【翻訳】より良いエンチャントのために(その2)/Enchantment For Better Things, Part Two【Daily MTG】(前編)
Mark Rosewater
2007年7月2日
元記事:http://www.wizards.com/Magic/Magazine/Article.aspx?x=mtgcom/daily/mr286

 エンチャント週間その2へようこそ! ……おや? エンチャント週間の2週目に突入したのは私だけのようだ。たった1人のテーマ週間といったところか。考えてみたら、テーマ週間と言うよりテーマ日と言うべきかもしれない。

 私が何の話をしているのかさっぱり分からない、という人は、先週のコラムに目を通して欲しい(またの名を「エンチャント週間その1」(註1)だ)。先週のコラムで私は、私がデザインしたエンチャントが1枚でも収録されている10個のブロックそれぞれから、1つずつエンチャントを選び、それについて話すということを始めた。先週は、最初の5個について話し終えた。今週は6個目から10個目について話そうと思う。
(註1) エンチャント週間その1
 原文では以下のURLへリンクが張られている。内容は記事にあるとおり。
 http://www.wizards.com/Magic/Magazine/Article.aspx?x=mtgcom/daily/mr285

 以下、そのコラムの拙訳。
 http://regiant.diarynote.jp/201106220720372950/

 ああ、それと11個目についても。

 いや、どうやら私は、数字よりも文字を扱うのが得意なようだ。そう、私はエンチャントを11個のブロックに対して作っていたらしい(まあ、まだ君たちの目に触れていないものを数えてもよいなら、11個よりも多いことになるが)。もしかしたら神河ブロックを無意識のうちに除外してしまっていたのだろうか?

 いやいや、もしブロックを1つ除外してよいのであれば迷わずメルカディアンマスクスブロックを除外しただろうから、それはない。何にせよ、私は大したデザイン能力を持ってはいるが、その反面、どうやら2桁以上の数字を数えるのが苦手らしい。これが何を意味するかというと、今日のコラムでは1枚追加で話を聞けるということだ(11枚目のカードのためだけに3週目へ突入するのはいいアイデアとは思えないからね)。

 さて言うべきは言った。ショーを始めよう。


総体の知識/Holistic Wisdom - オデッセイ
Holistic Wisdom / 総体の知識 (1)(緑)(緑)
エンチャント
(2),あなたの手札からカードを1枚、追放する:あなたの墓地にあるカード1枚を対象とする。それがこれにより追放されたカードと共通のカード・タイプを持つ場合、そのカードをあなたの手札に戻す。(アーティファクト、クリーチャー、エンチャント、インスタント、土地、プレインズウォーカー、ソーサリー、部族がカード・タイプである。)
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Holistic+Wisdom/

 創作活動の現場において興味深い点の1つに、自身の作品の中でもっとも誇るべき作品がどれなのかに気づくのに、ある程度の時間がかかることがしばしばある、という点が挙げられる。良いデザインが出来たと作った直後に分かることもある。他方で、良さが芽吹くまでに時間がかかるデザインもある。私にとって《総体の知識/Holistic Wisdom》はそんなカードの1つだ。

 セットのデザインをする際には、基本的に大量のカードについてブレインストーミングを行う時間をとることにしている。セットのテーマについてまず考え、あとは考えの赴くままに任せることにしている。思索を終えたあとにはいつも手元に「(セット名) のカードアイデア、(No. N)」という名のファイルが残される。(N番目)の数字は、最後にブレインストーミングを行った際に用いた番号に1を足したものだ。

 以下のカード、《Exchanger》のアイデアは「Argonのカードアイデア、No.2」のファイル作成中に生まれたものだ(オデッセイはそのデザインの最中、「Argon」というコードネームを与えられていた。それに続くセットのコードネームは「Boron」と「Carbon」だった。様々なコードネームがどのように生まれるのかについて知りたければ、私のコラム「Codename of the Game」(註2)を読んでくれ)。
(註2) Codename of the Game
 原文では以下のURLへリンクが張られている。内容は記事にあるとおり。
 http://www.wizards.com/Magic/Magazine/Article.aspx?x=mtgcom/daily/mr33

 これがその《Exchanger》だ。

  Exchanger(註3)
  2
  Artifact
  3, T, Remove a card in your hand from the game: Return target card of
  the same card type as the removed card from your graveyard to your hand.
(註3) 以下、非公式訳

 交換する者/Exchanger (2)
 アーティファクト
 3, (T), 手札からカードを1枚追放する:その追放されたカードと
 同じカードタイプであるあなたの墓地のカード1枚を手札に戻す。

 その通り。《総体の知識/Holistic Wisdom》は最初アーティファクトだったのだ。

 なんでかって? よく覚えていないが、おそらくこういうことだろう。これは多分私の好きな2枚の古いカードを2枚かけあわせた結果なのだと思う。1つがレジェンドの《回想/Recall》、もう1つがダークの《オームの頭蓋骨/Skull of Orm》だ。

 私は《回想/Recall》が墓地のカードを手札と交換してくれるのを楽しんでいたし、カードを繰り返し使えるように《オームの頭蓋骨/Skull of Orm》を中心にしたデッキを作ることも楽しかった。推測するにオデッセイのテーマである墓地利用に焦点を合わせたとき、心がふらりと昔のお気に入りであった2枚の墓地利用カードへと飛んでしまったのだろう。

 カードタイプを共有するカードしか交換できないというのは、《回想/Recall》の「交換する」というメカニズムを残しつつもそれを少し制限することで繰り返し利用可能という危険性を弱めようする私なりの案だったのだろう。またその制限は今まであまり使ったことの無い方法だったので、試しに使ってみるのも面白いんじゃないだろうか、と私たちは考えた。

 そう決まったところで次の疑問がわいてくるのではないだろうか。どうしてこのカードは「緑」になったんだ?、という疑問だ。うーん。アーティファクトをデザインしている最中、たまに後頭部を軽くつついてくる何かがあるんだ。その何かが話しかけてきたと仮定しよう。こんな会話になりはずだ。
何か
  マーク!

  やあ、何かじゃないか
何か
  話があるんだ。このカードについてなんだけど……

  当ててみせようか。何かがおかしい、ってんだろ?
何か
  もちろん何かがおかしいのさ。だから僕が来たんだよ!

  冗談だよ、分かってるさ……で、何がおかしいんだい?
何か
  《Exchange》だよ。これについて話があるんだ。

  これが気に入らないのかい?
何か
  ううん。大好き。

  微妙かな。
何か
  ううん。メカニズムはいいと思うよ。

  もうちょっと簡単にしたほうがいい?
何か
  メカニズムはいいと思う、って言ってるじゃん!

  だとすると……?
何か
  これ、アーティファクトじゃないと思うんだ。

  アーティファクトでもいいんじゃない? 前にもこういうのあったよ。
何か
  アーティファクトでもいいかもしれないけど、有色カードのほうがもっといい。

  そうか、どの色でも出来ることじゃないもんな。
何か
  どの色でもいいなんて僕は言ってないよ。

  おいおい、随分とつっかかってくるなあ。分かったよ。
  要するにアーティファクトより単色カードにふさわしい、って話だね。
何か
  うん。

  じゃあ、何色がいいかな。
何か
  ねえ、僕は何者でもないんだ。アイデアを膨らませるのは僕の仕事じゃないよ。
  ここまで話を聞けただけでも運が良かったと思わなきゃ。
  本当なら自分で気づくべきことなんだよ。

  君が「それは緑だよ」って言うのを聞きたかっただけなんだ。
何か
  分かってるならなんで僕に聞くのさ?

  おいおい、私たちはそういう関係だろうに。
何か
  で、なんで緑なの?

  緑は再生の色だからさ。私は君の考えてることなら何でもお見通しだよ。
何か
  今あるカードのどれかと入れ替える?

  緑に欠員が出たらね。
何か
  出なかったら?

  単なる何かの割りには随分と頑張るね。大丈夫だよ、きっと必要になるさ。
  いつだって追加のカードは必要になるんだから。

 実際に必要になった。以下のカードが私たちによって亡き者にされたためだ。

  Twilight’s Regrowth(註4)
  2GG
  Sorcery
  Salvage 5GG #(If this card is in your graveyard, you may play it as though
  it were in your hand. If you do, its mana cost is 5GG, and remove it from
  the game as part of the spell’s effect.)#
  Return target card in your graveyard to your hand.
  Remove from the game all other cards in your graveyard of the same card type.
(註4) 以下、非公式訳

 黄昏の再成長/Twilight’s Regrowht (2)(緑)(緑)
 ソーサリー
 回収 (5)(緑)(緑)(もしこのカードがあなたの墓地にあった場合、
 あなたは手札にあるかのようにこれを唱えてよい。そうした場合、
 これのマナコストは(5)(緑)(緑)であり、呪文の効果の一部として追放する)
 あなたの墓地にあるカード1枚を対象とし、それをあなたの手札に戻す。
 あなたの墓地にあるそれとカードタイプを共有する全てのカードを追放する。

 ちなみに上記の Salvage というのは、デザインフェイズにおけるプレイテスト期間の flashback の仮名称だ。このカードはちょっとした混乱の元で、デザイン・チームはこれのスロットを埋める代替案を探していた。

 なるほど。「レア」で「緑」で「再利用の呪文」の代わりが欲しいとな?

 出番だぞ、《Exchanger》!

 そのようなわけで、《総体の知識/Holistic Wisdom》は緑に居場所を見つけたというわけさ。マナコストと起動コストに少し手を加えたほかは、オデッセイのデベロップメントチームもこのカードをそのままにしておいてくれた。

 このカードから得たデザイン上の教訓、それはデザインが向かおうとしている方向へ行かせてあげることが大事だということだ。私が最初このカードをアーティファクトとしてデザインしたからといって、それがあるべき姿だとは限らない。

 良いデザインとは、カードが息づき成長するのを見守り、自らのあるべき姿へ辿り着けるようにしてあげることだ(皮肉にもこれは実際の子供たちに対する姿勢に対しても同じことが言える)。脚本の授業で教師が教えてくれたことの1つに以下の言葉がある。「君のアーティストとしての仕事は、興味深いキャラクターを作ること、そして彼らが言いたいことを彼らの側から言わせることだ」


稲妻の裂け目/Lightning Rift - オンスロート
Lightning Rift / 稲妻の裂け目 (1)(赤)
エンチャント
プレイヤーがカードをサイクリングするたび、あなたは(1)を支払ってもよい。そうした場合、クリーチャー1体かプレイヤー1人を対象とする。稲妻の裂け目はそれに2点のダメージを与える。
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Lightning+Rift/

 物事が順調に進んでいれば、デザインチームはそのセットで新たに用いられる全てのメカニズムを記したファイルをデベロップメントチームへ手渡すことになる。しかし多くのセットではそうはいかなかった。私はデベロップメント側でいくつものカードが殺されてきたことをしばしば書いてきた。メカニズムについても同じことだ。

 デベロップメント側でメカニズムが亡き者にされてしまう理由は様々だ。パワーレベル、おかしなシナジー、ルール問題、テンプレート問題、単純にそのメカニズムがつまらないから、などなどだ。いずれにせよ、当時私たちはオンスロートの開発にどっぷりと浸かっており、かつ私たちは何らかのメカニズムを探していた。幸いなことにすでに私たちの手には変異のメカニズムがあったので、各セットに1つは必要となる革新的なメカニズムについては問題はなかった。

 私たちに本当に必要だったのは、汎用性の高い基本的なメカニズムだった。プレイしやすく、リミテッドを円滑に回し、現在あるいかなるカードとも上手く合わせられるような柔軟性の高いものだ。「分かるだろ、サイクリング(註5)みたいなものが必要なんだ」と私は言った。
(註5) サイクリング
 手札にあるときだけ使える起動型能力で、カードごとに設定されたコストを支払うことで「このカードを捨てる:カードを1枚捨てる」という効果を誘発する。カードによっては「サイクリングしたとき」に追加効果を誘発するものもある。

 そう、私たちに必要なメカニズムはサイクリングのようなものだった。私たちは何週間ものあいだ、アイデアをぶつけ合ったり意見を出し合ったりした。ある日、私が口に出した言葉がその作業に終わりを告げた。

「サイクリングみたいなものってサイクリングじゃないか?」

 それに対する回答は以下のとおりだ。

「サイクリングはサイクリング「みたいな」ものじゃない、それはサイクリングそのものだ! 同じものを単にもう一度使うなんて出来るわけがない」

 なんでダメなの?、と重ねて尋ねる。

「キーワードメカニズムをただ再利用するなんてしちゃダメだろう」

 なんで?、とまた尋ねる。

「各セットには革新的な何かが必要で、新たなメカニズムでそれがもたらされるからだ」

 私は、サイクリングでその革新的な何かを作り出せばいいじゃないか、と返した。

「そうだね。やってみたら?」

 だから私はやったのだ。

 私は、それは出来ないと言われたからという理由だけでそれをやりたくなるタイプの人間の1人だ(もしかしたら私の中の特に「ジョニーな部分」がそうさせるのかもしれない)。どちらにせよ、当時のサイクリングの扱われ方は少々保守的に過ぎた。革新的な変化を受け入れる余地は十分にあるはずだ。まず手をつけるべき場所ははっきりしていた。サイクリング・コストだ。それは十分に練られていなかった(註6)。
(註6) 十分に練られていなかった
 初登場時のウルザ・ブロックでは全てのサイクリングコストは一律に(2)であり、それ以外のサイクリングコストは一切存在しなかった。

 次に私は「サイクリングしたとき~」という効果を持つカードを作ってみた。よーし、エンジンが温まってきたぞ。この試行錯誤の最中に私が作ったカードの1つが以下のカードだ。

  Bolt of Lightning(註7)
  1R
  Sorcery
  CARDNAME deals 3 damage to target creature or player.
  Cycling R (You may pay R and discard this card from your hand to draw a card.
  Play this ability as an instant.)
  When CARDNAME cycles, CARDNAME deals 1 damage to target creature or player.
(註7) 以下、非公式訳

 稲妻の稲妻 (1)(赤)
 クリーチャー1体かプレイヤー1人を対象とする。
 ~ はそれに3点のダメージを与える。
 サイクリング (赤)(このカードを捨てる:カードを1枚引く。
 この効果はインスタントタイミングでプレイできる。)
 あなたが ~ をサイクリングしたとき、あなたはクリーチャー1体か
 プレイヤー1人を対象とする。~ はそれに1点のダメージを与える。

 私はこのカードが気に入った。このカードは私に興味深い選択を迫る。(1)(赤)で3点のダメージか、(赤)で1点のダメージとキャントリップか。そこで私はさらに貪欲になった。ダメージとキャントリップを両方得る手段はないか? ただサイクリングするだけで利益を得ることはできないか? この考えは、逆に他のカードをサイクリングしたときに効果が誘発するカードを私に思いつかせた。以下の通りだ。

  Standing Shocker(註8)
  1RR
  Enchantment
  Whenever a card is cycled, you may have CARDNAME deal 1 damage to
  target creature or player.
(註8) 以下、非公式訳

 立ちつくすショッカー
 1赤赤
 エンチャント
 カードがサイクリングされたとき、あなたはクリーチャー1体かプレイヤー1人を
 対象としてもよい。~ はそれに1点のダメージを与える。

 このカードと一緒に、「サイクリングしたとき」の効果を持つカードと(2)以外のサイクリング・コストを持つカードを携えて私はR&Dへ向かった。そしてこれらのサイクリングに関するカードをセットに入れるよう売込みをかけた。

 《立ちつくすショッカー/Standing Shocker》は明らかに良いカードだったが、それでもなお手直しが入った。マナコストが減少し、ダメージが増やされた。それからこのカードをレアにしようという話があがったが、私や他のR&Dメンバーは、このカードはリミテッドを面白くしてくれるはずだからアンコモンがふさわしい、と主張した。

 最後の変更として、その能力の起動コストにマナが追加された。その頃には、サイクリングがオンスロートブロックの大きな位置を占めることがデベロップメント・チームにも分かっていた。そのため、このカードが手におえなくなる可能性が常に見え隠れしており、起動にマナコストを必要とすることでカードの危険性を抑えたのだ(不思議なことに、誰も同じ調整が《霊体の地滑り/Astral Slide》にも必要だとは考えなかった)。

 このカードから得た教訓は、すでに用いられたアイデアを再分析することの価値だ。多くのカードやメカニズムは、そのうちにデザインの可能性が脈々と流れている。しばしばデザイナーは新しくて異なるものに惹かれてしまう。私はこれを「下手なフライドチキンの食べ方」と呼んでいる。

 たくさんのフライドチキンを食べてる人を見たことがあるだろう。彼らは各ピースから数口食べただけで次のピースに移ってしまう。次のチキンがたくさんあるせいで、もう少しの労力を使ってさらなる数口を得る努力を怠ってしまうんだ。

 デザインにも同じことが言える。アイデアに見切りをつけることは簡単だ。本当の挑戦とは、最初の数口を食べたあとのフライドチキンにまだ肉が残されて見つけることだ。その部分を得るにはさらなる労力を要するかもしれない。しかしそこにはそれだけの旨みがあるのだ。
後編へ続く
http://regiant.diarynote.jp/201107022102023807/

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