り合う2つのセットで登場することになっており、違うバージョンを一気にデザインするという貴重な機会をついに得られたわけだ。

 どういうことかというと、私たちは2枚のカードを使ってキャラクターの対照性を表現する機会が得られたということだ。さらに、クリエイティブな面でリンクさせる以上は、同時にメカニズム的な意味でもリンクさせないと美意識が許さない。

 私たちはまずは「生きている」ときのバルソーから考えてみることにした。

 たしかこんな会話だった気がする(クリエイティブチーム側の面子が誰だったかはっきりと覚えてはいないけど、確かブランドンだったと思う)

 私:バルソーについて教えてくれよ。
 ブランドン(以下、ブ):彼はバーバリアンのリーダーなんだ。
 私:あれ? バルソーってドワーフじゃなかったっけ?
 ブ:そうだよ。
 私:ドワーフのバーバリアンたちを率いてるってこと?
 ブ:いや、バーバリアンたちは人間だよ。
 私:ドワーフは?
 ブ:なんのドワーフだよ?
 私:いや、バルソーはドワーフだろ? じゃあ少しはドワーフの知り合いがいるはずだ。
 ブ:彼はドワーフの仲間から追放されたんだよ。
 私:なんだって? ドワーフが仲間外れにされてるんだって? そりゃキツイな。
 ブ:だろうね。
 私:まあいいや、彼はバーバリアンのリーダーなんだね。……他には?
 ブ:えーと、そうそう、彼はカマールの師匠的な存在なんだ。
 私:……他には?
 ブ:それくらいかな。
 私:バーバリアンのリーダーであり、かつ師匠であるドワーフをデザインするわけか。
 ブ:基本的にはね。
 (沈黙)
 私:うん、助かったよ。

 バーバリアンのリーダーということで私は「他のバーバリアン(Barbarian)・クリーチャーは+1/+1の修整を受ける」に辿り着いた。師匠うんぬんは、バーバリアンのパワーをパンプさせる能力を思い付かせてくれた。

 次に私は黒バージョンにとりかかることにした。

 死んだあとのバージョンは少し「悪い」感じになっている。さらにアンデッドということもあって、こいつは「黒」になった。

 カードに関連性を持たせるため、私は並行性のあるデザインを試みたかった。つまり、ゾンビ版バルソー(当時はそう呼ばれていた)も特定のクリーチャータイプに+1/+1の修整を与えつつ、かつそのクリーチャータイプにだけ何らかの効果のある能力を持たせたかったのだ。

 前半部分について、ミニオンを思い付くのにそう時間はかからなかった。ストーリーとも合致するし、過去にロードが存在しなかった種族でもある(生きている方のバルソーが強化するバーバリアンも、過去にロードが存在しなかった種族だ)。

 起動型能力については色々と試してみたがどうしてもしっくりこなかった。そこで私はブランドンの元へ戻り、背景ストーリーについてさらに聞き込みをしてみた。そうして得られたアイデアが「バルソーが自身の軍勢をまるごと復活させる」というものだ。

 元々は単に黒のクリーチャーだけを復活させるというものだったが、2枚のカードを見比べているうちに、バーバリアンとミニオンの両方を釣りあげられるようにしてはどうだろう、
というアイデアが閃いた。

 《汚らわしき者バルソー/Balthor the Defiled》のテキストに「赤のクリーチャー」が加わっているのはこういうわけだ。そんなこんなで伝説のドワーフは生まれ、そして死に、さらに2度目の生を受けたというわけだ。


ドワーフの狂戦士、「ドワーフの(Dwarven)」について語る

 ちょっと手を止めてこのゲームに出てくるドワーフのカード名を見てくれ。その3分の2が「ドワーフの」で始まるんだ……って、3分の2だと!? カード名で俺たちがドワーフだって念を押すのがそんなに大事か? 俺たちゃ、みんな、3フィートであごひげ生えた連中だってんだよ。そんなんイラストがあれば十分分かるだろうが。

 で、本当の理由を知りたいか? 人間様は俺たちに固有の名前をつけたくないんだよ。俺たちが個別に独立独歩した存在だと思って欲しくねえんだ。だからこれからも《ドワーフの剣職人/Dwarven Swordmaker》とか《ドワーフのチビすけ/Dwarven Pissed Off Little Guy》みたいな面白いカード名が出てくるんだろうよ。

 楽しみにしてな。


注意深くあれ

 ここで語るのは、私がどうやって試合に勝ったかという話だ。

 話を始める前にあらかじめ言っておくと、この話はきっと論争を呼ぶだろうね。上手いプレイングだったと思う人もいるだろうし、私をクズだと思う人もいるだろう。だからこそ掲示板があるんだ。今週のスレで自由に議論して欲しい。私のプレイングが優れたものだったのか、それとも単に初心者を馬鹿にしたものだったのか。

 それはさておき、ここからが本題だ。

 そのときの私はミラージュのシールド戦に参加していた。対戦相手のライフを残り6点まで減らしていたが、地上はこう着状態におちいっていた。さて、私の手札には《卑屈な幽霊/Skulking Ghost》がいた(知らない人のために付け加えておこう。これは2/1の飛行クリーチャーで、何かの対象にされたとき生け贄に捧げなくてはならない)。この幽霊の攻撃が3回ヒットすれば私の勝ちだ。

 問題は対戦相手側に立ちつくしているドワーフだった。

 それは《ドワーフの放浪者/Dwarven Nomad》だった。ミラージュにおける《ドワーフの戦士団/Dwarven Warriors》の同型再販であり、クリーチャーを対象にとるタップ能力を持っている。

 つまり私の《卑屈な幽霊/Skulking Ghost》を殺すことができるクリーチャーだ(なおタップ能力は「パワーが2以下のクリーチャー1体を対象とする。それはこのターン、ブロックされない」だ)。

 私は幽霊を手札に残しておいた。しかし試合を続けるにつれ、彼のプレイングを見る限りとおそらく彼は《ドワーフの放浪者/Dwarven Nomad》の使い道に気づかないのではないかと思えてきた。

 そこで私は《卑屈な幽霊/Skulking Ghost》を戦場に出すことにした。私の予想通り、続く3ターンの攻撃は邪魔されることなく相手にヒットし、相手は自分の目の前に解決策があることに気づくことは最後までなかった。

 試合終了後、いい試合だったねと声をかけてから、彼のミスについて指摘した。

 さて、一番の論点は何かというと、ボード上の展開の予想を対戦相手のプレイスキルの高低で判断したのは、スポーツマンシップの乗っ取った行為だったのか、それとも単に私が人間のクズだったのか?

 ぜひとも論じてみて欲しい。


我がドワーフ的人生(その3)

 ドワーフは怒りをコントロールする能力に乏しいことで有名だ。なぜだろうね。

 私の私見だが、おそらくそれは彼らの身長に関係があるのだと思う(心理学ではこれを「ナポレオン・コンプレックス」と呼んでいる)。どうしてそれが分かるのかって? 私自身もそうだったからだ。

 Randy Newnanが差別的なネタの歌を書いたのは1977年の12月のことだった。大した罪の意識もなく、彼はいかにチビであることが損なことかについて風刺的な歌詞をつづったのだ。

 歌の題名は「Short People(チビな奴ら)」というもので、その歌詞は「小さな手、小さな目、だけどデッカいホラを吹く(They got little hands; little eyes. They walk around telling great big lies)」さらに「チビに生きる資格ナシ(short people got no reason to live)」というようなものだった。

 1977年の当時、私は10歳だった。皮肉というものがまだ理解できる年齢ではなかった(メモ:子供にとって一番理解しがたいジョーク、それは皮肉だ)。

 私にとってRandy Newnanは悪だった。

 背の低い子供をどん底におとしめるにはどうしたらいいと思う?簡単なことさ。チビが最悪だ、という歌を全員で歌って聞かせればいいんだ。大人も一緒さ(傷ましい話だと思ってもらえるかな?)

 皆はさぞかし楽しかっただろうね。私? Randy Newmanを憎悪したよ。当時、他の誰よりも彼を憎んだね。彼は単なる意地悪な上級生か何かじゃなかった。彼は人気歌手だったんだ。

 もし私が短気なドワーフだったら、そして私の手に高品質の剣が握られていたら、間違いなく彼を亡きものにしただろうね(チビに生きる資格なしだって? 違うね! それはお前だよ!)

 関係者全員にとって幸いだったのは、私が短気なドワーフではなかったということだ。


件名:お忙しいところ、失礼します

親愛なるマーク・ローズウォーター様

 私の名前はジョクルールと申します。私はドワーフ組合の組合長を勤めさせていただいております。同胞がゲーム内にて適切かつ正確な描写で描かれるよう提言するのは私の役目と思われます。

 私たちの懸念するところはつまるところ以下の3点に集約されます。ご参照ください。

1.偏見について
 ドワーフのステレオタイプについておふざけが過ぎるように思われます。お気づきと思いますが、怒りっぽくてチビで、高品質の武器を振り回したり火を放ったりして、物を破壊したり爆破したりするというあれです。

2.カードの強さについて
 人気のあるカードになるためにはどうすればよいか? 構築で使われるレベルの強いカードに登場すべし、ということを私と同胞たちはよく理解しております。私自身は、すべてのドワーフカードがすべからくそのレベルにあるべきだとまでは考えておりません。しかしトーナメントシーンに出番がないというのは、ファンタジー世界の古参種族として正しい扱いを受けていないということである、と感じます。

3.頻度について
 繰り返しますが、ドワーフはファンタジーの鍵となる種族です。よってエキスパンションごとに少なくとも3枚もしくはそれ以上のドワーフカードが収録されるのがあるべき姿ではないかと考えています。

 他の組合は絶え間ない督促であなた様を煩わせているものと思われます。しかし私はそのような真似はしたくありません(このことからも「ドワーフは理性のない直情的な存在である」というステレオタイプが実存に基づくものでないことがお分かりになると思います)。

 私たちの抱える問題については理解していただけたものと信じています。そして上記の3点について、ファンタジーの主要種族に対する当然の振る舞いとして、漏れなく対応していただけるであろうことも、信じております。

 心からの感謝とともに、
 ジョクルールより


ドワーフに聞いてみよう

問い:ドワーフの複数形は?

《Dwarven Armorer》
「一塊のドワーフ」

《ドワーフ自警団/Dwarven Vigilantes》
「知らねえよ。一山のドワーフ? そもそも知りたい奴なんていねえだろ」

《ドワーフの兵卒/Dwarven Grunt》
「ドワーフの群れ」

《Dwarven Sea Clan》
「汚らしいドワーフたち」

《パーディック山の刀工/Pardic Swordsmith》
「怒れるドワーフたち」

《ドワーフ徴募兵/Dwarven Recruiter》
「ドワーフの群れ」

《ドワーフの狂戦士/Dwarven Berserker》
「ドワーフのケツだらけ」

《Dwarven Weaponsmith》
「少な目のドワーフ」

《ムチ打ち人/Whipkeeper》
「いっぱいのドワーフ」

《ドワーフ巡視部隊/Dwarven Patrol》
「群なすドワーフ」

《沸血のドワーフ/Bloodfire Dwarf》
「雪崩のようなドワーフ」


一寸法師にも五分の魂

 今現在、32体のドワーフが確認されている(もちろんマジック世界のドワーフの話だ。現実世界には32体以上いる)。さてその中で優れたデザインのドワーフといえば? その質問を待っていたよ。そろそろ「マジックザギャザリング ドワーフ・ベスト10」を決めるべきときだろうからね。

第10位《ドワーフ爆破作業班/Dwarven Demolition Team》
カードデータ:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Dwarven+Demolition+Team/
 ベスト10にこれが滑り込んだ理由は、もっともフレイバー的にもっとも優れたドワーフだからだ。壁が立ちふさがってるって? 誰を呼ぶべきかは明白じゃないか。

第09位《地雷の敷設者/Mine Layer》
カードデータ:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Mine+Layer/
 このカードがベスト10に入った理由もまた優れたフレイバーによるもので、さらにメカニズムによる表現も素晴らしい。プレイに際して、対戦相手に興味深い選択を強いるという点でも面白い。相手は土地をあと1回しか使えない状態になってしまうのだから。

第08位《爆弾兵団/Bomb Squad》
カードデータ:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Bomb+Squad/
 元々はゴブリンのためにデザインされたカードだが、これこそまさにドワーフの冗談的な要素の極地だ。私はこのカードの「導火線に火をつけて、あとは爆発までただ待つだけ」というフレイバーが大好きだ。またこのカードは私がよいデザインに求めるものを持っていて、それはプレイヤーにアクションを要求するという点だ。クリーチャーAとBとCは4ターン後に爆発するらしい。さあ、どうする?

第07位《Dwarven Weaponsmith》
カードデータ:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Dwarven+Weaponsmith/
 ベストテンに取り上げたカードを見直してると、メカニズムそれ自体から素晴らしいフレイバーが伝わってくるカードがいかに多いかに気づかされるね。どんなアーティファクトからでも鎧を作り出してプレイヤーに提供してくれる、というのはとても面白いと思う。《Dwarven Weaponsmith》が《Dwarven Armorer》よりも上位にきた理由は、アーティファクトを材料に鎧を作る、ということのほうが、手札を材料に鎧を作るよりも、より豊かなフレイバーにあふれているからだ。

第06位《ドワーフの秘術師/Dwarven Thaumaturgist》
カードデータ:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Dwarven+Thaumaturgist/
 R&Dの誰でも知っていることだが、私はこの「パワーとタフネスをひっくり返すカード」が大好きだ。この面白い効果の元祖は黒だった(レジェンドの《Transmutation》がそれだ)が、それを赤に導入してくれたのがこのチビ助だ(そういえば今現在ではどこに属している能力なんだろうね。自身のパワーとタフネスを交換する、という能力なら青にあるようだけど)。

第05位《ムチ打ち人/Whipkeeper》
カードデータ:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Whipkeeper/
 私がこのカードを好きな理由は、そのメカニズムが他にプレイしているカードに大きく依存するためだ。もし君が他にダメージソースを多く抱えているなら、このカードの評価は上がる。しかしそうでないならイマイチなカードとなってしまう。他のカードに大きく依存するため、デッキを作る段階でプレイヤーに選択を強いる。そういうカードが私は大好きなのだ。

第04位《ドワーフ巡視部隊/Dwarven Patrol》
カードデータ:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Dwarven+Patrol/
 この《ドワーフ巡視部隊/Dwarven Patrol》が第4位に入った理由は、そのデメリットのデザインが素晴らしいと感じられたからだ。カード自体が使えないというほどひどくはないが、いざ使おうとすると、思っていたほど簡単じゃないことに気づく。

第03位《ドワーフ鉱夫/Dwarven Miner》
カードデータ:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Dwarven+Miner/
 デザインを経験すればするほど、シンプルでエレガントなカードに惹かれるようになる。ルールテキストを4つの単語(Destroy target nonbasic land)に収めるのは簡単な仕事ではない。しかもそれが実にドワーフらしいフレイバーもあわせ持つとなればなおさらだ。

第02位《ドワーフ自警団/Dwarven Vigilantes》
カードデータ:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Dwarven+Vigilantes/
 このカードは実にその名の表すところに忠実な能力を持っている。R&Dが俗に「Vigilante Ability」と呼んでいるもので、相手プレイヤーにダメージを与えるかわりに他のクリーチャーに移し替える能力のことだ。またこのカードは実際のプレイにおいても興味深い働きをみせてくれる。

第01位《ドワーフ戦士団/Dwarven Warriors》&《ドワーフの放浪者/Dwarven Nomad》
カードデータ:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Dwarven+Warriors/
 成功したデザインとは、一見弱く見えるが実際に使ってみると実は強い、というカードだ。それよりも作るのが難しいのは、一見強そうに見えるが実際に使ってみると実は弱い、というカードだ。それよりもさらに作るのが難しいのは、一見強そうに見えて、実は弱くて、それでもなおプレイヤーたちに愛されるカードだ。

 そういった意味で、この《ドワーフ戦士団/Dwarven Warriors》が成し遂げた偉業は、どれほど賛辞してもし過ぎるということはない。マジックを遊び始めた頃、このカードはとても強く見えたはずだ(この記事を読んでくれている初心者の君へ。気をつけたまえ。君が思っているほどにこのカードは強くないぞ。嘘じゃない)。

 マジックに慣れるに従って、このカードの弱さに君は気づくだろう。しかしそれでもなお、君はこのカードを使いたくなる衝動に駆られることがあるはずだ。素晴らしいデザインとはそういうものだ。


分担された役割は小さくなる

 長年に渡り、多くの作品でドワーフこそが小さきものとしてエンターテイメント作品のノベルティであり続けてきたが、唯一にして無二の存在であった、というわけでもない。以下にあげるのはポップカルチャー作品に登場するドワーフ以外の(そしてドワーフと同じ悩みを持つ)存在のリストだ。

 ・ウンパルンパ
 ・マンチキン
 ・イウォーク
 ・Mini-Me
 ・トゥルーズ=ロートレック
 ・ゲリー・コールマン
 ・Santa Elves
 ・ホビット
 ・レプラコーン
 ・ダニー・デヴィート
 ・Webster
 ・ウィロー
 ・Tattoo (Fantasy Islandから。これは外せない)


ハイホー、ハイホー!

 マジックに登場するドワーフカードだけを使って「七人の小人」を召還しなくてはいけなくなったら、どうすればいいと思う? 考えたこともないだろうね(ないよね?)。32個ものネタを書かないといけないとなれば、やるしかない。

その1:ハッピー(幸せもの)
《Dwarven Weaponsmith》(http://magiccards.info/rv/en/144.html
 選んだ理由は、こいつ以外にイラストで笑顔を浮かべているドワーフがいなかったからだ。

その2:グランピー(怒りん坊)
《Dwarven Berserker》(http://magiccards.info/wl/en/97.html
 こいつ以上に腹を立てているドワーフはいない。

その3:ドーピー(お間抜け)
《ドワーフ爆破作業班/Dwarven Demolition Team》(http://magiccards.info/al/en/143.html
 アルファ版のイラストを見てくれ。こいつより間抜けなドワーフはいないだろう。

その4:ドク(博士)
《ドワーフの秘術師/Dwarven Thaumaturgist》(http://magiccards.info/wl/en/98.html
 異論はないだろう。こいつ以外にドク(博士)と呼ぶべきドワーフは思いつきすらしないだろうね。どこからどうみても科学の使徒だ。

その5:スリーピー(ねぼすけ)
《Dwarven Trader》(http://magiccards.info/hl/en/91.html
 こいつは難しかった。このカードを選んだ理由は、イラストに描かれている女性(彼女以外に描かれていないからには彼女がドワーフなんだろう)が全ドワーフのイラストの中でもっとも眠たげに見えたからだ。さらに言えば、これは1/1のバニラだ。寝る以外にすることもないだろう。

その6:スニージー(くしゃみ屋)
《火花魔道士/Spark Mage》(http://magiccards.info/od/en/222.html
 百聞は一見にしかずだ。イラストを見てくれ。お大事に!

その7:バッシュフル(恥ずかしがり屋)
《ドワーフの放浪者/Dwarven Nomad》(http://magiccards.info/mr/en/170.html
 ほら、隠れてるだろ? ……これが精一杯だ。


なぜドワーフはゴブリンを憎むようになったのか

 このコラムはなぜマジックにドワーフが少ないのかについて説明するいい機会だと思う。

 それはゴブリンのせいだ。

 いや、本当の話だ(より詳細な説明を聞きたいなら、私が昔に書いた"Here’s Looking at You Squid"というコラムを読んで欲しい。この記事は、一見、セファリッドについて述べているように見えるかもしれないが(まあ、そもそもセファリッド週間のために書いたものなんだが)実際はドワーフについて語っているコラムだ)。

 マジックの赤という色において、小型のヒューマノイドのためだけに割けるスペースはそう大きくはない。そしてそのスペースの大半はゴブリンによって占められている。オデッセイブロックで試しにゴブリンをドワーフに交換してみたが、上手くいかなかった。プレイヤーの多くはゴブリンのほうがもっと好きなようだった。

 私たちの仕事は究極的にはプレイヤーたちの望む物を提供することにある(ある一定ラインまではね。ときにプレイヤーたちは逆のものを求めることがあるから)。そのため私たちはゴブリンを対照的に強くすることにした(常にではないが、より多くの場合において)。

 だからといって君たちがもう二度とドワーフに出会えないと言っているわけではない(というか、大丈夫、また会えるよ)。ただ会えたときはその出会いを大事にして欲しい。なぜならゴブリンほど頻繁に登場したりはしないだろうからね。


我がドワーフ的人生(その4)

 背の高さについてもっとも差別的な扱いを受ける場所がどこだか知ってるかい? 私が小さい頃、自分の背の低さを嫌というほど思い知らされた場所がどこだったか?

 遊園地だ。

 そう、純粋に背丈だけを基準にした入門ゲートがあるのは遊園地だけなんだ。これが特に問題だったのは、私が小さな子供であり、ジェットコースターが大好きだったことだ(子供用の小さな奴を経験したことによってね)。

 さらに問題だったのは私の身長が4フィート未満であり、かつジェットコースターの入り口には4フィートの高さをしたウサギちゃんのイラストが必ず描かれていたということだ(なお、さらにイカしたジェットコースターの条件は5フィート以上だったが、これが苦難として立ちふさがるのはまだ先の話だ)。

 ところで君たちは別段ピエロを怖がったりはしないだろうね? あれだよ、板に描かれた奴で手を横に突き出しながら「この怖い怖いジェットコースターに乗るには、これだけの身長が必要だよ!」って吹き出しが付いてる奴だ。

 私かい? 怖かったよ(いや、そもそもピエロ自体が怖いものだ。認めたまえ)。

 このピエロは私の用心棒だった。このピエロこそが私を夢のジェットコースターとのあいだに立ちふさがる存在だった。私はピエロが大嫌いだったよ。Randy Newmanほどじゃないが、それでも大嫌いだったことにかわりはない。

 さて、4フィートにわずか1インチ足りないだけの少年に出来る事はなんだったろう?

 答えはウェスタン風衣装だ。

 そう、私がジェットコースターに乗るためのカギはカウボーイブーツ以外になかった。1インチ以上の厚さのカカトを持つブーツこそが私に必要なものだったのだ。

 面白いことにジェットコースターの係員は、どうして私みたいな子供がわざわざ遊園地にカウボーイブーツをはいて来ているのかについて尋ねたりはしなかった。

 さて、ギムリやバッシュフルも同じような悩みを抱えたことがあるんだろうか?

 どうだろうね。


ドワーフに聞いてみよう

問い:特殊地形についてどう思います?

《ドワーフの爆風掘り/Dwarven Blastminer》
「耐えられんね」

《ドワーフ爆破作業班/Dwarven Demolition Team》
「壁が建ってるかどうかによるな」

《ドワーフ鉱夫/Dwarven Miner》
「嫌いだ」

《開放されたドワーフ/Liberated Dwarf》
「申し訳ないな、とは思う」

《Dwarven Sea Clan》
「知らん。そもそも土地から遠いところに住んでるんでな」

《焼き焦がすドワーフ/Dwarven Scorcher》
「俺の邪魔をしないなら許す」

《穿つドワーフ/Dwarven Driller》
「特殊だろうが基本だろうが関係ねえ、大嫌いだ」

《捕らわれのドワーフ/Enslaved Dwarf》
「ぶっちゃけどっちでもいい」

《パーディック山の鉱夫/Pardic Miner》
「土地だと? やっかいごとしか持ってきやがらねぇ」

《地雷の敷設者/Mine Layer》
「爆破するそのときだって、流してやる涙は1滴たりともないね。これでいいか?」

《ドワーフの狂戦士/Dwarven Berserker》
「ははあ、なるほど。
 ドワーフに質問しようってんだから特殊地形の話を持ち出すのは当然だな。
 俺たちの神経を逆撫でしたくてしょうがないんだろう、うん?
 ほーら、ちっこい奴らが腹を立てたぞ、ってな。
 ……失せやがれ、この野郎!!」


時間の問題

 マジックの歴史に名を連ねたことのあるドワーフの名前を以下に列挙してみた。

 ・Dwarven Artillery
 ・Dwarven Artisan
 ・Dwarven Assassin
 ・Dwarven Berserker
 ・Dwarven Blacksmith
 ・Dwarven Brawler
 ・Dwarven Cadet
 ・Dwarven Captain
 ・Dwarven Commando
 ・Dwarven Cutthroat
 ・Dwarven Digger
 ・Dwarven Enforcer
 ・Dwarven Explorer
 ・Dwarven Farmer
 ・Dwarven Hero
 ・Dwarven Marauder
 ・Dwarven Mechanic
 ・Dwarven Mercenary
 ・Dwarven Pickpocket
 ・Dwarven Piker
 ・Dwarven Psychopath
 ・Dwarven Scout
 ・Dwarven Sharpshooter
 ・Dwarven Spy
 ・Dwarven Tactician
 ・Dwarven Thief
 ・Dwarven Tinkerer
 ・Dwarven Trailblazer
 ・Dwarven Tunnler
 ・Dwarven Vandal
 ・Dwarven Warlord
 ・Dwarven Wizard


ドワーフの狂戦士、伝説のドワーフについて語る

 マジックに300体以上の伝説のクリーチャーがいるって知ってたかい? 300体だぞ!

 伝説のゴブリンは? 6体だ。伝説のエルフは? 4体だ。伝説のヘビ人間は? 7体だ・・・・・・7体だと! 伝説のゴーレムは? 2体だ。伝説のセファリッドは? ああ、あの人の形をしたイカの化け物のことだよ。2体だ。

 さて伝説のドワーフが何体か知ってるかい?

 1体だ。しかもドワーフの爪弾き者だ。そのとおり、奴らが伝説のドワーフに祭り上げた唯一のドワーフは同胞に何一つ与えてくれやしなかったのさ。

 それだけならまだしも、すぐ次のエキスパンションで殺しちまいやがった。どっちにしてもそれほど重要な立ち位置をもらってたわけでもないがな。

 おっと、俺の前で「伝説のドワーフなら2体いるじゃないか」なんて抜かそうもんならぶっ飛ばすぞ。生きてるバルソーと死んでるバルソーで2体なんて認めねえからな。

 あんなの合わせて1体だ、1体。


あまり知られていない事実

 私の参加するプロツアーでは「クエスチョンマークのマジックゲームショー」という催し物が開かれることになっている。これは参加者が「賞金と賞品(から賞金を除いたもの)」が得られる、マジックのトリビアに関するクイズショーだ。例えば以下のような感じだね。

0.あいさつ(今日のテーマは、私たちの小さき友人であるドワーフについて)

1.マナコストに最も多くマナシンボルを含むドワーフは?
答え:
赤マナ3点を必要とする《血たぎるドワーフ/Dwarven Bloodboiler》
2.母音で名前が始まる唯一のドワーフは?
答え:
トーメントの《捕らわれのドワーフ/Enslaved Dwarf》
3.もっとも短いルールテキストを持つドワーフは?
答え:
一切のルールテキストを持たない、ホームランドの《Dwarven Trader》
4.《爆弾兵団/Bomb Squad》の用いるカウンターの名前は?
答え:
導火線カウンター
5.現在の32体のうち、テキストボックスに「土地」の単語を含むドワーフは何体?
答え:
たったの5体。
 《ドワーフの爆風掘り/Dwarven Blastminer》
 《穿つドワーフ/Dwarven Driller》
 《ドワーフ鉱夫/Dwarven Miner》
 《地雷の敷設者/Mine Layer》
 《パーディック山の鉱夫/Pardic Miner》

6.ウィザードのクリーチャータイプを持つ、唯一のドワーフの名前は?
答え:
《火花魔道士/Spark Mage》
7.1つの単語を除いてまったく同じルールテキストをもつ2体のドワーフの名前は?
答え:
《捕らわれのドワーフ/Enslaved Dwarf》と《開放されたドワーフ/Liberated Dwarf》
8.初登場のエキスパンションでテキストボックスに注釈文のあった唯一のドワーフは?
答え:
オンスロートの《ドワーフの爆風掘り/Dwarven Blastminer》
9.初出から再版までもっとも長くかかったドワーフは?
答え:
《ドワーフ爆破作業班/Dwarven Demolition Team》
初登場はアルファ版(とベータ版とアンリミテッド)。次に再版されたのは基本セットの第8版。

10.ドワーフのルールテキストに登場したことのあるクリーチャータイプをすべて述べよ。
答え:
バーバリアン:《頑強なるバルソー/Balthor the Stout》
ミニオン:《汚らわしき者バルソー/Balthor the Defiled》
オーク:《ドワーフ兵士/Dwarven Soldier》


採点表:

8~10点:
 もし私が顔を出しているプロツアーに参加する機会があったら、ぜひQuestion Markに出場すること。君なら賞品を手に入れことができるはずだ。

5~7点:
 Question Markに出場すべし。賞品を獲得するチャンスはほとんどないが、練習にはなる。

2~4点:
 マジックのトリビアで身を立てていくのはあきらめた方がいい。
 はっきり言わせてもらうが、ゴミだ。

1点:
 君は2~4点の人をゴミと思うかもしれないが、それよりひどいゴミだね。

0点:
 君は一言の罵詈雑言にすら値しない。吐き気がするね(まあ一言くらいはね)

-1点:
 どうやったんだ? マイナス点はないはずだ。専門機関に診てもらったほうがいい。
 ありえない点数をとっただけじゃなくて、算数からやり直したほうがいいという意味でね。


皮肉と偶然

 このコラムは最初は軽い気持ちで始めたものだったが、なんという化け物に育ってしまったものやら。このコラムにかけた時間は過去のどのコラムにかけた時間よりも長いこと間違いなしだ(いくつかはほとんど同じくらいの時間を使ったかもしれないけどね)。

 小さなドワーフたちのコラムがこれほどまでに大きくなるなんて誰が想像できただろう。君たちがこの記事を楽しんでくれたことを願うよ。ぜひとも感想を聞かせて欲しい。

 このコラムが気に入った? 気に入らなかった? どこが良かった? 悪かった? 私が疑いようもないほどに狂ってるって信じてもらえたかな? ぜひ教えてくれ。

 さて皮肉の次は、偶然についてだ。

 このコラムを終わらせるに当たって、32という数字は単なる思いつきにすぎないわけではないことを語っておこう(私が何を言っているのか分からなくても大丈夫。おそらく掲示板で誰かがネタばらしをしてくれるだろう。ちなみにあらかじめ言っておくと数え間違いではないよ。The Simpsonがそれ自体パロディなようにね)

 恐ろしいことにマジックにいるドワーフの数もちょうど32体だ。なんてこった。

 何にせよ、このイカレたコラムもそろそろ終わりを告げるときがきた。来週はもっとシンプルな記事になる予定だ。楽しみにしていてくれ。あなたの人生にも32のイカしたネタが転がってますように。

 マーク・ローズウォーター
 翻訳をお読みいただく前に

 個人的な意見として、この記事の主題は、ルールの制定や解釈がどうとか、ジャッジの裁定が正しかったか正しくなかったかとか、そんなことではないんだと思う。
 失格裁定を受けたときどうすべきか、受けた人に対してどう接するべきか、同じコミュニティに属する人同士がどう助け合うか、須藤元気がいかに尊敬に値する人物であるか。そういったことを言いたいんだと思う。
 またこの件について記事を書かれている方が何人かいらっしゃるので紹介しておく。大会に実際に参加される方はすずけんさんのブログを一読されることをおススメする。

 黄昏通信社跡地処分推進室分室(高潮のさん)
 http://drk2718.diarynote.jp/201211130201147241/

 すずけんMagicメモ(すずけんさん)
 http://37082.diarynote.jp/201210251311355106/

 どちらの方も紹介されているように、この件についてはジャッジ側の記事が存在する。気力がある人はこの記事を読んだあとにそっち(以下参照)にも目を通して欲しい。

 Policy Perspectives(レベル5ジャッジ:Toby Elliott)
 http://blogs.magicjudges.org/telliott/2012/10/24/the-jackie-lee-dq/

【翻訳】ラヴニカへの回帰のプロツアーで失格処分を受けた私について/Life Totals, Disqualification, and You (and Me)【TCG Player】
Jackie Lee
2012年10月24日
元記事:http://magic.tcgplayer.com/db/article.asp?ID=10794

<その1>
 プロツアー登録時、特製Tシャツは「Lサイズ」と「XLサイズ」しか残ってなかった。

<その2>
 イベント当日の朝、家に忘れて来たせいで70ドル分のカードを買う羽目になった。

 というようなことがいきなりあったわけで、さてシアトルでどんな目に合うにしてもこれよりひどいことはないだろう、って思ってた。ああ、それと初日にひどいデッキをドラフトしちゃうかもしれないって心配も少ししてた。

 失格処分? これっぽっちも考えてなかった。

 この記事で述べてることは私だけでなく、マジックのプレイヤー、ジャッジ、そしてマジックのコミュニティすべてに関わることだ。私たちみんなが同じ意見を持ってるわけじゃないってことは分かってる。だけど共有する部分も大きくあるはずだと思ってる。

 私は今回のことから出来る限りのことを学ぼうと思ってる。そしてそれを皆に伝えられたら、とも思ってる。ここから述べることは基本的に私個人の話だ。私がしたいこと、それは人々にトーナメントレベルのプレイについて知ってもらうこと、そしてマジックのルール改定の改善だ。

何が起きたか

 ラウンド6が終わったところでウィザーズ社はこの記事(訳註)をプロツアーのカバレージサイトにアップした。
(訳註) この記事
 原文では以下のURLへリンクが張られている。著者 Jackie Leeの失格の発表。
 http://www.wizards.com/Magic/Magazine/Article.aspx?x=mtg/daily/eventcoverage/ptrtr12/DisqualificationinRound6

 実際に起きたことはかなり複雑で、まずはその全体像を知ってもらわないことには議論のしようがない。それは新しいルールの非常に奇妙な相互作用によるものなので、先入観を持たずにじっくり読んでもらう必要がある。

 私がドラフトへと突入したときの成績は2-3で、そのドラフトは《思考を築く者、ジェイス/Jace, Architect of Thought》から始まるというなかなかのものだった。私はデッキに自信があったので少なくとも2-1は出来るだろうと、2日目に進めるだろうと思っていた。

 最初のラウンドで当たったプレイヤーは、国全体でもマジックを遊んでいるのが80人程度という場所から来たというプレイヤーだった。もっと増えそう?、と私が聞くと返事は、そうなって欲しいとは思ってるんだけど、だった。

 私から見ると彼はけっこう内気な感じがして、もしかしたら初のプロツアー参戦なのかな、と思った。それでも私たちは打ち解けた会話が出来て、あらためてゲームを開始した。

 彼のラクドスデッキを上回るテンポで展開した私のデッキが1試合目を制した。

 2試合目は転じて押される形となった。私の手札は青1色で、《凍結燃焼の奇魔/Frostburn Weird》が相手のパワー2や3のクリーチャーを防いでくれている間に10枚ある《山/Mountain》を1枚引ければなんとかなりそうだった。

 しかし彼は私のその《凍結燃焼の奇魔/Frostburn Weird》に《刺し傷/Stab Wound》をプレイしてターンを返した。私はカードを引き、それが《山/Mountain》じゃないことにがっかりした。対戦相手の彼は何やら書きつけていた……《刺し傷/Stab Wound》によるライフの減少だ。

 私はそのとき2つの新しいルールを思いだしていた。

 1つは相手の誘発忘れを指摘する必要は無いということ、もう1つはライフの総計についてはきちんと声に出して宣言すること。私は相手が誘発について宣言するのを注意深く待ったけど、何も聞こえなかった。相手の口元を見たけど、微妙に開いているように見えただけだった。

 ふむ、と私は考えた。

 彼はライフの減少についてきちんと声に出して宣言しなければいけないのにそうしなかった、ということは、誘発を忘れたってことだ。

 次のターン、彼は《冒涜の悪魔/Desecration Demon》をプレイした。1試合目で彼のデッキに《不気味な人足/Grim Roustabout》や《跳ね散らす凶漢/Splatter Thug》より大きいクリーチャーを見なかったので赤いマナソースを引くまでもう少し時間があると思っていた。

 だけどこうなってしまうともう私に勝利をもたらしてくれそうなカードは見こめなかった。《刺し傷/Stab Wound》のついた《凍結燃焼の奇魔/Frostburn Weird》をパンプすることで自ら墓地へ送ろうと送るまいと関係ない状態だったので私はそれをそのままにしておいた。

 この時点での私は、単にゲームを少し長引かせることでまだ見ていない彼のカードをもう何枚か見たり、もしくは彼のプレイの癖をチェックできたりしないかと期待していただけだった。

 私はカードを1枚引き、彼が《刺し傷/Stab Wound》のライフ現象をメモするのを見ていた。今回も私は彼が何か言うか、注意深く口元を見ながら耳をすましたが、特に何も聞こえなかった。私は特に何もプレイせずにターンを返した。

 「攻撃してもいいかな」と彼が聞いて来たので私は許可した。そして許可したあと、《凍結燃焼の奇魔/Frostburn Weird》を生け贄に捧げても良かったじゃないか、と内心で後悔した。どうせこのゲームに勝てる見込みはないんだから、と。

 攻撃を受けてから私は、残りライフは14です、と伝えた。対戦相手は「僕のメモによると10だよ。《刺し傷/Stab Wound》のダメージは?」と言った。

 私は事態を収拾するため、すぐにジャッジを呼んだ。対戦相手は少し抵抗があったみたいだったけど、ジャッジならきっと上手くさばいてくれるし時間の延長も認めてくれるはずだから、と私は落ち着いて説明した。

 ジャッジが来たので私は「対戦相手が2ターンに渡って《刺し傷/Stab Wound》のダメージを記録したけど、その際に口頭による宣言がなかった。相手の《冒涜の悪魔/Desecration Demon》が攻撃したあと、私は自分のライフ総計が14だと言ったけど、相手は10だと言った」と伝えた。

 ジャッジは次に私の対戦相手の言い分を聞いた。彼は口ごもりながらも「ちゃんと宣言した。『これで君のライフは18だ』って言ったはずだけど、もしかしたら小声だったかもしれない」とジャッジに伝えた。私は内心膨れ上がりつつあった恐怖を抑えつつ、そんなことなかった、と反論した。

 20分後、ヘッドジャッジが追加の質問をいくつかするために私をテーブルから連れ出した。

 「対戦相手がライフの総計をメモするところを見たかい?」と彼は私に尋ねて来た。私はゆっくりと「はい、見ました」と答えた。そう答えてはいけないと何かが告げていたけど、これは真実だ。

 さらにジャッジは「ライフの総計が食い違っているのに気づいたときはジャッジを呼ばなくてはいけない、というルールがあることは知っているかい?」と聞いて来た。「はい」という私の返事はさらに弱々しいものになっていた。

 私は必死に新しいルールについて思いだそうとしていた。ゲームロスが忍び寄っていることに気づいていたが、正直かつ注意深く対応しているのになぜ私の落ち度になるのかがイマイチ理解できないままだった。

 結局のところ、ルールというものは正直者を守るためのもののはずで、誘発に関する新しいルールも、対戦相手より注意深くかつ鋭く観察しているプレイヤーが報われるはずのものだ。

 そして判決が下された。

 「君はこのルールをぎりぎりまで有利に用いようとしたが、私たちは超えてはいけないラインを超えてしまったものとみなす」

 私は厳粛にうなずいた。

 「複数ターンに渡って、対戦相手が記録しているライフ総計と異なるライフ総計を君は記録し続けてた。これによって君は相手から有利を得ようとしていた。これは不正行為(fraud)に当たる。よって君はトーナメントから除外される。失格(disqualified)だ」

 驚きのあまり、顎が外れるかと思った。

 私は反論した。

 確かにルールを正しく理解していなかったかもしれないかもしれないが、それによってそこまで重い処罰を受けることには納得がいかなかった。

 私は申し立て(appeal)をさせてもらうよう求めたが、裁定したのがヘッドジャッジだったためそれは却下された。私は処罰が軽くしてもらうよう求めたが、不正行為を行った場合は軽減されないと教えられただけだった。「これで君のプロツアーは終わりだ」と冷たく返された。

 私たちは卓に戻り、ジャッジは対戦相手に私が失格処分になったことを告げた。相手はそれはそれは驚いた様子だった。「まさかそんなことになるなんて!」「ごめんよ!」と彼はつっかえつっかえ何度も私に繰り返した。「大丈夫よ」と私は答えた。「あなたは何も悪くないから心配しないで」と。

 それでも謝罪を繰り返す相手を私はさえぎった。「謝らないで。こうなるかもしれないってあなたは知らなかったし、私も知らなかった。だけどジャッジがこれがルールだって言うんだから、これでいいのよ」

 私たちは2人とも事の経緯を書いて提出するよう求められた。ジャッジの1人に、資格停止になる可能性はないけどこれはどんな失格処分の際にも求められる手続きだから、と説明された。私はどれだけ時間をかけて書いても良いし、何か聞きたいことがあればジャッジが答えるから、とも言われた。

 私はぼんやりしながら、ありがとう、と礼を言った。

 ふと見ると、対戦相手の彼はもらった白紙の片面を使いきってさらに裏側にまで書き込んでいた。初めて会ったばかりだったけど、このとき見た光景からしっかり伝わってきた。彼はとても正直で、そしてとても親身になってくれた。

 とても嬉しかった。


 私たちがマジックを遊ぶ理由は2ターンキルのコンボを決めたいからだったり、天使が好きだったり、と様々だ。私にとって、マジックはどこまでもルールとシステムだ。私がここまでマジックを好きなのは、このただただ不合理な世界に存在する合理性の砦だからだ。

 私たち人間は社会的な生物として進化した過程で様々な認識の偏りと先入観を持ってしまった。マジックという一連のルールの集合体は人間のそういった性質から独立した存在だ。純粋な論理の領域。私はそこで過ごす時間を目いっぱい楽しんでいる。

 汚いプレイや非紳士的なプレイといったものがある、という意見は私にとって常に理解しがたいものだった。Angle Shootingすら私には遠いものだった(訳註)。
(訳註)
 Angle Shootingは、ルールの範囲内で相手のミスを誘ったり、相手の戦意喪失を狙ったりする行為を指す言葉らしい。日本語に対訳となる言葉が存在しないっぽい。

 私にとってそこにあるのはルールだけだ。ルールの範疇こそがゲームそのものだ。

 多くのプレイヤーに「それがルール的に正しいという確証がない限り、Angle Shootはすべきじゃない」と教えられた。不思議なことに、私は別に賢く立ち回ろうとか巧妙にやりぬけようとか考えていたわけですらなかった。

 私は単にそういうルールだと思っていたのだ。

どこで間違えたか

 個人的な意見として、今回の事態は関わった人たち誰もが少しずつ対処の仕方を間違えたのだと思う。私たちは奇妙なルールのグレーゾーンに踏み込み、そこはまるで竹沼みたいに私たちを呑みこんでしまった(上手いこと言った!)。

 以下、今回問題になったマジック大会ルール(=MTR)の 2.14を引用してみる。

原文:
 A change in a player’s life total should be accompanied by a verbal announcement by that player of the new life total.
 If a player notices a discrepancy in a recorded or announced life total, he or she is expected to point it out as soon as the discrepancy is noticed. Failure to do so will be considered a Cheating - Fraud penalty

日本語訳:
 2.14 ライフ総量
 マッチの開始時に、各プレイヤーは自分のライフ総量を記録する手段を示さなければならない。その手段は、マッチ中に両プレイヤーが確認できるものでなければならない。マッチに参加している全てのプレイヤーが同意する場合、記録方法を共有してもよい。
 プレイヤーのライフ総量が変化した場合、そのプレイヤーは口頭で新しいライフ総量を宣言すべきである。
 記録されているライフ総量、あるいは宣言されたライフ総量に食い違いがあった場合、その食い違いに気づいた時点で指摘することが求められる。そうしなかった場合、〔故意の違反 ― 詐欺行為〕の対象となり得る。
引用元:http://mtg-jp.com/rules/docs/JPN_MTR_20120920.html


私にできたこと

 私の判断が正しいかどうかをチェックするために即座に卓を離れてジャッジを呼ぶべきだった。実際、私はそうすべきかもしれないとも考えたが、そのときの私はルールを正確に把握しているという自信があった。

 残念ながら私は間違っていた。そしてそのせいで修復不可能な事態を招き、すべては私が負うこととなった。現実問題として、私は誘発忘れのルールと上記のライフ総量のルールをごっちゃにしていた。

 加えて、私のルール理解には不備があった。ルールの「食い違いに気づいた時点で指摘することが求められる」という点はよく覚えておらず「口頭で新しいライフ総量を宣言すべきである」にばかり焦点をおいていた。

対戦相手にできたこと

 対戦相手の彼は誘発のときとライフ総量に変更があったときにきちんと口頭で宣言すべきだった。ゲームのその他の機会には、彼はきちんと口頭で宣言を行っていた。だからこそあのときの《沈黙/Silence》が私を混乱させたのだ。

 上記のライフ総量のルールによれば、彼は誘発の宣言を行ってから私が新たなライフ総量を宣言するのを待つべきだった。そのかわり、彼は単に自分でメモをとっただけだった。

 私はこの行動を誘発の宣言のかわりとはとらなかった。そして(イベント規定とマジック違反処置指針の権威である)ジャッジは、そうとった。

 そしてジャッジが彼に何が起きたかを尋ねたとき、彼がもう少し考える時間を使って何が起きたかをもっときちんと明確に答えてくれていれば良かったのに、と思う。

 誘発が解決されるべきとき、私は彼の顔を注意深く観察しつつ宣言を聞きとろうとしていた。だから私はあのときの自分の解釈をまったく疑っていない。

 ただ、私は彼が嘘をついたとは全く思っていない。

 彼の様子を見る限り、記憶違いしているか、気まずい状況の中でとっさに口をついて出てしまっただけなのではないかと私は考えている。もっとも、もし彼が本当にそうしたと信じているなら、単に私と彼とで認識が食い違っているということに過ぎない。

 それはそれでしょうがないことだ。

ジャッジにできたこと

 私はジャッジの出した判断(失格処分)を全面的に尊重している。私は明らかにライフ総量のルールである2.14を犯していた。「ライフ総量に食い違いがあった場合、その食い違いに気づいた時点で指摘」していなかったためだ。そうしなかった場合の処罰は失格(disqualification)であると明記されている。

 ただ、取り調べを受けたのが私1人だったように思う。

 ヘッドジャッジは「会場はうるさかったこと」そして「対戦相手はとても声が小さいプレイヤーだった」と疑いようもなく信じており、そのせいで私は彼がライフ総量をメモしているときに何も聞きとれなかっただけだと信じている。

 私は、ゲームの他の場面とあのときの対戦相手のふるまいが明らかに違ったことを訴えたが、ヘッドジャッジは対戦相手の言い分が「明らかである」とし、それ以上の調査を(私が知る限りは)してくれなかった。

 私はこの結果にちょっと納得がいっていない。なぜなら相手がライフ総量をメモしていたという私の言い分は額面通り受け取ってもらえつつも、それ以外の言い分(相手は口に出して何も言わなかった)については完全に否定された。

 ただこれは書いておく必要があるだろう。私はジャッジではない。それにもしかしたら私が感じている以上の調査が裏では行われていたのかもしれない。

 その後の対戦相手との会話からはそうであったとは思えないが。

なぜこのようなことが起きたか

 グレーゾーン

 マジック違反処置指針(IPG)によると、プレイヤーは誘発を忘れなかったことを相手に伝えるため「気付いているということを相手に示す(訳註)」必要がある。
(訳註)
 記事の原文では「demonstrate awareness」が括弧書きされているが、英語版のIPG文書にこの言い回しを見つけることはできなかった。また日本語版IPGにもこれに当たるとおぼしき箇所は見つからなかった。版の違いのせいかな。
 参考:マジック違反処置指針(英語版)
 http://www.wizards.com/contentresources/wizards/wpn/main/documents/magic_the_gathering_infraction_procedure_guide_pdf2.pdf


 追記:
 コメントにて情報を頂いたので更新。以下の2012年10月に更新されたマジック違反処置指針(英語版)の「2.1. Game Play Error - Missed Trigger」の前文を参照のこと。
 参照:マジック違反処置指針(英語版) ※2012年10月01日更新版
 http://www.wizards.com/ContentResources/Wizards/WPN/Main/Documents/Magic_The_Gathering_Infraction_Procedure_Guide_PDF1.pdf

 さらにMTRによると、ライフ総量については「プレイヤーのライフ総量が変化した場合、そのプレイヤーは口頭で新しいライフ総量を宣言すべきである」とある。これら2つのルールは関連したものではないが、今回の件については少々分かりづらいレベルで重なっている部分があるように思われる。

 もし私たちが完全にルールに従ってプレイしていたとしたら、私の対戦相手は私が変更されたあとのライフ総量を宣言するまで私のターン進行を止めさせるべきだったし、また彼は私に誘発を忘れなかったことを明確に伝えるべきだった。

 私が不思議に感じているのは、もし私が単純に彼の所作に気付かなければこんなことにならなかったということ、つまり注意深いばかりにあれやこれやを背負い込むことになったということだ。

 現状のMTRがなぜそう書かれているのかについては理解できなくもない。なぜならそうでなければ対戦相手の彼は、私のライフ総量が「本来と異なる値である」ままにゲームを進める必要が生じるからだ(訳註)。
(訳註) なぜなら~
 原文は「because he would be playing the game under an assumption that I was at a different life total」。拙訳の「そうでなければ」は原文にはないが、これを補わないと原文の言いたいことが伝わらないと思ったので追加。

 私がその情報を隠しておければ、あとあとそれを利用して相手より優位に立つというイカサマが出来てしまう。

 付け加えておくと、ジャッジは「コミュニケーションは口頭で行われるべき」と明言したがらない。なぜなら参加者全員が同じ言葉をしゃべれるわけではないからだ。そこで言葉に頼らないコミュニケーション手段も許容されることとなる。

 もっともそのせいで奇妙なことになったわけだ。

 私たちはお互いに同じ言葉をしゃべれたし、ゲームのあの時点までは言葉によるコミュニケーションをきちんととっていた。言葉によらないコミュニケーションこそが例外的だったのだ。

 現在のルール文面には2つの点で賛同できない。

 1つ目として、このルールは自身の認識について嘘をつくことを奨励している。もし私がこのルールをあらかじめ知っていたなら、私は相手のライフ総量メモに気づいていなかったと言うことが出来た。

 そうすることで何が起きるか? 私が責任から逃れられるのみならず、対戦相手に責任を負わせることが出来るのだ。個人的にこれが良いとは思えない。なぜなら状況によってプレイヤーはルールを利用することが出来てしまうからだ。

 2つ目として、もし対戦相手に悪意があったなら、故意に誘発を口に出さずに私を罠にはめることが出来る(念のため。今回の対戦相手の彼にその気があったとは欠片も思っていない)。

 今なら私が自分がすべきことを分かっている。そういった状況になったらすぐにジャッジを呼び、テーブルから離れたところで現状を説明するだけだ。しかし今回の件が起きたときの私は(対戦相手の彼と同じくらい)このルールについて無知だった。

 同じことがまた起きるかもしれないと考えるのは嫌なことだ。IPGやMTRが次に更新される際にはもっと明確な書き方になれば、と願う。

 ジャッジと裁定

 この状況を悪化させているのは、過去には「裁定者(judge)」であったジャッジが時を経るにつれて「処罰者(enforcer)」へと役割を変えつつあるということだ。

 違反ポリシーは多くの場合においてジャッジに裁定(judgement)を出すのを避けるよう奨励している。そうすることで後続のジャッジが同じ状況に柔軟に対応できるからだ(訳註)。
(訳註)
 原文では「The infraction policies dissuade judges from exercising judgment in most situations so that new judges will be able to handle them.」とある。この「judgment」について対訳を探してみたが、元の「MAGIC INFRACTION PROCEDURE GUIDE」にはこの単語が見つからなかったので、ここでは「裁定」と訳してある。

 MAGIC INFRACTION PROCEDURE GUIDE(英語)
 http://www.wizards.com/contentresources/wizards/wpn/main/documents/magic_the_gathering_infraction_procedure_guide_pdf2.pdf
 違反処置指針(日本語)
 http://mjmj.info/data/JPN_IPG_20120920.html


 経験の浅いジャッジは大抵の状況に置いて裁定を下すことが難しく、そこで厳格に定められた文書が助けとなる。しかし残念なことにより高いレベルのゲームにおいてはこれが問題を引き起こすことがある。

 私の例の場合、ジャッジは故意であったか否かについては、私を信じてくれていたように思われる。出場停止の措置はとられないことがすぐに公式サイトへ告知されたからだ。

 しかし、ルール文書によると私の行為は「不正行為(fraud)」に当たるため、ジャッジは一字一句そこに定められていたとおりに私を処した(不正行為(fraud)の処罰は軽減不可)。

 この状況は少々奇妙だ。なぜなら私が失格(disqualified)に値するだけの明白な証拠があるなら、私はイカサマ(cheating)の罪で調査されるはずだ。

 ところがルール上では「イカサマ」をしたことになっているにも関わらず、「計画的でなかった(not premeditated)」ために出場停止処分に課されないことが告知されている。つまり、どういうこと? 「意図せずにイカサマする(accidentally cheat)」なんてありえるの?

 念のため。私はゲームのルールに反した行動をとった人間が何の責任もとらずに済ませていいとは思ってない。無知は言い訳にならない。私は今回の件を教訓としてありがたく受け入れるつもりだ。

 とはいえ、それはそれとして、こういったシチュエーションのためにもルールの文面がより明確になればよいのに、とは思う。

 「イカサマ(cheating)」というレッテルはマジックのコミュニティではそこかしこで見られるものだ。その一線を超えるのは非常に容易く、簡単に起きてしまうものだから(訳註)。
(訳註)
 原文は「The label, "cheating", is very loaded in our community because of the ease with which it can happen and the stakes on the line」となっている。自信がないのは「loaded」と「ease with which it can happen」。これらをつかみきれていないせいで全体の文意がとれていない。

フライデーナイトマジックがプロツアーにどのような影響を与えているか

 ここ数ヶ月のあいだに嵐のようなルール変更があった。私がルールの理解でつまずいてしまった理由の1つにはIPGとMTRがコンスタントにマイナーチェンジを繰り返したことがある。

 なぜそんな変更がなされたのか? この章のタイトルに挙げたとおり、これはカジュアルな環境でのプレイと非常に密接なつながりがある。

 ゲームのデザイナーたちは「may(してもよい)」という誘発条件を用いないことにした。これには大きく2つの理由がある。1つ目としては、無駄にテキストが長くなるからだ。ライターの1人として、すっきりした文面の重要性は理解できる。2つ目としては、新規参入者を混乱させるからだ。

 彼らは「僕は《ドラゴンの爪/Dragon’s Claw》でライフを得てもよいの?」と戸惑ってしまうかもしれない。

 得てもよいのか、よくないのか、はどうやったら分かるのか。つまりカードの文面を「いずれかのプレイヤーが赤の呪文を唱えるたび、あなたは1点のライフを得られるかもしれない」と解釈する……かもしれない。

 もちろんそうならないかもしれない。そんな賭けになるくらいなら最初から勝負を挑まなければいいのだ。

 高いレベルでの競技フォーマットにおいて、ゲームの勝敗を決めるものは技術の優劣であって欲しいと私たちは望んでいる。もし対戦相手が自分の誘発を忘れたなら、それをわざわざ指摘して助けてあげるようなことはしたくない。

 それこそがここ最近のルール変更の目的なのだろう。

 しかし強制的な誘発能力は様々な状況に起きうるもので、単純に「こうすればよい」とひとくくりに決められるものではなく、そのためルールも流動的だ。

 フライデーナイトマジックとプロレベルマジックのそれぞれに流れる空気(tension)は明らかに異なるものだ。そのあいだをとることは非常に難しく、誰もちょうどよい落とし所を見つけられずにいる。

 次のルール変更の際にはこの点についても考慮に入れて欲しいと私は願っている。最近の頻繁かつ大きなルール変更が続くようであれば、さらに多くの失格裁定が生まれる可能性がある。

 Ben StarkとJosh Utter-Leytonのあいだで議論になっているのは、MTR 2.14が新規のルールなのかどうか、だ(註)。
(註) Ben StarkとJosh Utter-Leyton
 Ben StarkとJosh Utter-Leytonは2人とも米国のマジックプレイヤーであり、2人ともChannel Fireballの一員。なお余談だが、ウェザーライトサーガに登場するキャラクター「スターク」の名前のつづりは「Starke」であり、Benとは微妙に違う。

 多分、ここ最近の状況をかんがみるに、このルールは「過去長いことグレーゾーンだったルール」を整備するために「ここ数ヶ月のあいだに新しくできたもの」であるようだ。

 もっとも私がここで気にしているのはこのルールが新しいか古いか、という点じゃない。世界でもトップレベルのマジックプレイヤーのうちの2人がこのルールについて異なる認識を持っているという点だ。ルールの変更とその発表に問題があるのではないか?、と思ってしまう。

コミュニティ

 対戦相手に気落ちしないよう励まし、報告書を記入するのに特に休憩時間は必要ないとジャッジに伝えてから私は荷物をまとめテーブルを離れた。

 そして初めて心に負った傷の大きさに気がついた。

 お前は用無しだ
 プロポイントなしにグレイビートレインに乗り続けられるわけがない
 職を続けられるわけがない


 お前はマジックオンラインコミュニティ杯に泥を塗った

 お前を信頼していた人たち全てを裏切った

 お前がどれだけのクズか、すでにネット上に広められていることだろう

 ところが、私がツイッターとフェイスブックで報告を済ませたとき、その反応は予想外のものだった。人々はルールの方に首をかしげた。ルールのややこしさに困惑し、私の陥った状況にとても大きな同情の意を示してくれた。

 マジックという世界においてもトップレベルの素晴らしいプレイヤーたちが周囲にいてくれているんだと知ることが出来たのも大きな助けだった。多くのプロから、ジャッジからそしてカバレージをとってくれる人たちから抱きしめられた。

 1人以上のプロから、自分もまったく同じことをしただろう、という言葉をもらえた。同じ状況であれば、彼らもまた失格になっただろう。

 あるプレイヤーは私にこう言った。「David Williams と Bob Maher も処分を受けたことがあるよ。彼らがそのあとどうなったか知ってるかい?」

 私は「どうなったの?」と尋ねると、そのプレイヤーは「1人は殿堂入りして、もう1人はプロツアーへのフリーパスを持ってるよ」と教えてくれた。

 彼らに何があったのかを聞かずにはいられなかった。実際に何があったのかというと、Bob Maherが出場停止処分を受けた理由は、意図的に虚偽のトーナメント結果を報告していたためで、David Williamsが失格処分となったのは友人から借りた《蓄積した知識/Accumulated Knowledge》がシャッフル時に判別可能なほど反り返っていたためマークドの裁定を受けたためだった。

 最後に、過去に失格処分を受けたことがあるプレイヤーたちから多くのメッセージをもらった。彼らは皆、自分は処分を受けたときには涙した、と教えてくれた。認めるのは恥ずかしいことかもしれない。それでも教えてくれた彼らの心の暖かさに私は心を動かされた。

 私も、泣いた。

 非常に多くの人たちから同情の言葉をもらった。全部に返事を返せないのが残念だ。

 私が予想していたのは、イカサマ師に対する魔女狩りの言葉だった。そのかわりに知ったことは、思いやりと相互理解が私たちのプレイしているマジックというゲームの一部であるということだった。そのことが非常に嬉しくてしょうがない。

 これがマジックというコミュニティの確かに存在する一面であり、そのコミュニティに自分が属しているという事実を幸せに思う。今週のマジックオンラインコミュニティカップに参加できることをこれまでにないほど誇りに思う。

 今回の経験から得られたもの、それは過去に同じ目にあったプレイヤーたちの気持ちを理解することが出来るようになったこと、そして二度と同じような目に合うプレイヤーを生み出さないための手助けができるようになったことだ。他人の経験から学ぶという稀な能力を人間は持ち合わせている。今回の件から、皆が何かを学んでくれれば、と思う。

 私たちの遊んでいるマジックというゲームは不完全なものだ。

 私たちもまた不完全なのだ。

 私たちは間違うこともある。そして傷つくこともある。だけどそのとき傍にいてくれる人がいて、傍にいてあげることが出来るということは、何ものにかえがたいことだ。今回のプロツアーは、ある意味、今まで参加した中で最高のプロツアーだった。

 最後に、私の個人的に尊敬する人の話をしたい。それは須藤元気という人だ。彼は私の理想であり、敬虔な仏教徒でもある。彼はプロの総合格闘家であり、書道家であり、ダンサーであり、作家であり、音楽家でもある。ぜひ彼の動画をチェックしてみて欲しい。例えばこのミュージックビデオや、このリング入場時の動画などだ(註)。
(註) このミュージックビデオや、このリング入場時の動画
 原文では「ミュージックビデオ」の文字に以下のURLへのリンクが張られている。
 http://www.youtube.com/watch?v=r-qhj3sJ5qs&feature=relmfu
 また原文では「リング入場時の動画」の文字に以下のURLへのリンクが張られている。
 http://www.youtube.com/watch?v=V-GpQm_YdMk

 私が彼を尊敬するもっとも大きな理由は、彼の哲学にある。

 「私たちは1つだ(We are all one)」

 読んでくれてありがとう。そして私とつながってくれて、ありがとう。

Love and battle,
Jackie Lee

@JackieL33 on Twitter
www.twitch.tv/jackiel33
【翻訳】Josh Silvestriによる2012年のリミテッド総括 その1/Silvestri Says - 2012 Limited Breakdown, Part 1【CFB】
Josh Silvestri
2012年12月25日
元記事:http://www.channelfireball.com/articles/silvestri-says-2012-limited-breakdown-part-1/

 さて1年の締めくくりということでもあるし、いつもの記事とはちょっと趣向を変えてみたい。リミテッドについてちょっと語らせてもらおうかな、と思ってる。

 何しろ僕はドラフトが大好きなんだけどなかなかそれについて語る機会がなかなかない。普段は主にスタンダードについて書いてるし、マジックを遊ぶ時間が限られるときはあまりドラフトに心を惹かれなくなる、というのがその理由だ。

 そんなわけでこの先の数週間は2012年のドラフト環境をざっと振り返って、その中でプレイヤーたちが楽しんだこと、そして楽しめなかったことを語りたいと思う。

 まず議論の余地のない点としては、ここ数年でベストといえるフォーマットが3つもあったということだ。それはイニストラード、基本セット2013、そしてラヴニカへの回帰だ。

 これに関しては反論は出ないだろうと思っている。それらのフォーマットの合間にはあのクソつまらないアレ(そうだよ、アヴァシンの帰還だよ)が挟まっていたんだからなおさらだ。

 あらためて、まずはイニストラードブロックのドラフトに関する僕個人の感想だ。

環境その1:イニストラード、イニストラード、イニストラード

 過去から今現在まで含めた全てのドラフトフォーマットの中でもトップクラスに気に入っている。様々なアーキタイプとカードのシナジーが適度な強さで混ざり合ってるこのフォーマットが大好きだった。理不尽に強すぎたのは《不可視の忍び寄り/Invisible Stalker》デッキくらいだ。

 自身の山札を削るアーキタイプも楽しかった。《蜘蛛の発生/Spider Spawning》や《骨までの齧りつき/Gnaw to the Bone》と組み合わさったときなどは最高だった。このアーキタイプはLSVやその他のプレイヤーが動画で紹介ことで有名になったイメージがある。

 普通のリミテッド環境では出番を見つけられないようなカードたちが、こういった特殊なデッキや少数派アーキタイプに突然居場所を見つけるのが面白かったね。

 以下にこの環境のアーキタイプをいくつか上げてみたよ。

  UW Fliers(青白飛行)
  GW Aggro(緑白アグロ)
  RB Vampires(赤黒吸血鬼)
  RG Werewolves(赤緑狼男)
  UB Zombies(青黒ゾンビ)
  RW Aggro (AKA Rally the Peasants)(赤白アグロ)
  UR Control (AKA Burning Vengance)(青赤コントロール)
  UGb Spawning Self-Mill(青緑タッチ黒、墓地利用)

 どのアーキタイプが主流だったかは参戦した時期次第で変わる。何しろドラフトの傾向と情報は劇的に変化していたからね。

 変身メカニズムはもちろん興味を引くものだったけどそれは戦略レベルでも興味深い代物だった。多くのプレイヤーはいつ変身させるべきかで頭を悩ませていたよ。

 環境には多くの使用に耐えうるインスタントがあったから何もせずにターンを返すことにはリスクがあった。それでも狼男たちは強かったし、正攻法に頼らずに変身させる手段は《月霧/Moonmist》しかなかった。個人的にはもう1枚くらい変身させるカードがあってもいいかなと思ったけど、それでも変身メカニズムは非常にいいバランスだった。

 適度なパワーバランスとデッキに入らないほど弱いカードが少なかったのがこの環境の良いところで、後続のセットによって失ったものでもある。もっとも僕がこの長所に気づいたのは闇の隆盛の到来によってそれらの一部が失われたときで、そのあと訪れたアヴァシンの帰還はこの美点を根こそぎ消し去ってしまった。

 もちろん《血統の守り手/Bloodline Keeper》や《オリヴィア・ヴォルダーレン/Olivia Voldaren》といったパワーカードはあった。それでも基本的なレアリティ間のバランスはとれていたと思う。

 思い返してみるにこの環境には《クルーインの無法者/Kruin Outlaw》、《大笑いの写し身/Cackling Counterpart》、そして《弱者の師/Mentor of the Meek》といった良カードもあれば、《血の贈与の悪魔/Bloodgift Demon》や《小悪魔の遊び/Devil’s Play》といったさらに良いカードもあふれていた。

 どんなデッキにも除去を入れることは出来たし、かといって万能除去はほとんどなかった。なんらかの制約やデメリットがついてるのが普通だった。イニストラードには平均よりも多い量の除去があったかもしれない。でも除去が強すぎたということはないんだ。

環境その2:闇の隆盛、イニストラード、イニストラード

 正直、ドラフト環境的には闇の隆盛によって得たものより失ったもののほうが多かったように思う。イニストラードを1パック失ったことでシナジーデッキは十分な量のキーカードを手に入れる機会を失ってしまったし、その他のアーキタイプも被害を被ったという意味では変わらない。結局のところ、人間デッキ以外は選択に値しないような状況になってしまった。

 結構前のことだから記憶が間違っている可能性もあるけど色のバランスにはガッカリした覚えがある。《未練ある魂/Lingering Souls》より強いカードは2~3枚くらいしかなかった気がするし。

 絶対流せないようなバランスの壊れたカードをあげろ(ただしレア以外で)、と聞かれることがあったらとりあえず《未練ある魂/Lingering Souls》をあげておけばいいんじゃないかな。

 とはいえ、これ自体がそこまでひどいドラフトフォーマットだったとは思わない。新しいエキスパンションが加わったことで悪くなったフォーマットは他にもいくつかある。ただ、ほぼ過去最高と言われていたドラフト環境をここまで格下げした例はそうそうない。

環境その3:アヴァシンの帰還、アヴァシンの帰還、アヴァシンの帰還

 このフォーマットについて挙げられたことのある主な欠点は以下の通りだ。これらについては複数回答ありにしてアンケートで集計してみた。

 レアにボムが多すぎるから? パワーのバランス差がひどすぎるから? デッキに入らないカードが多すぎるから? リミテッド用のメカニズムが無さ過ぎる? 選択可能なアーキタイプが少なすぎる? 色のバランスがとれてないから? 碌な除去がないから?

 どれもこれも選ばれていたが、結論としては「リミテッド用のメカニズム」なのだと思う。メカニズム自体が問題と言うよりも、それらを持つカード自体が弱すぎて話にならないというのが問題だったように思う(え? 《ドルイドの使い魔/Druid’s Familiar》?)。そう、メカニズム自体に問題があったとは言わない。しかしそれでも 結魂/Soulbond と 奇跡/Miracle が人気だったとは言いづらい。

 とにかくこのフォーマットは酷いパワーバランスのフォーマットで、特に黒のディスられっぷりは目を覆わんばかり。そして相手のクリーチャーを除去する手段がないので一度場を支配されてしまえばそれまでだった。

環境その他:基本セット2013 と ラヴニカへの回帰

 これらの環境についてはのちほどもっと掘り下げて語る予定だ。だから今日ここで語るのは要約版だと思って欲しい。

 僕は基本セット2013の大ファンだった。この環境を楽しむにはどうすればいいかを知るには時間がかかった。このフォーマットの面白さがなかなかプレイヤーたちに伝わらなかった理由はおそらくコアセットのドラフトは大抵の場合において単純でつまらないものだという偏見があったからだと思う。カードやメカニズムにも一目見ただけで伝わるような面白さがなかった。

 だから遊べば遊ぶほど面白さが高まったフォーマットだった。その前後にあれほどドラフトが楽しいフォーマットがなければ、そして実働期間がもう少し長ければ、もっと高い評価を勝ちえたんじゃないかと思う。

 選択可能なアーキタイプもたくさんあり(いくつかは過大評価されてたきらいもあるけど)、強い色と弱い色の評価も何度か入れ替わった。

 ちょっとしたアンケートを用意してみた。リミテッド環境を評価する上で僕が重要だと思う点を並べてある。プレイヤーたちが特に並べる不平不満を選んでみたものだ。アンケートに答えたい君のために、記事の末尾にアンケートページへのリンクが張ってある(註)。
(註) アンケートページへのリンク
 以下のURLから回答可能。
 https://docs.google.com/spreadsheet/viewform?formkey=dDd4Y3Zfc2tkN1VrSXFKRVhJRGEyeGc6MQ


 以下にあげるのは今時点で回収してある244人からの回答を集計したものだ。

【#1:ドラフトの経験について】

 ドラフト歴は何年ですか?

   1 Year - 130人 (53%)
   2 Years - 35人 (14%)
   3 Years - 21人 (9%)
   4 Years - 7人 (3%)
   5 Years - 9人 (4%)
   5+ Years - 42人 (17%)

 今年、何回ドラフトしましたか?(四捨五入)

   10 - 75人 (31%)
   20 - 45人 (18%)
   30 - 38人 (16%)
   40 - 19人 (8%)
   50 - 23人 (9%)
   75 - 10人 (4%)
   100 - 11人 (5%)
   150 - 7人 (3%)
   200 - 3人 (1%)
   200+ - 13人 (5%)

 競技マジックでドラフトしましたか?

   Yes - 36人 (15%)
   No - 208人 (85%)


【#2:ドラフト環境において重視されることについて】

 ドラフト環境においてもっとも問題となる点はなんだと思いますか?(複数回答可)

 ・Overpowered Rares(レアが強すぎる) - 77人 (32%)
 ・Power imbalance amongst rarities(レアリティ間の強さの差が大きい) - 48人 (20%)
 ・Too few playable cards(デッキに入らないほど弱いカードが多すぎる) - 84人 (34%)
 ・Poor Limited mechanics(リミテッド用のメカニズムが弱すぎる) - 62人 (25%)
 ・Too few viable archetypes(選択可能なアーキタイプが少なすぎる) - 107人 (44%)
 ・Weak Color Balance(色によって強さに差がありすぎる) - 93人 (38%)
 ・Other(その他) - 35人 (14%)

 ドラフト環境を良くする点はなんだと思いますか?(複数回答可)

 ・Good mana fixing(良いマナ調整カード) - 81人 (33%)
 ・No overpowering single color(特定の色に強さがよってない) - 115人 (47%)
 ・Lack of dominate rares(強すぎるレアがない) - 44人 (18%)
 ・Abundance of playables(デッキに入る強さのカードが豊富にある) - 120人 (49%)
 ・Variety of archetypes(アーキタイプが豊富にある) - 156人 (64%)
 ・Good Limited mechanics(良いリミテッド用のメカニズム) - 102人 (42%)
 ・Other(その他) - 6人 (2%)


【#3:今年のドラフト環境について】

 イニストラード3パックのドラフトはどうでしたか?

   Like(好き) - 142人 (58%)
   Dislike(嫌い) - 6人 (2%)
   Neutral(どちらでもない) - 24人 (10%)
   Did not play(遊んだことがない) - 72人 (30%)

 闇の隆盛1パック+イニストラード2パックのドラフトはどうでしたか?

   Like(好き) - 91人 (37%)
   Dislike(嫌い) - 20人 (8%)
   Neutral(どちらでもない) - 49人 (20%)
   Did not play(遊んだことがない) - 84人 (34%)

 アヴァシンの帰還のドラフトはどうでしたか?

   Like(好き) - 46人 (19%)
   Dislike(嫌い) - 106人 (43%)
   Neutral(どちらでもない) - 37人 (15%)
   Did not play(遊んだことがない) - 55人 (23%)

 基本セット2013のドラフトはどうでしたか?

   Like(好き) - 123人 (50%)
   Dislike(嫌い) - 32人 (13%)
   Neutral(どちらでもない) - 62人 (25%)
   Did not play(遊んだことがない) - 27人 (11%)

 ラヴニカへの回帰のドラフトはどうでしたか?

   Like(好き) - 204人 (84%)
   Dislike(嫌い) - 11人 (5%)
   Neutral(どちらでもない) - 23人 (9%)
   Did not play(遊んだことがない) - 6人 (2%)

 今年のリミテッドフォーマットの中で一番好きなのは?

   ISD x3(イニストラード 3パック) - 62人 (25%)
   DKA-ISD-ISD(闇の隆盛 1パック + イニストラード 2パック) - 23人 (9%)
   AVR x3(アヴァシンの帰還 3パック) - 10人 (4%)
   M13 x3(基本セット2013 3パック) - 37人 (15%)
   RTR x3(ラヴニカへの回帰 3パック) - 111人 (45%)


まとめ

<その1>
 ラヴニカへの回帰がドラフトフォーマットの中で最も「好き」の率が高かっただけでなく今年のリミテッドフォーマット中でも1位だったことに驚く人はいないだろうね。

 このセットは多くのプレイヤーに待ち望まれていたセットだった。それだけでも人気が出るには十分な理由だったが、それに加えてマジックが世に出て以来の中でもトップレベル出来だったというのは大きい。

<その2>
 基本セット2013はコアセットの割には、という意味では驚くほど人気が高かった。しかし人々がドラフトに何を求め、そしてこのセットが人々に与えたものを考えると、それほど驚くには値しないかもしれない。

<その3>
 アヴァシンの帰還がもっとも不人気なドラフトフォーマットの地位につけたのは驚くに値しない。ドラフトフォーマットが抱えうる主要な問題を単体のセットにして2つも持ち合わせていたことを考えるとなおさらだ。

 1つ目は「デッキに入らないほどに弱いカードが多すぎる」という点だ。これは何度かドラフトを遊べばすぐに分かってしまうような欠点だった。

 2つ目は「除去が少なすぎる」という点だ。これはアンケートの選択肢に入っていなかったが、自由記入で最も多く書き込まれた意見だった。自由記入で最も多く書き込まれた意見であること、さらに選択肢以外であえて記入するのにかかる手間を考えるとこれを選択肢に最初から入れておけば上位に食い込んだだろう、と考えるのは妥当な線だと思う。

<その4>
 イニストラードのみだったフォーマットに闇の隆盛が加わったことによって「嫌い」と「どちらでもない」の数が跳ねあがっている。

 実際のところ、「遊んだことがない」の回答を除いて%を再計算すると、「嫌い」の率は「闇の隆盛 1パック+イニストラード 2パック」で 12.5%、「基本セット2013 3パック」で14.8%となる。どちらも「イニストラードのみ」と「基本セット2013」の「好き」には遠く及ばない。

 個人的には、この闇の隆盛が加わったフォーマットに関してはもう少し「好き」の率が高いと思っていた。何しろ元々の「イニストラードのみ」のフォーマットの人気は非常に高いものだったからだ。

 なるほどね! 勉強になったよ。

<その5>
 どうやらプレイヤーたちが重要視するのは豊富なアーキタイプとデッキに入らないほど弱いカードが全ての色において少ないことのようだ。質問の#2と#3からそう言い切るには少々結論を急ぎ過ぎているかもしれないが、参考程度にはなるだろう(訳註)。
(訳註)
 原文は「In a way, #2/3 are simply ways of getting you to that point to begin with, they aren’t necessarily required, but they help a lot」。カンマで区切られている箇所がどうつながっているのか分からない。予想される文脈を勢いで日本語化しただけ。

 色のバランスもまた健全なフォーマットの重要な点として挙げられている。何しろ1つか2つだけが明らかに弱いとドラフト環境は非健全なものになってしまうからだ。また、1色だけが異様に強すぎるのもまた良いことではないが、全部が弱すぎるよりはましと見られているようだ。

<その6>
 強すぎて嫌われているカードと言えば《群れネズミ/Pack Rat》を筆頭として、一部のプレインズウォーカーたち(《記憶の熟達者、ジェイス/Jace, Memory Adept》、《ギデオン・ジュラ/Gideon Jura》)やアヴァシンの帰還のレアたちがいる。

 これらのせいでリミテッド環境に対する偏見が強められている傾向はあるとはいえ、アンケートを見るとプレイヤーたちはそれほど強すぎるレアに対して抵抗感を持ってはいない様子だ。「問題となる点」の中で、強すぎるレアは4位だ。「良くする点」の中では強すぎるレアがないことはそれほど賛同を得られていない。

 個人的に感じていることは、この指標はドラフトフォーマットの出来によって左右されてしまうのではないかということだ。人気のあるフォーマットに混ざっていた《群れネズミ/Pack Rat》はそれほど大きな問題とはならなかったが、もしこれが不人気なドラフトフォーマットに入っていたら環境の出来の悪さの理由として大きく取り沙汰されていたのではないかと思う。

 これはリミテッドのバランスをとるにはどうしたらよいかということのヒントになるかもしれない。また特定のカードがなぜその強さのままで収録されたのか、ということの説明にも。

 正直なところ「問題となる点」の中でこの回答が1位か2位になるものだと思っていた。複数回答可能な設問としたのでなおさらだ。ところが実際のところ、チェックを入れる必要があるほどの問題点だと感じたのは全体の32%に過ぎなかった。

 この点については基本セット2013とラヴニカへの回帰を語る中であらためてクローズアップしていきたいと思っている。だからもしこの問題点について興味があるなら1月半ばか1月後半にアップする記事をチェックしてくれ。

最後に

 回答結果に数コンマ%を追加したいと思ってくれるなら、今年のドラフトについて何が良かったかと悪かったかを僕の作ったアンケートを通じて教えて欲しい。

 アンケート
 https://docs.google.com/spreadsheet/viewform?formkey=dDd4Y3Zfc2tkN1VrSXFKRVhJRGEyeGc6MQ

 良い休日を!
 Josh Silvestri
【翻訳】グランプリ・コスタリカの決勝戦カバレージ 中村修平 vs デビッド・シャーフマン/Finals – Shuhei Nakamura vs. David Sharfman【Daily MTG】
Marc Calderaro
2012年09月16日
元記事:http://www.wizards.com/magic/magazine/article.aspx?x=mtg/daily/eventcoverage/gpcr12/welcome#f
 トップ8のデッキリストは以下から確認できる。
 http://www.wizards.com/Magic/Magazine/Article.aspx?x=mtg/daily/eventcoverage/gpcr12/welcome#t8decks

 「勝つにしてもあまり速攻で終わらせないでくれよ」とDavid Sharfmanは冗談っぽくそう微笑んだが、おそらくこれは本心だろう。何しろShuhei Nakamuraのデッキは猪突猛進といった勢いでトップ8の何もかもを蹂躙してきたのだから。

 観衆の中からBen Starkが「もうすぐ飯食いに出ちゃうぜ。5分以内に終わらせろよ」と声をかけてきたが、それがDavid Sharfmanの気分を後押ししてくれたかどうかは定かではない。

 それはさておき、開始早々、David Sharfmanに運が向いて来たようだった。Shuhei Nakamuraが2回のマリガンで手札を5枚に減らしてきたのに対し、David Sharfmanとしては笑みをこらえきれない様子だった。「このことはカバレージに書かないでくれよ」と僕に言ってきたが、当然無視だ。

1ゲーム目

 Shuhei Nakamuraの最初のプレイは《狩漁者/Watercourser》だった。David Sharfmanはすでに序盤から《時間人形/Chronomaton》と《港の無法者/Harbor Bandit》を戦場に並べており、後者を使ってShuhei Nakamuraのライフを17点へと減らした。これがこのゲームの最初のダメージとなった。David SharfmanはShuhei Nakamuraのマリガンを利用し、アドバンテージを広げていった。

 Shuhei Nakamuraはカード枚数で劣る場からでも、デッキの強さを遺憾なく見せつけた。4ターン目に《ターランドの発動/Talrand’s Invocation》を叩きつけつつ、手札にはまだ《エイヴンの従者/Aven Squire》と《武勇の誇示/Show of Valor》と《移し変え/Redirect》の3枚を残している。David Sharfmanはアンタップ前に彼の《時間人形/Chronomaton》を2/2に育てた。

 David Sharfmanは誰もアタックへは向かわせず、また何もタップすることなくそのままShuhei Nakamuraの脅威に対応できるよう5マナをアンタップしたままターンを返した。

 Shuhei Nakamuraは2体のドレイクと《狩漁者/Watercourser》をアタックに向かわせた。David Sharfmanは《フェアリーの侵略者/Faerie Invaders》をプレイしたが、Shuhei Nakamuraには《武勇の誇示/Show of Valor》という切り札があった。3/3の飛行が落ちたことで制空権はShuhei Nakamuraのものとなった。

 攻撃が2回繰り返され、ライフ差は17対14から17対8となった。David Sharfmanは押される一方だった。まだ勝ち目はぎりぎりあったが、アタッカーたちを食い止められないこの状況で防戦一方のまま勝つことは難しい。僕の心の声が聞こえたのか、David Sharfmanは《時間人形/Chronomaton》と《港の無法者/Harbor Bandit》をアタックに向かわせた。Shuhei Nakamuraのライフはこれで12となった。David Sharfmanは《風のドレイク/Wind Drake》を守備に残してターンを返した。

 Shuhei Nakamuraは1体のドレイクをアタックに向かわせた(これは《エイヴンの従者/Aven Squire》によって3/3になる)。David Sharfmanは少し考えてから《公開処刑/Public Execution》を唱えた。「こっちね」と指した対象は攻撃に参加していないほうのドレイクだ。これによってトークンは姿を消し、Shuhei Nakamuraは相手にダメージを与えられずにターンを終えた。
訳註:
 アタックしているドレイクは3/3になっているから《公開処刑/Public Execution》の効果があっても1点はダメージが入ると思われる。原文にある pointed the card at the non-attacking Drake の non-attacking が間違いで、実際は攻撃に参加しているドレイクを対象にしたのかもしれない。
 David Sharfmanがブロッカー用に《風のドレイク/Wind Drake》を残してたことをすっかり忘れてた。1/3になったドレイク・トークンをブロックしたのだとすると何の不思議もない。すいません、Marc Calderaro。

 この試合を見ていた多くの観客は「なんでShuhei Nakamuraは《公開処刑/Public Execution》に対して《移し変え/Redirect》を唱えなかったんだろう?」と不思議に思った。Shuhei Nakamura本人以外にとっては不思議に見えたが、実のところ《公開処刑/Public Execution》のカードテキストには「いずれかの対戦相手がコントロールするクリーチャー1体を対象」と書かれているのだ。

 そのため《移し変え/Redirect》を唱えたところで事態を大きく好転させることはできない。Shuhei Nakamuraは、同じ部屋にいた多くのプレイヤーがとまどってしまうようなそんな事態をためらうそぶりなく適切に判断してみせた。見事だ。

 Shuhei Nakamuraはダメージを与えられずにターンを終えたが、David Sharfmanは違った。彼は《狩漁者/Watercourser》を残すと自身のドレイクと《港の無法者/Harbor Bandit》でアタックし、ライフ差は7対8となった。

 Shuhei Nakamuraの手札には《空召喚士ターランド/Talrand, Sky Summoner》と《隊長の号令/Captain’s Call》があったが、両方を同じターンに唱えるにはマナが足りない。彼は机を指先で叩きつつダメージ計算を始めた。

 彼は3体の兵士トークンを呼びだすと3/3のドレイクでアタックしDavid Sharfmanのライフを5点まで減らした。David Sharfmanは《予言/Divination》で2枚の知識を脳内に補充した。彼にはまだ4マナが余っている。そのうちの2マナを使って彼は《港の無法者/Harbor Bandit》をアンブロッカブルにして攻撃し、Shuhei Nakamuraのライフを4点まで減らした。これでライフ差は4-5だ。彼の手札にはふさわしい獲物を求めて《否認/Negate》が息をひそめている。

 ドレイクがアタックし、ライフ差は4-2となった。Shuhei Nakamuraは《空召喚士ターランド/Talrand, Sky Summoner》を召喚。彼の元には《狩漁者/Watercourser》、《エイヴンの従者/Aven Squire》、3体のトークンと1体のレジェンドがブロッカーとして残された。しかしDavid Sharfmanの元にはそれら全てを乗り越えられる《港の無法者/Harbor Bandit》がおり、彼は2マナをタップしてそれをアンブロッカブルにして攻撃に向かわせた。これでShuhei Nakamuraのライフは残り1だ。

 David Sharfmanは勝ちにいくことにした。《否認/Negate》のマナを残すことなく残った5マナを使いきって《本質の吸収/Essence Drain》を唱えたのだ。大抵の相手であればこれで勝つには十分だ。しかしShuhei Nakamuraの手札にはとんでもない切り札が残されていた。覚えているかな? そう《移し変え/Redirect》だ。

 Shuhei Nakamuraのデッキは、彼がマリガンで手札を5枚に減らしつつも彼に必要なカードを必要なだけもたらすだけのパワーを持っていたが、勝つためにはそれらを適切に用いることが条件だった。

 仮に《移し変え/Redirect》が《否認/Negate》されていたとしてもそのインスタントは《空召喚士ターランド/Talrand, Sky Summoner》によって新たな2/2ドレイクを生み出していたので、Shuhei Nakamuraの勝ちは変わらなかった。しかしそれでも……《移し変え/Redirect》とはね。まったく大したもんだ。

Shuhei Nakamura 1 – 0 David Sharfman

2ゲーム目

 土地が2枚しかない初手を見て少し考えたあと、結局David Sharfmanはそれをキープすることにした。フロリダから来たこのプレイヤーが勝つにはかなりよい引きに恵まれないといけないだろう。何しろShuhei Nakamuraは《エイヴンの従者/Aven Squire》から《隊長の号令/Captain’s Call》へとつないでみせたのだから。

 1ターン後、さらにそこには2体のドレイク・トークンが参戦していた。《ターランドの発動/Talrand’s Invocation》のおかげだ。Shuhei Nakamuraの元には5ターン目にして合計パワーが8となるクリーチャー群がいた。その頃、David Sharfmanは3枚目の土地を求めているところだった。

 David Sharfmanは3枚目と4枚目の土地の確保には苦慮したが、彼はそれらを必要なターンに引けたと言えるだろう。まず彼は《巻物泥棒/Scroll Thief》と《風のドレイク/Wind Drake》を呼びだした。それでなんとかボードの情勢を彼の方向へ傾けようとしていたが、彼を待ち受けるShuhei Nakamuraの手札は不気味だったし、ようやく場が整った段階で彼のライフは残された時間の少なさを示していた。

 日本人プレイヤーはDavid Sharfmanのドレイクをバウンスし、攻撃によって彼のライフを9点まで落とした。Shuhei Nakamuraがグランプリの栄光をつかむにはもう相手の態勢を崩し続けさえすれば良かった。

 僕の後ろでBen Starkがため息をついた。彼は心から彼の同郷の友人を応援していたが、そんな彼でさえ状況が絶望的であることは認めざるを得なかった。David Sharfmanは最後のあがきに《巻物泥棒/Scroll Thief》へ《吸血鬼の印/Mark of the Vampire》をつけた。必要なだけの時間がこの絆魂で稼げるようと願って。

 しかし、場にあるだけの脅威で、飛行クリーチャー(《エイヴンの従者/Aven Squire》と2体のドレイク)は彼のライフを7点から2点へと減らし、Shuhei Nakamuraは手札に《本質の散乱/Essence Scatter》を2枚保持したままターンを返した。

 David Sharfmanは何とかしようとあがいたが、悲しいことに彼のあがきはクリーチャーによるものだった。4枚の土地がタップされ、2枚の打ち消し呪文が墓地へと落ち、Shuhei Nakamuraは世界の頂点に舞い戻った。

Shuhei Nakamura 2 – 0 David Sharfman

 Shuhei Nakamuraはマジックプレイヤー選手権のトップ4をタイブレイカ―で逃した直後だったが、4つ目のグランプリ優勝という栄光を見事勝ちとることが出来た。

 おめでとう、Shuhei!
【翻訳】最強のレガシーウェポン、それはコマ/Legacy Weapon – Top Dog【CFB】
Caleb Durward
2012年09月19日
元記事:http://www.channelfireball.com/articles/legacy-weapon-top-dog/

 こんな記事を書いてると頭がおかしいと思われるかもしれないね。なにしろ《師範の占い独楽/Sensei’s Divining Top》というのは、使う側にとっても使われる側にとってもすごい面倒くさくて退屈なカードという烙印を押されてしまっているから。

 このカードがかつてエクステンデッドで禁止された理由も時間に関するもので、最近ではモダンでも禁止されてる。僕が何を言いたいのかは、2008年にBill Starkが書いた解説からの引用(以下参照)を見てもらえば分かると思う。
<引用・原文>
 The constant activating of Divining Top bogs games down, which ultimately leads to an increase in the number of matches that go to time and beyond, which in turn leads to tournaments running much longer than they have historically.
 Furthermore, the Top encourages players to maximize the number of shuffle effects they play in a deck and the constant shuffling, cutting, presenting to an opponent to repeat the process, and then continuation of a turn exacerbated the situation.

<引用・私訳>
 《師範の占い独楽/Sensei’s Divining Top》を起動させ続けることはゲームの遅延を招き、それによって試合時間の長いマッチが増加し、結果として大会自体が今までよりも時間がかかるようになってしまう。
 さらに言うと、《師範の占い独楽/Sensei’s Divining Top》はプレイヤーにシャッフルを奨励する。そのためこれの入っているデッキは定期的にシャッフルし、カットをし、対戦相手にもそれをうながし、ターンを重ねるごとにその回数は増加する。

 Billは正しい。コマの入っているデッキはたくさんシャッフルをする。

 これについては確かに良く聞く話だ。《High Tide》や《壌土からの生命/Life from the Loam》がレガシーで禁止されるとしたらあまりに時間を食い過ぎるからだろう、と言われるのと同じことだ。僕個人の意見としては、カードの効果が難しいせいで手が遅くなるプレイヤーが悪いだけだと思っている。それでもこの考え方はレガシーのコミュニティでも根強い。

 最近ミネソタ州で行われたオープンで、Jacob Van Lunenが僕のマッチのカバレージをとったあとに近寄ってきた。「Caleb、僕は君のことが大好きさ。だけど君の試合で僕は3連続でコマデッキのカバレージとりだよ」と言った彼の顔には疲労の色が浮かんでいた。

 僕は少々困惑した。何しろ僕の試合は15分足らずで終了しているし、遅くプレイしたつもりはなかったからね。ただよくよく考えると、彼が言いたかったのはデッキについてであってカード単体の話じゃなかったのかもしれない。

 コマデッキは基本的に長期に渡ってアドバンテージを稼ぐデッキだ。そのため時間稼ぎをするカードが多くデッキに入ることになり、結果としてあまり観戦していて楽しいデッキ・アーキタイプではなくなる。

 クリーチャー同士の殴り合いも無ければ、《ゴブリンの放火砲/Goblin Charbelcher》がぶっ放されることもなく、《稲妻/Lightning Bolt》を本体へ叩きつけることもない。

 もしかしたらこのカードが用いられがちな低速デッキが毎ターンのようにコマを回し続けてじっくりと対戦相手に嫌な思い出を蓄積させるせいで、必要以上のネガティブなイメージをもたれてしまっているのかもしれない。

 僕自身はそう感じたことはないけどね。真新しいコマを回すときは特にそうだ。

 3枚の新たな情報を指先に感じ、さらにそれを操作する機会もある。1マナのアーティファクトにこれ以上望むことはできない。他のプレイヤーがコマを回しているのを見ているときもそうだ。僕自身が回しているような楽しさがある。

 このカードはプレイヤーに高い技術を要求する。それはスパイクたちがトーナメントに求めて来たものだ。レガシーの経験値を量るには上手く《師範の占い独楽/Sensei’s Divining Top》を使えるかどうかを見ればいい。それが一番確実だ。

 この技術は過去の経験の上にのみ成り立つものだから、《師範の占い独楽/Sensei’s Divining Top》はもっとも扱いの難しいアーティファクトと言える。プレイヤーたちはこれを間違ったタイミングで回したりタップしたりタップしなかったりする。そのせいで対戦相手もこのカードの本来の力を量り損ねる。試合の勝ち筋を的確にとらえきれないままに毎ターン《師範の占い独楽/Sensei’s Divining Top》を回し続けて時間を浪費するプレイヤーもいる。

 《師範の占い独楽/Sensei’s Divining Top》を的確に回すには、試合の展望を的確にとらえることが要求される。他のカードの為に用いるべきマナを消費してアップキープにコマを回したり、惰性でコマを回したり、シャッフルする効果のあるカードを適切でないタイミングで消費してしまったり、などなどがよくあるミスだ。これらはすべて「自分のターンに何をすべきか」「今現在何が必要なのか」を把握できているかどうかにつながっている。

 PVが過去に言っていたが、彼はターンの開始時に全ての決断を洗い出しておくそうだ。

 これによって《精神を刻む者、ジェイス/Jace, the Mind Sculptor》の起動前に土地を置いてしまうようなミスを防げる。もちろん対戦相手が状況に変化を与えるような何かを投げつけてきたらその都度計画を練り直す必要がある。それでもあらかじめ計画を立てておくことはプレイの助けになる。

 時間制限のある試合では、効果的であることと効率的であることは同じことだ。試合に勝つために必要なものをきちんと把握できていたらコマを回すのにそんな時間をかける必要もなくなるはずだ。

 土地が必要? ほい、てっぺんにきた。

 相手に脅威を与えるカードが必要? ほい、てっぺんにきた。

 何もいらないって? じゃあ考える時間は必要ないだろう。


コマに関する小ネタ集

<1つ目>

 基本技の1つとして、《師範の占い独楽/Sensei’s Divining Top》があれば相手の妨害からカードを守ることができる。

 もしかしたら対戦相手は手札破壊の入ったデッキを使っていて、君は《精神を刻む者、ジェイス/Jace, the Mind Sculptor》を必要なその瞬間までライブラリに眠らせておきたいのかもしれない。

 もしかしたら対戦相手は《ヴェンディリオン三人衆/Vendilion Clique》をサイドから入れているかもしれなくて、打ち消し呪文は必要なその瞬間まで安全な場所に置いておきたいのかもしれない。

 どちらにしても、ライブラリのてっぺんという場所は手札よりも安全なことに間違いはなく、この2つの場所の違いは非常に大きい。

<2つ目>

 さらによく知られている技としては、まず回して、それにレスポンスしてタップ能力を使う、というのがある。ドロー効果が先に解決し、それからあらためてデッキの3枚のカードの順番を変えることができる。

 これによって《師範の占い独楽/Sensei’s Divining Top》をデッキの上から2枚目か3枚目に置ける。次のドローで引きたくないときのためにね。このあとの数ターンはマナを使いきる予定のときや、デッキのてっぺんにあるカードが複数枚必要なとき(1枚はすぐに手に入る)などに効果的な技だ。

 この技は、つい最近の例だと、相手の手札に《思考掃き/Thought Scour》があるのが分かっているときにカードを守るために使った。《師範の占い独楽/Sensei’s Divining Top》を捨てさせられないよう、守ることに使えるんだ。

 また連続して奇跡を起こすために使ったこともある。対戦相手のターンに「回して」から「タップ」した。まずタップ能力が先に解決して、僕は《終末/Terminus》を唱えた。さらに自分のターンのドローフェイズに僕は《天使への願い/Entreat the Angels》を引けたので、それを公開した。

 先に紹介した技を知らなかったら、僕は自分のターンにあらためて《師範の占い独楽/Sensei’s Divining Top》をプレイし、次の対戦相手のターンに4/4飛行が1体少ない《天使への願い/Entreat the Angels》を唱える羽目になっていただろうね。

<3つ目>

 余分な《師範の占い独楽/Sensei’s Divining Top》を引いてしまったとき、それをシャッフルで追いやる必要があることはみんな知ってる。だけどそういうときに必ずしもシャッフル効果のあるカードが手元にあるとは限らない。

 だけどもし生け贄に捧げる効果があれば、タップ能力にレスポンスして《師範の占い独楽/Sensei’s Divining Top》を生け贄に捧げることでただカードを引くだけで済ませることができる。《飛行機械の鋳造所/Thopter Foundry》、《ゴブリンの溶接工/Goblin Welder》、《爆片破/Shrapnel Blast》などが良いカードだ。

 それに、もし戦場と墓地に1枚ずつ《師範の占い独楽/Sensei’s Divining Top》があって手元に《ゴブリンの溶接工/Goblin Welder》があれば、毎ターン追加で1枚カードを引くことが出来る。

 手元に《ゴブリンの溶接工/Goblin Welder》が2体いたおかげで手札もマナもゼロの状態から相手の《ゴブリンの放火砲/Goblin Charbelcher》を打ち消したことがある。《Force of Will》を唱えることでね。

 《ゴブリンの溶接工/Goblin Welder》と《師範の占い独楽/Sensei’s Divining Top》を使ってライブラリのてっぺんにあった2枚のカード、《Force of Will》と青いカードを引けたからさ。

 《通電式キー/Voltaic Key》でも似たようなことができる。ドローの効果にレスポンスして《師範の占い独楽/Sensei’s Divining Top》をアンタップさせ、またドローする。

 今ではこのコンボはヴィンテージでしか使えない。だけどレガシーのMUDの中には《通電式キー/Voltaic Key》の入ったリストもあるので、もしかしたら《師範の占い独楽/Sensei’s Divining Top》の入る余地もあるかもしれない。

コマに対する評価

 《師範の占い独楽/Sensei’s Divining Top》を《Force of Will》で打ち消すべきときは? もう何ターンかゲームが終わらないと分かっているときだ。

 コントロール同士の対戦時は、ほぼ全ての場合において《師範の占い独楽/Sensei’s Divining Top》を打ち消すのが正しいプレイングとなる。ただし例外も存在する。

 もし次の自分のターンに《精神を刻む者、ジェイス/Jace, the Mind Sculptor》を戦場に出したいときは、この強大な力をもったプレインズウォーカーを通す際に生じる打ち消し合戦のために打ち消し呪文を温存しておきたいかもしれない。

 もしかしたらすでに自分も《師範の占い独楽/Sensei’s Divining Top》を引いていて、自分の《師範の占い独楽/Sensei’s Divining Top》のほうがより高いアドバンテージを稼ぎだせると思うならば、ピッチで《Force of Will》を撃つことで手札枚数が相手のそれを下回ってしまうようなプレイングは避けるべきかもしれない。

 とはいえ、多くの場合は《師範の占い独楽/Sensei’s Divining Top》こそが対戦相手の唱える呪文の中でもっとも警戒すべきものであり、打ち消すべきカードだ。

 例えば君が《思考囲い/Thoughtseize》を唱えて確認した相手の手札が「除去、コマ、キャントリップ、打ち消し」だった場合、考えるべきは今すぐ対処すべきカードがどれなのかだ。

 もし打ち消し呪文を取り除いたとして、対戦相手が《師範の占い独楽/Sensei’s Divining Top》を回すことで次の1枚を手に入れてしまう可能性がどれほどなのかも考えるべきだ。

 当たり前のことだが、それを取り除くことでゲームを終わらせられるなら話は別だ(例えば君の使っているのがコンボデッキだった場合などだ)。ゲームに残された時間が少ないということを明確にすれば、それは《師範の占い独楽/Sensei’s Divining Top》の力を弱めることと同義だからだ。

 ときにはタップ能力でカードを引くことによって《師範の占い独楽/Sensei’s Divining Top》を失ってしまう可能性が生じる。フェッチランドを使いたい場合や《緑の太陽の頂点/Green Sun’s Zenith》を唱えたい場合などだ。

 このときに考えるべきことは「このまま《師範の占い独楽/Sensei’s Divining Top》を失ってしまってもよいのか、それとも1ターン待つべきなのか」だ。そこまでして得るカードは、よほど必要なものでなければならない。

 今にも勝利しそうな対戦相手を止められるカードか、逆に君の勝ちに直接つながるカードか。

 Nic Fit(=低速の緑黒デッキ)を使っているとき、《師範の占い独楽/Sensei’s Divining Top》を諦めれば1ターン丸々勝利を早められる、という抜群の効果を得られる瞬間というのはゲームの中盤から終盤にかけてよく訪れた。

 《墓所のタイタン/Grave Titan》を呼び出せるならそれだけの価値はある。

相手のコマに対処する方法

 《師範の占い独楽/Sensei’s Divining Top》の対処するもっとも簡単な方法は直接それを使えなくさせることだ。《真髄の針/Pithing Needle》や《クローサの掌握/Krosan Grip》などが一般的だろう。

 しかし多くの場合、そんな分かりやすい対抗手段は君の手元にないはずだ。

 それでもなお《師範の占い独楽/Sensei’s Divining Top》を破壊したりデッキに混ぜ込んでしまう方法はいくつかあり、かつ、多くのプレイヤーがその機会を見過ごすのを目にしてきた。

 多くの場合、プレイヤーたちはまるで《師範の占い独楽/Sensei’s Divining Top》に「破壊できない」と書いてあるかのようにふるまい、他のカードに目を向けてしまうのだ。もしくは単に《師範の占い独楽/Sensei’s Divining Top》がどれだけ相手にとって重要かを理解していないだけかもしれない。

 僕好みの手段はライブラリに埋めてしまうことだ。僕はこれを「水没させる」と呼んでる。

 レガシーでよくある場面として、対戦相手の脅威を除去したいとき、相手のシャッフル効果のタイミングに合わせてそれを《水没/Submerge》するという手がある。

 コマに関して言えば、良く似た手段として、相手のフェッチの起動に合わせて《師範の占い独楽/Sensei’s Divining Top》に向かって除去を唱えるという手が考えられる。

 シャッフルさせたということはデッキの上は不要なカードなはずで、それと引換えに《師範の占い独楽/Sensei’s Divining Top》を戻させるなら、長期的なアドバンテージを得られたと考えるべきだ。

 《クァーサルの群れ魔道士/Qasali Pridemage》や《破滅的な行為/Pernicious Deed》を生け贄に捧げることでカードアドバンテージを失ってしまうとはいえ、それだけの価値はある。

 一方、この戦法を適切に使うことで、対戦相手に「シャッフルしたくないときにシャッフルさせる」こともできる(《外科的摘出/Surgical Extraction》や《根絶/Extirpate》のように)。

 例えば、対戦相手が《師範の占い独楽/Sensei’s Divining Top》をタップして君のターンに《終末/Terminus》を唱えようとしたそのときを狙って、対戦相手のフェッチランドに対して《不毛の大地/Wasteland》を起動するとかね。

 土地を得るためにはフェッチを起動しなくてはいけない、しかしそうすることで彼の引くカードは無作為な(願わくば《終末/Terminus》以外の)カードとなる。もし彼が奇跡を起こすためにフェッチの起動を諦めたなら、《不毛の大地/Wasteland》は十分な仕事をしてくれたといっていいだろう。

 もし対戦相手が何を引こうと構わないというのなら(そして土地よりも《師範の占い独楽/Sensei’s Divining Top》をどうにかしたいという状況なら)、相手がカードを引いたあとでフェッチを対象に《不毛の大地/Wasteland》を起動するのも1つの手だ。

 土地を得るためにはフェッチを起動しなくてはいけない、しかしそうすることで相手は《師範の占い独楽/Sensei’s Divining Top》をライブラリの中に失ってしまう。

 土地がそれほど重要でない状況ならこの手はそれほど有効とは言えない。しかしもし君がレガシーの試合を重ねて行くなら、必ずこの考えは役立つはずだ。

 相殺ゴマを相手にするとき、呪文を解決させるにはコツが必要となる。数ターンかけての綿密なプランを立てる必要があるからだ。

 対戦相手のターンにインスタントを唱えることで、対戦相手がそのエンドフェイズの時点でライブラリに乗せているマナコストの予想がつけられる。これによって、迎える君のターンにそれを操作する余地が生まれるわけだ。

 1マナで釣るのもときどきは上手くいくだろう。もしかしたら対戦相手はそれを打ち消すために《師範の占い独楽/Sensei’s Divining Top》をライブラリのてっぺんに乗せるかもしれない。これで1点以外のマナコストの呪文を通すことができるようになる。

 また同じ考え方で、《師範の占い独楽/Sensei’s Divining Top》のドロー能力を《もみ消し/Stifle》することで1マナの呪文を通すこともできるかもしれない。

 もし対戦相手の《師範の占い独楽/Sensei’s Divining Top》を狙ってタップさせる(訳註:ライブラリの上に乗せさせる)ことが出来れば、それを《予報/Predict》で追いやったり、次に唱えられるときに打ち消したり、もしくは相手のドローステップに《ヴェンディリオン三人衆/Vendilion Clique》で狙い撃ちすることさえできるかもしれない。

 相手が土地に詰まっているようであれば、あえて1ターンに複数の呪文を唱えては打ち消させようとすることで相手に軽いロックをかけるという手もあるが、これはさすがにレアすぎるか。

 余談だが、スタックに直接置かれる呪文のコピーは《相殺/Counterbalance》を誘発しない。そのため《集団意識/Hive Mind》やストーム呪文であれば相殺ゴマのコンボに対抗しうる。

 もし君の対戦相手が、コンボ対策カードである《クローサの掌握/Krosan Grip》に対抗するためにライブラリのてっぺんに3マナの呪文を用意していたとする。こういったときは相手のアップキープまで待てばいい。

 相手は君に《クローサの掌握/Krosan Grip》を唱えられたその瞬間にはライブラリを上から「3マナ呪文、カード(A)、カード(B)」としておきたいはずだ。

 さて、もし対戦相手が《相殺/Counterbalance》のために3マナ呪文を上に残しておきたいとすれば、ドローステップにカードを引く前に《師範の占い独楽/Sensei’s Divining Top》を回してライブラリを上から「カード(A)、3マナ呪文、カード(B)」と直したいはずだ。

 その操作を行ったあと、ドローステップへ移行するためには、相手は優先権を放棄しなくてはいけない。カードを引くのを待ってもらうためには、相手にドロー前に優先権を用いることを告げる必要がある。

 《クローサの掌握/Krosan Grip》を用いるのはこのタイミングだ。対戦相手が「正しく」デッキの順番を入れ替えてくれて、かつ3マナ呪文が複数ないことを願おう。

コマを中心に据える

 レガシーという環境におけるもっとも万能なライブラリ操作カードであるにも関わらず、このカードは十分に利用されているとは言えない状況だ。

 もっともぶっ壊れた使われ方は当然《相殺/Counterbalance》と一緒に用いることだ。だからこそこのカードは青白の奇跡デッキでもっともよく見かけることになる。

 このデッキタイプにおいて、《師範の占い独楽/Sensei’s Divining Top》は単にライブラリを操作してくれるというだけでなく、コントロールエンジンとしても力を発揮する。

 きたる奇跡カードを見せてくれるだけでなく、対戦相手のターンに奇跡を起こすことさえできる1マナのアーティファクトカード。狂ってるとしか言いようがない。

 またこのカードは《オパールのモックス/Mox Opal》とアーティファクト土地ともよいシナジーをもつ(1ターン目に《師範の占い独楽/Sensei’s Divining Top》出しつつ回すことができる)。

 最高の相棒は《粗石の魔道士/Trinket Mage》だろう。この小さな魔法使いはコマを持ってきてくれるというだけでなくデッキをシャッフルする効果も合わせ持ち、《師範の占い独楽/Sensei’s Divining Top》の有用性をさらに高めてくれる。

 最近でいうと《断片無き工作員/Shardless Agent》の続唱の準備を整えるために《師範の占い独楽/Sensei’s Divining Top》を使うのが楽しい。

 奇跡を起こすときと同様、より効果的なカードが「当たる」ように操作すること自体もそうだが、続唱はそれだけでなく占術のようにも使える。複数枚のいらない土地やその時点では唱えられない呪文たちをライブラリの下へ追いやることもできる。

 またアグロコントロールデッキに《師範の占い独楽/Sensei’s Divining Top》を投入するプレイヤーたちもいる。その使われ方に関して言えば最近では《森の知恵/Sylvan Library》にとって代わられることも多いが、その他の石鍛冶デッキ、白黒手札破壊デッキ、デスアンドタックス(=白ビートダウンデッキ)などではもっと使われるべきだと感じている。

 もし君のデッキにシャッフルする手段がいくつもあり、かつ2ターン目以降も戦う気があるなら、《師範の占い独楽/Sensei’s Divining Top》を入れることを検討すべきだろうね。

 《師範の占い独楽/Sensei’s Divining Top》専用のコンボもある。《未来予知/Future Sight》と《覚醒の兜/Helm of Awakening》と一緒に使うことでデッキを引き切れば、対戦相手のデッキは君の《思考停止/Brain Freeze》で大惨事だ。

 《未来予知/Future Sight》が無くても、2枚の《覚醒の兜/Helm of Awakening》と2枚の《師範の占い独楽/Sensei’s Divining Top》があればストームを無限に増やせる。

 このコンボの良いところは、コンボ要員たちは単体でもドローエンジンとして機能し、ほぼ全てのパーツが《悟りの教示者/Enlightened Tutor》で引っ張ってこれるという点だ。残念な点としては、それらだけではいくら力を合わせても何ができるというわけでもなく、かつ兜は相手の呪文も安くしてしまうってことだね。
 公式訳が無事発見されたので、私訳を削除。

 原文:Small Change
 http://www.wizards.com/Magic/Magazine/Article.aspx?x=mtgcom/daily/mr81

 日本語訳:基本セットのちょっとした変化。
 http://web.archive.org/web/20041223231807/http://www.hobbyjapan.co.jp/magic/articles/files/20030815_01.html

【翻訳】マーフォークの物語/A Merfolk’s Tale【Daily MTG】
Mark Rosewater
2008年06月23日
元記事:http://www.wizards.com/magic/magazine/article.aspx?x=mtgcom/daily/mr337

「さあもうベッドに行く時間だよ、私の小さいアリエル」
「おじいちゃん、あの話聞かせて」
「おちびちゃん、もうあのお話は何千回もしたじゃないか!」
「1回だけ、あと1回だけ、ねえ、お願い、お願い、お願い!」
「よしよし、まずはベッドに入りなさい」

 さて……遠い遠い昔のことだ。遥か彼方に存在した、とあるゲームの世界で私たちマーフォークは平和に暮らしていた。何も難しいことはなかった。私たちには真珠で出来た三つ又の槍があった。

 また私たちには王がいた。彼はマーフォークではなかったが、私たちは彼に付き従った。マーフォークデッキは分かりやすくプレイしやすかった。私たちは決して強くはなかったが、それでもなお、私たちは愛されていた。(註1)

 そこに1つ目の試練が訪れた。神々による「4枚の戒め」が発せられたのだ。今となっては当たり前すぎて大したことに思えないかもしれないが、当時はそれはそれは大変なことだった。

 分かるだろうが、私たちには頼るべき他の種族がいなかった。そう、私たちはあまりに素朴で無力だった。私たちの地位を守るべく、多相の戦士の力を借りようとした人たちもいたが現実は非情だ。私たちは脇へと追いやられた。(註2)

 しかしその暗黒の時代に1人目の救い主が現れた。彼は殺し屋だった。そして暗殺者でもあった。しかし私たちは彼を必要とした。自分たちを守るため、私たちに選択肢はなかった。

 彼は力ある艀(はしけ)を携えてやってきた。その艀(はしけ)は軍用に作られたものだった。私たちは力を合わせ、再び戦うために立ち上がった。しかしそれでも私たちの勢力は非常に小さいものだった。(註3)

 この暗黒時代に光がさした。皮肉なことに、私たちの隆盛はある帝国の衰亡によってようやくもたらされたのだ。そう、やってきたのはヴォーデイリアの民だった!(註4)

 そのとおりだよ、かわいいアリエル。救済はヴォーデイリアの沿岸からやってきたのだ。魔道士も、騎士も、兵士も、戦争機械も、私たちの軍勢に加わってくれたのだ。

 そしてその中でももっとも甘美な存在は、絹のように滑らかな歌声で海そのもののような旋律を歌い上げた。彼女がいるだけで、誰もが振り向かずにはいられなかった。(註5)

 しかし、運命はときに力をもたらし、またときに奪い去る。次の年はまた厳しい年となった。新たに加わった仲間はたった1人。その肩書きが探索者だったというのは皮肉な話だ。(註6)

 マーフォークの民が生き延びるためには新天地を求めて旅立たねばならないことに気付いたのはそのころだった。そこで私たちはジャムーラの沿岸を目指した。

 ジャムーラで私たちは新たな仲間と出会うことはできたが、彼らはいささか弱かった。私たちマーフォークを戦える集団にまとめあげてくれるために必要な何かを残念ながら彼らは持ち合わせていなかった。(註7)

 仕方なく私たちは再び旅立った。次にたどり着いたのが暗黒の地ラース。

 ラースのルートウォーターだった。

 そう、ルートウォーターだ! そこにいた私たちの遠い親戚たちは力強い民だった。マーフォークにも力の兆しが見えた。他の種族たちも私たちに敬意を示すようになった。それは長く絶えていたものだった。(註8)

 しかしこれに続いたのは1年にも続く干ばつだった。お前も知っているだろう。私たちは干ばつを好まぬ。このあいだにもいくらかの新たな参入者はいたが、何かを変えてくれるだけの力を持つものはいなかった。(註9)

 選択肢はなかった。私たちは仕方なくメルカディアの地へと向かった。他の部族はそこで苦しんだが、幸運の女神は私たちに微笑んでくれた。私たちは繁栄のときを迎えた。(註10)

 そこに侵略者たちが襲ってきた。他の部族はまたしてもみな苦難のときを迎えたが、私たちはまた力を得た。奇妙な同盟が結ばれただけでなくさらには奇妙な子孫たちも生まれたが、かつてないほどに私たちマーフォークが輝いていた時代だった。世界の覇権にすら手が届きそうだった。(註11)

 しかし幾度となく繰り返されてきたことだが、もっとも暗き時を直後に控えたときこそ太陽はもっとも強い輝きを放つ……

「それじゃ意味が分からないわ、おじいちゃん」
「おちびちゃん、物語の最中に口を挟んではいけないよ」
「だけどおじいちゃん、太陽が一番明るいのはお昼に空のてっぺんにあるときよ。空が暗いのは真夜中じゃない。お昼よりもずっとずっとあとよ。だから……」
「分かった、分かった。もっとも明るき時のあと、しばらく経ってもっとも暗き時が訪れる」
「もちろんよ! 一番明るいって言ったら、一番暗いがすぐあとに来るのはおかしいわ。だってどんどん暗くなっていくはずだもの!」
「おちびちゃん、話は聞きたくないならここで終えてもいいんだよ?」
「えー、やだ、やだ、聞きたい! いたずら好きの神様の出番もまだなのに!」
「安心おし。すぐに出番だよ」
「良かった!」

 さて、どこまで話したかな。そうだった、そうだった。私たちは黄金期を迎えていた。何もかもが完璧に思われた。このあとに訪れる悲劇など誰も思いもよらなかった。

「……そしてそれはいたずら好きの神の登場とともに始まった」
「やったあ!」

 いたずら好きの神は常に私たちに優しかった。確かに彼のいたずらはときに私たちをも巻き込んだが(お前がいつか大きくなったら、マーフォークの乙女とエルフが大いなる魔術によって結ばれた話もしてあげよう)、その心は常に私たちを気にかけてくれていた。

 しかしそれでもなお彼はいたずら好きの神であり、いたずら好きの神がするであろうことにはなんでも手を出した。その手の一振りで彼は私たちマーフォーク、さらにエルフたちやゴブリンたちもすべての人々の記憶から消し去ってしまった。

 この残酷な冗談の極め付けとして彼は私たち一族の替わりをイカにつとめさせたのだ。

 イカだ。

 それは私たちマーフォークにとって劣った存在だった。私たちのリーダー、偉大なるラクァタスは戦った。私たちの声を代弁しようと戦ってくれたが、神々は聞く耳を持たなかった。

 彼らはラクァタスを悪役に配した。目論見通り、誰も彼の言葉を聞かなくなった。彼が去り、神々はまるで私たちが初めから存在しなかったかのようによそおった。(註12)

「なんでいたずら好きの神様はそんなことしたの?」
「なぜならそれが彼の役割だからだ。その姿が現れしところに災厄をもたらすのだ。多くの人々は彼こそがこの多次元宇宙に終末をもたらすと信じているほどだ」
「いい神様だと思ってたのになあ」
「そんな容易な言葉に括れる神はいないのだよ」
「だけど私聞いたことあるわ。彼は世界を救ったことがあるって。それも何度も!」
「彼は世界を救い、また彼はそれを滅ぼす。彼の意図はまるで週ごとに変わるようだとすら言われる。いたずら好きの神を理解しようとしないことだ。
 彼の考えはたくさんの呪文書にまとめられている。とてもたくさんのだ。しかしその偏った心から生み出されるものを適切にまとめられるものは数えるほどしかいない」

 私たちは攻撃にさらされていた。しかし外敵によってではなく、まさに神々そのものから攻撃を受けていた。新たにマーフォークが生まれないことを確かめた彼らは、ついにはすでに生まれ落ちていた仲間たちをも抹消しはじめた。

 かつてマーフォークであった者たちは、ある者はウツボに姿を変えられ、またある者は魔道士に姿を変えられた。私たちの存在そのものが攻撃にさらされたのだ。(註13)

「私たちはそれでどうしたの!?」
「私たちに出来ることはあまりに少なかった」

 私たちは1人また1人と姿を消していった。全ての希望が消えようとしたとき、もっとも予想だにしないところから私たちの味方が現れたのだ。そう、それはいたずら好きの神、その人だった。

「えー!? なんでっ?」
「それには様々な話がある。
 私が好きなのは、人々が祈りを捧げたという話だ。彼らは祈りをたばね、いたずら好きの神に彼らがいかに悲しみに包まれているかを伝えた。いたずら好きの神はそれに耳を傾けた。
 そう、彼は全ての祈りに答える時間はないが、その全てを聞いてくださっているのだ。そして神は滅ぼすべきでない種を滅ぼしてしまったことに気づいたのだ。彼は祈りを聞き、物事をあるべき姿に戻すために立ち上がられた」
「それで私たちは帰ってこれたのね!」
「そう簡単ではなかったのだよ」

 いたずら好きの神にも出来ないことがあった。

 神々の住まう神殿には様々な力が働いていた。一度動き始めた何かはその力を増し、止めることは非常に難しくなるのだ。さらに悪いことに、このときの力は急な傾斜にあるようなものだった。

 私たちに一撃が加えられるごとに、よみがえることができる可能性はさらに低くなっていった。ただ1つ、幸運だったのは、いたずら好きの神が非常な頑固者だったということだ。彼は私たちを見捨てるつもりはなかった。

「だけど彼は山だって簡単に動かしてしまえるほどに強い神様なんでしょう?」
「うーん、そのとき彼が精力をかけて守ろうとしてたのは私たちだけではなかったのだよ。小さなリスたちやずる賢いビーブルもそうだ。
 それだけでなく彼の全力をもってしても天上の神々は心を動かされはしなかったのだ。
 しかしことわざにあるように「頑固な人は足元の石ころではなく先にある明るい未来しか目に入らない」のだ。まあ、この場合は人ではなく「頑固な神」というべきかもしれないがね」

 新しい世界を訪れるたび、いたずら好きの神はマーフォークのための居場所を探した。

 金属で出来た世界? ロボットのようなえらをもたせることで登場させることはできないだろうか? 街の世界? 下水道に住まうクリーチャーという形で登場させてもよいのではないだろうか?(註14)

 しかし、いずれの場合も神殿に住まう神々の手によって彼の目論見は叩き伏せられた。

 そこでいたずら好きの神は、彼らしい手段で物事に望むことにしたのだ。いたずら好きな神にふさわしい形で、巧妙に抜け目なく、彼は計画を進めた。

 またいたずら好きの神は、私たちマーフォークに愛着を感じているのが自分1人ではないことにも気付き、力を得た。

 次に彼は下準備を始めた。過去に在った世界を今再び掘り起こした。新たな世界に私たちの居場所を見いだせないのなら、すでに在った世界を今一度作り直すしかないと考えたのだ。(註15)

 そこが私たちの帰還する足掛かりとなった。

 また彼は私たちの境遇に同情的だった神々の気持ちを煽った。しかしそれだけでなく、彼の計画はさらに大きな規模で進行していた。

 知っての通り、神々の中でも一際強い力を誇るのは物語の神だ。彼の持つ本にこそ、全ての種族の伝承が語られている。この神の許しなしには、私たちの復活はあり得ないのだ。

 いたずら好きの神はこのことを深く承知していた。そこで彼は環境に細工を施した。私たちが帰還する理由を作るためにだ。

 古き世界のあとに訪れた新たな世界はクリーチャーに焦点を当てたものだった。まさに失われた民が再登場するべく待ち望まれた世界だった。(註16)

 しかしなお物語の神は厳しい態度を崩さなかった。

 それに対していたずら好きの神は得意の踊りを披露し、その口元を少し緩ませることに成功した。少しずつ、少しずつではあったが、頑なだった物語の神の心を解きほぐした。

 物語の神もその心の奥底では人々の祈りの深さを理解していた。そして何年も絶え間なく続いたいたずら好きの神の嘆願に、ついに物語の神も根を上げた。

 そうだな、と彼は言った。戻ってもよかろう、と。

「そんな言葉で、ついに私たちは帰ってきたのだ」
「お話はそれでおしまい?」
「この物語にはおしまいなんてないのだよ、おちびちゃん。手にした勝利を胸に秘め、次の戦いに備え続けなければならないんだ。私たちが忍耐強くあろうとする限り、そしてまた私たちのために祈ってくれる人々がいる限りは、マーフォークが真の意味で消え去ってしまうようなことはないのだからね」

「さて、もう寝る時間だよ、おちびちゃん。ゆっくり頭を休めて、私たちマーフォークの民の夢を見るがいいよ。たなびく青い髪、白い髪、黒い髪の夢をね。ああ、もしかしたら緑色かもしれないね」
「おやすみなさい、おじいちゃん」
「おやすみ、私のアリエル」

<文章終わり>

(註1) : 私たちには真珠で出来た三つ又の槍があった。また私たちには王がいた。
 アルファ版の頃の話。当時、実際にマーフォークのクリーチャータイプを持つものは《真珠三叉矛の人魚/Merfolk of the Pearl Trident》のみ。それを強化してくれる《アトランティスの王/Lord of Atlantis》のクリーチャータイプは当初ロード(Lord)のみだった。

(註2) : 神々による「4枚の戒め」が発せられたのだ。
 公式ルールの「デッキに同じカードは4枚まで」の制限のこと。それまでは同じカードを何枚入れようと自由だったが、これによって《アトランティスの王/Lord of Atlantis》が強化可能なカードがデッキに最高で4枚までしか入れられなくなってしまった。
 それでもあえて5枚目以降のマーフォークを入れようとすると、当時は多相の戦士(Shapeshifter)である《クローン/Clone》を入れるしか選択肢がなかった。

(註3) : その暗黒の時代に1人目の救い主が現れた。彼は殺し屋だった。
 暗黒の時代というのはエキスパンション「ダーク/Dark」のこと。これには新たなマーフォークとして《マーフォークの暗殺者/Merfolk Assassin》が収録されていた。タップのみで島渡りをもつクリーチャーを破壊できる能力持ち。また同じエキスパンションには、対象のクリーチャーに島渡りを付与する《軍用船/War Barge》も収録されており、2枚でコンボとなった。

(註4) : 私たちの隆盛はある帝国の衰亡によってようやくもたらされたのだ。
 ある帝国の滅亡というのはエキスパンション「フォールンエンパイア/Fallen Empire」のこと。ヴォーデイリア/Vodaliaと呼ばれる地にマーフォークが住んでいるという背景設定があり、多くのマーフォークが収録されていた。

(註5) : 魔道士も、騎士も、兵士も、戦争機械も、私たちの軍勢に加わってくれたのだ。
 それぞれフォールンエンパイアに収録されていたマーフォークたち。魔道士は《Vodalian Mage》、騎士は《Vodalian Knights》、兵士は《ヴォーデイリアの兵士/Vodalian Soldiers》、戦争機械は《Vodalian War Machine》、歌声うんぬんは《海の歌姫/Seasinger》で、対戦相手が《島/Island》をコントロールしていればそのクリーチャー1体のコントロールを奪える能力を持っている。
 なお《Vodalian War Machine》のクリーチャータイプはマーフォークではなく壁(Wall)だが、マーフォークを1体タップすることで「このターン攻撃できるようになる」か「+2/+1される」を選ぶことができる能力を持っているため、ここでは仲間に加えられている。

(註6) : 次の年はまた厳しい年となった。新たに加わった仲間はたった1人。
 厳しい年というのは氷河期を舞台にした「アイスエイジ/Ice Age」ブロックのこと。探索者というのは《Benthic Explorers》のことで、これはこのブロック唯一のマーフォーク。能力は半端なく弱いが、当時のマーフォークにしては珍しく4マナで2/4というガタイの良さを誇っていた。まあ、使われなかったけど。

(註7) : ジャムーラで新たな仲間と出会うことはできた
 ジャムーラというのは亜熱帯を舞台にした「ミラージュ/Mirage」ブロックのこと。《マーフォーク襲撃部隊/Merfolk Raiders》や《海の占術師/Sea Scryer》など数多くのマーフォークが収録されてはいたが、軒並みカードパワーが低かった。

(註8) : 次にたどり着いたのが暗黒の地ラース。
 暗黒の地ラースを舞台にした「テンペスト/Tempest」ブロックのこと。1マナ1/1で青マナで飛行を得る《マンタ・ライダーズ/Manta Riders》や《放蕩魔術師/Prodigal Sorcerer》の同型再販である《ルートウォーターのハンター/Rootwater Hunter》など、そこそこ使えるマーフォークがいた。
 またこのブロックの小型エキスパンション「エクソダス/Exodus」に収録されていたのが、ルーター能力という俗称の生みの親、かの有名な《マーフォークの物あさり/Merfolk Looter》だった。

(註9) : これに続いたのは1年にも続く干ばつだった。
 干ばつというのは「ウルザ/Urza」ブロックのこと。まったくマーフォークが収録されなかったわけでもなく、2マナ 2/1の《珊瑚マーフォーク/Coral Merfolk》など、それなりの能力を持ったものもいた。まあ、環境を変えたかと言われると返す言葉もない。

(註10) : 私たちは仕方なくメルカディアの地へと向かった。
 メルカディアの地というのは「マスクス/Masques」ブロックのこと。最初の大型セットである「メルカディアン・マスクス/Mercadian Masques」にはあまり強いマーフォークはいなかったが、続く「ネメシス/Nemesis」には《衝撃のマーフォーク/Jolting Merfolk》や《ルートウォーターの泥棒/Rootwater Thief》、また自身はマーフォークではないがマーフォークを直接戦場に出せる《海のハンター/Seahunter》がいた。

(註11) : そこに侵略者たちが襲ってきた。(中略) 世界の覇権にすら手が届きそうだった。
 侵略者たちというのは「インベイジョン」ブロックのこと。
 多色がテーマだったため、マルチカラーで《ガリーナの騎士/Galina’s Knight》(マーフォーク・騎士)や《ヴォーデイリアのゾンビ/Vodalian Zombie》(マーフォーク・ゾンビ)など、普段マーフォークが持たない肩書きつきのものが生まれた。これが「奇妙な同盟」のくだり。
 さらに「奇妙な子孫たち」とあるのは対抗色がテーマだったアポカリプスに収録された《ガイアの空の民/Gaea’s Skyfolk》(エルフ・マーフォーク)と《カミソリひれのハンター/Razorfin Hunter》(マーフォーク・ゴブリン)たちのこと。
 世界の覇権うんぬんは、2001年度の世界選手権で《対立/Opposition》とマーフォークを組み合わせたコントロールデッキが準優勝まで食い込んだことを指しているものと思われる。

(註12) : すべての人々の記憶から消し去って(中略)替わりをイカにつとめさせたのだ。
 イカというのは「オデッセイ/Odyssey」ブロックで新たに登場したセファリッド(Cephalid)のこと。見た目はどちらかというとタコにくちばしを付けてローブを着せたような生き物っぽい。
 そしてこの「オデッセイ/Odyssey」ブロックの最後のエキスパンションである「トーメント/Torment」に《ラクァタス大使/Ambassador Laquatus》が収録されたのを最後に、マーフォークはマジックのクリーチャータイプから取り除かれた。
 その理由は2003年07月21日のMark Rosewaterのコラムによると「魔術師同士が呪文で戦うというゲームのフレイバーを見直すため」だそうだ。「陸上で魔法を撃ちあっているはずなのに水棲生物を呼びだすのはおかしい」だそうだ。以下がそれに関するコラムへのリンク。いつか訳すかも。
 参照:http://www.wizards.com/Magic/Magazine/Article.aspx?x=mtgcom/daily/mr81

(註13) : ある者はウツボに姿を変えられ、またある者は魔道士に姿を変えられた。
 マーフォークがクリーチャータイプから取り除かれたあとの基本セットである第8版ではかつてクリーチャータイプがマーフォークであったカードの同型再販がクリーチャータイプを変更して収録された。
 《真珠三叉矛の人魚/Merfolk of the Pearl Trident》のかわりに《脱走魔術師/Fugitive Wizard》が、また第7版に収録されていた《珊瑚マーフォーク/Coral Merfolk》のかわりに《珊瑚ウツボ/Coral Eel》がポータルからやってきた。

(註14) : 金属で出来た世界? (中略) 街の世界?
 それぞれ、金属で出来た世界は「ミラディン/Mirrodin」ブロック、街の世界はギルドだらけの「ラヴニカ/Ravnica」ブロックのことを指しているものと思われる。

(註15) : すでに在った世界を今一度作り直すしかないと考えたのだ。
 過去からのカードがタイムシフトカードとして収録された時のらせんブロックのこと。時のらせんでタイムシフトカードとして再録されたマーフォークには《マーフォークの暗殺者/Merfolk Assassin》や《アトランティスの王/Lord of Atlantis》がいる。また次元の混乱でタイムシフトカードとして収録された中にも《マーフォークの秘術師/Merfolk Thaumaturgist》というマーフォークがいる。

(註16) : 新たな世界はクリーチャーに焦点を当てたものだった。
 部族に焦点を当てたローウィンブロックとシャドウムーアブロックのこと。フェアリーと一緒にマーフォークが青が主要クリーチャータイプとして収録されている。なおこの記事が書かれたのは2008年06月で、シャドウムーアが2008年05月発売。

補足 : いたずら好きの神
 説明不要とは思われるけど、最後に蛇足ながらつけくわえておくと、いたずら好きの神(原文:the trickster god)というのは、このコラムを書いているMark Rosewaterその人。

 最後の「いたずら好きの神は得意の踊りを披露し、その口元を少し緩ませることに成功した」の原文は「So the trickster god did his little dance and made his little smile」とあるんだけど、実際に何をしたのかは不明。気になる。
【翻訳】2人でサイクリング週間の旅に出よう/A Cycling Built For Two【Daily MTG】
Mark Rosewater
2004年3月22日
元記事:http://www.wizards.com/magic/magazine/article.aspx?x=mtgcom/daily/mr116

 サイクリング週間へようこそ。

 この記事を始めるにあたって私は少々不安に気持ちになっている。なぜなら以前すでにサイクリングをテーマ週間に採用したことがあるからだ。

 あれは2002年の9月、オンスロートのプレビュー週間だった。私はサイクリングに関する記事を書いたんだ。「Cyclying Cycling (註)」ってタイトルだ。
(註) Cyclying Cycling
 原文では以下のURLへリンクが張られている。内容は記事の続きに書かれている通り、なぜ古いメカニズムをあらためて持ちだしてきたのかについて。

 Cyclying Cycling
 http://www.wizards.com/Default.asp?x=mtgcom/daily/mr38


 サイクリングに関してさらにまったく新しい記事を書くことができるだろうか? 私はあらためて自分の過去の記事を読み返してみたんだ。

 そして驚いたことに、それはなかなか良い記事ではあったにも関わらず、サイクリングどっぷりというような内容ではなかったことに気づいた。記事は古いメカニズムを再利用することについてだった。

 つまり私はまだ一度も本当にサイクリングのためのコラムを書いたことがないのだ。

 今、この瞬間まではね。

ねえ、知ってる?

 このコラムはサイクリングに関する各種トリビアから始めようと思う。

  1. サイクリングが初めて収録されたセットは?
  2. サイクリングが初めてデザインに入ったセットは?
  3. サイクリングをデザインしたのは誰?
  4. サイクリングは元々なんと呼ばれていた?
  5. サイクリングは元々どんな効果だった?
  6. サイクリングを持った初めてのカードは?(複数)
  7. サイクリングが収録された2番目のセットは?
  8. サイクリングが収録された2番目のブロックは?
  9. サイクリングがそのデザインに入っていた2番目のセットは?
  10. ウルザズ・サーガにはサイクリングコストが(2)でないカードが最初は入ってた?
  11. ウルザズ・デスティニーに入っていたサイクリングをひねった効果のカードは?
  12. なんでオンスロートにサイクリングが再録されることになったのか?
  13. オンスロートの特殊なサイクリングたちはどのようにしてデザインされたのか?

 さて、君はいくつ答えられるかな?

 この記事を読み終わる頃には、これら全てに対する答えが得られるはずだ。人類がいまだかつて得られなかったほどのサイクリングに関する知識を君は得ていることだろう。

 せっかく得られた力を決して悪用しないように。


1. サイクリングが初めて収録されたセットは?

 サイクリングが初めて登場したのはウルザズ・サーガだ。

 良いトリビアのクイズはまず簡単な質問から始まるものだ。そうすることで回答者を油断させ、ガードを下げさせることができるからだ。これを非常に上手く実践している例はTV番組の「Who Wants to Be a Millionaire?」(註)だ。
(註) Who Wants to Be a Millionaire?
 アメリカのクイズ番組。日本でも「クイズ$ミリオネア」として放映された。賞金額の低い簡単な問題を正解することで、賞金額の高い難しい問題に挑戦できるようになる。しかし一度でも不正解だと賞金はゼロとなる。

 余談だが、このTV番組の$250,000の段階のクイズの1つは「サイの群れはなんと呼ぶ?(註)」だった。勉強になっただろう? マジックは有益なものだということが分かってもらえたと思う。
(註) サイの群れをなんと呼ぶ?
 サイ(Rhino)の群れは英語で「Crash」と呼び、そのまんまな《Crash of Rhinos》というカードがある。直訳すると「サイの群れ」だが、日本語版カード名は「サイの暴走」となっている。実際イラストもそんな感じだった。


2. サイクリングが初めてデザインに入ったセットは?

 良いトリビアのクイズのもう1つの条件は早い段階から難易度の高い質問をぶつけることだ。そうすることで回答者が恐れを抱くようになる。覚えておいてくれ。良いトリビアとは、まず油断させ、次に怖がらせることだ。

 まず油断、次に恐怖だ。

 もっとも、伝統的なトリビアではこんなに早く怖がらせる必要もないんだが、私は早いところこの記事の要点に触れたかったんだ。そう、サイクリングはどこから来たのか、ということだ。

 答えは(他の多くの似た質問に対する答えと同じように)テンペストだ。

 テンペストは私が初めてデザインしたセットだ。そしてMike Elliottの初めてデザインしたセットでもある。そしてアラビアンナイト以降でRichard Garfieldが初めてデザインしたセットでもある(どこかにいるであろうさらなるトリビア好きの君のために付け加えておくと、このセットの4人目のメンバーはCharlie Catinoという男だ)。

 ここだけの話だが、おそらく今存在しているマジックのカードのうちの4分の3は私たち3人のいずれかがデザインしたものだ。

 想像して欲しい。この3人が初めて一堂に会し、それぞれが何年も暖めていたアイデアを持ち寄ったら何が起きるか。創造力が爆発した、そうとしか言いようがない。

 たとえば通常の大型セットはデザインチームの手を離れて次に引き渡されるときには大体4つから6つのメカニズムが入っているのが普通だ(念のため。キーワード能力だけじゃなくて、全てのメカニズムを含んだ数字だ)。

 テンペストがデザインチームの手を離れたとき、いくつのメカニズムがそこにあったか?

 24個だ。

 いや、だから聞こえただろ。

 24個だ!

 ああ、そうそう、ちなみにこれは私が初めてデザインチームリーダーを務めたセットでもある。良いデザインは、メカニズムを大体4つから6つまでしぼりこむ作業を経て行われる。

 ところがあの頃の私はまだ若かった。ぜい肉をそぎおとすという作業の重要性をまったく分かっていなかった。良いと思ったメカニズムを全てデザインに放り込んでしまったんだよ。

 そうそう。良いと思われたメカニズムは24個あった。


3. サイクリングをデザインしたのは誰?

 ほとんどの人が私だと思ったんじゃないかな。結局、これは私のコラムだからね。

 残念ながら不正解だ。ここで(またちょっと脇道にそれてしまうが)私が学んできたコミュニケーション論について話そうと思う。ああ、大丈夫、ちゃんとマジックの話題に帰ってくるよ。

 さて、もし君がテレビの仕事につきたいと願うなら、大学でこれでもかというほどの時間をかけてテレビについて学ばなければならない。

 テレビの持つもっとも大きな力の1つに、一般大衆をだますことができるということが挙げられる。大きな力となっている理由はこれが非常に目立たない手段で行われるためだ。

 私が今日ここで話したいのは、私が「表現による世界構築(Environment by Representation)」と呼んでいる効果だ(もっとふさわしい呼称があったはずだが忘れてしまった。ここに挙げた名称は私の造語だ)。

 「表現による世界構築(Environment by Representation)」という考え方は、人が世界を理解しようとするとき、直接的にそれに触れることによってだけではなく、それが「テレビにどれほど頻繁に映るか」ということを通じておこなってもいるということだ。

 もっともよい例は犯罪だろう。

 テレビに映る犯罪のうち、90%は凶悪なものであり、残りの10%が軽犯罪だ。ところが実際の比率は逆であり、1つの凶悪犯罪に対して9つの軽犯罪が起きている。テレビがそれを逆に映し出すことによって、一般大衆は実際よりも世界はずっと危険であるという認識を持つことになる。

 さて、なぜ私はわざわざこのことをマジックのコラムで言及したのだろう?

 それは、私のコラムでも同じような現象が起きており、その幻想を取り払いたいからだ。私がデザインについて語るとき、ほとんどは「私自身がデザインしたもの」について語っている。

 なぜか?

 それは、私が自分自身のデザインしたことについてなら何でも知っているからだ。過去のデータから何から全て自分で持っており、それらについて完璧に話すことが出来るからだ。私自身のデザインについてならいくらでも興味深い話を語れる。

 そのため、マジックのデザインに関する私の記事を読んでいる皆からすると、まるでマジックのカードのうち、その9割が私のデザインであるかのような印象を受けるだろう。

 実際はそうではない。

 現実には、どれほどそのセットへ関わったかにもよるが、私のデザインしたカードが占める割合はセットごとにおおよそ5%から50%までのあいだだ。

 また私は基本的に新たなメカニズムのデザインに関わることが多い。それは経験を積んだデザイナーである私の重要な役割の1つだからだ。

 しかしマジックのデザインは、献身的なデザイナーたちによるチーム作業だ。

 私はそのチームの一員だ。

 今は確かに私が全体を俯瞰する立場にあるが、私の記事から受ける印象だけで、仕事の大半を私1人がやっているのでは、というような誤った認識を持たないで欲しい。

 さて、サイクリングをデザインしたのは誰か?

 答えは Richard Garfield だ。


4. サイクリングは元々なんと呼ばれていた?

 サイクリングはそれが生まれたばかりのとき「Sliding」と呼ばれていた。


5. サイクリングは元々どんな効果だった?

 以下にあげるのが「Sliding」の元祖テンプレート文だ。

   Sliding
   (あなたがカードを引くとき、それを全てのプレイヤーに公開することで
    それをあなたのライブラリーの一番下へ移動させ、次のターンのアップ
    キープの開始時に新たなカードを1枚引く)

 ここで言う「元祖」というのは、テンプレートチームのチェック前、デザインチームが用いていたテンプレート文という意味だ。このメカニズムはテンプレートチームへ渡るずっと以前の段階で、デベロップメントチームによって却下された。

 (なお、Bill Roseというただ1人の例外を除いて、デザイナーチームの中にテンプレートをきちんと書けるメンバーは1人もいない。なお私はそのデザイナーチームの中にあって平均以下だ。本当だよ)

 あと、もしかしたら「次のターンのアップキープの開始時」というのは君たちの目にはとても奇妙に映るかもしれない。過去においてはこれがキャントリップのテンプレートだったんだ。

 そう、アイスエイジの頃のキャントリップは「次のターンのアップキープの開始時」まで効果を現さなかった。そしてR&Dはより直感的に分かりやすいようにということで、よりシンプルな「カードを1枚引く」にこれを変えてくれた。

 ウルザズ・サーガのデザインの際、「Sliding」もその新しいキャントリップのテンプレートに直すことにした。そして新しいテンプレートはマナコストを要求するものとなった。

 なぜならマナコストが不要なサイクリングカードというのは実質的にデッキをカード1枚分圧縮できるということになってしまうからだ。

 もう1つの変更点はカードの移動先だ。元々はサイクリングされたカードはライブラリの底へ移動していた。私たちはそれを墓地へ落ちるように変更した。

 そのほうが分かりやすいと思ったから、ということに加えて、リミテッドにおける積み込みの問題を回避するためでもあった。


6. サイクリングを用いてデザインされた最初のカードは?(複数回答可)

 Richard Garfieldが最初期にデザインしたカードは全てコモンだった。

 彼が作ったカードの効果は全てすでに存在するカードのもので、かつその効果がしばしば限定的になってしまうものだった。これらに「Sliding」を付与することで、そういったカードを候補から除いてしまうようなデッキにも入れられるようになるからだ。

 以下にあげるのが私の過去フォルダからそのまま取り出してきた、テンペストのデザイン時に作られた最初の「Sliding」カードだ。

 cb22
 Sliding Dark Ritual
 3B
 Mana Source
 Black
 Artist
 Sliding (When you draw card, reveal it to all players to put it on the bottom of your library and draw another card at the start of the next turn’s upkeep )
 Add BBBBBBB to your mana pool.(あなたのマナプールに(黒)(黒)(黒)(黒)(黒)(黒)(黒)を加える)

 "For Timmy"

 cr06
 Sliding Dwarf
 1R
 Summon Dwarf
 Red
 Artist
 1/1
 Sliding (When you draw card, reveal it to all players to put it on the bottom of your library and draw another card at the start of the next turn’s upkeep )
 Mountainwalk
 
 cr18
 Sliding Stone Rain
 3R
 Sorcery
 Red
 Artist
 Sliding (When you draw card, reveal it to all players to put it on the bottom of your library and draw another card at the start of the next turn’s upkeep )
 Destroy target land.(土地1つを対象とし、それを破壊する。)
 
 cg19
 Sliding Wild Growth
 G
 Enchant Land
 Green
 Artist
 Sliding (When you draw card, reveal it to all players to put it on the bottom of your library and draw another card at the start of the next turn’s upkeep )
 Sliding Wild Growth adds G to your mana pool each time enchanted land is tapped for mana.(エンチャントされている土地がマナを引き出す目的でタップされるたび、それのコントローラーは自分のマナ・プールに(緑)を加える)
 
 cg20
 Sliding Tranquility
 3G
 Sorcery
 Green
 Artist
 Sliding (When you draw card, reveal it to all players to put it on the bottom of your library and draw another card at the start of the next turn’s upkeep )
 Destroy all enchantments.(すべてのエンチャントを破壊する。)


7. サイクリングが収録された2番目のセットは?

 君たちのうち、ほとんどはオンスロートと答えるだろうね。

 正解はウルザズ・レガシーだ。

 良いトリビアのクイズの条件その2だ。少々ずるがしこくないといけない。


8. サイクリングが収録された2番目のブロックは?

 これの答えがオンスロートだ。


9. サイクリングがそのデザインに入っていた2番目のセットは?

 ウルザズ・サーガだ。

 またひっかかったかな?


10. ウルザズ・サーガにはサイクリングコストが(2)でないカードが最初は入ってた?

 もちろん入っていたさ。ウルザズ・レガシーのデザインチーム((Mike ElliotとHenry Sternと私)は、マナでないサイクリングコストについてあれこれ試した。

 以下にあげる2枚が初期の頃のフォルダから引っ張りだしてきたものだ。どちらもライフをコストとしており、どちらも黒いカードだ。

 CB09_GU
 Minor Reanimation
 B
 Sorcery
 Black
 Choose target creature card in your graveyard with total casting cost 3 or less and put that creature into play.(あなたの墓地にある、点数で見たマナ・コストが3以下であるクリーチャー・カード1枚を対象とし、それを戦場に戻す。)
 Sliding: 2 life
 reanimate
 sliding
 alt slide for mana and probably 1B

 UB04_GU
 Black’s Sucky Artifact Destruction
 3B
 Sorcery
 Black
 Destroy target artifact.(アーティファクト1つを対象とし、それを破壊する。)
 Sliding: 2 life
 sliding
 alt slide for mana

 そしてウルザズ・デスティニーでは、デザインチーム(メンバーは私1人だけ)は代替コストのサイクルを試してみた。

 Saving Grace
 1W
 Instant
 White
 Cycling: Tap two white creatures(サイクリング:白のクリーチャーを2体タップする)
 Prevent 4 damage to target creature.(クリーチャー1体を対象とする。このターン、それに与えられる次のダメージを4点軽減する。)

 Spell Pluck
 1U
 Interrupt
 Blue
 Cycling: Return two islands you control to your hand(サイクリング:あなたのコントロールする島を2枚手札に戻す)
 Counter target spell with a casting cost of 3 or less.(呪文1つを対象とする。その点数で見たマナ・コストが3以下である場合、それを打ち消す。)

 Lotta Diggin’
 1B
 Sorcery
 Black
 Cycling: Pay 2 life(サイクリング:2点のライフを支払う)
 Remove up to three target cards from any graveyard.(いずれかの墓地にあるカードを最大3枚までゲームから追放する。)

 Land Be-Gone
 3R
 Sorcery
 Red
 Cycling: Sacrifice a land(サイクリング:土地を1つ生け贄に捧げる。)
 Destroy target land.((土地1つを対象とし、それを破壊する。)

 Splendor in the Grass
 1G
 Instant
 Cycling: return a creature you control to your hand(サイクリング:あなたのコントロールするクリーチャーを1体手札に戻す)
 Prevent all combat damage to creatures you control.(あなたのコントロールするクリーチャーに与えられる全ての戦闘ダメージを軽減する)

 どちらのケースでも代替コストのサイクリングはデザインの段階で切り捨てられた。

 なぜか?

 なぜなら、マナを無視することはトラブルの元だからだ。さて、あの「やっちまった」だらけなウルザズ・サーガ・ブロックにおいて、「何か問題を起こすかもしれない」などという理由からカードのデザインを諦めたなんて信じられない、と思う人もいるかもしれない。

 だが皮肉なことに事実だ。興味深いことにオンスロート・ブロックで再度マナを必要としないサイクリングコストを模索したときも同じ結論に達した。

 もしかしたらマナコストの変化について何か思い付いた人がいるかもしれない。(2)以外のコストだったカードはなかったのか? 違うマナコストをR&Dは試そうとしなかったのか?

 しなかった。私たちは新しいメカニズムは一定であったほうがプレイヤーたちに受け入れられやすいだろうと考えたんだ。実際のところ、サイクリングは数字部分なしでキーワードされかかったくらいだ。

 私たちは数字を2で固定しておきたかったので、能力のコストは常に2にしようという話になっていた。幸運なことに当時の私たちは、選択肢は残しておくべきだ、と自分たちを説得することに成功した。

 現在では、キーワードを作る際は出来る限り「縛り」は少なくしておくこと、ということになっている。もしスレッショルドが今作られていれば、それは「スレッショルド - 7」という形になっていただろうね。


11. ウルザズ・デスティニーに入っていたサイクリングをひねった効果のカードは?

 ほとんどのプレイヤーは気づいていないようだが、ウルザズ・デスティニーにもちょっとひねった形のサイクリングが存在していた。しかしそのカードにはサイクリングという言葉が使われていなかったので、私の試みに気づいた人はほとんどいなかったようだ。

 「ひねり」とは何か?

 それは「すでに戦場にあるカードをサイクリングする」というものだ。

 戦場に出たあとに「サイクリング」することができるパーマネントがここでいうひねりを加えたカードたちだ。これらは全て、2マナとそのカードを払うことでカードを1枚引くことが出来る。そう、まるでサイクリングのようにね。

 このメカニズムから得られる教訓は、デザイナーはときに少々控え目過ぎるということだ。当時の自分が今と同じだけのノウハウを持っていたら、上記の能力に「サイクリング」という単語を含むなんらかのキーワードを与えたくなっていたと思う。

 そうすればプレイヤーたちにも意図が伝わったはずだ。(絶対そうした、と言っているわけではないよ。与えたくなっていただろう、という話だ)

 ウルザズ・デスティニーのデザインを始めた頃は、こういった「戦場にあるカードをサイクリングする」カードが多く作られていた。

 この記事を書くに当たって私は事前にリサーチをしたわけだが(そのとおり、私は実際にリサーチをしたんだよ。R&Dという名前は伊達じゃない)、その際に初期の開発フォルダの中を見ると上記のようなカードを大量に発見したんだ(枚数が気になるなら教えてあげよう。19枚だ)。

 以下にあげるのはその中から実際に印刷されることのなかったカードで、かつ興味深いであろうと思われるものをピックアップしてみた(あとそれらに関するちょっとしたコメントをつけてみた)。なおこれらがかなり初期の段階のデザインファイルから発見されたということは忘れないで欲しい。

 Peaceful Afterlife
 W
 Enchantment
 White
 No effects are generated when cards are put into the graveyard.
 2, Sacrifice CARDNAME: Draw a card.
拙訳:
 平和的な死後の生命
 (白)
 エンチャント
 白の呪文
 カードが墓地に置かれた際には何も効果を発しない。
 (2),~を生け贄に捧げる:カードを1枚引く。


 ウルザズ・デスティニーの代表的なメカニズムの1つは「戦場を離れたとき」の効果だ。これはエコーとも「戦場にあるカードをサイクリングする」効果とも相性が良い。このカードはそういった「戦場を離れたとき」の効果をいじめるために作られたものだ。

 問題はこのカードはルール的に上手く働かないということだった。(少なくとも当時のルールチームはそう言ってた(たった今、Paulに聞いてみたけど、やっぱりダメだってさ))。

 Bounce Field
 U
 Enchant Creature
 Blue
 When CARDNAME is put into any graveyard from play, return target creature to owner’s hand.
 U: Return enchanted creature to owner’s hand.
 2, Sacrifice CARDNAME: Draw a card.
拙訳:
 跳ね返る地面
 (青)
 エンチャント・クリーチャー
 青の呪文
 ~が場から墓地に置かれたとき、対象のクリーチャーをオーナーの手札に戻す。
 (青):エンチャントされているクリーチャーをオーナーの手札に戻す。
 (2),~を生け贄に捧げる:カードを1枚引く。

 あらためて見てみると、これは青の起動型能力がなかったほうがデザイン的には良かったように思われる。しかしこのカードからも当時の私が場から離れた際に誘発する能力と場からサイクリングするカードとで色々試していたことがよく分かる。

 ウルザズ・デスティニーではこれの仲間がたくさん作られたが、デベロップメントチームはそれをふるいにかけて特に良いものだけを残した(ちなみにデベロップメントチームはこれらに Clever Card というあだ名をつけていた)。

 Phyrexian Sporespitter
 2BB
 Summon Horror
 Black
 3/3
 When CARDNAME is put into any graveyard from play, all creatures in play get -1/-1 until end of turn.
 2, Sacrifice CARDNAME: Draw a card.
拙訳:
 ファイレクシアの胞子吐き
 (2)(黒)(黒)
 ホラーの召喚
 黒の呪文
 3/3
 ~が場から墓地に置かれたとき、場にいる各クリーチャーはそれぞれ-1/-1の修整を受ける。
 (2),~を生け贄に捧げる:カードを1枚引く。

 このカードはウルザズ・レガシーのファイレクシアなクリーチャーたちとインベイジョンの《疫病吐き/Plague Spitter》とをかけあわせたものだ

 Crazed Soldier
 3R
 Summon Soldier
 Red
 3/1
 CARDNAME cannot block.
 When CARDNAME is put into any graveyard, target creature gets +4/-4.
 That creature’s toughness may not drop below 1.
 2, Sacrifice CARDNAME: Draw a card.
拙訳:
 狂った兵士
 (3)(赤)
 兵士の召喚
 赤の呪文
 3/1
 ~はブロックできない。
 ~が場から墓地に置かれたとき、対象のクリーチャー1体は+4/-4される。
 そのクリーチャーのタフネスは1より下にはならない。
 (2),~を生け贄に捧げる:カードを1枚引く。


 血に渇いた兵士がその死によって他のクリーチャーに《血の渇き/Blood Lust》を与えるというこのカードのアイデアを私は非常に気に入っていた。攻撃的な感情の昂りが受け継がれるという感じだ。

 Wild Emus
 2GGG
 Summon Beast
 Green
 3/3
 When CARDNAME leaves play, all your creatures get +2/+2 and trample until end of turn.
 2, Sacrifice CARDNAME: Draw a card.
拙訳:
 野生のエミューの群れ
 (2)(緑)(緑)(緑)
 ビーストの召喚
 緑の呪文
 3/3
 ~が場を離れた際、あなたのクリーチャーはターン終了時まで+2/+2の修整とトランプルを得る。
 (2),~を生け贄に捧げる:カードを1枚引く。

 このカードはレアだった。このカードの問題点は、追加の効果が勝負を決めてしまうほど強いものだと「カードを1枚引く」なんてことはどうでもよくなってしまうという点だ。

 Cycling Sol Ring
 2
 Artifact
 Artifact
 (T): Add 2 to your mana pool.
 2, Sacrifice CARDNAME: Draw a card.
拙訳:
 サイクリングできる太陽のリング
 (2)
 アーティファクト
 アーティファクト呪文
 (T):あなたのマナ・プールに{2}を加える。
 (2),~を生け贄に捧げる:カードを1枚引く。

 自分でも頭がおかしいんじゃないかとしか思えない時期が私にあった、という証拠としてこれを紹介したい。

 まず《太陽の指輪/Sol Ring》を表現するにはぶっ壊れているという言葉すら生ぬるい。そこで私はマナコストを増やしてみた。そしてさらに能力を足してみた!?

 それもプラスとなる能力だ。少なくとも弱い能力ではない(片方の能力でマナを生み出して、そのマナで自身を生け贄に捧げてカードを引くこともできる。弱くはないだろ?)。

 ウルザズディステニーのカードのパワーレベルがあまりに高かった理由の一端がここから垣間見えるかもしれない。

 この7年間で私のデベロップメントの技術は当時よりかは向上したと断言できるよ(デベロップメントの技術は、デザインうんぬんではなくどちらかというとカードのパワーレベルをきちんと把握できるかどうか、だからね)。


12. なんでオンスロートにサイクリングが再録されることになったのか?

 その答えにはいくつもの要素が絡み合っている。

 再録された理由の1つとしては、サイクリングがビン(Bin)に入っていたからだ。ああ、君は「ビン(Bin)って何?」と聞くだろうね。ここ最近、R&Dはメカニズムをどう扱うかということについて考えを変えることにしたんだ。

 過去には、メカニズムとは限られたリソースだと考えられていた。しかし現在では私たちはメカニズムを道具(Tools)だと考えている。もしそのメカニズムが上手く働いたなら、私たちはそれをありがたく何度でも再利用させてもらうことにしている。

 これが何を意味しているか?

 まず私たちは新しいメカニズムを生みだしたとき、それがきちんと働いてくれるかどうか、またみんなからそれに対してどのような反応が返ってくるかどうか、を注意深く観察する。

 もし全てが上手く回ったなら(つまりメカニズムはきちんと働き、かつみんなに受け入れられたなら)私たちはそれをビンに放り込む。このビンに入っているメカニズムは全てゲームを破たんさせないことが保証されており、再利用可能なメカニズムだ。

 ウルザズサーガブロックの時代にサイクリングは非常に人気があり皆に受け入れられた。そしてまたR&Dが特にお気に入りに選ぶだけの機能性もあった。

 これが再録された2つ目の理由となる。サイクリングは皆に好まれたというだけでなく、ゲームそれ自体に対して良い働きを見せるんだ。

 まずサイクリングは、私がメカニズムに求める最も重要な資質を持っていた。

 エレガントさだ。

 サイクリングはシンプルで、かつ分かりやすく、しかしそれにも関わらず奥深い戦術性をも持っており、それがこのメカニズムを非常に身のあるものにしていた。プレイヤーはこれを長い時間かけてあれやこれやと試してみて、なお飽きることがない。

 もしサイクリングの長所が上記にあげた事柄だけがだったとしてもビンには放り込まれるに十分なメカニズムだったが、サイクリングにはもう1つ重要なポイントがある。

 数週間前、私は"Starting Over"(註)という記事でマジックのマナソースシステムの重要性について述べた。
(註) Starting Over
 原文では以下のURLへリンクが張られている。マリガン週間(!)のコラム。
 http://www.wizards.com/Default.asp?x=mtgcom/daily/mr112b

 このシステムにはたくさんの長所があるが、それでも無視できない1つの問題点がある。マナ事故だ。ゲームはそもそもそれが始まらなければ楽しむことはできない。

 そういうわけで、全てのセットはそのデザインの目的の1つに、プレイヤーのマナ事故の回数を減らすことがある。この問題を解決するために私たちが取り得る手段は多岐にわたるが、いずれにせよどんなブロックにも必ず対抗策が入っているよう注意を払っている。

 サイクリングというメカニズムはこういった対抗策の1つだ。

 どのように問題を解決してくれるのか? その答えは3つある。

 1つ目として、サイクリングカードは低いマナコストでサイクリングできる。これによって土地の枚数が少ないときに新たな土地を得る確率を上げてくれる。

 2つ目として、土地が余っているときに余分なマナの使い道となってくれる。要するに、マナをカードに換えてくれる。より正確に言うなら、マナを手札の質を上げるために使うことが出来るようになる。

 これによってプレイヤーはデッキ内の土地比率を上げることができる。なぜならサイクリングカードは長い目で見ればそのサイクリングという効果によって引きすぎた土地のバランスをとってくれるからだ。

 (サイクリングすることによってすでにプレイされた余分な土地からのマナをさらに土地をプレイするディスアドバンテージを打ち消すのに使うことが出来る、とも言える)

 3つ目として、サイクリングによって、コモンのサイクリング土地を作ることができた。サイクリング土地こそがマナのバランスをとる手段の最も純粋にして的確な例と言える。マナが必要なときには土地に、そうでないときには他のカードになってくれる。

 ここまでがサイクリングが再録された2つ目の理由で、3つ目の理由としてあげられるのはサイクリングには工夫をこらす余地がたくさんあり、私たちはその奥深さを追求することに心ひかれていたからだ(これについては次の質問と回答でもっと詳しく話そうと思う)。

 再録された理由の4つ目は、サイクリングはオンスロートが必要としていたパーツにぴったりだったからだ。

 部族というテーマは非常にクリーチャー偏重なものだ。そこで私たちにはノン・クリーチャー・カードと上手く働いてくれるメカニズムが必要となったわけだ(おっと、待てよ。サイクリングはクリーチャーとも上手く働くんじゃないかい?)

 最終的にはこれら全ての理由が合わさり、サイクリングは復活を遂げたというわけさ。


13. オンスロートの特殊なサイクリングたちはどのようにしてデザインされたのか?

 オンスロートで登場した新発明は3つある。

 1つ目は新たなサイクリングコストだ。

 これは大して脳みそを使う必要もない発明だったので、特に語ることもない。これによって柔軟性のあるコストが設定できるようになり多くのカードが改善された(例えばサイクリング土地のように)。

 2つ目はカードがサイクリングされることをトリガーに誘発する能力を持ったカードだ。こういったアイデアのカードが元々はウルザズ・サーガのファイルにもたくさん作られていたことを考えると、なかなか興味深い。

 私たちはこのアイデアを一時棚上げした。当時は必要ないと思われたからだ。オンスロートを迎えるに当たって、私たちは埃まみれだったそれを棚からおろして新カードをデザインしたというわけだ。

 3つ目はサイクリングされた際に追加効果をもたらすカードだ。

 サイクリングの本来持っているフレイバー(違う呪文を手に入れるために手札の呪文を諦める、というフレイバー)を保つため、もたらされる追加効果は本来唱えられたときの効果を弱めたものであるべきだと私は考えた。

 こうすることで選択肢が生まれる。呪文の出力を最大にするか、もしくは弱い出力のかわりに追加の呪文を得るか。

 ちょっとプレイテストをしただけで、これらの3つの発明が再録されることとなったサイクリングに十分すぎるほどの活力を与えてくれることが分かった。

 サイクリングには他にも革新的なアイデアが隠されているだろうか?

 もちろんだ。

 それらはどういうアイデアなのか?

 それを知るためにはサイクリングの三度目の登場を待つしかないだろうね(言うまでもないと思っていたけど、気づいてない人のために付け加えておこう。サイクリングはまたいつの日か帰ってくるよ)


前へ進み続けよう(サイクリングだけに)

 さて、そんなわけでサイクリングのあれやこれやについての3500文字はこれで終了だ。この興味深いメカニズムを調査する旅を楽しんでもらえただろうか。

 来週のコラムでは何週間も前に「Talk To Me(註)」のコラムで私から君たちへ投げかけた100の質問についてついに取り上げることとなる。ぜひ読みにきてくれ。

 それまで君たちが再発見の喜びにひたれるよう祈っているよ。
(註) Talk To Me
 Mark Rosewaterから読者へ100の質問を投げかけているコラム。好きな数の質問に答えてよいが、回答に用いてよいのは「1人当たり100単語まで(only get to use 100 words)」という縛りがある。
 http://www.wizards.com/Magic/Magazine/Article.aspx?x=mtgcom/daily/mr111

【翻訳】小さなイカサマ、大きな代償/The Danger of Small Cheats【SCG】
Sam Stoddard
2010年11月19日
元記事:http://www.starcitygames.com/magic/fundamentals/20564_The_Danger_of_Small_Cheats.html

 我らが偉大なるボス、Ted Knutsonが数年前に書いた記事(註)は、マジック界における特に目立ったイカサマを取り上げたものだった。あの当時から私たちも随分と成長した。確かにシャッフルや積み込みに類する「技」はまだ存在しているとはいえ、より知識を蓄えたジャッジや観客によって減少していることは間違いない。
(註) Ted Knutsonが数年前に書いた記事
 原文では以下のURLへリンクが張られている。記事では様々なイカサマとそれに対処する方法が紹介されている。古い記事ではあるけど(今回の記事と同じく)内容は今も通用する。
 http://www.starcitygames.com/magic/fundamentals/8595_The_Magic_University_Cheaters_Always_Prosper.html

 しかしマジックからイカサマが消えたわけではない。まだまだいくらでもその辺に転がっている。幸い、もうデュアルランドであるかのようにダメージランドを使われる心配はなくなったが、まだ私たちにはライフを支払ったり支払わなかったりするフェッチランドが存在する(もっともこれはダメージランドに比べるとずっと摘発しやすいイカサマではあるが)(註)。
(註) デュアルランドであるかのようにダメージランドを使われる
 マナを生みだす際に1ダメージくらう土地を起動した際にダメージを記録するのを忘れたふりをするイカサマ。このあとのフェッチランドうんぬんについても同様。

 4つの束に分けるシャッフル、シャッフルしたように見せかけるフェイクシャッフル、こっそり追加でドローする、などのイカサマはプレイヤーである君たち自身の注意で防げる。何らかの物理的なイカサマが行われるとき、そこには必ず付け入る隙がある。必ず何らかの証拠が残るはずだ。

 ここで挙げたいのは、まったく違った次元のイカサマの話だ。それは基本的に決してバレることのないささやかなイカサマだ。

 これは私のマジックを始めた頃の話だ。テンペスト・ストロングホールドのリミテッドによるPTQが開催されていた。私のシールドデッキはなかなかの強さの赤白で、1ラウンド目は簡単に勝てた。このころ私はリミテッドで負ける気がしなかった。

 なぜならシールドで引くデッキがなぜか毎回のように「Sam Stoddardのためにあつらえたような」もので、さらに平均的なプレイヤーのレベルは非常に低かったからだ。なんというか、47枚デッキに15枚の土地を放り込むようなレベルだった。平均で6ラウンドかかるPTQもまったく苦にならなかった。ベスト8は当たり前だったので、優勝するのもそう遠くはないことだろうと思っていた。

 今回のPTQでの2ラウンド目も、1ゲーム目はあっさり勝てた。ただ2ゲーム目はそうはいかなかった。対戦相手がこっちの2対1交換やら場に見えてるカードによるトリックやらに全力で引っかかってくれているというのに、私は大量に土地を引き続けてしまい、戦況は思わしくなかった。

 私の残りライフは7点しかなく、相手の場には《流動石のやっかいもの/Flowstone Mauler》がいる。対戦相手がパンプすることさえ忘れなければ、一撃であの世行きだ。私はひたすらチャンプブロッカーを引き続ける羽目になり、クリーチャー除去をトップデッキすることに一縷の望みをかけた。かわりに私が引いたのは《低地の巨人/Lowland Giant》だった。

 なんてこった。

 対戦相手が攻撃してきて、私はチャンプブロックを行い、私の巨人は墓地に落ちた。そして対戦相手は……彼の《流動石のやっかいもの/Flowstone Mauler》を墓地に落とし、ターンを終了した。私は対戦相手が自身のクリーチャーを墓地に送ってしまうようなトリックを一切していない。ただその間違いを指摘しなかっただけだ。

 私の名前はSam Stoddard。そう、マジックでイカサマをしたことがある男だ。

 ああ、これは確かに《闇への追放/Dark Banishing》をこっそり墓地から引っこ抜いて唱えるほどのことではない。しかし結果は同じだ。私は勝ちを拾いに行った。自身の品位のみならず、ゲームの品位をも代償にして、だ。作為的な反則という奴だ。私は起こるべきでないことが起きたことを知りつつ、それを訂正することなく最大限に利を得ようとした。

 問題は私たちが愛するこのマジックというゲーム自体が、より深くのめりこむに従ってルールの穴をつくよう求めてくるということだ。

 私たちは眼前に用意された複雑に絡み合うシステムを凝視し、どうすればずる賢く手間を省けるかに熱中する。召喚に15マナかかるクリーチャーを見た瞬間に思うことは「さて、こいつを戦場に出すのには何マナかかるかな?」だ。《復讐蔦/Vengevine》を見たとき我々は「この4/3で速攻のクリーチャーが持ってる2つ目の能力は、たまに役立つかもな」とは考えない。かわりに「できるかぎり最速でこいつを墓地に落として戦場に出す方法はないものかね」と考える。

 私たちは有利さを得るためにありとあらゆる場所に目をこらす。私たちは腕を上げるにつれて、いつが呪文を唱えるべき最適な瞬間なのかを学び、ランダム性による被害を最小に抑えられる呪文と土地とクリーチャーの割合を学び、カードを引くことやチューターの重要性を学び、その他色々を学ぶ。

 どこかの時点で、私たちは正しく物事を行うためのキーワードを学ぶ。それは例えば「対応して~」や「あなたのアップキープ時に~」や、今は無き「ダメージ割り振りにスタックして~」などだ。

 しかしどこかの時点で、勝率を高めてくれる新たな知識という名の道筋が表通りのどこにも見つからなくなり始めてしまう。そのとき、つい薄暗い裏路地に足を踏み入れてしまったとしてもそれは驚くようなことじゃない。

 私は君たちを悪の道に引き込もうとしているわけではない。ただ私の言うことにも一理あると考えてもらえるとありがたい。そして私が寛容な人間だと言うことも。

 ただ引きたいカードをてっぺんに乗せただけで、デッキをカットしなかったとしたらそれは対戦相手の責任であり、これは積み込みではないはず……さて、これはイカサマのように見えるし、実際にイカサマだ。しかし、《変異種/Morphling》で5/5をブロックして致死ダメージを与えつつも自身は生き残るなんて芸当は、ダメージ割り振りがスタックに乗るということを理解してない人から見たらイカサマとしか思えないだろう(註)。
(註)《変異種/Morphling》で5/5をブロックして致死ダメージを与えつつも自身は生き残る
 現在のルールではダメージの割り振りをスタックに積まなくなったので、この芸当はできなくなっている。

 多くのプレイヤーにとって、どうやればトーナメントルールの網の目をかいくぐれるか、というのはそれ自体がゲームの一部なのだ。

 さて難しいのは、可能性という道のりのなかでどこまでが許容される範囲で、どこからイカサマが始まるのか、という判断だ。ひざの上に《Cadaverous Bloom / 死体の花》(訳註)を隠しておくのは、間違いなくイカサマだ。
(訳註) 《Cadaverous Bloom / 死体の花》
 原文では「Prosperous Bloom」となっていたがこれはデッキ名なのでおそらくタイプミスか何かかと思われる。さすがにひざにデッキを1つ丸ごと隠しておくイカサマはないはず。

 対戦相手のデッキからカードを1枚抜いて足元に落とし、テーブルの下まで蹴り飛ばした挙句にジャッジを呼び「このデッキ、カードが足りないと思うんだけど」というのは、ああ、もちろんイカサマだ。議論の余地すらない。

 デッキを均等にランダム化するためのシャッフル中や、簡易的なリフルシャッフル中や、相手にデッキを見せているときに自分のデッキのカードをそれとなく見ることは? それもイカサマだ。

 じゃあ例えば対戦相手が1ゲーム目のためにシャッフルしているときに、あわよくば何枚かカードが見えないかな、と注意を払っておくことは? ルール的には合法だ。ただ見るための距離や時間の長さによってはイカサマにもなりうる。

 Olivier Ruelはかなり玄人好みな方法でこれを行ったため、失格の裁定を受けている(註)。この裁定は重いようにも感じるが、それはさておき相手のデッキへ必要以上に興味の視線を向け過ぎているプレイヤーをたまに見かけることは事実だ。
(註) Olivier Ruelはかなり玄人好みな方法でこれを行った
 Olivier Ruelは2007年に開催されたGPブリスベンで、対戦相手のサングラスに相手の手札が写っているのを読みとろうと凝視していたところをヘッドジャッジにみとがめられ、失格の裁定を受けている。

 GPブリスベン・カバレージ(英語)
 http://www.wizards.com/Magic/Magazine/Events.aspx?x=mtgevent/gpbri07/blog2

 マジック・インビテーショナル2007参戦記 後編(日本語)
 http://mtg.takaratomy.co.jp/others/column/nakamura/20071130/index.html

 困ったことに、多くのプレイヤーはこれらのイカサマを信号無視程度にしかとらえておらず、デッキの積み込みと同じレベルの不名誉であることを認識していない。さらには、呪文や能力の解決についてミスをしたり勘違いをしたるする相手と対戦したことを自慢の種にする人たちすらいる。

 もし私たちが、今後もマジックを競技の場としてふさわしいものであって欲しいと望むのであれば、ゲーム内で実践される誠実さと公平さの向上を常に継続していくよう心がけないといけない。

 マジックというゲームにおいて何が許容され、何が許容されないのか、皆に見えるように線が引かれるべきで、かつそのことがコミュニティに浸透すべきだ。ときたま、そのことによって利益を失うことになるかもしれない。しかし多くの場合、それは決して手にしてはならない利益なのだ。

 君が公認試合の席に座ったとき、君はルールが適切に適用され場の完全性がたもたれるようベストを尽くすことを義務付けられる。例え、それが君にとって不都合なことで不利益を被ることになろうとも、だ。

 誰だって間違いを犯すだから君が意図せずしてミスをおかすことだってあるだろう。しかしもしそのミスに気づいたなら、君は気づいたそのときにジャッジを呼ばなくてはならない。そうしてもらうことでジャッジは試合を正しい状態へ戻したり、適切なペナルティを両プレイヤーへ科したりすることができる。

 プレイヤーとして成長するということには、自身の行動から生じる責任を受け入れるということが含まれる。そうする必要がないときもだ。対戦相手が勘違いから犯してしまったミスをそのまま見過ごしていれば勝つことができた試合が、私のマジックのキャリアの中でいくつあったか。多すぎてとても全てを教えてあげることはできない。

 もし君が100人のプレイヤーに「イカサマ師とプレイしたいか?」と尋ねれば、きっと100人が「ノー」と答えるだろう。もし君が100人のプレイヤーに「去年、イカサマをしたか?」と尋ねれば、きっと90人かそれ以上が「ノー」と答えるだろう。君自身も「ノー」と言うかもしれない。

 さてちょっとしたお願いがある。以下のリストを読んで、過去に該当する行為をおこなったことがあるかどうか見て欲しい。
その1:
 対戦相手が死んでないはずの彼のクリーチャーを墓地に置くのを止めなかった。

その2:
 カードを引いたとき誤って次のカードまで見てしまったがジャッジを呼ばなかった。

その3:
 1ゲーム目の最中にサイドボードのカードを引いたことに気づいたが、単にそれをプレイしないことでしのぐことにした。

その4:
 対戦相手の手元に見える君のライフの総数が君のメモした値よりも高いことに気づいたので、詳細を調査せずに君のメモの値をその高い値へ合わせた。

その5:
 対戦相手が示すライフの総数が君のメモした値よりも低いことに気づいたので、詳細を調査せずに君のメモの値をその低い値へ合わせた。

その6:
 ドラフトで隣へパックを回すとき、君がどの色に参戦している/していないを示すために、パックの内容を教えた。

その7:
 時計の残り時間が10秒しかなかったのでフェッチランドを起動したあとの土地の捜索とシャッフルに普段より数秒長く時間をかけた。

その8:
 対戦相手が《吠えたける鉱山/Howling Mine》の追加ドローを忘れているのに気づいたが指摘しなかった。

その9:
 対戦相手がフェッチランドをプレイし、起動してから《板金鎧の土百足/Plated Geopede》で攻撃してきたときに「3点で」というのを訂正しなかった。

その10:
 1ゲーム目の最中、君はデッキの土地が全て他のカードと少し異なる背面をしている(もしくは土地だけ特にスリーブがすりきれている)ことに気づいたが、特に何も報告せずに次のラウンド前に全て適切なものと交換した。

その11:
 カウンターが0個の《漸増爆弾/Ratchet Bomb》を起動したにも関わらず、自身の《永遠溢れの杯/Everflowing Chalice》を破壊し忘れていたことに起動後2ターン経ってから気がついたがジャッジを呼ばなかった。

その12:
 対戦相手がマナ織り込み/Mana Weave(註)を行っていたので、逆にそれを利用してこちらがシャッフルする際に相手の土地を全てデッキの下へ送ろうとした。
(註) マナ織り込み/Mana Weave
 土地とそれ以外のカードを別の山にして、土地をバランスよく混ぜ込んでいく山札の準備方法。大会でやると罰則がある。以下のリンク先に説明がある。

 Shuffling Dos & Don’ts(してもよいシャッフル、してはならないシャッフル)
 http://www.wizards.com/Magic/Magazine/Article.aspx?x=judge/article/20060707a

 もし君が一定以上の期間、トーナメントでマジックをプレイした経験があるのであれば、最低でも1つは該当するだろうし、おそらくは2つ以上該当したことだろう。それだけでなく、君はもしかしたらこれらの行為を(イカサマだと疑うことなく)合法だと思いつつ実行していたかもしれない。

 ルールを破っていることに気づいていた、もしくは、意図的に対戦相手がルールを破っているのを見過ごしていたのであれば、君はイカサマをしていたことになる。

 上記の例となった行為が問題となるのは、それらの多くが、ただの軽い間違いだった、と簡単に偽れるということだ。これらの多くはまるで被害者が存在しないかのように見える。そう、暗闇で見知らぬ相手を殴るようなものだ。

 さらに困ったことに、もし現場を押さえられたとしても無知からくるミスだとして逃げ切れる可能性がある。繰り返せばレッドカードも出るかもしれないが、そこまでいくことは極めてまれだ。不幸なことに、マジックというゲームのルール自体がこういった行為を推奨しているかのように解釈される危険性がある。

 ここで、有名なゲーム理論の概念の1つである「囚人のジレンマ」が思い起こされる。

 まず2人の罪人がいる。警察は彼らそれぞれに2つの選択肢を迫る。もう1人に全ての罪を着せるか、沈黙を守るか、のいずれかだ。もし2人とも「沈黙」を選べば、2人はほんの6ヶ月のあいだ牢屋行きになる。もし2人とも「裏切り」を選べば、2人とも5年のあいだ牢屋行きになる。もし片方が「裏切り」、もう片方が「沈黙」した場合、裏切り者は釈放されるが、沈黙を守った方は10年ものあいだ牢屋行きになる。

 さて、場合分けをしてみよう(我ながら恥知らずなことだが、以下、Wikiからの転用だ)。

          │   囚人B    囚人B
          │   沈 黙    裏切り
    ─────┼───────────────
    囚人A  │   A:6ヶ月   A:10年
    沈 黙  │   B:6ヶ月   B:釈放
          │
    囚人A  │   A:釈放    A:5年
    裏切り  │   B:10年    B:5年

 この話から何が導き出されるのかというと、この場合、常に「裏切る」のが正解となる、ということだ。裏切った場合、刑期は「0年」もしくは「5年」のどちらかしかない。沈黙を選んだ場合、刑期は「半年」もしくは「10年」のどちらかしかない。相手が裏切る可能性が五分五分だとした場合、期待値は「裏切った場合 = 2.5年」で「沈黙を守った場合 = 5.25年」となる。

 これが「囚人のジレンマ」だが、「マジックプレイヤーのジレンマ」となると違った話となってくる。墓地に行くべきでないクリーチャーが墓地に落ちてしまい、かつそれによって利益を得るのが君だったとする。君はそれに気づき、以下のジレンマに悩むこととなった。

               │     あなた          あなた
               │ ジャッジを呼ばない   ジャッジを呼ぶ
    ──────────┼─────────────────────────
     対戦相手が   │    罰則なし          警告
     気付かない   │   (利益を得る)     (利益を得ない)
               │
     対戦相手が  │      警告            警告
     気がついて   │  (利益を得ない)    (利益を得ない)
    ジャッジを呼ぶ  │

 君がモラルなど気にしない人間であった場合、そう簡単にはジャッジを呼ばないだろう。ジャッジが呼ばれない可能性は大きく、仮に呼ばれたとしても、単に頭が悪くて気がつかなかったという風に振舞えば逃げおおせるだろう。

 しかしこれは他の側面を無視している。例えば、君自身は自分がイカサマをしたことを知っているということや、社会的な側面だ。そしてそれは本当に無視できるようなことなのだろうか?

 君が店番をしていたとしよう。そこへ目の見えない男性が入ってきて、君に5ドルの品と20ドル紙幣を渡した。君は品物と3ドルのお釣りを男性へ手渡し、12ドルをポケットに入れた。彼は気づかないかもしれないし、あとで気づいたとしても君のしわざだと気づくのは難しいかもしれない。しかし、だからといってこれは許される行為なのだろうか?

 さらに違反が厳しい場合を考えてみよう。君は盤面ですでに勝っており、あとすべきことはアタックのみだ。そこで君はサイドボードにあるべきカードを引いてしまった。ここでは例として、サイドに4枚目を置いておくようなメインデッキにふさわしいカードではなく、明らかなサイドボードカードを引いたものとしよう。今回の場合分けは以下の通りだ。

               │     あなた          あなた
               │  ジャッジを呼ばない   ジャッジを呼ぶ
    ──────────┼─────────────────────────
     対戦相手が   │
     気付かない   │  ゲームに勝利する     ゲームロス
               │
     対戦相手が  │
     気がついて   │  おそらくDQ (失格)    ゲームロス
    ジャッジを呼ぶ  │

 さて少しばかりさっきより難しい状況になった。もし君がジャッジを呼んだ場合、ほぼ間違いなくこの試合はゲームロスとなるだろう。もし君が沈黙を選んだ場合、君はこのゲームに勝利する。

 自己申告せず、かつ、対戦相手か誰かに気づかれてジャッジを呼ばれた場合のペナルティはかなり重いが、それを知っていてもなお多くのプレイヤーは自らジャッジを呼んだりはしないだろう。彼らは残り全てのサイドボードをデッキに混ぜ込み、2ゲーム目のためにシャッフルし、何事もなかったかのように振舞うだろう。

 このような状況下ではジャッジを呼ばずに済ますことは簡単だからとか、不正を犯すリスクが低いからとか、そういった理由で誠実に振舞うかどうかを決めてはならない。

 重要なのは、君がそうしなければならないのはそれが正しいことであるからであり、そうしなかった場合にペナルティを受ける恐れがあるからではないということを理解しなくてはならない。

 マジックのコミュニティはフェアプレイの元に発展するものであり、不正を行う人間の数が少なければ少ないほど、全てのプレイヤーはよりゲームを楽しめることになる。

 イカサマが横行していた時代にマジックをプレイしていなかった? よろしい、ならば教えてあげよう。あれは本当にひどい時代だった。君は相手が何かしでかさないか目を皿のようにして見張り、対戦する全ての相手を疑ってかかる必要があり、相手を疑わずに済むのは彼が正直者だという確かな評判を持っていた場合のみだった。

 何が最悪だったかというと、勝率の高いプレイヤーたちは大抵イカサマをしていた。大小に関わらず、大会の雰囲気は今よりもずっと暗いものだった。負けたとき、君の頭にまず浮かぶのは、イカサマされたに違いない、という疑念であり、正々堂々と戦って負けたなどとは考えられなかった。私は自分の余暇をそんなことのために使いたいとは思わないし、君も同じ考えだと願っている。

 過去の私の誤った行いに立ち返るに、してしまったことに対してはいくつでも言い訳を思いつける。私はまだ16歳だったし、対戦相手に相手がカードをどう扱うべきか教える義務は無かったし、彼のプレイングがひどいことを指摘する義務もなかったし、私は勝つにふさわしいプレイヤーだった。当時の一般的なプレイヤーの考え方は「対戦相手のためにゲームをしてるわけじゃない。相手がミスをしたら、それは奴の責任だ」だった。

 もっとも私に彼らを責めることはできない。私自身、同じことをしていたとき、私はそれが正しくないことを知っていた。私はただ勝ちたかった。

 それを受け入れなければならない。

 問題となった試合で3ゲーム目が終わったとき、結局私は負けたがそれはどうでもいい。もし勝っていたら、それは不正で勝ったということだ。そこに価値はない。勝利はマジックにおいて重要なものだ。ただし、それが公正に得られたものである場合のみだ。誠実さを欠いた勝利は、敗北よりずっと悪いものだ。

 私の中では、私個人よりもマジックというゲームのほうがより大きい比重を占めている。私はルールとフェアプレーの高潔な精神に敬意を表している。

 これらは1ターンよりも、1ゲームよりも、1つのトーナメントよりも重要なものだ。だからこそ勝利をつかんだときにそれを心から喜ぶことができる。自身がそれにふさわしいと信じられるからだ。

 競技マジックが今後も存続し私たちを試し続けるなら、私たちはゲームのルールと法をもっとも重要な基準として心に抱き続ける必要がある。そうしなければ私たちは「マジックザギャザリング "誰がもっと上手くイカサマできるか"選手権」を競い続けることになるだけだ。

 私たちはコミュニティのメンバーとして、愛するマジックとゲームがよりフェアで公平に行われるように後押ししなければならない。

 そのためには、イカサマという世界が皆が思っているよりもより広い世界をさすのだということを啓蒙し広める必要がある。なぜ対戦相手がよそを向いている隙に追加でカードを引き増すことが悪いことなのかをいちいち説明しなくてもよい世界になるよう、私は願っている。

 だが、これが意図的な失敗や小さなイカサマとなると、同じようなアプローチがとれるかどうか自信がない。とにかくグレーゾーンというものはそこかしこにあり、「イカサマ」に対して「余裕のないプレイ」や「あまりにも堂々としたブラフ」は、特に新規プレイヤーたちからすると、表面上非常に似通ってみる部分がある。

 だからこそ全てのプレイヤー、そして特に熟練者として高い評価を得ているプレイヤーに、公正であることでも高い評価をもっていることが重要なのだ。

 もし君が行きつけの店の「よいプレイヤー」であり、同時に自身の行為を適切に報告する習慣を持っているのであれば、君を指針と見るプレイヤーたちも同じようにふるまうことを覚えるだろう。

 自身がそうであったからこそ良く分かることだが、正直にプレイし競技に対しフェアであろうとすることはより良いプレイヤーになるための非常に大きな足掛かりとなる。

 そうすることで、私はより緊張感を持ち厳密にプレイするようになり、そのようにプレイできなかったときの自身のプレイミスを素直に認められるになった。一度でもそのように振舞えるようになれば、さらにそれを向上させていくことも出来るはずだ。

 長い時間をかけて私は、より勝ちたいと願うならば誠実な努力を重ねるべきであり、物事を少しばかりごまかすことではそこには到達できない、ということを学んだ。

 全てのグレーゾーンな行為は、所詮自分より弱いプレイヤーにしか通用しない技に過ぎない。私はそれらに背を向けることで、どのような対戦相手にも通用する本当の技を磨かざるをえないようになれたのだ。
 先日訳したシャッフル関連の記事からリンクの張られていた「7回のリフルシャッフルはデッキを無作為化できる」という話に関する記事。そこそこ長いけど結論はひどくシンプルな話で、はっきり言ってしまえば最後の段落がすべて。ちなみに以下が前回に訳した記事。

  僕のシャッフルはデッキを十分に無作為化できてるんだろうか?
  http://regiant.diarynote.jp/201201202104281778/

【翻訳】シャッフルとイカサマと無作為化について/Shuffles, Cheating, and Randomization【SCG】
Michael A. Rutter
2001年06月06日
元記事:http://www.starcitygames.com/php/news/print.php?Article=1499

 僕たちがマジックの大会へ向かうとき、そこではみんな同じゲームを同じルールで遊んでる(と思いたい)。同じでなければならないと決められていると言えばそうだけど、それでもマジックの大会では多くのユニークなプレイヤーたちがいる。

 段階的に見ていくと、まずゲームそれ自体として、どんなデッキをプレイするかで自分たちの個性が発揮される。デッキの選択が何によって左右されるのかというと、僕らがメタゲームを読み解いた結果であったり、どんなデッキタイプが好きかということであったり、または(僕みたいな貧乏な院生にとっては)そのとき手元にある強いレアが何なのかということだったりする。

 しかし会場にいる他のプレイヤーと自分を見分けるのには他にもたくさんの方法がある。どんなスリーブを使っているのか、どうやって残りライフの記録をつけているのか、どんなお守りを持ち歩いているのか、どんなカードの広げ方をするのか、どんな服装をしているのか、などなど。

 ただし1つだけ他人との差別化を図ってはいけないものがある。シャッフルのテクニックだ。

 1つ例を挙げてみよう。先週末のアメリカ選手権のトップ8で起こったことだ。Casey McCarrelはカードを意図的に操作したため準決勝で失格となった(詳細はここ(註)を参照)。話によるとMcCarrelが対戦相手であるBrian Hegstadへ返した山札は上から11枚が全て呪文になっていたらしい。

 これは明らかにBrianにとって不利な状態だ。少なくとも1回はマリガンをすることになるだろう。僕にはCasey McCarrelがどうやってそれを行ったのか皆目検討もつかないし、これを書いている今も、その手段について書かれた記事などは一切見かけていない。何にせよ、McCarrelは大会で失格の裁定を受けた。
(註) ここを参照
 リンク先は以下のURL。記事にあるとおり、Casey McCarrelの失格の裁定について。
 http://www.wizards.com/sideboard/article.asp?x=USNAT01/783mccarreldq

 2つ目のシャッフルに関連した例としては、日曜日にデトロイトで行われたアポカリプスのプレリリースでのことだ。あれは2ラウンド目のことだった。僕は緑白青のトリーヴァカラーのデッキで、それは《復活させるものトリーヴァ/Treva, the Renewer》とタッパー3枚と《時間の泉/Temporal Spring》2枚とそこそこの枚数のフライヤーが入ったデッキだった。

 僕の対戦相手は非常に話好きなプレイヤーだった。しかし残念ながら彼が話しかけていた相手は僕じゃなかった。彼は話を聞いてくれる相手なら誰でも良かったらしく、そのときは隣の席のプレイヤーと話していた。

 もしかしたらその相手は彼の友達だったのかもしれないし、僕の対戦相手が32人の参加者があったプレーンシフトのプレリリースでとても強いコントロールデッキが組めて優勝できたという話もすでに聞いたことがあったかもしれない。それとも聞いたけど忘れてたのかもしれない。どっちでもいいことだけど、彼が別のプレリリースで優勝したことがあるってのはもしかしたら今この話を聞いてる君たちにも予想がついたかもね。

 最初のゲームで僕はトリーヴァを4回も唱えたのに負けてしまった。なぜかというと最初の3回に唱えたトリーヴァは全て《時間の泉/Temporal Spring》でライブラリの上へ戻されてしまったからだ。

 2ゲーム目は、対戦相手がペインランドのマナを使って次々と《煽動するものリース/Rith, the Awakener》と《魂売り/Spiritmonger》を召喚してきたせいで負けてしまった。すぐにカードを片付ける羽目になったよ。

 彼の引いた6枚のレアのうち3枚がペインランドと《煽動するものリース/Rith, the Awakener》と《魂売り/Spiritmonger》だったという点と3つのアポカリプスのブースターから3枚の《時間の泉/Temporal Spring》(うち1枚はフォイル)を引いたという点にはとりあえず目をつむろう。

 ここで話したいのは彼のシャッフルがユニークだったということだ。

 対戦相手の彼が隣の席のプレイヤーとしゃべっているあいだ、僕は自分のデッキをシャッフルしていて彼のシャッフルを見てはいなかった。しかし彼は僕にカットを頼むためにデッキを手渡すとき、まず自分で1回カットを入れてから手渡してきたんだ。

 そのとき僕はそれがちょっとだけ気になった。それでも単に1回のカットをおこなっただけで彼にデッキを返したんだ。1ゲームと2ゲームのあいだ、僕は彼のシャッフルを観察していた。それは以下のような手順だった。

その1
 カードを7つの山に分けるパイルシャッフルを行い、それを手元に引き寄せてテーブルの端から落とし、テーブルの下で1つにまとめた。

その2
 何度かリフルシャッフルをおこなった。

その3
 非常に素早いオーバーハンドシャッフルを数回おこなった。カードは90度かたむけていたのでカードの短いほうの辺が手のひらに当たる形だった。

その4
 デッキをカットしてから僕に手渡した。

 もし彼がデッキを積み込んでいたとすれば、彼がおこなった1回のカットはデッキの上にあったカードを中ほどに持ってきたことになる。それはつまり、もし僕が1回だけカットをすることでそれらのカードがまた山札の上にくるようにしてあるわけだ。

 わざわざ言う必要はないかもしれないけど、僕はただカットするかわりにその対戦相手のデッキをシャッフルした。ちなみにこの2年間で対戦相手のデッキをカットせずにシャッフルしたのはこれが初めてのことだ。

 その対戦相手のシャッフルに何かあると感じたのは僕だけじゃなかった。

 同じ大会で、僕の妻であるナタリーはそのプレイヤーの隣に座る機会があった。そのとき、そのプレイヤーの対戦相手は相手のシャッフルについてジャッジの判断を仰いだ。シャッフルだけではなく、カードの方向についてもだ(土地だけ違う向きに入れたりするあれだ)。

 そのマッチのあとでナタリーが小耳に挟んだ会話によると、プレイヤーは対戦相手のデッキを毎回シャッフルすべきだということだった。常にシャッフルするようにしていれば「さっきの対戦のときは相手のデッキをシャッフルしてなかったじゃないか。俺がイカサマしてるとでも?」と対戦相手に言われることもないからだ。

 つまり相手のデッキをわざわざシャッフルしたということは僕は相手がイカサマ師だと糾弾しているのだろうか?その通りだ(とはいえ証拠はない)。さらに言うと少なくとももう1人はそう感じたプレイヤーがいたわけだ。

 しかし僕が願っているようにプレリリースがくつろいだ雰囲気の中で楽しく行われ、かつ80ドル以上の賞品がかかっているとなるとプレイヤーはイカサマをする。

 この話から学ぶべき教訓は以下だ。

 ユニークで普通じゃないシャッフルによって注目を集めるようなことはすべきじゃない。もし君が変わった手順でシャッフルをしており、他のプレイヤーからどうしてそんなシャッフルをしているのかと尋ねられるようなら、変えた方がいい。それは君自身を救うことになるし、同様に対戦相手にとってもありがたいことだ。

 もし君が変わったシャッフルを続けるようなら他のプレイヤーたちは君がイカサマをしているのかもしれないと疑うだろう。そしてどうしてそんなシャッフルをするのかとずっと聞かれることになる。

 ネットにはシャッフルによってデッキを積み込む手段を紹介しているサイトがたくさんある。以下はその1つだ。

  How to False Shuffle
  http://www.ehow.com/eHow/eHow/0,1053,4402,00.html

 これで君も積み込みのテクニックを知ったわけだ。さてそこで次の質問だ。カードを確実にランダムにできるもっともよいスタンダードなシャッフル方法はどのようなものか?

 マジックでよく用いられているシャッフルは主に3つある。リフルシャッフル、オーバーハンドシャッフル、そしてパイルシャッフルだ。

 リフルとオーバーハンドは他のカードゲームでよく用いられているシャッフル方法だ。リフルシャッフルはここから(註)、オーバーハンドシャッフルはここから(註)確認できる(それ以外にも特定のカードを好きな場所に置く方法も色々とね)。パイルシャッフルはデッキが2つかそれ以上の山札に分けてからそれらを1つに積み上げるタイプのシャッフルだ。
(註) リフルシャッフル
 原文には以下のURLが紹介されている。
 http://www.ehow.com/eHow/eHow/0,1053,4353,00.html

(註) オーバーハンドシャッフル
 原文には以下のURLが紹介されているけど、すでにリンク切れ。
 http://ps.superb.net/cardtric/sleights/overhand.htm

 ある論文によると52枚のカードの束をリフルシャッフルする際の理想的な回数は7回とのことだ。Brad Mannによって書かれたこの論文のコピーはここで読める(註)。ただあらかじめ言っておくと、これは非常にテクニカルな確率論の論文であり読みやすいとはとても言えない。
(註) 記事のコピーはここで読める
 リンク先は以下のPDFファイル。ハーバード大学の数学科の人が書いた論文らしい。本物の論文なので数学の知識がないと読めなさそう。
 http://www.dartmouth.edu/~chance/teaching_aids/books_articles/Mann.pdf

 この7回のルールは60枚デッキを使うマジックにも適用できる。

 先に言っておくとここであげている確率論のモデルは「完璧な」リフルシャッフルを想定していない。つまり、デッキをちょうど2つに分けて1枚ずつ重なり合うようなリフルシャッフルではなく、逆にデッキが必ず不均等な2つの束に分けられた上でちょうど1枚ずつ互い違いに「ならない」ようなシャッフルであることを仮定している。

 またこの論文では何回のシャッフルが適切なのかについて異なる意見も掲載している。行為者が何をもって無作為化がなされたととらえるか(これについてはまた後述する)によって回数が11回や12回などの場合の例も挙げられている。

 ちなみにもし君が5-color(註)のデッキをリフルシャッフルするなら、デッキを無作為化する理想的なシャッフル回数は9回だ。もし君が250枚のデッキをリフルシャッフルできるならの話だけどね。
(註) 5-color
 5色それぞれのカードが一定枚数入れなければいけない特殊な非公式フォーマット。デッキ枚数は250枚。MTG Wikiでは「5-Color Magic」という項目名で紹介されている。

 上であげたリンクの1つではオーバーハンドシャッフルを悪用する方法が何通りか紹介されている。またリフルシャッフルについても同様に悪用しようと思えばできる。興味深いリンク(註)がある。ここでは「完璧な」リフルシャッフルについて述べている。

 君がこのレベルにまで「完璧に」シャッフルできるとすれば、Out-Shuffle(註)をすれば山札の一番上のカードはそのまま一番上にあり続けるし、In-Shuffleをすることで一番上のカードは上から2枚目へ移動する。つまりリンク先の情報を読み解ければ適切な回数のシャッフルを行うことで山札の一番上のカードを好きな位置に移動できるということだ。

(註) 興味深いリンク
 原文では以下のURLが紹介されている。
 http://www.math.hmc.edu/funfacts/ffiles/20001.1-6.shtml

(註) Out-Shuffle/In-Shuffle
 文中にあるとおり、シャッフルし終えたときに一番上のカードがそのまま上にくるような互い違い順にするのがOut-Shuffle。両手に半分ずつ持ち替えたとき、元々下側にあった束を先に下へ落とし始めるということ。
 In-Shuffleはその逆で、元々上側にあった束を先に下へ落とし始めるシャッフル。一番上にあったカードはシャッフル後には上から2枚目の位置に来ることになる。

 ここまでの情報を踏まえると、数学的観点からデッキを適切にシャッフルするのに必要な回数は7回以上の「完璧でない」リフルシャッフルということになる。またイカサマでないことを視覚的に分かりやすくするために、上半分と下半分が混ざるようなオーバーハンドシャッフルも何度か加えておくべきだろう。

 つまり、対戦相手がカットのためにデッキを手渡してきたときには、7回のリフルシャッフルをしてから1回のオーバーハンドシャッフルを真ん中あたりからやっておけば、相手がどんな積み込みを仕込んでいたとしてもそれを無作為化することができる。なお覚えておいて欲しいのは、対戦相手がカットしたあとでも1回までなら持ち主側もカットすることがDCIのフロアルールでは認められていることだ。

 自身のデッキについて気をつけて欲しいこととしては、デッキの土地の無作為化についてだ。特に1ゲーム終わったあとの土地が6枚以上固まっているような状態からシャッフルするときだ。

 繰り返しになるが、7回のリフルシャッフルと1回のオーバーハンドシャッフルをすれば目安としては十分だ。しかし個人的にはこれだけだとイマイチな気がしてしまう。そこで最初にパイルシャッフルを行うんだ。こうすれば土地がきちんとばらけるし、いわゆるマナ織り込み/Mana Weaving(註)をしたことにもならない。
(註) マナ織り込み/Mana Weaving
 全ての土地を抜き出してから、残った土地以外だけのデッキの隙間に2枚から3枚ごとに土地を挿入する方法。公式試合では反則をとられる。

 パイルシャッフルをしすぎないように注意すること。繰り返し続けているとまるで土地を元の並びに直そうとしているかのように見えるからね(数学的には適切な回数のパイルシャッフルを行うことでそれが可能となる)。

 それとシャッフルは常にカードをテーブルの上に伏せた状態で行うこと。またあまり遅くシャッフルすることもダメだが、同時にあまりに素早くシャッフルし過ぎることも避けたほうがいい。相手からはまるで何かを隠そうしているかのように見えるかもしれないからね。

 最後に。

 DCIのガイドラインによると「充分な無作為化がなされていない場合」はペナルティが課される(註)とある。しかし「充分な無作為化がなされていない場合」とはどのような場合だろう?
(註) ガイドライン
 今では「イベント規定」と呼ばれている大会ルール。以下のリンク先に日本語版がある。シャッフルと無作為化については「3. イベント規定」の「3.9 カードの切り直し」を参照のこと。
 http://mjmj.info/data/JPN_MTR_20120124.html

 Brad Mannの論文によると、デッキを無作為化するということは、各カードの全ての並びが等しい確率で生じるということらしい。これは確率で言うと1/n!であり、この場合の「n」はデッキのカード枚数を指す。

 「!」は数学でいう階乗で、「n!」とは「n! = n(n-1)(n-2)...(2)(1)」ということになる。通常の60枚デッキであれば組み合わせは60!通りあることになり、これは 8,320,987,112,741,390,144,276,341,183,223,364,380,754,172,606,361,245,952,449,277,696,409,600,000,000,000,000 通りの組み合わせと順序があり得るということになる。

 「充分な無作為化がなされている」と言ったときには、デッキは上記の組み合わせのどれもが等しい確率で生じ得なければならない。

 Casey McCarrelが手渡したデッキは上から11枚が全て呪文だった。無作為化の結果、そうなる確率は0.12%となる(対戦相手のBrian Hegstadが使っていたデッキの土地枚数は25枚)。言い換えると1000回に1.2回しか起きえないということだ。

 2日目に156人のプレイヤーが6マッチをおこなったとしよう。そして各マッチでは平均で2.5ゲーム行われたとすると、そこに生じるシャッフル回数は最低でも2340回となる(マリガンは考慮しない場合だ)。

 よってアメリカ選手権の2日目に、シャッフルしたデッキの山札の上から11枚が全て呪文となってしまうことは2.8回生じ得るということだ。(もちろん全員が25枚の土地が入ったデッキの場合だ。もしより少ない枚数の土地しか入っていないデッキが多ければ、その分だけこの条件を満たす可能性は高くなる)

 つまり「充分な無作為化がなされていない場合」というのは特定の並び方が生じやすいシャッフルということだ。初手の7枚に土地がないとかね。これが意図的に行われたときに気づく方法は2通りある。

 1つ目として、対戦相手が怪しいシャッフルテクニックを用いていないか観察し、デッキが対戦相手に有利な並びになっていないかをチェックすることだ。相手が不自然なシャッフルをしていないか見張ることで、有利な操作が行われていないかをチェックする理由を得ることが出来る。

 イカサマを見つける手段の2つ目は、サンプルがとれるだけのシャッフル回数をチェックし、そこから特定の並び順の結果が適切に無作為化されたときの平均より多かったり少なかったりしないかを確認することだ。

 例えば、24枚の土地が入った60枚デッキにおいて、初手の7枚に土地がない確率は2.16%だ。もし君が1日に12マッチの対戦を行い、それぞれのマッチで平均して2.5試合を戦ったとすると、30回のシャッフルが行われることとなり土地なしの初手が生じる可能性は0.658回となる。1回生じるか生じないかだ。

 さてこの事実は、もし君が土地なしの手札を引いたら対戦相手にデッキを積みこまれたことを意味するのか?

 いや、そうはならない。なぜなら30回のシャッフルで土地が1枚しかこない初手を1回でも得る可能性だけでも34.3%もあるからだ。

 しかし、もし君が同じ対戦相手と30回戦って、そのあいだに3回かそれ以上の回数の土地がない初手を得るようなことがあれば、その相手がシャッフルした際には2.16%よりも明らかに高い確率で土地のない初手が発生していると言える統計学的な証拠となる。(これは土地が24枚のデッキの話だ。デッキに入っている土地の枚数がこれより少なければ、対戦相手を疑う際の基準とする土地なしの初手が来る確率はその分高くなる)

 ここからが結論だ。

 たった1回のシャッフル結果からは対戦相手が積み込みをしているかどうかを判断することはできない。その対戦相手の全てのシャッフルから無作為に選んだサンプルを一定数集めた上でなければ、何らかの統計的なテストを行うことはできないからだ。

 たった1人のサンプルから得たデータに基づく全人口に関する調査結果を使って法廷で証言できるプロの統計学者は1人としていないだろう。

 これをマジックに当てはめて考えると、たった1回のシャッフル結果から相手のデッキが「充分な無作為化がなされていない」とは言えないということだ。一定数以上のシャッフルを見なければ判断することはできない。

 僕は決してCasey McCarrelを擁護したいわけじゃない。だけどもし冒頭に紹介した1件が法廷に持ち込まれて、ペナルティを与えた根拠がわずか1回のシャッフル結果だけで他に何の証拠もないとしたら、DCIは間違いなく負けるだろうね。

 そしてそれは誰か1人じゃなくて、みんなにとって悲しいことだと思う。
 以下はこの記事につけられていたコメントの訳。参考までに付記しておく。

コメント:GuildMaster Arrataz 2011年09月08日 01:13am

 君が引用している論文には君が言うようなことは書いてないよ。論文には、発生しうる全ての組み合わせを生じさせるために必要なシャッフル回数が最小で7回だと言っているだけだ。

 これと「7回のシャッフルを行えばデッキが適切に無作為化される」ということとはまったく別の問題だ。(君が言っているのは52!の組み合わせが全て等しく生じ得るってことだからね)
 公式に訳があがったので、私訳を削除。

 公式サイト (日本語):変身の変身
 http://mtg-jp.com/reading/translated/ld/002786/

 公式サイト (英語):Transformation Transformed
 http://www.wizards.com/Magic/Magazine/Article.aspx?x=mtg/daily/ld/177

【翻訳】僕のシャッフルはデッキを十分に無作為化できてるんだろうか?/Am I Shuffling Enough - Or Correctly, For That Matter?【SCG】
【翻訳】僕のシャッフルはデッキを十分に無作為化できてるんだろうか?/Am I Shuffling Enough - Or Correctly, For That Matter?【SCG】
 初めに。

 文中に出てくる数学の公式はテキストで表現するのが難しく原文でも画像になっている。2つの公式はそれぞれ右図のとおり(ダイアリーノートは文中に画像を挿入できないのでとりあえずここに置いた)。

 あとこの記事では変数の1つに L の小文字が使われている。そのため、記事をそのまま訳すと「l枚」となる箇所がある。このままだと「1枚」と見間違える危険があるので、文中では L と大文字の表記にした。


【翻訳】僕のシャッフルはデッキを十分に無作為化できてるんだろうか?/Am I Shuffling Enough - Or Correctly, For That Matter?【SCG】

Michael A. Rutter
2002年11月08日
元記事:http://www.starcitygames.com/magic/misc/4004_Stats_101_Am_I_Shuffling_Enough_Or_Correctly_For_That_Matter.html

 僕の妻であるナタリーは来る大会のために新しいデッキを作ったばかりで、ちょっとプレイテストをしたいとのことだった。そこで僕は大急ぎで青緑マッドネスデッキを作った。土地は24枚だ。

 まず36枚の土地でないカードを引っ張り出して、次にデッキに使う24枚の土地を探してきた。そのとき、自分がどれほどきちんとシャッフルできているのか、実験してみることにした。

 24枚の土地だけ上下を逆にしてみた。どこに土地があるか一目で分かるようにするためだ。それからあらためて、僕がいつもやっているようにシャッフルしてみることにした。

 シャッフルを始めるに当たって、まず全ての土地をデッキの上にまとめて乗せたってのは教えておくべきかと思われる。次に1枚ずつ分配する感じで4つの山を作った(一般的にパイル・シャッフル/Pile Shuffle(註)と呼ばれる形だ)。

 それから最初の2つの山を手にとってリフル・シャッフル/Riffle Shuffle(註)を1回、オーバーハンド・シャッフル/Overhand Shuffle(註)を2回、さらにもう1回のリフル・シャッフル/Riffle Shuffleをやった。もう片方の2つの山にも同じ手順でシャッフルをした。

 それらの2つの束を手にとって、何回かリフル・シャッフル/Riffle Shuffleをして、さらにオーバーハンド・シャッフル/Overhand Shuffleを数回、最後にもう何度かのリフル・シャッフル/Riffle Shuffleをした。

 そして上下を変えないように気をつけつつ、カードを広げてみた。
(註) パイル・シャッフル/Pile Shuffle
 複数人数に手札を配るときのように、山札の上から1枚ずつを複数の山に均等に分けていくシャッフルの仕方。隣り合ったカードが必ずバラバラになる特徴がある。

(註) リフル・シャッフル/Riffle Shuffle
 山札を大まかに2つに分けて両手に持ち、互い違いに差し込まれるような形にするシャッフル。弓なりにそらしたそれぞれの山札にあてがった両手の親指を少しずつずらしてシャッフルし、上手くいくと非常に綺麗な見た目と音になる。

(註) オーバーハンド・シャッフル/Overhand Shuffle
 山札の上からカードの束の一部を抜き取り、下に差し込むシャッフル。日本で一般的に用いられるヒンズー・シャッフルとは微妙に異なる。シャッフルし終えたときに、動かしていた手に山札が残るのがヒンズー・シャッフル。動かしていなかった方の手に山札が残るのがオーバーハンド・シャッフル。

 それを見てナタリーが最初に言ったことは「土地の固まってるところが多すぎるわね」だった。

 1列になった山札の中に見える土地の偏りを見て僕はその言葉に同意した。土地が3枚連続する箇所がいくつか、少なくはない土地が2枚連続する箇所、そしていくつかの長い土地なしの部分。僕はさらにシャッフルを何度か繰り返してからプレイテストを始めた。気づいた端から土地の上下をそろえつつだ。

 そこでふと気づいた。

 統計は僕の得意分野だ。適度にランダム化されたデッキにどれほど土地の偏りが生じる得るのかを調べてみてもいいかもしれない。そう思った。そんなわけで調べてみた。


 さて僕の分析結果を述べたいと思う。それと、この分析結果をどう用いれば君がシャッフル技術とデッキの無作為化にどれほど長けているのかを測ることが出来るのかも伝えたいと思う。

 初手の7枚に適切な枚数の土地が来る可能性について言及した記事は今までにも多く書かれてきた。それらの記事の確率分布で用いられている計算式は超幾何分布と呼ばれるものだ。

 これは、古典的な問いである「3つの黒いビー玉と5つの白いビー玉が入っている壺がある。一度取り出したビー玉は戻さないとして、2つの白いビー玉を引く可能性は?」に答えるための計算式だ。

 計算式の裏にある公式に興味がない人は次の段落まで進んでいい。もう少し付き合ってもいいという人のために書いておくと超幾何分布の公式は以下のとおりだ。(註)
(註) 記事冒頭の (図1) を参照のこと

 P(x)というのは、L枚の土地が入った c枚 のデッキから x枚 の土地を引く可能性を表している。引いたカードの枚数は n だ(普通の初手であれば、n=7 となる)。カードを引いたあとにそれをデッキに戻したりはしないので、この場合、上記の公式には以下の注釈を付け加える必要がある。(註)
(註) 記事冒頭の (図2) を参照のこと

 もしデッキ内に複数の種類の土地を入れている場合、それぞれごとに x を求めればいい。この公式を用いれば、初手の n枚 の中に x枚 の土地を引く可能性を調べることができる。

 今回の分析で僕たちが知りたいのは2枚カードを引いたときに両方ともが土地である可能性だ。n=2、L=24、そしてc=60を代入し、x が2に等しいときの確率を計算すると、15.59%となる。

 つまり答えとしては、上記の条件に当てはまるデッキの上から2枚のカードを引くと(それが十分に無作為化されていた場合)15.59%の確率でそれらは2枚とも土地である、ということだ。

 なるほど。

 しかし本当の問題は「十分にシャッフルされたデッキを目の前に1列に広げたとき、2枚連続で土地になっている箇所がどれほどあるか?」だ。隣り合った2枚のカードの組み合わせは n-1個なので、デッキを60枚と仮定するとデッキには59対のそれらが存在していることになる。

 2枚連続の土地が生じる可能性(0.1559)にこの生じ得るペアの個数(59)をかけあわせると、十分に無作為化された60枚デッキに生じる2枚連続で土地の箇所は 9.2個 となる(土地が24枚と仮定した場合)。(註)
(註) 2枚連続で土地の箇所は 9.2個 となる
 念のために補足しておくと、土地が3枚連続で並んでいた場合の「2枚連続で土地の箇所」は「2個」となる。「1個」じゃない。

 この分析では、3枚連続で土地が固まっている箇所は2枚連続が2つ続いている箇所であり、4枚連続で土地が固まっている箇所は2枚連続が3つ続いている箇所であり、以下省略だ。

 例を挙げてみよう。まずデッキを元の状態に戻す。つまり24枚の土地を上に置いた状態だ。それから最初に述べた方法でシャッフルをする。これは僕にとって実際の大会開始直前のデッキの状態を模したものとなる。

 さてデッキを用意したあと、僕は土地の計算が正しかったかどうか念のために確認してみた。以下が60枚のカードの順番を表したものだ(Lは土地/land、Nは土地以外/Non-land)。

 LNNNNLNLNLNNLNNLLNNLNNLNNNLLLLNNNLLNLLLNLNNNNNNNLNNLNLNNLLNN

 今回のシャッフルでは2枚土地が隣り合っている箇所が8個あった。これは僕が予想していた9.2になかなか近い数字だ。

 さらに僕は山札の上から(大体13ターンが経過したゲームの直後を仮定して)20枚のカードを手に取り、土地を別の束にしてから(ゲーム直後は大体土地だけ別になっているため)あらためて僕が普段やっているシャッフルをしてみた。

 これによって生じた2枚土地が隣り合っている箇所は9個あった。十分に無作為化されたデッキに生じるであろうと僕が予想した数字だ。

 この分析によって何が分かるのか?

 まず何より最初に言っておくべきこととして、持ち時間の3分をフルに使って狂ったようにシャッフルしたとしても土地は固まるということだ。

 念には念を入れて、僕はコンピュータに上記のデッキを100,000回シャッフルさせてみた。その結果、2枚連続で土地が重なる箇所の平均値は9.18個だった。計算から予想されたとおりだ。

 また僕の例では3枚連続で土地が固まっていた箇所は3個、4枚連続は1箇所あった。そして前述したものと似たような計算をおこなった結果、平均的に生じ得る土地が3枚連続する箇所は3個、4枚連続する箇所は1箇所だった。

 この結果を知っていると「シャッフルが足りなかったから/運が悪かったから、3枚連続で土地を引いちゃって、それで試合に負けちゃったよ」という言い訳はさらに言い訳がましいものに聞こえてくる。

 ゲーム中、どこかで君は3枚連続で土地を引くことになる。なぜならもし君が十分にデッキを無作為化できていたとすれば、最低でも1箇所は土地が3枚固まっている場所があるからだ。2箇所以上あるかもしれない。

 もちろんこの確率はデッキに含まれる土地の枚数によって変化する。含まれる土地の枚数ごとの計算結果を構築の60枚デッキとリミテッドの40枚デッキそれぞれごとに表にしておいた。この記事の最後のほうに載せてある。

 もし君が平均的なプレイヤーよりも土地の偏りがひどいと思うならば、ここまで述べてきた内容から君のシャッフルが十分だったのかどうかを確認することができる。

 まず24枚の土地だけ表向きにした60枚のデッキを用意する。次に、意識せずに君が普段やっているとおりのシャッフルを行う。最後にデッキを1列に並べて土地が隣り合っている箇所の個数を上で行った例のように数えてみる。

 土地を大きく偏らせてからシャッフルするのがいいだろう。なぜなら24枚の束になってしまった土地を綺麗にほぐせるようになれば、君のシャッフルの技術が満足のいくレベルに達したことが分かるからだ。

 この手順を4回か5回ほど繰り返し、それぞれのシャッフル後の土地の隣り合っている箇所の平均値を求めればいい。

 もし君の平均値が11より高いなら、シャッフルの手順を変えることを考えたほうがいい。

 100,000回のシミュレーションから得られた情報に基づいたもう1つの計算結果として、土地が隣り合っている箇所の数の幅がある。僕のシミュレーションを元に計算したところ、土地が隣り合う箇所の数が6個から12個の場合が全体の95%を占めていた(後述の表を参照のこと)。

 もし君が平均して12より高い数値を得るようなら、本気でシャッフル手段の改善を考えたほうがいい。

 しかし反対側に偏っている場合は?

 マナ織り込み/Mana Weavingと呼ばれる手法がある。これは全ての土地を抜き出してから、土地以外だけのデッキの隙間に2枚から3枚ごとに土地を挿入する方法だ。公式試合では反則をとられる(そしてカジュアルでは嫌な顔をされる)。

 これまでの計算結果から以下が導き出される。

 偏らないようにデッキにあとから土地を足すことは「無作為化よりも安定した」状態となり、プレイヤーに大きなアドバンテージを与える。

 しかしマナ織り込み/Mana Weavingを行ったデッキであっても適切にシャッフルされて無作為化された場合(これには7回のリフル・シャッフルを行えばいいわけだが、それはまた別の記事(註)で解説しよう)、土地が隣り合っている箇所の数は平均して9個となる。
(註) 別の記事
 この「7回のリフル・シャッフル」に関する記事は以下のリンク先参照のこと
 http://regiant.diarynote.jp/201202051837001308/

 もし君が対戦相手のシャッフル後のデッキの中を見る機会があったとき(もしかしたら君はジャッジなのかもしれないし、《摘出/Extract》を唱えたのかもしれない)、そこに土地が隣り合っている箇所が5個以下である可能性は(適切にシャッフルが行われており、かつ60枚中24枚が土地のデッキであれば)わずかに2.5%しかない。

 デッキ内に含まれる土地の枚数から予想される平均数と比べて明らかに少ない個数しか土地の隣接している箇所がない場合、そのデッキは不正に操作されたものだ。そしてそれを行ったプレイヤーはしかるべき罰を受ける必要がある。

 マジックザギャザリングは無作為化を前提とした多くの要素の上に成り立っている。君は自身のデッキに含まれるカードのマナレシオとその効果を注意深く分析すれば、勝利のオッズを高めることが出来る。

 もし君がこの記事から得た情報を用いて自分のデッキを適切に無作為化することが出来ているかをチェックすれば、土地の偏りを統計的に平均と思われるレベルにまで落とすことが出来るだろう。そして土地の枚数が偏った場合、それはシャッフルが悪かったせいでなく確率的なものであると判断することが出来るようになる。


  <表> 予想される土地の偏り枚数

  (1) 60枚デッキの場合

   総数 -   2枚 -- 3枚 -- 4枚    95%の範囲
     18 -   05.1 -- 1.4 -- 0.4     (3 ~ 08)
     19 -   05.7 -- 1.6 -- 0.5     (3 ~ 08)
     20 -   06.3 -- 1.9 -- 0.6     (4 ~ 09)
     21 -   07.0 -- 2.3 -- 0.7     (4 ~ 10)
     22 -   07.7 -- 2.6 -- 0.9     (5 ~ 11)
     23 -   08.4 -- 3.0 -- 1.0     (5 ~ 11)
     24 -   09.2 -- 3.4 -- 1.2     (6 ~ 12)
     25 -   10.0 -- 3.9 -- 1.5     (7 ~ 13)
     26 -   10.8 -- 4.4 -- 1.8     (8 ~ 14)

  (2) 40枚デッキの場合
   
   総枚 -    2枚 -- 3枚 -- 4枚    95%の範囲
     16 -    6.0 -- 2.2 -- 0.7     (4 ~ 08)
     17 -    6.8 -- 2.6 -- 1.0     (4 ~ 09)
     18 -    7.7 -- 3.1 -- 1.2     (5 ~ 10)
     19 -    8.6 -- 3.7 -- 1.6     (6 ~ 11)


 なお上記の「95%の範囲」というのは、適切にシャッフルされたデッキの土地の隣接した箇所の個数が95%を占めている幅だ。

 例えば、リミテッドの40枚デッキで土地が17枚だったとした場合、適切に無作為化されていれば土地が隣り合っている箇所の個数は4個から9個のあいだに収まる場合が全体の95%を占める、ということだ。
【翻訳】デベロップメントチームの仕事って結局のところ何なの?/What Developers Do【Daily MTG】
Zac Hill
2011年12月9日
元記事:http://www.wizards.com/Magic/Magazine/Article.aspx?x=mtg/daily/ld/172

 今日はこの10年ちょいの長い時間の中、Latest Developmentで驚くほどに触れられてこなかったあることについて話したいと思っている。それは「マジックのデベロップメントチームが具体的に何をしているのか」だ。

 R&Dに入るまで、俺はデベロップメントチームというものが具体的にどうやって時間をつぶしているのか、本当の意味では分かっていなかった。

 デベロップメントが責任を持つ分野とデザインが責任を持つ分野の切り分けがどうなっているのかについて分かっていなかったし、異なる様々な人たちが関わることでセットの構成がどのような広がりを見せるのかも分かっていなかった。

 さてここに来てしばらく経つ。実際にセットのデベロップメントリーダーを務めたこともある。今では前よりは多少仕事の内容についても分かってきたつもりだ。どうやら俺が想像してたのとはちょっとばかし違うようだということもね。

 俺たちデベロップメントにはイラストの割り当てからカードにプレイテスト用のシールを貼り付ける作業まで実に様々な作業がある。ただ俺たちが時間を費やす主な仕事をあげるとすれば5つだ。

 いや、もし20軒以上あるシアトルのパブで「Black Horse and a Cherry Tree」を熱唱することも加えていいなら6つになるけどね。……俺だけかな。

 あれ、今、口に出して言ってた?

ゲフンゲフン

 見出しは便利だ。

お仕事その1:マジックのカードを作ること

 個人的な意見だが、マジックのデベロップメントに求められるもっと重要なスキルは良いマジックのカードを「デザインする」能力だと思っている。

 ……はあぁあぁぁあ!? マジックのカードをデザインするだってぇえぇえええ!? それってデザインチームの仕事じゃないの!???

 以前までの俺は、デザインチームがカードファイルを作り、そのスロットをこれ以上ないほどクールな呪文とメカニズムで埋め尽くしたあと、デベロップメントチームがコンスタントなプレイテストを通じてそれらのカードのコストが適正かどうか、バランスが取れているか、色が適切であり各色に適切に割り振られているか、などについて責任を持つと思っていた。

 違うんだ。そういうんじゃないんだ。

 どうなってるかというと、セットの開発の半ばで、もうデザインチームはカードファイルをデベロップメントへ渡してしまうんだ。

 もっとも、渡すのはそれだけじゃないけどね。

 通常、そのときデベロップメントチームは同時に詳細な「Vision Document」を受け取る。これにはそのセットのデザイン構想が詰め込まれている。セットのもっとも重要なテーマ、メカニズム、各カード、そしてそれらが思い起こさせるべき本質と情景。

 最近ではこのセットの核となるべき「デザインチームの望む姿(Design Favorites)」は20個かそれ以上の数が用意され、これらは可能な限り全てが保たれるべきものとなる。ゲームをプレイする際にどうだからという理由で取り除かれてはならない。

 ゲームをプレイする上でどのように用いられるかが明らかにされているスロットもあったりするけど、逆に実際のカードでどのように表現されるかが明らかになっていないものもある。

 そう、それを明らかにするのはデベロップメントの仕事だ。

 これは誰かが君に青写真と材料(コンクリートやらレンガやらモルタルやらコリント式柱やら)を持ってきて建物の建築を依頼するのと似ている。

 重要なことは、デザインチームは最終的なセットの完成品に出来る限り近いものを「提出すべきではない」ということだ。彼らの仕事は、完成品を作るために必要な道具と材料をきちんと手渡すことにある。

 これが何を意味するかというと、手渡された中からほとんどのカードは様々な理由により削除されてしまうということだ。その理由の1つとしては(特にコモンに見られる現象だが)あるカードの変更が「波紋効果」によってセット全体に及んでしまうためだ。

 もし、とある (2)(赤) 3/2 が、その能力が強すぎるという理由によって (3)(赤) であるべきだということになった場合、同じセット内にいる他の3体の (3)(赤) をそのままにしておいてよいということにはならない。

 そしてこれら3体のうちの1体を変更すれば、当然これはまた別の何かを押し出すことになる。この小さなお祭り騒ぎが終わる頃には7枚くらいのカードが変更されていたりする。

 別の例としては、もし緑のコモン・バニラ・クリーチャーが赤のコモン2点火力に負けないために4/3に設定されていたとして、その2点火力のマナコストが2マナ引き上げられる際にコストに見合うよう火力も3点に変更になったとしたら……まあ、広がる波紋の速度は分かってもらえるだろう。

 何が言いたいかと言うと、1つや2つのボタンを押しただけじゃセット全体がきちんと収まるべきところに収まっているかどうかなんて確認しようがないという話だ。

 新たなカードを生み出す必要に迫られるのもまたよくあることだ。すでに述べたとおりこれはコモンに発生しやすい現象だが、様々な理由によりレアにだって生じうる。

 例えば、再録する予定だったカードが(当時はバランスがとれていたにせよ)現在の環境では強すぎる場合。ルール上、上手く働かないことが分かってしまった場合。新しいスフィンクスのなぞなぞが既存のスフィンクスのなぞなぞとあまりにそっくりだった場合。デベロッパーが「これはセットに入れなきゃやべえ!」と思うような何かを思いついてしまった場合。

 どの場合においても、良いマジックのカードを「デザインする」能力に長けている必要がある。これを実践するためのコツは、どうすればデザインチームの思い描くところを傷ひとつなくそのままの形に伝えられるかに注意を払うことだ。

 いや、それだけじゃ十分とは言えない。さらに、どうすれば思い描くところがゲームのデベロップメントを通じて伝えられるかが大事なんだ。

お仕事その2:リミテッドのプレイテストをする

 現在のR&Dにおいて何度も何度も際限なく行われる大量のプレイテストにシールドデッキ戦とブースタードラフト戦は欠かすことが出来ない。もちろん構築戦のプレイテストはあまり行わないというわけじゃない。それについてはまたあとで話すよ。

 ただ、リミテッド形式のテストは非常に効率が良くて、一石二鳥どころか、一石三鳥にも一石四鳥にもなるんだ。

 1つに、実際のブースタードラフト(特にマジックオンラインにおいて)は、とんでもない回数遊ばれることになる。そしてそのフォーマットのライフサイクルの間、ずっと遊び続けることが可能なほどに丈夫でなくてはならない。

 つまり何回か遊んだだけで戦術やメカニズムが陳腐化してしまうようなことがないよう、あらかじめ膨大な回数のプレイテストを行っておく必要がある。

 それに対してシールドデッキは非常に多くのプレイヤーにその新たなフォーマットを紹介するという大事な仕事がある。ああ、もちろんプレリリースのことを言ってるんだよ。

 出発ゲートから飛び出した直後からすぐにプレイヤーたちに良い第一印象を持ってもらえるよう細心の注意を払う必要がある。

 シールド戦があまりにかったるくてバランスが悪くて気まずいものになってしまい、あとから「いや、信じてくれ、この環境は本当に面白いんだって!」と口に出して言わないといけないような事態は避けたい。出来ればやっぱり「百聞は一見にしかず」で理解してもらいたいと思う。


 ただ俺たちが気にしているのはいわゆる公式のリミテッド環境だけじゃない。

 君たちのようにこの記事を読んでくれているということは、好きなゲームのデザインに関するコンテンツを読みふけるために時間を割いてくれるほどにマジックに入れ込んでくれているということだ(よね?)。

 つまり君たちは頭からつま先まで「マジックプレイヤー」だってことだ。

 おそらく君たちはブースタードラフトとは何か、そしてシールドデッキとは何かを知っているし、さらにリミテッド環境がどのように発展していくものか、とか、どういったカードがあるフォーマットの寿命を延ばしてくれるか、とか、そういったことを知ってくれているはずだ。

 君たちはすでにたくさんマジックを遊んだことがあり、おそらくは「マジックのコミュニティ」と呼ばれるものの一部だろう。しかしそういった形でマジックに関わっていないプレイヤーもまた大勢いるんだ。

 彼らは「赤デッキ」や「青黒デッキ」などを持っていて、セットが出るごとに何個かブースターパックを購入して、そこから出たカードをやりくりしながらマジックをプレイしている。

 彼らは別に自分たちの遊んでいるのが「リミテッド」なのか「構築」なのかを気にしたりしない。目の前に現れたカードを単に使うだけだ。それらのカードの使い心地ひとつでセットがいいか悪いかを判断する。

 シールドデッキ戦やブースタードラフト戦というプレイテスト形式はこういったプレイヤーたちの置かれている環境を擬似的に体験させてくれる。ブースターパックを5個開けて中身を並べてみたときにそのセットがどんな風に見えるか、という分析を可能にしてくれる、ってことだ。

 また同時にこのプレイテスト形式は、なんというか、1つの小世界を生みださせてくれる。全体のうち、ほんの少しのカードしか存在しない世界と言えばいいのかな。そしてそんな条件下であっても環境の面白さが保たれているのか、を確認することができるんだ。

 それはとてもとっても重要なことだ。なぜならもし俺たちがそんな環境でも面白いと感じられるほどにセットの面白さを引っ張り上げることが出来ないとなると、そのプレイヤーたちは「スタンダード環境」とか「サイドボードとは」といった事柄を知ろうとするレベルまで自身を鍛え上げようとすることがなくなるからだ。

 このレベルを目指すことはゲームデザイナーたる自分に課せられた義務だと思っている。

 俺たちは芸術的なまでに素晴らしい何かを作っており、自身がそう信じている何かをプレイヤーたちにも芯まで味わってもらいたいと思っている。

 ただ、高いところで偉そうにふんぞりかえりながら「まあ、最初に見た数パックでこのゲームが好きになれないようなプレイヤーは、この美しいゲームの奥深さに気づけなかったってことなんだろうな」と上から目線で考えるようなことはしたくない。

 プレイヤーのせいにはできない。もしそんなことが起きてしまえば、それは他の誰でもない、俺の失敗だ。その高みまでプレイヤーを導くのは俺の仕事だ。よって、どの段階にあってもゲームがプレイされるされるようにするのがデベロップメントの役割ってことだ。

お仕事その3:構築環境のプレイテストをする

 この1つ前に話した内容のせいで、この章への興味が薄れちゃったんじゃないかと不安だ。

 むむっ。

 多くのプレイヤーはスタンダード環境で遊んでいる。俺はすでにここで前に一度長々とスタンダード環境のためのプレイテストがどうやって行われるかを話したことがあるが、あえて繰り返してみる。

 俺たちは、オフィスにいる8人かそこらの人間で先を見通せてしまうような直球そのものな環境を作り出したいとは思わない。とはいえ、その環境がプレイしてみたら大体どんな風になるのかをつかんでおきたいとは思う。

 これを達成するための手段の1つはバランスをとることだ。あまりにぶっ壊れたカードが日の目を見ることのないよう注意を払ったり、環境を全体的に面白くしてくれるような様々な戦術の存在が許されるように気をつけたりすることだ。


      --- --- --- --- --- --- --- ちょっとした余談 ここから --- --- --- --- --- --- ---

 余談だが「全体的な面白さ」って話題を始めると、あきれた顔でこっちを見ながら「はいはい、そうですね」って冷笑を浮かべるプレイヤーたちがいる。

 「何が面白いか」ってテーマはこのサイトでもよく話題にあがるテーマだ。

 例えば俺が「《停滞/Stasis》デッキは悲劇しか生まない。対戦相手は『なんで俺マジック遊んでんだろ。サッカー観たり、フリスビー遊んだり、友人と出かけたりしたほうがいいんじゃないかな。ああ、中世の拷問器具に自ら突っ込むってのもいいな』って考え始めるだろう」とか言おうものなら、絶対誰ががこう言い出すのさ。「ちょっと、待てよ! 《停滞/Stasis》デッキが大好きな奴だっているぜ! 俺みたいにな!」

 俺には、何が面白くて何が面白くないかを人に押し付ける権利はない。絶対にない。また、念のために言っておくと、他人の個人的な経験から下される評価というものは特に尊大で、おこがましく、また実体の伴わないものになりがちだということは知っている。

 だけど俺たちが何が面白いかを知るために当てにしているのはより客観的で、かつ量に支えられた情報だ。それはテーブルに座って相対している両方のプレイヤーがどうすればよりゲームを楽しめるかについての情報だ。

 俺が対戦相手である君の土地を全部吹きとばしたり全ての呪文を打ち消したりするときに俺が感じる面白さの総量は、大抵の場合、君の抱えることになる悲しみの総量を上回れない。

 俺たちはこういった情報をもう20年近く収集してきた。

 プレイヤーたちがどういったときに黙りこくってしまうのか、プレイヤーたちがどういったときによりプレイしたいと感じるのか、プレイヤーたちから調査するためにトーナメントやショップやイベントやコンベンションへ出向いて彼らと会話をし、こういった情報を俺たちは面と向かって直接仕入れてきた。

 トーナメントへの参加状況について、現実世界でもマジックオンラインでもチェックしてきた。カジュアルと競技フォーマットの両方のトーナメントで、それらへの参加状況とそのトーナメントで主流だったデッキタイプの比較を行ってきた。

 ある種の傾向は何度も繰り返し出現する。

 まあ、なんだ。少なくともどのゲームにも最低2人のプレイヤーがいるとかね。

    --- --- --- --- --- --- --- 明らかに長過ぎた余談 ここまで --- --- --- --- --- --- ---


 何にせよ、俺たちは構築フォーマットのプレイテストで何か「面白くないこと」を発見したらその環境にその「面白くないこと」に対する何かしらの対抗策となるツールを足しこむ。

 俺たちは全てのフォーマットを気にかけている。なぜならプレイヤーたちもまた全てのフォーマットを気にかけているからだ。何かが壊れているなら、俺たちはそれに対する最善の策を模索し全力でそれに取り組む。

お仕事その4:話すこと

 これに関しては本当に長い時間を割いている。

 R&Dという意思決定機関は基本的にデータ重視な組織だ。R&Dの中には本格的な科学の専門分野の上級学位取得者が何人もいるし、また俺たちも当然ゲーマーなので適切なデータなしで決断を迫られるとあたふたしてしまう。

 俺自身はどちらかというと「つべこべを言う前にとにかく繰り返し遊べ」という立場だ(ああ、もちろん俺自身が絶対に「つべこべ言わない」というわけではない。言わせてもらえるときは言ってる)。

 さらに言うと、俺たちは誠実は美徳であるという文化を自分たちに繰り返し叩き込む努力をしているので、同僚の道理にかなった判断を受け入れることが出来ている。

 しかしときにはファイルと1時間以上にらめっこしなければいけないこともある。ときには行き詰ることもある。ときには何をすればよいのか分からなくなってしまうこともある。

 そんなときどうするのか?

 ああ、そうさ、ミーティングを開催するんだ。

 うん、ミーティングだよ。

 どこの会社でも古くから伝統的に行われている風習、ミーティングだ。

 大きなセットを手がけているデベロップメントチームなら1週間当たり4~6時間くらい、小さなセットなら1週間当たり3~5時間くらいをミーティングに費やす。

 ときには面と向かって話すことでしか解決できないこともある。

 もし君が俺たちの仕事に要求される目標の高さを知っていたら(つまり、今手がけているカードの1枚1枚が幾万ものプレイヤーたちにチェックされ遊ばれるということを知っていたら)当然君だってセットの完成のために熱のこもった議論を戦わせることになるだろう……ファイルのカード1枚1枚すべてのためにね。

 俺たちのミーティングではプレイテストの結果について話し合う。

 どのカードがどのアーキタイプをリミテッドで可能にしているのかを分析する。

 特定の目的のために特定のカードをデザインしたりする。

 そうだな、例えばの話だが、基本セット20X6のドラフトのプレイテストを3回繰り返してみた結果、誰1人として緑黒の組み合わせをドラフトしなかったことに気づいたとする。

 さて……問題は個々の黒と緑のカードにあるのか? それらのカードのあいだにあまりにシナジーがなさ過ぎるのか? これら2色の強いカードの組み合わせがあまりに特定のマナ域に偏っているせいで、この2色をドラフトしてもある一定以上の強さが得にくくなってしまっているのか? アンコモンを1枚か2枚足すだけで自然とこの2色の組み合わせがドラフトしてもらえるようになる戦術(例えば速攻の感染デッキや墓地利用デッキ)はないか?

 マジックのように複雑なシステムに取り組んでいると、ときには4~5人の頭の回転が早い人間たちを一部屋に集めて何時間も話し合うことによってしか問題解決の糸口がつかめないというときがあるんだ。

 こういうことは本当によくある。

お仕事その5:メタゲームのデザイン

 一般的にマジックのメタゲームについて話題に上げるときは、特定の環境で実際に遊ばれているデッキたちの構成と利用頻度について指している。

 だけどこの「メタゲーム」という単語にはもっと大きな意味がある。広い意味では「ゲーム外を含めたゲーム全体(game outside the game)」と言える。

 R&Dは、ウィザーズ・オブ・ザ・コースト社の中でゲームデザインを担当している部署の1つであり、レントンにあるオフィスだけでも400人以上の社員を抱えているこのウィザーズ社というのは、より大きなハスブロという会社の子会社の1つに過ぎない。

 俺たちの時間の大半は実際のゲーム(君たちが目にすることになる店の棚に並ぶあれだ)をデザインすることに費やされているが、実はそれ以外にも結構な時間をそれとは異なる形で会社に貢献することに使っている。

 マジックというゲームのメカニズムは、ゼウスの額からアテナが飛び出してきたかのように、いきなり自然発生的に生まれるわけじゃない。マジックというゲームが実際に存在し遊ばれるために、とても多くの人たちが舞台裏で目覚しい活躍を見せているんだ。

 カードは物理的に生産され、印刷され、物流に乗せられる必要がある。

 イラストは契約され、割り当てられ、カードに合わせられる必要がある。パッケージのデザインがなされる必要がある。

 テキストをタイプする必要がある。

 広告を折りたたむ必要がある。

 トーナメントが開催される必要がある。

 俺の読みにくいミミズののたくったような文章は、辛抱強いまじめな編集者によって校正される必要がある。

 これら全ての工程は「メタゲームのデザイン」の一部だ。なぜならこれら全ての工程が「プレイヤーがマジックというゲームをどう体験するか」に関わってくるからだ。

 もしマジックが全宇宙でもっとも優れたゲームだったとしても、それが店に並ぶことがなければ君たちの手に入ることもなく、このマジックというゲームはもがき苦しむことになる。

 もしプレリリースもフライデーナイトマジックもショップ検索もプロイベントも存在せず、君たちが自らネットで遊ぶ相手を探さないといけないようなことになれば、マジックというゲームはもがき苦しむことになる。

 一目でファンタジーと統一された世界観を感じさせてくれる舞台設定とイラストが存在せず、マジックのボックスが「俺の友達のいとこってすげえ絵が上手いんだぜ、マジで」みたいな人物に作られたりしたら、これまたマジックというゲームはもがき苦しむことになる。

 ウィザーズは会社としてこのことを理解している。だからこそマジックのデベロップメントに関わるメンバーはマジックが生み出される工程の全てに何らかの形で携わるようにしているんだ。

 ミラディンの傷跡のFaction Packのように、土曜日のシールドデッキのため、プレリリースのデザインを手伝ったりする。名前やコンセプトやフレイバーテキストの一部を考えたりすることでセットのクリエイティブな部分に貢献したりする。販売キャンペーンがセットのメカニズムやテーマにきちんと沿っていることを確認したりする。

 そして、デベロップメントの多くのメンバーがマジックのプレミアイベントの上位に入賞したことがあるという強みを活かして、マジックのトーナメントシステムが全てのプレイヤーの要望に応えられているかどうかを定期的にそして継続的にチェックし続けている。

 カードに記載されていることだけがマジックじゃない。

 俺たちはその外側にあることも含めて、ゲーム開発を行っているんだ。

開発部を開発する

 品質開発という作業の一部には需要を理解するということがあり、これは最終的には、自身の需要のために工程を最適化するということになる。よって、この作業(や他の作業)が定期的に行われるかどうかが各セットの成功(と失敗)へとつながる。

 さらに言えば、各デベロップメント・リーダーごとにもっとも自分に合った流儀というものが存在している。

 しかし一般的に言えば、ここであげた5つの仕事が俺たちの時間の大半を占めていると言える。俺たちはデザインチームから受け取ったものをこれらの作業を通じてととのえることで、今まさに君たちの手元で遊ばれているそのセットへと作り変えるわけだ。

 君たちがそれを楽しんでくれているといいんだけどな。
【翻訳】ブライアン・キブラーが語るプレインズウォーカーポイントシステムの問題点について/The Problem With Planeswalker Points【SCG】
Brian Kibler
2011年12月12日
元記事:http://www.starcitygames.com/magic/legacy/23253_The_Problem_With_Planeswalker_Points.html

 プレインズウォーカーポイントシステムが大々的に始まったが、導入からつまずいた感がある。

 プレイヤーに自身が上へ上へと進む達成感をコンスタントに感じてもらうツールとしては素晴らしいと思う。さらにこのシステムはDCIレーティング・ランキング・システムと違ってプレイしたくないという気持ちを生じさせることなく、プレイヤーに大会結果から自身のスキルレベルを測るバロメーターとして機能してくれる。

 高いレベルの大会での成績に対する報酬や招待などを提供する手法となる一方、利己的な利用が可能という不備や大会結果について質ではなく量が重要視されるということに対する不満の声も聞かれる。

 またこれに関連して、このシステムが持つ問題点としては不確定性と燃え尽き症候群があげられる。このシステムによって競い合うによって、プレイヤーは半ば強制的にプレイし続けることを求められる。そうしたくはないときも含めてだ。

 なぜなら参加し続けないことによってそれまで積み上げてきたことによって得られるはずだった報酬が得られなくなってしまう可能性があるからだ。


問題点について

 最初の競技シーズンの結果がもう間もなく帳簿に書き留められようとしている。これによってPWPシステムがプレイヤーたちの動向にどのような影響を与えるかを確認できる機会が得られたわけだ。

 トップに並ぶプレイヤーたちの結果を見るに、どうやらプレイヤーたちは報酬を求めて(もしくは少なくともポイントの獲得そのものを狙って)大会への参加回数を大幅に増やしたらしい。

 高ランクのポイント獲得者たちの多くは、その獲得ポイントの結構な率を低いランクの大会へ何度も何度も足を運ぶことによって得ている。100位以内のプレイヤーたちの大半はこのシステムの不備をつくことによってその座に辿りついているのだ。


 現在のシステムの中でこれを可能としてしまっているもっとも大きな穴の1つは、プロツアーとグランプリのサイドイベントが増加傾向にあることだ。

 この変更を推し進めている動機については理解しているつもりだ。PWPを得るためだけに賞品の見込みのないGP/PTに残り続けなければならないという事態を回避するためだろう。

 しかしこのことによる影響はその範囲に収まらない。プレイヤーたちは高い倍率を誇るこれらサイドイベントそれ自体を目的にグランプリやプロツアーへ参加し、実際には本戦に出場しているプレイヤーたちを上回る勢いでポイントを稼いでいるのだ。


 グランプリサンディエゴで私は64位以内に入り328ポイントを得た。その間、Gerry Thompsonはバイの最中にサイドイベントへ参加し、2日目進出を逃したあとPTQをドロップ前に1ラウンドだけプレイし、日曜日だけで7つのサイドイベントに参加した。これによって彼は私よりも多くのポイントを獲得している。

 世界選手権で私はまた64位以内に入り、最終的には368ポイントを得ている。その間、私のルームメイトであるJeffはサイドイベントのみで私よりも多くのポイントを稼いでいる。さらに何人かのプレイヤーは週末を通してJun’ya Iyanagaよりも多くのポイントを稼いでいる……Jun’ya Iyanagaは「世界選手権の優勝者」だ。

 このことは明らかに現在の構造に不備があることを示唆している。


 また同様に、フライデーナイトマジックの倍率の高さはこれらの大会の重要性を上回り過ぎている。PWPのトップのポイント内訳を見てもらえば分かることだが、そのポイントの結構なパーセンテージはFNMから得ており、また大半のプレイヤーは1週間に複数回のFNMイベントに参加してポイントを稼いでいる。

 PWPシステムはこういったプレイヤーたちに報いるべき制度ではない。FNMを楽しみたいだけのプレイヤーたちを罰するべきではもちろんない(旧レーティングシステムはFNMで負けることでそうなってしまっていた可能性がある)。しかし参加しなければポイント争いに置いていかれるという強迫観念から参加するようになることもまたおかしい。

 私はサンクスギビングの休暇中、ラスベガスへ出かけた。そのときデッキも持っていった。FNMに間に合う時間に到着したときのためで、ポイント欲しさに参加するかもしれなかったからだ。

 結局、私はFNMの時間までには到着できず、普通に友人と遊びに出かけた。最初からそれが旅の目的だったからだ。だがそもそもこれについて悩むこと自体がおかしな話であり、PWPシステムがプレイヤーに強いるべき選択であってはならない。


 私は、PWPシステムはもし正しく運用されれば、コンスタントに良い成績を出しているにも関わらず本戦への招待を受けられないプレイヤーに対して報いることが出来る素晴らしいシステムだと思っている。しかし現在の運用による招待方法はいくつもの点において不備があると言える。


 プロツアーとグランプリの優勝者へ権利を与えなくなったのは大きな問題点だ。これによって、多くのイベントに参加する時間のない(もしくは、はっきり言ってしまえば多くのイベントへ参加する気のない)プレイヤーからプロツアーへ参加する機会を奪ってしまうことになる。

 今までは、グランプリでトップをとるかプロツアー予選を突破すればプロツアーに参戦できるという期待をプレイヤーに抱かせることができた。そしてその結果に続けていくつかのイベントで手堅い結果を出すことができれば「トレインに乗る」ことができた。新たなシステムではそれは不可能だ。


 今年の世界選手権でDavid Caplanはトップ4に残り、次のプロツアーへの参加権利を得ることが出来た……が、それは単にプロツアーポイントシステムが廃止される前に16点のプロツアーポイントを獲得したからだ。準々決勝で敗退していたら、彼は権利を得ることができなかった。

 Andrew Cuneoはマジックオンライン世界選手権での好成績を理由に世界選手権への権利を得て10位に入ることに成功したが、ホノルルへの権利は得られなかった。


 私が数年前にマジックに復帰したとき、私はプロツアーホノルルの予選を勝ち抜き、本戦でトップ8に残った。これが新しいポイントシステムの下で行われていたら、続くプロツアーオースティンへの参加権利を得ることはできなかっただろうし、またそこで優勝することも出来なかっただろう。


 プロツアーやグランプリの優勝によって権利を勝ち取れるというのはきわめて重要なことだ。PWPシステムを用いて自分たちの都合の良い環境を築こうとしている数多くのプレイヤーは間違いなく存在する。

 彼らはPWPシステムの恩恵にあずかれないプレイヤーたち、つまり権利獲得のために膨大な数のイベントに参加することの出来ないプレイヤーたちを締め出そうとしている。


 マジック以外の全てを諦めるつもりのある人間にしかプロツアーに参加する権利はない、というのがウィザーズの発したいメッセージだとは私には到底思えない。

 どちらかといえば、Paul RietzlやJosh Utter-Leytonのようなフルタイムの仕事につきつつも高いスキルを持つプレイヤーたちにこそチャンスが与えられるべきだと思う。


 重要な点として挙げたいのは、PWPシステムが締め出すことになってしまうのは競技マジックに時間を割けない人たちだけではないという点だ。このシステムは、コンスタントにレベルの高い競技イベントが開かれない地域に対しても逆風となる。言ってしまえば、アメリカと西ヨーロッパの一部と日本以外の全てだ。

 グランプリ優勝者に対して権利を与えないこと、そして同様に国別選手権から世界選手権へと通じる道の消滅は、市場の小さな地域からプロツアーへ通じる道が失われることを意味している。

 ああ、もちろんPTQを勝ち抜けばいいということは変わらない。しかしそれでも彼らが参加することの出来るプロツアーはただ1つだけだ。もしトップ8に入ったとしても次のイベントへの参加権利は保障されない!

 この新たなシステムが施行されていたら、何人のプロツアープロたちがその姿を消していたことだろう? Paulo Vitor Damo de Rosa? Martin Juza? Jeremy Neeman? 新たなシステムの下では、これらのプレイヤーがプロツアーにその輝きを残すことはなかっただろう。

 プロツアー予選を勝ち抜いてから、さらにプロツアー予選を勝ち抜いてから、さらにさらにプロツアー予選を勝ち抜いていれば、もしかしたら? だけど実際はそれを達成するずっと前に気力尽きて諦めてしまうことだろう。


 毎週複数のFNMに参加しつつサイドイベント目当てにグランプリやプロツアーを飛びまわれるだけの時間とお金を持っている「PWPシステムに君臨できる」プレイヤーにとっても、現在のPWPシステムの招待制度は必ずしも好ましいものではないはずだ。

 潜在的な招待権利は不確定なものでしかなく、彼らはポイントを稼ぎ続けなければ誰かに追い抜かれてしまうかもしれないという強迫観念に追われ続ける。シーズンが終わるごとにポイントがリセットされるという点はシステムにダッチ・オークションの様相を呈させている。勝てなかったプレイヤーにしても、それまでシステムにつぎ込んだ全てを失い、しかも何も得るものはない。


 今現在、70位にいるChris Mascioliを例にとってみよう。

 Chris MascioliはPWPシステムが発表された時点からポイントをコツコツと稼ぎ続けている。とはいえ彼はポイントのためだけにグランプリやプロツアーのサイドイベントに参加しようとするほどには入れ込んでいない。

 彼の現在のシーズンポイントは1936点であり、そのうちの615点はFNMから得たものだ。これは彼の総ポイント数のほぼ3分の1に当たる量だ! 彼は相当な数のプロツアー予選に参戦しているが、自身の力量のなさのためか、一度もトップ8にすら入れていない。

 自身がその制度のおかげで報酬を得ることができる位置につけているにも関わらず、Chris MascioliはPWPシステムには構造的におかしなところがあると公言している。彼に言わせると、この制度がなければFNMとその次の日のプロツアー予選の両方に参加するために地下鉄の駅で夜を明かすような真似をすることはなかったとのことだ。


 現在の位置から転がり落ちないためにイベントに参加し続けているのはこのChris Mascioliだけではないことは確かだ。

 次の順位のプレイヤー(実質的な「目に見える競争相手」)に対してすでに数百点のポイント差をつけているAlex Bertonciniは、それでも世界選手権へ出向いていくつものサイドイベントに参加してきた。抜かれることの恐怖からだ。

 同様に100位以内にいるZaiem Begは、38度を超える熱であったにも関わらずFNMへ参戦した。自身の健康よりもポイントを抜かれる恐怖が上回ったからだ。


 PWPポイントが実際のイベントにおける「プレイ」に対してどのような影響をもたらしたのかについても言及しておくべきだろう。

 世界選手権では複数のイベントに一時に参加を申し込んだプレイヤーが多くいた。それぞれのイベントのラウンドが交互に開始されることで全てに「参加できる」ことを期待してのことだ。もしそう上手くいかなかったら、単に彼らは降参するのに十分な時間だけ顔を出すことでとりあえずドロップをまぬがれていた。

 複数のイベントに登録しつつ、全てのラウンドで投了し続けたプレイヤーを私は複数人知っている。彼らはいずれかのマッチでBYEと当たってポイントが稼げないかとを期待していた。

 こういった行為によって傷つくことになるのは、こんな馬鹿げた行為に手を染めず正々堂々とPWPポイントを稼ごうとしているプレイヤーだけではない。マジックをプレイしたいと望んでイベントに参加しているにも関わらず、こんなプレイヤーとのマッチアップを組まれてしまったプレイヤーたちも同様に被害者だ。


 またシステム開始時点から参戦できていたかどうかが非常に重要になってしまう点も無視できない。シーズン開始時の数週間にイベントに参加できなかったプレイヤーは大きな不利を背負うことになってしまう。

 権利獲得を目標とするプレイヤーが、あるシーズンについて「全グランプリに参加できないなら一切のグランプリに参加しなくても同じことだ」と考えてしまうことは大いにありえることだ。

 なぜなら相当数の招待スロットはすでに埋まってしまっているだろうし、また多くのグランプリに参加できているプレイヤーのポイントを上回ることはほぼ不可能だからだ。


 さらに特筆すべき点としては、現在の競技シーズンは以降のものよりもずっと重要度が高くなってしまっている、という点だ。

 なぜならトップをとることが出来たプレイヤーたちは単にプロツアーホノルルの権利を得られるだけではなく、来期の全てのグランプリのBYEを得るからだ。そしてなんらかの理由によりトップに残れなかったプレイヤーたちは来シーズンを全て1回戦から開始することになる。

 これは高いレベルの競技マジックに興味を抱いているプレイヤーたちの参戦に対して大きな障害となる。スタート地点ですでに差をつけられ、追い抜くためには相手以上の成績が必要となる。大いにやる気を削いでしまうことになるだろう。


さてどうしたものか

 最低限のスタートとして、プロツアーとグランプリに権利獲得のチャンスを一部でもいいから与えなおすべきだ。プロツアーの規模を小さくしたいのならば、以前よりもずっと少ない数でもかまわない。

 私の希望としては、グランプリのトップ8およびプロツアーのトップ32に権利を与えることだ。もしそれでは招待人数が多すぎるということであれば、グランプリはトップ4まで、プロツアーはトップ16までにしてみてはどうだろう。

 ただ、トップ8はちょうどいいラインだと思うし、次のプロツアーに続けて参戦するためにベスト16に残らなければいけないというのはハードルが高すぎるように思われる。

 最近の発表にあったグランプリの優勝者のみ、招待されるというのはいくらなんでもしみったれている。ここ最近のグランプリ本戦に参加するプレイヤーの数を踏まえるとなおさらだ。

 本戦に参加したいと考えるプレイヤーの多くはプロツアー予選を避けるようになっている。何百人と参加するトーナメントでたった1人しか権利を勝ち取れないという条件を好むプレイヤーはあまりいない。

 これが参加者1000人を超えるようなイベントでかつ同じ条件となったときに参加してみようと考えるプレイヤーがどれほどいるだろうか?

 解決方法としてはおそらく以前と同程度までハードルを下げることだろう。たとえばグランプリのトップ4とプロツアーのトップ16だ。かわりに他の手段で得られる権利の数を減らす必要がある。


 PWPシステム自体の話をすれば、プレミアイベントのサイドイベントへのボーナス倍率は廃止されるべきだ。これらによって得られるメリットは悪用されるデメリットに比べると小さすぎるといわざるを得ない。

 正当性を持たせたいならポイント倍率はイベントの主要な点に対してのみ課されるべき倍率だ。これらのボーナス倍率は簡単に悪用されることがすでに証明されている。

 同様にFNMの倍率も問題だ。減らすか、もしくは完全に撤廃すべきだ。

 FNMの価値が高いことは無視できないレベルに悪用されている。PWPの争いの中でFNMによるポイントが占める重要性(またラウンド数の多いFNMイベントへの参加可否の重み)はあまりに高すぎる。


 これに関連して私が同様に懸念しているのは、FNM選手権だ。

 現状では、たくさんのFNMイベントを開催しているショップへ行くことが出来るプレイヤーもしくは毎週複数のFNMイベントに参加できるプレイヤー以外にはまったく権利獲得の見込みがない。

 単純にFNMを楽しんでいるプレイヤーや、地元のショップで良い成績を収めているプレイヤーであったとしてもまったく太刀打ちできるものではない。

 私の友人から聞いた話だが、彼の兄弟はもう何年もFNMに参加し続けており、生涯獲得FNMポイントもトップ10に入るほどで、そんな彼は初めてFNM選手権について聞いたときそれはそれは喜んだそうだ。

 しかしシーズンが始まって数週間後、他のトッププレイヤーたちがどれほどの点数を稼ぎだしているのかを知ったとき、自分にはまったく見込みがないことに気づいたらしい。

 その結果、彼はFNM選手権の発表以前よりもFNMに参加する回数が「少なくなった」とのことだ。あまりに失望したためにね。

 この問題点についてどうすれば解決できるのは分からないが、これをそのままにしてよいとは思えない。問題点としてとらえるべきだと思う。


 PWPによる招待制度に立ち戻ると、解決法の1つとしては、1シーズンのあいだにあるプレイヤーが特定のイベントタイプから得ることができるポイント数に上限を設けるというのはどうだろうか。

 たとえば、PWPシステムの招待可否を計算する際にはFNMかサイドイベントから得たうち500点までしか合計点に含めないことにする、というふうにだ。これによって複数の問題が一度に解決する。

 これによって低いレベルのサイドイベントを無限に渡り歩く必要性をなくすことができるし、プレイヤーにこれ以上無理に参加し続けなくてもよいという心理的なゴールを設けることができるし、またそれらサイドイベントの倍率を下げることなく本戦に対する相対的な重要性を下げることができる。


 この解決法をとるに当たって、潜在的な問題となるのは現在のイベントのクラス分けのされ方だ。SCGオープンのレベルのイベントは倍率が×3しかないから「低い」のだろうか?

 プロツアー予選とグランプリのサイドイベントはどちらも×5だから同程度とみなされるべきなのだろうか?(個人的には同等にみなされるべきではないと信じているが、これはまた別の問題であり、別個に解決されるべきことだ)

 正しい分け方としては、上限なく加算されるのはプロツアー予選、グランプリ、そしてプロツアー本戦から得られるポイントに限るべきだ。しかしこれだと非常に多くの競技イベントが外されることになってしまう。

 もしかしたらもっともよい解決方法は上限を高めに見積もることなのかもしれない。そう、たとえば上限を1000点として、上記3つのイベント以外は全てこれに含まれることにする、のようにだ。

 こういった形で上限を設けてもプレイヤーたちは多くのポイントを主要でないイベントから稼ぎ出すことが出来てしまう。

 しかし少なくとも時間さえかければひたすらポイントが稼げるというような形は減らせるだろうし、複数のイベントに同時参加して時間がかち合ったら姿を現さないとか単に投了だけするというような事態も減らせるのではないかと思われる。


 上限いっぱいまで稼ぐには相当なプレイ量が必要となるだろう。しかしそれでも1シーズンの間ずっとノンストップでプレイし続けなければいけないということにはならないだろうし、また単にプレイをし続けるだけで他のプレイヤーの追いつくチャンスをつぶすということも出来なくなる。

 それにこうすることで、プレイする回数が多いだけでなく加えて主要な競技イベントで高い成績を収めたプレイヤーのほうが権利を獲得しやすくなるという側面がある。低いレベルのイベントで上限いっぱい稼いだプレイヤーとの差別化を図ることができるからだ。


 またシステムはグランプリとプロツアーレベルのイベントで優勝したプレイヤーに何らかの形で報いる必要がある。単に参加するだけに対して、好成績を残した際に得られるメリットが相対的に見て低すぎる。

 現状では、プロツアーのラウンド1を勝ち抜くこととトップ16に残ることがほぼ等価だ。またグランプリに2回参加して両方とも6-3に終わり2日目に参加できない場合のほうが1回だけ参加して12-3の成績でトップ8に残った場合よりも高い。

 プロツアーでトップ8に残った場合の倍率はそれ以下の順位のときよりも高く設定すべきだし、グランプリも同様だ。

 トップ8に残ったら50%のボーナスが乗るというのを考えたが、それでも低すぎる気がしている。プロツアーで優勝した際に得られるポイントが、グランプリに毎回参加してBYEを含めて1回か2回だけラウンド1を勝ち抜いたプレイヤーよりも低くなってしまうからだ。

 私の考える適切な倍率は、トップ8で200%、トップ16で150%、トップ32で125%、トップ64で110%くらいだろうか。それより高くてもいいかもしれない。

 仮に200%のボーナスがあったとしても、私のプロツアーオースティンでの優勝(ボーナス倍率なしで612ポイント)は1,224ポイントまでしか上がらない。これはグランプリに6回参加してその全てで6-3した場合(つまり一度も2日目に進めなかった場合)と同程度だ。


 好成績の価値とグランプリやプロツアーで悪い成績を残した場合の対比は、来年度から変更されるプロプレイヤークラブの仕組みや新たな世界選手権への招待制度のことをを考えるとさらに重要となる。

 来年度の世界選手権への招待はプロフェッショナルPWPに基づいて決定される。おそらくプロプレイヤークラブの代替案も同様となるだろう。

 前述した順位に応じたボーナス倍率がなければ、各グランプリに欠かさず参加したプレイヤーと2つのイベントにしか参加していないがその両方で優勝したプレイヤーとのあいだの累計ポイントに差がほとんどなくなる。

 これは非常に大きな問題のように思われる。

 プロプレイヤークラブの新しい形が相対評価なのか絶対評価なのか(トップから一定順位までのプレイヤー数なのか、一定ポイント数以上のプレイヤー全員なのか)、そのいずれであったとしても、現在のシステムでは少ないイベントで好成績を残したプレイヤーよりもより多くの数のイベントに参加するプレイヤーの側に重みが置かれることになるだろう。


 これが問題と感じているのは私1人ではない。少なくとも私は毎週末ごとにグランプリに参加するという事態は避けたいと思っている。旅費は決して安くはないし、国の端から端まで毎週移動するというのは実質的に他に何もできなくなってしまう。

 しかし全てのグランプリに参加するということの価値が高く設定されてしまうと1つでも参加しなかったプレイヤーはそれだけで不利を背負うこととなり、以降のイベントでよい成績を残したとしてもその差を取り戻せる見込みはそれほど大きくはない。

 これによってグランプリへの参加は「オールオアナッシング」となってしまう。全てのグランプリに参加したいとは思わないが、全てに参加しないでも同じと考えるのも同様に気持ちのいいものではない。

 単に参加するだけということに比べると良い成績を残すというのは非常に重要なことだ。しかし現状のプロフェッショナルPWPがこのままだとすると、それは重要ではなくなる。


 私はウィザーズ・オブ・ザ・コーストがプロツアーを夢の舞台と位置づけていることを知っている。彼らがトッププレイヤーがその成功に応じた報酬を得るべきと考えていることも知っている。彼らが競技マジックを単に「参加し続けることだけに意義がある」ものにしたくないことも知っている。

 しかし私はまたこれらの立ち位置とここ最近発表された変更たちと相容れないことも知っている。

 彼らがゲームが長く愛されるために全体的に見てもっとも利益になるよう行動してくれるであろうことを私は信じており、ここのあげた思いのいくつかが彼らを目的へと導く助けとなってくれるよう祈っている。
【翻訳】領域を移動する/Zone Change【Daily MTG】
Tom LaPille
2011年12月02日
元記事:http://www.wizards.com/Magic/Magazine/Article.aspx?x=mtg/daily/ld/171

 私がウィザーズ社で働き始めたのは2008年の6月からだ。今はもう2011年の12月だ。

 2週間前、私はこの場を借りてマジックのR&DからダンジョンズアンドドラゴンズのR&Dへ移ることを伝えさせてもらった。それは嘘ではない。今日のこれが私にとって最後のLatest Developmentsの記事となる。

 私がマジックの仕事を通じて学んだことが1つあるとすれば、物事は既存のスタンダード(註)に対してさらに高いレベルのスタンダードを持ち込むことで変わってしまうものだということだ。これに関して私が好んで用いる例は、スティーブ・ジョブスがスタンフォード大学の卒業式で行ったスピーチ(註)だ。
(註) スタンダード
 ここで言うスタンダードはフォーマットのそれではなく、基準や基本レベルの話。スポーツなどで「環境全体のレベルが底上げされる」というときに使う「レベル」のような感じ。

(註) スティーブ・ジョブスがスタンフォード大学の卒業式で行ったスピーチ
 原文では以下のURLへリンクが張られている。スピーチが全文掲載されており、かつ動画も張られている。スピーチの中でスティーブ・ジョブスは3つの話をしており、その1つ目の中にタイポグラフィーの話が出てくる。
 http://news.stanford.edu/news/2005/june15/jobs-061505.html

 スピーチの日本語訳が入った動画は以下を参照のこと。
 http://www.youtube.com/watch?v=FNFX2RwOn54 (前編)
 http://www.youtube.com/watch?v=jQkJsyDUFhU (後編)

 そこで彼は初期のマッキントッシュ・コンピュータこそが初めて美しいタイポグラフィーを用いたコンピュータだと言った。彼のこの言葉が真実であるかどうかは私には分からない。しかし私はマッキントッシュ以前のコンピュータを用いたことはある。それらは非常に雑なタイポグラフィーを用いていた。

 そして私が父の高校で使ったマッキントッシュは私にとって初めて美しいフォントを表示してくれるコンピュータであり、それ以降見かけたコンピュータたちは大体において美しいフォントを持つようになっていた。この変化がどれほどスティーブ・ジョブスの功績だと君たちが思うかは分からない。しかしコンピュータの表示する文字は最初のマッキントッシュ以前と以後でまったく異なるものとなったのだ。

 私はマジックを仕事にするようになって3年半経つ。そのあいだ、多くの重要な事があった。それらは新たなスタンダードが持ち込まれてくれたことによるものだ。

 Duels of the Planeswalkersは、マジックの入門的な製品がデジタルにも必要だと考えた誰かが生み出したものだ。これによって多くの新たなマジックプレイヤーたちが生まれ、また多くのマジックを離れていたプレイヤーたちが戻ってきてくれた。

 基本セット2010は、全てが再録で面白くないフレイバーしか持たないそれまでのコアセットに飽き飽きしたAaron Forsytheが生み出したものだ。リリースとともに大成功となり、良いフレイバーと素晴らしい新たなカードたちとともにコアセットの新たな幕開けとなった。

 Erik Lauerは、私が働き始めたときにはまだどこにも存在していなかった開発ツール一式を構築してくれた。これは開発の非常に大きな助けとなってくれた。

 私たちは以前よりもずっと個々のカードの複雑性に気を遣うようになった。私たちは開発側がカードの重心と定めたポイントに実際のプレイヤーたちが興味をもってくれるよう時間を費やしている。これによってそれぞれのセットのもっとも重要な要素に対して的確なスポットライトが当たるようになった。

 これらの変化の多くは私の同僚たちが生み出したものだが、そのいくつかは私から生まれたものでもある。

 私はマスターズエディションIIIとマスターズエディションIVの仕事を誇りに思っている。これらによって、単体でドラフトを行うことを想定したセットを開発するノウハウが大きくステップアップした、と私は信じている。

 また私は個々のカードが明確に自身を表現できていないことがひどく我慢ならない性質だ。私の聞いたところによると、Mark Rosewaterは何人かにTom LaPilleこそがコアデベロッパーの中でもっともフレイバーに気を遣っている人間だ、と語ったらしい。

 個人的には《雲を追うケストレル/Cloudchaser Kestrel》や《風生みの魔道士/Windwright Mage》のようなカードが生み出される率は以前に比べて減少しているのではないか、そしてその一部は私のおかげなのではないか、と考えている。

 今のマジックのスタンダードは以前よりも高い位置にある。イニストラードは非常に良い例だ。

 私たちはコアセットではないセットでここまでメカニズムとフレイバーが見事に融和したセットを生み出したのは初めてのことだ。そこかしこに古典的ホラーの表現が散りばめられており、それらの表現を忠実に反映したカードテキストが記載されている。各友好色ごとに配置された部族はそれぞれ原点となる作品たちに登場している際にとるであろう振る舞いをカード上でもとるよう工夫が施されている。

 私たちのスタンダード向上に対する挑戦はデベロップメントの側でも同様に行われていた。

 イニストラードによるドラフトは複雑でバランスがとれていて、そして素晴らしいものだ。スタンダード環境はグランプリ、各種トーナメント、そして世界選手権という2カ月を経てもなお変化を続けている。

 もちろんゲームが変化を続けてきたように、人もまた変化している。

 私が初めて3年半前にウィザーズ社の敷居をまたいだとき、私は大学での4年間を終えたばかりだった。その4年間のうち、3分の1の週末はマジックのトーナメントのための長い旅行のため費やされていた。

 しかしその後の3年半について言えば、私のゲームに費やす時間はカードゲームから主にロールプレイングゲームへと移行していた。そして今年、私がロールプレイングゲームのコンベンションのために旅した回数はかつて私がマジックをプレイするために旅していた回数と同じくらいになっていることに気づいた。新たな発見は常に楽しいことではある。しかし今や私はマジックのスタンダードを向上させるのにふさわしい人間ではなくなっている。

 幸いなことに、ウィザーズ社はマジックとは別に広く知られるロールプレイングゲームも開発している。ダンジョンズアンドドラゴンズの仕事へと移ることは驚くほど簡単なことだった。

 すでに新たに与えられた役割に求められていることは分かっているつもりだ。私のスタンダードによって過去に成功させてきた挑戦と同じことをまた再び行うのだ。それはつまり私が正しい道へ向かっているということでもある。

 マジックは私の人生をあらゆる意味において変えてくれた。大きい変化も小さい変化もどっちもだ。

 そしてそれらは全て良い方向への変化だった。

 ハイスクール以前のマジックが私に教えてくれたことは、ある特定の事柄について他の人たちよりもずっとそれに長けている人たちというのが実際にいるということ、そしてそれが実世界において大きな違いとなることだ。

 ハイスクールでのマジックは、私に狭い世界から飛び出してより広く友達を作る方法を教えてくれた。

 大学時代でのマジックは私に旅することを教えてくれた。バンクーバー、ホノルル、バルセロナと旅することで私は広い見識を見につけることができた。さらにはその旅行の中で、私は故郷の国と大陸を離れても大丈夫だという自信を持つことができた。

 プロフェッショナルとして生きる日々の中でのマジックは私に、上下関係のある会社という組織の中で、良いものを生み出しつつも仕事は仕事としてきちんと片づけることを教えてくれた。

 君が私と同じ時期に同じことを学ぶとは思っていない。しかしそれでもなお私は君がマジックを経験する中で、同じように何か得るものがあればと願わないではいられない。

 今回のこの記事が私からの最後の便りということにはならないだろう。私は次のセットである闇の隆盛のデベロップメント・リーダーであり、リリースが近づけば1回か2回は顔を出すことになるはずだ。

 だけどそれまでは、あとをZacに任せることにするよ。
 原文の記事の最後には変身ボタンが用意されている。出来れば元のサイトにある原文の変身ボタンを一度押してみてから、次のリンク先を読んで欲しい。きっとびっくりするよ。
 元記事:http://www.wizards.com/Magic/Magazine/Article.aspx?x=mtg/daily/ld/171
 変身先:http://regiant.diarynote.jp/201112031619268384/

【翻訳】交代、反転、そして翻訳/Rotations, Reflections, and Translations【Daily MTG】
Zac Hill
2011年12月02日
元記事:http://www.wizards.com/Magic/Magazine/Article.aspx?x=mtg/daily/ld/171

 アオオォォオオォォォン!(遠吠え)

 ……エヘン。

 俺の悪い癖だ。

 満月を見るとどうしてもね。こう、どっかに意識が飛んでしまうんだ。衝動をコントロールできないというかなんというか……そういうの苦手なんだ。

 よーし、まずは深呼吸して……

 おっす! 俺はZacだ。

 TomがD&D側の仕事に移るに当たって、彼のコラムを引き継ぐことになったのが俺だ。

 今日はデベロップメントがどのようにしてホラーというジャンルそのもの(つまりはイニストラードそのもの)である「変身」を「両面カード」によって表現しようとしたかについて語ろうと思う。

 狼男たちはすでに彼らだけのテーマ週間をもらってることだし(まったく幸運な奴らだ!)、今日は狼男でない両面カードの中でも特に俺が気に入っている「変身する」カードたちを取り上げてみよう。狼男たちはすでに日の目をみているわけだから……いや、月の目を……えーと……まあいいや。

Civilized Scholar / 礼儀正しい識者 (2)(青)
クリーチャー - 人間(Human) アドバイザー(Advisor)
(T):カードを1枚引き、その後カードを1枚捨てる。これによりクリーチャー・カードを捨てた場合、礼儀正しい識者をアンタップし、その後それを変身させる。
0/1
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Civilized+Scholar/

Homicidal Brute / 人殺しの粗暴者
〔赤〕 クリーチャー - 人間(Human) ミュータント(Mutant)
あなたの終了ステップの開始時に、このターン、人殺しの粗暴者が攻撃していなかった場合、人殺しの粗暴者をタップし、それを変身させる。
5/1
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Homicidal+Brute/

 いやあ、実に上品な紳士だね。

 こいつが開発中のファイルに入っていたときの名前は「ジキル博士とハイド氏」だった。そしてそのテーマから外れたことは最後まで一度も無い。

 アイデアは要するに、礼儀正しくて賢くて「青」っぽい能力をもったシステムクリーチャーが自分の研究に没頭しているのに、ときどき何かの拍子で気が狂ったように顔を真っ「赤」にして戦闘に突入してしまう、って寸法だ。

 俺は色んなプレイヤーからカードテキストの一部について質問を受けることがある。その1つに、なんで《人殺しの粗暴者/Homicidal Brute》はターン終了時に自身をタップするの?、というのがある。

 デザインの初期から、クリーチャーカードを捨てるのをトリガーに変身するという点を俺たちは結構気に入っていた。彼は研究の最中、何かをきっかけに自身の動物的本能が刺激されてしまい、コントロールが効かなくなってしまうんだ。

 最初の頃は、粗暴な側には単に「可能ならば攻撃に参加する」と書かれていた。

 しかしそれによって何が起きたかというと、テストプレイでプレイヤーたちは「ルーター能力」を第二メインフェイズで使ってカードを「粗暴者」に変身させつつ、そのままエンドステップを迎えることで「識者」に戻し、対戦相手のターンに「ルーター能力」をさらにもう1回起動したんだ!

 もちろん、このカードの目指すところはそんな使われ方じゃなかったので、俺たちは「粗暴者」に自身をタップさせることでこの問題を解決したんだ。

Screeching Bat / 金切り声のコウモリ (2)(黒)
クリーチャー - コウモリ(Bat)
飛行
あなたのアップキープの開始時に、あなたは(2)(黒)(黒)を支払ってもよい。そうした場合、金切り声のコウモリを変身させる。
2/2
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Screeching+Bat/

Stalking Vampire / 忍び寄る吸血鬼
〔黒〕 クリーチャー - 吸血鬼(Vampire)
あなたのアップキープの開始時に、あなたは(2)(黒)(黒)を支払ってもよい。そうした場合、忍び寄る吸血鬼を変身させる。
5/5
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Stalking+Vampire/

 俺からすると、このカードは両面カードがデザイン面に関していかに新たな可能性を切り開いてくれたかを説明する最高の例だ。

 吸血鬼はコウモリに変身できるし、逆もまたしかりだ。よく知られた伝説だよな。イラストもコンセプトも分かりやすいし、ゲームプレイ時の動きも素晴らしいし、「このカードが何を表したいのか」が超簡単に伝わってくる。

 しかし両面カード以前のこの「変身」の表現は実にぎこちなかった。メカニズムは非常に複雑で、大抵の場合はカードが何を表したいのかを直観的に伝えることに(反対意見もあるだろうけど俺の意見としては)失敗していた。

 例えば《センギアの吸血魔/Sengir Nosferatu》だ。
Sengir Nosferatu / センギアの吸血魔 (3)(黒)(黒)
クリーチャー - 吸血鬼(Vampire)
飛行
(1)(黒),センギアの吸血魔を追放する:飛行を持つ黒の1/2のコウモリ(Bat)・クリーチャー・トークンを1体戦場に出す。それは「(1)(黒),このクリーチャーを生け贄に捧げる:追放されている《センギアの吸血魔/Sengir Nosferatu》という名前のカード1枚をオーナーのコントロール下で戦場に戻す。」を持つ。
4/4
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Sengir+Nosferatu/

 勘違いしないで欲しいのは、別にこれをデザインしたチームの努力を否定したいわけじゃないってこと。何が起こっているのかは分からないでもない。《センギアの吸血魔/Sengir Nosferatu》が危険に陥ったとき、それはコウモリに変身して難を逃れるんだ。

 だけどそれをカードテキストからそれを理解するには、かなり想像の翼を大きく広げないといけない。

《センギアの吸血魔/Sengir Nosferatu》は自身を守るために能力を用いるのに、君はこいつをまずどっかに追放しないといけない。……どゆこと? 次にこいつが生み出したコウモリトークンがどこからともなく彼を戦場に呼び戻すためには変身後であるコウモリを生け贄に捧げないといけない。

 最後に実際のゲーム上の話をすると、君は戦場に小さなビーズか布切れかコインか紙切れか、とにかく何かを出す必要があり、さらにそれには5行にも及ぶ目に見えないカードテキストがついてくる。ああ、それと目に見えないパワーとタフネスもだ。

 これは到底エレガントなデザインとは呼べないよ。

Delver of Secrets / 秘密を掘り下げる者 (青)
クリーチャー - 人間(Human) ウィザード(Wizard)
あなたのアップキープの開始時に、あなたのライブラリーの一番上のカードを見る。あなたはそのカードを公開してもよい。これによりインスタント・カードかソーサリー・カードが公開された場合、秘密を掘り下げる者を変身させる。
1/1
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Delver+of+Secrets/

Insectile Aberration / 昆虫の逸脱者
〔青〕 クリーチャー - 人間(Human) 昆虫(Insect)
飛行
3/2
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Insectile+Aberration/

 このチビ助は最近のレガシー環境で暴れまわっており、先週開催された世界選手権にもその名を刻んでいる。

 こいつの気前の良いスペックを見てくれ。全てが計画通りに進めば《月鷺/Moon Heron》から丸々3マナそぎ落としたクリーチャーとなり、2ターン目からアタックできる。

 《渦まく知識/Brainstorm》や《思案/Ponder》といったカードでライブラリのトップを操作すれば、通常よりもずっと高い確率でこいつを反転させることができる。さて、どうしてこんなカードが検閲を抜けて印刷されたんだろう?

 俺たちはこいつがリミテッドではあまりにも反転しなさすぎることに気づいた。デッキに入れること自体が損に感じられるほどにだ。結局のところ、誰だって40枚しかないデッキに《脱走魔術師/Fugitive Wizard》同然のクリーチャーを入れたいとは思わない。

 ときたまこいつは序盤に出て来てゲームを決めてくれるが、ごく稀にしか起きないその展開が楽しいものかどうかはまた別問題だ。こういったランダムな効果でゲームが決まってしまうような環境を好きなプレイヤーはいない。

 ゲームの終盤に引く《秘密を掘り下げる者/Delver of Secrets》のがっかり感は満点で、俺たちはまるでこのままこいつを印刷してもリミテッド環境にとっては壁のしみみたいなもんなんじゃないかと思った。

 ところがどっこい、スタンダード環境では《秘密を掘り下げる者/Delver of Secrets》を《昆虫の逸脱者/Insectile Aberration》に変身させるのは普通のリミテッド環境に比べるとずっと簡単だし、対戦相手からしてみても序盤に出て来た3/2飛行クリーチャーというテンポアドバンテージから巻き返すのはそれほど難しいことじゃない。

 大抵のデッキは序盤に出てくるクリーチャーに対してなんらかの対抗策を講じているものだ。そう考えると他のクリーチャーと比べて多少高いサイズアドバンテージを持っているということは「なかなか強いカード」であって「ゲームをぶっ壊すカード」には成り得ない。

 レガシーやモダンのようなさらに古いカードも使えるフォーマットとなると、クリーチャー除去呪文は相対的に弱くなる。なぜならこれらの環境でメタの一線を張っている多様なデッキたちはクリーチャーに乏しく、クリーチャー除去呪文は腐ることが多いからだ。

 そういった環境なので、逆にこの《昆虫の逸脱者/Insectile Aberration》のようなカードで勝つことがより容易くなる。このカードを守るためのカードが色々用意されていることや《渦まく知識/Brainstorm》やその類似品が早期の変身を手助けしてくれることも考えるとなおさらだ。

 とはいえ、幸いなことにこれらの環境は、いくら強いとはいえ結局は単に殴ることしか出来ないようなクリーチャーごときに破壊されるようなやわな環境じゃないので安心だ。

Ludevic’s Test Subject / ルーデヴィックの実験材料 (1)(青)
クリーチャー - トカゲ(Lizard)
防衛
(1)(青):ルーデヴィックの実験材料の上に孵化(hatchling)カウンターを1個置く。その後、それの上に孵化カウンターが5個以上置かれている場合、それらをすべて取り除き、それを変身させる。
0/3
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Ludevic%27s+Test+Subject/

Ludevic’s Abomination / ルーデヴィックの嫌悪者
〔青〕 クリーチャー - トカゲ(Lizard) ホラー(Horror)
トランプル
13/13
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Ludevic%27s+Abomination/

 多くのプレイヤーたちがこのカードとエルドラージ覚醒のメカニズムであるLvアップカードとの類似性について指摘する。確かに比べたくなる気持ちはよく分かる。結局のところ、どっちの場合も特定量のマナを特定回数支払うことでクリーチャーのサイズを大きくする。

 じゃあなんでこいつは両面カードになったんだろう?

 俺からすると、ポイントは「謎」ってことだ。卵を見たら何が入ってるか気になるだろ?さらに何か実験してるって言われたらその結果も気になるだろ?

 俺の考えを述べさせてもらえるなら、Lvアップシステムの欠点は、つぎ込んだ労力の結果を視覚的に得られないことにある。ゲームのルールはメカニズムを通じて確かにそれを抽象化してくれている。だけどそれはイコールじゃない。

 俺の《ハリマーの波見張り/Halimar Wavewatch》が6/6になったよ、とか、《虚身の勇者/Null Champion》が7/3になったよ、って言われたら、まあ、そうだよ。だけど俺の目の前にいるカードは小さかったときとまったく同じ外見をしてるんだ。

 まるで盤面にある駒をいじくってるような感じだ。彼らが何を表現しているのかを、そう見えるからではなくて、そうだと言われたから信じないといけない状態だ。直観的な分かりやすさに乏しい。

 とはいえ、ゲームってものは本質的そういうものなんだろう、とも思っている。……だからこそ表現できる機会を逃しちゃいけないんだともね。

石を引っくり返してみる

 Tomが言ってたように、これは彼の最後のLatest Developmentのコラムだ。しかし来年のどこかで少なくとも1回は次のセットである闇の隆盛について語ってくれるはずだ。彼がデベロップメントのリーダーを務めたセットだからね。

 新参者としては埋めなければいけない穴の大きさにおののいているところだ。直前の前任者であるTomだけじゃなくて、その前の担当者たち、デベロップメントのヘッドであるDevin Low、R&DのディレクターであるRandy BuehlerとAaron Forsythe。

 そこで最初の数週間は色々違ったことをやってみて君らの反応をうかがおうと思っている。

 どう思ってるかを知るのに一番いい方法は、そりゃもちろん俺に伝えてくれることだ!

 もちろんフォーラムに書かれた君たちのコメントは読んでるし、記事の末尾にあるリンクから感想を送ってもらってもいいし、ツイッターでもいい。俺のツイッターアカウントは@zdchだ。

 皆に好かれるような記事にしたいと思ってるよ。
【翻訳】アラーラ再誕デザイン秘話:黄金を混成する/Hybridizing Gold【Daily MTG】
Tom LaPille
2009年04月24日
http://www.wizards.com/magic/magazine/Article.aspx?x=mtg/daily/ld/35

 アラーラ再誕はマジック初の「収録されているカードがマルチカラーのみ」というセットだ。

 歴史的な話をすると、金枠の金色カードは(赤)(緑)のように異なる色マナを2つ以上持つカードだった。しかしアラーラ再誕はマナコストに混成マナを含むカードが収録されている。今日の記事は、なぜ私たちが混成マナのみを含むカードを、金枠専用となるはずのセットに含めることにしたのかだ。

 混成マナの金枠カードについての物語は、アラーラ再誕デザインの初期までさかのぼる。

 デザインチームは初めからセットに含まれるカードは全てマルチカラーになること知っており、それによって様々な難題が生じるであることも予想していた。

 そのうちのいくつかについてはアラーラ再誕のプレビューが始まったその日にMark Rosewaterが挙げていたが、デザインチームはその他にもたくさんの困難に直面していた。

 チームがセットの大まかな草案を作ったとき、メンバーはそのセットに含まれるカードがどれも素晴らしいものであるにせよ、多くのプレイヤーは自身の望むカードを平均的なパックに十分見つけることができないのではないかという不安を覚えた。

 ここにボブというプレイヤーがいると思ってくれ。彼は赤緑デッキを好んでプレイしている。

 ボブが第10版のブースターを開けたとしよう。おそらく彼はそこに各色のカードをそれぞれ5枚に1枚の割合で見つけることになる。よって、おそらく彼の赤緑デッキに入れることの出来るカードは5枚に2枚の割合だけ入っているわけだ。

 アラーラ再誕が友好色ごとの2色マルチカラーカードしか入っていなかった場合を想像してみてくれ。それぞれの組み合わせが5分の1ずつセットを占めることになる。

 先ほどのボブがアラーラ再誕のブースターを開けた場合、彼の赤緑デッキに入りうるカードは5枚に1枚だけだ。ボブにとってプレイできるかもしれないカードの枚数ががくんと減ってしまうわけだ。

 そもそも友好色ごとの組み合わせしかないという仮定自体、非現実的な話だ。アラーラの断片ブロックの3つ目のセットである以上、このセットはブロックのテーマを引き継がないわけにはいかない。

 つまり3色のマルチカラーが大量に登場しないわけがなく、かつ敵対色のカードも多少含まれる必要がある。これが何を意味するかと言うと、ボブのデッキに入りうるカードは5枚に1枚よりもさらに少なくなるということだ。

 デザインチームにはこれが看過できない事態であるように思われた。ボブのようなプレイヤーもアラーラ再誕のブースターパックからデッキに入れられるカードを相当枚数引けるべきなのだ。

 リミテッドのプレイテストの初期段階において、デザインチームはこれに関連した問題に直面した。

 アラーラの断片ブロックを用いて行われるリミテッドのデッキは多くの場合において友好的な3色を含むデッキになる。そのため単色のカードについては5種類のうち3種類のカードがデッキに入りうるが、友好色のマルチカラーについては5種類のうち2種類の組み合わせしかデッキに入らない。

 第10版であれば全体の半分以上のカードがデッキに適しうるが、アラーラ再誕には単色カードが存在しない。

 これが何を意味するか? そう、デザインチームはシールドデッキを組もうとした際にアラーラ再誕から出てくるカードに関しては通常より使えるカード量の割合が少なくなってしまうということだ。

 これはあまり嬉しいニュースではない。

 新しいカードは目いっぱいプレイしたいのに、セットの方向性がそれを妨げているのだ。これは解決されなければならない問題だとアラーラ再誕のデザインチームは考え、そこで彼らはちょっと変わった解答を思いついた。

 混成マナだ。

 一例としてはビジュアルスポイラーにもあがっていた《ジャンドの斬刃/Jund Hackblade》だ。
Jund Hackblade / ジャンドの斬刃 (黒/緑)(赤)
クリーチャー - ゴブリン(Goblin) 狂戦士(Berserker)
あなたが他の多色のパーマネントをコントロールしている限り、ジャンドの斬刃は+1/+1の修整を受けるとともに速攻を持つ。
2/1
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Jund+Hackblade/

 そのマナコストを見て欲しい。

 《ジャンドの斬刃/Jund Hackblade》はどこからどうみても「ジャンドな」カードだ。そのマナコストには黒と赤と緑が含まれている。

 しかしそれら3つのマナが一度に必要になることはない。黒/緑の混成マナのおかげで、君が《ジャンドの斬刃/Jund Hackblade》を唱えるときに必要なのは(黒)(赤)か(緑)(赤)だけでいい

 アラーラ再誕の金枠カードはすべて同じ方式に従っている。断片の中央の色である通常のマナが1点、そして中央の色に接するそれぞれの友好色2つを含む混成マナが1点。

 これによって、これらのカードは断片の1つに属しつつもまるで同時に2つの友好色マルチカラーであるかのようにプレイすることが可能となったのだ。

 《ジャンドの斬刃/Jund Hackblade》は混成マナを含む金枠クリーチャーのサイクルの1枚だ。もう1枚、サイクルから紹介しよう。これが私の今日のプレビューカードでもある。
Esper Stormblade / エスパーの嵐刃 (白/黒)(青)
アーティファクト クリーチャー - ヴィダルケン(Vedalken) ウィザード(Wizard)
あなたが他の多色のパーマネントをコントロールしている限り、エスパーの嵐刃は+1/+1の修整を受けるとともに飛行を持つ。
2/1
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Esper+Stormblade/

 《エスパーの嵐刃/Esper Stormblade》は《ジャンドの斬刃/Jund Hackblade》に非常によく似ている。しかしこのカードは《ジャンドの斬刃/Jund Hackblade》よりもさらに自身の断片を上手く体現している。

 《ジャンドの斬刃/Jund Hackblade》と同じように、《エスパーの嵐刃/Esper Stormblade》も (白)(青)か (黒)(青)のいずれかでもプレイ可能なマナコストを持っている。

 しかしそれだけでなく、《エスパーの嵐刃/Esper Stormblade》はエスパー特有の有色アーティファクトカードでもある。それによってエスパーのカードたちと多くのシナジーを得ることができるのだ。

 君の《宮廷のホムンクルス/Court Homunculus》は大きくなるし、君の《聖域のガーゴイル/Sanctum Gargoyle》で手札に戻すこともできるし、その他のコモンのエスパー・ハイブリッド金枠カードたちともシナジーを形成することができる。さらに他のマルチカラーパーマネントと一緒にいることで飛行を得られるため、エスパーの飛行部隊たちとの相性も良い。

 もう1つ面白いことを教えてあげよう。この混成マナを持つ金枠のクリーチャーたちはアラーラ再誕の境界石と完璧なシナジーを形成するんだ。

 君はその代替コストを用いて1ターン目に《火荒の境界石/Firewild Borderpost》をプレイすれば、2ターン目に速攻を持った《ジャンドの斬刃/Jund Hackblade》が3点ダメージのアタックに向かえるという寸法だ。
Firewild Borderpost / 火荒の境界石 (1)(赤)(緑)
アーティファクト
あなたは火荒の境界石のマナ・コストを支払うのではなく、(1)を支払うとともにあなたがコントロールする基本土地1つをオーナーの手札に戻してもよい。
火荒の境界石はタップ状態で戦場に出る。
(T):あなたのマナ・プールに(赤)か(緑)を加える。
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Firewild+Borderpost/

 《火荒の境界石/Firewild Borderpost》から《エスパーの嵐刃/Esper Stormblade》へとつなぐスタートはさらに素晴らしい。なぜなら《火荒の境界石/Firewild Borderpost》はそれ自体がアーティファクトだからだ。

 君のそのエスパーデッキに当然入っているであろうたくさんのアーティファクト関係のカードたち(例えば《エーテリウムの達人/Master of Etherium》や《金線の天使/Filigree Angel》など)の助けとなってくれるだろう。
Master of Etherium / エーテリウムの達人 (2)(青)
アーティファクト クリーチャー - ヴィダルケン(Vedalken) ウィザード(Wizard)
エーテリウムの達人のパワーとタフネスはそれぞれ、あなたがコントロールするアーティファクトの総数に等しい。
あなたがコントロールする他のアーティファクト・クリーチャーは+1/+1の修整を受ける。
*/*
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Master+of+Etherium/

Filigree Angel / 金線の天使 (5)(白)(白)(青)
アーティファクト クリーチャー - 天使(Angel)
飛行
金線の天使が戦場に出たとき、あなたはあなたがコントロールするアーティファクト1つにつき3点のライフを得る。
4/4
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Filigree+Angel/

 おそらく君たちはこういった特殊なマナコストを持つカードのデザインには独特の難しさがあるのではないか、と思うかもしれない。それは大体において正しい。カラーパイの区分に属する効果を持つ混成マナの金枠カードを作るのはなかなかの難事だった。

 それらのカードのうち、他のカードよりも簡単に作れたものもあったし、他のカードよりもシンプルな出来なものもあった。以下に挙げるビジュアルスポイラーから引っ張って来たカードは、混成マナの金枠カードの中でもシンプルなものの例だ。
Marisi’s Twinclaws / マリーシの双子爪 (2)(赤/白)(緑)
クリーチャー - 猫(Cat) 戦士(Warrior)
二段攻撃
2/4
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Marisi%27s+Twinclaws/

 《マリーシの双子爪/Marisi’s Twinclaws》はハイブリッドカードのシンプルな面を挙げるのに最高の例だ。Multiverse(訳註:R&Dが開発中に用いる掲示板のようなもの。多種多様な意見、野次、疑問、回答などが飛び交う)のコメントを見てみよう。

  Doug Beyer:2008/04/28
    とてもクールなデザインだ
    キーワード1つとイカしたマナコストだけでこれだけの表現ができるなんて凄いね
    とても上手くまとまってると思うよ
    (Treefolk Knightって点を除けば)

  Aaron Forsythe:2008/05/04
    彼はTimbermareにまたがって戦場へ向かうんだろうね!

  Tom LaPille 2008/08/04
    私はこいつが大好きだよ

  Ken Nagle 2008/08/11
    《貴神の神罰/Scourge of the Nobilis》の対象にふさわしいな!

 《マリーシの双子爪/Marisi’s Twinclaws》は、名前を持ってなかったことを除けば、生まれたときからまさに今の姿だった。ああ、それともう1つ、このカードは「ツリーフォーク・騎士(Treefolk Knight)」という笑ってしまいそうなクリーチャータイプの組み合わせだった。そのため私はプレイテストでこのカードが登場するたびに剣と盾を構えた木々のイラストをプレイテスト用のカードに描きこんでやったものだ。

 それはそれとして、このカードがカラーパイ上、何の問題もないことは明らかだった。白も赤も二段攻撃を持っているし、それは奇妙なほどに緑っぽさを感じる2/4というスペック(緑の蜘蛛たちを思い出さないか?)に見事にはまっていた。 また二段攻撃は《グリフィンの導き/Griffin Guide》や《腐れ蔦の外套/Moldervine Cloak》と結びつくことで化け物じみたクリーチャーを生み出せる。

 《マリーシの双子爪/Marisi’s Twinclaws》はシンプルで楽しく、普通でない要素の組み合わせにも関わらず、とても上手くまとまったクリーチャーだ。

 しかし他の混成マナを持つ金枠カードたちのデザインはそう簡単ではなかった。次に挙げるのは今日2枚目のプレビューカードであり、非常にデザインが難産だったハイブリッド金枠カードだ。
Slave of Bolas / ボーラスの奴隷 (3)(青/赤)(黒)
ソーサリー
クリーチャー1体を対象とし、それのコントロールを得る。そのクリーチャーをアンタップする。それはターン終了時まで速攻を得る。次の終了ステップの開始時に、それを生け贄に捧げる。
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Slave+of+Bolas/

 これまたMultiverseに寄せられたコメントを見てみよう。

  Aaron Forsythe:2008/04/25
    レアからHCに移動させたよ
    
  Dave Guskin:2008/08/13
    まだちょっと気になってるんだけどさ
    黒マナ中心的な金枠ハイブリッドなのにメカニズムに黒っぽさがないよね
    コンセプトはいいんだけどね
    でも例えばコストを重くしてライフ回復的な要素を足すとかどう?
    (インベイジョンのSpinal Embraceみたいに)

  Alexis Janson:2008/08/14
    今あるように、生け贄部分が黒っぽさ担当だと俺は思うよ

  Tom LaPille:2008/08/15
    AJに賛成
    このままでいいと思う

 このカードの効果は奇妙な組み合わせだ。

 一時的なコントロール奪取は元々《命令の光/Ray of Command》に見られるように青のものとして始まったが、今では《脅しつけ/Threaten》のように赤の分野になっている。このことが赤青のハイブリッドカードであることの納得のいく説明になっている。

 黒である点は、もちろん自分の目的のために用いた対戦相手のクリーチャーが用済みになった時点で始末してしまう点だ。セットに取り組んでいた頃の上記のコメントにもあるように、私はこのカードは非常に魅力あるデザインだと思った。

 それだけでなく、《ボーラスの奴隷/Slave of Bolas》は実際にプレイするのも楽しいカードだ。

 先週の水曜日に行われたウィザーズ社員限定のプレリリースで、私は運の良いことに自分の緑/黒/赤デッキにちょうどいい《ボーラスの奴隷/Slave of Bolas》2枚を引くことができた。

 私は時間の関係で1マッチしか遊べなかったし、そのマッチで奪えた中で一番良かったクリーチャーは《モストドン/Mosstodon》だった。

 しかし私以外に目を向けると《ボーラスの奴隷/Slave of Bolas》はとんでもないクリーチャーたちを奪ってはひどいことをしていた。奪われていたクリーチャーたちは例えば《炎破のドラゴン/Flameblast Dragon》や《スラクジムンダール/Thraximundar》などだ。

 奪取が成功するたびに、私は《ボーラスの奴隷/Slave of Bolas》を唱えた側が笑みを浮かべたり、必死にそれをこらえようとしつつもこらえきれないでいるのを見た。

 プレリリースでの体験は私に混成マナの金枠カードたちがあるべき場所に収まったと確信させるに十分なデモンストレーションとなった。

 当初、私は自分の3色デッキに十分な枚数のカードが引けないのではないかという懸念があった。しかし実際には混成マナの金枠カードたちが山となって積まれたおかげで私のデッキは無事に完成した。

 その山には《ジャンドの斬刃/Jund Hackblade》と2枚の《ボーラスの奴隷/Slave of Bolas》、その他にも(まだ公表できない)2枚のハイブリッド金枠カードがあった。

 ジャンドカラーのハイブリッド金枠カードたちは非常にありがたかった。なぜなら私が開けた3パックのアラーラ再誕からは私の色に合う土地サイクリングカードが入っておらず、かつ境界石に至ってはトータルで0枚だったからだ。

 マナ調整をしてくれるカードが欠けている状態において、《ジャンドの斬刃/Jund Hackblade》やその他の(黒/緑)(赤)というマナコストのカードたちは非常に助けとなる存在だった。

 もちろん対戦相手の側にも大量のハイブリッド金枠カードが並んでいた。私はあらためて混成マナを加えることを決めてくれたデザインチームに深く感謝した。


 混成マナの金枠カードたちはデザインチームの抱えていた問題を驚くほどエレガントに解決してくれた。

 これらのカードはアラーラの断片ブロックに骨組みにピタリとハマってくれた。何しろ混成マナのおかげでこれらのカードのマナコストはそれぞれの断片にしっかりと属してくれることになったからだ。

 そして彼らはまた多色というアラーラ再誕のテーマにもきちんと当てはまっている。唱えるのに2色必要ということのも含めてだ。さらに彼らは2つ以上の有効色のペアに同時に属すことで多くのプレイヤーたちにブースターごとのプレイ可能なカードを増やしてくれもした。

 一見、奇妙に見えるかもしれないこの混成マナの金枠カードたちは、そう、デザインチームの懸念を完璧なまでに払拭してくれたんだ。

 今週末はアラーラ再誕のプレリリースだ。

 私はこのあいだの水曜日にウィザーズ社員限定のプレリリースで大変楽しい思いをしてきた。今週末、君たちに同じ舞台にご招待できると思っている。

 私たちのサイトに新たに作られたイベントロケーターは、君の近所で行われるプレリリースを見つける助けになってくれるはずだ。ぜひ土曜日はプレリリースで両手いっぱいの新しい「黄金」を体験しに行ってくれ!
【翻訳】墓地にまつわるイニストラードのカードたち/Graveyard Shifts【Daily MTG】
Tom LaPille
2011年11月18日
元記事:http://www.wizards.com/magic/magazine/article.aspx?x=mtg/daily/ld/169

 イニストラードのテーマは墓地であり、墓地はイニストラードのメカニズムの心臓そのものだ。

 公式の検索機能であるGathererで軽く調べただけでも分かるように、イニストラードの基本地形を除いた全249枚のカードのうち69枚に「墓地」という言葉が含まれている。そのうちフラッシュバックを持つカードは27枚だけだ。

 その他にも17枚のカードに「死亡する(dies)」という言葉が含まれ、9枚に「死亡した(died)」という言葉が含まれている。これらはつい最近まで「墓地」という言葉で表現されていたものだ。

 なかなかのカード枚数だろう?

 私たちはデベロッパーとして、墓地をデザインの対象として掘り返すことに潜む危険性については理解しているつもりだ。それにはいくつか理由があり、その大半はこのイニストラードの開発中にも様々な形で顔をのぞかせてきた。

 今日はそれらの問題点を表面化させたカードたちを紹介していこうと思う。その過程で問題点そのものについても語ることになるだろう。

Armored Skaab / 甲冑のスカーブ (2)(青)
クリーチャー - ゾンビ(Zombie) 戦士(Warrior)
甲冑のスカーブが戦場に出たとき、あなたのライブラリーの一番上から4枚のカードをあなたの墓地に置く。
1/4
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Armored+Skaab/

Deranged Assistant / 錯乱した助手 (1)(青)
クリーチャー - 人間(Human) ウィザード(Wizard)
(T),あなたのライブラリーの一番上のカードをあなたの墓地に置く:あなたのマナ・プールに(1)を加える。
1/1
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Deranged+Assistant/

 遠い昔、遠い宇宙の彼方で《弧炎撒き/Arc-Slogger》というカードが作られた。その頃、それはなかなか強いカードだった。ミラディンブロック構築で2つの異なるデッキのキーパーツとして活躍し、それらのデッキのうち片方は次の年にスタンダード環境へと持ち込まれた。

 デカい図体と一緒に3発の《ショック/Shock》を内包したそいつは構築で使われるのに十分な強さだったが、それにも関わらず、このカードはトーナメントプレイヤーにしか受けなかったように思われる。

 ほとんどのプレイヤーは自分のデッキのほとんどのカードが使われずに失われてしまうことにアレルギー反応を起こし、消費者調査によるとこの《弧炎撒き/Arc-Slogger》はミラディンで最も嫌われたカードの1枚だった。

 それからのち、私たちはトーナメント仕様なカードとコモンカードの両方から、自分のデッキを自ら「すり減らす(mill)」効果を極力排除するようにしていた。

 《甲冑のスカーブ/Armored Skaab》と《錯乱した助手/Deranged Assistant》の2枚はその例外だ。

 これら2枚はイニストラードの限定環境においては青白以外の青デッキにとって重要なパーツとなる。しかしそうであっても大半のマジックプレイヤーにとっては《甲冑のスカーブ/Armored Skaab》は単に《角海亀/Horned Turtle》の下位互換に過ぎない存在だろう。

 もし私たちが自身のデッキを「すり減らす(mill)」効果を避けたいのなら、なぜ今回もそうしなかったのだろうか? それは、いくつかの要素が上手く結びついたからだ。

 私たちの目的としては、青のゾンビたちは構築に出番のない強さのかわりに全て墓地をたやすく肥やすことが出来るようになっており、その他の4色はどちらかというと真っ正直な効果が多い中で、使いづらく居心地の悪さを感じさせるカードはホラーのテーマに合っているように感じられたためだ。

 これらを作ったことは成功だったと思っている。なぜなら自分のデッキを削りたおす青のデッキたちは私や他のスパイクなプレイヤーたちに大ヒットだったからだ。しかしそれでもこれらはやはり例外的な存在と言える。

 私はまた青という色にこの役割が任せられたことにも満足している。奇妙な動きをするデッキに傾倒しているプレイヤーたちは総じて青を好む傾向があるからだ。

Back from the Brink / 瀬戸際からの帰還 (4)(青)(青)
エンチャント
あなたの墓地にあるクリーチャー・カードを1枚追放し、それのマナ・コストを支払う:そのカードのコピーであるトークンを1体戦場に出す。この能力は、あなたがソーサリーを唱えられるときにのみ起動できる。
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Back+from+the+Brink/

 これがいつ開発用のファイルに加わったのか、イマイチ思い出せない。開発の後期だったことは確かだが、それ以上はさっぱりだ。ただこのカードの目的だけは覚えている。それは「クリーチャーにフラッシュバックを与える」ことだ。

 またそれが実際に成功した瞬間も覚えている。シールドデッキによるプレイテスト時のことだ。

 私が使っていたのは遅いデッキで自分で自分の山を削るタイプのデッキだった。こういうタイプのデッキはその頃まだ誰も試していなかったが、私はこのデッキこそ《瀬戸際からの帰還/Back from the Brink》のためのデッキだと感じられた。

 《瀬戸際からの帰還/Back from the Brink》がその効果を発揮しだしたとき、次から次へとコピーしたクリーチャーたちを表すために馬鹿みたいに大量の紙切れが戦場を乱舞することなり、私たちは本当にこれは大丈夫なのかと目をむいた。

 大量の《幻影の像/Phantasmal Image》と《ファイレクシアの変形者/Phyrexian Metamorph》でも同じ状況は生じ得るが、それは同じゲーム内でそれらを大量に引いた場合のみだ。たった1枚のカードから大量のクローン・トークンが生み出されるのとはまったく違う話だ。

 3つの点がこのカードの命を救った。

 1つ目として、これはマジックオンライン上では何の問題もなかった。プログラムがありがたくもプレイヤーのために全文記載された素晴らしいトークンを作ってくれるからだ。

 2つ目に、このカードはフューチャーフューチャーリーグ(訳註:製品発売前に開発部でプレイテストのため、新カードを含めて開催されるリーグ戦)でも何の問題も起こさなかった。そのため、競技レベルのトーナメントでも大量の紙切れに困らされるような事態は起きないだろうと考えられた。

 3つ目に、その時点ですでにカードイラストは出来あがってしまっており、そのイラストよりふさわしい効果を誰も思いつけなかったのだ。

 それだけの理由があれば十分な話で、私たちはこのカードをそのまま世に出すことにした。

Dearly Departed / 安らかに旅立つ者 (4)(白)(白)
クリーチャー - スピリット(Spirit)
飛行
安らかに旅立つ者があなたの墓地にある限り、あなたがコントロールする各人間(Human)クリーチャーは、その上に追加の+1/+1カウンターが1個置かれた状態で戦場に出る。
5/5
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Dearly+Departed/

 デザインの作業が行われているとき、Mark Rosewaterはしばしばホラーを感じさせる集団や群れを黒以外の色で作ってみるように、という課題を私たちにつきつけた。

 私が作ってみたのは、先祖の霊がつきまとって助けてくれるというものだった。守護霊のような存在でありつつも薄気味悪さを感じさせてくれるクリーチャーだ。私のデザインしたそのコンセプトがこの《安らかに旅立つ者/Dearly Departed》となった。

 しかし私の生み出したバージョンでは、+1/+1のカウンターは君のコントロールする全てのクリーチャーに対して与えられるというものだった。さて、何が起きたのだろう?

 一言で言えば、-1/-1カウンターを相殺してしまうこの効果は《台所の嫌がらせ屋/Kitchen Finks》や《残忍なレッドキャップ/Murderous Redcap》のような輩たちと残念なループを形成してしまうのだ。

 例えば、モダンのデッキに《出産の殻/Birthing Pod》を用いて《臓物の予見者/Viscera Seer》と《台所の嫌がらせ屋/Kitchen Finks》と《シルヴォクののけ者、メリーラ/Melira, Sylvok Outcast》を戦場に出し、無限ライフを得るデッキがある。

 《安らかに旅立つ者/Dearly Departed》も同様の効果を生み出しうるカードとなる可能性があった。またKen Nagleは統率者戦においても不快なコンボのキーパーツとなる危険性について示唆した。

 私がそれを避けるために思いついた修正は、特定の条件でカードが自身をゲームから追放するような効果を付加することだったが、Erik Lauerはもっとエレガントな修正を思いついてくれた。それが、ボーナスの対象を人間に限る、というものだった。

 これによって、今後も常にこのカードの存在を気にし続けなければいけないという事態をほぼ回避し、かつ既存のカードたちとの組み合わせも綺麗に解決できた。

 ありがとう、Erik!

Dissipate / 雲散霧消 (1)(青)(青)
インスタント
呪文1つを対象とし、それを打ち消す。その呪文がこれにより打ち消された場合、それをオーナーの墓地に置く代わりに追放する。
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Dissipate/

 私たちは今なお事あるごとに《取り消し/Cancel》を世に出したことについて苦情を寄せられている。私たちは基本的でシンプルな効果に適切なコストを与えることに喜びを感じている。そして《取り消し/Cancel》も構築レベルにまったく届かないというほど弱いカードだとは思っていない。

 私たちはフューチャーフューチャーリーグで《雲散霧消/Dissipate》を唱えるのが楽しかったし、実際にセットがリリースしたあとのプレイヤーたちも同様のようだ。

 先のシーズンでは、ほとんどアーティファクトの入っていないデッキにもたくさんの《冷静な反論/Stoic Rebuttal》が使われていた。楽しめる構築環境を作るために私たちが実践している理論の1つに「プレイに足るだけのパワーレベルを持たせつつも悩むことなくデッキに入るほどのレベルにはしない」がある。これによってフォーマットにバリエーションが生まれるからだ。

 上級のプレイヤーたちが下位互換ともとれるようなカードたちを使ってくれる限り、私たちは今のやり方を続けようと思っている。

Ghoulraiser / グール起こし (1)(黒)(黒)
クリーチャー - ゾンビ(Zombie)
グール起こしが戦場に出たとき、あなたの墓地にあるゾンビ(Zombie)・カードを1枚無作為に選んであなたの手札に戻す。
2/2
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Ghoulraiser/

 《グレイブディガー/Gravedigger》は多くのプレイヤーにとって明らかに弱すぎるカードにしか見えない。4マナで2/2? しかも4ターン目に出番があることがほとんどないカード? 誰がそんなカードを使いたがるというんだ?

 慣れたプレイヤーであればこのカードがそれなりに強いことを知っている。しかしそれでもこのカードがときにゲームを長引かせ、戦場の優位を絶対的なものにしつつも実際に勝利するまで長い時間を要させるようなカードであることも知っている。

 《グレイブディガー/Gravedigger》の最悪のケースはもちろん2枚目の《グレイブディガー/Gravedigger》によって延々と墓地からの回収が繰り返されることだ。

 イニストラードのデザインで、Richard Garfieldは墓地から手札に回収するカードをランダムで選ぶというアイデアを思いついた。それによって私たちは《グレイブディガー/Gravedigger》と似たようなカードをより安いコストで作れることになった。なぜなら明らかにランダムに回収するほうが効果としては弱いし、かつ無限に回収が行われるような事態も起きづらくなるからだ。

 これはいいアイデアに思えたが、実のところ、私は実際のプレイで回収が本当にランダムに行われるのかどうかについては確証がなかった。

 2週間前の土曜日、私はドラフトで青黒のゾンビデッキを作った。それには2枚の《その場しのぎのやっかいもの/Makeshift Mauler》と《スカーブの大巨人/Skaab Goliath》と《死体の突進/Corpse Lunge》が入っていた。このデッキでは《グール起こし/Ghoulraiser》で掘り起こしたくないゾンビを回収してしまうことは実に稀だった。

 もちろんそれは私にとって良いニュースだった。

 なぜならそれはつまり私の《死体生まれのグリムグリン/Grimgrin, Corpse-Born》は素晴らしい働きを何度も何度も見せてくれたことにほかならないからだ(註)。
(註) 《死体生まれのグリムグリン/Grimgrin, Corpse-Born》と《グール起こし/Ghoulraiser》
 推測だが、おそらく《グール起こし/Ghoulraiser》の能力が対象をとっていないことを利用してのコンボの話と思われる。

 1. 墓地が空の状態でも構わずに《グール起こし》を戦場に出す
 2. 能力をスタックに積む(対象をとらないので墓地が空でも問題なし)
 3. 《死体生まれのグリムグリン》の能力で《グール起こし》を生け贄に捧げる
 4. 《死体生まれのグリムグリン》をアンタップして+1/+1カウンターを置く
 5. スタックに積んでおいた《グール起こし》の能力を解決する
 6. 墓地に落ちている《グール起こし》を手札に回収する
 7. 最初に戻る

 私が今までに何度も、デザインチームが問題の穴をふさごうと頭脳的で高尚なデザインを試みては、プレイヤーがそこに風穴を開けてくるのを見てきた。

 今回の例は実に奇妙な出来事だった。何しろ私自身がその風穴を開ける役割を担ったのだ。後悔すべきことなのかどうなのか、今でもよく分かっていない。

Gutter Grime / 排水路の汚濁 (4)(緑)
エンチャント
あなたがコントロールするトークンでないクリーチャーが1体死亡するたび、排水路の汚濁の上にスライム(slime)・カウンターを1個置く。その後、「このクリーチャーのパワーとタフネスはそれぞれ、排水路の汚濁の上に置かれているスライム・カウンターの数に等しい。」を持つ緑のウーズ(Ooze)・クリーチャー・トークンを1体戦場に出す。
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Gutter+Grime/

 このカードはある意味で《瀬戸際からの帰還/Back from the Brink》に似たところのあるカードだ。自身のデッキを削ることを前提とした長期戦用のカードであり、じっくりと時間をかけてアドバンテージを稼いでいくタイプのカードだ。

 墓地をテーマとすることはこういったカードを特に生み出しやすくする。そして、実のところ私はそれをあまり好ましくは思っていない。それでもなお、そのカテゴリに属するカードであるにも関わらず《排水路の汚濁/Gutter Grime》はイニストラードのカードの中で私のお気に入りの1枚だ。

 上記に述べたタイプのカードを私が好ましくないとする理由は、すでにゲームの勝敗がほぼ明らかな状態にも関わらず私と対戦相手がゲームを遊び続けなければならない状況を生み出しやすくなるからだ。

 しかしこの《排水路の汚濁/Gutter Grime》は逆で、その指数関数的な成長によって早々にゲームを終わらせてくれる。このカードは動き始めるまでには時間がかかる。しかし私の元に6/6のウーズが6体もいれば? そう、あっという間に決着がつくだろう。

 加えていうならゲームの結末としてはこれはなかなか楽しいものだ。特にデッキをゆっくりと削っていくような試合の結末としてはね。

Mirror-Mad Phantasm / 鏡狂の幻 (3)(青)(青)
クリーチャー - スピリット(Spirit)
飛行
(1)(青):鏡狂の幻のオーナーは、それを自分のライブラリーに加えて切り直す。そのプレイヤーがそうした場合、そのプレイヤーはそのライブラリーの一番上のカードを、《鏡狂の幻/Mirror-Mad Phantasm》という名前のカードが公開されるまで公開し続ける。そのプレイヤーはそのカードを戦場に出し、これにより公開された他のすべてのカードを自分の墓地に置く。
5/1
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Mirror-Mad+Phantasm/

 これがデザインファイルに入っているのを見たとき、私にはこいつの使い道がまったく思いつかなかった。最終的にこいつがデベロップメントのファイルに加わったのを見たときも同様に、私は使い道がまったく思いつかないままだった。

 そしていまだにこいつの使い道が分からないままだ。

 すでに語ったと思うが、イニストラードのデザインにはRichard Garfieldも参加している。面白いゲーム環境を生み出す才能を持った彼は、一緒にいることで楽しい時間を過ごせるし、その才能はセットの構造を造りあげるために必要な鍵でもある。

 しかし個別のカードデザインとなると、彼の才能はしばしば奇妙で奇抜な方向へと向かう。言うまでもないことだが、この《鏡狂の幻/Mirror-Mad Phantasm》もまたそういったカードのうちの1枚だ。

 彼の作る奇抜なカードたちはあまりにもヘンテコ過ぎるため、全てをファイルに残すわけにはいかなかった。もしそんなことをすればセットに含まれる変なカードの割合はあまりに高くなり過ぎてしまうだろう。

 そんな中、なんとか生き残った1枚がこれだ。

 正直、誰もこのカードの本当の使い道を見つけ出すことができないんじゃないかと思っている。それとも君ならそれを見つけ出せるんだろうか?

次の領域へ

 墓地をテーマとしたセットには「ある領域からある領域へ」他のカードを移動させるカードがあふれている。私はカードではないけれど、私もまたつい最近「ある領域へ」の移動を経験したばかりだ。

 ウィザーズで働き始める前、私のゲームに関する経験は特にカードゲームに限られていた。この3年間で、私の地平は他のいくつもの分野へと拓けていった。ボードゲームやミニチュアゲームなどだ。

 その中でも特に私が傾倒していったのは、卓上ロールプレイングゲームだ。ここ1年間は、昔マジックをそうして楽しんでいたように、ロールプレイングゲームのためにいくつものコンベンションを飛び回っている。

 実のところ、つい先週の日曜日にコンベンションから帰って来たばかりだ。その週末に味わった楽しさは、私がマジックのプロツアーでプレイヤーとして味わったものに勝るとも劣らないものだった。

 私はつい最近、ダンジョンズアンドドラゴンズのR&Dへと異動する機会を与えられた。

 そうするべきか否かについては随分と悩んだけど、きっとこれがそのときなんだと思った。今、この瞬間も思っている。最初のうちはとまどうことになるかもしれない。だけどこうすることで私が今一番夢中なことに身を投じることが出来るんだ。

 Latest Developmentのコラムを君たちに届けることが出来たこの3年間は私にとって非常に光栄で、かつ楽しい時間だった。だけど一歩足を踏み出す時間が来た。

 君たちとコラムについては、デベロッパーのZac Hillにあとをお願いしてある。。サンクスギビングのあとの金曜日にもう少しだけ何か書くことになるかもしれない。だけどそれ以降はしばらく私の記事を見ることはないだろう。

 1997年にマジックに出会わなかったら、私はきっとまったく違った人生を歩んでいたと思う。14年間ものあいだマジックと歩んできた時間が私に教えてくれたもの、それは人生そのものであり、きつい仕事であり、ゲームデザインであり、そしてほかのいかなるものであっても味わえなかった楽しい時間だ。

 いつか君が、振り返って同じ思いを抱いてくれるよう祈ってる。
 プロツアー殿堂サイトにあるインタビュー動画の翻訳。正しくは動画前半の「ウィザーズのメンバーや有名プレイヤーたちからのコメント」部分の翻訳。コメントしている人たちの簡単な説明つき。

 動画の後半にご本人のインタビュー部分もあるにはあるんだけど……元の音声が(インタビュアー含めて)消されていて、英語吹き替えがかぶせられている状態。これには動画のコメントでも非難ごうごう。

 元が日本語のインタビューを英語に訳したものを日本語に訳すってあまりにもなんなので、いつか元の音声が聞けると信じて未訳のまま。 末尾にご本人のインタビュー部分も追記。

【翻訳】殿堂入りプレイヤー中村修平のインタビュー(動画)/Pro Tour Hall of Fame 2011: Shuhei Nakamura【Daily MTG】
サイト:
http://www.wizards.com/Magic/Magazine/HallOfFame.aspx?x=mtgevent/hofplayer/snakamura
動画(Youtube):
http://www.youtube.com/watch?v=UoaKVm_Pf9U

ナレーター
 日本の中村修平が初めてグランプリに足跡を残したのは2001年のグランプリ神戸の決勝戦だった。

Ron Foster(註):
 彼が初めてトーナメントシーンに姿を現したのはグランプリ神戸01で、もう1人の日本の偉大なマジックプレイヤーである石田相手に2位に終わったときだね。
(註) Ron Foster
 マジックザギャザリングの組織化マネージャー日本担当。ツイッターは日本語。
 ツイッターアカウント:http://twitter.com/#!/RonMFoster

ナレーター
 彼がプロツアーレベルでトップ8の活躍をできるようになったのはグランプリトップ8を4回ほど獲得してからのことだった。2004年シーズンの終わり、彼は藤田剛史と津村健志とともに史上最強と言われる日本代表チームのメンバーの1人だった。

Luis Scott-Vergas(註):
 僕がリスペクトしている人はみんな修平に投票してたよ。ダントツだよね。
 プロツアーのトップ8もあるし、生涯プロポイントもそうだし、プレイヤーオブザイヤーをとってるってだけじゃなくて毎年のプレイヤーオブザイヤーレースの常連だし、ゲームのプレイングだけじゃなくてゲームへの貢献もすごいし……彼を超えるのは相当難しいよね
(註) Luis Scott-Vergas
 マジックのトッププレイヤーが作るチームで中村修平も所属しているChannel Fireball所属。ここ5年の間に、プロツアートップ8が4回(優勝1回)、グランプリトップ8が7回(優勝4回)

ナレーター
 初めてのプロツアートップ8はその1年後、2005年シーズンの始まった直後のコロンブスでのことだった。それからの6シーズンで彼はトップ8をさらに4つ積み上げる。そして彼はプレイヤーズクラブの最高レベルに達すると、以降そこから落ちることはなかった。

Randy Buehler(註):
 マジックのトップであり続けてる……驚異的なほどにね。修平ときたらプレイヤーオブザイヤーレースのトップ5に、ここ6年間で5回も入ってるんだ……! 1位、2位、そして3回の5位だよ。
(註) Randy Buehler
 2007年に殿堂入りしているアメリカのトッププレイヤー。
 ウィザーズ社に所属していた時期もあるらしい。

ナレーター
 修平は2008年にプレイヤーオブザイヤーのトロフィーを獲得している。

Brian Kibler(註):
 修平は……僕が思いつく限りでもっともこの賞にふさわしいプレイヤーだね。彼の生涯プロポイント、400を超えてるんだろ? それって……なんていうか天文学的な数字だよね。
(註) Brian Kibler
 アメリカのトッププレイヤーで2010年に殿堂入りしたばかり。最近だと去年のグランプリ仙台で活躍を見せたキブラーバントというデッキ名で有名かもしれない。

ナレーター
 このマジックというゲーム史上、彼ほど長い旅程をいとわなかったプレイヤーはいなかっただろう。彼はどの週末にもトーナメントがある場所に姿を現していた。

Scott Larabee
 いいか、俺はもうほとんどグランプリに参加してない。だけど、グランプリに行く、ほら、修平がいた! ってなもんだよ(笑)
 そして思い出すんだ。
 あれ? 2週間前に地球の裏側で開催されてたプロツアーでも見かけたぞ? ってね。
(註) Scott Larabee
 ウィザーズ社所属。マジックの組織化マネージャーの1人。

Patrick Chapin(註):
 どのグランプリでも、BYEも持ってないのにグランプリ予選に参加してるんだ。
 彼はただただこのゲームが好きなんだ。とってもね。
(註) Patrick Chapin
 90年代からプレイしている古豪であり、2011年もプロツアーとグランプリでそれぞれ1回ずつベスト8している現役のトッププレイヤー。

ナレーター
 修平にとって、その目的を達成するために遠すぎるという場所は存在しない。

Mike Turian(註):
 ひょいっと、文字通り飛んでグランプリに参加して優勝して、それからまた2日かけて移動して、ほら次のグランプリだ。多分だけどセントルイスがどのあたりにあるか分かってないんじゃないかな。それでも次のグランプリで勝っちゃうんだ。
(註) Mike Turian
 ウィザーズ社所属。2008年に殿堂入り。チーム「Potato Nation」の一員。

Ron Foster
 彼はセントルイスと広島でのグランプリを立て続けに制した。どっちもコールドスナップのリミテッドだった。明らかにコールドスナップが得意だった彼を、日本人プレイヤーたちはスノーマスターって呼んでたよ。

ナレーター
 地球を行ったり来たりしながら修平は17のグランプリでトップ8入りし、そのうちの3つで優勝している。

Zak Hill(註):
 グランプリセントルイスの決勝で彼と戦ったとき……なんだろうね、まるで何をしてもその上を行かれてるみたいな感覚だった。
(註) Zak Hill
 中村修平が優勝したグランプリセントルイスで、決勝戦の相手だったプレイヤー。StarcitygamesのサイトでChatter of the Squirrelという記事を週刊で書いていたことがある。

ナレーター
 修平はまさにマジックを遊び、そして世界を見た。

Martin Juza(註):
 僕らは車を借りてフロリダ国立公園で観光したんだよね。んで道の真ん中にワニがいたんだ。修平がそれを見て「すごいなあ、ワニを見たの生まれて初めてだよ!」って言うんだ。
 そして「近づいてなでてみてもいいかな」とか言い出すんだよ!
 僕たちはもう「おまえ、ほんきか!?」ってなもんで、周りの人たちも「あいつ死ぬ気か!?」って走って逃げ出すし……僕は「いや、修平、やめたほうがいいよ」って言ったんだけど「大丈夫、大丈夫」ってなもんでさ。
 しょうがないから修平とワニの写真を撮って……まあ、あとは予定通り旅を続けたよ。
(註) Martin Juza
 チェコのプレイヤー。つい最近、グランプリ広島を制したばかりであり、なかしゅーさん担当の日本語公式サイトの週刊記事「なかしゅー世界一周」にもよく名前が出てくるプレイヤー。登場した記事を紹介してみる。

 なかしゅー世界一周2011・第9回:グランプリ・神戸
 http://mtg-jp.com/reading/variety/001483/

ナレーター
 殿堂入りの投票対象であるプレイヤーたちは見せた輝きが1年のみのプレイヤーも多い。しかし修平は今なお対戦相手にとっての脅威であり続けている。

Paulo Vitor Damo da Rosa(註):
 もし君が対戦相手のミスにつけこんで勝つタイプなら、修平相手には勝てないだろうね。
(註) Paulo Vitor Damo da Rosa
 ブラジルのプレイヤー。Luis Scott-Vergasと同じくChannel Fireball所属。2010年のプロツアーサンファンで初優勝している。


おまけ:Youtubeで「評価の高いコメント」

shinrenx(フィンランド)
 これなんだよ? このインタビューはゴミだね。ミュートでしかも吹き替えのせいで修平の声だけじゃなくてインタビューしている側の声まで聞こえないじゃん! 修平が何を聞かれてるのか、想像しろっての!? アメリカ人だって字幕くらいは読めるよ。少なくともその大半はね。

siuaiseo(カナダ)
 オリジナルの音源残せよ! どんだけアメリカ中心にすりゃ気が済むんだ! 日本プレイヤーたちは絶対に修平の声を聞きたがってるぜ……ひどい話だ。
<2011年11月19日 22:36 追記>
 このままだとあまりに「看板に偽りあり」な記事だということにあらためて気づいたので、消音部分のなかしゅーさん本人のインタビュー部分についても書き起こし&訳を追加。

 ただし読まれる方には、いくつか注意事項がある。

 実際に動画を観た方はご存知のとおり、インタビュアーの質問は動画に入っていないので以下の「インタビュアー」部分は全部憶測で書いてる。あと当然のように本当はご本人が日本語でコメントしているけれど、ここに書いてある日本語訳はあくまで「翻訳」に過ぎないということを忘れないで欲しい。

 なお英語部分に関しても耳で聞き取った範囲のものなので「ここが違う気がするよ」というツッコミは望むところ、というか大歓迎。どんどん指摘して下さい(聞きとりきれなかった箇所は ??? としてある)。

インタビュアー「受賞する自信はありましたか?」

 I was not necessary confident.
(自信はありませんでした)
 That’s may be not true.
(あったと言えば嘘になるでしょう)
 I thought it was either going to be one or the other things.
(今回受賞するか、もう二度と受賞の機会がないかの二択だと思ってました)
 I was either in or not.
(するか、しないか)
 I certainly hope I was going to get in.
(もちろん、受賞したいと思ってました)

インタビュアー「初めて参加したプロツアーについて教えてください」

 First what I atteneded was about ten years ago in San Diego.
(私が初めて参戦したのは10年くらい前のサンディエゴですね)
 And I remember I was pretty bad.
(ひどい成績だったことを覚えています)
 Ah it was off like still I remember how I lost my matches during that pro tour.
(あまりにもひどかったので、いまだにどうやって負けたか覚えているほどですよ)

インタビュアー「特に思い出に残っている大会を教えてください」

 Probably, Worlds 2005 in Japan.
(おそらく2005年に日本で開催された世界選手権ですね)
 And also the first pro tour I top 8ed in Columbus.
(それと初めてトップ8に入れたプロツアーコロンブスかな)

インタビュアー「受賞された今の気持ちについて教えてください」

 Well, ah, for one thing it is nice to know that even if I step back from the game for a while, I could come back any time I want.
(えーと、一番嬉しいのはこれからはマジックの第一線から多少しりぞく期間があったとしても、またすぐに戻ってきたいときに戻ってこられる、ということですね)
 Playing pro tour, playing Worlds... that’s a great thing.
(プロツアーや世界選手権に出たいときに出られるというのは素晴らしいことだと思います)
 Ah to be honest I have been worried about (???) earning my living, but its nice to have that safety net.
(正直なところ、???について不安はありました。そういう意味ではセーフティネットが用意されたということは嬉しいです)

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