【翻訳】Tom LaPilleのプロツアー名古屋旅行記/Magical Mystery Tour【Daily MTG】
Tom LaPille
2011年6月24日
元記事:http://www.wizards.com/Magic/Magazine/Article.aspx?x=mtg/daily/ld/148
ただいま。
この3週間、私がいなかったことに気づいてくれてたかな。私は日本にいたんだ。名目上はプロツアーのためなんだけど、ウィザーズがくれたチケットを使って1週間半ほど早めに行ってみた。
私は日本の中世時代の大ファンだ。そこで私は5つの城を巡り歩き、京都では今年度の能フェスティバルを2晩とも観賞し、小柄な日本人女性に千年前の公家の服を着せてもらったりしていた。
とはいえ、旅の目的はやっぱりマジックの為だ。今日はそれについて話そうと思う。
マジックはどこにでもある
プロツアーの10日前、私は「晴れる屋」を訪ねた。東京は新宿にあるゲームストアだ。日本のゲームストアの中でも「晴れる屋」はもっとも変わっている。
トレーディングカードは日本で大流行しており、少なく見積もっても50種類のトレーディングカードゲームが今なお現役で、大半のゲームストアは様々なカードゲームを広く扱っている。
「晴れる屋」はマジックしか扱っていないんだ。
日本ではオフィススペースの賃貸料金が非常に高額だ。そのため大半のゲームストアは販売スペースとレジに加えて8人用くらいのプレイスペースが精一杯だ。
「晴れる屋」はプレイスペースが58人ものプレイヤーが座れるだけのスペースがある。ここはゲームストアじゃない。マジックストアなんだ。また、店にはなかなか感動的なコレクションも並んでいた。
さて、私が店に訪れたとき、そこでは8人のプレイヤーがレガシーのイベントを行っているところだった。8つのデッキでデュアルランドが披露されているのをみて、古いカードの入手が困難である、というような問題とは無縁のように見えた。
私は統率者戦に混ぜてもらった。心優しい青年が彼の《アーカム・ダグソン/Arcum Dagsson》デッキを貸してくれた。それには多くの素晴らしいフォイルが入っていた。
そのデッキには多くの見慣れないカードが入っており、慣れていないせいで私はいくつかの無限コンボを見逃してしまったらしい。彼は日本語で私にそれを説明しようとしてくれたが、私にはいまいち伝わらなかった。
さらに幸運なことに、月曜日はドラフトの日だったらしい。人数に欠けがあったので入れてもらうことにした。通常は公認大会らしいのだが、私が入ると非公認になってしまうことを念のために伝えた。彼らは、それでもよいと快諾してくれたので、私は腰をおろし日本語のパックをむきはじめた。
以下が私のドラフトデッキだ
私のマジックのキャリアにおいて、今現在の私は、大抵のゲームストアでは強い方から数えた方が早いドラフトプレイヤーのはずだ。
そのため、すぐに0-2してしまったことは私に衝撃を与えた。さらにもう1人の0-2のプレイヤーが私と当たるかわりにドロップを選択したことにもね。
ゲームストアという空間で参加したことのあるドラフトの中では、今回のゲームが最強の面子だったかもしれない。もし君が日本にいてマジックを強くなりたいと思っているなら、ここでプレイし始めるのもいいかもしれないよ。
またドラフトそれ自体が興味深い経験となった。特筆すべき点は、私が英語でも日本語でも意思疎通できない状況だったことだ。
君たちが気づいているかどうかは知らないが、マジックとは言語だ。
遅い順目で《毒の屍賊/Toxic Nim》を隣に回すことは、どんな言葉よりも明確に相手へ「私は黒をやってないよ。あと君に感染デッキをやって欲しいと思っている」と伝える行為となる。そして今回も的確に伝わった。
ミラディンの傷跡のパックを開いたとき、そこには《決断の手綱/Volition Reins》と《大霊堂の王、ゲス/Geth, Lord of the Vault》があった。
私はすでに青を決めていたので《決断の手綱/Volition Reins》をピックし、《大霊堂の王、ゲス/Geth, Lord of the Vault》を隣に回した。隣のプレイヤーはそれを見てピックする前に驚いた顔を私に向けた。
ドラフトが終わったあと、私は《決断の手綱/Volition Reins》を見せつつ「分かるだろ?」という表情を向け、肩をすくめた。言葉が通じない相手とこんなにも密度の高いコミュニケーションがとれた、と感じられたのは多分これが初めてだ。
ゲーム外でもこの調子だったし、ゲームそれ自体もほとんど大した障害なく進行した。
「晴れる屋」の訪問は日本滞在のあいだでも最も「いるべき場所にいる」と感じられた瞬間だった。それを体感できたこと、そして私の仕事が人々に何かを提供出来ていると知ったこと。これら両方ともに心から感謝している。
しかし、その一方で、言語による壁は確かに存在する。
特にマジックのカードを用いるような複雑なゲームではそれが顕著だ。
私は、すでにミラディンの傷跡とミラディン包囲戦のカードはイラストで大体判別可能だし、加えて、新たなるファイレクシアのコモンとアンコモンも押さえてある。しかし、ここにきて私は自分が新たなるファイレクシアのレアを十分に把握していないことを知った。
最初の試合の対戦相手が《ぎらつく油/Glistening Oil》をプレイした。それが何をするのか、なんとなくは理解していたが、私が詳細を理解していなかったせいで何度もカードについて確認する羽目になってしまった。
親切な店員が私の為にオラクルの文面を印刷してくれたが、そのせいでゲームは3分ほど中断してしまった。
2回戦目ではさらにひどいことになった。それは対戦相手が《呪文滑り/Spellskite》をプレイしたときだ。
私は込み入った戦闘を仕掛けた。戦闘後の私の計画では《責め苦の総督/Tormentor Exarch》を使って相手の《呪文滑り/Spellskite》以外のクリーチャーを除去することになっていた。
私がそれを実行に移したとき、彼は私をちらっと見ると、メモに書かれた自身のライフを2点減らし、《呪文滑り/Spellskite》を指さした。
私は今回もオラクルの文面を見せてもらうようお願いし、そこで確かに《呪文滑り/Spellskite》は呪文だけでなく能力も移しかえられることを発見したのだ。
その時点ではさすがにターンを巻き戻すには遅すぎた。
あのカードの効果を正しく把握していれば勝てたかというと自信はない。しかしこのミスによって負けが確定したのは確かだ。
これはあまり楽しい出来事ではなかったが、同じミスは世界のどこかでも起こっているだろうと思う。そう考えると、こんな目にあったのも無駄ではない。
私の理解では、日本のリミテッドでは日本語製品が使われているようだ。しかし「晴れる屋」や他で見かけるプレイヤーたちの多くはその構築デッキに英語のカードを使っている。
私はすでに多くのマジックのカードをイラストだけで判断できるようになってしまっている身だ。そのため、日本のプレイヤーが初めて参加したフレイデーナイトマジックで結構な率で英語のカードに出くわしてしまうのがどれほど大変なのかは分からない。しかしあまり嬉しいことではないだろう、と思う。
私に何が出来るのかは分からないけれど、これについてはちょっと考えるようになった。
マジックのカードは永遠の輝き
「晴れる屋」を訪れてから10日後、プロツアー名古屋が開幕した。
私はその時間の大半を、通りすがる人をつかまえてはスペルスリンガーの対戦をすることに費やした。
私たちの手元には、親切にもDave Guskinが作ってくれたたくさんのスタンダードとブロック構築のデッキがあり、加えてKen Nagleが作ってくれたエクステンデッドのデッキとAaron Forsytheのくれたレガシーのデッキがあった。
さらに私たちは今までに作られたほぼ全種類のデュエルデッキを持ってきていたので、デッキがなくても私たちと対戦してもらうことができた。
もっとも大半のプレイヤーは自身のデッキを見せつけることを選んだけどね。
週末を通して遊んでいる最中、私の脳裏によみがえったのは、統率者のデベロップメント・リーダーであるMark Globusと数年前に交わした会話だった。
当時、私はArchenemyの開発を終えたところで、Mark Globusに対し、複数人でプレイする製品の開発についてやR&Dの外から来た人と一緒に開発を行うことについて、自身の経験から学んだアドバイスを伝えていた。
何はともあれ、私たちは統率者のデッキへ機能的に新しいカードを加えようという決断を下したところで、Mark Globusは私にそれらのカードを作るときに気をつけるべき点はなんだろうか、と尋ねた。
私は「このカードはプレイヤーが統率者をもっと面白く、そして長く遊ばせることができるだろうか?」という問いを持ちだしてみた。この問いに対して「Yes」となる変更であれば、それは良い変更じゃないかな、と私は言った。Markはこの言葉を深く胸に刻み込んでくれたようだった。
《統率の塔/Command Tower》は統率者を末長く面白くしてくれるだろうか?
私は「Yes」だと思っている。
《擬態の原形質/The Mimeoplasm》は統率者を末長く面白くしてくれるだろうか?
これもまた「Yes」だろうね。
では、《家路/Homeward Path》は統率者を末長く面白くしてくれるだろうか?
誰に聞いたかで異なるかもしれないけど、最終的にはそうなるのではと思っている。
より一般的な問いに変えるのであれば、もちろん、それは「そのカードはマジックを末長く面白くしてくれるだろうか?」となる。
この問いが強く思い起こされたのは、とある試合をしているときだった。
それはレガシー試合で、対戦相手はミラージュ限定構築からそのまま持ってきたようなコンボデッキを用いる日本人の男性だった。デッキは《時の砂/Sands of Time》と《平衡/Equipoise》を組み合わせたものだった。
《平衡/Equipoise》はカードをフェイズアウトさせる。フェイズインしてくるのはアンタップステップだが、そこで《時の砂/Sands of Time》があると何も帰ってこれなくなる。
結果として、対戦相手が土地なしクリーチャーなしの状態でこれら両方のカードをコントロールしていると、毎ターン、君のクリーチャーと土地は消えてしまい、二度と帰って来なくなるのだ。
こいつは面白い!
ミラージュブロック構築時代のこのコンボデッキが自身の土地を破壊するのに使っていたカードは、今回のこの人物が使っていたものよりずっと原始的なカードだった。
ちなみに彼が今回使っていたのは《裏切り者の都/City of Traitors》、《宝石鉱山/Gemstone Mine》、そして《知られざる楽園/Undiscovered Paradise》などだ。
対戦相手が《虚空の力線/Leyline of the Void》と《Helm of Obedience》を用意して私を殺してくれるまでのあいだ、私は20ターンほど、土地を伸ばすこともクリーチャーを増やすこともできずにターンを返した。
こんな面白おかしいことはそうそうあることじゃない。そこで私はカメラマンのCraig Gibsonに頼んで写真を撮ってもらい、この写真は彼の「Day One Photo Essay」に使われることとなった。
さて《時の砂/Sands of Time》と《平衡/Equipoise》はマジックを末長く面白くしてくれるだろうか? 私の意見としては「No」だ。
彼と遊んだゲームは面白かったが、もう1回同じことをしても楽しいとは思えないだろう。優しいことに、彼がまた再度訪れた際には、スタンダード環境のデッキでプレイを申し込んでくれた。
他にも奇妙極まりないレガシーのデッキとプレイする機会があった。
実のところ、なかなか楽しかったよ。
私が好きだったのは《ファイレクシアン・ドレッドノート/Phyrexian Dreadnought》と《もみ消し/Stifle》の入った赤青のデッキで、これにはさらに《直観/Intuition》、《ゴブリンの溶接工/Goblin Welder》、さらには刺戟的な新たなるファイレクシアから《倦怠の宝珠/Torpor Orb》も加えられていた。
私は、そのゲームの勝ちはほぼ確定したと思っていた。彼が《直観/Intuition》を使って、2枚の《倦怠の宝珠/Torpor Orb》と4枚目の《ファイレクシアン・ドレッドノート/Phyrexian Dreadnought》を弾いてくるまではね。
私の緑白デッキでは複数の《ファイレクシアン・ドレッドノート/Phyrexian Dreadnought》に対応することは出来なかった。ゲーム終了だ。
私の個人的な意見として、《もみ消し/Stifle》はそのフェッチランドの相互作用のせいでマジックプレイヤーに嫌われているのではないかと思っているが、ここで使われた他のカードたちについてはそんなことはないと信じている。もちろん《倦怠の宝珠/Torpor Orb》を含めてだ。こいつはちょっとしたヘンテコ野郎だからね。
《時の砂/Sands of Time》と《平衡/Equipoise》が深い時の底から蘇り、私にちょっとした不幸を届けてくれたことは不思議な体験だった。
私は、《倦怠の宝珠/Torpor Orb》(もしくは他の私が手掛けたカード)がいつか同じような体験を未来のデベロッパーにもたらすのかもしれない、ということに初めて気づいたのだ。
私は「このカードはこのセットのドラフトをもっと面白くしてくれるだろうか?」という問いには慣れている。また、私は「このカードはスタンダード環境をもっと面白くしてくれるだろうか?」という問いを普段から行っているし、この問いに対する答えが「Yes」だったことから何枚かのカードをMagic 2012へ加えた。
しかし私は「マジックをもっと面白くしてくれるだろうか?」という全体的な疑問を自分に投げかけたことは滅多にない。そしてこれからはもっと頻繁に自分にそれを問うことになるだろう、と言える。
名目上、リサーチは私の仕事の一部だ。私たちは時々はターゲットを絞ったリサーチを行う。対象を決めたテストやアンケートなどだ。
しかしリサーチすべき情報はそこからだけではなく、例えばプロツアーのスペルスリンガーからも、ふらりと立ち寄るフライデーナイトマジックのイベントからも、もしくは単にプレイヤーとツイッター上で交わす会話からもたくさんの情報を得ることが出来る。日本への旅の中で私はマジックについてたくさんのことを学んだ。
さて、来週からはいつもどおりのデベロップメントのコラムに戻ることにするよ。
ただ、コラムを終える前に、月曜日のアナウンスについて一言述べておきたい。私は今回の件に関する背景についてのAaron Forsytheの説明に満足している。
もしもっと知りたいと思うのなら、再度、Aaronの記事を読むことをお勧めするよ。あの記事は複数回読むに値するだけの濃い内容が書かれているからね。
Tom LaPille
2011年6月24日
元記事:http://www.wizards.com/Magic/Magazine/Article.aspx?x=mtg/daily/ld/148
ただいま。
この3週間、私がいなかったことに気づいてくれてたかな。私は日本にいたんだ。名目上はプロツアーのためなんだけど、ウィザーズがくれたチケットを使って1週間半ほど早めに行ってみた。
私は日本の中世時代の大ファンだ。そこで私は5つの城を巡り歩き、京都では今年度の能フェスティバルを2晩とも観賞し、小柄な日本人女性に千年前の公家の服を着せてもらったりしていた。
とはいえ、旅の目的はやっぱりマジックの為だ。今日はそれについて話そうと思う。
マジックはどこにでもある
プロツアーの10日前、私は「晴れる屋」を訪ねた。東京は新宿にあるゲームストアだ。日本のゲームストアの中でも「晴れる屋」はもっとも変わっている。
トレーディングカードは日本で大流行しており、少なく見積もっても50種類のトレーディングカードゲームが今なお現役で、大半のゲームストアは様々なカードゲームを広く扱っている。
「晴れる屋」はマジックしか扱っていないんだ。
日本ではオフィススペースの賃貸料金が非常に高額だ。そのため大半のゲームストアは販売スペースとレジに加えて8人用くらいのプレイスペースが精一杯だ。
「晴れる屋」はプレイスペースが58人ものプレイヤーが座れるだけのスペースがある。ここはゲームストアじゃない。マジックストアなんだ。また、店にはなかなか感動的なコレクションも並んでいた。
さて、私が店に訪れたとき、そこでは8人のプレイヤーがレガシーのイベントを行っているところだった。8つのデッキでデュアルランドが披露されているのをみて、古いカードの入手が困難である、というような問題とは無縁のように見えた。
私は統率者戦に混ぜてもらった。心優しい青年が彼の《アーカム・ダグソン/Arcum Dagsson》デッキを貸してくれた。それには多くの素晴らしいフォイルが入っていた。
そのデッキには多くの見慣れないカードが入っており、慣れていないせいで私はいくつかの無限コンボを見逃してしまったらしい。彼は日本語で私にそれを説明しようとしてくれたが、私にはいまいち伝わらなかった。
さらに幸運なことに、月曜日はドラフトの日だったらしい。人数に欠けがあったので入れてもらうことにした。通常は公認大会らしいのだが、私が入ると非公認になってしまうことを念のために伝えた。彼らは、それでもよいと快諾してくれたので、私は腰をおろし日本語のパックをむきはじめた。
以下が私のドラフトデッキだ
トムの「晴れる屋」ドラフトデッキ/Tom’s Hareruya Draft Deck
フォーマット:新たなるファイレクシア、ミラディン包囲戦、ミラディンの傷跡
メインデッキ(40枚)
土地(17枚)
9 Island
8 Mountain
クリーチャー(12枚)
1 Blisterstick Shaman
1 Flameborn Hellion
2 Gust-Skimmer
1 Peace Strider
1 Riddlesmith
1 Serum Raker
1 Spined Thopter
1 Spire Monitor
1 Tormentor Exarch
1 Trespassing Souleater
1 Vulshok Replica
その他の呪文(11枚)
1 Burn the Impure
1 Mutagenic Growth
1 Panic Spellbomb
1 Psychic Barrier
1 Quicksilver Geyser
1 Shatter
1 Steel Sabotage
1 Strandwalker
1 Tumble Magnet
1 Volition Reins
1 Volt Charge
私のマジックのキャリアにおいて、今現在の私は、大抵のゲームストアでは強い方から数えた方が早いドラフトプレイヤーのはずだ。
そのため、すぐに0-2してしまったことは私に衝撃を与えた。さらにもう1人の0-2のプレイヤーが私と当たるかわりにドロップを選択したことにもね。
ゲームストアという空間で参加したことのあるドラフトの中では、今回のゲームが最強の面子だったかもしれない。もし君が日本にいてマジックを強くなりたいと思っているなら、ここでプレイし始めるのもいいかもしれないよ。
またドラフトそれ自体が興味深い経験となった。特筆すべき点は、私が英語でも日本語でも意思疎通できない状況だったことだ。
君たちが気づいているかどうかは知らないが、マジックとは言語だ。
遅い順目で《毒の屍賊/Toxic Nim》を隣に回すことは、どんな言葉よりも明確に相手へ「私は黒をやってないよ。あと君に感染デッキをやって欲しいと思っている」と伝える行為となる。そして今回も的確に伝わった。
ミラディンの傷跡のパックを開いたとき、そこには《決断の手綱/Volition Reins》と《大霊堂の王、ゲス/Geth, Lord of the Vault》があった。
私はすでに青を決めていたので《決断の手綱/Volition Reins》をピックし、《大霊堂の王、ゲス/Geth, Lord of the Vault》を隣に回した。隣のプレイヤーはそれを見てピックする前に驚いた顔を私に向けた。
ドラフトが終わったあと、私は《決断の手綱/Volition Reins》を見せつつ「分かるだろ?」という表情を向け、肩をすくめた。言葉が通じない相手とこんなにも密度の高いコミュニケーションがとれた、と感じられたのは多分これが初めてだ。
ゲーム外でもこの調子だったし、ゲームそれ自体もほとんど大した障害なく進行した。
「晴れる屋」の訪問は日本滞在のあいだでも最も「いるべき場所にいる」と感じられた瞬間だった。それを体感できたこと、そして私の仕事が人々に何かを提供出来ていると知ったこと。これら両方ともに心から感謝している。
しかし、その一方で、言語による壁は確かに存在する。
特にマジックのカードを用いるような複雑なゲームではそれが顕著だ。
私は、すでにミラディンの傷跡とミラディン包囲戦のカードはイラストで大体判別可能だし、加えて、新たなるファイレクシアのコモンとアンコモンも押さえてある。しかし、ここにきて私は自分が新たなるファイレクシアのレアを十分に把握していないことを知った。
最初の試合の対戦相手が《ぎらつく油/Glistening Oil》をプレイした。それが何をするのか、なんとなくは理解していたが、私が詳細を理解していなかったせいで何度もカードについて確認する羽目になってしまった。
親切な店員が私の為にオラクルの文面を印刷してくれたが、そのせいでゲームは3分ほど中断してしまった。
2回戦目ではさらにひどいことになった。それは対戦相手が《呪文滑り/Spellskite》をプレイしたときだ。
私は込み入った戦闘を仕掛けた。戦闘後の私の計画では《責め苦の総督/Tormentor Exarch》を使って相手の《呪文滑り/Spellskite》以外のクリーチャーを除去することになっていた。
私がそれを実行に移したとき、彼は私をちらっと見ると、メモに書かれた自身のライフを2点減らし、《呪文滑り/Spellskite》を指さした。
私は今回もオラクルの文面を見せてもらうようお願いし、そこで確かに《呪文滑り/Spellskite》は呪文だけでなく能力も移しかえられることを発見したのだ。
その時点ではさすがにターンを巻き戻すには遅すぎた。
あのカードの効果を正しく把握していれば勝てたかというと自信はない。しかしこのミスによって負けが確定したのは確かだ。
これはあまり楽しい出来事ではなかったが、同じミスは世界のどこかでも起こっているだろうと思う。そう考えると、こんな目にあったのも無駄ではない。
私の理解では、日本のリミテッドでは日本語製品が使われているようだ。しかし「晴れる屋」や他で見かけるプレイヤーたちの多くはその構築デッキに英語のカードを使っている。
私はすでに多くのマジックのカードをイラストだけで判断できるようになってしまっている身だ。そのため、日本のプレイヤーが初めて参加したフレイデーナイトマジックで結構な率で英語のカードに出くわしてしまうのがどれほど大変なのかは分からない。しかしあまり嬉しいことではないだろう、と思う。
私に何が出来るのかは分からないけれど、これについてはちょっと考えるようになった。
マジックのカードは永遠の輝き
「晴れる屋」を訪れてから10日後、プロツアー名古屋が開幕した。
私はその時間の大半を、通りすがる人をつかまえてはスペルスリンガーの対戦をすることに費やした。
私たちの手元には、親切にもDave Guskinが作ってくれたたくさんのスタンダードとブロック構築のデッキがあり、加えてKen Nagleが作ってくれたエクステンデッドのデッキとAaron Forsytheのくれたレガシーのデッキがあった。
さらに私たちは今までに作られたほぼ全種類のデュエルデッキを持ってきていたので、デッキがなくても私たちと対戦してもらうことができた。
もっとも大半のプレイヤーは自身のデッキを見せつけることを選んだけどね。
週末を通して遊んでいる最中、私の脳裏によみがえったのは、統率者のデベロップメント・リーダーであるMark Globusと数年前に交わした会話だった。
当時、私はArchenemyの開発を終えたところで、Mark Globusに対し、複数人でプレイする製品の開発についてやR&Dの外から来た人と一緒に開発を行うことについて、自身の経験から学んだアドバイスを伝えていた。
何はともあれ、私たちは統率者のデッキへ機能的に新しいカードを加えようという決断を下したところで、Mark Globusは私にそれらのカードを作るときに気をつけるべき点はなんだろうか、と尋ねた。
私は「このカードはプレイヤーが統率者をもっと面白く、そして長く遊ばせることができるだろうか?」という問いを持ちだしてみた。この問いに対して「Yes」となる変更であれば、それは良い変更じゃないかな、と私は言った。Markはこの言葉を深く胸に刻み込んでくれたようだった。
《統率の塔/Command Tower》は統率者を末長く面白くしてくれるだろうか?
私は「Yes」だと思っている。
《擬態の原形質/The Mimeoplasm》は統率者を末長く面白くしてくれるだろうか?
これもまた「Yes」だろうね。
では、《家路/Homeward Path》は統率者を末長く面白くしてくれるだろうか?
誰に聞いたかで異なるかもしれないけど、最終的にはそうなるのではと思っている。
Command Tower / 統率の塔
土地
(T):あなたのマナ・プールに、あなたの統率者の固有色のいずれか1色の色のマナ1点を加える。
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Command+Tower/
The Mimeoplasm / 擬態の原形質 (2)(緑)(青)(黒)
伝説のクリーチャー - ウーズ(Ooze)
擬態の原形質が戦場に出るに際し、あなたは墓地にあるクリーチャー・カードを2枚追放してもよい。そうした場合、それはそれらのカードのうちの1枚のコピーとして、もう1枚のカードのパワーに等しい数の追加の+1/+1カウンターが置かれた状態で戦場に出る。
0/0
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/The+Mimeoplasm/ ※ 文面を一部修正
Homeward Path / 家路
土地
(T):あなたのマナ・プールに(1)を加える。
(T):各プレイヤーは、自分がオーナーであるすべてのクリーチャーのコントロールを得る。
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Homeward+Path/
より一般的な問いに変えるのであれば、もちろん、それは「そのカードはマジックを末長く面白くしてくれるだろうか?」となる。
この問いが強く思い起こされたのは、とある試合をしているときだった。
それはレガシー試合で、対戦相手はミラージュ限定構築からそのまま持ってきたようなコンボデッキを用いる日本人の男性だった。デッキは《時の砂/Sands of Time》と《平衡/Equipoise》を組み合わせたものだった。
《平衡/Equipoise》はカードをフェイズアウトさせる。フェイズインしてくるのはアンタップステップだが、そこで《時の砂/Sands of Time》があると何も帰ってこれなくなる。
結果として、対戦相手が土地なしクリーチャーなしの状態でこれら両方のカードをコントロールしていると、毎ターン、君のクリーチャーと土地は消えてしまい、二度と帰って来なくなるのだ。
こいつは面白い!
Equipoise / 平衡 (2)(白)
エンチャント
あなたのアップキープの開始時に、プレイヤー1人を対象とする。そのプレイヤーがコントロールする土地が、あなたがコントロールする数を上回る1つにつき、そのプレイヤーがコントロールする土地を選ぶ。その後、選ばれたパーマネントはフェイズ・アウトする。この過程を、アーティファクトとクリーチャーについて繰り返す。(それらがフェイズ・アウトしている間、それはそれが存在しないかのように扱う。それらはそのプレイヤーの次のアンタップ・ステップの間でそのプレイヤーがアンタップする前にフェイズ・インする。)
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Equipoise/
Sands of Time / 時の砂 (4)
アーティファクト
各プレイヤーは自分のアンタップ・ステップを飛ばす。
各プレイヤーのアップキープの開始時に、そのプレイヤーは同時に、自分がコントロールするすべてのタップ状態のアーティファクト、クリーチャー、土地をアンタップし、自分がコントロールするすべてのアンタップ状態のアーティファクト、クリーチャー、土地をタップする。
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Sands+of+Time/
ミラージュブロック構築時代のこのコンボデッキが自身の土地を破壊するのに使っていたカードは、今回のこの人物が使っていたものよりずっと原始的なカードだった。
ちなみに彼が今回使っていたのは《裏切り者の都/City of Traitors》、《宝石鉱山/Gemstone Mine》、そして《知られざる楽園/Undiscovered Paradise》などだ。
対戦相手が《虚空の力線/Leyline of the Void》と《Helm of Obedience》を用意して私を殺してくれるまでのあいだ、私は20ターンほど、土地を伸ばすこともクリーチャーを増やすこともできずにターンを返した。
こんな面白おかしいことはそうそうあることじゃない。そこで私はカメラマンのCraig Gibsonに頼んで写真を撮ってもらい、この写真は彼の「Day One Photo Essay」に使われることとなった。
さて《時の砂/Sands of Time》と《平衡/Equipoise》はマジックを末長く面白くしてくれるだろうか? 私の意見としては「No」だ。
彼と遊んだゲームは面白かったが、もう1回同じことをしても楽しいとは思えないだろう。優しいことに、彼がまた再度訪れた際には、スタンダード環境のデッキでプレイを申し込んでくれた。
他にも奇妙極まりないレガシーのデッキとプレイする機会があった。
実のところ、なかなか楽しかったよ。
私が好きだったのは《ファイレクシアン・ドレッドノート/Phyrexian Dreadnought》と《もみ消し/Stifle》の入った赤青のデッキで、これにはさらに《直観/Intuition》、《ゴブリンの溶接工/Goblin Welder》、さらには刺戟的な新たなるファイレクシアから《倦怠の宝珠/Torpor Orb》も加えられていた。
Torpor Orb / 倦怠の宝珠 (2)
アーティファクト
戦場に出るクリーチャーは能力を誘発させない。
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Torpor+Orb/
私は、そのゲームの勝ちはほぼ確定したと思っていた。彼が《直観/Intuition》を使って、2枚の《倦怠の宝珠/Torpor Orb》と4枚目の《ファイレクシアン・ドレッドノート/Phyrexian Dreadnought》を弾いてくるまではね。
私の緑白デッキでは複数の《ファイレクシアン・ドレッドノート/Phyrexian Dreadnought》に対応することは出来なかった。ゲーム終了だ。
私の個人的な意見として、《もみ消し/Stifle》はそのフェッチランドの相互作用のせいでマジックプレイヤーに嫌われているのではないかと思っているが、ここで使われた他のカードたちについてはそんなことはないと信じている。もちろん《倦怠の宝珠/Torpor Orb》を含めてだ。こいつはちょっとしたヘンテコ野郎だからね。
《時の砂/Sands of Time》と《平衡/Equipoise》が深い時の底から蘇り、私にちょっとした不幸を届けてくれたことは不思議な体験だった。
私は、《倦怠の宝珠/Torpor Orb》(もしくは他の私が手掛けたカード)がいつか同じような体験を未来のデベロッパーにもたらすのかもしれない、ということに初めて気づいたのだ。
私は「このカードはこのセットのドラフトをもっと面白くしてくれるだろうか?」という問いには慣れている。また、私は「このカードはスタンダード環境をもっと面白くしてくれるだろうか?」という問いを普段から行っているし、この問いに対する答えが「Yes」だったことから何枚かのカードをMagic 2012へ加えた。
しかし私は「マジックをもっと面白くしてくれるだろうか?」という全体的な疑問を自分に投げかけたことは滅多にない。そしてこれからはもっと頻繁に自分にそれを問うことになるだろう、と言える。
名目上、リサーチは私の仕事の一部だ。私たちは時々はターゲットを絞ったリサーチを行う。対象を決めたテストやアンケートなどだ。
しかしリサーチすべき情報はそこからだけではなく、例えばプロツアーのスペルスリンガーからも、ふらりと立ち寄るフライデーナイトマジックのイベントからも、もしくは単にプレイヤーとツイッター上で交わす会話からもたくさんの情報を得ることが出来る。日本への旅の中で私はマジックについてたくさんのことを学んだ。
さて、来週からはいつもどおりのデベロップメントのコラムに戻ることにするよ。
ただ、コラムを終える前に、月曜日のアナウンスについて一言述べておきたい。私は今回の件に関する背景についてのAaron Forsytheの説明に満足している。
もしもっと知りたいと思うのなら、再度、Aaronの記事を読むことをお勧めするよ。あの記事は複数回読むに値するだけの濃い内容が書かれているからね。
コメント
サンドポイズ=彼は、私のレガシー公式戦デビュー2戦目の相手で、「レガシーデビューです」って挨拶すると、実にうれしそうに「真綿で首を絞める」ように殺してくれましたw
リンクさせていただきましたので、よろしくお願いします。
>君たちが気づいているかどうかは知らないが、マジックとは言語だ。
これはすごい共感できます。
お互いがMTGプレイヤーである限り、言語の壁を少しだけ越えてコミュニケーションする事ができます。
できますが・・・やっぱりそれだけじゃ足りないんですよね。
英語。出来る様になりたいです。
お役に立てたようで何よりです。
むしろ、訳していて楽しい記事を紹介してもらって、ありがとうございます。
>Bunさん
まあ、日本人同士でもルールで議論になったり、見解の相違が生じたりするので、
言語の問題だけでもない気がしますけどね。
特に晴れる屋の記事はなんとも新鮮でした。
ボクもアメリカのショップでドラフトしてみたいと思いましたw
これはマジックという範疇に入らないです!
なんというか旅行記ですね・・・ってタイトルに書いてありますね(⌒_⌒;)
前も、スペルスリンガーに関する記事とかありました。
たまにはこういうのもいいですよね。
晴れる屋店長/happymtgの編集長をやっております若山と申します。
翻訳作業いつもお疲れ様です。英語が堪能でないものですから、よく拝見させて頂いています。
Tom氏のコラムにて弊店が紹介された事を、弊店webサイトでも紹介したいと思い、翻訳を行おうと考えていたのですが、翻訳の出来等も含めて、もし差支えなければre-giantさんの本エントリの一部引用と、リンクの貼り付けをお願い出来ないかと思いコメントさせて頂きました。
本来こういった主旨のコメントを残す場所ではないかと思いますので、問題がある/引用許可を考えていないと言う事であれば、そのまま削除して頂いて構いません。
もし、ご検討頂けるようでしたら、s_wakayama@hareruya.ocnk.netまでご連絡頂ければ幸いでございます。
よろしくお願い致します。
当然元が公式サイトである事は記載させて頂きます。
井川にはしっかりと伝えさせて頂きます。
ご好意、本当にありがとうございます!