【翻訳】ヴァンパイアに聞いてみよう!/Interview With Some Vampires【Daily MTG】
Mark Rosewater
2006年02月13日
元記事:http://www.wizards.com/Magic/Magazine/Article.aspx?x=mtgcom/daily/mr215

 ヴァンパイア週間へようこそ!

 ……はいはい、君たちの大半が「え、ヴァンパイア週間だって?」と言っているのは間違いないだろう(少なくとも、私の次週に向けて書いているちょっとした予告文(註1)を読む気があって、かつそこで私が何を言ったかを覚えているだけの余裕がある人はね)。

 ヴァンパイア週間の何が「黒くて白い」んだ、って?(註2)

 その答は……うーん……ほら、私はこれからオデッセイの《悔悟せる吸血鬼/Repentant Vampire》について詳細な考察をするところだったんだよ。このカードは黒と白であるという特徴を備えているからね(同時にではないけれど)。

 あー、分かった、分かった。これはバレバレの嘘だった。

 私は……うーん、私はこう考えていたんだ、今週はオルゾフ週間だったな、って。なぜかって? 自分でも分からない。スコットは来るテーマ週間の予定表を送ってくれていた。そして私は、そうすべきだったにも関わらず、それをきちんと確認しなかったんだ。

 分かると思うが、私は自分の記事を自宅で書いているので、仕事のメールを見ることが出来ないんだ。そのため、予告文を書いているとき、私はただ前に読んだ記憶を思い起こしているにすぎない。その記憶に頼った情報は、予定のリストを今確認したところ、まったく違うものだった。

 今しばらくのあいだ、オルゾフ週間を見ることはないだろう。あー、私たちはそれをしないわけではない、しかしイゼット週間と他のいくつかの後だ、例えばヴァンパイア週間とかね。

 それが私が今日書いている奴だ。

 分かってくれたかな? それでは始めようか。
(註1) 予告文
 原文では「Teaser」。アオリ文や宣伝文句のような意味。マーク・ローズウォーター氏の記事は、大体「来週は~について話す予定だ。それまで皆さん、~せずにお元気で」というような結びの文で終わることが多い。

(註2) 「黒くて白い」
 この1つ前の週に書かれたコラムの結びは以下の通り。
 Join me next week, when I talk about something’s that’s black and white.
 また来週。そのときは「黒くて白い何か」について話すつもりだ。

 引用元:
 http://www.wizards.com/Magic/Magazine/Article.aspx?x=mtgcom/daily/mr214

浜の真砂は尽きるとも、世に吸血鬼の種は尽きまじ

 今週はヴァンパイア週間で、かつ「メイキング・マジック(Making Magic)」(註3)はデザインに関するコラムなのだから、ヴァンパイア・カードのデザインについて語るのが唯一自然なことと思われる。

 しかしこれについて通常のR&D(註4)の視点から語るのではなく、かわりにこの話題を一部のヴァンパイアたち自身によって議論させたらもっと興味深いものになるのではないか、と私は思った。

 そのようなわけで、私はマジックで名の知られたヴァンパイアたちによる円卓会議を招集し、彼らにヴァンパイアとマジックについて深く考えてもらう機会を提供した(それらに加えて、彼らのあいだで交わされた会話から自然と発生したいくつかの議題についてもね)。

 集まったのはマジックのアンデッド界における有名人たちだ(註5)。

 アルファからは元祖ヴァンパイアである《センギアの吸血鬼/Sengir Vampire》。

 次に初期のヴァンパイアにおける象徴的な存在の1人、《センギア男爵/Baron Sengir》。

 参加してくれたヴァンパイアの3人目であり、ジャムーラからやって来た背筋の凍るような人血の啜り手(すすりて)である《終末を招く者ショークー/Shauku, Endbringer》。

 彼らに加わるは、元祖ウェザーライト号の乗組員の1人にして、のちにその乗組員たちの大敵となった《呪われたクロウヴァクス/Crovax the Cursed》。

 さらに、存在するヴァンパイアの中では唯一の黒でない(ときもある)風変わりな奴、《悔悟せる吸血鬼/Repentant Vampire》もいる。

 最後は、このゲームで最も新しいヴァンパイアの1人である《秘密の王、ザデック/Szadek, Lord of Secrets》だ。
(註3) メイキング・マジック(Making Magic)
 Daily MTGの連載コラムは曜日によってテーマが決まっている。マーク・ローズウォーター氏が担当している月曜日はマジックの開発やデザインがテーマ。
 参照:http://www.wizards.com/Magic/Magazine/Archive.aspx?tag=column

(註4) R&D
 Research & Developmentで、一般的な意味では「研究開発」、ここではウィザーズにおけるマジックの開発部のこと。

(註5) 参加者プロフィール
 個々のカードテキストとイラストは以下のリンク先を参照のこと。

 《センギアの吸血鬼/Sengir Vampire》
   参照:http://magiccards.info/tr/en/80.html
 《センギア男爵/Baron Sengir》(註6)
   参照:http://magiccards.info/hl/en/1.html
 《終末を招く者ショークー/Shauku, Endbringer》
   参照:http://magiccards.info/mr/en/40.html
 《呪われたクロウヴァクス/Crovax the Cursed》
   参照:http://magiccards.info/sh/en/5.html
 《悔悟せる吸血鬼/Repentant Vampire》
   参照:http://magiccards.info/od/en/157.html
 《秘密の王、ザデック/Szadek, Lord of Secrets》
   参照:http://magiccards.info/rav/en/234.html

(註6) 《センギア男爵/Baron Sengir》
 実際には《Baron Sengir》というカードに和名は存在しない。ホームランドの日本語版は存在せず、再録もされていないため。ただフレイバーテキストなど、ストーリー上の和名は存在するので、それに習ってカード名も日英両表記にしてみた。

レポーター (マーク)
 皆様、ようこそおいでくださいました。まず初めに、ヴァンパイアのデザインについて話すためにお時間を割いて頂いたことを感謝いたします。また私の命を召し上がらないようお願いいたします。

《センギア男爵/Baron Sengir》
 我輩たちはマナーをわきまえておる。
 夜に属す血族の中でヴァンパイアが他と一線を画す点がそれだ。

《終末を招く者ショークー/Shauku, Endbringer》
 ああ、もちろんじゃ、ただわらわの中で、レポーターを食してしまうことがエチケットに反するかどうかについてはいまいち自信がないんじゃがの。

《呪われたクロウヴァクス/Crovax the Cursed》
 どこに所属してるレポーターかによると私は思うがね。Newsweekとかであれば手をつけないほうがいいかもしれん。だが、Weekly World Newsならどうだ?(註7) あいつらなら、私はポップコーンと同じように食らえる。Bat Boy(註8)の記事にはもううんざりだ。
(註7) Newsweek、Weekly World News
 前者はアメリカの「まじめな」週刊誌の代表で、後者はアメリカの「ふまじめな」週刊誌の代表。日本の新聞で言うと「日経新聞」と「東スポ」みたいな感じかもしれない。多分。

(註8) Bat Boy
 Weekly World Newsで連載されているバットマンのパロディ漫画。
 http://en.wikipedia.org/wiki/Bat_Boy

《センギアの吸血鬼/Sengir Vampire》
 それであんたはどこから来たんだっけ、もう一度教えてくれよ。

《秘密の王、ザデック/Szadek, Lord of Secrets》
 Magicthegathering.comからだ。ウィザーズのホームページだな。彼を食しても我々の目的の助けにはなるまいて。

レポーター (マーク)
 あ、はい、ありがとうございます。ところで目的とは?

《秘密の王、ザデック/Szadek, Lord of Secrets》
 マジックのカードにヴァンパイアを増やすことだ。PRは十分だが、我々が期待するほどの数がいるわけではない。

《悔悟せる吸血鬼/Repentant Vampire》
 まったくだぜ、13年も経ってるつうのに俺たちの元にいるんは16体のヴァンパイア。一体全体、こりゃなんだってんだい?

《秘密の王、ザデック/Szadek, Lord of Secrets》
 おぬしの言う16体は、クリーチャータイプがヴァンパイアのものだけだな。
 マジックには他にも明らかにヴァンパイアに共通する特徴を備えているクリーチャーが大勢いる。

《センギア男爵/Baron Sengir》
 黒であること、大型の飛行であること、センギアの能力(註9)を持ちつつセンギアの名を冠しておること、そしてそれ相応の見た目(註10)をしておること。
 これだけそろっておれば「吸血鬼として扱う」のテキストやそこらを授けてやることに異存は無い。
(註9) センギアの能力
 傷つけたクリーチャーが同じターンのうちに墓地へ落ちた場合、+1/+1カウンターなどで強化される能力。正直なところ、そうそう発動しない。

(註10) それ相応の見た目
 原文ではこの言葉のすぐ隣に男爵ご本人のイラストが掲載されている。

《悔悟せる吸血鬼/Repentant Vampire》
 じいちゃん、細かいこと気にすんじゃねえよ。大事なんはオフィシャルな吸血鬼が16体、ってことさ。年当たりで考えたら約1.1体じゃねえか。こりゃひでえよ!

《秘密の王、ザデック/Szadek, Lord of Secrets》
 実際は18体だ。おぬしは《霧衣の究極体/Mistform Ultimus》(註11)を忘れている。
(註11) 《霧衣の究極体/Mistform Ultimus》
 「すべてのクリーチャー・タイプである」という能力を当時持っていた唯一のクリーチャー。

《悔悟せる吸血鬼/Repentant Vampire》
 あんにゃろう、ぶっ殺してやる。いつもいつも小ネタを台無しにするってだけで理由としちゃ十分だ!

レポーター (マーク)
 話が本題から少々それてしまっているように思います。本日集まって頂いたのはヴァンパイアのデザインについて話すためです。誰から始めますか?

《センギアの吸血鬼/Sengir Vampire》
 まあ、始めるなら俺からが妥当だろうな。何から話そうか。
 よし「ヴァンパイアの持つメカニズム」にしよう。何が言いたいかっていうと、R&Dが何を持ってしてそのカードをヴァンパイアとみなすのか、ってことさ。

《呪われたクロウヴァクス/Crovax the Cursed》
 ふむ、まずは飛んでいないとな。
 なぜなら、当たり前だが、全てのヴァンパイアは飛んでいるからだ。

《秘密の王、ザデック/Szadek, Lord of Secrets》
 《Krovikan Vampire》を例外とすればな。ああ、それともちろん《霧衣の究極体/Mistform Ultimus》もだ。付け加えるなら、おぬしは単に《ジャンプ/Jump》しているだけだ(註12)。
(註12) ジャンプ/Jump
 《呪われたクロウヴァクス/Crovax the Cursed》は「(黒):呪われたクロウヴァクスはターン終了時まで飛行を得る」の能力は持っているが飛行は持っていない。

《呪われたクロウヴァクス/Crovax the Cursed》
 そうやって人が話している最中にいちいち知識をひけらかすような真似をやめられんというのに、貴様がなぜに《秘密の王》を名乗ることができているのか、私には理解できんな。

《秘密の王、ザデック/Szadek, Lord of Secrets》
 最も重要なことは口に出さぬからだ。

《呪われたクロウヴァクス/Crovax the Cursed》
 では黙っていればよいのでは?

《秘密の王、ザデック/Szadek, Lord of Secrets》
 私がただ指摘したかったのは、伝承などで伝えられるところでは皮肉なことに、大半のヴァンパイアやそれに類するクリーチャーは飛んでいない、ということだ。

《センギアの吸血鬼/Sengir Vampire》
 いや、飛んでるかどうかは俺だって気にしてないんだ。
 それについては俺も分かる気がする。
 もっと飲み込めない部分があるのさ。ヴァンパイアとしてふさわしいかどうかについて、R&Dはそのクリーチャーが何らかの「摂取する」能力を持っていなきゃいけないって考えてるんだ。
 例えばさ、ヴァンパイアの典型的能力みたいに扱われてる俺の能力を考えてみてくれよ。意味合いとしては、誰かを殺すことで俺はより強くなる、ってところだ。実際、響きはとてもいい、だけど……

《センギア男爵/Baron Sengir》
 お前が何かを殺せたことなどただの一度もありはせん。
 あると言うなら我輩の前で言ってみるがいい。

《悔悟せる吸血鬼/Repentant Vampire》
 俺も、その場にいたはずだけどな(註13)。
(註13) その場
 《センギアの吸血鬼/Sengir Vampire》が再録されたトーメントは《悔悟せる吸血鬼/Repentant Vampire》の収録されているオデッセイと同じセット。

《センギアの吸血鬼/Sengir Vampire》
 勘違いしないでくださいよ、俺は4/4で飛行なことに不満はないんです。ただ何かを食えたことなんてただの一度もないんですよ! 飢えてしにそうだ!

《呪われたクロウヴァクス/Crovax the Cursed》
 仲間を喰らうほうが魅力的に思えてしまうのはそのせいだな。
 他のプレイヤーを操ることは無理な話だが、自身の側にいる魔法使いの目をのぞきこみ「私に餌を与えよ。さすれば貴様の思い描く相手に思い知らせてくれようぞ」とささやけば、求めるものが手に入るという寸法だ。

《終末を招く者ショークー/Shauku, Endbringer》
 そうは言うても、餌を与えてくれぬ場合があるじゃろうて。怨敵が手ごろなブロッカーを用意してしもうて、次の瞬間、おぬしは絶食させられることになるのじゃ。
 わらわの策が最も良いと思うがの。ただ欲しい物を見つめ、そしてそれを食すのじゃ。
 生きるにはそれしかあるまいて。

《呪われたクロウヴァクス/Crovax the Cursed》
 私は自身のデザインに対し、それなりに喜びを感じている。ヴァンパイアであること、というフレイバーをつかむという意味で、実にもっともよいデザインだろう。
 喰らうことで強くなる。
 喰らえないことで力を失う。
 私たちが血を求めるのは楽しみのためではないのだ。
 いや、勘違いしないで欲しいのは、血をすすること自体は心弾む所業だ。しかしその摂取はあくまで生存のためではないか。センギアの能力はこの根源たる点をついていないと私は思うのだ。

《秘密の王、ザデック/Szadek, Lord of Secrets》
 同じく、私も自身のフレイバーに満足しておる。
 そのとおり、私が摂取するのは血液よりも思考ではあるが、そこには似通った形の欲求があると思っておる。

《呪われたクロウヴァクス/Crovax the Cursed》
 だが貴様は力を失うことがないではないか。私はその点を重要視している。

レポーター (マーク)
 つまりあなたは永遠の飢えの表現については、力を失うことと紐づけてデザインされるべきだと感じているわけですね?

《呪われたクロウヴァクス/Crovax the Cursed》
 そのとおりだ。

《終末を招く者ショークー/Shauku, Endbringer》
 落ち着くのじゃ、クロウヴァクス。
 わらわと同じく、おぬしもそれについては本当の問題には気づいておるのじゃろう。
 皆も気づいておるわ。

レポーター (マーク)
 問題とは?

《センギア男爵/Baron Sengir》
 デーモンだ。

レポーター (マーク)
 なんとおっしゃいましたか?

《センギア男爵/Baron Sengir》
 黒のレアは、その一部をレアの飛行持ちにて象徴されておる。

《センギアの吸血鬼/Sengir Vampire》
 おじいさん、分かるようにお願いします。

《センギア男爵/Baron Sengir》
 これについてもっとも分かりやすい説明は、そうだな、R&Dが飛行持ちのファッティを白に作ったとしようではないか。それはなんだ?
 天使だ。
 では、もしかわりにそのクリーチャーの色が赤かったとすれば?
 そのとおり、それはドラゴンだ。
 今度はそのカードが黒だったとしてみよう。何が起きるだろうか?
 それは吸血鬼だ……もしくはデーモンだ!
 黒のレアには飛行持ちのファッティを象徴するクリーチャーが2種類いるのだ。

《終末を招く者ショークー/Shauku, Endbringer》
 それだけではなく、きゃつら相手は公平なる戦いとは言いかねるからのう……デーモンの数はわらわたちを上回っておる。

《秘密の王、ザデック/Szadek, Lord of Secrets》
 24体のデーモンか。アングルードやアンヒンジドも数えるなら26体だ。さらに言うなれば27体だな、もし《霧衣の究極体/Mistform Ultimus》を含めてやる優しさがあるのなら。

《悔悟せる吸血鬼/Repentant Vampire》
 とっととあいつを食っちまうべきだ。

《終末を招く者ショークー/Shauku, Endbringer》
 ウィザーズ社はここ数年の間、きゃつらを新たに作っておらんというに!

《センギア男爵/Baron Sengir》
 事実の積み重ねだ。
 まず我輩の呼ぶところの「デメリット能力」という選択肢をデーモンは持っておる。それによって奴らはそのサイズに対して少ないマナコストで済んでいるがデメリットを持つ。何にせよ、デメリットとはデザインの中心ではなく外付けのものだ。
 ヴァンパイアは「摂取」というフレイバー、さらに飛行も持つことを義務付けられておるため、常に高コストとならざるを得ない。この中にマジックの歴史でもっともコストの安いヴァンパイアが何だったか答えられるものはおるかな。
 どうだ、ザデック?

《秘密の王、ザデック/Szadek, Lord of Secrets》
 4マナだ(註14)。《吸血コウモリ/Vampire Bats》と《吸血犬/Vampire Hounds》は3マナだが、いずれもヴァンパイアではない。
(註14) 4マナのヴァンパイア
 記事当時では《呪われたクロウヴァクス/Crovax the Cursed》と《Irini Sengir》。今は1マナから3マナまでにも多種多様なヴァンパイアがいる。

《センギア男爵/Baron Sengir》
 4マナとは!

《秘密の王、ザデック/Szadek, Lord of Secrets》
 ちなみにもっともコストの安いデーモンも同じく4マナ(註15)だ。
(註15) 4マナのデーモン
 記事当時はすでに神河ブロックが出ているため結構いる。《剃刀顎の鬼/Razorjaw Oni》、《沼居の災い魔/Scourge of Numai》、《血塗られしもの、死祭/Shimatsu the Bloodcloaked》、と《囚われしもの、幽孤羅/Yukora, the Prisoner》。

《呪われたクロウヴァクス/Crovax the Cursed》
 だがデーモンどもは、7/7、8/8、もしくは9/9であってもおかしくない。
 私たちの中で最大は男爵だが、それでも5/5だ。

《センギア男爵/Baron Sengir》
 それは我輩たちが能力的に成長する余地を残しておるためだ。9/9に+1/+1カウンターが乗ることにどれほどのことがあろう。そう、我輩たちは己の能力定義、それ自身に苦しめられておるのだよ。

レポーター (マーク)
 あなたの示唆するところは、R&Dはヴァンパイアのデザインについて路線変更を行うべきだ、ということですか?

《センギア男爵/Baron Sengir》
 違う。

《悔悟せる吸血鬼/Repentant Vampire》
 いや、そうだって! 変えてくれよ! 大体からして理由が……あっ……あああッ!? すまん、みんな! アレが始まりやがった!

レポーター (マーク)
 何が始まったんですか?

《センギアの吸血鬼/Sengir Vampire》
 急げ! 奴を取り押さえろ!

《終末を招く者ショークー/Shauku, Endbringer》
 足をつかむのじゃ!

レポーター (マーク)
 何がどうしたんですか?

《センギア男爵/Baron Sengir》
 おぬし、ロープを持ってこい!

レポーター (マーク)
 あの……

《センギアの吸血鬼/Sengir Vampire》
 やばい、変わるぞ!

《悔悟せる吸血鬼/Repentant Vampire》
 ああ、なんということでしょう……裏返ってしまいました(註16)。
 私が何かしたからでしょうか? 何をしてしまったのでしょうか? まさか誰かの命を奪ってしまったのではないといいのですが!
(註16) 裏返る
《悔悟せる吸血鬼/Repentant Vampire》には飛行とセンギア能力に加えて「スレッショルド ― あなたの墓地にカードが7枚以上ある限り、悔悟せる吸血鬼は白になるとともに「(T):黒のクリーチャー1体を対象とし、それを破壊する。」を持つ」という能力がある。

《センギアの吸血鬼/Sengir Vampire》
 《悔悟せる吸血鬼/Repentant Vampire》の悪い癖だ……たまに正義の味方になっちまうんだ。

《終末を招く者ショークー/Shauku, Endbringer》
 それによってきゃつはここにいる皆を滅することを望むようになるのじゃ。

レポーター (マーク)
 これはどのようにして起きるのですか?

《センギアの吸血鬼/Sengir Vampire》
 誰にも分からないんだ。

《秘密の王、ザデック/Szadek, Lord of Secrets》
 噂によるとジプシーの呪いだとか。

《センギア男爵/Baron Sengir》
 そのようなことはどうでもよいわ。墓地をあふれかえらせたのは誰だ!?

《センギアの吸血鬼/Sengir Vampire》
 ショークーじゃね?

《終末を招く者ショークー/Shauku, Endbringer》
 昨晩の《エイトグ/Atog》以来、何も食しておらぬわ。

《センギア男爵/Baron Sengir》
 ではどいつだ! クロウヴァクスか!?

《呪われたクロウヴァクス/Crovax the Cursed》
 わ、私は腹が減ってたんだ。
 そのままでは力を失ってしまうことになると言っているだろうが!

《センギア男爵/Baron Sengir》
 おぬし、6体の時点で我慢できんかったのか!?

《呪われたクロウヴァクス/Crovax the Cursed》
 なんだと、貴様の指図は受けんわ!
 伊達や酔狂で、満たされること無き飢え、などと呼ばれているわけでないのだ。
 大体からしてゴブリンを1匹で我慢できるわけがなかろう。

《終末を招く者ショークー/Shauku, Endbringer》
 その気持ち分かるぞよ、我が血族。

《悔悟せる吸血鬼/Repentant Vampire》
 あなたが命を奪ったと知った以上、私はあなたの命でそれを償って頂く以外、しようがありません。

《呪われたクロウヴァクス/Crovax the Cursed》
 その全身を縛られた状態で何かできるものならやってみるがいいわ。

《悔悟せる吸血鬼/Repentant Vampire》
 ええ、今は無理です。しかしこの縛め(いましめ)もいつかは解けます。そのときこそ、私の悪を打つ一撃が振り下ろされることでしょう。

レポーター (マーク)
 皆さん、本題に戻りましょう。私たちはデーモンについて話していたはずですよ。

《センギアの吸血鬼/Sengir Vampire》
 いや、正しくはデーモンの話じゃなかったはずだ。俺たちはデーモンと上手くやってる。

《秘密の王、ザデック/Szadek, Lord of Secrets》
 ある種の伝承によれば、ヴァンパイアもデーモンの一種だ。
 TVドラマ「バフィー ~恋する十字架~」(註17)がいい例だ。
(註17) バフィー ~恋する十字架~
 アメリカのTVドラマ。原題は「Buffy the Vampire Slayer」。

《センギアの吸血鬼/Sengir Vampire》
 俺が思うに、本当の問題は「ヴァンパイアが市場価値を失ったこと」にあるんじゃないかな。

レポーター (マーク)
 どういう意味ですか?

《センギアの吸血鬼/Sengir Vampire》
 まず手近なところで、象徴的なクリーチャーとして扱われなくなったのは、コモンだったことが一度もなかったからだと思う。ああ、確かにコモンにはコウモリだの猟犬だのはいるさ。だけど本当のヴァンパイアたちは最低でもアンコモンだった。
 さらに俺たちは一定以上のサイズじゃないといけない。3/3以上で、5/5以下だ。

《秘密の王、ザデック/Szadek, Lord of Secrets》
 5/5が限界だとは思わんがな。

《センギアの吸血鬼/Sengir Vampire》
 そうかもしれないけど、この13年間というもの、それを超えられた奴はいないぜ? さらに言うなら俺たちは常に「ヴァンパイア的なあれやこれや」も持っていないといけない。
 作り終えたあとには中途半端に重くて使えないクリーチャーが転がってるって寸法さ。

《センギア男爵/Baron Sengir》
 我輩が思うに、お前は大事なことを忘れておる。
 フレイバーだ。あふれんばかりのフレイバーこそが我輩たちではないか。
 矮小なるティミーどもがブースターパックを開いた際、我が血族を引いたらさぞかし喜ぶことだろうて。

《センギアの吸血鬼/Sengir Vampire》
 俺たちがカッコ悪いって話じゃないんですよ。
 俺たちのカードパワーの話です。
 いまだかつてTier1の構築デッキに名前の挙がったことのあるヴァンパイアを1体でいいからあげてみてくださいよ。

《呪われたクロウヴァクス/Crovax the Cursed》
 天使はあるな。ドラゴンも、デーモンも、ゴブリンも、エルフもだ。あの獣並の知性を持ったカヴーですら表舞台に立ったことがある。
 まるで私たちだけが名のある大舞台にたどり着けていない、ただ1つの主要な種族であるかのようだ!

《悔悟せる吸血鬼/Repentant Vampire》
 数分もがいてみていたのですが、人手を借りないと抜け出せないことを大人しく認める頃合いのようですね。
 そこでものは相談なんですが、誰かこれをほどいてくれる人がいましたら、苦しまずに滅してあげますよ?

《終末を招く者ショークー/Shauku, Endbringer》
 わらわが思うに、問題はヴァンパイアが常にティミーどもに帰属していることではなかろうかの?
 たまさかにジョニーどもが気まぐれで手を出すこともあるかもしれぬが、スパイクどもときたらどうじゃろう? きゃつらからはヴァンパイアに対する愛が微塵にも感じられぬわ。

レポーター (マーク)
 それではゲームのデザイナーたちに対して何を要望しますか?

《センギアの吸血鬼/Sengir Vampire》
 ヴァンパイアを恐れるな、だね。もっと俺たちに実のある強さをくれよ。ヴァンパイアって単語を含むトップレベルのデッキがあったら、めっちゃカッコいいと思うんだけどな!

《センギア男爵/Baron Sengir》
 まあ、まあ。

《センギアの吸血鬼/Sengir Vampire》
 そうだ、それと下らないセンギア能力ともおさらばだ!
 ああ、もちろん元々が俺のせいだってのは分かってますよ、おじいさん。だけどこんな能力に振り回されるのはもう俺たちで終わりにすべきなんです。

《悔悟せる吸血鬼/Repentant Vampire》
 よーし、ではこうしましょう。
 私を解放してくれた方にだけは、5分間の先に逃げる時間をあげますよ!

《終末を招く者ショークー/Shauku, Endbringer》
 わらわとしては、ザデックが1歩だけ正しい方向へ歩を進めているように思われるがの。
 2色目に足を踏み入れたことじゃ。
 ザデックは大きうなる力も持っておるし、さらにダメージ割り振りがスタックに乗っているあいだに生け贄を使った悪巧み(註18)も楽しめるしのう。
(註18) ダメージ割り振りがスタックに乗っている
 昔は今と違ってダメージ割り振りがスタックに乗っていた(さらに昔は乗ってなかったけど)。《秘密の王、ザデック/Szadek, Lord of Secrets》のダメージ割り振りがスタックに乗っている間に本人を生贄に捧げると、ダメージを置換する能力(註19)が働かず、対戦相手本体にダメージを与えることができる。

(註19) 能力
 彼の能力については文章が長いので以下を参照のこと。
 http://magiccards.info/rav/jp/234.html

《秘密の王、ザデック/Szadek, Lord of Secrets》
 お褒めに預かり恐悦至極。

《センギアの吸血鬼/Sengir Vampire》
 否定はしないぜ。俺もザデックが……ギャーッ!

レポーター (マーク)
 何が起きたんですか!?

《呪われたクロウヴァクス/Crovax the Cursed》
 《悔悟せる吸血鬼/Repentant Vampire》が《センギアの吸血鬼/Sengir Vampire》を殺しやがった。

レポーター (マーク)
 それはよろしくありませんね。

《終末を招く者ショークー/Shauku, Endbringer》
 気に病むことはなかろう。所詮、伝説性も持たぬ輩じゃ。
 大体からして、死んだも何も、元々死んでおるわ。

レポーター (マーク)
 あ、はい。この会議を終了するに当たり、最後に一言ありますか?

《センギア男爵/Baron Sengir》
 我輩は《悔悟せる吸血鬼/Repentant Vampire》を今一度縛りあげることを提案したい。

《終末を招く者ショークー/Shauku, Endbringer》
 おぬしらが望むのであればきゃつを殺すことも出来るがの(註20)。きゃつも所詮は伝説でもなんでもない輩じゃて。
(註20) 殺すことも出来る
 《終末を招く者ショークー/Shauku, Endbringer》は「(T):クリーチャー1体を対象とする。それを追放し、終末を招く者ショークーの上に+1/+1カウンターを1個置く」の能力を持つ。

《センギア男爵/Baron Sengir》
 我が血族たるヴァンパイアを代表して述べさせて頂きたいのだが……

《悔悟せる吸血鬼/Repentant Vampire》
 あなたに私の気持ちを代弁することなど出来はしないぞ、この野蛮人め!

《センギア男爵/Baron Sengir》
 誰かこいつに猿ぐつわをかましておいてくれないかね。
 さて、我輩の言いたかったことは、白を含まぬ我が血族を代表して述べたいこととして、R&Dが我々をデザインする際には、今少し枠に縛られぬよう努力して頂きたいという話なのだ。
 新たな形で表現される「摂取」を是非この目で見てみたいものだ。加えて言うなら、我が血族からトーナメントに頻繁に顔を出せるカードが1枚でも出たからといって開発部が死に絶えるわけでもあるまい。

《呪われたクロウヴァクス/Crovax the Cursed》
 同意だ。

《秘密の王、ザデック/Szadek, Lord of Secrets》
 男爵の言葉は核心をついていると思う。

《終末を招く者ショークー/Shauku, Endbringer》
 わらわが最後の一言を述べてもよいかの?

レポーター (マーク)
 もちろんです。そうでないとまずいのですか?

《終末を招く者ショークー/Shauku, Endbringer》
 それはそうじゃて、何せわらわは「終末を招く」のだから。
 この会議を読んでくれた読者の面々であれば、全てのヴァンパイアがそれほどまでに怒りを覚えておるわけではない、と分かってくれたとわらわは信じておる。
 だがの、わらわたちは象徴的な存在としてあるべく精一杯の努力を続けてきたのじゃ。次は、R&Dがそれに応える番ではなかろうかの?

レポーター (マーク)
 ええ、最後まで生き残っていただいた皆様に……いえ、死してなお生きている皆様に、この会議に参加してくださいました感謝を捧げたいと思います。
 読者の皆さんも、あなたたちのお話を楽しんでくださったものと思います。

 終える前に、読者へお伝えしておきたいのですが、来週はいくつかの教訓について分かち合いたいと考えておりますので、ぜひまたお越し下さい。
 それまで皆様の飢えが満たされておりますように!

マーク・ローズウォーター

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