長過ぎて1つの記事に収まらなかったため、前編/後編に分けた。なお、コラムのタイトルに[その1]とあるのは、エンチャント週間の記事が長過ぎたせいで、2週間に渡って掲載されたため。
【翻訳】より良いエンチャントのために (1)/Enchantment For Better Things, Part One【Daily MTG】
Mark Rosewater
2007年6月25日
元記事:http://www.wizards.com/Magic/Magazine/Article.aspx?x=mtgcom/daily/mr285
エンチャント週間へようこそ!
今まで時間をかけて各カードタイプそれぞれをテーマとして取り上げてきた。今時点で完了しているのはアーティファクト週間(註1)、インスタント週間(註2)、ソーサリー週間(註3)だ(なおソーサリー週間の記事は2つある「Slow and Steady」というタイトルのコラムの新しい方だ。何かの手違いで私はこのタイトルを2回使ってしまった)。
(註1) アーティファクト週間
原文では当時のコラムの題名(Just the Artifacts, Ma’am)とその記事へのリンク(以下のURL)が張られている。
http://www.wizards.com/default.asp?x=mtgcom/daily/mr165
(註2) インスタント週間
原文では当時のコラムの題名(Instant Winners)とその記事へのリンク(以下のURL)が張られている。
http://www.wizards.com/default.asp?x=mtgcom/daily/mr77
(註3) ソーサリー週間
原文では当時のコラムの題名(Slow and Steady)とその記事へのリンク(以下のURL)が張られている。
http://www.wizards.com/default.asp?x=mtgcom/daily/mr120
付け加えると、私たちはいくつかサブ・テーマ的なものもテーマ週間で取り扱ってきた。
エンチャント・クリーチャー週間(註4)、特殊地形週間(註5)、それらに加えて特定のクリーチャータイプに関するテーマ週間なら石を投げれば当たるほどある(その中でもゴブリン週間の記事である"Mons Made Me Do It"(註6)は私の中のオールタイムベストの1つだ)
(註4) エンチャント・クリーチャー週間
原文では当時のコラムの題名とその記事へのリンク(以下のURL)が張られている。なお文中ではコラムのタイトルが「Some Enchanted Creature」となっているがリンク先では「Some Enchanted Card Type」となっている。
http://www.wizards.com/magic/magazine/Article.aspx?x=mtgcom/daily/mr16
(註5) 特殊地形週間
原文では当時のコラムの題名(This Land Is My Land)とその記事へのリンク(以下のURL)が張られている。
http://www.wizards.com/default.asp?x=mtgcom/daily/mr65
(註6) "Mons Made Me Do It"
以下のURLへリンクが張られている。文中にあるとおり、ゴブリン週間に書かれた記事。
http://www.wizards.com/magic/magazine/article.aspx?x=mtgcom/daily/mr41
しかしここしばらくカードタイプはテーマとして扱っていなかった。そこで、まだ取り上げていないいくつかの題材から1つ選んでみてもよいのではと思った次第だ(私は、君たちが年内にもう1回はカードタイプ週間を見ることになるだろう、という予言をここに記しておく。何しろローウィンで新たなタイプがまた1つゲームに加わるんだからね。(註7))
(註7) ローウィンで新たなタイプがまた1つゲームに加わる
プレインズウォーカーというカードタイプが新たに加わったのローウィンから。
ここまで長々と書いてきたが、実質、私が語ったことと言えば今週がエンチャント週間であるということだけだ。
さて、じゃあここからは何について書いたらよいだろう?
少なくともエンチャントについて書かないといけないし、このコラムはデザインに関することを書く場所だ。よってここで語るべきはエンチャントのデザインについて、になるだろう。
よし、こうしよう。
過去の10個のブロックからそれぞれ1枚ずつ私がデザインしたエンチャントを選んでみた(私がエンチャントをデザインしたブロック数が10個だ。アライアンスでもいくつかカードをデザインしたけど、全てエンチャント以外のカードだった)。
それぞれのエンチャントについて、どのように(そしてどうして)そんなデザインになったかを紹介しようと思う。それと、語るに値する小ネタがあればそれもね。
加えて、そのカードから得たデザイン上の教訓についても語ろうと思う。
死体の花/Cadaverous Bloom - ミラージュ
Cadaverous Bloom / 死体の花 (3)(黒)(緑)
エンチャント
あなたの手札のカードを1枚追放する:あなたのマナ・プールに(黒)(黒)か(緑)(緑)を加える。
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Cadaverous+Bloom/
私が初めてデザインチームとして参加したのはテンペストだ(同時に、私がリーダーを務めたセットでもある。いやはや、今はこういうことは起こらないようにしているよ)。
とはいえ、私がデザインしたカードが初めて世に出たのがテンペストだったということを意味しているわけではない。
テンペストから遡ること1年半前(註8)、私はデベロップメントチームの一員として力いっぱい働いていた(当時のマジックR&Dの規模は小さく、全てのメンバーはいずれかのデベロップメントチームに属していた)。
(註8) 1年半前
要するに、ミラージュの開発。
デベロップメントの工程の最中、私たちはしばしばカードをふるいにかける。そうするとき、そこには私たちが「穴」と呼ぶものが生まれる。
デベロップメント・チームの作業の結果、一定数の「穴」が生みだされたとき、全てのR&Dのメンバー(特にデザイナー)に向けてメッセージが送信される。「穴」埋めに使えるカードを提出するよう依頼するメッセージだ。
《死体の花/Cadaverous Bloom》はそんな「穴埋め」カードの1枚だったのだ。
そのとき埋めなければいけない穴は明確だった。私たちに必要だったのは「レア」で、かつ「黒緑」の多色カードだった。
黒緑っぽさを感じさせてくれるカードに必要なものは2つある。黒っぽさを感じさせてくれる部分、そして緑っぽさを感じさせてくれる部分だ。
それについて思いをめぐらした結果、私が辿り着いたアイデアは、起動コストに片方の色の要素を持ちつつも、その効果に別の色の要素を持たせるというものだった。
手札からカードを捨てるという行為は今ほど広く認知されているコストではなかったため、当時はそこに自傷的な痛みを思わせる何かが存在していた。このフレイバーによってカードは「黒」もしくは「赤」に近づいた。
そしてマナを加えるのは非常に「緑」だ。
これら2つの効果を組み合わせることは非常に自然に思われた。そう、このエンチャントは君のカードをマナと交換させてくれる。この時点では、これがどれほどまでに壊れた効果なのかを私は知る由も無かった。
ところで《死体の花/Cadaverous Bloom》に関する逸話の中で私が好きなのは、プロツアーの悪童、かつ、2回の殿堂入り候補でもあるマイク・ロング(註9)その人が、《死体の花/Cadaverous Bloom》を中心に据えたコンボデッキ(プロスブルームという名で知られているデッキだ)を使ってプロツアー・パリ(註10)で優勝したあと、私に話しかけてきたときのことだ。
(註9) マイク・ロング
文中で悪童(原文ではBad Boy)と書かれているように、強いプレイヤーであると同時に悪いプレイヤーとしても評判だった、往年の強豪プレイヤー。
殿堂入りに関しては、2005年に行われた最初の投票では28人中 7位、2006年は47人中 11位、という風に決して低い順位ではない。良くも悪くも印象に残るプレイヤーっぽい。
なお、このコラムが書かれた2007年以降の結果について書くと、2007年は62人中 20位、2008年は66人中 14位、2009年は62人中 13位、2010年は73人中 13位。
もしかしたらいつかは、と思わせる順位ではある。
(註10) プロツアー・パリ
1997年にパリで行われたプロツアー。フォーマットは、ミラージュ・ブロック構築。
そこでマイクは私に歩み寄るとこう言ったのだ。
マイク:
R&Dにはマジで感謝しないとな。
私:
なんで?
マイク:
このデッキだよ。こいつは狂ってやがる。
私:
マイク、そのデッキを作ったのは私たちじゃない。
作ったのは君だ。
マイク:
はいはい、あんたの言うとおりだよ。《死体の花/Cadaverous Bloom》、《資源の浪費/Squandered Resources》、《自然の均衡/Natural Balance》、《繁栄/Prosperity》、それと《冥府の契約/Infernal Contract》。これの全部が全部、ミラージュとビジョンズに入ってたのが偶然だったとね。
私:
いや、そうだよ?
マイク:
マーク。
俺はこのデッキをプレイしたんだ。
今まで見てきたどんなデッキも、こいつほどシナジーにあふれてる奴はなかった。
ミラージュとビジョンズ以外のカードを使って改良していいと言われても加えるカードを思いつかない。
この2つのセットしか使っちゃいけないってプロツアーがあって、こいつが生まれたのが偶然だって?
ありえないだろ。
私:
何が言いたいんだ?
まさかとは思うが、私たちがこのデッキを作ったあとに、あらためてその必要なパーツをミラージュブロックの2つのセットにばらまいたとでも?
マイク:
お、認める気になったな。
私:
違うよ。まったく逆だ。
私は《死体の花/Cadaverous Bloom》をデザインしたのが誰か、よく知っている。私だ。だが《自然の均衡/Natural Balance》を作ったのはMike Elliottだ。《繁栄/Prosperity》は、Bill Roseが作った。
パリでの君のプロツアー優勝のために私たちがこれを作った、なんて陰謀論は捨てることだね。
マイク:
俺のため、とは言ってないぜ?
私:
マイク、私たちはこのデッキを作ったりはしていない。
マイク:
了解、了解(ウィンク)。
そういうことにしておこう。
私が思うに、今日に至ってもマイクはプロスブルームというデッキが可能だったのはR&Dが意図的にセットに仕込んだからであり、それ以外に説明がつかないと信じ込んでいるだろう。
さて、前述したとおり、紹介する各エンチャントごとにそこから得ることができたデザイン上の教訓について語ろう。
《死体の花/Cadaverous Bloom》からは、コストを必要としないエンジン・カードの秘める危険性に注意を払う必要があることを学んだ(エンジン・カードとは、定義するなら、あるリソースを他のリソースに変換するカードだ。例えば手札をマナに換えるような)。
リソースの変換は強い力を持つ。それを無料で行わせるのは、面倒を引き起こしてくれと頼んでいるようなものだ。
覚えておいて欲しいのは、プロスブルームデッキはマナを得るために上記のルールを破るエンチャントが2つも使われているということだ。
そう《死体の花/Cadaverous Bloom》と《資源の浪費/Squandered Resources》だ。
リソースをマナに変換するカードは特に危険だ。なぜならリソースの変換を制限する手段に「マナを使わせる」という選択肢がほとんど意味をなくしてしまうためだ。
このカードから得られた教訓。それは、エンジン・カードはデザイン時から制限を織り込んでおく必要がある、ということだ。
好きなだけのリソースAを好きなだけリソースBにコストなしで変換できるというのは、面倒を引き起こしてくれとこちらから頼んでいるようなものなのだ。
霊の鏡/Spirit Mirror - テンペスト
Spirit Mirror / 霊の鏡 (2)(白)(白)
エンチャント
あなたのアップキープの開始時に、反射(Reflection)トークンが戦場に存在しない場合、白の2/2の反射クリーチャー・トークンを1体戦場に出す。
(0):反射1つを対象とし、それを破壊する。
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Spirit+Mirror/
往々にして私はデザインをシンプルなアイデアから始めることにしている。
《霊の鏡/Spirit Mirror》に関する私のアイデアは、エンチャント破壊でしか対処できないクリーチャーを作りたい、というものだった。
エンチャントでもあるクリーチャーというアイデアもなんとなくは考えていたが、当時、その考えはあまりに時代を先取りしすぎているように思われた。
(もしかしたら君は、私が将来のためにアイデアを温存したんじゃないか?、と思っているかもしれない。正解だ。また、このアイデアに関して述べた私の他の記事を読んでいない君のために付け加えておくと、《輝く透光/Lucent Liminid》(註11)には、もっとはっきりと自身がエンチャントでもあると自己主張できる効果を持たせることが出来ていれば、と今でも残念に思っている)
(註11) 《輝く透光/Lucent Liminid》
どんなクリーチャーかは以下を参照。一見したところ、単なる5マナの割に能力値の低い飛行クリーチャーにしか見えないが、ポイントはカードタイプ欄。
まあ、マナの割に弱いという結論は変わらないんだけど。Lucent Liminid / 輝く透光 (3)(白)(白)
エンチャント クリーチャー - エレメンタル(Elemental)
飛行
3/3
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Lucent+Liminid/
私は、エンチャントをクリーチャーに変える、というアイデアを考えてみたが、それでは単なるクリーチャー除去で対処されてしまう。
そうじゃない。私の望みは「エンチャント破壊を持ってないだって? そりゃ大変だね」と書いてあるも同然のクリーチャーだ。
次に私が辿り着いたのは、クリーチャー・トークンを生み出すエンチャントだった。
もしトークンが破壊されてもエンチャントが戦場に残るのであれば、それは単に新たなトークンを生み出すだけであり、つまりクリーチャー除去はこのカードに対する回答にはならないわけだ。
もっとも、それだけではダメだ。このカードが単体でクリーチャー・トークンの軍団を生み出してしまわないようにしなくてはいけない。
この問題を避けるために、私は「反射(Reflection)トークンが戦場に存在しない場合」にしか、反射/Reflection トークンを生み出せないという一文を追記してみた。
ちなみにこれによってこのカードのためだけのクリーチャータイプが必要となった(なお、反射/Reflection は、のちにインベイジョンの《完全な反射/Pure Reflection》でまた顔を出すこととなった)。
そこで私が気づいたのは、エンチャントが新たなトークンを生み出すのに何らかの制限をつけないといけない、ということだ。
なぜなら、クリーチャー・トークンを生け贄に捧げたあと続けざまにクリーチャー・トークンを生み出すことが出来てしまうと、クリーチャーを生け贄に捧げることのみがコストであるカードで度を越す悪用が出来てしまうからだ。
これによってトークン生成は誘発型能力と相成った。
直後のプレイテストで、私が開けたパックからは《霊の鏡/Spirit Mirror》が出てきた(なかなかラッキーな話だ。これがレアであることを考えるとね)。
さっそくプレイしてみた。
4マナに到達するには少し時間がかかったが、私はなんとか《霊の鏡/Spirit Mirror》を戦場に叩き付けることに成功した。
次の私のアップキープ時に、2/2の 反射/Reflection トークンが場に出た。次の対戦相手のターンに、対戦相手は私のトークンに《平和な心/Pacifism》を唱えた。
私は対応して「そんなことのために作ったんじゃないぞ!」と叫んだ。
そんなわけで、最後の一文が加わることとなったのだ。このカードをどうにかしたかったら、トークンにかかずらっても無駄だ。このカード自体を破壊したまえ。
面白いことに、この「鏡」と「反射」というフレイバーは「なんでこのカードは絶え間なくトークンを生み出すことができるんだ?」という問いに対する答えを模索していたクリエイティブ・チームによって、かなり後半になってからようやく生み出されたものだ。
生みの親として、実に面白いと感じているのはこのカードの非常に幅広い汎用性だ。
あるプレイヤーは、これを「非常に除去しづらいクリーチャー」として用いた。
あるプレイヤーは、「毎ターン、2/2トークンを生み出せるカード」として用いた(これは多くの場合その2/2トークンが何らかのために毎ターン生け贄に捧げられていることを意味している)。
あるプレイヤーは、マナを用いずに対象を破壊できるという能力に目をつけた。私は《霊の鏡/Spirit Mirror》をクリーチャー破壊(ときにはパーマネント破壊)に用いるデッキを何種類も見たことがある(多くの場合、これには他のクリーチャーやパーマネントを「反射/Reflection」に変えることが出来るカードが一緒に用いられている)。
私のデザイナーノートがこのカードから得た教訓は、プレイヤーがどのようにカードを用いるかを恐れてはいけない、ということだ。
多くのプレイヤーが私が元々意図していなかった方法で《霊の鏡/Spirit Mirror》を用いたという事実はむしろ私を喜ばせた。
これは私が繰り返し述べている「道具をデザインする(designs as tools)」というメタファーに当てはまる事例だ。
職人が 道具/Tool を作るとき、エンドユーザがそれをどのように用いるかについてある程度の予想している。
しかし職人にとって真に成功した仕事とは、元々の目的のためだけに使える何かを作ることではなく、エンドユーザが色んな使い道を見出せる高い汎用性を秘めた道具を作り出すことだ。
カードのデザインにも同じことが言える。
デザイナーが、特定のデッキにしか入らないカードを作るようなことは滅多にない。むしろ、特定のことしかできないカードを、それらを最も効率よく活用できるデッキへ自然と収まるように作るのだ。
後編へ続く
http://regiant.diarynote.jp/201106220719143190/
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