【翻訳】より良いエンチャントのために(その2)/Enchantment For Better Things, Part Two【Daily MTG】(後編)

終わりなき囁き/Endless Whispers - フィフスドーン
Endless Whispers / 終わりなき囁き (2)(黒)(黒)
エンチャント
各クリーチャーは「このクリーチャーが戦場から墓地に置かれたとき、対戦相手を1人対象とする。次の終了ステップの開始時に、そのプレイヤーはこのクリーチャー・カードを、その墓地から自分のコントロール下で戦場に戻す。」を持つ。
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Endless+Whispers/

 もし君がいつかウィザーズに仕事を得ることが出来たら、出社初日にぜひともやってみて欲しいことがある。まず、Multiverseへアクセスすること。これは私たちがマジックのために用いているデータベースだ。次に、どれかエキスパンションを選び、Dev Commentと呼ばれる製作者たちのコメントを読み始めるんだ(ちなみに「Dev Comment」の「Dev」はデベロッパーの略だが、実際にはデザインチームとデベロップメントチームの両方がここを使っている)。

 マジックの制作プロセスに関するより豊かな洞察を君はここから得ることが出来るだろう(私とAaron Forsytheが機会のあるごとに君たちにここを覗き見させているのはそういうわけだ)。

 なぜ私はここでMultiverseの話を持ち出したのか? なぜならこの記事を書くに当たってリサーチを行った際(そのとおり、驚くかもしれないが、私だってたまにはそういうことをしているのだ)、私はMultiverseの《終わりなき囁き/Endless Whispers》に関する箇所に目を通してみた。

 その結果、なかなか面白い事実が判明した。このカードに関して話そうと思っていたこと、全てを押しのけてしまうほどに興味深い内容だった。さて、それについて話す前に説明しておくべきことがある。まずは、《終わりなき囁き/Endless Whispers》の最初期のバージョンを紹介しよう。

  Death Chime(註9)
  4
  Artifact
  Whenever a creature goes to a graveyard from play, any opponent of
  that creature’s controller may pay 1 to put that creature from
  the graveyard into play under their control.
(註9) 以下、非公式訳

 死のチャイム/Death Chime (4)
 アーティファクト
 クリーチャーが戦場から墓地に置かれたとき、そのクリーチャーの
 コントローラーのどの対戦相手も(1)を払うことでそのクリーチャーを
 墓地から自分のコントロール下で戦場に戻してよい。

 そのとおり。またしても「生まれたときにはアーティファクト」なカードだ。もっとも、このカードに関しては、生まれがミラディンブロックだったから、という言い訳が出来る。Multiverseでこのカードに関してつけられていたコメントは以下の通りだ。R&Dのメンバーをイニシャルから判断するのが苦手な人のために、どれが誰だか解説をつけておこう。
AF:アーロン・フォーサイス/Aaron Forsythe
 今やR&Dのディレクターだが、フィフスドーンの頃はR&Dのメンバーですらなかった。当時の彼はまだ Magicthegathering.com を運営しており、その彼をフィフスドーンのデザインチームに入れたのは私とRandy Buehlerだった。その理由は、チームに引き込むことで実際にR&Dがどのように機能しているのかを肌で感じてもらい、それによって彼が公式サイトの「Behind the Scenes」の記事をより良いものに出来るのでは、と考えたためだ。少なくともその経験を元にした素晴らしい記事を書いてくれるはずだった(まさかかわりに素晴らしい職歴を加えることになるとは誰も予想できなかったよ)。もし君がAron Forsytheを知らないというのなら、公式サイトで金曜日に掲載される「Latest Development」のコラムをチェックしたまえ。

MR:私だ。

BS:ブライアン・シュナイダー/Brian Schneider
 彼はのちにデベロッパーのトップになる。確か当時はただのシニア・デベロッパーの1人だったはずだ。

RB:ランディ・ビューラー/Randy Buehler
 今ではデジタルゲーム部門の副責任者だ。あの頃は(今ではAaron Forsytheが担当している)R&Dのディレクターだった。フィフスドーンではデザインチームに加わっていた。

BT:ブライアン・ティンスマン/Brian Tinsman
 デザイナーだ。フィフスドーンの当時、彼はデザインチームでもデベロップメントチームでもなかった。しかしR&Dのメンバーであれば誰でも好きにカードに関するコメントを残すことができたんだ。ちなみに彼はミラディンのデザインチームの一員でもある。

PB:ポール・バークレイ/Paul Barclay
 確か当時の彼はルール・マネージャーだったはずだ。

TB:タイラー・ビールマン/Tyler Bielman
 彼はミラディンのデザインチームのメンバーだった。

 さあ、参加者について分かってもらえたところで、当時にダイブしてみよう。
  AF 03月07日:
     このカードは《Accursed Centaur》と問題を起こすかもしれない

  MR 03月28日:
     アーティファクトから黒のエンチャントに変更したらどうか
     すでにレアのアーティファクトは多くあるが、黒のレアが足りない

  BS 04月04日:
     1回読んだだけじゃ何をするのか理解できない
     面白そうではあるけど、ちょっと複雑すぎる

  RB 04月11日:
     個人的にはアーティファクトのほうがいいと思う
     黒だと他のリアニメイトな効果の中に埋もれてしまいそうだ

  MR 04月11日:
     良いレアのアーティファクトが多すぎ、かつ黒のレアが足りないので移動

  MR 04月14日:
     環境に影響を与えるようなアーティファクトを増やしたいので、戻した

  MR 04月15日:
     多人数戦でもっとクリーチャー戦が盛んになって欲しい

  AF 04月17日:
     念のため。このカードにそんな効果はない

  MR 04月21日:
     念のため。テンプレートチームにそうなるよう伝えてくれ

  BS 04月28日:
     これは黒であるべきか?

  AF 04月28日:
     このルールテキストが成立することにびっくりだ

  BF 05月02日:
     イカレてるね

  BS 05月05日:
     その文言では解決にならない。
     多人数戦に配慮し過ぎてその他のプレイヤーをがっかりさせるのは避けたい
     現在ある以下の文言はカットすべきだ
     「そのプレイヤーの各対戦相手は(1)を支払ってもよい。
      もしちょうど1人のプレイヤーがそうした場合、
      そのクリーチャーをそのプレイヤーのコントロール下で場に出す。
      もし2人以上のプレイヤーがそうした場合、この処理を繰り返す」

  MR 05月06日:
     このカードの効果にはコストが必要
     さもなければキメラなどのカードがインスタント速度で行ったり来たりして
     無限ドローにつながるおそれがある

  PB 05月07日:
     イライラは減ったし、伝説のクリーチャーの問題もなくなったけど
     相変わらず読みづらい

  BS 05月07日:
     このカードが秘めてる政略的な要素は好きなんだが……
     本当に私たちが望むとおりの動きをしてくれるんだろうか

  TB 06月03日:
     複雑すぎるし、出来ればアーティファクトにしたい
     黒のエンチャントでも問題はないが、このブロックに関しては
     こういう効果もアーティファクトに割り振るべきでは?

  AF 06月04日:
     面白いね、何かが変わるたびに同じカードで同じ議論が再燃だ

  BS 06月04日:
     問題なく機能するテンプレートがいまだに得られてない
     世に出るべきでないカードとして終わる可能性がある
     もっとシンプルなカードがふさわしいのかもしれない

  MR 06月05日:
     これはアーティファクトだ
     これはエンチャントだ
     アーティファクトだ
     エンチャントだ
     頭がぐるぐるしてきた

 個人的にこの変遷の興味深い点は、特定のカードには複数の問題点が常につきまとうという現象を見事に再現していることだ。あるグループはカードの色について議論し、別のグループはその機能性を憂慮し、さらに別のグループはそれが多人数戦でどう働くかを気にしている。


 このカードから得た教訓は次の通りだ。多くの視点から眺めるべし。全てのメンバーはそれぞれ固有の視点からそのカードを評価し、その結果、1人では決して得られない洞察を加えてくれる。カードのデザインとはグループワークだ。グループをそこから遠ざけてはいけないんだ。


春の鼓動/Heartbeat of Spring - 神河物語
Heartbeat of Spring / 春の鼓動 (2)(緑)
エンチャント
プレイヤーがマナを引き出す目的で土地をタップするたび、そのプレイヤーは自分のマナ・プールにその土地が生み出した好きなタイプのマナ1点を加える。
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Heartbeat+of+Spring/

 これは緑の《ほとばしる魔力/Mana Flare》だ。

 これをデザインするのがそんなに大変だったのか、って? 大変じゃなかったよ。実のところ、これのために「デザインする」という工程があったのかどうかすら定かではない。おそらく、リチャードはアルファ版に対して非常に深い敬意を抱いている、ということくらいしか分からない。

 そのとおり。ここで話したいのはどのようにして生まれたかではなく、それが実際にセットに収録されるまでの道のりについてだ。私たちは第5版のデベロップメントの最中まで遡る必要がある。

 デザインチームは以下の3人だった。
 Skaff Elias:
    プロツアーの発案者でありその他もろもろの発案者でありR&Dの生ける伝説だ。
    冗談だと思うなら、検索エンジンに彼の名前を放り込んでみてくれ。
    検索結果に出てくるであろう私の記事を1つでもいいから読んでくれれば分かる。

 Robert Gutschera:
    R&Dに10年以上在籍している一握りのベテランたちの1人、それがロバートだ。
    マジックにも軽く手を出しているが、同時に他の多くのゲームにも関わっている

 Mark Rosewater:
    私だ。

 ああ、そのとおり。基本セットに《ネクロポーテンス/Necropotence》を持ちこんだのはこの3人だ。何にせよ、第5版を構築している最中、デザインの必要ありと思われるカードの一覧を私たちは作った。このリストはいくつにもカテゴリ分けされていた。

 あるカテゴリは、良いカードではあるもののカードパワーが高すぎるか低すぎるため適正なマナコストでリメイクする必要があるカードたちが集められていた。あるカテゴリは、よりシンプルな効果であるべきなのに一度もそのようなリメイクがされなかったカードたちが集められていた。あるカテゴリは、単に今まで一度も作られたことのないカードたちが集められていた。

 そして最後に、単に違う色で作られるべきだったカードたちを集めたカテゴリがあった。そのリストの中頃に「green Mana Flare」という3つの単語が並んでいたわけだ。

 このリストが作成されたのが1996年。神河物語が発売されたのが2004年。8年後だ。

 何があったのだろうか?

 単純に私たちがこのリストの存在を忘れてしまい、カビ臭い引き出しから何年も後になって発掘したのだろうか? 違う(なぜならそんなことは実際には決して起こり得ないと聞いているからだ)(註10)。
(註10) カビ臭い引き出しから何年も後になって発掘した
 アイスエイジ・ブロックの2つ目のエキスパンションであるコールドスナップは、コアセットであるアイスエイジ(1995年)と1つ目のエキスパンションであるアライアンス(1996年)に遅れること10年、2006年に発売された。
 なぜこんなに間が開いたのかについては当初「オフィスの引っ越しの最中に古い段ボール開けたら、誰も存在すら知らなかったアイスエイジのエキスパンションセットが見つかったよ!」というとんでもない説明がなされていたが、これは冗談だった。信じた人もいたんじゃないかな。いたと言ってくれ。1人じゃさびしい。

 事実はまったくの逆だ。私は持てる力の限りを尽くして、このカードが実際に印刷されるよう頑張ったのだ。私がデザイン・リーダーを務めたありとあらゆるセットにこのカードをねじ込み、私がカードを作る機会のあったありとあらゆるセットでこのカードを提出した(つまりアライアンス以降の全てのセットでそれを行ったということだ)。

 何がこのカードが世に出るのを邪魔したのか? 何か、だ。毎回、「何か」がやって来てデベロップメント・チームはこのカードをふるい落とすか変更する必要に迫られた。いくつか例を挙げてみようか。

 テンペスト
 デベロップメント・チームは《大地の知識/Earthcraft》(註11)が似たような効果を持っていると感じた。両方とも土地に通常以上のマナを出させてくれる。彼らは《大地の知識/Earthcraft》のほうが「green Mana Flare」より面白いと感じた。

 ウルザズサーガ
 デベロップメント・チームは、もう少し常識にとらわれない感じにしたい、と感じたためこのカードを《花盛りの春/Vernal Bloom》(註12)にしてしまった。

 インベイジョン
 デベロップメント・チームは《過ぎたる実り/Overabundance》(註13)が気に入っており、これと「green Mana Flare」は同じセットには存在できないと判断した。

 ミラディン
 デベロップメント・チームは《超次元レンズ/Extraplanar Lens》(註14)が気に入っており、これと「green Mana Flare」は合わないと感じた。そして《超次元レンズ/Extraplanar Lens》は 刻印/Imprint というブロックの目玉キーワードを持っており、抜くことは出来なかった。
(註11) Earthcraft / 大地の知識 (1)(緑)
 エンチャント
 あなたがコントロールするアンタップ状態のクリーチャーを1体タップする:基本土地1つを対象とし、それをアンタップする。
 引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Earthcraft/

(註12) Vernal Bloom / 花盛りの春 (3)(緑)
 エンチャント
 森(Forest)がマナを引き出す目的でタップされるたび、それのコントローラーは自分のマナ・プールに(緑)を加える(そのマナは、その土地が生み出すマナに追加で加えられる)。
 引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Vernal+Bloom/

(註13) Overabundance / 過ぎたる実り (1)(赤)(緑)
 エンチャント
 プレイヤーがマナを引き出す目的で土地をタップするたび、そのプレイヤーは自分のマナ・プールにその土地が生み出すことのできる好きなタイプのマナ1点を加え、過ぎたる実りはそのプレイヤーに1点のダメージを与える。
 引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Overabundance/

(註14) Extraplanar Lens / 超次元レンズ (3)
 アーティファクト
 刻印 ― 超次元レンズが戦場に出たとき、あなたがコントロールする土地1つを対象とする。あなたはそれを追放してもよい。
 その追放されているカードと同じ名前の土地がマナを引き出す目的でタップされるたび、それのコントローラーのマナ・プールに、その土地から引き出された好きなタイプのマナ1点を加える。
 引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Extraplanar+Lens/

 それ以外のときもこのカードは似たような何かに押しのけられてきたわけだ。こういう扱いを受けたカードは今までに何枚も見て来た。では一体全体どうやってこのカードを神河物語に私がねじこんだのだろうか?

 私はやってない。Brian Schneiderがねじ込んだ。

 なんでかって?

 なぜなら彼はそれはどのセットにだって入るべきカードであり、これが収録されないのであればデベロップメント・チームなんて必要ないと思っていたからだ。それを知ったとき、私の第一声は「ああ、じゃあ、やっと収録されるのか」。

 私がこのカードから得た教訓はシンプルなものだ。

 ネバーギブアップ、さ。

 デザインとはその大半がひらめきだ。しかしそこには必ず努力も含まれている。セットにカードを加えたいと考えている未来のデザイナーたちへ伝えたいアドバイスは「必要なものは2つ。デザインの質と忍耐だ」。これら2つがあるのなら、どんなカードであってもいつかは目的地へ辿りつける。

 この話を終えるに当たってちょっとした余談を付け加えておきたい。《春の鼓動/Heartbeat of Spring》は第10版に収録されかけたが、R&Dは当時の環境はこのカードと距離を置くべきだと考えたため、脱落してしまった。

 これが何を意味するのか?

 これが意味するところは、これがいつか帰って来る、ということだ。いつ帰って来るか、だって? そんなこと知らないよ。私に分かっていることは、これから基本セットの選定を行うたびに私はこのカードを候補に挙げる、ってことさ。これがスタメン入りするまでね。10年と少しの年月の中で私が学んだことがあるとすれば、それは忍耐さ。


倍増の季節/Doubling Season - ラヴニカ
Doubling Season / 倍増の季節 (4)(緑)
エンチャント
いずれかの効果があなたのコントロール下で1個以上のトークンを出す場合、代わりにそれはその2倍の数を戦場に出す。
いずれかの効果があなたがコントロールするパーマネントの上に1個以上のカウンターを置く場合、代わりにそれはその2倍の数をそのパーマネントの上に置く。
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Doubling+Season/

 今まで私のコラムの中で幾度となく言及してきたことの1つに、いかにMark Gottliebと私が「ヒーロー」と「悪党」の役割をそれぞれ演じてきたか、ということがある(そのとおりだよ。私が「ヒーロー」だ。なんで誰も信じてくれないんだ!)。

 何にせよ、良い「ヒーローと悪党」の対立関係とは特定のトピックに関してその2人が異なる主義主張を持ち、それを理由とした継続的な衝突を通して作品の根底に流れるテーマをかすかに匂わせることにある。Mark Gottliebと私にもそのようなトピックがある。「Doubling(2倍)」だ。

 あれは、遠い昔のことだ。当時、私が持ち歩いていたデッキは緑青のウィニーデッキだった。マジックにはヴィンテージしか存在しなかった頃だ。構築フォーマットが1つしか存在しなかったんだ。所持するカードであればなんでも使えた(え? 分かった、分かった。確かに何枚かの制限カードと、数枚の禁止カードもあった)。

 私のデッキは、0/1や1/1のおチビさんたちを2ターン目か3ターン目に +20/+0 してあげることが全てだった。例えば、1ターン目に《極楽鳥/Birds of Paradise》を出したとする。対戦相手は、なんとお粗末な1ターン目だろう、と嘲笑し、当然その0/1の飛行クリーチャーを放っておいてくれる。

 2ターン目は、《森/Forest》+《Mox Sapphire》+《Black Lotus》+《不安定性突然変異/Unstable Mutation》+《巨大化/Giant Growth》+《Berserk》+《Regrowth》+《Berserk》で、パワー24の攻撃だ(引きが良すぎる? 確かにそうかもしれないが、正直自分でも驚くほどの回数の2ターンキルに今まで成功してきたよ)。(註15)
(註15) ~で、パワー24の攻撃
 以下のカードを組み合わせると、ひ弱な 0/1 も、24/7 のマッチョになる。ただし、次のターンのアップキープに死ぬ。理由を知りたい人は以下の簡略版ではなく《不安定性突然変異/Unstable Mutation》のテキスト全文を読むこと。

 《Mox Sapphire》
        :タップすると青1マナでる0マナのArtifact
 《Black Lotus》
        :生け贄に捧げると好きな色が3マナ出る0マナのArtifact
 《Unstable Mutation》
        :クリーチャーを+3/+3する青のAura。コストは(青)
 《Giant Growth》
        :クリーチャーを+3/+3する緑のInstant。コストは(緑)
 《Berserk》
        :クリーチャーのパワーを2倍にする緑のInstant。コストは(緑)
 《Regrowth》
        :墓地のカードを1枚手札に戻せる緑のSorcery。コストは(1)(緑)

 これが「Doubling(2倍)」と何の関係があるのかって? おいおい、話を聞いてなかったのか! 私の2ターン目には《Berserk》が2回出て来ただろう?

 6点のダメージを24点に変える方法なーんだ? 坊や、それは「Doubling(2倍)」よ。

 リバイスドが出た際、この《Berserk》は基本セットから脱落した。雑誌のThe DuelistでR&Dが《Berserk》の落ちた理由について「Doublingという効果が強力過ぎるため」と回答していた(念のため。これは私がR&Dに入るずっと前の話だ)。

 これを見たとき、私は固く誓った。私はこれからウィザーズ社に入社するべく粉骨砕身の努力をしてみせる。そして出世競争を勝ち上がり、このゲームに再び「Doubling(2倍)」を復活させる権限を持つだけの地位についてみせる。私はそれほどまでにこの「Doubling(2倍)」に惚れこんでいた。そうとも。マジックに「Doubling(2倍)」が復活するまで私が立ち止まることはない。

 カード案を提出する権利を得た私は「Doubling(2倍)」を持つカードを復活させた。もちろん、最初そこには抵抗勢力が存在したが、私は一歩も引くつもりはなかった。その頃の私は、ついにセットのリーダーという地位を手に入れていたからだ。私こそがデザインを左右する番人だった。「Doubling(2倍)」カードたちは前線へと送られていった。(私がリード・デザイナーを務めたセットかどうかを判断したければ、そこに「Doubling(2倍)」なカードがあるかをチェックすればいい。ちなみにフィフスドーンには3枚あるよ!)

 しかしそんな私が失念していたことが1つあった。

 ルール・マネジャーの存在だ。

 ルールは、ある種の値を「Doubling(2倍)」することを嫌った。例えば、クリーチャーのパワーだ。なぜそうなのかをここに書くことはできる。しかしそれをここに書いてしまうと、Mark Gottliebが口が酸っぱくなるほど「それは出来ない」と私に言い聞かせていることが「本当に出来ないのだ」ということを私が理解しているのがバレてしまう。

 そんなことはごめんこうむる。私の「Doubling(2倍)」探求の旅はまだ終わっていないからだ(なので、どうしても知りたければ、質問コーナーにMark Gottlieb宛てのお便りを送ってくれ。私はそれに目を通さないことを約束するよ)。

 そんなこんなで《倍増の季節/Doubling Season》だ。

 ラヴニカの緑が持つ主要なテーマは「Growth/成長」だ。緑白のギルドであるセレニアにとって、緑とは1/1トークンを作り出すことだった。黒緑のギルドであるゴルガリにとって、緑とは単体のクリーチャーを+1/+1カウンターで成長させることだった。

 なるほど、と私は考えた。

 緑はトークンとカウンターを作るとな?

 さて、どうやったら緑のこのテーマを活かせるだろうか。このとき、聖なる一条の光が空を覆う暗雲を貫いて私を照らし、賛美の歌が天高く空気を満たした。2つのものを「Doubling(2倍)」するカードを作ればいい。「Doubling(2倍)」を2倍にするんだ!

 その幸せな気持ちは私を不安にした。

 あまりに幸せだったからだ。

 私が作り出したそれはあまりに美しかった。そういったものが破滅の運命を辿るに決まっていることは、アメコミを読みこんでいる私には自明のことだった。「救おうとした私の力は届かず、最大の敵によって大橋から投げ落とされた彼女の首は無残にも砕かれる」運命にあるのだ(註16)。間違いない。Mark Gottliebはその巧妙に隠されたアジトで巨大なモニターに映る私を哄笑しているのだ。
(註16) 運命
 以下、原文。「Webbing」とあるので、スパイダーマンの1シーンが元ネタのはず。確か映画の1作目にそんな感じのシーンがあった気がする。漫画版は知らない。

  "Tossed off a bridge by my greatest enemy and broke her neck
  when I tried to save her with my webbing" doomed.

 我々2人が、次に遭遇したときの会話はこんな感じだった。
 Mark Rosewater(以下、MR):やあ、Gottlieb。

 Mark Gottlieb(以下、GB):ああ、Rosewaterじゃないか!

 MR:更新されたラブニカのファイルには目を通したかい?

 GB:ああ。

 MR:何か気になることはあった?

 GB:そりゃ、まあ色々とね。何かあったの?

 MR:……茶番はよそう。私がどのカードの話をしているのか分かってるはずだ。

 MG:ふむ、君は「Doubling(2倍)」を2倍するカードを作れると思ってるわけだね。

 MR:作ったんだよ。大丈夫かな?

 MG:もちろんさ。何の問題もないよ。

 MR:つまり、このまま印刷しても問題なしってことだね?

 MG:そうだね。「Double」って単語は「Twice」に置き換えたけど、後はそのままさ。

 MR:地獄に堕ちろ、Gottlieb!

 私がこのカードから得た教訓、それは感情の赴くままに行動せよ、だ。もしそれが君のデザインセンスを刺激するなら、他のメンバーのそれも刺激するはずだ。偉大なるカードは、天高く光る星に手を伸ばすところから生まれる。そして《倍増の季節/Doubling Season》に対して何らかの反応が得られたということは、彼らの何かを刺激したということだ。


光糸の場/Lumithread Field - 未来予知
Lumithread Field / 光糸の場 (1)(白)
エンチャント
あなたがコントロールするクリーチャーは+0/+1の修整を受ける。
変異(1)(白)(あなたはこのカードを、(3)を支払うことで2/2クリーチャーとして裏向きに唱えてもよい。その変異コストを支払うことで、それをいつでも表向きにしてよい。)
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Lumithread+Field/

 よくプレイヤーたちから、どこからアイデアを得ているんですか?、と聞かれる。私の回答は、そこら中から、だ。そもそも《光糸の場/Lumithread Field》は、私が自身に以下の制約を加えたところから始まる。「変異持ちのエンチャントを作れ」とね。

 それについて少し考えを巡らしたところで気づいたのは、私が作らねばならないエンチャントとは、非変異した際にちょっとした驚きを生み出すものでなければならない、ということだ(はいはい、非変異じゃなくて「表向きにする」ね。出るとこ出てもいいよ)。

 何らかのシンプルで静的な効果。キーワードは「シンプルな」だったので、私はこれをコモンにしたかった。なぜコモンか? なぜならクリーチャーでないパーマネントタイプで変異持ち
のサイクルを自分で作るとと決めていたからだ。

 土地はアンコモンのサイクルが決定しており、変異持ちのアーティファクトはコモンにはふさわしくない気がした。アーティファクトは基本的にコモンには向かないのだ。よってコモンに入れられるのはエンチャントのみだ。

 そして、紙とペンであれこれ考える時間は終わり、実際にカードを作る段階になった。

 最初期のバージョンは以下の通りだ。

  Swarm of Hell(註17)
  2B
  Enchantment
  All creatures get -1/-0.
  Morph B
(註17) 以下、非公式訳。

 地獄の大群/Swarm of Hell
 エンチャント
 すべてのクリーチャーは-1/-0の修整を受ける。
 変異(黒)

 今日の記事で紹介しているエンチャントたちは、その初期バージョンからすでに最終版のわずかな兆しを見せている。このカードも同様なのだが、少々分かりづらいかもしれない。一体全体、最終版にいたるまでに何があったのだろうか。そのためには全く違う場所に格納されているこのカードを見せる必要がある。

  Helpful Wards(註18)
  Enchantment
  2W,(T): Target creature gets protection from the color of your choice
  until the end of the turn.
(註18) 以下、非公式訳。
 有益なる護法印/Helpful Wards
 エンチャント
 2W, (T):
 クリーチャー1体を対象とする。あなたは色を1色選ぶ。それはターン終了時までプロテクション(その選ばれた色)を得る。

 このカードの効果は繰り返し使うには少々強すぎた。そこで私はタップ能力を持つエンチャントをあらためて作り直した。(このデザインは非常に未来的であると同時に私たちがかつて成し得たことのないものであると私は感じている。そして二度と成さないであろうとも)

 最終的にはこんなカードになった。
Witch’s Mist / 魔女の霧 (2)(黒)
エンチャント
(2)(黒),(T):このターンにダメージを与えられているクリーチャー1体を対象とし、それを破壊する。
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Witch%27s+Mist/

 そのとおり。白いカードを作ろうとしたデザインは最終的に黒いカードに終わったのだ。この黒いカードを私は気に入っていたが、1つ問題があった。黒のカードを作りすぎて白いカードが少なすぎたのだ。この問題を解決するべく、変異持ちのエンチャントは白に加える必要が生じた。

 私は《地獄の大群/Swarm of Hell》をまったく逆のものにする作業に入った。「すべてのクリーチャーは-1/-0の修整を受ける」の逆とは何か? それは「すべてのクリーチャーは+0/+1の修整を受ける」だろう。さらに、のちほど私は「あなたがコントロールする」を加えた。その方がなんか《城壁/Castle》っぽく、より白にふさわしいように感じられたからだ。

 このカードから得た教訓は、異なる地点に立つことで得られる利益の重要性だ。カードをある色から別の色へ移すことは、その色の観点からは見つけることのできなかった効用を発見してくれる役立ってくれることがしばしばある。

 デザインの回答に悩んだ際には、ちょっと時間をとって今いる地点とは違う別の角度からそれを眺めてみることをおススメする。私の好きな本「A Whack on the Side of the Head」から1つ引用させて欲しい。"The creative explorer looks for history in a hardware store and fashion in an airport."(拙訳:クリエイティブな人は、歴史について探求するべくコンピュータショップを訪れ、ファッションについて探求するべく空港を訪れる。)。

エンチャントの未来

 エンチャントのデザインの世界を巡る旅もこれで終わりだ。この「その2」が「その1」と同じくらい楽しんでもらえたなら幸いだ。(そうそう、先週から続々届いている「学校生活の中でマジックがこんな風に役に立った」話には楽しませてもらっているよ。これからもどんどん送ってくれ)

 来週はデザインという箱の中を(それともパックの中?)を覗きに行こうと思っている。

 それまで、平日が過ぎるのを楽しみに待っていてくれ。

コメント

お気に入り日記の更新

この日記について

日記内を検索