はじめに。
 今回の記事は2002年に公式サイトで開催された企画「カードを作るのは君だ!(You Make the Card!)」の選考プロセスについて語られている。この企画は一般プレイヤーたちのアイデアや投票を元に、実際に収録されるカードを1枚作るというもので、2002年から2013年までのあいだに4回開催されている。

 その記念すべき第1回目では「どの色にするか?」「どのカードタイプにするか?」など24段階のステップをプレイヤーたちの投票で決めていく形式だった。この企画の推移などについては以下のサイトに詳しい。

 (MTG Wiki) 第1回:忘れられた古霊/Forgotten Ancient
 http://mtgwiki.com/wiki/%E3%82%AB%E3%83%BC%E3%83%89%E3%82%92%E4%BD%9C%E3%82%8B%E3%81%AE%E3%81%AF%E5%90%9B%E3%81%A0!#.E7.AC.AC1.E5.9B.9E.EF.BC.9A.E5.BF.98.E3.82.8C.E3.82.89.E3.82.8C.E3.81.9F.E5.8F.A4.E9.9C.8A.2FForgotten_Ancient

 今回翻訳した以下の記事は、5ステップ目の「カードの効果をどれにするか?」に関連した内容となっている。

 5ステップ目より前の段階で「色は緑」「タイプはクリーチャー」などの大枠はすでに決まっていて、これらの条件にふさわしい能力を募集したところ5000以上の応募があり、それを開発部側で10個まで絞り込まれたあと、ステップ5で読者投票が行われた。

 以下が絞り込まれたあとの10個の候補たち。

(1)
 CARDNAMEは打ち消されない。
 プロテクション(青)
 CARDNAMEが戦場に出るに際し、クリーチャー・タイプを1つ選ぶ。
 選ばれたクリーチャー・タイプを持つクリーチャー呪文は呪文や能力によって打ち消されない。

(2)
 CARDNAMEが戦場から墓地に置かれたとき、あなたはライブラリーを公開してもよい。そうした場合、対戦相手1人を対象とする。そのプレイヤーはその中から異なる名前のクリーチャー・カードを3枚選ぶ。あなたはその中から1枚を戦場に出し、残りをあなたの墓地に置く。その後、あなたのライブラリーを切り直す。

(3)
 CARDNAMEがいずれかのプレイヤーに戦闘ダメージを与えるたび、あなたはあなたのライブラリーからCARDNAMEという名前のカードを1枚探して、戦場に出してもよい。その後、あなたのライブラリを切り直す。

(4)
 CARDNAMEをブロックできるクリーチャーはすべて、これをブロックする。CARDNAMEがブロックされた状態になるたび、あなたはカードを1枚引いてもよい。

(5)
 クリーチャーでない呪文は、それがエンチャント(クリーチャー)呪文でない限り、それを唱えるためのコストが(1)多くなる。

(6)
 (X)(M),(T):あなたのライブラリーのカードを一番上からX枚公開する。あなたはそれらの中から点数で見たマナ・コストがX以下のクリーチャー・カードをすべて戦場に出す。その後、これにより公開されて戦場に出されなかったすべてのカードをあなたの墓地に置く。
(余談)
 ミラディンの傷跡の《起源の波/Genesis Wave》がかなり近い効果となっている。(X)(緑)(緑)(緑)のソーサリーで「あなたのライブラリーのカードを一番上からX枚公開する。あなたはそれらの中から点数で見たマナ・コストがX以下のパーマネント・カードを望む枚数戦場に出してもよい。その後、これにより公開されて戦場に出されなかったすべてのカードをあなたの墓地に置く」という効果。

(7)
 CARDNAMEは打ち消されない。
 CARDNAMEは呪文や効果の対象にならない。
 CARDNAMEがいずれかのプレイヤーに戦闘ダメージを与えるたび、このターン、そのプレイヤーはインスタント呪文を唱えることができない。

(8)
 CARDNAMEが戦場から墓地に置かれたとき、あなたはそのクリーチャーを次の終了ステップの開始時にオーナーのコントロール下で戦場に出してもよい。

(9)
 各プレイヤーのアップキープの開始時に、あなたがCARDNAMEという名前のパーマネントを4枚以上コントロールしている場合、あなたはこのゲームに勝利する。
(余談)
 ギルド門侵犯の《先端生物学者/Biovisionary》はほぼ同じ効果となっている。(1)(緑)(青)の 2/3 クリーチャーで「終了ステップの開始時に、あなたが《先端生物学者/Biovisionary》という名前のクリーチャーを4体以上コントロールしている場合、あなたはこのゲームに勝利する」という能力を持つ。

(10)
 プレイヤー1人が呪文を唱えるたび、あなたはCARDNAMEの上に+1/+1カウンターを1個置いてもよい。
 あなたのアップキープの開始時に、あなたはCARDNAMEの上からすべての+1/+1カウンターを取り除き、のぞむ数のクリーチャーの上に移動してもよい。

 さて開発部は5000以上もの応募をどうやってこの10個にまで絞り込んだのか? そしてその5000以上もの応募から浮かび上がってきたマジックプレイヤーたちの嗜好の傾向とは? ……というのが今回の記事の内容となる。


【翻訳】プレイヤーが緑に望む効果とそれでも緑には許されない効果について/With Trends Like These【DailyMTG】
Mark Rosewater
2002年04月08日
元記事:https://magic.wizards.com/en/articles/archive/making-magic/trends-these-2002-04-08

 さて「カードを作るのは君だ!(You Make the Card)」のステップ5「どのメカニズムにするか?」(註)のための投票が締め切られた。結果は水曜日に発表される予定だ。

 募集に対してなんと5000以上もの投稿があったわけだが、それらのプレイヤーたちのアイデアにはある種の傾向が見受けられた。せっかくなので今週のコラムでは私が発見したその傾向を皆と共有したい。
(註) ステップ5「どのメカニズムにするか?」
 ステップ5のURLは以下の通り(英語)。今回の投票先となった10個のメカニズム候補が並んでいる。
 https://magic.wizards.com/en/articles/archive/feature/you-make-card-step-5-2002-03-29

 ただその本題に入る前に、今回の企画である「カードを作るのは君だ!」に関連して皆から寄せられた質問に答えておこう。


■問い:どれだけプレイヤー側で決められるのか?(How Much Control?)

 最初に取り上げるのはこの質問だ。カードが作られるにあたって、どれだけプレイヤーの意向が反映されるのか。プレイヤーがどこまで決められるのか。

 シンプルに答えるなら、可能な限りプレイヤーたちに決めてもらうがすべてではない、となる。なぜプレイヤーが全てを決めてしまってはいけないのか?

 その理由は、カードの完成形がプレイヤーたちのデザインにできる限り近いものになって欲しいからだ。うん? どういうことだろうね。

 思い出して欲しいんだが、カードはデザインの段階を経たあと、必ず次の段階を経なければならない。それはデベロップメントだ。

 デベロップメントでは、そのカードと同じセットの他のカードたちとのバランスをみる。いや、セットに限らず、ブロック全体でバランスを崩さないかもみる。

 さらにはスタンダード環境だけでなく、他の構築環境でバランスを崩さないかもだ。そう、いかなる形であってもカードが環境のバランスを害さないよう、チェックするのがデベロップメントの仕事だ。
(余談)
 原文ではここに「これだけあってもプレイヤーたちの青に対する憎悪には足りなかったらしい」という文言が入っている。おそらく何かここに用意されていた画像に対するキャプションらしい。
 ソース見ても画像の内容は分からなかった。多分、青対策のカードだと思うけど……スクラーグノスとか? でも複数なんだよな。

 さて、デベロップメントという段階を経ることを考えたときに選択肢は2つある。

 1つ目は、プレイヤーたちに初めから終わりまで好きにカードを作らせて、出来上がったものをデベロップメントに手渡す。

 2つ目は、デベロップメント側が受け入れ可能な、つまりほぼ変更する必要のない範囲にカードが収まるよう、プレイヤーたちの選択と投票のプロセスを私たちが手助けする。

 そして私たちは後者の選択肢をとることにした。

 なぜか? プレイヤーが好き勝手に決められる自由を得られるかわりに実際のカードが決めた内容とまったく異なってしまうより、プレイヤー自身が選んだ結果と実際のカード内容が一致することのほうが大切だと思ったからだ。

 もちろん、次の質問は「そもそもデベロップメントを通さないといけないものなの?」だろうね。その答えは「すべてのカードは必ずデベロップメントを経る必要がある」だ。

 確かに今回作ろうとしているカードは特別なものだ。しかしスタンダードのバランスを2年間ものあいだ崩し続けるリスクを冒してもよいと思えるほどには特別ではない。

 そのようなわけで、私たちは可能な限りプレイヤーの選択がカードに反映されるように、可能な限りの段階を順に踏んでいるわけだ。

 プレイヤーたちはカードのあらゆる要素を決定してもらう。たとえばマナコストだ。しかしそれは限られた選択肢の中から選んでもらうことになる。バランスのとれた(そしてそのうえで強い)カードであるためにね。


■問い:140文字制限はどうなった?(What Happened to the 140-Character Limit?)

 今回絞り込まれたメカニズムの中にはいくつも「140文字制限」を守れていないものがあるじゃないか、という指摘をいただいている。その通り、私たちはメカニズムを募集するにあたって「140文字以内」という制限を設けていた。

 実は、応募された文章は応募された時点では全てきちんと140文字に収まっていたんだ。

 ただ皆に選んでもらうにあたり、きちんとカードの効果を理解してもらうため、正規のルールテンプレートに沿った形に直したらどうなるかのチェックを事前に行ったんだ。

 大体の応募作品はルールテンプレートに沿った形にすることで文字数が元より増えてしまい、結果として投票する候補作品には140文字以上のメカニズムが並んだというわけさ。


■問い:なぜ投票先は10個しかないのか?(Why Only Ten Choices?)

 なぜ応募された5000以上ものメカニズムのうち、投票可能なものがたった10個しかないのか。

 それは投票を簡単にするためだ。

 いや、まあ確かに君たちの中にも「5000個以上の応募? 簡単さ、全部目を通してやるよ!」なんて猛者もいるだろう。しかし読者の大半は正直なところそこまで求めてないはずだ。

 また全応募を掲載するデメリットは他にもある。たとえばその場合、すべてのカードをルールテンプレートに沿った形に直すことができなくなる。時間が足りない。

 君たちが楽しめるよう、私たちはかなりの労苦を支払って5000個以上の中から10個に絞り込んだ。応募されたメカニズムのアイデアのすべてとは言わないが、そのかなりの部分を取り入れることが出来たはずだ。


■問い:なぜこの10個なのか?(Why These Ten Choices?)

 最後に取り上げたいのは、私たちがどうしてこの10個に絞り込んだのか、という問いだ。まず、選ばれた10個のメカニズムの選択基準はいくつかある。

 1つ目として、私たちは面白そうと感じられるカード効果を選んだ。もちろんプレイヤーによって何を面白いと感じるかは異なるわけで(これについて論じた記事(註)があるので詳しく知りたい人は目を通してみてくれ)、私たちはより多くのプレイヤーにとって魅力的な品揃えとなるよう、可能な限りバラエティに富んだ投票先を用意したつもりだ。
(註) これについて論じた記事
 原文では以下のURLへリンクが張られている。タイトルが「Timmy, Johnny, and Spke」というコラムで、マジックのプレイヤーは大きく3つのタイプに分かれると分析した記事。
 https://magic.wizards.com/en/articles/archive/making-magic/timmy-johnny-and-spike-2002-03-11

 非公式の和訳版がDiarynoteにある。
 https://imatoki.diarynote.jp/201511031001008365/

 2つ目として、私たちは過去に緑のカードが成し得ていない効果を持つカードをより優先的に選んだ(応募作の中には過去に登場済みの効果を持ったものも多く存在した)

 最後に3つ目として、応募作の傾向から、より多くのプレイヤーが登場を望んでいるとおぼしき効果を選ぶことにした。応募作の傾向? どんな傾向があったというんだ?

 そう、それこそが今日のテーマだ。ようやくだね。


■傾向は手段を正当化する(The Trends Justify the Means)

 皆からの応募に目を通していて特に興味深かったのは、そこにある種の強い傾向が読み取れたことだ(その通り。私は実際にすべての、つまり5000個以上の応募作すべてに目を通した)。

 たとえば特定のアイデアを何度も何度も目にした。これには私もデザイナーとしてなかなか啓発されるものがあった。

 君たちが緑のクリーチャーというカードに何を求めているのか、何を望んでいるのか。それを知るとっかかりとなってくれたからね。

 さて、私が読み取った主な傾向を紹介してみよう。

▼ 青対策(Anti-Blue)

 黒対策となるカードのアイデアはいくつ投稿されたか、というと、そうだね、5000個の投稿うち大体30個くらいだろうか。

 それに対して、青対策となるカードはいくつあったか? おおよそ1000個だ。全体の約5分の1が青対策だったわけだ。

 私が数字を盛ってるんじゃないか,と疑う人もいるかもしれないね。いや、そんなことはないよ。どうやらかなりの数のプレイヤーが心の底から青を嫌っているようだ。

 ん? なぜか、って? いや、私の中でも一応すでにいくつかの仮説は思いついてはいるんだが、これについてはもう少し掘り下げてから話そうと考えている。いつかね。

▼ 呪文や能力の対象にならない(Can’t be the target of spells or abilities)

 おおよそだが10枚に1枚は「対象にならない」ことに関連したカードだった。ここから伝わってくるメッセージは「このクリーチャーをほっといてくれ、邪魔しないでくれ」という気持ちだ。

 6マナ以上を支払って緑のトランプル付きのクリーチャーを召喚した次のターンに、相手から2マナをタップして《終止/Terminate》を唱えられたことがあるプレイヤーたちのフラストレーションが伝わってくるようだ。よく分かるよ。

▼ 打ち消されない(Can’t be countered)

 ああ、うん、分かった分かった、その通り。確かにこれは1つ目に挙げた「青への対抗手段」のバリエーションの1つに過ぎない。ただ、これ単体で見かけることが本当に何度も何度もあって、別枠として取り上げるに値すると思われたんだ。

 おっと言い忘れるところだった。君たちのご想像の通り、この効果は前述の「対象にならない」とセットで登場することが多かったよ。

▼ +1/+1カウンター(+1/+1 counters)

 今回の試みで分かったことの1つは、君たちプレイヤーの中には+1/+1カウンター好きが非常にたくさんいる、ということだね。特に「~が起きるたび」にクリーチャーの上にカウンターを加える、という効果が多くみられた。

▼ クリーチャー・タイプ1つを選ぶ(Choose a creature type)

 そしてまた今回の試みで分かったことは、君たちプレイヤーの中には非常に多くの種族デッキ好きがいるということだ。選ぶことで何が起きるかの効果はバラエティに富んでいたが、特に多かったのはそのクリーチャー・タイプ全員に+1/+1の修整を付与するというものだ。

(余談)
 原文ではここに「皆から伝わってきたメッセージの中で特に目立ったものの1つは『大切な人を殺さないで』というメッセージだ」という文言が入っている。おそらく何かここに用意されていた画像に対するキャプションらしい。
 ソース見ても画像の内容は分からなかった。少し前に名前が挙がってる除去呪文の《終止/Terminate》かもしれない。

▼ 戦場から墓地に置かれたとき(When CARDNAME goes to graveyard from play)

 おそらくだが、この効果の根源にあるのは前述の「対象にならない」と同じ気持ちだろう。一言でいえば「このクリーチャーを殺さないでくれ」ということだ。

 また興味深い点として、この「戦場から墓地に置かれたとき」の効果のほうが「戦場に出たとき」の効果よりも多く投稿されていた。


 ……というわけで、先週の候補たちを見てもらえば分かる通り、最終候補に残った10個の効果はこれらの傾向と大きなかかわりを持っている。

 もちろんこれらとは異なる効果も確かに存在していた。他の色のものとされる効果を緑にも取り入れられないか、と頭をひねったプレイヤーたちの投稿作が以下だ。

▼ 対象のクリーチャーを破壊する(Destroy target creature)

 緑がもっとも苦手とすることはクリーチャー破壊だ。

 多くのプレイヤーが、今回作られるクリーチャーでこの弱点を補えないだろうか、と考えたようだ(その多くはタップ能力で相手を破壊しようとしていた)

 確かに私たちも緑の可能性を広げるアイデアを望んではいたが、緑という色を定義づける象徴的な弱点を失わせることまでは考えていなかった。

▼ クリーチャーかプレイヤーにX点のダメージを与える(Deal X damage to target creature or player)

 次に人気のあった弱点補強のアイデアがこれだ。そう、直接ダメージを与える能力をクリーチャーに与えるというものだ。

 対象が限定されてさえいれば問題のない能力だが(例えば飛行クリーチャーのみを対象にできるなど)、制限のない直接ダメージはクリーチャー破壊と同じ問題を抱えている。あまりに「緑ではない」んだ。

▼ 対象の呪文を打ち消す(Counter target spell)

 3番目に人気のあったのが呪文を打ち消す起動型能力をつけるというものだ。

 色の候補を皆に選んでもらったとき、1位の緑に次ぐ投票数を集めた色が青だった。その票を投じてくれたプレイヤーたちにこそ、この能力に人気があったことを伝えておきたい。

 いや、もしかしたらそのプレイヤーたちが青のクリーチャーのために温めていたアイデアをあらためて投稿したのかもしれないけどね。

 いずれにせよ、この能力は前述の2つの能力と同様、根本的に「緑ではない」という1点で却下されてしまった。


 ……というわけだ。今日の私の書いた内容がまたちょっとした議論の種となるであろうことは想像に難くない。

 もし「カードを作るのは君だ!(You Make the Card!)」の選考過程に君も一石を投じたいと思ったなら公式サイトの掲示板に君のコメントを書き込んでくれ。

 さて、来週は特に評判の悪かったあのカードタイプ(註)について語ろうと思う。それまでのあいだ、君が一票投じた能力が一番票を集めるよう祈ってるよ。

 マーク・ローズウォーター
(註) 特に評判の悪かったあのカードタイプ
 この次の週は「エンチャント(クリーチャー)」についてのコラムだった。2020年現在でいう、エンチャント・タイプがオーラの呪文のうち、クリーチャーを対象とするもの(この説明でルール的に正しいか自信がないけど)。

【翻訳】9月初日にレジェになれたトートランメイジのデッキ解説をする/Hit Legend with Tortllan Mage on day 1 of September season【Reddit】
著者:u/summand
2020年09月02日
元記事:https://www.reddit.com/r/CompetitiveHS/comments/iku84i/hit_legend_with_tortollan_mage_on_day_1_of/

 先月、僕はここでトートランメイジの使い方について書いた。ただこのデッキがあまりに革新的だったせいで、そのときはまだデッキのコンセプトをきちんとつかめていなかった。デッキを十二分に回した今ならば、新たなガイドを書くにふさわしい頃合いだと思う。

 多くの人々はこのデッキをコンボデッキだと思っている。ただ僕の考えは違う。個人的には、このデッキは無限にバリューを出し続けることで対戦相手を圧倒するデッキだ。そういう意味では翡翠ドルイドに近い。《ナイトブレード/Nightblade》を10回使うだけが勝ちパターンではない(これについては後述する)


■デッキリスト(※コードは元記事参照)

  # 1x (1) 智慧の宝珠/《智慧の宝珠/Sphere of Sapience》
  # 1x (1) ヴァイオレット・スペルウィング/Violet Spellwing
  # 2x (1) ワンド泥棒/《ワンド泥棒/Wand Thief》
  # 1x (2) 天文術師ソラリアン/《天文術師ソラリアン/Astromancer Solarian》
  # 1x (2) 教団の新入会員/《教団の新入会員/Cult Neophyte》
  # 2x (2) 終末予言者/《終末予言者/Doomsayer》
  # 2x (2) ワンド職人/Wandmaker
  # 1x (3) 大地の円環の遠見師/《大地の円環の遠見師/Earthen Ring Farseer》
  # 2x (3) ファイアブランド/《ファイアブランド/Firebrand》
  # 2x (3) フロストノヴァ/《フロストノヴァ/Frost Nova》
  # 2x (3) 冷たき影の紡ぎ手/《冷たき影の紡ぎ手/Frozen Shadoweaver》
  # 2x (4) ボーン・レイス/《ボーン・レイス/Bone Wraith》
  # 1x (4) 伝承守護者ポルケルト/《伝承守護者ポルケルト/Lorekeeper Polkelt》
  # 2x (4) 幻影ポーション/《幻影ポーション/Potion of Illusion》
  # 1x (5) ジャンディス・バロフ/《ジャンディス・バロフ/Jandice Barov》
  # 1x (5) サンリーヴァーの戦魔術師/《サンリーヴァーの戦魔術師/Sunreaver Warmage》
  # 2x (6) ブリザード/《ブリザード/Blizzard》
  # 2x (6) カルトゥートの守護者/《カルトゥートの守護者/Khartut Defender》
  # 2x (8) トートランの巡礼者/《トートランの巡礼者/Tortollan Pilgrim》


■デッキの仕組みについて/How the deck works

 基本的には《性悪な召喚師/Spiteful Summoner》デッキと同じコンセプトだ。このデッキにはわずか3種類しかスペルが入っていない。《フロストノヴァ/Frost Nova》、《ブリザード/Blizzard》、そして《幻影ポーション/Potion of Illusion》だ。だから《トートランの巡礼者/Tortollan Pilgrim》がこれら3枚以外を持って来ることはない。

 このデッキのメインターンに必要となるのは9マナだ。まず《トートランの巡礼者/Tortollan Pilgrim》を出して《幻影ポーション/Potion of Illusion》を選択し、1マナの《トートランの巡礼者/Tortollan Pilgrim》を得る。次に1マナの《トートランの巡礼者/Tortollan Pilgrim》を出してまた《幻影ポーション/Potion of Illusion》を選ぶ。場には2体の《トートランの巡礼者/Tortollan Pilgrim》がいるはずだから手札には1マナのこいつらが2体いるはずだ。

 ただ普通はこれほど終盤となるとそれまでに対戦相手のボードはかなり危険な状態になっているはずだ。9マナ使って放置するということはそのまま敗北に直結してもおかしくないほどにね。だから10マナまで待ってから始めることのほうが多いだろう。そうすれば余った1マナで出す《トートランの巡礼者/Tortollan Pilgrim》で場をフリーズさせることができる。

 1/1の《トートランの巡礼者/Tortollan Pilgrim》を手に入れてから動きは以下の通りだ。

  (1) 手札の有用なミニオンをプレイする
  (2)《トートランの巡礼者/Tortollan Pilgrim》をプレイする
  (3)《幻影ポーション/Potion of Illusion》を選ぶ

 こうすることで両方の1/1のコピーが手に入るわけだ。この動作に加えて余った《トートランの巡礼者/Tortollan Pilgrim》を使って敵の場をフリーズさせる。これで好きなミニオンを無限に出し続ける準備が整った。例えば無限に《大地の円環の遠見師/Earthen Ring Farseer》を出して回復してもいいし、無限に《ナイトブレード/Nightblade》を出して対戦相手を倒してしまってもいい。このデッキを「シャダウォックメイジ」と呼ぶ人もいる理由がこれだ。


■一般的な勝ちパターン/General Win Condition

 一番有名な勝ちパターンは「10ターン目まで生き延びて、あとは手順を繰り返して《ナイトブレード/Nightblade》から致死ダメージを叩き出す」だろうね。ただこれだけが勝ちパターンじゃない。実際のところ、この勝ちパターンを使えることは少ないはずだ。

 前述の通り、このトートランメイジの強みは無限にバリューを叩き出して対戦相手を圧倒することだ。勝ちパターンは大きく分けて2つ。1つは無限にフリーズさせたり回復したりして敵の攻撃をしのぎきること。もう1つは対戦相手のボードをフリーズスペルでロックし続けて手元の1/1で殴り倒すこと。

 ただ対戦相手がプリーストだったらこのいずれも上手くいかないかもしれない。僕のデッキに《サンリーヴァーの戦魔術師/Sunreaver Warmage》が入っているのはこれが理由だ。

 元々知られているトートランメイジデッキのリストとは結構違うことに気づいたかな。このデッキのベースになったのはEddieがGMで使ったデッキリストだ。そこにちょっと微調整を入れてある。

 さらに元となったMessier7のオリジナルのリストには《爆雷/Depth Charge》のような防御用のカードが入っていた。10ターン目まで生き延びるためだ。あとコンボを1ターン早めるための《脱走したマナセイバー/Escaped Manasaber》も入っていた。つまり元々のデッキは「生き延びてコンボを発動させること」に特化されていたわけだ。

 Eddieのデッキはそこに新たな勝ちパターンを加えていた。ボードコントロールだ。それを可能にするために《ファイアブランド/Firebrand》と《ジャンディス・バロフ/Jandice Barov》が追加された。さらにスペルを生み出せる軽めのミニオンも追加されている。これらのミニオンはなかなかのスタッツを持っているし《ファイアブランド/Firebrand》の価値も上げてくれる。さらには《退化の矢/Devolving Missiles》や《魔力喚起/Evocation》、《凍結光線/Ray of Frost》のような緊急回避策を手に入れられることもあるんだ。


■カードの役割と入れ替え候補/Included cards and some possible cards

 キーカードは《トートランの巡礼者/Tortollan Pilgrim》、《フロストノヴァ/Frost Nova》、《ブリザード/Blizzard》、《幻影ポーション/Potion of Illusion》の4枚だ。

 デッキ操作とサーチとして、《智慧の宝珠/Sphere of Sapience》と《伝承守護者ポルケルト/Lorekeeper Polkelt》が入っている。これらのいずれも君に《幻影ポーション/Potion of Illusion》を引かないよう手助けしてくれるし、さらに《伝承守護者ポルケルト/Lorekeeper Polkelt》はキーカードを見つける手助けもしてくれる。

 スペル生成カードと《ファイアブランド/Firebrand》はデッキの柔軟性を高めてくれる。《ファイアブランド/Firebrand》は敵のボードをクリアする手段として非常に強力だ。

 《ジャンディス・バロフ/Jandice Barov》は単体で非常に有能だ。強いテンポアドバンテージを得ることができるし、ときには勝ちにつながるだけのボードダメージ(盤面だけで出せるダメージ)をこれ単体で生み出してくれる。さらに《幻影ポーション/Potion of Illusion》を引き切ってしまったあとにも勝てる可能性を残してくれる数少ないカードでもある。

 防御的なカード、つまりコンボを始めるまでボードのコントロールを渡さずに君が生き延びるのを手助けしてくれるカードだ。コンボが回り始めたあとは、《大地の円環の遠見師/Earthen Ring Farseer》と《カルトゥートの守護者/Khartut Defender》はあらためて回復をもたらしてくれる。《カルトゥートの守護者/Khartut Defender》、《ボーン・レイス/Bone Wraith》、《冷たき影の紡ぎ手/Frozen Shadoweaver》の3体は敵ヒーローの直接アタックも止めてくれるし、これらのカードはフリーズ系のスペルを引き切ってしまったあとさらに重要となる。

 対策カードとしてはこのデッキにはシークレットローグ対策の《教団の新入会員/Cult Neophyte》しか入っていない。ただ君の環境で必要だと思うならこの枠は《酸性沼ウーズ/Acidic Swamp Ooze》に入れ替えてもいい。

 他の対策カードとして、もし君が本当に安全策を取りたいなら《ブームピストル無頼/Boompistol Bully》を入れるという選択肢もある。ただ対戦相手がプリーストだと決まっているわけでもないので僕は入れていない。

 《天文術師ソラリアン/Astromancer Solarian》はなかなか良いスタッツをしているし、《転生ソラリアン/Solarian Prime》1枚でゲームを決めてしまうこともある。あとこのカードの断末魔でデッキをシャッフルできることもときに有用に働く。ただコンボのときに《転生ソラリアン/Solarian Prime》のコピーは作らないほうがいい。ドロースペルや《ヨグ・サロンのパズル・ボックス/Puzzle Box of Yogg-saron》のように君のコンボを阻害するスペルが唱えられてしまう危険性があるからだ。

 フィニッシャー、つまり無限ダメージを生み出すことでゲームを勝利に導いてくれるカードたちだ。僕のデッキでは《サンリーヴァーの戦魔術師/Sunreaver Warmage》が使われているが、《ナイトブレード/Nightblade》を使うデッキのほうが一般的だ。またそれ以外では《ピット・クロコリスク/Pit Crocolisk》や《砂漠のオベリスク/Desert Obelisk》という選択肢もある。それぞれ以下の通り一長一短があるので個別に説明しよう。

 《ナイトブレード/Nightblade》は可もなく不可もない。ダメージ量は大きくないがダメージを与えるに際しての条件もない。

 《ピット・クロコリスク/Pit Crocolisk》はダメージ量が特に大きいので2ターンもあれば対戦相手を沈められるが、1つ大きな問題点がある。8マナなんだ。そのため君が《伝承守護者ポルケルト/Lorekeeper Polkelt》でデッキ順を変えたあと《トートランの巡礼者/Tortollan Pilgrim》のかわりにこのワニを引いてしまうかもしれない。

 さらにワニがいると、6マナの《ブリザード/Blizzard》や《カルトゥートの守護者/Khartut Defender》を引くのが遅れてしまう。それ以上に、このカードは8マナだから使ったあと最大でも2マナしか残らない。つまり《ピット・クロコリスク/Pit Crocolisk》をコピーしつつ場をフリーズさせるには《トートランの巡礼者/Tortollan Pilgrim》のコピーが2枚必要となる。

 《砂漠のオベリスク/Desert Obelisk》はとても面白いカードではある。ただ残念ながら面白いだけで実戦的ではない。自身のボードが身動きとれなくなってしまうし、対戦相手の場にミニオンが残っていると結果が非常に不安定になる。

 《サンリーヴァーの戦魔術師/Sunreaver Warmage》はダメージを与えるに際して条件がある。ただその分だけダメージ量は《ナイトブレード/Nightblade》より多いので早く決着をつけられるし、5マナしかかからない。さらに《ナイトブレード/Nightblade》にはできない芸当として、これはミニオンも対象にとれる。コンボを始めるまでのあいだ、除去としても使えるわけだ。対戦相手が《ラス・フロストウィスパー/Ras Frostwhisper》や《マリゴス/Malygos》のような危険なミニオンをプレイしても《ブリザード/Blizzard》に頼らずそれを除去することができる。


■上記以外の入る可能性があるカードについて/Other possible cards not included

 《錆鉄騎の略奪者/Ruststeed Raider》は、有用な除去カードではある。ただあまりに防御的でもある。

 《封印されし監視者/Imprisoned Observer》は、3マナで4/5と優れたスタッツで、敵ミニオン全体に2点ダメージを与えられる。非常に便利だが、いざコンボを開始するときに場にいられると実に邪魔でしょうがない。

 《空飛ぶほうき/Animated Broomstick》は、箒だけあって自分のボードを掃除するのに役立つ。さらには他にミニオンがいれば除去にもなる。ただあまりに単体で弱いのが問題だ。またもし箒があれば対戦相手のボードをクリアできるような状況であれば、単に次のターンを待てば同じトレードができるはずだ。箒を使えば追加で2体のミニオンを展開できるが、そうしなければいけない状況は正直ない。

 《英才エレク/Educated Elekk》がいれば、もし2枚の《幻影ポーション/Potion of Illusion》を引き切ってしまってもデッキにまた埋め直すことができる。ただそのためには《英才エレク/Educated Elekk》を自分のターンに破壊する必要がある。つまり選択肢としては以下のいずれかだ。

 その1、《空飛ぶほうき/Animated Broomstick》も一緒に入れて《幻影ポーション/Potion of Illusion》と《英才エレク/Educated Elekk》と《空飛ぶほうき/Animated Broomstick》を同時に使う。

 その2、コンボを回したあとに手札の 1マナの《サンリーヴァーの戦魔術師/Sunreaver Warmage》を使って《英才エレク/Educated Elekk》を破壊する。

 いずれの場合も《英才エレク/Educated Elekk》を場に出しておくわけにはいかないからずっと手札で死に札として手札1枚分のスロットを占領する。つまりゴミだ。


■《伝承守護者ポルケルト/Lorekeeper Polkelt》と《サンリーヴァーの戦魔術師/Sunreaver Warmage》の採用理由/Lorekeeper Polkelt : Why does this list use Sunreaver Warmage?

 もしかしたら君は《ナイトブレード/Nightblade》のほうが《サンリーヴァーの戦魔術師/Sunreaver Warmage》より良いのでは、と考えるかもしれない。実は僕も同じように考えていた。ただ何十回とプレイするうちに《サンリーヴァーの戦魔術師/Sunreaver Warmage》のほうが上だと考えるようになった。その理由については前述のとおりだ。

 ただまだ理由の半分しか説明していない。残りの半分は《伝承守護者ポルケルト/Lorekeeper Polkelt》との兼ね合いだ。

 《伝承守護者ポルケルト/Lorekeeper Polkelt》は非常に強いカードだ。特にこのデッキにおいてはね。ただ同時に諸刃の剣でもある。並び替えたあとに5マナコストのカードを引き切れば君は否応なしに《幻影ポーション/Potion of Illusion》を引くことになるからだ。《天文術師ソラリアン/Astromancer Solarian》によってデッキをシャッフルしたり、《智慧の宝珠/Sphere of Sapience》でドローを回避したりすることもできるが、《伝承守護者ポルケルト/Lorekeeper Polkelt》の前にこれらのカードを引けるかは運次第だ。

 つまり《伝承守護者ポルケルト/Lorekeeper Polkelt》を使ったあと、君には制限時間が課されることになる。しかし現在のスタンダード環境には雄叫びで対戦相手本体にダメージを与えることのできる6~7マナ帯のミニオンはいない。

 8マナの《ピット・クロコリスク/Pit Crocolisk》であれば制限時間内に対戦相手を倒すことが可能だが、この8マナには色々と問題点があることは前述したとおりだ。

 さて、どういうことかというと5マナのフィニッシャーを引いてから速やかにゲームを終わらせなければいけない……具体的には2~4ターン以内にだ! この条件を鑑みたとき、《ナイトブレード/Nightblade》はあまりに遅すぎる(ちなみにこのデッキに2枚の《ボーン・レイス/Bone Wraith》が入っている理由もこれで分かってもらえただろう)


■デッキからスペルを引いてしまったとき/When your spells are drawn from your deck

 デッキのスペルを手札に引いてしまうとコンボが非常に困難になる。しかし実のところこのデッキに入っているスペルはどれも非常に単体で強力だ。だから全スペルを引き切ってしまったのでなければそこまで悲観すべき事態でもない。

 《フロストノヴァ/Frost Nova》があれば1ターン寿命が延びるし、《終末予言者/Doomsayer》と同時に使えばボードもクリア可能だ。《ブリザード/Blizzard》は非常に強力な全体除去であり、また《フロストノヴァ/Frost Nova》と同じことができる。

 《幻影ポーション/Potion of Illusion》を手札に引いてしまうことも常にマイナスではない。むしろ助かることも多い。例えばアグロ相手には《大地の円環の遠見師/Earthen Ring Farseer》や挑発ミニオンをコピーしてもいい。さらに《ジャンディス・バロフ/Jandice Barov》をコピーすれば多大なアドバンテージが得られる。

 これらに対処させるために対戦相手にカードを消費させたりミニオンをトレードさせたりできるし、ときにはそのままコンボ発動前に勝ってしまうこともあるだろう。

 また8ターン目に追い詰められていて、かつ手札に《トートランの巡礼者/Tortollan Pilgrim》が1体しかいなければ、とりあえず《トートランの巡礼者/Tortollan Pilgrim》で場をフリーズさせて、次のターンに手札に引いてしまっていた《幻影ポーション/Potion of Illusion》でコンボを開始することができる。

 もちろん《幻影ポーション/Potion of Illusion》を2枚とも引いてしまったらコンボは台無しだ。ただそれが敗北と同義ではないことに注意して欲しい。もし《ジャンディス・バロフ/Jandice Barov》をコピーできればそのままボードアドバンテージで押し切ることが可能だ。

 コンボを回し始めたあとに2枚の《幻影ポーション/Potion of Illusion》を引いたのなら、そのままボードに出ているミニオンたちで勝利することもできるはずだ。

 この状況になった場合、《トートランの巡礼者/Tortollan Pilgrim》は1マナの《フロストノヴァ/Frost Nova》として運用すべきだ。《ジャンディス・バロフ/Jandice Barov》、《サンリーヴァーの戦魔術師/Sunreaver Warmage》、もしくは《転生ソラリアン/Solarian Prime》をコピーできるならしたい。

 もし《伝承守護者ポルケルト/Lorekeeper Polkelt》を使ったあとで、《幻影ポーション/Potion of Illusion》を引いてしまうまでの残りターン数がわずかな場合は《サンリーヴァーの戦魔術師/Sunreaver Warmage》を可能な限り多くコピーしておくべきだ。


■手札枚数の管理について/Hand Management Problem

 《幻影ポーション/Potion of Illusion》は場にいる全ての味方ミニオンをコピーしてしまう。コピーしたくないミニオンを自らヒーローパワーで除去する、もしくは敵ミニオンに当てて処理するという手段もときに必要になる。

 ただそれでも手札枚数があふれてしまうことはある。その場合、どのミニオンがコピーされないのか? これには場に出した順番が関係してくる。

 例えば手札がすでに9枚で、そこに《トートランの巡礼者/Tortollan Pilgrim》経由で《幻影ポーション/Potion of Illusion》を唱えた場合は、場にいるミニオンのうち、一番最初に場に出たミニオンのコピーが手札に加わることとなる。

 つまり……召喚した順番を暗記しなくてはいけないのか? いや、そうしなくていい方法がある。コンボを始めるとき、新たに出すミニオンを常に右側に置いていくんだ。

 こうすれば左から右へと新しいミニオンが並んでいくことになる。どのミニオンが手札に加わってくれるのかすぐ把握できるはずだ。

 念のため。《ジャンディス・バロフ/Jandice Barov》は「まず自分自身が場に出たあと」に2体の幻影を生み出す。大事なことなので覚えておこう。

 上級者用にもう1つ書いておこう。もしコピーしたいミニオンがいるにも関わらず手札枚数の空きが足りないときは、不要なミニオンを1体プレイしてから《トートランの巡礼者/Tortollan Pilgrim》をプレイするんだ。

 この場合、その不要なミニオンは「もっとも新しい」からコピーされることはなく、手に入れたかったミニオンのコピーが得られるはずだ。


■どうやってボードに空きを作るか/Board Clear Problem

 理論上は無限にコピーを出していけるが、問題は自分の場には7体までしかミニオンを召喚できないということだ。そのため自分のミニオンをどうやって処理するかを常に考えておく必要がある。

 敵の場にデカいミニオンがいてくれれば話は楽だ。しかしそうでない場合は自分のヒーローパワーや《終末予言者/Doomsayer》を使うことで空きを作ることとなる。

 もっとも対戦相手の場にミニオンがいないのなら、単に君は手元の1/1で相手本体を殴ればいい。7点ダメージ(ヒーローパワーの1点をさらに追加で)毎ターン与え続けられれば対戦相手を倒すのに十分なダメージ量だ。そうなれば相手も君のボードをクリアせずにはいられない。

 ミラーマッチの場合は《終末予言者/Doomsayer》を大事に扱うべきだ。《終末予言者/Doomsayer》が場を一掃してくれたあとに最初にミニオンを展開できるのは君だからね。


■対策カードや不利なマッチアップにどう対応するか/How to deal with counter cards/unfavorable matchups

 多くのプレイヤーは《精神与奪者イルシア/Mindrender Illucia》がこのデッキに対する強力な対策カードになると信じている。しかし実際はそうではない。

 もし君が手札に8マナの《トートランの巡礼者/Tortollan Pilgrim》を引いてしまっていたとしよう(《伝承守護者ポルケルト/Lorekeeper Polkelt》を出したあとなら当然あり得る)。その場合、両方はプレイせずに、8マナの《トートランの巡礼者/Tortollan Pilgrim》を手札に残すようにしよう。対戦相手は3マナのイルシアを使ったターンにこの8マナの《トートランの巡礼者/Tortollan Pilgrim》を奪うことはできない。

 ただもし対戦相手が《死者蘇生/Raise Dead》や ヒーローパワーの《ガラクロンドの奇知/Galakrond’s Wit》などで2体目の《精神与奪者イルシア/Mindrender Illucia》を用意してきたとなると一気に厳しくなる。

 それでも Eddie が GM week3 で証明してくれたように、仮にプリーストが2体目の《精神与奪者イルシア/Mindrender Illucia》をプレイしてきたとしても、盤面から生み出されるダメージやファティーグダメージ、また稼いだバリューなどを生かして勝つことは不可能ではない。

(なおシークレットローグとの対戦時も注意すべきだ。相手がプレイした《ドラゴンの宝の山/Dragon’s Hoard》から《精神与奪者イルシア/Mindrender Illucia》が生成される可能性があるからね)

 アニマルドルイドとの対戦時に気を付けるべきなのは《生き息ドラゴンブレス/Living Dragonbreath》だ。対策はないわけではない。可能な限り対戦相手の場にミニオンを残さないように《ブリザード/Blizzard》や《サンリーヴァーの戦魔術師/Sunreaver Warmage》をプレイしよう。それで完全に場を空にできないときは Khartut Defendor や《ボーン・レイス/Bone Wraith》を並べよう(この場合、《湖のスレッシャー/Lake Thresher》と《空飛ぶほうき/Animated Broomstick》の組み合わせを意識すること)。

 こうすれば対戦相手がいきなり《生き息ドラゴンブレス/Living Dragonbreath》を使ってきたとしても即死は避けられるはずだ。また対戦相手の場に7体のミニオンが並んで空きがなくなっているとき(《解き放たれしイセラ/Ysera, Unleashed》の能力で起こり得る)、《フロストノヴァ/Frost Nova》を使って相手のボードをロックするのも有効な手だ。

 《ブームピストル無頼/Boompistol Bully》は君のコンボを邪魔することができる。しかしあくまで一時的なものだ。《若き酒造大師/Youthful Brewmaster》で使いまわすようなデッキはまずないから本質的な問題とはならない。

 このデッキに対する本当の脅威は実質的に《フリック・スカイシヴ/Flik Skyshiv》だけだ。もし相手が《フリック・スカイシヴ/Flik Skyshiv》を《トートランの巡礼者/Tortollan Pilgrim》以外に使ってくれたなら即座に処理すべきだが、おそらくその場合は《影隠れ/Shadowstep》で回収されることだろう。もし相手が《フリック・スカイシヴ/Flik Skyshiv》で《トートランの巡礼者/Tortollan Pilgrim》を除去したのなら、おそらくそのゲームは負けだ。ただもしそれがコンボがすでに回ったあとならば手元のリソースで勝ち切れる可能性もある。

 このデッキが苦手とするのはアグロデッキだ。アグロ相手にどう生き延びればいいかは分かるだろうから事細かに説明はしない。他のデッキとの生き延び方の違いとして大きいのは、いつ《トートランの巡礼者/Tortollan Pilgrim》をプレイするかだ。

 理想的には10ターン目にプレイしたいところだが、もしいけると判断するのであれば8ターン目にプレイしてもいい。手札に《トートランの巡礼者/Tortollan Pilgrim》が2体いる場合は2つの選択肢がある。1つ目、9ターン目に1体をプレイし盤面をフリーズさせて10ターン目に2体目をプレイする。2つ目、8ターン目に1体をプレイして盤面をフリーズさせ、それが生き延びたなら9ターン目に2体目をプレイし《幻影ポーション/Potion of Illusion》を選び、それで作成した1/1で盤面をフリーズさせる。

 もし手札に《幻影ポーション/Potion of Illusion》が1枚あるならば、8ターン目か9ターン目に盤面をフリーズさせる目的で《トートランの巡礼者/Tortollan Pilgrim》をプレイしてもいい。その《トートランの巡礼者/Tortollan Pilgrim》が生き延びられたなら手札の《幻影ポーション/Potion of Illusion》を使ってコンボを開始しよう。

 このデッキはシークレットローグにも弱いが注意点は対アグロデッキとほぼ同じだ。追加で注意すべき点があるとすれば《ワンド泥棒/Wand Thief》が持って来るかもしれない《ファイアーボール/Fireball》と《パイロブラスト/Pyroblast》の可能性だ。

 爆弾ウォリアーとの対戦も厳しいものがある。理由は2つで、相手がデッキに4種類目のスペルを混ぜ込んでくること、さらにそのダメージが無視できない程度に大きいことだ。

 ただ《フロストノヴァ/Frost Nova》か《ブリザード/Blizzard》のいずれかをデッキから引き切れればデッキ内のスペルの種類は3つに戻るのでコンボを無事回すことができる。

 もしくは75%の賭けに出るかだ。2回連続で賭けに勝てればゲームはかなりこっちに有利になる。またコンボを回し始めたあとは極力手札を10枚に保とう。そうすることで引いた爆弾を発動させずに燃やすことができる。


■大会のリプレイから学べること/Some useful replays and GM games

 このデッキに関して Eddie はかなりの使い手なので Eddie のリプレイを見て学べることは多いはずだ(もっとも Eddie の対戦以外にトートランメイジデッキの対戦がアップされていないこともあるが)。もし君が忙しすぎて試合を全部見るのが難しい場合、とりあえず以下の試合のリプレイをおススメしておく。

 アメリカのGM Week3の最後の3試合目(註1)、Eddie は《幻影ポーション/Potion of Illusion》を2枚引いてしまうがデッキをミッドレンジ的にプレイすることで勝利している。

 アメリカのGM Week3のグループBの最初の1試合目(註2)、対戦相手の Monsanto は《精神与奪者イルシア/Mindrender Illucia》を2枚使ってきたが、Eddie は《幻影ポーション/Potion of Illusion》と《ジャンディス・バロフ/Jandice Barov》を上手く使うことでしのいでいる(余裕があればさらにアメリカのGM Week3の準決勝の2-3(註3)も見るといい)

 アメリカのGM Week2のグループBの勝者の3試合目(註4)、Eddie はデッキに爆弾を混ぜられたことでコンボを失敗してしまう。しかしそこから《智慧の宝珠/Sphere of Sapience》で爆弾を回避しつつ、ファティーグダメージと《転生ソラリアン/Solarian Prime》で bloodyface 相手に勝利している。
(註) リンク
 原文ではそれぞれYoutube動画へのリンクが張られている。
 1:https://youtu.be/8kcr843Li-Q?t=2255
 2:https://youtu.be/O-zJ4icul4s?t=80
 3:https://youtu.be/RaERZcunGN8?t=1370
 4:https://youtu.be/EhY7O6AugZA?t=2699


 以下は僕自身のプレイした試合のリプレイだ。デッキを理解する助けになるかもしれない。

 この試合(註5)では、早い段階でボードを支配することで、マリゴスドルイドにカードを友好的に使わせないことに成功している。

 この試合(註6)では、2枚の《幻影ポーション/Potion of Illusion》を手札に引いてしまったが、その《幻影ポーション/Potion of Illusion》を《ジャンディス・バロフ/Jandice Barov》に使うことでフェイスハンターに勝利できた。

 この試合(註7)では、《フリック・スカイシヴ/Flik Skyshiv》入りのシークレットローグを相手にしたが幸い相手がそれをなかなか引けずにいた。最終的には相手の《フリック・スカイシヴ/Flik Skyshiv》で僕の《トートランの巡礼者/Tortollan Pilgrim》は根こそぎにされてしまったが、残されたミニオンと《ジャンディス・バロフ/Jandice Barov》で勝利することができた。
(註) リンク
 原文ではそれぞれリプレイ動画へのリンクが張られている。
 5:https://hsreplay.net/replay/eHQPQVvesGJmUEqb6WAsem
 6:https://hsreplay.net/replay/VPtDZ9ZePM6pv3WBcLPb55
 7:https://hsreplay.net/replay/7qpQzBdKjLZ27SgU3TJte3


▼ コメント欄から一部抜粋 (1)

【eddie7221994 によるコメント】
 Eddieだ。この記事はトートランメイジデッキに関するとてもよいガイドで、デッキについて必要な知識が深く広くカバーされている。
 ただ《封印されし監視者/Imprisoned Observer》に関していえば、これはデッキの中でもトップクラスに役立つカードだし、このデッキが終盤まで生き延びられるのはこのカードのおかげだ。
 確かにコンボを回そうとするターンには邪魔に感じられるのは事実だけど、個人的にはトートランメイジデッキを組むならぜひ入れるべきカードだと思うよ。


▼ コメント欄から一部抜粋 (2)

【ShadeHS_ によるコメント】
 素晴らしい無駄のないガイドだね。同じくこのデッキでレジェンドに到達したばかりだ。戦績は 27勝13敗(勝率68%)だった。それでこの記事を読んでいくつか聞きたいことと伝えたいことがある。

 まず1つ目。《教団の新入会員/Cult Neophyte》がシークレットローグ対策とある。個人的にはシークレットローグとの対戦は、《フリック・スカイシヴ/Flik Skyshiv》さえなければ大した問題はなかった。

 シークレットローグは序盤にきついプレッシャーをかけてくることもないし、無限にバリューを稼いでこられてもこっちのコンボの前には無意味だしね。

 記事の中で《教団の新入会員/Cult Neophyte》がシークレットローグとの対戦時に特に大事になると書いた理由をもう少し詳しく知りたいな。

 2つ目は爆弾ウォリアーだ。このデッキとの対戦はむしろ楽しみだったよ。確かに爆弾がスペルとして扱われるのは面倒だったけどね。

 使ってたトートランメイジデッキには《酸性沼ウーズ/Acidic Swamp Ooze》を2枚入れてた(スロット的には《教団の新入会員/Cult Neophyte》の代わりだ)。

 トップデッキで武器を引いてそのままこっちを殴り倒してくるようなデッキ全般に対抗するためさ。例えば、破片ダークハンター、パラディン(?)、アグロローグ、ガラクロンド爆弾ウォリアー。

 こういうデッキ相手には《大地の円環の遠見師/Earthen Ring Farseer》や《カルトゥートの守護者/Khartut Defender》を優先的に探しつつコンボを目指して、中盤を無事生き延びられたら最終的に爆弾ダメージを超える回復量でゲームを決めてた。

 そうそう。どうしても爆弾を引きたくないならそのためだけに毎ターン手札を満タンにしておくという手もある。いずれにせよ序盤を安定して生き延びるために《酸性沼ウーズ/Acidic Swamp Ooze》は必須なカードの1つだ。

 爆弾が入った状態だと25%の確率で《幻影ポーション/Potion of Illusion》が引けないという問題の解決法は見つけられていない。何しろ《フロストノヴァ/Frost Nova》か《ブリザード/Blizzard》のいずれかを引き切るまでの時間を耐えるのは至難の業だからね。

 ただ《伝承守護者ポルケルト/Lorekeeper Polkelt》を引ければ、2回の75%に賭けないといけない事態は避けられる。まず最初の75%は自力で当てて《幻影ポーション/Potion of Illusion》を唱える。

 そして、そのポーションで得た1/1のコピーは2枚目の《トートランの巡礼者/Tortollan Pilgrim》(8マナ)を引くまで手札に抱えておく。そうすれば1ターンに2回、ポーションを探しに行けるからコンボをミスする可能性はかなり下げられる。

 何にせよ、ホントにいいガイド記事だった。公開してくれてありがとう。他の記事も楽しみにしてるよ。


【著者 summand による返信コメント】
 記事の書き方が誤解を招く表現だったかもしれない。《教団の新入会員/Cult Neophyte》を入れたのはシークレットメイジ戦で重要になるからじゃないんだ。

 《酸性沼ウーズ/Acidic Swamp Ooze》がほとんどの試合で役に立たなかったから(ラダーをのぼる最中、一度も武器ローグや爆弾ウォリアーに会わなかった)、それよりは役に立つだろうと《教団の新入会員/Cult Neophyte》を入れたんだ。

 シークレットローグの盤面は大体6~8ターン目に脅威になる。《クエスト中の冒険者/Questing Adventurer》や《エドウィン・ヴァンクリーフ/Edwin VanCleef》のせいでね。

 こいつらはデカ過ぎてミニオンをぶつけて倒すのは不可能に近い。そのせいでこいつらの攻撃を止められずに負けた試合が何度かあった。ローグ戦の戦績は4勝5敗だ。

 2枚目の8マナの《トートランの巡礼者/Tortollan Pilgrim》を引くまで手札に1/1のコピーをとっておく、というアイデアはなかったな。本当にいい戦法だ。教えてくれてありがとう。
【翻訳】イースターエッグをお届け/All in One Basket【DailyMTG】
Mark Rosewater
2002年04月01日
元記事:https://magic.wizards.com/en/articles/archive/making-magic/all-one-basket-2002-04-01

 マジックエッグ週間にようこそ! 復活祭のイースターということで復活と再誕のシンボルである卵(Egg)を今週のテーマにしたいと思っている。ああ、大丈夫さ、一週間の献立に困らないだけの卵ネタがマジックにはあるからね。

 どんな卵ネタが披露されるか紹介しておこう。アンソニーは、多人数プレイにおける《三畳紀の卵/Triassic Egg》がいかにぶっ壊れかを解説してくれる予定だ。ベンは、《不明の卵/Dingus Egg》から今に至るまで、マジックにおける卵の歴史をたどる旅に連れていってくれる。

 続けてジェイが、アラビアンナイトの《ルフ鳥の卵/Rukh Egg》とアングル―ドの《Chicken Egg》を使ったデッキの可能性を紹介してくれることになっており、そしてランディが《ダークウォーターの卵/Darkwater Egg》の開発秘話で週を締めくくる予定だ。

 私の担当はおそらく一番面白いネタだろうね。ジャッジメントにおける卵関連のトリビアネタを紹介したいと思っているよ。……え? ジャッジメントと卵になんの関係があるんだ、って?

 よしよし、じゃあ、さっそく卵探しの旅に出かけようか。振り落とされないようちゃんとシートベルトを締めておいてくれ。さあ、出発だ!


 ことの始まりはおよそ1年前のことだ。私は開発部のリーダーであるビル・ローズと一緒に会社の一室にいた。これから開発に着手する予定のジャッジメントをどんなセットにするかについて話し合うためだ。

 直前のトーメントは「黒いセット」という売り(註)を持つことでプレイヤーたちの興味を引く予定だった。そこで私たちはジャッジメントにもそういった「引き」が必要だと考えていた。
(註) 黒いセット
 トーメントは通常のセットであれば各色平均的に収録されているところ、「黒 40枚/青 28枚/赤 28枚/白 21枚/緑 21枚/その他 5枚」と枚数が大きく黒に偏ったセットだった。

 さて会社の一室であるビル・ローズのオフィスでオデッセイのカードを眺めていた私は、その中に《アトガトグ/Atogatog》を発見した。そのとき閃いたんだ。アングル―ド2(註)の出番だ!、とね。
(註) アングル―ド
 アングル―ドは公式大会では使えないジョークセットで、通常のマジックカードと見分けがつくように枠が銀色になっている(そのためアングル―ドセットのカードはまとめて「銀枠」とも呼ばれている)。記事の書かれた当時は銀枠セットはまだ初代アングル―ドの1セットのみで、続編は噂されつつも実現していなかった。銀枠セットの第2弾であるアンヒンジドが世に出たのはこの記事から2年半後。

 この回想シーンの数年前にアングル―ドの続編は開発休止となっていた。そしてそのアングル―ドの続編(ここでは仮にアングル―ド2と呼ぼう)の開発には私も深く関わっていた。

 宙に浮いた状態となりつつもすでに多くが完成していたアングル―ド2のカードたちをどうするかについては、休止となって以降もときたま話題に上がっていた。

 いや、話題に上がっていただけでなく、そのうちの何枚かは実際に公式セットに居場所を見つけることに成功していた(例えば《火+氷/Fire+Ice》のような分割カード、そして、そう、前述の《アトカトグ/Atogatog》もその1つだ)。

 ビル・ローズと私は良くも悪くも似た者同士だったので、《アトカトグ/Atogatog》のカードを掲げながら「今がそのときかもしれないぞ!」と叫ぶだけで意図は伝わったらしく大笑いしていた。

 よく使われる言い回しの1つに「山をムハンマドのもとへ連れてこれないなら、ムハンマドを山のもとへ連れていく必要がある」という言葉がある。つまりはそういうことだ。アングル―ドのもとへ皆を連れていけないのなら、普通のセットにアングル―ドを(ほんの少しでも)連れてくればいいのさ。

 使われなかったアングル―ド2のカードをジャッジメントに混ぜ込んでやるんだ。ご存じの通りトーメントは「黒色なセット」になったが、おそらくジャッジメントは「異色なセット」になるだろうね。


 ところで覚えている人もいると思うが、アングル―ドの主要なテーマの1つに「ニワトリ(Chicken)」があった。それを受けて続編のアングル―ド2ではテーマの1つを「卵(Egg)」とする予定だった(つまり少なくともマジックにおいては「卵か先か、ニワトリが先か?」の論争に決着がついている、ということだ)。

 すでに卵サイクル(註)がオデッセイに収録されていることもジャッジメントに卵関連のカードを登場させるにあたって追い風となる。
(註) 卵サイクル
 オデッセイに収録されている5種類のアーティファクトで、無色2マナを友好色2色へとフィルターしつつカードと1枚引ける使い捨ての1マナアーティファクトを指す。イラストが綺麗。ちなみにこの卵サイクルをキーにした「サニーサイドアップ」(= 目玉焼きの英語名)という名前のデッキがある。

 というわけで今ここに発表させてもらおう。

 次のセットであるジャッジメントのテーマは「卵(Egg)」だ! 過去のマジックに登場した様々な「卵」なカードたちが水曜日にベンのコラムでも紹介されていたが、ジャッジメントでは君たちが見たこともないような奇妙な卵たちが登場することになるだろうね。

 完成版のカードを見せるにはまだ時期尚早だが、いくつかのプレイテスト中の「卵」を君たちに披露する許可をもらってきたぞ。おっと、念のため。ここで紹介する以下のカードたちはまだ開発途中のものだ。実際に印刷されるバージョンそのものではないのでテキストがテンプレートに沿っていないものもある。注意してくれ。

▼《Egg Lotus》 (0)
 Artifact
 Sacrifice CARDNAME: Add one mana to your mana pool at the start of each main phase for every turn during the entire match.
(睡蓮の卵 (0)
 アーティファクト
 睡蓮の卵を生け贄に捧げる:好きな色1色のマナ1点を毎ターンのメインフェイズの開始時に加える。この効果はこの試合中ずっと持続する)

▼《Dodo Egg》 (2)(R)(R)
 Creature - Bird Egg
 CARDNAME comes into play with three hatch counters on it.
 At the beginning of each turn, move a hatch counter to target permanent you control. If that permanent references a counter type in its rules text, the counter becomes that kind of counter.
 If CARDNAME has no hatch counters on it, it gets +4/+3 and gains flying.
 0/1
(ドードー鳥の卵 (2)(赤)(赤)
 クリーチャー - 鳥・卵
 ドードー鳥の卵はその上に孵化カウンターが3個置かれた状態で戦場に出る。
 毎ターンの開始時に孵化カウンターをあなたがコントロールする別のパーマネントの上に移動させる。
 そのパーマネントのルール・テキストが何らかのタイプのカウンターを参照している場合、移動されたカウンターはそのカウンターの1つになる。
 もしドードー鳥の卵の上に孵化カウンターが1個も置かれていないとき、それは+4/+3の修整と飛行を得る。
 0/1)

▼《Jurassic Egg》 (4)
 Artifact
 As CARDNAME comes into play, choose a letter.
 Whenever a card is played that has the chosen letter in its name, put a breeding counter on CARDNAME.
 Remove X breeding counters from CARDNAME: Put an X/X green dinosaur token into play.
(ジュラ紀の卵 (4)
 アーティファクト
 ジュラ紀の卵が戦場に出るに際し、アルファベットを1つ選択する。
 選択されたアルファベットをカード名に含むカードがプレイされるたび、ジュラ紀の卵に飼育カウンターを1個置く。
 ジュラ紀の卵の上から飼育カウンターをX個取り除く:緑のX/Xの恐竜・クリーチャー・トークンを1体生成する。)

 はてさて今年の国別選手権や世界選手権はいつもよりも賑やかで楽しくて混乱したものになるかもしれないよ。いや、まあ、私が今言ったことが本当だったらの話だけどね。どういう意味かって?













































 エイプリルフールだよ! そう、今日は4月1日さ! ちょっとしたお楽しみがなけりゃ、やってられないだろう?

 さてさて。

 現実の公式サイトは土地破壊週間を迎えている。私の今週の(本当の)コラムを読みたい人は以下のリンク先(註)を参照してくれ。ゴチ。
(註) 以下のリンク先
 原文ではここで以下のURLへのリンクが張られている。土地破壊について書かれた「本当の」コラム。
 https://magic.wizards.com/en/articles/archive/making-magic/all-one-basket-2002-04-01



【翻訳】石の雨を避けたミーティングルームで/Tweak in Review【DailyMTG】
Mark Rosewater
2002年04月01日
元記事:https://magic.wizards.com/en/articles/archive/making-magic/tweak-review-2002-04-01

 土地破壊週間にようこそ! 今週はマジックにおける最古参のデッキタイプの1つを取り上げてみよう。

 開発部は土地破壊に関して非常に興味深い視点を持っており、せっかくなので私はこの視点というものがどのようなものなのか、そしてそれが新たに作られる土地破壊カードのデザインにどのように影響しているのかについて書こうと考えていた。

 ところがランディ・ビューラーがまったく同じテーマで記事を書く予定だと知ったので、それは彼に譲ることにした。もし前述の内容に興味があるなら金曜日にアップされる予定のランディのコラムをぜひ読んでみてくれ。

 さて、代わりに今日の私のコラムではデザインという仕事の中で特に見過ごされがちな部分に語ろうと思っている。


土地を破壊する前に

 本題に入る前に、先週のアンケートの結果をお伝えしたい。
(註) 先週のアンケート
 この前の週のコラムはフレイバーテキストがテーマだった。その中で、フレイバーテキストにくだらないジョーク、特にダジャレが登場することは許容できるかどうかについて、コラムの最後にアンケートをとっていた。

 フレイバーテキストに今後も下らないダジャレがあってもよいのかどうかについてのアンケートの結果は以下の通りだ。今までのアンケートの中でも特に接戦だったよ。

    下らないダジャレはマジックに居場所があるか?

      は い 1,792票(58%)
      いいえ 1,277票(42%)
      合 計 3,069票

 さてこの結果から何が読み取れるのか? これは非常に複雑なテーマであり、クリエイティブチームも注目している問題でもある。チームの判断については今後のセットを待つことで結果も分かるだろう。

 さて、本題に戻ろうか。


世に棲む日日

 君たちの中に映画「バックドラフト」を見たことある人はいるかな? カート・ラッセルが燃え盛る炎に包まれた部屋から子供を抱えて飛び出してくるシーンがあっただろう。カートが部屋から広間に逃げ込めた直後に背後の部屋で大爆発が起きて火が噴き出してくるシーンだ。

 おそらく多くの人が消防士に抱いているイメージはこれだろう。燃え盛る建物の中を駆け回り、取り残された子供たちを助けてまわるヒーローだ。

 しかし現実において普通の消防士が燃え盛る建物に飛び込むのは年に数える程度のはずだ。いや、決して消防士の仕事を軽視しているわけではない。そもそも燃え盛る建物にただの一度でも飛び込めればそれは十二分に尊敬に値する。

 私がここで言いたかったのは、消防士が日常的にこなしている仕事はそんなヒロイックなものではなくもっと平凡な仕事だということだ。危機一髪な救出劇よりも、たとえば消防車の手入れなどをしているはずだ。

 そして同じ事がマジックのデザイナーにも言える。

 確かにデザイナーたちは突拍子もない能力を持った派手な新カードの開発にその時間の一部を費やしている。しかしそれは仕事のごく一部であり、多くの時間はもっと平凡な作業に費やされているんだ。

 そう、レアは確かに派手で面白い。しかしセットの生き死にを握っているのは何か。コモンだ。

 ……さて、この話がどう土地破壊の話につながるんだろうね?(私が「大丈夫だよ、ちゃんと今日のテーマのことも忘れてないよ!」と念押ししたコラムが過去にいくつあったか、数えてる人はいるだろうか)

 うん、まず土地破壊カードは私たちがどのセットにも必ず1枚は含めるようにしている基本的なカードだ。そのため、これは開発部が日々こなしている業務の1つを紹介するのに特に適したカードということになる。

 その業務とは微調整(Tweak)だ。


ひとひねりを加える

 微調整とは何か? それはわずかな違いを除いて、既存のカードとまったく同じカードを作る作業だ。例えば《石の雨/Stone Rain》というカードがある。これは赤のソーサリー呪文で土地を破壊する。
Stone Rain / 石の雨 (2)(赤)
ソーサリー
土地1つを対象とし、それを破壊する。

 アルファ版で初登場したカードでリチャード・ガーフィールドのデザインによるものだ。この《石の雨/Stone Rain》の微調整版の例といえば以下が挙げられる。

 ・《倒壊/Raze》:マナコストが安いが自身の土地も破壊
 ・《不毛化/Lay Waste》:サイクリングが付いている
 ・《滅却/Devastate》:土地を破壊でき、また全てにダメージを与える
 ・《ドワーフの地すべり/Dwarven Landslide》:キッカーでさらに土地を破壊
 ・《地の裂け目/Earth Rift》:フラッシュバックが付いている

 微調整の目的とは何か。それは、古いカードのエッセンスを残しつつもカードに新鮮味が感じられる何かを持たせることだ。皮肉なことにこれは私のハリウッド時代のスキル(註)が生かされる分野でもある。
(註) ハリウッド時代のスキル
 著者のマーク・ローズウォーターには、ハリウッドでテレビの脚本家を勤めていた経歴がある(TVドラマ「ロザンヌ」のエピソードの1つなど)。

 ハリウッドは、古いものを(より良い形で)焼き直し続けている場所だ。

 これに関する面白い手法の1つとしては、ハリウッドで「Three-Beat」として知られている手法がある。既存のアイデア2つと混ぜ合わせて、新たなアイデアとして売りつけるんだ。

 例を挙げよう。

 映画「スパイキッズ」は、ジェームス・ボンドとグーニーズがハリウッドで出会ったことで生まれたものだ。ドラマ「ヤング・スパイダーマン」は、スーパーマンとドーソンズ・クリーク(訳注:アメリカのテレビドラマ)が出会って生まれた。映画「ビューティフル・マインド」は、グッド・ウィル・ハンティングと失われた私(訳注:原題は「Sybil」)が出会って生まれた。

 信じてもらえるか分からないが、マジックのデザインという仕事にはこれと似通ったところがある。コモンを作る時だ。

 コモンを作るためには、まず初めにマジックの基本的な役割(クリーチャー破壊、カードドロー、コンバットトリックなど)を埋めるカードを作る必要がある。しかし既存のカードそのものというわけにはいかない。

 そこで「微調整」が始まる。以下に挙げるのが代表的な手法だ。


その1:ブロックの新メカニズムをつける

 最初にデザイナーたちが目を向けるのはそのブロックで登場する新メカニズムだ。いずれにせよデザイナーはその新たなメカニズムをカードに取り入れる必要があるから、まさに相思相愛だ。

 オデッセイブロックを例にとろうか。このブロックで新たに登場したメカニズムはフラッシュバックとスレッショルドだ。

 まずは《地の裂け目/Earth Rift》を例として挙げるべきだろうね。石の雨がフラッシュバックと出会って生まれたわけだ。
Earth Rift / 地の裂け目 (3)(赤)
ソーサリー
土地1つを対象とし、それを破壊する。
フラッシュバック(5)(赤)(赤)(あなたはあなたの墓地にあるこのカードを、そのフラッシュバック・コストで唱えてもよい。その後それを追放する。)

 それではスレッショルドは? うん、オデッセイのデザイナーたちは同様にスレッショルドについても試行錯誤を繰り返したんだが、結局スレッショルド持ちの土地破壊カードは生まれていない。これだ、と思えるアイデアが最後まで出なかったんだ。


その2:追加の効果をつける

 ときには既存のカードをほぼそのままに、そこに少しの追加を加えるだけのことが最善の策となることもある。

 プロフェシーの《滅却/Devastate》が良い例だ。これは《石の雨/Stone Rain》が《微震/Tremor》と出会って生まれたカードだ。
Devastate / 滅却 (3)(赤)(赤)
ソーサリー
土地1つを対象とし、それを破壊する。滅却は、各クリーチャーと各プレイヤーにそれぞれ1点のダメージを与える。

Tremor / 微震 (赤)
ソーサリー
微震は、飛行を持たないすべてのクリーチャーにそれぞれ1点のダメージを与える。

 このタイプの微調整の難しい点は、元の効果と追加される効果になんらかのシナジーが必要という点だ。それはプレイする上でのゲーム的なシナジー、もしくはフレイバー的な面でのシナジーのいずれかとなる。もちろん両方を満たすのがより理想的だ。

 その点ではこの《滅却/Devastate》は両方を満たしている。土地破壊デッキにウィニーを一掃する効果は有用だし、土地が破壊される際に「地震」的な効果が生まれるのも実に自然なことだ。


その3:ペナルティ能力をつける

 上記の2つ以外でよく使われるテクニックに、コストを安くする代わりにペナルティ能力を付けるというものがある。

 このカテゴリの例としてはウルザズ・サーガの《倒壊/Raze》がふさわしいだろう。「相手に《石の雨/Stone Rain》」と「自分に《石の雨/Stone Rain》」が出会ったわけだ。
Raze / 倒壊 (赤)
ソーサリー
この呪文を唱えるための追加コストとして、土地を1つ生け贄に捧げる。
土地1つを対象とし、それを破壊する。

 《倒壊/Raze》は、《石の雨/Stone Rain》から2マナもそぎ落とされている代わりに自身の土地を1枚生け贄に捧げる必要がある。

 デッキをよりアグレッシブにするよう仕向けつつ、どうやってこのデメリットをかいくぐろうかとプレイヤーに頭を使わせる良いカードだ。


その4:制限をかける

 この微調整のパターンは直前のパターンの仲間とも言える。デザイナーは基本的な効果を1つ選んだあと、しかるのちにその効果や対象を元よりも制限するわけだ。もちろん効果が劣るかわりにマナコストは安くなる。

 そうだね、基本でない土地しか破壊できない《溶岩のあぶく/Lava Blister》がこのカテゴリのカードと言えるかもしれない。《石の雨/Stone Rain》が《破滅/Ruination》と出会ったわけだ(ただ《溶岩のあぶく/Lava Blister》には懲罰者(Punisher)効果もついているのでイマイチ良い例ではないかもしれない)。
Lava Blister / 溶岩のあぶく (1)(赤)
ソーサリー
基本でない土地1つを対象とし、それをそれのコントローラーが「溶岩のあぶくはそのプレイヤーに6点のダメージを与える」ことを選ばないかぎり、破壊する。

Ruination / 破滅 (3)(赤)
ソーサリー
すべての基本でない土地を破壊する。


その5:呪文の速度を変える

 前述されたもの以外でよく取られる選択肢としてはこれがある。インスタントをソーサリーにしたり、逆にソーサリーをインスタントにしたりする。

 この微調整の話をするのに《石の雨/Stone Rain》はあまりよくない例となる。なぜなら開発部は土地破壊効果はソーサリーにすると決めたからだ(これに関しては金曜日のランディの記事に詳しい)。

 例として挙げられそうなのはプレーンシフトの《リースの魔除け/Rith’s Charm》くらいだろうか。ただ正直、これを微調整版として挙げるのは自分でも厳しい気がしている。あえていえば《石の雨/Stone Rain》がインスタントの選択肢の1つに選ばれた、という感じかな。
Rith’s Charm / リースの魔除け (赤)(緑)(白)
インスタント
以下から1つを選ぶ。
・基本でない土地1つを対象とし、それを破壊する。
・緑の1/1の苗木(Saproling)クリーチャー・トークンを3体生成する。
・このターン、あなたが選んだ発生源1つが与えるすべてのダメージを軽減する。


その6:再録する

 最後がこれだ。もちろんこれもありだ。そのままさ。厳密には微調整とは呼べないかもしれない。ただこれがセットの穴を埋めるための最適解となることはよくある話だ。

 私がよく受ける質問の1つに「なんで再録するの?」というものがある。

 この問いに本気で答えようと思ったらそれだけで1つのコラムになるだけの分量を必要とするが、手短に言えば(余談だが、先日、とある説明を「手短に言えば」で済ませたとき、蜂の巣をつついたような反応が返ってきたね。ふと思い出したよ)再録は他のどんな手法よりも的確にその仕事をこなしてくれるからだ。

 《石の雨/Stone Rain》の場合、その「土地1つを対象とし、それを破壊する」というシンプルさを上回ることは非常に難しい。《石の雨/Stone Rain》が《石の雨/Stone Rain》に出会うわけだ。

 そんなとき、開発部は同じカードをそのまま世に出す。

 ときに私たちは再録し、ときに私たちは微調整を行う。《石の雨/Stone Rain》はこのカテゴリの例にまさにふさわしい(何しろ、つい最近まで《石の雨/Stone Rain》は最も多くの再録が行われたカードの1枚だったからね)

  アルファ:初登場
  アイスエイジ:再録
  ミラージュ:再録
  テンペスト:再録
  ウルザズ・サーガ:調整版
  メルカディアン・マスクス:再録
  インベイジョン:調整版
  オデッセイ:調整版
(註) 調整版
 それぞれの微調整版は、ウルザズ・サーガは《不毛化/Lay Waste》、インベイジョンは《疫病の胞子/Plague Spores》と《激情の耕作/Frenzied Tilling》、オデッセイは《地の裂け目/Earth Rift》

 いってみればこの微調整は文章において決まり文句や常套句を使うようなものだ。オリジナリティのある新たな何かで表現したいときもあれば、逆に使い古された決まり文句がぴったり当てはまるときもあるのだ。


こんなに楽しい仕事はない

 良いデザイナーになるための条件の1つはデザインの細かい仕事も楽しめることだ。コモンを作るのは決して汚れ仕事ではない。それは創造性と簡潔性を同時に達成する機会でもある。

 このコラム、「Making Magic」はマジックのデザイナーたちの仕事を垣間見られるコラムだ。今日の記事がデザイナーの仕事の中でも特に平凡な(しかし決して退屈でない)仕事について、君たちになんらかの気づきを与えることが出来たなら幸いだ。

 さて、来週はデザイナーの仕事の中で君たちもやったことのあるであろう何かについて話そうと思う。それまで、君たちが土地破壊デッキとの対戦時に十分な量の土地を引けるよう祈っているよ。

 マーク・ローズウォーター
【翻訳】フレイバーにテキストを添えて/Add Text to Flavor【DailyMTG】
Mark Rosewater
2002年03月25日
元記事:https://magic.wizards.com/en/articles/archive/making-magic/add-text-flavor-2002-03-25

 先週のフレイバーテキストに関するコラム(註)に対して情熱ほとばしるご意見を頂いた。今週のコラムでは基本デザイン(Basic Design)について話そうと思っていたが、予定を変更してその話題はまた後日にしよう。
(註) 前回のフレイバーテキストに関するコラム
 前の週のコラムでは、著者が手掛けたフレイバーテキストのお気に入りトップ10を紹介していた。以下がそのコラムと拙訳。

 原文:The Write Stuff
 http://magic.wizards.com/en/articles/archive/making-magic/write-stuff-2002-03-18
 日本語:フレイバーテキスト誕生秘話
 https://regiant.diarynote.jp/201904230844474257/

 以下に紹介するのはその中の1つ、ウィル・ミストレッタからのメッセージだ。

 多くのプレイヤーが私の記事に対して抱いたであろう激しい感情を上手く要約してくれたこのメッセージは、私個人宛にメールで届けられただけでなく、公式サイトの掲示板にも投稿され、さらに StarCityGamesのサイト(註)に記事としてもアップされた。
(註) StarCityGamesのサイト
 以下がその記事へのリンク。ちなみに今回のコラムと一部異なる(リンク先の方が微妙に文章量が多い)。ただ今日の記事をアップする前にあらためて確認したらもう消えてた。残念。
 http://www.starcitygames.com/article/2715_An-Open-Letter-to-Mark-Rosewater--Enough-With-the-Stupid-Flavor-Text--Already-.html

 それでは始めよう。

 --- --- --- --- メッセージここから --- --- --- --- 

 よろしいでしょうか。マーク・ローズウォーターさん。

 あなたがつい最近書かれたコラム、「The Write Stuff」に関してお伝えしたいことがあります。

 何よりまず初めに、非常に良い記事でした。しかし賞賛の言葉はひとまず脇に置かせていただき、少々手厳しく聞こえるかもしれない批判の言葉をお伝えする必要があると感じております。

 忌憚なく言わせて頂ければ、最初の頃のマジックのデザインチームは正しく素晴らしい仕事をなさっていました。そのかつてマジック・ザ・ギャザリングが持っていた最高の雰囲気を台無しにしてしまっているのが「ユーモア」やら「カジュアル」やらな雰囲気を持つ最近の安っぽいフレイバーテキストです。

 台無しです。

 どういうことか、あなたの記事からの引用で分かりやすく説明しましょう。あなたが「新しく」書いたという《蠢く骸骨/Drudge Skeleton》のフレイバーテキストに関する個所でこう述べられていますね。

 『このフレイバーテキストはアンデッドとコメディは最高の相性を持つはずという私の信条を見事に反映している』

 これは疑いようもなく、現状のマジックのフレイバーテキストのどこがどう間違っているかを的確に言い表している個所であり、ある意味でこれ以上ないほどに有用な文章です。ここで元々の《蠢く骸骨/Drudge Skeleton》のフレイバーテキストを紹介させてください。

 Bones scattered around us joined to form misshapen bodies, We struck at them repeatedly -- they fell, but soon formed again, with the same mocking look on their faceless skulls.
 我らの周囲に散らばった骨が集い、ちぐはぐな体に組み上がっていく。我らは何度も何度もそれを攻撃し、打ち倒した。しかし、すぐにまた、顔のない髑髏があざ笑うように立ち上がってくるのだった。


 そして以下が前述のフレイバーテキストから置き換えられたあなたの作品です。

 ’The dead make good soldiers. They can’t disobey orders, they never surrender, and they don’t stop fighting when a random body part falls off.’
 --Nevinyrral, Necromancer’s Handbook
 死者は兵士に絶好である。 命令に逆らうこともなければ、降伏することもありえない。しかも、身体のどこかが取れたぐらいでは戦いをやめないのだから。
 ――ネビニラル「ネクロマンサーの手引き」


 正直に言いましょう。差は一目瞭然です。

 酷過ぎます。

 とどまることを知らず歩みを続ける死者の軍団、それによってもたらされる避けられない死への恐怖というイメージが、まるで小学生の学芸会レベルのギャグにとって換えられたのです。

 笑えるアンデッドですか? 本気でマジックにお笑い芸人が必要だと信じていらっしゃるのでしょうか? 「何度壊しても元通りだぞ。これが本当の骨折り損のくたびれ儲けだ!」

 百歩譲ってシリアスな雰囲気が薄れたことに目をつぶったとしましょう。そうであったとしてもその代わりが「笑い」ですか? まったく笑えませんね。

 あなたの前職がコメディドラマの脚本家であったことは存じ上げております。そのため前述のコメントをお伝えすることは非常に心苦しくもあります。しかしあなたのネタが不発に終わったことは事実であり、それを誤魔化すような体の良い慰めは不要と思われます。


 もう1つお伝えしたい点があります(こちらはあなたに責任を負わせるべき事柄ではないのかもしれませんが、今回の問題点を説明するのには適切な例かと思われます)。

 まず元々あった1993年の《幻影獣/Phantom Monster》のフレイバーテキストが以下です。

  ’While, like a ghastly rapid river,
  Through the pale door,
  A hideous throng rush out forever,
  And laugh - but smile no more.’
  - Edgar Allen Poe, ’The Haunted Palace’
  まるで、おぼろな急流のごとく、
  青ざめた扉を抜けて、
  忌まわしき群れは次々と走り出で
  あざ笑う ――― されどもはや微笑むことはない。
  ――― エドガー・アラン・ポオ「幽霊宮」


 それに対して、第7版の《畏怖/Fear》のフレイバーテキスト(註)もひどかったですが、先週のコラムでも紹介されていた《ドワーフの狂戦士/Dwarven Berserker》(註)ときたら……マジックのカード上に「Butt(ケツ)」の文字を見たとき、私の中で何かが息を引き取るのを確かに感じました。
(註) 《畏怖/Fear》、《ドワーフの狂戦士/Dwarven Berserker》

《畏怖/Fear》のフレイバーテキスト
 英語版:
  "Booga booga booga!"
 日本語版:
  ウォー ウォー ウォー!

《ドワーフの狂戦士/Dwarven Berserker》のフレイバーテキスト
 英語版:
  “I may be small, but I can kick your butt.”
 日本語版:
  チビだと思っておれをなめると、痛い目を見るぞ。

 ダメです。申し訳ありませんが、失敗です。そうとしか言いようがありません。

 アルファ版に思わず頭を抱えたくなるほどひどい表現がありましたか? アラビアンナイト、アンティキティ、レジェンド、ザ・ダークには? 1つでもありましたか?

 ハッキリ言えます。誰も求めていないのです。皆を代表してこれを伝えるというのは嫌な仕事ですが、言わざるを得ません。私たちプレイヤーはあなたの考えるストーリーやフレイバーテキストを嫌悪しているのです。

 マジックの開発部という人里離れた象牙の塔での生活が、あなた方とプレイヤーたちとの感覚のあいだに断絶を生んでしまったのかもしれません。いずれにせよ、私たちの誰一人としてあなた方のユーモアのセンスやら妙ちきりんな登場人物やらを求めてはいないのです。

 ストーリーなど要りません。ジョークも要りません。それが私たちの総意です。ネットの意見をチェックしてみてください。ファンサイトでも掲示板でもいいです。プレイヤーに面と向かって確認するのもいいでしょう。

 私たちはミラージュやビジョンズ以降のストーリー志向を心から嫌っています。ジェラードやカマールが登場するマジックより、ジャー・ジャー・ビンクス(註)が登場するほうがまだマシと私たちは考えます。
(註) ジャー・ジャー・ビンクス
 スターウォーズの新3部作シリーズに登場するキャラクター。コメディタッチなキャラクターだったがトラブルメーカーとしての出番が目立ち、多くのファンから総スカンをくらった不人気キャラとして有名。

 これら不快なキャラクターたちが登場するフレイバーテキストは単調なだけでなくそこにはプレイヤーが介在せず感情移入できません。

 プレイヤーという存在から目を背けた結果、生まれたのはまるで途中で完成を投げ出したD&Dキャンペーンのような世界観と画一的で好感のもてないキャラクターたちです。

 マジックとはプレイヤー自身がゲームの主人公だったはずです。

 私たちという魔法使いが決闘するゲームだったはずです。

 そう「私たち」です! それが今やどうでしょう、ネーミングセンスを疑うような「チェイナー」とかいう名前のチンピラが戦う世界? 私たちがそんなものを楽しむとでも?

 認めるしかありません、マーク・ローズウォーターさん。どこかの時点で(おそらくはアライアンスからミラージュへと移りゆく頃に)あなた方は悲劇へと続く誤った道を下り始めたのです。

 その先は進むほどにひどくなる一方だというのにあなた方はいまだに歩みを止めていません。

 今のマジックに必要なもの、それは威厳と尊厳です。ジョークだのマスコットキャラクターだのを詰め込むたびにかつて偉大であったマジックという存在はその輝きを失っていく一方です。

 かつてマジックを包んでいたその偉大なる輝きを完全に失ってしまえば、マジックはただの紙束に過ぎません。それに向き合わないといけません。

 マジックは始まりがあまりにも偉大な存在であったがゆえに、輝きを失うまでにも長くかかりました。しかしあなた方はそれでもなお誤った道を止まることなく下り続けていこうとしています。このままではさすがのマジックであっても底の底を打つことになるでしょう。

 私たちの大切なゲームであるマジックをこれ以上台無しにしないでください! 緊張感のある真剣なマジックを返してください。文学的な引用文を返してください。安っぽいダジャレや冗談を廃してください。

 そして何より、カードのフレイバーテキスト欄にどうでもいいキャラクターたちの退屈なセリフを載せるのをやめてください。古典からの引用、特定の誰かではない冷めた歴史家による目線、それがアルファ版やアンティキティといった時代の主流だったはずです。
(余談)
 StarCityGames版ではここにフレイバーテキストの種類を比率で示したデータが表示されているがDailyMTG版では記載なし。

 かつてのマジックはカッコ良かったです。今はそうではありません。私たちを今のダサいマジックから解放してください。

 ここでかつての《ブーメラン/Boomerang》のフレイバーテキストを引用したいと思います。

  ’O! Call back yesterday, bid time return.’
  - William Shakespeare, King Richard the Second
  ああ!昨日を呼び戻せ、時よ戻れ。
  ――ウィリアム・シェイクスピア「リチャード二世」


 お願いします。

 ウィル・ミストレッタより

 --- --- --- --- メッセージここまで --- --- --- --- 

 ここまでがウィルからのメッセージだ。

 そしてここから先が、私からウィルへの返信となる。

 ウィルへ。

 まず初めに言いたいのは、君からのお便りは非常に素晴らしい、ということだ。君のメッセージはマジックにおけるいくつかの非常に重要な点に触れている。

(余談だが、もし自分が送ったメールを私のコラムに採用して欲しいと考えている人がいたら、ウィルのように十分に時間をかけて推敲を重ねたきちんとした文章を送ってくることをおススメするよ)

 今日のコラムではこのメッセージで挙げられている問題点を1つ1つ取り上げていきたい。

それはつまらないのか?/That’s Not Funny

 まず最近のフレイバーテキストが「安っぽくて誰でも思いつくようなユーモア」で「カジュアルな雰囲気」だと仮定しよう。さて、プレイヤーたちはそんな最近のフレイバーテキストが「かつて偉大だったはずのマジックを貶めている」と考えているだろうか?

 この問題はマジックのクリエイティブチームのリーダーであるブレイディ・ドマーマスを長いこと悩ませているものだ。

 ウィザーズで働く私たちの目指すべきゴールは「君たちの誰もが求めているゲームを作ること」だ。この目的の達成に近づけば近づくほど、君たちはよりゲームを楽しめるはずであり、全員が幸せになれるはずだ。

 そのために私たちはアンケートをとったり、プレイヤーと直接話したり、さらにはプレイヤーの嗜好をより知ろうと大量の市場調査(Market Research)を実施したりしているわけだ。

 なお君たちの想像どおり、フレイバーの好みは(カードのメカニズムに対する好みと同様に)プレイヤーによって大きく異なる。ウィル、君からのメッセージはある種のプレイヤーの持つ好みと主張を素晴らしく的確に言い表しているが、それが唯一無二の意見ではない。

 例を挙げよう。

 私たちは「Godbook調査」という市場調査を行っている。「Godbook」というのはマジックのカードをそのまま一覧にして載せている本だ。

 私たちは統計をとるためのサンプルとして、数百人のプレイヤーを対象に様々のカテゴリ(メカニズム、イラスト、カード名、そしてもちろんフレイバーテキスト)ごとに2つの質問を投げかける。

 その2つとは「最も好きなカードは?」と「最も嫌いなカードは?」だ。

 まず最初はプレイヤーに自身の記憶を頼りに回答してもらう。それが終わったあと、今度は前述した「Godbook」の一部を手渡し、あらためてそれを見てもらいながら同じ質問に答えてもらう。

 私たちは、記憶に頼る最初の調査方法(私たちはこれを open-ended survey と呼んでいる)から得た調査結果と後者の「Godbook」を見てもらいながらの調査結果とを組み合わせて使っている。

 オデッセイのフレイバーテキストに関する調査結果が以下だ(訳注:調査結果は英語のフレイバーテキストに対してのもの。日本語は参照用に付記)

▼ 人気のあったフレイバーテキスト

《機知の戦い/Battle of Wits》
  英語版:
   The wizard who reads a thousand books is powerful.
   The wizard who memorizes a thousand books is insane.
  日本語版:
   千冊の本を読破した魔術師は強力な魔術師になる。
   千冊の本を記憶した魔術師は狂気の魔術師になる。

《ピット・ファイター、カマール/Kamahl, Pit Fighter》
  英語版:
   “I didn’t come to play. I came to win.”
  日本語版:
   「おれは遊びに来たんじゃない。勝ちに来たんだ。」

《リスの群れ/Squirrel Mob》
  英語版:
   An army of squirrels is still an army.
  日本語版:
   リスの軍勢とはいえ、軍勢は軍勢だからね。

《呪われた大怪物/Cursed Monstrosity》
  英語版:
   “Run away! It’s an…um…run away!”
    - Nomad sentry
  日本語版:
   「逃げろ! そいつは……そ、そいつは……逃げろ!」
    ― 遊牧の民の歩哨

《ゴリラのタイタン/Gorilla Titan》
  英語版:
   “I want a banana this big!”
  日本語版:
   「このぐらい大きいバナナが欲しい!」

▼ 不人気だったフレイバーテキスト

《ゴリラのタイタン/Gorilla Titan》
  英語版:
   “I want a banana this big!”
  日本語版:
   「このぐらい大きいバナナが欲しい!」

《熊人間/Werebear》
  英語版:
   He exercises his right to bear arms.
  日本語版:
   彼は武器を帯びる権利を行使しているのさ。

《精神噴出/Mind Burst》
  英語版:
   As haunting as a zombie’s curse.
  日本語版:
   ゾンビの呪いのごとくつきまとう。

 この調査から分かることの1つ目としては、どうやらプレイヤーはユーモアのあるフレイバーテキストが好きらしい、ということだ。好まれたフレイバーテキストのリストの中でユーモアに欠けているのは《機知の戦い/Battle of Wits》のフレイバーテキストくらいだろう。

 《ピット・ファイター、カマール/Kamahl, Pit Fighter》や《リスの群れ/Squirrel Mob》のフレイバーテキストはあまり直接的なジョークではないが、《呪われた大怪物/Cursed Monstrosity》や《ゴリラのタイタン/Gorilla Titan》については完全にどこからどうみても受けを取りに行っている。

 2つ目として分かることは、ユーモアのあるフレイバーテキストであれば何でも良いというわけではないらしい、ということだ。

 例えば《熊人間/Werebear》は分かりやすい定番なダジャレ(註)だが受けをとれなかった(余談。マジックのダジャレに関して興味や意見がある人はこの記事の最後に付けた追記も読んでくれ)
(註) 《熊人間/Werebear》のフレイバーテキスト
 原文の「He exercises his right to bear arms」は、普通に訳すと日本語訳にあるとおり「彼は武器を帯びる権利を行使している」となる。「bear(帯びる)、arm(武装)」だからだ。ただ熊人間であることを考えると「bear arm」はそのまま「熊の腕」ともとれる。

 クリエイティブチーム(カード名やフレイバーテキスト、そしてカードコンセプトなどを手掛けるチーム)の面々は、ここ1年ほどのあいだ、どういったユーモアがプレイヤーに受けるのか(そして受けないのか)を知るために多大な労力を支払っている。

 さて、その研究結果は?

 それについては今後発売されるセットを見てもらうしかない。
(余談)
 原文ではここに「ふざけたフレイバーテキストの評価は二極化される。愛と憎しみを隔てる壁は驚くほど薄い(Silly flavor text polarizes the community. It’s a thin line between love and hate.)」と書かれている。画像のキャプションと思われるが、画像はリンク切れか掲載されてない。

 そして調査結果から分かることの3つ目、おそらくこれが最も重要な点かもしれないが、それは、同じフレイバーテキストであっても異なるプレイヤーは異なる評価を下す、ということだ。

 前述のとおり《ゴリラのタイタン/Gorilla Titan》のフレイバーテキストは好きと嫌いの両方のリストに入っている。このゴリラのフレイバーテキストが大好きなプレイヤーもいれば、大嫌いなプレイヤーもいるということだ。

 この調査結果はここウィザーズにおいても激しい議論の対象になった。

 私たちももちろんプレイヤーたちが総じて忌避するようなフレイバーテキストを採用したくはない。では、プレイヤーの賛否が大きく分かれてしまうようなフレイバーテキストはどう扱ったら良いのか?

 この調査に関連して私たちが収集したデータをもっと見たいという君のために、ウルザズ・デスティニー以降のGodbook調査結果をまとめたものを今日のコラムの最後に載せておいた。参照してくれ(註)。
(註) 調査結果
 原文ではセット別の調査結果が記事の末尾にリスト化されている。

十人十色/Different Strokes

 この種の議論は突き詰めると最終的には「多様性(Diversity)」という点に帰着する。

 マジックの強みとは何か。その1つは、様々なプレイヤーごとに全く違ったゲームの側面を見せる、ということが挙げられる。

 それを踏まえて、開発部が今回の問題をどう解決しているかというと、異なるタイプのプレイヤーに向けて異なるタイプのカードを提供することで対応している。

 さて、この哲学に沿ってカードを生み出すことによって何が起きるか? 生み出されるカードたちは、あるプレイヤーには愛されるものの、別のプレイヤーには渋面をもって迎えられることとなるのだ。

 良い例は《機知の戦い/Battle of Wits》だろう。大半のプレイヤーのこのカードに対する評価は、大好きか大嫌いかのいずれかだ。

 そして、このカードを好むプレイヤーたちが生み出すゲーム活性化の力は、このカードを嫌うプレイヤーたちが奪われたゲームの活力の総量を上回ると開発部は信じている。


 マジックがフレイバーテキストに対して取っているアプローチも同様だ。私たちは様々なタイプのプレイヤーたちに向けて、様々なタイプのフレイバーテキストを提供している。

 叙情的な一節もあれば、叙述的な一節もあり、その一方で審美的な一節もあれば……もちろん、そう、ジョーク的な一節もあるわけだ。

 おそらく先日の私のコラムは、ジョークやユーモアに満ちたフレイバーテキストは他の種類のフレイバーテキストに比べて開発部でより重んじられている、という誤った認識を読者に与えてしまった。

 しかし私はあくまで数あるフレイバーテキストの担当者の中の1人に過ぎない(さらにいえば最近ではほとんどフレイバーテキストに関わってもいない)。

 先日のコラムでは、コメディ脚本家という前職を持った私が生み出したフレイバーテキストたちを紹介させてもらった。そのため、どうにもそれらはユーモアに偏った作品群となってしまった。

 しかしユーモアというのはあくまでマジックにおける選択肢の1つに過ぎない。ユーモアを得意とする(私を含めた)担当者たちと同様、他の選択肢や雰囲気を得意とする別の担当者たちがいるんだ。

何が問題なのか/The Rub

 残念なことに、メカニズムやイラストにおいては非常に有用な多様性という概念が、フレイバーテキストにおいてはそう上手くは働いてくれない。

 なぜなら、フレイバーテキストは異なる感情を呼び起こすというだけでないためだ。フレイバーテキストはそれ以上に異なるプレイヤーに対して異なる機能を果たすという点がある。

 あるプレイヤーたち(例えばウィル、君のような)にとって、フレイバーテキストとは世界観を意味する。

 大きなモザイク画のかけらの1つであり、全て集まり1つの絵を指し示すべきものであり、1つでも余計なかけらが混じっていれば絵は台無しになってしまう。

 その一方で、あるプレイヤーたちにとっては、フレイバーテキストはゲームの面白みを増してくれるものだ。こういったプレイヤーたちはマジックをプレイしている最中にフレイバーテキストを読み上げたりする。

 他のカードと関連性のない単体で笑えるジョークはこういったプレイヤーに好まれる。なぜならこういったプレイヤーたちが楽しいと感じるマジックの側面をさらに面白いものにしてくれるからだ。

 この後者のグループに向けて書かれたフレイバーテキストは、前者のグループの感情を害する。そして逆の場合よりもその不快度は大きい。

 この事実がクリエイティブチームのリーダーを板挟みにする。なぜならあるグループを楽しませようとすると別のグループが楽しくなくなってしまうためだ。

 どうすればいいのか?

 今、模索されている解決法は、全体的な調和を崩さないようにしつつ一部には軽いユーモアを交えるという手法だ。

 両方のグループを満足させ得る良い例としてはゴブリンたちだ。

 ゴブリンはそもそもがユーモアを感じさせるデザインなので、フレイバーを重視しつつも無理なくユーモアを導入することができる。

背景ストーリーについて/Here’s a Story

 君が挙げたもう1つの側面、それは背景ストーリーについてだ。君の主張によると背景ストーリーに焦点が移ることでゲームのクオリティが下がるらしい。

 実のところ、クリエイティブチームのリーダーは同じ意見だ。君にとっては喜ばしいニュースだろう。

 ウェザーライトサーガというのは私たちにとっても試みの1つだった。継続する長編物語はゲームの質を高めてくれるのだろうか?

 世のプレイヤーたちからの回答は「ノー」だった(もっとも、ストーリーが気に入ったといってくれたプレイヤーたちもまた存在したことは付記しておきたい)。


 現在では、マジックの方向性は「ストーリーを語ること(creating stories)」ではなく、より「世界観を語ること(creating worlds)」を重視している。

 ライターやイラストレーターに対するクリエイティブチームからの最近の指示では、長大なストーリーの断片を個々のカードを通じて部分的に見せるという形を避けている。

 代わりに、個々のカードからそのストーリーの舞台となっている世界観が伝わるような書き方/描き方を指示するものとなっている。

 こう考えて欲しい。

 エキスパンションはストーリーのかけら(キャラクター、クリーチャー、アイテム、場所など)を個々のカードを通じて見せてくれる。それらをつないでくれるのは小説本の役割となるだろう。

 つまりカードを先に触れてから本を読んだとして、多くの要素が馴染み深く親しみがいのあるものに感じられつつも、ストーリー自体はまったく目新しいものになるわけだ。

大鴉曰く/Quoth the Raven

 さて、現実の小説などからの引用についてだ。

 これについての落としどころは数年前に決定されている。基本セットは現実の小説などからの引用を可とする。エキスパンションは不可だ。そう決めた理由は何か。私たちはマジックに他と異なる独自の世界と声を持って欲しいと願っているからだ。

 現実の小説が登場した途端、プレイヤーは魔法使い同士の決闘の場という世界から連れ出されてどこか……なんというか……学校にいるかのような気分になってしまう。マジックはエンターテイメントであり知育玩具ではない。

まとめ/To Sum Up

 フレイバーテキスト週間というイベントを設けたのは全てのプレイヤーたちからの反応が欲しかったからだ。

 ウィル、君からのお便りと同様の意見は、先週他のプレイヤーたちから他の媒体を通じてたくさん寄せられた。

 しっかりと耳を傾けさせてもらったよ。

 クリエイティブチームの皆はフレイバーテキストをより良いものにするためにたゆまぬ努力を続けている。

 君の提示した問題点についてもいくつかはすでに俎上に乗せられているし、まだ吟味されていない問題点についてはこれからだ。

 ただ1つだけ言わせてもらいたい。

 1人のプレイヤーが何百万というマジックプレイヤーの声全てを代弁することは不可能だ。他のプレイヤーたちの声もまた私たちに届いている。君の意見に応えようとするのと同じだけ、私たちは他のプレイヤーたちの声にも耳を傾けている。

 バランスをとることは非常に難しくデリケートな問題だ。それでも私たちは目を背けることなく、状況を改善するべく取り組んでいる。

 さて、来週は「上手くぶっ壊す」ことについて語りたいと思っている。それまで、君たちが簡潔でユーモアにあふれたフレイバーテキストと出会う機会があるよう祈ってるよ。

マーク・ローズウォーター

※追記:ダジャレについて

 今週の記事の補足としてちょっと皆から意見を募りたい。ここウィザーズでもデリケートな話題として扱われているものだ。

 ダジャレだ。例えば《始祖グリーヴィル/Root Greevil》のフレイバーテキストは不人気だ。よってダジャレは人気がないとも言える。

 しかしウィザーズ社内のダジャレ擁護派によると「人はダジャレに対して眉をひそめるよう教え育てられている」らしい。だから「良いダジャレほど不人気であって当然」だと言うんだ。

 さて、君たちはどう思う? 読んだ人がつい眉をひそめてしまうようなダジャレを今後もマジックに載せ続けるべきだろうか? ぜひ意見を寄せて欲しい。
【翻訳】ピッチスペル誕生秘話/Free Play【DailyMTG】
Mark Rosewater
2002年08月19日
元記事:https://magic.wizards.com/en/articles/archive/making-magic/free-play-2002-08-19

 代替コスト週間へようこそ!

 代替コストもしくはその頭文字をとってAPC(Alternate Playing Cost)と呼ばれる呪文に馴染みのない人のために説明しておくと、これはマナの代わりに別のコストを支払うことで0マナでも唱えられる呪文に関する言葉だ。

 有名どころではアライアンスの《意志の力/Force of Will》、ビジョンズの《火炎破/Fireblast》、メルカディアン・マスクスの《噴出/Gush》などが挙げられる。
Force of Will / 意志の力 (3)(青)(青)
インスタント
あなたは、この呪文のマナ・コストを支払うのではなく、1点のライフを支払うとともにあなたの手札にある青のカードを1枚、追放することを選んでもよい。
呪文1つを対象とし、それを打ち消す。
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Force+of+Will/

Fireblast / 火炎破 (4)(赤)(赤)
インスタント
あなたは、この呪文のマナ・コストを支払うのではなく、山(Mountain)を2つ生け贄に捧げることを選んでもよい。
クリーチャー1体かプレインズウォーカー1体かプレイヤー1人を対象とする。火炎破はそれに4点のダメージを与える。
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Fireblast/

Gush / 噴出 (4)(青)
インスタント
あなたはこの呪文のマナ・コストを支払うのではなく、あなたがコントロールする島(Island)を2つ、オーナーの手札に戻すことを選んでもよい。
カードを2枚引く。
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Gush/

 今週はAPC呪文がいかにして生まれたか、そしてこれらの誕生がどのような影響をマジックに与えたかを事細かに見ていこうと思う。

 そうそう。このコラムはデザインに関するコラムだ。そこでAPC呪文をデザインするに当たって注意しなければいけないルールについても言及したいと思っている。一見簡単そうに見えるかもしれないが、そうでもないんだ。

 さて、手始めにAPC呪文が誕生した瞬間を軽く覗いてみよう。
(訳注) APC呪文
 正直なところ日本だとAPCという俗称はほとんど根付いておらず伝わりづらい気がするので、以降は日本でもそこそこ知られている俗称である「ピッチスペル」の呼び名を使うことにする。


タップアウトしてから

 つい先日アップしたアラビアンナイトに関するコラム(この記事(註)だ)のあと、私はクリス・ペイジから1通の手紙を受け取った。
(註) この記事
 原文では「It Happened One Nights」。今回のコラムの2週間前に書かれたものでアラビアンナイトのカードがどうその後のデザインに影響を与えたかについて語っている。以下、そのコラムの拙訳。
 (日本語訳) https://regiant.diarynote.jp/201906092347189528/

 ちなみにクリス・ペイジは、アンティキティ、フォールンエンパイア、アイスエイジ、そしてアライアンスなどの初期のマジックのデザインに関わった「East Coast Playtesters」というグループの1人だ。

 先々週のアラビアンナイトのコラムを読んだクリスはいくつか補足情報を提供してくれた。そして彼とやり取りする中で、ありがたいことにアルファ版のプレイテスト中に書かれたとおぼしき古い書簡のコピーを提供してもらうこともできた。

 その中にはリチャード・ガーフィールドとプレイテストメンバーたちとの間で交わされた手紙も含まれていた(ちなみにそのプレイテストのメンバーというのはクリス・ペイジ、スカッフ・エリアス(註)、ジム・リンなどだ)。
(註) スカッフ・エリアス
 アルファ版が出る前から開発とテストプレイに関わっているメンバー。同じカードは4枚までの制限ルールを初めてテストした人だったり、エキスパンションごとにカードの裏面を違うものにしようというアイデアを速攻で却下したりもするらしい(以上の話のソースは以下の MTG Salvation Wiki)。
 https://mtg.gamepedia.com/Skaff_Elias

 さて、手紙の中の1つに、はっきりそうと書かれているわけではないが、もしかしたらこれがピッチスペルの元となったアイデアではないかと思われる記述があった。

 そのリチャードが書いた文章の一部を以下に紹介しよう。

 キャントリップについて。
 前にも書いたかもしれないが、考えれば考えるとほど、この案が気に入ってきた。キャントリップというのは誰もプレイしてないような呪文やそれ以外の弱すぎてデッキに入らないような効果を持ちつつも、その唱える際のコストを場に色マナのある土地があるかどうかにする……つまりマナ自体は不要なんだ!
 何もできないだろうと思ってた対戦相手は驚き慌てることになるだろう。
 そして唱えた瞬間にカードを1枚引く。これで手札の消費は補填される。典型的な「この手札があのカードだったらなあ」的な問題は解決だ。さらにカードの回転を高めてくれるから土地問題にも効果がある。
 とはいえそういった副次的効果を除けば大して盤面に影響は与えない効果した持たないカードになるだろう。キャントリップのこれらの特徴のうち、一部だけ使ってみるという可能性もある。


 興味深い点としてはリチャードがこの「キャントリップ」として挙げた効果のほんの一部分だけが実際に「キャントリップ」と呼ばれることとなり、それ以外の部分がピッチスペルとなった点だ。

 マジックとはルールを破るゲームだ。新たなコンセプトを生み出す際にキーとなるのは、マジックというゲームの仕組みの中で特に確立された不変的と思われている側面を見つけることだ。

 その上で、その固定観念を打ち破るメカニズムを生み出すんだ。リチャードとプレイテストメンバーたちは、土地を全てタップしたプレイヤーは無防備である、という点に目を付けたわけだ。

 マナを生み出せないプレイヤーは対戦相手に何をされようと邪魔できない……そんな決まりに従う必要なんてないという思いから生み出されたのが初期のピッチスペルたちだったわけさ。

 さて、時計の針を数年先まで進めてみよう。今は1995年の秋、そう私が初めて開発部に加わった日だ。その日、私はアライアンスのデベロップメントチームの打ち合わせに参加させられた。

 最近ではデベロップメントチームといえば4~5人で構成されているが、アライアンスのチームは開発部のデザイナー以外の全メンバー(に加えて何人かの開発部以外のメンバー)によって構成されていた。たしか14人くらいの人数だったはずだ。

 さて、私が加わったとき、すでにアライアンスの開発はかなり佳境に入っていた。初めてカードのカタログファイルを見たときのことをまだ覚えてるよ。このセットの目玉カードは間違いなくピッチスペルだ、と真っ先に思ったこともね。

 より正確に言えばピッチスペルの《意志の力/Force of Will》こそこのセットの目玉になるだろう、とね(ちなみに当時の開発中の名前は《Stop Spell》だった)。

 そう、アライアンスのデザイナーたち(スカッフ・エリアス、ジム・リン、クリス・ペイジ、デイヴ・ペッティ)はリチャードの暗示していた「無料の」呪文のアイデアを覚えており、それを実現するべく挑戦を試みていたのさ。


ルール外のルール

 ここからさらに話は面白くなる。アライアンスのデザインチームのその挑戦とは一体なんだったのか? そして、その試みの障害とは?

 まず1つ目の挑戦として、ピッチスペルには1つ大きな問題があった。マジックの色の役割は非常に繊細なバランスの元に成り立っている。プレイヤーは望むもの次第で異なる色を選ばざるを得ない。

 しかし、もしプレイヤーが望むものを簡単にどんな色のデッキにでも散らして入れることができたらどうなるか。それすなわちカラーホイール(註)の崩壊だ。
(註) カラーホイール
 原文では「Color Wheel」。マジックの色の役割は円を5つに切り分けたカラーパイの形で語られることが多く、その見た目を指して「カラーホイール(= 色の車輪)」と称することがある……という説明であってるか若干自信がないが、とりあえず「色の役割」と同じ意味にとってもらえれば大丈夫(のはず)。

 カラーホイールをつなぎとめているのはマナだ。

 たとえば呪文を打ち消したいプレイヤーは青マナが必要だ。しかしピッチスペルはそんなマナの必要性を無視してしまう。《意志の力/Force of Will》があればプレイヤーは青マナを有せずに相手の呪文を打ち消せてしまう。

 つまりアライアンスのデザイナーは赤の魔法使いが気軽にデッキに打消し呪文を足せないよう、なんらかの手段で工夫する必要があったわけだ。

 次に2つ目の挑戦として、デザイナーたちはなんとかピッチスペルをゲームの序盤から撃てるようにしたかった。

 実のところ、《意志の力/Force of Will》が作られたの目的の1つは、プレイヤーが自分の最初のターンを迎える前に《対抗呪文/Counterspell》を唱えられるようにすることだった。誰だって自分の最初のターンが来る前に致命傷を負いたくはないだろう?
(余談)
 原文ではここに「沼セット、モックス、モックス、ブラックロータス、暗黒の儀式で《精神錯乱》唱えます。7枚捨ててください」「なんてこった」という画像のキャプションが記載されているが、画像自体は記事が古すぎて載っていない。おそらく会話に登場するカード群が紹介されていたものと思われる。

 3つ目の挑戦として「土地を全てタップしているときにこそ使いたくなる効果でありつつも、アグレッシブに使ったときに相手を瞬殺してしまわないような効果」を思いつかなくてはいけなかった。

 そして最後に、言わずもがなだが、4つ目としては彼らはこれらの条件を可能な限りシンプルに分かりやすくエレガントに達成する必要があり……実際に彼らはそれを達成した。この事実だけでも彼らのデザイナーとしての実力を証明するに十分と言えるだろうね。

 さて実際にどんなカードが生み出されたのかは、君たちもすでに十分知っていることだし、ここは彼らがどんな思考プロセスを経たうえで結論に辿り着いたかを考えてみよう。

 おっと、念のため。彼らがこのプロセスを経ているそのとき、私はまだ現場にいなかった。つまりここから紹介するのは、彼らはおそらくこのようにして問題を乗り越えていったのだろう、という私の推測だ。

 さて、2つ目の挑戦として挙げた「ゲームの序盤から唱えられるようにすること」がもっとも制約として厳しいように見える。ここから始めてみようか。

 カードをまだプレイしてない状態から払える代替コストといえばなんだろう? その状態で君が持っているリソースとは?

 さて、ゲーム開始時に持っているリソースといえば、何よりもまず先に思いつくのはライフと手札だ。

 ああ、もちろんそれ以外にも選択肢はあると言えばある。将来的なドローを諦めたり、対戦相手にリソースを与えたり……色々だ。しかしエレガントさという意味ではまずこの2つ、ライフと手札だろう。

 さて、もしライフをリソースとした場合はどうなるか。もっとも大きな問題は色だ。このリソースを色と紐づけることは非常に難しい。

 しかし逆に手札であればその問題をずっとエレガントに解決できる。何しろ手札には色がついているからだ。赤単色のデッキを使っているプレイヤーの手札は青いカードを持っていないんだ。

 よってピッチスペルは適切な色のカードを捨てることを代替コストとすればいい。

 ただ皮肉なことにアライアンスのデベロップメントチームはこれら2つのリソースは両方使うこととなった。ピッチスペルの中で青の呪文、《意志の力/Force of Will》だけが強すぎることが分かったからだ。
(註) 《意志の力/Force of Will》だけ
 《意志の力/Force of Will》は確かに代替コストに手札とライフを要求するが、実際にはこの《意志の力/Force of Will》以外にも手札とライフの両方を大体コストとして要求するピッチスペルがアライアンスにはある。黒猫のイラストで人気の《Contagion》がそれ。

 さて、ピッチスペルが機能することが分かったことで、チームは次の段階に進む必要があった。すなわち、ピッチスペルの魅力を減じることのないような素晴らしい効果を思いつかなくてはいけなかった。

 まずカードはインスタントである必要がある。何しろピッチスペルは、こっちがタップアウトしてるときに使って相手を驚かせる「リアクション的な」カードだからだ。

 さて、それを踏まえたうえで、どんなインスタントであるべきだとチームは考えたのだろうか。まず《紅蓮操作/Pyrokinesis》から見てみよう。
Pyrokinesis / 紅蓮操作 (4)(赤)(赤)
インスタント
あなたは、この呪文のマナ・コストを支払うのではなく、あなたの手札にある赤のカード1枚を追放することを選んでもよい。
好きな数のクリーチャーを対象とする。紅蓮操作はそれらに4点のダメージを、望むように割り振って与える。
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Pyrokinesis/

 赤という色の主要なテーマは常に変わることなく「直接ダメージを与えること」だ。そしてそれは多くの場合においてインスタント速度で、だった。

 つまり赤のピッチスペルがダメージ呪文となるのは至極当然のことだ。ただ、伝統的に赤の直接ダメージ呪文はクリーチャーもプレイヤーも対象にとれる汎用性の高いものだったが今回の場合はプレイヤーにも撃ててしまうとちょっとした問題がある。

 もし《紅蓮操作/Pyrokinesis》がクリーチャーもプレイヤーも対象ととれるとなるとどうなるか。《紅蓮操作/Pyrokinesis》だけのデッキは対戦相手のターンが来る前にすら12点ダメージを本体に撃ち込めることになる。

 1枚引けばさらに4点追加だ。そして2ターン後にはゲームが終わる。ピッチスペルの魅力は「驚き」であって「速度」ではない(もっとも、そう上手く狙い通りにいかなかったのは周知の事実ではあるが)

 そんな感じで、アライアンスのデザイナーたちは能動的でなくより受動的な呪文となるよう細心の注意を払いつつピッチスペルをデザインしていった。

 《紅蓮操作/Pyrokinesis》と《Contagion》はクリーチャーを除去し、《意志の力/Force of Will》と《古参兵の傷痕/Scars of the Veteran》は呪文とダメージを防ぐこととなった。

 アライアンスのピッチスペルの中でもっとも攻撃的なカードである《狩りの報奨/Bounty of the Hunt》もどちらかというと相手へのダメージを高めるより自軍のクリーチャーを守るために使われたし、仮に攻撃的に使おうとした場合も3ターンキルをできるほどの速度ではなかった。
Scars of the Veteran / 古参兵の傷痕 (4)(白)
インスタント
あなたは、この呪文のマナ・コストを支払うのではなく、あなたの手札にある白のカード1枚を追放することを選んでもよい。
クリーチャー1体かプレインズウォーカー1体かプレイヤー1人を対象とする。このターン、それに与えられる次のダメージを7点軽減する。それがクリーチャーであるなら、次の終了ステップの開始時に、これにより軽減されたダメージ1点につき、それの上に+0/+1カウンターを1個置く。
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Scars+of+the+Veteran/

Bounty of the Hunt / 狩りの報奨 (3)(緑)(緑)
インスタント
あなたは、この呪文のマナ・コストを支払うのではなく、あなたの手札にある緑のカード1枚を追放することを選んでもよい。
1体か2体か3体のクリーチャーを対象とし、それらの上に3個の+1/+1カウンターを割り振って置く。これによりあなたがクリーチャーの上に置いた各+1/+1カウンターについて、次のクリンナップ・ステップの開始時にそのクリーチャーから+1/+1カウンターを1個取り除く。
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Bounty+of+the+Hunt/


継続は力なり

 前述の通りアライアンスのデザイナーたちはピッチスペルのゲーム序盤における強さを模索した。それに対し、ミラージュとビジョンズのデザインチーム(ビル・ローズ、ジョエル・ミック、チャーリー・カティノ、ドン・フェリーチェ、エリオット・シーガル、ハワード・カーレンベルク)はその逆の可能性を探った。

 ゲームが進むにつれて盤面のリソースは積み重なっていく。この盤面のリソースをコストとして消費するピッチスペルはどうだろう?

 デザインチームのサブリーダーであったビル・ローズによると、元々《火炎破/Fireblast》は場に並び過ぎた余剰の土地を生かすためにデザインされたそうだ。

(そうだね、君たちも知っての通り、実際の使われ方はそうではなかった。デザイナーの生み出したメカニズムの(別の)有用な使い道をプレイヤーたちが発見するというのは良くある話だ)

 そしてそのコインの裏側を探索しにいったミラージュのデザイナーたちはそこに代替コストの新たな可能性が広がっていることを知ったんだ。

 対応するタイプの色つきパーマネントを手札に戻したり生け贄に捧げたりするというコスト。対応する基本地形を手札に戻したり生け贄に捧げたりするというコスト。戦場以外の、例えば墓地などのカードをゲームから追放するコスト。

 さらに言えば、これらのコストはゲーム序盤には支払うことができないため、より攻撃的な効果を持つピッチスペルのデザインが可能になった。
(余談)
 原文ではここに「マスクスブロックのこれら3枚のカードはピッチスペルのまた違った可能性を見せてくれた」という画像のキャプションが記載されているが、画像自体は記事が古すぎて載っていない。マスクスブロックのピッチスペル、かつ手札以外をコストとする呪文という意味では《噴出/Gush》、《殺し/Snuff Out》、《土地譲渡/Land Grant》あたりか。


マスクスの下に隠された顔

 次のピッチスペルに関する革新的発見はメルカディアン・マスクスのデザインの中でもたらされた。

 このセットのデザインチーム(マイク・エリオット、ビル・ローズ、そして私の3人)は、ピッチスペルの再登場を画策していた。加えて、ただ復活させるに留まらず、さらなる深みを探ろうと決めていた。

 そのため、このデザインチームは過去のピッチスペルから多くの気づきを得た上で、様々な試みを模索していた。

 それは例えば、特定の色を対策するピッチスペル、対戦相手にリソースを与えることをコストとするピッチスペル、呪文カードではなく土地カードを捨てる必要のあるピッチスペルなどだ。

 前述したマスクスブロックのデザインにおいて個人的に最も興味深かった点は、ピッチスペルの可能性がなんと広いのか、ということだった。

 もちろんピッチスペルの可能性には危険性もあった。そして実際に開発部の歴史の中でその強さを過小評価し過ぎてしまったこともあった。

 しかしそれでもなおピッチスペルという世界にはまだ多くの可能性が確かに残されている。私たちはまた何度でもここに足を踏み入れることになるだろう。


 というわけで過去のメカニズムを再訪する小旅行は楽しんでもらえただろうか。このような記事を読んでもらうことで《意志の力/Force of Will》のように美しく洗練されたカードが生まれるまでには多くの難しい判断が下されていることを知ってもらえればと願っている。

 来週もまたこのコラムでお会いしよう。次回は有名どころのカードの生まれたばかりの写真を紹介しようと思っている。それまで君たちが土地をフルタップしつつも意味ありげな笑みで対戦相手を翻弄できるよう祈ってるよ。
【翻訳】開発中のセットに付けられるコードネームの歴史/Codename of the Game【DailyMTG】
Mark Rosewater
2002年08月12日
元記事:https://magic.wizards.com/en/articles/archive/making-magic/codename-game-2002-08-12-0

 そこそこ高級なレストランに行くとコース料理の合間にウェイターが小さなシャーベットを持って来てくれる。次の料理に備えて口の中を一度さっぱりさせてくれる箸休め的な理由だ。

 今日のコラムもそれだと思ってくれ。

 実のところ、ここ数回に渡って非常に「重たい」内容の記事が続いてしまった。そこで今週は少し「軽い」内容を扱ってもいいかと思った次第だ。

 開発部の分厚いカーテンの裏に広がる世界の中でもこれまで紹介してきたものとはまた少し違った一面であり、そして(ここ数回の内容と違って)賛否の議論を生じさせないような内容(だと私が考えている)ネタだ。

 セットの開発中の仮の名前、俗に言う「コードネーム」はマジックを構成する要素の中では決して重要度の高いものではない。しかし1つのコラムで取り上げてみるには十分面白いネタではある。


まずはコードをつないで

 なぜセットにコードネームが存在するのか? どんな理由があって付けられるのか? うん、よくぞ聞いてくれた。

 まずコードネームを必要とする最初にして最大の理由は、単純に開発部がウィザーズオブザコースト社のどの部署よりも製品開発において先んじているからだ。セットに名前を付ける仕事してる部署よりもさらにね。

 そのため、今現在どのセットの話をしているのかが分かるような工夫が必要となる……というのがコードネームが必要な理由だ。
(余談)
 元々はここに画像が説明文と共に表示されていたらしいが、現在のアーカイブではその文章のみ表示されている。ちなみに説明文は「開発の初期の段階ではプレイテスト用のカードにもセットの実際の名前ではなくコードネームが記載されることになる」とある。


 さて、なぜコードネームにはいつもふざけた名前が選ばれるのか? いやいや、最初からそうだったわけじゃないんだ。マジックが生まれた当初は、デザインチームが考案したちゃんとした名前が開発中のセットにコードネームとして与えられていた。

 そして多くの場合、ウィザーズオブザコースト社がそれを発売する段階になった際、わざわざ変える必要もないか、と判断してコードネーム時の名前のままでセットは出荷されていった。

 これで何の問題もなかったんだ。アラビアンナイトやアイスエイジといった名前だった頃はね。じゃあいつ問題になったか、というと、ザ・ダークという名前のセットが生まれてしまったときだ。

 セットに問題があったわけじゃない。

 ザ・ダークにはいくつもの素晴らしいカードが収録されていた。例えば《ボール・ライトニング/Ball Lightning》や《Preacher》といったカードだ。ここで言及している問題というのはセットの名前、それだけだ。

 とりあえず文法的な問題は脇に置いておくとして(正しい英語の文法として「The Dark set」ではなくて「the The Dark set」になってしまうという点とかね)、単純にこの名前には意志が感じられない。

 この秋に君たちの元に届くであろう新セット、その名はザ・ダーク!(うおー!)どんなセットかって? えーと、うん、舞台はドミナリアで、とても……ダークな感じだ。(おおー)色々と見えづらくてね。ホラーな感じもあって……ダークな感じで。(おお……)

 コードネームの問題点は、というかネーミングという行為それ自体の問題点として、それが根付いてしまうということだ。最初に聞いたときは「なんじゃそりゃ」と思ってしまうような変な名前であっても何百回と聞いてれば「まあ、ありかな」と思えてくる。

 そこで開発部は、間違ってもその開発中のコードネームのままでリリースしようなんて考えが起きないように、対策を考えた。コードネームのルールその1、それは「間違ってもそのまま製品化してしまうことのないような馬鹿げた変な名前でなければならない」というルールだ。

 そうすることで、関係者全員が「ああ、実際に発売されるときはこの名前のままじゃないんだな」と聞いたその日から理解できるわけだ。

 これがルールその1だ。つまりその後も様々なネーミングに関するルールが続々と生まれている(その通り。マジックでルールが定められているのはゲームプレイに関する部分だけじゃない)

 どんなルールが生まれたかについては、このあとマジックのコードネームの歴史をご案内していく中で合わせて紹介させてもらおう。さあ歴史ツアーの始まりだ!


▼ アライアンス以前のセットについて

 前述のとおり、アライアンス以前のセットに付けられていたコードネームは製品版の名前と同じだ。じゃあ、次にいこうか。


▼ アライアンスのコードネーム:Quack

 実は以前にも私のコラムで紹介したことがあるが、アライアンスなど初期のセットは、コードネームをマッキントッシュ(註)のシステム用サウンドファイル名からとっている。

 開発部のメンバーがコンピュータ(当時は全てマッキントッシュだった)を立ち上げ、開発ファイルの入ったフォルダを開くとその音が鳴るわけだ。馬鹿げてるって? その通り。だからこそそうしたのさ。
(註) マッキントッシュ
 今では「マック」のほうが通りが良いコンピュータおよびOSの名称。90年代後半は冗談抜きでパソコンと言えばマック(アップル)だった。部室に転がっていた当時のパソコン雑誌の表紙にデカデカと「10年後、パソコンは全てマックになる」と書いてあったのを未だに覚えている。


▼ ミラージュのコードネーム:Sosumi

 元々のデザイン段階では、ミラージュは「Menagerie(動物園)」と呼ばれていた(ちなみにミラージュのデザイン自体は、アルファ版が発売されるよりも前から始まっている)

 その後、ウィザーズオブザコースト社が設立され、このセットが開発部へと渡ったとき、あらためてマッキントッシュのシステム用サウンドファイル名からコードネームを名づけられることとなった。それが Sosumi だ。

 という話を記事で紹介したとき、読者からこんな情報が送られてきた:

「なんで「Sosumi」なんていう名前のシステム用サウンドファイルがあるのかについてですが、まずそもそもアップルは以前にアップルレコード(ビートルズ)ともめ事を起こしたことがあって、これは最終的にアップルコンピュータは二度と音楽事業に関わらないという誓約書を交わしたことで決着しました。
 その後、アップルが無料のサウンドファイル込みでコンピュータを販売したんですが、あるプログラマが、サウンドを同梱することによってアップルレコードに訴訟を起こされる可能性があるのでは、と考えてシステム用サウンドファイルの1つを『So sue me(訴えてみろよ)』とも読める『Sosumi』(註)と名づけたらしいです」
(註) Sosumi
 個人的に確認した範囲では、最初に名づけたサウンドファイル名があまりに音楽的(ChimeもしくはXylophone)だったことで、それを理由に訴訟を起こされるのではと保守的な判断を下した上司に名称の変更を指示され、それ以前にも係争のせいで多くの修正が飛んできていたことに苛立っていた担当者(Jim Reekes)は「じゃあ訴えてみろよ」という怒りをオブラートとジョークに包んで「これは音楽とは何ら関係ない日本語です」という説明で「Sosumi」という名で提出した……らしい。


▼ ビジョンズのコードネーム:Mirage Jr.

 実のところ、このセットはコードネームを持たなかった。開発のかなり初期の段階で正式名が決まってしまっていたからだ(これほど早く決まったのはビジョンズが最後だ)

 ただ、その正式名(ビジョンズ)が決まるまでのごく短いあいだ、私たちはそれを「Mirage Jr.」というコードネームで呼んでいた。

 ああ、そうそう、言い忘れてた。前述した「Menagerie」だが、あまりに大きなセットだったので私たちはそれを2つに分けてリリースすることにした。それが「ミラージュ」と「ビジョンズ」だ。


▼ ウェザーライトのコードネーム:Mochalatte

 コードネームにマッキントッシュのシステム用サウンドファイル名を使おうというネタの継続を開発部が諦めたのはこのセットからだ。

 諦めた理由はごく単純で、サウンドファイル名のストックが尽きたからだ(念のため付け加えておくと、サウンドファイル名を元ネタにコードネームを付けるという慣習は開発中のセットだけでなく、他のマジック関連商品でも同様に行われていた)

 結局、デザインチームはその開発中のセットを空想上のコーヒー的な飲み物の名前で呼ぶことにした。なぜそうなったのかはよく分からないが、おそらくデザインチームのミーティングがよく近くのスターバックスで行われていたからだろうね。


▼ テンペストのコードネーム:Bogavhati

 このコードネーム以上に聞いた人を戸惑わせたコードネームはなかったね。

 命名の経緯としては、まずテンペストというセットは主要テーマの1つに毒(Poison)があった。そしてマイク・エリオットの提出してきたカード案の1つに《Bogavhati》という名の土地があった。その土地は、対象のクリーチャーを「毒性」にしてくれる代わりにあとで手札へ戻ってしまうというデメリットとセットとなる起動型能力を持っていた。

 作成者のマイクにカード名称の由来について尋ねたところ、マイクは「インドの神話が元ネタだ」と教えてくれた。なんでも Bogavhati というのは毒蛇の地だそうだ。毒に関するセット(になると当時は思っていた)の名前にちょうどいいと思われたので、私はセットのコードネームにそれを用いることにした。

 ちなみにこの英語名のつづりは、名称を口頭で聞いた私が勝手に作ったものだ。だからグーグルで検索してもマジック関連の記事しか見つからないだろうね。

 そうそう。テンペストはその開発中のコードネームをセットに収録されたカードでネタにしている最初のセットでもある。そのカードとは、もちろん《ヴァティ・イル=ダル/Vhati il-Dal》だ。
(余談)
 元々はここに画像が説明文と共に表示されていたらしいが、現在のアーカイブではその文章のみ表示されている。ちなみに説明文は「この Bogavhati というカードはその名をテンペストのコードネームに転用され、かつテンペストのカード名《ヴァティ・イル=ダル/Vhati il-Dal》としても使われることとなった」とある。


▼ ストロングホールドのコードネーム:Rachimulot

 私は別サイトでトリビアネタのコラム「Question Mark」を連載している(ちなみにsideboard.comだ)。そこでいつか使うかもしれないクイズのネタをここで披露しよう。

 問題:マジックのセットのコードネームのうち、マジック以外のトレーディングカードゲームのカードが元ネタとなっているものは?

 答えは、Rachimulot だ。これはダンジョンズアンドドラゴンズTCG「Spellfire」に収録されているカード名なんだ。さて、なぜこれが採用されたか。

 ストロングホールドのデザインが行われていた頃に Spellfire がカード画像つきで紹介された。その中の1枚である Rachimulot というモンスターのイラストがあまりにも間が抜けてて開発部の皆の印象に残った(排水溝にいるゴム製のネズミのイラストだ)。

 それがあまりに面白かったのでストロングホールドのコードネームとして使うことにしたわけさ。


▼ エクソダスのコードネーム:Gorgonzola

 開発部が単語それ自体が面白い響きを持っているという理由だけでコードネームに採用し始めたのはこのセットからだったようだ。もしくは、これもダンジョンズアンドドラゴンズTCG「Spellfire」が元ネタだったかもしれないし、そうでなければ単に当時「そろそろ『味の濃い』セットを作らないな」と冗談めかして言っていたことが原因かもしれない。


▼ ウルザズ・サーガのコードネーム:Armadillo

 開発部以外がコードネームを決めた最初のセットがこれだ。マジックのブランドチームが未来のセットについて話す必要が生じて際に、そのセットに仮の名前として Armadillo と付けた。

 しかし開発部としては、コードネームを決めるのはうちらの分野だという意地があったから、この勝手な行動を厳しく取り締まり、以降そういうことはなくなった(コードネームのことを誰よりも気にしてるのがうちの部署だった、というだけのことかもしれないが)

 何にせよ、この Armadillo が採用されたことによってコードネームのルール(面白い響き)はきちんと守られたわけだ。

 そうそう、このセットは収録カードでコードネームがネタにされている2つ目のセットでもある。《冬眠/Hibernation》のカードイラストをよく見てくれ。アルマジロがいるだろう?


▼ ウルザズ・レガシーのコードネーム:Guacamole (註)

 面白い響きの単語をコードネームにするというアイデアが生まれたとき、真っ先に思いついた候補は Guacamole だった。私が特に好きな「変な名前なもの」だったからだ(もっとも皮肉なことに Guacamole 自体はそれほど好きなじゃない)。思いついてから3セット目でようやく使うことができたよ。
(註) Guacamole
 メキシコ料理の一種でアボカドを主原料としたペースト状の食べ物。日本語ではグワカモーレ、ワカモレ、ワカモーレなどと表記される。


▼ ウルザズ・デスティニーのコードネーム:Chimichanga

 先週、アラビアンナイトに革新的なデザインがいくつも含まれていたという話をした。ここでコードネームの革新について紹介しよう。

 そう、コードネームのシリーズ化だ。

 おっと勘違いしないでくれよ。Chimichanga という単語はそれ単体で十分面白い響きを持っている。しかし同時にそれは1つ前のセットのコードネームと同じテーマ……メキシコ料理という点でも共通しているんだ。

 そしてここで起きた命名ルールの革新は、その後のコードネームの方向性を完全に決定づけることとなった。


▼ メルカディアン・マスクス/ネメシス/プロフェシーのコードネーム:Archimedes、Euripides、Dionysius

 ブロック全体を通して同じテーマでコードネームが名づけられた最初の例がこのマスクスブロックだ。さて、なぜギリシャ人の名前が並んだのか?

 開発部が面白い響きの単語を思いつこうとしていたところ、当時の私のガールフレンド(現在の私の妻)であるローラから Archimedes という提案があった。さて同時にテーマを考える必要があるぞ、というわけで残りの2つもギリシャ人の名前にしたというわけさ。

 付け加えると、他のテーマではなくギリシャ人の名前というテーマを選んだ理由は、単に変な響きというだけでなく、つづりが難しいからだ。

 開発部はこう考えたんだ。単に響きが変だというだけでも面白いけど、他部署のメンバーが聞いたときにつづりで混乱するような名前だとさらに面白いんじゃないか、とね。


▼ インベイジョン/プレーンシフト・アポカリプスのコードネーム:Beijing、Hong Kong、Shanghai

 ご覧のとおりインベイジョンブロックのコードネームは中国の都市名から取られている。マイク・エリオットがこのテーマを選んだ理由は、つづりが分かりづらい名前という直近の方向性に沿ったものだからだろう。ちなみに最初は違う名前が候補だったが、あまりにつづりが難しすぎたため変更を余儀なくされた。


▼ オデッセイ/トーメント/ジャッジメントのコードネーム:Argon、Boron、Carbon

 つづりが分かりづらい単語を使って皆を困らせようという私たちの流れに待ったをかけたのがこのオデッセイブロックでのブランドチームのネーミングだった。

 ブランドチームは間違えづらくシンプルなコードネームにしたいと考えたんだ。さらにここでコードネームに新たな革新がもたらされた。順序良く並ぶネーミングだ。見ての通りこれらの名前は「A、B、C」とアルファベット順になっている。

 しかしなぜ元素名にしたのか……見当もつかない。いずれにせよ「化学なんて人生で使い道ないだろ」って言う人は考えを改めないといけないね。


▼ オンスロート/レギオン/2003年春発売予定のセットのコードネーム:Manny、Moe、Jack

 ブランドチームの編み出したABC順の名前の付け方に開発部はちょっとイラッと来たので、代わりにあらかじめ順序の決まっている「3つでセットになっている名称」を使うことにした。

 具体的には、オンスロートブロックの開発リーダーであったビル・ローズは Manny、Moe、Jack というコードネームを選択した。これの元ネタはアメリカで車のパーツなどを扱っている会社の名前(Pep Boys: Manny, Moe, and Jack)だ。

 だがこのネーミングには1つ問題があった。名前自体に順序があるというルールは満たしていたが、大半の開発部メンバーは Pep Boys が近くにない地域で生まれ育ったせいで「Manny、Moe、Jack」の順序が分からず混乱したんだ。
(余談)
 2003年春発売予定だったセットは「スカージ」という名でリリースされた。


▼ 2003年秋/2004年冬/2004年春発売予定のセット:Bacon、Lettuce、Tomato

 ベーコンのデザインチームのリーダーは私だ。来月、このセットの開発はデベロップメントチームへと引き渡される(ちなみにデベロップメントチームのリーダーはランディ・ビューラーだ)

 レタスのデザインはもう間もなく始まる。誰でもすぐにセットの順序が分かるコードネームを用いた初めてのブロックということになる。
(余談)
 2003年秋/2004年冬/2004年春発売予定だったセットは実際のリリース時にはそれぞれ「ミラディン/ダークスティール/フィフス・ドーン」という名になった。


▼ 2004年秋/2005年冬/2005年春発売予定のセット:Earth、Wind、Fire

 信じるか否かは君次第だが、随分先に思えるこのブロックすらもすでにデザインの初期段階にある(訳注:この記事は2002年08月掲載)。

 これらのコードネームはあと少しで Blood、Sweat、Tearsに決まるところだったが、2回続けてブロック最初のセットのコードネームが頭文字「B」で始まるのは好ましくない、という判断で下されたことで別の名称が採用された。
(余談)
 2004年秋/2005年冬/2005年春発売予定だったセットは実際のリリース時にはそれぞれ「神河物語/神河謀叛/神河救済」という名になった。


▼ 2005年秋/2006年冬/2006年春発売予定のセット

 このブロックにはまだコードネームがないが、現時点の最有力候補は Huey、Dewey、Louie だ。
(余談)
 2005年秋/2006年冬/2006年春発売予定だったこれらセットは、実際には「Ctrl/Alt/Delete」というコードネームを与えられた。なお実際の製品名はそれぞれ「ラヴニカ:ギルドの都/ギルドパクト/ディセンション」という名前だった。


 というわけでこれが現存する全てのコードネームだ。箸休めとしてはちょうど良かったんじゃないかな。次のコース料理はまた7日後に振る舞われるよ。メニューは「マナを必要としないカード」だ(おっと、念のため。土地じゃないぞ)

 それまで、私と同じように君たちも自分の仕事を楽しめるよう祈ってるよ。
【翻訳】マジックの世界に変化をもたらした千夜一夜/It happened one nights【DailyMTG】
Mark Rosewater
2002年08月05日
元記事:https://magic.wizards.com/en/articles/archive/making-magic/it-happened-one-nights-2002-08-05

 アラビアンナイト週間へようこそ!

 今週はマジック初のエキスパンションに敬意を表す週となった。このセットをデザインしたのは誰あろうマジックの生みの親、リチャード・ガーフィールドその人だ。

 さて今週の私のコラムでは、デザイナーの視点からアラビアンナイトを眺めてみたら面白いんじゃないかと思った。このセットが一体マジックの世界に何をもたらしたのかを知らしめるためだ。

 この78枚のカードセットにどれだけの創意工夫が詰め込まれていたかを知れば、君たちもさぞかし驚き、かつ楽しんでくれることだろうね。


昔々、あるところに

 おっと、本題に入る前にまず紹介したいことがある。アラビアンナイトという舞台の幕が開く以前、マジックを取り巻く環境がどのような状況だったのかだ。

 そのときの状況について開発側の視点から語った記事はすでに今週のコラムでリチャードが書いてくれている。そこで私はアラビアンナイトがリリースされた当時の状況をプレイヤー側の視点から語ってみたいと思う。

 アラビアンナイトが発売されたのは1993年の12月のことで、マジックが初めて世に出たのはその半年前の夏、それが地獄の門が開かれた瞬間だった。

 アルファ版が店頭に現れ、即座に姿を消した。再版版であるベータ版が姿を消すまでにかかった時間はさらに短かった。

 ただ、当時のマジックプレイヤーたちは非常に熱狂的ではあったが規模自体はとても小さかった。なぜプレイヤーの規模が小さかったのか? 理由はいくつかある。

 1つ目の理由として挙げられるのは、当時のCEOであるピーター・アドキンソン(ウィザーズオブザコースト社の創設者の1人)のとったマジックの販売戦略だ。

 彼は、マジックを積み込んだ車で太平洋沿岸を南北に移動しつつ、ホビーショップを見かけるたびに直接売り込みに行く、という手法でマジックを売り歩いた。

 その結果、最初期のマジックはほぼアメリカ西海岸沿いの販売店にしか行き渡らず、マジック人気の広がりも主にその地域に限られたものとなったわけだ。

 2つ目の理由として、マジックの最初に刷られた枚数自体がそれほど多くなかったことが挙げられる。単純にカード自体の枚数が少なかったせいでプレイヤー数も少なかったのだ。

 今ならマジックを始めようというプレイヤーは店頭に行けばすぐにカードを購入してその日に始められる。実に簡単だ。しかし当時はそうじゃなかったんだ。

 店頭に商品が並んでいることはまずなく、手に入れるためには店にカードが入荷するまで待つ必要があったし、入荷しても1日で売り切れるから当日しか買うチャンスはなかった。

 私自身、ベータ版が発売されたとき、スターターとブースターパックをそれぞれ2箱ずつまとめて購入した。一緒にプレイして欲しい友人たちの分も確保しておくためだ。

 さて、あらためて時計の針をアラビアンナイトが誕生した1993年の12月まで進めよう。

 私はサンフランシスコに住んでる友人のデビッドを訪ねた。彼と出会ってから一緒に近くの喫茶店へ向かった。そこでマジックがプレイされているという噂を聞いたからだ。

 そこにいたプレイヤーたちと話し込んでいると、店に入ってきたプレイヤーが「入荷してたぞ」と言ったんだ。

 驚いたね。私が住んでるロサンゼルスの地元では、アラビアンナイトの入荷は1月になると言われてたからだ。もちろんこのチャンスを逃すつもりはなかった。私と友人はさっそくゲームショップへと向かった。

 ただ、私が購入したのは数パックだけだった。何しろすでに地元で2箱予約済みだったからね(ちなみに、私が購入したこのアラビアンナイトの購入量は、ワイオミング州全体で販売されたアラビアンナイトの量のほぼ2倍だった)


 私や友人たちは新たなセットの登場に興奮もしたが、同時に少し不安もあった。私たちはまだアルファ版やベータ版(註)に触れ始めたばかりで、私が出会うプレイヤーたちは、みんな私が見たこともないカードを持っていた。
(註) アルファ版とベータ版
 マジックの最初のセットはリミテッドエディションという名前で、これは2回刷られている。最初の第一刷を「アルファ版」、第二刷を「ベータ版」と呼ぶ。基本的に収録されているカードの内容は同じだが、アルファ版の諸々のミス(誤植や印刷上の誤りなど)の多くがベータ版では修正されている。

 当時のウィザーズオブザコースト社はカードの情報を厳しく管理しており、プレイヤーたちは実際にパックを開けてみないことにはどんなカードが存在しているのかを知る手段がなかったからだ(まだインターネットが今ほど普及していなかったからね)

 そんな状況だったから、新たなセットの登場は急なことのように思われたんだ。

 それに新しいセットはそれまでとまったく違う雰囲気だったことも困惑した理由の1つだ。アルファ版とベータ版は古典的な西洋風ファンタジーのに対してアラビアンナイトは……まあ、うん、アラビアンナイトだったからね。


 それでも新しいカードを見るのは非常に楽しいことだった。いくつかのカードはまさに私好みだった。一番はなんといっても《Diamond Valley》(註)だ。

 ただ、それ以外のカードはちょっと使い道が思いつかなかった。

 (2)(黒)(黒)で毎ターン自分にダメージを与えてくる5/5のクリーチャーとかね。どこの間抜けがこんなのをデッキに入れるんだ?(どんなカードが気になる君は《Juzam Djinn》(註)で検索してくれ)

 しかし何よりもアラビアンナイトが素晴らしかった点は、マジックという名のジェットコースターがまさに最初のデカい上り坂を全力で下ろうとしていることを教えてくれたことだ。これからが本番だぞ、とね。
(註) 《Diamond Valley》と《Juzam Djinn》
 前者は、クリーチャーを生け贄に捧げるとタフネス分のライフを得られる土地。マナは出ない。アラビアンナイトに登場する谷が元ネタ。
 後者は、本当は強いのにマジック黎明期は過小評価されたカードの代名詞として良く例に挙がるクリーチャー。当時はライフを得る効果が好まれた反面、自分のライフを削る効果はひどく嫌われたらしい。


気づかれない物語たち

 大学に在学していたとき、幸運なことに「放送と映画(Broadcast and Film)」を専攻することができた。要はテレビと映画を学ぶ学問だ。これを専攻にしたことで私は授業と称してテレビ番組や映画を観賞することができた。

 講義の1つは、初期の映画に関するものだった。その最初の授業で、私は「大列車強盗(Great Train Robbery)」という映画を見させられた。

 1903年の映画で、映画の主な内容はカウボーイの一団が列車強盗をはたらくというものだ。映画の途中で、カウボーイたちが列車を襲うシーンとその列車が向かう先である駅のシーンとで、カメラが交互に切り替わった。

 見終えたが、アマチュア制作のような映画で、それほど面白い出来ではなかった。映画のあと、教師が私たちに「なぜ私がこれを君たちに見せたか分かるかい?」と聞いてきた。

 生徒の誰も分からなかった。そんな私たちに教師はこう説明した。

「途中で列車と駅とで交互にが場面が切り替わってただろう? カメラを交互に切り替えることで2つの離れたシーンで起きていることを観客に同時に見せるこの手法を最初に取り入れたのがこの映画だ」

 革新的な何かが起きた瞬間というのはなかなか知られていないものだ。その何かの価値が認められた頃というのはそれがすでに普通のものとして一般に根付いてしまっている頃なので、誰かによって生み出されたものだということは忘れられている。

 アラビアンナイトはまさに大列車強盗だ。

 リチャードはトレーディングカードゲームというまったく新しいゲームを発明したことでは満足しなかった。彼はゲームを次のレベルへと押し上げたかった。

 今日のこの記事ではリチャードがアラビアンナイトを通じてマジックにもたらした様々な革新について紹介していきたいと思っている。

 念のため。これは網羅的なリストではなく、いくつか特筆すべきものを選んだリストに過ぎない。ほんの一部だ。

 それと、それぞれがどれだけその後のマジックのデザインに影響を与えたかの度合いを1個から3個の星の数で示すことにした(もっともこれはあくまで私の主観だ)。星が多いものほどマジックに与えた影響が大きいと思ってくれ。

 それでは始めようか。


▼ コントロールが移る効果/Stealing ☆☆

 相手のパーマネント奪うというアイデアはアルファ版の時点ですでにあった(《支配魔法/Control Magic》と《秘宝奪取/Steal Artifact》だ)。アラビアンナイトではさらにそこへひとひねり加えたカードが登場した。

 青のクリーチャーの《Old Man of the Sea》(註) は、それをタップし続けているあいだだけ対象のクリーチャーのコントロールを奪えるというカードだ。

 この効果にはその後に多くの子孫が生まれている(一部だけ紹介すると《Willow Satyr》、《魂の歌姫ルビニア/Rubinia Soulsinger》、《Preacher》、《海の歌姫/Seasinger》、《メリーキ・リ・ベリット/Merieke Ri Berit》、《ルートウォーターの女族長/Rootwater Matriarch》、《棺の女王/Coffin Queen》、《占有の兜/Helm of Possession》などがある)

 またコントロールを奪う効果に関していえば、アラビアンナイトの《アラジン/Aladdin》(註)によって、赤もパーマネントを奪うことが可能となった点が挙げられる。
(註) 《アラジン/Aladdin》
Aladdin / アラジン (2)(赤)(赤)
クリーチャー - 人間(Human) ならず者(Rogue)
(1)(赤)(赤),(T):アーティファクト1つを対象とする。あなたがアラジンをコントロールし続けているかぎり、そのコントロールを得る。
1/1
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Aladdin/

 この《アラジン/Aladdin》は(前述のカードと違い)これ1枚で複数枚のカードを奪うことができた。またこのカード以前と以後のマジックにおける変化は、目印無しにコントロールを得ることができるようになったことだ。

 あなたがオーナーでないカードをコントロールしていることを示す他のカードが戦場に存在せずとも対象のカードのコントロールを得ることが可能となった、ということだ。

 こうして過去に遡ると赤には元々コントロールを奪う効果があったという事実はなかなか面白い点だ。

 最近になって開発部は、一時的なコントロール奪取(代表的なのは青の《命令の光/Ray of Command》だ)の効果を青から赤に移すという決断を下したわけだが、歴史を遡れば赤という色には元々その要素があったわけだ。(そうそう、《命令の光/Ray of Command》も元をたどればレジェンドの赤の魔法である《Disharmony》が元ネタと言えなくもない)

 最後に《ガズバンのオーガ/Ghazban Ogre》(註)も紹介しておこう。これは自分自身で自身のコントローラーを変更してしまう、というコンセプトをマジックに初めて登場させたカードだ。これ以降、「自分のカード」と「相手のカード」の境目が曖昧になっていったんだ。
(註) 《ガズバンのオーガ/Ghazban Ogre》
Ghazban Ogre / ガズバンのオーガ (緑)
クリーチャー - オーガ(Ogre)
あなたのアップキープの開始時に、プレイヤー1人が他の各プレイヤーよりも多いライフを持つ場合、その最も多いライフを持つプレイヤーはガズバンのオーガのコントロールを得る。
2/2
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Ghazban+Ogre/


▼ 対戦相手が起動できる能力/Abilities Activated by the Opponent ☆

 前述の《ガズバンのオーガ/Ghazban Ogre》がコントローラーの境目を曖昧にしたカードだとすれば、その境目をまったく無くしてしまったのが《Ifh-Biff Efreet》(註)と言えるだろう。
(註) 《Ifh-Biff Efreet》
Ifh-Biff Efreet (2)(緑)(緑)
クリーチャー - イフリート(Efreet)
飛行
(緑):Ifh-Biff Efreetはすべての飛行を持つクリーチャーとすべてのプレイヤーに1点のダメージを与える。この能力はどのプレイヤーも起動してよい。
3/3
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Ifh-Biff+Efreet/

 マジックにおける大原則の1つに、ルールに聖域なし、が挙げられる。さすがにこのルールは絶対不変だろう、とプレイヤーが考え始めるや否や、デザイナーは盆を引っくり返すんだ。

 アラビアンナイトが登場するまで「私のものは私のもの、君のものは君のもの」だった。ああ、もちろん奪うことはできた。しかし奪ってコントロールを得た以上は「私のもの」であり、使えるのは私だけだった……そう、《Ifh-Biff Efreet》が登場するまではね。


▼ マナを出す以上のことができる土地/Lands That Did More ☆☆☆

 ベータ版には15種類の土地があった。5種類の基本土地と10種類のデュアルランドだ。これら15種類の土地は全てタップしてマナを出す以上のことはできなかった。

 しかしアラビアンナイトの開発に当たり、リチャードは土地のそれ以上の可能性に気づいたんだ。

 ……待てよ、もしかして土地にはタップしてマナを出す以上のことが出来るんじゃないか? カードを引いたり、ダメージを与えたり、象を再生したり(註)……そんな感じにアーティファクトやエンチャントのようなことができるんじゃないか、とね。
(註) 象を再生したり
 アラビアンナイトの土地、《Elephant Graveyard》のこと。タップすることで対象の象(Elephant)を再生できる。場所が墓場なのに再生するのはちょっと不思議。墓場行って死のうと意気消沈してたけどやっぱり生きよう(という活力を魔法で与える場所)、みたいな感じなんだろうか。

 その後しばらく経ってから開発部は手綱を引き締めることにした。土地が土地たり得るのはマナを生み出すからだ、と定義したんだ。

 おっと、もちろんマナを出す以外のことは一切まかりならん、という意味ではないよ(最近のカードを見てもらえば一目瞭然だとは思うが)

 ここで言っているのは、土地は必ずマナを生み出すべし、という意味だ。マジックにおいて土地とはマナを生み出すことで初めて土地たり得ると決めたんだ。


▼ コイン投げ/Coin Flips ☆☆☆

 アルファ版にはランダム性があった。まずプレイヤーはゲームを始める前にデッキをシャッフルする必要があったからね。

 しかしアラビアンナイトでリチャードはさらに一歩踏み込むことにした。個々のカードそれ自体にランダム性があってもいいんじゃないか、とね。

 例えば《スレイマンの壺/Bottle of Suleiman》だ。君は5/5の飛行するジンを得られるかもしれないし、得られないかもしれない。そんな不確定性があった。それ以外では《Mijae Djinn》や《Ydwen Efreet》などもまた違った形でランダム性を表現していた。
(註) 《スレイマンの壺/Bottle of Suleiman》
Bottle of Suleiman / スレイマンの壺 (4)
アーティファクト
(1),スレイマンの壺を生け贄に捧げる:コインを1枚投げる。あなたがコイン投げに勝った場合、飛行を持つ無色の5/5のジン(Djinn)・アーティファクト・クリーチャー・トークンを1体生成する。あなたがコイン投げに負けた場合、スレイマンの壺はあなたに5点のダメージを与える。
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Bottle+of+Suleiman/

 コイン投げのランダム性が大好きなプレイヤーもいたし、逆に大嫌いなプレイヤーもいた。そして開発部は、公式大会に出るプレイヤーたちよりもカジュアル環境のプレイヤーたちのほうがコイン投げを好むらしいと分かった段階で、コイン投げに関連するカードのパワーレベルを意図的に下げていった。

 いずれにせよ、リチャードがコイン投げのようなランダム性を楽しむ心を持っていなかったら、《丸砥石/Grindstone》や《汚れた契約/Tainted Pact》、《切除するもの/Scalpelexis》のような最近のカードたちもまた存在しなかったことだろう。


▼ 累加アップキープとキャントリップ/Cumulative Upkeep and Cantrips ☆☆☆

 開発部でよく議論の対象になる2つのネタがある。累加アップキープを持った最初のカードは何かということ、また、キャントリップを持った最初のカードは何かということだ(訳注:これら2つのメカニズムはいずれも一般的にはアイスエイジで登場したとされている)

 まず累加アップキープの解答に関しては3つの候補(註)がある。

 1つ目としてアルファ版の《停滞/Stasis》だ。リソースをロックしてしまうその効果とアップキープコストの支払いが組み合わさったことで、疑似的な累加アップキープのような動きとなっている。

 2つ目としてはアイスエイジで実際に「累加アップキープ」とテキストに記載されていたカードたち、例えば《Maddening Wind》などだ。

 3つ目としてはアイスエイジよりも前に発売されたアラビアンナイトの《サイクロン/Cyclone》だ。これは実際に毎ターンのアップキープの支払いが増加していく最初のカードだった。
(註) 3つの候補

① Stasis / 停滞 (1)(青)
 エンチャント
 プレイヤーは自分のアンタップ・ステップを飛ばす。
 あなたのアップキープの開始時に、あなたが(青)を支払わないかぎり、停滞を生け贄に捧げる。
 引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Stasis/

② Maddening Wind (2)(緑)
 エンチャント - オーラ(Aura)
 エンチャント(クリーチャー)
 累加アップキープ(緑)(あなたのアップキープの開始時に、このパーマネントの上に経年(age)カウンターを1個置く。その後あな たがこの上に置かれている経年カウンター1個につきアップキープ・コストを1回支払わないかぎり、それを生け贄に捧げる。)
 エンチャントされているクリーチャーのコントローラーのアップキープの開始時に、Maddening Windはそのプレイヤーに2点のダメージを与える。
 引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Maddening+Wind/

③ Cyclone / サイクロン (2)(緑)(緑)
 エンチャント
 あなたのアップキープの開始時に、サイクロンの上に風(wind)カウンターを1個置く。その後、あなたがそれの上に置かれている風カウンター1個につき(緑)を支払わないかぎり、サイクロンを生け贄に捧げる。支払った場合、サイクロンは各クリーチャーと各プレイヤーに、サイクロンの上に置かれている風カウンターの数に等しい点数のダメージを与える。
 引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Cyclone/

 次にキャントリップの解答だ。ただこちらは累加アップキープに比べるとずっと複雑なものとなる。

 アルファ版にももちろんカードを引く効果はあった。しかしそれらはあくまでもカードを引くこと自体が目的であり、副次的な2番目の効果としてカードを引くものはなかった。

 では他の効果のあとに追加で「カードを1枚引く」という効果が書かれていた最初のカードは、というとアラビアンナイトの《宝石の鳥/Jeweled Bird》(註)となる。
(註) 《宝石の鳥/Jeweled Bird》
 Jeweled Bird / 宝石の鳥 (1)
 アーティファクト
 アンティを賭けてプレイしない場合、プレイを開始する前に宝石の鳥をあなたのデッキから取り除く。
 (T):宝石の鳥をアンティにする。そうした場合、そのアンティにあるあなたがオーナーである他のすべてのカードをあなたの墓地に置く。その後カードを1枚引く。
 引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Jeweled+Bird/

 上記2つの問いの興味深い点としては、1993年12月発売のアラビアンナイトと1995年06月発売のアイスエイジのデザインが実は同時期になされていたということだ。つまりそれぞれの担当者の間でデザインのアイデアは共有されていたはず。

 もしかしたら《Cyclone》の増加していくアップキープコストを見たアイスエイジのデザイナーが累加アップキープを思いついたのか……それとも逆だったのか? 今となっては誰にも分からない。

 ただ、リチャード曰く、《宝石の鳥/Jeweled Bird》のアイデアはキャントリップよりも先に生まれていたらしい。ではキャントリップのアイデアの元ネタは、というと0マナの《羽ばたき飛行機械/Ornithopter》だ。

 この0マナのカードのように、プレイするために必要なリソースとして手札1枚以外に何も必要としないカードがあるなら、逆に、プレイするのリソースとしてマナ以外に何も必要としないカードがあってもいいのでは(つまりプレイ後も手札枚数が変わらないカードがあってもよいのでは)?


▼ 「魂の絆」効果/Spirit Link(註) ☆☆

 この白の代表的な能力(註)の面白い点としては、初めて登場したのが実はアラビアンナイトだったという点、さらに初出時は白ではなく黒のクリーチャーの能力だったという点だ(ちなみにそのクリーチャーとは《エル・ハジャジ/El-Hajjaj》だ)。この能力が黒から白へと移ったのはアラビアンナイトから6ヶ月後に発売されたセット、レジェンドでのことだった。
(註) 「魂の絆」効果
 「クリーチャーがダメージを与えるたび、あなたは同じ点数のライフを得る」という効果を指している。名称の由来は《魂の絆/Spirit Link》というカードで、このカード自体の初出は1995年発売の第4版。


▼ -1/-1 カウンター/-1/-1 Counters ☆☆

 アルファ版で登場したクリーチャーに乗せて使うカウンターは2種類あった。

 1つは +1/+1 カウンターでこれは《Rock Hydra》、《センギアの吸血鬼/Sengir Vampire》、《キノコザウルス/Fungusaur》が用いていた。もう1つは《機械仕掛けの獣/Clockwork Beast》が用いていた +1/+0 カウンターだ。

 アラビアンナイトであらたに登場した3種類目のカウンターが -1/-1 カウンターで、これは《不安定性突然変異/Unstable Mutation》で用いられた。

 これらのカウンターはその後も多くのカードに採用されたが、その後、開発部は+1/+1カウンターと-1/-1カウンターが同時に用いられる状況は混乱を招いていると考えるようになった。また、これらのカウンターには用途的にも重複が見られるとして、より利用頻度の低い-1/-1カウンターは廃止されることとなった。


▼ 「~が戦場に出たとき」の効果/"As ~ Comes into Play" Choices ☆☆☆

 アルファ版を遊んだプレイヤーたちは、インスタントやソーサリーは唱えた際にプレイヤーの意図を何らかの形で反映できることを知っていた(ああ、そうそう、インタラプトもだ)。

 どういうことかというと、呪文を唱えるときにプレイヤーは、その呪文の対象やモードなどを好きに選択できるということだ(モードの選択とは、例えば《青霊破/Blue Elemental Blast》を唱える際に「赤の呪文1つを対象とし、それを打ち消す」のか「赤のパーマネント1つを対象とし、それを破壊する」のかを選ぶような場合だ)

 アラビアンナイトではこのアイデアをさらに1歩進めている。

 リチャードはアラビアンナイトの《Jihad》というカードによって、使い捨ての呪文と同じくパーマネントもプレイされたときにその効果を選択できることを明らかにしたんだ。今では「~が戦場に出たとき(註)」のテキストで知られるこの発明は実に大量のカードデザインに影響を与えた。
(註) 今では「~が戦場に出たとき」のテキスト
 当時の《Jihad》のルールテキストは「Choose a color. As long as opponent has cards of this color in play, all white creatures gain +2/+1. Jihad must be discarded immediately if at any time opponent has no cards of this color in play.」だった。


▼ 一時的にゲームから追放する効果/Removed from Game as Limbo ☆☆☆

 ゲーム外に追放する効果は《分解/Disintegrate》や《剣を鍬に/Swords to Plowshares》のようなカードが示すとおり、すでにアルファ版から存在した。

 アラビアンナイトではこのアイデアを1歩進めている。すなわち、ゲームから追放されたカードが再度ゲームに戻ってくることが可能となったんだ。

 アラビアンナイトのカードで一番分かりやすい実用例は何と言っても《Ring of Ma’ruf》(註)だろうね。このカードはゲームから追放されたカードを戻せた。さらにはゲーム開始時に存在しなかったカードまで手に入れることができたんだ。
(註) 《Ring of Ma’ruf》
 Ring of Ma’ruf (5)
 アーティファクト
 (5),(T),Ring of Ma’rufを追放する:このターン、あなたが次にカードを引く代わりに、あなたがオーナーであるゲームの外部にあるカードを1枚選び、それをあなたの手札に加える。

 ジャッジメントで願いシリーズ(註)を生み出したデザイナーたちがそのアイデアをこの型破りな指輪から得ていたことは間違いないだろうね。
(註) 願いシリーズ
 ジャッジメントで登場したゲーム外からカードを持ってくる呪文で白であればエンチャントかアーティファクト、緑であればクリーチャーという風に5色それぞれに存在した。これらは全て《 ~ の願い/ ~ Wish》という名称で統一されていたため、以降「願い」というとゲーム外からカードを持ってくる効果を指すようになった。

 ただ、より後世のカードたちに大きな影響を与えたカードといえば《Oubliette》(註)だ。このカードがなければゲームから取り除いた先が「一時的な保管所(Limbo)」として用いられることはなかっただろう。
(註) 《Oubliette》
 Oubliette (1)(黒)(黒)
 エンチャント
 Oublietteが戦場に出たとき、クリーチャー1体を対象とし、それとそれにつけられているすべてのオーラ(Aura)を追放する。そのクリーチャーの上に置かれているカウンターの種類と数を記録する。
 Oublietteが戦場を離れたとき、その前者の追放されたカードをオーナーのコントロール下で、タップ状態かつ記録された種類と数のカウンターが置かれた状態で戦場に戻す。そうした場合、その他の追放されたカードをオーナーのコントロール下でそのパーマネントにつけられた状態で戦場に戻す。
 引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Oubliette/

 どういうことかというと、ゲームから取り除いた先(今でいう追放領域)は、カードをただ使用済みとしてしまう墓地よりもずっと利用価値が高かったんだ。

 そこは、一時的にゲームから取り除いておきたいカードを置いておくこともできたし、また参照用にカードを表示しておく場所としても使えた。

 この領域の発見によって生まれた波紋は、フェイジング能力、《ちらつき/Flicker》、《呪文乗っ取り/Spelljack》などのような形で実にマジックの隅々まで広がっていった。


▼ 戦闘から除外する効果/Remove from Combat ☆☆☆

 アラビアンナイトで《黒檀の馬/Ebony Horse》が登場するまで、マジックには「戦闘から除外する(Remove from Combat)」という概念が存在しなかった。確かに再生(註)という能力はアルファ版から存在していたが、当時のルールでは再生しても戦闘から除外はされなかったからだ。
(註) 再生
 ざっくり説明すると、タフネス以上のダメージを受けたときにダメージを全て帳消しにするかわりにタップされて戦闘からも除外される能力。記事が書かれた当時は「再生後は戦闘から除外される」ことになっていたが、マジックの黎明期はまだそうではなかった。再生はその後もルールが二転三転しており、その結果、複雑すぎるという理由により今後は登場しないらしい(2019年06月現在)

 この《黒檀の馬/Ebony Horse》というカードによって戦闘中に出来ることの幅が広げられた。これは再生能力を始めとした多くの戦闘中に効果を発する能力やカードに影響を与えることとなった。


▼ 特定のエキスパンションを参照するカード(註)/Expansion Hosers ☆

 エキスパンションシンボルがゲームに影響するようになったのはアラビアンナイトの《City in a Bottle》の登場以降だ。もっともアラビアンナイト以前にはそもそもエキスパンションシンボル自体が存在しなかったことを考えると、当たり前に聞こえるかもしれないけどね。

 その後、このカードの足跡をたどる形で、アンティキティの《Golgothian》、およびホームランドの《Apocalypse Chime》が生まれた(註)。
(註) 特定のエキスパンションを参照するカード
 ここで紹介されているカードはいずれも簡単に言うと「特定のエキスパンションシンボルを持ったカードをまとめて破壊する」ことができる。なお2013年にルールが変わり、エキスパンションシンボルの有無ではなく、どのエキスパンションが初出かで判断するようになった(つまりエキスパンションシンボルを持たない再録されたカードも今では影響を受けるようになっている)


いくつもの夜を越えて

 そんなわけで、アラビアンナイトがその後のマジックのデザインに与えた影響の大きさを分かってもらえただろうか。

 全体のほんの一部を紹介するだけの短い旅ではあったが、1つのセットが起こした革新がマジックの進化にいかに根付いているかを少しでも伝えることが出来たならとても嬉しい。

 ああ、それともし君がいつか「大列車強盗(Great Train Robbery)」を見る機会があれば、採点は甘めにつけてあげてくれ。君の好きな映画作品はまた別にあるだろうが、これ無しにはその作品も生まれなかったんだろうからね。

 来週は、開発中のセットを呼ぶ仮の名前、そうセットのコードネームに関する不思議な世界に君たちをご招待しようと思う。それまで、隅に円月刀のエキスパンションシンボルが描かれたカードでマジックを楽しんでくれ。
【翻訳】ヴィンテージを流行らせるために出来ること、そして出来ないこと/Playing to Type 1【DailyMTG】
Mark Rosewater
2002年07月15日
元記事:https://magic.wizards.com/en/articles/archive/making-magic/playing-type-1-2002-07-15

 先月のコラムでは皆から送られてきたメールに対して私から色々と回答させてもらった。さてその中で、開発部がタイプ1(註)を今後どう扱うつもりなのかについて知りたい、というメールを取り上げた。
(註) タイプ1
 使えるカードが最近発売されてまだ手に入りやすいセットに限定されるスタンダードというフォーマットに対して、過去からの全てのセットとカードが使用可能というフォーマットがタイプ1(例外的にいくつか禁止カードはある)。

 これに対しネットのタイプ1好きのコミュニティからは非常に大きな反響があった。それはあまりに大きかったので、こうして1つの記事にするに十分なトピックに思われたんだ。

 今日の記事の目的は大きく分けて2つだ。

 1つ目として、皆からもらった質問のうち、開発部がタイプ1をどうしたいと考えているかという問いに答えたいと思う。次に、タイプ1を遊んでいるプレイヤーたちから挙げられた現状の課題を1つずつこの記事で皆と共有し、それにどう対処すべきかをオープンに議論したいと考えている。
(訳注) 原文ではこの箇所に「Jon Finkel plays Type 1 at the Syndey Magic Invitational.(シドニーのインビテーショナルでタイプ1をプレイする John Finkel)」と書いてある。おそらく元々の掲載時には写真が貼られていたと思われる。

 さて、先に進む前に前もって伝えておくことがある。私自身はもう何年もタイプ1をプレイしていない。つまり私はタイプ1のメタゲームをほとんど把握していない。

 つい最近の全米選手権で、私はタイプ1の現状のメタゲームについてプロプレイヤーに話を聞く機会があった(気になる人もいるかもしれないから付記しておくとそのプレイヤーとは Pat Chapin だ。タイプ1というフォーマットに詳しいプレイヤーの1人と考えて間違いないだろうね)

 前回の記事で私が述べたタイプ1に関する言葉はこのときの話をソースとしている。勘違いさせたようで申し訳ない。

 今日は、現状のメタゲームを把握しているつもりだ、などとは絶対に言わないことを約束しよう。知ったかぶりで書いたりすれば大量の批判にさらされることは確実だからね。


ときには昔の話をしようか

 タイプ1に関する懸念点について話をしようとするのであれば、まずはこのフォーマットの歴史について学んでおく必要がある。

 用意がいいことに、ここにある時間逆行装置の目盛りはすでに1994年の前半にセットしてある。なんで1994年の前半なのかって? なぜならそれこそがタイプ1の生まれたときだからさ。

 1994年以前のマジックにはデッキ構築に関する公式ルールが存在しなかった……え? そんなことないって? ごめんごめん、説明が間違っていたね。

 確かに製品にルールブックが付属しており、そこには「公式ルール」が記載されていた。しかしそのルールにはデッキに同じカードを何枚まで入れてよいかという制限はなかったし、デッキ枚数は40枚以上であるべし、ということになっていた。

 その後、1993年の終わりごろに「Duelist Convocation」という組織が作られた(興味のある人のために付記しておくと、この組織こそが現在のDCIの前身だ。そう、DCIの「DC」はこれが由来だ。ちなみにDCIの「I」は「International」の頭文字から来ている)

 1994年の冬に Duelist Convocation が起こした活動の1つが、デッキ構築に関する公式ルールの発表だ。

 当時、熱心なマジックプレイヤーたちは独自にルールを作りそれを共有して遊んでいたが、それらは地域によって異なるもので統一はされていなかった。

 統一された構築済みフォーマットのデッキ構築ルールを初めて制定したのが Duelist Convocation だった。

 デッキの最少枚数は60枚と定められ、同一カードはデッキに4枚までと定められた。そして最初の制限カードリスト(訳注:デッキに1枚までしか入れられないカード)が発表された。

 当時はまだ禁止カードは存在しなかった。こうして初めての構築済みフォーマットが生まれた(ちなみに限定構築フォーマットであるシールド戦やブースタードラフトという遊び方は、非公式ではあったが多くのイベントでウィザーズオブザコースト社の社員によってすでに紹介されていた)

 ただ生まれた当時、このフォーマットの名前はタイプ1ではなかった。マジック構築(Magic Constructed)と呼ばれていた。もしくは縮めて、単に Magic と呼ばれていた。最初の1年間はそれで何の問題もなかった。

 しかし1年後の1995年の冬、ある非常に重要な出来事が起きた。ウィザーズオブザコースト社は、タイプ2と呼ばれる新たなフォーマットを発表したんだ(現在のスタンダードだね)。

 好きなカードを使えるのではなく、特定のセットに限定されたカード群の中からデッキを構築しなくてはいけなくなったんだ。それに伴い、すでに存在していたフォーマットはタイプ1と呼ばれるようになった。

 一夜にしてマジックの世界は2つに分かたれた。それに対する大半のプレイヤーたちの反応はいかばかりであっただろうか?

 私たちにはとても受け入れられなかったね。自分で持っているカードを使えないだなんて、なんでウィザーズにそんなことを決められなければいけないのか、とね(念のため。当時の私は普通のプレイヤー側の立場だ……ウィザーズの社員ではなくね)

 しかしウィザーズは方針を曲げなかった。そこで私たちプレイヤーもそれに従おうと努力した。正しく言えば、私たちプレイヤーの一部もそれに従おうと努力した。

 その他のプレイヤーたちはタイプ1で遊び続けた。それでどうなったか? いや、これがそれなりに上手く回ったんだ。確かにそれまでとは変わってしまったが、これはこれで面白かった。

 開発部がカードパワーの調整を学び始めたことで、タイプ2は多少大人しめなゲーム展開となった。それも悪くない、と思う一派もいた。

 ところが、こんなのは私たちの愛するマジックではない、と思う一派もこれまたいたわけだ。こうしてマジックの歴史における最初のプレイヤー間の分裂が始まった。

 そして時間が流れ、新たなフォーマットが次々と生じていった。

 タイプ1とタイプ2の隔たりがあまりに大きくなり過ぎたことで、それらを埋めるためのタイプ1.5(ほぼタイプ1だが、タイプ1の制限カードが禁止カードとして扱われるフォーマット)が作られた。新たな分裂だ。

 しかしタイプ1とタイプ2の隔たりはさらに広がり、そこに中間的なフォーマットを作る余地が生じた。こうして生まれたフォーマットがエクステンデッドだ。

 また新たな分裂だ。

 それと並行してリミテッド(開封したカードプールでそのままプレイするシールド、開封したカードプールから各プレイヤーが1枚ずつピックしていくドラフト)の世界にも変化があった。新たなプロツアーの誕生に伴い、それらも公式フォーマットに加わったのだ。

 さらなる分裂だ。

 1997年のプロツアーパリで登場したのは、これまたまったく新しいフォーマットであるブロック限定構築……というわけで、こうしてマジックプレイヤーという地図の境界線は1本また1本と増えていったんだ。

 かつて1つのゲームだったはずのマジックは今や8つとなっていた(タイプ1、タイプ1.5、エクステンデッド、スタンダード(タイプ2)、ブロック構築、シールド、ブースタードラフト、ロチェスタードラフト)。ちなみに私はまだチーム戦について触れていない。

 時計の針を現在に戻そう。

 タイプ1は今なお滅びずに存続しているが、当時の隆盛は見る影もない。今はただ、少ないながらも敬虔な信徒を従えるのみだ。


一難去ってまた一難

 最初に約束したとおり、私はこの記事でタイプ1のプレイヤーたちから送られてきた質問に答えたいと考えている。

 念のため付け加えておこう。この記事において私が説明したいのは主に2つだ。

 私たちが下してきた様々な決定がなぜなされてきたのかその背景を明らかにすること、そして、状況を改善するための対話を持つに際してどういった制限が課せられているのかを説明することだ。

 それでは君たちからの質問を取り上げていこう。


「なぜタイプ1の大会がほとんど開かれないのですか? また、規模の大きいタイプ1の大会がほとんど開かれないのはなぜですか?」

 初めに強調したいのは、この問題は開発部側の問題というよりどちらかといえば公式大会(Organized Play)の問題だということだ。しかしその上で、私の出来る限りの回答をしたいと思う。

 法人としてのウィザーズオブザコースト社がマジックのプロモーションに割けるリソースは限られている。

 おっと、説明が前後してしまうが、ここで私が用いる「タイプ1」という言葉が何を指すのかを明確にしておこう。

 私がここで取り上げているタイプ1は「公式大会のフォーマットとしてのタイプ1」だ。

 多くのプレイヤーにとって、タイプ1とは非公式のカジュアルなマジックを指す。タイプ1の禁止カードや制限カードを参照しつつも例外的に使用を認めたり、どんな古いカードでも(《サリッド/Thallid》でも《黒き剣のダッコン/Dakkon Blackblade》でも)使って良かったりする、そんなフォーマットを指してタイプ1と呼ぶ。もちろんそういうマジックを素晴らしいと思うし、そういうフォーマットでのプレイを私自身も楽しんだりしている。

 しかし公式な意味でのタイプ1とそれに対するサポートの話となると、公式大会に関するものになる。そこに顔を出すのは並外れたパワーを持つカードたちだけだ。このことをまず頭に入れておいて欲しい。

 さて、数あるフォーマットの中でどのフォーマットに注力するか、どこに多くリソースを割くか、それらを決定する際に特に注視する点は2つだ。1つは【人気度(Popularity)】、もう1つは【入手し易さ(Accessibility)】だ。


【人気度(Popularity)】

 1つ目は人気度(Popularity)だ。いざというときに意思決定を最も大きく左右するのは「プレイヤーたちは何をプレイしたいんだろうか」だからだ。

 もし「このフォーマットで遊びたい!」という君たちの声があれば、私たちもそれに応えるべく動くということだ。結局のところ、私たちは君たちに、つまりはプレイヤー全体にゲームを楽しんで欲しいと考えており、タイプ1(およびタイプ1.5)の話には、この1つ目の点が大きく作用してくる。

 正直に言おう。私たちの集めたデータによるとタイプ1はそれほど人気のあるフォーマットではない。

 私たちは毎年いくつの認定大会が開かれているかの記録をつけている。大会は大きく3つのカテゴリに分けて集計される。① 構築(スタンダード、エクステンデッド、ブロック構築)、② リミテッド(シールド、ロチェスタードラフト、ブースタードラフト)、そして ③ ヴィンテージ(タイプ1、タイプ1.5)の3つだ。

 以下が、過去5年間の大会数だ(なお数字は1000単位で丸めてある)

  年度 *1997 *1998 *1999 *2000 *2001
     ─────────────────────
   ① 11000 20000 20000 33000 47000
   ② *9000 19000 24000 31000 42000
   ③ *4000 *3000 *2000 *3000 *3000
  (訳注:各所に挟まっている * は桁数をそろえるためのもの)

 それぞれ①~③が各年度でどれだけの割合を占めているかを年度順に並べていくと「① 構築:46%、48%、43%、49%、51%」、「② リミテッド:38%、45%、52%、47%、46%」、「③ ヴィンテージ:17%、7%、4%、4%、3%」となる。

 ヴィンテージの大会数は占める割合が他に比べて小さいというだけでなく、その占める割合自体も年度を経るにつれて徐々に小さくなっているのが分かると思う(公平性の観点から付け加えておくと、このフォーマットに対する私たちからのサポートの少なさもまた減少要因の1つではあるが)

 そしてこの人気度という因子はタイプ1が抱える最も大きな障害であり……同時にタイプ1にとってのチャンスでもある。アンタップ状態のヴィンテージプレイヤー諸君。もしいるなら、ぜひ私たちに対して行動を起こして欲しい。

 地元の大会運営者に「タイプ1やタイプ1.5の認定大会を開いて欲しい」と頼むんだ。非公式のプレイでいくらタイプ1を遊んでもらっても私たちには響かない。
タイプ1の大会数のデータが増加を示せば、私たちにもこのフォーマットに確かなポテンシャルがあることが伝わるだろう。

 どう遊んでいるか、を伝えてくれることには意味がある。しかし、実際に遊んでいることを伝えてくれるのにはそれ以上の意味があるんだ。


【入手し易さ(Accessibility)】

 2つ目は入手し易さ(Accessibility)、つまりそのフォーマットを始めるのがどれだけ容易かだ。ゲームを始めるのに必要なものとしては大きく分けて4つある。時間、対戦相手と対戦場所、お金、そしてカードだ。

 最初の2つに関して言えば、タイプ1のハードルは比較的低い。1ゲームにかかる時間はそれほど長くないし、対戦相手も1人で済む。

 しかし3つ目と4つ目のハードルはかなり高い。

 おそらくカードの金額でいえば全てのフォーマットの中で最も高額と言えるだろう(念のため。戦略的に重要なカードの話をしている)。カード1枚で数百ドルかかることすら珍しくない。

 さらにそれらのカードは刷られた枚数自体も限られており、手に入る地域も限られている。つまり多くのプレイヤーにとって手に入れること自体が不可能に近いということだ。
(訳注) 原文ではこの箇所に「According to the latest issue of InQuest, the median value for these three cards combined is a whopping $950.00 US.(InQuestという雑誌の最新の記事によると、これらカード3枚の合計額の中央値はなんと950ドルだそうだ。)」と書いてある。おそらく元々の掲載時には高額なカードが3枚紹介されていたと思われる。

 毎年のマジックインビテーショナルの大会で、私はタイプ1相当のフォーマットで大会を開催している。つまり古いカードでも一律全て使用可能なフォーマットだ(もっと今年のインビテーショナルでは開催できないだろう。今年はマジックオンライン上で開かれるからね)。

 開催するたびに多くのプレイヤーから聞かされる不満は、これらのカードがいかに手に入れづらいかということだ。インビテーショナルに参加しているのはプロプレイヤーたちだ。つまり普通のプレイヤーよりもカードに触れる機会が多く、つぎ込む予算も大きいプレイヤーたちだ。

 そのプレイヤーたちが問題と感じているということは、一般のプレイヤーたちにとってはさらに困難に違いない。

 証拠とするにはいまいち具体性に欠けるかもしれないが、いずれにせよタイプ1が気軽に飛び込めるフォーマットではないことを示してはいる。俗にいう「敷居が高い」というやつだ。

 大きいものとしてこれら2つの理由(お金とカード)により、タイプ1というフォーマットを全世界的なイベント(全世界から参加者を募るような規模の大会で、という意味)で採用することは難しい。

 つまり、タイプ1の「プロツアー」は言うに及ばず、タイプ1の「グランプリ」の開催すら現実的ではないということだ。

 大規模なタイプ1の大会が絶対に開けないと言っているわけではない。しかし、かなりの数のヴィンテージプレイヤーたちがいることを示せる地域でなければ実現は難しいだろう。

 まとめると、タイプ1の大会が開かれない理由は、マジックプレイヤー全体(public as a whole)として見た場合にタイプ1を求めているという証拠(evidence)が得られないためだ。

 逆に言えば、もし求めているのであれば、ぜひそれを見える形でデータとして示して欲しい。タイプ1の認定大会がもっとプレイされることで、私たちもタイプ1により注意を払うようになる。

 とはいえ、プロツアーとグランプリに限っていえば、入手しづらさに加えて高額すぎるという現状がある限り、国際的な大会のフォーマットにタイプ1が用いられる可能性は低いと言わざるを得ない。

 しかし、これまた言い換えれば、プロツアーやグランプリ以外の形式にこそタイプ1の可能性があるということだ。そしてそれらの形式の大会をいかに現在タイプ1が多く遊ばれている地域で開催できるかがカギだ。


「なぜカードを再版しないのですか? なぜプロキシ(代用カード)は許可されないのですか?」

 前述にあげたように、タイプ1の普及の難しさの1つは値段にある、という説明に対して返ってくる反応は主に4つだ。1つ目としては私たちに同意してくれる声だ。まあこれに関して説明はいらないだろう。

 2つ目として、タイプ1はプレイするのにそれほど高額ではない、という声だ。しかしこれは事実ではない。主要なタイプ1のデッキリストをかき集め、雑誌で紹介されているシングルカード価格でデッキの総額を算出し、デッキ当たりの総額を示してもいいが、結果はすでに分かりきっている。

 この記事で私は君たちに正直でありたい。だから君たちもまた正直に答えて欲しい。タイプ1は高額なフォーマットか否か。もしあるプレイヤーが、よし明日からタイプ1を遊ぼう、と思ったときに貯金箱を叩き割る必要があるのかどうか。ある。これは事実だ。

 3つ目として、この問題はウィザーズ社が作った「一部のカードに関しては絶対に再版しないというルール(再版ポリシー)」を破棄すればそれで解決する、という声だ。タイプ1で必須とされる高額カードを再版すれば済む話だと。

 これはなかなかデリケートな問題だ。だからこそ、結論から言おう。

 再版ポリシーがなぜ存在するか。それは非常に重要な理由からだ。

 マジックはカードゲームであると同時にトレーディングカードでもある。ウィザーズオブザコースト社は、カードゲームとしてだけではなくトレーディングカードでもあるという約束事のもとでマジックを市場に売っている。多くの人々がすでに何千ドルとこのゲームに投資してくれているのは、私たちがポリシーを守ると信じているからだ。

 私のが「Making Magic」という記事を書いているのは、マジックというゲームは様々な人たちのために存在していることを知ってもらうためでもある。これは私の記事の重要なテーマの1つだ。

 その「様々な人たち」の中には、所持しているカードの価値を非常に重要視しているグループもいる(ちなみに割合として見たときに全体の中で決して少なくはない)。

 私たちはこのグループの人たちにも責任がある。その責任において、特定のカードの再版はできない。これは交渉によってどうにかなる話ではない。

 ただそれはそれとして再版可能な古いカードも多くある。トーメントとジャッジメントを見てもらえば分かるように、開発部も絶版となった古いカードを世に戻そうと努力している。

 開発部もまたマジックというゲームが大好きだからだ。

 開発部にはマジックが発売された当時から遊んでるプレイヤーもたくさんいる。中には世に出る前からマジックをプレイしているメンバーすらいる。つまり私たちもまた過去のマジックを今のプレイヤーたちと共有したいと思ってはいる。

 しかし、それでもなお越えてはならない一線が確かにある。

 そして金額的なハードルに対してよくある4つ目の反応として、プロキシ(代用カード)さえ認めてくれれば解決する、というプレイヤーたちの声がある。

 回答はシンプルだ。

 マジックは以下の2つのために存在している。

 その1。マジックは偉大なるゲームだ。個人的には最高のゲームだ。そして開発部は純粋なゲーム好きの集団としてもそれを存続させる義務がある。

 その2。マジックはウィザーズ社およびその親会社ハスブロの製品であり収益源だ。この2つ目をなくして1つ目は意味をなさない。

 もし私たちがプロキシを認めたら、行きつく先は望まぬ終着点だ。多大なる混乱が待っているだろう。シングルカード市場への影響もある(この分野も私たちは気にかけているよ。ただ今日は掘り下げるのはやめておこう)

 しかし何より問題なのは、プレイヤーの購買量がただちに減少することだ。それは私たちにとって望ましい事態ではないし、長期的な視野にたてば、君たちにとっても望ましい事態ではない。

 収入が減るということは、ゲームにつぎ込める予算が減るということであり、大会の開催や公式サイトに費やせるお金が減るということだ。私はいつも「ゲーム会社」の「ゲーム」の部分についてばかり語っているが、実際のところ「会社」の部分も同じくらい重要だ。

 まとめると、タイプ1のカードを再版すること、およびプロキシを認めること、これら2つはいずれもウィザーズ社の特定の面を直撃する。

 私は今日の記事でオープンに議論したい、と書いた。他の分野については議論の場を設けることが出来る。しかしこれら2つについては無理だ。再版とプロキシに関しては議論の余地がない。


「なぜあなた方はリチャード・ガーフィールドが思い描いた未来から遠ざかろうとしているのですか?」

 私はこれに類する苦言を本当に何度となく聞いてきたので、手っ取り早く解決することにした。答えを知っているであろう人物に直接聞いてきたよ。

 「リチャード、開発部は君の思い描いた方向から外れていってるかい?」
 「いいや?」

 マジックは常に進化を続けるゲームとしてデザインされた、未踏の地を歩み続けるゲームだ。他の伝統的なゲームと一線を画する点は、変幻し続けるメタゲームがプレイヤーに新たなる適応を求め続ける点だ。今日、君が学んだ戦術は、明日には役に立たないかもしれない。

 この揺らぎがゲームを常に目新しいものにしてくれる。だがそれは同時に、マジックは過去の常識を置き去りにし続けるようデザインされたゲームであることを示している。

 問題は、プレイヤーが変化を好まないことだ。人間は習慣の生き物であり、根本的に変化を避ける生き物でもある。

 絶え間ない変化を続けるゲームにおいては、特定のプレイヤーが好む側面から遠ざかる瞬間があることは避けられず、またそのことに傷つくプレイヤーがいることも避けられない。

 開発部では広く知られている格言の1つに「プレイヤーは常に最初に遊んだセットを好む」がある。最初に触れたセットは必ずそのプレイヤーにとって特別なセットだ。

 マジックの魔法に初めて触れた瞬間だからね。

 そして多くのタイプ1プレイヤーにとって、それはアルファ版だ。

 私の考えでは、タイプ1プレイヤーは誤った認識からアルファ版を優れたものだと信じているように思われる。

 リチャード・ガーフィールドはデザイナーとして素晴らしい決断をいくつも下し、何枚もの素晴らしいカードが生まれた。それは事実だ。アルファ版には多くのパワーカードが含まれている。それも事実だ。しかしそれを持ってしてアルファ版は素晴らしいのか? 

 いいや、そうではない。アルファ版の素晴らしい点は個々のカードにあるのではない。リチャード・ガーフィールドがそこで表現した全体像そのものが素晴らしいんだ。

 個々のカードごとにリチャードが選択した何かではない。ゲーム全体の持つ柔軟性、それによってデザイナーたちが常に異なる選択をし続けることができるという点なんだ。

 アルファ版が持つ美しさとはこのゲームの持つ哲学そのものだ。アルファ版と(もしくはレジェンド、リバイズドなどなど君の好きなセットと)イマイチ違うから、という理由で昨今のセットを拒絶すること、それ自体がリチャード・ガーフィールドの思い描いた未来から外れることだ。

 マジックは生き物だ。今まさに目の前で成長を続ける子供だ。去年までの赤ん坊の姿と見た目が違うからという理由で突き放すべきじゃない。


 私はデザイナーとして過去から学ぶことを強いられている。過去の成功を、そして過去の失敗をだ。その上で、異端者となじられる覚悟で言うが、アルファ版は決して完璧ではない。欠点だっていくつもある。

 これを最初に認めたのはリチャード・ガーフィールド自身だ。

 当初のルールにはチーズみたいに大量の穴がある。フレイバーとまったく沿っていないカードもある。過去に存在したどのセットよりもカードパワーはアンバランスだ。じゃあこれらの欠点が理由でアルファ版は駄作と言えるのか? もちろんそんなことはない。

 アメリカ合衆国憲法だって素晴らしい文書だが完全ではない。

 今では多くの人が、奴隷だからという理由でその人が他の人の60%の価値しかないなどとは思わないし、裕福な地主の白人男性しか選挙権を持つべきでないなどとは思わない。しかしそれでもなお、偉大なる理想を示そうとした合衆国憲法が色あせることはないんだ。

 そもそもリチャード・ガーフィールドが当初想定していたプレイ環境から現実が大きく乖離してしまった、ということは記しておくべきだろうね。

 当初の想定では、プレイヤー1人当たりブースター15個くらいしか購入しないだろうと考えられていたし、カードのトレードも身内のグループ内でしか行われないだろうと思われていた。

 もしこの想定が正しかったなら、《Ancestral Recall》や《Mox Sapphire》といったカードも問題のあるカードとはみなされなかっただろう。

 勘違いしないで欲しいが、私はアルファ版を愛している。私が最初に触れたセットであり、最高のセットを決めるなら常に上位に来るにふさわしいセットだ。しかし完璧ではない。完璧だと信じるがゆえにそれが最高だと考えているならば目を覚ますべきだ。

 ただ同時に1つ言っておこう。もし私がタイムマシンでアルファ版が生まれた時代に戻り、カードを好きに変更できる権利を得たとしよう。どうするか? 何一つ変更しないだろうね。

 なぜか?

 なぜならアルファ版はマジックというゲームが生まれた瞬間にあるべき姿だったからだ。まとまりがなく、混沌としていて、たまらなく楽しいセットだった。当時のマジックに関する思い出は最高に楽しいものばかりだ。

 しかし現在のマジックは1993年のマジックではない。マジックのプレイヤーたちは知識を付けた。マジックというゲームをずっと深く理解している。

 カードの組み合わせから何を得られるかを解読するのにかかる時間はずっと短くなった。マジックというゲームがどう機能するかにおいて公式大会の影響は無視できなくなった。バランスを欠いたセットで楽しめる環境ではなくなった。

 アルファ版がもし今そのまま発売されたとしても、プレイヤーたちがそれを楽しむことはとても難しいだろうね。

 在りし日からの変化を嘆くタイプ1プレイヤーは、今やマジックは9年前のマジックとは違うゲームなのだということを理解すべきだ。そしてそれは悪いことじゃない。幼かった子供は成熟し、それによってまた新たな面を見せてくれているのだからね。

 それに私は決して在りし日のマジックを忘れろと言っているわけじゃない。マジックの歴史はマジックを構成する重要な側面の1つだ。

 このゲームの最も熱心な歴史研究家の1人として(そしてトリビア好きの1人として)、ゲームの素晴らしい歴史をまだそれを知らぬプレイヤーたちに共有していきたいと思っている。

 ただそれはあくまで思い出話としてあるべきものなんだ。

 タイプ1の楽しさは、過去を現在とつなぐことができる点にある。子供の成長の過程を順繰りに懐かしく思い出すことができる。しかし子供は成長し、変わっていく。その変化を否定することは、その子自身を否定することにほかならない。


「なぜタイプ1向けのカードをデザインしないんですか?」

 この質問に対する回答は、私がタイプ1のメタゲームを追わない理由と深く関係している。タイプ1のメタゲームに影響を与えるために私がデザインの分野で出来ることはほとんどない。何しろ新たなセットがリリースされるごとにタイプ1のパワーレベルは上がっていくんだ。
(訳注) 原文ではこの箇所に「Competitive Type 1 matches resemble rogues galleries of the most powerful cards in the game’s history.(公認大会で結果を残すタイプ1デッキのリストと過去に存在したぶっ壊れカードのリストの2つに大した違いはない。)」と書いてある。おそらく元々の掲載時にはタイプ1のパワーカードが紹介されていたものと思われる。

 これが何を意味するかというと、セットがリリースされるごとに「タイプ1に影響を与えつつスタンダードのバランスを崩さないようなカードをデザインすること」はより難しくなっていくということだ。

 デザインすることが不可能とは言ってない。しかし私が割けるリソースにも限りがあり、何に注力するべきかは選ばなければいけないんだ。

 例えばスタンダードのメタゲームに関する情報は、ゲームの舵をどちらに向けるべきかの助けになる。特定のブロック構築環境を精査して得られる情報は、未来のブロックのデザインに大きな影響を与えるものだ。

 繰り返すが、タイプ1と親和性を持てるように私のデザイン力を高めることもできなくはない。ただそれには君たちの助けが必要だ。

 単刀直入に言おう。

 現在のタイプ1に欠けているものが何か? 現在のタイプ1をかき回してくれそうな、かつ現実的に作成可能なカードとはどのような感じなのか? 君たちの考えをメールで教えて欲しい。

 おっと念のために書いておこう。決して「こういうカードはどうですか」という個々のカードの意見を求めているわけではない。タイプ1により良い影響を与えるために私が掘り下げるべきエリアが知りたいんだ。

 タイプ1の未来に君の足跡を残したくはないか? 今がそのときだよ。



 タイプ1という環境は1つの記事で扱うにはあまりに大きすぎるネタだったが、全力は尽くした。君たちも記事を読む前よりはタイプ1を変えるために何が出来るかが見えてきたんじゃないかな。改善する余地のある事柄、そして議論の余地のない事柄を君たちに示せたつもりだ。

 それにもちろん私のメールボックスの門戸は常に開かれている。タイプ1に関することで(もしくは関しないことでも)何か伝えたいことがあればいつでもメールを送ってくれ。常々言っているように、すべてに返信することはできないが、必ずや全てのメールに目を通すことを約束しよう。


 最後は2つの前向きな話題で締めたいと思う。1つ目として、タイプ1に関する記事が少なすぎるという皆からの意見については私も同意だ。どうすれば公式サイトにタイプ1関連の記事を増やしていけるのかを考えたい。

 2つ目として、以前からウィザーズ主催によるタイプ1の選手権(Type 1 Championship)を年1回で開催してみてはどうか、という議論があった。これがどれだけのプレイヤーの興味を引けるのか、皆からアンケートをとりたい。ぜひ回答してくれ(註)。


 さて、今週はここまでだ。来週は私の好きなクリーチャータイプについて語ろうと思う。ヒントは《樫の力/Might of oaks》に何のイラストを描いて欲しいかの指示を出したのが私だということだ(註)。楽しみにしていてくれ。

 それまで、君の初手に《Black Lotus》が来るよう祈ってるよ。

(註) アンケート
 次週のコラムの冒頭でアンケート結果が紹介されていた。アンケート結果に関連する箇所だけ以下に紹介しておく。

Squirrel of My Dreams
原文URL:http://magic.wizards.com/en/articles/archive/making-magic/squirrel-my-dreams-2002-07-22

 さて面白おかしいリスの世界に飛び込む前に、先週の話題の続きだ。まず最初にアンケート結果をお見せしよう。先週、タイプ1選手権(Type 1 Championship)に興味があるかどうかを聞いてみたが、結果は圧倒的な「はい」だった。

   問い:タイプ1選手権を開催すべきか?

     はい  3,428票 75.6%
     いいえ 1,106票 24.4%

     計:4,534票

 公式大会の運営はタイプ1選手権の開催を約束してくれた。会場は来年のオリジンコンベンションとなる予定だ。
 さらに、運営は今年のシドニーでの世界選手権でタイプ1のサイドイベントを開催することも約束してくれた。しかも今年に限らず今後のプロツアーでもタイプ1のサイドイベントが開催されるそうだ。
 さらにさらに、公式サイトのSideboardもタイプ1の競技マジックに関する記事を定期的に掲載してくれると約束してくれた。タイプ1の記事を楽しみにしていてくれ。

 また、先週以降、タイプ1を憂慮するメールを大量にもらった。多くの投稿が(もちろん約束通り全てに目を通してるよ)、このフォーマットに対するプレイヤーたちの熱狂を強く訴えかけてきていた。
 それに加えて、タイプ1のためにどんなデザインの余地が残されているかについてたくさんの良いアイデアをもらえた。いくつかについてはさっそく次のセットであるベーコン(2003年の秋に発売予定のセットの仮名)に使えないか検討中だ。

【翻訳】フレイバーテキスト誕生秘話 ~ 村を焼いてしまったのを金で解決した話/The Write Stuff【DailyMTG】
Mark Rosewater
2002年03月18日
元記事:http://magic.wizards.com/en/articles/archive/making-magic/write-stuff-2002-03-18

 フレイバーテキスト週間へようこそ。

 え? そうだよ、今週はゲームの展開に直接影響することのない面からマジックをより深く理解してみようというわけだ。

 なんでかって? そりゃもちろんマジックが単にクリーチャーで殴りあったりするだけのゲームじゃないからさ。マジックにはフレイバー(註)がある。
(註) フレイバー
 ゲームのルールや進行には直接関係せず、世界観や雰囲気を伝える「香りづけ(Flavor)」のために存在する要素。気分を盛り上げたり、ゲームへの没入感を高めたり、そして間接的にルールや能力の理解をスムーズにしてくれたりもする。より広い意味では「飛行」という名称もフレイバー的な要素に当たる。

 フレイバーがどこで発揮されているかというと、カード名、イラスト、そしてフレイバーテキストだ。前者2つは黙っていても日の目を見る代物だから、ここはあえて最後の1つ、フレイバーテキストに目を向けてみよう。

 それにこれは今週末から公式サイトにデビューする予定の新機能「FlavOracle」(註)のお披露目の前準備でもある。
(註) FlavOracle
 2002年03月22日の記事によると FlavOracle とはマジックのありとあらゆるカードのフレイバーテキストを、そう、フレイバーテキストが記載されていないカードのフレイバーテキストすらも(!)収録しているデータ集積所のことらしい。
 ただし今現在はリンク切れで、本当に実在したことがあるのかも不明。

 前にも書いたとおり、私の前職はライターだった。だからここでマジックのフレイバーテキストをいくつも書いてきたことは私の誇りにしている仕事の1つだ。

 今週のコラムでは、特にお気に入りのフレイバーテキストのトップ10とそれらが書かれるに至った裏話を紹介したい。マジックのカードがどのように生み出されるのかをこれまで君たちに紹介してきたように、フレイバーテキストがどう生まれるのかをお見せしようじゃないか。

 おっと、本題に入る前に1つだけ付け加えると、私がフレイバーテキストを担当しなくなってから随分経つ(他の仕事が面白すぎてね)。そのため以下に紹介するフレイバーテキストたちはミラージュブロックやテンペストブロックという少々古い時代のものが大半だ。


▼ 第10位:光明の守護者/Luminous Guardian (オデッセイ)
 イメージ:https://scryfall.com/card/ody/31/luminous-guardian
原文:
 “There is no victory without virtue.”
日本語訳:
 徳のない勝利などあり得ない。

 フレイバーテキストで重要な点の1つは、いかに少ない文字数で大きなアイデアを表現できるかだ。さらにはそのテキストは簡潔であることに加えてリズムと流れも必要だ(要は響きだね)。

 私が生み出してきたフレイバーテキストは多くあるが、そのうちどちらかといえば真面目な雰囲気を持つフレイバーテキストに限ればこれが特にお気に入りだ。

 その理由は、まさに白のもつフレイバーをわずか6単語に収めることに成功しつつ、さらには頭韻を踏むことにも成功している点だ(キーとなる単語が同じ子音ではじまっているだろう?)

 ここにフレイバーテキストの重要な点がもう1つ隠されている。それはそのカードの色の哲学がいかに豊かなものかをプレイヤーに伝えることだ。このカードのフレイバーテキストは白の重要な信念を表している。

 そう、白は道徳的秩序を重んじており、この白の魔道士は崇高な使命を果たす責任があると信じている。黒とは違い、白にとって目的は手段を正当化せず、「勝利するか」よりも「どのように勝利するか」がさらに重要なのだ。


▼ 第9位:ドワーフの狂戦士/Dwarven Berserker (ウェザーライト)
 イメージ:https://scryfall.com/card/wth/97/dwarven-berserker
原文:
 “I may be small, but I can kick your butt.”
日本語訳:
 チビだと思っておれをなめると、痛い目を見るぞ。

 前述した以外にもフレイバーテキストには多くの役割がある。その1つに、マジックというゲームの様々な側面からフレイバーを豊かなものにすることだ。

 私のセファリッドに関するコラムを読んでくれた人なら知っているだろうが、私はドワーフの大ファンだ。しかしマジックのドワーフに関して私が常々懸念していることは、どうにも「ドワーフとはこういうもの」という共有されたイメージが存在しないことだ。

 そこでウェザーライトでは、私が持っているドワーフのイメージをもっと前面に押し出してみようと試みた。

ドワーフとはなんぞや。それは赤だ。赤とは情熱だ。そこで私はこう考えた。ドワーフの世界では感情に流されることは珍しいことではないとしたら面白いんじゃないか、とね。

ドワーフたちは他の種族と同じように毎日働きに出る。しかし1つ違うのは、事あるごとにブチ切れるんだ。ドミナリアの他の種族はドワーフたちを腫れもの扱いしている。間違ってもドワーフたちをキレさせないようにね。

 また同時に、ドワーフは常に劣等感によるコンプレックスを抱いているとしたらどうだろう、とも考えた。からかわれていると感じた瞬間、ドワーフたちはこれまたブチ切れるんだ。

 そんな私のイメージを広めようという試みがこの《ドワーフの狂戦士/Dwarven Berserker》さ。残念ながらこのフレイバーはイマイチ定着せず、今もドワーフたちは自らのキャラを獲得するべく模索している。


▼ 第8位:平和な心/Pacifism (ミラージュ)
 イメージ:https://scryfall.com/card/mir/32/pacifism
原文:
 For the first time in his life, Grakk felt a little warm and fuzzy inside.
日本語訳:
 グラックは生まれて初めて、ほんわかふわふわした気持ちになった。

 多くの場合、フレイバーテキストの担当者はカードイラストの完成を待たずしてテキストを書き上げることになる。しかしこのカードは数少ない例外で、この特徴的なイラストを参照しつつフレイバーテキストを書くことができた。

 そう、イラストレーターの Rob Bliss は素晴らしい絵を描き上げてくれた。私としてはぜひそれに見合ったフレイバーテキストを書き上げねばと思ったわけだ。さて、どういう上記のフレイバーテキストはどういう経緯を辿って生まれたのか?

 このイラストの最大のポイントはもちろん中央に立ち尽くしている怪物だ。フレイバーテキストはなんとしてもこのキャラについて語られている必要がある。

 私はまずこのキャラを グラック/Grakk と名づけた。デカくて悪いやつであることがきちんと伝わるように、武骨で唸り声的な響きが欲しかったからだ。

 次に考えたのは対比だ。このイラストの悪そうな風貌と対比となるような優しくて柔らかい雰囲気。それがこの魔法によって生まれたはずなのだ。

 それらを合わせ考えて生まれたのが上記のフレイバーテキストだったわけだ……が、実はこのテキストは第2候補だった。私の第1候補は「しばらくしてグラックは彼らの母親を食べてしまったことに対して罪悪感がわいてきた」だった。

 しかし残念ながらフレイバーテキスト班(どのテキストを採用するか決めるチーム)は、さすがにこれはちょっと、と思ったらしい。結果、今のフレイバーテキストが採用されたわけさ。


▼ 第7位:覚醒/Awakening (ストロングホールド)
 イメージ:https://scryfall.com/card/sth/101/awakening
原文:
 "There are times when destiny calls forth a people and demands an action. Now is the time. We are the people. This is our action. Charge!”
 -- Eladamri, Lord of Leaves
日本語訳:
 人々を奮い立たせ、その人々に行動を要求するときというものがある。今がそのときだ。我々がその人々だ。これがその行動だ。行け!
 ――葉の王、エラダムリー

 マジックのフレイバーテキストは、しばしば特定のキャラクターの口を借りたセリフの形で書かれることがある。例えばこのカードだ。これは、エルフの長であるエラダムリーが自身の配下を奮い立たせるために発した言葉だ。

 ストロングホールドの背景ストーリーの中で、彼は部下であるエルフたちを勝ち目のない戦いへと送り出す必要に迫られたのだ。

 このフレイバーテキストを書くに当たって、私は実在する政治家の名言を調べた。これだ、と思ったのは元大統領のジョン・F・ケネディの言葉だ。

 私がケネディの演説で気に入った点は、彼が語っている問題をまさに聞き手自身にとっても解決せねばならない問題であると思わせるのがとても上手い点だ。

 それと、このフレイバーテキストを書くに当たって初めから決めていたのは、その結びでエラダムリーが突撃を命ずることだ。

 次に文章のリズムを整えるため、3拍子のスピーチを採用することにした(ライターの世界では3拍子のルールとして知られる手法だ)

 さらにこのフレイバーテキストにはもう1つ、ちょっとしたネタが仕込んである。それが何かについては次の水曜日のコラムに書かれる予定だ。


▼ 第6位:ボトルのノーム/Bottle Gnomes (テンペスト)
 イメージ:https://scryfall.com/card/tpr/217/bottle-gnomes
原文:
 “I am reminded of the fable of the silver egg. Its owner cracks it open to see what jewels it holds, only to discover a simple yellow yolk.”
 -- Karn, silver golem
日本語訳:
 銀の卵の話を思い出すよ。卵の持ち主がどんな宝石が入っているかと殻を割ってみたら、普通の黄身が1つ入っていただけだったって話をね。
 ―銀のゴーレム、カーン

 ウェザーライトの物語をフレイバーテキストで表現するに当たり、試みられたことがあった。主要なキャラクターの描写がきちんと統一されるように、ウェザーライトの各乗組員ごとに担当が割り振られたんだ。

 私の担当はアーテイとカーンだった。アーテイは簡単だった。何しろ彼は隠そうとして隠しきれないほどのうぬぼれ屋という変人だったからね(水曜日に Ben Bleiweiss がもう少し詳しくアーテイについて教えてくれるだろう)

 カーンはそれに比べると少し難しかった。

 カーンは穏やかな巨人という役割を与えられていた。彼は大きな力を持ちつつも暴力を嫌っている。彼は戦士ではなく賢者だった。

 そこで私はこのカーンのキャラを表現するために比喩やたとえ話を語らせてみてはどうだろうと考えた。たとえ話というか、要は訓話(教え諭すための短い話)だ。

 カーンのフレイバーテキストの多くはこのアイデアに基づいて作られた。しかしフレイバーテキストで訓話を語らせるというのはなかなかの挑戦だった。何しろ2文か、長くても3文の中にその話を丸々収めないといけないからだ。

 この《ボトルのノーム/Bottle Gnomes》のフレイバーテキストはカーンの訓話の中でも特にお気に入りの1つだ。とても心を打つ物語を非常に短い文章に込めることができたからね。


▼ 第5位:蠢く骸骨/Drudge Skeletons (第6版、第7版)
 イメージ:https://scryfall.com/card/6ed/123/drudge-skeletons
原文:
 “The dead make good soldiers. They can’t disobey orders, they never surrender, and they don’t stop fighting when a random body part falls off.”
 --Nevinyrral, Necromancer’s Handbook
日本語訳:
 死者は兵士に絶好である。 命令に逆らうこともなければ、降伏することもありえない。しかも、身体のどこかが取れたぐらいでは戦いをやめないのだから。
 ――ネビニラル「ネクロマンサーの手引き」

 さてちょっと真面目な文章が続いたので、そろそろユーモアあふれるフレイバーテキストを紹介しようか。

 知ってる人もいるだろうが、私は元々コメディの脚本家として生計を立てていた。だからこれこそまさに私の得意分野だという自負がある。

 この《蠢く骸骨/Drudge Skeletons》のフレイバーテキストは、元々ウルザズ・サーガ版のために用意されたものだった。しかし残念ながらウルザズ・サーガ当時のフレイバーテキスト班はこれ以外の候補を採用してしまった。そこで第6版の際にあらためて提出してみたところ今度は採用されたという次第だ。

 それはさておき、私はアンデッドとコメディはとてつもなく相性が良いと信じている。また私は黒のカードにブラックジョークを仕込むのが大好きだ。

 このフレイバーテキストに関して1つ付け加えておくと、ネビニラルの名前を登場させたのは私のアイデアではない(念のため。嫌じゃないよ。むしろいいアイデアだと思ってる)。第6版に収録される際にその名を追加したのは Pete Venters だ。

 対して私が著作権を主張できるのは「ネクロマンサーの手引き」のくだりだ。このタイトルはこのフレイバーテキストを考えているときに降ってわいたネタだ。新人のネクロマンサーはどうやって死体を蘇らせる術を学ぶんだろう?、とふと思ったんだ。


▼ 第4位 懺悔/Repentance (テンペスト)
 イメージ:https://scryfall.com/card/tpr/25/repentance
原文:
 “The cannon wasn’t aimed at you!” pleaded Vhati. “I’m not sure which is more pathetic,” replied Greven, “your judgment or your aim.”
日本語訳:
  「大砲の照準はあなたに向けられていませんでした!」とヴァティは哀願した。 グレヴェンは答えた。「どっちが余計に頭に来るか、今迷っているんだ。お前の判断か、それともお前の照準か」

 前述のとおり、全てのウェザーライトの乗組員たちはそれぞれ決まった担当がつくことになったが、敵役たちについては特に担当が固定されることはなかった。

 そんな敵役のフレイバーテキストに関して言えば、司令官グレヴェン・イル=ヴェクとヴァティ・イル=ダルのペアが登場する一連のシーンを3枚のカードを通して描写したものが、テンペストでの私の仕事の中でも珠玉の出来だと思っている。

 シーンの全体像については明日のコラムを参照してもらうとして、それら3枚の中でも特に私の気に入ってるカードをここで紹介させてもらおう。

 このカードのフレイバーテキストの一番の目的は、なんといってもグレヴェンというキャラを知らしめることだった。残酷さ、無愛想さ、そして無頓着さを同時に併せ持つという彼の独特な性格を表現したかったんだ。

 もしテンペストというセットが映画化されたなら、このフレイバーテキストのセリフが名台詞として記憶されることになっただろうね。


▼ 第3位:Chicken a la King (アングルード)
 イメージ:https://scryfall.com/card/ugl/17/chicken-%C3%A0-la-king
原文:
 During the Chicken Revolution, the king managed to keep his head while the others -- well, just ran around.
非公式訳:
 チキン革命が起きたとき、他のニワトリがただトリ乱す中、チキンとしてたのは王だけであったそうな。

 若い頃、私はよくコメディアンたちとコメディについて議論することがあった。コメディの原理としてよく挙げられるのは、コメディとはすなわち並置的である、ということで、より分かりやすく言えば、普通なら並べないもの2つを並べると面白くなる、ということだ。

 この《Chicken a la King》のフレイバーテキストを考える前に、まずはカード名を決める必要があった。

 私はアングルードにチキンのロードを入れたかった。何しろアングルードにおいてチキンは主要なテーマの1つだったからね。妻のローラ(当時はまだ婚約者だったが)の提案は「Chicken a la King はどうかしら(註)」だった。聞いた瞬間にこれしかないと思ったよ。
(註) Chicken a la King
 「Chicken a la King」はチキンのクリーム煮を指す料理名。実際、Googleで「Chicken a la King」の画像検索をすると大量のチキンのクリーム煮の写真が出てくる。

 このカード名が決まったことで、フレイバーテキストではこいつが「King」であることに触れないわけにはいかない、と決めたんだ。

 その「King」について考えていたとき、私はふとルイ16世のことが浮かんだ。そこからフランス革命が連想され、当然のようにギロチンという単語に行きついた。

 そのとき閃いたんだ。

 チキンが頭を落とされることわざがあるぞ(註)、とね。
(註) ことわざ
 英語には「run around like a chicken with its head cut off(頭を落とされたニワトリの身体が盲目的に走り回るように、右往左往すること)」ということわざがある。またそれとは別に「keep one’s head」で「冷静さを保つ」という意味を持つ。

 そのことわざとギロチンにかけられる王とを思いついたあとは簡単だった。こうしてマジック史上でも有数のエレガントなフレイバーテキストが生まれたわけさ。


▼ 第2位:ドワーフ鉱夫/Dwarven Miner (ミラージュ)
 イメージ:https://scryfall.com/card/mir/169/dwarven-miner
原文:
 “Fetch the pestridder, Paka -- we’ve got dwarves in the rutabagas!”
 -- Jamul, Femeref farmer
日本語訳:
 パカ、虫殺しの薬を持ってきてくれ ――― カブがドワーフにやられとる!
 ――― フェメレフの農夫、ジャムール

 私はときについついふざけてしまうという一面がある(驚かせてしまっただろうね。すまない)。アングルードではこの面を遺憾なく発揮する機会をもらったが、競技用マジックでは私のこの悪癖を披露することはほとんど出来ずにいる。

 ヨーロッパの古い言い伝えとトールキンの生み出した神話において、ドワーフは鉱夫として生み出されている。ドワーフは地面を掘り返すのが好きなのだ。

 そのとき私の頭に閃いたのは、リス(Gophers)も同様に地面を掘り返すということだ。ふむ、ドワーフがリスみたいに扱われてたら面白いんじゃなかろうか?

 書き手というものは時が経つにつれて自身が過去に書いたものを不思議とより魅力的に感じられてくるものだ。理由はわからない。しかしこのフレイバーテキストは個人的に大傑作だと思っている。

 あまりにも傑作だと思ったのでセットへ収録されるよう全身全霊を賭けた。知ってるかもしれないが、コメディにはどれくらい面白いかを表すグラフみたいなものがあるんだ。こんな感じだ。

 ほんの少しだと面白い。それより少し多いとつまらない。度が過ぎるとまた面白い。

 私の計画は実にシンプルなものだった。フレイバーテキストのメンバーが第3段階に届くまでひたすらこのジョークを押し通すこと。そんなわけで私は機会があるごとにこのジョークを繰り返したわけさ。メンバーたちが私に殺意を覚えはじめた数週間ののち、ついにジョークはまた面白さを増す段階に届いた。

 この引用にいくつか付け加えておきたい。まずなんで私が登場人物にPakaという名前をつけたのかというと、響きがこのフレイバーテキストにふさわしく田舎者っぽかったからだ。

 さらに虫殺しの薬の名前になぜ「Pestridder」というネーミングを用いた理由は、それが私が思いつける限りのファンタジーっぽい害虫駆除剤の名前だったからだ。そして「カブ(Rutabaga)」を選んだ理由はそれが野菜の中でも特に面白みを感じるものだったからだ。

 ちょっと関係ない話をさせてくれ。私がまだ小さいころ、友達と「面白くない、面白い、とても面白い(Not Funny, Funny, Very Funny)」という遊びをしていた。遊び方は、まず1人がお題を決める(たとえば「野菜」のように)。別の1人がそのお題に当てはまるものを3つあげる。

 1つ目には、面白くないものをあげなくてはいけない。2つ目は面白いもの、ただし面白すぎないものをあげないといけない。そして3つはとても面白いものをあげないといけない。もしお題が「野菜」だったら、以下のような感じだ。

  お題「野菜!」

   1つ目:
      Corn/とうもろこし(面白くない)
   2つ目:
      Eggplant/ナス(面白い)
   3つ目:
      Rutabaga/カブ(とても面白い)


 試しにもう1回やってみようか。

  お題「動物!」

   1つ目:
      Bird/鳥(面白くない)
   2つ目:
      Cow/ウシ(面白い)
   3つ目:
      Platypus/カモノハシ(とても面白い)

 みんなもぜひ遊んでみてくれ。


▼ 第1位:補償金/Reparations (ミラージュ)
 イメージ:https://scryfall.com/card/mir/278/reparations
原文:
 "Sorry I burned down your village. Here’s some gold."
日本語訳:
 失礼、村を焼いてしまった。この金で別の村でも……。

 芸術家であれば誰もが思い出せる代表作があるものだ。私にとってはこれがそうだ。これこそ我がモナリザだ。

 さてこの作品がどう生まれたのかを追っていこう。

 あれは1996年の冬の早朝だった。私は一睡もせずにその朝を迎えていた。なぜ徹夜をする必要があったかというとマジックに関する本の締め切りが迫っていて、友人の Michael Ryan とそれにかかりっきりだったからだ(ちなみに本というのは雑誌デュエリストに連載されていた詰めマジック的なパズルをまとめたものだ)

 Michael Ryan はその本の編集者で、最後の校正を念入りに行っているところだった。彼が全てのページを丹念にチェックし終えてくれたあと、あらためて「彼のチェックが正しかったかのチェック」を私が行う予定だった。

 当然のように校正者としての彼の仕事の方が圧倒的に長くかかる予定だったので、私は暇を持て余していた。

 さて、当時の私と彼はマジックの編集者であると同時に、ミラージュのフレイバーテキスト班でもあった。そしてミラージュのフレイバーテキストはまだ未完成だった。

 そこで私は彼の仕事を待つ間に少し作業を進めておこうと考えた。しかし残念ながらそのときの私はあまりに寝不足で頭が回っていなかったんだ。

 なので真面目にフレイバーテキストを考えるかわりに、作業中の Michael の受けを狙ったフレイバーテキストを考え始めた。

 そのときフレイバーテキストが難航していたカードの1枚に《補償金/Reparations》があった。イラストはすでに受領済みだったので、何かヒントが得られないかとそれを眺めて見ることにした。

 どんなイラストだったかは上のリンク先を見てくれ。正直、このイラストで何が起きているのか、皆目見当もつかなかったよ。

 白人のプリーストと黒人の男女がいる。そのプリーストは目の前の2人に金貨の詰まった箱を差し出している。背後では何かが燃えている。つまり……どういうことだ?

 このあまりに奇妙な場面を前に、私はとりあえず一番最初に浮かんだネタをそのまま書き出してみた。自分でも笑ってしまうなかなかのネタだったのでさっそく横にいた Michael にも披露してみた。Michael も腹が痛くなるほど笑ってくれた。

 もちろんこれを提出するつもりはなかったので、書いた切れ端はどこかに放っておいた。いや、何しろ午前3時だったからね。大抵のネタで笑える時間だ。大体からしてこのネタをフレイバーテキスト班が受理するとは思えなかった。

 しかし次の会議で、なぜか Michael が私が捨てたはずのそのネタを出してきた。会議に参加していた別のメンバーの Bill Rose も面白がってくれた。

 ちなみに会議に参加していたメンバーは全員で4人だった。つまり私を含めて過半数がそれを面白いと思ったわけだ。フレイバーテキストはファイルに収められた。

 とはいえ、さすがに実際のカードに載る前にはどこかで誰かが却下するだろうと思っていた……が、実際には誰も止めなかった。そんなわけで私の手がけたフレイバーテキストの中でも最も有名な一句が日の目を見たというわけさ。


 さて今日のコラムはここまでだ。フレイバーテキストという短文の探検を堪能してもらえたなら幸いだ。来週はここに教授として登壇したいと思っている。時間割は「デザイン101」だ。

 それまで君たちがマリガンせずに初手で望んだ土地を引けるよう祈ってるよ。

 Mark Rosewater
【翻訳】伝説のセットから生まれたカードたち/Designing Under the Influence【DailyMTG】
Mark Rosewater
2002年03月04日
元記事:http://magic.wizards.com/en/articles/archive/making-magic/designing-under-influence-2002-03-04

 レジェンド週間へようこそ!(おっと念のため。ここで言っているレジェンドはクリーチャータイプのレジェンドではなく、エキスパンション名のほうだ(註))
(註) クリーチャータイプのレジェンド
 記事が書かれた当時は「伝説の~」というカードタイプは「レジェンド」というクリーチャータイプ扱いだった。例えば「クリーチャー - エルフ」のように「クリーチャー - レジェンド」というクリーチャーがいた。そのためクリーチャータイプを書き換える効果で同名クリーチャーカードの両方のタイプを「レジェンド」に書き換えることでそのクリーチャーを破壊する、というテクニックも存在した。なお「伝説の~」に関するルールは二転三転しており、なかなか興味深いネタなのでこれだけでもかなり語れる。

 私たちは過去にも1週間かけて特定のテーマを扱う企画を行ってきたが、今週のは今までとはちょっと違ったパターンで行おうと思ってる。

 マジック初の大型エキスパンションであるレジェンドをありとあらゆる側面から掘り下げて、興味深いネタを根こそぎ引っ張り出そうというわけだ。

 さて今週はまずこのセットのデザイナーの1人であるスティーブ・コナードは、このレジェンドというセットがどう生まれたかを紹介してくれた。

 さらにはレジェンドの全カードリストを君たちに公開して見せた。さらにさらに、君たちにレジェンドにまつわる興味深い裏話をいくつも紹介してきた。

 スティーブ・コナードはマジックのデザインがレジェンドにどのような影響を与えたかについて語ってくれた(興味があればここから記事を読める (註))。
(註) ここから記事を読める
 原文には以下のURLへリンクが張られているが古すぎてリンク切れ。
 http://archive.wizards.com/default.asp?x=mtgcom/feature/20

 さて私の番となる今日は、逆に「レジェンドがどのような影響をマジックのデザインに与えたか」について語ろうと思う。

 さて、レジェンドが生まれたとき、私はまだマジックを単にプレイする側の人間だったのだ。開発する側ではなくてね。……え? いや、まあ確かにマジックのパズルに関する公式コラム(註)を雑誌 Duelist で受け持ってはいたが、その点を除けば本当にただのプレイヤーの1人だったのさ。
(註) 公式コラム
 著者のマーク・ローズウォーターはトレーディングカードゲーム雑誌である Duelist で「Magic the Puzzling」という詰めマジック的なコラムを担当していた。

 レジェンドが発売された日のことは今も覚えているよ。あれは1994年の夏、カリフォルニアのウェストウッドだった。私と友人はカードショップの店頭で開店前から待機してた。

 何しろ当時はマジックのセットが発売日当日に売り切れるなんてざらだったからね。入荷するその日が勝負だったのさ。それに収録枚数310枚という、それまでのどの拡張よりも多い枚数の新セットの噂はすでにそこかしこで話題になっていたからね。

 私はまず3ボックス購入した(知ってるかもしれないが私は初代アルファからマジックを始めていた。レジェンドの頃にはもうずっぽりハマっていたわけだ。迷わず3ボックス買うほどにね)。

 それから家に飛び返り、全てのパックを剥き終えると、すぐにまた店へと駆け戻り、もう1ボックス追加で購入した。

 さらに家に帰ってその4つ目の箱を剥き終えると、さらに5つ目のボックスを購入するべく店に走った。ただその5つ目は資産とすべく剥かないでとっておいたけどね(その後この5つ目の箱がどうなったかというと、10箱のリバイズドと交換された。そしてこの10箱のリバイズドがどうなったかというと、おしゃれなテレビ一式の購入資金になった)。

 ……と、私がなんでいきなりこんな話を始めたか不思議かもしれないね。何が言いたかったかというと、当時私がレジェンドから受けた影響は「プレイヤーとしてのものだった」ということを強調したかったからだ。この出会いがもし数年後であれば、おそらく私はデザイナーとしての立場で影響を受けていただろう。

 さて、今日のコラムではレジェンドのカードの中でも、私が他のマジックのカードをデザインする際にインスピレーションを受けたカードをピックアップして紹介したいと思う。

 科学者と同じく、デザイナーもまた先人の業績を土台として己の仕事を達成する。

 レジェンドというセットが私自身にいかに影響を及ぼしたか、そしてさらにはレジェンドというセットがいかにマジックというゲームそのものに影響を残したか。それがこのコラムから君たちに伝われば、こんなに嬉しいことはない。


そしてレジェンドへ / Design of the Times

 この記事で紹介するカードの順番をどうしようか迷ったが、結局はアルファベット順にすることにした。以下が私のカードデザインに影響を与えたレジェンドのカードたちだ(本題に入る前のメモ書き:カードのデザインとは共同作業であり、以下に紹介するカードの多くは、私1人ではなく他のデザイナーと一緒に生み出したものだということをここに記しておく)


《抗魔のオーラ/Anti-Magic Aura》・《Spectral Cloak》
Anti-Magic Aura / 抗魔のオーラ (2)(青)
エンチャント - オーラ(Aura)
エンチャント(クリーチャー)
エンチャントされているクリーチャーは呪文の対象にならず、他のオーラ(Aura)によってエンチャントされない。
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Anti-Magic+Aura/

Spectral Cloak (青)(青)
エンチャント - オーラ(Aura)
エンチャント(クリーチャー)
エンチャントされているクリーチャーは、それがアンタップ状態であるかぎり被覆を持つ。(それは呪文や能力の対象にならない。)
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Spectral+Cloak/


 開発部で通称「外套(Cloak)」と呼ばれているタイプのカードがあり、私はこの効果を持つカードがずっと好きだった。青の魔法使いが他の魔法使いに対して、私のこのクリーチャーにちょっかいを出すなよ、と妨害の魔法をかけているイメージが気に入っている。

 元となったこのレジェンドのカードたちから、私はいくつもの「外套(Cloak)」をデザインした。例えば、ビジョンズの《神秘のヴェール/Mystic Veil》、エクソダスの《鏡のローブ/Robe of Mirrors》、メルカディアン・マスクスの《外交特権/Diplomatic Immunity》、オデッセイの《アボシャンの願望/Aboshan’s Desire》などだ。


《Arboria》
Arboria (2)(緑)(緑)
ワールド・エンチャント
クリーチャーは、自分の直前のターンに呪文を唱えておらず、トークンでないパーマネントを戦場に出していないプレイヤーを攻撃できない。
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Arboria/

 私はこのカードが嫌いだった。何しろこのカードはプレイヤーたちが何もしないことを推奨するからだ。そして私はウルザズ・デスティニーのデザインをしているとき、《Arboria》と正反対なエンチャントを作ったらどうだろう、と思ったわけだ。

 そして何もしないことに対して罰を与えるカードが生まれた。それが《せっかち/Impatience》(註)だ。
(註) Impatience / せっかち (2)(赤)
エンチャント
各プレイヤーの終了ステップの開始時に、そのプレイヤーがそのターンに呪文を唱えなかった場合、せっかちはそのプレイヤーに2点のダメージを与える。
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Impatience/


《Cleanse》
Cleanse (2)(白)(白)
ソーサリー
すべての黒のクリーチャーを破壊する。
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Cleanse/

 トーメントの開発中は《ティーロ大隊長/Major Teroh》の能力(すべての黒のクリーチャーを追放する)は現在よりも若干弱い効果だった(対象の黒のパーマネントを追放する)。

 私はこのカードの効果はもう少し強くあるべきだと感じたので、白のカードでもっとフレイバー的に強力な「対黒」な効果はないかと思いを巡らせた。

 そしてレジェンドの《Cleanse》を思い出すことに成功した私は、今の能力を提案させてもらったというわけだ。


《繭/Cocoon》
Cocoon / 繭 (緑)
エンチャント - オーラ(Aura)
エンチャント(あなたがコントロールするクリーチャー)
繭が戦場に出たとき、エンチャントされているクリーチャーをタップし、繭の上に変態(pupa)カウンターを3個置く。
エンチャントされているクリーチャーは、繭の上に変態カウンターが1個置かれているなら、あなたのアンタップ・ステップにアンタップしない。
あなたのアップキープの開始時に、繭から変態カウンターを1個取り除く。そうできないとき、それを生け贄に捧げ、エンチャントされているクリーチャーの上に+1/+1カウンターを1個置き、そのクリーチャーは飛行を得る。
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Cocoon/

 レジェンド発売後に迎えた最初の秋。その頃、マジック界を席巻していたデッキはノンクリーチャーデッキ(クリーチャーが1体も入っていないタイプのデッキ)だった。その原因は《The Abyss》だ(註)。
(註) 《The Abyss》
 各プレイヤーは毎ターン自分のクリーチャーのうちの1体を破壊しなくてはいけない、というエンチャント。自分はデッキにクリーチャーを入れないことでメリットしかなくなる。

 さてそんな頃、私がマジック仲間と話してたときに話題になったのは「どの2色でもデッキは組めるけど青緑だけは無理だな」だった。

 それを聞いた私がどうしたかって? もちろん次の週末に青緑デッキを引っさげて登場したさ。ちなみにウィニーデッキ(註)だった。私は他のデッキと併用しつつこのデッキを大体1年ほど使い続けた。今でも私にとって思い出深いデッキの1つだ。
(註) ウィニーデッキ
 低マナ域のクリーチャーを主力とし、序盤から盤面の主導権を握ることで中盤までに相手のライフを削りきるデッキ。1体1体が小粒なため、全体強化エンチャントを使ったり、相手のブロックをかいくぐるために単体強化インスタントや軽めの除去呪文などが使われる。

 さて、長く使い続けた最中、この《繭/Cocoon》が投入されていた時期もあった。対戦相手のクリーチャーを低マナでタップするためにね(ん? ああ、当時は出来たんだ。今はエラッタが出て自分のコントロールするクリーチャーにしか付けられない)。

 そんなウィザーズに入社する前の私は、自作カードを考えるという趣味も持っていた。そのとき生み出したアイデアの1つにこの《繭/Cocoon》を元にしたカードもあった。

 ふむふむ、《繭/Cocoon》は3ターンも待ったあとにクリーチャーが強化されるのか……じゃあ、その逆はどうだろう? 3ターンのあいだクリーチャーを強化し続けてくれるが、3ターン後にそのクリーチャーが破壊されてしまうカード。

 のちのこのアイデアは、私が初めてデザインしたカードの中の1枚である《血の狂乱/Consuming Ferocity》となって世に出た(ミラージュのカードだ)。まあ、ご覧のとおり、元ネタがあるからといって全てがホームラン級の大当たりになるとは限らないというわけさ(もっともこの《血の狂乱/Consuming Ferocity》はヒット性の当たりですらないが……)。


《調和の中心/Concordant Crossroads》
Concordant Crossroads / 調和の中心 (緑)
ワールド・エンチャント
すべてのクリーチャーは速攻を持つ。
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Concordant+Crossroads/

 結局抜けることになった《繭/Cocoon》とは違い、《調和の中心/Concordant Crossroads》は私のウィニーデッキと最高の相性を見せ続けた(1マナのマナクリーチャーは実質的なフリースペルだ)。

 さらにありがたいことに、これはエンチャント・ワールド(註)だった。そう、副次効果として対戦相手の《The Abyss》を破壊することもできたんだ。
(註) エンチャント・ワールド
 過去に存在したエンチャントの種類の1つ。もう新たには作られない(はず)。場にエンチャント・ワールドは1枚しか存在できず、新たに唱えられた場合は古いほうが破壊される。世界のルールが上書きされるイメージ(たぶん)。

 私はあまりにこのカードが好きなので、ことあるごとに全体に速攻を与えるエンチャントをねじこもうとしてきた。《熱情/Fervor》と《ヤヴィマヤの火/Fires of Yavimaya》はいずれもこの《調和の中心/Concordant Crossroads》が無ければ生まれ得なかったカードたちだ。


《黒き剣のダッコン/Dakkon Blackblade》、《Hazezon Tamar》
Dakkon Blackblade / 黒き剣のダッコン (2)(白)(青)(青)(黒)
伝説のクリーチャー - 人間(Human) 戦士(Warrior)
黒き剣のダッコンのパワーとタフネスはそれぞれ、あなたがコントロールする土地の数に等しい。
*/*
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Dakkon+Blackblade/

Hazezon Tamar (4)(赤)(緑)(白)
伝説のクリーチャー - 人間(Human) 戦士(Warrior)
Hazezon Tamarが戦場に出たとき、あなたの次のアップキープの開始時に、赤であり緑であり白である1/1の砂漠の民(Sand)・戦士(Warrior)クリーチャー・トークンをX体生成する。Xは、あなたがその時にコントロールしている土地の数である。
Hazezon Tamarが戦場を離れたとき、すべての砂漠の民・戦士を追放する。
2/4
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Hazezon+Tamar/

 私は妙なデッキを作る奴として知られていた。実際、私は対戦相手が過去に見たこともないような勝ち方をするデッキを好んで作っていた。

 そしてある時期、私がこだわっていたのは「土地を並べることが勝ち手段となるデッキ」だった。色々なデッキを試していたが、その中の1つが、これら《黒き剣のダッコン/Dakkon Blackblade》と《Hazezon Tamar》の両方が入ったデッキだった。

 インベイジョンに収録されていた《マローの魔術師モリモ/Molimo, Maro-Sorcerer》はこれらのカードのオマージュだ。


《Divine Intervention》
Divine Intervention (6)(白)(白)
エンチャント
Divine Interventionはその上に介入(intervention)カウンターが2個置かれた状態で戦場に出る。
あなたのアップキープの開始時に、Divine Interventionから介入カウンターを1個取り除く。
あなたがDivine Interventionから最後の介入カウンターを取り除いたとき、このゲームは引き分けになる。
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Divine+Intervention/

 プロフェシーの《天界の収斂/Celestial Convergence》はまさにこの《Divine Intervention》から着想を得たものだ。大きな変更点として、カウンターが全て取り除かれたときにちゃんとゲームに決着がつくようにした。


《エンチャント移動/Enchantment Alteration》
Enchantment Alteration / エンチャント移動 (青)
インスタント
クリーチャーか土地につけられているオーラ(Aura)1つを対象とし、それを同じタイプの別のパーマネントにつける。
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Enchantment+Alteration/

 ちょっとしたテクニックを要するカードが好きだ。きっとデザイナーの性なのだろう。それは例えばこの《Enchantment Alteration》のように派手さはないがトリッキーなカードだ。

 そう、これがウルザズ・サーガに再録されたのも、またこれによく似た《オーラの移植/Aura Graft》がオデッセイに収録されたのも、いずれも私に責任がある。


《Eureka》
Eureka (2)(緑)(緑)
ソーサリー
あなたから始めて、各プレイヤーは自分の手札にあるパーマネント・カード1枚を戦場に出してもよい。この手順を誰も戦場にカードを出さなくなるまで続ける。
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Eureka/

 おそらく私の中に潜む闇の部分がささやいたのだろうが、私はこのカードの「カードのお代は無料」な効果にすっかり魅了されてしまった。

 マナコストを払うことなく呪文を唱えられるストロングホールドの《ドリーム・ホール/Dream Halls》が作られてしまったのはこの《Eureka》(および《意志の力/Force of Will》)があったからだ。

 ちなみに、ことあるごとに話題に出されてしまうこの《ドリーム・ホール/Dream Halls》は、当時のカードゲーム雑誌 InQuest では「ストロングホールドで最弱のカード」と名指しされていた。ちなみに1年後に禁止カード入りしたけどね。


《Field of Dreams》
Field of Dreams (青)
ワールド・エンチャント
プレイヤーは、自分のライブラリーの一番上のカードを公開した状態でプレイする。
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Field+of+Dreams/

 オデッセイに収録されていた《頭脳集団/Think Tank》(アップキープ開始時に自分のライブラリの一番上を見て、それを墓地に落とすかどうか選べるエンチャント)の原型は、この《Field of Dreams》から着想を得ている。

 元々、オデッセイの開発中の段階では《頭脳集団/Think Tank》の効果は「対戦相手も含む全てのプレイヤーは、ライブラリーの一番上のカードを表向きにしたままゲームをプレイする」というものだったのだ。


《Firestorm Phoenix》
Firestorm Phoenix (4)(赤)(赤)
クリーチャー - フェニックス(Phoenix)
飛行
Firestorm Phoenixが死亡するなら、代わりにそれをオーナーの手札に戻す。そのプレイヤーの次のターンまで、そのプレイヤーは自分の手札にあるそのカードを公開した状態でプレイするとともに、それをプレイできない。
3/2
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Firestorm+Phoenix/

 メルカディアン・マスクスでスクイー(註)の能力をどう表現しようかと考えているときに思い出したのがこの《Firestorm Phoenix》だった。

 決して死なないというこのカードの能力はプレイしていてとても楽しいものだったし、「死なない」ということに関してはスクイーほどふさわしいキャラはいなかった。そこで私は《Firestorm Phoenix》の能力に手を加えて《ゴブリンの太守スクイー/Squee, Goblin Nabob》を完成させたというわけだ。
(註) スクイー
 飛翔艦ウェザーライト号の乗組員であるゴブリン。背景ストーリーの中で死んでもすぐ生き返る不死の体に改造されてしまい、ここであげられている「能力」とはそのこと。なお実際の《ゴブリンの太守スクイー/Squee, Goblin Nabob》の能力は「アップキープの開始時に墓地から手札に戻る」というもの。


《混沌の篭手/Gauntlets of Chaos》、《対置/Juxtapose》
Gauntlets of Chaos / 混沌の篭手 (5)
アーティファクト
(5),混沌の篭手を生け贄に捧げる:あなたがコントロールするアーティファクト1つかクリーチャー1体か土地1つと、対戦相手1人がコントロールする、それと共通するタイプを持つパーマネント1つを対象とし、それらのコントロールを交換する。これによりそれらのパーマネントが交換された場合、それらにつけられているすべてのオーラ(Aura)を破壊する。
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Gauntlets+of+Chaos/

Juxtapose / 対置 (3)(青)
ソーサリー
プレイヤー1人を対象とする。あなたとそのプレイヤーは、それぞれ自分がコントロールする点数で見たマナ・コストが最も大きいクリーチャー1体のコントロールを交換する。その後アーティファクトについても同じことを行う。プレイヤーが点数で見たマナ・コストが最も大きいパーマネントが2つ以上コントロールしている場合、そのプレイヤーがどちらか1つを選ぶ。(この効果は、ターン終了時に終わらない。)
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Juxtapose/

 以前、記事に書いたようにウルザズ・デスティニーの《寄付/Donate》を私に作るよう仕向けた直接的な原因となったカードがこれらだ。


《Glyph of Destruction》
Glyph of Destruction (赤)
インスタント
あなたがコントロールする、ブロックしている壁(Wall)1体を対象とする。それは戦闘終了時まで+10/+0の修整を受ける。このターン、それに与えられるすべてのダメージを軽減する。次の終了ステップの開始時に、それを破壊する。
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Glyph+of+Destruction/

 ウェザーライトの開発中のことだ。セットのカードの1枚である《ゴブリン爆弾/Goblin Bomb》の効果が「あなたはゲームに勝利する」という単純なものになりそうだったが、私はなんとかそれを「20点のダメージを与える」に変えさせようと戦っていた。

 「どっちだって同じだろうし、だったらここは20点ダメージでもいいじゃないか。マジックのテキスト欄にはもっと派手な数字が必要なんだ」と説得しつつ、さらに相手を説得するためにこう付け加えた。「ほら、《Glyph of Destruction》というカードがあっただろう。+10だよ、+10。だったら2桁の数字がもっとあったっていいじゃないか」とね。

 そんな私の言葉のおかげかはさておき、とにかく私はチームメンバーを説得することに成功し、無事《ゴブリン爆弾/Goblin Bomb》は20点を与えるカードとなった。憶えている限りで《Glyph of Destruction》というカード名を口に出したのはこのときだけだ(クイズ大会みたいな例外を除けばだけどね)。


《Heaven’s Gate》、《Alchor’s Tomb》、《Dream Coat》
Heaven’s Gate (白)
インスタント
好きな数のクリーチャーを対象とする。それらはターン終了時まで白になる。
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Heaven%27s+Gate/

Alchor’s Tomb (4)
アーティファクト
(2),(T):あなたがコントロールするパーマネント1つを対象とする。それはあなたが選んだ色1色になる。(この効果は永続する。)
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Alchor%27s+Tomb/

Dream Coat (青)
エンチャント - オーラ(Aura)
エンチャント(クリーチャー)
(0):エンチャントされているクリーチャーは、あなたが選んだ色1色か色の組み合わせになる。この能力は、各ターンに1回のみ起動できる。
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Dream+Coat/

 土地デッキ以外で組んだ変わったデッキといえば、色変更デッキだ。色々組んだその色変更デッキの中で特にお気に入りだったのは《Martyr’s Cry》と《Heaven’s Gate》によるライブラリ破壊コンボを狙った山札破壊デッキだった。《石臼/Millstone》も入ってたはずだ。

 ん? ああ、バレたか。私は強いデッキを作るのが得意だったわけじゃない……面白いデッキを作るのが得意だったんだ。

 まあそんなわけで、私はレジェンドで「呪文やパーマネントの色を変える効果」の素晴らしさを知った(ちなみにデザイナーのマイク・エリオットも同好の士だ)。そしてその愛はインベイジョンに反映された(例えば《水晶のしぶき/Crystal Spray》や《変容する大空/Shifting Sky》などだ)。インベイジョンブロック全体を貫くテーマの1つ、色替え効果はレジェンドにその端を発するというわけさ。


《地獄の番人/Hell’s Caretaker》
Hell’s Caretaker / 地獄の番人 (3)(黒)
クリーチャー - ホラー(Horror)
(T),クリーチャーを1体、生け贄に捧げる:あなたの墓地にあるクリーチャー・カード1枚を対象とし、それを戦場に戻す。この能力は、あなたのアップキープの間にのみ起動できる。
1/1
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Hell%27s+Caretaker/

 ウィザーズに入社する以前、私は仲間たちと Melee Game という特殊ルールでマジックを遊ぶことがあった。これはマジックを多人数でプレイするためのローカルルールで、プレイヤーは輪になって座り、互いに左側のプレイヤーにしか攻撃できない、というルールだった。

 私がその Melee Game 専用に作ったデッキで中心的な役割を果たしていたのがこの《地獄の番人/Hell’s Caretaker》だった。私はこのカードがとても好きだったので、同じように「戦場のクリーチャーと墓地のクリーチャーを入れ替える」という効果を持つカードをいくつも生み出した。

 エクソダスの《繰り返す悪夢/Recurring Nightmare》、ウルザズ・サーガの《犠牲/Victimize》、ウルザズ・デスティニーの《ネクロマンサーの弟子/Apprentice Necromancer》や《ボディ・スナッチャー/Body Snatcher》などだ。

 これらの発想を土台として、さらにそれらとはまた違った形で墓地からクリーチャーを復活させるカードが生まれていった。そう、ミラージュの《浅すぎる墓穴/Shallow Grave》、テンペストの《死体のダンス/Corpse Dance》、オデッセイの《ゾンビ化/Zombify》などだ。


《Hyperion Blacksmith》、《秘宝の障壁/Relic Barrier》
Hyperion Blacksmith (1)(赤)(赤)
クリーチャー ? 人間(Human) 工匠(Artificer)
(T):対戦相手1人がコントロールするアーティファクト1つを対象とする。あなたはそれをタップまたはアンタップしてもよい。
2/2
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Hyperion+Blacksmith/

Relic Barrier / 秘宝の障壁 (2)
アーティファクト
(T):アーティファクト1つを対象とし、それをタップする。
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Relic+Barrier/

 当時、色んなデッキを作っていた中にアーティファクトデッキもあった。新セットが出るたびにカードを入れ替え、長く使い続けたものだ。

 これら2枚のカードはいずれもそのアーティファクトデッキに入れたことのあるカードであり、かつこれらから着想を得て生み出したのがウルザズ・サーガの《通電式キー/Voltaic Key》(タップすることで対象のアーティファクトをアンタップできるアーティファクト)だ。

後編はこちら
https://regiant.diarynote.jp/201903310243511522/

前編はこちら
https://regiant.diarynote.jp/201903310244432225/


《In the Eye of Chaos》
In the Eye of Chaos (2)(青)
ワールド・エンチャント
プレイヤー1人がインスタント呪文を唱えるたび、それを、そのプレイヤーが(X)を支払わないかぎり打ち消す。Xはその点数で見たマナ・コストの点数である。
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/In+the+Eye+of+Chaos/

 このカードからインスピレーションを受けて作成したカードがアポカリプスの《氷の洞窟/Ice Cave》だ(青の5マナのエンチャント。効果は「プレイヤー1人が呪文を唱えるたび、他のプレイヤーはその呪文のマナ・コストを支払ってもよい。そうした場合、その呪文を打ち消す」)

 このカードのように、対戦相手がマナを支払わなければ相手の呪文が打ち消されるというエンチャントがありなら逆に、こっちがマナを支払うことで相手の呪文が打ち消せるというエンチャントもありなのではないか、と考えたわけさ。打ち消したい呪文のマナコストをそのものを支払わなければいけないというデザインも上手くハマったと思ってるよ。


《宿命/Kismet》
Kismet / 宿命 (3)(白)
エンチャント
あなたの対戦相手がプレイするアーティファクトとクリーチャーと土地は、タップ状態で戦場に出る。
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Kismet/

 さてここまで「特定のカードからインスピレーションを受けて作られたカード」の話をしてきた。そろそろ逆に「特定のカードからインスピレーションを受けて作られたわけではないカード」の話もしてみよう。

 テンペストに《根の迷路/Root Maze》というカードがある。多くのプレイヤーはこのカードが《宿命/Kismet》が元になったと思っている。

 違うんだ。そもそもこの《根の迷路/Root Maze》は「全てのパーマネントに召喚酔いを与える」というカードになる予定だった。

 しかしこの効果をルールテキストに落とし込もうとした際に、結局この効果は「アーティファクトと土地はタップ状態で場に出る」という表現でほぼ同じ効果になることが分かった(かつ召喚酔いうんぬんの効果をルールテキストで表現しようとするより圧倒的に短くシンプルな記述でだ)


《Knowledge Vault》
Knowledge Vault (4)
アーティファクト
(2),(T):あなたのライブラリーの一番上のカードを、裏向きのまま追放する。
(0):Knowledge Vaultを生け贄に捧げる。そうした場合、あなたの手札を捨てる。その後Knowledge Vaultによって追放されたすべてのカードを、オーナーの手札に戻す。
Knowledge Vaultが戦場を離れたとき、ターン終了時に、Knowledge Vaultによって追放されたすべてのカードをそれぞれのオーナーの墓地に置く。
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Knowledge+Vault/

 私はいつだって戦場に出したカードの下に別のカードを差し込む(註)のを楽しんでいた。
(註) カードの下に別のカード
 《Knowledge Vault》の元々のカードテキストは「(2)T: Take a card from your library without looking at it and place it face down under Knowledge Vault.(以下略)」だった。
 簡単に訳すと「ライブラリから1枚カードを見ないで引いて、そのカードをこの Knowledge Vault の下に裏向きのまま差し込む」という感じ。

 この効果で何か面白いことはできないか、と考えたとき、対戦相手の手の届かない場所にカードを隠しておいてくれる、というカードが作れるかもしれないと思いついた。

 さて、アライアンスの開発中、それもかなり終盤に入った頃に、収録予定のアーティファクトの1枚が手直しのしようもないほどにぶっ壊れだということがプレイテストの結果で判明したのだ

 そこで何か新しいアーティファクトを急遽1枚入れる必要が生じたので、私は以前に思いついていたアーティファクトを推薦してみた。こうして世に出たのが《Gustha’s Scepter》(註)というわけさ。
(註) 《Gustha’s Scepter》
Gustha’s Scepter (0)
アーティファクト
(T):あなたの手札にあるカードを1枚、裏向きで追放する。それが追放され続けているかぎり、あなたはそれを見てもよい。
(T):Gustha’s Scepterによって追放された、あなたがオーナーであるカードを1枚、あなたの手札に戻す。
あなたがGustha’s Scepterのコントロールを失ったとき、Gustha’s Scepterによって追放されたすべてのカードをオーナーの墓地に置く。
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Gustha%27s+Scepter/


《大地の刃/Land’s Edge》
Land’s Edge / 大地の刃 (1)(赤)(赤)
ワールド・エンチャント
カードを1枚捨てる:プレイヤー1人かプレインズウォーカー1体を対象とする。捨てたカードが土地カードであるなら、大地の刃はそれに2点のダメージを与える。この能力は、どのプレイヤーも起動してよい。
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Land%27s+Edge/

 デザイナーは、ときに過去の良作をほぼそのまま再登場させることがある。例えば《大地の刃/Land’s Edge》から生まれたエクソダスの《突撃の地鳴り/Seismic Assault》(土地を捨てることで好きな対象に2点のダメージを与える赤の3マナのエンチャント)だ。


《Living Plane》
Living Plane (2)(緑)(緑)
ワールド・エンチャント
すべての土地は1/1のクリーチャーである。それは土地でもある。
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Living+Plane/

 前述のとおり、デザイナーはときに過去の良作をほぼそのまま再登場させることがある。別の例としては例えば《Living Plane》から生まれたテンペストの《自然の反乱/Nature’s Revolt》(全ての土地を2/2にする緑の5マナのエンチャント)だ。


《Moat》
Moat (2)(白)(白)
エンチャント
飛行を持たないクリーチャーは攻撃できない。
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Moat/

 しつこいようだが、デザイナーはときに過去の良作をほぼそのまま再登場させることがある。別の例としては例えば《Moat》から生まれたインベイジョンの《テフェリーの濠/Teferi’s Moat》だ。もっともこれについては元ネタはバレバレだったと思うけどね。


《ネブカドネザル/Nebuchadnezzar》
Nebuchadnezzar / ネブカドネザル (3)(青)(黒)
伝説のクリーチャー - 人間(Human) ウィザード(Wizard)
(X),(T):カード名を1つ選ぶ。対戦相手1人を対象とする。そのプレイヤーは、自分の手札からカードをX枚無作為に公開する。その後、そのプレイヤーはこれにより公開されたその名前のカードをすべて捨てる。この能力は、あなたのターンの間にのみ起動できる。
3/3
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Nebuchadnezzar/

 レジェンドで初めて見たときから《ネブカドネザル/Nebuchadnezzar》の効果の虜になったのを覚えてるよ。それは全く新しく、かつカッコいい能力だった。当時、このカードから得たアイデアで私は "Go Fish" という呪文を思い付いたが、それはまだまだブラッシュアップが必要な代物だった。

 以降、それに改良を加えていき、そしてようやくジャッジメントで収録してもらえたわけさ。そう、そのカードこそが《陰謀だ……ん? んん? ちょっと待ってくれ……ジャッジメントはまだ発売前じゃないか!?

 ふう。危ないところだった。この段落はあとで消しておかないとね。

 もちろん、君は何も聞いてない。いいね? よし、じゃ次だ。


《ニコル・ボーラス/Nicol Bolas》
Nicol Bolas / ニコル・ボーラス (2)(青)(青)(黒)(黒)(赤)(赤)
伝説のクリーチャー - エルダー(Elder) ドラゴン(Dragon)
飛行
あなたのアップキープの開始時に、あなたが(青)(黒)(赤)を支払わないかぎり、ニコル・ボーラスを生け贄に捧げる。
ニコル・ボーラスが対戦相手にダメージを与えるたび、そのプレイヤーは自分の手札を捨てる。
7/7
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Nicol+Bolas/

 元々、インベイジョンに収録されている伝説のドラゴンシリーズ(註)(ちなみにマイク・エリオットによるデザインだ)は全てタップ能力を持たせる予定だった。
(註) インベイジョンの伝説のドラゴン
 インベイジョンには有効的な3色をもつ5種類のドラゴンが収録されており、その全てが「戦闘ダメージを与えるたび、あなたは3マナ支払ってもよい。そうした場合 ~」の能力を持っている(3マナの色はドラゴンによって異なる)

 開発チームはそれらでテストプレイを重ねたが、どうにも何かが欠けていると感じたんだ。会議を重ねる中で、私は、過去のレジェンドに収録されていたエルダー・ドラゴンたちに何かヒントはないか、という意見を上げてみた。

 過去もっとも素晴らしい伝説のエルダードラゴンは何か? それは《ニコル・ボーラス/Nicol Bolas》だ。なぜ、《ニコル・ボーラス/Nicol Bolas》は素晴らしいのか? それはどっちにしろやりたくてしょうがないことをするだけで素敵なボーナスをもらえるクリーチャーだったからだ。

 やりたくてしょうがないこととは何か? そりゃもちろんクリーチャーで攻撃することさ!

 インベイジョンのドラゴンたちはタップ能力持ちだった。タップ能力ということは、能力を使うか攻撃するかのどちらかをとらなくてはいけないということだ。そんなドラゴンが楽しいわけがない。

 会議の参加者もこの説明に納得してくれた。そんなわけで《煽動するものリース/Rith, the Awakener》とその仲間たちの能力は攻撃時に誘発するようになったわけさ。


《ペトラ・スフィンクス/Petra Sphinx》
Petra Sphinx / ペトラ・スフィンクス (2)(白)(白)(白)
クリーチャー - スフィンクス(Sphinx)
(T):プレイヤー1人を対象とする。そのプレイヤーはカード名を1つ選ぶ。その後、そのプレイヤーのライブラリーの一番上のカードを公開する。そのカードが選ばれた名前を持つなら、そのプレイヤーはそれを自分の手札に加える。そうでないなら、そのプレイヤーはそれを自分の墓地に置く。
3/4
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Petra+Sphinx/

 このスフィンクスの謎かけは実に楽しい能力だ。そこで私はウルザズ・デスティニーの開発中に、これと同じようなカードを作れたら面白いんじゃないか、と思った。

 そして出来上がったのが《占いの鏡/Scrying Glass》(註)さ。
(註) 《占いの鏡/Scrying Glass》
Scrying Glass / 占いの鏡 (2)
アーティファクト
(3),(T):1以上の数と色を1色選ぶ。対戦相手1人を対象とする。そのプレイヤーは自分の手札を公開する。その対戦相手が選ばれた色のカードを選ばれた数だけ公開した場合、あなたはカードを1枚引く。
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Scrying+Glass/


《人形遣い/Puppet Master》
Puppet Master / 人形遣い (青)(青)(青)
エンチャント - オーラ(Aura)
エンチャント(クリーチャー)
エンチャントされているクリーチャーが死亡したとき、そのカードをオーナーの手札に戻す。この方法でそのカードがオーナーの手札に戻った場合、あなたは(青)(青)(青)を支払ってもよい。そうした場合、人形遣いをオーナーの手札に戻す。
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Puppet+Master/

 個人的にこのカードの好きな点は、エンチャントしているクリーチャーが手元に戻るときにこの《人形遣い/Puppet Master》も一緒に手札に戻せるという点だ。

 ウルザズ・デスティニーの開発中に私が試してみたのは、エンチャント自身とエンチャントされてるクリーチャーの両方が手札に戻るカードだ。

 こうして《失踪/Disappear》(註)が出来上がったわけさ。
(註) 《失踪/Disappear》
Disappear / 失踪 (2)(青)(青)
エンチャント - オーラ(Aura)
エンチャント(クリーチャー)
(青):エンチャントされているクリーチャーと失踪を、オーナーの手札に戻す。
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Disappear/


《発火/Pyrotechnics》
Pyrotechnics / 発火 (4)(赤)
ソーサリー
望む数のクリーチャーとプレインズウォーカーとプレイヤーの組み合わせを対象とする。発火はそれらに、4点のダメージをあなたが望むように割り振って与える。
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Pyrotechnics/

 このカードから派生して生まれたカードは1枚や2枚じゃない。その中で特に私が生み出したカードを紹介すると《とどろく雷鳴/Rolling Thunder》がある。テンペストのコモンカードだ(え? ……うん、そうだね。確かにコモンにすべきではなかったかもしれない)(註)
(註) コモンにすべきではなかった
 複数の対象にダメージを割り振れるX火力だったので、複数のクリーチャーを除去したり、本体に撃ち込んでゲームを終わらせたりとあまりにリミテッド環境では強すぎて、コモンの出現率では環境のバランスを崩してしまっていたため。


《狂暴ウォンバット/Rabid Wombat》
Rabid Wombat / 狂暴ウォンバット (2)(緑)(緑)
クリーチャー - ウォンバット(Wombat)
警戒
狂暴ウォンバットは、それにつけられているオーラ(Aura)1つにつき+2/+2の修整を受ける。
0/1
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Rabid+Wombat/

 私は常々このウォンバットの面白さを何とか再現できないかと考えていたので、ウルザズ・デスティニーのデザイン時には「エンチャントされたとき」に何らかのボーナスを得られるクリーチャーを色々と作ってみたわけさ。

 そんなわけでウルザズ・デスティニーの以下の一連のカードは元はこのカードから着想を得たものだ(《巣立つミサゴ/Fledgling Osprey》、《メタスランの精鋭/Metathran Elite》、《アカデミーの事務局長レイン/Rayne, Academy Chancellor》、《スランのゴーレム/Thran Golem》)


《魂の歌姫ルビニア/Rubinia Soulsinger》
Rubinia Soulsinger / 魂の歌姫ルビニア (2)(緑)(白)(青)
伝説のクリーチャー - フェアリー(Faerie)
あなたは、あなたのアンタップ・ステップに魂の歌姫ルビニアをアンタップしないことを選んでもよい。
(T):クリーチャー1体を対象とする。あなたが魂の歌姫ルビニアをコントロールし続け、かつ魂の歌姫ルビニアがタップ状態であり続けるかぎり、そのコントロールを得る。
2/3
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Rubinia+Soulsinger/

 このカードの持つ能力はアラビアンナイトが初出であり、私はその頃からすでにこの能力の大ファンだった。初出であるアラビアンナイトのカード、《Old Man of the Sea》は色んなデッキに投入してたよ。

 だから、その能力の後継者であるこの《魂の歌姫ルビニア/Rubinia Soulsinger》が登場したときはもちろんデッキに投入してみたさ。

 そんなこれら2枚への愛が私に作らせたカードがテンペストの《棺の女王/Coffin Queen》(註)だ。
(註) 《棺の女王/Coffin Queen》
Coffin Queen / 棺の女王 (2)(黒)
クリーチャー - ゾンビ(Zombie) ウィザード(Wizard)
あなたは、あなたのアンタップ・ステップに棺の女王をアンタップしないことを選んでもよい。
(2)(黒),(T):墓地にあるクリーチャー・カード1枚を対象とし、それをあなたのコントロール下で戦場に出す。棺の女王がアンタップ状態になるかあなたが棺の女王のコントロールを失ったとき、そのクリーチャーを追放する。
1/1
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Coffin+Queen/


《Rust》
Rust (緑)
インスタント
アーティファクトを発生源とする起動型能力1つを対象とし、それを打ち消す。(マナ能力は対象にできない。)
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Rust/

 このカードから直接的なインスピレーションを受けて作られたカードはテンペストの《阻止/Interdict》とインベイジョンの《束縛/Bind》だ。


《嵐の運び手/Storm Seeker》
Storm Seeker / 嵐の運び手 (3)(緑)
インスタント
プレイヤー1人を対象とする。嵐の運び手はそのプレイヤーに、そのプレイヤーの手札にあるカードの枚数に等しい点数のダメージを与える。
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Storm+Seeker/

 マジックの古いカードには、残念なことに、とても良いカードなのに色の設定だけ間違っているというカードが何枚かある。こういったカードを正しい色で再登場させるのもデザイナーの大事な仕事だ。

 この《嵐の運び手/Storm Seeker》も正しい色で再作成されたカードだ。そう、赤くなった以外はまったくそのままのテンペストの《突然の衝撃/Sudden Impact》がそれだ。


《Sword of the Ages》
Sword of the Ages (6)
アーティファクト
Sword of the Agesはタップ状態で戦場に出る。
(T),Sword of the Agesと望む数のあなたがコントロールするクリーチャーを生け贄に捧げる:クリーチャー1体かプレインズウォーカー1体かプレイヤー1人を対象とする。Sword of the AgesはそれにX点のダメージを与える。Xは、これにより生け贄に捧げられたクリーチャーのパワーの合計である。その後、Sword of the Agesとそれらのクリーチャー・カードを追放する。
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Sword+of+the+Ages/

 このカードのゲームを終わらす力に私は酔いしれた。当時の私のアーティファクトデッキは、全てのクリーチャーをこの剣に捧げることで何人もの対戦相手たちの息の根を止めたものだ。

 テンペストのデザイン中にこのカードからインスピレーションを受けて作ったのが《ゴブリンの砲撃/Goblin Bombardment》(註)だ。なおエンチャントという特性上継続的に使えるという強みがあったのでバランスを取るために与えるダメージは小さく設定した。
(註) 《ゴブリンの砲撃/Goblin Bombardment》
Goblin Bombardment / ゴブリンの砲撃 (1)(赤)
エンチャント
クリーチャー1体を生け贄に捧げる:クリーチャー1体かプレインズウォーカー1体かプレイヤー1人を対象とする。ゴブリンの砲撃はそれに1点のダメージを与える。
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Goblin+Bombardment/


《森の知恵/Sylvan Library》
Sylvan Library / 森の知恵 (1)(緑)
エンチャント
あなたのドロー・ステップの開始時に、あなたは追加のカードを2枚引いてもよい。そうした場合、あなたの手札にあるこのターン引いたカードを2枚選ぶ。それらのカードそれぞれについて、4点のライフを支払うか、そのカードをあなたのライブラリーの一番上に置く。
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Sylvan+Library/

 このカードが開発部に与えた影響は大きかった。過去にカードドロー能力(もしくはドローの質を上げる能力)が緑の役割となっていたのはこのカードが原因だ。

 緑のそういった役割を持つエンチャントの例としては、ビジョンズの《二度目の収穫/Rowen》、テンペストの《ミリーの悪知恵/Mirri’s Guile》、ウルザズ・サーガの《豊穣/Abundance》などが挙げられる。


《時の精霊/Time Elemental》
Time Elemental / 時の精霊 (2)(青)
クリーチャー - エレメンタル(Elemental)
時の精霊が攻撃かブロックしたとき、戦闘終了時にそれを生け贄に捧げ、それはあなたに5点のダメージを与える。
(2)(青)(青),(T):エンチャントされていないパーマネント1つを対象とし、それをオーナーの手札に戻す。
0/2
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Time+Elemental/

 このカードから着想を得て作られたカードはウルザズ・デスティニーの《時間の名人/Temporal Adept》(註)だ。
(註)《時間の名人/Temporal Adept》
Temporal Adept / 時間の名人 (1)(青)(青)
クリーチャー - 人間(Human) ウィザード(Wizard)
(青)(青)(青),(T):パーマネント1つを対象とし、それをオーナーの手札に戻す。
1/1
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Temporal+Adept/


《変成/Transmutation》
Transmutation / 変成 (1)(黒)
インスタント
クリーチャー1体を対象とする。ターン終了時まで、そのパワーとタフネスを入れ替える。
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Transmutation/

 過去のカードの中に「アイデアは良いのに弱すぎて使われなかったカード」を見つけたとき、デザイナーとしてはお宝を掘り当てた気持ちになるね。

 この《変成/Transmutation》の効果は多くのデザイナーの手によって何度も再登場している(もっとも黒ではなく、青や赤など異なる色での再登場だが)。

 私個人の作としてはウェザーライトの《ドワーフの秘術師/Dwarven Thaumaturgist》やウルザズ・デスティニーの《回れ右/About Face》などがある。


《地獄界の夢/Underworld Dreams》
Underworld Dreams / 地獄界の夢 (黒)(黒)(黒)
エンチャント
対戦相手がカードを1枚引くたび、地獄界の夢はそのプレイヤーに1点のダメージを与える。
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Underworld+Dreams/

 ミラージュの開発中のこと、青緑のマルチカラーカードがどうしても必要になった。

 そしてそれ以前から私たちは《地獄界の夢/Underworld Dreams》をもっとバランスのとれた形で作り直せないだろうか、という話をしていた。

 こうして開発チームの思いついたアイデアは「プレイヤーにより多くのカードを引かせてくれるがその枚数分だけダメージを与える青緑のエンチャント」だった。

 最終的にこのアイデアは《悪性腫瘍/Malignant Growth》(註)という形で世に出た。
(註) 《悪性腫瘍/Malignant Growth》
Malignant Growth / 悪性腫瘍 (3)(緑)(青)
エンチャント
累加アップキープ(1)(あなたのアップキープの開始時に、このパーマネントの上に経年(age)カウンターを1個置く。その後あなたがこの上に置かれている経年カウンター1個につきアップキープ・コストを1回支払わないかぎり、それを生け贄に捧げる。)
あなたのアップキープの開始時に、悪性腫瘍の上に成長(growth)カウンターを1個置く。
各対戦相手のドロー・ステップの開始時に、そのプレイヤーは悪性腫瘍の上に置かれている成長カウンター1個につき追加のカードを1枚引き、その後悪性腫瘍はそのプレイヤーに、これにより引いたカードの枚数に等しい点数のダメージを与える。
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Malignant+Growth/


《Venarian Gold》
Venarian Gold (X)(青)(青)
エンチャント - オーラ(Aura)
エンチャント(クリーチャー)
Venarian Goldが戦場に出たとき、エンチャントされているクリーチャーをタップし、あなたがVenarian Goldを唱える際のXの値に等しい数の睡眠(sleep)カウンターを置く。
エンチャントされているクリーチャーは、その上に睡眠カウンターが置かれている場合、それのコントローラーのアンタップ・ステップにアンタップしない。
エンチャントされているクリーチャーのコントローラーのアップキープの開始時に、そのクリーチャーから睡眠カウンターを1個取り除く。
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Venarian+Gold/

 このカードは私の青緑ウィニーデッキのサイドボードにクリーチャー除去枠として投入されていた(ウィニーデッキなら、1~2ターンもタップさせておければ除去したも同然だからだ)

 それから何年かして私はこのカードから得たインスピレーションを元に、クリーチャーをタップ状態のままにする青のクリーチャーエンチャントを作った。

 プレーンシフトの《眠りの秘薬/Sleeping Potion》(註)がそれだ。

 興味深い点として、この《眠りの秘薬/Sleeping Potion》は実質的に古いカード2枚を組み合わせたような効果になっている。1枚は《Venarian Gold》で、もう1枚は何かというと、呪文や能力の対象となったときに死んでしまう《卑屈な幽霊/Skulking Ghost》だ。
(註) 《眠りの秘薬/Sleeping Potion》
Sleeping Potion / 眠りの秘薬 (1)(青)
エンチャント - オーラ(Aura)
エンチャント(クリーチャー)
眠りの秘薬が戦場に出たとき、エンチャントされているクリーチャーをタップする。
エンチャントされているクリーチャーは、それのコントローラーのアンタップ・ステップにアンタップしない。
エンチャントされているクリーチャーが呪文や能力の対象になったとき、眠りの秘薬を生け贄に捧げる。
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Sleeping+Potion/


《Wood Elemental》
Wood Elemental (3)(緑)
クリーチャー - エレメンタル(Elemental)
Wood Elementalが戦場に出るに際し、好きな数のアンタップ状態の森(Forest)を生け贄に捧げる。
Wood Elementalのパワーとタフネスはそれぞれ、それが戦場に出るに際し生け贄に捧げられた森の数に等しい。
*/*
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Wood+Elemental/

 開発部内でもこのカードが如何にひどすぎるかが以前からネタにされていた。そこでウェザーライトの開発中、このカードの改良版を作ってみようじゃないか、という話になった。

 こうして生まれた《菌類の精霊/Fungus Elemental》(註)は明らかにその祖先である《Wood Elemental》より優れているが、構築で見かける率は結局のところ大して変わらなかった。
(註) 《菌類の精霊/Fungus Elemental》
Fungus Elemental / 菌類の精霊 (3)(緑)
クリーチャー - ファンガス(Fungus) エレメンタル(Elemental)
(緑),森(Forest)を1つ生け贄に捧げる:菌類の精霊の上に+2/+2カウンターを1個置く。この能力は、このターン菌類の精霊が戦場に出た場合にのみ起動できる。
3/3
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Fungus+Elemental/



 さて今日はここまでだ。古いカードたちがどれほど新しいカードたちに影響を与えているか、君たちに多少なりとも伝わったなら幸いだ。

 来週は私の好きなマジックのプレイヤー3人について語ろうと思っている。そう、ティミーとジョニーとスパイクだ。それまで、君たちが対戦相手の前に立っている2枚の《島/Island》がただのブラフかどうかを見抜けるよう祈ってるよ。
【翻訳】テンペストの中で輝いて/In a Teapot【DailyMTG】
Mark Rosewater
2002年12月16日
元記事:https://magic.wizards.com/en/articles/archive/making-magic/teapot-2002-12-16

 テンペスト週間へようこそ! 今週は私の最も好きなセットの1つであるテンペストについて語らせてもらおう。テンペストは常に私の心の中で特別な位置を占めているセットなんだ。何しろ私が初めてデザインしたセットだからね。

 アライアンスやミラージュ、ウェザーライトでカードをデザインしたことはあった。しかし正式なデザイナーとしてセットの開発に参加したという意味ではテンペストが最初だ。さらに言えば、テンペストは初めて私がデザインチームを運営したんだ。

カードの中にあり/It’s in the Cards

 実は今週の私のコラムは2つある。1つは過去にデュエリストという雑誌に載っていたコラムの再掲だ。まさにテンペストが世に出たときに書いた、テンペストのデザインとデベロップメントに関する記事だ。そっちは今週の後半にはアップされるはずだよ。

 もう1つは、そう、君が今読んでるこのコラムだ。ここではテンペストの様々なカードがどのようにデザインされたかを個別に見ていこうと思う。それを通じて、君たちにもテンペストというセットがどうデザインされたのかをよく知ってもらえるだろう。

 ちょっと付け加えておくと、テンペストのデザインについては様々なコラムでこれまでにも触れてきた。なので今回のコラムでは極力過去に一度も語っていない新ネタを書きたいと思っている(とはいえ多少かぶってしまうこともあると思うが多目に見てくれ)

Altar of Dementia / 狂気の祭壇 (2)
アーティファクト
クリーチャーを1体、生け贄に捧げる:プレイヤー1人を対象とする。そのプレイヤーは、自分のライブラリーの一番上のカードを、生け贄に捧げられたクリーチャーのパワーに等しい枚数だけ自分の墓地に置く。
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Altar+of+Dementia/

 このカードは《石臼/Millstone》の新たな形を模索していたときに思いついた。

 当時、石臼デッキといえばノンクリーチャーデッキが当たり前だった。そこで私は、クリーチャーが入っているデッキでないと使えない山札破壊のカードがあっても面白いんじゃないかな、と思ったわけさ。

Ancient Runes / 古代ルーン文字 (2)(赤)
エンチャント
各プレイヤーのアップキープの開始時に、古代ルーン文字はそのプレイヤーに自分がコントロールするアーティファクトの数に等しい点数のダメージを与える。
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Ancient+Runes/

 過去に人気だったカードを元にして新たなカードを作ることがある。これはその好例だね。私は《因果応報/Karma》が大好きだった。そしてふと思ったんだ。「沼じゃなくて別の何かに対して有効なのも作れるんじゃないか?」とね。

 別の何かとして最初に思いついたのはアーティファクトだった。さて、じゃあアーティファクトを持ってるプレイヤーに対して強い色といえば?

 アーティファクトを破壊できる色といえば赤、緑、そして白の3つだ。緑がダメージを与えるというのはちょっと変だし、白はすでに《因果応報/Karma》がある。そんなわけで残ったのは赤だった。まさにぴったり狙いにハマる色が残ったわけさ。

Auratog / オーラトグ (1)(白)
クリーチャー - エイトグ(Atog)
エンチャントを1つ生け贄に捧げる:オーラトグはターン終了時まで+2/+2の修整を受ける。
1/2
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Auratog/

 実はこのカードはテンペストではなくミラージュの開発時に生まれていたカードだ。

 当時、ミラージュには森を生け贄に捧げることでパンプできる1/2の緑のクリーチャーがいた。デベロップメントの会議の際に、これはまさに緑のエイトグだね、と私見を述べた。

 そのとき、カード名をつける担当者がそのアイデアに飛びついたわけさ。結果、クリーチャータイプはエイトグとなり、カード名は《森エイトグ/Foratog》と名付けられた。

 そのときだよ。R&Dがエイトグのサイクルを作ろうと決めたのはね。

 私たちはまず色ごとに対応するエイトグをデザインし、さらにそれらをその後に発売されるセットにそれぞれ収録することにしたんだ。

 ビジョンズには青いエイトグこと《時エイトグ/Chronatog》、ウェザーライトには黒いエイトグこと《ネクロエイトグ/Necratog》、そしてテンペスト用に残されたのが白いエイトグだったというわけさ。

Carrionette / 操り骸骨人形 (1)(黒)
クリーチャー - スケルトン(Skeleton)
(2)(黒)(黒):クリーチャー1体を対象とする。操り骸骨人形とそれを、それのコントローラーが(2)を支払わないかぎり、それらを追放する。この能力は、操り骸骨人形があなたの墓地にある場合にのみ起動できる。
1/1
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Carrionette/

 このカードのデザインはR&Dがいわゆる「トップダウン」と呼ぶタイプのデザインだった。トップダウンとはどういうことかというと、まずフレイバーが先にあり、それにフィットする能力をあとから考えるタイプのデザインだ。

 このカードの場合、フレイバーとして「墓地で息をひそめて獲物を待ち構えつつ隙を見て襲い掛かって来るクリーチャー」がまずあり、そのアイデアを実現する能力があとからデザインされた、というわけだ。

Commander Greven il-Vec / 司令官グレヴェン・イル=ヴェク (3)(黒)(黒)(黒)
伝説のクリーチャー - 人間(Human) 戦士(Warrior)
畏怖(このクリーチャーは、黒でもアーティファクトでもないクリーチャーによってはブロックされない。)
司令官グレヴェン・イル=ヴェクが戦場に出たとき、クリーチャーを1体生け贄に捧げる。
7/5
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Commander+Greven+il-Vec/

 これも「トップダウン」タイプのデザインだね。司令官グレヴェンのために私たちは伝説のクリーチャーを作る必要があった。

 私の中で、司令官グレヴェンとは恐怖を体現し、かつ大ダメージを与えられるクリーチャーでなくてはならなかった。それを実用可能なコストで実現するには、何らかのデメリットを持たせないといけなかった。

 物語の中でグレヴェンはことあるごとに誰かを殺していたので、クリーチャーを生け贄に捧げるというコストは非常にフレイバーに沿っているように思われた。

Coffin Queen / 棺の女王 (2)(黒)
クリーチャー - ゾンビ(Zombie) ウィザード(Wizard)
あなたは、あなたのアンタップ・ステップに棺の女王をアンタップしないことを選んでもよい。
(2)(黒),(T):墓地にあるクリーチャー・カード1枚を対象とし、それをあなたのコントロール下で戦場に出す。棺の女王がアンタップ状態になるかあなたが棺の女王のコントロールを失ったとき、そのクリーチャーを追放する。
1/1
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Coffin+Queen/

 このカードは《Old Man of the Sea》(訳注:自身のパワー以下のパワーを持つクリーチャー1体のコントロールを奪える 2/3 のクリーチャー)があってこそ生まれたカードだ。

 私はずっと《Old Man of the Sea》が大好きだった。この大好きなカードのどんなバリエーション違いが生み出せるかな、と考えていたとき、他人の墓地からクリーチャーを奪ってくるってのはどうだろう、と思いついた。

 最終的には対戦相手だけでなくどの墓地のクリーチャーも奪えることにした。なぜなら多くのプレイヤーは基本的に自身の墓地のクリーチャーを蘇らせることを好むからだ。

Diabolic Edict / 悪魔の布告 (1)(黒)
インスタント
プレイヤー1人を対象とする。そのプレイヤーは、クリーチャーを1体生け贄に捧げる。
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Diabolic+Edict/

 《Old Man of the Sea》以外で好きなカードをあげろと言われたら《疾風のデルヴィッシュ/Whirling Dervish》(訳注:プロテクション黒を持ち攻撃するたびに成長する緑のクリーチャー)だね。このカードが使えた当時は、こいつだけで黒単色デッキを徹底的に叩きのめすことができた。何しろ黒はこいつをどうすることもできなかったからね。

 テンペストのデザインの最中に、黒にも《疾風のデルヴィッシュ/Whirling Dervish》に対抗する手段を持たせたい、という意見があがった。その結果がこのカードさ。

 皮肉なことにこのカードが生まれて以降、マジックの環境は「黒がもうこれ以上プロテクションに本気で悩まされない時代」を迎えることとなった。

Dracoplasm / ドラゴンプラズマ (青)(赤)
クリーチャー - 多相の戦士(Shapeshifter)
飛行
ドラゴンプラズマが戦場に出るに際し、好きな数のクリーチャーを生け贄に捧げる。ドラゴンプラズマのパワーはそれらクリーチャーのパワーの合計になり、タフネスはそれらのタフネスの合計になる。
(赤):ドラゴンプラズマはターン終了時まで+1/+0の修整を受ける。
0/0
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Dracoplasm/

 このカードは元々ソーサリーとして作られる予定だった。そのときのカード名は《融合/Meld》で、効果は2体のクリーチャーを融合させることができるというものだった。具体的には、2体のクリーチャーを生け贄に捧げてトークンを生み出すという効果だ。

 そのトークンのパワーとタフネスは生け贄に捧げた2体のそれの合計で、さらにそれぞれのクリーチャーが持っていた能力も得ることができた。しかしこの呪文はそのままだとルール的な問題点が山積みとなったため、戦場に出たとき同時に捧げられた生け贄の分だけ強化されるというクリーチャーに変更された。

Earthcraft / 大地の知識 (1)(緑)
エンチャント
あなたがコントロールするアンタップ状態のクリーチャーを1体タップする:基本土地1つを対象とし、それをアンタップする。
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Earthcraft/

 私が最初に考えたバージョンは、「全てのクリーチャーに『タップ:対象の土地をアンタップする』という能力を付与する」というものだった。

 その後、デベロップメントへと移った際に、Text Splicing(クリーチャーのテキスト欄に能力を継ぎ足す形)という能力から、単にエンチャントの起動コストとしてクリーチャーのタップを要求する形に変更になった。そしてこの変更による影響は非常に大きかった。

 なぜならこれによって戦場に出たばかりのクリーチャーでも土地をアンタップできるようになったからだ。このカードを使ったコンボの大半はトークンクリーチャーを生み出すパーマネントとセットだった……と言えば分かってもらえるだろうね。そして数年後、このカードは多人数戦での使用を禁止されることになる。

Escaped Shapeshifter / 逃亡した多相の戦士 (3)(青)(青)
クリーチャー - 多相の戦士(Shapeshifter)
対戦相手1人が《逃亡した多相の戦士/Escaped Shapeshifter》という名前でない、飛行を持つクリーチャーを1体でもコントロールしているかぎり、逃亡した多相の戦士は飛行を持つ。先制攻撃、トランプル、いずれかの色に対するプロテクションも同様である。
3/4
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Escaped+Shapeshifter/

 私のSF愛が生み出したカードがこれだ。SFによく見られるネタの1つに、傍にいる生き物の能力をコピーするエイリアンというネタがある。これを再現したくてデザインしたのがこのクリーチャーだった。

 ちなみに私の最初の案は、戦場にいる全クリーチャーの全ての能力をコピーするというものだったが、これまたルール的な問題に阻まれて能力の縮小を余儀なくされたというわけさ。

Extinction / 絶滅 (4)(黒)
ソーサリー
あなたが選んだ1種類のクリーチャー・タイプを持つすべてのクリーチャーを破壊する。
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Extinction/

 このカードのそもそもの始まりは「全てのInsect(虫)、Spider(蜘蛛)、Faeries(妖精)を破壊する《殺虫剤/Insecticide》というカードを作ってみようか?」という冗談が元だった。

 その後、今の形へと変更され、それに合わせてカード名も一旦は《虐殺/Genocide》に変更された。私たちはこの新たなカード名そのもので世に出すつもりだった。効果がまさにそのものだったからね。1つの種をこの世から消し去るわけだ。

 しかし同時に、単語が持つあまりにもネガティブな響きの強さに懸念を覚えもした。そして不必要に人々の神経を逆なでしたくなかったので今の形に名前を変えることにしたわけさ。

Field of Souls / 魂のフィールド (2)(白)(白)
エンチャント
トークンでないクリーチャーが戦場からあなたの墓地に置かれるたび、飛行を持つ白の1/1のスピリット(Spirit)・クリーチャー・トークンを1体生成する。
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Field+of+Souls/

 このカードに関する面白い話といえば、最初のバージョンでは「トークンではない」という文言がなかったことだ。そのままだと君のクリーチャー全てがあっという間に不死身の1/1の飛行クリーチャーと化す、と気づくのにはたった1回のテストプレイで十分だったよ。あれはまさにぶっ壊れカードだったね。

Fugitive Druid / 脱走ドルイド (3)(緑)
クリーチャー - 人間(Human) ドルイド(Druid)
脱走ドルイドがオーラ(Aura)呪文の対象になるたび、あなたはカードを1枚引く。
3/2
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Fugitive+Druid/

このカードに関しても面白い話がある。ただ実のところカードそれ自体とはあまり関係ない話だけどね。このカードのプレイテスト中の仮の名前は《エンチャント・ラッド/Enchanto Lad》だったんだ。能力そのままだね。
(註) エンチャント・ラッド
 「Lad」は「Boy」とか「Kid」みたいな単語で、あえて訳すなら「エンチャント少年」とか「エンチャント坊や」みたいなカード名ということ。

 デザインをしている最中は可能な限りそれっぽい名前を付けることにしているが、いい名前を思いつかなかったときはそのカードの効果をほぼそのまま名前にしてしまうことがある。このカードみたいにね。まあ、その結果、ちょっとカード名がバカっぽい名前になることもある。

 さて、このカード名の何が面白かったかというと、このカード以降、テストプレイ中のカード名にある種のパターンというか……テーマみたいなものが自然と生まれてしまったんだ。

 普通は君たちに知られることはない話だね。何しろデザイン中のテストプレイ用のカードの名前の話だ。さてこのときのテーマとは?

 過去のコラムで何度も触れたことがあるように、私は昔からコミックブックの熱心な読者だった。そんな私が小さい頃に好きだったコミックに「Legion of Super Heroes」というのがあった。

 知らない人のために簡単に説明しておくと、これは30世紀ごろを舞台にしたコミックで、ティーネイジャーのスーパーヒーローたちが力を合わせて悪の軍団を戦う話だ。

 結構な人数のいるこのヒーローたちのチームは、大半のメンバーが特殊なスーパーパワーを1つ持っている。そしてヒーローたちの名前の付け方のパターンは「能力 + 少年少女に類する単語」だ。

 例えばチームの創設者である3人の名前はそれぞれ「コズミック・ボーイ」「サターン・ガール」「ライトニング・ラッド」だった。

 それを思い出した私は《脱走ドルイド/Fugitive Druid》のテストプレイ用の名前に詰まったときにこのヒーローチームの命名法を借りて《エンチャント・ラッド/Enchanto Lad》にしたわけさ。

 この命名法を使うことを覚えてからというもの、プレイテスト用のカードに貼り付けられた仮の名前はあっという間に「~キッド」だの「~ボーイ」だのであふれかえった。

 この話から君がどのような教訓を得られるかは定かではないが、もしかしたら「デザイナーはどんな些末な事にも楽しみ方を見つける」ってのは分かってもらえたかもしれないね。

Ghost Town / ゴースト・タウン
土地
(T):(◇)を加える。
(0):ゴースト・タウンをオーナーの手札に戻す。この能力は、あなたのターンでない場合にのみ起動できる。
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Ghost+Town/

 ああ、このカードか。これは違った形で世に出てたかもしれないカードだ。元々、このカードには「この能力は、あなたのターンでない場合にのみ起動できる」の一文がなかった。

 しかしデベロップメントチームはこのカードが《ハルマゲドン/Armageddon》と同時に使われること(平地と3枚のこれを並べて《ハルマゲドン/Armageddon》を唱えるとなぜか《ハルマゲドン/Armageddon》を唱えたのに平地以外の土地3枚が手札にある)を心配して、この一文を追加したんだ。

 私だったらこの変更は加えなかっただろうね。そして、もし私の案が通っていたら、開発部でもっともカードバランスを上手くとれる男として知られることはなかっただろうね。

(余談)
 原文では記事のこの位置に《グレイブディガー/Gravedigger》のカード画像(ポータル版とテンペスト版)が表示されており、その下に「《グレイブディガー/Gravedigger》の初出はポータルだがデザインされたのはテンペストだ」というキャプションがある。

Gravedigger / グレイブディガー (3)(黒)
クリーチャー - ゾンビ(Zombie)
グレイブディガーが戦場に出たとき、あなたの墓地からクリーチャー・カード1枚を対象とする。あなたはそれをあなたの手札に戻してもよい。
2/2
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Gravedigger/

 このカードの誕生はなかなか面白い経緯を辿った。

 テンペストの開発が始まった頃、私たちは「引かれたときに能力を誘発させるカード」というアイデアを試していた。

 案の定というか、これは実際の運用面で色々と問題を引き起こすことが分かり(対戦相手がそのカードをいつ引いたかどうやったら分かるんだろう、とかね。

 ちなみに私たちはカードの裏面のデザインを変えることでそれを解決しようと思っていた)、能力を誘発させる別の手段を模索することとなった。

 そして、最後には、戦場に出たときに誘発するという能力なら分かりやすいのでは、という結論に達した。しかし、この間、私たちはビジョンズの開発中のカードファイルを一度も確認していなかった。

 そのため、ビジョンズの開発チームが1年かそこら前にすでに辿り着いていた結論へようやくこのとき追いついたというわけさ。並行して進んだデザインであっても辿り着くべき場所にはどちらも辿り着く、という好例だね。

 《グレイブディガー/Gravedigger》に関するもう1つの小ネタとしては、テンペスト用にデザインされたこのカードを Bill Rose がポータル用に拝借していったことだ。

 ポータルはテンペストより数ヶ月早く発売されたため、結果として《グレイブディガー/Gravedigger》は「初出がポータルのカード」ということになってしまったわけさ。

Grindstone / 丸砥石 (1)
アーティファクト
(3),(T):プレイヤー1人を対象とする。そのプレイヤーは、自分のライブラリーの一番上から2枚のカードを自分の墓地に置く。それらのカードが共通の色を持っている場合、この過程を繰り返す。
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Grindstone/

 テンペストでデザインしたカードの中でもこれはお気に入りの1枚だ。

 私は以前からランダムな効果について考えていた。既存のカードのランダムな効果はどれもこれもあまりに極端すぎた。コインの表が出たら大吉、裏が出たら大凶という感じだ。

 そうではなくて私が作りたかったのは、条件を満たせばどんどん効果が上乗せされていくような、1か0ではないカードだった。そしてそれとは別に当時考えていたのは、単色デッキに対して強いカードを作れないか、ということだった。

 というわけさ(土地を効果から外せば強すぎてバランスを崩すようなこともないな、ということも含めてね)

Hand to Hand / 白兵戦 (2)(赤)
エンチャント
戦闘中は、プレイヤーはインスタント呪文を唱えられず、マナ能力でない起動型能力は起動できない。
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Hand+to+Hand/

 デザインしたときには想像もしなかった使われ方をするカードがある、というの例に使うのがこの《白兵戦/Hand to Hand》だ。

 このカードを作ったのは「私のクリーチャーたちは戦闘中だ、邪魔をするな」という意図だったわけだが、実際にはこのカードは防御円対策として使われることとなった(このカードが戦場に出ていると、防御円は戦闘中のダメージに対して起動できなくなってしまうんだ)。
(註) 防御円
 《赤の防御円/Circle of Protection: Red》に代表されるダメージ軽減用のエンチャントのこと。当時はダメージを受ける瞬間に軽減効果を使わないといけなかったので対策に使えた。今では無理。

 この予想外の使われ方は嬉しかったね。創造性バンザイってなもんだ。私の作ったカードでプレイヤーたちが新しい可能性を生み出してくれると私は喜びに顔を輝かせるわけさ。

Harrow / 砕土 (2)(緑)
インスタント
この呪文を唱えるための追加コストとして、土地を1つ生け贄に捧げる。
あなたのライブラリーから、基本土地カードを最大2枚まで探し、それらを戦場に出す。その後あなたのライブラリーを切り直す。
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Harrow/

 このカード(ちなみにデザインしている最中の仮の名は《輪作/Crop Rotation》だった。後に実際にそういう名前のカードが生まれるがそれはまた別の話だ)は、狙ったわけではないのに強いカードが生まれた例だ。

 テンペストで《不屈の自然/Rampant Growth》の亜種が必要となり、私がこのカードをデザインした。特に、強いカードを生み出そうという考えはなかった。面白いカードができたな、くらいの考えだった。

 カードを作るに当たって、これら2つの考え方は実は非常に興味深いことだ。カードをデザインする側は、いかに面白いカードを作れるかを考える。それに対して、デベロップメント側はゲームのバランスを考える。

 私の好きな言葉に「デザインはゲームを面白くし、デベロップメントがゲームを公平にする(the designers make the game fun and the developers make it fair)」というものがある。

 まあ、もって回った言い方をしたが、要するに多くの場合で私はカードを作るときに特にカードパワーは意識しない、ということだ。強すぎたり、弱すぎたりしたらデベロップメントがなんとかしてくれるからね。

Helm of Possession / 占有の兜 (4)
アーティファクト
あなたは、あなたのアンタップ・ステップに占有の兜をアンタップしないことを選んでもよい。
(2),(T),クリーチャーを1体、生け贄に捧げる:クリーチャー1体を対象とする。あなたが占有の兜をコントロールし、なおかつ占有の兜がタップ状態であり続けるかぎり、あなたはそのクリーチャーのコントロールを得る。
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Helm+of+Possession/

 このカードに関して本気で語ろうと思うと、とんでもなく長い話になる……が、残念ながら「Bacon/ベーコン」が発売されるまで話せないネタだ(ちなみに「Bacon/ベーコン」というのは2003年の秋に発売される大型エキスパンションのコードネームだ)。
(註) ベーコン
 2003年の秋に発売されたミラディンのこと。ここで言及しているのはおそらく《精神隷属器/Mindslaver》のことで、2015年のテンペストに関する記事(https://magic.wizards.com/en/articles/archive/making-magic/twenty-things-you-might-not-have-known-about-tempest-2015-04-27)でもう少し詳しく触れられている。

 ただその話に登場するであろう単語を並べてみることくらいならできる。「Gleemax(グリーマックス)」「Concession(譲歩)」「Puzzle」「Marquee(看板役者)」「Unglued 2(アングル―ド2)」などだね。

 さて、それ以外で語れることがあるとすれば、そうだな、いまだかつて Henry Stern がデザインしたカードは2枚しかなく、これがその1枚だ、ってことかな(ちなみにもう1枚は《掘削機/Excavator》で、これまたテンペストのカードだ)。

Interdict / 阻止 (1)(青)
インスタント
アーティファクト1つかクリーチャー1体かエンチャント1つか土地1つからの起動型能力1つを対象とし、それを打ち消す。このターン、そのパーマネントの起動型能力は起動できない。(マナ能力は対象にできない。)
カードを1枚引く。
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Interdict/

 このカードについて語ることがあるとすれば、これは《Rust》(訳注:レジェンドに収録されていた緑の呪文で、アーティファクトのみ対象可能な《阻止/Interdict》)を見て思いついた、ということくらいだ。このサイトで滅多に言及されることのないカードだね。

Jinxed Idol / 凶運の彫像 (2)
アーティファクト
あなたのアップキープの開始時に、凶運の彫像はあなたに2点のダメージを与える。
クリーチャーを1体、生け贄に捧げる:対戦相手1人を対象とする。そのプレイヤーは凶運の彫像のコントロールを得る。
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Jinxed+Idol/

 テンペストのカードの中で、個人的に自慢に思っているカードの1枚がこれだ。

 開発中は「アツアツのポテト」と呼ばれていたこのカードはソリティア防止のために作られた。このカードが戦場に出た瞬間から、君と対戦相手は通常の対戦とは別のゲームを並行して戦うことになるんだ。

 それは「どっちがより多く生け贄を捧げ続けられるかゲーム」だ。またこのカードは、私が「対戦相手に何かを押し付けるという効果」を好んでいることを表に出し始めた初期のカードでもある。

後編はこちら
https://regiant.diarynote.jp/201812040103497322/

前編はこちら
https://regiant.diarynote.jp/201812040105436564/

Krakilin / クラキリン (X)(緑)(緑)
クリーチャー - ビースト(Beast)
クラキリンは、その上に+1/+1カウンターがX個置かれた状態で戦場に出る。
(1)(緑):クラキリンを再生する。
0/0
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Krakilin/

 このカードは元々《モンスター玉/Creatureball》という名前になる予定で、マナコストは「(X)(緑)」でパワーとタフネスが「X/X」になるクリーチャーだった。

 しかしデベロップメント側でそのままでは強すぎると判断されてしまった。結果、マナコストは「(X)(緑)(緑)」に、かつ再生能力を持つクリーチャーへ変更された。

 面白いことに、その後に発売されたオデッセイというセットに、元のバージョンの《モンスター玉/Creatureball》そのものである《キヅタの精霊/Ivy Elemental》が作られたことだ。

 君らも知ってのとおり、こういうカードパワーに関する逸話については多くの場合で私が間違っていることのほうが多いが、ときたまこんな風に、実は私が正しかった、ということもある。それをコラムで取り上げて「ほら、言ったとおりだろ」と言えるチャンスが(ごくまれに)あるわけだ。

Legerdemain / 手品 (2)(青)(青)
ソーサリー
アーティファクト1つかクリーチャー1体を対象とする。それと共通のタイプを持つ別のパーマネント1つを対象とする。それらのコントロールを交換する。(この効果は永続する。)
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Legerdemain/

 その通り、昔の私は《対置/Juxtapose》を使い倒していた(訳注:《対置/Juxtapose》はレジェンドのソーサリーで対戦相手と「お互い手持ちで最もコストの高いクリーチャーを交換する。その後アーティファクトも同様にする」という呪文)

Lotus Petal / 水蓮の花びら (0)
アーティファクト
(T),水蓮の花びらを生け贄に捧げる:好きな色1色のマナ1点を加える。
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Lotus+Petal/

 このカードをデザインしたときは、まさかこれが悪さをするなんて思ってもみなかったね。ああ、そうそう、フレイバーテキスト(註)は狙って書かれたものだ。
(註) フレイバーテキスト
 マジックで最も高額な1枚とされる《Black Lotus》の調整版であるこの《水蓮の花びら/Lotus Petal》のフレイバーテキスト(「考えてもみてよ」とハナは花びらをなでながらしみじみと言った。「こんなに美しい花が、みにくい物欲を起こさせるなんてね」)は、その調整元のカードを意識している。

 ちなみにこのフレイバーテキストを書いたのはクリエイティブチームのリーダーの1人、 Brady Dommermuth だ。

Ruby Medallion / ルビーの大メダル (2)
アーティファクト
あなたが唱える赤の呪文は、それを唱えるためのコストが(1)少なくなる。
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Ruby+Medallion/

 このメダリオンサイクルを生み出したもの、それは私の《Stone Calendar》への愛だ。ウィザーズに入るまでに作った数々のデッキの中には、もちろん多くの Stone Calendar デッキもあった。

 そしてテンペストのデザインをする際に、効果が限定的な代わりにもっとマナコストの安い Stone Calendar のサイクルを作りたい、と考えたのさ。

Mirri’s Guile / ミリーの悪知恵 (緑)
エンチャント
あなたのアップキープの開始時に、あなたはあなたのライブラリーのカードを上から3枚見てもよい。その後それらを望む順番で戻す。
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Mirri%27s+Guile/

 問題のあったカードをあらためて作り直す、ということはデザインの世界ではよくあることだ。そしてこの《ミリーの悪知恵/Mirri’s Guile》はその例の1つで、《森の知恵/Sylvan Library》を作り直したものだ。

 元のカードの問題点は、ライフを支払ってカードを引くという効果が緑のフレイバーに合っていなかった点だ。加えて、R&Dから見て《森の知恵/Sylvan Library》のパワーレベルは若干とはいえ超えてはいけないラインを越えていた。

 こうしてこのカードがポスト《森の知恵/Sylvan Library》として作られたわけだが……残念ながらそうは上手くはいかなかった。

Mongrel Pack / 雑種犬の群 (3)(緑)
クリーチャー - 猟犬(Hound)
雑種犬の群が戦闘中に死亡したとき、緑の1/1の猟犬(Hound)クリーチャー・トークンを4体生成する。
4/1
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Mongrel+Pack/

 オンスロートに収録されていた「Symbiotic/共生」カードたちを覚えているかい? これがその子孫だよ。

 開発中の仮の名前は《破片獣/Splinter Beast》だったこのカードのデザインはトップダウンだった。どういうことかというと、私はクリーチャーがダメージを受けてバラバラになったあと、そのバラバラの欠片がそのまま襲ってくる、というアイデアが使いたかったんだ。

 よくあるファンタジーネタだね。そしてマジックではまだこのネタが使われた形跡がなかったんだ(もっとも Richard Garfield がそれに多少近いことを《Rock Hydra》で実現してはいたけれど)

Precognition / 前知 (4)(青)
エンチャント
あなたのアップキープの開始時に、対戦相手1人を対象とする。あなたはそのプレイヤーのライブラリーの一番上のカードを見てもよい。そうした場合、あなたはそのカードをそのプレイヤーのライブラリーの一番下に置いてもよい。
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Precognition/

 このカードは《淘汰/Preferred Selection》(訳注:緑のエンチャントで毎ターン自分の山札の上2枚を見て片方をライブラリの下に送れる)の真逆の効果を狙ってデザインしたものだ。

 自分が山札の2枚のどちらを引くか選ぶ代わりに、君は対戦相手の山札2枚のうちどちらを引かせるかを選べるのだ。

 ああ、そうそう、元々は「対戦相手のライブラリーの上の2枚を見て、片方をライブラリーの下に送る」という効果だった。しかしどうにもテキストを洗練された形にできなかったんだ。

 かわりに「1枚のカードを見てどうするか選ぶ」という形ならスッキリしたので今の形になったわけさ。まあそれによって対戦相手を完全に事故らせる難易度を上げるという効果もあったけどね。

Propaganda / プロパガンダ (2)(青)
エンチャント
クリーチャーは、それらのコントローラーが自分がコントロールする、あなたを攻撃するクリーチャー1体につき(2)を支払わないかぎり、あなたを攻撃できない。
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Propaganda/

 デザインされてない余地を掘り返すことであらたなデザインを生み出す、という手法の好例がこのカードだ。

 当時、「税」を強制するのは青の独壇場だった。ああ、ここで言っている「税」というのは、対戦相手に何らかの形でマナの支払いを強制する効果のことだ。そうしないと相手はとりたい行動がとらせてもらえない。

 (ちなみに「税」について付け加えておくと、今ではこの効果はカラーパイの役割上では白に属している。そのほうが筋が通っているからだ。何しろ白こそ「ルールは私が決める」の色だからね)

 さて当時の私は、違った形で「税」を相手に支払わせる手段はないかと模索していた。私は1つ1つターンのステップを吟味していった。その中にまだ「税」を取り立てていない場所はないかと思ってね。

 そして気づいたのさ。攻撃するという行為に「税」をかけたカードがほぼないことにね(唯一の例外があのイマイチな強さのクリーチャーエンチャントである《洗脳/Brainwash》だ。ちなみにこの《洗脳/Brainwash》も白のカードだ。なかなか興味深いだろう?)。

 そんなわけで生まれたのが《プロパガンダ/Propaganda》というわけさ。

Ranger en-Vec / ヴェクのレインジャー (1)(緑)(白)
クリーチャー - 人間(Human) 兵士(Soldier) 射手(Archer)
先制攻撃
(緑):ヴェクのレインジャーを再生する。
2/2
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Ranger+en-Vec/

 このカードが元々持つ予定だった能力はバンドと再生だった。しかしテンペストが生まれる前にバンドはこの世から抹殺され、私たちは新たな能力を探す必要が生じ、結果、今の形になった。

 残念だよ。テンペスト以前の、まだバンドが生きてた時代にとっとと世に出しておくべきだった。個人的に「再生持ちのバンド持ち」という組み合わせは強いはずだと確信してたからね。

Repentance / 悔恨 (2)(白)
ソーサリー
クリーチャー1体を対象とする。それはそれ自身に、自身のパワーに等しい点数のダメージを与える。
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Repentance/

 このカードは、まず効果を先にデザインしたあと、あらためて「さて、どの色にするかな」と悩んだカードだ。

 このカードの特徴はタフネスがパワー以下の場合にしか意味を成さないという点にあった。これが何を意味するかというと、例えばこのカードは色で言えば白のクリーチャーに対してほとんど効果がないということだ。加えて、カード名とフレイバーが私に色を決めさせた。

 しかし、今にして思えば色を間違えたかもしれない。もし今日現在の私が色を選んでいたら、黒を選択していただろうね。問答無用にクリーチャーを殺すというのは白のフレイバーではないと私は感じているからだ。

 白のクリーチャー破壊はもっと防御的であるべきなんだ(R&Dはこの特徴を「私や子供たちに手を出さないで(don’t mess with me and my boys)」と冗談めかして呼んでいる)。

 しかしこのカードのフレイバーは、まるで対象となった相手が自分で自分を傷つけるのを見て楽しんでいるようだ。うん。どうみても真っ黒だね。

Root Maze / 根の迷路 (緑)
エンチャント
アーティファクトと土地はタップ状態で戦場に出る。
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Root+Maze/

 これは、素晴らしいカードになるはずだったカードが残念な結果に終わった例だ。

 元々、このカードの効果はもっとシンプルで美しかった。「全てのパーマネントは召喚酔いを得る」だ。

 しかしデベロップメントの段階で気づかされたのは、これは実質的にアーティファクトと土地にしか意味を成さないということだった。

 エンチャントはタップを必要としないので、召喚酔いは関係ない。クリーチャーは元々召喚酔いに影響される。つまりアーティファクトと土地がタップ状態で戦場に出てくれば、効果としてはほぼ同じだ。

 こっちのほうが分かりやすかろう、というわけで、今の形に変えられてしまったわけだ。しかし今にして思えばこの判断は間違っていたと思う。

 確かに元々のテキストのほうが分かりづらい点もあったかもしれない。でもやっぱり元の方がずっとシンプルで面白かった。

 分かりやすさは重要だ。しかしそれによって元の大事なフレイバーを失ってしまうのであれば、引き返す勇気もまた大事なのではないか、と私は思う。

Rootwater Matriarch / ルートウォーターの女族長 (2)(青)(青)
クリーチャー - マーフォーク(Merfolk)
(T):クリーチャー1体を対象とする。そのクリーチャーがエンチャントされ続けているかぎり、そのコントロールを得る。
2/3
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Rootwater+Matriarch/

 このカードを作った理由は、もっとプレイヤーたちにエンチャントクリーチャー(現:オーラ)を使ってほしかったからだ。

 このカードがあれば、プレイヤーたちがもっとエンチャントクリーチャー(現:オーラ)をデッキに入れたくなるのではないか? そして入れたエンチャントクリーチャー(現:オーラ)を対戦相手のクリーチャーに付けてから《ルートウォーターの女族長/Rootwater Matriarch》で奪うのを楽しんでくれるのではないか?、と考えたからだ。

Sadistic Glee / サディスト的喜び (黒)
エンチャント - オーラ(Aura)
エンチャント(クリーチャー)
クリーチャー1体が死亡するたび、エンチャントされているクリーチャーの上に+1/+1カウンターを1個置く。
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Sadistic+Glee/

 このカードは私が昔好きだった《Khabal Ghoul》(訳注:そのターンに墓地に落ちたクリーチャーの数だけターン終了時に+1/+1カウンターが乗るクリーチャー)に敬意を表して作ったものだ。懐かしいね。《Khabal Ghoul》はパワーとタフネスを3桁まで育てることができた数少ないクリーチャーだ。あれで攻撃するのは本当に楽しかった。

Sarcomancy / 肉占い (黒)
エンチャント
肉占いが戦場に出たとき、黒の2/2のゾンビ(Zombie)・クリーチャー・トークンを1体生成する。
あなたのアップキープの開始時に、ゾンビが1体も戦場に存在しない場合、肉占いはあなたに1点のダメージを与える。
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Sarcomancy/

 このカードは元々「ターン開始時にこのクリーチャーが墓地にいた場合、あなたに1点のダメージを与える」という能力を持った 2/2 のクリーチャーだった。

 しかしデザインを進める中で、トークンを生み出すエンチャントにしたほうがいいのでは、ということになった。なぜならエンチャントなら常に場に残るので、ダメージを誘発させるのを忘れる心配がないからだ。

 そうそう、エンチャントに変えたことによって、ダメージを回避する手段は元のトークンに限らずなんでもいいからゾンビが戦場にいればいいということになった。

 これによって他のゾンビと一緒のプレイが推奨されることとなったのだ。その通り、私たちは古くテンペストの時代にはもう「部族デッキ」という思想を持っていたということだね。

Scragnoth / スクラーグノス (4)(緑)
クリーチャー - ビースト(Beast)
この呪文は打ち消されない。
プロテクション(青)
3/4
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Scragnoth/

 私がこのカードを思いついたのは実はウィザーズに入る前だ。

 ずっと私の頭を悩ませていたのは、なぜ打ち消し呪文だけ天敵がいないのか、ということだった。どんな呪文だって打ち消し呪文は効果を発する前に打ち消してしまう。

 じゃあどうすればいいのか?

 答えは明白だ。「打ち消されない呪文」を作ってしまえばいい。このアイデアが浮かんでからというもの、打ち消されずに戦場に出てしまうと青が最も困るものとはなんだろう、と考え続けていた。

 青は戦場に出てしまったパーマネントが苦手だ。パーマネントに対して青に出来ることと言えば《ブーメラン/Boomerang》的な呪文で手札に戻すことくらいだ。

 つまり、プロテクション青を持っており、かつ試合を終わらせる能力を持ったパーマネントこそ、青が最も嫌がるものだ。

 青の天敵は緑であり、緑とはクリーチャーの色であり、クリーチャーはそれ自体にクロックを内包している(クロックとは、ダメージを時計のように継続的に刻み続け、いつかは試合を終わらせられることだ)。

 全てが美しく噛み合った結果、生まれたのが《スクラーグノス/Scragnoth》というわけさ。

(余談)
 原文では記事のこの位置に《Thunder Spirit》と《空のスピリット/Sky Spirit》のカード画像が表示されており、その下に「《空のスピリット/Sky Spirit》はレジェンドの《Thunder Spirit》を作り直そうという試みの元に生まれた」と書いてある

Sky Spirit / 空のスピリット (1)(白)(青)
クリーチャー - スピリット(Spirit)
飛行、先制攻撃
2/2
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Sky+Spirit/

 私はずっと《Thunder Spirit》は素晴らしいカードだと思っていた。しかし残念ながら私がウィザーズに入社したとき、すでにそのカードは再版禁止リスト(訳注:主にコレクター的な理由から同型再版の作成が禁じられているカードのリスト)入りしていた。

 その後、テンペストのデザインをしているとき、突然ひらめいた。わずかでも違ってさえいれば再版ではない。例えば、そう、マナコストの白マナ1つを青マナに変えるとか?

 それ以外は変更なしだ。クリーチャータイプすら《Thunder Spirit》にならってスピリットのままだったからね。

Telethopter / リモコン飛行機械 (4)
アーティファクト クリーチャー - 飛行機械(Thopter)
あなたがコントロールするアンタップ状態のクリーチャーを1体タップする:リモコン飛行機械はターン終了時まで飛行を得る。
3/1
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Telethopter/

 このカードの最も誇れる点といえば、それはこれが数あるマジックのカードの中でもただ1枚だけ、私の父がデザインしたカードだという点だ。

 テンペストのデザインをしている最中、私は父に会う機会があった。そのとき私はカードのアイデアが何かないか、と尋ねてみたんだ。

 父は、ラジコンみたいなクリーチャーはどうだろう、という案をくれた。その案を元に、2人でこのカードを考えたのさ。フレイバー的には、他のクリーチャーがこの《リモコン飛行機械/Telethopter》を操縦して飛ばせている、という感じだ。

Tooth and Claw / 歯とかぎ爪 (3)(赤)
エンチャント
クリーチャーを2体生け贄に捧げる:《肉食動物/Carnivore》という名前の、赤の3/1のビースト(Beast)・クリーチャー・トークンを1体生成する。
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Tooth+and+Claw/

 正直、何を考えてこれを作ったのかよく覚えていない。たぶん《ゴブリンの巣穴/Goblin Warrens》(訳注:ゴブリンを2体生け贄に捧げると3体の 1/1 ゴブリントークンを生み出すエンチャント)が好きだったから、まあ、そこらへんがなんか関係してるんじゃないかな……うん、何にせよ、カードデザインには当たりもあれば外れもある、ということを示す良い例だ。

Trumpeting Armodon / いななくアーモドン (3)(緑)
クリーチャー - 象(Elephant)
(1)(緑):クリーチャー1体を対象とする。このターン、それは可能ならばいななくアーモドンをブロックする。
3/3
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Trumpeting+Armodon/

 新たなクリーチャーの能力を生み出すときに使えるテクニックの1つ、それはそのクリーチャーが属している色の代表的な呪文を参考にすることだ。分かりやすいところでは、緑のクリーチャーに《寄せ餌/Lure》を付ける、という感じだ。

 とはいえ、こう例に出すだけあって、そもそも《寄せ餌/Lure》はすでにアライアンスの《エルフの吟遊詩人/Elvish Bard》で使用済みだった。そこで私は《寄せ餌/Lure》的な能力を別のひねった形で表現できないか、と考えてみたんだ。

 そうだな……じゃあ誰にブロックされるかを自分で選べるクリーチャーというのはどうだろう?

 というわけで生まれた能力だったが、これはなかなか面白い能力だな、ということになり、ついにはストロングホールド(テンペストの次のセット)でこの能力ほぼそのままである《誘発/Provoke》という呪文が生まれることとなった。

Watchdog / 番犬 (3)
アーティファクト クリーチャー - 猟犬(Hound)
各戦闘で、番犬は可能ならブロックする。
番犬がアンタップ状態であるかぎり、あなたを攻撃しているすべてのクリーチャーは-1/-0の修整を受ける。
1/2
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Watchdog/

 派手なカードに注目が集まるのは簡単な一方で、こういう《番犬/Watchdog》のような地味ながらも巧妙なデザインはなかなか気づかれにくい。

 このカードには2つのシンプルでかつシナジーしている能力が与えられている。さらにそれら能力はこのカードのフレイバーと素敵にマッチしている。

 カードをデザインする側としては、今後もこういう派手さのない巧妙なデザインのカードを各セットに何枚か忍び込ませたいところだ。大きく両手を振り回しながら「こっちを見て!」と叫んでいるようなカードばかりではない、ということさ。

Wasteland / 不毛の大地
土地
(T):(◇)を加える。
(T),不毛の大地を生け贄に捧げる:基本でない土地1つを対象とし、それを破壊する。
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Wasteland/

 このカードが生まれるまでの思考の流れはこんな感じだ。
「うーん、《露天鉱床/Strip Mine》は良いカードなんだけど、ちょっとカードパワー的に良すぎるんだよなあ。《露天鉱床/Strip Mine》の良さを持ちつつも、対戦相手をあまりにも簡単に土地事故に陥らせない方法はないかな? ん、そうだ、破壊できるのを基本でない地形だけにしたらどうだろう? それならこっちを困らせて来る土地を破壊しつつも、序盤のマナ展開を阻害せずに済むのでは? そうだ、それがいい」
 そう思ってたんだけどね。

Winds of Rath / ラースの風 (3)(白)(白)
ソーサリー
すべてのエンチャントされていないクリーチャーを破壊する。それらは再生できない。
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Winds+of+Rath/

 このカードに関してデベロップメントで激論が交わされた。

 それは、破壊するのを「すべてのエンチャントされているクリーチャー」にするか、「すべてのエンチャントされていないクリーチャー」にするかだ(ちなみにデザインから上がってきた元のバージョンは「すべてのエンチャントされていないクリーチャー」だった)。

 最終的に、私は元のままの形を死守することに成功した。私がとことん強調したのは「私たちは、プレイヤーが自分のクリーチャーにエンチャントクリーチャー(現:オーラ)を付けることを後押ししたいんじゃないのか?」という点だった。


全てのカードは収録に値する/All That’s Fit to Print

 今日のデザインに関する話はこれで終わりだ。来週は、なんで一部のプレイヤーが嫌がるような真似をあえて私たちがするのか、ということについて書こうと思っている(ちょっとした論争を巻き起こしてもいい頃合いかなと思ってね)。ぜひ読みに来てくれ。

 それまでに、君が《スクラーグノス/Scragnoth》で青デッキを打ちのめす喜びを楽しんでくれますように。
【翻訳】分割カードによって分割されかけた開発部の話/Split Decisions【DailyMTG】
Mark Rosewater
2002年02月11日
元記事:https://magic.wizards.com/en/articles/archive/making-magic/split-decisions-2002-02-11

 メリットかデメリットなのかの判断はなかなか難しいところだが、とにもかくにも私はマジック界の有名人であり、それによってインタビューを受ける機会もかなり多い。

 おそらく君たちが想像しているとおりだろうが、私は人と会話するのが大好きだ。だからインタビューを受けることそれ自体を苦痛に感じたことはほぼない。ただそれでも数多くのインタビューを受けることによる頭痛のタネが1つある。

 それは、何度も何度も同じ質問を聞かれる、ということだ。そこで今日のコラムでは、私がいまだかつて最も多く聞かれたことのある質問と、それに対するハッキリとした答えを今ここで書かせて頂こうと思っている。

 その質問とは「あなたが今までに生み出したメカニズムの中で一番のお気に入りは?」というものだ。

 それではお答えしよう。私がこれまでに生み出したメカニズムの中で、一番のお気に入りはインベイジョンブロックの「分割カード(Split Cards)」だ。私がデザイナーとして重視するあらゆる事柄がこのメカニズムには詰まっている。

 カッコよく、美しく、オリジナリティにあふれ、実際にプレイされている。

 さらに付け加えるなら、このメカニズムの誕生には興味深い裏話までついている。いつかその裏話を紹介するためにコラムを書く日も来るかもしれない。何しろ本当に面白い話だからね。

 ……え? 今聞きたいって? そうか。じゃあもし君に時間があるなら話してもいいかもしれないね。そう、あれはいつだったか……(ここで画面にゆらゆらと波線が漂い始めたと思ってくれ)


<事の発端/Let’s Start at the Very Beginning>

 物語はうちの会社の会議室の1つであり「War Room(司令室)」と呼ばれている部屋から始まる。

 そこには多くのイラストレーターと生産部門のメンバーたちがそろっていた。呼んだのは私であり、その目的は、アングルード(註)というセットにおいて、どれだけカードのビジュアル面で無茶ができるかを知りたかったからだ。
(註) アングル―ド
 1998年に発売された、通常の大会で用いることのできないジョークセット。カードのふちが通常のカードと異なり銀枠であることから「銀枠」とも呼ばれる。ニワトリの物真似をすると飛行を得るクリーチャーや、相手にジュースを買いに行かせるアーティファクト(ただし支払いは自分持ち)、ビリビリに破らないと効果を発揮しないカードなどが収録されている。なおこのコラムが書かれたのは2002年、アングル―ドの続編であるアンヒンジドが発売されたのは2004年、またさらなる続編であるアンスタブルの発売は2017年。

 この新たなセットの目指すところは「既存のルールをぶち壊すこと」だったので、カードの見た目やレイアウトも当然ぶち壊すべき対象だと考えていた。その会議の中で、ウィザーズ社のグラフィックデザイナーでありアングルードのカードの(実際に見た目の)デザイン責任者でもあるDan Gelonがこういった。

「複数枚のカードにまたがるイラストも可能だよ。それらをシート状で隣同士にすることによってね」

 いくつもの可能性の扉がこの言葉によって開かれた。そのとき私の頭を駆け巡ったアイデアの中でも一番エキサイティングな奴は、巨大なカードというアイデアだ。

 この巨大カードは本当の意味で巨大であり、実際にはカードを物理的に2枚以上も必要とするのだ。そして会議が終わる頃には私の中で、その巨大カードはクリーチャーに違いないぞ、ってことに決まってた。

 そんなわけで生まれたのが《B.F.M. (Big Furry Monster)》の左と右だった、というわけさ。パワーとタフネスは 99/99 であり、マジック史上最大のクリーチャーだ(とはいえ常識的なサイズに収めたほうだと自分では思うけどね)
(余談)
 原文ではここに「A use for Cabal Ritual!(《陰謀団の儀式/Cabal Ritual》の使い道!)と書かれている。おそらく掲載当時はカード画像が表示されていたものと思われる。ちなみに2枚合わせたときの見た目は以下のリンク先のとおり。
 カード画像:https://scryfall.com/search?q=BFM

 驚くには当たらないだろうが、この B.F.M. はアングルードでも特に人気の1枚(というか2枚)だった。そのことを覚えていたので、私がアングルード第2弾(Unglued II: The Obligatory Sequel)をデザインすることになった際に、この B.F.M. から何らかのインスピレーションを得られないだろうかと考えてみたわけさ。

 そして思いついたんだ。プレイヤーが2枚のカードを使って1枚のカードを作ることを楽しんでくれたのなら、もしかしたら1枚のカードを使って2枚のカードを作ることもまた楽しんでくれるのではないか?、ってね。

 このアイデアをためつすがめつしてみた結果、たどり着いた結論は、小さくするならデザインをそのままに90度横に回転させた形がベストじゃなんじゃないか、ということだった。そうすればレイアウトをそのままに2枚のミニサイズのカードを1枚に収めることができるからだ。

 こうして私はサイクルとして5枚の分割カードを作成した(各友好色ごとの組み合わせで5枚だ)。そしてイラストも上がってきて、まさにお披露目しようとしたそのとき、私は呼び出しをくらった。呼び出し先は、ただ「ミーティング」という名の会議だった。

 部屋に入ると、私を呼び出したメンバーが中にいたが一切私と目を合わそうとしなかった。嫌な予感しかしないだろう? まあ、そんな「ミーティング」の結果、アングルード第2弾は「無期限の休止」ということになったわけさ。

 特にアングルードのファンにだが、良く聞かれる質問に「無期限の休止ってどういうこと?」というのがある。明確な回答を返したいのはやまやまだが、実際のところ、上手い言葉が見つからない。

 私自身、この疑問に対する答えが欲しかったので手元の8ボール(註)に尋ねてみた。すると回答は「混線しております。のちほどあらためてお問合せください」とのことだ。
(註) 8ボール
 正式名称は「Magic 8 Ball」。海外版のおみくじのようなもので、どうとでもとれる回答がランダムで返ってくるおもちゃ。上記の回答は原文では「Reply hazy. Ask again later.」。これ以外の回答としては「Outlook good(幸先良さそうですね)」とか「Better not tell you now(今はお伝えすべきときではないようです)」などがある。

 私は底抜けに楽観的なことで有名だ。よって「アングルード2はいつか日の目を見るのか、見ないのか?」と聞かれたら当然「いつか日の目を見るに違いない」と答える。え? それはいつだって? それは……おや……混線してるようだね。またあらためて問い合わせてくれ。


<しぶといヤツら/It’s Not Dead Yet>

 私が個人的に尊敬している先生が映画脚本の授業でいらっしゃったが、その方曰く、全ての映画のプロットは以下にまとめられるとのことだった。

  メインキャラクターを紹介せよ
  そのキャラを井戸に投げ込め
  さらに上から石を投げよ
  それからあらためてキャラを井戸から救い上げよ

 これに習って言うならば、我らが分割カードは今や井戸の底に投げ込まれ、事態が急変するのをただ待つ状態に入ったわけだ。

 はっきり言って、この分割カードというメカニズムは奇妙キテレツきわまりなく、唯一、収録してもらえそうだった新たな銀枠セットはと言えば、今やエキスパンションセットの墓場の下の煉獄で身を焼かれている最中だ。状況は大変厳しいと言わざるを得ない。

 さて、そこへやってきたのがインベイジョンだ。このインベイジョンブロックの中心的なテーマが多色になることは数年前から予定されていた。

 これはチャンスだ。そう私は思ったんだ。

 さらに運がいいことに、私自身がインベイジョンのデザインチームの一員だった。しかもチームメンバーには Bill Rose と Mike Elliott までいた。

 デザインチームはこの新セットに関する話し合いのために、一旦オフィスを離れて私の父の家があるタホ湖(註)のほとりへ向かい、真冬の1週間を過ごした。

 そうそう、開発部はデザインの作業を好んでオフィス外で行う。雑音が少ないし、風通しも良い。創造的な仕事に向いた環境だ。それに気が向いたときにスキーにも行ける。まあ、雪の上を滑るのは楽な仕事じゃないが、誰かがやらなきゃいけないことだからね。
(註) タホ湖
 カリフォルニア州とネバダ州にまたがる湖。インベイジョンブロックのデザインについて話し合うためにタホ湖を訪れた際の話については、インベイジョンブロック誕生秘話的なコラムでも触れられている。以下がそのコラムの拙訳。
 http://regiant.diarynote.jp/201102120926434131/

 その1週間の中で、私は Bill Rose に「とある狂ったアイデア」を相談してみた。

 私たちはインベイジョンのために多色に関するメカニズムを必要としている。その一方で、分割カードは安住の地を探してさまよっている。じゃあインベイジョンに招いてみてはどうだろうか、とね。

 これを聞いた Bill Rose の目がいたずらっぽく輝いたのを見て、井戸にロープが投げ込まれたのを確信したよ。


<と、思いきや/Not So Fast>

 そこへ最初の石が投げ込まれた。

 投げ込んだのは Mike Elliott だ。どうやらこのメカニズムがお気に召さないらしい。あまりに「違い過ぎる」というのだ。アングルードなら問題ない。しかし、非銀枠のセットにはあまりにも過激すぎる、と彼は感じたらしい。

 Mike Elliott を擁護する意味で付け加えるなら、君たちはすでに分割カードが世に出たあとしか知らないということだ。事後的に物事を評価するのはとても簡単だからね。それに私には分割カード以前にも大量の前科があった。

 例えば、テンペストのデザインの頃に私は「Triggering」というメカニズムを提案した。そのカードが引かれた際に効果を誘発するカードだ。このメカニズムのためだけに、私は裏面のデザインが異なるカードを作ろうとした。そうすれば「Triggeringカード」が引かれたのかどうかが全てのプレイヤーにとって一目瞭然だと考えたからだ。

 過激なアイデアは大抵の場合はよろしくないアイデアだ。なぜか? それが過激だからだ。つまり、当時の Mike Elliott がそういう反応を示したこと自体は私にも分からなくもなかった。

 ただ当時のデザインチームの人数は3人(私、Bill Rose、Mike Elliott)であり、そのうち私を含む2人が賛成派だった。つまり Mike Elliot の反対票は意味をなさなかった。


 ここで時計の針を数ヶ月進めてみよう。ふむ、どうやら我々デザインチームがそれまで取り組んできたカードファイルは全てデベロップメントチームへと引き渡された段階のようだ。

 当然のように分割カードのことも各部署にバレた。

 さあ、ここからが本番だ。

 当時の社内には賛成派と反対派がいた。賛成派は、私、Bill Rose、Richard Garfield の3人だった。反対派は? それ以外の全員さ。

 全員と書いたけど、そのままの意味だ。これには開発部の全員が含まれるし、ブランドチームの全員が含まれるし……まあ、要するに前述の通りさ、私と Bill Rose と Richard Garfield を除いた全員だ。とにかく、まあ、本当にすごい人数だったよ。


 多くの人が勘違いしているように思われる点の1つとして、開発部がそれ全体で1つのチームとして機能している、という考えだ(余談だが、ウィザーズ社に古くから伝わるジョークの1つに、開発部の正体は実はグリーマックスと呼ばれる巨大な瓶詰めにされた脳みそで、そいつが開発部全体をコントロールしている、というものがある)。

 確かに開発部全体としては目指すべきゴールは常に1つだ。しかし当然その実態は多数の個人の集合体であり、個人間での議論はむしろ推奨される。そんなわけで議題がなんであろうが、そこに派閥が生まれ、人々はそれぞれの支持する派閥の意見を代弁する。

 もっとも過去に扱われてきた様々な議題と、今回の分割カードには1つだけ大きな違いがあったのは事実だ。そこに派閥は2つしかなく、片方が大多数を占めていたことさ。

 しかし私も Bill Rose もそこそこ頑固者で有名だったし、2人とも戦わずして負けを認めるつもりもなかった。


<一歩ずつ/Inch by Inch>

 私たちは作戦を立てた。

 「各個撃破」だ。

 私はデベロップメントチームの一員だったので、当然、デベロップメントチームを我らが派閥に引き入れるべく説得することとなった。Bill Rose の担当は? 当然、それ以外の全員を説得することだった。

 おっと、私以外のデベロップメントチームメンバーを紹介しておこうか。Henry Stern、William Jockusch、そして Robert Gutschera だ(ちなみにこの数ヶ月後に入社することになる Randy Buehler もまたこのチームに加わったがそれはまた別の話だ)

 さて、このチームの第1回目のミーティングでリーダーである Henry Stern の口を真っ先について出た言葉は「分割カード案は今ここで死んでもらうってことでいいな?」だった。

 映画好きな人なら分かってもらえると思うが、もう何もかもが悪い方向に向かってしまってどうしようもない状況の中、主人公がおもむろに立ち上がり、その場にいる全員を相手に情熱的なスピーチをぶちかまし、その圧倒的に不利な状況をそっくりそのままひっくり返してしまう、というシーンがよくある。

 その通り。分割カードの物語におけるそのシーンが今だった。……まあ、そうなることを予想して事前に言葉を用意しておいたからね。

 マジックの成功とは(と私は始めたわけだ)それすなわち革新だ。Richard Garfield が初めにそのゲームを生み出すとき、数多くの選択を行った。しかしゲームの本質はその選択のいずれかで決まったのではない。このゲームの本質とは、まさにその選択だ。選択をどこまでも続けていくこと、増やしていくことがマジックなんだ。

 そしてマジックというゲームは生き物だ。それを殺す方法はただ1つだ。それはなんだ? 開発部が誤った選択をすることか? 違う。選択を止めることだ。同じ解を選び続けることだ。マジックは進化し続ける必要がある。生き延びるためにだ。

 マジックは一定期間おきに、誰も予期しない方向へと進む必要がある。プレイヤーが予想もしなかった変化を起こし、プレイヤーにショックを与える必要がある。もしかしたら分割カードがその変化なのかもしれない。違うのかもしれない。だけどチャンスは与えられるべきじゃないか? 分割カードがつまらないから、もしくはゲームをプレイする上での障害となるというのなら、殺すべきだ。だけど、ただ違うからという理由で殺してはいけないんだ。

 ……という私のスピーチの結果、もうしばらくテストプレイしてみてから決めようか、と満場一致で決まったわけさ。


<だけどそれはあまりに可愛くて/But They’re So Cute>

 実際にプレイしてみるにつれて、チームメンバーも少しずつ歩み寄ってくれた。まあ、少なくともメカニズムについてはね。大半のチームメンバーはどうしてもそのレイアウトに抵抗感があるようだった(2枚のミニサイズのカードが隣同士に収まっている現在の形のことだ)。

 もっともそれを見越して私は開発の早い段階から、レイアウトの問題とメカニズムの問題を分けて考えて欲しい、と伝えてあった。問題はメカニズムが気に入るかどうかだ、と私は主張した。レイアウトは変えることだってできる、とね(例えば、違うレイアウトの例としては、2種類の異なるマナコスト付きの金枠にするというものもあった)。

 さて私のこれと同時進行で、Bill Rose は Bill Rose で必死に仲間を探していた。しかしそんな四面楚歌な状況の中、ブランドチームのマネージャーである Joel Mick を仲間に引き入れるのに成功したのは Bill Rose にとって非常に大きな一歩だった。

 少しずつだが、潮目が変わり始めていた。


 レイアウトの反対を押し切るために何ができるかを考えてみた結果、私は逆側から問題にアプローチしてみることにした。

 すでにメカニズムに関しては十分に理解を示してくれていた開発部のメンバーに、私は逆に「どういったレイアウトならふさわしいと思うか?」を訊ねてみたのだ。「仮にどんなレイアウトでも可能となったら、分割カードに最もふさわしいレイアウトはどんなだろう?」とね。

 そしてたくさんの意見が出されたので、それらを1つずつ検討してみた結果どうなったか、というと最初に挙げたミニサイズカードのレイアウトこそが多くの利点を持つことが良く分かったんだ。

 まず1つ目として、他のどんな案よりも視覚的に伝えたいことが伝わる(このカードは2つの効果があること、それはこれとこれであること)。次に、2つ目として「2つの効果があること」を表すイラストが難しいのではないか、という問題も解決してくれた(効果ごとに別のイラストを見せられるからだ)。最後の3つ目としては、一目見てこれまでとは違うカードだと分かるという点だ。初めて見たときに目をまん丸くすること間違いなしのデザインという意味でね。


 そして、ついにカードファイルがデベロップメントチームの手を離れた。この日のことをたまに思い出すよ。Bill Rose と2人で座っていたときのことだ。そう、分割カードは無事そのカードファイルに収まったまま旅立っていった。見た目も最初に夢見たときから変わることなくだ。

 私は Bill Rose に向かい合い、ため息をついてからこう言った。「私たちは成し遂げたんだな」とね。そのとき、Bill Rose の目には、初めてアイデアを伝えたときと同じ輝きが、いたずらっぽく光ってた。彼は微笑んで「まさか成し遂げられないとでも思ってたのかい?」と答えたのさ。


<なんてこった/What the -- ?!!>

 開発部にいることのメリットの1つは、新しいセットの噂がプレイヤーたちのあいだを燎原の火のごとく広がっていくのを楽しく眺めていられる点だ。。特にこのときは分割カードを初めて知ったプレイヤーがどんな反応を示すかが気になってしょうがなかった。

 さて、そんなある日のこと。私は有名どころの情報サイトの1つを開いてみた。するとそこにはプレリリース数週間前だというのにも関わらず、インベイジョンの切り分けられる前のカードシートがネットオークションにかけられている、というとんでもないニュースが載っていた。

 さらに悪いニュースとして、オークションページに記載されている実際のカードシートはなんと分割カードを含むシートだったんだ。

 たくさんのプレイヤーたちがこの謎のカードについて議論を戦わせ始め、私たち開発部のメンバーはその様々なご意見にニヤニヤさせてもらったというわけさ。

 ある長々と続いたスレッドには180件ものコメントがついていたが、その中で「実際、こういうカードなんじゃないの?」という意見はたった1つしか見当たらなかった。様々な憶測が流れていた中で、私のお気に入りは「これはきっとまだテストプレイの最中のカードシートで、開発部が2枚あるカードのどっちを実際に収録するかを決めかねているとこうなるんじゃないかな?」という意見だ。


<終わり良ければ全て良し/All’s Well That Ends Well>

 そんなわけで分割カードは無事に井戸から這い上がっただけでなく、その功績を讃えられてかちょっとしたお祭り騒ぎまで起きたというわけさ。

 めでたしめでたし。


 さてなぜ私がこの話を紹介したかったか、というとこの話がマジックの開発部のあるべき本質を端的に示してくれていると感じるからだ。

 自分が正しいと思っていることを支持するのは簡単なことだ。そういう意味では、私と Bill Rose の仕事が一番簡単だった。何しろ分割カードを生み出したのは私だ。分割カードは私の子供だ。自分の子供のために死力を尽くすのはそう難しい話じゃない。

 だけど開発部の残りのメンバーたちにとっては違うものだった。気に入らないメカニズムだった。なんとかしてそれをお払い箱にしたかった。

 そのメンバーたちも、分割カードに対する情熱を持っているメンバーが(少ないとはいえ)存在することに気づいて、それらについて検討することを選んでくれた。

 分割カードが世に出られたのはなぜか。私と Bill Rose がそれを信じたから、じゃない。開発部の残りのメンバーたちが、私たち2人を信じてくれたから、そして分割カードに懸けてくれたからだ。


  ・インベイジョンの分割カード

     《抵抗と救難/Stand and Deliver》
     《悪意と敵意/Spite and Malice》
     《苦痛と受難/Pain and Suffering》
     《暴行と殴打/Assault and Battery》
     《増進と衰退/Wax and Wane》

  ・アポカリプスの分割カード

     《夜と昼/Night and Day》
     《生と死/Life and Death》
     《空想と現実/Illusion and Reality》
     《火と氷/Fire and Ice》
     《秩序と混沌/Order and Chaos》


 さて、今日のコラムはここまでだ。来週はマジックの敵がどう生まれるかについて説明したいと思っている。それまで、君たちが《巨大化/Giant Growth》を必要なときにそれが手元にあるよう祈ってるよ。

 マーク・ローズウォーター
【翻訳】プロプレイヤーの扱いに抗議するべく世界選手権の参加を取りやめたプロプレイヤーの主張/I’m Gerry Thompson, a Professional Magic Player, and I’m Protesting the State of Professional Magic by Refusing to Play in the World Championship【Reddit】
Gerry Thompson
2018年09月22日
元記事:https://www.reddit.com/r/magicTCG/comments/9hqyav/

現状について/The Current State

(1)
 Wizards of the Coast(WotC)はプロプレイヤーに対し、生活するに十分な報酬を出していません。これ自体は絶対に必要な条件ではありません。しかしプロツアーでのプレイを最終目標とする夢をプレイヤーたちに持って欲しいのなら、そのゴールには達成するに値する何かが用意されているべきです。

 プロツアー予選の突破がますます難しくなるだけでなく、ゴール地点も絶え間なく変化する中で、トップに報酬がないという現状はすなわち「トップを目指そうなんて時間の無駄」というメッセージを送っているに等しいことです。

(2)
 ウィザーズ社はプロプレイヤーたちの意欲を高める努力をすべきです。現状は「へえ、世界選手権って今週末だったの? 知らなかったよ」という状況です。今年の世界選手権には24人のプレイヤーが出場します。全員の名前を挙げられる人がどれだけいるでしょうか。全員は無理ならせめて15人なら? 出来なかったとしても心配する必要はありません。少なくともあなた1人ではないですから。

(3)
 Wizards of the Coast(WotC)はコミュニケーションが恐ろしく下手です。

 新たなプロプレイヤーのシステムは非常に分かりづらく、作った本人たちですら把握しきれていません。自分のランクが何か、そのランクがいつまで有効か、そして各プロプレイヤーたちの現在のプロポイントの値は何かなどの現状のステータスを確認するもっとも確実なデータソースは本社ではなく有志の作成したスプレッドシートです。

(4)
 プロツアーへの招待を受ける手段が少なすぎます。参加者全体の基礎レベルを上げるためには不十分です。

 マジックが成長するに従い、それにともなってトップのレベルも向上するべきですがそうはなっていません。プロツアーへの参加はすでに非常に狭き門ですが、北米以外のプレイヤーにとってはほとんど不可能と言ってもいいでしょう。

 加えて、PTQのような「1位以外は最下位と同じ」というシステムは、プレイヤーに達成感を抱かせるのは非常に不向きです。ただただ敗者を生み出すためだけのシステムです。

(5)
 カバレージはいまだ深刻な状況です。長年にわたり、WotCには多くの意見や感想が寄せられていますが、それらに対して私たちが得られたのはアドバンテージバーの表示です。

 世界選手権で用いられたフォーマット(カラデシュのスタンダードとドミナリアのドラフト)はすでに旬の過ぎたもので、とても宣伝に値するものではありませんでした。わざわざこれを見たいと思うプレイヤーがどれだけいるでしょうか? プレリリースの直前の週末というタイミングが問題だった、というのならフォーマットにモダンを採用すれば済む話です。

(6)
 Alex BertonciniやJared Boettcherのようなプレイヤーたちがいまだマジックをプレイし続けられる現状は、不正行為を撲滅すべきと感じている人々に対する適切な回答になっていると言えるでしょうか。イカサマ師が横行している会場を私は居心地がいいとは思えません。


いくつかのエピソード/Some Anecdotes

(1)
 私は今、大会が始まるのを待ちながら、これをラスベガスのホテルの部屋で書いているところです。私たちプロプレイヤーは、木曜日の正午まで確定したスケジュールを知らせられなかったにも関わらず、火曜日には到着していなければなりませんでした。

 さらにデッキリスト提出の締め切りは火曜日でしたが、実質的には月曜でした。なぜなら強制的に火曜日を移動日に当てられたからです。しかもその連絡が来たのはギリギリで、私だけでなく多くの参加者は事前に立てていた予定を破棄せざるを得ない状況でした。

 世界選手権の前に参加者にはそれぞれ重要度がまったく異なる9通ものメールが次々と送られてきました。それらのうちの(結構長い文面の)1通には、出欠と参加人数を尋ねる文章がひっそりとまぎれこんでいました。同行者がいるならいついつまでに回答せよ、という内容です。

 これが Ben Stark がツイッターで同行者の宿泊が許可されなかったと呟いていた件(註)につながります。そして、同行させて欲しい近しい人物を持つプレイヤーたちから、同じ目にあった、という声が他にもいくつか上がりました。
(註) Ben Stark のツイート
 原文では以下のURLへのリンクが張られている。自分のせいでもあると認めつつも出欠の回答期限や内容が分かりづらいことに対する苦言。なお引用リツイートだが元のツイートが削除されてるっぽい。
 https://twitter.com/BenS8528/status/1041831801642278912

 この問題は最終的には解決しましたが、参加者たちとその大切な人々に無用なストレスを与えずに済む早さの対応ではありませんでした。

 セキュリティが重要である点は理解できますし、それを尊重したいとも思っています。しかし今回の問題はWotCのコミュニケーション能力の低さが原因で起きたものであり、それが問題となったのはこれが初めてではありません。

 出欠の確認は重要なことであり、あとから思い出したようにメールの末尾に付け加えるのではなく、きちんと受け取る側もそれが重要だと分かるやり方で通知すべきでした。

(2)
 プロツアー25周年記念のイベントのあと、プロプレイヤーたちは次年度のチーム戦のためのメンバーやスポンサー候補を探す必要がありました。しかしそれに対して事前に必要となる情報がWotCから提供されませんでした。

 来年度のプロツアーにそもそもチーム戦があるのかどうか? もしチームメンバーが年度の半ばでゴールドから転落してしまっていたらどうなるのか? これらの質問に対する回答を持っている人は誰1人としていませんでした。

 私たちは、ただ続報を待つように、とだけ言われましたが、なお今この時点でも必要な情報を全て受け取れていない状況です。

(3)
 グランプリサンパウロまでに公式アカウント(@wizards_magicbr)が発したグランプリに関するツイートはたったの4件でした。しかもそれらが投稿されたのはグランプリが始まる5日前からです。

 さらに、その内容は3人のアーティストに関するものと2人のWotCの社員のパネルに関するもの(註)でした。グランプリそれ自体に関するツイートは一切なく、現時点の Player of the Year についても触れられておらず、直近のプロツアーチャンピオンの参戦についても触れられておらず、そしてグランプリそれ自体に関するツイートは一切なしです。
(註) WotCの社員のパネルに関するもの
 原文は「They mentioned three artists and a panel with two WotC employees」。公式サイトなども調べてみたけど、このパネルという催し物(?)が何を指しているのかよく分からなかった。パネルディスカッション?

 新たなセット、アーティストたち、コスプレイヤーたち、そしてプレイヤーたちなどについて、もっともっと発信できることがあるはずです。有名プレイヤーと協働することで、こういった人々へもっと効果的なプロモーションを行えるのではないかと私は思います。

(4)
 チャネルファイアボールの革新的な青緑カーンデッキがカバレージに取り上げられたプロツアードミナリア(註)を覚えていますか? そのせいで彼らは大会をほぼ台無しにされたにも関わらず、得られたものはただの謝罪だけです。このようなミスはトーナメントの保全に深刻な影響を与えるものであり、とても許容できるものではありません。
(註) プロツアードミナリア
 プロツアードミナリアの配信で、チーム「チャネルファイアボール」の「青緑カーン」デッキの内容を大会の序盤にも関わらず配信に流してしまったらしい。

(5)
 シルバーショーケース(註)は何もかもが大惨事でした。
(註) シルバーショーケース
 原文ではシルバーショーケースについて語っているPodcastのURLへリンクが張られている(URL省略)。なお企画の内容は、マジックのベータ版やアラビアンナイトといった非常に古く(プレミア価格のついたとんでもなく高価な)絶版パックを用いたドラフトを、マジック(や他方面の)有名プレイヤーたち8人でプレイする、というもの。詳細は以下のURLを参照のこと。
 イゼ速。:http://www.izzetmtgnews.com/archives/66326

 もしマジックに新規参入者を獲得するのが目的なら、ハースストーンのプロ3人を招待したことによって得られる効果は限定的でしょう。この3人を目当てに訪れる視聴者は大半がすでにマジックを知っているプレイヤーです。

 また招待メンバーのうちの2人は、マジックを離れた元マジックプレイヤーです。より効率的な稼ぎ場所を求めて旅立ったこのプレイヤーたちは無事その成果をあげています。より稼げた理由の1つはもちろん自身の努力によるものですが、もう1つはもちろん(賞金総額を引き上げない)WotCのおかげです。

 ここからはシルバーショーケースというフォーマットの問題点に触れたいと思います。まず、このフォーマットはベータ版などのマジック黎明期のパックを用いたもので、視聴者にはとても再現不可能なフォーマットです。マジックというゲームの面白さを伝えるのにふさわしいフォーマットだったとはとても思えません。

 ベータ版のドラフトが初めて触れるマジックだった場合を想像してみてください。あのシンプルきわまりないカード群から、今現在のスタンダードの面白さに気づいてもらえるでしょうか? 百歩譲って、仮にベータ版のドラフトを面白かったと思ってもらえたとしましょう。でも視聴者はそれを自分で体験してみることはできないのです。

 組織だったイベントに割り当てられる予算はただでさえ減る一方ですが、そこに割り当てられた大事な予算はときにこのような形で派手に浪費されているわけです。


私が変えたいもの/What I’d Like to Change

(1)
 スタープレイヤーを育てましょう。

 これは他の何かを犠牲にしなくては得られないものではありません。Star City Gamesの取り組みを参考にすることを恐れてはいけません。プレイヤー主導の物語を生み出し、デッキ制作秘話に関するインタビューを行い、プレイヤー紹介のページを作ったりすることです。

 WotCが無駄にしているリソースの中で、代表的なものがプロプレイヤーです。プロプレイヤーのツイッターアカウントの多くは、WotCの公式アカウントよりも多くのフォロワー数を持っています。

 プレイヤーのために費やす予算がない? なるほど。分かりました。それでも、スポンサーが配信からどんな効果を期待できるのかを可視化できるものは非常に有益です。スポンサーが配信に対して期待しているのはそれがどれだけ多くの目を引けているかなのです。

 プロツアー・チームシリーズは、プレイヤーのスポンサー探しを楽にしてくれるはずでした。しかし、もしこれを読んでいるあなたもそうかもしれませんが、世界選手権が今週末に行われるということすら知らなかったプレイヤーが多くいるという事実がある今、イベントを開催する側が声をあげるべきです。

(2)
 魅力ある実況を提供できる解説者が必要です。目の前で進行するゲームの展開についていけるだけの知識や採用されたフォーマットをきちんと理解している人です。

 それ以外の要素、たとえばイベントの費用対効果やどういうリミテッドなら面白くなるだろうかなどは二の次です。派手な動画や照明や高額の賞金は確かにプレイヤーの注目を引けるでしょう。しかし解説がつまらなかったらすぐに画面を閉じることでしょう。

(3)
 プロツアーの門戸を広げてください。より多くのプレイヤーが夢の舞台に辿り着けるように、最高峰の舞台で戦えるようにしてあげてください。勝者が増えること、それはすなわちより多くのプレイヤーが幸せになることです。幸せになれたプレイヤーはマジックをプレイし続けますし、そうしてプレイし続けてくれているあいだはマジックのためにお金を費やしてくれるはずです。

 同時に、LATAM(ラテンアメリカ)とAPAC(アジア・太平洋)のマジックプレイヤーたちにも目を向けてください。このプレイヤーたちにも、他の地域のプレイヤーと同じだけのプロツアー参加のチャンスを与えるべきです。

(5)
 WotCはパートナーやマジックのコミュニティメンバーと築いてきた関係をもっと大切にすべきだと私は思います。WotCを見ていると、まるでどんな相手であろうと「お前がいなくても代わりがいる」といわんばかりの態度に感じます。しかし、もし自分たちの製品やコミュニティを可能な限り良くしていこうという思いがあるなら、とてもそんな態度はとれないはずです。


よくある質問/FAQ

【質問】
 プロプレイヤーアンバサダー制度はこのような状況の助けにならないだろうか?

【回答】
 可能性はあります。しかしおそらく上手くいかないだろうというのが私の意見です。

 プロプレイヤーたちはこれまでにもプロツアーでWotCの公式メンバーと定期的に打ち合わせの場を設けてきました。しかしその成果は非常に小さいものでした。私たちからのフィードバックを聞いてもらうことはできますが、それが実現することは稀です。プロプレイヤーアンバサダー制度が同じような結果に終わらないものと分かれば、私も喜んで参加させてもらおうと思います。


【質問】
 年に2回のプロツアーが追加されます。状況は改善されるでしょうか?

【回答】
 先の質問と同じ答えになります。可能性はありますが、おそらくそう上手くいかないだろうということです。

 これらのプロツアーについては、プロプレイヤーは追加の特典(飛行機のチケットなど)が与えられません。WotCは見入りの大きいイベントが年に2回増えることで潤うでしょう。しかし参加する側からすると旅費と時間が余計にかかります。これらの追加コストがかかることについての手間は非常に軽視されているように思います。

 またプロプレイヤーになる際に避けては通れないこれらの費用はラテンアメリカ勢やアジア勢のプレイヤーにとってはさらに重くのしかかるのではないでしょうか。

 プロツアーの規模を縮小することは、すでにプロツアーに参加できることが決まっているプレイヤーたちからすれば費用対効果が上がるという意味で良いニュースでしょう(註)。
(註) 費用対効果
 原文は「Reducing the size of the Pro Tour is a net positive for the players already on the PT since their equity rises further」。正直、訳が怪しい。

 しかし1シーズン当たり15回以上のグランプリを開いてもらえない地域の人たちにとってはそうではありません。北米だけで今年度の2/3を占めています。これらは個々に独立した問題ではなく密接に関係した切り離せない問題なのです。


【質問】
 なんで抗議しようと思ったの?

【回答】
 WotCは権力の座にあることを当然と感じており、またその地位を維持することが許されている状況です。

 マジックオンラインにきちんと投資しようがしまいが、プレイヤーたちはそれにお金を使ってくれるのなら、わざわざ投資しようと思いますか? グランプリの賞金総額を上げようが上げまいが、プレイヤーたちがグランプリに参加してくれるなら、わざわざ賞金総額を増やそうと思いますか? プロプレイヤーの待遇改善をしようがしまいが、プロプレイヤーたちがマジックをプレイし続けるのなら、わざわざ待遇を改善するでしょうか?

 私はWotCに、これらの問題を本当に気にしているプレイヤーがいること、そしてそれを伝えるために犠牲を払う覚悟があることを知って欲しいのです。

 結局のところ、私たちはみな、マジックというゲームを愛しているのです。マジックがあり得る限りで最高のゲームであって欲しいのです。

 私たちは、そう思っているということをプレイし続けることで示し、それが改善されることをただ望んできました。しかしただプレイし続けるだけでは改善される見込みがないことが分かりました。


最後に/Finally

 最後に、お詫び申し上げたいと思います。

 ジャッジや大会の運営に現場で携わる方々はこの問題に関して何一つ責を負いません。しかし実際に労苦を負い、責めの矛先を向けられるのはこの方々であることを考えると、非常に申し訳なく思います。

 また、他のプレイヤーたちへも謝罪したいと思います。

 世界選手権は私がもっとも大切に感じている大会です。出来ることなら、世界選手権を取り巻く環境の問題点を指摘し続けるという形でそれを汚すことなく、世界選手権に参加するプレイヤーの活躍を応援したかったです。

 さらに、私のファンや、このようなゴタゴタ抜きに素直に世界選手権のハイレベルな戦いを週末に楽しもうと考えていたマジックを愛するプレイヤーたちにもお詫び申し上げたいと思います。
【翻訳】なぜ基本セットに1マナ1/1のバニラが入ってたりするのか/No Two See the Same Game【DailyMTG】
Mark Rosewater
2002年07月01日
元記事:https://magic.wizards.com/en/articles/archive/making-magic/no-two-see-same-game-2002-07-01

 2週間前に私が書いたコラム、「I’ve Got Mail」(註)は、君たちからもらったメールについて書いた記事だった。これはなかなか好評だったので、ぜひまたやりたいと思っている。何しろあのコラムのあと、またさらに勢いを増した大量のメールを君たちから受け取ることになってしまったからね。
(註) 2週間前に私が書いたコラム
 原文では以下のURLにリンクが張られている。読者からのメールを紹介して、それに対して回答しているコラム。
 https://magic.wizards.com/en/articles/archive/making-magic/ive-got-mail-2002-06-17

 今週はそのメールの中の1つ、ジョン・ナドラーによって送られてきたメールについて、正しくはそのメールで提起されたいくつかの問題について紙面を割きたいと思う(そうそう、ジョン・ナドラーからのメールも先日のコラムに登場していたよ。実のところ、彼は非常に熱心なメール投稿者の1人だ)

 まず初めにジョンから受け取ったメールを紹介させてくれ。


 私に言わせていただけるのであれば、今回の「第8版を選ぼう」の投票は、興味を引くところのない非常につまらないものでした。

 プレイヤーたちが選択肢からそれぞれ《双頭のドラゴン/Two-Headed Dragon》と《ネクラタル/Nekrataal》とを選ぶことは明白でした。簡単です。何しろ対抗馬に挙げられているカードのマナコストが高すぎるからです。

 個人的には、《暗黒の雛/Dark Hatchling》が選ばれなかったことを嬉しく思っています。まったく、最近は高コストなクリーチャー(原文:over-costed creatures)があまりに多すぎます。

Two-Headed Dragon / 双頭のドラゴン (4)(赤)(赤)
クリーチャー - ドラゴン(Dragon)
飛行
威迫(このクリーチャーは2体以上のクリーチャーによってしかブロックされない。)
双頭のドラゴンは、各戦闘で追加で1体のクリーチャーをブロックできる。
(1)(赤):ターン終了時まで、双頭のドラゴンは+2/+0の修整を受ける。
4/4
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Two-Headed+Dragon/

Nekrataal / ネクラタル (2)(黒)(黒)
クリーチャー - 人間(Human) 暗殺者(Assassin)
先制攻撃
ネクラタルが戦場に出たとき、アーティファクトでも黒でもないクリーチャー1体を対象とし、それを破壊する。それは再生できない。
2/1
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Nekrataal/

Dark Hatchling / 暗黒の雛 (4)(黒)(黒)
クリーチャー - ホラー(Horror)
飛行
暗黒の雛が戦場に出たとき、黒でないクリーチャー1体を対象とし、それを破壊する。それは再生できない。
3/3
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Dark+Hatchling/

 あくまで個人的な意見ですが、今後の投票結果でも私たちマジックプレイヤーの前から重すぎるクリーチャーが一掃される結果となるよう祈ってやみません。

 さらにイラストの投票の対象に選ばれたカードから、R&Dの視野の狭さが分かります。そう、重すぎてとても使用に耐えないクリーチャーたちです。

 ええ、何を言っているかはお分かりでしょう。《茨の精霊/Thorn Elemental》に《慈悲の天使/Angel of Mercy》が本気で選ばれると思っていたんですか?

 これらのカードを使っているプレイヤーなんていやしませんし、今後も現れません(あり得るとしたらや《ドルイドの誓い/Oath of Druids》デッキや《適者生存/Survival of the Fittest》と《繰り返す悪夢/Recurring Nightmare》のコンボデッキくらいでしょう)

 もっとも、《茨の精霊/Thorn Elemental》はまだ初心者が使っているのを見ることもあります。しかし《慈悲の天使/Angel of Mercy》? 初心者だって使いやしませんよ。

Thorn Elemental / 茨の精霊 (5)(緑)(緑)
クリーチャー - エレメンタル(Elemental)
あなたは茨の精霊の戦闘ダメージを、これがブロックされなかったかのように割り振ってもよい。
7/7
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Thorn+Elemental/

Angel of Mercy / 慈悲の天使 (4)(白)
クリーチャー - 天使(Angel)
飛行
慈悲の天使が戦場に出たとき、あなたは3点のライフを得る。
3/3
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Angel+of+Mercy/

Oath of Druids / ドルイドの誓い (1)(緑)
エンチャント
各プレイヤーのアップキープの開始時に、そのプレイヤーは自分の対戦相手であるとともに、自分よりも多くのクリーチャーをコントロールしているプレイヤーを対象として選ぶ。前者のプレイヤーは、自分のライブラリーの一番上のカードを、クリーチャー・カードが公開されるまで公開してもよい。前者のプレイヤーがそうしたなら、そのプレイヤーはそのカードを戦場に出し、これにより公開された他のすべてのカードを自分の墓地に置く。
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Oath+of+Druids/

Survival of the Fittest / 適者生存 (1)(緑)
エンチャント
(緑),クリーチャー・カードを1枚捨てる:あなたのライブラリーからクリーチャー・カードを1枚探す。そのカードを公開し、あなたの手札に加える。その後あなたのライブラリーを切り直す。
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Survival+of+the+Fittest/

Recurring Nightmare / 繰り返す悪夢 (2)(黒)
エンチャント
クリーチャーを1体生け贄に捧げる,繰り返す悪夢をオーナーの手札に戻す:あなたの墓地にあるクリーチャー・カード1枚を対象とし、それを戦場に戻す。この能力は、あなたがソーサリーを唱えられるときにのみ起動できる。
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Recurring+Nightmare/

 その理由は2つあります。

 まず1つ目の理由としては、白が弱すぎる色だからです。さらにそれが改善される見込みもないからです(なぜならR&D自体が白を嫌いだからです。ライフゲインやダメージ軽減といった役に立たない能力を持ったカードばかり作っています。適切なマナコストのより役に立つ能力を持ったカードは作られません。例えばプロテクションやダメージ移し替えや先制攻撃や回避能力、その他にもたくさんの有用な白に割り当てられた能力があるにも関わらず)

 2つ目として、5マナのクリーチャーを入れるならより良い選択肢が他にありすぎるからです(もちろん《セラの天使/Serra Angel》も候補です)実際のところ、《慈悲の天使/Angel of Mercy》みたいな使えない能力持ちの5マナクリーチャーを使うプレイヤー(初心者でもベテランでもいいですが)を見たことありますか? ないですよね?

 どうしてもクリーチャーでライフを回復したいなら《ありがたい老修道士/Venerable Monk》か《ティーロの信者/Teroh’s Faithful》でも使いますよ。《慈悲の天使/Angel of Mercy》にいいところがあるとすれば、4マナかかるグリフィンよりサイズがデカいこと、かつ余計にかかるマナの分だけちゃんと能力が付いてることくらいです(ちなみに過去にメールでお伝えしたとおり、グリフィンのコストは3マナ以下に抑えるべきだと思います)

Venerable Monk / ありがたい老修道士 (2)(白)
クリーチャー - 人間(Human) モンク(Monk) クレリック(Cleric)
ありがたい老修道士が戦場に出たとき、あなたは2点のライフを得る。
2/2
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Venerable+Monk/

Teroh’s Faithful / ティーロの信者 (3)(白)
クリーチャー - 人間(Human) クレリック(Cleric)
ティーロの信者が戦場に出たとき、あなたは4点のライフを得る。
1/4
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Teroh%27s+Faithful/

 それはそれとして他にもお伝えしたいことがあります。

 ポータルとスターターは売上的に大失敗でしたが、その理由はカードがあまりにも弱すぎて、初心者たちは普通のエキスパンションを購入したほうがいいとすぐに気づいたからです。「ビギナー用のセット」を買うのをやめて、もっと上級者向けとされるセットしか買わなくなったということです。

 同じことが第8版にも言えると思います。あまりにもひどいカードだらけです。すぐにプレイヤーたちはエキスパンションを購入し始めることでしょう。第8版の発売はマジックの売上に貢献するどころか、これが原因でマジックの売上は大きく落ち込むことになるでしょうね。調べたところどうやらマジックの売上は開示されていないようですが、大きく減少したであろうことを確信しています。

 以下は私個人の経験談です。

 メルカディアン・マスクスが発売されたころ、ボックス当たり70ドル以下で購入するのは(輸入品を含めても)非常に難しかったです。ところが今ではオデッセイのボックスが(輸入品も含めて)60ドルから65ドルで手に入ります。マスクスからオデッセイにかけて、需要が落ちていることは明白です。

 それに対してテンペストやウルザズサーガのボックスはいまだに100ドル以上の値段を付けています(それ以外のセット、たとえばネメシスやプロフェシーは、40ドルから55ドルくらいです)

 これで何が分かるか? そう、プレイヤーたちは強さをとことん押し進めた(ときに禁止カードが発生してしまうような)強いセットを求めているということです。「バランスのとれた」セットなんてプレイヤーを退屈死させるだけですよ。

 私の住まいはサンフランシスコにあります。大都市です。それにも関わらず私はマジックをプレイするために車に乗って別の町まで出かける必要があります。なぜか分かりますか?

 近隣のマジックを扱うカードショップが全て閉店してしまい、公式大会も開かれなくなったからです。なぜそうなったか分かりますか? 需要が無くなったからです。

 カード開発のポリシーを変えて頂く必要があることをこれで分かっていただけたと思います。プレイヤーは熱狂と興奮を求めています。退屈なカードではありません。

 ローズウォーターさんは10周年を記念してすごいサプライズがあると匂わせていますが、少なくとも第8版はそれではないですね。

(マジックがよりよくなるよう願っているジョン・ナドラーより)



 以下、私からの返信だ:

 ジョンへ

 まず初めに、君がマジックのことを本気で気にかけてくれているということ、そしてマジックをより良きものにしたいという情熱を実のある形で発散してくれていることに感謝したい。

 その上で、私は君がいくつか誤った仮定の上に議論を進めようとしているのではないかと懸念している。ここからは読みやすさのために君のメールの文面を併記しながら回答していこうと思う。


選択肢についての話

 1つ目として「第8版を選ぼう」についてだ。一般プレイヤーにカードやイラストを決定してもらおうというこのプロモーション企画に対して君は非常に否定的だ(ちなみにカードやイラストだけでなく、フレイバーテキストの制作にも君たちに関わってもらおうと思っている。これは来週から始まるよ)

 私に言わせていただけるのであれば、今回の「第8版を選ぼう」の投票は、興味を引くところのない非常につまらないものでした。
 プレイヤーたちが選択肢からそれぞれ《双頭のドラゴン/Two-Headed Dragon》と《ネクラタル/Nekrataal》とを選ぶことは明白でした。簡単です。何しろ対抗馬に挙げられているカードのマナコストが高すぎるからです。
 個人的には、《暗黒の雛/Dark Hatchling》が選ばれなかったことを嬉しく思っています。まったく、最近は高コストなクリーチャー(原文:over-costed creatures)があまりに多すぎます。
 あくまで個人的な意見ですが、今後の投票結果でも私たちマジックプレイヤーの前から重すぎるクリーチャーが一掃される結果となるよう祈ってやみません。


 君は、そもそもこのプロモーションがどう立ち上がったのか、というところから誤解している気がするね。全ての基本セットは、次の版のためにR&Dからまず1人の責任者が割り当てられる。エキスパンションに対するデザイナー的な立ち位置だ。もっともいくつの点で大きな違いもあるが。

 第8版については、Randy Buehler が担当することになった。彼がセットに関して必要な仕事を終えたところで、各種データはR&Dのデベロップメントへと引き渡された。それからデベロップメント側でセットをより具体的に定める諸々の作業が数ヶ月かけて行われた。

 ここで言っている具体化という作業は、たとえばテストプレイも含むし、それ以外にも様々な懸念点(カードのパワーレベル、色のフレイバー、新規プレイヤーにふさわしいかどうか、などなど)についてのディスカッションも含む。

 気になる人のために付け加えておくと、第8版のデベロップメントチームは、ランディ・ビューラー、ロバート・グートシェラ、ウィリアム・ジョクス(おっと、信じてない人もいるみたいだが彼は実在の人物だ)、そして マーク・ローズウォーターこと私だ。

 第8版の「デザイン」段階で、ランディは2枚のカードのうち、どっちのカードを入れるべきか迷うということが何度もあった。そういった場合、彼は一旦全ての選択肢を残したままとした。

 通常は、このあと、どちらが適切かという決断をデベロップメントに委ねる。しかしランディはここでもっといい案を思いついたんだ。

 そう、このどちらのカードがより適切かという決断をデベロップメントチームに委ねるのではなくてプレイヤーたちに委ねたらどうだろう、と言う案だ(おそらく私とアーロン・フォーサイスが「公式サイトをもっと読者とインタラクティブなものにしたい」と事あるごとに言い続けてきたのがここにきて効いたんだろうね)

 つまり何が言いたいかと言うと、これらの投票は「どっちがカッコいいか、強いか」といった観点から選ばれた2枚ではないのだ。プロモーションの一環としてプレイヤーたちに委ねられていなければ、本来はデベロップメントチームが決断を下していたであろう選択なのだ。

 ただ1つ認めざるを得ないとすれば、ある投票が他の投票より面白そうにみえる、ということはあるかもしれない(そうそう、今後発表される投票は、きっともっと面白いものになるはずだよ)

 1つ忘れないで欲しいのは、今回の企画は単にプレイヤーたちの声を聞くためだけではない。これは、私たちR&Dが普段どのような決断を下しているかを君たちと共有するための場でもあるんだ。


人それぞれという話

 次は君が嫌っている「高コストでサイズの大きいクリーチャー」についてだ。

 さらにイラストの投票の対象に選ばれたカードから、R&Dの視野の狭さが分かります。そう、重すぎてとても使用に耐えないクリーチャーたちです。
 ええ、何を言っているかはお分かりでしょう。《茨の精霊/Thorn Elemental》に《慈悲の天使/Angel of Mercy》が本気で選ばれると思っていたんですか?
 これらのカードを使っているプレイヤーなんていやしませんし、今後も現れません(あり得るとしたらや《ドルイドの誓い/Oath of Druids》デッキや《適者生存/Survival of the Fittest》と《繰り返す悪夢/Recurring Nightmare》のコンボデッキくらいでしょう)
 もっとも、《茨の精霊/Thorn Elemental》はまだ初心者が使っているのを見ることもあります。しかし《慈悲の天使/Angel of Mercy》? 初心者だって使いやしませんよ。
 その理由は2つあります。
 まず1つ目の理由としては、白が弱すぎる色だからです。さらにそれが改善される見込みもないからです(なぜならR&D自体が白を嫌いだからです。ライフゲインやダメージ軽減といった役に立たない能力を持ったカードばかり作っています。適切なマナコストのより役に立つ能力を持ったカードは作られません。例えばプロテクションやダメージ移し替えや先制攻撃や回避能力、その他にもたくさんの有用な白に割り当てられた能力があるにも関わらず)
 2つ目として、5マナのクリーチャーを入れるならより良い選択肢が他にありすぎるからです(もちろん《セラの天使/Serra Angel》も候補です)実際のところ、《慈悲の天使/Angel of Mercy》みたいな使えない能力持ちの5マナクリーチャーを使うプレイヤー(初心者でもベテランでもいいですが)を見たことありますか? ないですよね?


 ここで挙げられている問題は、君が思っているよりも遥かに複雑な問題だ。率直に言わせてもらえば、君は「木を見て森を見ず」の状態に陥っている。

 マジックがなぜ特別なゲームか。それはカスタマイズ可能な点にある。他の多くのゲームと異なる点として、マジックは君たちプレイヤー自身に「マジックとはどのようなゲームなのか」を決めさせてくれる。マジックの本質の1つに、君たち全員がデザイナーたり得るという点があるのだ。

 それを踏まえた上で……さて一体どこに問題があるというんだ?

 レイ・ブラッドベリの短編集「火星年代記(The Martian Chronicles)」に「火星の人 (The Martian)」というタイトルの短編が収録されており、それにはトムと呼ばれるキャラクターが登場する。

 トムには大きな秘密があった。実は彼は本物のトムではない。本物のトムは小さい頃に肺炎で亡くなっている。トムの両親にとって彼はまぎれもなくトムだが、実は彼は火星人なのだ。

 ここで問題となるのは、トム以外の人間にとって、トムは可愛らしい人間の子供以外の何物でもないということだ。この火星人が「誰なのか」は見る人によって異なる。

 自身が信じるものをトムに見る。そしてマジックが私たちにとってのトムだ。

 プレイヤーたちは皆、自分だけの異なる形状のレンズを通してマジックというゲームを見ている。自身のレンズを通じて見える景色がそのプレイヤーにとってのマジックだ。

 問題は、他人の視点から見える景色を共有することは非常に難しいということだ。

 ジョン、君が《茨の精霊/Thorn Elemental》や《慈悲の天使/Angel of Mercy》をパックから引いたときに怒りを覚えるのは、それらのカードが君にとって無用のカードだからだ。

 しかしそれが無用なのは「君から見たマジック」における話でしかない。一部のプレイヤーにとってはそれらのカードを引くことはとても嬉しいことなんだ。それらのカードはそのプレイヤーたちにとってのマジックそのものなんだ。

 他のプレイヤーがマジックを全く異なるゲームとして楽しんでいる、という事実を認めることができないプレイヤーは多い。

 自分が信じるのとはまったく違ったゲームとしてマジックを見ているプレイヤーがいる、と信じることが非常に受け入れがたいと感じるプレイヤーたちだ。

 分かりやすい例を挙げよう。

 先週のコラム(註)で私はインベイジョンの市場調査結果レポート(原文:Godbook)を紹介した。その結果では、2番目に人気があったカードは《勇士の再会/Heroes’ Reunion》だとされていたことに対して、本当に大量の「信じられない」という反応を頂いた。

 しかしそれと同時にまた別のプレイヤーたちからは、自分たちみたいなタイプのプレイヤーの存在もちゃんと認めてくれていると分かってとても嬉しい、というメールももらっているんだ。
(註) 先週のコラム
 原文では以下のURLにリンクが張られている。ライフを回復する効果について書かれたコラムで、その中で《勇士の再会/Heroes’ Reunion》(対象のプレイヤーのライフを7点回復する2マナのインスタント)について触れている。
 https://magic.wizards.com/en/articles/archive/making-magic/game-life-2002-06-24

 勘違いされやすい点、それは、R&Dは特定のプレイヤーの観点からマジックをデザインしているわけじゃない、という点だ。私たちは、全てのプレイヤーの観点からマジックをデザインしなければいけないんだ。

 これを達成するためには、様々なプレイヤーたちに向けて、それぞれ異なる様々なカードをデザインする必要がある。

 つまり、各プレイヤーの個々の目から見ると、どのエキスパンションにも必ず絶対にプレイしないであろう「死にふだ(原文:"dead" cards)」が存在することになる。

 これは必要悪だ。ある特定の観点だけを参考にマジックをデザインすれば、プレイ人口は縮小していくことだろう。それは経営的な死を意味する。

 私が君にお願いしたいことは、君にとっての「死にふだ」に寛容になって欲しいということだ。私が同じくカジュアルプレイヤーたちに対し、そのプレイヤーにとっての(そして君が好んでプレイしているであろう)「死にふだ」を受け入れてくれ、とお願いしているように。

 信じて欲しい。そういったカジュアルプレイヤーたちの存在がもたらすメリットはデメリットを最終的には上回る。必ずね。


まだ息がある点について

 最後に、君が心配しているマジックの未来についてだ。

 それはそれとして他にもお伝えしたいことがあります。
 ポータルとスターターは売上的に大失敗でしたが、その理由はカードがあまりにも弱すぎて、初心者たちは普通のエキスパンションを購入したほうがいいとすぐに気づいたからです。「ビギナー用のセット」を買うのをやめて、もっと上級者向けとされるセットしか買わなくなったということです。
 同じことが第8版にも言えると思います。あまりにもひどいカードだらけです。すぐにプレイヤーたちはエキスパンションを購入し始めることでしょう。第8版の発売はマジックの売上に貢献するどころか、これが原因でマジックの売上は大きく落ち込むことになるでしょうね。調べたところどうやらマジックの売上は開示されていないようですが、大きく減少したであろうことを確信しています。
 以下は私個人の経験談です。
 メルカディアン・マスクスが発売されたころ、ボックス当たり70ドル以下で購入するのは(輸入品を含めても)非常に難しかったです。ところが今ではオデッセイのボックスが(輸入品も含めて)60ドルから65ドルで手に入ります。マスクスからオデッセイにかけて、需要が落ちていることは明白です。
 それに対してテンペストやウルザズサーガのボックスはいまだに100ドル以上の値段を付けています(それ以外のセット、たとえばネメシスやプロフェシーは、40ドルから55ドルくらいです)
 これで何が分かるか? そう、プレイヤーたちは強さをとことん押し進めた(ときに禁止カードが発生してしまうような)強いセットを求めているということです。「バランスのとれた」セットなんてプレイヤーを退屈死させるだけですよ。
 私の住まいはサンフランシスコにあります。大都市です。それにも関わらず私はマジックをプレイするために車に乗って別の町まで出かける必要があります。なぜか分かりますか?
 近隣のマジックを扱うカードショップが全て閉店してしまい、公式大会も開かれなくなったからです。なぜそうなったか分かりますか? 需要が無くなったからです。
 カード開発のポリシーを変えて頂く必要があることをこれで分かっていただけたと思います。プレイヤーは熱狂と興奮を求めています。退屈なカードではありません。
 ローズウォーターさんは10周年を記念してすごいサプライズがあると匂わせていますが、少なくとも第8版はそれではないですね。


 マーク・トウェインの言葉に「最近、私が死んだという噂が流れているがそれはあまりにも誇張が過ぎる」とある。

 マジックはもうおしまいだ、という予言はかなり昔から……実際のところマジックが生まれた当初からある。「マジックはもう終わりだ!」と叫ぶ人たちの声にノスタルジーを感じないでもないが、そろそろこの噂にきちんと蹴りをつけようと思う。

 マジックは問題ない。

 マジックは今もこれまでにないほど元気だ。マジックの売上は急落していない。マジックは水をかき出し続けなければならない沈没船ではない。実際はむしろ逆だ。売上は好調だ。第7版の売上すら好調だ。プレイ人口も十分だ。

 少なくともここ最近に関しては言えばマジックは非常に良い結果を出している。マジックが明日にも死ぬと思っている人たちは安心して寝て欲しい。明日もマジックはそこにあるよ。
原文ではここに《熱心な士官候補生/Eager Cadet》の画像がある。ポータルのカードで、能力を一切持たない 1マナ 1/1 の白のクリーチャー。

 次にポータルとスターターについてだ。これらの販売を取りやめた理由は、売上不振ではない。顧客からのフィードバックの結果だ。初心者プレイヤーたちは自分たちがマジックの他のコミュニティに加われないことに不満を抱いていたんだ。

 集めたカードでデッキを作って、いざ大会に参加しようとしたとき、公式大会では使用できないカードだと言われてしまうわけだからね。この問題を解決するため、私たちはそういったプレイヤーたち向けのカードを基本セットに求めることにした。

 この《熱心な士官候補生/Eager Cadet》が第7版に収録されているのはそういう理由だ(ちなみに第8版にも収録される)。おっと、怒りのコメントはちょっと待ってくれ。これが君たちにとっての「死にふだ」であることを理解して欲しい。

 このカードは君に割り当てられたカードではない。このカードを必要としているプレイヤーのためにデザインされたカードなんだ。

 ちょうど良い機会なので、ここでついでに触れておきたいのは、私たちが初心者をあまりに大事に扱い過ぎているという意見だ。これは多くのメールや書き込みを通じて伝えられる意見だ。

 つまり私たちが初心者に対する気遣いとしてのシンプル過ぎるカードを収録することは、時間(と紙資源)の無駄というわけだ(「私は泳ぎを習うときに足のつかないプールに放り込まれましたが別に溺れませんでしたよ」)

 私の回答としては、こういった意見をくれるプレイヤーたちが知らず、かつ私たちが知っている情報がある、ということだ。

 それは「市場テスト」(原文:Market Testing)だ。

 どういったことかというと、私たちは定期的にマジックの顧客層に当たる人をランダムに選定し、私たちが用意した場でその人たちにマジックを教えてプレイしてもらっている。私や他の社員はマジックミラーを通じてそのプレイしている様子を見学するわけだ。

 私たちがそこから何を学んだか? それは「初心者にとってマジックは本当に非常にややこしいゲームである」ということだ。

 念のため。ここでマジックを遊んでもらっているのは、ゲームに全く触れたことのない家事手伝いの人や未就学児などではない。これらのテストを受けてくれているのは、マジックや他のゲームに多少なりとも興味のある20歳前後の人たちだ。

 そういった人たちにとってすら、マジックを学ぶということはそう簡単な話ではないんだ。

 それと「バランスのとれた」セットのつまらなさはプレイヤーを退屈死させる、という君の意見に対しては、インベイジョンブロックをその反証としたい。

 このブロックの3つのセット(インベイジョン、プレーンシフト、アポカリプス)は禁止カードを1枚も出さなかったにもかかわらず評判は上々だった。この結果を受けて、私(とR&D)はもう少し強気にデザインと開発を進めても良いのではないか、もう一歩踏み込んでも大丈夫なのではないか、と考えた。

 最後に言っておこう。私たちの10周年記念イベントはきっと最高に盛り上がるだろうし、第8版も間違いなくそのパーティの盛り上げ役の1人だろうね。


先へと進む力

 このコラムの最後に、特に強調しておきたいこと、それは私がこのジョンから送ってくれたような投稿を心から喜ばしく思っているということだ。

 マジックとは私にとって本当にとてつもなく大きな位置を占めるものであり、その私と同じようにマジックに大きな情熱を傾けている誰かがいると知るのはとても嬉しい。

 今日のコラムの目的は、皆に誤解されているのではないかと私が思っているいくつかの事柄について説明することだった。そしてそれは私がこのコラムを連載している目的の1つでもある。だから今後もきっと同じような内容の記事を何度も見ることになるだろうね。

 さて、あらためて伝えておこう。

 もし君にマジックをより良くするための案があれば(もしくは君が今後も変わらずそうあって欲しいと願うマジックの何かがあれば)、ぜひこの公式サイト(註)を通じて私にメッセージを送って欲しい。
(註) 公式サイト
 原文にはここにメールアドレスが書かれていたがもう使われていないアドレスのようなので省略。

 ちょっと忙しすぎるので全てのお便りに返信することはできないと思うが、全てに目を通してはいる。意見を直接送れることこそがこの公式サイトの誇るべき特長の1つだと私は考えている。君の意見を聞いてくれる耳が少なくとも1人分、ゲームの心臓部分にあるわけだ(ランディも数えるなら2人分だね)。ぜひ活用してくれ。

 来週はデザイナーが好んで用いる、とある道具について書く予定だ。それまで、君のためにデザインされたレアをパックから引けるよう祈ってるよ。

マーク・ローズウォーター/Mark Rosewater
【翻訳】これぞマジック・スピリット!/That’s the Spirit【DailyMTG】
Mark Rosewater
2004年10月11日
元記事:https://magic.wizards.com/en/articles/archive/making-magic/%E2%80%99s-spirit-2004-10-11

 スピリット週間へようこそ!

 神河物語という新たな舞台でスピリットたちが注目を浴びていることもあり、私たちはこの古参のクリーチャータイプに1週間を捧げることにした。

 私の担当するこのコラムはデザインに関するコラムということなので、さまざまなスピリットたちのデザインについて語るのがやはり自然だろう。

 この記事を通じて、君たちにいくらかでもカードデザインのプロセスについて理解を深めてもらうことが出来ればこんなに嬉しいことはない。


■ 《天使の学芸員/Angelic Curator》(ウルザズ・レガシー)
Angelic Curator / 天使の学芸員 (1)(白)
クリーチャー - 天使(Angel) スピリット(Spirit)
飛行、プロテクション(アーティファクト)
1/1
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Angelic+Curator/

 まず手始めに、ちょっとしたクイズだ。初めて「プロテクション(アーティファクト)」が登場したセットの名前は?

 一番多い答えはおそらくアンティキティーだろうね。だがそれは間違いだ(まあ、オラクルのテキストを正とするならその限りではないが)(註)
(註) オラクルのテキスト
 オラクルというのは「公式なカードの文面や効果」を定めた文書。実際のカードに不備があった場合や時代が進んで「より適した書き方」が生じた際にはオラクルで更新する。要は、実際のカードとオラクルが相違した場合、オラクルが「正」となる、ということ。

 1993年に発売されたアンティキティーというセットのカード、《Artifact Ward》に実際に印刷されているのは「Target creature cannot be blocked by artifact creatures, and any damage taken from an artifact source is reduced to 0. Target creature is unaffected by any artifact effects that target it」というテキスト。

 その後、1997年のオラクル更新でこのカードのルールテキストは「プロテクション(アーティファクト)」に変更された。この記事が書かれたのはこの変更が適用されていたとき。

 しかしさらに2017年のオラクル更新で元の印刷時のテキストに近い形に戻されている。

 アンティキティーではなくウルザズ・レガシーと答えた人たちもいるようだね。おそらくこの章のタイトル部分にあるカードを目にしたからだろう。

 その通り、プロテクション(アーティファクト)が正式な能力となったのはウルザズ・レガシーの発売を待つ必要があった(なおウルザズ・レガシーでこの能力を与えられていたのは《天使の学芸員/Angelic Curator》と《ヤヴィマヤの接ぎ穂/Yavimaya Scion》の2体だ)

 思いつくのがそれほど難しいとは思えないこの能力が日の目を見るまでに5年もかかったのが不思議かい?

 実際のところ、5年もかかったとも言えるし、かかってないとも言える。アンティキティーのデザイナーたちがすでに思いついてはいた。ただ当時はそれを実現する技術がまだ存在しなかったのだ。

 これはデザインにおいて非常に重要な点だ。そう、技術(Technology)の問題だ。

 実際にどれほどの君たちがあの当時にプレイしていたかは分からないが、当時のマジックは今と比べるとルール表記がちょいとカオスだった。

 たとえばプロテクションだ。この能力の意味するところは常に変化していた。

 マジックの黎明期、プロテクション(白)を持っている《黒騎士/Black Knight》に対しては《神の怒り/Wrath of God》も《黒の防御円/Circle of Protection: Black》も無力だった。
Wrath of God / 神の怒り (2)(白)(白)
ソーサリー
すべてのクリーチャーを破壊する。それらは再生できない。
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Wrath+of+God/

Circle of Protection: Black / 黒の防御円 (1)(白)
エンチャント
(1):このターン、あなたが選んだ黒の発生源1つが次にあなたに与えるすべてのダメージを軽減する。
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Circle+of+Protection%3A+Black/

 アンティキティーの時代になってもプロテクションのルールにはまだまだ曖昧なところがあった(実際のところ、プロテクションの原則的なルールがほぼ現在の形に落ち着いたのはリバイズドの時代だ)。

 そのため、当時のアンティキティーのデザインチーム(Skaff Elias、Jim Lin、Joel Mick、Chris Page、Dave Pettey)はプロテクション(アーティファクト)そのものではなく、ほぼそれと同じの働きをする能力を持たせることにしたんだ。

 マジックのデザインチームの仕事の1つは、常に最新の(ルールの)技術に立脚することにある(間違えないでくれよ。ルールがどう働くか、が大事なんじゃない。私が言っているのは、メカニズムを実現する上でどうルールを活用できるか、という話だ)

 ルールが発達するに従ってデザイナーは過去にできなかったことをより洗練された形で実現することが可能となる。

 実のところ、これはデザイナーの義務だと私は信じている。ルールを活用し、カードをより洗練された形を生み出すこと。《天使の学芸員/Angelic Curator》はこれを体現した良い例だね。


■ 《無規律の死霊/Entropic Specter》(エクソダス)
Entropic Specter / 無規律の死霊 (3)(黒)(黒)
クリーチャー - スペクター(Specter) スピリット(Spirit)
飛行
無規律の死霊が戦場に出るに際し、対戦相手を1人選ぶ。
無規律の死霊のパワーとタフネスは、それぞれ選ばれたプレイヤーの手札にあるカードの数に等しい。
無規律の死霊がプレイヤーにダメージを与えるたび、そのプレイヤーはカードを1枚捨てる。
*/*
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Entropic+Specter/

 このカードは、カードデザインにおけるまた別の興味深い一面を体現している。それは「シナジー」と「アンチ・シナジー」の関係だ。

 1枚のカードに2つ以上の能力を持たせるということは、それらがどう相互作用(interact)するかを考える必要がある。

 理想的には、以下のいずれかであるのが望ましい。それら2つが美しいハーモニーを奏でるか、もしくは互いに相反する動きをするかだ。

 前者の場合、生み出されたカードは個々の能力を合算した以上の効果を生み出してくれる。後者の場合、生み出されたカードはプレイヤーに興味深い決断を迫ることになる。片方の能力を生かそうとすれば、もう片方の能力が足を引っ張ることになるからだ。

 ご推察のとおり、《無規律の死霊/Entropic Specter》は後者だ。

 ミラージュのとき、私は《マロー/Maro》を作った(これについて詳しく知りたいなら、私が過去に書いた「There’s Always Two Maro」(註)というコラムを読んでくれ
(註) There’s Always Two Maro というコラム
 原文では以下のURLへのリンクが張られている。内容は《マロー/Maro》の制作秘話。このカードのメカニズム、名前、イラスト、クリーチャー・タイプ、そしてフレイバーテキストに至るまで全てのデザインについて触れられている。
 http://archive.wizards.com/Magic/Magazine/Article.aspx?x=mtgcom/daily/mr49

 ちなみにカードデータは以下の通り。
Maro / マロー (2)(緑)(緑)
クリーチャー - エレメンタル(Elemental)
マローのパワーとタフネスはそれぞれ、あなたの手札のカードの枚数に等しい。
*/*
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Maro/

 非常に面白いメカニズムを生み出せたと思っていた私は、このメカニズムを別の形で登場させるチャンスを常にうかがっていた。

 別の形の案の1つとして思いついていたのは、やはりパワーとタフネスの参照する先が自分ではなく対戦相手の手札であるクリーチャーだ。

 だが私としてはそこで終わらせたくなかった。カードをあと少し輝かせるもうひと押しが欲しかった。そこで私は、対戦相手の手札を参照するという以外に元のマローと対な関係となるような能力とはなんだろう、と考え始めた。

 例えば「対戦相手にカードを引かせてしまう能力」を与えるのは?

 悪くはないが、正直それほど私の心には響かなかった。一時的なパワーとタフネスを増加を得る代償として、対戦相手にカードを引かせるというのはデメリットが大きすぎるように思われた。

 通常、対戦相手に追加のカードは引かれたくない。むしろ手札を捨てさせたいところだ。うん? 待てよ、と私は思った。なるほど、逆なのかもしれない、とね。

 対戦相手に手札を捨てさせるクリーチャーはどうだろう? つまり自身が縮んでしまうクリーチャーだ。これはいい。

 クリーチャータイプはスペクター(Specter)にしたかった。そうすると、このクリーチャーは飛行を持つということになる。さらに(当然だが)このクリーチャーは黒ということにもなる。

 さらに私たちはこのクリーチャーのイラストをスペクター(Specter)の第一人者であるロン・スペンサーにお願いすることにした。

 あれ? ちょっと待てよ。今日のコラムはスピリットの話だったはずだ?

 どういうことだ。これはどこからどう見てもスペクターじゃないか。よく見たら名前にもきっちり Specter と入ってるじゃないか。イラストにもスペクターが描かれてるし、カードの能力はいわゆるスペクター能力だ。

 はてさて、何がどうしてスピリットになってしまったんだろう。

 そうだなあ、もしかしたら当時の私たちは「いつの日かスピリットが主役を張るような日が来るかもしれない。その日のためにスピリットカードを充実させておく必要がある。よし、このカードもスピリットに加えておこう!」と思ったのかもしれないね。

 もしくは単に何か間違えたか。どっちかだろう。好きなほうを選んでくれ。

 何にせよ、親愛なる読者諸君、これが《無規律の死霊/Entropic Specter》の誕生の物語だ。


■ 《灼熱洞のスピリット/Furnace Spirit》(ストロングホールド)
Furnace Spirit / 灼熱洞のスピリット (2)(赤)
クリーチャー - スピリット(Spirit)
速攻
(赤):灼熱洞のスピリットはターン終了時まで+1/+0の修整を受ける。
1/1
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Furnace+Spirit/

 これはいわゆる「ミックス&マッチ(Mix and Match)」と私が呼んでいるカードの1つだ。

 アイデア自体はシンプルだ。1つの色に見られる2つの能力をひっつかんで1枚のカードに収めるだけだ。ちなみに多色のブロックの場合の「ミックス&マッチ」カードはどうなるかというと、2色のそれぞれから1つずつ能力をひっつかんで1枚のカードに収めることになる。

 単色の「ミックス&マッチ」カードを作るときに問題となるのはネタ切れだ。各色に見られる特徴的な能力は限られており、それらの組み合わせのパターンにも当然限りがある。

 その難しさがあるからこそ、新たにシンプルな「ミックス&マッチ」カードを生み出せたときの私は強い興奮を覚えるわけだ。

 この《灼熱洞のスピリット/Furnace Spirit》もその1枚だ。赤といえば速攻であり、そして赤といえば炎のブレスだ。しかもこれら2つの能力の間にはシナジーもある。

 私がストロングホールドのカードをデザインしていて、この2つの能力(だけ)を組み合わせたカードがまだ作られてなかったことに気づいたとき、それはそれは嬉しかったよ。

 これのサイズを1/1にした理由は、何もないところから不意に飛び出してくる大ダメージという能力につぎ込めるマナの量を最大限にしたかったからさ。


■ 《死者の嘆き、崩老卑/Horobi, Death’s Wail》(神河物語)
Horobi, Death’s Wail / 死者の嘆き、崩老卑 (2)(黒)(黒)
伝説のクリーチャー - スピリット(Spirit)
飛行
クリーチャーが呪文や能力の対象になるたび、そのクリーチャーを破壊する。
4/4
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Horobi%2C+Death%27s+Wail/

 マジックのデザインでは既存のカードからインスピレーションを得ることがよくある。特に好きだった過去のカードを見つけてきて、それをどうやったら新しい形で表現できるかを考えるのがカギだ。《死者の嘆き、崩老卑/Horobi, Death’s Wail》はまさにそのように生まれたカードだった。

 勘のいいプレイヤーはお気づきだろう。そう、《卑屈な幽霊/Skulking Ghost》だ。私は初めて見たときからコイツの大ファンでね。実のところ、マジックに関するいい思い出の中でもこいつの活躍はかなり上位に位置している。

 その昔、カリフォルニアの南に位置するコスタメサでのことだ。私は馴染みのカードショップにいた。ミラージュ(註)が発売されたばかりで、そのときの私はまさにミラージュのシールド戦をプレイしていた。
(註) ミラージュ
 1996年発売。アフリカ風のサバンナやジャングルを舞台としたマジックのエキスパンション。初めて基本セット以外で日本語版が出た。フェイジング、側面攻撃、累加アップキープなどその後の歴史で姿を消したキーワードが多い。

 私は対戦相手のライフを残り6まで追い詰めたが、そこで戦場はこう着状態に陥ってしまった。そこで私が何を引いたか分かるかい? そう、答えは《卑屈な幽霊/Skulking Ghost》だ(簡単すぎたかな)

 問題はそのときの対戦相手のクリーチャーの中に《ドワーフの放浪者/Dwarven Nomad》(註)がいたことだ(実質的な《ドワーフ戦士団/Dwarven Warriors》だ)。つまり《卑屈な幽霊/Skulking Ghost》を出したとしても、この放浪者のせいですぐに破壊されてしまうわけだ。

(註) ドワーフの放浪者/Dwarven Nomad
 マジック最古のドワーフである《ドワーフ戦士団/Dwarven Warriors》の同型再版で、タップすることで「パワーが2以下のクリーチャー1体を対象とする。このターン、それはブロックされない」という能力を持っている。

 その後、こう着したまま数ターンが経過し、私はこう結論づけた。「この相手はドワーフの能力をこっちのクリーチャーにも使えることに気づかない気がする」とね。

 そこで私は《卑屈な幽霊/Skulking Ghost》をプレイしてみた。

 対戦相手は何もしなかった。

 アタックして2点ダメージを与えてみた。

 対戦相手は何もしなかった。

 さらに次のターンもアタックして2点ダメージを与えてみた。

 対戦相手は何もしなかった。

 さらにさらに次のターンもアタックして2点ダメージを与えてみた。

 試合終了。

 いや、まあ、よく聞く話かもしれないね。対戦相手のカードだけではなくて、対戦相手自身が対象の場合も含めて「実は ~ も対象にできるんだよね」という話だ。(註)
(註) よく聞く話
 ちなみにこの著者によって書かれた他の記事でもこの話はネタにされている。以下は、ドワーフについて書かれたコラムの後半部分(の拙訳)。「注意深くあれ」と題した章でこの話が触れられている。
 http://regiant.diarynote.jp/201305061530428933/

 それはそれとして、勝利へのか細い糸をたぐり寄せきったこの試合のことを私は今も誇りに……おっと、話が脱線したね。《死者の嘆き、崩老卑/Horobi, Death’s Wail》のデザインの話に戻ろう。

 私が《卑屈な幽霊/Skulking Ghost》の「卑屈な」能力を何か違った形でいかせないかと考え始めた、という話だ。

 もちろん、この能力を持ったクリーチャーを新たに作るというのが最初に思いついた案だった。しかし私としてはこの能力をもっと攻撃的に、前向きな形で使いたかった。単なる欠点としてではなくね。

 そこでこう考えた。もし、この能力を他のクリーチャーに与えることができたらどうなる? そして次に降りてきたアイデアは、他のクリーチャーすべてをも卑屈にしてしまう卑屈なクリーチャーというものだった。

 そのようなわけで、皆様、これが《死者の嘆き、崩老卑/Horobi, Death’s Wail》が誕生した経緯というわけだ。


■ 《虚飾の道の神/Kami of the Painted Road》(神河物語)
Kami of the Painted Road / 虚飾の道の神 (4)(白)
クリーチャー - スピリット(Spirit)
あなたがスピリット(Spirit)か秘儀(Arcane)呪文を唱えるたび、虚飾の道の神はターン終了時まで、あなたが選んだ色1色に対するプロテクションを得る。
3/3
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Kami+of+the+Painted+Road/

 神河物語のデベロップメントに参加してたときのことだ(神河物語のクレジットからは私の名前が抜け落ちているが、実際は参加していたんだ)。

 当時の私に課せられた使命は「あなたがスピリット呪文か秘儀呪文を唱えるたび~」という能力を持つカードをもっと作ることだった(ちなみにこの手のカードはまとめて「スピリットクラフト」と呼ばれている)

 以下が、そのときの私が作ったカードの1枚だ。

   Fighting Spirit
   (1)(白)(白)
   クリーチャー - スピリット
   飛行
   あなたがスピリット呪文か秘儀呪文を唱えるたび、(このカード) は
   ターン終了時まで、あなたが選んだ色1色に対するプロテクションを得る
   2/1


 その後、2/1 が 3/3 になった。さらに「飛行」が「   」(これは空欄を意味する)になった。

 さて、なぜ私がこのカードを今回紹介することにしたかというと、デザインのコアとなる部分がそのまま別のカードに移し替えられるということは良くある話で、それを君たちと共有したかったからだ。

 私が作ったのは、回避能力を持った小型クリーチャーだった。しかし実際に印刷されたのは、中型の地上戦用クリーチャーだった。

 なぜだろう?

 その理由はデベロップメントの仕事の1つがきちんと各色のバランスがとれているかどうかをチェックすることだからだ。

 そのバランスというのは色やクリーチャーのサイズや能力であり、そのセットにおける各要素のバランスがちゃんととれているかどうかをデベロップメントチームは常に気にかけている。

 白にはすでに十分な飛行クリーチャーがいたため、新たに必要だったのは大きめの地上戦用のクリーチャーだったのだ。元のカードの能力はいずれのタイプのクリーチャーにもハマる能力だった。それで変更がなされたというわけさ。


■ 《根性曲がり/Mindwarper》(ストロングホールド)
Mindwarper / 根性曲がり (2)(黒)(黒)
クリーチャー - スピリット(Spirit)
根性曲がりはその上に+1/+1カウンターが3個置かれた状態で戦場に出る。
(2)(黒),根性曲がりから+1/+1カウンターを1個取り除く:プレイヤー1人を対象とする。そのプレイヤーはカードを1枚捨てる。この能力は、あなたがソーサリーを唱えられるときにのみ起動できる。
0/0
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Mindwarper/

 このカードはセットデザインにおけるカードの発展と進化を説明する上で格好の例となる。

 テンペストのデザイン中に私はスパイクを生み出した。おっと、テンペストブロックについて知らない君のために説明すると、スパイクというのは基本的に「+1/+1カウンターをいくつか乗せた状態で戦場に出てくる緑のクリーチャー」のことだ。

 全てのスパイクは「自身の +1/+1 カウンターを他のクリーチャーに移す」という共通の能力を持っている。さらにほとんどのスパイクは追加で「自身の +1/+1 カウンターを取り除くことで何らかの効果を誘発する」という能力も持っている。

 テンペストの開発時、セットの許容量を超える数のメカニズムが作られてしまったため、スパイクを含めたいくつものメカニズムがそれ以降のセットへと回されることになった(ただスパイクはちょっと特別扱いを受けていた。テンペスト以降に登場することを事前に知らせるためにわざわざプレビューカードがわりの《スパイクの徒食者/Spike Drone》がテンペストに収録されていたんだからね)

 スパイクが本格的に登場するのにストロングホールドを待つ必要があったのはそういうわけだ。さて、スパイクの収録が決まったあと、次に私たちが模索したのはどうやったら彼らがより他のカードと相互作用を起こせるか、ということだった。

 当時は冗談で「今こそ《トリスケリオン/Triskelion》を再録するときだ」なんて言ってたね。そして次の閃きはこの冗談から生まれたんだ。もし「自身の +1/+1 カウンターを取り除くことで何らかの効果を誘発する」ことが出来るクリーチャーが同じセットでスパイク以外にもいたらどうなるだろう?

 つまりそのクリーチャーたちは、スパイクから +1/+1 カウンターをもらった際にただサイズがちょっとデカくなるだけに終わらないということだ。

 これを念頭に置いた上で、私は各色ごとの特徴的な能力と効果を探してみた。

 黒はもちろん手札破壊だ。

 多くプレイヤーは、デザインとは単にたくさんのカードを作ってはそれらをくっつけていく作業だと思っているだろうが真実は違う。デザインとは1つ1つのカードを次のカードへとつなげていく作業だ。

 複数のデザインがいちどきに生まれるわけじゃない。1つのデザインから進化し発展していくものなんだ。《根性曲がり/Mindwarper》はその進化形の1つだね。


■ 《冥界のスピリット/Nether Spirit》(メルカディアン・マスクス)
Nether Spirit / 冥界のスピリット (1)(黒)(黒)
クリーチャー - スピリット(Spirit)
あなたのアップキープの開始時に、冥界のスピリットがあなたの墓地にある唯一のクリーチャー・カードである場合、あなたは冥界のスピリットを戦場に戻してもよい。
2/2
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Nether+Spirit/

 技術にはメリットもあればデメリットもある。マジックの最初のセットであるアルファには《冥界の影/Nether Shadow》と呼ばれるクリーチャーがいた(そういえばコイツもスピリットだね)。この《冥界の影/Nether Shadow》は速攻を持っていた。君のアップキープの開始時に、もし墓地にいるコイツの上に3枚以上のクリーチャーカードが乗ってれば、戦場に帰って来れた。

 とても使ってて楽しいカードだった。

 残念ながらテンペストブロックの時代(より正確にはエクソダスの頃)、開発部は墓地のカード順を変更してはならないというルールを廃止した。

 その理由は次の通りだ。

 墓地のカード順を変更してはならないということはつまりプレイヤーは墓地をチェックする際にカード順を並べ替えてはいけないということだ。そして実際のところ、プレイヤーというものは本能的にカード順を並べ替えたがるものなのだ。

 私たちは、このルールを廃止したとしてもそれによって失われるデザインの可能性はそう広くないだろう、と考えた。そして墓地のカード順を守らねばならないというルールを無くすことにしたんだ。

 もっともこの決定によって失われたものも確かにあった。その1つとして《冥界の影/Nether Shadow》を始めとした一部のカードの再録ができなくなったこと(註)が挙げられる。
(註) 一部のカードの再録ができなくなった
 ここで挙げられている《冥界の影/Nether Shadow》以外で墓地のカード順を参照するカードとしては《死の火花/Death Spark》、《灰燼のグール/Ashen Ghoul》、《Krovikan Horror》などがある。

 そのようなわけで、もし《冥界の影/Nether Shadow》的なクリーチャーを作りたかったとしても、同じ方法はとれないということだ。《冥界の影/Nether Shadow》的な能力を再現しようと様々な選択肢を模索してみた結果、私は視点を変えてみることにした。

 元々の《冥界の影/Nether Shadow》は墓地にたくさんクリーチャーがいることを好むカードだ。じゃあ逆にしてみたらどうなるだろうか? 同じく墓地から復活するクリーチャーだが、他のクリーチャーと墓地を共有したがらないカードだったら?

 これが《冥界のスピリット/Nether Spirit》の生まれた経緯だよ。


■ 《烈火の精/Raging Spirit》(ミラージュ)
Raging Spirit / 烈火の精 (3)(赤)
クリーチャー - スピリット(Spirit)
(2):烈火の精はターン終了時まで無色になる。
3/3
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Raging+Spirit/

 私が毎週書いているこの Making Magic というコラムのテーマとは何か? 何度も繰り返し言っているように、このコラムのテーマは「マジックのデザイン」だ。しかし実のところ、それは建前であり、真のテーマというものが別に存在する。

 真のテーマは「単に私が語りたいネタ」だ。だからここから、デザイン的なネタ要素が0%の話をさせてもらう。……いや、まあ、ちょっとはあるかな。2%くらいならある。いずれにせよクレームは一切受け付けない。

 さて、ウィザーズに入社するまでの私は「雑誌デュエリストでマジックのパズル(註)を作ってる人」としてしか知られていなかった。
(註) 雑誌デュエリストのマジックのパズル
 詰将棋や詰碁みたいなもので、自分と対戦相手の盤面や手札などの条件が提示されて、その中で勝利(や、ときにはそれ以外の条件の達成)を目指す。

 このパズルはとても評判だったのでウィザーズは「マジック・ザ・パズリング」の本を出すことにしたんだ(ちなみにこのタイトルが雑誌で連載されていたコラムのタイトルでもある)

 その本のために50個のパズルを用意するように言われた。しかし最後の瞬間になって、2冊に分けて出版することになったんだ。つまり25個のパズルが入った本を1冊ずつだ。

 1冊目は完売した(とはいえ1万冊しか刷られなかった本(註)ではあるが)。その後、出版社の組織再編だかなんだかの煽りをくらって2冊目は出版されなかった。つまり25個のパズルが未使用のまま残ったというわけさ。
(註) 1冊目
 Amazonに書影があった。確かに「雑誌デュエリストで知られているパズル」とか「25個のパズル入り」とか表紙に書いてある。
 https://www.amazon.co.jp/Magic-Puzzling-Mark-Rosewater/dp/1575301008

 この本のパズルの1つが2002年に公式サイトで紹介されている。
 https://magic.wizards.com/en/articles/archive/arcana/magic-puzzling-2002-11-01

 もちろん私としてはこの残ったパズルを無駄にしたくなかったので、それらを雑誌で連載していたコラムに使うことにした。ただ1つ問題があった。パズルに使われていたカードが古くなってしまったんだ。

 あるとき、ミラージュの発売直後に雑誌にパズルを載せることになった。多少なりとも古臭さを消すために、元のパズルでは《丘巨人/Hill Giant》を使っていたところを《烈火の精/Raging Spirit》に変えた。

 実質的に同じカードだったからね。唯一の違いは《烈火の精/Raging Spirit》は無色になれるという点だったがそれはパズルには関係ない。大した変更じゃなかった。

 どうなったと思う?

 パズルが解けなくなったんだ。対戦相手にこのカードを与えた結果、相手は余剰マナを消費する手段を得た。それによってプレイヤーは勝利できなくなってしまった(註)。
(註) 余剰マナを消費する手段
 当時は「マナバーン」と呼ばれるルールがあり、余剰マナを残したままフェイズを移ろうとすると、残していたマナの点数分だけライフを失ってしまった。おそらくそれを利用して勝利するパズルだったのかと。

 最初に2%くらいはデザイン的な要素のある話になると言ったね。それは「教訓:いかな能力もみくびってはならない」だ。どんなちっぽけな能力でさえも状況次第で大きな力を発揮してくれるということさ。


■ 《黄泉からの帰還者/Revenant》(ストロングホールド)
Revenant / 黄泉からの帰還者 (4)(黒)
クリーチャー - スピリット(Spirit)
飛行
黄泉からの帰還者のパワーとタフネスは、それぞれあなたの墓地にあるクリーチャー・カードの数に等しい。
*/*
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Revenant/

 私が初めて《ルアゴイフ/Lhurgoyf》を見たときに思ったことは以下の通りだ。

  1.これはカッコいい
  2.フレイバーテキストが面白いぞ
  3.この名前はなんて読むんだ?
  4.なんでこれ黒じゃなくて緑なんだ?

 もちろんまったく緑の要素がないわけじゃない。成長というテーマは緑だし、緑にはそれを表すための */* という変化するパワーとタフネスを持ったクリーチャーが多くいた。

 ただ私としては、クリーチャーが墓地に落ちれば落ちるほど成長するというフレイバーには緑ではなく黒を感じたのだ。
(註) 《ルアゴイフ/Lhurgoyf》
Lhurgoyf / ルアゴイフ (2)(緑)(緑)
クリーチャー - ルアゴイフ(Lhurgoyf)
ルアゴイフのパワーはすべての墓地にあるクリーチャー・カードの数に等しく、そのタフネスはその数に1を加えた点数に等しい。
*/1+*
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Lhurgoyf/

 その後、ストロングホールドのデザインの際に、私は《ルアゴイフ/Lhurgoyf》をあるべき色で作り直そうと考えた。

 まず、違いを出すために飛行を加えた。それでもプレイヤーの皆にはこれがどこから着想を得たカードであるかを気づいて欲しかったので、フレイバーテキスト(註)に《ルアゴイフ/Lhurgoyf》ネタを入れさせてもらった。
(註) フレイバーテキスト
 マジックの数あるカードの中でも特に有名なフレイバーテキストの1つである《ルアゴイフ/Lhurgoyf》のフレイバーテキストと、それを元ネタにした《黄泉からの帰還者/Revenant》のフレイバーテキストはそれぞれ以下の通り。

 《ルアゴイフ/Lhurgoyf》のフレイバーテキスト
   原文:
     Ach! Hans, run! It’s the lhurgoyf!"
     -Saffi Eriksdotter, last words
   日本語訳:
     しまった!逃げろ、ハンス!ルアゴイフだ!
     ― サッフィー・エリクスドッターの最期の言葉

 《黄泉からの帰還者/Revenant》のフレイバーテキスト
   原文:
     "Not again."
     -Hans
  日本語訳:
     えっ、またか
     ― ハンス

 時系列とか背景設定とかを真面目に考えるとちょっとおかしいことは分かっていたが、面白さを優先するという選択肢もときにはありだろうと私は信じている。

 フレイバーテキストはさておき、この話のポイントは、他の色に置き換えることのできるカードがないかどうか確かめるために過去からカードを掘り返すのもデザイナーの仕事の1つということだ。

 置き換えることが出来るのは、カラーパイが当時から変化したからかもしれないし、単にバリエーションを増やすだけの価値があると判断されたからかもしれない。

 さて久しぶりのハンスとの再会だったが、次はいつになることやら(ヒント:そう遠くないかもしれないよ)(註)
(註) ハンスとの再会
 次にハンス/Hansに関するカードが登場したセットであるアンヒンジドは、この記事が書かれたのが2004年10月の1ヶ月後である2004年11月に発売されている。ちなみにカード名は《"Ach! Hans, Run!"》


■ 《嵐の種父/Sire of the Storm》(神河物語)
Sire of the Storm / 嵐の種父 (4)(青)(青)
クリーチャー - スピリット(Spirit)
飛行
あなたがスピリット(Spirit)か秘儀(Arcane)呪文を唱えるたび、あなたはカードを1枚引いてもよい。
3/3
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Sire+of+the+Storm/

 デザインに関するコラムを書くときの楽しみの1つは、過去のファイルを漁りながら色んなカードの開発段階のときの古いバージョンをチェックすることだ。

 以下が《嵐の種父/Sire of the Storm》の初期バージョンだ。

  Blue Spirit #5
  (2)(青)(青)
  クリーチャー - スピリット
  飛行
  あなたがスピリット呪文か秘儀呪文を唱えるたび、
  あなたは(1)(青)を支払ってもよい。そうした場合、カードを1枚引く
  2/4


 まず初めに、なぜ仮の名前が Blue Spirit #5 なのかというと、すでに4体の青いスピリットがいたからだ。

 それはそれとして、私のデザインでは実際のカードよりマナコストが安い。かわりにカードを引くのにコストが必要になっている。また、デベロップメントはどこかの段階でサイズを 2/4 から 3/3 に変更した。おそらくその方がより良いカードになると考えたんだろうね。

 ……これ以上は特に語ることもないかな。


■ 《空のスピリット/Sky Spirit》(テンペスト)
Sky Spirit / 空のスピリット (1)(白)(青)
クリーチャー - スピリット(Spirit)
飛行、先制攻撃
2/2
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Sky+Spirit/

 このカードは、とある興味深い問題を解決するために作られたカードだ。

 レジェンドというセットで、当時のデザイナーは宝石のごとき輝きを持つカードを生み出している。《ThunderSpirit》と呼ばれたそれは飛行と先制攻撃を持つ 2/2 のクリーチャーだ。

 デザインという観点から見ると、このカードはまさに完璧だ。

 残念なことにこのカードはレアだった。そのため再録禁止カードリストに収まってしまった(決して再版しないとウィザーズが誓ったカードたちが収められたリストだ)

 さあ、ここでデザイナーに出来ることはなんだろう?

 そのとおり、同じくらい完璧でエレガントなカードを作ればいいのさ。

 まったく同じに見えて、ほんのわずかな違いしかないカードが作れればいい。私たちはテンペストでそれに成功した。

 その違いとは、白マナを1つだけ青マナに変えるというものだ。シンプルにしてエレガント、しかしコアとなる部分には変化なしだ。デザインの勝利と言わせてもらおうか。


マジックの過去に眠るスピリット

 今日みたいなコラムも楽しんでくれると嬉しいね。

 あまり注目はひかないみたいだが、君たちにカードデザインのプロセスを様々な角度から垣間見せるためには、今日みたいなタイプのコラムが非常に適しているんだ。それに個人的にはこういうディテールに関わる部分こそ、まさにデザインのもっとも土台となる部分だと考えている。

 来週のコラムは私のコラムの中で史上最少となる予定だ。それまで、無意識に行っているであろう日々の行いにどういった意味があるのかを再確認してて欲しい。

 Mark Rosewater
【翻訳】マナと雪の情報/There’s No Business Like Snow Business【DailyMTG】
Mark Rosewater
2006年06月26日
元記事:https://magic.wizards.com/en/articles/archive/making-magic/there%E2%80%99s-no-business-snow-business-2006-06-26

 コールドスナップのプレビュー週間の第1週目にようこそ! 今週はアイスエイジブロックの「失われたセット」をみんなで探索しようじゃないか。

 しかも今日は新セットから皆の興味を引けそうなカードを1枚紹介しようと思っている。ただ、すぐにご紹介するわけにはいかない。ちょっとした準備がいるから、このコラムの最後に紹介させてもらうよ。

 ……おや? 読者が減ってしまった気配を感じるぞ。多分、記事の終わりまでスクロールしに行った人たちの分だな。

 きっと戻ってこないだろうな。プレビューカード目当てで私の記事にきた人たちだろう(そうそう、それはそれとして今週はプレビュー週間だからこれからもどんどん記事が上がって来るぞ)

 いや、それほど残念じゃないよ。何しろカードだけ先に見に行った人たちはそれはそれは混乱してることだろうからね……なんでそう思うのかって? 実はプレビューカードには君たちが見たこともないちょいとした新しいマナシンボルがお目見えしてるからさ。

 こんな感じのマナシンボルだ(註)。
(註) こんな感じ
 原文ではここに氷雪マナのマナシンボルがデカデカと紹介されている。

 これがなんなのか気になるかい? 大丈夫、すぐに説明するよ。いやはや、君たちに記事をちゃんと読んでもらうためには色々と工夫が必要なのさ。

 ただこれだけは言っておくよ。

 このちょいとしたシンボルはデザインの革命そのものだとね。そう、革命さ。うん。それについてもちゃんと説明するよ。すぐにね。

 だけどその前にまずは慣例通りコールドスナップのデザインチームメンバーを紹介させてくれ。何しろ私は慣例とか伝統とか大好きなんだ。

■ ビル・ローズ(リード・デザイナー)

 ビルと私はウィザーズで働き始めた月が同じだ(トリビア好きの君のために記しておくと、1995年の10月のことだ。この月には元R&Dメンバーのウィリアム・ジョクシュ(註)も入社している)。
(註) William Jockusch
 公式サイトでは「ウィリアム・ジョクシュ」と「ウィリアム・ジョクス」の2つの読みが見られる。また非公式訳の中には「ウィリアム・ヨークシュ」の読みも見られる。

 今やビルはR&D全体の副責任者となり、同期だった私は一介のデザインリーダーというわけだ。つまりビルは私の上司の上司だ。

 どうしてそうなったのか、というと、ビルの選択した道が「おもに管理業務、たまにデザイン」であり、その一方で私の選択した道は「おもにデザイン、たまに管理業務」だったからだ。

 実質的に私の勝ちだ。少なくとも私はそう思っている。

 まあそれは冗談として、正直なところビルは本当にすごい奴だ。ビル以外にR&D全体の副責任者を務められる人材がいるとは思えない(私? いや私はあまりに「赤」な部分が多すぎてとてもリアルな外交手腕を必要とされる仕事には向いていない。会議でつい大声で怒鳴ってしまったりする私ではね)

 彼がその仕事を務め上げてくれているおかげで私はほとんど時間をマジックという世界最高のゲームの制作にかかりっきりになれるわけだ。さらに幸運なことにビルは今でもたまにマジックのデザインに時間を割いてくれている。

 そしてコールドスナップだ。

 ビルはデザインの責任者だ(リードデザイナーと呼ばれる立場だ。ちなみに私が毎日何をしているかというとヘッドデザイナーとして働いている。これはリードデザイナーと対になる立場と考えてくれればいい)。

 ビルは今までにいくつものデザインチームを率いてきている。

 ミラージュ、ビジョンズ、ポータル、インベイジョン、トーメントは全てビルの手がけたセットだ。加えて、ウルザズ・ブロックと神河ブロックではヘッドデザイナーも務めた。(さらに言えば来年の初めに発売されるセット、次元の混乱のリードデザイナーでもある)

 コールドスナップに関する最初の告知ではリードデザイナーの欄には私の名前があったが、あれは単なる間違いだ。コールドスナップではチームの一員として私が働き、ビルがチームを率いた。

 ビルと一緒にデザインチームを組むのはいつだって楽しいし、それにこの前にデザインチームを組んだのは何しろトーメントの頃だからね(ちなみにその前となるとインベイジョンだ)。彼がまたマジックのデザインの仕事に足を突っ込んでくれて嬉しいよ。

 君たちもきっと喜んでくれるだろう。

■ アーロン・フォーサイス

 今までにも、一緒に働いてみたいと思わせてくれる様々なタイプのデザイナーがいた。もちろん相手はそのときどきで違ったけどね。

 ここ数年、そう感じさせてくれたデザイナーがこのアーロンだった。

 私たちが共にチームを組んだのは、フィフスドーン、ラヴニカ、ディセンション、時のらせん、ピーナッツ (仮)、そしてコールドスナップだ(なお、ピーナッツというのは2007年の秋に発売される予定のエキスパンション(註)のコードネームだ)。さらに今後はバター(ピーナッツの続き)とロック(2008年の秋に発売が予定されているセット)で一緒に働く予定だ。
(註) ピーナッツ
 おそらく2007年10月に発売されたローウィンのこと。続くモーニングタイドのデザインチームにも両者の名が見えるので、ローウィンブロック全体を指しているのかもしれない。

(註) バターとロック
 ローウィンの続きというバターが、同じブロックのモーニングタイドを指しているのか、同じ世界観を共有している別ブロックのシャドウムーアを指しているのかは不明。シャドウムーアでは両者はデザインとデベロップメントに所属チームが分かれているのでモーニングタイドかもしれない。なおロックは2008年10月発売のアラーラの断片のことと思われる。

 さらにアーロンが新たにデベロッパーのトップとなったことを合わせて考えれば、私たちがどれだけ膨大な時間を共に働いてきたか分かってもらえると思う(アーロンがデベロップメントのトップになったことを知らない君は先週の記事(註)を読み落としてるね)
(註) 先週の記事
 原文では以下にリンクが張られている。後半部分が人事に関する内容。
 https://magic.wizards.com/en/articles/archive/making-magic/law-and-order-2006-06-19

 ちなみに上記のコラムの前半部分については邦訳がある。
 http://logicwolf.sakura.ne.jp/magic/lawandorder.html

 私がアーロンと一緒に仕事をするのが好きな理由は、彼が本当に、本当にマジでデキる奴だからだ。

 彼の最初のデザインチームとしての仕事はフィフスドーンからだったが、そのときはあくまでデザインという仕事に本当に向いているのかどうかを確かめるための仮採用的な形での参加だった。しかしそれによってアーロンはR&Dに来て欲しいという逆オファーを得て入社することが出来たのだ(言ってみれば当時のアーロンは今でいうスコット・ジョンス(註)と同じような立場だった。当時の公式サイトは今と比べると小規模ではあったが)
(註) スコット・ジョンス
 ウェブのコラムニストからマジックの公式サイトのライターになったマジックプレイヤー。プロツアーベスト8が5回(うち優勝1回)、グランプリベスト8が2回の猛者。

 その3年後、彼はデベロップメントのトップとなった(ご参考までに付け加えておくと、私はデベロップメントのトップになるまで8年かかった)。

 アーロンは「理解する」という点において尋常ではないほど高い能力を持っている。彼に新たな環境をプレイテストをしてもらえば、ほんのわずかな時間でそれを正しい寸法に仕立て直してくれる(私はこれを知っているからこそ、彼が新たなデベロップメントのトップになると聞いても何一つ心配せずにいられるわけだ)。

 彼をコールドスナップの開発に迎えられることは間違いなく僥倖だ。

■ デヴィン・ロー

 よくある言い回しを借りれば、彼は「今まさに上昇気流に乗ってるデザイナー」といったところだが、ただ1つこの呼び方に問題があるとすれば、彼がもうすでにほぼ上昇しきってるということだ。

 デザインのトップには様々な役割があるが、そのうちの2つは、次世代の才能あるデザイナーを育てるということ、同時にそういったデザイナーたちに能力向上のための機会と道具を与えることだ。

 デヴィンはスポンジのように全てを吸収していった。

 ちなみに今の私たちはちょうど未来予知の開発を終えたところだ(来年の春に発売されるエキスパンションだ)。彼はそこでも素晴らしい仕事をしてくれた。君たちも遠からず彼の仕事の成果を目にするはずだ。このセットはデザインに対する挑戦とでも言うべきセットだった。

 彼がコールドスナップで担っている役割がそれ以下ということはない。それどころか、さっき君たちに見せたあの謎のシンボルこそデヴィンの脳髄から生まれたものなのだ。

 今後も彼の名前は私のコラムに多く登場するだろうね。期待してくれ。

■ マーク・ローズウォーター

 おや、なんと私もデザインチーム入りしてたとはね。これは驚きだ。

 ただしコールドスナップではただの平のチームメンバーだ。チームのリーダーはビルが担当していた。私はその近くで彼の思い描くビジョンを具体化してもらうべく一言か二言(もしくは三言か四言かもう少し)のアイデアを出してたくらいだ。

 おっと、私の紹介を終える前に、1つだけどうしても触れておきたい点がある。このコールドスナップのために集まったメンバーのマジックのデザインにかけた経験値のことだ。なんと全員がマジックのデザインに携わってきた年月を足し合わせると四半世紀にもなる。

 おそらくかつて結成されたどのデザインチームもこの記録を抜くことはできないのではないかと思うね(唯一、上回る可能性があるとすればラヴニカのチームか。当時のメンバーは私、マイク・エリオット、アーロン・フォーサイス、タイラー・ビールマン、そしてリチャード・ガーフィールドだ。ただこれは数年前のことなので、今ではその数年分の経験がさらに各メンバーに足されていることになることに注意だ)


雪かき終了

 というわけでチームの紹介は以上だ。デザインチームというものはどれもスター集団だが、今回のはその中でもまさに恒星群だ。

 さて、無事チームを結成できたわけだが、次は?

 うん、デザインそれ自体について語る前に、ちょっと一呼吸おかせてくれ。ここで、そもそもどういう経緯でコールドスナップが生まれたのかを手短に説明しておきたい。

 ここ3年というもの、私たちは1年間に4つ目の単発セットをリリースしていた(第8版、アンヒンジド、そして第9版)。それを念頭においた上で、私たちは2006年のカレンダーを眺めていた。そして自らに問いかけてみた。

 はてさて、今年も4つ目のセットを出すのか、出さないのか? それを決めるため、ランディは4つ目のセットに関して何かいいアイデアがないか皆から募ったんだ。

 私かい? 私が最初に出したアイデアは、アングルードとアンヒンジドに続く3つ目の銀枠セットだった。なぜか銀枠かって? いや、何か新しいセットのアイデアがないかと聞かれたときは、まず「銀枠にしよう」と提案することにしているんだ。本能的なものだね。

 しかし銀枠セットを出す間隔として2年では短すぎるということになった。

 他にアイデアはなかったのか、といえばもちろんあった。

 私はズボンのポケットに紙の切れ端を常備している。マジックに関するいいアイデアが浮かんだとき、それがカードに関するものだろうがメカニズムに関するものだろうが(そしてもちろん)セットに関するものだろうが、とにかく思いついた瞬間にそれを書き留められるようにだ。

 何年ものあいだに、私はいくつもの「単発のセット」用のアイデアを思いついていた。私はブロック単位のデザインが大好きだが、3つのセットで構成されるブロックという単位では表現できないものもある。

 単発の小さなセットでこそ表現できるものもあるはずだとね。

 例えば「失われたセット」だ。

 最近、TVシリーズ「ロザンヌ」について語ってなかったから知らない人もいるかもしれないし、私の前職についてあらためて紹介するのにいいタイミングと思われるので書いておくと、実は私はハリウッドで脚本を書いていたんだ。

 その影響でハリウッドで流行ったネタが大好きなんだ。10年くらい前だったかな。有名なTVドラマシリーズの「幻の未放映回」が発掘されるのが流行った。

 デザインについて考えていたとき、このことを思い出して、「未発売に終わった幻のセットというネタはどうだろう」と閃いたんだ。そして、このアイデアをもう少し深掘りしてみるべく、どんなセットが一番発掘されるのにふさわしいだろう、と考えてみた。

 ものの数分で結論に辿り着いた。

 全てのブロックは3つのセットで構成されている。ただ1つの例外を除いてね。

 アイスエイジだ。

 ……え? ホームランドがアイスエイジの3つ目のセットだろう、って? それはそうだが、あれは単に後付けでそうなったに過ぎないし、明らかに場違いだ。

 時系列的には確かにアイスエイジとアライアンスの2つに挟まれてはいるが、それだけの話だ。ホームランドとこれら2つのセットとのあいだに関連性は全く見られない。メカニズム的にも、背景世界的にも、そもそも基本的なデザインの段階からして関連性はない。

 そんなわけで、もし失われたセットが「発掘される」とすれば、アイスエイジよりふさわしいブロックはない、と断言できる。

 さて、私が当時ランディのオフィスを訪ねたときに時計の針を戻そう。

 単発のエキスパンションセットというアイデアがいくつかあるんだ、とランディに伝えた。そして、その中で面白そうなのはアイスエイジの失われたセットというネタなんだ、と続けた。

 ランディは興味をそそられた様子で「もう少し詳しく話してくれ」と言った。そこで私は古いブロックをネタにしてそこからインスピレーションを得るというアイデアを説明した。過去のセットを最新のデザイン技術で再デザインし直す、というアイデアだ。

 ランディはこのアイデアを気に入った様子だった。

 こうして雪玉は転がり始めたというわけさ。私は気が付いたらそのアイデアをまとめあがるためのチームを結成する担当者にアサインされていた。

 読み進めてもらえば分かるが、これは最初に思っていたよりもずっと難事業だった。


雪の知らせは良き知らせ

 さてそろそろ実際のデザインの話に入ろうか。

 最初の会議は社外で行われた。場所は私の家だ(デザインチームはオフィス以外で会議をするのが好きだったし、そういったときには場所が私の家になることが多かった)。

 そのときうちのリビングで開催された会議に参加していたのはビル、アーロン、デヴィン、そして私だった。確か、そのときの会話はこんな感じだった。

ビル:
 よし。いいか、私たちはアイスエイジとアライアンスを元にメカニズムを構築する必要がある。この2つのセットで使われていたメカニズムがなんだったのかを再確認するところから始めるのが分かりやすそうだな。何があった?

私:
 キャントリップ。

デヴィン:
 今となっちゃ、キャントリップなんてどんなセットにも入ってるよ。キャントリップで独自性を出すのはかなり難しいんじゃないかな。

私:
 当時そのままのスローキャントリップ(註)でいいじゃないか。
(註) スローキャントリップ
 キャントリップとは、主な効果の他に「カードを1枚引く」と付け加えられているカード、もしくはその引く効果自体を指す俗語。アイスエイジの頃は「次のターンのアップキープの開始時に、カードを1枚引く」で、のちにすぐカードを引ける効果が主流となってからは、アイスエイジ時代の遅れて引ける効果は「スローキャントリップ」と呼ばれるようになった。

アーロン:
 それはそれは、さぞかし売れ行きに貢献してくれるだろうね。カードを手に入れるまで丸々1ターン待たないといけなかった時代の再来だ。

ビル:
 他には?

私:
 累加アップキープ(註)

アーロン:
 累加アップキープの可能性ならウェザーライトでやり尽くした気がするけど。
(註) 累加アップキープ
 原語は Cumulative Upkeep で、毎ターン維持のために支払わないといけないコストが増えていく(維持するのが毎ターン大変になっていく)アップキープコスト。
 初出はアイスエイジで、これが最初からついてるカードはあまりに維持が大変過ぎてほぼ使われなかった。覚えてる限りまともに使われたのはアライアンスの《Dystopia》くらいか。
 アイスエイジブロックは日本語版が存在せず、しばらくあいだ Cumulative Upkeep は雑誌やプレイヤーのあいだで仮訳として「累積アップキープ」と呼ばれていた。

ビル:
 他には?

私:
 追加コスト的なテーマもあったような。

ビル:
 他には?

私:
 友好色テーマは?

デヴィン:
 ついこないだまでどこにいたと思う? ラヴニカだよ。友好色に関しちゃアイスエイジの頃よりずっと上手くやれたと思うよ。

私:ピッチカード(註)は?
(註) ピッチカード
 マナコストを支払うかわりに特定色の手札を捨てることで唱えることのできる呪文の俗称。マナコストなしで唱える手段がある呪文の総称としても使われることがある。

アーロン:
 メルカディアン・マスクスと神河謀反でピッチ呪文やったよね。

ビル:
 他には?

私:
 雪かぶり土地。

デヴィン:
 あれ、全然ダメじゃなかったっけ。

私:
 そこがポイントさ。今度こそ上手くやれる。

ビル:
 で、他には?

私:
 他? 他はないよ。雪かぶり土地だ、上手くいくさ。アイスエイジの頃と違ったアプローチで行く必要はあるだろうけど、きっとその先に何か可能性が眠ってるはずさ。他に選択肢はあるかい? アイスエイジのために、何かはしなくちゃいけないんだ。


 と、こうして雪かぶり土地の可能性を模索する旅が始まったわけさ。

 これ以外に君たちの興味を引きそうなネタとしては、アイスエイジとアライアンスで登場した固有名詞を再登場させたことなどだろうか(さすがに全部というわけにはいかなかったが)。

 しかし残念ながら今日のコラムは「雪」に関することなので、そこから外れるネタは無しにしよう。メカニズムに関してもまたあらためて別の機会に語らせてくれ(このコラムではこれまでも毎週デザインについて書いてきたんだ。ルールは守ろう)

 おっと、デザインの話に戻る前に、今日のコラムを読みやすいものにするために1つだけルールを決めさせてくれ。コールドスナップのデザインを始めた初期の段階で、私たちはある問題に気づいたんだ。

 「雪かぶり(Snow-Covered)」という名称だ。

 第一に、この名称のせいで「雪かぶり(Snow-Covered)」に関連する何か(例えばイラストなど)だけは実際に雪に覆われている必要があった。冬の時代を舞台にしたセットにおいてこの制約はかなり厳しいものだ。

 つまりイラストレーターに指示を出すときに「雪かぶり(Snow-Covered)」という性質(Quality)を持つカードについては「あー、このカードのイラストには雪を降らせないでくれ」といちいち言及しないといけない、ってことだ。

 第二に、「雪かぶり(Snow-Covered)」と名称はカッコ悪いし、そもそも物理的に長い。長いことによる弊害はたとえばタイプ行だ。タイプ行の長さは限られており、他の加えたいタイプ名が加えられなくなる可能性がある(忘れないで欲しいのは「雪かぶり(Snow-Covered)」の土地は必ず基本土地タイプも書き記す必要がある、ということだ)

 これらの問題もあり、私たちは「雪かぶり(Snow-Covered)」という名称を「氷雪(Snow)」に置き換えることにした。雪や冷気に関連したカードというフレイバーを表す特殊タイプだ。そんなわけで、このコラムでは今後「雪かぶり(Snow-Covered)」を単に「氷雪(Snow)」と呼ばせてもらう。

 それでは本題に戻ろう。

 私たちはまず過去の氷雪に言及しているカードを全て洗い出した。

 予想どおり、大半はゴミだった……っと、さすがにちょっと言い過ぎかもしれないな。大半は「構築で」ゴミだった。何枚かはリミテッドでなら使いものになったからね。

 その確認が終わったあと、ビルが私たちに、この氷雪というメカニズムが持ちうる可能性について考えるよう指示した。

 アーロンは、氷雪っぽさを表す余地がまだあるのではないか、と考えた。私は、なぜ氷雪というタイプが土地に縛られる必要があるのか、と考えた。デヴィンは、何かこれまでとは異なる形で氷雪土地を生かす方法はないか、と考えた。何しろ氷雪土地はマナを生み出せるんだ。そうだろう?

 アーロンの疑問について皆で考えたことで気づけたのは、アイスエイジの氷雪に関連するカードは多様性に欠けているということだった。氷雪関連のカードを生かそうと思えば、デッキの土地を全て氷雪土地にする以外の選択肢がなかった。1か0かの両極端だったんだ。

 毎回同じ使い道しかないようなカードではなく、プレイヤーごとに違う使い道をしたくなるような氷雪カードは作れないだろうか。

 パックから出てくる氷雪土地の枚数を限られたものにすることでドラフト時に回すかどうか迷うようなカードにできないだろうか(余談。このセットはドラフトを意識した非常に興味深いデザインが施されている。それについては今日ではなくまたいつか触れることにするよ)。

 そしてここで私の提示した疑問だ。

 氷雪という特殊タイプを土地に限定する理由があるのか?

 氷雪クリーチャーがいたっておかしくないし、氷雪系の呪文というフレイバーを考えれば、エンチャントだって簡単に氷雪になり得る。ここまで考えたなら、当然アーティファクトを仲間外れにする理由はない。

 氷雪という特殊タイプを他のパーマネントに押し広げるさらなるメリットとして、氷雪を用いるデザインの可能性も同時に押し広げられるということがある。

 そう、デヴィンの挙げた可能性だ。氷雪土地が単にそれが氷雪土地であるという以外にそのタイプを生かす方法はないだろうか?

 デヴィンは、氷雪土地の生み出すマナはどんなマナなのか、ということについて考えていた。もし特殊タイプの性質(Quality)がパーマネントから生み出されるマナに影響を与えるとしたら?

 氷雪土地が……そう、たとえば氷雪マナを生み出したら?

 このアイデアは革命的だと私は思った。そう感じた理由は以下の通りだ。

 氷雪マナは、マナの色を変えるわけじゃない。氷雪土地の《山/Mountain》をタップして生み出したマナは氷雪マナだが、それは同時に赤マナでもある。氷雪という性質(Quality)は色に影響しない。別のレイヤーなのだ。

 このコンセプトを初めて聞いたときは頭が爆発するかと思ったよ。何しろ私たちは何年ものあいだ、6色目のマナの可能性について議論していた。だがデヴィンのアイデアはその遥か斜め上をいくものだったんだ。新たな色を作るのではなく、どんな色とも競合せず同時に存在しうる新たな性質(Quality)だ。

 確かに、似たようなアイデアであれば過去に試したことはあった。

 私たちは、特定の用途にしか使えないマナを生み出すカードを作ったことがある(有名どころでは《Mishra’s Workshop》だ)。

 私たちは、そこから生み出されたマナを用いて唱えた呪文に特別な効果を付与するカードを作ったことがある(この例としては《すべてを護るもの、母聖樹/Boseiju, Who Shelters All》が挙げられる)。

 それに留まらず、私たちは特殊な性質を持つマナを生み出すカードを作ったこともある(例えば《夏の母、さき子/Sakiko, Mother of Summer》だ)
(註) 過去に試した似たようなアイデア
 《Mishra’s Workshop》から生み出されたマナはアーティファクト呪文にしか使えない。《すべてを護るもの、母聖樹/Boseiju, Who Shelters All》から生み出されたマナで唱えたインスタント呪文もしくはソーサリー呪文は呪文や能力によって打ち消されない。《夏の母、さき子/Sakiko, Mother of Summer》から生み出されたマナはステップやフェイズをまたいでも消滅しない。

 だがマナに新たな性質(Quality)を与えるというアイデアはこれまでとは全く違う新鮮なもので、私はそこに非常に深く豊かな未開のデザインの余地を見たのだ。

 パーマネントに新たな性質(Quality)を付与する特殊タイプを見るのはこれが最初で最後ではないだろう。むしろこれが始まりだ(註)
(註) これが最初で最後ではない
 色にまったく影響しない別のレイヤーの性質を持ったマナとしてはその後「無色マナ」が登場している。
 過去にはパーマネントなどから生み出された無色マナは有色マナの下位互換だったが、ゲートウォッチの誓い以降、無色マナでしか支払えない◇というコストが新たに登場した。

 さらに、氷雪マナのもたらした恩恵の1つが、アーロンの問題も解決してくれた。氷雪マナを起動コストに要するカードを作ったしよう。それは君のデッキに氷雪の土地を必要とする。しかし決して全ての土地が氷雪でなければいけないわけではないのだ。

 ここまで説明したことでようやく今日のプレビューカードを紹介できる。見ていただければ分かると思うが、次に紹介するカードは氷雪土地がないからといって全くの無駄カードにはならない。ただ氷雪マナを用意できれば遥かに有用なカードとなる。

 紳士淑女(と言いつつ市場調査を信じるならほとんどは紳士の方々だろうが私は淑女である読者の皆様から頂く感想も楽しみにしているしそれを頂くことで淑女の読者がいらっしゃるということを知ることそれ自体も楽しみにしている)の皆さん、今日のプレビューカードをご覧あれ(なお私のコラムだけでなくレイの記事でも別のプレビューカードが紹介されてるのでそっちもぜひチェックして欲しい)
(余談)
 原文ではここにコールドスナップの新カードである《忍び寄るイエティ/Stalking Yeti》のカード画像が表示されている。ちなみに以下のようなカード。

 Stalking Yeti / 忍び寄るイエティ (2)(赤)(赤)
 氷雪クリーチャー - イエティ(Yeti)
 忍び寄るイエティが戦場に出たとき、それが戦場に出ている場合、対戦相手1人がコントロールするクリーチャー1体を対象とし、忍び寄るイエティはそれにこれのパワーに等しい点数のダメージを与え、そのクリーチャーはそのパワーに等しい点数のダメージを忍び寄るイエティに与える。
(2)(氷):忍び寄るイエティをオーナーの手札に戻す。この能力は、あなたがソーサリーを唱えられるときにのみ起動できる。((氷)は氷雪パーマネントからのマナ1点で支払うことができる。)
 3/3
 引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Stalking+Yeti/

 イエティだ! どうやら道に迷わず氷河期に戻ってこれたようだね! 忘れないで欲しいのは、この氷雪マナの支払いは氷雪土地に限らず氷雪パーマネントから生み出されたマナであれば何でもいいってことだ(おっと、その通り。遠まわしなヒントに終わらせるつもりはないよ。土地以外にもマナを生み出せる氷雪パーマネントも今後登場するということさ)。


 さて今日はこれで全部だ。

 コールドスナップのデザインについてはまだまだ語りたいことはある。だがそれはまたいつか別の機会に語らせてもらおう。ちなみにいつかというのは来週を含むよ。

 それまでのあいだ、ぜひ雪と戯れていてくれ。
 翻訳記事の前の余談。
 アクローマというクリーチャーがいる。背景ストーリーでも重要な役割を担った天使で、トリプルシンボルの8マナに6/6というイマイチな能力値に対してテキスト欄は「飛行、先制攻撃、警戒、トランプル、速攻、プロテクション (黒)・(赤)」という目を疑うような豪華さ。
 2003年に発売されたセット「レギオン」で初登場し、その後の2006年に発売された「時のらせん」で「次元が混乱したせいで過去や未来や並行世界のカードが登場する」という設定のタイムシフトカードの1枚としてで再登場した。

【翻訳】アクローマ誕生秘話/Angels Among Us【DailyMTG】
Mark Rosewater
2006年06月12日
元記事:http://magic.wizards.com/en/articles/archive/making-magic/angels-among-us-2006-06-12-0

 アクローマ週間へようこそ!

 以前、私たちは64体のレジェンドクリーチャーの最高峰は誰かを決めるコンテストを開催し、そこで優勝したのがこの皆に愛されてやまない《怒りの天使アクローマ/Akroma, Angel of Wrath》だった。

 このコンテスト優勝という結果を私たちは様々な形で祝うことにした。その1つが、公式サイトで週のテーマとして取り上げること、というわけだ。

 アクローマについてもっと知りたい君、チャンネルはそのままで。

 言うまでもないが、今週はアクローマについて語る予定だ。そもそも私のポリシーとして、コラムの内容はテーマから外れないにするということがある(え? 脱線しまくってたこともあったじゃないか、って? あー、うん、そうかもしれない。でもあれは銀枠の話だったし)

 ご存じのとおり、私のコラムはデザインに関するコラムだ。

 だから今日のコラムがアクローマのデザインに関する内容になるであろうことは天才ロケット科学者じゃなくても予想可能だったろうね(余談:今年の初めごろにハスブロ社のメンバーと電話会議をする機会があって、ハスブロの社長が「ウィザーズの開発部はロケットでも作れそうな天才ばかりだね」と言ってたが、そんなことはない。ロケットを作れる可能性があるのはヘンリー・スターンくらいだ)

 毎週の私のコラムでは、過去のカードがデザインされる過程で私がどのような役割を担っていたかを紹介している。安心してくれ、このアクローマの誕生にも私はしっかりと関わっていた。映画化するなら私の役を担当する俳優が必要になるだろうね。映画のタイトルはさしずめ「神の怒り」ならぬ「怒りの神」といったところか。

 俳優は有名どころが必要になるだろう。なにしろアクローマ誕生に際して私はかなり重要な役割を担っていた。そう、アクローマの誕生を阻止するべく開発部に昂然と立ち向かったんだからね。


エンゼルス、不動のセンター

 そう、アクローマの誕生を阻止しようとした人物だったのさ。いいや、言い間違いじゃないよ。聞こえた通りさ。私はアクローマが嫌いだった。プレイヤーたちもこのカードを好きにはならないだろうと考え、世に出る前に抹殺すべく動いたのさ。

 ただ実際はそう簡単な話じゃないし、コラム1本を丸々この話に使っていいんだからきちんと詳細を語ってみようと思う。

 とは言ったものの、この物語をどう伝えたものか、正直なところかなり悩んだ。そして、まずは情報収集をしよう、ということで私は Multiverse でアクローマについて検索したんだ。

 Multiverseを知らない君のために説明しておくと、これは私たちがマジック(やそれ以外のトレーディングカードゲーム)の開発のために用いているデータベースの名称だ。このデータベースにはカードごとに「エキスパンション」「カード名」「マナコスト」などなど多くの項目が設定されている。

 そしてその項目の中の1つに「デベロッパーのコメント(原文:dev comments)」がある。ここには新たなカードたちについてデベロッパーやデザイナーが開発中に残したコメントやメモが保存されている。

 もし特定のカードが開発中にどのような経緯を辿って世に出たのかを知りたくなったならば、まず調べるべきはここだ。

 さて、あらためてこのコメント欄をチェックして、当時の私がアクローマ抹殺を目論んだ側に属していたことを再確認できた。それにとどまらず、このコメント欄を発見したことでこれ以上の情報収集は不要である、という結論にも達した。

 何しろこのコメント欄は、私の脳内にある記憶を掘り起こして得られるであろうどんな情報よりも当時の状況を説明してくれていたからだ。

 そのようなわけで、今回のアクローマのデザインについては、そのままデータベースのコメント欄の情報をそのままお送りすることにしよう。

 さて今日のコラムの流れだが、まず最初に関係者の名誉のためにもデータベースに残されたコメントを無編集かつ無修正のまま、お見せする。

 その後、あらためて私の感想や意見を(よくある映画のDVD特典のオーディオコメンタリーよろしく)コメントのあいだに挿入した状態でお見せしよう。

 コメントを披露する前に、発言者が誰なのかを説明させてくれ。

 データベースにコメントを書き込む際には、あとでそれが誰の発言だったのかが追えるように必ず発言者のイニシャルをコメントに付記するというルールがあった。これはあくまで履歴管理のためのルールだったが、そのおかげで当時をより生き生きと垣間見ることができるわけだ。

【MR】
 このイニシャルは私、マーク・ローズウォーターだ。当時の私はただのデザイナーで、実を言えばレギオンのデザインチームにも属していなかった。

 まあ、いつものように横槍を入れる感じで多少の貢献はしていたつもりだけどね(例えば、レギオンの新キーワードである「挑発/Provoke」やレギオンの伝説のクリーチャーである《触れられざる者フェイジ/Phage the Untouchable》などは私の仕事の成果だ)

 え、レギオンが何か知らない? おっと、最近マジックを始めたプレイヤーには説明が必要かもしれないね(註)。アクローマが初めて登場したセットの名前がレギオンなんだよ。
(註) 最近マジックを始めたプレイヤー
 この記事が書かれたのは2006年なのに対してレギオンの発売は2003年。ちなみにレギオンはオンスロートブロックの2つ目のセット(オンスロート、レギオン、スカージ)。収録された全てのカードがクリーチャーカードというとんでもないセットだった。

【Bill】
 これは現在のR&Dの副責任者であるビル・ローズだ。当時の彼は、現在で言うデザイナーのトップと開発部のトップを兼任しているような役割だった。

 レギオンのデザイナーチームと開発チームのいずれにも名を連ねてはいなかったが、まったく関わり合いがなかったというわけではない。彼ほどに広い視野を持った男であれば当然の話だ。

【ME】
 このイニシャルは、マイク・エリオットだ。直前のオンスロートに引き続き、レギオンでもリードデザイナーを担当した。

【RB】
 このイニシャルは、ランディ・ビューラーだ。当時の彼はただのデベロッパーだった。レギオンのデベロップチームにも属してはいなかったが、私がデザイン面で関わっていたように、彼もまた外野からデベロップメントに貢献していた。

【HS】
 ヘンリー・スターンだ。その通り、このコラムの最初で私が名指ししたロケット学者だ(彼はウィザーズに来る前は航空宇宙工学の分野で人工衛星をデザインする仕事をしていた)。

 ランディと同じく、デベロップチームに属していなかったにも関わらず当時もっとも経験あふれるデベロッパーの1人として様々な形でデベロップメントに貢献していた。

 ……ああ、そろそろバレてしまったかな。その通り。R&Dの連中はどいつもこいつも、チームに属していようがいまいが興味を持ったことには積極的に首を突っ込んでくる連中なんだよ。

【WJ】
 これはウィリアム・ジョクスのイニシャルだ。レギオンのリード・デベロッパーだ。

【Rei】
 レイ・ナカサワだ。当時のレイはクリエイティブ・チーム所属だった。

【BB】
 ブランドン・ボッツィだ。ブランドンは今も昔もクリエイティブ・チーム所属だが、当時はほぼ全ての時間をマジックに費やしていた(今では非常に多岐にわたる商品の開発に関わっている。もちろんマジックを含めてだ)

【PT】
 さてこのイニシャルはなかなか難敵だった。このイニシャルを持つコメント群を初めて見たときは正直なところかなり面食らった。このコラムの第一稿を書き上げるに当たって、相当な時間をこの「PT」が誰なのかを突き止めるために費やしたほどだよ。

 Pで始まる名前……ポール? ピーター? ペネローペ? プルーデンス? 結局は自力で解くのは諦めて、職場の皆の知恵を拝借しに行く羽目になった。

 ヘンリーにも分からなかったし、ビルもまたお手上げだった。

 しかしマジックのリード・エディターであるデルが、この「PT」の残したコメント群に特定の傾向があることに気づいたんだ。彼女曰く「プレイテストに参加した人たちのコメントを引用してることが多いみたい」とね。

 そこでようやく閃いたんだ。「PT」すなわち「Play Tester」の略だってことをね。

 あとで分かったことだが、プレイテストに参加したメンバーのコメントのうち残すに値すると思ったものをウィリアム・ジョクスがこの「コメント欄」にコツコツと入力しておいたらしい。


 というわけでようやく参加者が誰なのか分かったところで、実際に残されていたコメントをお見せしよう。覚えてるかな。まずは私の感想抜きで素のままの当時のコメントを披露する、と言ったことを?

 そんなわけで、以下のコメントは無編集かつ無修正だ。

 アクローマの項目に残されていたコメントをご覧あれ。


 --- --- アクローマの項目:コメント引用ここから --- --- 

MR (2002/02/14)
 その環境の象徴となるカードはクールかつ強いカードであるべきだ。このカードは確かに強いがクールじゃない。

Bill
 その意見にはまったく同意できない。このカードはジョニー向きじゃない。ティミー向きだ

ME
 プロテクション赤を忘れてるよ

RB (2002/02/15)
 クールだと思うけどなあ。
 プロテクション黒があるのに赤がない理由だけは良く分からないけど

HS
 速攻とトランプルを無くしてプロテクション赤を足したほうが好みかな

WJ (2002/02/21)
 速攻とトランプルを削除
 理由は能力が渋滞気味だったこととティミー向けにインフレし過ぎてたため

Bill
 そもそもこのカードのアイデアは全てのキーワードを持ったクリーチャーを出そう、だったはずだ。ティミーは全キーワード持ちのほうが好みだと思う。

Bill
 マークは「アクローマが死亡したとき、それをオーナーのコントロール下で戦場に戻す」の能力を付けたいと言っている。正直、私は元のアクローマと、この能力持ちと、どっちがいいかで迷ってる。いっそ両方? それはないか

Bill
 このカードの最大の売りは「全てのキーワード能力持ち」だ。
 今のままじゃ全然ダメだ。トランプル、速攻、プロテクション(赤) が必要

WJ (2002/03/11)
 いつから俺らが足を引っ張る側に回ってるって気づいた?

Rei
 全キーワード能力? マジかよ、最悪だな。
 フェイジングはいらないだろ!?

ME (2002/03/12)
 ランページ1をランページ6に直した。
 おそらくただの見落としだろう。弱すぎるカードに存在価値はない

Bill
 直しといたぞ。「飛行、先制攻撃、プロテクション (黒)、プロテクション (赤)、トランプル、~は攻撃に参加してもタップされない、速攻、増幅4、変異 (4)(白)(白)、サイクリング (2)、畏怖、ランページ6、生息条件 (島)、側面攻撃、シャドー、フェイジング、氷雪森渡り、他の天使とのバンド」

BB (2002/04/05)
 前に《復讐する天使/Avenging Angel》っぽい能力を持たせようっていう相談をしたかと思うけど覚えてるかな。クリエイティブチームとしてはまだこのアイデアを諦めてないんだが。

PT (2002/04/08)
 まだ「常識の範囲内」

RB (2002/04/29)
 もう十分だと思う

MR (2002/05/09)
 個人的にこの手のカードは初見時のインパクトしかない。
 何が言いたいかというと、本当の意味で印象的なカードにはならないと思うし、フレイバーにも欠けてる気がする。具体的に「よしこのカードがあればアレが出来る、コレが出来る」という形では話題にならないだろうね。
 念のため。別に「全部盛り(Kitchen Sink)」が嫌だと言ってるんじゃあない。ただそれをこのブロックの悪役でやるのはどうかな、って話だ。

RB (2002/05/13)
 フェイジが十分にアクローマ並みの悪役っぷりを発揮してる。
 アクローマは「全部盛り」にふさわしいと思うけどね。

 --- --- アクローマの項目:コメント引用ここまで --- --- 



 ふむふむ。ここで私はアクローマが「クールでなく」「印象的でなく」さらには「フレイバーに欠ける」とまでも言っているね。いいぞいいぞ、マーク・ローズウォーター、その調子だ。

 さて、ここであらためて今までの会話を私のコメント付きで、DVD特典のオーディオコメンタリー風に振り返ってみよう。


アクション・フィギュア

 マジックの長い歴史の中で、何度か「マジックに登場するキャラのアクションフィギュアを作ってみるというのはどうだろう」という案が挙がっている。

 オンスロートブロックのときにもあった。特にアクローマはアクションフィギュア向きと思われた(ただ皮肉なことに女性キャラは商業的な意味ではアクションフィギュアに不向きとされている。過去の実績を見ると女性キャラのアクションフィギュアは非常に売れ行きが悪い。そのため最初からコレクター向きに販売数を絞った「Shortpack」という形でのみ発売されることが多い)

 デベロッパーコメント欄への書き込みはその冒頭に識別しやすいよう単語を放り込むことが多い。これによってコメントが特定のネタ(メカニック、テーマ、もしくは対象がアクションフィギュアに向いているかどうか)などがあとから拾いやすくなる。

 ちなみにアクションフィギュアは作られていない。(註)
(註) アクションフィギュア
 ここで挙げられているのはただのフィギュアではなく、より狭義の意味でのアクションフィギュアに限った話(フィギュアという意味では2003年から継続的に作られている)。
 またこの記事が書かれた2006年以降、その後の2008年頃からは継続的にアクションフィギュアも作られている。ただ基本的にガラクやアジャニなどのプレインズウォーカーが対象で、アクローマのアクションフィギュアは2018年の現在まだ作られていない。


 --- --- アクローマの項目:コメント引用ここから --- --- 

MR (2002/02/14)
 その環境の象徴となるカードはクールかつ強いカードであるべきだ。このカードは確かに強いがクールじゃない。


 このコメントを見て、当時の私の気が狂ってたと思うかもしれない。ちょっと説明させてくれ。

 レギオンにはセットを象徴する伝説のクリーチャーが2体いた。アクローマとフェイジだ。オンスロートブロックという物語を代表する2人の悪役(Villain)たちだ。

 レギオンの物語のラストでは、この2人がぶつかり合い、最後に合体してカローナとなる。その通り、あの《邪神カローナ/Karona, False God》だよ。

(余談:このカローナのカード化についてはオフィシャルな立場として謝罪したい。このカードのデザインはマジでひどい。私はこのカードに一切関わっておらず、いまだに許せない思いでいる側だ。ウィザーズは2つの素晴らしい伝説のクリーチャーを混ぜ合わせて、〇〇の役にも立たない△△(公式サイトでは使えない言葉)を生み出したわけだ。私たちが伝説のクリーチャーのデザインに関してやらかしたのはこれが初めてではないが、ヘマの中でもトップクラスなのは間違いない。心よりお詫び申し上げる)(註)
(註) 《邪神カローナ/Karona, False God》
 6マナ 5/5 の速攻を持つ伝説のクリーチャーで「各プレイヤーのアップキープの開始時に、そのプレイヤーは邪神カローナをアンタップし、そのコントロールを得る。 邪神カローナが攻撃するたび、あなたが選んだクリーチャー・タイプのクリーチャーは、ターン終了時まで+3/+3の修整を受ける」という能力を持つ。

 まあ、カローナはさておき、この2人についてはセットを代表する素晴らしいカードにしたいと思っていた。その中で、フェイジのデザインはかなり早い段階で固まり始めていた。

 このキャラクターは触れるだけで生あるものに死を与える能力を持っている。そして私は前から戦闘ダメージを与えることで対象の対戦相手を殺してしまうクリーチャーを作りたいと願っていた(もちろんそれによってゲームに勝利する)

 フェイジはまさに完璧だった。バジリスク能力持ちに更なる能力を与えたことでフェイジのフレイバーを完璧に再現しつつ、まったく新しい何かを生み出せた。

 そのため私の中でアクローマのデザインのハードルはかなり高まっていた(フェイジは今なお私がデザインしたカードの中でトップ10に入っている……ああ、安心してくれ、もちろん、私の個人的なトップ10についてのコラムもいつか書くさ)

 勘違いしないで欲しいのは、私は決して、アクローマが誰の注意も引けないような目立たないデザインになってしまうのではないか、と心配していたわけではない。私の心配は、とても重要なカードであるにも関わらず平凡なデザインにされてしまうことだった。

 平凡なカードとは何か? 例えば「たくさんのキーワードを持つクリーチャー」だ。デザインとしては非常に簡単だ(コメントを読むと、当時の私はこれを「全部盛り(Kitchen Sink)」と表現している)

 このデザインには技がない。デザイナーとして、このカードには何一つインスピレーションを感じなかったんだ(おっと、念のため。今日のこのコラムの最後では私がこの件(アクローマのデザイン)から学んだ重要な教訓をまとめている)

 そういった様々な理由から私はアクローマが「クールでない」と主張したわけだ。フェイジが私の中であまりに最高だったので、それと対になるカード(アクローマ)には同じくらい優れたデザインであって欲しかったのだ。

Bill
 その意見にはまったく同意できない。このカードはジョニー向きじゃない。ティミー向きだ


 ビルは私のコメントを少々誤解したようだ。私は「デザイナーとして見てつまらない」という話をしたかったのだがビルは私がR&Dでも特にジョニー寄りであることを知っていたため、私のコメントを見て「ジョニーを代表して言わせてもらう、これはつまらない」ととったのだろう。

 要はここでビルが言おうとしていることは「私(=ビル)はクールだと思うよ」ということだ(ちなみにビルはティミー/スパイク寄りのプレイヤーだ)。
(註) ジョニー、ティミー
 マジックのプレイヤーの嗜好をざっくり3通りに分ける考え方がある。「Timmy/ティミー」は勝敗という結果よりもゲーム内容の楽しさを重視し、デカいクリーチャーやド派手な呪文を好むプレイヤーを指す。「Johnny/ジョニー」は個性を重視し、独自のコンボやオリジナリティにあふれるデッキ構築を好むプレイヤーを指す。「Spike/スパイク」は勝敗を重視し、純粋に強いカードを好み、勝利という結果を追い求めるプレイヤーを指す。


ME
 プロテクション赤を忘れてるよ


 最初、アクローマは「プロテクション (黒)」しか持っていなかった。当時の私たちはアクローマとフェイジが対峙していることをカードで表現しようとした。そのためアクローマは「黒に対抗するカード」と考えられていた。

 マイクのコメントはもっとキーワードを足すにはどうしたらよいか、という考えの元に出されたものだ。フレイバーにこだわる私と違い、この時点でマイクはよりコンセプトを重視している。

RB (2002/02/15)
 クールだと思うけどなあ。
 プロテクション黒があるのに赤がないのは良く分からないけど


 ここでは「プロテクション (赤) が欠けているのはおかしい」というマイクのコメントにランディが賛同している。

 個人的にランディのこのコメントは非常に興味深い。なぜならこのコメント欄に残された会話の中で、マイクとランディの意見が一致していたのはほぼこれだけだったからだ。

HS
 速攻とトランプルを無くしてプロテクション赤を足したほうが好みかな


 ヘンリーがここで挙げている点は、カードのデザイン中に何度も何度も議論の対象となった点だ。その通り、速攻とトランプルは「白」の能力ではない。

 ではなぜ最終的には加えられたのか?

 簡単に言えば「多少の例外は許されるから」だ。

 もっとも私たちはその例外をよほど特別なカードで限りは認めないことにしている。つまり論点は「例外が認められるほどにアクローマが特別なカードかどうか」ということになる。

 そしてこの判断が正しかったことは時間が証明してくれたと考えて良いだろう(まあ人によっては「正しくなかった」と言うかもしれない。注目を集めるタイプのカードほど誤った先例を持つべきではない、と考える人もいるかもしれないからね)

WJ (2002/02/21)
 速攻とトランプルを削除
 理由は能力が渋滞気味だったこととティミー向けにインフレし過ぎてたため


 お気づきのとおり、上記のコメントの時点では速攻とトランプルを取り除きたい派が戦術的勝利を収めている。しかし結果を知ってる君たちには分かるだろうが、これは戦略的勝利ではない。

Bill
 そもそもこのカードのアイデアは全てのキーワードを持ったクリーチャーを出そう、だったはずだ。ティミーは全キーワード持ちのほうが好みだと思う。


 はてさて、結局のところ色のフレイバー的に外れてしまうキーワードはどうなったのか? ありがたいことに上に立つ者が皆を代表して発言してくれている。

Bill
 マークは「アクローマが死亡したとき、それをオーナーのコントロール下で戦場に戻す」の能力を付けたいと言っている。正直、私は元のアクローマと、この能力持ちと、どっちがいいかで迷ってる。いっそ両方? それはないか


 さあ、私が何を企んでいたのかがようやく明らかになった。ただ能力をたくさん乗せただけのバージョンが気に入らなかった私は、よりフレイバーにあふれストーリーラインにも沿っている唯一無二な能力(だと私が思った能力)をデザインしたんだ。

 物語では、フェイジは触れたもの全てに死をもたらした。しかしアクローマだけは死ななかった(彼女は概念上の存在だったからね。いや本当にそうなんだ。イクシドールが夢見た存在こそが彼女だったんだから)

 私のデザインの目指すところは、決して殺されることのないクリーチャーだった(のちに私は「破壊されない」という能力を生み出すがそれはまた別の話だ)。「デスタッチウーマン VS イモータルウーマン」の対戦カードは間違いなく「イケる」と思ったんだ。

 それに、この「決して死ねない」というバージョンのほうがよりフェイジのデザインと対比になっていると感じられた。フレイバーにあふれ、過去に存在したことのない能力という意味でね。

 過去のコメントからも、私が個人的に気に入っていたこのバージョンを通そうという意志の元に戦っていることが伝わってくる……まあ、またあとで述べるが、このときの経験から私はいくつもの教訓を得た。

Bill
 このカードの最大の売りは「全てのキーワード能力持ち」だ。
 今のままじゃ全然ダメだ。トランプル、速攻、プロテクション(赤) が必要


 ビルのこのコメントはなかなか良い点をついている。その通り。やるかやらないかの2択だ。全能力を持たせたクリーチャーを作りたいなら、全能力を持たせるしかないのだ。少しでも日和った瞬間にそれはつまらなくなる。

WJ (2002/03/11)
 いつから俺らが足を引っ張る側に回ってるって気づいた?


 正直なところ、このコメントが何を言いたいのかよく分かっていない。

 開発チームとしては、どうせ最後にはビルが自分の意見を押し通してしまうんだろう、と諦めた上で、ただ困らせるためだけに変更したいと言っていた可能性はある。まあ、それはそれとして部署内に速攻とトランプルもたせたくないと思ってた一派がいたことは事実だ。

Rei
 全キーワード能力? マジかよ、最悪だな。
 フェイジングはいらないだろ!?


 見ての通り、明らかにネタに走り始めている。

 ああ、大丈夫だよ、この時点の最新アクローマが一体どんな状態だったかはすぐあとに出てくる。簡単に言えば「現存するあらゆるキーワード能力持ち」にされてた。レイのコメントはそれをネタにしたものだ。

ME (2002/03/12)
 ランページ1をランページ6に直した。
 おそらくただの見落としだろう。弱すぎるカードに存在価値はない


 この開発者コメント用の掲示板は、確かに重要な決め事が多くなされる場所でもあるが、同時に開発者たちが色々とやらかす空間でもある。この頃は各メンバーがアクローマを「最強」にするためにキーワード能力を好き勝手に次々と足していた。

Bill
 直しといたぞ。
「飛行、先制攻撃、プロテクション (黒)、プロテクション (赤)、トランプル、~は攻撃に参加してもタップされない、速攻、増幅4、変異 (4)(白)(白)、サイクリング (2)、畏怖、ランページ6、生息条件 (島)、側面攻撃、シャドー、フェイジング、氷雪森渡り、他の天使とのバンド」


 ビルがここで一度アクローマを能力が減らされる前のバージョンに直している。速攻とトランプルの能力が復活しているのが分かるだろう。上記こそがまさに全能力持ちのバージョンだ。

BB (2002/04/05)
 前に《復讐する天使/Avenging Angel》っぽい能力を持たせようっていう相談をしたかと思うけど覚えてるかな。クリエイティブチームとしてはまだこのアイデアを諦めてないんだが。


 アクローマをストーリーと同じ不死身の存在とすべく、クリエイティブチームを代表してブランドンが発言してくれている。私の案を支持してくれたのはクリエイティブチームだけだった。

(そうそう、このコメントにはスペルミスがある。「discussed(相談をした)」が「dicussed」になってしまっている。ほら、約束しただろう? データベースに残された会話を「無編集かつ無修正のままお見せする」ってね)

PT (2002/04/08)
 まだ「常識の範囲内」


 コラムの頭で述べたとおり、ウィリアムはプレイテストのメンバーからの意見のうちから有用だと彼が感じたものをデータベースに残すようにしていた。それがこの「PT」で始まるコメントだ。

 ただ、ここに残されたこのコメントだけでは、プレイテストのメンバーがアクローマをもっと常識外の強さにすべきだと言いたかったのか、単にこのカードのとんでもなさを表現しただけなのかは測りかねるところだ。

RB (2002/04/29)
 もう十分だと思う


 もしこれらのコメントを見て私が最大の反対派だったように見えるというなら、ビルとランディが最大の擁護派だったということになるだろうね。

MR (2002/05/09)
 個人的にこの手のカードは初見時のインパクトしかない。
 何が言いたいかというと、本当の意味で印象的なカードにはならないと思うし、フレイバーにも欠けてる気がする。具体的に「よしこのカードがあればアレが出来る、コレが出来る」という形では話題にならないだろうね。
 念のため。別に「全部盛り(Kitchen Sink)」が嫌だと言ってるんじゃあない。ただそれをこのブロックの悪役でやるのはどうかな、って話だ。


 このカードのデザイン自体を嫌っていたわけではない、ということを示す意味でこれは重要なコメントだと思う。

 私が嫌がっていたのは「このデザインがアクローマのために採用される」ということだ。同じ能力のカードをレギオンや将来のセットに放り込むかどうかが問われてたなら、諸手を挙げて賛同する側だったろうね。

 ただ私は、このデザインがストーリー上の重要キャラに使われるのが嫌だった。もっとフレイバーに富んだデザインであるべきだと思ったからだ。

 私の上記のコメントの中でもっとも的外れだったのは「印象に残らないだろう」だね。

 将来的にこういった「全部盛り」な感じのクリーチャーが多く作られるだろう、という考えがなぜか(特に具体的な予定があったわけではないにも関わらず)私にはあって、このアクローマのせいで将来的に生まれるそれらがかすんでしまうのではないか、と恐れていたのだ。

 その後どうなったかというと、新たに作られたカードたちもかすむことなく好評を博した。そもそも、それほど多くは作られなかった、ということもあるが。

RB (2002/05/13)
 フェイジが十分にアクローマ並みの悪役っぷりを発揮してる。
 アクローマは「全部盛り」にふさわしいと思うけどね。


 名前の横に付記されている日付で、このコメントの応酬が3ヶ月以上に渡って繰り広げられていたことが分かる。この5月頃にコメント欄は編集不可とされ、最終決定の段階へと進んだ。

 --- --- アクローマの項目:コメント引用ここまで --- --- 


エンゼルス、延長戦

 アクローマについてデザインの観点から興味深い点を挙げるとすれば、私がどれだけデザインについて新たに学べたか、という点に尽きるだろう。このカードが大人気となったことから私が学んだのは以下のような点だ。


(1) あからさまでもいい

 コメントをあらためて読んで、自分があまりにデザイン第一主義者に陥っていたかに気づいた。

 カードのデザインが単純すぎてテクニカルな観点からはつまらなく思えたとしても、プレイヤーたちがそれをつまらないと思うかは全くの別問題だ。

 カードを最大限に活用するために多くの試行錯誤が必要かどうかでカードの評価が変わるわけではない。それを気にするのはごくわずかな人たちだけだ。

 そのカードに何ができるか、そしてそれがどれだけ楽しいか。デザイナーがカードを評価するときに用いるべき尺度はそれだけだ。


(2) やりすぎてもいい

 美は単純さと簡潔さから生まれる。その一方で人の欲は贅沢さだって楽しめる。

 カードとは理性的に分析したりプレイしたりするだけのものではない。カードは感情を介して受け取るものだ。理性に訴える強さと同じくらい、感情に訴える強さもまた重要なのだ。


(3) フレイバーを表現する手段は多岐に渡る

 アクローマは結果として今のデザインがフレイバーにあふれていることを証明した。私の犯した間違いはいかに小説のキャラクターに沿えているかどうかだけが唯一の指標であると勘違いしたことだ。

 このカードは小説版のアクローマを表現しているとはいえない(とはいえ、決して食い違っているわけでもないことは付け加えておきたいが)。しかしこのカード独自のアクローマのフレイバーを生み出していることは事実だ。

 アクローマと彼女が持つ圧倒的な強さを切り離して考えることはできないのだ。


(4) 私だって間違える

 もっとも重要な教訓はこれだ。

 自分が正しいことを証明しようと焦っているときほど、実は自分が正しくないのではないかと振り返る時間をとらずに進んでしまう。

 正直、過去のこの開発者たちのコメント欄を見返すのは楽しい作業だ。ときに私がいかに狂気にとらわれていたかを確認したり、またあるときは自分がまったく理解しないままに話をしていたことをあとから知って恥ずかしい思いをしたりする。そう、このアクローマの件のようにね。


 さて、アクローマが私にとってどんな存在か、これで分かってもらえたかな。

 彼女の勝利を嬉しく思うよ(君たちも同じ思いを抱くことになるだろうが、それについてはまたあらためて話そう)。アクローマ週間じゃなくて情け知らずのエロン週間(註)だったらどうしてたことか、想像もできない。
(註) 情け知らずのエロン
 伝説のクリーチャー、《情け知らずのエロン/Eron the Relentless》のこと。アクローマと同様にタイムシフトカードとして「時のらせん」で再録されている。
 出た当時はそれほど弱いカードでもなかったが、正直目立った強さはなく、コラムを丸々1本書けるほどのカードではない(5マナ、5/2、速攻、3マナで再生)。

 さて今後の予定についても話しておこう。

 今週の後半から「第10版を選ぼう!」が始まる。第10版に収録されるカードを選ぶ作業に君たちにも参加してもらう、という素晴らしい企画だ。過去の「第何版を選ぼう!」をイメージしてくれればほぼ間違いはないが、いくつか新しいネタも考えている。楽しみにしてくれていて構わないよ。

 今日はこれでおしまいだ。来週は、きちんと時間を割いて離さなければいけないあれやこれやについて話す予定だ(ヒントは「訴訟」だよ)(註)。それまでに君たちも失敗から謙虚に学ぶという強さもまたある、ということを知る機会がありますように。
(註) 訴訟
 原文は「Lawsuit」。実際の次週のコラムは「Law and Order」で内容はマジックに関する実際の訴訟案件についての報告となっている。このコラムについては有志の邦訳が存在するので紹介しておく。

  法と秩序 ― マークができるだけ語る「例の」訴訟
  http://logicwolf.sakura.ne.jp/magic/lawandorder.html

 すずくまさんのブログで「あかれいは と せきれいは のどっちの読みが正しいか」みたいな話題が出てて面白かったので パクって 乗ってみる。

  すずくまのMTGブログ:あかれいはせきれいは戦争に終止符が
  http://suzukuma1954.diarynote.jp/201802270037088502/

 なんでも最新の再録で「せきれいは」というルビが振られたことにより「赤霊破の読みは、あかれいは? それとも、せきれいは?」の論争に決着がついた、という話らしい。

 前々から「せきれいは」と読んでいたので特に感銘は受けなかったけど、確かに日本語カード名の漢字ってときどき直観的でない読みをとるから、解釈が分かれてしまうこと自体は理解できる。

 ちなみに2017年12月時点の Wisdom Guild (MTG総合情報サイト) をチェックすると《青霊破》と《赤霊破》には、それぞれ「あおれいは」と「あかれいは」のルビが振られている。そのうち更新されそう。


▼ 宝物(ほうもつ、たからもの)

 テンプレートがしっかり決まっているらしく「ほうもつ」で統一されている。

 ・《宝物庫襲撃/Storm the Vault》 (ほうもつこしゅうげき)
 ・《宝物の地図/Treasure Map》 (ほうもつのちず)
 ・《宝物の魔道士/Treasure Mage》 (ほうもつのまどうし)
 ・《宝物の入り江/Treasure Cove》 (ほうもつのいりえ)
 ・《宝物探し/Treasure Hunt》 (ほうもつさがし)

 美しい。この流れなら、初見時は若干戸惑った《宝物探し》の読みも理解できる。


▼ 現(うつつ、あらわし)

 第4版で日本語訳された《現し身/Personal Incarnation》。

 初見時からなんのためらいもなく「うつしみ」と呼んでたけど、よく考えてみたら「あらわしみ」と読めなくもないか(ないない)。あと「ダメージをうつしかえる」から「うつしみ」である、と考えれば不思議はないな、と思いかけてから「待って、《現し身》であって《移し身》じゃないよ」と気づいた。


▼ 三叉(みつまた、さんさ)

 最古のマーフォーク、《真珠三叉矛の人魚》の読みは「しんじゅみつまたほこのにんぎょ」。確かに「しんじゅみつまたほこ」しか選択肢はないとはいえ、なんかこう……語呂が悪いような気もする(※ 感じ方には個人差があります)。

 なんでだろ。「真珠(しんじゅ)」が音読みで「三叉矛(みつまたほこ)」が訓読みだからそう感じるのかな。これがハースストーンだったら迷わず「パールトライデント」って訳されてそう。


▼ 西風(にしかぜ、せいふう、ならい)

 おそらく「にしかぜ」だろうとは思ってた《西風の隼/Zephyr Falcon》の読みは実際に「にしかぜのはやぶさ」だった。でも「せいふう」もありかな。

 日本語は風の呼び名の種類が豊富である、というのはことあるごとに話題に上がるけど、東西南北の有名どころだけでも、東風(とうふう、ひがしかぜ、こち)、西風(せいふう、にしかぜ、ならい)、南風(みなみかぜ、なんぷう、はえ)、北風(ほくふう、きたかぜ、あなじ)と3つずつある。

 南風は、Wikipedia見に行ったらその見出しの直後だけで「南風(みなみかぜ・なんぷう・みなみ・はえ・まぜ・まじ・ぱいかじ)」が紹介されてた。一部地方の呼び名とか含めるともっともっとあるんだろうな。


▼ 弟子(でし、ていし)

 一応「ていし」という読みもあるらしいけど、まあ、MTGでは関係ないか。


▼ 魚(うお、ぎょ、さかな)

 一部に熱狂的なファンがいるとかいないとかの噂の魚、《島魚ジャスコニアス/Island Fish Jasconius》について、読みは「しまざかな」か「とうぎょ」のどっちなんだろう、と調べてみたら、まさかの「しまうお」らしい。ホントかよ。これがありなら「せきれいは・あかれいは」論争が起きるのも理解できる。


▼ 船(ふね、ぶね、ふな、せん)

 とりあえず「ふね、ぶね、ふな、せん」は全てカードの読みとして存在する模様。

 ・《厄介な船沈め/Vexing Scuttler》 (やっかいなふねしずめ)
 ・《宝船の巡航/Treasure Cruise》 (たからぶねのじゅんこう)
 ・《船方ゴブリン/Swab Goblin》 (ふなかたごぶりん)
 ・《船慣れ/Sea Legs》 (ふななれ)
 ・《難破船あさり/Shipwreck Looter》 (なんぱせんあさり)

 この中で読みに迷いそうなのは「船慣れ」くらいかな。あとは順当かと。


▼ 疫(えき、やく)

 疫病神(やくびょうがみ)という言葉があるので「えきびょう、やくびょう」の両方があるかな、と思って調べてみたら片方しかなかった。

 ・《疫病ネズミ/Plague Rats》 (えきびょうねずみ)
 ・《害獣の疫病/Plague of Vermin》 (がいじゅうのえきびょう)
 ・《疫病沸かし/Plague Boiler》 (えきびょうわかし)

 なお《集団疾病/Illness in the Ranks》や《疾病の神殿/Temple of Malady》は「しっぺい」なので注意(?)


▼ 稲妻(いなづま、いなずま)

 読みの話とはちょっとズレるかもしれないけど、「いなづま」か「いなずま」かという読みの選択肢がある中で、マジックは「いなずま」をとっている。

 ・《稲妻/Lightning Bolt》 (いなずま)

 なお日本語教育では「いなずま」が正しいらしい。

 よくある反論(?)は、漢字が「妻」なんだから「づま」が正しいはず、という言い分で、これはこれで納得しそうになるんだけど、不思議と「地震」は「ぢしん」が正しいはず、とは思えない。「生地、布地」も「きじ、ぬのじ」。でも「鼻血」は「はなぢ」。不思議だ(マジック関係ない)。


▼ 山(やま、さん、ざん)

 基本土地の名称の「山」やゲーム用語の「山札」は全て「やま」という自明の読みはさておき、それ以外の「さん、ざん」の話。

 ・《シヴ山のドラゴン/Shivan Dragon》 (しヴさんのどらごん)

 日本語版が出たときに「しヴやま、しヴさん」論争が起きたらしい。個人的には、原語の「シヴァン」という音が頭にあったせいで「しぶやま」という可能性は考えもしなかった。でも、確かにそう読めなくはない。ところで「う゛」を一文字で表そうとすると環境依存文字が必要になるのね。知らなかった。

 地名としての山は他にも色々登場するけど「~やま」は存在しないもよう。

 ・《霜剣山の背教者/Sokenzan Renegade》 (そうけんざんのはいきょうしゃ)
 ・《パーディック山の鉱夫》 (ぱーでぃっくざんのこうふ)

 そういえば「シヴ山」は「しヴざん」じゃないのね。意外と「山」を「さん」と読むカードは少ない気がする。熟語なら以下のようにサクサク見つかるけども。

 ・《樹木茂る山麓/Wooded Foothills》 (じゅもくしげるさんろく)
 ・《山脈の闘獣/Spur Grappler》 (さんみゃくのとうじゅう)
 ・《山頂をうろつくもの/Summit Prowler》 (さんちょうをうろつくもの)


▼ 疾風(はやて、しっぷう、???)

 ・《疾風のデルヴィッシュ/Whirling Dervish》 (しっぷうのでるヴぃっしゅ)

 野球のダルビッシュが有名になり始めた頃、このカードを思い出したマジック古参プレイヤーたちがそこそこいたそうな。それはさておき「疾風(しっぷう、はやて)」の読みのどっちがカッコいいかな。個人的には「しっぷうのでるヴぃっしゅ」のが好き。他の「しっぷう」読みには《翼の疾風/Flurry of Wings》がある。

 なお「はやて」の読みも存在する。

 ・《疾風のマングース/Blurred Mongoose》 (はやてのまんぐーす)

 そして「はやて と しっぷう のどっちがテンプレートなんだ?」という疑問を吹き飛ばしてくれるのが次のカードサイクル。

 ・《疾風衣の騎兵/Gustcloak Cavalier》 (かぜごろものきへい)
 ・《疾風衣の侵略者/Gustcloak Harrier》 (かぜごろものしんりゃくしゃ)
 ・《疾風衣の走り手/Gustcloak Runner》 (かぜごろものはしりて)

 初見時は「しっぷうい」だとばかり思ってた。まあ、これはもう漢字の読みの問題ではなくてマジック世界の専門用語だから読めなくて当たり前か。ただ「かぜごろも、かざごろも」のどっちだろう、という迷いは生じるかもしれない。


▼ 鳥(ちょう、とり、どり)

 シンプルに「とり」の読みを取るのは単体の名詞として使われる場合くらいかな。例えば《鳥の乙女》や《宝石の鳥》のような例。迷う可能性があるのは「~どり、~ちょう」のパターンか。

 ・《極楽鳥/Birds of Paradise》 (ごくらくちょう)
 ・《ロック鳥の卵/Roc Egg》 (ろっくちょうのたまご)
 ・《渡り鳥の経路/Migratory Route》 (わたりどりのけいろ)
 ・《かき鳴らし鳥/Thrummingbird》 (かきならしどり)
 ・《沿岸の角爪鳥/Coastal Hornclaw》 (えんがんのつのづめどり)

 一般的な漢字かつ単語なだけあって、読みが複数あっても実に自然な住み分けがなされている。あまり迷う人いないか。

 最初のも「ごくらくどり」や「ろっくどり」と言われると違和感あるし、対して「わたりどり」は既存の日本語。ギリギリどちらもあり得そうと言えるのは「かき鳴らし鳥」ぐらいで、それも「~どり」であることに異を唱える人は少ないと思う。

 ただ、最後の「角爪鳥」だけは例外か。初見で「つのつめどり」と読める人はあまりいなさそう。いなくはないだろうけど、全体でどれくらいいるんだろう。アンケートとってみたら面白そう(それも選択式ではなく記述式で)。

 回答にありそうなのは「つのつめちょう」「つのつめどり」「つのつめとり」「かくそうどり」「かくそうとり」「かくそうちょう」「かっそうちょう」あたりかな。母数が大きければ、深読みし過ぎた「つのつめのとり」も1人くらいいそう。


▼ 槌(つい、つち、づち)

 単体の名詞で用いられているもの(ナザーンの槌、槌のコス、破滅の槌など)は「つち」で確定なので除いてみる。それ以外も「槌~」の順序で構成されてる熟語もほぼ「つち~」の読みで確定している。

 ・《槌手/Hammerhand》 (つちて)
 ・《槌拳の巨人/Hammerfist Giant》 (つちこぶしのきょじん)
 ・《縄張り持ちの槌頭》 (なわばりもちのつちあたま)

 それ以外の「槌」たちを挙げてみる。まずは限定構築で大暴れしてた有名どころ。

 ・《ロクソドンの戦槌/Loxodon Warhammer》 (ろくそどんのせんつい)

 そこそこ使われた装備品で、レアリティが変化しつつ再録されたりもしてた。個人的には「いくさづち」という読みもありな気がする。最後に、これ以外で「づち」の読みをとるカードをいくつか紹介してみる。

 ・《ピストン式大槌/Piston Sledge》 (ぴすとんしきおおづち)
 ・《伍堂の大槌、天鎖/Tenza, Godo’s Maul》 (ごどうのおおづちてんざ)
 ・《破城槌/Battering Ram》 (はじょうづち)

 同じ「大槌」でも英語が「Sledge/Maul」があるみたい。いずれも読みは「おおづち」。それはさておき、最後の「破城槌」は、おそらく日本語的に「はじょうつい、はじょうづち」のいずれもありな中で、マジックは「はじょうづち」を選択している。

 ちなみに、Wikipediaでは「破城槌(はじょうつい)」、ピクシブ百科事典も「破城槌 (はじょうつい)」、Weblio辞書の和英辞書も「読み方:はじょうつい」と表記されてるので、ネットを漁る限りではマジックの「~づち」が少数派に見える。

 さらに付け加えておくと、Weblio辞書の英和辞書にある「Battering Ram」の説明では「【名詞】1. (昔の)破城槌(つち)、2. (戸・壁などを)打ち壊す道具」と記されている。


▼ 人(じん、にん、ひと、びと)

 読み方は多けれど、あまり迷うパターンは無いかな。

 まずは「じん」。

 ・《鉄の根の樹人族/Ironroot Treefolk》 (てつのねのじゅじんぞく)
 ・《穴居人/Cave People》 (けっきょじん)

 最初の「樹人族」は、予備知識なしでも「じゅじんぞく」と読んでたけど「島魚(しまうお)」がありなら「きびとぞく」もいけそうな気がしてくる。「けっきょじん」は既存の日本語だから迷いようもないか。

 次は「ひと」。

 ・《人さらい/Rag Man》 (ひとさらい)
 ・《人質取り/Hostage Taker》 (ひとじちとり)
 ・《人喰い植物/Carnivorous Plant》 (ひとくいしょくぶつ)
 ・《宿命の旅人/Doomed Traveler》 (しゅくめいのたびびと)

 ここらへんも既存の日本語熟語なので迷いようなし。ただ最後の「旅人」は、一応「旅人(りょじん)」という読み方もあるらしいということは一言触れておく。

 次は「びと」。

 ・《魂癒し人/Soulmender》 (たましいいやしびと)
 ・《レオニンの裁き人/Leonin Arbiter》 (れおにんのさばきびと)
 ・《王位狙いの雇われ人/Crown-Hunter Hireling》 (おういねらいのやとわれびと)

 「びと」以外が絶対無理か、と言われるとちょっと迷う。例えば「魂のいやしにん」とか言えそうな気もする。でも日本語話者ならほぼ「びと」読みしかしないだろうな、とも思う。「~じん」とは読む気がしない。なんか「名詞 + じん」だと「アメリカ人、イギリス人」みたいに特定地域の……あれ、でも「文化人」とか「鉄人」みたいな「~じん」もあるか……感覚的すぎて説明しづらい。

 あと「びと」の中でもちょっと特殊な次のカード。

 ・《ジェスの盗人/Jhessian Thief》 (じぇすのぬすびと)

 挙げてきた例の中ではこの「盗人」が一番分かれそうかな。個人的にはこの熟語は「ぬすびと」より「ぬすっと」のがしっくりくる。日本語としては「とうじん」という読みもあり得るらしい。さすがにこれは古語の部類かな?

 最後に「にん」。

 大量にあるけど、ほぼ全て熟語。《処刑人の一振り/Executioner’s Swing》、《宮廷通りの住人/Court Street Denizen》、これら以外にも「三人衆」「番人」「職人」「密告人」などなど。

 あえていえば職業が多い気がする。探せばマジック世界オリジナル職業の「~にん」もありそうだけど、それらも既存の日本語にある単語からの延長線上の解釈でしかなさそうなので省略。


▼ 剣(けん、つるぎ)

 日本語訳の黎明期からカード名に含まれていたせいか、読みにブレがある。初めて「剣」を含む日本語カード名が登場したのは基本セットの第4版(1996年!)からで、そのセット内には以下の2枚が含まれていた(当時はルビなし)

 ・《剣の壁/Wall of Swords》 (けんのかべ)
 ・《剣を鍬に/Swords to Plowshares》 (つるぎをすきに)

 特に後者の《剣を鍬に》について、日本語名の読みに諸説あるという話を聞いたときには、てっきり鍬が「すき」か「くわ」かどっちなのか、という話……なのかと思いきや、剣の読みが「けん」なのか「つるぎ」なのかという話と知って面白かった。

 確かどっかの再録時点でルビが振られて決着がついたはずだけど具体的な時期は調べてない。めんどい。英語版から入った身としては、このカードは永遠に「ソープロ」だし。

 以降は「けん」の読みが主流で「つるぎ」については《剣の熾天使/Seraph of the Sword》くらいしか見つからない。

 ・《剣の熾天使/Seraph of the Sword》 (つるぎのしてんし)
 ・《選ばれしものの剣/Sword of the Chosen》 (えらばれしもののけん)
 ・《魔道士殺しの剣/Mage Slayer》 (まどうしごろしのけん)
 ・《饗宴と飢餓の剣/Sword of Feast and Famine》 (きょうえんときがのけん)
 ・《肉体と精神の剣/Sword of Body and Mind》 (にくたいとせいしんのけん)
 ・《戦争と平和の剣/Sword of War and Peace》 (せんそうとへいわのけん)

 ちょっと良く分からないのは以下の2枚。

 ・《火と氷の剣/Sword of Fire and Ice》 (ひとこおりの???)
 ・《光と影の剣/Sword of Light and Shadow》 (ひかりとかげの???)

 カードにルビが振られている「饗宴と飢餓」や「戦争と平和」などについてはので「けん」確定なんだけど、ミラディン時代のこのカードたちはルビがない。再録された Modern Masters は英語版のみ。

 たぶん「けん」だろう、と勝手に思ってるんだけど、Wisdom Guild では「つるぎ」の読みが与えられてる。何か根拠があるのかな。不思議だ。

 どっとはらい。

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