【翻訳】マイク・フローレスのカード4段階評価
2011年5月14日 翻訳 マイク・フローレスの記事によく登場する「4段階評価」を訳してみた。今後もたまに使いそうなので専用に記事を1つ立ち上げておく。ちなみに実際に用いられる場合は括弧つきで微調整が入ることもある。例えば「Playable - Role Player」が「Playable - Role Player (quintessentially so) 」と書かれたりする。
参照:
Guildpact Constructed Set Review Part II: Blue
http://www.starcitygames.com/magic/standard/11199_Guildpact_Constructed_Set_Review_Part_II_Blue.html
Guildpact Constructed Set Review Part III: Black
http://www.starcitygames.com/magic/standard/11210_Guildpact_Constructed_Set_Review_Part_III_Black.html
構築での出番なし (Constructed Unplayable)
通常の構築で使われるべきじゃないし、競技フォーマットの構築デッキで姿を見かけることもないであろうカードたち。(例:《虚ろの犬/Hollow Dogs》、《海スニッド/Sea Snidd》)
This card should not be played in Constructed under any normal circumstances, and will never generally be found in a competitive Constructed deck.
出番あり - ときどき (Playable - Role Player)
似たような効果をもっと効率よく実現できるカードが他にあったり、一部のデッキにしか居場所を見つけられないようなカードたち。
デッキにその効果を8枚入れたいときや他に選択肢がないときなど、何らかの理由により構築デッキに入れられることもあるだろう。(例:《恐怖/Terror》、《まごつき/Discombobulate》)
This card is either competing with cards that do the same thing more efficiently, or useful in only a limited number of decks. For whatever reason (redundancy, lack of better alternatives), the card is good enough to fill a role in a reasonable Constructed deck.
出番あり - 頻繁に (Playable - Staple)
デッキや戦略の方向性に合致するなら疑問の余地なく必ずや使われるカード。むしろデッキに入っていないと「なんで入っていないんだ?」と聞かれてしまうカード。(例:《陰謀団式療法/Cabal Therapy》、《対抗呪文/Counterspell》)
This card is played in any decks and strategies where it would be appropriate, almost without question. When the card is absent, we start asking questions.
出番あり - 中心的に (Playable - Flagship)
あまりに強力すぎるか効果が特殊すぎるため、既存のデッキに足すのではなくそれを中心に新しいデッキを生み出してしまうようなカード。多くの場合、このカードの存在によって新たなアーキタイプが模索される。
そのアーキタイプが必ずしも圧倒的な強さを見せるわけではないが、そもそもその新たなアーキタイプが世に出ないことには強いも弱いも分からない。(例:《ネクロポーテンス/Necropotence》、《時のらせん/Time Spiral》)
This card has a powerful or unique effect, so much so that we build decks around it rather than fitting it into existing builds. Quite often, the presence of this card allows for new archetypes to be explored. In some cases, those archetypes are not very good (but without their flagships, we would never even ask the question).
参照:
Guildpact Constructed Set Review Part II: Blue
http://www.starcitygames.com/magic/standard/11199_Guildpact_Constructed_Set_Review_Part_II_Blue.html
Guildpact Constructed Set Review Part III: Black
http://www.starcitygames.com/magic/standard/11210_Guildpact_Constructed_Set_Review_Part_III_Black.html
【翻訳】吸血いっとく?/Care for a Bite?【Daily MTG】
Mark Rosewater
2009年10月19日
元記事:http://www.wizards.com/magic/magazine/article.aspx?x=mtg/daily/mm/61
ヴァンパイア週間へようこそ!
このテーマを探求するにあたり、私はマジックの歴史に登場する著名なヴァンパイアたちを円卓に集めて座談会を開いてみたら楽しいんじゃないかと考えた。
え、もうやったことがあるって?(註)
それは変だな。私だったらそういうネタはヴァンパイア週間が訪れるまで大事にとっておくはずなんだけど。
ああ、なんだ。最初の記事を書いたときもヴァンパイア週間だったのか。トリビア好きな君のために書いておくと、同じテーマ週間が2度以上行われたのはサイクリング週間(註)が初だ。
そして2つ目はヴァンパイアだ。
なんでヴァンパイア週間を2回もやるのかって?
それはゼンディカーがヴァンパイアを派手に復活させたからさ (目立たないようにもやってるけどね。それはあとで説明するよ)。
今日のコラムではヴァンパイアのデザインの際にどのような判断が下されたか、またその際にどういった考察がなされたかについて話そうと思う。
現実との対比
今日のコラムのメインコースへ入る前に、2つのコンセプトの定義づけを済ませておきたいと思う。さらにこれらを定義づけるに当たって、話を分かりやすくするためにそれぞれのコンセプトに名前をつけておきたい。
名前に使う単語は本来の意味から多少外れた使い方をしていることは、私自身よく分かっている。しかし私が表現したいことをそのまま表してくれる言葉がない以上、そうせざるをえないのだ。(私のコラムの愛読者であれば、私が言葉の使い方を自分に都合よく捻じ曲げることに全く抵抗を持たない人間だということはご存知だろう)
定義づけたい2つのコンセプトに対して、それぞれ「アイコン/Iconic」と「キャラクター/Characteristic」というラベルを貼ろうと思う。これら2つのコンセプトはどちらも「特定の何かが自身よりも広い範囲を指し示す」現象だ。
これら2つのコンセプトについてより深く理解してもらうために他にもいくつか例を出しておこう。
ゴルフ
アイコン/Iconic :タイガーウッズ
キャラクター/Characteristic :ゴルフカート
ハリウッド
アイコン/Iconic :ハリウッドの看板
キャラクター/Characteristic :席が空くのを待っている俳優たち
バットマン
アイコン/Iconic :バットモビール
キャラクター/Characteristic :バッタラング(註)
さて、これら2つのコンセプトがマジックと関わりがあるのかどうか?
もちろんだ。
過去に何度となく話してきたように、私はマジックの核にあるものはカラーホイール(註)だと信じている。このゲームのありとあらゆる要素(クリエイティブ的なものも、メカニズム的なもの全て)は、このカラーホイールから生まれてくる。
よって、マジックの各色が何を象徴しているのか、それを明確にできるかどうかは非常に重要なことだ。アイコン/Iconicとキャラクター/Characteristicという2つのコンセプトを使って、これを説明してみよう。
まずは例として、赤という色を取り上げてみよう。
赤のアイコン/Iconic的なクリーチャーといえばドラゴンだ。そのとおり。彼らは巷にあふれかえってはいるわけではないが、確かな存在感をもつドラゴンたちはどれも赤という色の特長を示す良い例だ。
赤のキャラクター/Characteristic的なクリーチャーはゴブリンだ。赤という色においてゴブリンほど広くのさばっているクリーチャーは他にいない。赤の最も主要な種族だ。
集える仲間がいる。こんなに嬉しい事はない
ヴァンパイア週間なのにほとんどヴァンパイアについて語っていないって?
大丈夫、ここから話すよ。
さて、Magic 2010とゼンディカーでヴァンパイアたちに何が起きたかについて話そう。私たちはヴァンパイアを「アイコン/Icon」から「キャラクター/Characteristic」へと移した。
これが何を意味するのか?
その問いに答えるには、マジックのクリーチャーが「アイコン/Icon」から「キャラクター/Characteristic」へと変わるということが具体的にどういうことなのかを理解しておく必要がある。
Magic 2010以前のヴァンパイアは アイコン/Iconic の法則に従っていた。Magic 2010で彼らは キャラクター/Characteristic な存在となった。
何が起きたのだろうか?
これを説明するにはまず黒の アイコン/Iconic をかけて行われてきた2つの種族の争いについて語るべきだろう(前後の文脈がなかったら意味不明の文章にしか見えないだろうね。それは認める)。
赤と白は アイコン/Iconic なクリーチャーをちゃんと持っている。青は今なお アイコン/Iconic なクリーチャーを根付かせようとしているところであり、緑は、まあ、そのなんだ。努力はしている。
その一方、黒はその アイコン/Iconic のクリーチャー座をかけて長いこと争いが続いている。
そのとおり。
ヴァンパイア VS デーモンは黒の暗き魂の座をかけて戦い続けてきた。黒という色の特徴と、その特徴をどちらの種族がより色濃く反映しているかを分析してみよう。
見ての通り、デーモンはわずかにヴァンパイアより勝っている。
実際「バフィー ~恋する十字架~」という作品世界ではヴァンパイアとデーモンは同じものとして描かれている(素晴らしきかな、ウェドンの世界(註))。
それぞれの色には様々なクリーチャーが属しているが、最終的にその中で アイコン/Iconic なクリーチャーになれるのはただ1つだ。
さてここで次に黒の キャラクター/Characteristic の勢力争いに目を向けてみよう。
おっと、勘違いしないでくれよ。私も皆と同じくらいゾンビが大好きだ。いや、誰よりも好きだと言っても過言ではない(君に向けて言ってるんだよ、ガ・アーク!(註))。
問題は彼らがアンデッドであるということだ。自分の意志を持たない大群というものに黒のエッセンスを表現させるのは並大抵の苦労じゃない。
もちろん彼らは死そのものであり、手の届く範囲にある命を貪欲に喰らうことでその病毒をまき散らしている。
しかしそれでもなお、ゾンビが黒の主要な種族として適格であったことは一度もない。黒の核にあるもの、それは利己性であり力への貪欲性だ。ゾンビにはそれがないんだ。
そのようなわけで アイコン/Iconic の座をかけて2つの種族が争っている一方、キャラクター/Characteristic の座にはただ1種類のアンデッドがなんとなく居座っているという状態が続いていたわけだ。
どうすればこの問題が解決できるだろうか?
ここで最後の判断材料の出番だ。それは私が 現実世界/Outside World と呼んでいるものだ。(マジックの制作現場の話をするとき、私たちはマジックから離れた 現実世界/Outside World を持ちだすことは滅多にない(ああ、私のプライベートの話は別だ)。しかしここに初めて認めないといけないだろう。それは確かに存在する。)
マスメディアを信用するなら(基本的に私たちは生まれてこの方、そうするよう仕向けられているのだが)どうやら人々はヴァンパイアに親しみを感じているように思われる。
それにも関わらず、マジックにおける アイコン/Iconic の座はデーモンによって占められてしまっている。その一方で黒の キャラクター/Characteristic の座は他の誰かに担当されるべきだと声高に主張している。
どうする? さて、どうする?
クリエイティブ・チームは長年のあいだ「アイコン/Iconic と キャラクター/Characteristic の種族を入れ替えてみては」という考えを検討し続けていた。しかし知っての通り、長期に渡る慣習というものを変えるのはそう簡単ではない。
そこにやってきたのがMagic 2010であり、そのスローガンである「正しきをなせ、慣習を打ち破れ」だ。マジックのクリエイティブ・ディレクターであるBrady Dommermuthはそこに転換のチャンスを見た。
そのようなわけで、ヴァンパイアは黒の アイコン/Iconic なクリーチャーであることを止め、黒の キャラクター/Characteristic なクリーチャーへと切り替わったんだ。
(だからと言って、人目を引くクールなレアや神話レアのヴァンパイアを私たちがもう二度と作らないというわけじゃない。《マラキールの血魔女/Malakir Bloodwitch》を見てくれれば分かるだろう)
これによって、個々のヴァンパイアは単体ではそれほど特別じゃなくなるということだ。
結局のところ、マジックにはマナコストが(2)(黒)で2/2のバニラクリーチャー(たまにデメリットつき)が必要なんだ。(あー、はいはい、分かってるよ。確かにアイツ(註)はヴァンパイアじゃない)
明るい面を見れば、今後の構築済みデッキでヴァンパイアをテーマにしたものも作れるし、ドラフトでヴァンパイアデッキだって組める(本気で言ってるよ? ゼンディカードラフトの黒単ヴァンパイアデッキは3-0だって可能だ)。
量が増すことで選択肢も増える。
アンデッドに口なし
というわけで、ゼンディカーにはヴァンパイアがたくさん収録されることになったか……というと、実際はそうでもなかった。少なくともデザインの段階では。
ゼンディカーのデザインはMagic 2010のデザインよりも早い時期に行われたのだ。つまり、この ヴァンパイアの大転換/Great Vampire Swap が実際に起きたのはゼンディカーのデザインも後半に入ってからのことだった。
そのためゼンディカーがデベロップメント・チームの手に引き渡されたとき、そこにヴァンパイアの姿は無かった。コモンにもアンコモンにも、という意味でだ。
さて、デベロップメントの最中、セットのある側面を最適に仕上げるためにデザイン・チームの出番が生じた。デベロップメントの中で生じたいくつかの論点をデザイン面からのアプローチで解決しようとするものだった。
ポイントとなった事項の1つは、セットにヴァンパイアを加えたいというものだ。
このヴァンパイア(および、同様にデベロップメントの段階で加えることとなったもう1つの種族であるコー/Korやその他の少数のカード)を加える仕事は、チームリーダーにKen Nagleが据えられ、メンバーにはLatest Development(註)の著者として有名なTom Lapille、およびR&D屈指のプレイテスターであるSteve Warnerが参加した。
彼らの目標はヴァンパイア的なメカニズムを見つけ出すこと。皆がプレイする際に、これぞヴァンパイアデッキだ、と感じられるようなフレイバーあふれるテーマを生み出すことだ。
この問題へのヒントは2つの全く異なる場所からもたされた。
1つはアラーラの断片ブロックのグリクシス/Grixisの断片であり、もう1つはロールプレイングゲームのダンジョンズアンドドラゴンズ(註)だ。
デザイン・チームに課せられた目標を達成しようとしていたとき、Kenが思い出したのは1年前に他のデザイン・チームが提案したアイデアだった。
グリクシスのデザイン・チームのリーダーはDevin Lowで、そのチームメンバーにはデベロッパーとしてErik Laurer、デザインメンバーとしてBrian Tinsmanが加わっていた。
そのチームの目標の1つはグリクシスらしさを表現するメカニックを生み出すことだった。
アイデアの1つはErik Laurerによって生み出された。彼は「対戦相手のライフが一定のラインを切っているときに能力が向上するクリーチャー」という自分のアイデアを気に入っていた。
そのコンセプトをより明確にするために彼が提示したのは以下のようなサイクルだった。
対戦相手のライフが15以下のときに向上するコモンのクリーチャー、対戦相手のライフが10以下のときに向上するアンコモンのクリーチャー、そして対戦相手のライフが5以下のときに向上するレアのクリーチャー。
このアイデアはグリクシスには採用されなかったが、他のR&Dメンバーに深い印象を残した。そのメンバーの中にはKenも含まれていたというわけだ。
さてその頃、Tomはまったく違った面からインスピレーションを得ていた。
Tomは仕事の時間の大半をマジックに費やしていたが、同時にその一部をウィザーズオブザコースト社の別のゲームにも振り向けていた。
それは、とあるロールプレイングゲームで、そのゲームのファンには D&D と呼ばれているものだ。
Tomはウィザーズ社に来た当時、ダンジョンズアンドドラゴンズのキャンペーンに参加し、それがあまりに楽しかったため、その後も裏でそれに関わる仕事を手掛けていた。
D&Dのクリーチャーたちはヒットポイントと呼ばれる数値を持っており、これが彼らの生命力を表している(ちなみに双頭でないマジックの魔法使いはこのヒットポイントを20点もっていることになっている)。
そして、ヒットポイントがその最大値の半分以下になったクリーチャーは「重傷/Bloodied」(註)とみなされるというルールがある。
プレイヤーが「重傷/Bloodied」状態に陥ったときだけ効果を発する、というアイデアがTomには魅力的なものに思われた。
私自身はこのチームに参加していなかったので、この2つのアイデアがどのようにして混ざり合ったのかは分からないけど、とにかくこれらは混ざり合って1つのアイデアとなったようだ。
「対戦相手のヒットポイントの減少によって与えられるボーナス」と「君のクリーチャーによって対戦相手が重傷に陥った」というフレイバーと関連付けたらどうなるだろう?
《センギアの吸血鬼/Sengir Vampire》に代表されるような「ヴァンパイアが他のクリーチャーを喰らう」というフレイバーのかわりに「ヴァンパイアが対戦相手の命を喰らう」と考えてみたら?
対戦相手の生命力が一定のラインまで低下し、ヴァンパイアがその弱体化を嗅ぎつけたとき、ヴァンパイアたちはより勢いを増し、そしてより好戦的になるのだ。
デザイン・チームは閾値を10点に設定した。なぜならメカニズム的にも良いバランスのように感じられたし、それだけでなくD&Dでもクリーチャーが重傷に陥るのはそのヒットポイントが半分失われたときだ。試しに始めてみるには手ごろなラインと思われた。
10点のラインが適切なものだということはプレイテストによって早々と判明した。
デザイン・チームはこの「重傷/Bloodied」からアドバンテージを得られるヴァンパイアを大量に作った。最も多く作られたのは +2/+1 のボーナスを得るというものだ。
なぜ +2/+1 なのか?
その理由は3つある。その1として「平凡な +1/+1 との差別化」、その2として「マジック初期の象徴的な黒のカードであった《邪悪なる力/Unholy Strength》との紐づけ」、その3として「敵味方の両プレイヤーが10点という閾値に注意を払わざるを得なくなる程度に高いボーナス」として設定された。
ゼンディカーのデベロップメント・チームはヴァンパイアを用いたプレイテストに長い時間を費やした。
その結果として判明したのは、このボーナスは上手いことゲームで働いてくれる、ということだけでなく、ヴァンパイア・デザイン・チームが作ってくれた大量のヴァンパイアを全てこのセットに入れる必要はない、ということだった。
彼らは気に入ったものだけ残し、その他のカードについては違った方向にヴァンパイアのフレイバーを感じさせるデザインへと変更した。
ついでに述べておくと、デベロップメント・チームが気に入っているゼンディカーのデザインには《血の貢ぎ物/Blood Tribute》や《ソリン・マルコフ/Sorin Markov》のようなカードがある。これらは(声高に主張するのではなく)むしろひそやかにヴァンパイアのメカニズムへ紐づけがなされているところがいい。
そしてカードへ
さて今日のコラムを締め括る前に、セットに収録されているヴァンパイアの何枚かのデザインについてちょっと取り上げてみたら面白いかもしれない、と考えてみた。
これは10点のヒットポイントに関連するメカニズムを持つヴァンパイアのうち、デザインの段階ですでに生まれていた唯一のものだ。
念のために言っておくと、「ライフが10点以下である限り」のテキストは当然ヴァンパイア・デザイン・チームによって付け加えられたものだ。
上陸能力によって自力で墓地から帰って来られる黒のクリーチャーというアイデアがデザイン・チームによってすでに生み出されていたのだ。
私の覚えている限りでは、これの元々のバージョンはゼンディカーのデベロップメント・リーダーであるHenry Sternに生み出された。
彼は、あまりややこしくない「戦場に出たとき/Enters the battlefield」にトリガーするキッカー能力を欲していた。
最初の能力は合計 (3)(黒) を払うことで《闇への追放/Dark Banishing》の効果を誘発するものであった。のちのデベロップメントで、最終的には合計 (黒)(黒)(黒) を払うことによって《残酷な布告/Cruel Edict》の効果となった。
これは元々のKenのデザイン・チームの意図にもっとも近いカードだ。
+2/+1 のボーナスを残した唯一のカードでもある。
このカードは一見トップダウン式に生まれたように見える。つまり「伝説のヴァンパイアをデザインする」のがまず先にありきで作られたように思われるかもしれないが、実際はそうではない。
誰がデザインしたかは残念ながら忘れてしまったが、これは普通のレアとして生まれた。
その後、伝説のクリーチャーのリストをクリエイティブ・チームからもらったとき、その中の1つは伝説のヴァンパイアだった(そのとおり。最初の段階で、もうすでにヴァンパイアが多少はいたのだ。単にコモンとアンコモンにいなかったというだけのことだ)。
既に作られていたカードの中に実にしっくり来るレアがあったため(そしてデザイン・チームの中でも人気のある1枚だったため)、私はこれを伝説のヴァンパイアへと変更したのだ。
これ自体はヴァンパイアではないが、これは確かに「ヴァンパイア関連」のカードだ。そしてこいつに関してはなかなか面白い話があり、それをこれから語ろうと思う。
これの元々のバージョンも、今、君が見ているものと全く同じだった。ただ1つの違いはマナコストが (1)(黒)だったことだ。
このカードはKenがヴァンパイアのデザインをしている最中に生まれた。KenはこのカードデザインをHenry Sternへと預け、セットに加えておくように指示した。
Henryは(1)(黒)とするべきカードデータを誤って(2)(黒)と入力してしまった。間違いに気づいたとき、R&Dのメンバーの大半は「これは意外と面白いぞ」と思ったのでそのままにしておくことにした。
私はこのカードが気に入らなかった。
すでに弱すぎると皆に思われているカード(アルファから収録されている《スケイズ・ゾンビ/Scathe Zombies》のことだ)の明らかな下位互換をわざわざ作る意味があるとは思えなかったからだ。
私はこれをセットから抜くべきだ(もしくはせめてマナコストを (1)(黒) に戻すべきだ)と主張したが、Kenはこのままにすると言って譲らなかった。
Kenに同調するメンバーが多数派で、結局カードはそのまま印刷された。
さて、カードが世に出て世間一般の評判を聞くにつけ、私は自分が間違っていたこと、そして正しい選択がなされたことを素直に認めようと思う。
このカードはゼンディカーのリミテッドでデッキに入る可能性を持っている。
また私自身も過去にすでに出ているカードの下位互換でしかないバージョンを生み出そうとすることに賛成したことがある。下位互換であってもプレイするに値するカードだと思ったからだ。
(もし当時の私の意見が通っていたら、《無効/Annul》がミラディンに再録されるかわりに《Malfunction》というマナコストが (青) で、アーティファクトしか打ち消せない呪文が収録されていたはずだ)
デベロップメントの中で、低いレアリティのカードでプレインズウォーカーに対処する手段があるべきだ、ということでこのカードが生まれた。
そのとき私たちは想像もしなかったんだ。
まさかこれの真の使い道が「氷の塊の中から20/20の破壊されない飛行クリーチャーを掘り出すこと」(註)にあるとはね。つい先日のプロツアー・オースティンで見られたように。
このカードはKenのヴァンパイア・デザイン・チームによってではなく、デベロップメント・チームによって生み出された。
黒単色デッキのためによりアグレッシブな回答を探していた彼らは、お気に入りの黒いアグロなクリーチャーをヴァンパイアとして復活させることを決めたのだ。
そう、エクソダスの《カーノファージ/Carnophage》だよ。
トリビアネタを追加しておくと、そもそも私がエクソダスで《カーノファージ/Carnophage》を作ったのは、当時の黒単色のアグロなゾンビ・デッキを後押ししたかったからだ。
17番目のアンデッド
今日語るべきはこれで全部だ。
願わくばこのヴァンパイア世界へと足を踏み入れた記事のせいで君たちの血の気が引くようなことはなかったと思いたい。
来週は、惜しくも収録されることのなかった土地メカニズムについて話そうと思っているので、ぜひまたここに足を運んで欲しい。
それまで、君が対戦相手を重傷に陥らせることで得られるメリットを享受できていますように。
Mark Rosewater
2009年10月19日
元記事:http://www.wizards.com/magic/magazine/article.aspx?x=mtg/daily/mm/61
ヴァンパイア週間へようこそ!
このテーマを探求するにあたり、私はマジックの歴史に登場する著名なヴァンパイアたちを円卓に集めて座談会を開いてみたら楽しいんじゃないかと考えた。
え、もうやったことがあるって?(註)
(註) もうやったことがある
原文では以下のURLへリンクが張ってある。
http://www.wizards.com/magic/magazine/article.aspx?x=mtgcom/daily/mr215
内容は前述のとおり、マジックの有名どころのヴァンパイアたちによる座談会。
以下、上記コラムの拙訳。
http://regiant.diarynote.jp/201103050019455223/
それは変だな。私だったらそういうネタはヴァンパイア週間が訪れるまで大事にとっておくはずなんだけど。
ああ、なんだ。最初の記事を書いたときもヴァンパイア週間だったのか。トリビア好きな君のために書いておくと、同じテーマ週間が2度以上行われたのはサイクリング週間(註)が初だ。
(註) サイクリング週間
原文では以下のURLへリンクが張ってある。2009年のサイクリング週間のコラム。
http://www.wizards.com/magic/magazine/article.aspx?x=mtg/daily/mm/27
上記コラムが2回目のサイクリング週間のコラムで1回目は2004年に書かれている。
その2004年に書かれた1回目の記事の拙訳は以下(元記事へのリンクあり)
http://regiant.diarynote.jp/201203102223182661/
そして2つ目はヴァンパイアだ。
なんでヴァンパイア週間を2回もやるのかって?
それはゼンディカーがヴァンパイアを派手に復活させたからさ (目立たないようにもやってるけどね。それはあとで説明するよ)。
今日のコラムではヴァンパイアのデザインの際にどのような判断が下されたか、またその際にどういった考察がなされたかについて話そうと思う。
現実との対比
今日のコラムのメインコースへ入る前に、2つのコンセプトの定義づけを済ませておきたいと思う。さらにこれらを定義づけるに当たって、話を分かりやすくするためにそれぞれのコンセプトに名前をつけておきたい。
名前に使う単語は本来の意味から多少外れた使い方をしていることは、私自身よく分かっている。しかし私が表現したいことをそのまま表してくれる言葉がない以上、そうせざるをえないのだ。(私のコラムの愛読者であれば、私が言葉の使い方を自分に都合よく捻じ曲げることに全く抵抗を持たない人間だということはご存知だろう)
定義づけたい2つのコンセプトに対して、それぞれ「アイコン/Iconic」と「キャラクター/Characteristic」というラベルを貼ろうと思う。これら2つのコンセプトはどちらも「特定の何かが自身よりも広い範囲を指し示す」現象だ。
アイコン/Iconic
ある物がより大きなグループを代表してしまうことがある。なぜかというと、それが広く知れ渡っていたり、あまりに支配的であったりするため、代名詞的な存在となってしまうからだ。
例えば、自由の女神はアメリカ合衆国のアイコン/Iconicだ。
それは1つしかないが、あまりに印象的かつシンボル的であるため、自由の女神だけでアメリカを表してしまうことが出来る。
キャラクター/Characteristic
印象的でないにも関わらず、ある物が自身よりも大きなグループを表してしまうこともある。その存在があまりにも巷にあふれすぎているせいで、人々はより大きな何かにそれを結びつけて考えてしまうのだ。
例えば、アメリカに訪れた人はスターバックスとアメリカを結びつけて考えてしまうかもしれない。
なぜならまるでありとあらゆる交差点の角にそれがあるかのように見えるからだ(「まるで」という表現は事実上すでに正しくないかもしれないが)。
どこかにあるスターバックスの1店舗だけ見てもアメリカは想起されない。しかしその数による圧倒的なまでの存在感が連想を生み出してしまうのだ。
これら2つのコンセプトについてより深く理解してもらうために他にもいくつか例を出しておこう。
ゴルフ
アイコン/Iconic :タイガーウッズ
キャラクター/Characteristic :ゴルフカート
ハリウッド
アイコン/Iconic :ハリウッドの看板
キャラクター/Characteristic :席が空くのを待っている俳優たち
バットマン
アイコン/Iconic :バットモビール
キャラクター/Characteristic :バッタラング(註)
(註) バッタラング
Bat+Boomerang(こうもり+ブーメラン)の造語。
バットマンが用いる、コウモリの形をしたブーメラン状の道具。
さて、これら2つのコンセプトがマジックと関わりがあるのかどうか?
もちろんだ。
過去に何度となく話してきたように、私はマジックの核にあるものはカラーホイール(註)だと信じている。このゲームのありとあらゆる要素(クリエイティブ的なものも、メカニズム的なもの全て)は、このカラーホイールから生まれてくる。
(註) カラーホイール
原文では Color Wheel。カラーパイとも呼ばれる。マジックの様々な要素や分野を5つに切り分けた円形で表す概念。Mark Rosewaterは今までにもこの考え方についていくつも長文を書いている。
よって、マジックの各色が何を象徴しているのか、それを明確にできるかどうかは非常に重要なことだ。アイコン/Iconicとキャラクター/Characteristicという2つのコンセプトを使って、これを説明してみよう。
まずは例として、赤という色を取り上げてみよう。
赤のアイコン/Iconic的なクリーチャーといえばドラゴンだ。そのとおり。彼らは巷にあふれかえってはいるわけではないが、確かな存在感をもつドラゴンたちはどれも赤という色の特長を示す良い例だ。
赤のキャラクター/Characteristic的なクリーチャーはゴブリンだ。赤という色においてゴブリンほど広くのさばっているクリーチャーは他にいない。赤の最も主要な種族だ。
集える仲間がいる。こんなに嬉しい事はない
ヴァンパイア週間なのにほとんどヴァンパイアについて語っていないって?
大丈夫、ここから話すよ。
さて、Magic 2010とゼンディカーでヴァンパイアたちに何が起きたかについて話そう。私たちはヴァンパイアを「アイコン/Icon」から「キャラクター/Characteristic」へと移した。
これが何を意味するのか?
その問いに答えるには、マジックのクリーチャーが「アイコン/Icon」から「キャラクター/Characteristic」へと変わるということが具体的にどういうことなのかを理解しておく必要がある。
アイコン/Iconic なクリーチャー
(1) 1セットにつきわずかな枚数しか登場しない(多くの場合は1枚のみ)
(2) ほぼ例外なくレアもしくは神話レアである
(3) 人目を引くデザインである
キャラクター/Characteristic なクリーチャー
(1) 1セットにたくさん登場する
(2) 全てのレアリティに登場する(特にコモン)
(3) ありふれた基本的なカードとして登場する ※
※ バニラ・クリーチャーやフレンチバニラ・クリーチャーのようなクリーチャーたちだ(なおこれらはR&Dで使われている用語で、ルールテキストを一切もたないものをバニラ・クリーチャー、キーワード能力しか持たないシンプルなものをフレンチバニラ・クリーチャーと呼んでいる)
Magic 2010以前のヴァンパイアは アイコン/Iconic の法則に従っていた。Magic 2010で彼らは キャラクター/Characteristic な存在となった。
何が起きたのだろうか?
これを説明するにはまず黒の アイコン/Iconic をかけて行われてきた2つの種族の争いについて語るべきだろう(前後の文脈がなかったら意味不明の文章にしか見えないだろうね。それは認める)。
赤と白は アイコン/Iconic なクリーチャーをちゃんと持っている。青は今なお アイコン/Iconic なクリーチャーを根付かせようとしているところであり、緑は、まあ、そのなんだ。努力はしている。
その一方、黒はその アイコン/Iconic のクリーチャー座をかけて長いこと争いが続いている。
そのとおり。
ヴァンパイア VS デーモンは黒の暗き魂の座をかけて戦い続けてきた。黒という色の特徴と、その特徴をどちらの種族がより色濃く反映しているかを分析してみよう。
力への欲求?
- デーモン
寄生性?
- ヴァンパイア
利己性?
- デーモン(僅差で)
生け贄を欲する?
- ヴァンパイア(これも僅差だ)
堕落と腐敗?
- デーモン(僅差ばかりだな、しかし)
偽りと詐欺?
- デーモン
非道徳性?
- デーモン
見ての通り、デーモンはわずかにヴァンパイアより勝っている。
実際「バフィー ~恋する十字架~」という作品世界ではヴァンパイアとデーモンは同じものとして描かれている(素晴らしきかな、ウェドンの世界(註))。
(註) ウェドンの世界
原文では Whedonverse。「バフィー ~恋する十字架~」の製作者であるジョッシュ・ウェドンが生み出す世界観を指すらしい。
それぞれの色には様々なクリーチャーが属しているが、最終的にその中で アイコン/Iconic なクリーチャーになれるのはただ1つだ。
さてここで次に黒の キャラクター/Characteristic の勢力争いに目を向けてみよう。
原文のコラムでは、ここに《スケイス・ゾンビ/Scathe Zombies》のカードイラストに「脳みそくれー」という頭の悪いセリフが書き込まれている画像が置いてある。
以下がそのイラストのリンク(URLがちょっと面白い)。
http://www.wizards.com/mtg/images/daily/mm/mm61_brains.jpg
おっと、勘違いしないでくれよ。私も皆と同じくらいゾンビが大好きだ。いや、誰よりも好きだと言っても過言ではない(君に向けて言ってるんだよ、ガ・アーク!(註))。
(註) ガ・アーク
原文では以下のURLへリンクが張ってある。ゾンビ週間に書かれた記事。記事にはゾンビの地位向上に努めるゾンビの組合のリーダー、ガ・アークというゾンビが登場する。
http://www.wizards.com/magic/magazine/article.aspx?x=mtgcom/daily/mr61
以下、上記コラムの拙訳。
http://regiant.diarynote.jp/201102260801103424/
問題は彼らがアンデッドであるということだ。自分の意志を持たない大群というものに黒のエッセンスを表現させるのは並大抵の苦労じゃない。
もちろん彼らは死そのものであり、手の届く範囲にある命を貪欲に喰らうことでその病毒をまき散らしている。
しかしそれでもなお、ゾンビが黒の主要な種族として適格であったことは一度もない。黒の核にあるもの、それは利己性であり力への貪欲性だ。ゾンビにはそれがないんだ。
そのようなわけで アイコン/Iconic の座をかけて2つの種族が争っている一方、キャラクター/Characteristic の座にはただ1種類のアンデッドがなんとなく居座っているという状態が続いていたわけだ。
どうすればこの問題が解決できるだろうか?
ここで最後の判断材料の出番だ。それは私が 現実世界/Outside World と呼んでいるものだ。(マジックの制作現場の話をするとき、私たちはマジックから離れた 現実世界/Outside World を持ちだすことは滅多にない(ああ、私のプライベートの話は別だ)。しかしここに初めて認めないといけないだろう。それは確かに存在する。)
マスメディアを信用するなら(基本的に私たちは生まれてこの方、そうするよう仕向けられているのだが)どうやら人々はヴァンパイアに親しみを感じているように思われる。
それにも関わらず、マジックにおける アイコン/Iconic の座はデーモンによって占められてしまっている。その一方で黒の キャラクター/Characteristic の座は他の誰かに担当されるべきだと声高に主張している。
どうする? さて、どうする?
クリエイティブ・チームは長年のあいだ「アイコン/Iconic と キャラクター/Characteristic の種族を入れ替えてみては」という考えを検討し続けていた。しかし知っての通り、長期に渡る慣習というものを変えるのはそう簡単ではない。
そこにやってきたのがMagic 2010であり、そのスローガンである「正しきをなせ、慣習を打ち破れ」だ。マジックのクリエイティブ・ディレクターであるBrady Dommermuthはそこに転換のチャンスを見た。
そのようなわけで、ヴァンパイアは黒の アイコン/Iconic なクリーチャーであることを止め、黒の キャラクター/Characteristic なクリーチャーへと切り替わったんだ。
(だからと言って、人目を引くクールなレアや神話レアのヴァンパイアを私たちがもう二度と作らないというわけじゃない。《マラキールの血魔女/Malakir Bloodwitch》を見てくれれば分かるだろう)
これによって、個々のヴァンパイアは単体ではそれほど特別じゃなくなるということだ。
結局のところ、マジックにはマナコストが(2)(黒)で2/2のバニラクリーチャー(たまにデメリットつき)が必要なんだ。(あー、はいはい、分かってるよ。確かにアイツ(註)はヴァンパイアじゃない)
(註) アイツ
この記事の後半にも出てくる《愚鈍な虚身/Mindless Null》を指している。
明るい面を見れば、今後の構築済みデッキでヴァンパイアをテーマにしたものも作れるし、ドラフトでヴァンパイアデッキだって組める(本気で言ってるよ? ゼンディカードラフトの黒単ヴァンパイアデッキは3-0だって可能だ)。
量が増すことで選択肢も増える。
アンデッドに口なし
というわけで、ゼンディカーにはヴァンパイアがたくさん収録されることになったか……というと、実際はそうでもなかった。少なくともデザインの段階では。
ゼンディカーのデザインはMagic 2010のデザインよりも早い時期に行われたのだ。つまり、この ヴァンパイアの大転換/Great Vampire Swap が実際に起きたのはゼンディカーのデザインも後半に入ってからのことだった。
そのためゼンディカーがデベロップメント・チームの手に引き渡されたとき、そこにヴァンパイアの姿は無かった。コモンにもアンコモンにも、という意味でだ。
さて、デベロップメントの最中、セットのある側面を最適に仕上げるためにデザイン・チームの出番が生じた。デベロップメントの中で生じたいくつかの論点をデザイン面からのアプローチで解決しようとするものだった。
ポイントとなった事項の1つは、セットにヴァンパイアを加えたいというものだ。
このヴァンパイア(および、同様にデベロップメントの段階で加えることとなったもう1つの種族であるコー/Korやその他の少数のカード)を加える仕事は、チームリーダーにKen Nagleが据えられ、メンバーにはLatest Development(註)の著者として有名なTom Lapille、およびR&D屈指のプレイテスターであるSteve Warnerが参加した。
(註) Latest Development
原文では以下のURLへリンクが張ってある。ここで抽出されているDaily MTGに載っているコラムのカテゴリの1つ「Latest Development」は、Tom Lapilleが手掛けている。
http://www.wizards.com/magic/magazine/archive.aspx?tag=latest%20developments&description=latest%20developments
彼らの目標はヴァンパイア的なメカニズムを見つけ出すこと。皆がプレイする際に、これぞヴァンパイアデッキだ、と感じられるようなフレイバーあふれるテーマを生み出すことだ。
この問題へのヒントは2つの全く異なる場所からもたされた。
1つはアラーラの断片ブロックのグリクシス/Grixisの断片であり、もう1つはロールプレイングゲームのダンジョンズアンドドラゴンズ(註)だ。
(註) ダンジョンズアンドドラゴンズ
マジックザギャザリングと同じ会社から発売されているロールプレイングゲーム。ちなみにこのあとで挙げられているのはダンジョンズアンドドラゴンズ第4版のルール。
デザイン・チームに課せられた目標を達成しようとしていたとき、Kenが思い出したのは1年前に他のデザイン・チームが提案したアイデアだった。
グリクシスのデザイン・チームのリーダーはDevin Lowで、そのチームメンバーにはデベロッパーとしてErik Laurer、デザインメンバーとしてBrian Tinsmanが加わっていた。
そのチームの目標の1つはグリクシスらしさを表現するメカニックを生み出すことだった。
アイデアの1つはErik Laurerによって生み出された。彼は「対戦相手のライフが一定のラインを切っているときに能力が向上するクリーチャー」という自分のアイデアを気に入っていた。
そのコンセプトをより明確にするために彼が提示したのは以下のようなサイクルだった。
対戦相手のライフが15以下のときに向上するコモンのクリーチャー、対戦相手のライフが10以下のときに向上するアンコモンのクリーチャー、そして対戦相手のライフが5以下のときに向上するレアのクリーチャー。
このアイデアはグリクシスには採用されなかったが、他のR&Dメンバーに深い印象を残した。そのメンバーの中にはKenも含まれていたというわけだ。
さてその頃、Tomはまったく違った面からインスピレーションを得ていた。
Tomは仕事の時間の大半をマジックに費やしていたが、同時にその一部をウィザーズオブザコースト社の別のゲームにも振り向けていた。
それは、とあるロールプレイングゲームで、そのゲームのファンには D&D と呼ばれているものだ。
Tomはウィザーズ社に来た当時、ダンジョンズアンドドラゴンズのキャンペーンに参加し、それがあまりに楽しかったため、その後も裏でそれに関わる仕事を手掛けていた。
D&Dのクリーチャーたちはヒットポイントと呼ばれる数値を持っており、これが彼らの生命力を表している(ちなみに双頭でないマジックの魔法使いはこのヒットポイントを20点もっていることになっている)。
そして、ヒットポイントがその最大値の半分以下になったクリーチャーは「重傷/Bloodied」(註)とみなされるというルールがある。
(註) 重傷/Bloodied
ダンジョンズアンドドラゴンズ第4版のルール。
ヒットポイントが最大値の半分を切ると「重傷」というステータスとなる。敵のモンスターだけでなく、プレイヤーキャラクターも同様。「重傷」状態のときにしか効果のない特殊能力などがある。
プレイヤーが「重傷/Bloodied」状態に陥ったときだけ効果を発する、というアイデアがTomには魅力的なものに思われた。
私自身はこのチームに参加していなかったので、この2つのアイデアがどのようにして混ざり合ったのかは分からないけど、とにかくこれらは混ざり合って1つのアイデアとなったようだ。
「対戦相手のヒットポイントの減少によって与えられるボーナス」と「君のクリーチャーによって対戦相手が重傷に陥った」というフレイバーと関連付けたらどうなるだろう?
《センギアの吸血鬼/Sengir Vampire》に代表されるような「ヴァンパイアが他のクリーチャーを喰らう」というフレイバーのかわりに「ヴァンパイアが対戦相手の命を喰らう」と考えてみたら?
対戦相手の生命力が一定のラインまで低下し、ヴァンパイアがその弱体化を嗅ぎつけたとき、ヴァンパイアたちはより勢いを増し、そしてより好戦的になるのだ。
デザイン・チームは閾値を10点に設定した。なぜならメカニズム的にも良いバランスのように感じられたし、それだけでなくD&Dでもクリーチャーが重傷に陥るのはそのヒットポイントが半分失われたときだ。試しに始めてみるには手ごろなラインと思われた。
10点のラインが適切なものだということはプレイテストによって早々と判明した。
デザイン・チームはこの「重傷/Bloodied」からアドバンテージを得られるヴァンパイアを大量に作った。最も多く作られたのは +2/+1 のボーナスを得るというものだ。
なぜ +2/+1 なのか?
その理由は3つある。その1として「平凡な +1/+1 との差別化」、その2として「マジック初期の象徴的な黒のカードであった《邪悪なる力/Unholy Strength》との紐づけ」、その3として「敵味方の両プレイヤーが10点という閾値に注意を払わざるを得なくなる程度に高いボーナス」として設定された。
ゼンディカーのデベロップメント・チームはヴァンパイアを用いたプレイテストに長い時間を費やした。
その結果として判明したのは、このボーナスは上手いことゲームで働いてくれる、ということだけでなく、ヴァンパイア・デザイン・チームが作ってくれた大量のヴァンパイアを全てこのセットに入れる必要はない、ということだった。
彼らは気に入ったものだけ残し、その他のカードについては違った方向にヴァンパイアのフレイバーを感じさせるデザインへと変更した。
ついでに述べておくと、デベロップメント・チームが気に入っているゼンディカーのデザインには《血の貢ぎ物/Blood Tribute》や《ソリン・マルコフ/Sorin Markov》のようなカードがある。これらは(声高に主張するのではなく)むしろひそやかにヴァンパイアのメカニズムへ紐づけがなされているところがいい。
そしてカードへ
さて今日のコラムを締め括る前に、セットに収録されているヴァンパイアの何枚かのデザインについてちょっと取り上げてみたら面白いかもしれない、と考えてみた。
Bloodghast / 恐血鬼 (黒)(黒)
クリーチャー - 吸血鬼(Vampire) スピリット(Spirit)
恐血鬼ではブロックできない。
恐血鬼は、いずれかの対戦相手のライフが10点以下である限り速攻を持つ。
上陸 ― 土地が1つあなたのコントロール下で戦場に出るたび、あなたはあなたの墓地にある恐血鬼を戦場に戻してもよい。
2/1
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Bloodghast/
これは10点のヒットポイントに関連するメカニズムを持つヴァンパイアのうち、デザインの段階ですでに生まれていた唯一のものだ。
念のために言っておくと、「ライフが10点以下である限り」のテキストは当然ヴァンパイア・デザイン・チームによって付け加えられたものだ。
上陸能力によって自力で墓地から帰って来られる黒のクリーチャーというアイデアがデザイン・チームによってすでに生み出されていたのだ。
Gatekeeper of Malakir / マラキールの門番 (黒)(黒)
クリーチャー - 吸血鬼(Vampire) 戦士(Warrior)
キッカー(黒)(あなたがこの呪文を唱えるに際し、あなたは追加の(黒)を支払ってもよい。)
マラキールの門番が戦場に出たとき、それがキッカーされていた場合、プレイヤー1人を対象とする。そのプレイヤーはクリーチャーを1体生け贄に捧げる。
2/2
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Gatekeeper+of+Malakir/
私の覚えている限りでは、これの元々のバージョンはゼンディカーのデベロップメント・リーダーであるHenry Sternに生み出された。
彼は、あまりややこしくない「戦場に出たとき/Enters the battlefield」にトリガーするキッカー能力を欲していた。
最初の能力は合計 (3)(黒) を払うことで《闇への追放/Dark Banishing》の効果を誘発するものであった。のちのデベロップメントで、最終的には合計 (黒)(黒)(黒) を払うことによって《残酷な布告/Cruel Edict》の効果となった。
Guul Draz Vampire / グール・ドラズの吸血鬼 (黒)
クリーチャー - 吸血鬼(Vampire) ならず者(Rogue)
いずれかの対戦相手のライフが10点以下である限り、グール・ドラズの吸血鬼は+2/+1の修整を受けるとともに威嚇を持つ。(それはアーティファクト・クリーチャーかそれと共通の色を持つクリーチャー以外にはブロックされない。)
1/1
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Guul+Draz+Vampire/
これは元々のKenのデザイン・チームの意図にもっとも近いカードだ。
+2/+1 のボーナスを残した唯一のカードでもある。
Kalitas, Bloodchief of Ghet / ゲトの血の長、カリタス (5)(黒)(黒)
伝説のクリーチャー - 吸血鬼(Vampire) 戦士(Warrior)
(黒)(黒)(黒),(T):クリーチャー1体を対象とし、それを破壊する。これによりそのクリーチャーがいずれかの墓地に置かれた場合、黒の吸血鬼(Vampire)クリーチャー・トークンを1体戦場に出す。それのパワーはそのクリーチャーのパワーに等しく、それのタフネスはそのクリーチャーのタフネスに等しい。
5/5
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Kalitas%2C+Bloodchief+of+Ghet/
このカードは一見トップダウン式に生まれたように見える。つまり「伝説のヴァンパイアをデザインする」のがまず先にありきで作られたように思われるかもしれないが、実際はそうではない。
誰がデザインしたかは残念ながら忘れてしまったが、これは普通のレアとして生まれた。
その後、伝説のクリーチャーのリストをクリエイティブ・チームからもらったとき、その中の1つは伝説のヴァンパイアだった(そのとおり。最初の段階で、もうすでにヴァンパイアが多少はいたのだ。単にコモンとアンコモンにいなかったというだけのことだ)。
既に作られていたカードの中に実にしっくり来るレアがあったため(そしてデザイン・チームの中でも人気のある1枚だったため)、私はこれを伝説のヴァンパイアへと変更したのだ。
Mindless Null / 愚鈍な虚身 (2)(黒)
クリーチャー - ゾンビ(Zombie)
あなたが吸血鬼(Vampire)をコントロールしていない限り、愚鈍な虚身ではブロックできない。
2/2
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Mindless+Null/
これ自体はヴァンパイアではないが、これは確かに「ヴァンパイア関連」のカードだ。そしてこいつに関してはなかなか面白い話があり、それをこれから語ろうと思う。
これの元々のバージョンも、今、君が見ているものと全く同じだった。ただ1つの違いはマナコストが (1)(黒)だったことだ。
このカードはKenがヴァンパイアのデザインをしている最中に生まれた。KenはこのカードデザインをHenry Sternへと預け、セットに加えておくように指示した。
Henryは(1)(黒)とするべきカードデータを誤って(2)(黒)と入力してしまった。間違いに気づいたとき、R&Dのメンバーの大半は「これは意外と面白いぞ」と思ったのでそのままにしておくことにした。
私はこのカードが気に入らなかった。
すでに弱すぎると皆に思われているカード(アルファから収録されている《スケイズ・ゾンビ/Scathe Zombies》のことだ)の明らかな下位互換をわざわざ作る意味があるとは思えなかったからだ。
私はこれをセットから抜くべきだ(もしくはせめてマナコストを (1)(黒) に戻すべきだ)と主張したが、Kenはこのままにすると言って譲らなかった。
Kenに同調するメンバーが多数派で、結局カードはそのまま印刷された。
さて、カードが世に出て世間一般の評判を聞くにつけ、私は自分が間違っていたこと、そして正しい選択がなされたことを素直に認めようと思う。
このカードはゼンディカーのリミテッドでデッキに入る可能性を持っている。
また私自身も過去にすでに出ているカードの下位互換でしかないバージョンを生み出そうとすることに賛成したことがある。下位互換であってもプレイするに値するカードだと思ったからだ。
(もし当時の私の意見が通っていたら、《無効/Annul》がミラディンに再録されるかわりに《Malfunction》というマナコストが (青) で、アーティファクトしか打ち消せない呪文が収録されていたはずだ)
Vampire Hexmage / 吸血鬼の呪詛術士 (黒)(黒)
クリーチャー - 吸血鬼(Vampire) シャーマン(Shaman)
先制攻撃
吸血鬼の呪詛術士を生け贄に捧げる:パーマネント1つを対象とする。それの上に置かれているすべてのカウンターを取り除く。
2/1
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Vampire+Hexmage/
デベロップメントの中で、低いレアリティのカードでプレインズウォーカーに対処する手段があるべきだ、ということでこのカードが生まれた。
そのとき私たちは想像もしなかったんだ。
まさかこれの真の使い道が「氷の塊の中から20/20の破壊されない飛行クリーチャーを掘り出すこと」(註)にあるとはね。つい先日のプロツアー・オースティンで見られたように。
(註) 氷の塊の中から20/20の破壊されない飛行クリーチャーを掘り出す
《吸血鬼の呪詛術士/Vampire Hexmage》と《暗黒の深部/Dark Depths》のコンボのこと。
以下、《暗黒の深部/Dark Depths》のカードテキスト。Dark Depths / 暗黒の深部
伝説の氷雪土地
暗黒の深部はその上に氷(ice)カウンターが10個置かれた状態で戦場に出る。
(3):暗黒の深部から氷カウンターを1個取り除く。
暗黒の深部の上に氷カウンターが1個も置かれていないとき、それを生け贄に捧げる。そうした場合、飛行と「このクリーチャーは破壊されない」を持つ《マリット・レイジ/Marit Lage》という名前の黒の20/20の伝説のアバター(Avatar)・クリーチャー・トークンを1体戦場に出す。
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Dark+Depths/
Vampire Lacerator / 吸血鬼の裂断者 (黒)
クリーチャー - 吸血鬼(Vampire) 戦士(Warrior)
あなたのアップキープの開始時に、いずれかの対戦相手のライフが10点以下でない限り、あなたは1点のライフを失う。
2/2
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Vampire+Lacerator/
このカードはKenのヴァンパイア・デザイン・チームによってではなく、デベロップメント・チームによって生み出された。
黒単色デッキのためによりアグレッシブな回答を探していた彼らは、お気に入りの黒いアグロなクリーチャーをヴァンパイアとして復活させることを決めたのだ。
そう、エクソダスの《カーノファージ/Carnophage》だよ。
トリビアネタを追加しておくと、そもそも私がエクソダスで《カーノファージ/Carnophage》を作ったのは、当時の黒単色のアグロなゾンビ・デッキを後押ししたかったからだ。
17番目のアンデッド
今日語るべきはこれで全部だ。
願わくばこのヴァンパイア世界へと足を踏み入れた記事のせいで君たちの血の気が引くようなことはなかったと思いたい。
来週は、惜しくも収録されることのなかった土地メカニズムについて話そうと思っているので、ぜひまたここに足を運んで欲しい。
それまで、君が対戦相手を重傷に陥らせることで得られるメリットを享受できていますように。
【翻訳】新セットの情報流出元について/New Phyrexia Leaks【DailyMTG】
Wizards of the Coast
2011年4月28日
元記事:http://www.wizards.com/magic/Magazine/Article.aspx?x=mtg/daily/news/042811a
Wizards of the Coast
2011年4月28日
元記事:http://www.wizards.com/magic/Magazine/Article.aspx?x=mtg/daily/news/042811a
日本語公式サイトに訳があがったので私訳を削除。
公式訳については以下を参照のこと。
日本語公式サイト:http://mtg-jp.com/publicity/001466/
【翻訳】ファイレクシア化は道半ば/Halfway Compleated【Daily MTG】
Tom LaPille
2011年04月08日
元記事:http://www.wizards.com/Magic/Magazine/Article.aspx?x=mtg/daily/ld/137
ミラディン軍とファイレクシア軍が半分ずつを占めているミラディン包囲戦というセットの開発では、全体では統一感を持たせつつも同時に互いに明確な違いが見えるように、多大なる労力が支払われた。
どのようにしてそれが行われたか、その一例を前にも一度このサイトで紹介した(註)。その方法とは開発チームを2つに分けてそれぞれの陣営を担当させる、というものだった。
そのときには、私が担当したのはミラディン陣営のみだったが、互いの陣営の特徴が何なのかについては両陣営の全員が理解していたはずだ。
私たちは各グループの垣根を越え、今まではファイレクシア陣営に属していなかった色に関しては、どうすればその色に馴染むようなファイレクシア・カードが作れるのかということを長い時間かけて話し合った。
今日はミラディン包囲戦のファイレクシア陣営のカードに関して、当時どのようなことが話し合われたのかを紹介したいと思う。
ミラディン包囲戦のデベロップメント・リーダーであるErikが担当した3つのセット全てにおいて、私はデベロッパーとして参加していた。その開発の中で、彼がマジックのどのような要素を好んでいるのかについて、私は多くを知ることができた。
Erikは、ことリミテッドに関してはより長引きそうな試合を好んだ。彼の担当したセットに《角海亀/Horned Turtle》、《包囲マストドン/Siege Mastodon》、《装甲のカンクリックス/Armored Cancrix》などが入っている理由はそれだ。(註)
《嵐潮のリバイアサン/Stormtide Leviathan》、《古えのヘルカイト/Ancient Hellkite》、そして《法務官の相談/Praetor’s Counsel》のような高コストのカードはいつでも輝けるというカードではない。
しかし早い段階でそういったカードをピックした際には、それらのために必要な防御的なクリーチャーを十分にピックできるような可能性を用意したいとErikは考えている。
私は、《ノーンの僧侶/Priests of Norn》そういった防御的なクリーチャーの中でも、僧侶だけに精神力によってより高みへのぼりつめることが出来た存在だと考えている。
もっとも軽い希少度の立場に甘んじているにも関わらず、このカードを少し離れて全体的に眺めるとかなり奇妙なカードであることが分かる。
通常、警戒能力持ちの1/4というクリーチャーは目立った活躍ができるスペックではない。何しろ《ルーン爪の熊/Runeclaw Bear》ですら日がな一日ブロックし続けることができるのだ。
ところがここにある感染という能力が《ルーン爪の熊/Runeclaw Bear》にとって少々悩ましい状況を作り出してしまう。しかしブロックしないことを選んだ対戦相手は、またこの感染という能力によって毒カウンターがじりじりと溜まっていくのを落ち着かない気持ちで迎えることになる。
実際のところ、《ノーンの僧侶/Priests of Norn》は伝統的な《角海亀/Horned Turtle》的な存在として働いてくれることは間違いない。しかしそれだけでなく、これはファイレクシア陣営のカードだな、と断言できるほどに、目新しくまた奇妙なことが出来るカードだと思う。
最後に少し付け加えておくと、私は特にこのカードについて起こりがちなリミテッドのデッキ構築、つまり「非感染デッキにも関わらず感染を持つカード(=これ)を忍び込ませることになる」という、ファイレクシア陣営を暗示するようなメタ的な含意は面白いと思っている。
あれ、なんでこいつがこっち側にいるんだろう? いや、気にする必要はないよ。1ヶ月か2ヶ月ほどしたら全てがこいつらの支配下に置かれるだけだからね。
とりあえず今は3/3でこいつに向かって攻撃したりしないように気をつけていればいい。大丈夫、大丈夫、全て上手いこと片付くさ……。
Aaron Forsythe 3/19:
「大丈夫か、Ball Lightning!? 助けに来たぜ!」
Bill Rose 3/19:
「お断りします」
白という色はクリーチャーを救うことに喜びを感じる色だ。それはファイレクシアにあっても変わらないが、その救済には代価が伴う。
私は多くの経験の浅いプレイヤーがこのカードの使い方でつまずくのを見てきた。
自身のクリーチャーを再生したい、だけど-1/-1カウンターは相手のクリーチャーに乗せたい。このカードのルール的な動きは簡単に分かる。しかし実際どう使えばよいのかはそう簡単ではない。
私たちは、2通りのまったく異なる使い方が出来てしまう上に自身のクリーチャーに用いた場合にはデメリットを残すようなカードを滅多に作ったりはしない。
しかしこのカードを全体として見たときに生じるその奇怪さこそが、白のファイレクシア・カードとして機能している証だと私たちには受け取られた。皆がこのカードのために色の慣例を破るのをいとわなかったことに感謝したい。
白のカードがいつもとちょっと違うことを示す、3つ目の例がこれだ。
確かに、攻撃クリーチャーを罰するのは間違いなく白の分野だ。
しかし通常、その罰が複数のクリーチャーに与えられることはないし、ましてやそれが-1/-1カウンターの形で与えられることはまずありえないと言っていい。
白のファイレクシア・カードの中でいえば、それほど変わっていると言うほどでもないが、私からするとそれでもまだ十分に奇妙なカードだ。
全体除去は元々白の分野だ。そのためそれをあえてファイレクシアっぽく捻じ曲げるのには少々骨を折った。
ありがたいことに、ファイレクシア・チームが妙案を提供してくれた。
しかしこのカードについて皆がどれほどまでにコメントを飛ばしあったかを見てくれれば、ファイレクシア・チームが考え出してくれた「捻じ曲げ方」が、いかに白という役割のボーダーラインすれすれだったか、君たちにも分かってもらえると思う。
Erik Lauer 3/10:
ファイレクシアチームから新しいカードが来たよ。
Steve Warner 3/11:
これどっからどう見ても黒のカードじゃね……?
クリーチャータイプをスピリットか何かにすれば、もしかしたらありかも。
Zac Hill 3/11:
これは素晴らしい。
Aaron Forsythe 3/19:
素晴らしいとは思うけど【検閲削除】のほうがもっと好きだな。
両方作っちゃダメなの? 片方は黒にする必要あり?
Tom LaPille 3/19/2010:
【検閲削除】は黒っぽい気がするね。
Ken Nagle 3/21/2010:
これがもし聖なるX/Xアバター・トークンを作るのなら白で問題ない。
だけどその場合、ファイレクシアっぽさが無くなる。
4黒黒のコストにしてX/Xのデーモンを出すのはどうかな。
もしトークンが飛行持ちならPete Ventersのデーモン・トークンを再利用できる。
トークンってのは、見た目がReiver Demonに似てるあれね。
あー、でもそうすると、戦場に出たときに全てのクリーチャーを破壊する
Reiver Demonっぽいカードを作ればいい、ってことになっちゃうか。
Ryan Miller 3/23:
これでいいよ! 白のウィニーデッキに入る全体除去だ!
テーマに沿ってて面白い。
ただ白なのにクリーチャータイプがホラーなのは変、ってのには同意
(ダンス・ホールで踊ってる時なら別だけど)
Kelly Digges 3/23:
これは実に「白いファイレクシア」だと思う。
こんな感じの黒いカードはどんなセットでも入りうるけど、
白いバージョンはここでしかあり得ない。
だからこそ白にあって欲しいと思う。
異論は認める。
Mark Rosewater (3/25/10):
白のファイクレシアカードにふさわしいと思うよ。
これは確かに白だけど、いつもの白じゃない。
Zac Hill 4/5:
このカード自体はいい。
だけどエルズペス/これ/【検閲削除】と、全体除去が多すぎる気がする。
似たような効果が増えすぎないよう注意する必要があるね。
成績優秀で容姿端麗なDaily MTGの編集者であるKelly Diggesからのコメントこそが、そのままこのカードを白にした理由を簡潔に説明している。
ファイレクシアとは何か? それは「目立たないほどわずかに侵してはならない境界線を侵しているもの」だ。
カラーパイに敬意を払っていないわけではない。しかしそれは、このカードのような「わずかに踏み外したカード」を作るのを諦めるほどに絶対的なものでもない。
最後に1つ。コメントの中で【検閲削除】と伏せさせてもらったカードは《黒の太陽の頂点/Black Sun’s Zenith》のことではない。注意をおこたらずアンテナを高くしていれば、それが出てきたときにはすぐ気づけるはずだ。
このカードのデメリット部分は元々このクリーチャーのコントローラーにしか影響しなかった。その状態の際には、こいつはより大きなサイズとより低いコストを持っていた。
その後、変化が生じた。
Mark Rosewater (3/25/10):
単にでかいデメリットを持っているってのは、ファイレクシアっぽくない気がする。
やっぱり対戦相手が嫌がるような効果がないとね。
せめて効果が全員に及ぶようにはできないかな。
「~ が戦場からいずれかの墓地に置かれたとき、
あなたはカードを2枚捨て、他のプレイヤーはカードを1枚捨てる。」
Erik Lauer 3/25:
全員が1枚捨てる、にしてみた。
この変更のおかげでこのカードはファイレクシアっぽくなったとは思うが、私がそう思うのはMarkとは違う理由からだ。
ドラフトでピックしたときとその後のデッキ構築中、「死亡時にトリガーされる効果は敵味方に対して公平に働くんだ」と自分に言い聞かせることは簡単だ。
しかし実際には、青いデッキは長期戦に持ち込むことを想定していることが多い。土地は余すところなくプレイしたい……こいつの捨て札のために1枚とっておいたりすることなく。
とはいえ、このジレンマもファイレクシア陣営のメンバーをチームに加えた結果として仕方ないものと受け止めなくてはいけないのだろう。
ありがたいことに3/2飛行というスペックは、たまにしか発生しない捨て札というデメリットよりも価値があるものだ。
Erik Lauer 3/10:
ファイレクシアチームから新しいカードが来たよ。
Zac Hill 3/11:
Obey Your ~ ♪ ……いや、なんでもない。
Erik Lauer 3/15:
Your life burns faster ~ ♪
Aaron Forsythe 3/19:
うざい。
Tom LaPille 3/19/2010:
プレイしたくなるね。ロックバンドをだけど。
Tabak 3/23:
こいつはなかなかいいと思うよ。
ただこれの名前と同じ題名の歌があった気がする……なんだっけ……
Erikはスラッシュ・メタルの大ファンで、このカードをフォルダに入れる際に《Master of Puppets》という仮の名前(註)をつけていた。
Mark Rosewater (3/25/10):
私だったら効果は「タップまたはアンタップ」に変えるね。
そうしないと白のカードみたいだ。
《流血の臣下/Gore Vassal》ほどではないが、このカードもまた悩ましい選択肢を迫られる可能性を秘めている。
対戦相手のクリーチャーをタップするという使い方は誰でも簡単に思いつくだろう。
しかしこの「またはアンタップ」が付け加えられたことで、ブロックのために使えるコンバットトリックとしての用法があることを示唆している。
もちろんそれはタダじゃない。代価を支払う必要がある。
私はチームにファイレクシアっぽさを混ぜることで多少気持ち悪いような、不安定な要素が生まれてしまうのもありだと考えている。
さらに言うと、1枚か2枚のファイレクシア・カードがプレイヤーに悩ましい選択肢を与えてしまうのも悪くないと思っている。
ファイレクシアとは奪うことに他ならない。青という色もまた他から奪う色だ。またファイレクシアは、それすなわち感染/Infectでもある。
これほどまでに明確なカードが他に作れただろうか? いや、無理だっただろう。ただこれに関しては1つの問題点が指摘された……
Zac Hill 12/21:
すげー、素晴らしい。
MJG 1/12/10:
カッコいいね。
Aaron Forsythe 2/18:
うーん、SOM(註)にもむかつくConfiscate(註)があったし、
多分だけどACT(註)にも入ることになると思う。
目を離さないほうがいいかもね。
Mark Rosewater (3/25/10):
これは戦争をテーマにしたセットにふさわしいと思う。
それはそれとして、確かに気をつけたほうがいいだろうね。
何せActionは通常のセットよりも多くの奪取系カードが必要になるだろうから。
ここで注意が喚起されているように、何かを奪うということはあまりにファイレクシア的なため、今後そういったカードを作る余地をきちんと残しておくよう気をつける必要がある。
なお、結局のところこのカードは収録されることになった。
このカードはミラディン軍とファイレクシア軍の対立を理解してもらう舞台装置として、あまりにも効果的なカードであった、というのがその理由だ。
《聖別されたスフィンクス/Consecrated Sphinx》は一見したところただの飛んでるデカブツに見える。
しかし実のところ、こいつは長いマジックの歴史の中で作られてきた数多くのムカつくクリーチャーの中でも、特に人の神経を逆撫でする1匹であることに私は気づいた。
「お、いいドローステップ持ってるねえ、
ちょっと僕もご一緒させてもらおうかな。
あれ? もしかして僕のほうが君より多く引いてるのかな?」
カードを引くという行為は通常において、自分のターンの中でも楽しい時間のはずだが、同時に対戦相手が2枚引くとあっては、とてもそうはいかないだろう。
相手の健全な楽しみを奪ってしまうというこの行為は非常にファイレクシア的だ。その点で私はこのカードが気に入っている。
~~~~ ~~~~ ~~~~ ~~~~
さて、ファイレクシアとは何かをそれとなく伝えるために私たちが用いた巧妙なテクニックについてここまで長々と述べてきた。
しかし私たちにとっては、暗にほのめかすのではなくあからさまな形でファイレクシアの侵出が行われていることを示すのも、同じくらい重要なことだった。
そして、ミラディンブロックの有名カードたちを引っ張り出してきて、それらに「感染」と書き足すことよりもあからさまな手段はそうはなかっただろう。
実際にカードとなってしまうと、あまり語ることもないが、この処置を施す対象を選ぶのには熟慮に熟慮を重ねた。
候補を収めたファイルには上記の3枚以外にも実に大量のカードが出番を待ち望んでいた。
しかし私たちの最終的な決断は、少ない枚数であっても人気のあるカードたちであれば十分な効果を上げられるだろうし、その方が他のカードのためのスペースをより多く確保できるだろう、というものだった。
《墨蛾の生息地/Inkmoth Nexus》と《ヴィリジアンの堕落者/Viridian Corrupter》の選択については私たちのもう1つの目的のためでもあった。それは構築レベルの感染デッキが生まれて欲しいというものだ。
今日はこれだけだ。何しろミラディン包囲戦の中でもファイレクシア的なのは半分だけに過ぎない。
これだけじゃ物足りない? すぐに(註)君にも満足してもらえると思うよ。
Tom LaPille
2011年04月08日
元記事:http://www.wizards.com/Magic/Magazine/Article.aspx?x=mtg/daily/ld/137
最初に書いておくと《ボール・ライトニング/Ball Lightning》は「3マナ 6/1 トランプル、速攻、ターン終了時に生け贄」というクリーチャー。
あと、記事内で青文字で斜体の箇所は、開発中に行われた開発部メンバー同士のやりとり。
それでは本文をどうぞ。
ミラディン軍とファイレクシア軍が半分ずつを占めているミラディン包囲戦というセットの開発では、全体では統一感を持たせつつも同時に互いに明確な違いが見えるように、多大なる労力が支払われた。
どのようにしてそれが行われたか、その一例を前にも一度このサイトで紹介した(註)。その方法とは開発チームを2つに分けてそれぞれの陣営を担当させる、というものだった。
(註) サイトで紹介した
リンク先は以下のURL。ミラディン陣営のカード開発に関するコラム。
http://www.wizards.com/magic/magazine/article.aspx?x=mtg/daily/ld/131
以下、上記コラムの拙訳。
http://regiant.diarynote.jp/201104152100134979/
そのときには、私が担当したのはミラディン陣営のみだったが、互いの陣営の特徴が何なのかについては両陣営の全員が理解していたはずだ。
私たちは各グループの垣根を越え、今まではファイレクシア陣営に属していなかった色に関しては、どうすればその色に馴染むようなファイレクシア・カードが作れるのかということを長い時間かけて話し合った。
今日はミラディン包囲戦のファイレクシア陣営のカードに関して、当時どのようなことが話し合われたのかを紹介したいと思う。
Priests of Norn / ノーンの僧侶 (2)(白)
クリーチャー - クレリック(Cleric)
警戒
感染(このクリーチャーは、クリーチャーに-1/-1カウンターの形でダメージを与え、プレイヤーに毒(poison)カウンターの形でダメージを与える。)
1/4
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Priests+of+Norn/
ミラディン包囲戦のデベロップメント・リーダーであるErikが担当した3つのセット全てにおいて、私はデベロッパーとして参加していた。その開発の中で、彼がマジックのどのような要素を好んでいるのかについて、私は多くを知ることができた。
Erikは、ことリミテッドに関してはより長引きそうな試合を好んだ。彼の担当したセットに《角海亀/Horned Turtle》、《包囲マストドン/Siege Mastodon》、《装甲のカンクリックス/Armored Cancrix》などが入っている理由はそれだ。(註)
(註) 理由
全てここで紹介されているクリーチャーはすべてタフネス偏重なバニラ・クリーチャーもの。ちなみに「バニラ」というのは特に能力を持っていない無印的なクリーチャーを指す俗語。
《角海亀/Horned Turtle》はバニラの3マナ・1/4
《包囲マストドン/Siege Mastodon》はバニラの5マナ・3/5
《装甲のカンクリックス/Armored Cancrix》はバニラの5マナ・2/5
《嵐潮のリバイアサン/Stormtide Leviathan》、《古えのヘルカイト/Ancient Hellkite》、そして《法務官の相談/Praetor’s Counsel》のような高コストのカードはいつでも輝けるというカードではない。
しかし早い段階でそういったカードをピックした際には、それらのために必要な防御的なクリーチャーを十分にピックできるような可能性を用意したいとErikは考えている。
私は、《ノーンの僧侶/Priests of Norn》そういった防御的なクリーチャーの中でも、僧侶だけに精神力によってより高みへのぼりつめることが出来た存在だと考えている。
もっとも軽い希少度の立場に甘んじているにも関わらず、このカードを少し離れて全体的に眺めるとかなり奇妙なカードであることが分かる。
通常、警戒能力持ちの1/4というクリーチャーは目立った活躍ができるスペックではない。何しろ《ルーン爪の熊/Runeclaw Bear》ですら日がな一日ブロックし続けることができるのだ。
ところがここにある感染という能力が《ルーン爪の熊/Runeclaw Bear》にとって少々悩ましい状況を作り出してしまう。しかしブロックしないことを選んだ対戦相手は、またこの感染という能力によって毒カウンターがじりじりと溜まっていくのを落ち着かない気持ちで迎えることになる。
実際のところ、《ノーンの僧侶/Priests of Norn》は伝統的な《角海亀/Horned Turtle》的な存在として働いてくれることは間違いない。しかしそれだけでなく、これはファイレクシア陣営のカードだな、と断言できるほどに、目新しくまた奇妙なことが出来るカードだと思う。
最後に少し付け加えておくと、私は特にこのカードについて起こりがちなリミテッドのデッキ構築、つまり「非感染デッキにも関わらず感染を持つカード(=これ)を忍び込ませることになる」という、ファイレクシア陣営を暗示するようなメタ的な含意は面白いと思っている。
あれ、なんでこいつがこっち側にいるんだろう? いや、気にする必要はないよ。1ヶ月か2ヶ月ほどしたら全てがこいつらの支配下に置かれるだけだからね。
とりあえず今は3/3でこいつに向かって攻撃したりしないように気をつけていればいい。大丈夫、大丈夫、全て上手いこと片付くさ……。
Gore Vassal / 流血の臣下 (2)(白)
クリーチャー - 猟犬(Hound)
流血の臣下を生け贄に捧げる:クリーチャー1体を対象とし、それの上に-1/-1カウンターを1個置く。その後、そのクリーチャーのタフネスが1以上である場合、それを再生する。
2/1
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Gore+Vassal/
Aaron Forsythe 3/19:
「大丈夫か、Ball Lightning!? 助けに来たぜ!」
Bill Rose 3/19:
「お断りします」
白という色はクリーチャーを救うことに喜びを感じる色だ。それはファイレクシアにあっても変わらないが、その救済には代価が伴う。
私は多くの経験の浅いプレイヤーがこのカードの使い方でつまずくのを見てきた。
自身のクリーチャーを再生したい、だけど-1/-1カウンターは相手のクリーチャーに乗せたい。このカードのルール的な動きは簡単に分かる。しかし実際どう使えばよいのかはそう簡単ではない。
私たちは、2通りのまったく異なる使い方が出来てしまう上に自身のクリーチャーに用いた場合にはデメリットを残すようなカードを滅多に作ったりはしない。
しかしこのカードを全体として見たときに生じるその奇怪さこそが、白のファイレクシア・カードとして機能している証だと私たちには受け取られた。皆がこのカードのために色の慣例を破るのをいとわなかったことに感謝したい。
Choking Fumes / 窒息の噴煙 (2)(白)
インスタント
各攻撃クリーチャーの上に-1/-1カウンターを1個ずつ置く。
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Choking+Fumes/
白のカードがいつもとちょっと違うことを示す、3つ目の例がこれだ。
確かに、攻撃クリーチャーを罰するのは間違いなく白の分野だ。
しかし通常、その罰が複数のクリーチャーに与えられることはないし、ましてやそれが-1/-1カウンターの形で与えられることはまずありえないと言っていい。
白のファイレクシア・カードの中でいえば、それほど変わっていると言うほどでもないが、私からするとそれでもまだ十分に奇妙なカードだ。
Phyrexian Rebirth / ファイレクシアの再誕 (4)(白)(白)
ソーサリー
すべてのクリーチャーを破壊する。その後、無色のX/Xのホラー(Horror)・アーティファクト・クリーチャー・トークンを1体戦場に出す。Xは、これにより破壊されたクリーチャーの総数である。
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Phyrexian+Rebirth/
全体除去は元々白の分野だ。そのためそれをあえてファイレクシアっぽく捻じ曲げるのには少々骨を折った。
ありがたいことに、ファイレクシア・チームが妙案を提供してくれた。
しかしこのカードについて皆がどれほどまでにコメントを飛ばしあったかを見てくれれば、ファイレクシア・チームが考え出してくれた「捻じ曲げ方」が、いかに白という役割のボーダーラインすれすれだったか、君たちにも分かってもらえると思う。
Erik Lauer 3/10:
ファイレクシアチームから新しいカードが来たよ。
Steve Warner 3/11:
これどっからどう見ても黒のカードじゃね……?
クリーチャータイプをスピリットか何かにすれば、もしかしたらありかも。
Zac Hill 3/11:
これは素晴らしい。
Aaron Forsythe 3/19:
素晴らしいとは思うけど【検閲削除】のほうがもっと好きだな。
両方作っちゃダメなの? 片方は黒にする必要あり?
Tom LaPille 3/19/2010:
【検閲削除】は黒っぽい気がするね。
Ken Nagle 3/21/2010:
これがもし聖なるX/Xアバター・トークンを作るのなら白で問題ない。
だけどその場合、ファイレクシアっぽさが無くなる。
4黒黒のコストにしてX/Xのデーモンを出すのはどうかな。
もしトークンが飛行持ちならPete Ventersのデーモン・トークンを再利用できる。
トークンってのは、見た目がReiver Demonに似てるあれね。
あー、でもそうすると、戦場に出たときに全てのクリーチャーを破壊する
Reiver Demonっぽいカードを作ればいい、ってことになっちゃうか。
Ryan Miller 3/23:
これでいいよ! 白のウィニーデッキに入る全体除去だ!
テーマに沿ってて面白い。
ただ白なのにクリーチャータイプがホラーなのは変、ってのには同意
(ダンス・ホールで踊ってる時なら別だけど)
Kelly Digges 3/23:
これは実に「白いファイレクシア」だと思う。
こんな感じの黒いカードはどんなセットでも入りうるけど、
白いバージョンはここでしかあり得ない。
だからこそ白にあって欲しいと思う。
異論は認める。
Mark Rosewater (3/25/10):
白のファイクレシアカードにふさわしいと思うよ。
これは確かに白だけど、いつもの白じゃない。
Zac Hill 4/5:
このカード自体はいい。
だけどエルズペス/これ/【検閲削除】と、全体除去が多すぎる気がする。
似たような効果が増えすぎないよう注意する必要があるね。
成績優秀で容姿端麗なDaily MTGの編集者であるKelly Diggesからのコメントこそが、そのままこのカードを白にした理由を簡潔に説明している。
ファイレクシアとは何か? それは「目立たないほどわずかに侵してはならない境界線を侵しているもの」だ。
カラーパイに敬意を払っていないわけではない。しかしそれは、このカードのような「わずかに踏み外したカード」を作るのを諦めるほどに絶対的なものでもない。
最後に1つ。コメントの中で【検閲削除】と伏せさせてもらったカードは《黒の太陽の頂点/Black Sun’s Zenith》のことではない。注意をおこたらずアンテナを高くしていれば、それが出てきたときにはすぐ気づけるはずだ。
Serum Raker / 血清掻き (2)(青)(青)
クリーチャー - ドレイク(Drake)
飛行
血清掻きが戦場からいずれかの墓地に置かれたとき、各プレイヤーはカードを1枚捨てる。
3/2
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Serum+Raker/
このカードのデメリット部分は元々このクリーチャーのコントローラーにしか影響しなかった。その状態の際には、こいつはより大きなサイズとより低いコストを持っていた。
その後、変化が生じた。
Mark Rosewater (3/25/10):
単にでかいデメリットを持っているってのは、ファイレクシアっぽくない気がする。
やっぱり対戦相手が嫌がるような効果がないとね。
せめて効果が全員に及ぶようにはできないかな。
「~ が戦場からいずれかの墓地に置かれたとき、
あなたはカードを2枚捨て、他のプレイヤーはカードを1枚捨てる。」
Erik Lauer 3/25:
全員が1枚捨てる、にしてみた。
この変更のおかげでこのカードはファイレクシアっぽくなったとは思うが、私がそう思うのはMarkとは違う理由からだ。
ドラフトでピックしたときとその後のデッキ構築中、「死亡時にトリガーされる効果は敵味方に対して公平に働くんだ」と自分に言い聞かせることは簡単だ。
しかし実際には、青いデッキは長期戦に持ち込むことを想定していることが多い。土地は余すところなくプレイしたい……こいつの捨て札のために1枚とっておいたりすることなく。
とはいえ、このジレンマもファイレクシア陣営のメンバーをチームに加えた結果として仕方ないものと受け止めなくてはいけないのだろう。
ありがたいことに3/2飛行というスペックは、たまにしか発生しない捨て札というデメリットよりも価値があるものだ。
Vedalken Anatomist / ヴィダルケンの解剖学者 (2)(青)
クリーチャー - ヴィダルケン(Vedalken) ウィザード(Wizard)
(2)(青),(T):クリーチャー1体を対象とし、それの上に-1/-1カウンターを1個置く。あなたはそのクリーチャーをタップまたはアンタップしてもよい。
1/2
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Vedalken+Anatomist/
Erik Lauer 3/10:
ファイレクシアチームから新しいカードが来たよ。
Zac Hill 3/11:
Obey Your ~ ♪ ……いや、なんでもない。
Erik Lauer 3/15:
Your life burns faster ~ ♪
Aaron Forsythe 3/19:
うざい。
Tom LaPille 3/19/2010:
プレイしたくなるね。ロックバンドをだけど。
Tabak 3/23:
こいつはなかなかいいと思うよ。
ただこれの名前と同じ題名の歌があった気がする……なんだっけ……
Erikはスラッシュ・メタルの大ファンで、このカードをフォルダに入れる際に《Master of Puppets》という仮の名前(註)をつけていた。
(註) 《Master of Puppets》という名前
メタリカというヘヴィメタル・バンドの歌に「Master of Puppest」という題名のものがあり、その歌い出しが「Obey your master. Your life burns faster. Obey your master. Master Master of puppets I’m pulling your strings.」であるらしい。
Mark Rosewater (3/25/10):
私だったら効果は「タップまたはアンタップ」に変えるね。
そうしないと白のカードみたいだ。
《流血の臣下/Gore Vassal》ほどではないが、このカードもまた悩ましい選択肢を迫られる可能性を秘めている。
対戦相手のクリーチャーをタップするという使い方は誰でも簡単に思いつくだろう。
しかしこの「またはアンタップ」が付け加えられたことで、ブロックのために使えるコンバットトリックとしての用法があることを示唆している。
もちろんそれはタダじゃない。代価を支払う必要がある。
私はチームにファイレクシアっぽさを混ぜることで多少気持ち悪いような、不安定な要素が生まれてしまうのもありだと考えている。
さらに言うと、1枚か2枚のファイレクシア・カードがプレイヤーに悩ましい選択肢を与えてしまうのも悪くないと思っている。
Corrupted Conscience / 堕落した良心 (3)(青)(青)
エンチャント - オーラ(Aura)
エンチャント(クリーチャー)
あなたはエンチャントされているクリーチャーをコントロールする。
エンチャントされているクリーチャーは感染を持つ。(それはクリーチャーに-1/-1カウンターの形でダメージを与え、プレイヤーに毒(poison)カウンターの形でダメージを与える。)
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Corrupted+Conscience/
ファイレクシアとは奪うことに他ならない。青という色もまた他から奪う色だ。またファイレクシアは、それすなわち感染/Infectでもある。
これほどまでに明確なカードが他に作れただろうか? いや、無理だっただろう。ただこれに関しては1つの問題点が指摘された……
Zac Hill 12/21:
すげー、素晴らしい。
MJG 1/12/10:
カッコいいね。
Aaron Forsythe 2/18:
うーん、SOM(註)にもむかつくConfiscate(註)があったし、
多分だけどACT(註)にも入ることになると思う。
目を離さないほうがいいかもね。
Mark Rosewater (3/25/10):
これは戦争をテーマにしたセットにふさわしいと思う。
それはそれとして、確かに気をつけたほうがいいだろうね。
何せActionは通常のセットよりも多くの奪取系カードが必要になるだろうから。
(註) SOM
Scars of Mirrodinの略。つまりミラディンの傷跡のこと。
(註) Confiscate
永続的にコントロールを奪取するオーラ・カードである《押収/Confiscate》のこと。ここでは、相手のパーマネントのコントロールを奪うオーラ・カードの代名詞として使っており、遠まわしにミラディンの傷跡の《決断の手綱/Volition Reins》を指している。
(註) ACT
Actionの略。次に発売が予定されているセットの仮の名前。
ここで注意が喚起されているように、何かを奪うということはあまりにファイレクシア的なため、今後そういったカードを作る余地をきちんと残しておくよう気をつける必要がある。
なお、結局のところこのカードは収録されることになった。
このカードはミラディン軍とファイレクシア軍の対立を理解してもらう舞台装置として、あまりにも効果的なカードであった、というのがその理由だ。
Consecrated Sphinx / 聖別されたスフィンクス (4)(青)(青)
クリーチャー - スフィンクス(Sphinx)
飛行
いずれかの対戦相手がカードを1枚引くたび、あなたはカードを2枚引いてもよい。
4/6
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Consecrated+Sphinx/
《聖別されたスフィンクス/Consecrated Sphinx》は一見したところただの飛んでるデカブツに見える。
しかし実のところ、こいつは長いマジックの歴史の中で作られてきた数多くのムカつくクリーチャーの中でも、特に人の神経を逆撫でする1匹であることに私は気づいた。
「お、いいドローステップ持ってるねえ、
ちょっと僕もご一緒させてもらおうかな。
あれ? もしかして僕のほうが君より多く引いてるのかな?」
カードを引くという行為は通常において、自分のターンの中でも楽しい時間のはずだが、同時に対戦相手が2枚引くとあっては、とてもそうはいかないだろう。
相手の健全な楽しみを奪ってしまうというこの行為は非常にファイレクシア的だ。その点で私はこのカードが気に入っている。
~~~~ ~~~~ ~~~~ ~~~~
さて、ファイレクシアとは何かをそれとなく伝えるために私たちが用いた巧妙なテクニックについてここまで長々と述べてきた。
しかし私たちにとっては、暗にほのめかすのではなくあからさまな形でファイレクシアの侵出が行われていることを示すのも、同じくらい重要なことだった。
そして、ミラディンブロックの有名カードたちを引っ張り出してきて、それらに「感染」と書き足すことよりもあからさまな手段はそうはなかっただろう。
原文ではここに《ヴィリジアンの堕落者/Viridian Corrupter》、《荒廃鋼の巨像/Blightsteel Colossus》、《墨蛾の生息地/Inkmoth Nexus》の3枚の画像が並んでいる。
それぞれミラディンの《ヴィリジアンのシャーマン/Viridian Shaman》、《ファイレクシアの巨像/Phyrexian Colossus》、《ちらつき蛾の生息地/Blinkmoth Nexus》にそのまま感染を加えたようなカード。
実際にカードとなってしまうと、あまり語ることもないが、この処置を施す対象を選ぶのには熟慮に熟慮を重ねた。
候補を収めたファイルには上記の3枚以外にも実に大量のカードが出番を待ち望んでいた。
しかし私たちの最終的な決断は、少ない枚数であっても人気のあるカードたちであれば十分な効果を上げられるだろうし、その方が他のカードのためのスペースをより多く確保できるだろう、というものだった。
《墨蛾の生息地/Inkmoth Nexus》と《ヴィリジアンの堕落者/Viridian Corrupter》の選択については私たちのもう1つの目的のためでもあった。それは構築レベルの感染デッキが生まれて欲しいというものだ。
今日はこれだけだ。何しろミラディン包囲戦の中でもファイレクシア的なのは半分だけに過ぎない。
これだけじゃ物足りない? すぐに(註)君にも満足してもらえると思うよ。
(註) すぐに
原文では以下のリンクが張ってある。
リンク先は新たなるファイレクシアのカードプレビュー。
http://www.wizards.com/magic/magazine/article.aspx?x=mtg/daily/arcana/677
【翻訳】戦乱の舞台裏へ/The Multiverse at War【Daily MTG】
Tom LaPille
2011年03月18日
元記事:http://www.wizards.com/Magic/Magazine/Article.aspx?x=mtg/daily/ld/134
Multiverseと呼ばれるマジックのセットを制作するのに用いられている意見交換用のデータベースがあり、このデータベースに残されたコメントを元に最新のデベロップメントに関する記事を書く、という由緒正しい伝統がウィザーズには存在する。
ウィザーズ社に入社する以前は読者としてこれらの記事を楽しませてもらっていたし、今やそれらを書く側となったことを私は楽しんでいる。君たちの多くもこれらの記事を楽しんでくれていると思う。
私がミラディンの傷跡に関するMultiverseの記事を書いてないことに誰か気づいたかもしれない。
書けなかった理由は、Mutliverseのミラディンの傷跡に関するファイルには、記事にするだけの面白おかしいネタが見つからなかったからだ。しかし幸いなことにミラディン包囲戦には話したくなるようなネタがたんまりとあった。
さあ、始めようか。
その前に、コメント読むのに必要な情報をいつものように以下へ記しておくよ。
Aaron Forsythe:
マジック・R&Dディレクター
Alexis Janson:
第1回 Great Designer Search(註)の優勝者
Doug Beyer:
マジック・クリエイティブ・デザイナー
Del Laugel:
マジック・シニア・エディター
Erik Lauer:
ミラディン包囲戦、リード・デベロッパー
Ken Nagle:
マジック・デザイナー
Mike Turian:
ミラディン包囲戦、デベロッパー
Mark Rosewater:
マジック・ヘッド・デザイナー
Tom LaPille:
私だ!
Ryan Miller:
デュエルマスターズ・デザイナー
Steve Warner:
デュエルマスターズ・デザイナー 兼 マジック・プレイテスター
Zac Hill:
ミラディン包囲戦、デベロッパー
さて、Multiverseの探訪の旅を楽しんでもらえただろうか。
私は次のセットであるAction(仮名)のデベロップメントに参加しているが、今回のような記事の1つや2つを書けるようなネタがたっぷり用意されている。
覚えている限りの今までのMultiverseのファイルの中でも特に多種多様なネタにあふれているから、これに関する記事を書くのが楽しみでしょうがない。
その記事を君たちも楽しんでくれるだろうと信じているよ。
Tom LaPille
2011年03月18日
元記事:http://www.wizards.com/Magic/Magazine/Article.aspx?x=mtg/daily/ld/134
Multiverseと呼ばれるマジックのセットを制作するのに用いられている意見交換用のデータベースがあり、このデータベースに残されたコメントを元に最新のデベロップメントに関する記事を書く、という由緒正しい伝統がウィザーズには存在する。
ウィザーズ社に入社する以前は読者としてこれらの記事を楽しませてもらっていたし、今やそれらを書く側となったことを私は楽しんでいる。君たちの多くもこれらの記事を楽しんでくれていると思う。
私がミラディンの傷跡に関するMultiverseの記事を書いてないことに誰か気づいたかもしれない。
書けなかった理由は、Mutliverseのミラディンの傷跡に関するファイルには、記事にするだけの面白おかしいネタが見つからなかったからだ。しかし幸いなことにミラディン包囲戦には話したくなるようなネタがたんまりとあった。
さあ、始めようか。
その前に、コメント読むのに必要な情報をいつものように以下へ記しておくよ。
Aaron Forsythe:
マジック・R&Dディレクター
Alexis Janson:
第1回 Great Designer Search(註)の優勝者
Doug Beyer:
マジック・クリエイティブ・デザイナー
Del Laugel:
マジック・シニア・エディター
Erik Lauer:
ミラディン包囲戦、リード・デベロッパー
Ken Nagle:
マジック・デザイナー
Mike Turian:
ミラディン包囲戦、デベロッパー
Mark Rosewater:
マジック・ヘッド・デザイナー
Tom LaPille:
私だ!
Ryan Miller:
デュエルマスターズ・デザイナー
Steve Warner:
デュエルマスターズ・デザイナー 兼 マジック・プレイテスター
Zac Hill:
ミラディン包囲戦、デベロッパー
(註) Great Designer Search
2006年に行われたデザイナーの一般公募。このリストに載っているKen Nagleも最終予選まで勝ち抜いた3人のうちの1人。以下、このコンテストに関する記事(リンク先は英語)。episodeは1から7まである。
http://www.wizards.com/Magic/Magazine/Article.aspx?x=mtgcom/designersearch/episode1
2010年10月に第2回が行われている。
第2回の2次試験の選択問題は日本の公式サイトにも載っている。
選択問題
http://archive.mtg-jp.com/reading/translated/010422/
Kemba’s Legion / ケンバの軍勢 (5)(白)(白)
クリーチャー - 猫(Cat) 兵士(Soldier)
警戒
ケンバの軍勢は、ケンバの軍勢につけられている装備品(Equipment)1つにつき、追加のクリーチャー1体をブロックできる。
4/6
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Kemba%27s+Legion/Ken Nagle 3/12/2010:
《岩投げの小隊/Rockcaster Platoon》や《ナカティルの狩り群れ/Nacatl Hunt-Pride》みたいな、間抜けな白のデカいアンコモン野郎がまた1匹! やったね! (^▽^)
Aaron Forsythe 3/19/2010:
マジックのカードの中でも、こういうアンコモンのデカブツは特に好きだよ。
このカードや先輩に当たるカードたちについては以前にも記事で語ったことがある。《ルーアム・ジン/Ruham Djinn》、《岩投げの小隊/Rockcaster Platoon》、それに《歩哨の樫/Sentry Oak》などが同じジャンルに含まれる。私たちは基本的にこいつらが大好きだ。
ちょっと待って……Mike Turianが怒ってるぞ! みんな逃げろ!Mike Turian 3/23/2010:
じゃあなんで君たちは《ナカティルの狩り群れ/Nacatl Hunt-Pride》のとき、あんなに不満たらたらだったんだよ!?
最初、私はここで問題にされているカードが《ナカティルの戦群れ/Nacatl War-Pride》のことかと思った。
《ナカティルの戦群れ/Nacatl War-Pride》はなかなかにカッコいいカードなのだが、アンコモンとしては残念なことにルール的に複雑な点がいくつもあったからだ。
彼がここで問題にしている《ナカティルの狩り群れ/Nacatl Hunt-Pride》について、過去に何があったのかは私はよく知らない。
そのため推測することしか出来ないが、おそらく断片/Shardを表現するためのカードが自身でない色を起動コストとする能力を持つにも関わらず、その断片/Shardのメインカラーと自身の色が一致していないということを全メンバーが等しく納得していたわけではない、ということが原因ではないかと思う。
Mirran Crusader / ミラディンの十字軍 (1)(白)(白)
クリーチャー - 人間(Human) 騎士(Knight)
二段攻撃、プロテクション(黒)、プロテクション(緑)
2/2
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Mirran+Crusader/
包囲戦の対立を体現するために《ヴェクの聖騎士/Paladin en-Vec》的なカードを対で作ろう、というアイデアを最初に言い出したのが誰だったかは思い出せない。
何にせよそのアイデアは採用された。それらがどのような能力を持つべきかについては極めて明快だった。
感染/Infectが相手を殺すのに10点しかかからないとしたら、対となるべきは二段攻撃/Double Strikeに決まっている。
さてこれらのカードは存在を許されうるのか?
黒い片割れのテキストとそのプレイされた結果は満足のいくものだった。しかし、そのもう片方に関しては……?Zac Hill 02/01/2010:
分かったのはこいつが今までに存在したカードの中で特に酷いってことだ
Ken Nagle 01/19/2010:
こいつが出る前までは緑使うのも楽しかったのにな (´・ω・`)
Erik Lauer 01/22/2010:
だな。こいつはあからさまに酷すぎる。けど、もう少しテストしてみたい。警戒+先制攻撃のほうがいいかも。
Mike Turian 01/25/2010: (註)
ブロックするのは難しいかもしれないけど、巨大化する心配をしなくてよくなるのはいいニュースかもね
Erik Lauer 01/27/2010:
そいつは笑える!(註) Mike Turian
原文ではコメントした人の名前は略称で表されている。ここの略称は原文では「MJ」となっていたけど、参加者の一覧に「MJ」が略称のメンバーがいない。
Mで略称が始まるのは「MT(Mike Turian)」と「MR(Mark Rosewater)」のみ。記事内で一度も出てきていないのは「MT」なので「MJ」はおそらく「MT」タイプミスと推測した。
今までも私たちがカードの出来を確かめるのに使ってきた手法を試してみることにした。そう、今しばらくそのままでカードをプレイしてみることにしたのだ。
その結果、はっきりと示せる根拠があったわけではないが、このままでも大丈夫だろうということが徐々に分かってきた。
このカードは強いが、強すぎるということはない。Zac Hill 02/08/2010:
こいつは結局のところ世に出しても大丈夫だって俺の中の何かが囁いてるよ。
Steve Warner 02/10/2010:
こいつらが気に入った。もしかしたら白騎士と黒騎士のペアよりもみなの記憶に残るカードになるかもしれない。
もちろん、これでテスト完了なんてことにはしなかった。Zac Hill 02/16/2010:
緑がこれに対処するにはありえないようなコンボ決めるしかないぞ。
Erik Lauer 02/17/2010:
そうかな。赤がメインのデッキに対するプロテクション赤のほうがキツくない?
赤を散らした緑デッキは赤いクリーチャー除去を入れてることが多いけど、緑を散らした赤デッキはたいていの場合、緑のクリーチャー除去を入れてないでしょ。それとももしかして単色デッキに限った話?
Zac Hill 02/18/2010:
まず「その1:大抵の緑デッキは感染のために緑黒で組まれる」。だけど「その2:稲妻があれば問題なし」か。
気にしてたのはどっちかというと緑単色や緑白のサバイバルデッキだ。(註)
パラディンよりこいつが問題となのは、4点ってダメージに耐えられるクリーチャーがデッキにいないし、ブロックして生き延びるだけすら出来る奴がいない。
でも、まあ、今のままでいいとは思ってるけどね。(註) サバイバルデッキ
《適者生存/Survival of the Fittest》の能力を持つクリーチャー、《獣相のシャーマン/Fauna Shaman》を中心に据えたデッキの総称。
このカードをプレイすればするほど分かってきたのは、このカードには剣を装備させたい、ということだ。
《肉体と精神の剣/Sword of Body and Mind》を装備させればさらなるプロテクションを得られるし、二段攻撃のおかげで剣の効果も2倍だ。
剣を帯びたこいつによって繰り出される極めて凶暴な攻撃を見たアーロンは、カードに変更の余地がないか調査するよう私たちに依頼を投げてきた。Aaron Forsythe 03/19/2010:
私にはインフレが行き過ぎているように思われる。装備品を身に付けたこいつは、楽しいと呼ぶには程遠い。
一段階弱めることはできないだろうか? アイデアとしては「その1:二段攻撃と感染を起動型能力にする」「その2:召喚コストを無色3点+有色1点にする」「その3:2/1にする」「その4:多色にする。赤白白と黒黒緑」。
パワーを変えずにバリエーションを増やしてみたんだが。
Erik Lauer 03/19/2010:
琴線に触れたのは2/1だね。
あとはプロテクション:アーティファクトを持たせて装備できなくするとかかな。だけどそれだとさらに強くなるだけかも。
Tom LaPille 3/19/2010:
タフネスを1にするがいいかな。
それでも十分に強いとは思う。ただ傷跡のPlague系カードで殺せるようになっちゃうけどね。ほかの選択肢はその場しのぎな感じがするな。
Erik Lauer 03/20/2010:
二段攻撃に起動コストがかかるのはいいと思うけど、感染が起動型になるのはちょっと気に食わないな(いや、感染はそのままで先制攻撃を起動型にしてもいいけど)
それからしばらくのあいだ、私たちはいくつかのプレイテストのセッションに集中して取り組んだ。
そのプレイテストで私たちは、私たちの生み出したバランスが正しいものだと証明するべく十字軍たちを最大限に活かせるデッキを十字軍抜きの最強デッキたち相手にプレイし続けた。
今時点、この証明は完了していない。しかし最終的に私たちは元々のバランスに問題はなかった、という判断を下した。
どちらの十字軍も構築を面白くしてくれるだろうと思っている。しかし環境を支配するほどに強すぎることもないだろう、とも。
私たちはこの意見書をアーロンへ提出し、彼はそれに満足した。今のところ、私たちは基本的に正しかったように思われる。Ken Nagle 03/21/2010:
不思議な感じだね。
ジョニー好きするような無害そのものの《Plague Vesicle》みたいなアーティファクトが色んなカードのパワーバランスを左右することになるなんてさ。
ここでKenのコメントに出てきた《Plague Vesicle》というのは今現在《伝染病の留め金/Contagion Clasp》と呼ばれているものだ。
私たちはこのカードを実際に今プレイされているよりもずっと高い頻度で用いていた。
私たちはプレインズウォーカーたちがより迅速に奥義へと到達させるべく増殖の効果を用いることを楽しんだが、その使い道においては私たちが思っていたよりも使い勝手の悪いカードだった。
私たちはスタンダード環境の未来をいつも的確に予想できるわけではないが、十字軍たちのケースに関しては上手く回っている。
White Sun’s Zenith / 白の太陽の頂点 (X)(白)(白)(白)
インスタント
白の2/2の猫(Cat)クリーチャー・トークンをX体戦場に出す。白の太陽の頂点をオーナーのライブラリーに加えて切り直す。
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/White+Sun%27s+Zenith/
開発が始まったばかりの頃、頂点/Zenithサイクルがファイルへ加えられたとき、それらはまとめてデザインされた。
そのうちの4枚は基本的に初期の状態のまま据え置かれたが、この1枚は違う。
最初、これは無色のトークンを生み出した。Erik Lauer 01/22/2010:
これと《清浄の名誉/Honor of the Pure》が入ってるTomの作ったデッキ使ってたんだけど、このカードが生み出すのって無色のトークンであって白じゃないんだね。
これ、合ってるの? 白・トークンとマイア・トークンはどっちもクリエイティブ的にはOKなの?
《白の太陽の頂点/White Sun’s Zenith》はトークンを生み出すカードにも関わらず、それは現環境でトークンと最も相性の良いはずの白いカードと上手く働かない。
ありがたいことに、クリエイティブからの返事はトークンを白にしてもよい、というものだった。ついでに、トークンは1/1か2/2のどちらかになるべきなのでそれも決めてくれ、とのことだった。Erik Lauer 01/27/2010:
Doug、決めたぜ! 白の2/2だ。猫の戦士は開発部の味方さ。
Doug Beyer 01/28/2010:
了解、回答ありがとう。確かSOMには2/2の白い猫トークン入りがいたはずだからちょうどいい(残念ながら単なる猫で無職だけどね)
このバージョンは最初、(X)(白)(白)のソーサリーだった。誰かが、ちょっとコストを上げてかわりにインスタントにできないか、というアイデアを出した。
また同時期にZac Hillが猫の祝祭(Cat Festival)というアイデアは最高だという結論に達していた。Zac Hill 02/01/2010:
猫の祝祭! いえーい!
Zac Hill 03/09/2010:
XWWWのインスタントでどうよ?
Erik Lauer 03/12/2010:
XWWのソーサリーから、XWWWのインスタント、と。
しかしErikはこのデザインが正解かどうか自信がなかったため、私たちに何か代替案があるかどうか意見を求めた。Erik Lauer 03/12/2010:
このままにするのと、インスタントのXWで、点数で見たマナコストがX以下の土地でないパーマネントを追放するのと、どっちがいい?
Aaron Forsythe 03/19/2010:
このまま。
Xの単位が猫の奴。
Tom LaPille 03/19/2010:
このままがいいな。
Ryan Miller 03/23/2010:
猫!
Mark Rosewater 03/25/2010:
猫大好き。
それはさておきこのサイクルは本当に使ってて楽しい。
猫、万歳!
Oculus / 眼魔 (1)(青)
クリーチャー - ホムンクルス(Homunculus)
眼魔が戦場からいずれかの墓地に置かれたとき、あなたはカードを1枚引いてもよい。
1/1
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Oculus/Doug Beyer 01/05/2010:
ラヴニカの《検分するスプライト/Surveilling Sprite》は同じ能力で飛行持ちなのに。
Ken Nagle 01/19/2010:
青のドローカードが ま た 劣化するのか!
Zac Hill 01/20/2010:
だけどこいつは青いゾンビだろ!?(註)
MLG 02/11/2010: (註)
どこからどうみても《検分するスプライト/Surveilling Sprite》の下位互換。
Ken Nagle 02/22/2010:
君たちはど素人か? ホムンクルスは 飛 べ な い だろうが!
Aaron Forsythe 02/18/2010:
今のままでも青をやるときは必ず使うなあ。当時とは使われ方が違う気がする。(註) 青いゾンビ
フレイバー的な話をしているのか、青の2マナ1/1で能力持ちなのが《Drowned》を連想させるからなのか、意図は不明。ちなみに原文は「BUT IT’S A BLUE ZOMBIE ONEONEONE.」。
(註) MLG
原文ではこのコメントを残した人物名として「MLG」という略称が使われているが、今回の記事に「MLG」が略称のメンバーはいない。また似たような略称もないため、とりあえず原文ママにしておいた。
これに関しては私はAaronを支持する。
毎回必ず《眼魔/Oculus》をピックするというわけではないが、サイドボード行きになることもまた少ないカードだ。
ミラディン包囲戦でのこいつは、《生体解剖/Vivisection》の燃料として最適だし、セットに含まれる様々な装備品のどれかを持たせれば自身より少し大きいクリーチャーと相打ちをとりつつカードを引かせてくれる。
ラヴニカにはクリーチャーを生け贄に捧げるというテーマも装備品に比重が置かれていたわけでもない。そのため《検分するスプライト/Surveilling Sprite》の能力は当時よりもこの環境においてずっと有用なものとなる。
ここには記されていない会話の中で語られていたことに、すでに青はリミテッドで優遇されている、ということがあった。
《堕落した良心/Corrupted Conscience》と《ヴィダルケンの解剖学者/Vedalken Anatomist》はセットの中でもトップクラスのアンコモンだ。
またそれに加えて、《鋼の妨害/Steel Sabotage》、《水銀の噴出/Quicksilver Geyser》、《血清掻き/Serum Raker》などの非常に使い勝手の良いコモンがたくさん用意されている。
私たちはリミテッドにおける青の強さに満足しており、《眼魔/Oculus》をそのままにしておいても十分に有効活用できることが分かったので、下位互換として世に出すことにした。ちなみにこいつの当時の名は《Twigleg》だった。(註)(註) Twigleg
ドイツの小説家、コーネリア・フンケの書いた「Dragon Rider」というファンタジー小説の登場人物であるホムンクルスの名前がTwiglegというらしい。
参考:http://en.wikipedia.org/wiki/Dragon_Rider
マジックのR&Dの伝統として、私は馬鹿げた仮定を問いかけてみた。Tom LaPille 03/03/2010:
《Twigleg》は飛べるかな? あとこいつはバスケでボッシュに勝てるかな?(註)(註) ボッシュ
マジック的に考えると《鉄のゴーレム、ボッシュ/Bosh, Iron Golem》。相手がこのデカブツでも、バスケ勝負で、かつ《眼魔/Oculus》が空を飛べればワンチャンスあるかもしれない。
この馬鹿な問いに、Aaronが反応してくれた。Aaron Forsythe 03/19/2010:
トロント・ラプターズのクリス・ボッシュには勝てないだろうね。(註) クリス・ボッシュ
クリス・ボッシュはアメリカのバスケットボールリーグであるNBAの選手。めっちゃ強い。《眼魔/Oculus》が飛べたとしても勝ち目はない。
ちなみに昨年までは文中にあるとおりトロント・ラプターズ所属だったけど、2010-2011シーズンからマイアミ・ヒートという別のチームへ移籍しているらしい。
参照:http://en.wikipedia.org/wiki/Chris_Bosh
Steel Sabotage / 鋼の妨害 (青)
インスタント
以下の2つから1つを選ぶ。「アーティファクト呪文1つを対象とし、それを打ち消す。」「アーティファクト1つを対象とし、それをオーナーの手札に戻す。」
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Steel+Sabotage/
Mike Turian 01/25/2010:
このカードがヴィンテージに与える影響については検討済み?
驚きだね。これはそうそう提起される問題ではないが、ここで挙がったようにまったく起きないというわけでもない。
単独で見ると、これは結構怖い質問だ。何しろこれは、私たちがあまりにも強過ぎる「壊れた何か」を生み出そうとしている可能性を示しているからだ。
幸いなことに、このカードは単なる一部のタイプのカードに対する「回答」となるカードに過ぎなかった。Erik Lauer 01/26/2010:
いい点をつくね (^▽^) 個人的にはこのカードは問題ないと思うよ。《Time Vault》を止められるようになるぐらいじゃない?
もしこのカードがヴィンテージに影響を与えるとすれば、私はむしろ喜ばしく思う。
《磁石のゴーレム/Lodestone Golem》をカウンターしたり、《荒廃鋼の巨像/Blightsteel Colossus》をバウンスしたり、そういった崇高な仕事をしてくれるだろう。
私たちは《呪文貫き/Spell Pierce》がレガシーとヴィンテージに与えた影響について好ましく思っているし、このカードも同様のポジションに落ち着くことになると思うよ。Ken Nagle 02/16/2010:
ヴィンテージに悪影響を与えるかも、って判断を下したことって今まであったっけ?
Erik Lauer 02/17/2010:
下したとしてもそのせいでカード自体が大きく変更されることはないね。
ただ「カードを変更するだけの価値があるほどの何か」ってのはあるかもしれない。《三なる宝球/Trinisphere》みたいに。
Kenの質問はなかなか新しい視点だ。
私たちは、エターナルのフォーマットに適応させるためだけに新しいセットのカードを積極的にねじ曲げるようなことは滅多にしない。
なぜなら基本的にそのようなことはする必要がないからだ。
今や1万2千枚を超えるマジックのカードがあり、私たちがどんなカードを思い描こうと大抵の場合はすでにそれに対する「回答」は用意されている。
とはいえ、時には既存のカードとあまりに強い相互作用を起こしてしまうカードが生み出されることもある。例えば、《Mishra’s Workshop》と《三なる宝球/Trinisphere》のように。
そういった場合は私たちも何らかの対応を迫られる。
もっとも今回の《鋼の妨害/Steel Sabotage》のように何かに対する「回答」となるカードについては、新たなカードが活躍する助けになってくれるかもしれないという意味で非常に期待している。
Phyresis / ファイレクシア化 (1)(黒)
エンチャント - オーラ(Aura)
エンチャント(クリーチャー)
エンチャントされているクリーチャーは感染を持つ。(それは、クリーチャーに-1/-1カウンターの形でダメージを与え、プレイヤーに毒(poison)カウンターの形でダメージを与える。)
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Phyresis/
このカードはそれほど特筆すべき点があるようには見えないかもしれない。
ちなみに《ファイレクシア化/Phyresis》は誰かがファイレクシア人となった際に「感染する病気の名前」だ。そう考えるとこのカードがクリーチャーに「感染/Infect」を与えるというのはなかなか不思議な話だ。
それはさておき、このMultiverseという場所はマジックの編集者たちの能力の1つが遺憾なく発揮される場所でもある。その能力とは「セットに何か不自然な点がないか察知する」ことだ。
ほら、Delが何かに感づいたようだ。Del Laugel 01/22/2010:
今時点でこのセットには4つしかエンチャントがないぞ。
Erik Lauer 01/26/2010:
クリーチャー用のオーラを足そうとする意欲が、装備品に置き換わってしまいがちな気がする。さらにその他のアーティファクトが全体エンチャントの居場所を奪ってしまっているのかも。
Erikの言うとおりだ。
今時点では通常エンチャントが担当している分野は他に任されてしまっているが、今年の夏にはいつもの見慣れたエンチャントが君たちの元へお届けされるよ。
Burn the Impure / 不純の焼き払い (1)(赤)
インスタント
クリーチャー1体を対象とする。不純の焼き払いはそれに3点のダメージを与える。そのクリーチャーが感染を持つ場合、不純の焼き払いはそのクリーチャーのコントローラーに3点のダメージを与える。
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Burn+the+Impure/Ken Nagle 10/29/2009:
これ、サイドボード行きになることがないよね。いつもメインに入ってる。
そのせいで相手が感染デッキを対策するつもりがないときまで対策されちゃってる感じなんだけど。
Alexis Janson 11/16/2009:
狙い通りだね。対立がサイドボードにじゃなくて表面に出てきてるってことだ。
Zac Hill 12/21/2009:
同感。
ここ最近の数ヶ月のあいだに、君はミラディン軍とファイレクシア軍のあいだで戦争が起きているということを感じ取れたかもしれない。私たちの生み出したカードのいくつかは実際にその戦争を暗示してさえいた。
このカードはその中でも特にその対立を明確に示している1枚だ。
いつか無邪気な子供がこのカードを手にとって、なんで感染/Infectに関する一言が付け加えられているんだろう、と不思議に思うかもしれない。それはあり得ることだが、私たちはミラディン軍とファイレクシア軍の衝突がカードから伝わるようにしたかった。
これはリミテッドにおいてその対立をはっきりと表現してくれるカードだ。
Lead the Stampede / 暴走の先導 (2)(緑)
ソーサリー
あなたのライブラリーの一番上から5枚のカードを見る。あなたはその中から望む枚数のクリーチャー・カードを公開し、その公開したカードをあなたの手札に加えてもよい。残りをあなたのライブラリーの一番下に望む順番で置く。
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Lead+the+Stampede/Aaron Forsythe 02/18/2010:
これって《獣狩り/Beast Hunt》が弱すぎたことに対する埋め合わせかい?
Erik Lauer 02/24/2010:
多分だけど、本来は緑の特権なはずの《巨大化/Giant Growth》と《不屈の自然/Rampant Growth》をアーティファクトに持たせてしまったことと、緑のクリーチャーの約半数がライフを攻められないことに対する埋め合わせだと思うよ!
Erikの言い方は少々大げさだが、その内容自体は間違ってはいない。
リミテッドではマナマイアによって5色全てにマナ加速が用意されており、構築でも同様に《太陽の宝球/Sphere of the Suns》と《永遠溢れの杯/Everflowing Chalice》が存在している。
また、装備品によって《巨大化/Giant Growth》のような効果よりも基本的に効率よくクリーチャーをパンプすることが5色全てにおいて可能となっている。
それだけでなく、多くの緑のクリーチャーが感染/Infectを持っており「普通の」デッキをドラフトで組むことが難しくなっている。
Erikの理論に従えば、確かに緑はその埋め合わせとなる対価を得るべきなのだ。
《暴走の先導/Lead the Stampede》は、君のデッキの他の59枚のカード(もしくは39枚のカード)をほぼ全て土地とクリーチャーだけで満たすよう要求する。これはデッキ構築をするうえで、小さくはない制約だ。
しかしもしそうすることが出来たなら、このカードにはなかなかの価値が生じる。
私はここ最近、このカードが構築で使われているのをよく見かける。特に例をあげるとするなら、このカードと《緑の太陽の頂点/Green Sun’s Zenith》を最大限に生かしたエルフのコンボデッキがエクステンデッドに存在する。
Titan Forge / タイタンの炉 (3)
アーティファクト
(3),(T):タイタンの炉の上に蓄積(charge)カウンターを1個置く。
(T),タイタンの炉から蓄積カウンターを3個取り除く:無色の9/9のゴーレム(Golem)・アーティファクト・クリーチャー・トークンを1体戦場に出す。
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Titan+Forge/Zac Hill 02/08/2010:
このカードは本当にイイね。
Aaron Forsythe 02/18/2010:
リミテッドで使ってみた。騙された。
Erik Lauer 02/18/2010:
リミテッドですごい役に立ってくれたけどなあ。
正しい回答が容易に発見できてしまうようなら、マジックはもっと退屈なものとなっていただろう。
見ての通り、プロツアー最終日まで勝ち残ったことのある2人が、ドラフトで同じカードを使った際の評価について正反対の感想を述べている。
やり込むに値するだけの奥深さをマジックに付与することに私たちが成功しているのを示す良い例と言える。
さて、Multiverseの探訪の旅を楽しんでもらえただろうか。
私は次のセットであるAction(仮名)のデベロップメントに参加しているが、今回のような記事の1つや2つを書けるようなネタがたっぷり用意されている。
覚えている限りの今までのMultiverseのファイルの中でも特に多種多様なネタにあふれているから、これに関する記事を書くのが楽しみでしょうがない。
その記事を君たちも楽しんでくれるだろうと信じているよ。
【翻訳】ミラディン軍、おせっかいを焼かれるの巻/Mirran Meddling【Daily MTG】
Tom LaPille
2011年02月25日
元記事:http://www.wizards.com/magic/magazine/article.aspx?x=mtg/daily/ld/131
ここ数ヶ月というもの、ミラディン軍とファイレクシア軍のいずれかの陣営を選ぶかということについて語ってきた。
ミラディン包囲戦のプレリリースで選び、Game Day(註)やWar Leagues(註)でまた選ぶ機会があり、そして今それに関するテーマ週間の最終地点にたどり着いたというわけだ。
これらの催しが行われていることを聞いたとき、私はちょっとした自己満足に浸っていた。いや、何しろ私はすでにセットが発売される何ヶ月も前から選択を終えていたんだからね。
しかし君たちとは違う理由から選択を迫られていたと考えるとこれを自慢するのはちょっとずるいことかもしれない。まず、ミラディン包囲戦の開発が4分の3ほど過ぎたあたりでどのようなことが起きていたのか、そこから話を始めようと思う。
この頃、リード・デベロッパーであるErik Lauerは、戦争で対立している2つの陣営がいまいち統一感を欠いているように感じていた。
そこで彼は自身のチームにいる2人のコア・デベロッパーである2人、私とMike Turianに、まずはそれぞれ陣営を選ぶよう指示した。
さらに、全体としてのまとまりをより感じられるよう、1週間のあいだ、それぞれ少数のチームを指揮しつつ選んだ側のコモンとアンコモンに対して取り組むように、とのことだった。
前にも述べたと思うが、私は他のメンバーに比べてリミテッドで感染デッキを組むのがひどく下手だった。これはミラディンの傷跡の開発が始まった頃から、すでにそうだった。
そのようなわけで私にファイレクシア陣営を任されるはずもなく、かつMike自身もファイレクシア陣営を担当したがっていたため、私はミラディン軍を受け持つことになった。
私は陣営だけでなく、何人かの優秀なウィザーズの社員も選ぶことができた。ここに彼らを紹介したいと思う。
この記事の中で、君はプレーンテキストのフォント(註)で書かれた箇所を見かけることになると思う。この箇所にある全ての文はMagic R&D Wikiから直接引っ張ってきたものだ。Magic R&D Wikiというのは今回のミニチームに関する全てを私が納めておいた場所だ。
このWikiはMultiverse(註)ではない。今回のチームが残してきたMultiverse的な資料はセットが印刷の準備へと回される前にフォルダが整理されたことで、ほとんど失われてしまった。
私はチームを始動させるに当たって、まずはCamera(当時、このセットはそう呼ばれていた)の世界では一体何が起きているのかについて、手早く概略をつかんでもらうことにした。
KellyとMarkはR&Dの外部から参加しているので、私はまずは彼らにも私たちと同じだけの情報を共有してもらう必要があったのだ。
実に上手いことやっているだろう。私もそう思う。
Erikは私に3つの目標を与えた。私はそれをそのままチームへと引き渡した。
Erikの目指す目的はもう1つあったが、それはチームへと引き渡されず、秘密のままにされた。
それは、ミラディン軍とファイレクシア軍のカードたちが互いに対立している2つの異なる集団であるということを感じとれるようにしろ、というものだった。
Erikはファイレクシアを担当しているMikeにも、最初に述べた3つの目的を伝えた。そしてMikeと私の仕事の結果によってErikの秘密の目的はこれ以上ないほど達成されたのではないか、と私は考えている。
そうそう。追加の制約が用意されていた。もちろんだ。そうでなければ簡単すぎるだろう。
なお、上記の情報には含まれていないが、追加の制約がもう1つあり、これはミーティングでも皆へ伝えられた。
各色の各レアリティに用意されているスロットの数は固定されている。ミラディン軍に新たな白いカードを追加するためにはファイレクシア軍のカードを1枚取り除く必要があり、それは両派閥のバランスを崩す行為となる。
そのため、もし本当に新規のカードを追加したいのであれば、その代価としてすでに存在している全く同じ色の全く同じレアリティから1枚カードを取り除く必要があるということだ。
この時点ですでにセットの半分はコンセプトデザインが完了していた。これが何を意味するかというと、イラストの指示はすでに作成済みでありイラストは今この時点ですでに承認を得るべく描かれている最中だということだ。
既存のカードに対して望むいかなる変更も、すでに成し遂げられた仕事に対して敬意を払う必要がある。そう、括弧が付けられているということ、それはつまりクリエイティブチームがそのカードのコンセプトを固めた際に残した確かなサインなのだ。
◇◇◇◇ ◇◇◇◇ ◇◇◇◇
私は通常あまり生産的ではないとみなされる方法で最初のミーティングを費やした。
不平不満だ!
私は、まず全ての気に入らない点を一箇所に集めることで、何に取り組まなくていけないかのリストが作れるのではないか、それによってこのあと行う予定の2つのミーティングで必要となる労力を随分と軽減できるのではないか、と判断した。
そのようなわけで、私たちを苛立たせる要素をリスト化したわけだ。これはのちに実に有益な材料となってくれた。私はこの方法で作業を行ったことに安堵している。
集められた苦言の中から目立ったものを以下に並べてみた。プレイテスト時のカード名からもしかしたら実際のどのカードなのか、推測できるかもしれない。
2回目のミーティングで私たちは最後に少しだけ残されていた苦言を集め終えた。それから大量のマイアをテーマとしたカードを作成した。それらの大半は既存のカードを真似ただけの劣化品にすぎなかったが、わずかに含まれていた傑作たちはそのままセットへと収録されることとなった。
3回目となる最後のミーティングでは、変更が必要と思われた一部のカードを私はリストにしてまとめ、Erikへ提出した。
私たちがどのような提案をしたのか、そしてその提案がどのような結果を生み出したかについては、以下に全て語られている。
これを読んでもらえば、私たちのこの1週間に渡る集中的な作業がセットに対して実に劇的な変化をもたらしたことを君たちにも分かってもらえると思う。
最初、チームを担当させてもらったときは、まさかErikが私たちの提案をこれほどまでにセットへ反映してくれるとは思いもよらなかった。
また、このウィザーズという場所で働けることがいかに光栄なことかを、チームメンバーの達成してくれた仕事の質の高さから再確認することができた。
ブランド・マネージャーとウェブサイト担当者さえもがセットの価値を最大限に高めるために現場へ身を投じ自らの手を汚してくれる、そしてそんなときでも最終的に上がってきた製品はただただ素晴らしいものにならざるをえない。
ありがたいことに、プロジェクトを手助けしてくれたこの3人の素晴らしい紳士たちの活躍を君が見られるのはこれが最後ではないらしい。
この3人は今現在まだ公式には発表できないとある製品に携わっている。彼らが今何をしているのかを君たちに伝える日が楽しみでしょうがない。
出来る限り早くお伝えできるよう頑張るよ。
Tom LaPille
2011年02月25日
元記事:http://www.wizards.com/magic/magazine/article.aspx?x=mtg/daily/ld/131
ここ数ヶ月というもの、ミラディン軍とファイレクシア軍のいずれかの陣営を選ぶかということについて語ってきた。
ミラディン包囲戦のプレリリースで選び、Game Day(註)やWar Leagues(註)でまた選ぶ機会があり、そして今それに関するテーマ週間の最終地点にたどり着いたというわけだ。
(註) Game Day
新しいセットが出た直後にそれを用いて行われるスタンダードの公式大会らしい。
(註) War League
各店舗ごとに開催される、陣営を選んでおこなわれるシールド戦のようなもの。敵対陣営に属するプレイヤーを倒すとステッカーがもらえたり、週1でブースターを買い足してデッキを強化したりできる。
詳細は以下のリンクを参照のこと。(リンク先は英語)
http://www.wizards.com/magic/tcg/events.aspx?x=mtgcom/events/warleague-mbs
これらの催しが行われていることを聞いたとき、私はちょっとした自己満足に浸っていた。いや、何しろ私はすでにセットが発売される何ヶ月も前から選択を終えていたんだからね。
しかし君たちとは違う理由から選択を迫られていたと考えるとこれを自慢するのはちょっとずるいことかもしれない。まず、ミラディン包囲戦の開発が4分の3ほど過ぎたあたりでどのようなことが起きていたのか、そこから話を始めようと思う。
この頃、リード・デベロッパーであるErik Lauerは、戦争で対立している2つの陣営がいまいち統一感を欠いているように感じていた。
そこで彼は自身のチームにいる2人のコア・デベロッパーである2人、私とMike Turianに、まずはそれぞれ陣営を選ぶよう指示した。
さらに、全体としてのまとまりをより感じられるよう、1週間のあいだ、それぞれ少数のチームを指揮しつつ選んだ側のコモンとアンコモンに対して取り組むように、とのことだった。
前にも述べたと思うが、私は他のメンバーに比べてリミテッドで感染デッキを組むのがひどく下手だった。これはミラディンの傷跡の開発が始まった頃から、すでにそうだった。
そのようなわけで私にファイレクシア陣営を任されるはずもなく、かつMike自身もファイレクシア陣営を担当したがっていたため、私はミラディン軍を受け持つことになった。
私は陣営だけでなく、何人かの優秀なウィザーズの社員も選ぶことができた。ここに彼らを紹介したいと思う。
Kelly Digges
Kellyは今まさに君が閲覧しているウェブサイトの編集者の1人だ。しかし彼はときおり副業がてらR&Dの製品チームの仕事に時間を費やしてくれる。
彼はワールドウェイクとアーチエネミーのデザインチームに参加してくれた。最近では彼は私が率いたMagic 2012のデベロップメントチームに参加しており、そこで彼は、群を抜いて私好みとなったアンコモンの再録作業に貢献してくれた。
今回の作業におけるKellyのもっとも大きな功績は彼のデザイナー的視点による美的センスだ。これによって私たちは自分たちの作る各カードがきちんと整理され実用にかなったものとなるよう配慮することとなった。それこそが今回の記事につながる物語だ。
Mark Purvis
Markはマジックのブランド・マネージャーの1人だ。
忙しい身でありながらも、ときおり製品チームのためにスケジュールを調整してくれるほどに彼もマジックを愛しており、それだけでなく大量のアイデアとエネルギーの両方を開発の場に持ち込める人物でもある。
このミニチーム編成の直前に彼はすでにミラディンの傷跡の開発に参加していた。つまりしばらくの間は体が空かないだろうということを示唆していた。
しかし、私とそして君にとっても幸運なことに、私とミラディン軍を援護してもらうための多少の時間を割かせてもらえるよう交渉出来るだけの余地が彼にはあったのだ。
Matt Tabak
Matt Tabakは編集者であり、またMark Gottliebがフルタイムのデベロッパーへと転身したことで代わりに新たなマジック・ルール・マネージャーへ任命されたメンバーでもある。Mattは意固地なところもあるが、それこそまさに今回のチームに私が欲しかった資質でもある。
私たちには時間がなかった。そして私たちの最終目標は最後に残されたわずかな不満要素をフォルダから搾り出すことだった。Mattはそれらを探し出すことに並外れて長けており、そのことは私たちの助けとなった。
この記事の中で、君はプレーンテキストのフォント(註)で書かれた箇所を見かけることになると思う。この箇所にある全ての文はMagic R&D Wikiから直接引っ張ってきたものだ。Magic R&D Wikiというのは今回のミニチームに関する全てを私が納めておいた場所だ。
(註) プレーンテキストのフォント
このブログの記事では斜体で表記してみた。
このWikiはMultiverse(註)ではない。今回のチームが残してきたMultiverse的な資料はセットが印刷の準備へと回される前にフォルダが整理されたことで、ほとんど失われてしまった。
(註) Multiverse
マジックのセットを制作するのに用いられている意見交換用のデータベース。
実際にどんなコメントのやりとりがそこで行われているのかの例は以下を参照のこと。
【翻訳】戦乱の舞台裏へ/The Multiverse at War【Daily MTG】
http://regiant.diarynote.jp/201104100753293540/
私はチームを始動させるに当たって、まずはCamera(当時、このセットはそう呼ばれていた)の世界では一体何が起きているのかについて、手早く概略をつかんでもらうことにした。
KellyとMarkはR&Dの外部から参加しているので、私はまずは彼らにも私たちと同じだけの情報を共有してもらう必要があったのだ。
Cameraの概要
# ミラディンは戦場である。
# ファイレクシア軍がミラディンを侵略している。君がミラディン生まれであれば、
# 侵略者から君と仲間の存在を守るために戦う毎日を過ごしていることになる。
# もし戦いに関係ないことであればそれはカメラには映らない。
# つまりCameraにも登場しない。
実に上手いことやっているだろう。私もそう思う。
Erikは私に3つの目標を与えた。私はそれをそのままチームへと引き渡した。
目的
# ミラディン軍に関するコモンとアンコモンをもっといい感じに仕上げろ。
# ミラディン軍に関するカードたちがもっと「共に戦っている」ように仕上げろ。
# ミラディン軍に関するカードをもっと「ミラディン」っぽくしろ。
Erikの目指す目的はもう1つあったが、それはチームへと引き渡されず、秘密のままにされた。
それは、ミラディン軍とファイレクシア軍のカードたちが互いに対立している2つの異なる集団であるということを感じとれるようにしろ、というものだった。
Erikはファイレクシアを担当しているMikeにも、最初に述べた3つの目的を伝えた。そしてMikeと私の仕事の結果によってErikの秘密の目的はこれ以上ないほど達成されたのではないか、と私は考えている。
そうそう。追加の制約が用意されていた。もちろんだ。そうでなければ簡単すぎるだろう。
ルール
# カード名に括弧書きが付与されていないものについては好きに変更してよい。
# カード名に括弧書きが付与されているものはすでにコンセプトが固められている。
# 変更する際には必ずそのコンセプトに敬意を払うこと。
なお、上記の情報には含まれていないが、追加の制約がもう1つあり、これはミーティングでも皆へ伝えられた。
各色の各レアリティに用意されているスロットの数は固定されている。ミラディン軍に新たな白いカードを追加するためにはファイレクシア軍のカードを1枚取り除く必要があり、それは両派閥のバランスを崩す行為となる。
そのため、もし本当に新規のカードを追加したいのであれば、その代価としてすでに存在している全く同じ色の全く同じレアリティから1枚カードを取り除く必要があるということだ。
この時点ですでにセットの半分はコンセプトデザインが完了していた。これが何を意味するかというと、イラストの指示はすでに作成済みでありイラストは今この時点ですでに承認を得るべく描かれている最中だということだ。
既存のカードに対して望むいかなる変更も、すでに成し遂げられた仕事に対して敬意を払う必要がある。そう、括弧が付けられているということ、それはつまりクリエイティブチームがそのカードのコンセプトを固めた際に残した確かなサインなのだ。
◇◇◇◇ ◇◇◇◇ ◇◇◇◇
私は通常あまり生産的ではないとみなされる方法で最初のミーティングを費やした。
不平不満だ!
私は、まず全ての気に入らない点を一箇所に集めることで、何に取り組まなくていけないかのリストが作れるのではないか、それによってこのあと行う予定の2つのミーティングで必要となる労力を随分と軽減できるのではないか、と判断した。
そのようなわけで、私たちを苛立たせる要素をリスト化したわけだ。これはのちに実に有益な材料となってくれた。私はこの方法で作業を行ったことに安堵している。
集められた苦言の中から目立ったものを以下に並べてみた。プレイテスト時のカード名からもしかしたら実際のどのカードなのか、推測できるかもしれない。
# 《Brave Conscript》はMattにとってひどく不恰好なものに見えた。
# 《Dayhawk》と《Kemba’s Army》のいずれかは装備品に関するカードになるべきだ。
# 《Kemba’s Army》は装備しているときに絆魂と警戒を持つことにしたらどうだろう?
# 《Silver Wall》 - 3青 2/4 防衛、Presence- +2/+2 と防衛を失う
# 《Oxidda Megasaur》 - 金属術を持っていてもいいかもしれない
# 《Cauterize》、《Conduction Bolt》、《Goblin Grenadier》、《Slagstorm》と3点が多すぎ
# 《Conduction Bolt》は超つまらない
# 《Goblin Grenadier》の金属術の能力はおかしい
# 《Signal Monkey》は飛行持ちのように《Treetop Bracers》能力を持っててもいい
2回目のミーティングで私たちは最後に少しだけ残されていた苦言を集め終えた。それから大量のマイアをテーマとしたカードを作成した。それらの大半は既存のカードを真似ただけの劣化品にすぎなかったが、わずかに含まれていた傑作たちはそのままセットへと収録されることとなった。
3回目となる最後のミーティングでは、変更が必要と思われた一部のカードを私はリストにしてまとめ、Erikへ提出した。
私たちがどのような提案をしたのか、そしてその提案がどのような結果を生み出したかについては、以下に全て語られている。
これを読んでもらえば、私たちのこの1週間に渡る集中的な作業がセットに対して実に劇的な変化をもたらしたことを君たちにも分かってもらえると思う。
チームからの提案
CU03:
3青 1/4 防衛
金属術- ~ あなたがアーティファクトを3つ以上コントロールしている限り、
~ は+2/+2の修整を受けるとともにそれが防衛を持たないかのように
攻撃できる。
* 彼は戦場にあるべきだ。戦場とはアタックを意味する。
変更前のバージョンではこのカードは防衛を失わなかった。私たちはそれは間違っていると感じた。
私たちが即興で決めた能力値はイマイチ不恰好なもので、かつそれは青のクリーチャーの全体的なカーブにも沿わないものだった。そこでErikは私たちの決めた値のかわりとなる能力値を用意してくれた。
最終形Spire Serpent / 尖塔の海蛇 (4)(青)
クリーチャー - 海蛇(Serpent)
防衛
金属術 ― あなたがアーティファクトを3つ以上コントロールしている限り、尖塔の海蛇は+2/+2の修整を受けるとともにそれが防衛を持たないかのように攻撃できる。
3/5
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Spire+Serpent/
チームからの提案
UG03:
4緑 4/4 ~ の上にはカウンターを配置できない。
* これは間違いなく感染と戦う力になってくれる。
大成功!
最終形Melira’s Keepers / メリーラの守り手 (4)(緑)
クリーチャー - 人間(Human) 戦士(Warrior)
メリーラの守り手の上にはカウンターを配置できない。
4/4
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Melira%27s+Keepers/
チームからの提案
CW01:
白 1/1 金属術 ― +2/+2
* 0/1のままでは《ステップのオオヤマネコ/Steppe Lynx》や
* 《ハーダの自由刃/Hada Freeblade》などに対してあまりに見劣りがする。
* では1/1にすると? 素晴らしい!
* そうしたとしても印刷可能な強さだと思う。
私たちが手を加える前も、このカードは今とまったく同じだった。
0/1であったことを除いて。
さて、結果を見ると印刷してもよいかどうかなどという心配は杞憂に過ぎなかったようだ。
《献身的な補充兵/Ardent Recruit》は、水曜日にJacob Van Lunenが紹介してくれた(註)ように《鍛えられた鋼/Tempered Steel》デッキでスタンダードにおいてプレイされているし、マジック・オンラインのPauperでは親和デッキでプレイされている。水曜日にJacob Van Lunenが紹介してくれた
リンク先は以下のURL。Jacob Van Lunenによるデッキ紹介コラム。
http://www.wizards.com/Magic/Magazine/Article.aspx?x=mtg/daily/boab/131
しかしそれ以外の場所ではそれほど活躍していない。
これは申し分ない結果だ。
最終形Ardent Recruit / 献身的な補充兵 (白)
クリーチャー - 人間(Human) 兵士(Soldier)
金属術 ― 献身的な補充兵は、あなたが3つ以上のアーティファクトをコントロールしている限り+2/+2の修整を受ける。
1/1
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Ardent+Recruit/
チームからの提案
UW03:
警戒
~ は、それにつけられている装備品1つにつき、
追加のクリーチャー1体をブロックできる。
* ミラディン軍には装備品に関連したカードがあるべきだ。
* 警戒を持ち、デカくて、複数をブロックできるのを
* 全部一緒にしてしまえばいい感じになるだろう!
たくさんのレオニンの戦士たちを描くように、というこのカードに関するイラストの指示はすでに承認済みだった。彼らに持つことになっている武器の数々は、装備品に紐づくこの能力をより飲み込みやすくしてくれる。
このカードによって《岩投げの小隊/Rockcaster Platoon》、《ルーアム・ジン/Ruham Djinn》、そして《歩哨の樫/Sentry Oak》のような、どこか間の抜けたデカい白のアンコモンという伝統は途切れることなく継承されることとなった。
最終形Kemba’s Legion / ケンバの軍勢 (5)(白)(白)
クリーチャー - 猫(Cat) 兵士(Soldier)
警戒
ケンバの軍勢は、ケンバの軍勢につけられている装備品(Equipment)1つにつき、追加のクリーチャー1体をブロックできる。
4/6
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Kemba%27s+Legion/
チームからの提案
UW02:
1白白 2/2 飛行、先制攻撃、Warring
* きっと飛行持ちのWarringクリーチャーが欲しくなるよ。
なんてこった! こいつはセットに収録されなかった。しかし、かといって完全に姿を消してしまったわけでもない。
Erikは回避能力つきの喚声持ち(この能力の開発時の名前は「Warring」だった)が複数作られることに少々不安を持っていた。これのかわりに用意された、回避能力持ちの喚声カードが何なのかはすぐに分かるよ。
最終形Accorder Paladin / 調和者隊の聖騎士 (1)(白)
クリーチャー - 人間(Human) 騎士(Knight)
喊声(このクリーチャーが攻撃するたび、他の各攻撃クリーチャーはターン終了時まで+1/+0の修整を受ける。)
3/1
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Accorder+Paladin/
チームからの提案
UW01:
1白 2/1 対アーティファクト専用の《忘却の輪/Oblivion Ring》
* みんな、こいつが気に入ったよ!
Erikも気に入ったようだよ!
彼はさらにパワーとタフネスの値を変更し、対象に出来るカードタイプも追加した。
最終形Leonin Relic-Warder / レオニンの遺物囲い (白)(白)
クリーチャー - 猫(Cat) クレリック(Cleric)
レオニンの遺物囲いが戦場に出たとき、アーティファクト1つかエンチャント1つを対象とする。あなたはそれを追放してもよい。
レオニンの遺物囲いが戦場を離れたとき、その追放されたカードをオーナーのコントロール下で戦場に戻す。
2/2
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Leonin+Relic-Warder/
チームからの提案
CR09 3赤赤 ソーサリー
~ はそのプレイヤーに4点のダメージを与える。
金属術 ― あなたがアーティファクトを3つ以上コントロールしている場合、
このターン、そのプレイヤーがコントロールするクリーチャーでは
ブロックできない。
* ダメージを増やすのはつまらないし、すでに赤の呪文には3点ダメージが
* たくさんある。
この変更が適用される前は、通常時のダメージが3点で、金属術達成時のダメージが6点だった。新しいバージョンはより触れ幅が大きくなっているが、このほうがより戦争における対立を示すのに合っている。
3点のダメージに関する意見がどのカードから来ているかというと、《金屑の嵐/Slagstorm》や《不純の焼き払い/Burn the Impure》、そしてこの次に紹介するカードなどからだ。
最終形Concussive Bolt / 震盪の稲妻 (3)(赤)(赤)
ソーサリー
プレイヤー1人を対象とする。震盪の稲妻はそのプレイヤーに4点のダメージを与える。
金属術 ― あなたがアーティファクトを3つ以上コントロールしている場合、このターン、そのプレイヤーがコントロールするクリーチャーではブロックできない。
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Concussive+Bolt/
チームからの提案
UR03
3赤赤 3/3
~ が戦場に出たとき、あなたはアーティファクトを1つ生け贄に捧げてもよい。
そうした場合《弧状の稲妻/Arc Lightning》の効果。
* 前のバージョンは結びつきが足りないように感じられた。
* こうすればアーティファクトを投げつけているように見えるだろ。
これに関してはカードデザインを改良した例だ。私たちはダメージを3点から4点に上げようとは思わなかったが、その場にErikがいたおかげで助かった。
以前のバージョンでは上で触れられているとおり、似たような能力ではあったが、金属術を達成していればコストを支払う必要なく使うことができるというものだった。今のバージョンのほうがずっと結びつきを感じられる。
最終形Kuldotha Flamefiend / カルドーサの炎魔 (4)(赤)(赤)
クリーチャー - エレメンタル(Elemental)
カルドーサの炎魔が戦場に出たとき、望む数のクリーチャーやプレイヤーを対象とする。あなたはアーティファクトを1つ生け贄に捧げてもよい。そうした場合、カルドーサの炎魔はそれらに4点のダメージを望むように割り振って与える。
4/4
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Kuldotha+Flamefiend/
チームからの提案
UR02
2赤赤 3/1
Presence- ~ は二段攻撃を持つ。
* 既存のバージョンは本当にひどかった。
前のバージョンだどのようなものだったか思い出せない。
きっと本当にひどかったんだろう。
最終形Spiraling Duelist / らせんの決闘者 (2)(赤)(赤)
クリーチャー - 人間(Human) 狂戦士(Berserker)
金属術 ― らせんの決闘者は、あなたがアーティファクトを3つ以上コントロールしている限り、二段攻撃を持つ。
3/1
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Spiraling+Duelist/
チームからの提案
UA05とUA13 これらを抜くべきだ。
* スペースが足りないため。
* 《Myr Joiner》は他のマイアとの関連性が感じられない。
* また《Biomantic Armor》はフレイバー的なセンスに乏しいように思われる。
これらは、私たちが少々出過ぎた意見を述べてしまった例だ。最終的には、Erikはこれらのカードに肯定的で、かつリーダーは彼だった。こうしてこれらのカードは抜かれずに済んだ。
最終形Brass Squire / 真鍮の従者 (3)
アーティファクト クリーチャー - マイア(Myr)
(T):あなたがコントロールしている装備品(Equipment)1つと、あなたがコントロールしているクリーチャー1体を対象とし、前者を後者につける。
1/3
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Brass+Squire/
Silverskin Armor / 銀皮の鎧 (2)
アーティファクト - 装備品(Equipment)
装備しているクリーチャーは+1/+1の修整を受けるとともに、他のタイプに加えてアーティファクトでもある。
装備(2)
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Silverskin+Armor/
チームからの提案
CA13
3 アーティファクト
~ は蓄積(charge)カウンターが3個置かれた状態で戦場に出る。
(T), 蓄積カウンターを1個取り除く:クリーチャー1体を対象とする。
このターン、それでは攻撃もブロックもできない。
* アンコモンへ移動
* コンセプトに沿うよう努力しているところ。
* 石臼効果では少々不恰好だし結びつきも感じられない。
* 加えて、それでは戦争にも戦闘にも関連性が見出せない。
《叫び角笛/Shriekhorn》と《雷楽のラッパ吹き/Thundersong Trumpeter》を結びつけたのは確かKellyだったと思う。
ともあれErikはこの変更を即座に却下した。
変更後の効果はあまりに《転倒の磁石/Tumble Magnet》とかぶっていたし、蓄積カウンターを用いるシンプルなカードはコモンにこそふさわしいと考えたためだ。
(しばらくのち、セットの他のカードと大した関連性を持つことのない単独で働くコモンがあるのが良いことなのかを明らかにしたのもまたKellyだった。それは彼がセット発売直後に行われたドラフトで《叫び角笛/Shriekhorn》デッキを作った際に発見された。)
最終形Shriekhorn / 叫び角笛 (1)
アーティファクト
叫び角笛は蓄積(charge)カウンターが3個置かれた状態で戦場に出る。
(T),叫び角笛から蓄積カウンターを1個取り除く:プレイヤー1人を対象とする。そのプレイヤーは、自分のライブラリーの一番上から2枚のカードを自分の墓地に置く。
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Shriekhorn/
チームからの提案
《Signal Monkey》に以下の2つを加える。
マナコストにさらに1マナを追加
「~ は飛行か到達を持つクリーチャーによってしかブロックされない」の能力
* あまりに脆すぎる。回避能力が必要。
* また木々の間を駆け抜ける生き物だから《樹上の篭手/Treetop Bracers》の
* 能力はフレイバー的にしっくりくる。
これがこのコラムの最初の方で私が存在をほのめかしていた、回避能力を持つ喚声持ちクリーチャーだ。
イラストのコンセプトで私が示唆した木々の絵は製品版のイラスト(註)には描かれなかった。しかしゲートウェイのプロモーション・カード(註)のバージョンではきちんと描かれている。(註) 製品版のイラスト
イラストには、木の枝ではなくミラディンの金属製の草が描かれている。
製品版の《信号の邪魔者/Signal Pest》のイラストは以下を参照。
参照:http://magiccards.info/mbs/en/131.html
(註) プロモーション・カード
イラストには、木の枝っぽいものが描かれている。
プロモーション・カードの《信号の邪魔者/Signal Pest》のイラストは以下を参照。
参照:http://magiccards.info/grc/en/51.html
最終形Signal Pest / 信号の邪魔者 (1)
アーティファクト クリーチャー - 邪魔者(Pest)
喊声(このクリーチャーが攻撃するたび、他の各攻撃クリーチャーはターン終了時まで+1/+0の修整を受ける。)
信号の邪魔者は飛行か到達を持つクリーチャーによってしかブロックされない。
0/1
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Signal+Pest/
チームからの提案
新しいコモンカード:
《Resilient Myr》 2
アーティファクト・クリーチャー - マイア
~ が戦場からいずれかの墓地に置かれたとき、無色の1/1のマイア・
アーティファクト・クリーチャー・トークンを1体戦場に出す。
1/1
* こいつはかわいいしマイアっぽいと私たちは思っている。
Erikもそう思ってくれたよ!
しかし「墓地に落ちたとき」をトリガーとする能力はそのカードをファイレクシア陣営に属させることになっていた。愛すべきこのマイアに「墓地に落ちたとき」の能力を持たせたことで、私たちは相手陣営にコモンを贈呈する羽目になってしまったのさ!
最終形Myr Sire / マイアの種父 (2)
アーティファクト クリーチャー - マイア(Myr)
マイアの種父が戦場からいずれかの墓地に置かれたとき、無色の1/1のマイア(Myr)・アーティファクト・クリーチャー・トークンを1体戦場に出す。
1/1
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Myr+Sire/
チームからの提案
新しいアンコモンカード:
《Myr Overtron》 3
アーティファクト・クリーチャー - マイア
~ のパワーとタフネスはそれぞれ、
あなたがコントロールするマイアの数に等しい。
*/*
* 新しいマイアのロードが欲しい。このシンプルな奴が気に入った。
Erikは新たなマイアに関連するカードを加えるのはいいアイデアだと同意してくれたが、これをアンコモンに入れることには反対した。
彼はカードを差し戻し、代わりのレアを作れるかどうか検討するようにと私に指示した。そして私は依頼にぴったり沿うこの逸品をMark Purvisから手に入れることが出来たんだ。
最終形Myr Turbine / マイアのタービン (5)
アーティファクト
(T):無色の1/1のマイア(Myr)・アーティファクト・クリーチャー・トークンを1体戦場に出す。
(T),あなたがコントロールするアンタップ状態のマイア5体をタップする:あなたのライブラリーからマイア・クリーチャー・カードを1枚探し、それを戦場に出し、その後あなたのライブラリーを切り直す。
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Myr+Turbine/
最初、チームを担当させてもらったときは、まさかErikが私たちの提案をこれほどまでにセットへ反映してくれるとは思いもよらなかった。
また、このウィザーズという場所で働けることがいかに光栄なことかを、チームメンバーの達成してくれた仕事の質の高さから再確認することができた。
ブランド・マネージャーとウェブサイト担当者さえもがセットの価値を最大限に高めるために現場へ身を投じ自らの手を汚してくれる、そしてそんなときでも最終的に上がってきた製品はただただ素晴らしいものにならざるをえない。
ありがたいことに、プロジェクトを手助けしてくれたこの3人の素晴らしい紳士たちの活躍を君が見られるのはこれが最後ではないらしい。
この3人は今現在まだ公式には発表できないとある製品に携わっている。彼らが今何をしているのかを君たちに伝える日が楽しみでしょうがない。
出来る限り早くお伝えできるよう頑張るよ。
カードアドバンテージとは?:初級編/Card Advantage: A Brief Overview
Steve Sadin
2011年03月15日
元記事:http://www.wizards.com/Magic/Magazine/Article.aspx?x=mtg/daily/li/134
カードアドバンテージとはマジックの用語の中でも特に誤解されがちな言葉の1つだ。
そこでまず簡単な定義から始めよう。
一連のプレイ(もしくは決断)の結果、あるプレイヤーが1枚かそれ以上のカードを増やせていたら(訳注:対戦相手の総カード枚数と比べて相対的に増やせていたら)、そのプレイヤーはカードアドバンテージを得たと言える。
シンプルだろう?
では今度は実際のプレイからいくつかカードアドバンテージの例を見てみよう。
《真っ二つ/Slice in Twain》のようなカードは明らかにカードアドバンテージを得られるカードだ。君は対戦相手のカードを破壊しつつ、カードを1枚引ける。
似たような例として、《ファイレクシアの憤怒鬼/Phyrexian Rager》は場に影響を与えつつ自身の分のカードを補填できる。またしてもカードアドバンテージを得られるカードを発見できたわけだ。
《核への投入/Into the Core》は対戦相手のアーティファクトを2つも除去することが可能で、君に大きな優位を与えてくれる。
しかし、もし君の対戦相手が1つしかアーティファクトを持っておらず、かつそれを除去しなければならないとき、つまり対戦相手のアーティファクトに加えて君自身のアーティファクトを1つ失うことを強いられたとすると《核への投入/Into the Core》はカードディスアドバンテージを生み出す。
このような状況はそうそう起こることではないかもしれないが、もし対戦相手の元に君をねめつける《鋼のヘルカイト/Steel Hellkite》がおり(かつそれが相手の唯一のアーティファクトであったとき)、君は自分の《皮剥ぎの鞘/Flayer Husk》と相手の5/5飛行をゲームから除外することに躊躇することはほとんどないだろう。
《テル=ジラードの抵抗/Tel-Jilad Defiance》は適切な状況下でなら君にカード1枚(もしくはそれ以上)の優位を与えてくれるが、土地が足りない、もしくはもっと実益のあるカードが必要という理由でサイクリング同様の用い方をせざるを得ないときもたくさんある。
さらに言うと、対戦相手の除去呪文によって君が《テル=ジラードの抵抗/Tel-Jilad Defiance》を唱えようとしていた対象のクリーチャーが殺されてしまう、という形で対戦相手にアドバンテージを得る機会を与えてしまうという状況すらありえる。
もし《巨大化/Giant Growth》に対応して相手の《ルーン爪の熊/Runeclaw Bear》に君が《稲妻/Lightning Bolt》を撃ち込めば、結果としてカード1枚分のアドバンテージだ。
もし《審判の日/Day of Judgment》で君のクリーチャー1体と相手のクリーチャー5体を流せば、君は多大なるカードアドバンテージを得る。
もし《青の太陽の頂点/Blue Sun’s Zenith》をX=4で唱えれば、相当数のカード枚数を引ける。
もし《最上位のティラナックス/Alpha Tyrranax》と対戦相手のクリーチャー2体を戦闘で交換することができれば、君はカードアドバンテージを得たと言える。
その通りだ。
《最上位のティラナックス/Alpha Tyrranax》のようなバニラクリーチャーですらカードアドバンテージを生み出すことが出来るのだ。
なぜなら《最上位のティラナックス/Alpha Tyrranax》はそのサイズおよびその非アーティファクトという性質によってミラディン包囲戦&ミラディンの傷跡のリミテッドにおいて対処できるカードが非常に限られており、複数のカードを合わせることなく除去することは難しい。
もちろん、ときには《喉首狙い/Go for the Throat》、《病気の拡散/Spread the Sickness》、《拘引/Arrest》、《決断の手綱/Volition Reins》、《堕落した良心/Corrupted Conscience》、《金屑化/Turn to Slag》などで場に出たこの緑の6/5を対処されてしまうこともあるが、逆にこれら以外のカードには対処出来ないということでもある。
君の対戦相手が、貴重な除去呪文や、同じくらい驚異的なクリーチャーや、どデカい装備品などをその手札いっぱいに抱えているのでもない限り、相手は《最上位のティラナックス/Alpha Tyrranax》の進行方向に何枚かのカードを差し出すことでしか恐竜の絶滅を早める手立てはないのだ。
カードの質(Card Quality)について
人々はしばしばカードの質(Card Quality)によるアドバンテージと、カードアドバンテージ(Card Advantage)の違いを混同することがある。
カードの質によるアドバンテージを、カードアドバンテージやその他のアドバンテージ(ボードやテンポ)へと結びつけることは可能だ。いや、可能というか、多くの場合はイコールだ。
しかし君が対戦相手より「より良い」もしくは「よりデカい」カードをプレイすることが、そのまま継続的なアドバンテージを得ているということではない、ということも絶対的な事実だ。
もし君が「土地、2マナの3/3、《稲妻》」しか詰め込まれていないデッキをプレイしており、対戦相手が「土地、2マナの2/2、《稲妻》」しか詰め込まれていないデッキをプレイしていたとしよう。
この場合、君のクリーチャーが相手より「カードの質が高い」という点に大した意味はない。
もちろんこのマッチアップは君に大きく有利だ。なぜなら君のデッキのカードの大半は対戦相手のそれよりも強いのだから。しかし君のカードの質によるアドバンテージを持ってしても五分五分の勝負にすら持ち込めない試合展開だって何通りもあり得る。
もし対戦相手の手札に《稲妻/Lightning Bolt》があふれかえっており、単純に君を焼き殺せるとしたら、君のカードの質によるアドバンテージには何も意味もない。
もし君と対戦相手が、互いに出てくるクリーチャーを《稲妻/Lightning Bolt》片端から焼き殺していくような試合展開であれば、単に相手より多く呪文を引いたほうが勝つだろう。これまたカードの質によるアドバンテージには何の価値も無い。
また、カードの質によるアドバンテージに感謝することがあっても、カードアドバンテージを得られるような状況というのは滅多にない。あるとすれば、君の3/3を相手の2/2がチャンプブロックしたときか、3/3を相手が2体の2/2でブロックした際に片方の2/2へ君が《稲妻/Lightning Bolt》を撃ち込んだときくらいのものだ。
さて、また現実に目を向けてみよう。
目にする多くの交換の中で、弱いカードで強いカードを討ち取るのも見ることになるだろうし、これはこれで価値のあることだが、これらをカードアドバンテージと混同してはならない。
君がドラフトの後半でピックした《オーガの抵抗者/Ogre Resister》が相手の初手ピックの《エズーリの大部隊/Ezuri’s Brigade》と相打ちをとれたからといって、実際には君はカードアドバンテージを得てはいない。
君の場を一掃せんばかりだった《鋼のヘルカイト/Steel Hellkite》を《粉砕/Shatter》で破壊した場合、君は対戦相手がカードアドバンテージを得る機会を防いではいるが、君自身がそこから何らかのカードを得たわけではない。
対戦相手が君の《きらめく鷹/Glint Hawk》に向かって《喉首狙い/Go for the Throat》を唱えたことで、君が今からプレイしようと思っていた《不退転の大天使/Indomitable Archangel》の生存する可能性が上がったことは嬉しいことかもしれないが、それでも君と対戦相手のあいだで1対1の交換を行われたことは事実なのだ。
仮想的なカードアドバンテージ
ゲーム開始前の決断すらカードアドバンテージにつなげることができる。
もし君がアーテイファクトもエンチャントも入っていないデッキをプレイし、対戦相手の手札に《粉砕/Shatter》がいっぱいだった場合、君は対戦相手の手札を無駄カードに変えることでカードアドバンテージを得ている。
(注意して欲しいのは、この手のカードアドバンテージというのは純粋なカードアドバンテージとは異なるということだ。なぜなら君の対戦相手は物理的には一切その手札のカードを失っていない。しかし相手の手札に使い道のないカードがあるという事実は、カードの枚数差で君がアドバンテージを得ていることに他ならない)
そのため、ミラディン包囲戦&ミラディンの傷跡という環境でアーティファクトを一切含まないデッキを作れそうであれば、君はぜひともそうしたいと考えるだろう。
アーティファクトがあまりに多すぎたり、1枚か2枚かのアーティファクトに試合を決めるだけの力があるのでも無い限り、アーティファクトをサイドボードに押しやっておくことで対戦相手の《粉砕/Shatter》たちを無駄カードにするのが得策となるはずだ。
わずかなカードアドバンテージ
もし君が戦闘中に《主の呼び声/Master’s Call》を唱えて、対戦相手の《ファイレクシアの破棄者/Phyrexian Revoker》と片方のトークンを相打ちさせることが出来れば、君はカード1/2枚分の得をしたことになる。
ここで得られるアドバンテージは《腐敗狼/Rot Wolf》で《ファイレクシアの破棄者/Phyrexian Revoker》と相打ちをとりつつカードを引けた場合に比べると、大して印象深いものでもなければ、その後の展開に活かしやすいアドバンテージでもない。
しかしそれでも君はこの交換から、結果として確かなアドバンテージを得ているのだ。
こういった取るに足らないように見えるアドバンテージは積み重なると無視できないものであり、決して軽々しく取り扱うべきものではない。
場に残ったその1/1トークンがタダ同然で手に入ったからといって、また、すでにもう片方の1/1トークンで相手のカード1枚と交換を済ませているからといって、残ったトークンをどうでもよい機会に手ごろなチャンプブロッカーとして気軽に消費してよいわけではない。
そのカード(もしくはトークン)の入手方法は重要ではない。
一度、それが手札や場に加わった以上、君は他のリソースと同等の敬意をもってそれを扱うべきなのだ。この先に待っている戦闘について作戦を練るとき、その1/1マイアトークンで出来ることを考えるべきだ。
もしかしたら、それのもっとも有用な使い道は、このあとやってくるであろう《最上位のティラナックス/Alpha Tyrranax》のチャンプブロッカーとしてかもしれない。
それとも、1ターン待って装備品をつける先なのかもしれない。
それとも、2ターン後のダブルブロックの片割れとして使うべきなのかもしれない。
それとも……?
重要なことは、その得られたリソースに関して「この先、何ができるか」であり「過去にどうやってそれを得たか」ではないということだ。
最大限の利益を得るには
ミラディン包囲戦&ミラディンの傷跡のリミテッドでは、単純な2対1交換は敵味方で1回ずつ行われることによりそこから得られたアドバンテージを相殺する。
もちろん《病的な略取/Morbid Plunder》が相手に引導を渡すこともあるし、《死体の野犬/Corpse Cur》や《生体解剖/Vivisection》によって得られるアドバンテージは相手にとってなかなかに壊滅的だ。
しかしこれらのカードから君が得たアドバンテージは、対戦相手が似たようなカードを用いたり、単により多い枚数の呪文を引くことで簡単に打ち消せる。
もし私が《ファイレクシアの憤怒鬼/Phyrexian Rager》を唱えて、その数ターン後に私の《ファイレクシアの巨大戦車/Phyrexian Juggernaut》を君が《真っ二つ/Slice in Twain》したら、カードアドバンテージは平らになる。
《ファイレクシアの憤怒鬼/Phyrexian Rager》、《真っ二つ/Slice in Twain》、《病的な略取/Morbid Plunder》やそういったカードたちはなかなか良いものではあるけれど、君はそれらを単体で用いた際に得られるアドバンテージだけを頼りにゲームを勝利することはできない。特にそれらを向こう見ずに使った場合はなおさらだ。
ミラディン包囲戦&ミラディンの傷跡のリミテッドにおいて劇的なカードアドバンテージを得る手段はあまりない。そのため、アドバンテージを得られる機会を全て逃さずに生かすことが非常に重要になってくる。
4ターン目に出てきた相手の《貫く徘徊者/Pierce Strider》を《真っ二つ/Slice in Twain》することもできるが、君はそのほんの数ターン先に対戦相手が戦場に《飛行機械の組立工/Thopter Assembly》を叩きつけた際に、最初の決断を心から後悔することになるだろう。
確かに《真っ二つ/Slice in Twain》は対戦相手の《貫く徘徊者/Pierce Strider》を除去しつつ君にカード1枚分のアドバンテージを与えてくれる。
しかし、対処しなければ負けが確定するようなカードを対戦相手が自ら死刑台に置いてくれるのを待つことでも、君は1枚分のカードアドバンテージを得ることは出来るし、かつこの場合は必死に新たな解決方法を探す必要も無い。
似たような例として、対象となるカードがそろったからといってすぐに《病的な略取/Morbid Plunder》を唱えたいという人はあまりいないだろう。
もちろん、単にそうしなければ次のターンには負けてしまうため場の緊張を保つために唱えざるを得ないという状況もある。
しかし対戦相手が自らのリソースをほとんど使い果たしつつ君のクリーチャーを焼き払ってくれるのを待ってから、あらためて最も脅威となる2体を手札に戻せば、大体の場合、勝ちは約束されたようなものだ。
後に残るアドバンテージについて
例えば《生体解剖/Vivisection》のようなカードは即座に君にカードアドバンテージを与えてはくれるが、それに対して本当に必要なものを得るのにかかる時間は余分に必要になっているし、他のカードも必要だ。
慣れてないプレイヤーの目には《光明の大砲/Lux Cannon》はゲームを通じて莫大なカードアドバンテージを与えてくれるカードに見えるだろう。
確かに《光明の大砲/Lux Cannon》は君にカードアドバンテージを与えてくれるが、実際に稼動し始めるまでには長い時間がかかる(それだけでなく再度起動させるのにも長い時間がかかる)。
もちろんこの大砲を2回以上起動させることが出来ればおそらく負けることはないだろう。しかし他のどんなフィニッシャーでも、相手に対処されないのであれば、同じ結果が得られるはずだ。
そのようなわけで適切な環境下で用いられる《光明の大砲/Lux Cannon》は確かに有用だが、このカードがカードアドバンテージを得るのに適したリソースだとは考えないほうがいい。
その一方で、出した直後に壊されずに済んだ生体武器が与えてくれるアドバンテージはなかなか頼りになるものだ。
細菌トークンを相手のクリーチャーと相打ちさせた時点で君は1枚分のカードアドバンテージを得ている。なぜなら君の手元には好きに使ってよい装備品が残されているからだ。
もし残された生体武器の装備品を効果的に装備させる機会がなければそのアドバンテージには何も意味もない。しかし、もし《皮羽根/Skinwing》のおかげで空からのクロックで対戦相手を打ちのめすことができたり、《縒り糸歩き/Strandwalker》のおかげで場の優位を固めることが出来たなら、なかなかいい感じに試合を進められるのではないだろうか。
その他のアドバンテージについて
カードアドバンテージとは具体的に何を指すのかについて理解することは大事なことだ。
さらに、同じくらい重要なのは、マジックにおいてアドバンテージを得る手段はカードアドバンテージ以外にもあるということ、そして常にカードアドバンテージが最も重要とは限らないということだ。
結局のところ、何枚カードが引けたとしても、君自身が生きていなければ何の意味もないのだから。
Steve Sadin
2011年03月15日
元記事:http://www.wizards.com/Magic/Magazine/Article.aspx?x=mtg/daily/li/134
訳注:初めに。このコラムはリミテッド情報に関するアーカイブに含まれる記事であり、基本的にリミテッド環境に置いて発生しうるケースを想定している。
カードアドバンテージとはマジックの用語の中でも特に誤解されがちな言葉の1つだ。
そこでまず簡単な定義から始めよう。
一連のプレイ(もしくは決断)の結果、あるプレイヤーが1枚かそれ以上のカードを増やせていたら(訳注:対戦相手の総カード枚数と比べて相対的に増やせていたら)、そのプレイヤーはカードアドバンテージを得たと言える。
シンプルだろう?
では今度は実際のプレイからいくつかカードアドバンテージの例を見てみよう。
《真っ二つ/Slice in Twain》のようなカードは明らかにカードアドバンテージを得られるカードだ。君は対戦相手のカードを破壊しつつ、カードを1枚引ける。
似たような例として、《ファイレクシアの憤怒鬼/Phyrexian Rager》は場に影響を与えつつ自身の分のカードを補填できる。またしてもカードアドバンテージを得られるカードを発見できたわけだ。
《核への投入/Into the Core》は対戦相手のアーティファクトを2つも除去することが可能で、君に大きな優位を与えてくれる。
しかし、もし君の対戦相手が1つしかアーティファクトを持っておらず、かつそれを除去しなければならないとき、つまり対戦相手のアーティファクトに加えて君自身のアーティファクトを1つ失うことを強いられたとすると《核への投入/Into the Core》はカードディスアドバンテージを生み出す。
このような状況はそうそう起こることではないかもしれないが、もし対戦相手の元に君をねめつける《鋼のヘルカイト/Steel Hellkite》がおり(かつそれが相手の唯一のアーティファクトであったとき)、君は自分の《皮剥ぎの鞘/Flayer Husk》と相手の5/5飛行をゲームから除外することに躊躇することはほとんどないだろう。
《テル=ジラードの抵抗/Tel-Jilad Defiance》は適切な状況下でなら君にカード1枚(もしくはそれ以上)の優位を与えてくれるが、土地が足りない、もしくはもっと実益のあるカードが必要という理由でサイクリング同様の用い方をせざるを得ないときもたくさんある。
さらに言うと、対戦相手の除去呪文によって君が《テル=ジラードの抵抗/Tel-Jilad Defiance》を唱えようとしていた対象のクリーチャーが殺されてしまう、という形で対戦相手にアドバンテージを得る機会を与えてしまうという状況すらありえる。
もし《巨大化/Giant Growth》に対応して相手の《ルーン爪の熊/Runeclaw Bear》に君が《稲妻/Lightning Bolt》を撃ち込めば、結果としてカード1枚分のアドバンテージだ。
もし《審判の日/Day of Judgment》で君のクリーチャー1体と相手のクリーチャー5体を流せば、君は多大なるカードアドバンテージを得る。
もし《青の太陽の頂点/Blue Sun’s Zenith》をX=4で唱えれば、相当数のカード枚数を引ける。
もし《最上位のティラナックス/Alpha Tyrranax》と対戦相手のクリーチャー2体を戦闘で交換することができれば、君はカードアドバンテージを得たと言える。
その通りだ。
《最上位のティラナックス/Alpha Tyrranax》のようなバニラクリーチャーですらカードアドバンテージを生み出すことが出来るのだ。
なぜなら《最上位のティラナックス/Alpha Tyrranax》はそのサイズおよびその非アーティファクトという性質によってミラディン包囲戦&ミラディンの傷跡のリミテッドにおいて対処できるカードが非常に限られており、複数のカードを合わせることなく除去することは難しい。
もちろん、ときには《喉首狙い/Go for the Throat》、《病気の拡散/Spread the Sickness》、《拘引/Arrest》、《決断の手綱/Volition Reins》、《堕落した良心/Corrupted Conscience》、《金屑化/Turn to Slag》などで場に出たこの緑の6/5を対処されてしまうこともあるが、逆にこれら以外のカードには対処出来ないということでもある。
君の対戦相手が、貴重な除去呪文や、同じくらい驚異的なクリーチャーや、どデカい装備品などをその手札いっぱいに抱えているのでもない限り、相手は《最上位のティラナックス/Alpha Tyrranax》の進行方向に何枚かのカードを差し出すことでしか恐竜の絶滅を早める手立てはないのだ。
カードの質(Card Quality)について
人々はしばしばカードの質(Card Quality)によるアドバンテージと、カードアドバンテージ(Card Advantage)の違いを混同することがある。
カードの質によるアドバンテージを、カードアドバンテージやその他のアドバンテージ(ボードやテンポ)へと結びつけることは可能だ。いや、可能というか、多くの場合はイコールだ。
しかし君が対戦相手より「より良い」もしくは「よりデカい」カードをプレイすることが、そのまま継続的なアドバンテージを得ているということではない、ということも絶対的な事実だ。
もし君が「土地、2マナの3/3、《稲妻》」しか詰め込まれていないデッキをプレイしており、対戦相手が「土地、2マナの2/2、《稲妻》」しか詰め込まれていないデッキをプレイしていたとしよう。
この場合、君のクリーチャーが相手より「カードの質が高い」という点に大した意味はない。
もちろんこのマッチアップは君に大きく有利だ。なぜなら君のデッキのカードの大半は対戦相手のそれよりも強いのだから。しかし君のカードの質によるアドバンテージを持ってしても五分五分の勝負にすら持ち込めない試合展開だって何通りもあり得る。
もし対戦相手の手札に《稲妻/Lightning Bolt》があふれかえっており、単純に君を焼き殺せるとしたら、君のカードの質によるアドバンテージには何も意味もない。
もし君と対戦相手が、互いに出てくるクリーチャーを《稲妻/Lightning Bolt》片端から焼き殺していくような試合展開であれば、単に相手より多く呪文を引いたほうが勝つだろう。これまたカードの質によるアドバンテージには何の価値も無い。
また、カードの質によるアドバンテージに感謝することがあっても、カードアドバンテージを得られるような状況というのは滅多にない。あるとすれば、君の3/3を相手の2/2がチャンプブロックしたときか、3/3を相手が2体の2/2でブロックした際に片方の2/2へ君が《稲妻/Lightning Bolt》を撃ち込んだときくらいのものだ。
さて、また現実に目を向けてみよう。
目にする多くの交換の中で、弱いカードで強いカードを討ち取るのも見ることになるだろうし、これはこれで価値のあることだが、これらをカードアドバンテージと混同してはならない。
君がドラフトの後半でピックした《オーガの抵抗者/Ogre Resister》が相手の初手ピックの《エズーリの大部隊/Ezuri’s Brigade》と相打ちをとれたからといって、実際には君はカードアドバンテージを得てはいない。
君の場を一掃せんばかりだった《鋼のヘルカイト/Steel Hellkite》を《粉砕/Shatter》で破壊した場合、君は対戦相手がカードアドバンテージを得る機会を防いではいるが、君自身がそこから何らかのカードを得たわけではない。
対戦相手が君の《きらめく鷹/Glint Hawk》に向かって《喉首狙い/Go for the Throat》を唱えたことで、君が今からプレイしようと思っていた《不退転の大天使/Indomitable Archangel》の生存する可能性が上がったことは嬉しいことかもしれないが、それでも君と対戦相手のあいだで1対1の交換を行われたことは事実なのだ。
仮想的なカードアドバンテージ
ゲーム開始前の決断すらカードアドバンテージにつなげることができる。
もし君がアーテイファクトもエンチャントも入っていないデッキをプレイし、対戦相手の手札に《粉砕/Shatter》がいっぱいだった場合、君は対戦相手の手札を無駄カードに変えることでカードアドバンテージを得ている。
(注意して欲しいのは、この手のカードアドバンテージというのは純粋なカードアドバンテージとは異なるということだ。なぜなら君の対戦相手は物理的には一切その手札のカードを失っていない。しかし相手の手札に使い道のないカードがあるという事実は、カードの枚数差で君がアドバンテージを得ていることに他ならない)
そのため、ミラディン包囲戦&ミラディンの傷跡という環境でアーティファクトを一切含まないデッキを作れそうであれば、君はぜひともそうしたいと考えるだろう。
アーティファクトがあまりに多すぎたり、1枚か2枚かのアーティファクトに試合を決めるだけの力があるのでも無い限り、アーティファクトをサイドボードに押しやっておくことで対戦相手の《粉砕/Shatter》たちを無駄カードにするのが得策となるはずだ。
わずかなカードアドバンテージ
もし君が戦闘中に《主の呼び声/Master’s Call》を唱えて、対戦相手の《ファイレクシアの破棄者/Phyrexian Revoker》と片方のトークンを相打ちさせることが出来れば、君はカード1/2枚分の得をしたことになる。
ここで得られるアドバンテージは《腐敗狼/Rot Wolf》で《ファイレクシアの破棄者/Phyrexian Revoker》と相打ちをとりつつカードを引けた場合に比べると、大して印象深いものでもなければ、その後の展開に活かしやすいアドバンテージでもない。
しかしそれでも君はこの交換から、結果として確かなアドバンテージを得ているのだ。
こういった取るに足らないように見えるアドバンテージは積み重なると無視できないものであり、決して軽々しく取り扱うべきものではない。
場に残ったその1/1トークンがタダ同然で手に入ったからといって、また、すでにもう片方の1/1トークンで相手のカード1枚と交換を済ませているからといって、残ったトークンをどうでもよい機会に手ごろなチャンプブロッカーとして気軽に消費してよいわけではない。
そのカード(もしくはトークン)の入手方法は重要ではない。
一度、それが手札や場に加わった以上、君は他のリソースと同等の敬意をもってそれを扱うべきなのだ。この先に待っている戦闘について作戦を練るとき、その1/1マイアトークンで出来ることを考えるべきだ。
もしかしたら、それのもっとも有用な使い道は、このあとやってくるであろう《最上位のティラナックス/Alpha Tyrranax》のチャンプブロッカーとしてかもしれない。
それとも、1ターン待って装備品をつける先なのかもしれない。
それとも、2ターン後のダブルブロックの片割れとして使うべきなのかもしれない。
それとも……?
重要なことは、その得られたリソースに関して「この先、何ができるか」であり「過去にどうやってそれを得たか」ではないということだ。
最大限の利益を得るには
ミラディン包囲戦&ミラディンの傷跡のリミテッドでは、単純な2対1交換は敵味方で1回ずつ行われることによりそこから得られたアドバンテージを相殺する。
もちろん《病的な略取/Morbid Plunder》が相手に引導を渡すこともあるし、《死体の野犬/Corpse Cur》や《生体解剖/Vivisection》によって得られるアドバンテージは相手にとってなかなかに壊滅的だ。
しかしこれらのカードから君が得たアドバンテージは、対戦相手が似たようなカードを用いたり、単により多い枚数の呪文を引くことで簡単に打ち消せる。
もし私が《ファイレクシアの憤怒鬼/Phyrexian Rager》を唱えて、その数ターン後に私の《ファイレクシアの巨大戦車/Phyrexian Juggernaut》を君が《真っ二つ/Slice in Twain》したら、カードアドバンテージは平らになる。
《ファイレクシアの憤怒鬼/Phyrexian Rager》、《真っ二つ/Slice in Twain》、《病的な略取/Morbid Plunder》やそういったカードたちはなかなか良いものではあるけれど、君はそれらを単体で用いた際に得られるアドバンテージだけを頼りにゲームを勝利することはできない。特にそれらを向こう見ずに使った場合はなおさらだ。
ミラディン包囲戦&ミラディンの傷跡のリミテッドにおいて劇的なカードアドバンテージを得る手段はあまりない。そのため、アドバンテージを得られる機会を全て逃さずに生かすことが非常に重要になってくる。
4ターン目に出てきた相手の《貫く徘徊者/Pierce Strider》を《真っ二つ/Slice in Twain》することもできるが、君はそのほんの数ターン先に対戦相手が戦場に《飛行機械の組立工/Thopter Assembly》を叩きつけた際に、最初の決断を心から後悔することになるだろう。
確かに《真っ二つ/Slice in Twain》は対戦相手の《貫く徘徊者/Pierce Strider》を除去しつつ君にカード1枚分のアドバンテージを与えてくれる。
しかし、対処しなければ負けが確定するようなカードを対戦相手が自ら死刑台に置いてくれるのを待つことでも、君は1枚分のカードアドバンテージを得ることは出来るし、かつこの場合は必死に新たな解決方法を探す必要も無い。
似たような例として、対象となるカードがそろったからといってすぐに《病的な略取/Morbid Plunder》を唱えたいという人はあまりいないだろう。
もちろん、単にそうしなければ次のターンには負けてしまうため場の緊張を保つために唱えざるを得ないという状況もある。
しかし対戦相手が自らのリソースをほとんど使い果たしつつ君のクリーチャーを焼き払ってくれるのを待ってから、あらためて最も脅威となる2体を手札に戻せば、大体の場合、勝ちは約束されたようなものだ。
後に残るアドバンテージについて
例えば《生体解剖/Vivisection》のようなカードは即座に君にカードアドバンテージを与えてはくれるが、それに対して本当に必要なものを得るのにかかる時間は余分に必要になっているし、他のカードも必要だ。
慣れてないプレイヤーの目には《光明の大砲/Lux Cannon》はゲームを通じて莫大なカードアドバンテージを与えてくれるカードに見えるだろう。
確かに《光明の大砲/Lux Cannon》は君にカードアドバンテージを与えてくれるが、実際に稼動し始めるまでには長い時間がかかる(それだけでなく再度起動させるのにも長い時間がかかる)。
もちろんこの大砲を2回以上起動させることが出来ればおそらく負けることはないだろう。しかし他のどんなフィニッシャーでも、相手に対処されないのであれば、同じ結果が得られるはずだ。
そのようなわけで適切な環境下で用いられる《光明の大砲/Lux Cannon》は確かに有用だが、このカードがカードアドバンテージを得るのに適したリソースだとは考えないほうがいい。
その一方で、出した直後に壊されずに済んだ生体武器が与えてくれるアドバンテージはなかなか頼りになるものだ。
細菌トークンを相手のクリーチャーと相打ちさせた時点で君は1枚分のカードアドバンテージを得ている。なぜなら君の手元には好きに使ってよい装備品が残されているからだ。
もし残された生体武器の装備品を効果的に装備させる機会がなければそのアドバンテージには何も意味もない。しかし、もし《皮羽根/Skinwing》のおかげで空からのクロックで対戦相手を打ちのめすことができたり、《縒り糸歩き/Strandwalker》のおかげで場の優位を固めることが出来たなら、なかなかいい感じに試合を進められるのではないだろうか。
その他のアドバンテージについて
カードアドバンテージとは具体的に何を指すのかについて理解することは大事なことだ。
さらに、同じくらい重要なのは、マジックにおいてアドバンテージを得る手段はカードアドバンテージ以外にもあるということ、そして常にカードアドバンテージが最も重要とは限らないということだ。
結局のところ、何枚カードが引けたとしても、君自身が生きていなければ何の意味もないのだから。
Lost in the Shuffle(今は亡きトレーディングカードゲーム専門誌、The DuelistでRichard Garfieldが書かれていた連載コラム)で1994年に書かれたコラムで、公式ルールにある多人数線のヴァリアントの1つ、大乱闘戦/Grand Meleeについての記事があり、それが2011年03月にDaily MTGで再掲載された。
とあるコンベンションで行われた、世界初の大乱闘戦/Grand Meleeの詳細らしい。通常のマジックの試合では見られないような出来事が色々起きていて面白かったので紹介してみる。
シャッフルの中で:大乱闘戦/Lost in the Shuffle: Grand Melee
2011年03月14日
元記事:http://www.wizards.com/Magic/Magazine/Article.aspx?x=mtg/daily/feature/134
Daily MTGが生まれる前、MagicTheGathering.comが生まれる前、そしてインターネットが生まれる前、そこにはマジックや他のゲームについて取り扱ったThe Duelist(註1)という雑誌があった。
(註1) The Duelist
主にマジックを扱ったトレーディングカードゲーム専門誌(1994年 創刊~1999年 41号)
The Duelistで定期的に掲載されていた記事の1つにマジックの生みの親であるRichard Garfield氏による Lost in the Shuffle があった。これはマジックに限らず世に生まれ出た様々なトレーディングカードゲーム全般について思いを巡らせているゲームデザイナーの日記のようなものであり、言い換えればゲームやゲームデザインに興味のある人全員にとってかけがえのない資料でもある。
ゲームの始まったばかりの頃を振り返るのはいつだって楽しい(実のところ、どんなものでもその起源を探ることは面白い)。なぜなら、一見したところ無計画に生み出されたようなアイデアのうち、いくつかのアイデアはその後も継続し(例えばエキスパンションのリリースとか)、他方でいくつかのアイデアは脇へ寄せられてしまうことになった(アンティ(註2)を思い出すね)。
(註2) アンティ
最初期にあった公式ルールの1つ。ゲーム開始前に山札の一番上を公開しそれを賭け札とする遊び方。賭け札となったカードはゲーム中に用いることは出来ない。
フェイクアンティと言って、めくるだけめくるけど実際には所有権を移動させないという遊び方もあった。
いずれにせよ、このルールのせいでデッキにキーカードを1枚しか入れてないとゲーム開始前に負ける危険性があった。今考えるととんでもない話だ。
そういったアイデアの中で今なお継続しているにも関わらず、ごくたまにしか行われていない、とあるものが初めて世に出たときのことについて今回の記事は語っている。
そう、大乱闘戦/Grand Melee(註3)だ。
(註3) 大乱闘戦/Grand Melee
公式ルールで定められている多人数戦のフォーマットの1つ。10人以上で行われ、同時に複数のターンを進行させるという豪快な試合。
細かい説明で君たちを退屈させるつもりはない。なぜならガーフィールド博士が以下で説明しているルールは今現在の大乱闘戦/Grand Meleeのルールと驚くほどに近いからだ。
ともかく重要な点は、大乱闘戦/Grand Meleeは理論上どれほどの人数であっても一緒に参加させることが出来る大規模なマジックの1試合であり、かつ複数のターンが同時に進行するということだ。この壮観な試合はインディアナポリスで開催されているゲームコンベンションGen Con(註4)でも何度か行われたことがある。
(註4) Gen Con
北米最大のゲーム大会の1つ。紙とペンを使うRPG、カードゲーム、ボードゲーム、ミニチュアゲームなどを4日間ぶっ通しで遊ぶコンベンションらしい。公式サイトによると今年は08/04~08/07に開催を予定している。
公式:http://www.gencon.com/
ガーフィールド博士の物語は、1994年に開催された小規模のローカルなコンベンションであるRadCon(註5)で行われた、一番最初の大乱闘戦/Grand Meleeについて語っており、この記事によって様々なことが明らかにされている。
このフォーマットの始まりについて、また試合が生み出した諸々の印象的なシーン(と、たびたび発生したルール上の悪夢)について、そしてガーフィールド氏が多人数プレイの面白い点と危険な点についての考察などだ。
(註5) RadCon
SFとファンタジーとゲームに関するコンベンション。今年はワシントン州のパスコで02/17~02/19にかけて開催された。公式サイトによるとすでに2014年まで会場は押さえてあるらしい。
公式:http://www.radcon.org/
最近の大乱闘戦/Grand Meleeについてはこことここ(註6)で読むことが出来る。もし君が最新のルールについて知りたいならば、ルールページへ飛べば総合ルールをダウンロードすることも出来る(これを紹介するのは自信がないからじゃないよ!)。総合ルールには大乱闘戦/Grand Meleeとその追加ルールについて全て載っている。
楽しんでくれ!
Kelly Digges
Daily MTG 編集部
(註6) こことここ
原文ではそれぞれ以下の記事へリンクが張られている。
・2007年08月 The Way of the Melee
http://www.wizards.com/Magic/magazine/Article.aspx?x=mtgcom/daily/bd292
・2008年08月 Gen Con 2008
http://www.wizards.com/magic/magazine/article.aspx?x=mtg/daily/feature/472a
シャッフルの中で:大乱闘戦/Lost in the Shuffle: Grand Melee
Richard Garfield
1994年
元記事:http://www.wizards.com/Magic/Magazine/Article.aspx?x=mtg/daily/feature/134
マジックザギャザリングが発売されたとき、多人数で遊ぶためのルールは公式には発表されなかった。そのため多くの非公式なバリエーションが生まれることとなった。その中のいくつかは「ポケットプレイヤーズガイド」(註7)に紹介されている。
これらの中でも特に素晴らしいものは、私がMelee Magicと呼ぶようになったバージョンだ。
(註7) ポケットプレイヤーズガイド
1994年に発売された、マジックの最初の公式ガイドブック。「マジック:ザ・ギャザリング公式ガイドブック ポケットプレイヤーズガイド日本語版」として1996年に日本語版も出ている。
Amazon:http://www.amazon.co.jp/dp/4894251019
なお、記事では以下のURLへリンクが張られている。
http://www.goodreads.com/book/show/1037494.The_Pocket_Players_Guide_for_Magic
デザインの段階から対策しているのでもない限り、往々にして多人数で遊ぶゲームは同じ問題に直面することになる。
グループで遊ぶゲームではプレイヤーたちはチームを作ろうとする。もちろん、これが問題だと思う人はあまりいないが、これによってゲームの趨勢を分けるものが交渉の上手さとなってしまい(私と同じくらいディプロマシー/Diplomacy(註8)を遊んだことがある人なら分かるだろうが)プレイヤーは和合するようになり戦略は予測しやすいものとなる。
これは特に君のとる行動がどのプレイヤーにも同等に影響を与える場合に顕著となる。多人数ゲームの一部は、プレイヤーが攻撃時にとれる選択肢を制限することでこの問題に対処している。
例えばコズミックエンカウンター/Cosmic Encounter(註9)では、毎ターン、カードを引くことで防御側プレイヤーを無作為に決定している。またディプロマシー/Diplomacyでさえも侵略先はその地理的な位置関係によって効果的に制限されている。
(註8) ディプロマシー/Diplomacy
半世紀以上の歴史を持つ、ヨーロッパを舞台にしたボードゲーム。カードやサイコロといったランダム要素が皆無で、ほぼプレイヤー同士の「外交」のみでゲームが進むらしい。
(註9) コズミックエンカウンター/Cosmic Encounter
1981年に発売されたボードゲーム。それぞれ特殊能力を持った異星人となって植民地の争奪戦をするゲーム。日本語版も出ているらしいけど見たことない。
2つ目の問題点は、攻撃側に回るようプレイヤーにやる気を出させられるかどうかにある。
攻撃的な行動をとった際、関わったプレイヤーたちに損失を強いるようなゲームは、往々にして最も目立たないようにしていたプレイヤーが勝利してしまう。これが勝利のカギでは面白いゲームになるわけがない。
この現象への対策として、いくつかのゲームでは攻撃的なプレイによって利益を得られるようになっている。例えばリスク/Risk(註10)ではプレイヤーは軍備の増強に使えるカードを報酬として得られる。
(註10) リスク/Risk
世界地図上で互いの軍隊を戦わせて領土を奪い合うボードゲーム。舞台をヨーロッパに限ったものや、指輪物語の世界を題材にしたものなど、多くのバリエーションがあるらしい。
マジックのおける多人数プレイのバリエーションの多くで、私はこれら両方の問題点に苦しめられた。
特に言っておきたいのは、プレイヤーは他の誰でも攻撃できて最後に生き残ったものが勝利者となるというマジックのバリエーションはあまり好きではない、ということだ。
なぜならそうすると不均衡なチーム分けを推奨することとなり、また保守的なプレイングが恩恵を受けることになってしまう。しかしMelee Magicではこれらの問題点を解決することに成功し、また非常にたくさんの人数が同時に遊ぶことも可能にした。
~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~
プレイヤーは左右の両サイドに他のプレイヤーが来るように座る。各プレイヤーは自分の左側に座っているプレイヤーへ向けてのみクリーチャーをアタックさせることが出来る。
全ての魔法の効果は2人分離れた距離までしか射程をもたない。《黒の万力/Black Vise》や《生命のタップ/Lifetap》のように対戦相手を参照する呪文は、唱える瞬間にその呪文の効果の及ぶ範囲にいる(2人分の距離内の)対戦相手の中から選ぶことになる。
その後、対象としたプレイヤーを変更することはできず、もしそのプレイヤーがゲームから除外された場合はその呪文も捨て札となる。「両方の」や「全ての」プレイヤーを参照とする全ての呪文は、唱えた本人と左隣の2人と右隣の2人に効果を及ぼす。
左隣のプレイヤーがゲームから除外された場合、君は1点の勝利ポイントを得る。また生き延びた場合は0.5点の勝利ポイントをを得る。
注意して欲しいのは、君の左隣のプレイヤーが、その他のプレイヤーの《稲妻/Lightning Bolt》によって引導を渡された場合であっても君にポイントが入るということだ。
もしアンティを賭けて遊んでいる場合は、左隣のプレイヤーがゲームから除外されたときにそのプレイヤーのアンティカードを得ることが出来る。これは、たとえ君がそのプレイヤーと同時に死んでしまった場合でも得られるが、アンティカードを失わずに済むのは最後まで生き残ることが出来た場合のみだ。
追記しておくと、プレイヤーがゲームから除外された場合、そのプレイヤーのカードやトークンは全てゲームから除外される(ただし永続的な効果を持つ奇妙なインスタント(註11)たちの効果は残る。例えば《魔法改竄/Magical Hack》や《死の色/Deathlace》などだ)。
(註11) インスタント
原文ではInterrupt。今は無きカードタイプの1つ。当時は永続的な書き換えが基本的にこのインタラプト呪文にしか存在しなかった。
念のために書いておこう。
3人もしくは4人でプレイした場合は生き残ったプレイヤーが勝利者となるが(註12)、もしゲームを続けて遊び点数を累計していく場合には、生存によるポイントも多少の違いは生むとはいえ、他のプレイヤーをもっとも倒したプレイヤーこそがもっとも大きな累計ポイントを積み上げることになるだろう。プレイに大きな違いが生じることになるため、自然と試合ごとに席順を変えたくなってくるはずだ。
(註12) 3人もしくは4人でプレイした場合は生き残ったプレイヤーが勝利者となる
3人で遊ぶ場合は確かにそうだが、4人で遊ぶ場合は必ずしも「生存者=勝利者」とはならないような気がする。
例えば、ABCDと並んでいて「B、A、C」の順にプレイヤーが敗北した場合、生存者は「D」だが、獲得ポイントは「A=0点、B=0点、C=2点、D=1.5点」となる。
席の並べ方と呪文の射程範囲によって、Melee Magicは複数のプレイヤーが同時にターンを進行させることが可能となる。これは、なぜかというと、右か左へ3人以上離れたところに座っているプレイヤーへはどうせ君の呪文が届かないためだ。
このため、全体の3分の1(端数切捨て)の人数のプレイヤーは同時にターンを進行させることが出来る。これらのプレイヤーが全員行動を終了した時点で、彼らの左隣にいるプレイヤーへターンが移る。これによって同じゲームに参加する人数に制限をかけることなく、常識的な時間内に試合を終えることができる。
もっとも、同時進行のプレイはゲームの時間を早めることはできるが、それは同時により多くの人数のジャッジを必要とすることになる。なおある一定数のプレイヤーがゲームから除外されるたび「ターン」もまた減少し、同時にジャッジも減らされる。
世界初の大乱闘戦/Grand Meleeが行われたのは、ワシントン州のリッチランドで開催された小さなSFコンベンション、RadConにおいてだった。これはおそらく世界でそれまでに行われた中でも最も大規模なカードゲームの試合だったであろうし、あの時点では間違いなく世界で最大のマジックの試合だった。
この大乱闘戦/Grand Meleeは、参加者40人のMelee Magicで、13人のジャッジが、ゲーム開始時にターンの所有権を持っていた13人のプレイヤーの背後それぞれついていた。
プレイヤーが3人ゲームから除外されるごとにジャッジ1人も除外された。参加者数が減るたびにテーブルの数も減らされた。これまたこのフォーマットにしか見られない特別な点だ。
このイベントの凄さが君たちに伝わるよう、ここに「40人の参加者と13人のジャッジが多数のテーブルを囲んでいる図」(註13)を用意してみた。
(註13) 40人の参加者と13人のジャッジが多数のテーブルを囲んでいる図
元記事のイラストを参照のこと。妙に味のあるスケッチが載っている。
http://www.wizards.com/Magic/Magazine/Article.aspx?x=mtg/daily/feature/134
なかなか壮観なものだろう? 試合会場をこのような形にセットアップした理由は、会場にあった全テーブルを使い果たす羽目になったからだ。
大きな数字が珍しくないこの時代、40というのは大した数字ではないように思えたが、試合のための準備を整えたくさんのプレイヤーたちがやってくるのを見ているとき、私は横にいたSnarkに「40人で試合したら面白いんじゃないだろうかとか私が言い出した時点で、なんで君は私の口をふさいでくれなかったんだ」と尋ねた。
しかし、その晩ぐっすり寝て、次の日に余韻に浸る頃には、後悔など一切なかった。
~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~
プレイヤーがゲームから除外されるごとに、そのプレイヤーの右隣に座っているプレイヤーはブースターパックと1勝利ポイントを手に入れた。
さらに最もたくさんポイント獲得したプレイヤーには優勝賞品が用意されており、それは7つの撃墜数をあげたHoi Nguyenへ手渡された。2位の賞品を手にしたのはAlで、彼の撃墜数は6つだった。
特別賞を与えられたのはJoelで、彼はこの大乱闘の最後の生存者であった。
この競技では生き残ったプレイヤーにも何らかの賞を与えたほうが良いだろう、と私たちは考えている。最後に残った数人のプレイヤーたちが試合を放り出さず、やる気を失わないで勝ちへ向かいたくなるようにするためだ。
ただし、単に生存した者が勝利者であってはならないというのは重要な点だ。このようなフォーマットに40人のプレイヤーが全員とも「お前らは殺しあえ、俺は生き延びる」デッキを持ち寄るところなど想像しただけで寒気がする。
この試合は大体5時間ほどかかった。このサイズのトーナメントにかかる時間としては普通の長さだ。
通常ではお目にかかれないような、見ているだけで楽しいことがよく起きた。
試合会場の一部では、こう着状態に陥りクリーチャーたちはただ突っ立っているだけで、その一方、他の戦場では呪文があちらこちらへ飛び交う中でアタックが時計回りに発生し、プレイヤーはそのターンの防御をがら空きにしつつ攻撃を行っていた。
呪文の射程範囲というルールがいくつかの興味深い効果を生み出していた。何しろプレイヤーたちはすぐ隣のプレイヤーだけを相手にしているわけにはいかなかったからだ。
苦悶の叫びがいくつも上がったのは、あるプレイヤーが《天秤/Balance》を唱えた瞬間だった。その厄災は合計5人のプレイヤーを巻き込んだのだ。唱えたプレイヤーがどうなったかは知らないが、範囲内にいた中の2人はゲームの勝者たちであるHoiとJoelだった。
Balance / 天秤 (1)(白)
ソーサリー
各プレイヤーは、コントロールする土地の数が最も少ないプレイヤーがコントロールする土地の数に等しい数だけ、自分がコントロールする土地を選ぶ。その後、残りを生け贄に捧げる。同じ方法で、各プレイヤーはカードを捨て、クリーチャーを生け贄に捧げる。
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Balance/
またプレイヤーA、B、C、Dと並んでいるときに起きた一連の出来事は以下の通りだ。
1. 「A」が「C」に《分解/Disintegrate》を唱えた。
2. 「D」がその《分解/Disintegrate》を《魔力消沈/Power Sink》しようとした。
3. 「C」がその《魔力消沈/Power Sink》を《魔力消沈/Power Sink》した。
その結果どうなったかというと「B」が勝利ポイントを得たのだ! おそらくこのような相互作用が実際にはかなり数で発生していたのではないかと思われる。
Disintegrate / 分解 (X)(赤)
ソーサリー
クリーチャー1体かプレイヤー1人を対象とする。分解はそれにX点のダメージを与える。このターン、そのクリーチャーは再生できない。このターン、そのクリーチャーが墓地に置かれる場合、代わりにそれを追放する。
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Disintegrate/
Power Sink / 魔力消沈 (X)(青)
インスタント
呪文1つを対象とし、それをそれのコントローラーが(X)を支払わない限り、打ち消す。支払わなかった場合、そのプレイヤーは自分がコントロールするマナ能力を持つすべての土地をタップし、自分のマナ・プールを空にする。
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Power+Sink/
しかしこのような遠距離にいる対戦相手への妨害が思惑通りにいかないケースもちらほら見られた。
あるプレイヤーが私に教えてくれたことによれば、彼は2人分離れた距離に入るプレイヤーを排除しようと全てをつぎ込んだらしい。
その理由は相手が《因果応報/Karma》によって彼を真綿で首を絞めるようにじわじわと殺そうとしていたからだが、彼を排除した結果、そのさらに隣にいたプレイヤーが《因果応報/Karma》を2枚出していたという事実が判明しただけだったそうだ。
がっかりだね!
Karma / 因果応報 (2)(白)(白)
エンチャント
各プレイヤーのアップキープの開始時に、因果応報はそのプレイヤーに、そのプレイヤーがコントロールする沼(Swamp)の数に等しい点数のダメージを与える。
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Karma/
私たちはしばしばプレイヤーが彼をアタックしている相手のプレイヤーに回復魔法をかけているのを見かけた。その相手が死んでしまうことでより凶悪な対戦相手が射程範囲内に入ってしまうのを避けるためだ。
あるプレイヤーは赤いクリーチャーの大群を指揮していたが、その左隣のプレイヤーは《赤の防御円/Circle of Protection: Red》を持っていた。防御円を持っているプレイヤーよりも下流にいるプレイヤーたちはそれが壊されないよう細心の注意を払っていた。なぜなら彼らにはその赤い大群に対する適切な守備隊を持っていなかったためだ。
Circle of Protection: Red / 赤の防御円 (1)(白)
エンチャント
(1):このターン、あなたが選んだ赤の発生源1つが次にあなたに与えるすべてのダメージを軽減する。
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Circle+of+Protection%3A+Red/
ゲームも中盤に入った頃に均衡が崩れ始めたのは、あるプレイヤーがドワーフ(註14)を使って、自身の左側にいるプレイヤーたちの騎士たちをアンブロッカブルにしたときだった。
これにはたくさんのプレイヤーたちが犠牲になり、ついに誰かがドワーフどもに《火の玉/Fireball》を撃ち込み墓地送りにしたときは大きな喝采が上がった。
(註14) ドワーフ
以下の《ドワーフ戦士団/Dwarven Warriors》のこと。Dwarven Warriors / ドワーフ戦士団 (2)(赤)
クリーチャー - ドワーフ(Dwarf) 戦士(Warrior)
(T):パワーが2以下のクリーチャー1体を対象とする。このターン、それはブロックされない。
1/1
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Dwarven+Warriors/
カードの効果でコントローラーがかわることはよくあることだ。
ふらふらとテーブルをさまよう《ガズバンのオーガ/Ghazban Ogre》がいた。毎ターンそいつは左右2人のプレイヤーを含めた中で一番ライフが多いプレイヤーの元へ移動していた。
Ghazban Ogre / ガズバンのオーガ (緑)
クリーチャー - オーガ(Ogre)
あなたのアップキープの開始時に、いずれかのプレイヤーが他の各プレイヤーよりも多いライフを持つ場合、その最も多いライフを持つプレイヤーはガズバンのオーガのコントロールを得る。
2/2
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Ghazban+Ogre/
Hoiの《蜂の巣/The Hive》は、《秘宝奪取/Steal Artifact》などの効果のせいでゲーム中に3~4人のプレイヤーのあいだでコントロールが5回も移動した。
The Hive / 蜂の巣 (5)
アーティファクト
(5),(T):《ワスプ/Wasp》という名前の、飛行を持つ無色の1/1の昆虫(Insect)アーティファクト・クリーチャー・トークンを1体戦場に出す。(それは飛行や到達を持たないクリーチャーによってはブロックされない。)
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/The+Hive/
Steal Artifact / 秘宝奪取 (2)(青)(青)
エンチャント - オーラ(Aura)
エンチャント(アーティファクト)
あなたは、エンチャントされているアーティファクトをコントロールする。
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Steal+Enchant/
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ゲームの終盤は非常に見ていて楽しいものだった。その頃には参加者の輪は3~4人にまで縮んでおり、全プレイヤーともに十分な陣営が築かれていたためだ。
各プレイヤーの戦略はすでにテーブルに公開されており、引きの強さよりもデッキデザインの腕とプレイスキルの方がずっと重要になっていた。
それはまるで、多くの敵を打ち負かしつつその敗者たちの屍を越えて自身の軍団を遥かな地まで率いてきた軍司令官たちが、1つの大きな戦乱の果てについに相まみえたのを見ているかのようだった
Melee Magicは今まで見てきた他のどんなフォーマットともまったく違った印象を受けた。
多くの場合、トーナメントの最終盤の戦いは熱気あふれるものだったが、それらはときに片方のプレイヤーが数回の悪い引きを見せることで退屈なものになってしまった。
大乱闘戦/Grand Meleeではもしプレイヤーが土地ばかり引いてしまった場合は早々と退場することになる。しかしあるプレイヤーは土地を1枚も引けなかったにも関わらず10ターンほど生き延びた。
生き延びたプレイヤーたちというのは、傷だらけにそして穴だらけになりながらも、ときに卑屈にときに大胆にふるまい、なおも戦場に踏みとどまった。彼らは全身全霊を尽くしてぶつかりあった。大量の土地を抱えて、大量の兵士を配備した。
試合はあまりに大きすぎ、1人のプレイヤーがその全体を見通すことなど出来なかった。
実際のところ、勝者と敗者の差とは、プレイヤーたちのいる戦場が新たな局面を迎えるたびに、その手の届く限られた範囲の動静をどれだけ早く把握しきることが出来たかどうか、であった。
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大乱闘戦/Grand Meleeを開催してみたいと思った人たちに、いくつかの提案と警告の言葉を送りたい。
おそらく時間制限は必須となるだろう。なぜならプレイヤーたちは状況を把握するのに非常に長い時間を費やしてしまうかもしれないからだ。しかし私たちがRadConで採用した「1ターン、2分」の制限は、戦闘のあとでソーサリーを使おうとしたプレイヤーたちを苦しめた。戦闘がひどく長引いたからだ。
またジャッジの移動と離脱(註15)については両方ともゲーム開始前にきちんと決めておくべき点だ。
(註15) ジャッジの移動と離脱
ターンが移る際のジャッジが隣のプレイヤーの後ろへ「移動」することと、人数が減った際の必要数以上のジャッジが「離脱」すること。
RadConではジャッジの移動をスムーズに行うことはなかなか難しかった。全員がターンを終えたかどうかを確認することが困難だったためだ。私たちの場合、最初は手をあげることでそれを示そうとしたが、途中からはウィザーズのメンバーが作ってくれた旗を用いることにした。そうしてさえ、観戦者の人ごみがジャッジの視認を妨げた。
また各プレイヤーが近くのプレイヤーたち、つまり呪文の届く範囲にいる両サイドの2人ずつ、およびさらにその1つ隣にいるプレイヤーたちを観察できるかどうかも重要だとわかった。
これは、試合を進行させる私たちにとっては資材配置の問題となった。
どういうことかと言うと、試合時間の一部は、プレイヤーにカードを別のテーブルに移してもらうのに費やすこととなったのだ。これは、プレイヤーたちが常に互いを視界内に収めることができるよう、プレイヤーが脱落するごとにテーブルを減らすためだった。
最後に付け加えておくこととしては、もしプレイヤー(そのすぐ右がターンを終えたばかり)のあとを追ってジャッジが抜ける場合、次にジャッジを後ろにつけるプレイヤーは3つ右にいるプレイヤーとなる。これが何を意味するかというとジャッジが最初のプレイヤーに戻るまでにそれぞれが新たなターンを得るということだ。(註16)
(註16) この段落全体について
原文が論理クイズのようになっているので訳が正解かどうか自信がない。
念のため、以下に原文を載せておく。
原文:
Finally, if a judge was dropped after a player to a player’s right finished a turn, then the next judge back would be three players to the right-meaning each of them got another turn before the judge got to the first player.
これによってジャッジが1人抜けるたびに、1人ないし2人のプレイヤーは1ターンを失うということになる。ゲームの終盤、これは重要な点となる。ときにはターンの開始時に悪いニュースが飛び込んでくるということだ。
これらの問題点を加味しても、RadConで開催された大乱闘戦/Grand Meleeは大成功だった。
たくさんの人たちが同じようなイベントを他のコンベンションでも見たいと望んでおり、私もそれを薦めたい。なお、私たちがまたこれを開催することがあれば、事前にギネス記録を確認しておいて記録更新を狙ってもいいかもしれないと思っている。
【翻訳】ガンスリンガーじゃない、スペルスリンガーさ/Spellslinging【Daily MTG】
Tom LaPille
2011年03月04日
元記事:http://www.wizards.com/Magic/Magazine/Article.aspx?x=mtg/daily/ld/132
ウィザーズ社の開発者たちは自身のゲームを皆に楽しくプレイしてもらうために努力している。そのため、私たちは皆マジックのプレイヤーではあるが、君たちがマジックのプレイヤーであることとは少し違うところがある。
何が言いたいかと言うと、私たちはほとんどの時間をどうやったらゲームを最大限に楽しめるかを推し量るために用いているところは同じだが、私たちは「私たちではない皆が楽しめるかについて」を知識と経験に基づいて推し量っているのだ。
どうやったらマジックをもっと面白くできるか、に縛られていない時間の使い道の1つは、大きなマジックの大会(例えばプロツアーやプレリリース)へと足を運び、そこでテーブルに腰を据えてマジックというゲームへの参加者である全員に対し、相手を問わず挑戦状を叩きつけているのだ。これは、古き時代には「ガンスリンガー(銃の名手)」(註1)と呼ばれていた。
最近では、私たちはより正確な名でこれを呼んでいる。
そう「スペルスリンガー(呪文の名人)」とね。
スペルスリンガーは非常に難しい企画である
私たちと対戦する試合を対戦相手にも楽しんでもらいたい、と私たちは思っている。
通常、私たちがスペルスリンガーを行っている際には多くの観戦者がいるため、私たちはその観戦している皆も同じく楽しんでもらえるよう最大限の努力をする。
しかし、それを何時間にも渡って行わなければならないというのがスペルスリンガーの特徴的な点だ。自身がそれを面白いと思っていなければ、良いショーを演じ続けることは非常に難しい。よって私たち自身も楽しめているかどうかというのは非常に重要なことだ。
ありがたいことに、私たちは他の人にも楽しんでもらえるような試合を作ることにはすでになかなかの腕を持っており、自身が観衆であればそれはさらに容易い仕事となる。
今日は、私たちが長時間のスペルスリンガーのセッションのあいだ、自分たちを楽しませ続けるいくつかのテクニックについて、紹介したいと思う。もし君がありふれたマジックに飽きてきているように感じられたなら、これらのテクニックのどれかを試してみてもいいかもしれない。
新しいカードを見せびらかしてみる
私たちがプレリリースで楽しむために最も効果的な手段の1つは、新しいカードをプレイすることだ。
これらのトーナメントに訪れる人々のスタンダードデッキにまだ新しいカードが入っていないことを私たちは知っており、それは不公平なアドバンテージにつながってしまう可能性がある。通常、人々は気にしない。なぜなら彼らは新しいカードが使われるのを見ることに興味津々だからだ。
初日からFFL(註2)で最強だったデッキをこれみよがしに披露することはないが、一般のコミュニティが何らかの理由をつけて、ことさらに嫌うカードがしばしばあることを私たちは知っている。
例えば《激戦の戦域/Contested War Zone》はあまり多くの人々を早い段階で熱狂させるようなことはなかった。これは分からないでもない、なぜならこのカードはかなり変なカードだからだ。しかし私たちはこれが十分に強いことを知っていた。
開発部の同僚であるZak Hillは《激戦の戦域/Contested War Zone》を充填させた赤単カルドーサの再誕デッキをプレリリースに持っていく彼のデッキとして選んだ。報告によるとそのデッキは手軽に楽しめ、新しいカードをプレイしつつも良いショーを上演することができ、かつしばしば無防備な相手を4ターン目キルしたとのことだった。
それ以外で、特定のカードが不必要に数ヶ月も敬遠される例もある。
最近起きた例では《霜のタイタン/Frost Titan》だ。このクリーチャーはコミュニティの人々に間違いなく最も弱いタイタンだと揶揄されていた。私はこの評価を不当なものと感じたため、その後、いつでも機会があれば喜んで人々をタイタンで凍らせていた。
勝利より敗北のほうがつまらないことは確かだが、人々は、同じ敗北なら目新しく予想外の角度から訪れるもののほうが楽しめるものだ、ということを私は発見した。不当に低く評価されているカードをプレイする、というのは皆を楽しませ続ける手段として私たちがとる中でも特に素敵なものだ。
お遊びの要素の入ったデッキを使う
見せびらかせる新しいセットがないときであっても、今まで誰も見たことのないようなデッキをプレイすることは可能だ。
私自身はそういったデッキを作れる職人ではないが、ここにはそういったメンバーがたくさんおり、そんな彼らがスペルスリンガーの卓の近くにいるときには、いつでもすぐに彼らのデッキを借りることにしている。
今年の夏に行われたプロツアー・サンファンで私はいくつかのそういったデッキをプレイすることができた。また、そこでは、常なる発明の才をあふれ殿堂入りもしているアラン・カマーが、スペルスリンガーにゲストとして参加してくれた。
彼は、いとも容易くお遊びの要素の入った最高のデッキを持ち込んできた。それは《引き裂かれし永劫、エムラクール/Emrakul, the Aeons Torn》の入った「青黒《地獄彫りの悪魔》デッキ」だった。
このデッキの目的は、もちろん対戦相手を《地獄彫りの悪魔/Hellcarver Demon》で殴りつけ、手に入れた《引き裂かれし永劫、エムラクール/Emrakul, the Aeons Torn》を唱えて相手を倒すことにある。
それが目的ではあったが、ときどきは、4枚入っている《時間のねじれ/Time Warp》をまず1発撃ってから、次のターンにエムラクールにお出まし頂く、ということもあった。
私が《地獄彫りの悪魔/Hellcarver Demon》を呼び出すのを見た対戦相手は誰も彼もが、一体全体何が起きるんだ、と怪訝な顔を浮かべ、私はそれで攻撃を成功させるたびに、デッキの上から1枚ずつ公開するという最高の瞬間を享受できた。
スペルスリンガーで今までに最も楽しかった出来事の1つだ。
普段のデッキ構築はこのように行われているわけではないが、次にイベントへ行く際には、クレイジーなデッキを作るのが得意な人たちにいくつかデッキの構築をお願いしてみようと画策している。
最善から1歩引いたデッキをプレイする
スペルスリンガーで私たちが最強のデッキをプレイしない、というこの話を君たちにするのは決して論争の種をばらまきたいからではない。私たちにとってそれは現実的な譲歩にすぎないのだ。
Mike Turian、Matt Place、Erik Lauer、Zac Hill、そしてDave Humpherysは、一度はプロツアーのトップ8に上り詰めたことがあるメンバーだ。私自身はそれを成し遂げたことがない。つまり、開発部の中心で1年半過ごしてきたという幸せを、最小限の競技マジックにおける実績で実現させたということだ。
そうではあるが、私は少なくともグランプリのトップ8、グランプリのトップ16、そして5つのプロツアー予選の優勝に名前を刻んだことがある。統計的な話をすれば、私は大多数の人類よりもマジックが強いし、同僚の多くは私より疑いようもないほどに高いマジックのスキルを持っている。
もし私たちが最善のデッキをプレイしたら、スペルスリンガーで相対する平均的なプレイヤーを遥かに上回るアドバンテージとなってしまう。スペルスリンガーの対戦相手がもしデッキの強さの差によるアドバンテージのせいで勝つ見込みがないような場合は、相手も私たちもお互いに楽しめやしないだろう。
同様に私たちが気づいたこととして、ゲームという天秤を水平に保つためにわざと最善手を打たないというプレイングは、私たちのプレイを生で観戦できるという機会を丸ごと台無しにするものであり、私たち自身にとっても満足のいくものではないということだ。
私たちも対戦相手も試合を楽しめるように保ちつつ、かつ皆にとってベストのショーを披露するために私たちは平均的なプレイヤーを蹂躙してしまわない程度にデッキのパワーレベルを弱める調整を行っているのだ。
デッキのパワーレベルを弱める手段の1つとして私たちがとっているのは、トーナメント向けの構築デッキでは通常プレイされないようなカードを無作為に使ってみることだ。
例えば、プロツアーのヴァンパイアデッキにはお目見えしないにも関わらず、あえてヴァンパイアデッキに《血の長の刃/Blade of the Bloodchief》と《蟲惑的な吸血鬼/Captivating Vampire》を入れてみたりする。
これによって私たちのデッキの一貫性は減ずるが、ショーはより面白くなるし、私たちもまた観衆の前でプレイし続けるのを飽きずにすむ。
私の同僚の多くが最善のデッキをプレイしたいという欲求を昇華させている中、私にはどうしてもそれが難しかった。
私は、限りある制約の中で生み出される変数の最大値を求めるという挑戦に喜びを感じるし、それから逸れるということは自身のゲームに対する興味を失うことを意味している。
そんな風に失敗であると分かりきっているデッキをプレイするくらいなら、自身のデッキ構築に追加ルールを設けてその制限下でどれだけ良いものを作れるかどうかと試すほうがずっと楽しいと気づいた。
このアイデアの中でも特に私が好きなルールは、R&DのディレクターであるAaron Forsytheから頂戴したものだ。モーニングタイドが世に出たとき、彼は4枚入っている《目覚ましヒバリ/Reveillark》以外は1枚差ししかないというデッキを作った。
そのデッキには、トーナメントレベルのヒバリデッキに入るような強いカードを除いたありとあらゆる《目覚ましヒバリ/Reveillark》と相性の良いカード(例えば《クローン/Clone》や《マーフォークの物あさり/Merfolk Looter》など)が入っていた。
そのデッキは、対戦相手だけでなく私自身も驚かせてくれるようなカードでいっぱいだったおかげで、見ている人たちだけでなく披露している私にとっても楽しめる素晴らしいショーとなったのだ。
私にとっては昔懐かしいホームグラウンドでもあるオハイオ州コロンブス、そこで開催された基本セット2011のプレリリースへスペルスリンガーのために旅立ったときに持っていたスタンダードのデッキこそが、私がAaron Forsytheから習った方法で初めて組んでみたデッキだった。
私は非常に忙しかったため、デッキ構築に割ける時間はごくわずかだった。そのため私は構築するデッキを1つだけにすることにした。
10時間ぶっ通しで遊んでも飽きないよう、そのデッキは使っていて楽しいものである必要があったので、私はバラエティに富んだデッキが欲しかった。さらには新しいカードをお披露目する必要もあった。
これら全てを満たすために、私は4枚の《戦隊の鷹/Squadron Hawk》と4枚の《獣相のシャーマン/Fauna Shaman》以外は1枚差しという白緑デッキを組んだ。
マナ基盤は少々不安定なものになっていた。
マナ加速と複数の白マナを両方とも非常に必要とするデッキに《貴族の教主/Noble Hierarch》《ラノワールのエルフ/Llanowar Elves》《極楽鳥/Birds of Paradise》《東屋のエルフ/Arbor Elf》がそれぞれ1体ずつしか入っていないとそうなってしまうものだ。
しかしこのデッキを使うのは最高に楽しく、私は25試合をこなしたあとですらまったく飽きがこなかった。
私はこういった感じの縛りで作ったデッキを用意しておくのが好きだ。なぜならこれらのデッキはふらりと立ち寄ったゲームショップで使うときにとても楽しいからだ。
この獣相のシャーマン・デッキはアラーラブロックがローテーションで落ちてしまったことで面白みを減じてしまったが、だからといって次のデッキを作れないということはない。
以下が同じような縛りで作った最近のデッキだ。
これはプロツアー・パリで成功を収めた「Caw-Go(もしくはCaw-Blade)」デッキを彷彿とさせる。しかし1枚差しという制限によって私はその他のデッキの中からも少しずつアイデアを拝借することが出来た。
その一例はPatrick Chapinのプレイしていたテゼレットデッキから拝借してきた《宝物の魔道士/Treasure Mage》と《ワームとぐろエンジン/Wurmcoil Engine》と《精神隷属器/Mindslaver》だ。
こういったデッキを私が好きなのは、デッキ内のプレイされる全てのカードについて最小枚数しか入れていなくても多少の正当性を主張できる、という特別な点なのだと思う。
私たちのオフィスから歩いて5分程度のところにある"カードとコミックのシェーン"という素晴らしいゲームショップへこのデッキを持っていく機会があった。
その晩のフライデーナイトマジックはブースタードラフトだったが、スタンダードデッキを持っている人たちもたくさんいたため、対戦することができた。デッキは確かにハンデをおったものではあったが、それでも連勝記録を授けてくれるだけの強さは十分にあった。
その勝利には《カルドーサの再誕/Kuldotha Rebirth》入りの赤単デッキ相手の2本先取の試合も含まれた。その試合ではサイドボードの《ファイレクシアの再誕/Phyrexian Rebirth》、《コーの火歩き/Kor Firewalker》、《境界線の隊長/Perimeter Captain》、《太陽破の天使/Sunblast Angel》、《天界の粛清/Celestial Purge》そして《悪斬の天使/Baneslayer Angel》が力を合わせてくれたおかげで2ゲーム目と3ゲーム目ととることができた。
今週末のゲームデーで何かユニークなことに挑戦したいと思っているのなら、こんな感じに構築されたデッキを持ちこむことを検討してみてはいかがだろうか。
勝利をお約束することはできないが、デッキの1番上から次々とめくられるサプライズからはたくさんの楽しさを得られること間違いなしだ。自分で作るかわりに私のデッキリストを丸ごとコピーしたからって怒ったりはしない。今週末に「ほとんどハイランダー」なデッキを使った感想を聞くことを楽しみにしているよ。
次のプロツアーは6月に名古屋で行われる。
私たちのうちの何人かはそこで呪文をぶっ放しているはずで、今回は私も名簿に載っているんだ!私と直接会うこれまでにないチャンスだから、もし本気でそうしたいと思っているなら、日本への旅行を計画することをオススメするよ。
もしかしたら君とそこで会うかもしれないね!
Tom LaPille
2011年03月04日
元記事:http://www.wizards.com/Magic/Magazine/Article.aspx?x=mtg/daily/ld/132
ウィザーズ社の開発者たちは自身のゲームを皆に楽しくプレイしてもらうために努力している。そのため、私たちは皆マジックのプレイヤーではあるが、君たちがマジックのプレイヤーであることとは少し違うところがある。
何が言いたいかと言うと、私たちはほとんどの時間をどうやったらゲームを最大限に楽しめるかを推し量るために用いているところは同じだが、私たちは「私たちではない皆が楽しめるかについて」を知識と経験に基づいて推し量っているのだ。
どうやったらマジックをもっと面白くできるか、に縛られていない時間の使い道の1つは、大きなマジックの大会(例えばプロツアーやプレリリース)へと足を運び、そこでテーブルに腰を据えてマジックというゲームへの参加者である全員に対し、相手を問わず挑戦状を叩きつけているのだ。これは、古き時代には「ガンスリンガー(銃の名手)」(註1)と呼ばれていた。
最近では、私たちはより正確な名でこれを呼んでいる。
そう「スペルスリンガー(呪文の名人)」とね。
(註1) ガンスリンガー
1人のプレイヤーが次々と相手を変えて対戦し続けること。有名プレイヤーがいて、その人の前に一般プレイヤーが列を作って、次々と対戦を申し込ませてもらう、というような感じ。場の雰囲気的にはサイン会に似ているかもしれない。
スペルスリンガーは非常に難しい企画である
私たちと対戦する試合を対戦相手にも楽しんでもらいたい、と私たちは思っている。
通常、私たちがスペルスリンガーを行っている際には多くの観戦者がいるため、私たちはその観戦している皆も同じく楽しんでもらえるよう最大限の努力をする。
しかし、それを何時間にも渡って行わなければならないというのがスペルスリンガーの特徴的な点だ。自身がそれを面白いと思っていなければ、良いショーを演じ続けることは非常に難しい。よって私たち自身も楽しめているかどうかというのは非常に重要なことだ。
ありがたいことに、私たちは他の人にも楽しんでもらえるような試合を作ることにはすでになかなかの腕を持っており、自身が観衆であればそれはさらに容易い仕事となる。
今日は、私たちが長時間のスペルスリンガーのセッションのあいだ、自分たちを楽しませ続けるいくつかのテクニックについて、紹介したいと思う。もし君がありふれたマジックに飽きてきているように感じられたなら、これらのテクニックのどれかを試してみてもいいかもしれない。
新しいカードを見せびらかしてみる
私たちがプレリリースで楽しむために最も効果的な手段の1つは、新しいカードをプレイすることだ。
これらのトーナメントに訪れる人々のスタンダードデッキにまだ新しいカードが入っていないことを私たちは知っており、それは不公平なアドバンテージにつながってしまう可能性がある。通常、人々は気にしない。なぜなら彼らは新しいカードが使われるのを見ることに興味津々だからだ。
初日からFFL(註2)で最強だったデッキをこれみよがしに披露することはないが、一般のコミュニティが何らかの理由をつけて、ことさらに嫌うカードがしばしばあることを私たちは知っている。
(註2) FFL
Future Future Leagueの略。発売前にその新セットのカードを使ったデッキを開発部内で戦わせてバランスを確認するリーグ。
例えば《激戦の戦域/Contested War Zone》はあまり多くの人々を早い段階で熱狂させるようなことはなかった。これは分からないでもない、なぜならこのカードはかなり変なカードだからだ。しかし私たちはこれが十分に強いことを知っていた。
開発部の同僚であるZak Hillは《激戦の戦域/Contested War Zone》を充填させた赤単カルドーサの再誕デッキをプレリリースに持っていく彼のデッキとして選んだ。報告によるとそのデッキは手軽に楽しめ、新しいカードをプレイしつつも良いショーを上演することができ、かつしばしば無防備な相手を4ターン目キルしたとのことだった。
それ以外で、特定のカードが不必要に数ヶ月も敬遠される例もある。
最近起きた例では《霜のタイタン/Frost Titan》だ。このクリーチャーはコミュニティの人々に間違いなく最も弱いタイタンだと揶揄されていた。私はこの評価を不当なものと感じたため、その後、いつでも機会があれば喜んで人々をタイタンで凍らせていた。
勝利より敗北のほうがつまらないことは確かだが、人々は、同じ敗北なら目新しく予想外の角度から訪れるもののほうが楽しめるものだ、ということを私は発見した。不当に低く評価されているカードをプレイする、というのは皆を楽しませ続ける手段として私たちがとる中でも特に素敵なものだ。
お遊びの要素の入ったデッキを使う
見せびらかせる新しいセットがないときであっても、今まで誰も見たことのないようなデッキをプレイすることは可能だ。
私自身はそういったデッキを作れる職人ではないが、ここにはそういったメンバーがたくさんおり、そんな彼らがスペルスリンガーの卓の近くにいるときには、いつでもすぐに彼らのデッキを借りることにしている。
今年の夏に行われたプロツアー・サンファンで私はいくつかのそういったデッキをプレイすることができた。また、そこでは、常なる発明の才をあふれ殿堂入りもしているアラン・カマーが、スペルスリンガーにゲストとして参加してくれた。
彼は、いとも容易くお遊びの要素の入った最高のデッキを持ち込んできた。それは《引き裂かれし永劫、エムラクール/Emrakul, the Aeons Torn》の入った「青黒《地獄彫りの悪魔》デッキ」だった。
Hellcarver Demon / 地獄彫りの悪魔 (3)(黒)(黒)(黒)
クリーチャー - デーモン(Demon)
飛行
地獄彫りの悪魔がいずれかのプレイヤーに戦闘ダメージを与えるたび、あなたがコントロールする他のすべてのパーマネントを生け贄に捧げ、あなたの手札を捨てる。あなたのライブラリーの一番上から6枚のカードを追放する。あなたはこれにより追放された土地でないカードを、望む枚数だけそれらのマナ・コストを支払うことなく唱えてもよい。
6/6
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Hellcarver+Demon/
このデッキの目的は、もちろん対戦相手を《地獄彫りの悪魔/Hellcarver Demon》で殴りつけ、手に入れた《引き裂かれし永劫、エムラクール/Emrakul, the Aeons Torn》を唱えて相手を倒すことにある。
それが目的ではあったが、ときどきは、4枚入っている《時間のねじれ/Time Warp》をまず1発撃ってから、次のターンにエムラクールにお出まし頂く、ということもあった。
私が《地獄彫りの悪魔/Hellcarver Demon》を呼び出すのを見た対戦相手は誰も彼もが、一体全体何が起きるんだ、と怪訝な顔を浮かべ、私はそれで攻撃を成功させるたびに、デッキの上から1枚ずつ公開するという最高の瞬間を享受できた。
スペルスリンガーで今までに最も楽しかった出来事の1つだ。
普段のデッキ構築はこのように行われているわけではないが、次にイベントへ行く際には、クレイジーなデッキを作るのが得意な人たちにいくつかデッキの構築をお願いしてみようと画策している。
最善から1歩引いたデッキをプレイする
スペルスリンガーで私たちが最強のデッキをプレイしない、というこの話を君たちにするのは決して論争の種をばらまきたいからではない。私たちにとってそれは現実的な譲歩にすぎないのだ。
Mike Turian、Matt Place、Erik Lauer、Zac Hill、そしてDave Humpherysは、一度はプロツアーのトップ8に上り詰めたことがあるメンバーだ。私自身はそれを成し遂げたことがない。つまり、開発部の中心で1年半過ごしてきたという幸せを、最小限の競技マジックにおける実績で実現させたということだ。
そうではあるが、私は少なくともグランプリのトップ8、グランプリのトップ16、そして5つのプロツアー予選の優勝に名前を刻んだことがある。統計的な話をすれば、私は大多数の人類よりもマジックが強いし、同僚の多くは私より疑いようもないほどに高いマジックのスキルを持っている。
もし私たちが最善のデッキをプレイしたら、スペルスリンガーで相対する平均的なプレイヤーを遥かに上回るアドバンテージとなってしまう。スペルスリンガーの対戦相手がもしデッキの強さの差によるアドバンテージのせいで勝つ見込みがないような場合は、相手も私たちもお互いに楽しめやしないだろう。
同様に私たちが気づいたこととして、ゲームという天秤を水平に保つためにわざと最善手を打たないというプレイングは、私たちのプレイを生で観戦できるという機会を丸ごと台無しにするものであり、私たち自身にとっても満足のいくものではないということだ。
私たちも対戦相手も試合を楽しめるように保ちつつ、かつ皆にとってベストのショーを披露するために私たちは平均的なプレイヤーを蹂躙してしまわない程度にデッキのパワーレベルを弱める調整を行っているのだ。
デッキのパワーレベルを弱める手段の1つとして私たちがとっているのは、トーナメント向けの構築デッキでは通常プレイされないようなカードを無作為に使ってみることだ。
例えば、プロツアーのヴァンパイアデッキにはお目見えしないにも関わらず、あえてヴァンパイアデッキに《血の長の刃/Blade of the Bloodchief》と《蟲惑的な吸血鬼/Captivating Vampire》を入れてみたりする。
これによって私たちのデッキの一貫性は減ずるが、ショーはより面白くなるし、私たちもまた観衆の前でプレイし続けるのを飽きずにすむ。
Blade of the Bloodchief / 血の長の刃 (1)
アーティファクト - 装備品(Equipment)
いずれかのクリーチャーが戦場からいずれかの墓地に置かれるたび、装備しているクリーチャーの上に+1/+1カウンターを1個置く。装備しているクリーチャーが吸血鬼(Vampire)である場合、代わりにそれの上に+1/+1カウンターを2個置く。
装備(1)
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Blade+of+the+Bloodchief/
Captivating Vampire / 蟲惑的な吸血鬼 (1)(黒)(黒)
クリーチャー - 吸血鬼(Vampire)
あなたがコントロールする他の吸血鬼(Vampire)クリーチャーは+1/+1の修整を受ける。
あなたがコントロールするアンタップ状態の吸血鬼を5体タップする:クリーチャー1体を対象とし、それのコントロールを得る。それはそれの他のタイプに加えて吸血鬼になる。
2/2
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Captivating+Vampire/
私の同僚の多くが最善のデッキをプレイしたいという欲求を昇華させている中、私にはどうしてもそれが難しかった。
私は、限りある制約の中で生み出される変数の最大値を求めるという挑戦に喜びを感じるし、それから逸れるということは自身のゲームに対する興味を失うことを意味している。
そんな風に失敗であると分かりきっているデッキをプレイするくらいなら、自身のデッキ構築に追加ルールを設けてその制限下でどれだけ良いものを作れるかどうかと試すほうがずっと楽しいと気づいた。
このアイデアの中でも特に私が好きなルールは、R&DのディレクターであるAaron Forsytheから頂戴したものだ。モーニングタイドが世に出たとき、彼は4枚入っている《目覚ましヒバリ/Reveillark》以外は1枚差ししかないというデッキを作った。
Reveillark / 目覚ましヒバリ (4)(白)
クリーチャー - エレメンタル(Elemental)
飛行
目覚ましヒバリが戦場を離れたとき、あなたの墓地にあるパワーが2以下のクリーチャー・カードを最大2枚まで対象とし、それらを戦場に戻す。
想起(5)(白)(あなたはこの呪文を、その想起コストを支払うことで唱えてもよい。そうした場合、戦場に出たときにこれを生け贄に捧げる。)
4/3
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Reveillark/
そのデッキには、トーナメントレベルのヒバリデッキに入るような強いカードを除いたありとあらゆる《目覚ましヒバリ/Reveillark》と相性の良いカード(例えば《クローン/Clone》や《マーフォークの物あさり/Merfolk Looter》など)が入っていた。
そのデッキは、対戦相手だけでなく私自身も驚かせてくれるようなカードでいっぱいだったおかげで、見ている人たちだけでなく披露している私にとっても楽しめる素晴らしいショーとなったのだ。
私にとっては昔懐かしいホームグラウンドでもあるオハイオ州コロンブス、そこで開催された基本セット2011のプレリリースへスペルスリンガーのために旅立ったときに持っていたスタンダードのデッキこそが、私がAaron Forsytheから習った方法で初めて組んでみたデッキだった。
私は非常に忙しかったため、デッキ構築に割ける時間はごくわずかだった。そのため私は構築するデッキを1つだけにすることにした。
10時間ぶっ通しで遊んでも飽きないよう、そのデッキは使っていて楽しいものである必要があったので、私はバラエティに富んだデッキが欲しかった。さらには新しいカードをお披露目する必要もあった。
これら全てを満たすために、私は4枚の《戦隊の鷹/Squadron Hawk》と4枚の《獣相のシャーマン/Fauna Shaman》以外は1枚差しという白緑デッキを組んだ。
Squadron Hawk / 戦隊の鷹 (1)(白)
クリーチャー - 鳥(Bird)
飛行
戦隊の鷹が戦場に出たとき、あなたはあなたのライブラリーから《戦隊の鷹/Sqadron Hawk》という名前のカードを最大3枚まで探し、それらを公開してあなたの手札に加えてもよい。その後、あなたのライブラリーを切り直す。
1/1
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Squadron+Hawk/
Fauna Shaman / 獣相のシャーマン (1)(緑)
クリーチャー - エルフ(Elf) シャーマン(Shaman)
(緑),(T),クリーチャー・カードを1枚捨てる:あなたのライブラリーからクリーチャー・カードを1枚探し、それを公開し、それをあなたの手札に加える。その後、あなたのライブラリーを切り直す。
2/2
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Fauna+Shaman/
マナ基盤は少々不安定なものになっていた。
マナ加速と複数の白マナを両方とも非常に必要とするデッキに《貴族の教主/Noble Hierarch》《ラノワールのエルフ/Llanowar Elves》《極楽鳥/Birds of Paradise》《東屋のエルフ/Arbor Elf》がそれぞれ1体ずつしか入っていないとそうなってしまうものだ。
しかしこのデッキを使うのは最高に楽しく、私は25試合をこなしたあとですらまったく飽きがこなかった。
私はこういった感じの縛りで作ったデッキを用意しておくのが好きだ。なぜならこれらのデッキはふらりと立ち寄ったゲームショップで使うときにとても楽しいからだ。
この獣相のシャーマン・デッキはアラーラブロックがローテーションで落ちてしまったことで面白みを減じてしまったが、だからといって次のデッキを作れないということはない。
以下が同じような縛りで作った最近のデッキだ。
ハイランダー的な戦隊の鷹デッキ/Nearly Singleton Squadron Hawk
メインデッキ
土地
1 《乾燥台地/Arid Mesa》
1 《天界の列柱/Celestial Colonnade》
1 《戦慄の彫像/Dread Statuary》
1 《進化する未開地/Evolving Wilds》
1 《氷河の城砦/Glacial Fortress》
1 《ハリマーの深み/Halimar Depths》
7 《島/Island》
1 《カビーラの交差路/Kabira Crossroads》
1 《湿地の干潟/Marsh Flats》
1 《霧深い雨林/Misty Rainforest》
6 《平地/Plains》
1 《沸騰する小湖/Scalding Tarn》
1 《金属海の沿岸/Seachrome Coast》
1 《セジーリの隠れ家/Sejiri Refuge》
1 《地盤の際/Tectonic Edge》
1 《広漠なる変幻地/Terramorphic Expanse》
------------------------------------------------------------------
計 27枚
クリーチャー
1 《霜のタイタン/Frost Titan》
1 《海門の神官/Sea Gate Oracle》
4 《戦隊の鷹/Squadron Hawk》
1 《石鍛冶の神秘家/Stoneforge Mystic》
1 《太陽のタイタン/Sun Titan》
1 《宝物の魔道士/Treasure Mage》
1 《前兆の壁/Wall of Omens》
1 《ワームとぐろエンジン/Wurmcoil Engine》
------------------------------------------------------------------
計 11枚
その他の呪文
1 《取り消し/Cancel》
1 《糾弾/Condemn》
1 《審判の日/Day of Judgment》
1 《剥奪/Deprive》
1 《遍歴の騎士、エルズペス/Elspeth, Knight-Errant》
1 《永遠溢れの杯/Everflowing Chalice》
1 《ギデオン・ジュラ/Gideon Jura》
1 《ジェイス・ベレレン/Jace Beleren》
1 《精神を刻む者、ジェイス/Jace, the Mind Sculptor》
1 《未達への旅/Journey to Nowhere》
1 《マナ漏出/Mana Leak》
1 《精神隷属器/Mindslaver》
1 《否認/Negate》
1 《失脚/Oust》
1 《定業/Preordain》
1 《漸増爆弾/Ratchet Bomb》
1 《呪文貫き/Spell Pierce》
1 《太陽の宝球/Sphere of the Suns》
1 《広がりゆく海/Spreading Seas
1 《冷静な反論/Stoic Rebuttal》
1 《肉体と精神の剣/Sword of Body and Mind》
1 《饗宴と飢餓の剣/Sword of Feast and Famine》
------------------------------------------------------------------
計 22枚
サイドボード
1 《悪斬の天使/Baneslayer Angel》
1 《天界の粛清/Celestial Purge》
1 《真心の光を放つ者/Devout Lightcaster》
1 《神への捧げ物/Divine Offering》
1 《瞬間凍結/Flashfreeze》
1 《乱動への突入/Into the Roil》
1 《コーの火歩き/Kor Firewalker》
1 《コーの奉納者/Kor Sanctifiers》
1 《レオニンの裁き人/Leonin Arbiter》
1 《精神壊しの罠/Mindbreak Trap》
1 《境界線の隊長/Perimeter Captain》
1 《ファイレクシアの再誕/Phyrexian Rebirth》
1 《真面目な捧げ物/Solemn Offering》
1 《太陽破の天使/Sunblast Angel》
1 《シルヴォクの生命杖/Sylvok Lifestaff》
------------------------------------------------------------------
計 15枚
これはプロツアー・パリで成功を収めた「Caw-Go(もしくはCaw-Blade)」デッキを彷彿とさせる。しかし1枚差しという制限によって私はその他のデッキの中からも少しずつアイデアを拝借することが出来た。
その一例はPatrick Chapinのプレイしていたテゼレットデッキから拝借してきた《宝物の魔道士/Treasure Mage》と《ワームとぐろエンジン/Wurmcoil Engine》と《精神隷属器/Mindslaver》だ。
こういったデッキを私が好きなのは、デッキ内のプレイされる全てのカードについて最小枚数しか入れていなくても多少の正当性を主張できる、という特別な点なのだと思う。
私たちのオフィスから歩いて5分程度のところにある"カードとコミックのシェーン"という素晴らしいゲームショップへこのデッキを持っていく機会があった。
その晩のフライデーナイトマジックはブースタードラフトだったが、スタンダードデッキを持っている人たちもたくさんいたため、対戦することができた。デッキは確かにハンデをおったものではあったが、それでも連勝記録を授けてくれるだけの強さは十分にあった。
その勝利には《カルドーサの再誕/Kuldotha Rebirth》入りの赤単デッキ相手の2本先取の試合も含まれた。その試合ではサイドボードの《ファイレクシアの再誕/Phyrexian Rebirth》、《コーの火歩き/Kor Firewalker》、《境界線の隊長/Perimeter Captain》、《太陽破の天使/Sunblast Angel》、《天界の粛清/Celestial Purge》そして《悪斬の天使/Baneslayer Angel》が力を合わせてくれたおかげで2ゲーム目と3ゲーム目ととることができた。
今週末のゲームデーで何かユニークなことに挑戦したいと思っているのなら、こんな感じに構築されたデッキを持ちこむことを検討してみてはいかがだろうか。
勝利をお約束することはできないが、デッキの1番上から次々とめくられるサプライズからはたくさんの楽しさを得られること間違いなしだ。自分で作るかわりに私のデッキリストを丸ごとコピーしたからって怒ったりはしない。今週末に「ほとんどハイランダー」なデッキを使った感想を聞くことを楽しみにしているよ。
次のプロツアーは6月に名古屋で行われる。
私たちのうちの何人かはそこで呪文をぶっ放しているはずで、今回は私も名簿に載っているんだ!私と直接会うこれまでにないチャンスだから、もし本気でそうしたいと思っているなら、日本への旅行を計画することをオススメするよ。
もしかしたら君とそこで会うかもしれないね!
(註) ハイランダー
文中に何度か出て来た「ハイランダー」というのは、基本地形以外のカードは全て1枚制限としてデッキを組むこと。俗に言う「縛り」の一種。統率者戦/Commander(通称、EDH)のフォーマットもこの縛りがある。
【翻訳】ヴァンパイアに聞いてみよう!/Interview With Some Vampires【Daily MTG】
Mark Rosewater
2006年02月13日
元記事:http://www.wizards.com/Magic/Magazine/Article.aspx?x=mtgcom/daily/mr215
ヴァンパイア週間へようこそ!
……はいはい、君たちの大半が「え、ヴァンパイア週間だって?」と言っているのは間違いないだろう(少なくとも、私の次週に向けて書いているちょっとした予告文(註1)を読む気があって、かつそこで私が何を言ったかを覚えているだけの余裕がある人はね)。
ヴァンパイア週間の何が「黒くて白い」んだ、って?(註2)
その答は……うーん……ほら、私はこれからオデッセイの《悔悟せる吸血鬼/Repentant Vampire》について詳細な考察をするところだったんだよ。このカードは黒と白であるという特徴を備えているからね(同時にではないけれど)。
あー、分かった、分かった。これはバレバレの嘘だった。
私は……うーん、私はこう考えていたんだ、今週はオルゾフ週間だったな、って。なぜかって? 自分でも分からない。スコットは来るテーマ週間の予定表を送ってくれていた。そして私は、そうすべきだったにも関わらず、それをきちんと確認しなかったんだ。
分かると思うが、私は自分の記事を自宅で書いているので、仕事のメールを見ることが出来ないんだ。そのため、予告文を書いているとき、私はただ前に読んだ記憶を思い起こしているにすぎない。その記憶に頼った情報は、予定のリストを今確認したところ、まったく違うものだった。
今しばらくのあいだ、オルゾフ週間を見ることはないだろう。あー、私たちはそれをしないわけではない、しかしイゼット週間と他のいくつかの後だ、例えばヴァンパイア週間とかね。
それが私が今日書いている奴だ。
分かってくれたかな? それでは始めようか。
浜の真砂は尽きるとも、世に吸血鬼の種は尽きまじ
今週はヴァンパイア週間で、かつ「メイキング・マジック(Making Magic)」(註3)はデザインに関するコラムなのだから、ヴァンパイア・カードのデザインについて語るのが唯一自然なことと思われる。
しかしこれについて通常のR&D(註4)の視点から語るのではなく、かわりにこの話題を一部のヴァンパイアたち自身によって議論させたらもっと興味深いものになるのではないか、と私は思った。
そのようなわけで、私はマジックで名の知られたヴァンパイアたちによる円卓会議を招集し、彼らにヴァンパイアとマジックについて深く考えてもらう機会を提供した(それらに加えて、彼らのあいだで交わされた会話から自然と発生したいくつかの議題についてもね)。
集まったのはマジックのアンデッド界における有名人たちだ(註5)。
アルファからは元祖ヴァンパイアである《センギアの吸血鬼/Sengir Vampire》。
次に初期のヴァンパイアにおける象徴的な存在の1人、《センギア男爵/Baron Sengir》。
参加してくれたヴァンパイアの3人目であり、ジャムーラからやって来た背筋の凍るような人血の啜り手(すすりて)である《終末を招く者ショークー/Shauku, Endbringer》。
彼らに加わるは、元祖ウェザーライト号の乗組員の1人にして、のちにその乗組員たちの大敵となった《呪われたクロウヴァクス/Crovax the Cursed》。
さらに、存在するヴァンパイアの中では唯一の黒でない(ときもある)風変わりな奴、《悔悟せる吸血鬼/Repentant Vampire》もいる。
最後は、このゲームで最も新しいヴァンパイアの1人である《秘密の王、ザデック/Szadek, Lord of Secrets》だ。
レポーター (マーク):
皆様、ようこそおいでくださいました。まず初めに、ヴァンパイアのデザインについて話すためにお時間を割いて頂いたことを感謝いたします。また私の命を召し上がらないようお願いいたします。
《センギア男爵/Baron Sengir》:
我輩たちはマナーをわきまえておる。
夜に属す血族の中でヴァンパイアが他と一線を画す点がそれだ。
《終末を招く者ショークー/Shauku, Endbringer》:
ああ、もちろんじゃ、ただわらわの中で、レポーターを食してしまうことがエチケットに反するかどうかについてはいまいち自信がないんじゃがの。
《呪われたクロウヴァクス/Crovax the Cursed》:
どこに所属してるレポーターかによると私は思うがね。Newsweekとかであれば手をつけないほうがいいかもしれん。だが、Weekly World Newsならどうだ?(註7) あいつらなら、私はポップコーンと同じように食らえる。Bat Boy(註8)の記事にはもううんざりだ。
《センギアの吸血鬼/Sengir Vampire》:
それであんたはどこから来たんだっけ、もう一度教えてくれよ。
《秘密の王、ザデック/Szadek, Lord of Secrets》:
Magicthegathering.comからだ。ウィザーズのホームページだな。彼を食しても我々の目的の助けにはなるまいて。
レポーター (マーク):
あ、はい、ありがとうございます。ところで目的とは?
《秘密の王、ザデック/Szadek, Lord of Secrets》:
マジックのカードにヴァンパイアを増やすことだ。PRは十分だが、我々が期待するほどの数がいるわけではない。
《悔悟せる吸血鬼/Repentant Vampire》:
まったくだぜ、13年も経ってるつうのに俺たちの元にいるんは16体のヴァンパイア。一体全体、こりゃなんだってんだい?
《秘密の王、ザデック/Szadek, Lord of Secrets》:
おぬしの言う16体は、クリーチャータイプがヴァンパイアのものだけだな。
マジックには他にも明らかにヴァンパイアに共通する特徴を備えているクリーチャーが大勢いる。
《センギア男爵/Baron Sengir》:
黒であること、大型の飛行であること、センギアの能力(註9)を持ちつつセンギアの名を冠しておること、そしてそれ相応の見た目(註10)をしておること。
これだけそろっておれば「吸血鬼として扱う」のテキストやそこらを授けてやることに異存は無い。
《悔悟せる吸血鬼/Repentant Vampire》:
じいちゃん、細かいこと気にすんじゃねえよ。大事なんはオフィシャルな吸血鬼が16体、ってことさ。年当たりで考えたら約1.1体じゃねえか。こりゃひでえよ!
《秘密の王、ザデック/Szadek, Lord of Secrets》:
実際は18体だ。おぬしは《霧衣の究極体/Mistform Ultimus》(註11)を忘れている。
《悔悟せる吸血鬼/Repentant Vampire》:
あんにゃろう、ぶっ殺してやる。いつもいつも小ネタを台無しにするってだけで理由としちゃ十分だ!
レポーター (マーク):
話が本題から少々それてしまっているように思います。本日集まって頂いたのはヴァンパイアのデザインについて話すためです。誰から始めますか?
《センギアの吸血鬼/Sengir Vampire》:
まあ、始めるなら俺からが妥当だろうな。何から話そうか。
よし「ヴァンパイアの持つメカニズム」にしよう。何が言いたいかっていうと、R&Dが何を持ってしてそのカードをヴァンパイアとみなすのか、ってことさ。
《呪われたクロウヴァクス/Crovax the Cursed》:
ふむ、まずは飛んでいないとな。
なぜなら、当たり前だが、全てのヴァンパイアは飛んでいるからだ。
《秘密の王、ザデック/Szadek, Lord of Secrets》:
《Krovikan Vampire》を例外とすればな。ああ、それともちろん《霧衣の究極体/Mistform Ultimus》もだ。付け加えるなら、おぬしは単に《ジャンプ/Jump》しているだけだ(註12)。
《呪われたクロウヴァクス/Crovax the Cursed》:
そうやって人が話している最中にいちいち知識をひけらかすような真似をやめられんというのに、貴様がなぜに《秘密の王》を名乗ることができているのか、私には理解できんな。
《秘密の王、ザデック/Szadek, Lord of Secrets》:
最も重要なことは口に出さぬからだ。
《呪われたクロウヴァクス/Crovax the Cursed》:
では黙っていればよいのでは?
《秘密の王、ザデック/Szadek, Lord of Secrets》:
私がただ指摘したかったのは、伝承などで伝えられるところでは皮肉なことに、大半のヴァンパイアやそれに類するクリーチャーは飛んでいない、ということだ。
《センギアの吸血鬼/Sengir Vampire》:
いや、飛んでるかどうかは俺だって気にしてないんだ。
それについては俺も分かる気がする。
もっと飲み込めない部分があるのさ。ヴァンパイアとしてふさわしいかどうかについて、R&Dはそのクリーチャーが何らかの「摂取する」能力を持っていなきゃいけないって考えてるんだ。
例えばさ、ヴァンパイアの典型的能力みたいに扱われてる俺の能力を考えてみてくれよ。意味合いとしては、誰かを殺すことで俺はより強くなる、ってところだ。実際、響きはとてもいい、だけど……
《センギア男爵/Baron Sengir》:
お前が何かを殺せたことなどただの一度もありはせん。
あると言うなら我輩の前で言ってみるがいい。
《悔悟せる吸血鬼/Repentant Vampire》:
俺も、その場にいたはずだけどな(註13)。
《センギアの吸血鬼/Sengir Vampire》:
勘違いしないでくださいよ、俺は4/4で飛行なことに不満はないんです。ただ何かを食えたことなんてただの一度もないんですよ! 飢えてしにそうだ!
《呪われたクロウヴァクス/Crovax the Cursed》:
仲間を喰らうほうが魅力的に思えてしまうのはそのせいだな。
他のプレイヤーを操ることは無理な話だが、自身の側にいる魔法使いの目をのぞきこみ「私に餌を与えよ。さすれば貴様の思い描く相手に思い知らせてくれようぞ」とささやけば、求めるものが手に入るという寸法だ。
《終末を招く者ショークー/Shauku, Endbringer》:
そうは言うても、餌を与えてくれぬ場合があるじゃろうて。怨敵が手ごろなブロッカーを用意してしもうて、次の瞬間、おぬしは絶食させられることになるのじゃ。
わらわの策が最も良いと思うがの。ただ欲しい物を見つめ、そしてそれを食すのじゃ。
生きるにはそれしかあるまいて。
《呪われたクロウヴァクス/Crovax the Cursed》:
私は自身のデザインに対し、それなりに喜びを感じている。ヴァンパイアであること、というフレイバーをつかむという意味で、実にもっともよいデザインだろう。
喰らうことで強くなる。
喰らえないことで力を失う。
私たちが血を求めるのは楽しみのためではないのだ。
いや、勘違いしないで欲しいのは、血をすすること自体は心弾む所業だ。しかしその摂取はあくまで生存のためではないか。センギアの能力はこの根源たる点をついていないと私は思うのだ。
《秘密の王、ザデック/Szadek, Lord of Secrets》:
同じく、私も自身のフレイバーに満足しておる。
そのとおり、私が摂取するのは血液よりも思考ではあるが、そこには似通った形の欲求があると思っておる。
《呪われたクロウヴァクス/Crovax the Cursed》:
だが貴様は力を失うことがないではないか。私はその点を重要視している。
レポーター (マーク):
つまりあなたは永遠の飢えの表現については、力を失うことと紐づけてデザインされるべきだと感じているわけですね?
《呪われたクロウヴァクス/Crovax the Cursed》:
そのとおりだ。
《終末を招く者ショークー/Shauku, Endbringer》:
落ち着くのじゃ、クロウヴァクス。
わらわと同じく、おぬしもそれについては本当の問題には気づいておるのじゃろう。
皆も気づいておるわ。
レポーター (マーク):
問題とは?
《センギア男爵/Baron Sengir》:
デーモンだ。
レポーター (マーク):
なんとおっしゃいましたか?
《センギア男爵/Baron Sengir》:
黒のレアは、その一部をレアの飛行持ちにて象徴されておる。
《センギアの吸血鬼/Sengir Vampire》:
おじいさん、分かるようにお願いします。
《センギア男爵/Baron Sengir》:
これについてもっとも分かりやすい説明は、そうだな、R&Dが飛行持ちのファッティを白に作ったとしようではないか。それはなんだ?
天使だ。
では、もしかわりにそのクリーチャーの色が赤かったとすれば?
そのとおり、それはドラゴンだ。
今度はそのカードが黒だったとしてみよう。何が起きるだろうか?
それは吸血鬼だ……もしくはデーモンだ!
黒のレアには飛行持ちのファッティを象徴するクリーチャーが2種類いるのだ。
《終末を招く者ショークー/Shauku, Endbringer》:
それだけではなく、きゃつら相手は公平なる戦いとは言いかねるからのう……デーモンの数はわらわたちを上回っておる。
《秘密の王、ザデック/Szadek, Lord of Secrets》:
24体のデーモンか。アングルードやアンヒンジドも数えるなら26体だ。さらに言うなれば27体だな、もし《霧衣の究極体/Mistform Ultimus》を含めてやる優しさがあるのなら。
《悔悟せる吸血鬼/Repentant Vampire》:
とっととあいつを食っちまうべきだ。
《終末を招く者ショークー/Shauku, Endbringer》:
ウィザーズ社はここ数年の間、きゃつらを新たに作っておらんというに!
《センギア男爵/Baron Sengir》:
事実の積み重ねだ。
まず我輩の呼ぶところの「デメリット能力」という選択肢をデーモンは持っておる。それによって奴らはそのサイズに対して少ないマナコストで済んでいるがデメリットを持つ。何にせよ、デメリットとはデザインの中心ではなく外付けのものだ。
ヴァンパイアは「摂取」というフレイバー、さらに飛行も持つことを義務付けられておるため、常に高コストとならざるを得ない。この中にマジックの歴史でもっともコストの安いヴァンパイアが何だったか答えられるものはおるかな。
どうだ、ザデック?
《秘密の王、ザデック/Szadek, Lord of Secrets》:
4マナだ(註14)。《吸血コウモリ/Vampire Bats》と《吸血犬/Vampire Hounds》は3マナだが、いずれもヴァンパイアではない。
《センギア男爵/Baron Sengir》:
4マナとは!
《秘密の王、ザデック/Szadek, Lord of Secrets》:
ちなみにもっともコストの安いデーモンも同じく4マナ(註15)だ。
《呪われたクロウヴァクス/Crovax the Cursed》:
だがデーモンどもは、7/7、8/8、もしくは9/9であってもおかしくない。
私たちの中で最大は男爵だが、それでも5/5だ。
《センギア男爵/Baron Sengir》:
それは我輩たちが能力的に成長する余地を残しておるためだ。9/9に+1/+1カウンターが乗ることにどれほどのことがあろう。そう、我輩たちは己の能力定義、それ自身に苦しめられておるのだよ。
レポーター (マーク):
あなたの示唆するところは、R&Dはヴァンパイアのデザインについて路線変更を行うべきだ、ということですか?
《センギア男爵/Baron Sengir》:
違う。
《悔悟せる吸血鬼/Repentant Vampire》:
いや、そうだって! 変えてくれよ! 大体からして理由が……あっ……あああッ!? すまん、みんな! アレが始まりやがった!
レポーター (マーク):
何が始まったんですか?
《センギアの吸血鬼/Sengir Vampire》:
急げ! 奴を取り押さえろ!
《終末を招く者ショークー/Shauku, Endbringer》:
足をつかむのじゃ!
レポーター (マーク):
何がどうしたんですか?
《センギア男爵/Baron Sengir》:
おぬし、ロープを持ってこい!
レポーター (マーク):
あの……
《センギアの吸血鬼/Sengir Vampire》:
やばい、変わるぞ!
《悔悟せる吸血鬼/Repentant Vampire》:
ああ、なんということでしょう……裏返ってしまいました(註16)。
私が何かしたからでしょうか? 何をしてしまったのでしょうか? まさか誰かの命を奪ってしまったのではないといいのですが!
《センギアの吸血鬼/Sengir Vampire》:
《悔悟せる吸血鬼/Repentant Vampire》の悪い癖だ……たまに正義の味方になっちまうんだ。
《終末を招く者ショークー/Shauku, Endbringer》:
それによってきゃつはここにいる皆を滅することを望むようになるのじゃ。
レポーター (マーク):
これはどのようにして起きるのですか?
《センギアの吸血鬼/Sengir Vampire》:
誰にも分からないんだ。
《秘密の王、ザデック/Szadek, Lord of Secrets》:
噂によるとジプシーの呪いだとか。
《センギア男爵/Baron Sengir》:
そのようなことはどうでもよいわ。墓地をあふれかえらせたのは誰だ!?
《センギアの吸血鬼/Sengir Vampire》:
ショークーじゃね?
《終末を招く者ショークー/Shauku, Endbringer》:
昨晩の《エイトグ/Atog》以来、何も食しておらぬわ。
《センギア男爵/Baron Sengir》:
ではどいつだ! クロウヴァクスか!?
《呪われたクロウヴァクス/Crovax the Cursed》:
わ、私は腹が減ってたんだ。
そのままでは力を失ってしまうことになると言っているだろうが!
《センギア男爵/Baron Sengir》:
おぬし、6体の時点で我慢できんかったのか!?
《呪われたクロウヴァクス/Crovax the Cursed》:
なんだと、貴様の指図は受けんわ!
伊達や酔狂で、満たされること無き飢え、などと呼ばれているわけでないのだ。
大体からしてゴブリンを1匹で我慢できるわけがなかろう。
《終末を招く者ショークー/Shauku, Endbringer》:
その気持ち分かるぞよ、我が血族。
《悔悟せる吸血鬼/Repentant Vampire》:
あなたが命を奪ったと知った以上、私はあなたの命でそれを償って頂く以外、しようがありません。
《呪われたクロウヴァクス/Crovax the Cursed》:
その全身を縛られた状態で何かできるものならやってみるがいいわ。
《悔悟せる吸血鬼/Repentant Vampire》:
ええ、今は無理です。しかしこの縛め(いましめ)もいつかは解けます。そのときこそ、私の悪を打つ一撃が振り下ろされることでしょう。
レポーター (マーク):
皆さん、本題に戻りましょう。私たちはデーモンについて話していたはずですよ。
《センギアの吸血鬼/Sengir Vampire》:
いや、正しくはデーモンの話じゃなかったはずだ。俺たちはデーモンと上手くやってる。
《秘密の王、ザデック/Szadek, Lord of Secrets》:
ある種の伝承によれば、ヴァンパイアもデーモンの一種だ。
TVドラマ「バフィー ~恋する十字架~」(註17)がいい例だ。
《センギアの吸血鬼/Sengir Vampire》:
俺が思うに、本当の問題は「ヴァンパイアが市場価値を失ったこと」にあるんじゃないかな。
レポーター (マーク):
どういう意味ですか?
《センギアの吸血鬼/Sengir Vampire》:
まず手近なところで、象徴的なクリーチャーとして扱われなくなったのは、コモンだったことが一度もなかったからだと思う。ああ、確かにコモンにはコウモリだの猟犬だのはいるさ。だけど本当のヴァンパイアたちは最低でもアンコモンだった。
さらに俺たちは一定以上のサイズじゃないといけない。3/3以上で、5/5以下だ。
《秘密の王、ザデック/Szadek, Lord of Secrets》:
5/5が限界だとは思わんがな。
《センギアの吸血鬼/Sengir Vampire》:
そうかもしれないけど、この13年間というもの、それを超えられた奴はいないぜ? さらに言うなら俺たちは常に「ヴァンパイア的なあれやこれや」も持っていないといけない。
作り終えたあとには中途半端に重くて使えないクリーチャーが転がってるって寸法さ。
《センギア男爵/Baron Sengir》:
我輩が思うに、お前は大事なことを忘れておる。
フレイバーだ。あふれんばかりのフレイバーこそが我輩たちではないか。
矮小なるティミーどもがブースターパックを開いた際、我が血族を引いたらさぞかし喜ぶことだろうて。
《センギアの吸血鬼/Sengir Vampire》:
俺たちがカッコ悪いって話じゃないんですよ。
俺たちのカードパワーの話です。
いまだかつてTier1の構築デッキに名前の挙がったことのあるヴァンパイアを1体でいいからあげてみてくださいよ。
《呪われたクロウヴァクス/Crovax the Cursed》:
天使はあるな。ドラゴンも、デーモンも、ゴブリンも、エルフもだ。あの獣並の知性を持ったカヴーですら表舞台に立ったことがある。
まるで私たちだけが名のある大舞台にたどり着けていない、ただ1つの主要な種族であるかのようだ!
《悔悟せる吸血鬼/Repentant Vampire》:
数分もがいてみていたのですが、人手を借りないと抜け出せないことを大人しく認める頃合いのようですね。
そこでものは相談なんですが、誰かこれをほどいてくれる人がいましたら、苦しまずに滅してあげますよ?
《終末を招く者ショークー/Shauku, Endbringer》:
わらわが思うに、問題はヴァンパイアが常にティミーどもに帰属していることではなかろうかの?
たまさかにジョニーどもが気まぐれで手を出すこともあるかもしれぬが、スパイクどもときたらどうじゃろう? きゃつらからはヴァンパイアに対する愛が微塵にも感じられぬわ。
レポーター (マーク):
それではゲームのデザイナーたちに対して何を要望しますか?
《センギアの吸血鬼/Sengir Vampire》:
ヴァンパイアを恐れるな、だね。もっと俺たちに実のある強さをくれよ。ヴァンパイアって単語を含むトップレベルのデッキがあったら、めっちゃカッコいいと思うんだけどな!
《センギア男爵/Baron Sengir》:
まあ、まあ。
《センギアの吸血鬼/Sengir Vampire》:
そうだ、それと下らないセンギア能力ともおさらばだ!
ああ、もちろん元々が俺のせいだってのは分かってますよ、おじいさん。だけどこんな能力に振り回されるのはもう俺たちで終わりにすべきなんです。
《悔悟せる吸血鬼/Repentant Vampire》:
よーし、ではこうしましょう。
私を解放してくれた方にだけは、5分間の先に逃げる時間をあげますよ!
《終末を招く者ショークー/Shauku, Endbringer》:
わらわとしては、ザデックが1歩だけ正しい方向へ歩を進めているように思われるがの。
2色目に足を踏み入れたことじゃ。
ザデックは大きうなる力も持っておるし、さらにダメージ割り振りがスタックに乗っているあいだに生け贄を使った悪巧み(註18)も楽しめるしのう。
《秘密の王、ザデック/Szadek, Lord of Secrets》:
お褒めに預かり恐悦至極。
《センギアの吸血鬼/Sengir Vampire》:
否定はしないぜ。俺もザデックが……ギャーッ!
レポーター (マーク):
何が起きたんですか!?
《呪われたクロウヴァクス/Crovax the Cursed》:
《悔悟せる吸血鬼/Repentant Vampire》が《センギアの吸血鬼/Sengir Vampire》を殺しやがった。
レポーター (マーク):
それはよろしくありませんね。
《終末を招く者ショークー/Shauku, Endbringer》:
気に病むことはなかろう。所詮、伝説性も持たぬ輩じゃ。
大体からして、死んだも何も、元々死んでおるわ。
レポーター (マーク):
あ、はい。この会議を終了するに当たり、最後に一言ありますか?
《センギア男爵/Baron Sengir》:
我輩は《悔悟せる吸血鬼/Repentant Vampire》を今一度縛りあげることを提案したい。
《終末を招く者ショークー/Shauku, Endbringer》:
おぬしらが望むのであればきゃつを殺すことも出来るがの(註20)。きゃつも所詮は伝説でもなんでもない輩じゃて。
《センギア男爵/Baron Sengir》:
我が血族たるヴァンパイアを代表して述べさせて頂きたいのだが……
《悔悟せる吸血鬼/Repentant Vampire》:
あなたに私の気持ちを代弁することなど出来はしないぞ、この野蛮人め!
《センギア男爵/Baron Sengir》:
誰かこいつに猿ぐつわをかましておいてくれないかね。
さて、我輩の言いたかったことは、白を含まぬ我が血族を代表して述べたいこととして、R&Dが我々をデザインする際には、今少し枠に縛られぬよう努力して頂きたいという話なのだ。
新たな形で表現される「摂取」を是非この目で見てみたいものだ。加えて言うなら、我が血族からトーナメントに頻繁に顔を出せるカードが1枚でも出たからといって開発部が死に絶えるわけでもあるまい。
《呪われたクロウヴァクス/Crovax the Cursed》:
同意だ。
《秘密の王、ザデック/Szadek, Lord of Secrets》:
男爵の言葉は核心をついていると思う。
《終末を招く者ショークー/Shauku, Endbringer》:
わらわが最後の一言を述べてもよいかの?
レポーター (マーク):
もちろんです。そうでないとまずいのですか?
《終末を招く者ショークー/Shauku, Endbringer》:
それはそうじゃて、何せわらわは「終末を招く」のだから。
この会議を読んでくれた読者の面々であれば、全てのヴァンパイアがそれほどまでに怒りを覚えておるわけではない、と分かってくれたとわらわは信じておる。
だがの、わらわたちは象徴的な存在としてあるべく精一杯の努力を続けてきたのじゃ。次は、R&Dがそれに応える番ではなかろうかの?
レポーター (マーク):
ええ、最後まで生き残っていただいた皆様に……いえ、死してなお生きている皆様に、この会議に参加してくださいました感謝を捧げたいと思います。
読者の皆さんも、あなたたちのお話を楽しんでくださったものと思います。
終える前に、読者へお伝えしておきたいのですが、来週はいくつかの教訓について分かち合いたいと考えておりますので、ぜひまたお越し下さい。
それまで皆様の飢えが満たされておりますように!
マーク・ローズウォーター
Mark Rosewater
2006年02月13日
元記事:http://www.wizards.com/Magic/Magazine/Article.aspx?x=mtgcom/daily/mr215
ヴァンパイア週間へようこそ!
……はいはい、君たちの大半が「え、ヴァンパイア週間だって?」と言っているのは間違いないだろう(少なくとも、私の次週に向けて書いているちょっとした予告文(註1)を読む気があって、かつそこで私が何を言ったかを覚えているだけの余裕がある人はね)。
ヴァンパイア週間の何が「黒くて白い」んだ、って?(註2)
その答は……うーん……ほら、私はこれからオデッセイの《悔悟せる吸血鬼/Repentant Vampire》について詳細な考察をするところだったんだよ。このカードは黒と白であるという特徴を備えているからね(同時にではないけれど)。
あー、分かった、分かった。これはバレバレの嘘だった。
私は……うーん、私はこう考えていたんだ、今週はオルゾフ週間だったな、って。なぜかって? 自分でも分からない。スコットは来るテーマ週間の予定表を送ってくれていた。そして私は、そうすべきだったにも関わらず、それをきちんと確認しなかったんだ。
分かると思うが、私は自分の記事を自宅で書いているので、仕事のメールを見ることが出来ないんだ。そのため、予告文を書いているとき、私はただ前に読んだ記憶を思い起こしているにすぎない。その記憶に頼った情報は、予定のリストを今確認したところ、まったく違うものだった。
今しばらくのあいだ、オルゾフ週間を見ることはないだろう。あー、私たちはそれをしないわけではない、しかしイゼット週間と他のいくつかの後だ、例えばヴァンパイア週間とかね。
それが私が今日書いている奴だ。
分かってくれたかな? それでは始めようか。
(註1) 予告文
原文では「Teaser」。アオリ文や宣伝文句のような意味。マーク・ローズウォーター氏の記事は、大体「来週は~について話す予定だ。それまで皆さん、~せずにお元気で」というような結びの文で終わることが多い。
(註2) 「黒くて白い」
この1つ前の週に書かれたコラムの結びは以下の通り。Join me next week, when I talk about something’s that’s black and white.
また来週。そのときは「黒くて白い何か」について話すつもりだ。
引用元:
http://www.wizards.com/Magic/Magazine/Article.aspx?x=mtgcom/daily/mr214
浜の真砂は尽きるとも、世に吸血鬼の種は尽きまじ
今週はヴァンパイア週間で、かつ「メイキング・マジック(Making Magic)」(註3)はデザインに関するコラムなのだから、ヴァンパイア・カードのデザインについて語るのが唯一自然なことと思われる。
しかしこれについて通常のR&D(註4)の視点から語るのではなく、かわりにこの話題を一部のヴァンパイアたち自身によって議論させたらもっと興味深いものになるのではないか、と私は思った。
そのようなわけで、私はマジックで名の知られたヴァンパイアたちによる円卓会議を招集し、彼らにヴァンパイアとマジックについて深く考えてもらう機会を提供した(それらに加えて、彼らのあいだで交わされた会話から自然と発生したいくつかの議題についてもね)。
集まったのはマジックのアンデッド界における有名人たちだ(註5)。
アルファからは元祖ヴァンパイアである《センギアの吸血鬼/Sengir Vampire》。
次に初期のヴァンパイアにおける象徴的な存在の1人、《センギア男爵/Baron Sengir》。
参加してくれたヴァンパイアの3人目であり、ジャムーラからやって来た背筋の凍るような人血の啜り手(すすりて)である《終末を招く者ショークー/Shauku, Endbringer》。
彼らに加わるは、元祖ウェザーライト号の乗組員の1人にして、のちにその乗組員たちの大敵となった《呪われたクロウヴァクス/Crovax the Cursed》。
さらに、存在するヴァンパイアの中では唯一の黒でない(ときもある)風変わりな奴、《悔悟せる吸血鬼/Repentant Vampire》もいる。
最後は、このゲームで最も新しいヴァンパイアの1人である《秘密の王、ザデック/Szadek, Lord of Secrets》だ。
(註3) メイキング・マジック(Making Magic)
Daily MTGの連載コラムは曜日によってテーマが決まっている。マーク・ローズウォーター氏が担当している月曜日はマジックの開発やデザインがテーマ。
参照:http://www.wizards.com/Magic/Magazine/Archive.aspx?tag=column
(註4) R&D
Research & Developmentで、一般的な意味では「研究開発」、ここではウィザーズにおけるマジックの開発部のこと。
(註5) 参加者プロフィール
個々のカードテキストとイラストは以下のリンク先を参照のこと。
《センギアの吸血鬼/Sengir Vampire》
参照:http://magiccards.info/tr/en/80.html
《センギア男爵/Baron Sengir》(註6)
参照:http://magiccards.info/hl/en/1.html
《終末を招く者ショークー/Shauku, Endbringer》
参照:http://magiccards.info/mr/en/40.html
《呪われたクロウヴァクス/Crovax the Cursed》
参照:http://magiccards.info/sh/en/5.html
《悔悟せる吸血鬼/Repentant Vampire》
参照:http://magiccards.info/od/en/157.html
《秘密の王、ザデック/Szadek, Lord of Secrets》
参照:http://magiccards.info/rav/en/234.html
(註6) 《センギア男爵/Baron Sengir》
実際には《Baron Sengir》というカードに和名は存在しない。ホームランドの日本語版は存在せず、再録もされていないため。ただフレイバーテキストなど、ストーリー上の和名は存在するので、それに習ってカード名も日英両表記にしてみた。
レポーター (マーク):
皆様、ようこそおいでくださいました。まず初めに、ヴァンパイアのデザインについて話すためにお時間を割いて頂いたことを感謝いたします。また私の命を召し上がらないようお願いいたします。
《センギア男爵/Baron Sengir》:
我輩たちはマナーをわきまえておる。
夜に属す血族の中でヴァンパイアが他と一線を画す点がそれだ。
《終末を招く者ショークー/Shauku, Endbringer》:
ああ、もちろんじゃ、ただわらわの中で、レポーターを食してしまうことがエチケットに反するかどうかについてはいまいち自信がないんじゃがの。
《呪われたクロウヴァクス/Crovax the Cursed》:
どこに所属してるレポーターかによると私は思うがね。Newsweekとかであれば手をつけないほうがいいかもしれん。だが、Weekly World Newsならどうだ?(註7) あいつらなら、私はポップコーンと同じように食らえる。Bat Boy(註8)の記事にはもううんざりだ。
(註7) Newsweek、Weekly World News
前者はアメリカの「まじめな」週刊誌の代表で、後者はアメリカの「ふまじめな」週刊誌の代表。日本の新聞で言うと「日経新聞」と「東スポ」みたいな感じかもしれない。多分。
(註8) Bat Boy
Weekly World Newsで連載されているバットマンのパロディ漫画。
http://en.wikipedia.org/wiki/Bat_Boy
《センギアの吸血鬼/Sengir Vampire》:
それであんたはどこから来たんだっけ、もう一度教えてくれよ。
《秘密の王、ザデック/Szadek, Lord of Secrets》:
Magicthegathering.comからだ。ウィザーズのホームページだな。彼を食しても我々の目的の助けにはなるまいて。
レポーター (マーク):
あ、はい、ありがとうございます。ところで目的とは?
《秘密の王、ザデック/Szadek, Lord of Secrets》:
マジックのカードにヴァンパイアを増やすことだ。PRは十分だが、我々が期待するほどの数がいるわけではない。
《悔悟せる吸血鬼/Repentant Vampire》:
まったくだぜ、13年も経ってるつうのに俺たちの元にいるんは16体のヴァンパイア。一体全体、こりゃなんだってんだい?
《秘密の王、ザデック/Szadek, Lord of Secrets》:
おぬしの言う16体は、クリーチャータイプがヴァンパイアのものだけだな。
マジックには他にも明らかにヴァンパイアに共通する特徴を備えているクリーチャーが大勢いる。
《センギア男爵/Baron Sengir》:
黒であること、大型の飛行であること、センギアの能力(註9)を持ちつつセンギアの名を冠しておること、そしてそれ相応の見た目(註10)をしておること。
これだけそろっておれば「吸血鬼として扱う」のテキストやそこらを授けてやることに異存は無い。
(註9) センギアの能力
傷つけたクリーチャーが同じターンのうちに墓地へ落ちた場合、+1/+1カウンターなどで強化される能力。正直なところ、そうそう発動しない。
(註10) それ相応の見た目
原文ではこの言葉のすぐ隣に男爵ご本人のイラストが掲載されている。
《悔悟せる吸血鬼/Repentant Vampire》:
じいちゃん、細かいこと気にすんじゃねえよ。大事なんはオフィシャルな吸血鬼が16体、ってことさ。年当たりで考えたら約1.1体じゃねえか。こりゃひでえよ!
《秘密の王、ザデック/Szadek, Lord of Secrets》:
実際は18体だ。おぬしは《霧衣の究極体/Mistform Ultimus》(註11)を忘れている。
(註11) 《霧衣の究極体/Mistform Ultimus》
「すべてのクリーチャー・タイプである」という能力を当時持っていた唯一のクリーチャー。
《悔悟せる吸血鬼/Repentant Vampire》:
あんにゃろう、ぶっ殺してやる。いつもいつも小ネタを台無しにするってだけで理由としちゃ十分だ!
レポーター (マーク):
話が本題から少々それてしまっているように思います。本日集まって頂いたのはヴァンパイアのデザインについて話すためです。誰から始めますか?
《センギアの吸血鬼/Sengir Vampire》:
まあ、始めるなら俺からが妥当だろうな。何から話そうか。
よし「ヴァンパイアの持つメカニズム」にしよう。何が言いたいかっていうと、R&Dが何を持ってしてそのカードをヴァンパイアとみなすのか、ってことさ。
《呪われたクロウヴァクス/Crovax the Cursed》:
ふむ、まずは飛んでいないとな。
なぜなら、当たり前だが、全てのヴァンパイアは飛んでいるからだ。
《秘密の王、ザデック/Szadek, Lord of Secrets》:
《Krovikan Vampire》を例外とすればな。ああ、それともちろん《霧衣の究極体/Mistform Ultimus》もだ。付け加えるなら、おぬしは単に《ジャンプ/Jump》しているだけだ(註12)。
(註12) ジャンプ/Jump
《呪われたクロウヴァクス/Crovax the Cursed》は「(黒):呪われたクロウヴァクスはターン終了時まで飛行を得る」の能力は持っているが飛行は持っていない。
《呪われたクロウヴァクス/Crovax the Cursed》:
そうやって人が話している最中にいちいち知識をひけらかすような真似をやめられんというのに、貴様がなぜに《秘密の王》を名乗ることができているのか、私には理解できんな。
《秘密の王、ザデック/Szadek, Lord of Secrets》:
最も重要なことは口に出さぬからだ。
《呪われたクロウヴァクス/Crovax the Cursed》:
では黙っていればよいのでは?
《秘密の王、ザデック/Szadek, Lord of Secrets》:
私がただ指摘したかったのは、伝承などで伝えられるところでは皮肉なことに、大半のヴァンパイアやそれに類するクリーチャーは飛んでいない、ということだ。
《センギアの吸血鬼/Sengir Vampire》:
いや、飛んでるかどうかは俺だって気にしてないんだ。
それについては俺も分かる気がする。
もっと飲み込めない部分があるのさ。ヴァンパイアとしてふさわしいかどうかについて、R&Dはそのクリーチャーが何らかの「摂取する」能力を持っていなきゃいけないって考えてるんだ。
例えばさ、ヴァンパイアの典型的能力みたいに扱われてる俺の能力を考えてみてくれよ。意味合いとしては、誰かを殺すことで俺はより強くなる、ってところだ。実際、響きはとてもいい、だけど……
《センギア男爵/Baron Sengir》:
お前が何かを殺せたことなどただの一度もありはせん。
あると言うなら我輩の前で言ってみるがいい。
《悔悟せる吸血鬼/Repentant Vampire》:
俺も、その場にいたはずだけどな(註13)。
(註13) その場
《センギアの吸血鬼/Sengir Vampire》が再録されたトーメントは《悔悟せる吸血鬼/Repentant Vampire》の収録されているオデッセイと同じセット。
《センギアの吸血鬼/Sengir Vampire》:
勘違いしないでくださいよ、俺は4/4で飛行なことに不満はないんです。ただ何かを食えたことなんてただの一度もないんですよ! 飢えてしにそうだ!
《呪われたクロウヴァクス/Crovax the Cursed》:
仲間を喰らうほうが魅力的に思えてしまうのはそのせいだな。
他のプレイヤーを操ることは無理な話だが、自身の側にいる魔法使いの目をのぞきこみ「私に餌を与えよ。さすれば貴様の思い描く相手に思い知らせてくれようぞ」とささやけば、求めるものが手に入るという寸法だ。
《終末を招く者ショークー/Shauku, Endbringer》:
そうは言うても、餌を与えてくれぬ場合があるじゃろうて。怨敵が手ごろなブロッカーを用意してしもうて、次の瞬間、おぬしは絶食させられることになるのじゃ。
わらわの策が最も良いと思うがの。ただ欲しい物を見つめ、そしてそれを食すのじゃ。
生きるにはそれしかあるまいて。
《呪われたクロウヴァクス/Crovax the Cursed》:
私は自身のデザインに対し、それなりに喜びを感じている。ヴァンパイアであること、というフレイバーをつかむという意味で、実にもっともよいデザインだろう。
喰らうことで強くなる。
喰らえないことで力を失う。
私たちが血を求めるのは楽しみのためではないのだ。
いや、勘違いしないで欲しいのは、血をすすること自体は心弾む所業だ。しかしその摂取はあくまで生存のためではないか。センギアの能力はこの根源たる点をついていないと私は思うのだ。
《秘密の王、ザデック/Szadek, Lord of Secrets》:
同じく、私も自身のフレイバーに満足しておる。
そのとおり、私が摂取するのは血液よりも思考ではあるが、そこには似通った形の欲求があると思っておる。
《呪われたクロウヴァクス/Crovax the Cursed》:
だが貴様は力を失うことがないではないか。私はその点を重要視している。
レポーター (マーク):
つまりあなたは永遠の飢えの表現については、力を失うことと紐づけてデザインされるべきだと感じているわけですね?
《呪われたクロウヴァクス/Crovax the Cursed》:
そのとおりだ。
《終末を招く者ショークー/Shauku, Endbringer》:
落ち着くのじゃ、クロウヴァクス。
わらわと同じく、おぬしもそれについては本当の問題には気づいておるのじゃろう。
皆も気づいておるわ。
レポーター (マーク):
問題とは?
《センギア男爵/Baron Sengir》:
デーモンだ。
レポーター (マーク):
なんとおっしゃいましたか?
《センギア男爵/Baron Sengir》:
黒のレアは、その一部をレアの飛行持ちにて象徴されておる。
《センギアの吸血鬼/Sengir Vampire》:
おじいさん、分かるようにお願いします。
《センギア男爵/Baron Sengir》:
これについてもっとも分かりやすい説明は、そうだな、R&Dが飛行持ちのファッティを白に作ったとしようではないか。それはなんだ?
天使だ。
では、もしかわりにそのクリーチャーの色が赤かったとすれば?
そのとおり、それはドラゴンだ。
今度はそのカードが黒だったとしてみよう。何が起きるだろうか?
それは吸血鬼だ……もしくはデーモンだ!
黒のレアには飛行持ちのファッティを象徴するクリーチャーが2種類いるのだ。
《終末を招く者ショークー/Shauku, Endbringer》:
それだけではなく、きゃつら相手は公平なる戦いとは言いかねるからのう……デーモンの数はわらわたちを上回っておる。
《秘密の王、ザデック/Szadek, Lord of Secrets》:
24体のデーモンか。アングルードやアンヒンジドも数えるなら26体だ。さらに言うなれば27体だな、もし《霧衣の究極体/Mistform Ultimus》を含めてやる優しさがあるのなら。
《悔悟せる吸血鬼/Repentant Vampire》:
とっととあいつを食っちまうべきだ。
《終末を招く者ショークー/Shauku, Endbringer》:
ウィザーズ社はここ数年の間、きゃつらを新たに作っておらんというに!
《センギア男爵/Baron Sengir》:
事実の積み重ねだ。
まず我輩の呼ぶところの「デメリット能力」という選択肢をデーモンは持っておる。それによって奴らはそのサイズに対して少ないマナコストで済んでいるがデメリットを持つ。何にせよ、デメリットとはデザインの中心ではなく外付けのものだ。
ヴァンパイアは「摂取」というフレイバー、さらに飛行も持つことを義務付けられておるため、常に高コストとならざるを得ない。この中にマジックの歴史でもっともコストの安いヴァンパイアが何だったか答えられるものはおるかな。
どうだ、ザデック?
《秘密の王、ザデック/Szadek, Lord of Secrets》:
4マナだ(註14)。《吸血コウモリ/Vampire Bats》と《吸血犬/Vampire Hounds》は3マナだが、いずれもヴァンパイアではない。
(註14) 4マナのヴァンパイア
記事当時では《呪われたクロウヴァクス/Crovax the Cursed》と《Irini Sengir》。今は1マナから3マナまでにも多種多様なヴァンパイアがいる。
《センギア男爵/Baron Sengir》:
4マナとは!
《秘密の王、ザデック/Szadek, Lord of Secrets》:
ちなみにもっともコストの安いデーモンも同じく4マナ(註15)だ。
(註15) 4マナのデーモン
記事当時はすでに神河ブロックが出ているため結構いる。《剃刀顎の鬼/Razorjaw Oni》、《沼居の災い魔/Scourge of Numai》、《血塗られしもの、死祭/Shimatsu the Bloodcloaked》、と《囚われしもの、幽孤羅/Yukora, the Prisoner》。
《呪われたクロウヴァクス/Crovax the Cursed》:
だがデーモンどもは、7/7、8/8、もしくは9/9であってもおかしくない。
私たちの中で最大は男爵だが、それでも5/5だ。
《センギア男爵/Baron Sengir》:
それは我輩たちが能力的に成長する余地を残しておるためだ。9/9に+1/+1カウンターが乗ることにどれほどのことがあろう。そう、我輩たちは己の能力定義、それ自身に苦しめられておるのだよ。
レポーター (マーク):
あなたの示唆するところは、R&Dはヴァンパイアのデザインについて路線変更を行うべきだ、ということですか?
《センギア男爵/Baron Sengir》:
違う。
《悔悟せる吸血鬼/Repentant Vampire》:
いや、そうだって! 変えてくれよ! 大体からして理由が……あっ……あああッ!? すまん、みんな! アレが始まりやがった!
レポーター (マーク):
何が始まったんですか?
《センギアの吸血鬼/Sengir Vampire》:
急げ! 奴を取り押さえろ!
《終末を招く者ショークー/Shauku, Endbringer》:
足をつかむのじゃ!
レポーター (マーク):
何がどうしたんですか?
《センギア男爵/Baron Sengir》:
おぬし、ロープを持ってこい!
レポーター (マーク):
あの……
《センギアの吸血鬼/Sengir Vampire》:
やばい、変わるぞ!
《悔悟せる吸血鬼/Repentant Vampire》:
ああ、なんということでしょう……裏返ってしまいました(註16)。
私が何かしたからでしょうか? 何をしてしまったのでしょうか? まさか誰かの命を奪ってしまったのではないといいのですが!
(註16) 裏返る
《悔悟せる吸血鬼/Repentant Vampire》には飛行とセンギア能力に加えて「スレッショルド ― あなたの墓地にカードが7枚以上ある限り、悔悟せる吸血鬼は白になるとともに「(T):黒のクリーチャー1体を対象とし、それを破壊する。」を持つ」という能力がある。
《センギアの吸血鬼/Sengir Vampire》:
《悔悟せる吸血鬼/Repentant Vampire》の悪い癖だ……たまに正義の味方になっちまうんだ。
《終末を招く者ショークー/Shauku, Endbringer》:
それによってきゃつはここにいる皆を滅することを望むようになるのじゃ。
レポーター (マーク):
これはどのようにして起きるのですか?
《センギアの吸血鬼/Sengir Vampire》:
誰にも分からないんだ。
《秘密の王、ザデック/Szadek, Lord of Secrets》:
噂によるとジプシーの呪いだとか。
《センギア男爵/Baron Sengir》:
そのようなことはどうでもよいわ。墓地をあふれかえらせたのは誰だ!?
《センギアの吸血鬼/Sengir Vampire》:
ショークーじゃね?
《終末を招く者ショークー/Shauku, Endbringer》:
昨晩の《エイトグ/Atog》以来、何も食しておらぬわ。
《センギア男爵/Baron Sengir》:
ではどいつだ! クロウヴァクスか!?
《呪われたクロウヴァクス/Crovax the Cursed》:
わ、私は腹が減ってたんだ。
そのままでは力を失ってしまうことになると言っているだろうが!
《センギア男爵/Baron Sengir》:
おぬし、6体の時点で我慢できんかったのか!?
《呪われたクロウヴァクス/Crovax the Cursed》:
なんだと、貴様の指図は受けんわ!
伊達や酔狂で、満たされること無き飢え、などと呼ばれているわけでないのだ。
大体からしてゴブリンを1匹で我慢できるわけがなかろう。
《終末を招く者ショークー/Shauku, Endbringer》:
その気持ち分かるぞよ、我が血族。
《悔悟せる吸血鬼/Repentant Vampire》:
あなたが命を奪ったと知った以上、私はあなたの命でそれを償って頂く以外、しようがありません。
《呪われたクロウヴァクス/Crovax the Cursed》:
その全身を縛られた状態で何かできるものならやってみるがいいわ。
《悔悟せる吸血鬼/Repentant Vampire》:
ええ、今は無理です。しかしこの縛め(いましめ)もいつかは解けます。そのときこそ、私の悪を打つ一撃が振り下ろされることでしょう。
レポーター (マーク):
皆さん、本題に戻りましょう。私たちはデーモンについて話していたはずですよ。
《センギアの吸血鬼/Sengir Vampire》:
いや、正しくはデーモンの話じゃなかったはずだ。俺たちはデーモンと上手くやってる。
《秘密の王、ザデック/Szadek, Lord of Secrets》:
ある種の伝承によれば、ヴァンパイアもデーモンの一種だ。
TVドラマ「バフィー ~恋する十字架~」(註17)がいい例だ。
(註17) バフィー ~恋する十字架~
アメリカのTVドラマ。原題は「Buffy the Vampire Slayer」。
《センギアの吸血鬼/Sengir Vampire》:
俺が思うに、本当の問題は「ヴァンパイアが市場価値を失ったこと」にあるんじゃないかな。
レポーター (マーク):
どういう意味ですか?
《センギアの吸血鬼/Sengir Vampire》:
まず手近なところで、象徴的なクリーチャーとして扱われなくなったのは、コモンだったことが一度もなかったからだと思う。ああ、確かにコモンにはコウモリだの猟犬だのはいるさ。だけど本当のヴァンパイアたちは最低でもアンコモンだった。
さらに俺たちは一定以上のサイズじゃないといけない。3/3以上で、5/5以下だ。
《秘密の王、ザデック/Szadek, Lord of Secrets》:
5/5が限界だとは思わんがな。
《センギアの吸血鬼/Sengir Vampire》:
そうかもしれないけど、この13年間というもの、それを超えられた奴はいないぜ? さらに言うなら俺たちは常に「ヴァンパイア的なあれやこれや」も持っていないといけない。
作り終えたあとには中途半端に重くて使えないクリーチャーが転がってるって寸法さ。
《センギア男爵/Baron Sengir》:
我輩が思うに、お前は大事なことを忘れておる。
フレイバーだ。あふれんばかりのフレイバーこそが我輩たちではないか。
矮小なるティミーどもがブースターパックを開いた際、我が血族を引いたらさぞかし喜ぶことだろうて。
《センギアの吸血鬼/Sengir Vampire》:
俺たちがカッコ悪いって話じゃないんですよ。
俺たちのカードパワーの話です。
いまだかつてTier1の構築デッキに名前の挙がったことのあるヴァンパイアを1体でいいからあげてみてくださいよ。
《呪われたクロウヴァクス/Crovax the Cursed》:
天使はあるな。ドラゴンも、デーモンも、ゴブリンも、エルフもだ。あの獣並の知性を持ったカヴーですら表舞台に立ったことがある。
まるで私たちだけが名のある大舞台にたどり着けていない、ただ1つの主要な種族であるかのようだ!
《悔悟せる吸血鬼/Repentant Vampire》:
数分もがいてみていたのですが、人手を借りないと抜け出せないことを大人しく認める頃合いのようですね。
そこでものは相談なんですが、誰かこれをほどいてくれる人がいましたら、苦しまずに滅してあげますよ?
《終末を招く者ショークー/Shauku, Endbringer》:
わらわが思うに、問題はヴァンパイアが常にティミーどもに帰属していることではなかろうかの?
たまさかにジョニーどもが気まぐれで手を出すこともあるかもしれぬが、スパイクどもときたらどうじゃろう? きゃつらからはヴァンパイアに対する愛が微塵にも感じられぬわ。
レポーター (マーク):
それではゲームのデザイナーたちに対して何を要望しますか?
《センギアの吸血鬼/Sengir Vampire》:
ヴァンパイアを恐れるな、だね。もっと俺たちに実のある強さをくれよ。ヴァンパイアって単語を含むトップレベルのデッキがあったら、めっちゃカッコいいと思うんだけどな!
《センギア男爵/Baron Sengir》:
まあ、まあ。
《センギアの吸血鬼/Sengir Vampire》:
そうだ、それと下らないセンギア能力ともおさらばだ!
ああ、もちろん元々が俺のせいだってのは分かってますよ、おじいさん。だけどこんな能力に振り回されるのはもう俺たちで終わりにすべきなんです。
《悔悟せる吸血鬼/Repentant Vampire》:
よーし、ではこうしましょう。
私を解放してくれた方にだけは、5分間の先に逃げる時間をあげますよ!
《終末を招く者ショークー/Shauku, Endbringer》:
わらわとしては、ザデックが1歩だけ正しい方向へ歩を進めているように思われるがの。
2色目に足を踏み入れたことじゃ。
ザデックは大きうなる力も持っておるし、さらにダメージ割り振りがスタックに乗っているあいだに生け贄を使った悪巧み(註18)も楽しめるしのう。
(註18) ダメージ割り振りがスタックに乗っている
昔は今と違ってダメージ割り振りがスタックに乗っていた(さらに昔は乗ってなかったけど)。《秘密の王、ザデック/Szadek, Lord of Secrets》のダメージ割り振りがスタックに乗っている間に本人を生贄に捧げると、ダメージを置換する能力(註19)が働かず、対戦相手本体にダメージを与えることができる。
(註19) 能力
彼の能力については文章が長いので以下を参照のこと。
http://magiccards.info/rav/jp/234.html
《秘密の王、ザデック/Szadek, Lord of Secrets》:
お褒めに預かり恐悦至極。
《センギアの吸血鬼/Sengir Vampire》:
否定はしないぜ。俺もザデックが……ギャーッ!
レポーター (マーク):
何が起きたんですか!?
《呪われたクロウヴァクス/Crovax the Cursed》:
《悔悟せる吸血鬼/Repentant Vampire》が《センギアの吸血鬼/Sengir Vampire》を殺しやがった。
レポーター (マーク):
それはよろしくありませんね。
《終末を招く者ショークー/Shauku, Endbringer》:
気に病むことはなかろう。所詮、伝説性も持たぬ輩じゃ。
大体からして、死んだも何も、元々死んでおるわ。
レポーター (マーク):
あ、はい。この会議を終了するに当たり、最後に一言ありますか?
《センギア男爵/Baron Sengir》:
我輩は《悔悟せる吸血鬼/Repentant Vampire》を今一度縛りあげることを提案したい。
《終末を招く者ショークー/Shauku, Endbringer》:
おぬしらが望むのであればきゃつを殺すことも出来るがの(註20)。きゃつも所詮は伝説でもなんでもない輩じゃて。
(註20) 殺すことも出来る
《終末を招く者ショークー/Shauku, Endbringer》は「(T):クリーチャー1体を対象とする。それを追放し、終末を招く者ショークーの上に+1/+1カウンターを1個置く」の能力を持つ。
《センギア男爵/Baron Sengir》:
我が血族たるヴァンパイアを代表して述べさせて頂きたいのだが……
《悔悟せる吸血鬼/Repentant Vampire》:
あなたに私の気持ちを代弁することなど出来はしないぞ、この野蛮人め!
《センギア男爵/Baron Sengir》:
誰かこいつに猿ぐつわをかましておいてくれないかね。
さて、我輩の言いたかったことは、白を含まぬ我が血族を代表して述べたいこととして、R&Dが我々をデザインする際には、今少し枠に縛られぬよう努力して頂きたいという話なのだ。
新たな形で表現される「摂取」を是非この目で見てみたいものだ。加えて言うなら、我が血族からトーナメントに頻繁に顔を出せるカードが1枚でも出たからといって開発部が死に絶えるわけでもあるまい。
《呪われたクロウヴァクス/Crovax the Cursed》:
同意だ。
《秘密の王、ザデック/Szadek, Lord of Secrets》:
男爵の言葉は核心をついていると思う。
《終末を招く者ショークー/Shauku, Endbringer》:
わらわが最後の一言を述べてもよいかの?
レポーター (マーク):
もちろんです。そうでないとまずいのですか?
《終末を招く者ショークー/Shauku, Endbringer》:
それはそうじゃて、何せわらわは「終末を招く」のだから。
この会議を読んでくれた読者の面々であれば、全てのヴァンパイアがそれほどまでに怒りを覚えておるわけではない、と分かってくれたとわらわは信じておる。
だがの、わらわたちは象徴的な存在としてあるべく精一杯の努力を続けてきたのじゃ。次は、R&Dがそれに応える番ではなかろうかの?
レポーター (マーク):
ええ、最後まで生き残っていただいた皆様に……いえ、死してなお生きている皆様に、この会議に参加してくださいました感謝を捧げたいと思います。
読者の皆さんも、あなたたちのお話を楽しんでくださったものと思います。
終える前に、読者へお伝えしておきたいのですが、来週はいくつかの教訓について分かち合いたいと考えておりますので、ぜひまたお越し下さい。
それまで皆様の飢えが満たされておりますように!
マーク・ローズウォーター
長過ぎて1つの記事に収まらなかったため、前編/後編に分けてみる
【翻訳】このカードはゾンビですか?/I cc: Dead People【Daily MTG】
Mark Rosewater
2003年03月03日
元記事:http://www.wizards.com/Magic/Magazine/Article.aspx?x=mtgcom/daily/mr61
ゾンビ週間へようこそ!
今週はゾンビについて話したいと思う。意思無き脳みそ喰らいなのか、誤った認識をされている死にぞこないのアメリカ人なのか? もう少しちゃんと見てみようじゃないか。
ただ殺されはしないヤツラ
先週説明したように、私はデザイナーや開発チームの中でもフレイバー寄りな立場にいる。また私はR&Dの中でも特に公(おおやけ)に顔を出しているメンバーでもある。そのようなわけで、随分前から私はR&Dと様々なクリーチャーの種族との間の窓口として働いてきた。
私たちはあまりこのことについて語ることは無かったが、実は各クリーチャータイプはそれぞれごとに組合を持っており、それらの組合は自分たちのクリーチャータイプがカード上で正当に扱われているかどうかについて、常に目を光らせている。
勘違いしないで欲しいのは、組合たちは自分たちのクリーチャータイプが悪いイメージで表現されているかどうかについてはほとんど気にしていない(いや、そういう組合もいるにはいる。たとえば兵士(Soldier)とかは、そんな扱いを受けたら激怒する)。彼らはただ「本来あるべき姿で描かれること」を望んでいるだけだ。
異なる種族はそれぞれまったく異なる点を気にする。例えば天使(Angel)は「担当のアーティストは誰!?」という質問でいつもいつも私を煩わせる(天使たちは、Matt Wilsonが天使のイラストを描くためだけに生きていると思っているふしがある)。ドワーフ(Dwarf)は、背の高さのジョークに非常に敏感だ。そしてマーフォーク(Merfolk)は? いやいや、勘弁してくれ、それを語りだしたら終わらないよ。まだ未開封の嘆願書がこんなに積みあがっているというのに。
しかしこれに関する一番の頭痛の種はゾンビ(Zombie)だ。
なぜゾンビが頭痛の種なのか? それは彼らが自分たちの印象が誤って認識されていると感じているからだ。ゾンビたちは、いつも自分たちが誤解されていると思っており、そのため彼らの組合のリーダーであるガ・アーク(Ga’Aark)は私に間断なく手紙を送ってきている。
今日は、これらの手紙の中から何通かを君たちへ紹介しようと思う。そうすることで私が毎日何と取っ組み合っているかを分かってもらえるだろう。ちなみに組合たちから手紙が届き始めるのは、各セットのプレビューが始まったときだ。プレビューを見た組合員たちが手紙を送ってくるという寸法だ。
なお、最初のほうの何通かの手紙はRichard Garfield宛てに届けられている。私がWizards of the Coast社に加わるまでは、彼がこの楽しい仕事を担当していたからだ。
(ゾンビの歴史について、もうちょっと落ち着いたデザインで読みたいと思う人は、ここ(註1)をクリックしてくれ)
(註1) ここ
リンク先は元記事の最下段にあるリスト。コラム1つ丸々使って解説した各エキスパンションごとのゾンビカードが無味乾燥的にそのまま並んでいる。
http://www.wizards.com/Magic/Magazine/Article.aspx?x=mtgcom/daily/mr61#table
アルファ/Alpha
アルファ/Alphaに収録されているゾンビ、およびゾンビ関連のカード:
《スケイズ・ゾンビ/Scathe Zombies》、《ゾンビ使い/Zombie Master》
親愛なる ガーフィールド様
まずは私の自己紹介から始めさせて頂けますでしょうか。
私の名前はガ・アークと申します。アクセントは「ア」にございます。蘇生されたアンデッドたちの組合である「ゾンビーズ(The Zombies)」のリーダーを勤めさせて頂いております。
私の組合員たちが正当な扱いを受けているかどうか、それを確認させていただくのが私の仕事でございます。これはご連絡しなくてはなるまい、と感じた懸案事項がここにいくつかありますのでご確認下さい。
・その1
「ゾンビ」とは何か、どのように表現されるべきか。これは組合の間でも議論の耐えない点であります。大体のメンバーは現在の状況に大きな不満はないようですが、血気盛んな少数派はこの単語から多くの(私たちが払拭しようと日々努めている)否定的な既存概念が連想されると感じております。
一般の方々が「ゾンビ」と聞いたとき、意思の無い動く死体と同等と見なされるでしょう。死体を蘇生させた者の気まぐれな命令にも忠実に従うような生き物。
これが一般に流布しているイメージであることは認めましょう。しかし絶対的な真実からはほど遠いものです。何にせよ、私自身は「ゾンビ」という表現に大筋では賛成ですが、問題と捉える向きも存在するという事実を心に留め置いていただきたいのです。
・その2
《スケイズ・ゾンビ/Scathe Zombies》の能力をご存知でしょうか? あのアルファにただ1枚だけ(この点についてもまた後で述べたいことがあります)存在するゾンビです。
たった1枚のゾンビ! さてそのゾンビとは? 3マナで2/2の恐ろしい《スケイズ・ゾンビ/Scathe Zombies》です! さて彼に何が出来るのでしょうか?
何も。
そう、3マナを払って出てくるのはバニラの2/2です。忘れないでいただきたいのは、これは1体のゾンビではないということです!カード名は「Zombies」、そう複数形でございます。イラストも6体のゾンビが描かれております。
6体のゾンビが2/2ですか? あなた様は映画ドーン・オブ・ザ・デッド/Dawn of the Dead(註2)をごらんになったことがないですか!?
緑には同じ能力のクリーチャーが1マナ安く存在しております。獣同然の脳みそを持った《灰色熊/Grizzly Bears》です。イラストを見ると2匹ですね。
6体のゾンビがどれほど短い時間で2匹の灰色熊のはらわたを喰らい尽くせるのか、ご存知ないのでしょうか? また、あなたはゾンビが並みの人間よりずっと強靭であるという事実をお忘れと思われます。
・その3
ゾンビのロード、《ゾンビ使い/Zombie Master》について取り上げさせてください。
このセットには3体のロードがおります。ゴブリン、マーフォーク、そしてゾンビのロードですね。それぞれ皆様、対応する土地渡り(Landwalk)を授けてくださいます。これはよろしいでしょう。
それぞれゴブリンとマーフォークのロードは、配下の方々へ+1/+1を与えられます。さて、私たちのロードは? おお、なんということでしょう、彼は再生(Regeneration)の能力を授けてくださいました。あなたの2/2(もちろんバニラです)は、今や再生することができるようになったのです。
素晴らしい。ガーフィールドさん、いい仕事されてますね。
・その4
《食屍鬼/Scavenging Ghoul》の話でございます。グール(Ghoul)は、生きている者を食らうアンデッドですね。つまりこれはゾンビではないでしょうか? もし彼のクリーチャータイプをゾンビに変えていただくことが出来れば、こんなに嬉しいことはありません(註3)。
・その5
ゾンビの数についてお話いたしたく思います。
私たちは様々なジャンルに長い歴史を持っている種族でございます。ホラー、サイエンスフィクション、そしてなんと言いましてもファンタジー。
この長年の貢献に対して、マジックのカードではどのような扱いでしょうか? ゾンビに類するカードは3枚です。しかも実際にゾンビというクリーチャータイプを持っているのは、その中でわずかに1枚だけです。その1枚とは? 項目の2番をご参照いただけますでしょうか。
・最後に
これらを書きしたためております理由は、あなた様が話の分かる方だと思われるからです。これらの不当とも思える扱いはただの手違いであると確信しております。来たる次のセットでは必ずや是正されていることでしょう。
あなたの友人 ガ・アークより(註2) 映画ドーン・オブ・ザ・デッド/Dawn of the Dead
2004年公開のホラー映画。元気に走るゾンビが出てくる。
(註3) 《食屍鬼/Scavenging Ghoul》
当時は種族がグール(Ghoul)だったが、ガ・アークの願いが通じたのか、2007年の大規模クリーチャータイプ更新の際に見事ゾンビとなっている。なおこれ以降にも、当時はゾンビではなかったが今やゾンビのクリーチャーが多く存在する。
アラビアンナイト/Arabian Nights
アラビアンナイト/Arabian Nightsに収録されているゾンビ、およびゾンビ関連のカード:
なし
親愛なる ガーフィールド様へ
前回お送りさせて頂いた手紙では不必要なまでに強い調子で文章をしたためてしまったのではないかと後悔いたしております。私はただ自分の組合員のためにと思い行動している、つまらないただのアンデッドでございます。
マジックの初のエキスパンションであるアラビアンナイト。そのプレビューを確認させて頂いた私の驚きをご想像ください。
魔女やソーサレスからは、実にダークな雰囲気が感じられます。ジンやイフリートも、非常にセットの雰囲気に合っている思われます。
しかし、盗賊団、オーガ、ガーディアンはいかがなものでしょう。誰かが色の役割を見直す必要があるのではないでしょうか? この点についてはこれいじょう申し上げることはございません。
本日、筆をとりました理由は《Khabal Ghoul》についてでございます。
《食屍鬼/Scavenging Ghoul》を覚えていらっしゃいますか? そうです、前にお伝えしたようにグールはゾンビに含まれるのです。2つのセットがリリースされ、ゾンビであるにも関わらず正しくそう銘打たれたカードは4分の1に過ぎません。
今やグールは非常に恵まれた扱いを受けておりますが、誤解を恐れずにはっきり申し上げますと、私たちゾンビはこれに対し「クソむかついて」おります。
どうか、お願いです。ゾンビをお加えください。そしてお作りになった際には、どうかそれらをゾンビとお呼びいただけますでしょうか。
どうか、お願い致します。
あなたの友人 ガ・アークより
アンティキティー/Antiquities
アンティキティー/Antiquitiesに収録されているゾンビ、およびゾンビ関連のカード:
なし
親愛なる ガーフィールド様
まずはお詫び申し上げます。
矮小な死に損ないに過ぎない私のような存在が、世界に名だたる遊戯になるであろうマジックというゲームの創造者に対して多大なる無礼を働いたことをお許し下さい。
このアンティキティーというセットには明確なメッセージが感じられました(註4)。あなた様がアンティキティーのデザイナーを通じて私に送ったメッセージです。
そのメッセージはあまり雄弁で鮮やかでした。私があなた様へふざけた態度をとったことに対して、あなた様も私に当然の報復を行ったわけです。
深く承知いたしました。今後、無礼な態度は固く慎むように致します。そのうえで、多大なる影響力を有していらっしゃるデザイナーであるあなた様にこの哀れな死体の申し出をお届け致したく思います。
お願いです。どうか、どうかゾンビに多少の光をお当て下さいますよう、宜しくお願い致します。
あなたの友人 ガ・アークより(註4) アンティキティーというセット
アンティキティーはアーティファクトがテーマのセット。セット全体の枚数は85枚で、黒のクリーチャーはそのうちたったの4体しかいない。ちなみに4体のクリーチャータイプはそれぞれ、グレムリン、クレリック、ポルターガイスト、デーモン。
レジェンド/Legends
レジェンド/Legendsに収録されているゾンビ、およびゾンビ関連のカード:
なし
親愛なる ガーフィールド様
ちょっと待ってください。
いや、マジで、ちょっと待ってください。 ミイラ? 迷える魂? 歩く死体? 夜魔? 卑劣なる者? 地獄の番人? うちの奴らは血の気が引きましたよ。あ、いや、残ってる限りの血の気がです。
もうなんでもいいです。細かいこと言いません。もう《スケイズ・ゾンビ/Scathe Zombies》でもいいです。あ、いや、確かに今回の《Headless Horseman》も3マナで2/2のバニラですけど、そうじゃないんです。
ゾンビを下さい。
なんでもいいです。
あなたの友人 ガ・アークより
ザ・ダーク/The Dark
ザ・ダーク/The Darkに収録されているゾンビ、およびゾンビ関連のカード:
《The Drowned》
親愛なる ガーフィールド様
あなたはマジックのプレイヤーたちを相手にしております。
私は生肉喰らいの組合員たちを相手にしております。
私がこのまま彼らの要求に応えられない場合、残っている内臓も残らず食い荒らされてしまうことでしょう。
まず初めに感謝の意を捧げたいと思います。2体目のゾンビを作って下さったことに対するお礼です。しかし残念ながらこの《The Drowned》は私たちが求めているものとはちょっと違うのです。
まず色が青です。さらにその能力は私たちのロードが授けてくださるはずの能力そのものです。これではゾンビであることの有用性を高めることにはなりません。
もう1つ。あなたはフランケンシュタインという小説をお読みになられたことがありますでしょうか。このモンスター(註5)は死体のパーツをより合わせて作られたアンデッドです。あまり細かいことは言いたくないのですが、このクリーチャーは非常に「ゾンビ」だと思います。
それと《Eater of the Dead》です。「死体を喰らうもの」です。つまり彼は死体を食べるわけです。
おかしくないですか? なんでゾンビじゃないんですか!?
申し訳ありません。少々取り乱しました。あなたと事を構えたいわけではないのです。あくまで私の組合員が正当に扱われることを願っているのです。
冗談抜きで食われそうです。お願いします。
あなたの友人 ガ・アークより(註5) このモンスター
この単語にザ・ダークの《Frankenstein’s Monster》のカードデータがリンクされている。このカードの初出時のクリーチャータイプはモンスター(Monster)だった。なお2007年の例のアレで無事にゾンビ(Zombie)となっている。
フォールンエンパイア/Fallen Empire
フォールンエンパイア/Fallen Empireに収録されているゾンビ、およびゾンビ関連のカード:
なし
親愛なる ガーフィールド様
右足がありません。
なぜか分かりますか? それは彼らに食われたからです。
なんでそんなことをされたか分かりますか? それは彼らがマジでムカついているからです。
エキスパンションに放り込まれている黒のクリーチャーはスラル(Thrull)とクレリック(Cleric)、そしてウサギっぽいアバターが1匹。
私に餌をくれてもいい頃じゃないでしょうか。食べ残しの骨だけでもいいです。
あなたの友人 ガ・アークより
アイスエイジ/Ice Age
アイスエイジ/Ice Ageに収録されているゾンビ、およびゾンビ関連のカード:
《壊疽のゾンビ/Gangrenous Zombies》、《リム=ドゥールの軍勢/Legions of Lim-Dul》、《Lim-Dul’s Cohort》
親愛なる リチャードへ
ありがとうございます。
本当にありがとうございます。
左足は無事です。
あなたが私たちに授けて下さいました3体のゾンビに対し、深く感謝いたします。これによって現在のゾンビの数は2倍以上となりました。
今後も手紙をお送りすることになるとは思いますが、今回の件が私をいかに歓喜させたかだけはお忘れなきようお願いいたします。
このリム=ドゥール(Lim-Dul)という方が気に入りました。今後も活躍されるとよいのですが。
あなたの友人 ガ・アークより
ホームランド/Homelands
ホームランド/Homelandsに収録されているゾンビ、およびゾンビ関連のカード:
なし
親愛なる リチャードへ
あなたに怒りをぶつけるべきなのか、感謝を捧げるべきなのか迷っております。8つのセットがリリースされ、私たちにはわずかに5体のゾンビがいるだけです。
ともに頑張りましょう。
最近、残った片足に組合員の視線を感じます。
あなたの友人 ガ・アークより
追伸:
ところでリム=ドゥールさんはどこに行かれたのでしょうか?
アライアンス/Alliances
アライアンス/Alliancesに収録されているゾンビ、およびゾンビ関連のカード:
《バルデュヴィアの死者/Balduvian Dead》、《Feast or Famine》
親愛なる ローズウォーター様
あなたが次の窓口担当だとリチャードから連絡がありました。宜しくお願い致します。
明るい話から始めましょう。6番目と7番目の当たる私たちの代表について感謝したいと思います(《バルデュヴィアの死者/Balduvian Dead》と《Feast or Famine》(註6)ですね)。
この日に至るまでに収録されたゾンビの中でも《バルデュヴィアの死者/Balduvian Dead》は最上級のゾンビと思われます。誠にありがとうございます。
さて、その上でお伝えしたいことがあります。アイスエイジがリリースされた際に、私にはある望みが芽生えてまいりました。
アイスエイジでの、屍術師リム=ドゥールの登場、および1セットに3体のゾンビ。もしかしたらこれが今後の主流となるのではないか、という望みです。
ところがそれ以降、2つのセットがリリースされた現在、新たに加わったゾンビはわずかに1体です。現在、ゾンビデッキを組もうとすると3色デッキになります(註7)。
私たちをお助けください。
あなたの友人 ガ・アークより(註6) 《Feast or Famine》
余談。《Feast or Famine》は、2つのモードのいずれかを選ぶインスタントだが、この両方の効果を剣に込めると効果が変わるだけでなく、桁違いの強さになる。詳細は以下のURLを参照のこと。
http://magiccards.info/mbs/en/138.html
(註7) 3色デッキ
《Drowned》が青のクリーチャーで、《バルデュヴィアの死者/Balduvian Dead》は黒クリーチャーだがその能力の起動コストには赤マナを必要とする。
後編へ続く
http://regiant.diarynote.jp/201102260757166492/
ミラージュ/Mirage
ミラージュ/Mirageに収録されているゾンビ、およびゾンビ関連のカード:
《墓いらずのゾンビ/Gravebane Zombie》、《墓石の階段/Tombstone Stairwell》、《ゾンビの群れ/Zombie Mob》
ビジョンズ/Visions
ビジョンズ/Visionsに収録されているゾンビ、およびゾンビ関連のカード:
なし
ウェザーライト/Weatherlight
ウェザーライト/Weatherlightに収録されているゾンビ、およびゾンビ関連のカード:
《墳墓の食屍鬼/Barrow Ghoul》、《骨の踊り手/Bone Dancer》、《腐肉あさりのゾンビ/Zombie Scavengers》
テンペスト/Tempest
テンペスト/Tempestに収録されているゾンビ、およびゾンビ関連のカード:
《ダウスィーの食屍鬼/Dauthi Ghoul》、《グレイブディガー/Gravedigger》、《肉占い/Sarcomancy》
ストロングホールド/Stronghold
ストロングホールド/Strongholdに収録されているゾンビ、およびゾンビ関連のカード:
なし
エクソダス/Exodus
エクソダス/Exodusに収録されているゾンビ、およびゾンビ関連のカード:
《カーノファージ/Carnophage》、《疫病媒体/Plaguebearer》
ウルザズ・サーガ/Urza’s Saga
ウルザズ・サーガ/Urza’s Sagaに収録されているゾンビ、およびゾンビ関連のカード:
《沼の略奪隊/Bog Raiders》、《大笑いの悪鬼/Cackling Fiend》、《ファイレクシアの食屍鬼/Phyrexian Ghoul》
ウルザズ・レガシー/Urza’s Legacy
ウルザズ・レガシー/Urza’s Legacyに収録されているゾンビ、およびゾンビ関連のカード:
《雑兵の群れ/Rank and File》
スターター 99/Starter ’99(註9)
スターター 99/Starter ’99に収録されているゾンビ、およびゾンビ関連のカード:
《虚ろの犬/Hollow Dogs》、《スケイズ・ゾンビ/Scathe Zombies》、《沼の略奪隊/Bog Raiders》、《Dakmor Ghoul》、《グレイブディガー/Gravedigger》
ウルザズ・デスティニー/Urza’s Destiny
ウルザズ・デスティニー/Urza’s Destinyに収録されているゾンビ、およびゾンビ関連のカード:
なし
アングルード/Unglued
アングルード/Ungluedに収録されているゾンビ、およびゾンビ関連のカード:
《Deadhead》、《Temp of the Damned》
メルカディアン・マスクス/Mercadian Masques
メルカディアン・マスクス/Mercadian Masquesに収録されているゾンビ、およびゾンビ関連のカード:
《ディープウッドの食屍鬼/Deepwood Ghoul》、《真夜中の儀式/Midnight Ritual》
ネメシス/Nemesis
ネメシス/Nemesisに収録されているゾンビ、およびゾンビ関連のカード:
なし
プロフェシー/Prophecy
プロフェシー/Prophecyに収録されているゾンビ、およびゾンビ関連のカード:
《棺の操り人形/Coffin Puppets》、《縫い目のゾンビ/Whipstitched Zombie》
インベイジョン/Invasion
インベイジョン/Invasionに収録されているゾンビ、およびゾンビ関連のカード:
《メタスランのゾンビ/Metathran Zombie》、《ファイレクシアの発掘者/Phyrexian Delver》、《火葬のゾンビ/Pyre Zombie》、《シヴのゾンビ/Shivan Zombie》、《ヴォーデイリアのゾンビ/Vodalian Zombie》
プレーンシフト/Planeshift
プレーンシフト/Planeshiftに収録されているゾンビ、およびゾンビ関連のカード:
《溶岩のゾンビ/Lava Zombie》、《蛆たかり/Maggot Carrier》、《夜景学院の使い魔/Nightscape Familiar》、《ファイレクシアの吸血兵/Phyrexian Bloodstock》、《ファイレクシアの盾持ち/Phyrexian Scuta》、《死人カタパルト/Deadapult》、《ドラルヌの十字軍/Dralnu’s Crusade》、《アンデッドの王/Lord of the Undead》
アポカリプス/Apocalypse
アポカリプス/Apocalypseに収録されているゾンビ、およびゾンビ関連のカード:
《墓荒らし/Grave Defiler》、《ラノワールの死者/Llanowar Dead》、《哀しげなゾンビ/Mournful Zombie》、《腐肉戦士/Putrid Warrior》、《泥沼のドルイド/Quagmire Druid》、《ゾンビ・ボア/Zombie Boa》、《夜の力/Strength of Night》
オデッセイ/Odyssey
オデッセイ/Odysseyに収録されているゾンビ、およびゾンビ関連のカード:
《墓所を歩くもの/Crypt Creeper》、《飢えたる食屍鬼/Famished Ghoul》、《グレイブディガー/Gravedigger》、《朽ちゆく巨人/Rotting Giant》、《ゾンビの暗殺者/Zombie Assassin》、《共食いゾンビ/Zombie Cannibal》、《ゾンビの横行/Zombie Infestation》
トーメント/Torment
トーメント/Tormentに収録されているゾンビ、およびゾンビ関連のカード:
《屍肉ワーム/Carrion Wurm》、《怪奇な混種/Grotesque Hybrid》、《臓器をすり砕く者/Organ Grinder》、《朽ちゆくインプ/Putrid Imp》、《ゾンビの先駆者/Zombie Trailblazer》
ジャッジメント/Judgment
ジャッジメント/Judgmentに収録されているゾンビ、およびゾンビ関連のカード:
《汚らわしき者バルソー/Balthor the Defiled》、《縫合グール/Sutured Ghoul》
オンスロート/Onslaught
オンスロート/Onslaughtに収録されているゾンビ、およびゾンビ関連のカード:
《呪われたケンタウルス/Accursed Centaur》、《アヌーリッドの濁り水潜り/Anurid Murkdiver》、《アフェットの禿鷹/Aphetto Vulture》、《骨を組む者/Boneknitter》、《臓物にかぶりつく者/Entrails Feaster》、《堕ちたる僧侶/Fallen Cleric》、《ただれたゴブリン/Festering Goblin》、《恐怖布の急使/Frightshroud Courier》、《壊疽の大巨人/Gangrenous Goliath》、《暴食するゾンビ/Gluttonous Zombie》、《墓地生まれの君主/Gravespawn Sovereign》、《憑依された死者/Haunted Cadaver》、《ナントゥーコの鞘虫/Nantuko Husk》、《腐れ肺の再生術師/Rotlung Reanimator》、《切り刻まれた軍勢/Severed Legion》、《腐敗を導く者/Shepherd of Rot》、《魂無き者/Soulless One》、《針刺の殴り獣/Spined Basher》、《アンデッドの剣闘士/Undead Gladiator》、《歩き回る冒涜者/Walking Desecration》、《卑劣なアヌーリッド/Wretched Anurid》、《残酷な蘇生/Cruel Revival》、《餌の取り合い/Feeding Frenzy》、《部族のゴーレム/Tribal Golem》、《邪悪な岩屋/Unholy Grotto》
レギオン/Legions
レギオン/Legionsに収録されているゾンビ、およびゾンビ関連のカード:
《死体の収穫者/Corpse Harvester》、《皮を剥ぐ者/Skinthinner》、《腐れざる喧嘩屋/Embalmed Brawler》、《したたる死者/Dripping Dead》、《宝石の手の汚染者/Gempalm Polluter》、《恐ろしい残存者/Ghastly Remains》、《墓生まれの詩神/Graveborn Muse》、《有毒グール/Noxious Ghoul》、《煙吐く発動者/Smokespew Invoker》、《萎縮した卑劣漢/Withered Wretch》、《ゾンビの粗暴者/Zombie Brute》
死して屍拾う者なし
そのようなわけで、ゾンビたちが自らを収録してもらうために幾年ものあいだ努力してきたのが十分に分かってもらえたと思う。時とともに彼らの数が増してきたのも当然の結果だろう。
ここに、今現在のマジックのセットに収録されているゾンビを簡単なリスト(註14)にしてみた。
さて、ゾンビの世界に関して多少なりとも理解が深めてもらえたのではないかと願っている。来週はインタビューで皆からの質問に答えるのでぜひにも参加して欲しい。
インタビューで私に尋ねたい質問があれば以下のメールアドレスにそれを送っておくのを忘れないようにしてくれ。
makingmagic@wizards.com.
今時点ですでにたくさんのお便りをもらっている。来週のコラムはなかなか興味深いものになるだろう。
それまで、皆がゾンビに襲われないよう願っているよ!
マーク・ローズウォーター
ミラージュ/Mirageに収録されているゾンビ、およびゾンビ関連のカード:
《墓いらずのゾンビ/Gravebane Zombie》、《墓石の階段/Tombstone Stairwell》、《ゾンビの群れ/Zombie Mob》
親愛なる ローズウォーター様
私の前回の手紙があなたの耳に無事届いたことを知り、胸をなでおろしております。
3体もの新たなゾンビ! 《墓いらずのゾンビ/Gravebane Zombie》、《墓石の階段/Tombstone Stairwell》、そして《ゾンビの群れ/Zombie Mob》です!
さて、上記のカードのうち、1枚につきまして少々申し上げたい点がございます。
《ゾンビの群れ/Zombie Mob》です。
まず初めに、私の仲間たちが死体を1つ2つ喰らうと思われていることは知っております。しかし墓地にあるクリーチャーたちをことごとく食してしまうというメカニズムは少々やりすぎではないでしょうか(註8)。
何が言いたいかと申しますと、私たちは死体以外も食します。例えばですが、生きている者も、です。
2つ目にこのカードについて申し上げたいこととして、私が危惧しておりますのは、ゾンビがいつも集団として描かれることです。
これによって多くの人が抱いている「ゾンビとは愚鈍な存在である」という偏見を助長させる恐れがあります。また、ゾンビは群れないと何もできない、と勘違いされる可能性があるように思われます。
これがあなたの思考の糧となれば幸いです。
あなたの友人 ガ・アークより(註8) 墓地にあるクリーチャーたちをことごとく食してしまう
《ゾンビの群れ/Zombie Mob》のカードテキストは以下の通り。Zombie Mob / ゾンビの群れ (2)(黒)(黒)
クリーチャー - ゾンビ(Zombie)
ゾンビの群れは、あなたの墓地にあるクリーチャー・カード1枚につきその上に+1/+1カウンターが1個置かれた状態で戦場に出る。
ゾンビの群れが戦場に出たとき、あなたの墓地にあるすべてのクリーチャー・カードを追放する。
2/0
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Zombie+Mob/
ビジョンズ/Visions
ビジョンズ/Visionsに収録されているゾンビ、およびゾンビ関連のカード:
なし
親愛なる ローズウォーター様
最新のセットに対する私の悩みをお伝えするに当たって、喩えを用いたいと思います。
あなた様もときには血をすする機会があると思われますが、一度血をすすりますと、アドレナリンが沸き、さらに血を欲するようになりますよね?
ええ、ゾンビ・カードも同じなのです。
お分かりでしょうが、最近のいくつかのエキスパンションに見られた傾向について、組合員たちはそれが当然だと思うようになっております。
そのため、あなたの最近の硬直気味の態度を、彼らは好ましく思ってはおりません(なお余談ですが、死後硬直した相手に、堅苦しい態度をとることはオススメしません)。
私の右足は今や膝までしかありません。
今回のようなセットが今後も続くようであれば、あなたへお手紙をお送りするのは新しい担当者になるでしょう。念のためにお伝えしておきますが、次の担当者はしつこく手紙を送る以上のことをするかもしれません。
あなたの幸せを(そしてもちろん私の幸せも)願って言うのですが、さらなるゾンビをお与えください。
あなたの友人 ガ・アークより
ウェザーライト/Weatherlight
ウェザーライト/Weatherlightに収録されているゾンビ、およびゾンビ関連のカード:
《墳墓の食屍鬼/Barrow Ghoul》、《骨の踊り手/Bone Dancer》、《腐肉あさりのゾンビ/Zombie Scavengers》
親愛なる マークへ
私の最後のお手紙が脅迫ととられたのではないかと気に病んでおります。しかし今回の新たに3体のゾンビが加わりましたことは、そちらの過去の過ちに対する償いだろうととらえております。
唯一の懸念する点といたしましては、全てのゾンビがまたしても墓地のクリーチャーを喰らっていることです。
はいはい、確かに私たちは死体を喰らいますよ。
否定はしませんよ。
で、面白いと思ってやってるんでしょう?
どうせなら、もう今後のゾンビのイラストは全て、手を前に伸ばして「脳みそくれー、脳みそくれー」ってやってるところでいいんじゃないでしょうか?
私たちにも種族のプライドというものがあります。ご理解頂きたく。
あなたの友人 ガ・アークより
テンペスト/Tempest
テンペスト/Tempestに収録されているゾンビ、およびゾンビ関連のカード:
《ダウスィーの食屍鬼/Dauthi Ghoul》、《グレイブディガー/Gravedigger》、《肉占い/Sarcomancy》
親愛なる マークへ
素晴らしい!
たった3体ですが、間違いなく質を上げてきておりますね。いやはや、それどころか《肉占い/Sarcomancy》に至ってはトーナメントレベルのカードではないですか。
最後に1点だけ追記させてください。
肉占い(Sacromancy)という言葉は実際にはありません。
あなたの友人 ガ・アークより
ストロングホールド/Stronghold
ストロングホールド/Strongholdに収録されているゾンビ、およびゾンビ関連のカード:
なし
親愛なる マークへ
ご存知ないかもしれないのでお教えいたしますが、あなたの家からほんの半マイル(訳注:約800m)ほどのところに墓地が1つあります。
ゾンビのデザインにあまり時間を割いてらっしゃらないようなので、お伝えすべきかと思われました。
あなたの友人 ガ・アークより
エクソダス/Exodus
エクソダス/Exodusに収録されているゾンビ、およびゾンビ関連のカード:
《カーノファージ/Carnophage》、《疫病媒体/Plaguebearer》
親愛なる マークへ
《カーノファージ/Carnophage》と《疫病媒体/Plaguebearer》に感謝いたします。
《肉占い/Sarcomancy》と《カーノファージ/Carnophage》の活躍で、微妙ながらもついにゾンビデッキと呼べそうなトーナメントレベルのデッキが出来るようになりました。心から感謝しております。
1つだけ宜しいでしょうか。《疫病媒体/Plaguebearer》についです。
組合の何人かが、これだけは伝えておいて欲しいと強く主張してきたのですが、ゾンビの一部が疫病を媒介しているという事実に肩身が狭い思いをしているとのことです。
私たちが社会的に敬遠される理由の1つでもあります。今後のゾンビのカードをデザインされる際には取り上げないで頂けると幸甚に思います。
あなたの友人 ガ・アークより
追伸:
墓地は変わらず半マイル先にあります。
ウルザズ・サーガ/Urza’s Saga
ウルザズ・サーガ/Urza’s Sagaに収録されているゾンビ、およびゾンビ関連のカード:
《沼の略奪隊/Bog Raiders》、《大笑いの悪鬼/Cackling Fiend》、《ファイレクシアの食屍鬼/Phyrexian Ghoul》
親愛なる マークへ
前回よりずっといいですね。この調子でお願いします。
あなたの友人 ガ・アークより
ウルザズ・レガシー/Urza’s Legacy
ウルザズ・レガシー/Urza’s Legacyに収録されているゾンビ、およびゾンビ関連のカード:
《雑兵の群れ/Rank and File》
親愛なる マークへ
お言葉ですが《雑兵の群れ/Rank and File》とはどのような意味で名づけられたのでしょうか?
もしかして「腐るほどいる」と言いたいのでしょうか? 実際に腐った肉を目にしたことがありますか? もしあれば、同じ態度はとれないでしょうね。
最新エキスパンションのパックを剥いたときにゾンビを笑い者にするようなカードを見るようなことは二度とあって欲しくありません。
あなたの友人 ガ・アークより
スターター 99/Starter ’99(註9)
スターター 99/Starter ’99に収録されているゾンビ、およびゾンビ関連のカード:
《虚ろの犬/Hollow Dogs》、《スケイズ・ゾンビ/Scathe Zombies》、《沼の略奪隊/Bog Raiders》、《Dakmor Ghoul》、《グレイブディガー/Gravedigger》
親愛なる マークへ
通常は、基本セットやスターターについてお手紙をお送りすることはないのですが、《スケイスゾンビ/Scathe Zombies》の新しいフレイバーテキスト(註10)についてご連絡する必要があります(ところで、基本セットにもう少しましなゾンビを収録する予定はないのでしょうか?)。
フレイバーテキスト
"Luckily for them, it doesn’t make much brains to slaughter and maim."
(彼らにとっては幸運なことに、殺戮と暴力に大した脳みそは必要ない)(註11)
どこから指摘すべきか分かりません。
もしかして、私たちは馬鹿だと言いたいのですか? 殺したり暴力を振るうのがそんなに簡単に見えますか? 殺戮と暴力には強い精神力が必要だということを御存じないようですね。
それと、脳みその欠落に何か問題でも?
私たちが脳みそを喰らうところを見たいならご覧にいれますよ?
あなたの友人 ガ・アークより(註9) スターター 99/Starter ’99
ポータルから派生した初心者用入門セット。本来の名前は単にスターター/Starterだが、2000年に発売されたスターター2000/Starter 2000と区別して、スターター 99/Starter ’99とも呼ばれる。このコラムでの表記も「Starter ’99」。
(註10) 新しいフレイバーテキスト
《スケイスゾンビ/Scathe Zombies》はスターター 99を含めて10セットに収録されているが、スターター 99収録時のみ、異なるフレイバーテキストが用いられている。スターター 99以降はそれ以前のフレイバーテキストに戻っているのは、ガ・アークの苦情が通ったと見るべきか。
(註11) 日本語訳
スターターは日本語版が存在しないため、日本語フレイバーテキストは非公式訳(というか単なる私訳)。
ウルザズ・デスティニー/Urza’s Destiny
ウルザズ・デスティニー/Urza’s Destinyに収録されているゾンビ、およびゾンビ関連のカード:
なし
親愛なる マークへ
お願いがあります。
映画ナイト・オブ・ザ・リビングデッド/Night of the Living Dead(註12)のビデオをお借りになられることをおすすめいたします。
夜は怖くて眠れなくなるでしょうから、その時間を使って恐ろしいゾンビ・カードをデザインされてはいかがでしょうか?
あなたの友人 ガ・アークより(註12) 映画ナイト・オブ・ザ・リビングデッド/Night of the Living Dead
1968年公開の映画。何度もリメイクされているゾンビ映画の古典。
アングルード/Unglued
アングルード/Ungluedに収録されているゾンビ、およびゾンビ関連のカード:
《Deadhead》、《Temp of the Damned》
親愛なる マークへ
このセット自体がジョークであることは分かっているつもりですが、《Deadhead》について組合員の一部がひどく腹を立てております(特にジェリー(註13)が)。
それだけではありません。《Temp of the Damned》もひどいです。ゾンビがパートタイムの仕事を得るのにどれだけ苦労しているか、あなたはご存知なのでしょうか?
恥を知るべきです。
あなたの友人 ガ・アークより(註13) ジェリー
ロックバンド「The Grateful Dead」のジェリー・ガルシア。故人。彼の所属するこのバンドの熱狂的なファンを「Deadhead」と呼ぶ。アングルードの《Deadhead》の元ネタ。
メルカディアン・マスクス/Mercadian Masques
メルカディアン・マスクス/Mercadian Masquesに収録されているゾンビ、およびゾンビ関連のカード:
《ディープウッドの食屍鬼/Deepwood Ghoul》、《真夜中の儀式/Midnight Ritual》
親愛なる マークへ
330枚のカードが収録されているセットに、わずか2枚のゾンビ・カードですか。
悲しいのは、これでも平均より上の枚数だということです。しかし私は、いつかマジックの世界にもそこかしこにゾンビが走り回るような(そう、現実のこの世界のような)日が来るだろう、という夢を捨てるつもりはありません。
ここで私と一緒に働きませんか、マーク。
あなたが優れたデザイナーであることはよく知っております。私たちが誇りに思えるようなゾンビを作ってください。
あなたの友人 ガ・アークより
ネメシス/Nemesis
ネメシス/Nemesisに収録されているゾンビ、およびゾンビ関連のカード:
なし
親愛なる マークへ、
私の組合が何の組合かお忘れではないでしょうか。うちの組合員に喧嘩を売りたいわけではないでしょう?
念のため申し上げておきますが、うちの組合員は話して分かるというような簡単な奴らではありません。
もし次のエキスパンションにゾンビが入っていないようなことがあれば、右足の心配をされたほうがよいと思います。
あなたの友人 ガ・アークより
プロフェシー/Prophecy
プロフェシー/Prophecyに収録されているゾンビ、およびゾンビ関連のカード:
《棺の操り人形/Coffin Puppets》、《縫い目のゾンビ/Whipstitched Zombie》
親愛なる マークへ
組合員たちは飢えています
ゾンビ・カードに飢えています。
このセットに収録されている2体のゾンビで彼らをしばらくのあいだは抑えておけるでしょうが、そのあいだに早急な路線変更をする必要があるとお伝えしておきます。それも大きな変更を。
私たちの地位は日々の中で向上してしまいました。いくつものセットで続けて軽視されるような事態を指をくわえて黙って見ているようなことはもうできないのです。
私たち双方の為に、このことを責任ある方へきちんとお伝えください。
私たちはゾンビが必要であり、それは今必要なのです。ここかあそこに1体か2体あれば、というような話ではないのです。私が求めているのは本物の確約です。
奥様のことを愛していらっしゃるのでしょう?
あなたの友人 ガ・アークより
インベイジョン/Invasion
インベイジョン/Invasionに収録されているゾンビ、およびゾンビ関連のカード:
《メタスランのゾンビ/Metathran Zombie》、《ファイレクシアの発掘者/Phyrexian Delver》、《火葬のゾンビ/Pyre Zombie》、《シヴのゾンビ/Shivan Zombie》、《ヴォーデイリアのゾンビ/Vodalian Zombie》
親愛なる マークへ
私の激励がお力となったようですね!
1つのセットに6体ものゾンビです。そのうちの1つはあの《Drowned》の同型再販ですが、それすら気になりません。新記録ですね。しかもそのうちの3つ(6つのうち最後に挙げた3つです)は、構築でも姿を見せております。
ところでうちのかわいい組合員たちは最近「新しいロードが出てもいい頃じゃないかな」と言っています。前にも触れたように、以前からいる《ゾンビ使い/Zombie Lord》は必ずしもゾンビにとって光明とは言えません。
ああ、そうそう、おめでとうございます。
娘さんがお生まれになったそうですねえ?
あなたの友人 ガ・アークより
プレーンシフト/Planeshift
プレーンシフト/Planeshiftに収録されているゾンビ、およびゾンビ関連のカード:
《溶岩のゾンビ/Lava Zombie》、《蛆たかり/Maggot Carrier》、《夜景学院の使い魔/Nightscape Familiar》、《ファイレクシアの吸血兵/Phyrexian Bloodstock》、《ファイレクシアの盾持ち/Phyrexian Scuta》、《死人カタパルト/Deadapult》、《ドラルヌの十字軍/Dralnu’s Crusade》、《アンデッドの王/Lord of the Undead》
親愛なる マークへ
うちの組合員はあまりの嬉しさに我を忘れております。
5体のゾンビ、ゾンビに関連するエンチャントが2つ、そして素晴らしい新たなロードである《アンデッドの王/Lord of the Undead》。いくつかはトーナメントレベルのカードではないですか。
ぜひこの調子でお願いいたします。
それと、まあ、あとはお分かりですよね。
あなたの友人 ガ・アークより
アポカリプス/Apocalypse
アポカリプス/Apocalypseに収録されているゾンビ、およびゾンビ関連のカード:
《墓荒らし/Grave Defiler》、《ラノワールの死者/Llanowar Dead》、《哀しげなゾンビ/Mournful Zombie》、《腐肉戦士/Putrid Warrior》、《泥沼のドルイド/Quagmire Druid》、《ゾンビ・ボア/Zombie Boa》、《夜の力/Strength of Night》
親愛なる マークへ
6体のゾンビ、そしてゾンビを補助する呪文。
私の崩れかけた顔にも笑みが浮かぶというものです。
あなたの友人 ガ・アークより
オデッセイ/Odyssey
オデッセイ/Odysseyに収録されているゾンビ、およびゾンビ関連のカード:
《墓所を歩くもの/Crypt Creeper》、《飢えたる食屍鬼/Famished Ghoul》、《グレイブディガー/Gravedigger》、《朽ちゆく巨人/Rotting Giant》、《ゾンビの暗殺者/Zombie Assassin》、《共食いゾンビ/Zombie Cannibal》、《ゾンビの横行/Zombie Infestation》
親愛なる マークへ
3セット続けて、ゾンビ関連のカードが7枚以上です。拍手喝さいですよ。墓地をテーマとしたセット! ブラボー!
そろそろ賭け金を釣り上げるべきところに来ていると感じます。最近の収録されている枚数も大したものですが、あなたの本当の力はこんなものではないだろう、というのが私と組合員たちの感じているところです。
御一考下さい。
あなたの友人 ガ・アークより
トーメント/Torment
トーメント/Tormentに収録されているゾンビ、およびゾンビ関連のカード:
《屍肉ワーム/Carrion Wurm》、《怪奇な混種/Grotesque Hybrid》、《臓器をすり砕く者/Organ Grinder》、《朽ちゆくインプ/Putrid Imp》、《ゾンビの先駆者/Zombie Trailblazer》
親愛なる マークへ
あなたのファイトに尊敬の念を禁じえません。黒を中心に据えたセット。賢いですね。
しかしそれだけのことをして、セットにはたった5体のゾンビですか? 確かに、数年前であれば、私たちも墓から飛び出さんばかりに踊り狂ったでしょう。しかし今日の私たちは今少し舌が肥えております。
《顔なしの解体者/Faceless Butcher》などはよいゾンビになったことでしょうに!
もっと。もっとです。
あなたの友人 ガ・アークより
ジャッジメント/Judgment
ジャッジメント/Judgmentに収録されているゾンビ、およびゾンビ関連のカード:
《汚らわしき者バルソー/Balthor the Defiled》、《縫合グール/Sutured Ghoul》
親愛なる マークへ
マーク? マーク!? 聞こえてますか、マーク!?
2体ですか? あのアライアンスの日々、再来ですか? このセットが白と緑をテーマに据えていることは知っていますが、そのうえで、です。
あ、そうそう。
ゾンビになってから知ったのですが、十分に深く掘り下げればそれだけ面白いものを掘り当てられる、ということです。たとえば、この手紙に同封した写真を見て下さい。
これがマジックのファンたちに送られて、彼らのサイトに載るようなことがあったら、あなたはどうなるでしょうねえ? それらに対するコメントが今から目に浮かぶようです。
いや、もちろん実際はそのようなことにはならないでしょう。
私はあなたがどうやったらマジック界のゾンビの地位を向上させることができるかについて優れたアイデアをたくさんお持ちだとよく知っておりますから。
少なくともあなたご自身のために、そうであって欲しいと思っております。
あなたの友人 ガ・アークより
オンスロート/Onslaught
オンスロート/Onslaughtに収録されているゾンビ、およびゾンビ関連のカード:
《呪われたケンタウルス/Accursed Centaur》、《アヌーリッドの濁り水潜り/Anurid Murkdiver》、《アフェットの禿鷹/Aphetto Vulture》、《骨を組む者/Boneknitter》、《臓物にかぶりつく者/Entrails Feaster》、《堕ちたる僧侶/Fallen Cleric》、《ただれたゴブリン/Festering Goblin》、《恐怖布の急使/Frightshroud Courier》、《壊疽の大巨人/Gangrenous Goliath》、《暴食するゾンビ/Gluttonous Zombie》、《墓地生まれの君主/Gravespawn Sovereign》、《憑依された死者/Haunted Cadaver》、《ナントゥーコの鞘虫/Nantuko Husk》、《腐れ肺の再生術師/Rotlung Reanimator》、《切り刻まれた軍勢/Severed Legion》、《腐敗を導く者/Shepherd of Rot》、《魂無き者/Soulless One》、《針刺の殴り獣/Spined Basher》、《アンデッドの剣闘士/Undead Gladiator》、《歩き回る冒涜者/Walking Desecration》、《卑劣なアヌーリッド/Wretched Anurid》、《残酷な蘇生/Cruel Revival》、《餌の取り合い/Feeding Frenzy》、《部族のゴーレム/Tribal Golem》、《邪悪な岩屋/Unholy Grotto》
親愛なる マークへ
ありがとうございます。
ねえ、それほど難しい事ではなかったでしょう?
ああ、21体のゾンビ!
嬉しい事はそれだけじゃありません。それとは別に、さらにゾンビの力となってくれるカードが4枚、それだけでなく部族デッキを後押ししてくれるいくつものカードたち。
さぞかし例の写真が心ない人の手に渡るのが嫌だったのでしょうねえ。
なべて世はこともなし。ゾンビたちは幸せです。
あなたの友人 ガ・アークより
レギオン/Legions
レギオン/Legionsに収録されているゾンビ、およびゾンビ関連のカード:
《死体の収穫者/Corpse Harvester》、《皮を剥ぐ者/Skinthinner》、《腐れざる喧嘩屋/Embalmed Brawler》、《したたる死者/Dripping Dead》、《宝石の手の汚染者/Gempalm Polluter》、《恐ろしい残存者/Ghastly Remains》、《墓生まれの詩神/Graveborn Muse》、《有毒グール/Noxious Ghoul》、《煙吐く発動者/Smokespew Invoker》、《萎縮した卑劣漢/Withered Wretch》、《ゾンビの粗暴者/Zombie Brute》
親愛なる マークへ
小セットにも関わらず、11体のゾンビです。
このような日が来るまで死んでいられるとは思ってもみませんでした。
スカージが待ち遠しいです。
あなたの友人 ガ・アークより
追伸:
写真は安全な場所に隠してあります。
死して屍拾う者なし
そのようなわけで、ゾンビたちが自らを収録してもらうために幾年ものあいだ努力してきたのが十分に分かってもらえたと思う。時とともに彼らの数が増してきたのも当然の結果だろう。
ここに、今現在のマジックのセットに収録されているゾンビを簡単なリスト(註14)にしてみた。
さて、ゾンビの世界に関して多少なりとも理解が深めてもらえたのではないかと願っている。来週はインタビューで皆からの質問に答えるのでぜひにも参加して欲しい。
インタビューで私に尋ねたい質問があれば以下のメールアドレスにそれを送っておくのを忘れないようにしてくれ。
makingmagic@wizards.com.
今時点ですでにたくさんのお便りをもらっている。来週のコラムはなかなか興味深いものになるだろう。
それまで、皆がゾンビに襲われないよう願っているよ!
マーク・ローズウォーター
(註14) リスト
原文には、ゾンビ・カードおよびゾンビ関連のカードがエキスパンションごとにリストになっている。以下のURLを参照のこと。
http://www.wizards.com/Magic/Magazine/Article.aspx?x=mtgcom/daily/mr61#table
長過ぎて1つの記事に収まらなかったため、前編/後編に分けてみる
世界侵略:インベイジョン決戦/Body Snatchers of the Invasion
Mark Rosewater
2005年08月08日
元記事:http://www.wizards.com/Default.asp?x=mtgcom/daily/mr188
インベイジョン週間へようこそ!
今週は私たちが探険するのは「歴代マジックの中でも随一のエキスパンション」だ(いや、まあ正直言うと「あの【放送禁止用語】なセットのことか!?」って言う人もいるけどね)。
デザインチームの一員として、他のどこでも聞けないような見識を聞かせてあげよう。いや、ごめん、さすがに「どこでも」は言いすぎかもしれないな。R&Dの副責任者でありインベイジョンのリード・デザイナーでもあるBill Roseが今週の特集記事を書いてるから、彼も知っていることかもしれない。だから、私がこれから話すことは特集記事をのぞけば他のどこでも聞けないような話ということになるんだろう。
私がこの記事を書いている今現在、Billはまだ彼の記事を書き終えていない。よって私は彼が何について語るのかよく分かっていない。
話が重複する可能性を減らすため(それだけならまだしも互いの話が矛盾する可能性を避けるため)、私は個別のカードについてのみ話すことに決めた。Billはセットのメカニズムのデザインについて話してくれるだろうと願っている(彼とまったく相談してないわけじゃないから「~と願っている」というのはちょっと言いすぎかもしれない)。
さて、カード個別の話に移る前に、舞台を整えさせて欲しい。
私の父について/Dad To The Bone
まず初めに、私の父について知っておいてもらいたい点が3つある。
その1 私の父はマジックのプレイヤーである
そのとおり、ここで登場したのは、私の実の父の話だ。
1993年の10月、私は父を尋ねた。そのとき私は、その夏に見つけた新しいゲームを封切らずに新品のまま持っていった。いや、じらしてもしょうがないからはっきり言ってしまうと、私が持っていったのはマジックだ。
何にせよ、私はとあるゲームのコンベンションでアルファ版をいくつか購入した。私が自分の発見したものの価値(私はマジックについて「70年代のD&Dと同じレベルのすごいことがゲーム界で起きようとしている」と伝えるためだけに、実際に電話口に父を呼び出したほどだ)に気づいたとき、私はベータ版が出るまで待ち焦がれるしかない状態だった。
ベータ版が出たとき、私はスターター2ボックスとブースター2ボックスを購入した。なぜならもし友人たちもこのゲームに引きずりこむつもりならブツはこちらから提供する必要があることを知っていたからだ(ちなみに南カリフォルニアではベータ版が1日で売り切れた)。
何にせよ、1993年の10月に私は父へ未開封のマジックを持っていた。私がゲーム好きとなった主な原因の1つは私の父であり、父がマジックを好きになるであろうことは間違いなかった。
もちろん、その通りだった。
それ以来、父はマジックを遊び続けている。主要幹線道路から多少外れたところに住んでいる父は、最近では主にマジックオンラインを遊んでいるらしい。
さてここで2つ目に話すべき点に移る必要がある。
その2 私の父はタホ湖(註1)に住んでいる
私はクリーヴランド(註2)で育った。しかしそんな地理的条件のみでは私の両親をスキーから遠ざけることは出来なかった。彼らはあまりにスキー好きだったので私にとっての家族旅行とは大抵の場合スキー旅行を意味していた。
私たちは地元でスキーを始めた。
次にニューヨーク州まで足を伸ばした。
その次はバーモント州まで出向いた。
しかし最終的に私たちはスキーのために西部まで出向いた。コロラド州、ユタ州、カリフォルニア州、ネバダ州、私はこれら全ての州でスキーをしたことがある。
そのため父が何年も前に隠居を決めたとき(彼は比較的早い時期に退職した。両親が離婚してすぐの頃だ)彼はタホ湖へ引っ越した。タホ湖は、カリフォルニア州とネバダ州の境にありスキーを楽しむのに適した小奇麗な場所だ。引っ越す際、いつでも好きなときに来なさい、と言ってくれた。
さらに「友達も連れてきなさい、何人でもかまわないから」とも。
(註1) タホ湖
原文では「Lake Tahoe」。カリフォルニア州とネバダ州にまたがる湖。
(註2) クリーヴランド
五大湖の1つであるエリー湖のほとりにあるオハイオ州の町。
その3 私の父はスキーのインストラクターだ
クリーヴランドにいた頃、私の父は自分の診療所を持った歯科医だった(他に何人かの歯科医が父の下で働いていた)。しかし引退後、彼はちょっと違う仕事にチャレンジしてみることにした。
スキー大好き人間が楽しみにために何をするか? なんとびっくり、彼はスキーを教えることを仕事に選んだんだ(余談だけど、彼は本当に腕のいいスキーインストラクターだ)。
ある日、R&Dで「私の父はスキーのインストラクターで、タホ湖に近くに大きくて居心地のよい家を構えていて、いつでも何人でも友達を連れてきなさいと言ってたな」と皆にしゃべった。
自分でそう言いながら「あれ? もしかしたら本当にそうしてみてもいいのかもしれないぞ?」という気持ちが自然と沸き起こってきた。
そこで私はそうしたのさ。何人かの友達を連れてね。
君も彼らをR&Dのメンバーとして知っているかもしれない。
そう、タホ湖への最初の旅に参加したのはR&Dのメンバーでマジックに関わっている面子、それも全員だ。Bill Rose、Mike Elliott、William Jockusch、Charlie Catino、当時のリードデザイナーであるJoel Mickも参加したし、さらにはSkaff(註3)とRichard Garfieldまでもが参加者だった。まさに全員だ。
実のところ、私たち全員が飛行機に乗っているとき、ふと私が思ったのは「もし今この飛行機が落ちたら、マジックも終わりだな」ということだった。
あまりにたくさんの人数で押しかけたため、ベッドが足りなくなった。寝袋で寝る羽目になるのは誰かをどうやって決めたかって? シールド戦だよ。当たり前だろ?(ああ、分かった分かった、正直に言うよ。私は免除させてもらった。いや、だって私の父親の家だよ?)
(註3) Skaff
原文でもフルネームの表記がなかったが、おそらくSkaff Eliasのこと。
アルファ版が出る前から開発とテストプレイに関わっているメンバー。元々、プロツアーは彼のアイデアから生まれたものらしい。またエキスパンションごとにカードの裏面を違うものにしようというアイデアを速攻で却下したり、同じカードは4枚までの制限ルールを思いついた人だったりもするらしい(以上の話のソースは以下の MTG Salvation Wiki)。
http://wiki.mtgsalvation.com/article/Skaff_Elias
これに味をしめたR&Dは、その後も何度か父の家を訪問した。
これがインベイジョンのデザインへとつながった。
Billはインベイジョンのデザインのために小規模なチームを作ることにし、私とMike Elliottをメンバーとして任命した。私たち3人は過去にいくつもセットを手がけていたが、3人一緒にデザインチームを組んだのはこれが最初だった(そして今のところ、あれが最後だった)。
Billはデザインのために会社を離れてちょっと遠出をしてもいいんじゃないか、と考えた。
そうなると目的地は1つしかない。私たちは父の家へ向かった。
インベイジョンはそういった意味でもユニークなセットだったが、核となる部分が1週間でデザインされた、という点でも変わっていた。忘れないで欲しいのは、私たちはタホにいたということだ。つまり3日に1回はスキーをしていた。
さて、最初に述べたとおり、私はセットをあまり大きな視点から語るつもりはない。それはBillに任せる。
そうではなくて、私はもっと現場に近いところから個々のカードたちの話をしようと思う。なお、ここで挙げるのは全てのカードについてではない。特に私の心の琴線に触れたカードたちについてのみ記事にしたいと考えている。
Absorb / 吸収 (白)(青)(青)
インスタント
呪文1つを対象とし、それを打ち消す。あなたは3点のライフを得る。
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Absorb/
オリジナルでは、以下のようなカードだった(対となるUndermineも同様だ)。
Absorb
WUU
Instant
Counter target spell. Gain X life where X is the converted mana cost of the countered spell.(註4)
2つの理由からこれは採用されなかった。1つに、このバージョンは複雑すぎる。このカードはもっとシンプルでエレガントであるべきだと私たちは考えた。もう1つの理由は、ただでさえゲームデザイン上使われづらい重たい呪文をさらに迫害することになってしまうからだ。私たちは極力それを避けたいと考えている。
(註4) (ルールテキストについて)
訳すとするなら「呪文1つを対象とし、それを打ち消す。あなたは打ち消した呪文の点数で見たマナコスト分のライフを得る」となる。なお、私訳のため、正式なテンプレートに沿っていない可能性がある。ごめんなさい。
Addle / 頭の混乱 (1)(黒)
ソーサリー
色を1色選ぶ。プレイヤー1人を対象とする。そのプレイヤーは、自分の手札を公開し、あなたはその中からその色のカードを1枚選ぶ。そのプレイヤーはそのカードを捨てる。
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Addle
私は《強要/Coercion》が好きだ。私は、相手に捨てさせるカードを自分で選択できるのが大好きだ。
ウルザズサーガで私たちは《強迫/Duress》と《村八分/Ostracize》を作った。私はこいつらが好きだった。選択肢が狭いかわりにとても軽いところが特に(ああ、いや、確かにDuressの選択肢は狭いとは言いがたいかもしれない。まあ、だからこそ強いカードとして認知されることとなったんだろうけど)。
さてインベイジョンだ。私はセットのテーマである「色」に沿うようにしたかった。この2つの願いを組み合わせた結果、デザインは非常に上手くいった。デザイン面での成功点としてもっとも美しいと思われる点は、軽い手札破壊にも関わらず「non-land(土地ではない)」の一語が入っていないことだ。
Alloy Golem / 合金のゴーレム (6)
アーティファクト クリーチャー - ゴーレム(Golem)
合金のゴーレムが戦場に出るに際し、色を1色選ぶ。
合金のゴーレムは、選ばれた色である。(それは同時にアーティファクトでもある。)
4/4
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Alloy+Golem/
プレイヤーたちはいつも私たちにこう聞いてくるんだ。「色つきのアーティファクトは作らないの?」ってね。そして私はいつもこう答えるんだ。もう作ったよ、ってね。
これがそうだ。礼はいらないよ。
Ancient Kavu / 年経たカヴー (3)(赤)
クリーチャー - カヴー(Kavu)
(2):年経たカヴーはターン終了時まで無色になる。
3/3
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Ancient+Kavu/
インベイジョンには一風変わった再録が多く詰め込まれていた。大半は新しい外見と変な名前で再録されている。このカードはミラージュの《烈火の精/Raging Spirit》の再録で、インベイジョンに再録された理由は「色」に関するテーマに沿ったカードだったからだ。
Armadillo Cloak / アルマジロの外套 (1)(緑)(白)
エンチャント - オーラ(Aura)
エンチャント(クリーチャー)
エンチャントされているクリーチャーは、+2/+2の修整を受けるとともにトランプルを持つ。
エンチャントされているクリーチャーがダメージを与えるたび、あなたはその点数に等しい点数のライフを得る。
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Armadillo+Cloak/
このカードのレアリティについては実に長い議論が戦わされた。最終的に私たちはこれをコモンに残すことにした。緑白には愛が足りない、と感じたのがその理由だ。
Assault / 暴行 (赤)
ソーサリー
クリーチャー1体かプレイヤー1人を対象とする。暴行はそれに2点のダメージを与える。
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Assault/
Battery / 殴打 (3)(緑)
ソーサリー
緑の3/3の象(Elephant)クリーチャー・トークンを1体戦場に出す。
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Battery/
これは《暴行 & 殴打/Assault & Battery》の話だ。
うん、まず初めになぜ私が正式なカード名である《暴行+殴打/Assault+Battery》と書きたくなかったかを説明させて欲しい。
分割カードに関しては「私の物だ」という思いを強く持っている。このカードが私のおこなってきたデザインの中でも特に好きだからだ(ちなみに私の中でこの順位づけはいまだに変わっていないが、ラヴニカはかなり近いところまで追い上げてきている)。
分割カードについて当時のネーミング・チームは、単にカードの各半分がマジックのカードとして問題のない名前をもっていればよいという判断を下していた。
その結果は不自然極まりないものだった。なぜならカードのメカニズムは明らかに1つのものが半分になっているにも関わらず、2つのカードの名前は互いに何ら関連のないものだったからだ。つけられたカード名は基本的にゴミだった。
私はインベイジョン以前から(そして今後もおそらく)ネーミングに関する作業にも携わっていたが、このときは関わっていなかった。
そこで私はBillの元へ行き、分割カードは超カッコいいんだからネーミング・チームはもっとカッコいい名前をつけるべきだ、と直談判した。Billの返事は、ただ文句を言うだけより出来ることがあるだろう?、だった。名前に関してどうすればよいのか、自分でより良いアイデアを出す必要があったのだ。
そこで頭をひねってみたところ、降りて来たアイデアは「プレイヤーたちは各半分を関連づけたいはずだ。だったら名前で関連づければいいじゃないか」だった。
名前が2つで1つになる? いや、もっといい方法があるぞ。2つの名前を&でつなげるとそのまま成句になるってのは?(註5)
これはちょいと難しい仕事だった。なにせカードはすでにデザインされたあとだったからだ。それでも私は5つの分割カード全てに十分にカッコいい名前を考え付くことに成功したので、ネーミング・ルールに名前の変更を迫った。
5つのうち、3つはしっくりきた。
2つは変更された。
ちなみにこの《暴行 & 殴打/Assault & Battery》がその2枚のうちの1枚だ。元々の名前は《ヒット & ラン/Hit & Run》だった(ネーミング・チームはそれよりも 暴行(Assault) と 殴打(Battery) のほうがメカニズムに合うと考えた)。
ああ、そうそう、&マークの話だった。
私の常々意図していたところでは、このカードはプレイヤーに&を使って呼ばれることになるはずだった。よって現在の名前が《暴行+殴打/Assault+Battery》であるこのカードは、カードリストに《暴行 & 殴打/Assault & Battery》という名で載るはずだった。
しかし「&」という文字は、私がいまだに理解できない何らかの理由により、問題となったらしい。何にせよ、このカードの公的な呼び名は確かに《暴行+殴打/Assault+Battery》だが、私にとってはいつまでも《暴行 & 殴打/Assault & Battery》だ(註6)(分割カードのデザインについてもっと知りたいなら、私の書いたコラム「Split Decision」(註7)を読んで欲しい。面白い記事だよ。信じてくれ)。
(註5) &でつなげるとそのまま成句になる
英語版の分割カードの名前はそれぞれを「and」でつなぐと1つの言い回しになる。さすがに日本語版のカードにはそれは受け継がれていない。
(註6) 《暴行 & 殴打/Assault & Battery》
これ以降に出てくる分割カードの表記も全て + ではなく & が使われている。
(註7) Split Decision
原文では以下のURLへのリンクが張ってある。
内容は(当然のように)分割カードに関するMark Rosewaterのコラム。
http://www.wizards.com/Magic/Magazine/Article.aspx?x=mtgcom/daily/mr7
Barrin’s Unmaking / バリンのやり戻し (1)(青)
インスタント
パーマネント1つを対象とする。それがすべてのパーマネントの中で最も多い色であるか、最も多い色の1つと同じ色を持つ場合、それをオーナーの手札に戻す。
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Barrin%27s+Unmaking/
奇妙な話だが、このカードは元々アングルード2(註8)で生まれる予定だった。知ってのとおり、アングルード2もまた「色」をテーマに扱っていたからだ(分かってるよ、確かにアングルードに入るほど変ちくりんには見えないかもしれない、でも見た目が人間っぽいのに毒を持たない野菜だってあるだろう?(註9))
(註8) アングルード2
原文ではUnglued II。ちなみに製品化された際の正式名称はアンヒンジド。
(註9) 毒を持たない野菜だってあるだろう?
原文では以下のURLへのリンクが張ってある。
アンヒンジドでは元々毒を持った人型の野菜クリーチャーという案があったらしい。
http://www.wizards.com/Magic/Magazine/Article.aspx?x=mtgcom/arcana/688
Blind Seer / 無明の予見者 (2)(青)(青)
伝説のクリーチャー - 人間(Human) ウィザード(Wizard)
(1)(青):呪文1つかパーマネント1つを対象とする。それはターン終了時まで、あなたが選んだ1色の色になる。
3/3
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Blind+Seer/
プレイヤーたちはよく私たちにこう聞いてくるんだ。「ウルザってカード化されないの?」ってね。そして私はいつもこう答えるんだ。もう作ったよ、ってね。
これがそうだ。
Blind Seerはウルザが化けた姿だ(本当だ。小説や他の文献にだってそう書いてある)。
礼はいらないよ。
Crimson Acolyte / 真紅の見習い僧 (1)(白)
クリーチャー - 人間(Human) クレリック(Cleric)
プロテクション(赤)
(白):クリーチャー1体を対象とする。それはターン終了時までプロテクション(赤)を得る。
1/1
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Crimson+Acolyte/
アポカリプスに関する最も大きな心残りの1つは、こいつの青バージョンと緑バージョンを作らなかったことだ。
Dream Thrush / 夢ツグミ (1)(青)
クリーチャー - 鳥(Bird)
飛行
(T):土地1つを対象とする。その土地は、ターン終了時まであなたが選んだ基本土地タイプ1種になる。
1/1
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Dream+Thrush/
このカードが加えられたのは開発後半になってからだ。理由は、緑以外の色にもマルチカラーを手助けさせる方法はないか、色々と模索していたからだ。
Frenzied Tilling / 激情の耕作 (3)(赤)(緑)
ソーサリー
土地1つを対象とし、それを破壊する。あなたのライブラリーから基本土地カードを1枚探し、それをタップ状態で戦場に出す。その後あなたのライブラリーを切り直す。
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Frenzied+Tilling/
私は対称的な(シンメトリカルな)デザインが大好きだ。このカードが生まれたわけは、赤は土地を破壊するのに対して緑は新しい土地を持ってくる、という対称性に気づかされたからだ。これらの相反する特性を1つのカードに収められないものか? ともに手をとりあって歩むわけにはいかないか? そんなわけでこのカードが生まれた。
Goham Djinn / ゴーアム・ジン (5)(黒)
クリーチャー - ジン(Djinn)
(1)(黒):ゴーアム・ジンを再生する。
すべてのパーマネントの中で、黒が最も多い色であるか、最も多い色の1つである限り、ゴーアム・ジンは-2/-2の修整を受ける。
5/5
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Goham+Djinn/
このジンのサイクル(Goham, Halam, Ruham, Sulam, そしてZanam)もアングルード2から来たものだ。元は馬鹿っぽい名前と今とは違ったイラスト(今日のMagic Arcana(註10)を見てくれ)を持っていたが、その実、メカニック自体はそんなに馬鹿げていなかったため、これらは簡単に「現実の」マジックへやって来られたというわけだ。
(註10) 今日のMagic Arcana
リンク先は以下のURL。5種のジンたちの元々の名前、イラスト、テキストが見られる。
http://www.wizards.com/Magic/Magazine/Article.aspx?x=mtgcom/arcana/879
Harrow / 砕土 (2)(緑)
インスタント
砕土を唱えるための追加コストとして、土地を1つ生け贄に捧げる。
あなたのライブラリーから、基本土地カードを最大2枚まで探し、それらを戦場に出す。その後あなたのライブラリーを切り直す。
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Harrow/
それを作れば彼が来るように(註11)、良いマナ加速カードを作れば彼らはやってくる。このカードのパワーバランスがいかに素晴らしいものだったか、それは冗談抜きに私を驚かせた。
(註11) それを作れば彼が来る
原文は「If you build good mana fixers, they will come」。おそらく映画「フィールドオブドリームス」の一節「If you build it, he will come」から来ていると思われたので、元ネタを併記してみた。なお原文の「They」が何を指しているかは不明。
以下のリンク先は映画「フィールドオブドリームス」のWikipediaの記事(リンク先は英語)。
http://en.wikipedia.org/wiki/Field_of_Dreams
Kangee, Aerie Keeper / 巣を守るものカンジー (2)(白)(青)
伝説のクリーチャー - 鳥(Bird) ウィザード(Wizard)
キッカー(X)(2)(あなたがこの呪文を唱えるに際し、あなたは追加の(X)(2)を支払ってもよい。)
飛行
巣を守るものカンジーが戦場に出たとき、それがキッカーされていた場合、その上に羽根(feather)カウンターをX個置く。
他の鳥(Bird)クリーチャーは、巣を守るものカンジーの上に置かれた羽根カウンター1個につき+1/+1の修整を受ける。
2/2
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Kangee%2C+Aerie+Keeper/
第6版で全ての鳥が鳥になったとき……ああ、ごめんごめん、全ての鳥のクリーチャータイプが鳥になったとき、プレイヤーからは怨嗟の声が上がった。
彼らはファルコンの絶滅に怒りを覚えたんだ。
念のためにつけくわえておくと、ファルコン自体がいなくなったわけじゃない。単にファルコンというクリーチャータイプがなくなっただけだ。
なんでこれがそんなに騒がれたかって? とあるホームランドのクリーチャー、Soraya the Falconerがその理由だ。彼女のおかげで人々はファルコンデッキを組めたんだ。
強いとは言い難いものではあったけど(いや「対象のファルコンはバンドを得る」のがどれほどのものよ?)それは確かに「ファルコン」デッキだった。
そのようなわけでこのファルコン大好き人間の代表団は私たちの行った統合処理に憤りを覚えたわけだ。だけど、分かって欲しいのはこれによってもっと使い勝手のよい鳥のロードを作ることが可能になったわけさ。
そしてインベイジョンのデザインで私はカッコいい鳥のロードを作った。
ところがどっこい、開発チームはそのデザインを嫌った。
開発チームが私のデザインのどこを嫌ったのか分からない(いや、私自身チームの一員だったわけだから、これはおかしな話かもしれないけどね)。何にせよ、他の何枚かのカードと同じようにこのカードも狙い撃ちにされた。
最終的に、私が「いつか出すよ!」と何年も前から約束していた鳥のロードはとにかく世には出たわけだ。
ゴミみたいな強さでね。
がっかりさ。まったく。
この借りはオンスロートブロックで返すよ。プレイするに値する鳥たちを出すことでね。
後編へ続く
http://regiant.diarynote.jp/201102120925214209/
Kavu Titan / カヴーのタイタン (1)(緑)
クリーチャー - カヴー(Kavu)
キッカー(2)(緑)(あなたがこの呪文を唱えるに際し、あなたは追加の(2)(緑)を支払ってもよい。)
カヴーのタイタンがキッカーされていた場合、それはその上に+1/+1カウンターが3個置かれた状態で戦場に出るとともに、トランプルを持つ。
2/2
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Kavu+Titan/
ここ最近、私はFFL(フューチャーフューチャーリーグの略。新セットの発売後に訪れるであろう使用セットを用いた環境で行われるプレイテスト用のリーグ)に参戦せず、通常のプレイテストに参加していた。
しかし時間に追われるようになってからというもの、他のR&Dメンバーの作ったデッキを使うようになった(ああ、そうそう、私のデッキ構築能力は実にお粗末なものだ。少なくとも対戦相手が見たら驚くようなカードを入れつつも勝てるようなデッキは組めない)。
ある週、私はRandyから赤緑デッキを借りた。その週は4戦を4勝0敗で終えることが出来た。その週の全勝はR&Dメンバーの中で私だけだった。
Randyはその最終戦を観戦していた。試合が終わると彼は私に、それは《灰色熊/Grizzly Bears》じゃないぞ、と言った。それは《カヴーのタイタン/Kavu Titan》だぞ、と。
新たな情報を手に入れた私は、次の週に4戦して2勝2敗となった。
ここで得た教訓は貴重なものだ。
単なる熊だと思って使っていたときは、アグレッシブに攻めることができた。しかし一度それが《カヴーのタイタン/Kavu Titan》だと気づいてしまった私は、しばしばそれを5/5のクリーチャーとしてプレイできるようになるまで手札に温存するようになってしまったのだ。
Metathran Zombie / メタスランのゾンビ (1)(青)
クリーチャー - メタスラン(Metathran) ゾンビ(Zombie)
(黒):メタスランのゾンビを再生する。
1/1
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Metathran+Zombie/
これは実は同型再販だ。マジックに相当詳しくないと気付かないだろうけどね(オリジナルはザ・ダークの《The Drowned》だ(註12)。Ga’aark(註13)の嫌いなアレさ)。
(註12) 《The Drowned》
元々の《メタスランのゾンビ/Metathran Zombie》はクリーチャータイプにメタスラン(Metathran)が含まれておらず、《Drowned》の完全同型再版だった。
ちなみにメタスランがクリーチャータイプに含まれるようになったのは、お察しの通り、通称「大規模クリーチャータイプ更新」と呼ばれる2007年09月のアレ以来。
(註13) Ga’aark
リンク先は以下のURL。
ゾンビに関する記事で、Ga’aarkというゾンビがゾンビという種族の地位向上を訴えている。彼に言わせると《Drowned》はダメダメらしい。
http://www.wizards.com/Magic/Magazine/Article.aspx?x=mtgcom/daily/mr61
Molimo, Maro-Sorcerer / マローの魔術師モリモ (4)(緑)(緑)(緑)
伝説のクリーチャー - エレメンタル(Elemental)
トランプル(このクリーチャーが、自身をブロックしているすべてのクリーチャーを破壊するのに十分な戦闘ダメージを割り振る場合、あなたはその残りのダメージを防御プレイヤーかプレインズウォーカーに割り振ってもよい。)
マローの魔術師モリモのパワーとタフネスはそれぞれ、あなたがコントロールする土地の数に等しい。
*/*
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Molimo%2C+Maro-Sorcerer/
これは名前にMaroが含まれる3枚目のカードだ。
さらに私たちの市場調査によると最も人気のあるカードだ。
偶然だと思うかい? 気づいてない人のために書いておくと、このカードはレジェンドで人気のあった伝説のクリーチャー、《黒き剣のダッコン/Dakkon Blackblade》を作り直したものだ。
Noble Panther / 気高き豹 (1)(緑)(白)
クリーチャー - 猫(Cat)
(1):気高き豹はターン終了時まで先制攻撃を得る。
3/3
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Noble+Panther/
開発中、長いことこいつは3マナ 3/3 先制攻撃 というシンプルなクリーチャーだった。開発の終盤になって、チームはそれじゃちょっと強すぎると考えたため、変更が加えられた。
Plague Spitter / 疫病吐き (2)(黒)
クリーチャー - ホラー(Horror)
あなたのアップキープの開始時に、疫病吐きは各クリーチャーと各プレイヤーにそれぞれ1点のダメージを与える。
疫病吐きが戦場から墓地に置かれたとき、疫病吐きは各クリーチャーと各プレイヤーにそれぞれ1点のダメージを与える。
2/2
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Plague+Spitter/
インベイジョンをデザインする際、私たちは(Richard Garfieldの一番最初のマジックの対戦相手をつとめた)Barry Reichという人物がデザインしたSpectral Chaosというセットを参考にするところから始めた。
その中からいくつものカードがインベイジョンに使われることになったが、その中でも特にBarryのカードとして思い出されるのはこの《疫病吐き/Plague Spitter》(Barryのセットでは《Screaming Mimis》という名だった)と各種の版図(Domain)カード(デザイン中は「バリーのカード(Barry’s Card)」と呼ばれていた)だ。
Power Armor / 力の鎧 (4)
アーティファクト
版図 ― (3),(T):クリーチャー1体を対象とする。それはターン終了時まで、あなたがコントロールする土地の中の基本土地タイプ1種につき+1/+1の修整を受ける。
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Power+Armor
はっきり言っておくが私はメカが嫌いだ。
大嫌いだ!
クリテイティブチームの分野でこれよりも嫌いなものがあるとすればたった1つだけ、ポータルセカンドエイジの銃器だ。
Probe / 調査 (2)(青)
ソーサリー
キッカー(1)(黒)(あなたがこの呪文を唱えるに際し、あなたは追加の(1)(黒)を支払ってもよい。)
カードを3枚引き、その後カードを2枚捨てる。調査がキッカーされていた場合、プレイヤー1人を対象とする。そのプレイヤーはカードを2枚捨てる。
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Probe/
あまりに目立たないデザインだったためのチェックの目を逃れたカードの1つがこれだ。
《調査/Probe》はキッカーを払うことで君だけが2枚捨てるはずだったところを、相手にも2枚捨てさせることができる。問題はそのとき君だけがカードを3枚も引けるというところだ。
おそらくこの呪文がプレイヤーに多少好まれるところとなったのもそのあたりが理由だろう。
Pyre Zombie / 火葬のゾンビ (1)(黒)(赤)
クリーチャー - ゾンビ(Zombie)
あなたのアップキープの開始時に、火葬のゾンビがあなたの墓地にある場合、あなたは(1)(黒)(黒)を支払ってもよい。そうした場合、あなたの墓地から火葬のゾンビをあなたの手札に戻す。
(1)(赤)(赤),火葬のゾンビを生け贄に捧げる:クリーチャー1体かプレイヤー1人を対象とする。火葬のゾンビはそれに2点のダメージを与える。
2/1
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Pyre+Zombie/
マルチカラーのクリーチャーをデザインする楽しみの1つは、その2色に共通して見られる特色のうち、特に皆の興味を引けるものを探すことだ。
この《火葬のゾンビ/Pyre Zombie》を作り始めた際、私は黒のクリーチャーが持っている「自力で何度も墓地から戻ってくる能力」を気に入っていることに気づいた。つまり私が赤から探すべき能力はこのクリーチャーを生け贄に捧げる能力だ。
様々なアイデアを吟味したが、結局はシンプルイズザベストという結論に戻った。
Raging Kavu / 怒り狂うカヴー (1)(赤)(緑)
クリーチャー - カヴー(Kavu)
瞬速
速攻
3/1
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Raging+Kavu/
これはインベイジョンのプレリリース・カードになったカードだ。
私はこのカードのデザインについてたくさんの質問をもらった。これの持っている2つの能力は相性が悪いように見える、という点でだ。
インスタント速度で呼び出された場合、速攻は意味がないように思われ、また速攻を活かすべくプレイしたならインスタントで召喚できるというメリットは活かせない。さて、なぜこのようなデザインになったのか?
これこそ私が主題的有用性(Thematic Utility)と呼ぶものだ。
何が言いたいのかと言うと、クリーチャーが持っている2つの能力は「同じテーマに紐づいている」ということだ(《怒り狂うカヴー/Raging Kavu》の場合、素早いクリーチャーである、ことがそれだ)。
このクリーチャーは、能力を2つ同時に用いることに主眼が置かれているのではなく、どちらかというと、2つの異なる技を隠し持っているということを表したいのだ。
こういったデザインをすることはあまりない。しかし私はこれが2つの能力をフレイバー的に上手く調和させることが出来たおかげで生まれたいいカードだと思っている。
Recoil / はね返り (1)(青)(黒)
インスタント
パーマネント1つを対象とし、それをオーナーの手札に戻す。その後そのプレイヤーはカードを1枚捨てる。
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Recoil/
私がデザインしたインベイジョンの全てのマルチカラー・カードの中で(ちなみに結構な枚数をデザインしたつもりだ)、これが私のお気に入りだ。
これはシンプルでエレガントで、そのうえそれぞれの色の特徴をちゃんと持っている。
しかしそこに加えられている一工夫は、これら2つの能力が組み合わせられることによって、それぞれの色が持っていない全く新しい能力が生み出されているという点だ。こういったカードはデザイナーをダメにする。なぜならあまりに素晴らしすぎて同じようなカードを大量に作りたくなってしまうからだ。
しかし実際はそうはならなかった。なぜなら気が狂うほどに難しいことだからだ。このカードを作れたことを誇りに思うよ。
Rith, the Awakener / 煽動するものリース (3)(赤)(緑)(白)
伝説のクリーチャー - ドラゴン(Dragon)
飛行
煽動するものリースがプレイヤーに戦闘ダメージを与えるたび、あなたは(2)(緑)を支払ってもよい。そうした場合、色を1色選ぶ。その後、選ばれた色のパーマネント1つにつき、緑の1/1の苗木(Saproling)クリーチャー・トークンを1体戦場に出す。
6/6
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Rith%2C+the+Awakener/
元々、これら5匹の伝説のドラゴン(おそらく今となっては、伝説のクリーチャー - ドラゴン と言うべきだろうが)はタップを必要とする強力な能力を持っていた。開発チームは誰もが、何かおかしい、と感じてはいたが、何週間ものあいだ、それを具体的に指摘できるメンバーはいなかった。
最終的に「それ」に気づいたのは私だった。
ドラゴンはカッコいい……ドラゴンは「それで攻撃したくなる」くらいカッコいい。
しかし与えられた起動型能力(Activated Ability)は強すぎて、そのためにしかドラゴンたちを使わざるを得なかった。つまり、何が起きたかというと、その素晴らしいドラゴンたちは決して攻撃に使われることはなかったということだ。
これじゃつまらない。
そこで私が提案したのは、攻撃に向かわせたときにしか得られないボーナス的な何かに彼らの能力を変えたらどうかということだった。こうすればカードは前の能力とは逆に「プレイヤーがしたいことをするよう、強制するカード」になる。こうやって君らの知っている(そして大好きな)伝説のドラゴンたちが生まれたというわけさ。
Samite Archer / サマイトの射手 (1)(白)(青)
クリーチャー - 人間(Human) クレリック(Cleric) 射手(Archer)
(T):クリーチャー1体かプレイヤー1人を対象とする。このターン、それに与えられる次のダメージを1点軽減する。
(T):クリーチャー1体かプレイヤー1人を対象とする。サマイトの射手はそれに1点のダメージを与える。
1/1
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Samite+Archer/
これも、見事な対称性を持った2つの各色の能力を見つけることが出来た例の1つだ。
Seer’s Vision / 予見者の幻視 (2)(青)(黒)
エンチャント
あなたの対戦相手は自分の手札を公開してプレイする。
予見者の幻視を生け贄に捧げる:プレイヤー1人を対象とする。そのプレイヤーの手札を見て、カードを1枚選ぶ。そのプレイヤーはそのカードを捨てる。この能力は、あなたがソーサリーを唱えられるときにのみ起動できる。
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Seer%27s+Vision/
忘れられがちだが、インベイジョンにはアンコモンに「全体的な効果+生け贄に捧げることで使える使い捨ての効果」を持つマルチカラーのエンチャントメントのサイクルがある(《天使の盾/Angelic Shield》、《ヤヴィマヤの火/Fires of Yavimaya》、《予見者の幻視/Seer’s Vision》、《くすぶるタール/Smoldering Tar》、そして《真の木立ち/Sterling Grove》だ)。
サイクルを生み出すインスピレーションの元となったのは、この《予見者の幻視/Seer’s Vision》だ。
Skizzik / スキジック (3)(赤)
クリーチャー - エレメンタル(Elemental)
キッカー(赤)(あなたがこの呪文を唱えるに際し、あなたは追加の(赤)を支払ってもよい。)
トランプル、速攻
終了ステップの開始時に、スキジックがキッカーされていない限り、それを生け贄に捧げる。
5/3
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Skizzik/
トリビア好きな君のために書いておくと、《スキジック/Skizzik》は能力を得るためではなく失わせるためにキッカーを払う唯一のカードだ。
Sleeper’s Robe / 潜伏工作員のローブ (青)(黒)
エンチャント - オーラ(Aura)
エンチャント(クリーチャー)
エンチャントされているクリーチャーは畏怖を持つ。(それは黒でもアーティファクトでもないクリーチャーによってはブロックされない。)
エンチャントされているクリーチャーが対戦相手に戦闘ダメージを与えるたび、あなたはカードを1枚引いてもよい。
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Sleeper%27s+Robe/
このカードはつけられたクリーチャーを《影魔道士の浸透者/Shadowmage Infiltrator》に変えることが出来る(ちなみに《影魔道士の浸透者/Shadowmage Infiltrator》は、Jon Finkelがデザインしたインビテーショナルカードだ)。
Spite / 悪意 (3)(青)
インスタント
クリーチャー呪文でない呪文1つを対象とし、それを打ち消す。
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Spite
Malice / 敵意 (3)(黒)
インスタント
黒でないクリーチャー1体を対象とし、それを破壊する。それは再生できない。
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Malice
分割カードをデザインしているとき、もっとも最初に作られたのがこの《悪意 & 敵意/Spite & Malice》だ(インベイジョンに限った場合の話。アングルード2のためにも分割カードのセットがデザインされていた)。
このカードは分割カードのデザインを非常に難しいものにした。
なぜなら2つの効果がそれぞれ互いを補完する関係にある分割カードが作れる、ということが最初の試みで分かってしまったからだ。《悪意/Spite》は《敵意/Malice》の破壊できないものをカウンターしてくれる(ああ、はいはい、そのとおり、黒いクリーチャー以外の話だ)。
私たちは全ての分割カードを同じようなデザインにしようと試みたが、すぐに気づかされたのは、《悪意 & 敵意/Spite & Malice》が単なるまぐれ当たりに過ぎなかったということと、そう簡単に繰り返せることではない、ということだった。
Stand / 抵抗 (白)
インスタント
クリーチャー1体を対象とする。このターン、それに与えられる次のダメージを2点軽減する。
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Stand
Deliver / 救難 (2)(青)
インスタント
パーマネント1つを対象とし、それをオーナーの手札に戻す。
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Deliver
言葉遊びが大好きな君のために書いておこうか。
この《抵抗 & 救難/Stand & Deliver》は、個々のカード名の単語が「単体で使われた際の意味」と「成句として使われた際の意味」が異なるという点でユニークだ。
Standは単体では「邪魔されずに放っておかれる」ことを指すが、成句として使われた際のStandの意味は「立ちあがる」という意味になる。Deliverは「A地点からB地点へものを移動させる」ことを指すが、成句として使われた際には「言葉に言い表す」という意味になる(註14)。
きっとどこかの誰かが、私と同じように、こういう話を面白がってくれていると信じているよ。
(註14) 「言葉に言い表す」
原文では「to express in words」となっていたため、上記のとおり訳してみたけど「Stand and Deliver」を英英辞典などでいくら調べても Deliver にそういう意味があると解説しているものが(探した限りでは)1つも見つけられなかった。
以下は調査先の一例。
http://www.phrases.org.uk/meanings/331200.html(リンク先は英語)
Tek / テク (5)
アーティファクト クリーチャー - ドラゴン(Dragon)
テクは、あなたが平地(Plains)をコントロールしている限り+0/+2の修整を受け、あなたが島(Island)をコントロールしている限り飛行を持ち、あなたが沼(Swamp)をコントロールしている限り+2/+0の修整を受け、あなたが山(Mountain)をコントロールしている限り先制攻撃を持ち、あなたが森(Forest)をコントロールしている限りトランプルを持つ。
2/2
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Tek
なんで名前がこんなに短いのか、って? そうしないとテキストが収まりきらなかったからさ。
Tsabo’s Decree / サーボの命令 (5)(黒)
インスタント
クリーチャー・タイプを1つ選ぶ。プレイヤー1人を対象とする。そのプレイヤーは、自分の手札を公開し、選ばれたタイプのすべてのクリーチャー・カードを捨てる。その後そのプレイヤーがコントロールする選ばれたタイプのすべてのクリーチャーを破壊する。それらは再生できない。
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Tsabo%27s+Decree/
このカードは、インベイジョンが開発されていた当時の環境を跳梁跋扈していたレベルデッキに対抗するために生まれた。
Tsabo’s Web / サーボの網 (2)
アーティファクト
サーボの網が戦場に出たとき、カードを1枚引く。
マナ能力でない起動型能力を持つ土地は、それのコントローラーのアンタップ・ステップにアンタップしない。
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Tsabo%27s+Web/
このカードは《リシャーダの港/Rishadan Port》への回答として生まれた。
まったくサーボときたら流行りのカードやデッキを叩くのが大好きなんだよ。
Utopia Tree / ユートピアの木 (1)(緑)
クリーチャー - 植物(Plant)
(T):あなたのマナ・プールに、好きな色のマナ1点を加える。
0/2
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Utopia+Tree/
開発中、ほんの少しのあいだだけ、このクリーチャーのコストは(緑)だけだった。
Void / 虚空 (3)(黒)(赤)
ソーサリー
数字を1つ選ぶ。点数で見たマナ・コストが選ばれた数字に等しい、すべてのアーティファクトとすべてのクリーチャーを破壊する。その後プレイヤー1人を対象とする。そのプレイヤーは、自分の手札を公開し、土地でないカードのうち、点数で見たマナ・コストが選ばれた数字に等しいカードを、すべて捨てる。
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Void/
このカードは、点数で見たマナコストに関する除去について考えながらぶらぶらと散歩していたときに思いついた。
私は場にあるカードと手札を同時に攻撃するカードが欲しかったが、どの色もそれにふさわしく思えなかった。しかし2色で考えるとぴたりとハマったんだ。
Wax / 増進 (緑)
インスタント
クリーチャー1体を対象とする。それはターン終了時まで+2/+2の修整を受ける。
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Wax/
Wane / 衰退 (白)
インスタント
エンチャント1つを対象とし、それを破壊する。
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Wane/
この《増進 & 衰退/Wax & Wane》も名前の変更を迫られたカードだ。
私がつけた名前は《プライド & 偏見/Pride & Prejudice》であったが、ネーミングチームは現実にある作品の名前(註15)を参照すべきではないと考えたため、今の名前になった。
(註15) 現実にある作品の名前
「Pride & Prejudice」という名前の小説および映画が実在する。
邦題は「プライドと偏見」。
Yawgmoth’s Agenda / ヨーグモスの行動計画 (3)(黒)(黒)
エンチャント
あなたは、各ターンに呪文を1つしか唱えられない。
あなたは、あなたの墓地にあるカードをプレイしてもよい。
いずれの領域からでも、あなたの墓地にカードが置かれる場合、代わりにそれを追放する。
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Yawgmoth%27s+Agenda/
このカードの当初の(実際には印刷されることのなかった)日本語訳(註16)は「Yawgmoth’s Day Planner」だった。
(註16) 日本語訳
実際に当時どのような日本語訳がされたかは不明だが、ここで使われている Day Planner という言葉には「日記帳」や「ビジネス手帳」のような日用品のイメージがある。おそらく「ヨーグモスの日記帳」辺りだったのではないかと推測してみる。
さて、これで今日の仕事は終わりだ。
このコラムから、インベイジョンに関するトリビアを大量に仕入れることが出来たかな? 今回に限ったことじゃないが、君が私の記事にどのような感想を抱いたのか、気になるところだ。
次回は主に皆からのお便りを取り扱いと思っているので、またお付き合い頂きたい。
Mark Rosewater
Lost in the Shuffle(今は亡きトレーディングカードゲーム専門誌、The DuelistでRichard Garfieldが書かれていた連載コラム)で1995年に書かれたコラムではメタゲームについての考察がなされており、それが2010年06月にDaily MTGで再掲載された。
マジックに限らないその「メタゲーム」というものの考察が面白かったので訳してみた。なお序文はDaily MTGの編集者、Kelly Diggesによる紹介文。
シャッフルの中で/Lost in the Shuffle
2010年06月21日
元記事:http://www.wizards.com/Magic/Magazine/Article.aspx?x=mtg/daily/feature/96
昔々、時の向こうのそのまた向こう、マジックザギャザリング(以下、マジック)や他のゲームに関する月刊誌であり、このサイトの前身でもあるThe Duelistがあった。マジックの創始者であるRichard Garfieldによる「Lost in the Shuffle」というコラムがこの雑誌にほぼ毎月掲載されていた。このコラムのいくつかはすでにここ(註1)に保管されている。ガーフィールド博士は、かつて(そして今なお!)ゲームに関する多大なる考察を行っており、彼はこれらの考察を短く分かりやすくまとめたものをコラム「Lost in the Shuffle」を通じて皆へ提供していた。
初期の「Lost in the Shuffle」は後のそれよりも、より長く詳細なものだった。これは、かつて毎週コラムを書いていた身として非常に共感できるものがある。そして、短い形式のほうが結果としてよりLost in the Shuffleに合っていたとは思いつつも、この優れた博士がより複雑な議題に取り組むことが出来たのは初期の長文形式のコラムだけだったのもまた事実だ。例えば、The Duelist #5に掲載されていたこのコラム「the metagame」のように。
さて、当時ガーフィールド博士がこのコラム内で書いた「メタゲーム」と呼ぶものは、トーナメントプレイヤーたちが用いる意味でのそれよりも少し広い範囲について言及している。彼は「1つの試合に限らず次の試合にまで」影響を及ぼす事柄について述べており、それはフォーマットやハウスルール、そしてカードの入手のし易さや社会契約論まで含んでいる。
リチャードは「メタゲーム」をこのように広く捉えることで、自身が信じるマジックの持つ可能性について非常に深い洞察を行った。
古い記事についてよく言われる警句はこのコラムにも当てはまる。この記事は1995年(古参プレイヤーに分かりやすく言えばアイスエイジ前)に書かれたものだ。今となっては骨董品と呼ぶべきマジックのセット(や他のカードゲーム)について書かれている箇所もいくつかある。
しかしそれらは逆に、リチャードが当然そうなるであろうと予想していたよりもさらにマジックが成長したことを示すに過ぎず、記事を通して勝負から勝負へと受け継がれるもの(信頼、社会的期待、その他諸々の何か)に関する洞察をこのコラムは与えてくれるだろう。
楽しんでくれ。
Kelly Diggesより (Daily MTG 編集者)
(註1) コラムのいくつかはすでにここに保管
リンク先は以下のURL。
http://www.wizards.com/magic/magazine/Article.aspx?x=mtgcom/feature/445
メタゲームとは?/the metagame
Richard Garfield
1995年
引用元:http://www.wizards.com/Magic/Magazine/Article.aspx?x=mtg/daily/feature/96
16歳くらいの頃、私はDiplomacy(註2)で仲間をだまし討ちすることを止めた。約束を何度も何度も破るということは、その効力を弱めるだけだと気づいたからだ。さらに言えばその行為はその瞬間の勝ちは拾えても、結局はのちの勝負の勝利をいくつも代償にしただけだった。私と同盟を組もうとする人はいなくなり、私を裏切ることに皆ためらわなくなった。結局のところ、それは私が彼らに対して行ってきたことなのだから。
好むと好まざると、各勝負をそれぞれ完全に切り離されたものとして扱うことはできない。そう、Diplomacyの各勝負はそれぞれつながっており、ある勝負での私の行為は他の勝負の結果に影響するのだ。
これに気づいた瞬間こそ、挑戦しがいがあると同時にしばしば私を困惑もさせた「メタゲーム」という名の戦場の入り口に私が立った瞬間だった。
それぞれが単独で完結することなく、より大きな1つのゲームの一部となるような複数の勝負を行っているとき、君はメタゲームに参戦していると言える。
チェスを例にとってみよう。君がチェスについて考えるとき、おそらく君は1人の対戦相手との1試合について考える。しかし競技チェスに参加しているチェスプレイヤーにとっては、各試合はより大きな1つのゲームの一部なのだ。
この場合、チェストーナメントはチェスのメタゲームだ。理想的に考えるならこのメタゲームに対して採りうる戦術はひどく単純なもの、各試合すべてに勝つ、になるだろう。しかし実際には、長時間に及ぶトーナメントを通じて体力を温存するために君はわざと引き分けを狙うこともあるかもしれない。ときにはわざと負けることすら選択するかもしれない。
もし君がいくつものチェストーナメントを通じて高い勝率を維持しようと考えているのであれば、君はさらなる高次のメタゲーム、チェストーナメントのメタゲームに足を踏み入れたことになる。
このメタゲームは1つ目のメタゲームよりいくつもの点において面白いものになる。なぜなら君はいくつもの重要な選択を迫られることになるからだ。どのトーナメントに参戦するか、各トーナメントのうちどれにどれだけ注力するか。
多くのゲームはその基本構造にメタゲームを含んでいる。大半のカードゲームには手札があり、各手札が点数を生み出す。手札はゲームを構成する基本ユニットであるが、競技の本当の目的はメタゲームを制すること、つまり一定の総得点を獲得することにある。
よって多くのカードゲームの戦略の一部には、「非常に低い確率ながらも勝ちを狙えるが失敗したら大量失点する」という状況では「あえて少ない失点による負けを選択すべき」と学ぶことが含まれる。
いくつかのカードゲーム、例えばポーカーなどは目の前の試合よりもメタゲームがさらに高い重要性を持つ。ポーカーの手札は確かにいくばくかのお金を君に稼いでくれるが、さらに重要なこととしてそれは君に他プレイヤーの情報を与えてくれるし、また他のプレイヤーへ君に関する誤情報を流すこともできる。これにより、君はその勝負では損を出しながらも、その後の試合でのアドバンテージが得られる。
メタゲームには不思議な魅力があり、それは感染性のものだ。私は最近、良い「ハシゴ」をその周囲にかけることが出来るならどんなゲームでも大ヒットさせることができる、と主張している。
「ハシゴ」とはゲームの参加者をランク付けできるシステムであれば何でもよい。「ハシゴ」というメタゲームの目的は「出来る限り上へ登ること」である。君は自分より上位ランクのプレイヤーたちを倒していくことでハシゴを登るのだ。
私がペンシルバニア大学の大学院生だった頃の話だ。何年かの間、Turbo Heartsと呼ばれるHearts(註3)の一種が人気だった。大学のラウンジには皆で作った「ハシゴ」が備え付けられ、私はそれを登るのに全力を賭けた。まだ学部生だった頃は仲間内でチェス用の「ハシゴ」を作成し、私は生活の全てを賭けてチェスに没頭した。
私が思うにその中毒性を生み出した元は、今現在、私の最新作であるカードゲーム「The Great Dalmuti」(註4)にも潜んでいる「ハシゴ」のようなシステムなのだろう。私はそれを証明するために、ここ、ウィザードオブコースト社の中に「ジャンケン」のための「ハシゴ」を本気で作るつもりだ!
(註2)Diplomacy
ヨーロッパを舞台にしたボードゲーム。カードやサイコロといったランダム要素が皆無で、ほぼプレイヤー同士の「外交」のみでゲームが進むらしい。
(註3)Hearts
基本的に4人で遊ぶトランプを用いたカードゲーム。日本で遊ばれている「ナポレオン」に似ている。なお文中の「Turbo Hearts」はどうやらRichard Garfieldご自身が考案者らしい。
参考:http://www.pagat.com/reverse/hearts.html#turbo
(註4)The Great Dalmuti
中世から存在するPresidentというゲームのバリエーションで1995年にRichard Garfieldによって作られ、WoC社から発売されている。Amazonでも売ってる。
参考:http://www.amazon.com/Avalon-Hill-936851-Great-Dalmuti/dp/B000BZB56W
メタゲームの魅力
メタゲームとは何か。それはゲームという経験に生命を吹き込むものだ。メタゲームを通じてプレイヤーたちはより大きなコミュニティへと参画することになる。
多くの場合、メタゲームとは多くの(本当に多くの)人々が参加するイベントだ。それはあまりに人数が多いため、1回の勝負では勝ち負けを決められない。そのイベントはあまりの大きさに、個人はゲームの全体を把握できなくなるほどだ。個人は全体像を見通せない中、より小さい単位の勝負に注力することとなり、こういった各参加者のやる気がイベント全体に不可欠なものとなる。
またそれぞれのプレイヤーが持つ成功への道筋には多くの選択肢が存在する。プレイヤーはハシゴの最下段からたった1段上がっただけでも勝利の快感を得るだろう。ハシゴの最上段にたどり着かなければ達成感を得ることはできない、などということはないのだ。
実際のところ、良いメタゲームでは他のプレイヤーの目的を気にする必要は無い。私のディプロマシーの戦略が良い例だろう。私が発見したことは、自分にとってのメリットがなくなった瞬間に同盟を切り捨てていくというやり方よりも、私との同盟は信じられるものであり頼れるものであるという評判の方がより多くのゲームで勝てる、ということだ。
この戦略をとることによっていくつかの勝負では1位を逃すかもしれないが、少なくとも2位か3位には滑り込めるだろう、と私は判断した (一時期、私は約束の文言をあえて拡大解釈することで中立的な立場を維持しようとしたことがあった。しかしそこから学んだ教訓は次の通りだ。信頼に足る人間であるように思わせるもっとも簡単な方法は、実際に信頼に足る人間になること、だ。この教訓はゲームの世界だけでなく実生活にも役立っている)
このことから分かるのは、あるディプロマシーの勝負で私のプレイングが全て勝利を目的としたものだと決めてかかることはできない、ということだ。なぜなら、私は1回の勝利よりも約束を守ることのほうが大事だと信じているからだ。
まとめると、各勝負を別個のものとしてとらえるのではなく、それぞれを関連性のあるもの、つまりメタゲームとして包括的にとらえることでより高い勝率を得ることが出来る、と私は考えている。
メタゲームは多くの場合、その元となるゲーム自身の枠を越える有用性や意義を持つ。しばしば実生活にすら影響を及ぼすほどだ。メタゲームで成功するにはお金と体力を必要とする。時と場合によっては、着ている服や住んでいる場所すら影響する。
人によっては、このことがゲームの魅力を減じると言うが、私はこれが良いとも悪いとも思わない。単に、元のゲームには含まれない、メタゲームの一部であるとしか思わない。
例えばブリッジ(註5)の1ゲームで勝つのに持久力はそれほど必要ではないが、トーナメントでは必須となる。キラー(註6)を遊んでいるとき、次の日の朝8時から授業があるかどうかが君の戦術に大きな影響を及ぼすかもしれない。
もし君がピンポンのハシゴにいるとして、君がそのとき挑戦できる相手が1人しかおらずその相手が非常に粘り強い選手だったら、それはひどく苛立たしいことかもしれないが、それもまたゲームの一部だ。
メタゲームが実生活の経験に及ぼす影響についてもっとも良い例は、私とSkaff Eliasがこの冬に参加したMITのミステリーハントだろう。このハントの目的はMITのキャンパス内に隠されたコインを見つけることだ。コインの場所を指し示すヒントは、大量のパズルを解くことでしか手に入らない。
パズルはジャンルを問わない。胃が痛くなるような論理パズルからスカベンジャーハント(註7)まで実に様々だ。
その中のいくつかについては、解く為の指示が一切ない。その反面、解法そのものが他のパズルを解く為のカギとなっている場合もある。
私たちに課せられた課題の中にあったのは「与えられた複数のビデオを映像の順番どおりに並べる」「利き酒ならぬ、利きコーンフレーク」「シルエットから国名や州名を当てる」「音楽の題名で作られた暗号に潜むメッセージを解読する」などだ。
皮肉なことにパズルの1つにはマジックのカードによる置換式暗号パズル(註8)もあった。君たちが思っているよりも解読は難しかったが(Cuombajjなんて単語をマジックに入れたのは一体誰だ?)、とはいえ一度コツをつかんだらあとは簡単だった。
このハントは金曜の正午から始まり、週末をかけて行われる。精神的にも肉体的にも耐久力を要求されるとてつもなくキツい競技だ。11人で構成された私たちのグループは、体力回復のための一眠りをとるギリギリまでパズルに取り込み、数時間の休息ののち競技に復帰した。
ハントで私たちの大きな助けとなったのは、早い段階でSkaffと他一名が2人で解いてくれたパズルだった。そのパズルの答えは、他のパズルたちの解法だったのだ。
これによって私たちは対象のパズルに取り組むことなく、先手を打つ形で多くのパズルの解き方をあらかじめ調べておくことが出来た。いや、多くはそのパズルを見つける前にすでに解き方を知っておくことができた。
しかしこのアドバンテージを持っていて、なお私たちは50いくつのパズルのうちの40個を解くのに週末を丸々使ってしまった。
私たちは月曜日の朝4時に、2位にわずか30秒ほどの差で勝つことができた。私たちに与えられた賞品は「来年度のミステリーハントを企画する権利」だった……来年の参加者たちは苦しむこと間違いなしだ! このハントは私が遊んだ中でも最上のゲームの1つだ。
さて、なぜこういったトレジャーハントがメタゲームの範疇に入るのだろうか? パズルを解くだけではないということなのだろうか?
そう。その通りだ。
確かにただただパズルを解くというのもゲームの一部だが、全てのパズルを解いてコインを見つけるというメタゲームが確かにこのゲームに存在した。このゲームでは君のチームは自分たちのエネルギーとリソースを最も効率よく使うにはどうしたらよいかを考えなくてはいけない。
どの問題に誰がもっとも適しているか? 徹夜してでもパズルを解き続けるべきか、数時間でも睡眠をとるほうが重要か? 他のチームの動向も気にしなくてはいけない。相手よりどれだけ先行できているのか、それとも後れをとっているのか、また自分がどれだけそれを把握できるのか、といったこと次第で作戦も変えていかなければならない。
すでに過去に解いたパズルから解法を入手できているパズルに、3人のチームメイトを割り当てるのはチームにとってどれだけ有益なのか? もしかしたらすでに手に入っているその解法それ自身から、そのパズルを解いた際に得られる情報が隠れている可能性があるかもしれないのに?
個別のパズルを解くかわりに、もう最終回答を求めることに注力するべく人手を割いたほうがよいのか? それとも割かないほうがよいのか?
全てはより大きなゲームプランにつながっている。あの3日間、いつ食べるか、から、いつ寝るか、まで全てはそのゲームの為だった。
(註5) ブリッジ
ブリッジはトランプで遊ばれる4人用のゲーム。
麻雀のように1ゲームごとで点数を計算する賭け事向きのゲーム。
(註6) キラー
以下のURLにある Card Game の Killer のことと思われる。
ルールは簡単に言うと大貧民。
http://en.wikipedia.org/wiki/Killer
(註7) スカベンジャーハント
主催者側が用意したリストに載っている物品を最初に全て集めたら優勝というゲーム。シカゴ大学が毎年5月に行うスカベンジャーハントが特に有名らしい。
http://en.wikipedia.org/wiki/University_of_Chicago_Scavenger_Hunt
(註8) 置換式暗号パズル
原文はCrypt-List。
以下のリンク先では、JAVAスクリプトで遊べるCrypt-Listパズルが紹介されている。
http://www.crpuzzles.com/clist/index.html
マジックにおけるメタゲーム
トレーディングカードゲームはメタゲームの要素を本質的に強く持っている。なぜならカードの移り変わり自体がメタゲームだからだ。そこには常に、今現在プレイしている手札だけでは推し量れない、より大きなゲームの世界が存在している。プレイヤーは「どうやったらこの試合に勝てるか」だけでなく「次の試合ではデッキをどう変えるべきだろう」まで考えている。
人々がカードを交換したり買ったりするとき、彼らは自身のデッキ構築にあらたな選択肢を与えるという形でメタゲームの一手を打っているのだ。
トレーディングカードゲームのコミュニティ内のカードプールに変化が訪れるとき、それはコミュニティ内のゲーム環境もまた変えるのだ。もし君の属しているコミュニティ内にフォールン・エンパイアがまったく存在しなかった場合や、またはデッキに投入できるだけの量が手に入ったので君の白デッキにたくさんの《Combat Medic》が投入された場合、これらは君のコミュニティ内の環境をまったく変えてしまうだろう。
そう、君はメタゲームを動かしたのだ。
私が初めてトレーディングカードゲームのコンセプトを考案したとき、ゲームのことについて学ぶこともまたそのゲームの一部となる未来を心に描いた。
私はカードリストをプレイヤーに提供してはならないものと考えていた。それは単なる索引や辞書的にしか使われないで終わってしまう。古参のマジックプレイヤーたちはおそらく覚えていることだろう。今のように情報があふれていなかったあの時代、否応なくプレイヤー同士でゲームについて語り合い、情報を交換する必要があった。
現在、人々はセットに入っているカードが何なのかをずっと早く知ることができる。リリース情報はインターネットを使えばほぼすぐに手に入ってしまう。
しかし、もしかしたら情報に乏しかったあの時代が、ほんの少しとはいえ今現在のマジックのコミュニティを作る助けになった、と言えなくはないだろうか。トレーディングカードゲームの世界を探索しようとするプレイヤーたちのメタゲーム的な行為を通じて、人々が集まるようになったのだから。
実のところ、トレーディングカードゲームにおいて「基本」と呼べる環境は定かではない。ああ、もちろんマジックの基本は「1対1」だ。しかしその「1対1」は未開封のトーナメントパック(註9)を使ったものだろうか?
それともDCI(註10)の提供している構築ルールに従ったものだろうか? それともコモンカードに限定した構築? それとも君の妹のおもちゃ箱に入ってるカードに限定した構築? これら全ての制限された環境ごとに、異なるメタが存在する。それぞれ、要求されるスキルも異なり、つちかわれる経験もまったく違うものになる。
メタゲームが自然と問いかけてくることになるこういった流れに対し、私たちはその回答として、新たな階層を用意する。トーナメントやリーグ戦などだ。DCIは、カードの制限を加えたり様々なイベントを提供することで、ローカルなものから国際的なものまで様々なレベルのトーナメント(メタゲーム)を生み出している。
今やちまたにはトレーディングカードゲームがあふれている。メタゲームは今や手がつけられないほど大きくなった。
君はマジックのカードとStar Trek(註11)のカードを交換したことがあるだろうか? Illuminati(註12)のカードとWyvern(註13)のカードは? On the Edge(註14)とBlood Wars(註15)は? これら全てのゲームのルールを知っているだろうか? 今や広がりゆくメタゲームはあまりに広大で、把握しようとすることすら不可能に近い。
MITミステリーハントを終えて、Skaffと私はこのハントのようなイベントをマジックで行うにはどうしたよいかを話し合った。私達の結論は、チーム制の大会を週末をかけて行ってみよう、それも4人で構成される各チームが1回では参加しきれないほどたくさんのイベントを用意しよう、というものだった。
イベントごとに異なる獲得ポイントを用意し、また賞品もイベントごとに異なるものにする。各チームには初めに300枚ほどのランダムに割り振られたカードが渡される。その週末の大会のあいだ、君たちは点数を獲得するべく、デッキを何度も作り直すことになるだろう。そして、ミステリーハントと同じく、ここで開催される素晴らしいゲームイベントでは様々な決断が多様なレベルに影響を及ぼすことになる。
カードプールから最強のデッキを1つだけ作り、最もポイントの高いトーナメントを狙うか? それともカードをばらけさせ、ポイントが低いトーナメントを複数狙うか? 上位5人への賞品が「好きな基本土地カード 6枚」のトーナメントは、上位5人への商品が「ザ・ダークのブースター」のトーナメントよりも価値があるのか? 無理しててもトーナメントに参加する回数を増やすか、2時間だけでも睡眠をとったほうがよいのか?
このイベントでは広い範囲の才能や資質が要求される。当然、その中には持久力も含まれることになるだろう。
週末の最後にもっとも高いポイントを稼いでいたチームが優勝となる。もしかしたら、各チームが使い続けたそのデッキを使って、最後の大一番となるプレーオフを行うことになるかもしれない。そして私たちはそこで得られた総合ポイントをさらに大きな大会に持ち越すこともできる。その大会は数ヶ月にかけて行われるものになるだろう。そしてそれらの大会で得られたポイントをさらに大きな大会に持ち越すのだ。
メタゲームというこの題材は私の心をとらえて離さない。もし私たちが各試合それぞれに注いでいる情熱の半分をメタゲームに振り向けさえすれば私たちはよりよいプレイヤーとなれるはずだ。それだけでなく、またイベントもずっとよいものになるはずだ。
実のところ、それ以上に人間としてより向上することができるはずだと信じているが、それを証明するためには、いましばらくの時間と場所が必要だ。
(註9) 未開封のトーナメントパック
原文では「stripped starter deck」。第6版以前はスターターと呼ばれていたもので、ブースター3パック分のカードと基本土地を合わせて60枚入っている。
(註10) DCI
原文では「Duelists’ Combocation」。DCIの旧名称は「Duelists’ Convocation International」で、その略称がDCIだったが、現在は正式名称がDCIとなっている。
公式サイト:http://www.wizards.com/default.asp?x=dci/welcome,,ja
(註11) Star Trek
スタートレックを題材にしたトレーディングカードゲーム。1994年発売。
公式(?)サイト:http://www.trekcc.org/ (リンク先は英語)
(註12) Illuminati
カードゲーム「Illuminati」を元にしたトレーディングカードゲーム。19971994年発売。
公式サイト:http://www.sjgames.com/inwo/ (リンク先は英語)
(註13) Wyvern
ドラゴンやワイバーンとなって宝を奪い合うトレーディングカードゲーム。1994年発売。
(註14) On the Edge
Over the Edge RPGを題材にしたトレーディングカードゲーム。1994年発売。
公式サイト:http://www.atlas-games.com/ontheedge/ (リンク先は英語)
(註15) Blood Wars
D&DのPlanescape世界を題材にしたトレーディングカードゲーム。1995年発売。
カード名が殺されるとき/Name Killers
Doug Beyer
2007年11月28日
元記事:http://www.wizards.com/magic/magazine/Article.aspx?x=mtgcom/daily/db12
マジックのカードが、その鎧兜を一部のすき無く着込み出陣の準備を万端に整え、完成品として世に出るその遥かな前段階として非常に重要な仕事が成されている必要がある。
先に言っておくが今日のコラムはマジックのスマートで美しい外見(そとづら)の話ではない。多元宇宙にまたがって長いスパンで培われてきたフレイバーに関する集大成に他ならない。外見をはぎとり、マジックの内臓をのぞき見る作業だ。ゲームが「なぜそうなっている」のか、そして「なぜそうなっていない」のかを直視することだ。
もし君が、登場人物の目から見た世界やローウィンに眠っている不思議など、マジックの世界観を楽しもうと思って来たのであればブラウザの戻るボタンをクリックすることをオススメする。しかし、もし君が、そでをまくり自らの手を汚す覚悟があり、マジックというサーカスのテントの端をめくって創造の現場を見たいというのならこのまま先へ進むことだ。
今日、私たちが語るのはカードの名前についてだ。
怖くなったかい?
引き返すなら今のうちだ。
わずかな「~べし」、膨大な「~べからず」
なぜ私たちは今君たちが目にしているようなカード名を名づけているのか? どのようにしてカードたちはその名前をつけられているのか? 生まれたばかりのカードたちにつけられるべき名前を決めているのはどのような規則なのか?
実際には、ポジティブな方向性で名づけられることはあまりない。「このカードはこう名づけられるべき」という指針は非常に少ないのだ。
もちろん、常識的なルールはある。そのカードが何をするかを表す言葉やセット全体のテーマ、美的センスから選ばれる音の響きと弾かれる音の響き、韻を踏む、などだ。
しかしカードデザインの命名をするという段階において、特定の方向へ導こうとする力は非常に弱い。これこそ私たちのクリエイティブな仕事の楽しい面であり、同時に恐ろしい個人的判断を下さなければならない瞬間が訪れるときでもある。
名前の候補を出すとき、最初の一定期間は自分たちの創造力を自由気ままに発揮させることにしている。とはいえ、そこにはたくさんのネガティブなルール、つまり「べからず」があり、これによって私たちは潜在的に問題のある候補たちを遠ざけることができる。
全てのセット(ただしコアセットは除く。新しいカード名が必要ないからだ)において、フリーランスのフレイバーテキスト・ライターたちも各カードに名前の候補を出してくる。全ての候補が出揃ったところで、一度私たちはそれらをふるいにかける。マジックの命名ルールにある大量の「べからず」に該当する名前を全て除外する作業だ。
さて、そのルールとやらを書き出してみようか。
ここでは、君と私がマジックのクリエイティブチームだと思って欲しい。つまり新たに生まれるセットのカードの名前を選ぶ(もちろん作ったりもする)メンバーだ。私たちは働き者のフリーランス・ライターたちが候補として提案してきたカード名のリストを頭から順繰りに眺めている。そしてまず1つ目の候補がマジックのカード名としての適当なものであるかを判断しなければいけない。
私たちがすべきことは、ある質問を自身に問いかけること、そしてそれに対する回答を出せる限り出してしまうことだ。
質問:「なぜこの名前ではいけないのか?」
回答 その1:
なぜなら、その名前はすでに使われているから!
1つ目は簡単だ。
よく聞かれることに「なんでもっとシンプルな名前をつけないんだ?」や「クリーチャーがエルフでかつ戦士なら、名前は《エルフの戦士》でいいじゃないか」などがある。
答えは簡単だ。すでにその名前のカードが存在するからだ。候補が不適格とされる最初の判別方法は、過去に存在するカードと名前が競合するかどうかだ。
マジックのカード名は、他のカードと区別するための絶対的な唯一性を持った特性だ。それによって君は、そのカードの持つ一連のメカニズムを他のカードから区別している。
もしカードが他のあるカードと同じ名前を共有した場合、それは「多少似通ったところがあるから」ではないし「大まかなところで代替可能だから」でもない。同じ名前を持つ場合、その理由はそれがマジックというゲームにおいて「全く同じカードだから」に他ならない。覚えておいて欲しいのはオラクルが保証する公的なルールテキストは、イラストにも収録セットにも紐づいていないということだ。オラクルはあくまでもカードの名前、そのものにしか紐づかない。
よって、マジックに置いてその名前は常に唯一無二だ。
私たちは、機能の異なる2枚以上のカードに同じ名前をつけることは決してない。例えば《Teleport》のようなカッコいい名前を完全新規のカードにつけることは、私がどんなに望んだとしても、できない。なぜならすでに《Teleport》というカードが存在するからだ。
《ヴェンセールのテレポート/Venser’s Teleport》という名前をつけたい?
どうぞ、どうぞ。
《安全地帯へのテレポート/Teleport to Safety》だって?
いいねえ。
《テレポートのルーン/Rune of Teleportation》かい?
問題なしさ。
ただの《テレポート/Teleport》?
そいつはダメだね。
この記事を書いている今時点で、マジックには1万を超える名前がすでに存在している。当然、名前の競合が起きてしまう可能性は非常に高く、おそらく君が思っているよりずっと高い頻度でこの問題は起きている。
回答 その2:
なぜなら、その名前と非常によく似た名前がすでに使われているから!
さらに頻繁に起きるのは、候補となった名前が既存のカード名と非常に似通ってしまっている場合だ。この問題は同じ言葉を繰り返したり、響きが似た言葉を用いるだけで起きるため発生頻度が高く、同じセット内ですら起き得る。
ただし、意図的に同じ言葉を繰り返し用いることはある。《思考の糸のうねり/Surge of Thoughtweft》と《思考の糸の三人衆/Thoughtweft Trio》、もしくは《ツキノテブクロの毒/Lace with Moonglove》と《ツキノテブクロの選別者/Moonglove Winnower》のような例だ。これらの名前はそれぞれのカードをフレイバー的に関連付けたいため、同じ言葉を使っている。
しかし特定の単語があまりに頻繁に使われてしまうことがよくある。
ローウィンを例にとると「雲(Cloud)」という単語は、しばらく登場を歓迎されないほどに使われすぎたように思う。それ自体はいい言葉だ。地水火風の風のイメージをもたらしてくれるし、ファンタジーっぽいし、それなのに単語は短くて言いやすい。これらは名前に用いる単語に求められる重要な要素だ。
しかしスタンダードのそこら中で見かけるようになると陳腐化する。こういった単語を永遠に封印するつもりはまったくないが、ちょっとお休みいただくのも悪くない。そうすることでまた新鮮味が戻ってくる。野球で言うところの「ベンチに下げている状態」だと思ってくれればいい。
それとはまた別に、非常に似通った響きのカード名というのは混乱の元だ。私たちはできるかぎりそういったカードが印刷までたどり着いてしまわないように注意している。
《Clickslither(クリックスライサー)》《Quick Sliver(クイックスリヴァー)》《Quicksilver Dragon(クイックシルヴァードラゴン)》は全て同じオンスロートブロックのカードだ(それだけでなく、前者2枚は同じセットだ)。もっとも幸いなことにこれらは非常に違いのはっきりしたカードたちだ。実際に見れば、どっちがどっちか分からなくなるような心配はほとんどない。しかし名前という観点からのみ見ると、そうでもない。
この問題は特に部族をテーマにしたローウィンにおいて顕著だった。
ローウィンだけで23体のゴブリンがいた。彼らは、ほぼ例外なく「小さく」「飛んでおらず」「赤か黒のクリーチャー」だった。そのためそれぞれを区別可能なように名づけることは(すでにマジックに160体(!)を超えるゴブリンがいたこともあり)非常に難しい仕事だった。
新しいセットにおいて、ゴブリンがよく新しい名前(モグ、悪鬼、ボガートなど)を得るのは、今までのゴブリンときちんと区別がつきつつ、かつ良い名前をつけてあげられるように、というのも理由の1つなのだ。
回答 その3:
なぜなら、その名前はすでにクリーチャータイプとして使われているから!
フレイバー&機能的な要素を持ち合わせた複雑な迷路のようなシステム、クリーチャータイプ。そこをあえてつらい思いをしながら手探りで進むとき、私は自虐的な喜びをおぼえる。
そこは暗闇に閉ざされた底知れぬ迷宮だ。つい最近、Mark GottliebとBrady Dommermuthとその仲間によって編成された"決死のサブタイプ調査隊"がそこに入り、大まかな調査と測定を行ったばかりだ(この探索行は「大規模クリーチャータイプ更新/The Grand Creature Type Update」と言う名で知られている)。
9月にMark Gottliebが書いたように、この更新でクリーチャーに新たなサブタイプを与えた大きな理由の1つは「カードの名前」だ。《ドワーフ戦士団/Dwarven Warriors》はドワーフ(Dwarf)であるだけでなく戦士(Warrior)にもなり、《エルフの射手/Elvish Archers》は射手(Archer)のサブタイプを獲得した。
この基本原則は逆方向にも働く。カードに名前をつけるとき、そのサブタイプと矛盾するような名前はつけられるべきじゃない。もしそのクリーチャーのサブタイプがキスキン(Kithkin)の兵士(Soldier)であるならば、その名前は決して《ゴールドメドウの斥候/Goldmeadow Scout》であってはならない、ということだ。なぜなら斥候(Scout)というクリーチャータイプはすでに存在しているにも関わらず、このカードはそのサブタイプを持っていないからだ。
もしクリーチャータイプが精霊(Elemental)なら、そのカードに《暴走獣/Crasher Beast》と名づけてはいけない。ローウィンに収録されているいくつかの精霊(Elemental)はこのルールを守れているかかなり怪しい。例えば《薄れ馬/Wispmare》は馬(Horse)のサブタイプを持っていない。
なお、ここまでの説明を読む限り、多相(Changelings)はサブタイプとの整合性を気にしなくてもよいことになる。《変わり身の狂戦士/Changeling Berserker》? 問題ないよ!
念のため。当たり前のことだが《ドラゴン狩りのザホッド/Zaphod the Dragon Hunter》と名づけたからといって、それがドラゴンのサブタイプを持っている必要はない。また《Giant Albatross》に巨人(Giant)のサブタイプを加える必要もない。《ゴールドメドウの斥候/Goldmeadow Scout》の場合とは違い、これらは名前の中に特定のサブタイプを含んでいても実際にそのクリーチャータイプを持っていないことが問題になったりはしない。
回答 その4:
なぜなら、その名前だとカードタイプと矛盾するから!
ここで言っているのはクリーチャータイプじゃない、カードタイプだ。
クリーチャータイプのときよりも少し難しい話になる。クリーチャータイプと違い、そのカードとは異なるカードタイプが候補名に入ってしまっている、ということは滅多にないからだ。ライターたちだってそれくらいは分かっている(いや《秘宝の突然変異/Artifact Mutation》のことは脇に置いておくとしてだ)。
そういった話ではなくて、ここではもっとフィーリング寄りの話をしている。
例えば、ソーサリーの名前はどうあるべきか? または装備品にふさわしい名前は?
この問題は特にエンチャントで起きる。エンチャントのコンセプトを伝える場合(イラストレーターに指示を出す場合)、多くはインスタントやソーサリーと似たようなものとなる。その描写は、魔法使いが呪文を唱える瞬間であったり、クリーチャーや場所に魔法をかける様子であったりする。
しかしゲーム中、それらは戦場に残るのだ。
そのため私たちはエンチャントの名前に即時的な動作や行動(《外身の交換/Crib Swap》や《有象無象の発射/Fodder Launch》のような名前)がつけられるのを避ける。かわりにもっと継続性のある響きをもつ単語を名前に用いたり(例:《ボガートの悪ふざけ/Boggart Shenanigans》)、何かの状態を表す単語を使ったりする(例:《強き者の優位/Favor of the Mighty》)。
オーラは多くの場合、新たなスキルや魔法的な能力を名前に用いる(例えば《三つ目巨人の視線/Triclopean Sight》や《熟達した戦い/Battle Mastery》のように)。そうすることでオーラをつけられたクリーチャーが新たな能力を得たというイメージを持つことが出来る。
ときに判断に困る場合もあるし、決断を迫られる場合もある。
例えば《忘却の輪/Oblivion Ring》だ。初めてこの名前を聞いたとき、多くの人はこの名前からアーティファクトを連想するはずだ。
もし君が実際のカードを見ておらず、ふちが白で彩られているところや、移動を制限する魔法的な粉によって描かれたほの明るく光るリングのイラストを知らない状態で、ただカード名がつらなるリストだけを見たとしたらおそらく思い浮かぶのは手にはめる指輪(Ring)だろう。こういった要素を持つ輪(Ring)という単語を用いざるを得なくなったのは、元々このカード名に使いたかった円(Circle)という単語が使えなかったためだ。
なぜカード名にその単語が使えなかったのか、が次の回答につながる。
回答 その5:
なぜなら、その名前だと既存のマジックにおける共通認識と矛盾するから!
1万枚以上というカード枚数は膨大だが、マジックのカードにおける命名ルールのパターンを覚えるのは、新規のプレイヤーが想像するよりずっと簡単なことだ。なぜなら慣習的なネーミングルールが常にマジックのカード名にはつきまとい、新たに出てくるカードがそのルールをまた補強していくからだ。
ここで言っているパターンというのはクリーチャータイプの話ではない。
シェイド(Shades)やトロール(Trolls)や死霊(Specters)にはメカニズム的な暗黙の了解がある。シェイドはターン終了時まで+1/+1され、トロールは再生し、死霊は空を飛んで手札を破壊する。しかしこういったクリーチャータイプに紐づくことはコンセプトの段階ですでに決定されている。カード名の候補が上がる前のことだ。
ライターたちがどういった名前をつけようかと考え始める頃には、すでにイラストレーターへの指示も決まっており、そこにトロールが描かれることも分かっている。そのため、そのクリーチャーの名前をトロールと名づけるべきか否かについては、あまり選択の余地がない。
私が言っているのは、例えば物あさり(Looter)の話だ。
《セファリッドの物あさり/Cephalid Looter》、《Artful Looter》、《コー追われの物あさり/Looter il-Kor》などと同じく、《マーフォークの物あさり/Merfolk Looter》は「1枚引いて、1枚捨てる」能力を持っている。これらのクリーチャーたちは異なる種族に属しているが、彼らは全て物あさり(Looter)だ。新たに生まれるクリーチャーがそのイラスト内で宝箱をあさっていたとしても、もしそれが「1枚引いて、1枚捨てる」能力を持っていなかった場合、私たちはそれを物あさり(Looter)と呼ぶことを避けるはずだ。既存の共通認識を守るために。
円(Circle)の問題も似ている。
誰だってマジックにおける円(Circle)が何なのか知っているからだ。
1.それは白い全体エンチャントだ(《忘却の輪/Oblivion Ring》、1次試験を突破)
2.防御的な効果を持っている(《忘却の輪/Oblivion Ring》、2次試験も突破)
3.ダメージを軽減する起動能力を持つ(《忘却の輪/Oblivion Ring》、あと一歩で落選)
今まで数多くの円(Circle)が存在した(ちなみに全部で14個だ)。その伝統的な特性は驚くほどに一貫している。防御的な輪というコンセプトとイラストと守備的なフレイバーにも関わらず《忘却の輪/Oblivion Ring》がマジックにおける円(Circle)の仲間入りを果たせなかったのは、機能的な類似があとわずかに足りなかったためだ。その差のせいで、円(Circle)の名を冠することが出来なかった。
回答 その6:
なぜなら、その名前だとキーワード能力とごっちゃになるから!
よほどの理由が無い限り、カードの名前はキーワードを含むべきではない。
このルールのために時のらせんブロックにおいて名前を付ける作業が難航した。なぜなら過去から復帰したキーワード(および未来予知で未来からやってきたキーワード)がたくさんあったためだ。
《裂け目抜けの騎士/Riftmarked Knight》は当初《裂け目の影の騎士/Riftshadow Knight》となる予定だった。この名前は、白と黒の対照性が綺麗に表されていたし、次元の裂け目の影となる裏側についても上手く表現していた。しかし問題はこのクリーチャーがシャドー(Shadow)という能力を持っているかのような誤解を生むことだった。シャドー(Shadow)を持つクリーチャーがこのブロックに何体か収録されており、そのいくつかは《裂け目抜けの騎士/Riftmarked Knight》のような白くて軽いクリーチャーだった。
時のらせんブロックで、私たちは「ジレンマとしか言いようのないジレンマ」と私が呼ぶ状態に何度も陥った。そのカードの特色がそれの持つキーワードに依存する場合、カード名にそのキーワードを含むべきかどうかは非常に悩ましい問題だった。
《ドラゴンの嵐/Dragonstorm》は完璧だ。
それはたくさんのドラゴンがまるで嵐のように呼び出される呪文であり、またそのカードが持つ機能をまさにそのまま伝えている(そう、このカードはストームを持っており、ドラゴンを持ってきてくれる)。私たちは可能な限りこの例と同じくらい「そのまま」なネーミングをつけるようにしている。
しかしそのキーワードを持っているカードがあまりにたくさんある場合、その名前はすぐにワンパターンでありふれたものになり、どのカード名がどんな能力だったのかを思い出すことが非常に難しくなる。《翼の破片/Wing Shards》は《破片の嵐/Shardstorm》という名前にはならなかったし、《苦悶の触手/Tendrils of Agony》も《触手の嵐/Tendrilstorm》や《苦悶の嵐/Agonystorm》にはならなかった。
さらに言うと、こういった名前はやりすぎると鼻につく。あまりに機能的でフレーバー的な要素に欠けるためだ。
3/3のトランプル持ちは大抵の場合《トランプル象/Trampling Elephant》という名前を得ることはない。イラストレーターに依頼する際の指示が「何かを踏み潰して進む象」だけということは滅多にないから、ということだけが理由ではなく、万が一そのような指示があったとしても、私たちは可能なかぎりセットの雰囲気をかもしだしてくれるような名前やそのクリーチャーに何らかの個性を持たせるような名前を模索する。
単に1つのキーワードに依存してしまう名前より、そのほうがずっといい。私たちは少なくとも名前を決めてしまう前に類語辞典くらいは調べる。
「ジレンマとしか言いようのないジレンマ」の片翼が上記のような問題であり、つまりカードの持つキーワードをいつも名前に使えるわけではない、という話だ。
ジレンマのもう片翼は、カードがそのキーワードを持っていないならばカード名にそのキーワードを用いることはほぼ出来ない、ということだ。トランプルを持たないクリーチャーを《トランプル象/Trampling Elephant》と名づけたり、プロテクションを与える能力を持たないアーティファクトに《プロテクションの指輪/Ring of Protection》という名前をつけたりしたら、分かりづらいどころの騒ぎじゃない。こういったジレンマの結果、キーワードを避けざるを得ないことはよくあることだ。
対象のカードがストーム能力を持っていない場合、私たちは嵐(Storm)というカッコいい単語を名前に使うことを諦めなければいけなくなる。それだけでなく同時に、ストーム能力持ちだからと言って際限なく嵐(Storm)を含む名前をつけていいわけでもない。(そのため私たちはキーワード能力に用いる言葉を選ぶときは細心の注意を払っている……この話はまた別のコラムで語られることになるだろう)
しかしこのルールに反しつつも、問題とならない名前を生み出すこともできる。
未来予知で私のお気に入りの名前は《嵐の精体/Storm Entity》だ。こいつ自身は確かにストーム能力を持っていない。しかしストームによく似た能力を持ち、ストーム持ちのカードを大量に放り込まれたデッキとの相性は抜群だ。
公式サイトのGathererでストームという単語を含むカードを探してみて欲しい(カード名とルールテキストから探す、というデフォルト設定のままでいい)。《巣穴からの総出/Empty the Warrens》や《記憶の点火/Ignite Memories》に混じって《嵐の精体/Storm Entity》が出てくるはずだ。これら全てがストームというキーワード能力を持っているわけでもないのに、これらは同じデッキに入れてもよく馴染むように出来ている。
回答 その7:
なぜなら、その名前には将来のためにとっておいた大事な単語が使われてるから!
私たちはマジックが永遠に続くものと仮定している。そうだとして、私の計算が正しければあといくつのカード名が必要かと言うと1、2、3 ……(指を折って数えている)…… たくさんだ。
円(Circle)や物あさり(Looter)などのような名前に使われる単語たちはいともたやすくネーミングに暗黙の了解をもたらしてしまう。そのため私たちは、将来的に名前をつけるときに困ったことなるのを避けるために、特定の単語が望ましくない暗黙の了解を作ってしまわないよう気をつけている。
例えば私たちは未来予知において先触れ(Harbinger)という名前を意図的に避けた。そうすることでローウィンにおいて先触れ(Harbinger)という素晴らしいサイクルを登場させることができた(ちなみに《ラノワールの共感者/Llanowar Empath》は一時期《ラノワールの先触れ/Llanowar Harbinger》という名前になる可能性があった)。
もっとも私たちは予言者ではない。そのため将来的にどのような単語を名前のために必要とするかを全て見通すことはできない。好むと好まざると、名前の競合は起こってしまうこともある。それに、そのカードにもうどうしようもなくある名前をつけざるを得ないときもあるし、まったく内容が異なるカード2枚の名前両方に同じユニークな単語を使ったからといって人類が滅亡するわけでもない。元のカードが出たのが数年前なら滅亡の可能性はさらに低くなる。
しかし同時に私たちの手のうちには、いつか日の目を見るそのときまで大事に保管されている単語がある。そうすることで実際に世に出たときのインパクトがより強まるはずだから。
回答 その8:
なぜなら、その名前にはセットの雰囲気に反するから!
私にとって、名前をつける際に非常に大きな比重を占める要素は、そのカードが収録されるセットの世界観だ。これに関しては、そのセットのスタイルガイドが大きな助けとなる。
これはイラストレーターの指針となるだけでなく、これは名前を含めた文章面を担当するライターたちの助けにもなる。スタイルガイドには世界の詳細設定とバックストーリー、そしてカードの名前やフレーバーテキストに用いられるべき言葉や単語が大量に収められているからだ。ライターたちはそれによってどのような名前を適当かそうでないかを判断できるようになる。
ローウィンは陽気でおとぎ話的な雰囲気に満ちみちている。よって《ボガートの悪ふざけ/Boggart Shenanigans》や《ごたごた/Hurly-Burly》といった名前は他のセットよりもローウィンこそふさわしい。
逆に《ヘルドーザー/Helldozer》や《金切り声の混種/Shrieking Grotesque》などの名前はこの世界にふさわしくない。これらの名前に問題があるわけじゃない。ただ、私たちが作り出そうとしている世界観の響きに合わない、という理由により選ばれないのだ。
このルールに引っかかるかどうかスレスレのところをいっている例としては《死裂の剣/Deathrender》がある。ローウィンの世界観からすると結構「ロックな」響きだが、これは死(Death)という単語を用いても問題ない数少ない例の1つだ。私はこの魔法の剣によってセットにもたらされたちょっとワルい雰囲気を好ましく思っている。
回答 その9:
なぜなら、その名前はあまりに発音しにくいか、もしくは分かりにくいから!
これを最後に持ってきたのは、このルールがリストの中ではもっとも優先順位の低いものだからだ。
当たり前のことだが、あからさまに発音できない名前や、読む人にとってまったく意味をなさない単語を使った名前は却下される。しかし私たちは年に数回、少しずつこの線引きを押し広げつつある。基本的にどれかの辞書に載ってさえいれば将来的に使われる可能性を秘めている単語と考えてもらっていい(実際にカード名に使われたことのあるあまり一般的でない単語については、マジックの目録を見てもらえれば大体分かるはずだ)。
ローウィンに出て来た単語に「reejerey」というものがある。これはウェールズ語(訳註:スコットランド)の言葉で「騎士」や「王」を表している。またキスキン関連に用いられている「cenn」や「clachan」などもウェールズ語だ。これらは確かに英語ではないが、大体の人は初見でもなんとなくどう発音すればよいのか分かるだろう、と思われたので私たちは実際に採用することにした。
もちろんこのルールに従って却下される言葉もある。
《森林の庇護者/Timber Protector》の他の候補名は《Noble Taoiseach》だった。この「Taoiseach」というのはアイルランド語で「長」や「リーダー」を指す言葉だ(そしてアイルランドの首相を指す言葉でもある)。「Taoiseach」は美しい言葉だが、英語話者のマジックプレイヤーの大半はこれを初見で正しく発音することはできないだろう。(この単語の発音は「ティーショク(tee-shok)」か「ティーシェク(tee-shek)」に近いものになるはずだ。私の貧弱な語法知識ではこれが精一杯だ。申し訳ない)おそらくだが、多くの人は正しいか正しくないか以前に発声可能な発音すら思いつけないかもしれない。
明文化されたテスト方法ではないが、判断の一助にしている判定方法の1つにプレイヤーがためらいなく「じゃあ《カード名》を唱えるね」と言うかどうか、がある。もしプレイヤーがそうするなら、その候補名はあまり難しい発音ではないということを暗に示しており、おそらくこのチェック事項を突破できるだろう。
しかし、あらためて言うが私たちは「マジックのカード名に使ってもよいほど一般的かどうか」という判断基準を少しずつ緩和したいと考えている。
マジックに用いられる単語が非常に幅広い分野に及んでいて面白い、というメールを私はたくさんもらっている。私自身、《根絶/Extirpate》を次元の混乱に収録させていなかったら、今も普段の会話に《根絶/Extirpate》という単語を用いることはなかっただろう。「どうやらお隣さんは、自分の土地の古くなったコンクリートの土台を根こそぎ取り除く(=extirpate)のをようやく終えることができたみたいだね」
そして最終試験へ
これら全ての「~べからず」を生き延びた候補名のみ、カードの公式名として使われるチャンスを得る。
しかし、私たちクリエイティブチームが次の担当者へと手渡した名前はこれら全てのチェックを合格しているにも関わらず、必ずしも実際に君たちの手にしたブースターから登場するわけではない。
私たちのチームの手を離れたあともまだそこには1つか2つの関門が待ち構えており、そこでの審査の結果、選ばれた名前が殺されてしまうこともある。そうなると私たちはあらためて代替案を探さなくてはならない。しかしこれは例外的な話で、今日のコラムであげたチェック事項で候補となる名前の生死はほぼ決定づけられる。
さてそろそろおいとまさせてもらおう。
今後のセットのために用意されている数百にも及ぶ名前たちが容赦なく処刑台に乗せられていくのを見届けるという仕事が待っているんでね。
Doug Beyer
2007年11月28日
元記事:http://www.wizards.com/magic/magazine/Article.aspx?x=mtgcom/daily/db12
マジックのカードが、その鎧兜を一部のすき無く着込み出陣の準備を万端に整え、完成品として世に出るその遥かな前段階として非常に重要な仕事が成されている必要がある。
先に言っておくが今日のコラムはマジックのスマートで美しい外見(そとづら)の話ではない。多元宇宙にまたがって長いスパンで培われてきたフレイバーに関する集大成に他ならない。外見をはぎとり、マジックの内臓をのぞき見る作業だ。ゲームが「なぜそうなっている」のか、そして「なぜそうなっていない」のかを直視することだ。
もし君が、登場人物の目から見た世界やローウィンに眠っている不思議など、マジックの世界観を楽しもうと思って来たのであればブラウザの戻るボタンをクリックすることをオススメする。しかし、もし君が、そでをまくり自らの手を汚す覚悟があり、マジックというサーカスのテントの端をめくって創造の現場を見たいというのならこのまま先へ進むことだ。
今日、私たちが語るのはカードの名前についてだ。
怖くなったかい?
引き返すなら今のうちだ。
わずかな「~べし」、膨大な「~べからず」
なぜ私たちは今君たちが目にしているようなカード名を名づけているのか? どのようにしてカードたちはその名前をつけられているのか? 生まれたばかりのカードたちにつけられるべき名前を決めているのはどのような規則なのか?
実際には、ポジティブな方向性で名づけられることはあまりない。「このカードはこう名づけられるべき」という指針は非常に少ないのだ。
もちろん、常識的なルールはある。そのカードが何をするかを表す言葉やセット全体のテーマ、美的センスから選ばれる音の響きと弾かれる音の響き、韻を踏む、などだ。
しかしカードデザインの命名をするという段階において、特定の方向へ導こうとする力は非常に弱い。これこそ私たちのクリエイティブな仕事の楽しい面であり、同時に恐ろしい個人的判断を下さなければならない瞬間が訪れるときでもある。
名前の候補を出すとき、最初の一定期間は自分たちの創造力を自由気ままに発揮させることにしている。とはいえ、そこにはたくさんのネガティブなルール、つまり「べからず」があり、これによって私たちは潜在的に問題のある候補たちを遠ざけることができる。
全てのセット(ただしコアセットは除く。新しいカード名が必要ないからだ)において、フリーランスのフレイバーテキスト・ライターたちも各カードに名前の候補を出してくる。全ての候補が出揃ったところで、一度私たちはそれらをふるいにかける。マジックの命名ルールにある大量の「べからず」に該当する名前を全て除外する作業だ。
さて、そのルールとやらを書き出してみようか。
ここでは、君と私がマジックのクリエイティブチームだと思って欲しい。つまり新たに生まれるセットのカードの名前を選ぶ(もちろん作ったりもする)メンバーだ。私たちは働き者のフリーランス・ライターたちが候補として提案してきたカード名のリストを頭から順繰りに眺めている。そしてまず1つ目の候補がマジックのカード名としての適当なものであるかを判断しなければいけない。
私たちがすべきことは、ある質問を自身に問いかけること、そしてそれに対する回答を出せる限り出してしまうことだ。
質問:「なぜこの名前ではいけないのか?」
回答 その1:
なぜなら、その名前はすでに使われているから!
1つ目は簡単だ。
よく聞かれることに「なんでもっとシンプルな名前をつけないんだ?」や「クリーチャーがエルフでかつ戦士なら、名前は《エルフの戦士》でいいじゃないか」などがある。
答えは簡単だ。すでにその名前のカードが存在するからだ。候補が不適格とされる最初の判別方法は、過去に存在するカードと名前が競合するかどうかだ。
マジックのカード名は、他のカードと区別するための絶対的な唯一性を持った特性だ。それによって君は、そのカードの持つ一連のメカニズムを他のカードから区別している。
もしカードが他のあるカードと同じ名前を共有した場合、それは「多少似通ったところがあるから」ではないし「大まかなところで代替可能だから」でもない。同じ名前を持つ場合、その理由はそれがマジックというゲームにおいて「全く同じカードだから」に他ならない。覚えておいて欲しいのはオラクルが保証する公的なルールテキストは、イラストにも収録セットにも紐づいていないということだ。オラクルはあくまでもカードの名前、そのものにしか紐づかない。
よって、マジックに置いてその名前は常に唯一無二だ。
私たちは、機能の異なる2枚以上のカードに同じ名前をつけることは決してない。例えば《Teleport》のようなカッコいい名前を完全新規のカードにつけることは、私がどんなに望んだとしても、できない。なぜならすでに《Teleport》というカードが存在するからだ。
《ヴェンセールのテレポート/Venser’s Teleport》という名前をつけたい?
どうぞ、どうぞ。
《安全地帯へのテレポート/Teleport to Safety》だって?
いいねえ。
《テレポートのルーン/Rune of Teleportation》かい?
問題なしさ。
ただの《テレポート/Teleport》?
そいつはダメだね。
この記事を書いている今時点で、マジックには1万を超える名前がすでに存在している。当然、名前の競合が起きてしまう可能性は非常に高く、おそらく君が思っているよりずっと高い頻度でこの問題は起きている。
回答 その2:
なぜなら、その名前と非常によく似た名前がすでに使われているから!
さらに頻繁に起きるのは、候補となった名前が既存のカード名と非常に似通ってしまっている場合だ。この問題は同じ言葉を繰り返したり、響きが似た言葉を用いるだけで起きるため発生頻度が高く、同じセット内ですら起き得る。
ただし、意図的に同じ言葉を繰り返し用いることはある。《思考の糸のうねり/Surge of Thoughtweft》と《思考の糸の三人衆/Thoughtweft Trio》、もしくは《ツキノテブクロの毒/Lace with Moonglove》と《ツキノテブクロの選別者/Moonglove Winnower》のような例だ。これらの名前はそれぞれのカードをフレイバー的に関連付けたいため、同じ言葉を使っている。
しかし特定の単語があまりに頻繁に使われてしまうことがよくある。
ローウィンを例にとると「雲(Cloud)」という単語は、しばらく登場を歓迎されないほどに使われすぎたように思う。それ自体はいい言葉だ。地水火風の風のイメージをもたらしてくれるし、ファンタジーっぽいし、それなのに単語は短くて言いやすい。これらは名前に用いる単語に求められる重要な要素だ。
しかしスタンダードのそこら中で見かけるようになると陳腐化する。こういった単語を永遠に封印するつもりはまったくないが、ちょっとお休みいただくのも悪くない。そうすることでまた新鮮味が戻ってくる。野球で言うところの「ベンチに下げている状態」だと思ってくれればいい。
それとはまた別に、非常に似通った響きのカード名というのは混乱の元だ。私たちはできるかぎりそういったカードが印刷までたどり着いてしまわないように注意している。
《Clickslither(クリックスライサー)》《Quick Sliver(クイックスリヴァー)》《Quicksilver Dragon(クイックシルヴァードラゴン)》は全て同じオンスロートブロックのカードだ(それだけでなく、前者2枚は同じセットだ)。もっとも幸いなことにこれらは非常に違いのはっきりしたカードたちだ。実際に見れば、どっちがどっちか分からなくなるような心配はほとんどない。しかし名前という観点からのみ見ると、そうでもない。
この問題は特に部族をテーマにしたローウィンにおいて顕著だった。
ローウィンだけで23体のゴブリンがいた。彼らは、ほぼ例外なく「小さく」「飛んでおらず」「赤か黒のクリーチャー」だった。そのためそれぞれを区別可能なように名づけることは(すでにマジックに160体(!)を超えるゴブリンがいたこともあり)非常に難しい仕事だった。
新しいセットにおいて、ゴブリンがよく新しい名前(モグ、悪鬼、ボガートなど)を得るのは、今までのゴブリンときちんと区別がつきつつ、かつ良い名前をつけてあげられるように、というのも理由の1つなのだ。
回答 その3:
なぜなら、その名前はすでにクリーチャータイプとして使われているから!
フレイバー&機能的な要素を持ち合わせた複雑な迷路のようなシステム、クリーチャータイプ。そこをあえてつらい思いをしながら手探りで進むとき、私は自虐的な喜びをおぼえる。
そこは暗闇に閉ざされた底知れぬ迷宮だ。つい最近、Mark GottliebとBrady Dommermuthとその仲間によって編成された"決死のサブタイプ調査隊"がそこに入り、大まかな調査と測定を行ったばかりだ(この探索行は「大規模クリーチャータイプ更新/The Grand Creature Type Update」と言う名で知られている)。
(訳註)
原文では「The Grand Creature Type Update」に以下へのリンクが張られている。
http://www.wizards.com/Magic/Magazine/Article.aspx?x=mtgcom/feature/424a3
9月にMark Gottliebが書いたように、この更新でクリーチャーに新たなサブタイプを与えた大きな理由の1つは「カードの名前」だ。《ドワーフ戦士団/Dwarven Warriors》はドワーフ(Dwarf)であるだけでなく戦士(Warrior)にもなり、《エルフの射手/Elvish Archers》は射手(Archer)のサブタイプを獲得した。
この基本原則は逆方向にも働く。カードに名前をつけるとき、そのサブタイプと矛盾するような名前はつけられるべきじゃない。もしそのクリーチャーのサブタイプがキスキン(Kithkin)の兵士(Soldier)であるならば、その名前は決して《ゴールドメドウの斥候/Goldmeadow Scout》であってはならない、ということだ。なぜなら斥候(Scout)というクリーチャータイプはすでに存在しているにも関わらず、このカードはそのサブタイプを持っていないからだ。
もしクリーチャータイプが精霊(Elemental)なら、そのカードに《暴走獣/Crasher Beast》と名づけてはいけない。ローウィンに収録されているいくつかの精霊(Elemental)はこのルールを守れているかかなり怪しい。例えば《薄れ馬/Wispmare》は馬(Horse)のサブタイプを持っていない。
なお、ここまでの説明を読む限り、多相(Changelings)はサブタイプとの整合性を気にしなくてもよいことになる。《変わり身の狂戦士/Changeling Berserker》? 問題ないよ!
念のため。当たり前のことだが《ドラゴン狩りのザホッド/Zaphod the Dragon Hunter》と名づけたからといって、それがドラゴンのサブタイプを持っている必要はない。また《Giant Albatross》に巨人(Giant)のサブタイプを加える必要もない。《ゴールドメドウの斥候/Goldmeadow Scout》の場合とは違い、これらは名前の中に特定のサブタイプを含んでいても実際にそのクリーチャータイプを持っていないことが問題になったりはしない。
回答 その4:
なぜなら、その名前だとカードタイプと矛盾するから!
ここで言っているのはクリーチャータイプじゃない、カードタイプだ。
クリーチャータイプのときよりも少し難しい話になる。クリーチャータイプと違い、そのカードとは異なるカードタイプが候補名に入ってしまっている、ということは滅多にないからだ。ライターたちだってそれくらいは分かっている(いや《秘宝の突然変異/Artifact Mutation》のことは脇に置いておくとしてだ)。
そういった話ではなくて、ここではもっとフィーリング寄りの話をしている。
例えば、ソーサリーの名前はどうあるべきか? または装備品にふさわしい名前は?
この問題は特にエンチャントで起きる。エンチャントのコンセプトを伝える場合(イラストレーターに指示を出す場合)、多くはインスタントやソーサリーと似たようなものとなる。その描写は、魔法使いが呪文を唱える瞬間であったり、クリーチャーや場所に魔法をかける様子であったりする。
しかしゲーム中、それらは戦場に残るのだ。
そのため私たちはエンチャントの名前に即時的な動作や行動(《外身の交換/Crib Swap》や《有象無象の発射/Fodder Launch》のような名前)がつけられるのを避ける。かわりにもっと継続性のある響きをもつ単語を名前に用いたり(例:《ボガートの悪ふざけ/Boggart Shenanigans》)、何かの状態を表す単語を使ったりする(例:《強き者の優位/Favor of the Mighty》)。
オーラは多くの場合、新たなスキルや魔法的な能力を名前に用いる(例えば《三つ目巨人の視線/Triclopean Sight》や《熟達した戦い/Battle Mastery》のように)。そうすることでオーラをつけられたクリーチャーが新たな能力を得たというイメージを持つことが出来る。
ときに判断に困る場合もあるし、決断を迫られる場合もある。
例えば《忘却の輪/Oblivion Ring》だ。初めてこの名前を聞いたとき、多くの人はこの名前からアーティファクトを連想するはずだ。
もし君が実際のカードを見ておらず、ふちが白で彩られているところや、移動を制限する魔法的な粉によって描かれたほの明るく光るリングのイラストを知らない状態で、ただカード名がつらなるリストだけを見たとしたらおそらく思い浮かぶのは手にはめる指輪(Ring)だろう。こういった要素を持つ輪(Ring)という単語を用いざるを得なくなったのは、元々このカード名に使いたかった円(Circle)という単語が使えなかったためだ。
なぜカード名にその単語が使えなかったのか、が次の回答につながる。
回答 その5:
なぜなら、その名前だと既存のマジックにおける共通認識と矛盾するから!
1万枚以上というカード枚数は膨大だが、マジックのカードにおける命名ルールのパターンを覚えるのは、新規のプレイヤーが想像するよりずっと簡単なことだ。なぜなら慣習的なネーミングルールが常にマジックのカード名にはつきまとい、新たに出てくるカードがそのルールをまた補強していくからだ。
ここで言っているパターンというのはクリーチャータイプの話ではない。
シェイド(Shades)やトロール(Trolls)や死霊(Specters)にはメカニズム的な暗黙の了解がある。シェイドはターン終了時まで+1/+1され、トロールは再生し、死霊は空を飛んで手札を破壊する。しかしこういったクリーチャータイプに紐づくことはコンセプトの段階ですでに決定されている。カード名の候補が上がる前のことだ。
ライターたちがどういった名前をつけようかと考え始める頃には、すでにイラストレーターへの指示も決まっており、そこにトロールが描かれることも分かっている。そのため、そのクリーチャーの名前をトロールと名づけるべきか否かについては、あまり選択の余地がない。
私が言っているのは、例えば物あさり(Looter)の話だ。
《セファリッドの物あさり/Cephalid Looter》、《Artful Looter》、《コー追われの物あさり/Looter il-Kor》などと同じく、《マーフォークの物あさり/Merfolk Looter》は「1枚引いて、1枚捨てる」能力を持っている。これらのクリーチャーたちは異なる種族に属しているが、彼らは全て物あさり(Looter)だ。新たに生まれるクリーチャーがそのイラスト内で宝箱をあさっていたとしても、もしそれが「1枚引いて、1枚捨てる」能力を持っていなかった場合、私たちはそれを物あさり(Looter)と呼ぶことを避けるはずだ。既存の共通認識を守るために。
円(Circle)の問題も似ている。
誰だってマジックにおける円(Circle)が何なのか知っているからだ。
1.それは白い全体エンチャントだ(《忘却の輪/Oblivion Ring》、1次試験を突破)
2.防御的な効果を持っている(《忘却の輪/Oblivion Ring》、2次試験も突破)
3.ダメージを軽減する起動能力を持つ(《忘却の輪/Oblivion Ring》、あと一歩で落選)
今まで数多くの円(Circle)が存在した(ちなみに全部で14個だ)。その伝統的な特性は驚くほどに一貫している。防御的な輪というコンセプトとイラストと守備的なフレイバーにも関わらず《忘却の輪/Oblivion Ring》がマジックにおける円(Circle)の仲間入りを果たせなかったのは、機能的な類似があとわずかに足りなかったためだ。その差のせいで、円(Circle)の名を冠することが出来なかった。
回答 その6:
なぜなら、その名前だとキーワード能力とごっちゃになるから!
よほどの理由が無い限り、カードの名前はキーワードを含むべきではない。
このルールのために時のらせんブロックにおいて名前を付ける作業が難航した。なぜなら過去から復帰したキーワード(および未来予知で未来からやってきたキーワード)がたくさんあったためだ。
《裂け目抜けの騎士/Riftmarked Knight》は当初《裂け目の影の騎士/Riftshadow Knight》となる予定だった。この名前は、白と黒の対照性が綺麗に表されていたし、次元の裂け目の影となる裏側についても上手く表現していた。しかし問題はこのクリーチャーがシャドー(Shadow)という能力を持っているかのような誤解を生むことだった。シャドー(Shadow)を持つクリーチャーがこのブロックに何体か収録されており、そのいくつかは《裂け目抜けの騎士/Riftmarked Knight》のような白くて軽いクリーチャーだった。
時のらせんブロックで、私たちは「ジレンマとしか言いようのないジレンマ」と私が呼ぶ状態に何度も陥った。そのカードの特色がそれの持つキーワードに依存する場合、カード名にそのキーワードを含むべきかどうかは非常に悩ましい問題だった。
《ドラゴンの嵐/Dragonstorm》は完璧だ。
それはたくさんのドラゴンがまるで嵐のように呼び出される呪文であり、またそのカードが持つ機能をまさにそのまま伝えている(そう、このカードはストームを持っており、ドラゴンを持ってきてくれる)。私たちは可能な限りこの例と同じくらい「そのまま」なネーミングをつけるようにしている。
しかしそのキーワードを持っているカードがあまりにたくさんある場合、その名前はすぐにワンパターンでありふれたものになり、どのカード名がどんな能力だったのかを思い出すことが非常に難しくなる。《翼の破片/Wing Shards》は《破片の嵐/Shardstorm》という名前にはならなかったし、《苦悶の触手/Tendrils of Agony》も《触手の嵐/Tendrilstorm》や《苦悶の嵐/Agonystorm》にはならなかった。
さらに言うと、こういった名前はやりすぎると鼻につく。あまりに機能的でフレーバー的な要素に欠けるためだ。
3/3のトランプル持ちは大抵の場合《トランプル象/Trampling Elephant》という名前を得ることはない。イラストレーターに依頼する際の指示が「何かを踏み潰して進む象」だけということは滅多にないから、ということだけが理由ではなく、万が一そのような指示があったとしても、私たちは可能なかぎりセットの雰囲気をかもしだしてくれるような名前やそのクリーチャーに何らかの個性を持たせるような名前を模索する。
単に1つのキーワードに依存してしまう名前より、そのほうがずっといい。私たちは少なくとも名前を決めてしまう前に類語辞典くらいは調べる。
「ジレンマとしか言いようのないジレンマ」の片翼が上記のような問題であり、つまりカードの持つキーワードをいつも名前に使えるわけではない、という話だ。
ジレンマのもう片翼は、カードがそのキーワードを持っていないならばカード名にそのキーワードを用いることはほぼ出来ない、ということだ。トランプルを持たないクリーチャーを《トランプル象/Trampling Elephant》と名づけたり、プロテクションを与える能力を持たないアーティファクトに《プロテクションの指輪/Ring of Protection》という名前をつけたりしたら、分かりづらいどころの騒ぎじゃない。こういったジレンマの結果、キーワードを避けざるを得ないことはよくあることだ。
対象のカードがストーム能力を持っていない場合、私たちは嵐(Storm)というカッコいい単語を名前に使うことを諦めなければいけなくなる。それだけでなく同時に、ストーム能力持ちだからと言って際限なく嵐(Storm)を含む名前をつけていいわけでもない。(そのため私たちはキーワード能力に用いる言葉を選ぶときは細心の注意を払っている……この話はまた別のコラムで語られることになるだろう)
しかしこのルールに反しつつも、問題とならない名前を生み出すこともできる。
未来予知で私のお気に入りの名前は《嵐の精体/Storm Entity》だ。こいつ自身は確かにストーム能力を持っていない。しかしストームによく似た能力を持ち、ストーム持ちのカードを大量に放り込まれたデッキとの相性は抜群だ。
公式サイトのGathererでストームという単語を含むカードを探してみて欲しい(カード名とルールテキストから探す、というデフォルト設定のままでいい)。《巣穴からの総出/Empty the Warrens》や《記憶の点火/Ignite Memories》に混じって《嵐の精体/Storm Entity》が出てくるはずだ。これら全てがストームというキーワード能力を持っているわけでもないのに、これらは同じデッキに入れてもよく馴染むように出来ている。
回答 その7:
なぜなら、その名前には将来のためにとっておいた大事な単語が使われてるから!
私たちはマジックが永遠に続くものと仮定している。そうだとして、私の計算が正しければあといくつのカード名が必要かと言うと1、2、3 ……(指を折って数えている)…… たくさんだ。
円(Circle)や物あさり(Looter)などのような名前に使われる単語たちはいともたやすくネーミングに暗黙の了解をもたらしてしまう。そのため私たちは、将来的に名前をつけるときに困ったことなるのを避けるために、特定の単語が望ましくない暗黙の了解を作ってしまわないよう気をつけている。
例えば私たちは未来予知において先触れ(Harbinger)という名前を意図的に避けた。そうすることでローウィンにおいて先触れ(Harbinger)という素晴らしいサイクルを登場させることができた(ちなみに《ラノワールの共感者/Llanowar Empath》は一時期《ラノワールの先触れ/Llanowar Harbinger》という名前になる可能性があった)。
もっとも私たちは予言者ではない。そのため将来的にどのような単語を名前のために必要とするかを全て見通すことはできない。好むと好まざると、名前の競合は起こってしまうこともある。それに、そのカードにもうどうしようもなくある名前をつけざるを得ないときもあるし、まったく内容が異なるカード2枚の名前両方に同じユニークな単語を使ったからといって人類が滅亡するわけでもない。元のカードが出たのが数年前なら滅亡の可能性はさらに低くなる。
しかし同時に私たちの手のうちには、いつか日の目を見るそのときまで大事に保管されている単語がある。そうすることで実際に世に出たときのインパクトがより強まるはずだから。
回答 その8:
なぜなら、その名前にはセットの雰囲気に反するから!
私にとって、名前をつける際に非常に大きな比重を占める要素は、そのカードが収録されるセットの世界観だ。これに関しては、そのセットのスタイルガイドが大きな助けとなる。
これはイラストレーターの指針となるだけでなく、これは名前を含めた文章面を担当するライターたちの助けにもなる。スタイルガイドには世界の詳細設定とバックストーリー、そしてカードの名前やフレーバーテキストに用いられるべき言葉や単語が大量に収められているからだ。ライターたちはそれによってどのような名前を適当かそうでないかを判断できるようになる。
ローウィンは陽気でおとぎ話的な雰囲気に満ちみちている。よって《ボガートの悪ふざけ/Boggart Shenanigans》や《ごたごた/Hurly-Burly》といった名前は他のセットよりもローウィンこそふさわしい。
逆に《ヘルドーザー/Helldozer》や《金切り声の混種/Shrieking Grotesque》などの名前はこの世界にふさわしくない。これらの名前に問題があるわけじゃない。ただ、私たちが作り出そうとしている世界観の響きに合わない、という理由により選ばれないのだ。
このルールに引っかかるかどうかスレスレのところをいっている例としては《死裂の剣/Deathrender》がある。ローウィンの世界観からすると結構「ロックな」響きだが、これは死(Death)という単語を用いても問題ない数少ない例の1つだ。私はこの魔法の剣によってセットにもたらされたちょっとワルい雰囲気を好ましく思っている。
回答 その9:
なぜなら、その名前はあまりに発音しにくいか、もしくは分かりにくいから!
これを最後に持ってきたのは、このルールがリストの中ではもっとも優先順位の低いものだからだ。
当たり前のことだが、あからさまに発音できない名前や、読む人にとってまったく意味をなさない単語を使った名前は却下される。しかし私たちは年に数回、少しずつこの線引きを押し広げつつある。基本的にどれかの辞書に載ってさえいれば将来的に使われる可能性を秘めている単語と考えてもらっていい(実際にカード名に使われたことのあるあまり一般的でない単語については、マジックの目録を見てもらえれば大体分かるはずだ)。
ローウィンに出て来た単語に「reejerey」というものがある。これはウェールズ語
もちろんこのルールに従って却下される言葉もある。
《森林の庇護者/Timber Protector》の他の候補名は《Noble Taoiseach》だった。この「Taoiseach」というのはアイルランド語で「長」や「リーダー」を指す言葉だ(そしてアイルランドの首相を指す言葉でもある)。「Taoiseach」は美しい言葉だが、英語話者のマジックプレイヤーの大半はこれを初見で正しく発音することはできないだろう。(この単語の発音は「ティーショク(tee-shok)」か「ティーシェク(tee-shek)」に近いものになるはずだ。私の貧弱な語法知識ではこれが精一杯だ。申し訳ない)おそらくだが、多くの人は正しいか正しくないか以前に発声可能な発音すら思いつけないかもしれない。
明文化されたテスト方法ではないが、判断の一助にしている判定方法の1つにプレイヤーがためらいなく「じゃあ《カード名》を唱えるね」と言うかどうか、がある。もしプレイヤーがそうするなら、その候補名はあまり難しい発音ではないということを暗に示しており、おそらくこのチェック事項を突破できるだろう。
しかし、あらためて言うが私たちは「マジックのカード名に使ってもよいほど一般的かどうか」という判断基準を少しずつ緩和したいと考えている。
マジックに用いられる単語が非常に幅広い分野に及んでいて面白い、というメールを私はたくさんもらっている。私自身、《根絶/Extirpate》を次元の混乱に収録させていなかったら、今も普段の会話に《根絶/Extirpate》という単語を用いることはなかっただろう。「どうやらお隣さんは、自分の土地の古くなったコンクリートの土台を根こそぎ取り除く(=extirpate)のをようやく終えることができたみたいだね」
そして最終試験へ
これら全ての「~べからず」を生き延びた候補名のみ、カードの公式名として使われるチャンスを得る。
しかし、私たちクリエイティブチームが次の担当者へと手渡した名前はこれら全てのチェックを合格しているにも関わらず、必ずしも実際に君たちの手にしたブースターから登場するわけではない。
私たちのチームの手を離れたあともまだそこには1つか2つの関門が待ち構えており、そこでの審査の結果、選ばれた名前が殺されてしまうこともある。そうなると私たちはあらためて代替案を探さなくてはならない。しかしこれは例外的な話で、今日のコラムであげたチェック事項で候補となる名前の生死はほぼ決定づけられる。
さてそろそろおいとまさせてもらおう。
今後のセットのために用意されている数百にも及ぶ名前たちが容赦なく処刑台に乗せられていくのを見届けるという仕事が待っているんでね。
追記:訳している際に気になった点などは別記事で。
公式訳が無事発見されたので、私訳を削除。
原文:This Land Is Your Land
http://www.wizards.com/magic/magazine/article.aspx?x=mtg/daily/ld/56
日本語訳:この土地はあなたの土地
http://archive.mtg-jp.com/reading/translated/001289/
タイムマシンの作り方/How to Make a Time Machine:Daily MTG
Tom LaPille
2011年01月14日
元記事:http://www.wizards.com/Magic/Magazine/Article.aspx?x=mtg/daily/ld/125
マスターズエディションIIIとマスターズエディションIVの2つは、私がウィザード社にいるあいだに手がけたもっとも楽しいプロジェクトだ。両セットのプレビュー記事は書いたが、それに飽き足らず私はこれらマスターズエディションの開発プロセスについて歯ごたえのある記事を書きたいとずっと思っていた。
そしてこの記事こそがそれだ。
マジックオンラインがリリースされたとき、当時もっとも直近のブロックはInvasionとOdysseyだった。Invasionより後にリリースされていたセットは、オンラインでもリリースされた。その後、私たちはMirageオンラインも発売し、さらにMirage後のセットも同様にオンライン版がリリースされ始めた。今や私たちはUrza’s Legacyまで辿り着いた。しかしMirage以前のセットはいまだオンラインではリリースされていない。なぜか?
まず最初にマジックオンラインの現実というものについて説明したい。紙のマジックでは多くのプレイヤーはカードが欲しいときにパックを購入する。それに対し、マジックオンラインの参加者たちはリミテッドを通じてカードを入手することを好む。考えてみれば、別に驚くようなことではない。マジックオンラインはこれ以上ないほどドラフトに適した空間なのだから。いつでも遊びたいときに相手が存在し、望むなら何度でも挑戦できる。
私たちは The Dark のオンライン版をリリースすることも出来ないことはなかった。もっともそれはろくな結果にならなかっただろう。おそらくだが、君たちの多くはThe Darkでドラフトを試みたことはないと思う。私はある。あれはひどかった。ああ、私は決して The Dark のデザイナーや開発者を責めているわけじゃない。当時、ブースタードラフトなどという遊び方は存在しなかったからだ。ただ、それはそれとして、The Dark のドラフトは本当にひどいものだ。皆にこんな思いは味わって欲しくない。私以外にもMirage以前のセットを用いてドラフトを試みた人たちを何人か知っているが、彼らも私と大して変わらない目にあったようだ。
当時、なぜこれらのドラフトが上手くいかないのか、その原因について、さらに調査しようという気は起きなかった。それから数年後、マスターズエディションのセットたちに取り組んだとき、その作業を通じて何が原因だったのかを知った。
旧セットのクリーチャーは弱すぎる
昨今のリミテッドは全てクリーチャーによる戦闘を中心に回っている。よってクリーチャーのパワーはある一定の高さを求められるし、低いレアリティに一定数以上の数のクリーチャーがいないとゲームが上手く回らない。Mirage以前のセットではこれらのことが明らかに考慮されていなかった。
例えばLegendsだ。コモンの赤い単色クリーチャーはKoboldたち、壁、それと《Blazing Effigy》だけだ(訳注:パワーが0のクリーチャーか、攻撃に参加できないクリーチャーしかいない、ということ)。
これでドラフトを楽しめ、というのは無理な注文だ。それに仮に十分な数のクリーチャーをとれたとしても、今のクリーチャーに比べるとずっと質の劣るものしかない。
当時はインスタントがほとんど無い
昨今のリミテッドで重要な位置を占めるのはクリーチャー同士による戦闘だということは最初に述べた。そのクリーチャー同士の戦闘が面白くなるための大事な要素として、ぶつかりあったあとの結果が簡単に予想できるものであってはならない、ということがある。戦闘に驚きを加えるもの、それこそがインスタントだ。
戦闘にサプライズをもたらすために、私たちはセットをデザインするときには、戦闘中に対戦相手の予想を台無しにできるカードを大量に放り込むようにしている。さらには、それらのカードが全ての色にまんべんなく行き渡るように努力している。
例えばMagic 2011には以下のようなカードが収録されている。《Mighty Leap》《Diminish》《Stabbing Pain》《Thunder Strike》《Giant Growth》これら全てがどんなデッキでもプレイに値するほど強いとは言えないが、これら5枚のカード全てに私は戦闘で痛い目に合ったことがある。Mirage以前のセットにはこういったカードが大して入っていなかった。おそらく、なぜなら誰もドラフトという遊び方を知らなかったからだろう。
白と緑はとくにひどい
最近のセットでは白と緑の強みは主にクリーチャーだ。そのかわり呪文は多少弱めに作ってあることで、他の色とのパワーバランスをとっている。すでに述べたとおり、過去のセットではクリーチャーの強さが今に比べて随分と落ちる。白と緑のクリーチャーも例外ではない。これが何を意味するかというと、白と緑は他の色よりも割を食っているということだ。
さらに特筆すべきこととして《Pacifism》の初出はMirageであり、それ自体もその亜種もMirage以前には存在していない。さらに今では習慣的に加えられることとなっている《Giant Growth》系のカードも緑にはなかった。最近のセットで白と緑の強さを支えている2つの最も重要な要素が過去のセットには欠けているということだ。これらのカードなしに、さらには他の色に与えられている強力な呪文に対抗するクリーチャーもない。白と緑はただただ不利だ。
レアがリミテッド向けの強さをもっていない
リミテッドにおけるレアカードには2つの重要な仕事がある。
1つにはプレイヤーに指針を与えるということがある。もし君がパックを開けて《Shivan Dragon》を引いたら、君は基本的に「よし、赤をやろう」と思うだろう。パックを開けて《Mahamoti Djinn》を引いたら、もちろん話は別だ。君は「青に向かうぞ」という考えを持つはずだ。レアが与えてくれる指針はそれだけじゃない。君に特定の方向に偏ったユニークなデッキを作るよう仕向ける力もある。例えば《Overwhelming Stampede》は非常に強力なカードで、初手に取らないなんてことはあり得ない。
しかしそのカードを入れることによって普段よりも多めのクリーチャーをデッキに入れたくなる衝動に駆られるだろうし、《Overwhelming Stampede》を初手にとることによって、普段なら《Giant Growth》をとるところで《Sacred Wolf》をピックしてしまうかもしれない。このように、色やデッキ全体についてピックの指針を定めてくれる、ということに加えて、レアにはもう1つの仕事がある。
ゲームを終わらせることだ。
ゲームがグダってしまったとき、多くの場合は圧倒的なレアパワーが降臨してゲームと退屈を終わらせてくれる。デッキに指針を与えてくれること、ゲームを終わりへと導いてくれること、この2つがレアに求められている非常に重要な機能だ。
Mirage以前のセットにはユニークで使ってみたくなる面白いレアがたくさんあるが、残念なことにそういったレアの多くは一般的なリミテッドに入れるにはあまりに効果が尖りすぎているのだ。これは、デッキに入れたくなるレアの枚数が足りないということを意味する。私たちはプレイヤーが、レアはデッキに入れることできっとすごいことを引き起こしてくれるはずだ、と信じていることを知っているにも関わらず、だ。
ここまで述べてきたように、過去のセットでドラフトをするということには様々な問題があったが、ありがたいことに私とエリックはマスターズエディションIVでそれらの問題に上手く対処できたと思っている。さて、どうやったのか?
クリーチャー
上で述べたとおり、古いセットのクリーチャーたちは弱い。本当に弱い。
嬉しいことにポータルセットのクリーチャーについてはそのようなことはなかった。これによって私たちは随分と助けられた。ポータルには昨今のリミテッドでは主食に当たる《Ironhoof Ox》《Alaborn Musketeer》《Cloud Spirit》《Goblin Firestarter》《Foul Spirit》のようなカードたちがてんこ盛りだった。
もちろん、これらのようなカードに出来ることは限られていて、フォーマットに特有の雰囲気やユニークさをもたらすことは難しい。しかし、そういった役割は Limited Edition Beta や Arabian Nights や Antiquities に任せればいい。私たちに欠けていたのはシンプルなカードたちで、ポータルがもたらしてくれたものこそ、まさにそれだったのだ。
ポータルのクリーチャーを用いてコモンのスロットを埋めることによって、クリエイティブな面からセットを見たとき多少奇妙なことが起きてしまう。例えば、ここ最近の色の役割からすると《Alaborn Musketeer》の到達能力は白いクリーチャーが持つ能力にしては奇妙に見えるかもしれないが、これは彼の持つ立派な銃によって正当化されている。マスターズエディションIIIはさらに変なことになっていて、ヒロイックファンタジーそのものな《Marhault Elsdragon》や《Riven Turnbull》の隣で、現実の歴史上の人物である中国人たちがポータル三国志のセットから参加していた。
私はたまに、もしポータルのセットを作ったデザイナーや開発チームが《Southern Elephant》を《Elephant Graveyard》で再生するところや、《Shu Elite Companions》が《Arcades Sabboth》の脇をすり抜けて行くのを見たらどう思うんだろう、と考えてしまう。
何にせよ、上で説明したようなクリーチャーの強さやコモンにあるべきクリーチャーの枚数などが、遊んで楽しいマスターズのセットを作るために考慮すべきことだった。結果として、混沌としつつもユニークな雰囲気をセットに与えることにも成功した。私はこの結果を楽しんでいるよ。
インスタントについて
この最後のインスタントに関する問題点については、クリーチャーに関する問題点とは対照的に、ポータルというセットはほとんど頼りにならない。なぜならポータルというセットはインスタントを除く形でデザインされたからだ。私たちはポータルから何枚かのカードをインスタントとして手直しして収録した。それらのカードは本来の機能がインスタントして用いられるべきものだったからだ。しかしそれによって得ることができたのはほんのわずかなカード、《False Summoning》と《Just Fate》のみだ。
その他のインスタントについては他の場所を探さざるを得なかった。その結果、過去のマスターズセットで再録していなかったインスタントがまだまだ残っていることに気がつかされた。《Crumble》《Divine Offering》《Terror》などは最近のセットと比較しても強力なインスタントの除去呪文だ。《Gravebind》《Sandstorm》《Just Fate》《Howl From Beyond》《Fog》は、戦闘を対戦相手の予想外の方向へ導くことができる。
これらのカードは昨今のセットに収録するようなカードと比べると見劣りするが、私たちには大した選択肢はなかった。戦闘に影響を与え得るものであると見れば、全ての(文字通り全ての)インスタントを再録した。《Healing Salve》さえもだ。セットに対する貢献の度合いからすると《Giant Growth》の再録がもっとも大きい。このカード以外に緑のパンプアップ呪文が1つもなかったため、すでに過去のマスターズのセット全てに含まれていることは分かっていてもこれは再録されるべきだった。Mirage以前のセットにおいて、同じような働きをしてくれるカードが本当に1つも無かったのだ。
最終的に、リミテッドを楽しんでもらうに十分な枚数のインスタントがセットに収録された、と私は信じている。私はさらに多くのインスタントを収録したかった。そうすればいくらかをアンコモンに回すことになっただろう。それによって、目につく回数が少なめとなり and not be as correct to play around だったはずだ。しかし本当にそれ以上収録できるインスタントがまったく無かった。
何にせよ、今の最終形で全て上手く回るはずだと信じている。
白と緑のカードについて
最初に挙げた問題点のうち、白と緑の強さを高めることがもっとも難しい問題点だった。マスターズエディションIVで白は質の悪い《Pacifism》である《Serra Bestiary》とセット中でも特に強いコモンである《Divine Offering》を得ている。特に後者は《Obsianus Golem》や《Clay Statue》が戦闘で主力となるであろうこのセットでは汚いほどに強いはずだ。また白はアグレッシブに攻めることも出来る。戦場にクリーチャーを大量に並べているときにコモンの《Righteous Charge》の助けを借りればあっという間にゲームを終わらせることが出来る。
緑を強くするのはもっと大変だった。とりあえず《Crumble》と《Scavenger Folk》は両方とも優秀な除去カードで、君の助けとなってくれるだろう。他にも《Citanul Druid》と《Argothian Pixies》は同様にアーティファクトに対して頼れるカードたちだ。《Ironhoof Ox》《Southern Elephant》《War Mammoth》はこのフォーマットでは効率の良いファッティと考えてよいだろう。ただ、もし対戦相手がアーティファクト少なめの緑を主体としたデッキだったときは、かなりの苦戦が予想される。
まあ、それはそれとして、緑を使おうと思っているプレイヤーへ私からの助言だ。《Elephant Graveyard》を見逃さないように。これは上記に挙げた《War Mammoth》や《Southern Elephant》をさらに凶暴なものに出来るカードだ。
レアについて
マスターズエディションIVにおいて構築フォーマット向けの強いレアを用意するのは非常に簡単だったが、リミテッドを面白くするレアを探すのが大変だった。
これは本当に大変だった。何せレアというのが《Eye of Chaos》《Leeches》《Naked Singularity》と言ったカードたちだ。
これらをマジックオンラインに加えたいことは確かなのだが、リミテッドにおいては明らかに使い道がない。リミテッドで開封したパックにおいて、これらは無地のカードと大差ない。明らかにプレイヤーを失望させること間違いなしだ。
リミテッド向けのカードを探すため、私たちはさらに底の底までさらってみる必要があった。またここでポータルが私たちを救ってくれた。《Cloud Dragon》《Dread Reaper》《Thunder Dragon》などのシンプルだがデカいクリーチャーたちが見つかるたびに収録することを決めた。しばらくして、ゲームを終わらせるパワーを持ったレアの比率は十分なほどに高まった。レガシーやクラシックのフォーマットで君をわくわくさせるカードが《Deathcoil Wurm》や《Minion of Tevesh Szat》ではなくなったわけだが、それでもこれらを引いたときは嬉しいに違いないと思う。(訳注:どうかなあ…)
リミテッドでゲームを終わらせるだけのパワーをもったカードを入れようと四苦八苦した結果、よく似た効果の2枚のカードが収録されてしまう事態がちょくちょく発生した。例えば《Overwhelming Forces》と《Rain of Daggers》は両方とも単細胞的な大ぶりの重たい呪文だ。どちらもゲームを終わらせてくれるという意味でも同じだ。
紙のマジックではこのようなことが起きないように注意を払うところだが、今回は新たなカードを作るわけにもいかない。それにこれら2枚のカードたちが示すデッキの指針は異なるものだ。《Overwhelming Forces》はこの呪文を唱えられるまで生き延びられるような気の長いコントロールデッキへ君を向かわせるが、ライフロスを強要する《Rain of Daggers》はより前のめりなデッキを要求する。こういった微妙な違いを持つペアがマスターズエディションIVにはいくつか存在する。その差異に合わせたドラフトを上手くプレイしてみて欲しい。
私とエリックとはマスターズエディションIIIとマスターズエディションIVを作ることを心から楽しんだ。マスターズエディションIVのリリースイベントはほんの2日前(訳注:この記事は01月14日のもの)に始まったばかりだ。まだまだ楽しむ時間はたっぷり残されている。ただし、来週は「ミラディン包囲戦」のプレビューが始まるので、マスターズエディションだけでなくそっちにも目を向けて欲しい。
さて、このちょっとした余談を楽しんでもらえただろうか。もしそうだとしたら非常に嬉しい。
ではまた来週の金曜日に会おう。
Tom LaPille
2011年01月14日
元記事:http://www.wizards.com/Magic/Magazine/Article.aspx?x=mtg/daily/ld/125
マスターズエディションIIIとマスターズエディションIVの2つは、私がウィザード社にいるあいだに手がけたもっとも楽しいプロジェクトだ。両セットのプレビュー記事は書いたが、それに飽き足らず私はこれらマスターズエディションの開発プロセスについて歯ごたえのある記事を書きたいとずっと思っていた。
そしてこの記事こそがそれだ。
マジックオンラインがリリースされたとき、当時もっとも直近のブロックはInvasionとOdysseyだった。Invasionより後にリリースされていたセットは、オンラインでもリリースされた。その後、私たちはMirageオンラインも発売し、さらにMirage後のセットも同様にオンライン版がリリースされ始めた。今や私たちはUrza’s Legacyまで辿り着いた。しかしMirage以前のセットはいまだオンラインではリリースされていない。なぜか?
まず最初にマジックオンラインの現実というものについて説明したい。紙のマジックでは多くのプレイヤーはカードが欲しいときにパックを購入する。それに対し、マジックオンラインの参加者たちはリミテッドを通じてカードを入手することを好む。考えてみれば、別に驚くようなことではない。マジックオンラインはこれ以上ないほどドラフトに適した空間なのだから。いつでも遊びたいときに相手が存在し、望むなら何度でも挑戦できる。
私たちは The Dark のオンライン版をリリースすることも出来ないことはなかった。もっともそれはろくな結果にならなかっただろう。おそらくだが、君たちの多くはThe Darkでドラフトを試みたことはないと思う。私はある。あれはひどかった。ああ、私は決して The Dark のデザイナーや開発者を責めているわけじゃない。当時、ブースタードラフトなどという遊び方は存在しなかったからだ。ただ、それはそれとして、The Dark のドラフトは本当にひどいものだ。皆にこんな思いは味わって欲しくない。私以外にもMirage以前のセットを用いてドラフトを試みた人たちを何人か知っているが、彼らも私と大して変わらない目にあったようだ。
当時、なぜこれらのドラフトが上手くいかないのか、その原因について、さらに調査しようという気は起きなかった。それから数年後、マスターズエディションのセットたちに取り組んだとき、その作業を通じて何が原因だったのかを知った。
旧セットのクリーチャーは弱すぎる
昨今のリミテッドは全てクリーチャーによる戦闘を中心に回っている。よってクリーチャーのパワーはある一定の高さを求められるし、低いレアリティに一定数以上の数のクリーチャーがいないとゲームが上手く回らない。Mirage以前のセットではこれらのことが明らかに考慮されていなかった。
例えばLegendsだ。コモンの赤い単色クリーチャーはKoboldたち、壁、それと《Blazing Effigy》だけだ(訳注:パワーが0のクリーチャーか、攻撃に参加できないクリーチャーしかいない、ということ)。
Blazing Effigy (1)(赤)
クリーチャー - エレメンタル(Elemental)
Blazing Effigyが戦場から墓地に置かれたとき、クリーチャー1体を対象とする。Blazing EffigyはそれにX点のダメージを与える。Xは、このターン名前が《Blazing Effigy》である他の発生源からBlazing Effigyに与えられたダメージに3を加えた点数である。
0/3
引用:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Blazing+Effigy
これでドラフトを楽しめ、というのは無理な注文だ。それに仮に十分な数のクリーチャーをとれたとしても、今のクリーチャーに比べるとずっと質の劣るものしかない。
当時はインスタントがほとんど無い
昨今のリミテッドで重要な位置を占めるのはクリーチャー同士による戦闘だということは最初に述べた。そのクリーチャー同士の戦闘が面白くなるための大事な要素として、ぶつかりあったあとの結果が簡単に予想できるものであってはならない、ということがある。戦闘に驚きを加えるもの、それこそがインスタントだ。
戦闘にサプライズをもたらすために、私たちはセットをデザインするときには、戦闘中に対戦相手の予想を台無しにできるカードを大量に放り込むようにしている。さらには、それらのカードが全ての色にまんべんなく行き渡るように努力している。
例えばMagic 2011には以下のようなカードが収録されている。《Mighty Leap》《Diminish》《Stabbing Pain》《Thunder Strike》《Giant Growth》これら全てがどんなデッキでもプレイに値するほど強いとは言えないが、これら5枚のカード全てに私は戦闘で痛い目に合ったことがある。Mirage以前のセットにはこういったカードが大して入っていなかった。おそらく、なぜなら誰もドラフトという遊び方を知らなかったからだろう。
白と緑はとくにひどい
最近のセットでは白と緑の強みは主にクリーチャーだ。そのかわり呪文は多少弱めに作ってあることで、他の色とのパワーバランスをとっている。すでに述べたとおり、過去のセットではクリーチャーの強さが今に比べて随分と落ちる。白と緑のクリーチャーも例外ではない。これが何を意味するかというと、白と緑は他の色よりも割を食っているということだ。
さらに特筆すべきこととして《Pacifism》の初出はMirageであり、それ自体もその亜種もMirage以前には存在していない。さらに今では習慣的に加えられることとなっている《Giant Growth》系のカードも緑にはなかった。最近のセットで白と緑の強さを支えている2つの最も重要な要素が過去のセットには欠けているということだ。これらのカードなしに、さらには他の色に与えられている強力な呪文に対抗するクリーチャーもない。白と緑はただただ不利だ。
レアがリミテッド向けの強さをもっていない
リミテッドにおけるレアカードには2つの重要な仕事がある。
1つにはプレイヤーに指針を与えるということがある。もし君がパックを開けて《Shivan Dragon》を引いたら、君は基本的に「よし、赤をやろう」と思うだろう。パックを開けて《Mahamoti Djinn》を引いたら、もちろん話は別だ。君は「青に向かうぞ」という考えを持つはずだ。レアが与えてくれる指針はそれだけじゃない。君に特定の方向に偏ったユニークなデッキを作るよう仕向ける力もある。例えば《Overwhelming Stampede》は非常に強力なカードで、初手に取らないなんてことはあり得ない。
しかしそのカードを入れることによって普段よりも多めのクリーチャーをデッキに入れたくなる衝動に駆られるだろうし、《Overwhelming Stampede》を初手にとることによって、普段なら《Giant Growth》をとるところで《Sacred Wolf》をピックしてしまうかもしれない。このように、色やデッキ全体についてピックの指針を定めてくれる、ということに加えて、レアにはもう1つの仕事がある。
ゲームを終わらせることだ。
ゲームがグダってしまったとき、多くの場合は圧倒的なレアパワーが降臨してゲームと退屈を終わらせてくれる。デッキに指針を与えてくれること、ゲームを終わりへと導いてくれること、この2つがレアに求められている非常に重要な機能だ。
Mirage以前のセットにはユニークで使ってみたくなる面白いレアがたくさんあるが、残念なことにそういったレアの多くは一般的なリミテッドに入れるにはあまりに効果が尖りすぎているのだ。これは、デッキに入れたくなるレアの枚数が足りないということを意味する。私たちはプレイヤーが、レアはデッキに入れることできっとすごいことを引き起こしてくれるはずだ、と信じていることを知っているにも関わらず、だ。
ここまで述べてきたように、過去のセットでドラフトをするということには様々な問題があったが、ありがたいことに私とエリックはマスターズエディションIVでそれらの問題に上手く対処できたと思っている。さて、どうやったのか?
クリーチャー
上で述べたとおり、古いセットのクリーチャーたちは弱い。本当に弱い。
嬉しいことにポータルセットのクリーチャーについてはそのようなことはなかった。これによって私たちは随分と助けられた。ポータルには昨今のリミテッドでは主食に当たる《Ironhoof Ox》《Alaborn Musketeer》《Cloud Spirit》《Goblin Firestarter》《Foul Spirit》のようなカードたちがてんこ盛りだった。
もちろん、これらのようなカードに出来ることは限られていて、フォーマットに特有の雰囲気やユニークさをもたらすことは難しい。しかし、そういった役割は Limited Edition Beta や Arabian Nights や Antiquities に任せればいい。私たちに欠けていたのはシンプルなカードたちで、ポータルがもたらしてくれたものこそ、まさにそれだったのだ。
ポータルのクリーチャーを用いてコモンのスロットを埋めることによって、クリエイティブな面からセットを見たとき多少奇妙なことが起きてしまう。例えば、ここ最近の色の役割からすると《Alaborn Musketeer》の到達能力は白いクリーチャーが持つ能力にしては奇妙に見えるかもしれないが、これは彼の持つ立派な銃によって正当化されている。マスターズエディションIIIはさらに変なことになっていて、ヒロイックファンタジーそのものな《Marhault Elsdragon》や《Riven Turnbull》の隣で、現実の歴史上の人物である中国人たちがポータル三国志のセットから参加していた。
私はたまに、もしポータルのセットを作ったデザイナーや開発チームが《Southern Elephant》を《Elephant Graveyard》で再生するところや、《Shu Elite Companions》が《Arcades Sabboth》の脇をすり抜けて行くのを見たらどう思うんだろう、と考えてしまう。
何にせよ、上で説明したようなクリーチャーの強さやコモンにあるべきクリーチャーの枚数などが、遊んで楽しいマスターズのセットを作るために考慮すべきことだった。結果として、混沌としつつもユニークな雰囲気をセットに与えることにも成功した。私はこの結果を楽しんでいるよ。
インスタントについて
この最後のインスタントに関する問題点については、クリーチャーに関する問題点とは対照的に、ポータルというセットはほとんど頼りにならない。なぜならポータルというセットはインスタントを除く形でデザインされたからだ。私たちはポータルから何枚かのカードをインスタントとして手直しして収録した。それらのカードは本来の機能がインスタントして用いられるべきものだったからだ。しかしそれによって得ることができたのはほんのわずかなカード、《False Summoning》と《Just Fate》のみだ。
その他のインスタントについては他の場所を探さざるを得なかった。その結果、過去のマスターズセットで再録していなかったインスタントがまだまだ残っていることに気がつかされた。《Crumble》《Divine Offering》《Terror》などは最近のセットと比較しても強力なインスタントの除去呪文だ。《Gravebind》《Sandstorm》《Just Fate》《Howl From Beyond》《Fog》は、戦闘を対戦相手の予想外の方向へ導くことができる。
これらのカードは昨今のセットに収録するようなカードと比べると見劣りするが、私たちには大した選択肢はなかった。戦闘に影響を与え得るものであると見れば、全ての(文字通り全ての)インスタントを再録した。《Healing Salve》さえもだ。セットに対する貢献の度合いからすると《Giant Growth》の再録がもっとも大きい。このカード以外に緑のパンプアップ呪文が1つもなかったため、すでに過去のマスターズのセット全てに含まれていることは分かっていてもこれは再録されるべきだった。Mirage以前のセットにおいて、同じような働きをしてくれるカードが本当に1つも無かったのだ。
最終的に、リミテッドを楽しんでもらうに十分な枚数のインスタントがセットに収録された、と私は信じている。私はさらに多くのインスタントを収録したかった。そうすればいくらかをアンコモンに回すことになっただろう。それによって、目につく回数が少なめとなり and not be as correct to play around だったはずだ。しかし本当にそれ以上収録できるインスタントがまったく無かった。
何にせよ、今の最終形で全て上手く回るはずだと信じている。
白と緑のカードについて
最初に挙げた問題点のうち、白と緑の強さを高めることがもっとも難しい問題点だった。マスターズエディションIVで白は質の悪い《Pacifism》である《Serra Bestiary》とセット中でも特に強いコモンである《Divine Offering》を得ている。特に後者は《Obsianus Golem》や《Clay Statue》が戦闘で主力となるであろうこのセットでは汚いほどに強いはずだ。また白はアグレッシブに攻めることも出来る。戦場にクリーチャーを大量に並べているときにコモンの《Righteous Charge》の助けを借りればあっという間にゲームを終わらせることが出来る。
緑を強くするのはもっと大変だった。とりあえず《Crumble》と《Scavenger Folk》は両方とも優秀な除去カードで、君の助けとなってくれるだろう。他にも《Citanul Druid》と《Argothian Pixies》は同様にアーティファクトに対して頼れるカードたちだ。《Ironhoof Ox》《Southern Elephant》《War Mammoth》はこのフォーマットでは効率の良いファッティと考えてよいだろう。ただ、もし対戦相手がアーティファクト少なめの緑を主体としたデッキだったときは、かなりの苦戦が予想される。
まあ、それはそれとして、緑を使おうと思っているプレイヤーへ私からの助言だ。《Elephant Graveyard》を見逃さないように。これは上記に挙げた《War Mammoth》や《Southern Elephant》をさらに凶暴なものに出来るカードだ。
レアについて
マスターズエディションIVにおいて構築フォーマット向けの強いレアを用意するのは非常に簡単だったが、リミテッドを面白くするレアを探すのが大変だった。
これは本当に大変だった。何せレアというのが《Eye of Chaos》《Leeches》《Naked Singularity》と言ったカードたちだ。
これらをマジックオンラインに加えたいことは確かなのだが、リミテッドにおいては明らかに使い道がない。リミテッドで開封したパックにおいて、これらは無地のカードと大差ない。明らかにプレイヤーを失望させること間違いなしだ。
リミテッド向けのカードを探すため、私たちはさらに底の底までさらってみる必要があった。またここでポータルが私たちを救ってくれた。《Cloud Dragon》《Dread Reaper》《Thunder Dragon》などのシンプルだがデカいクリーチャーたちが見つかるたびに収録することを決めた。しばらくして、ゲームを終わらせるパワーを持ったレアの比率は十分なほどに高まった。レガシーやクラシックのフォーマットで君をわくわくさせるカードが《Deathcoil Wurm》や《Minion of Tevesh Szat》ではなくなったわけだが、それでもこれらを引いたときは嬉しいに違いないと思う。(訳注:どうかなあ…)
リミテッドでゲームを終わらせるだけのパワーをもったカードを入れようと四苦八苦した結果、よく似た効果の2枚のカードが収録されてしまう事態がちょくちょく発生した。例えば《Overwhelming Forces》と《Rain of Daggers》は両方とも単細胞的な大ぶりの重たい呪文だ。どちらもゲームを終わらせてくれるという意味でも同じだ。
Overwhelming Forces / 圧倒的武力 (6)(黒)(黒)
ソーサリー
対戦相手1人を対象とする。そのプレイヤーがコントロールするすべてのクリーチャーを破壊する。これにより破壊されたクリーチャー1体につき、カードを1枚引く。
Rain of Daggers / 短剣の雨 (4)(黒)(黒)
ソーサリー
対戦相手1人を対象とする。そのプレイヤーがコントロールするすべてのクリーチャーを破壊する。これにより破壊されたクリーチャー1体につき、あなたは2点のライフを失う。
引用:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Overwhelming+Forces/
引用:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Rain+of+Daggers/
紙のマジックではこのようなことが起きないように注意を払うところだが、今回は新たなカードを作るわけにもいかない。それにこれら2枚のカードたちが示すデッキの指針は異なるものだ。《Overwhelming Forces》はこの呪文を唱えられるまで生き延びられるような気の長いコントロールデッキへ君を向かわせるが、ライフロスを強要する《Rain of Daggers》はより前のめりなデッキを要求する。こういった微妙な違いを持つペアがマスターズエディションIVにはいくつか存在する。その差異に合わせたドラフトを上手くプレイしてみて欲しい。
私とエリックとはマスターズエディションIIIとマスターズエディションIVを作ることを心から楽しんだ。マスターズエディションIVのリリースイベントはほんの2日前(訳注:この記事は01月14日のもの)に始まったばかりだ。まだまだ楽しむ時間はたっぷり残されている。ただし、来週は「ミラディン包囲戦」のプレビューが始まるので、マスターズエディションだけでなくそっちにも目を向けて欲しい。
さて、このちょっとした余談を楽しんでもらえただろうか。もしそうだとしたら非常に嬉しい。
ではまた来週の金曜日に会おう。
《 》の話。いや、だから《 》の話だよ。ほら、アンヒンジドのあいつ/Blankety-Blank:Daily MTG
2004年12月09日
Mark Gottlieb
元記事:http://www.wizards.com/magic/magazine/article.aspx?x=mtgcom/daily/mg153
スコット・ジョンズ「だけどこのコラムには何も無いじゃないか!」
マーク・ゴットリーブ「違う。何も無い、があるんだ」
その通りだよ、よい子の諸君。「となりのサインフェルド」における不変の慣習に従い(原文:In the immortal tradition of Seinfeld)、今日のコラムは「無」についてだ。
いや、ときどきは《Kjeldoran Phalanx》(註1)についてとも言えるし、ときどきは《Form of the Dragon》についてとも言えるし、ときどきは《Accumulated Knowledge》についてとも言えるし、ときどきは《一般的なウォンバットのダンスパートナー》についてとも言えるし(いや、待て、それは先月の話(註2)だった)、ときどきは《玄関からおどけたアーロン・フォーサイスが飛び込んできて、うちの冷蔵庫を漁っている》こともある(註3)。
楽しくなってきた!
無実の罪なんてありえ無い
何も無い、の何がそんなにいけないっていうんだ。陰鬱な宇宙のど真ん中で休暇を過ごしたいと思わない人がいるだろうか? いや、いないね!だって、きっとすごいリラックスできるはず。締め切りもない、Eメールもない、空気もない。
素晴らしい!
無というコンセプトが指し示すものは言い換えると全ての欠如だ。普段、君が目にしている何かが無い、ってことだ。
例えば、うちの冷蔵庫が空っぽだよ、と不満をもらすことはよくあるけど、実際は本当に何も入ってない、ってわけじゃない。
もし君が僕を疑うなら、そこに入っている黒い粘体(かつてトマトと呼ばれていたもの)の後ろで暮らしている苔のかけら(知性をもった奴)に聞いてもらえば分かるはずさ。
心配することなんて何も無い
何について言いたいかというと(沈黙が流れた際の効果音)だよ。あれ? いや、だから《 》の話だ。あれだよ、あれ、ほら、アンヒンジドの名前のついてないカード!
個人的にこのカードの名前(もしくは名前がついてないこと)はどうしても気に入らなかったので、このカードについてマーク・ローズウォーターと散々議論した。能力はいい、許す。だけど言及する際の面倒は本当に腹立たしい。名前がないことによるお楽しみより、ずっと、ずっと腹立たしい。僕は、プリンスが(発音不可能な記号)と改名したとき(註4)も、小躍りして喜ぶより単に心底いらついた側だ。
ところがどっこいそんな僕の嘆願は聞き入れられなかった。マーク・ローズウォーターはそんないらつかせる要素すら面白みにつながると思ったらしい。
そういうわけだから、僕は以後このコラムではこのカードを何らかの名前で呼ぶことにするよ。僕が適当につける名前だ。ああ、じゃあ、こうしよう。このカードの能力を起動したと思えばいい。この能力は「いつでもどこでも」使っていいんだろ?
この の一番分かりやすい使い方は、同じアンヒンジドに収録されている《Now I Know My ABC’s》とのコンボだ。2つ並べれば目的地への道のりを半分は踏破したようなものだしね。
ポール・バークレーは、皆が噂しているようなことはなくて、実はちゃんとアルファベットを全部言える。だからポールが、どうやったら勝利条件を満たせるかを調べるのに時間を使ったからって不思議なことは何もない。以下が彼の案だ。
素晴らしいね。ちなみに最後の《Erg Raiders》は「D」と「G」を含んでさえいれば別に何でもいいよ。代わりは600枚以上あるはずだから好きにしてくれ。
ポール曰く《Alexi, Zephyr Mage》の利便性の高さは特筆すべきものがある、とのこと。
ここに付け加えるとすれば、《Now I Know My ABC’s》で勝とうとするということは場に《Now I Know My ABC’s》があるということで、つまり「K」とか「W」のような使いづらい文字はすでに解決済みだということ。さらに付け加えるなら《Now I Know My ABC’s》で勝とうと思っているってことはアンヒンジドが使用可能なフォーマットってことで、つまり《名無しのジョー》を入れてもいいってこと。幸い、こいつは《Now I Know My ABC’s》と同じ色で、しかも《Vizzerdrix》や《Kjeldoran Phalanx》や《Jhovall Queen》と違ってたったの2マナで済むし、非常に融通の効くカードだ。
デッキの残りはどうしようか。最初に考えたのは、ポールの案を全部デッキにぶちこむことだ。簡単に置き換え可能な《Erg Raiders》を除くと、全てのカードは白・青・緑の3色に収まる。ただあまりに重過ぎるカードが多いので、いくつか抜くことにした。さらに僕は土地も勘定に入れることにした。
最初に探したのはもちろん《Erg Raiders》のかわりとなる「D」と「G」を含む土地だ。そうすれば《Now I Know My ABC’s》と《Teferi’s Puzzle Box》と《Jhovall Queen》、そして土地があれば勝利条件を満たせることになるからね。
そこで僕は、あることに気づいた。もし全ての土地に共通で含まれる文字があったらどうなるよ? もし全部の土地に「V」が含まれていれば「V」のためだけに入れているパーマネントは用無しだぜ!? ってなわけで、雪かぶり(Snow-Covered)土地には感謝しないといけない。おかげで随分助かった。
このデッキには勝利条件を満たせる組み合わせが「4種類+土地」なら何通りもあるし「3種類+特定の土地」なら以下の2通りがある。
上記に加えて当然《いまいち煮え切らないキャプテン》も手助けしてくれるはずだ。
適切で無いということも無い
読者であるCrusadoerからもらったお便りに書かれてた《ヴォルラスの怪人二十面相》の使い道を2つ紹介するよ。
1つは《Retraced Image》とのコンボだ。想像してごらん、まず2ターン目に《無地の石版くん》を召喚するだろ? 3ターン目にその名前を《Akroma, Angel of Wrath》に変更してから《Retraced Image》を唱えれば、手札にある《Akroma, Angel of Wrath》が戦場にタダで出てくる、ってな寸法だ(伝説性を持つ《Akroma, Angel of Wrath》は1体しか戦場にいないのでレジェンドルールは適用されないのがポイント)。
さっそくこの使い方に注目してみた。どうやら《Bifurcate》は《Retraced Image》よりさらに1歩優れているっぽい。何せ手札じゃなくてデッキから直接デカブツをつかみ出して戦場に叩きつけることが出来るんだからね。他にも《Mask of the Mimic》は《Bifurcate》より安い上にインスタントで《変装の大名人》(註6)と同じ色なのでデッキも組みやすいけど、他に生け贄に捧げるクリーチャーを1体要求するのが玉に瑕。
すぐに気づいたんだけど、別にデカブツに限る必要はないな。
いや、気づいた、って言ったけど、実はCrusaderのお便りに力いっぱい書かれてたんだ。《Gleemax》を場に出す手段としても使えるぜ、ってね。《Bifurcate》はクリーチャーしか持ってこられないけど《Retraced Image》はそんなケチなことは言わない。
それに実は《Mask of the Mimic》にも抜け道がある。これ、クリーチャーしか対象にとれないけど、実は場に出すカードについては特に制限していないんだよね。
もちろんこのデッキは《記憶喪失さん》を引かなければゴミデッキと化すので、何とかしないといけない。まず、墓地に落ちてしまった彼らは《Myr Servitor》がいればすぐに場に戻せる。さらにこのマイアは《Mask of the Mimic》のいい餌になる。ライブラリにいる場合は《Skyshroud Sentinel》を使えば引っ張り出せる(もちろんその前にライブラリにいる彼らの名前を《Skyshroud Sentinel》に変えないといけないけど)。
あとはデッキの残りを最速3ターン目に戦場に出したくなるような馬鹿みたいに強いデカブツたちとぶっ壊れたエンチャントで埋めれば完成だ。
ごわごわするものは何も着ない
《ID泥棒》の使い道はあまりに多岐にわたるのでこんなお粗末なコラムじゃとても語り尽くせやしないんだけど、あえてもう少し頑張ってみる。
永遠に残るものなんて無い
Crusaderのお便りに書かれていた他の提案としては《片手で拍手したときの音みたいな》と《Bazaar of Wonders》の組み合わせがある。
たまんねえ。
大事なことなのでもう1回言うよ。た ま ん ね え な! こいつは想像よりきっつい。うん、こういうの大好き。
このコンボがあれば君は「(1):対象の呪文を打ち消す」の能力を得るんだ(どうやるのかって? 対戦相手が呪文を唱えたら《Bazaar of Wonders》がトリガーするだろ? 対応して《経理部のボブ》を対象の呪文と同じ名前にするんだ。《Bazaar of Wonders》の能力が解決されて、対象の呪文は打ち消されるってな具合さ)。
うーん、これで勝てなきゃ嘘だね。いや、まあ確かに《Blinkmoth Nexus》やら他のミシュランドはどうしようもないし、すでに戦場に出てるカードもどうにかしないといけないけどね。それでもこのコンボはマジできっつい。
このデッキを組むならカードを引く方法が必要だと思う。
《Accumulated Knowledge》は墓地に《ごめん、そろそろネタが尽きてきた》が落ちてれば楽しいことになる。《Intuition》は《Accumulated Knowledge》と楽しいことができるけど、大抵の場合は3枚の《Bazaar of Wonders》を引っ張ってくることになるだろうね。《Urza’s Hot Tub》があれば《もういいよね?》が《Diabolic Tutor》に化ける……ああ、念のためにはっきり書いとくよ。手札にあるそれの名前を《Diabolic Tutor》にしろって意味じゃなくて、ライブラリから引っ張って来たいカードの名前に変えてから《Urza’s Hot Tub》で捨てるって意味だからね。それによって3マナでデッキに入っている好きなカードを引いて来られるわけさ。
色々書いたけど、僕の好みのドローエンジンは《さすがにもう無理》と《My First Tome》の組み合わせだ。《実はなかなか融通の利くフレーバーテキストを持ってるんだよ、こいつ》とフレーバーテキストを持つカード(例えばアーティファクト土地とか。デッキに入ってる理由はそれ)の両方を手札に持って、戦場に《My First Tome》を置けば準備完了。
《ミミズのケツ》のフレーバーテキストをもう片方のカードのフレーバーテキストと完全に同じにするんだ(うん、実はこのフレーバーテキストの能力はちゃんと起動できるんだけど、初めて試す相手には念のために「よくある質問というか答えないと混乱が収まらないよ集」(註10)をプリントアウトしておいたほうがいいだろうね)。それから《My First Tome》を起動して、そのフレーバーテキストを読めばコンボ完成。
対戦相手が《 》を選んだら、本物のフレーバーテキストを持つ方を見せる。
対戦相手が本物のフレーバーテキストを持つ方を選んだら、《 》を見せる。
(訳注:反則です)
2マナの《Jayemdae Tome》の完成だ! もちろんこれは違法そのもので、司法の網("マーク・ローズウォーター"と呼んでもいい)に今まで気づかれずに済んでいたからなんとかなったけど、バレた以上は早急にパッチを貼られてしまうだろうね。
マジックのプレイヤーは紳士たれ、という原則をかんがみるに、このコンボはちょっとした議論を巻き起こすかもしれないし、《My First Tome》を悪用させないためのテクニックが今後発明される危険性もある(例えば、選んだ手札をテーブルに伏せておくようにすることで、相手の宣言のあとにすりかえ出来なくさせられたりするかもしれない)。マーク・ローズウォーターがどんな手を打ってくるかは分からないけど、それまでに使い倒しておくことをオススメするよ!
最後に紹介するコンボは《名も無き者/Nameless One (オンスロートのアレじゃないほう)》と《Grim Reminder》を組み合わせたもの。対戦相手が呪文(どんな呪文でもいい)を唱えたら、ライブラリに入っている例のカードの名前をその呪文と同じ名前にしてから《Grim Reminder》をプレイする。例のアレが見つかって、やったね、6点だ。
《潜入捜査官のアニキ》はあらためてライブラリに潜り込み、君はマナを払って《Grim Reminder》を墓地から釣り上げ、最初に戻る。
まあ要するにこのデッキの基本コンセプトは「対戦相手が呪文を唱える。打ち消すか、6点か、両方か」ってこと。
もし相手が手札を溜め込むようなら《Iron Maiden》の出番だ(ああ、うん、大丈夫だよ、ちゃんとデッキに《Iron Maiden》入れてるよ)。そして《Bazaar of Wonders》が出る前に戦場に出てしまったカードたちを掃除しつつ《Iron Maiden》に燃料を投下するため、かつカード・アドバンテージも得てしまおうというわけで、このデッキには《Turbulent Dreams》が入っている。バザーコンボが発動してしまったあとの無駄カードの使い道としては最上級のものだろ?
最後の最後におまけのトリビア。
相手に《Bazaar of Wonders》コンボを発動されたとしても、君が《名前村 名前ノ助》を唱えるのを止めることはできない。手札にある間に、戦場にも墓地にもないカードの名前に変えてしまえば《Bazaar of Wonders》の魔の手から逃れることが出来る。
また来週。それまで で楽しんでくれ。
(註1) カード名について
この翻訳版では、基本的にカード名については日本語版があるものも英語表記のみの記載。日本語のカード名が出てきたら、基本的にすべて《_____》を指していると思って欲しい。
(註2) 先月の話
このコラムの1ヶ月前に書かれた「Doctor Strangewombat」の話。こんな題名なのに記事にウォンバットが登場していない不思議。エンチャントの話だからかな。
http://www.wizards.com/Magic/Magazine/Article.aspx?x=mtgcom/daily/mg151
(註3) 玄関からおどけたアーロン・フォーサイスが飛び込んできて(以下略)
いや、本当に原文にそう書いてあるんだって!
(註4) プリンスが(発音不可能な記号)と改名したとき
ミュージシャンのプリンスが1994年に芸名を改名したとき、改名後の芸名が彼によるオリジナルの記号で、公式な読みが存在しなかったらしい。
(註5) Pangram Fever
Pangramはアルファベットを全て使った文章のこと。日本語にあえて訳すなら「いろはフィーバー」かな、と思ったけどあまりにひどい訳なので文中に書くのはやめた。
(註6) 変装の大名人
原文では《Master of Dis Guys》。あえて訳せば《駄目人間たちの親玉》とか《侮られる男たちの頭領》とかになるけど、多分これは《Master of Disguise》をもじったものなので、素直に訳してみた。なお《The Master of Disguise》(邦題:変身パワーズ)というコメディ映画がある。多分これが元ネタ。さらに余談ながら、この邦題は主役が《オースティンパワーズ》と同じ役者だから、という理由だけでつけられたものと思われる。ひどい話だ(余談の余談:この映画自体はそこそこ面白かった)。
(註7) マナバーン
2004年の当時はまだマナバーンが健在だった。
(註8) (1/2)マナは使い切れない
実はこのルール講座の最後の一文、公式サイト側では画像と重なってしまっているせいか画面に表示されていない。全文コピペすることで偶然発見できた。この翻訳を読んだ方は少し得したと思ってもよいし、思わなくともよい。
(註9) おーふろーたーく
原文では《Ooflotak》。ググッてみたけど、広い世界でもマーク・ゴットリーブしか使ってない単語みたいで、彼が今までに書いたコラムしかヒットしなかった。要は、全然分からなかった、ということ。詳細をご存知の方いらっしゃいましたら教えてください。
(註10) よくある質問というか答えないと混乱が収まらないよ集
リンク先は以下のURL。マーク・ローズウォーター渾身の作である、アンヒンジドのFAQ。なお「よくある質問というか答えないと混乱が収まらないよ集」という訳は、某所で有志が訳した際の名残り。
http://www.wizards.com/Magic/TCG/Article.aspx?x=magic/faq/unhinged
(註11) バザーるでござーる
原文では「How Bazaar」。言い訳はしないし、謝らない。一応、説明しておくと「Bizarre」で「奇妙な」という意味があり「なんと奇妙なことだろう(How bizarre.)」という文章を元にしたダジャレ(「Bizarre」と「Bazaar」をかけている)と思われる。
2004年12月09日
Mark Gottlieb
元記事:http://www.wizards.com/magic/magazine/article.aspx?x=mtgcom/daily/mg153
(訳註) カード名について
基本的にカード名については日本語版があるものも英語表記のみの記載。日本語のカード名が出てきたら、基本的にすべて《_____》を指していると思って欲しい。
スコット・ジョンズ「だけどこのコラムには何も無いじゃないか!」
マーク・ゴットリーブ「違う。何も無い、があるんだ」
その通りだよ、よい子の諸君。「となりのサインフェルド」における不変の慣習に従い(原文:In the immortal tradition of Seinfeld)、今日のコラムは「無」についてだ。
いや、ときどきは《Kjeldoran Phalanx》(註1)についてとも言えるし、ときどきは《Form of the Dragon》についてとも言えるし、ときどきは《Accumulated Knowledge》についてとも言えるし、ときどきは《一般的なウォンバットのダンスパートナー》についてとも言えるし(いや、待て、それは先月の話(註2)だった)、ときどきは《玄関からおどけたアーロン・フォーサイスが飛び込んできて、うちの冷蔵庫を漁っている》こともある(註3)。
楽しくなってきた!
無実の罪なんてありえ無い
何も無い、の何がそんなにいけないっていうんだ。陰鬱な宇宙のど真ん中で休暇を過ごしたいと思わない人がいるだろうか? いや、いないね!だって、きっとすごいリラックスできるはず。締め切りもない、Eメールもない、空気もない。
素晴らしい!
無というコンセプトが指し示すものは言い換えると全ての欠如だ。普段、君が目にしている何かが無い、ってことだ。
例えば、うちの冷蔵庫が空っぽだよ、と不満をもらすことはよくあるけど、実際は本当に何も入ってない、ってわけじゃない。
もし君が僕を疑うなら、そこに入っている黒い粘体(かつてトマトと呼ばれていたもの)の後ろで暮らしている苔のかけら(知性をもった奴)に聞いてもらえば分かるはずさ。
心配することなんて何も無い
何について言いたいかというと(沈黙が流れた際の効果音)だよ。あれ? いや、だから《 》の話だ。あれだよ、あれ、ほら、アンヒンジドの名前のついてないカード!
個人的にこのカードの名前(もしくは名前がついてないこと)はどうしても気に入らなかったので、このカードについてマーク・ローズウォーターと散々議論した。能力はいい、許す。だけど言及する際の面倒は本当に腹立たしい。名前がないことによるお楽しみより、ずっと、ずっと腹立たしい。僕は、プリンスが(発音不可能な記号)と改名したとき(註4)も、小躍りして喜ぶより単に心底いらついた側だ。
ところがどっこいそんな僕の嘆願は聞き入れられなかった。マーク・ローズウォーターはそんないらつかせる要素すら面白みにつながると思ったらしい。
そういうわけだから、僕は以後このコラムではこのカードを何らかの名前で呼ぶことにするよ。僕が適当につける名前だ。ああ、じゃあ、こうしよう。このカードの能力を起動したと思えばいい。この能力は「いつでもどこでも」使っていいんだろ?
この の一番分かりやすい使い方は、同じアンヒンジドに収録されている《Now I Know My ABC’s》とのコンボだ。2つ並べれば目的地への道のりを半分は踏破したようなものだしね。
おまけのルール講座:
クリエイティブな僕はこのコラムの中で好き勝手させてもらってるけど、君が変更することの出来るカード名は実在するマジックのカード名のみだ。だから《いろはにほへと(中略)ゑひもせすエレメンタル》とか召喚しちゃ駄目だぞ。
ポール・バークレーは、皆が噂しているようなことはなくて、実はちゃんとアルファベットを全部言える。だからポールが、どうやったら勝利条件を満たせるかを調べるのに時間を使ったからって不思議なことは何もない。以下が彼の案だ。
その1:
《Now I Know My ABC’s》
《Kjeldoran Phalanx》
《Venomous Dragonfly》
《Quirion Trailblazer》
その2:
《Now I Know My ABC’s》
《Kjeldoran Outpost》
《Vizzerdrix》
《Questing Phelddagrif》
その3:
《Now I Know My ABC’s》
《Teferi’s Puzzle Box》
《Jhovall Queen》
《Erg Raiders》
素晴らしいね。ちなみに最後の《Erg Raiders》は「D」と「G」を含んでさえいれば別に何でもいいよ。代わりは600枚以上あるはずだから好きにしてくれ。
ポール曰く《Alexi, Zephyr Mage》の利便性の高さは特筆すべきものがある、とのこと。
ここに付け加えるとすれば、《Now I Know My ABC’s》で勝とうとするということは場に《Now I Know My ABC’s》があるということで、つまり「K」とか「W」のような使いづらい文字はすでに解決済みだということ。さらに付け加えるなら《Now I Know My ABC’s》で勝とうと思っているってことはアンヒンジドが使用可能なフォーマットってことで、つまり《名無しのジョー》を入れてもいいってこと。幸い、こいつは《Now I Know My ABC’s》と同じ色で、しかも《Vizzerdrix》や《Kjeldoran Phalanx》や《Jhovall Queen》と違ってたったの2マナで済むし、非常に融通の効くカードだ。
デッキの残りはどうしようか。最初に考えたのは、ポールの案を全部デッキにぶちこむことだ。簡単に置き換え可能な《Erg Raiders》を除くと、全てのカードは白・青・緑の3色に収まる。ただあまりに重過ぎるカードが多いので、いくつか抜くことにした。さらに僕は土地も勘定に入れることにした。
最初に探したのはもちろん《Erg Raiders》のかわりとなる「D」と「G」を含む土地だ。そうすれば《Now I Know My ABC’s》と《Teferi’s Puzzle Box》と《Jhovall Queen》、そして土地があれば勝利条件を満たせることになるからね。
そこで僕は、あることに気づいた。もし全ての土地に共通で含まれる文字があったらどうなるよ? もし全部の土地に「V」が含まれていれば「V」のためだけに入れているパーマネントは用無しだぜ!? ってなわけで、雪かぶり(Snow-Covered)土地には感謝しないといけない。おかげで随分助かった。
デッキ名:Pangram Fever(註5)
土地
4 Faerie Conclave
4 Havenwood Battleground
2 Rushwood Grove
2 Snow-Covered Forest
4 Snow-Covered Island
7 Snow-Covered Plains
1 Soldevi Excavations
---------------------------------------
24 lands
クリーチャー
4 _____
4 Alexi, Zephyr Mage
3 Daraja Griffin
3 Kjeldoran Phalanx
3 Questing Phelddagrif
4 Quirion Trailblazer
---------------------------------------
21 creatures
呪文
3 Jeweled Torque
4 Now I Know My ABC’s
2 Phyrexian Lens
2 Talisman of Progress
4 Teferi’s Puzzle Box
---------------------------------------
15 other spells
このデッキには勝利条件を満たせる組み合わせが「4種類+土地」なら何通りもあるし「3種類+特定の土地」なら以下の2通りがある。
その1:
《Now I Know My ABC’s》
《Alexi, Zephyr Mage》
《Jeweled Torque》
《Snow-Covered Forest》もしくは《Faerie Conclave》
その2:
《Now I Know My ABC’s》
《Teferi’s Puzzle Box》
《Jeweled Torque》
《Havenwood Battleground》もしくは《Rushwood Grove》
上記に加えて当然《いまいち煮え切らないキャプテン》も手助けしてくれるはずだ。
おまけのルール講座:
こいつの能力はふるい落とされることがないことに注意。一度でも名前を変えたら、再度変更するまでその名前のままだ。つまり一度でも名前を変えたら、二度と に戻ることはない。
適切で無いということも無い
読者であるCrusadoerからもらったお便りに書かれてた《ヴォルラスの怪人二十面相》の使い道を2つ紹介するよ。
1つは《Retraced Image》とのコンボだ。想像してごらん、まず2ターン目に《無地の石版くん》を召喚するだろ? 3ターン目にその名前を《Akroma, Angel of Wrath》に変更してから《Retraced Image》を唱えれば、手札にある《Akroma, Angel of Wrath》が戦場にタダで出てくる、ってな寸法だ(伝説性を持つ《Akroma, Angel of Wrath》は1体しか戦場にいないのでレジェンドルールは適用されないのがポイント)。
おまけのルール講座:
《空欄さん》の能力はどんなカードの名前でも選べる。クリーチャーでなくてもいい。
さっそくこの使い方に注目してみた。どうやら《Bifurcate》は《Retraced Image》よりさらに1歩優れているっぽい。何せ手札じゃなくてデッキから直接デカブツをつかみ出して戦場に叩きつけることが出来るんだからね。他にも《Mask of the Mimic》は《Bifurcate》より安い上にインスタントで《変装の大名人》(註6)と同じ色なのでデッキも組みやすいけど、他に生け贄に捧げるクリーチャーを1体要求するのが玉に瑕。
すぐに気づいたんだけど、別にデカブツに限る必要はないな。
いや、気づいた、って言ったけど、実はCrusaderのお便りに力いっぱい書かれてたんだ。《Gleemax》を場に出す手段としても使えるぜ、ってね。《Bifurcate》はクリーチャーしか持ってこられないけど《Retraced Image》はそんなケチなことは言わない。
それに実は《Mask of the Mimic》にも抜け道がある。これ、クリーチャーしか対象にとれないけど、実は場に出すカードについては特に制限していないんだよね。
おまけのルール講座:
「いつでもどこでも」ってことは《俺の名前を言ってみろ!》の能力は、こいつが墓地にいようが、手札にいようが、ライブラリにいようが使えるってことだ。いや、実はゲーム内にいなくても使える。アンヒンジドのフォーマットで遊んでるならマナが余ることはないってことさ。マナバーン(註7)よ、さらば! あ、ただし(1/2)マナだけは使い切れないから注意して(註8)。
もちろんこのデッキは《記憶喪失さん》を引かなければゴミデッキと化すので、何とかしないといけない。まず、墓地に落ちてしまった彼らは《Myr Servitor》がいればすぐに場に戻せる。さらにこのマイアは《Mask of the Mimic》のいい餌になる。ライブラリにいる場合は《Skyshroud Sentinel》を使えば引っ張り出せる(もちろんその前にライブラリにいる彼らの名前を《Skyshroud Sentinel》に変えないといけないけど)。
あとはデッキの残りを最速3ターン目に戦場に出したくなるような馬鹿みたいに強いデカブツたちとぶっ壊れたエンチャントで埋めれば完成だ。
デッキ名:証人保護プログラム
土地
2 Blinkmoth Nexus
4 City of Brass
4 Forest
3 Gemstone Mine
3 Island
2 Mirrodin’s Core
2 Treva’s Ruins
4 Yavimaya Coast
---------------------------------------
24 lands
クリーチャー
4 _____
1 Akroma, Angel of Wrath
4 Birds of Paradise
1 Darksteel Colossus
3 Myr Servitor
1 Platinum Angel
1 Serra Avatar
4 Skyshroud Sentinel
1 Sundering Titan
1 Verdant Force
---------------------------------------
21 creatures
呪文
4 Bifurcate
1 Decree of Silence
1 Form of the Dragon
4 Mask of the Mimic
4 Retraced Image
1 Yawgmoth’s Bargain
---------------------------------------
15 other spells
ごわごわするものは何も着ない
《ID泥棒》の使い道はあまりに多岐にわたるのでこんなお粗末なコラムじゃとても語り尽くせやしないんだけど、あえてもう少し頑張ってみる。
その1
オデッセイのShrineサイクル(ああ、悪いほうのShrineサイクルね)と使ってみよう! 墓地にいる間に名前を変えれば、ほら簡単。
その2
似てるけどちょっと違う使い方としては、こいつらを墓地に放り込んで《Kindle》や《Flame Burst》の威力を上げるとか。
その3
《Winnow》と《アンダーラインさん》を組み合わせると、あら不思議、白単色でキャントリップの《Vindicate》だ。
その4
《Spirit of the Night》か《Viashivan Dragon》デッキに加えてみよう。《Urborg Panther》か《Kyscu Drake》はどっちにせよ必要だけど、《Breathstealer》や《Feral Shadow》や《Spitting Drake》のかわりにはなるからね。
その5
デッキを作ろうと思って途中でやめたコンボは《ここにお名前を記入ください》と《Pack Hunt》と《Pyromancy》の組み合わせ。《Draco》3体を同時に持ってこられる。
永遠に残るものなんて無い
Crusaderのお便りに書かれていた他の提案としては《片手で拍手したときの音みたいな》と《Bazaar of Wonders》の組み合わせがある。
たまんねえ。
大事なことなのでもう1回言うよ。た ま ん ね え な! こいつは想像よりきっつい。うん、こういうの大好き。
このコンボがあれば君は「(1):対象の呪文を打ち消す」の能力を得るんだ(どうやるのかって? 対戦相手が呪文を唱えたら《Bazaar of Wonders》がトリガーするだろ? 対応して《経理部のボブ》を対象の呪文と同じ名前にするんだ。《Bazaar of Wonders》の能力が解決されて、対象の呪文は打ち消されるってな具合さ)。
うーん、これで勝てなきゃ嘘だね。いや、まあ確かに《Blinkmoth Nexus》やら他のミシュランドはどうしようもないし、すでに戦場に出てるカードもどうにかしないといけないけどね。それでもこのコンボはマジできっつい。
このデッキを組むならカードを引く方法が必要だと思う。
《Accumulated Knowledge》は墓地に《ごめん、そろそろネタが尽きてきた》が落ちてれば楽しいことになる。《Intuition》は《Accumulated Knowledge》と楽しいことができるけど、大抵の場合は3枚の《Bazaar of Wonders》を引っ張ってくることになるだろうね。《Urza’s Hot Tub》があれば《もういいよね?》が《Diabolic Tutor》に化ける……ああ、念のためにはっきり書いとくよ。手札にあるそれの名前を《Diabolic Tutor》にしろって意味じゃなくて、ライブラリから引っ張って来たいカードの名前に変えてから《Urza’s Hot Tub》で捨てるって意味だからね。それによって3マナでデッキに入っている好きなカードを引いて来られるわけさ。
おまけのルール講座:
「いつでも」ってあるけど《おーふろーたーく》(註9)の能力を他の呪文や能力の解決中に起動することは出来ない。
色々書いたけど、僕の好みのドローエンジンは《さすがにもう無理》と《My First Tome》の組み合わせだ。《実はなかなか融通の利くフレーバーテキストを持ってるんだよ、こいつ》とフレーバーテキストを持つカード(例えばアーティファクト土地とか。デッキに入ってる理由はそれ)の両方を手札に持って、戦場に《My First Tome》を置けば準備完了。
《ミミズのケツ》のフレーバーテキストをもう片方のカードのフレーバーテキストと完全に同じにするんだ(うん、実はこのフレーバーテキストの能力はちゃんと起動できるんだけど、初めて試す相手には念のために「よくある質問というか答えないと混乱が収まらないよ集」(註10)をプリントアウトしておいたほうがいいだろうね)。それから《My First Tome》を起動して、そのフレーバーテキストを読めばコンボ完成。
対戦相手が《 》を選んだら、本物のフレーバーテキストを持つ方を見せる。
対戦相手が本物のフレーバーテキストを持つ方を選んだら、《 》を見せる。
(訳注:反則です)
2マナの《Jayemdae Tome》の完成だ! もちろんこれは違法そのもので、司法の網("マーク・ローズウォーター"と呼んでもいい)に今まで気づかれずに済んでいたからなんとかなったけど、バレた以上は早急にパッチを貼られてしまうだろうね。
マジックのプレイヤーは紳士たれ、という原則をかんがみるに、このコンボはちょっとした議論を巻き起こすかもしれないし、《My First Tome》を悪用させないためのテクニックが今後発明される危険性もある(例えば、選んだ手札をテーブルに伏せておくようにすることで、相手の宣言のあとにすりかえ出来なくさせられたりするかもしれない)。マーク・ローズウォーターがどんな手を打ってくるかは分からないけど、それまでに使い倒しておくことをオススメするよ!
最後に紹介するコンボは《名も無き者/Nameless One (オンスロートのアレじゃないほう)》と《Grim Reminder》を組み合わせたもの。対戦相手が呪文(どんな呪文でもいい)を唱えたら、ライブラリに入っている例のカードの名前をその呪文と同じ名前にしてから《Grim Reminder》をプレイする。例のアレが見つかって、やったね、6点だ。
《潜入捜査官のアニキ》はあらためてライブラリに潜り込み、君はマナを払って《Grim Reminder》を墓地から釣り上げ、最初に戻る。
まあ要するにこのデッキの基本コンセプトは「対戦相手が呪文を唱える。打ち消すか、6点か、両方か」ってこと。
もし相手が手札を溜め込むようなら《Iron Maiden》の出番だ(ああ、うん、大丈夫だよ、ちゃんとデッキに《Iron Maiden》入れてるよ)。そして《Bazaar of Wonders》が出る前に戦場に出てしまったカードたちを掃除しつつ《Iron Maiden》に燃料を投下するため、かつカード・アドバンテージも得てしまおうというわけで、このデッキには《Turbulent Dreams》が入っている。バザーコンボが発動してしまったあとの無駄カードの使い道としては最上級のものだろ?
デッキ名:バザーるでござーる(註11)
土地
1 Darkwater Catacombs
6 Island
3 Polluted Delta
1 Reflecting Pool
4 Salt Marsh
4 Seat of the Synod
1 Swamp
1 Temple of the False God
3 Vault of Whispers
---------------------------------------
24 lands
クリーチャー
4 _____
---------------------------------------
4 creatures
呪文
4 Accumulated Knowledge
4 Bazaar of Wonders
4 Grim Reminder
4 Intuition
4 Iron Maiden
3 My First Tome
4 Sleight of Hand
4 Turbulent Dreams
1 Urza’s Hot Tub
---------------------------------------
32 other spells
最後の最後におまけのトリビア。
相手に《Bazaar of Wonders》コンボを発動されたとしても、君が《名前村 名前ノ助》を唱えるのを止めることはできない。手札にある間に、戦場にも墓地にもないカードの名前に変えてしまえば《Bazaar of Wonders》の魔の手から逃れることが出来る。
また来週。それまで で楽しんでくれ。
(註1) カード名について
この翻訳版では、基本的にカード名については日本語版があるものも英語表記のみの記載。日本語のカード名が出てきたら、基本的にすべて《_____》を指していると思って欲しい。
(註2) 先月の話
このコラムの1ヶ月前に書かれた「Doctor Strangewombat」の話。こんな題名なのに記事にウォンバットが登場していない不思議。エンチャントの話だからかな。
http://www.wizards.com/Magic/Magazine/Article.aspx?x=mtgcom/daily/mg151
(註3) 玄関からおどけたアーロン・フォーサイスが飛び込んできて(以下略)
いや、本当に原文にそう書いてあるんだって!
(註4) プリンスが(発音不可能な記号)と改名したとき
ミュージシャンのプリンスが1994年に芸名を改名したとき、改名後の芸名が彼によるオリジナルの記号で、公式な読みが存在しなかったらしい。
(註5) Pangram Fever
Pangramはアルファベットを全て使った文章のこと。日本語にあえて訳すなら「いろはフィーバー」かな、と思ったけどあまりにひどい訳なので文中に書くのはやめた。
(註6) 変装の大名人
原文では《Master of Dis Guys》。あえて訳せば《駄目人間たちの親玉》とか《侮られる男たちの頭領》とかになるけど、多分これは《Master of Disguise》をもじったものなので、素直に訳してみた。なお《The Master of Disguise》(邦題:変身パワーズ)というコメディ映画がある。多分これが元ネタ。さらに余談ながら、この邦題は主役が《オースティンパワーズ》と同じ役者だから、という理由だけでつけられたものと思われる。ひどい話だ(余談の余談:この映画自体はそこそこ面白かった)。
(註7) マナバーン
2004年の当時はまだマナバーンが健在だった。
(註8) (1/2)マナは使い切れない
実はこのルール講座の最後の一文、公式サイト側では画像と重なってしまっているせいか画面に表示されていない。全文コピペすることで偶然発見できた。この翻訳を読んだ方は少し得したと思ってもよいし、思わなくともよい。
(註9) おーふろーたーく
原文では《Ooflotak》。ググッてみたけど、広い世界でもマーク・ゴットリーブしか使ってない単語みたいで、彼が今までに書いたコラムしかヒットしなかった。要は、全然分からなかった、ということ。詳細をご存知の方いらっしゃいましたら教えてください。
(註10) よくある質問というか答えないと混乱が収まらないよ集
リンク先は以下のURL。マーク・ローズウォーター渾身の作である、アンヒンジドのFAQ。なお「よくある質問というか答えないと混乱が収まらないよ集」という訳は、某所で有志が訳した際の名残り。
http://www.wizards.com/Magic/TCG/Article.aspx?x=magic/faq/unhinged
(註11) バザーるでござーる
原文では「How Bazaar」。言い訳はしないし、謝らない。一応、説明しておくと「Bizarre」で「奇妙な」という意味があり「なんと奇妙なことだろう(How bizarre.)」という文章を元にしたダジャレ(「Bizarre」と「Bazaar」をかけている)と思われる。
【翻訳】時間旅行/Time Traveling【Daily MTG】
2011年1月9日 翻訳 コメント (2)時間旅行/Time Traveling : Daily MTG
2010年01月07日
Tom LaPille
元記事:http://www.wizards.com/Magic/Magazine/Article.aspx?x=mtg/daily/ld/124
(訳注:序文および開発チームメンバーの紹介は割愛)
マスターズエディションIVのカードの大半は、マジックの最初の3つのセット(註1)から収録されている。マジックの黎明期に皆の卓上を賑わしていたカードたちとほぼ同じ顔ぶれたちが今再びマスターズエディションIVのドラフトの卓上で活躍することになるだろう。
おそらく君たちは《大地の怒り/Force of Nature》や《シヴ山のドラゴン/Shivan Dragon》や《マハモティ・ジン/Mahamoti Djinn》のようなカードを引くことを期待しているだろうし、同時にそれらに《恐怖/Terror》や《剣を鍬に/Swords to Plowshares》が飛んできませんように、と祈っているに違いない。
アンコモンの枠に期待しているのは《センギアの吸血鬼/Sengir Vampire》や《大気の精霊/Air Elemental》や《巨大戦車/Juggernaut》あたりだろうか。運がよければ《対抗呪文/Counterspell》(打消し呪文じゃない、そう、《対抗呪文/Counterspell》だ)で対戦相手のキーカードを打ち落とすチャンスもあるだろう。
歴代のマスターズエディションたちは過去をさかのぼり、そしてマスターズエディションIVでついに最古へと到達した。もし君がマジックの黎明期からのプレイヤーであれば懐かしさに流す自分の涙におぼれないよう気をつけてくれ。最近始めたばかりなら、今から追いつけばいいだけのことだ。
ドラフトは楽し
セットの大きなテーマは懐古主義ではあるが、必ずしもよみがえって欲しくない過去もある。例えば、初期のセットを用いたリミテッドはどうしようもないバランスだ。ミラージュはリミテッドで用いられることも意識した初めてのセットだったが、マスターズエディションはそれ以前のカードたちで構成されている。そう。その収録されるカードの構成、ここで我々の近代的な開発のノウハウを活かさずしていつ活かすのか、という話だ。
最近のマジックのセットにはテーマ性があり、今回もそれは変わらない。ベータとアラビアンナイトにはメカニック的なテーマは存在しなかったが、アンティキティーには存在した。アーティファクトだ。そしてマスターズエディションIVも同様だ。ただ今回は金属術を達成するために必要な枚数のアーティファクトをひっかき集めるべく奔走する必要はない。当時、そんなメカニックは存在しなかった。そのかわり《黒曜石のゴーレム/Obsianus Golem》や《原初の土/Primal Clay》(註2)や《機械仕掛けの鳥/Clockwork Avian》などが戦闘で活躍することになり、《神への捧げ物/Divine Offering》や《崩壊/Crumble》や《Artifact Blast》などは申し分ない働きを見せてくれるはずだ。
もし君がマスターズエディションIVのテーマが本当にアーティファクトなのかどうかを疑うなら、普段であれば基本土地が鎮座ましましているスロットを見て欲しい。最近のセットならば必ずそこにあるはずの基本土地のかわりは、なんとウルザ地形だ。
アンティキティーが出た当初、ウルザ地形はそれを発見したプレイヤーたちに重い呪文をデッキへたらふくぶち込ませた。第8版と第9版がスタンダードリーガルだった頃にも同じようなデッキが猛威を振るった。そして今、そんな重量級のデッキをドラフトで組めるチャンスが到来したというわけだ。ドラフトで実際にウルザ・デッキを組めるのは卓で1人か2人だろうが、もし君がその1人になれたなら3ターン目に《黒曜石のゴーレム/Obsianus Golem》を呼び出したり、《ドラゴン・エンジン/Dragon Engine》を7/3までパンプしたりできるはずだ。
さらに、最近のセット同様、マスターズエディションIVはリミテッドのためにカードプール内での細かな調整が効いている。ここで全てをばらしてお楽しみを台無しにする気はない。新たな未知なる世界へと飛び込むのはマジックの新セットの楽しみの1つだからだ。
しかし、1つくらいはいいだろう。このセットで強いとみなされるであろうクリーチャーたちの一部は再生能力を持っている。例えば《粘土像/Clay Statue》や《Sedge Troll》や《Living Wall》などだ。それにはちょっと劣るが、他にも再生クリーチャーがいる。《Drowned》や《悪魔の機械/Diabolic Machine》だ。もちろんこれら再生に対抗する手段が用意されてない、などという不手際はない。《Lim-Dul’s Cohort》もそれなりにいい仕事をしてくれるだろうが、この分野での私のお気に入りは《Gravebind》だ。
《Gravebind》はコモンだ。大半のリミテッド環境ではゴミカードだ。しかし、信じて欲しい。このセットでは別だ。使えるかって? そうだな、絶対とはいえないが、黒いデッキに複数枚入れて、最初の1枚を唱えるときは大抵楽しくてしょうがなかった。アタックするなら今のうち、と対戦相手が信じているときに彼の《粘土像/Clay Statue》をこれで待ち伏せするのは至福の極みだ。
もちろん、マスターズエディションIVで近代の開発ノウハウが活かされたのがこの《Gravebind》だけということではない。他にも、普通なら見向きもされないようなカードたちが君たちのドラフトを手助けしてくれることだろう。
古いカードをマジックオンラインへ
マスターズエディションIVには、過去のマジックオンラインには存在しなかった強力でとんでもないカードたちがたくさん収録されている。これらの多くはマジックオンラインのレガシーやクラシックのカードプールを埋めるのに十分なほど強い。《Maze of Ith》や《Sinkhole》や《Library of Alexandria》や《Mishra’s Workshop》や《Fastbond》、他の制限カードたちがそれだ。
我々は多少時間をかけてでもオンラインのマジックが紙のマジックに追いつければと願っており、その目的のためにこれらのカードは構築環境に必要なカードだ。
もっともそれだけがこれらのカードを復活させた理由ではない。ミラージュ以前のカードの中には、構築では使われないだろうがカジュアルでは人気だったものや、替わりとなれるカードがないものがある。例えば《Leeches》は毒カウンターを取り除くことが出来る唯一のカードだ。さらには《In The Eye of Chaos》の替わりとなれるカードもどこにも存在しない。これらはオンラインに収録されるべきだと感じた。
他にマスターズエディションIVによってマジックオンラインにもたらされたのは昔懐かしいテイストのイラストたちだ。マジックの初期のカードをそろえようというときに《エイトグ/Atog》や《ハルマゲドン/Armageddon》や《対抗呪文/Counterspell》を収録しないわけにもいかない。そして、これらを収録せざるを得ないというのを問題点と考えるのではなく、元のイラストで登場させるチャンスじゃないか、と私はとらえることにした。
現実の世界で、私はアンティキティーの《エイトグ/Atog》と日本語第4版の黒枠の《対抗呪文/Counterspell》を使うのは楽しかった。さらに私よりもそういった楽しみに貪欲な人たちは、ポータル版の《ハルマゲドン/Armageddon》やアラビアンナイト版の《真鍮の都/City of Brass》をそろえたりしていた。
マスターズエディションIVによってマジックオンラインのプレイヤーたちに昔懐かしいイラストをプレイする機会をもたらす、ということだけでなく、今回初めて黒枠で印刷されるカードだってあるのだ。
さて、最後におまけとして、よく聞かれる質問に答えておこう。
質問:なんでレアが105枚も?(註3)
回答:
先に述べたとおり、マスターズエディションの目的の1つは古いカードをマジックオンラインへ出来る限りたくさん放り込むことだ。残念なことに最近の開発方針から鑑みるに、ミラージュ以前のカードの中にはコモンにふさわしいカードがそれほど多くない。オンラインに登場させたいとんでもないカードたちは大抵コモンより上のレアリティに属している。
収録元のセットには《Sinkhole》や《Mishra’s Workshop》や《Maze of Ith》、10枚の制限カードたち、そして10枚のデュアルランドたちがあり、それらの入れたいカードを全部ねじ込むだけのスペースはあると我々は考えた。
質問:なんでプレビューに神話レアとして紹介されたカードがあったの?(註4)
回答:
デザインファイルでは、ヴィンテージで制限カードだった10枚は全て神話レアだった。これによって10枚の神話レアと95枚のレアが存在してた。これによって1枚しか必要ない制限カードを引き過ぎず、かつ引くのが楽しみになるようなバランスになると私は考えた。
しかし後になって現実のセットより遥かに低い確率でしか神話レアが登場しなくなってしまうことに誰かが気づいた。このことが問題視されたため、制限カードたちはレアに格下げされた。そして今や105枚のレアがあるというわけだ。
質問:なんでデュアルランド10枚全てがまたセット入りしたの?(註5)
回答:
我々はマジックオンラインのプレイヤーたちに長くレガシー環境に触れていて欲しいと願っている。それを可能にする一助として、レガシーのマナベースを安定させることが出来るカードを長期間使用可能にすることが必要だと考えた。これを念頭に置き、我々はデュアルランド全てを再度セットに収録することとした。
質問:パワー9はなんで収録されなかったの?
それを決断したのは私ではないので、答えることはできない。かわりにMagic Onlineのフォーラムで以下のとおり述べているWorth Wollpertの言葉を借りよう。
マスターズエディションIVの発売は、01月10日だ。手元にパソコンがあって冒険心に富んでいるならば、我々と一緒に過去にさかのぼって黎明期のマジックを探険しようじゃないか。リリースイベントは12日から始まる。そこで皆と会えるのを楽しみにしているよ!
(註1) 最初の3つのセット
アルファ/ベータ、アラビアンナイト、アンティキティーのことと思われる。なお製品ページによると「Antiquities, Arabian Nights, Ice Age, Legends, Limited (Alpha), Portal, Portal Second Age, The Dark, and more」を含む、とある(以下のURL参照)。
http://www.wizards.com/magic/tcg/productarticle.aspx?x=mtg/tcg/mastersed4/productinfo
(註2) 《原初の土/Primal Clay》
マスターズエディションIVのコモン。昔はレアだったんだけど、コモン。ちなみにこれだけじゃなくて他にも《空飛ぶ絨毯/Flying Carpet》やら《ドラゴン・エンジン/Dragon Engine》やら、むしろなんで昔はレアだったんだろう、という元レアカードたちがコモンに並んでいる。第4版をリアルタイムで買ってた身としては、喜怒哀楽のいずれにも属さない微妙な気持ちがわいてくる。
(註3) レアが105枚
セット枚数は全部で269枚。なんとそのうち105枚がレア、という話。
(註4) 神話レア
製品版には神話レアが存在しない。
(註5) デュアルランド
マスターズエディション2とマスターズエディション3にはそれぞれ5枚ずつのデュアルランドが再録されており、今回あらためてそれら10枚全てが再録されている。
(註6) ※ 引用部分について
まさにここに書いてあるとおり非常にデリケートなネタなので、理由について本気で気になる人は原文を読むことを推奨。
2010年01月07日
Tom LaPille
元記事:http://www.wizards.com/Magic/Magazine/Article.aspx?x=mtg/daily/ld/124
(訳注:序文および開発チームメンバーの紹介は割愛)
マスターズエディションIVのカードの大半は、マジックの最初の3つのセット(註1)から収録されている。マジックの黎明期に皆の卓上を賑わしていたカードたちとほぼ同じ顔ぶれたちが今再びマスターズエディションIVのドラフトの卓上で活躍することになるだろう。
おそらく君たちは《大地の怒り/Force of Nature》や《シヴ山のドラゴン/Shivan Dragon》や《マハモティ・ジン/Mahamoti Djinn》のようなカードを引くことを期待しているだろうし、同時にそれらに《恐怖/Terror》や《剣を鍬に/Swords to Plowshares》が飛んできませんように、と祈っているに違いない。
アンコモンの枠に期待しているのは《センギアの吸血鬼/Sengir Vampire》や《大気の精霊/Air Elemental》や《巨大戦車/Juggernaut》あたりだろうか。運がよければ《対抗呪文/Counterspell》(打消し呪文じゃない、そう、《対抗呪文/Counterspell》だ)で対戦相手のキーカードを打ち落とすチャンスもあるだろう。
歴代のマスターズエディションたちは過去をさかのぼり、そしてマスターズエディションIVでついに最古へと到達した。もし君がマジックの黎明期からのプレイヤーであれば懐かしさに流す自分の涙におぼれないよう気をつけてくれ。最近始めたばかりなら、今から追いつけばいいだけのことだ。
ドラフトは楽し
セットの大きなテーマは懐古主義ではあるが、必ずしもよみがえって欲しくない過去もある。例えば、初期のセットを用いたリミテッドはどうしようもないバランスだ。ミラージュはリミテッドで用いられることも意識した初めてのセットだったが、マスターズエディションはそれ以前のカードたちで構成されている。そう。その収録されるカードの構成、ここで我々の近代的な開発のノウハウを活かさずしていつ活かすのか、という話だ。
最近のマジックのセットにはテーマ性があり、今回もそれは変わらない。ベータとアラビアンナイトにはメカニック的なテーマは存在しなかったが、アンティキティーには存在した。アーティファクトだ。そしてマスターズエディションIVも同様だ。ただ今回は金属術を達成するために必要な枚数のアーティファクトをひっかき集めるべく奔走する必要はない。当時、そんなメカニックは存在しなかった。そのかわり《黒曜石のゴーレム/Obsianus Golem》や《原初の土/Primal Clay》(註2)や《機械仕掛けの鳥/Clockwork Avian》などが戦闘で活躍することになり、《神への捧げ物/Divine Offering》や《崩壊/Crumble》や《Artifact Blast》などは申し分ない働きを見せてくれるはずだ。
もし君がマスターズエディションIVのテーマが本当にアーティファクトなのかどうかを疑うなら、普段であれば基本土地が鎮座ましましているスロットを見て欲しい。最近のセットならば必ずそこにあるはずの基本土地のかわりは、なんとウルザ地形だ。
アンティキティーが出た当初、ウルザ地形はそれを発見したプレイヤーたちに重い呪文をデッキへたらふくぶち込ませた。第8版と第9版がスタンダードリーガルだった頃にも同じようなデッキが猛威を振るった。そして今、そんな重量級のデッキをドラフトで組めるチャンスが到来したというわけだ。ドラフトで実際にウルザ・デッキを組めるのは卓で1人か2人だろうが、もし君がその1人になれたなら3ターン目に《黒曜石のゴーレム/Obsianus Golem》を呼び出したり、《ドラゴン・エンジン/Dragon Engine》を7/3までパンプしたりできるはずだ。
さらに、最近のセット同様、マスターズエディションIVはリミテッドのためにカードプール内での細かな調整が効いている。ここで全てをばらしてお楽しみを台無しにする気はない。新たな未知なる世界へと飛び込むのはマジックの新セットの楽しみの1つだからだ。
しかし、1つくらいはいいだろう。このセットで強いとみなされるであろうクリーチャーたちの一部は再生能力を持っている。例えば《粘土像/Clay Statue》や《Sedge Troll》や《Living Wall》などだ。それにはちょっと劣るが、他にも再生クリーチャーがいる。《Drowned》や《悪魔の機械/Diabolic Machine》だ。もちろんこれら再生に対抗する手段が用意されてない、などという不手際はない。《Lim-Dul’s Cohort》もそれなりにいい仕事をしてくれるだろうが、この分野での私のお気に入りは《Gravebind》だ。
《Gravebind》はコモンだ。大半のリミテッド環境ではゴミカードだ。しかし、信じて欲しい。このセットでは別だ。使えるかって? そうだな、絶対とはいえないが、黒いデッキに複数枚入れて、最初の1枚を唱えるときは大抵楽しくてしょうがなかった。アタックするなら今のうち、と対戦相手が信じているときに彼の《粘土像/Clay Statue》をこれで待ち伏せするのは至福の極みだ。
もちろん、マスターズエディションIVで近代の開発ノウハウが活かされたのがこの《Gravebind》だけということではない。他にも、普通なら見向きもされないようなカードたちが君たちのドラフトを手助けしてくれることだろう。
古いカードをマジックオンラインへ
マスターズエディションIVには、過去のマジックオンラインには存在しなかった強力でとんでもないカードたちがたくさん収録されている。これらの多くはマジックオンラインのレガシーやクラシックのカードプールを埋めるのに十分なほど強い。《Maze of Ith》や《Sinkhole》や《Library of Alexandria》や《Mishra’s Workshop》や《Fastbond》、他の制限カードたちがそれだ。
我々は多少時間をかけてでもオンラインのマジックが紙のマジックに追いつければと願っており、その目的のためにこれらのカードは構築環境に必要なカードだ。
もっともそれだけがこれらのカードを復活させた理由ではない。ミラージュ以前のカードの中には、構築では使われないだろうがカジュアルでは人気だったものや、替わりとなれるカードがないものがある。例えば《Leeches》は毒カウンターを取り除くことが出来る唯一のカードだ。さらには《In The Eye of Chaos》の替わりとなれるカードもどこにも存在しない。これらはオンラインに収録されるべきだと感じた。
他にマスターズエディションIVによってマジックオンラインにもたらされたのは昔懐かしいテイストのイラストたちだ。マジックの初期のカードをそろえようというときに《エイトグ/Atog》や《ハルマゲドン/Armageddon》や《対抗呪文/Counterspell》を収録しないわけにもいかない。そして、これらを収録せざるを得ないというのを問題点と考えるのではなく、元のイラストで登場させるチャンスじゃないか、と私はとらえることにした。
現実の世界で、私はアンティキティーの《エイトグ/Atog》と日本語第4版の黒枠の《対抗呪文/Counterspell》を使うのは楽しかった。さらに私よりもそういった楽しみに貪欲な人たちは、ポータル版の《ハルマゲドン/Armageddon》やアラビアンナイト版の《真鍮の都/City of Brass》をそろえたりしていた。
マスターズエディションIVによってマジックオンラインのプレイヤーたちに昔懐かしいイラストをプレイする機会をもたらす、ということだけでなく、今回初めて黒枠で印刷されるカードだってあるのだ。
さて、最後におまけとして、よく聞かれる質問に答えておこう。
質問:なんでレアが105枚も?(註3)
回答:
先に述べたとおり、マスターズエディションの目的の1つは古いカードをマジックオンラインへ出来る限りたくさん放り込むことだ。残念なことに最近の開発方針から鑑みるに、ミラージュ以前のカードの中にはコモンにふさわしいカードがそれほど多くない。オンラインに登場させたいとんでもないカードたちは大抵コモンより上のレアリティに属している。
収録元のセットには《Sinkhole》や《Mishra’s Workshop》や《Maze of Ith》、10枚の制限カードたち、そして10枚のデュアルランドたちがあり、それらの入れたいカードを全部ねじ込むだけのスペースはあると我々は考えた。
質問:なんでプレビューに神話レアとして紹介されたカードがあったの?(註4)
回答:
デザインファイルでは、ヴィンテージで制限カードだった10枚は全て神話レアだった。これによって10枚の神話レアと95枚のレアが存在してた。これによって1枚しか必要ない制限カードを引き過ぎず、かつ引くのが楽しみになるようなバランスになると私は考えた。
しかし後になって現実のセットより遥かに低い確率でしか神話レアが登場しなくなってしまうことに誰かが気づいた。このことが問題視されたため、制限カードたちはレアに格下げされた。そして今や105枚のレアがあるというわけだ。
質問:なんでデュアルランド10枚全てがまたセット入りしたの?(註5)
回答:
我々はマジックオンラインのプレイヤーたちに長くレガシー環境に触れていて欲しいと願っている。それを可能にする一助として、レガシーのマナベースを安定させることが出来るカードを長期間使用可能にすることが必要だと考えた。これを念頭に置き、我々はデュアルランド全てを再度セットに収録することとした。
質問:パワー9はなんで収録されなかったの?
それを決断したのは私ではないので、答えることはできない。かわりにMagic Onlineのフォーラムで以下のとおり述べているWorth Wollpertの言葉を借りよう。
最後に、今まで触れなかった例の件について。
マスターズエディションIVにパワー9が登場しなかったからと言って今後もマジックオンラインにパワー9が登場しない、と決まったわけではない。パワー9がマスターズエディションIVに収録されなかったのは、これらの取り扱いについて細心の注意を払いたいからだ。
これらは多くの人にとってあまりに大きな意味を持つカードであり、最終的に私はマスターズエディションIVはまだそのときではない、と判断した。多くの賛成派と多くの否定派が見えないところでせめぎあったが、最終判断者は私だ。
これに関しては本当に多くの議論が戦わされた。
明確にしておきたいのは、我々はまだ皆と分かち合えるだけの納得いく結論に今時点で至っていない、ということだ。マスターズエディションIVに収録されなかった、ということをそれ以上の意味にはとらないで欲しい。(註6)
マスターズエディションIVの発売は、01月10日だ。手元にパソコンがあって冒険心に富んでいるならば、我々と一緒に過去にさかのぼって黎明期のマジックを探険しようじゃないか。リリースイベントは12日から始まる。そこで皆と会えるのを楽しみにしているよ!
(註1) 最初の3つのセット
アルファ/ベータ、アラビアンナイト、アンティキティーのことと思われる。なお製品ページによると「Antiquities, Arabian Nights, Ice Age, Legends, Limited (Alpha), Portal, Portal Second Age, The Dark, and more」を含む、とある(以下のURL参照)。
http://www.wizards.com/magic/tcg/productarticle.aspx?x=mtg/tcg/mastersed4/productinfo
(註2) 《原初の土/Primal Clay》
マスターズエディションIVのコモン。昔はレアだったんだけど、コモン。ちなみにこれだけじゃなくて他にも《空飛ぶ絨毯/Flying Carpet》やら《ドラゴン・エンジン/Dragon Engine》やら、むしろなんで昔はレアだったんだろう、という元レアカードたちがコモンに並んでいる。第4版をリアルタイムで買ってた身としては、喜怒哀楽のいずれにも属さない微妙な気持ちがわいてくる。
(註3) レアが105枚
セット枚数は全部で269枚。なんとそのうち105枚がレア、という話。
(註4) 神話レア
製品版には神話レアが存在しない。
(註5) デュアルランド
マスターズエディション2とマスターズエディション3にはそれぞれ5枚ずつのデュアルランドが再録されており、今回あらためてそれら10枚全てが再録されている。
(註6) ※ 引用部分について
まさにここに書いてあるとおり非常にデリケートなネタなので、理由について本気で気になる人は原文を読むことを推奨。