【翻訳】最も偉大なプレイヤーであるカイ・ブッディを偉大なプレイヤーであるPVがインタビューしてみた/From Great to Greatest【Channel Fireball】
2011年9月3日 翻訳 コメント (12)馴染みのないには分かりづらいかもしれないという理由でプレイヤー名については基本的にフルネームで訳している。例えばPatrick Chapinは原文で「Chapin」と呼ばれたり「Pat」と呼ばれたりしているけど、全て「Patrick Chapin」としている。また、文中の(註)は単なる注釈で、(訳註)は訳が怪しい箇所を指している。
【翻訳】最も偉大なプレイヤーであるカイ・ブッディを偉大なプレイヤーであるPVがインタビューしてみた/From Great to Greatest【Channel Fireball】
Paulo Vitor Damo da Rosa
2011年02月02日
元記事:http://www.channelfireball.com/articles/pvs-playhouse-from-great-to-greatest/
ハロー!
僕はインタビュー記事を読むのが大好きだ。だけど1つだけどうにも困っていることがある。新たな発見がないんだ。どうしてかというと、どのインタビューも僕がそれまでに一緒に調整したり対戦したりしたことがあるプレイヤーが相手なんだ。つまりそれなりに僕が知っている人というわけで、考えや実績についてある程度すでに知ってしまっているんだ。
だからインタビュー記事を見るたびに、僕が過去に話す機会が無かった人物や僕がすでに何かを学んだことのある人物以外、言ってみれば「僕の人生に登場したことのない人物」がインタビューの相手がだったらいいのにと思ってしまう。
BradとMatignonを相手にしたAntoineのインタビュー記事を読み終えたとき、自分の道は自分で切り開くしかないんだ、と覚悟を決めた。候補として、真っ先にある人物が思いついた。なぜならその相手は僕にとってあまりに謎に包まれた人物だったからだ。
全てのプレイヤーの中で、もっとも得るところのある人物であり、もっとも学ぶところのある人物であり、かつ僕が今までに一度も話したことのない人物。もっとも彼のインタビュー記事が過去に1つもないってことは、つまり皆にとって何が何でもインタビュー記事を読みたいプレイヤーではないらしいというわけで、ちょっと不安もないではない。
さて、紳士淑女の皆さま、マジックの歴史上もっとも成功したプレイヤーであるKai Budde氏をここにお招きしております!
まずはKaiにインタビューを受けてくれたことを感謝したい。このインタビューは非常に長いものだったし、これを受けることの労苦を耐えてくれたことを嬉しく思う。僕がこのインタビューを楽しんだのと同じように、君たちも楽しんでくれるといいな。
さあ、始めよう。
以下、青文字がインタビューしている側で、答えているのがKai Budde。
質問:
マジックを遊び始めたのはいつ、どのようにですか? 遊び始めたときからすでにトーナメント志向だったのでしょうか。それとも最初はあくまでホビーの1つとして始めたのでしょうか。
遊び始めたのは学校でかな。確か1996年だったと思う。僕にマジックを紹介してくれた奴はあまりトーナメントに興味を持ってなかった。僕らは多人数プレイで遊んでたね。同じ学校の別の子は地元のお店に行って、そこのトーナメントに参加してた。僕もそれについてって、そこの常連と友達になったんだ。
質問:
いつ頃から、単なるホビー以上のものとなったんですか?
そこの常連の人達は結構強かった。その中にドイツ選手権に第1回から全部参加しているプレイヤーたちが何人かいて、初めてレーティングが導入されたときその中の1人がドイツのトップに立ったんだ。
その人達はあちらこちらのプロツアーにも顔を出すようになって、そのうちFrank Adlerがアトランタで行われた最初(で最後)のプレリリースシールドデッキによるプロツアーを制した。そこで友人が高いレベルで成功するのを見たのが始まりかもね。
質問:
あなたはプロツアーの歴史上、最も成功したチームであるPhoenix Foundationの一員でした。このチームはどのようにして結成されたのですか? また、チーム名の由来があれば教えてください。
Dirk Baberowski(註)が地域の奉仕活動の為にケルンに引っ越してきたんだ。すぐに友達になったよ。
僕たちは当時ドイツで最も成功していたプレイヤーであるAndre Konstanzerを加えて、最初と次のチームプロツアーに参加した。だけどそのうちMarco Blume(註)もケルンに引っ越してきて、一緒にプレイテストをするようになった。次のチーム戦がいつどんな形式で行われるか分からなかったからチームの構成について議論した記憶はないな(訳註)。
トーナメントに出るにあたってチーム名を決めないといけなかったんだけど、ぶっちゃけ何も考えてなかったから、なんかネタに走るかって話になって、The MacGyverシリーズのPhoenix Foundation(註)からとることにしたんだ。
(註) Dirk Baberowski
Dirk Baberowski。ドイツのトッププレイヤーの1人でPhoenix Foundationの一員。
2008年に殿堂入りしている。
(註) Marco
Marco Blume。ドイツのトッププレイヤーの1人でPhoenix Foundationの一員。
(訳註) 次のチーム戦がいつどんな形式で行われるか~
原文「there was no real discussion as to what the line up for the next team event would be」
訳が怪しい。
(註) Phoenix Foundation
「The MacGyver」はアメリカのTVドラマ。日本でも放映されており邦訳は「冒険野郎マクガイバー」。「Phoenix Foundation(フェニックス財団)」はこのドラマに出てくる架空の組織。
質問:
マジックをやめたのはなぜですか? やめたことを後悔していますか?
単に興味がなくなったんだ。Maroco BlumeもDirk Baberowskiもやめてて、その時点でモチベーションを保つのはとても難しくなってた。マジックのための移動も結構大変だったし、楽しくも感じられなかった。
精力的にマジックをプレイできた5年間は楽しかったけど、その時点ではもう十分だった。そろそろ違うことを始める時期かなと思ったんだ。今は色んな場所のトーナメントに出かけるのも楽しいけど、それでも全部に出ようとは思えないね。
質問:
今現在のマジックとの「関係」はどのようなものですか?
やめてからしばらくのあいだ、マジックにはまったく触れなかった。それまでがやりすぎだったからね。まったく触れなかったのは多分ラヴニカブロックからローウィン・シャドウムーアのブロックまでずっと(訳註)かな。
新しいカードのチェックもしてなかったし、マジック・オンラインにもつないでなかった。プロツアーのカバレージも読んでない。
最中に一度だけ世界選手権に参加したかな。そのとき、時のらせんのリミテッドは少し遊んだし事前にカードも読んだけど、結局はトーナメント中もカードをその場で何度も読む羽目になったよ。
最近はもう少し遊んでるかもしれない。1週間に1回か2回はマジック・オンラインでドラフトしてるし、大体のトーナメントのカバレージは読んでるし、それと一緒にマジックの記事を読んだりもしてるよ。
(訳註) ラヴニカブロックからローウィン・シャドウムーアのブロックまでずっと
原文では「whole Lorwyn Ravnica、Lorwyn and Shadowmoor blocks」となっており、直訳すると「ローウィン、ラヴニカ、ローウィン・シャドウムーアのブロックまで全部」となってイマイチ意味が通らない。
よって最初の「Lorwyn」はタイプミスでないかと思われたので削った。
質問:
あなたの考えを聞かせて下さい。「普通の生活(仕事、学業、その他の趣味)」を送りながらプロとして成功することは可能だと思いますか? もしくは、マジックにかけなければいけない時間とマジックのために必要な移動を考えるとそれは難しいと思いますか?
学校や大学との両立は可能だと思うよ。ただ優先順位については本当に気をつける必要があるけどね。マジックを遊び過ぎて単位を落とすのは本当に簡単だから。一度でもマジックの大会のために試験をさぼるようになったらもう本当に手遅れだ。
勤務時間が8時-5時の普通の仕事となると見込みなしだね。移動に時間をとりすぎるんだ。もし本当に他に一切の趣味がなくて、有給を全部マジックのイベントのために消費できて、かつ上司の理解が得られればいけるかもしれない。ただ僕に言わせれば、ストレスの溜まる生活になるだろうね。
質問:
マジックのプロとして生きていくのは昔より楽になったと思いますか? それとも難しくなったと思いますか?
個人的な意見だけど、実際問題、マジックの大会だけで生きていくのはかなり厳しいだろうね。当時だってそんな簡単じゃなかったけど、今よりはずっと簡単だったよ。
マジック・オンラインがある世界とない世界、マジックの平均レベルの差を考えてごらんよ。今とは比べ物にならなかった。10年前よりも平均的プレイヤーのレベルはずっとずっと上手くなってる。
もちろんプロ・プレイヤーたちのレベルもずっと上がってる。彼らにだってマジック・オンラインは助けになってるからね。だけどマジックはチェスとは違うんだ。テクニックより運の要素が占める割合が大きくなる段階までは結構簡単に辿りつける。
それに最近の例で言えばLSV(註)とプロ・レベル4のプレイヤーとの差は、昔で言うグレイビートレイン(註)に乗ってるプレイヤーとJohn Finkel(註)の差ほどは開いてない。だから運の占める割合は以前よりずっと大きい。それと今のプロプレイヤーズクラブ(註)の恩恵も以前のマスターズや年度末の支給額に比べると随分見劣りするしね。
(註) LSV
Luis Scott-Vargasの略。トッププレイヤーの1人であり、Channel Fireballのチームの一員でもある。説明不要な気もする。
(註) グレイビートレインに乗ってるプレイヤー
原文では「Gravy Trainer」。一定数以上のプロポイントを保持しているプレイヤーは無条件にプロツアーの権利を得られた。権利保持者のことを「自動的にそこまで連れてってもらえる = 直通電車に乗ってる」的なイメージで「グレイビートレインに乗ってる」と呼んでたらしい。本当かどうかは知らない。
(註) John Finkel
マジック史上最強は誰かという話になると、Kai Buddeとこの人の名前しか出てこないくらいすごい人。当然のように殿堂入り。2003年頃を最後に引退したと思ってたら、2008年のプロツアークアラルンプールでいきなり優勝してた。どんだけだよ。
(註) プロプレイヤーズクラブ
マジックの規模の大きい大会で入賞すると順位に応じてプロポイントが得られ、年間で一定数以上のプロポイントを得たプレイヤーはその点数に応じて特典を得られる。このことを指してプロプレイヤーズクラブと呼ぶ。
質問:
グランプリ・パリとプロツアー・パリ(註)には参加しますか? その他のプロツアーは?
もちろんパリには行くつもりだよ。なんとか仕事の都合をつけられれば、身近なイベントには出来る限り参加したいって考えてる。例えばヨーロッパ開催のプロツアー、あともし出来ればアメリカ東海岸で開催される奴もかな。飛行機に乗ってまで太平洋周辺の地域の大会に出ることはあり得ない。銃で脅されでもしない限りはね。
(註) グランプリ・パリとプロツアー・パリ
その後、Kai Buddeはこのグランプリ・パリに参加しベスト8に入っている。
質問:
あなたの現役のピーク時、大会で特に当たりたくないプレイヤーはいましたか?
Ben Rubin(註)との対戦戦績はあまり良くなかったかも。
(註) Ben Rubin
Kai Buddeが現役の頃のアメリカのトッププレイヤー。前述のDirk Baberowskiと同じく2008年に殿堂入り。
質問:
いきなり明日、プロツアーに参加しなければいけない、という状況に陥ったとします。あなた自身は一切のテストプレイをしていませんが、かわりに好きなプレイヤーの完全な75枚コピーデッキを使っていいことになりました。誰のデッキをコピーしますか?
もしそれが2000年のプロツアーだったら、Dirkのデッキをコピーする。もし彼がちゃんとプレイテストをしてたならね。テストしたかどうかで全然変わってくる。Dirkはよくプレイテストしないで適当なデッキをひっつかんでくることがよくあったから、もしプレイテストしてないならBen Ronaldsonのデッキをコピーするよ。Benはたまにとんでもないデッキを使うけど、少なくとも数百回は回してみたデッキであることが保障されてるからね。
最近のプレイヤーとなるとちょっと難しいな。
Gabriel NassifとPatrick Chapin、LSVとBrad Nelsonあたり(註)はコンスタントに良いデッキを持ってる気がする。だけどLSV、Gabriel NassifとPatrick Chapinは追いつめられるととんでもないデッキを作るからなあ。例えば彼らが世界選手権で使った4色か5色のコントロールデッキとかね。あれはひどかった。
青は僕も好きだけど、ときどきちょっと行きすぎちゃってる人がいる。ウィザーズ社のコントロールデッキをとことん弱体化させようとするのに対して、Patrick Chapinがまだ弱くないって証明するべくプレイし続けてるのはまるでチキンレースだね。
どちらにせよ選ぶとしたらGabriel Nassifかな。僅差でBrian Kiblerが2位。この2人は必ずテストしたデッキを使うし、いつも環境を十分に把握してる。Brian Kiblerのいいところは特定のアーキタイプに固執しないこと。島をスリーブに入れるのが好きなタイプではあるけど、《野生のナカティル/Wild Nacatl》が旬だと思えば喜んでそれをプレイできるプレイヤーだよね。
(註) Gabriel NassifとPatrick Chapin、LSVとBrad Nelsonあたり
原文では「Gabriel/Chapin and LSV/Brad」とスラッシュで区切られているんだけど、単なる羅列ではなく何か意味があるんだろうか。まさかカップリングなわけないし。
質問:
私がよく聞くところでは、マジック史上もっとも才能あるプレイヤーはJohn Finkelであり、あなたが史上最強のトーナメントプレイヤーになれたのはテクニックだけでなく練習も上手かったからだと言われています。これは公平な意見だと思いますか?あなたの成功が主に練習によるとところなのか、テクニックによるところなのか、もしくはそれらの組み合わせが上手くいったからなのか、どれだと思いますか?
組み合わせだよ。常にね。
John Finkelのピーク時は彼の周辺にいたプレイヤーたち(Steven O’Mahoney-Schwartz、Bob Maher、Jamie Parke)もほぼピークだった。僕がピークを迎えたときはDirk BaberowskiやMarco Blumeが絶好調で頻繁にプレイもしていた。John Finkelが衰えてったのは彼の周辺のプレイヤーたちがプレイしなくなっていった頃で、実のところ僕もほぼ同じだ。
彼はある時期プロツアーに君臨していて、それからしばらくは僕が君臨していて、その後は何人かの日本人プレイヤーとGabriel Nassifがその座を引き継いだ。このプレイヤーたちを単純に比較することはできないと思うよ。何しろ彼らが対戦したプレイヤーたちのレベルも全然違うし、対戦したゲーム自体も本質的には全く違うものだしね。
質問:
当時、トーナメント対策としてどのような練習をしましたか?
2000年の当時は僕はまだ学生だった。週末の休みを使うのは馬鹿みたいに簡単だったよ(訳註)。ショップでは週に1回ドラフトが行われてた。Dirk Baberowskiとは2人でよく対戦してた。他のプレイヤーともしてたけどね。大半はMarkus Bell、Thomas Esser、やTim Gloecknerとプレイしてた。
Dirk Baberowskiの家に何度か集まったこともある。そこにはドイツ人プレイヤーが何人かいたり、単にPatrick MelloとMarcoと僕だけだったりで何日か過ごした。だけどプレイテストに占める一番大きい割合はApprentice(註)かな。
この頃のハイライトは母が、あなたに手紙が届いたわよ、って言ったときだね。開けてみたら、Warren Marsh(註)からの手書きの手紙で内容はメタゲームに関する彼の推論だった。
あとは少数のプロで構成されたIRCチャンネル(註)があって、参加してたのはJelger Wiegersma、Gary Wise、Raphel Levy、Dirk、Anton Jonson、Mattias Jorstedt……あと今すぐは思い出せないけど他にもいたはず。
それと当時はNetDraftでよくドラフトしてた。そんなにいいものじゃなかったけどね。何しろドラフトしたデッキは実際にプレイしたとしても多くて1マッチ程度だったし。だけど、それでもないよりはずっとマシだった。
(訳註) 週末の休みを使うのは馬鹿みたいに簡単だったよ。
原文は「it was annoying enough to get the weekends off」。素直に訳すと「週末を休むのは十分に腹立たしかった」となるけど「まだ学生だった」んだからそんなわけないだろ、と思って意訳。ツッコミ待ち。
(註) Apprentice
マジックオンライン以前にネットで対戦するためによく用いられていたフリーソフト。日本でも使われていた。
(註) Warren Marsh
イギリスのプレイヤー。2000年のプロツアーニューヨークで準優勝、2001年のグランプリロンドンで5位に入賞。それ以上はちょっと分からなかった。
(註) IRCチャンネル
IRCは「Internet Relay Chat」の略で要するにチャットのこと。最近あまりチャットって聞かなくなった気がする。そうでもない?
質問:
サイド後のテストもたくさんしましたか?
基本的にはサイドボードのテストはしてなかった。それでも特定のカードがどの対戦で抜群の効果を発揮するかは常に頭に入れてたよ。あとデッキの候補を2つから3つくらいまで絞り込んでからは、最善のプレイを探るためにサイドボード戦もテストしてた。
質問:
よく議論にあがるトピックの1つにプレイテストにおける「巻き戻し」があります。これに対するあなたのスタンスを教えてください。
僕たちがプレイテストするときはよく巻き戻してたよ。テストプレイ時は自分も相手も、実際の大会で対戦するときほどに互いのデッキに慣れてないからね。
マジックオンラインでテストするときに大きな問題となる点でもある。巻き戻せないからね。
アムステルダムの大会の前にGabriel NassifとJohan(註)とプレイテストしてたときかな、誰かがとんでもないミスをしてしまって残りのゲーム展開は全部想像しながらやるしかなかったことが何度かあった。実際の試合だとそんなミスクリックやミスプレイは起こりようもないから、テストプレイをする上では困りものだね。
(註) Johan
原文にはフルネームがない。おそらくスウェーデンのJohan Franzenのことと思われる。グランプリ・ストックホルムで入賞してる。まさか伝説のクリーチャー《ヨハン/Johan》じゃなかろう。
質問:
どれほど事前から大会で使うデッキについて把握していましたか?
最近のプレイヤーたちと同じじゃないかな。イベントの1週間か2週間前になってからデッキを用意し始めたり、ときには前夜になって泣きながら調整したり。
質問:
前日はいつも十分な睡眠をとることにしてた。あと最低限、準々決勝のプレイテストだけはたくさんやっておいた。大体の場合は予想される準決勝のテストもしてた。何人かとサイドボードについて議論したりもしてた。僕のほうが対戦相手よりも準備万端なことが多かったから、そんなに焦りを感じたこともないな。前にも説明したようにポジティブになれるだけの要素がたくさんあったからね。
試合数が3マッチに絞られるってことはマッチアップの相性が占める割合がグンと高くなる。僕が優勝した世界選手では、何人かの選手がタイブレーカーのせいでトップ8を逃してた。その中にはJohn Finkelもいた。僕のデッキは彼のデッキとの相性が最悪だったけど、彼が落ちたかわりにトップ8の準々決勝と決勝で対戦できたのが2つのアーティファクト除去なしの土地破壊デッキだった。僕のデッキはマナソース42枚入りのワイルドファイアデッキだったってのにね。
あとはニューオーリンズ(註)の準々決勝と準決勝で当たった相手が両方とも僕のデッキに対して分の悪いリアニメイトデッキだった。
ミスプレイしつつも勝っちゃった試合ってのはほとんどなくて、大抵のトップ8の試合でそんなヘマをやらかしたって記憶はないことも大きいかな。初めてのプロツアートップ8で勝ったときがとても簡単なマッチアップばかりだったおかげで、以降はそんな緊張することもなかった。それが対戦相手にも伝わったんじゃないかな。
(註) サンデープレイヤー
原文では「Sunday player」。プロツアーは土曜と日曜に行われ、初日の足切りに残ったプレイヤーだけが2日目、つまり日曜日にもプレイを続けることができる。そこから、2日目まで残れるプレイヤーを「Sunday Player」と呼ぶ……はず。ここの説明が間違ってた。プロツアーは基本的に金曜から日曜にかけて行われ、1日目で足切り、2日目でトップ8を決め、3日目にトップ8によるトーナメントが行われる。トップ8に残ったプレイヤーが「Sunday Player」。
(註) ニューオーリンズ
2001年のプロツアーニューオーリンズ。《寄付/Donate》で《Illusions of Grandeur》を押しつけるドネイトデッキで優勝している。
質問:
「勝ちを狙える」以外の点でデッキに求めるものはなんですか? どんな点がデッキの好き嫌いを分けますか?
僕が嫌いなのは例えばフルバーンデッキのようなタイプのデッキだ。
パワーカードが満載されたアグレッシブなデッキは問題ない。《呪われた巻物/Cursed Scroll》や《火炎破/Fireblast》や最近の吸血鬼デッキみたいなデッキはね。でも例えば「(赤) 対象の対戦相手に3点のダメージを与える」みたいなカードをプレイするようなデッキは絶対に使いたくない。
何にしても大体の場合は、僕の個人的なプレイスタイルに合う合わないじゃなくてその時点で一番強いと思うデッキを使うことにしてる。
質問:
あなたの個性(Characteristic)の中でもっともマジックに役立っているものはなんだと思いますか?
集中力を失わないこと。それがグランプリで一番助けになることじゃないかな。5時間以下の睡眠しかとれなかったあと、2日目に参加してそのままトップ8まで残るってことは、当時のグランプリだと朝の8時から深夜以降までプレイし続けるってことだからね。毎回じゃないけど。それに運営の手際は今よりもずっと悪かったし、当然プレイヤーにも影響は出たよ。
集中力のおかげで残れたってところは大きいかな。
質問:
プロツアーに参加するために旅行するとき、街や観光名所を見て回るために時間をとりましたか? それともプロツアーはビジネスだと割り切ってましたか? マジックのために旅行した場所の中で一番良かったところはどこですか?
大抵の場合、空港とホテルと会場しか行かなかった。3週間ごとに旅行してると、観光もすぐ飽きてくる。それとヨーロッパの大都市にそれほど大きな違いがあるとは思えないよ。今となってはアメリカもそうかな。
大会の開催地が興味深い場所だったときはたまに長めに滞在したりもしたけどね。余談だけど、僕からのアドバイスとしては、観光旅行の予定は大会の後に持ってきたほうがいい。
オーストラリアは最高だったな。シドニーでの世界選手権のあと3週間余計に滞在して観光旅行をしたよ。もっとも3週間じゃ全然足りなかったけどね。それでもChristoph LippertやJohn Ormerodみたいな東海岸をドライブしたのは本当に楽しい時間だった。それに対して、コロンブス、フィラデルフィアやマドリッドみたいな場所(註)で過ごした1週間の休暇はそれほどでもなかったかな。
(註) コロンブス、フィラデルフィアやマドリッドみたいな場所
コロンブスは2004年にプロツアーが開催されている。フィラデルフィアは2005年にプロツアーフィラデルフィアが開催されている。マドリッドは2004年にグランプリが開催されている。
質問:
大きな大会の際、時差ぼけ対策として何かされていましたか?
幸いなことにアメリカへ旅行するときは時差ぼけの心配をしなくていいんだ。(註) 問題になるのは4~5回に1回くらいの割合で開催されてた日本での大会のときだけだね。アメリカへ移動するときはいつもより6~7時間余計に起きてないといけないだけだから特に問題はなかったよ。
(註) 時差ぼけの心配をしなくていい
アメリカ東海岸の平均的な時差はGMT-5時間、ドイツはGMT+1時間。アメリカの午後6時がドイツの深夜0時になる計算なので、ドイツからアメリカへ行くと早寝早起きになる。基本的に逆の移動のほうがきついとされている(夜になっても眠れず、夜明け頃に急激に眠くなる)。
質問:
間違いなく殿堂入りに値するのに全然注目されていないと考える人物はいますか?
最初に言いたい事として、殿堂入りプレイヤーは多すぎて困ることはあっても少な過ぎて困ることはないと思ってる、ってこと。1シーズンだけで他のプレイヤー全てを置き去りにするような成績を残すプレイヤーがいきなり3人も4人も毎シーズン現れたりすることはないよ。
少なくとも「すごいな、あのプレイヤーは間違いなく最高だ!」って思わず言ってしまうようなプレイヤーを毎年新たに4人も見つけたりしないよね? それだけの強さがあってトーナメントに君臨できるだけのプレイヤーってのは、1シーズンだけじゃなくて大抵の場合もっと長い期間にかけて実績を残してるもので、毎シーズンごとにそんな多くの殿堂入りプレイヤーを選出していいものなのかな、ってのが僕の意見だ。
それを前提として、個人的にはWilliam Jensen(註)はもうちょっと注目を浴びてもいいと思う。
(註) William Jensen
マスターズ優勝1回、グランプリ優勝1回、トップ8入賞多数のアメリカ人トッププレイヤー。生涯通算プロポイント214点。2011年度の殿堂入り投票では5位に入っている。
質問:
今年あったようにプレイヤー・オブ・ザ・イヤーが同点首位になった際、もっとも良い決定方法はなんだと思いますか?(註)
構築済みフォーマットで1試合(A single match)行うだけってのはダメだろうね。相性の影響が大きすぎる。その丸々1シーズンの結果を使ってタイブレーカーをすべきだと思う。具体的にどうすればいいのかは分からないけど、何か方法があると思うな。
例えば、全てのプロツアーの結果の平均を取るとか、【獲得した総プロポイント数】を【全てのイベントで獲得可能な総プロポイント数】で割るとか、とにかく1回のマッチで決めてしまうよりふさわしいタイブレーカーの指標として使える方法はいくらでもあると思う。
まあ、結局は称号とトロフィーの話だからあまりこの議論に意味はないかもね。称号のためよりも大きい何かのためにプレイしているというのなら、1試合するだけの価値はあると思うよ。(訳註)
(註) プレイヤー・オブ・ザ・イヤーが同点首位
プレイヤー・オブ・ザ・イヤー(年間最優秀選手賞)はある1つのシーズン中にもっとも多くのプロポイントを稼いだ選手に与えられるタイトル。去年度はGuillaume MatignonとBrad Nelsonが同点となったため、2011年に首位決定戦を行った。形式については以下のサイトの中段付近にある訳註を参照のこと。
年間最優秀プレイヤー決定戦(カバレージ)
http://coverage.mtg-jp.com/ptparis11/article/001226/
(訳註) 称号のためよりも大きい何かのためにプレイしている~
原文では「If you have a match, it would be better if they were playing for more than ’just’ the title」。訳に自信がない。
質問:
インビテーショナルカード(註)についてどう思いますか?
分かってくれると思うけど、僕があのカード(註)を作ったんじゃないよ。どのインビテーショナルでもみんなが提出するのはぶっ壊れたカードばかりで、開発側がそれらを見て勝手にあれやこれやとするのさ。だから《非凡な虚空魔道士/Voidmage Prodigy》のデザインに僕は一切かかわってない。僕が提出したのはこんな感じのカードだった。
(青)
エンチャント(場)
あなたの対戦相手は、手札を公開したままプレイする。
(青)、~を生け贄に捧げる:カードを1枚引く。
(青)(青)、~を生け贄に捧げる:呪文1つを対象とし、それを打ち消す。
それと、Chris Pikulaが提出したのはこんな感じだったけど、実際は《翻弄する魔道士/Meddling Mage》が作られた。
random scrub (1)(青)(青)
クリーチャー
random scrubが場に出るに際し、呪文の名前を1つ指定する。
random scrubを生け贄に捧げる:指定された呪文を打ち消す。
2/3
実際のところ最終的にそのカードが、ぶっ壊れたものになるか、キャンプファイアーの燃料にしか使えないものになるかは運任せ以外の何ものでもない。
それはそれとして、プレイヤーがカードをデザインするという企画(註)を止めてしまったのは不思議でしょうがないね。いいアイデアだと思うんだけど。だってどうせ提案されたカードをまったく違ったものにしてしまうことだって出来るんだから難しいことなんて何もないはずだし、そういう企画なら毎セットごとにやっても問題ないと思う。
あと、個人的な意見だけど、世界選手権の優勝者かプレイヤー・オブ・ザ・イヤーは自分だけのオリジナルカードを持つ権利があると思う。そうすればこれらのタイトルの価値もプロツアー優勝より上になるし、オリジナルカードを作るってのは誰にとっても最高のことだしね。
(註) インビテーショナルカード
優勝者は好きなカードを1枚作れるというトーナメントがインビテーショナル。その名の通り、招待制のイベントでこれに招かれた時点でトッププレイヤーと認められたことになる。
参加するプレイヤーが作ったカードがインビテーショナルカード……ということになっているが、実際は優勝者の提出したカードを開発側がバランスのとれたもの(もしくは全くの別物)に作り替えてから印刷される。
(註) あのカード
Kai Buddeがインビテーショナルで優勝した際に作られた《非凡な虚空魔道士/Voidmage Prodigy》のこと。名目上は、Kai Buddeがデザインしたカード、ということになってしまっている(と言えなくもない)。
(註) プレイヤーがカードをデザインするという企画
インビテーショナルとは別に「カードを作るのは君だ!(You make the card!)」という企画が今までに公式サイトで3回行われており、プレイヤーからの応募やプレイヤーによる投票などで新カードが作られている。最後に行われたのは2005年で、それ以降は行われていない。
全くだ!
最後にまとめて質問。
好きなデッキは?
ネクロドネイト
好きな色は?
青
好きなフォーマットは?
チームロチェスタードラフト
好きなカードは?
《変異種/Morphling》
好きな映画は?
パルプ・フィクション (その通り、おっさんだよ、僕は)
好きな「名前がPで始まる
ブラジル人プレイヤー」は?
Carlos Pomao
(ちぇっ)
好きな本は?
ベルガリアード物語とマロリオン物語
好きな食べ物は?
よく変わるから特に何ってことはない
Kai Budde、本当にありがとう! 君たちも楽しんでくれたなら幸いだ!
また来週!
以下、この記事につけられていた58個のコメントのうち、最初のほうのいくつかだけ紹介しておく。
Zaiem Begのコメント: February 2、2011 @ 9:07 pm
念のために追記。
今回の記事のタイトルを決めたのも、トップページに概略を書いたのも僕だ。PV本人じゃない。誰かが「おいおい、PVの奴、自分で自分のことを偉大だって言ってんのかよ! うぬぼれやめ!」って言う前に書いとくよ。
君が「ってことはやっぱりKai Buddeが『最も偉大』だったのか? それともJohn Finkel?」って悩む前に言っておくと、分かって欲しいのは「偉大なるプレイヤーから最も偉大なる2人のプレイヤーのうちの1人へ(もしかしたら最も偉大なるプレイヤーは1人かもしれないけど、最も偉大と呼ぶことに問題はないと思う)」って書いたほうが確かにより正確かもしれないけどタイトルにはふさわしくないよね。
kyle boggemesのコメント:February 2、2011 @ 9:26 pm
素晴らしい読み物だった
aeoncsのコメント:February 2、2011 @ 9:55 pm
いい記事……Kai Buddeがトップ8だった頃のビデオでも引っ張り出してみようかな
Ramelaのコメント:February 2、2011 @ 10:16 pm
いいね。LSVに次のオールスタードラフトにKai BuddeとJohn Finkelも呼ぶよう、今すぐ伝えておいてくれ!
Adamのコメント:February 2、2011 @ 10:28 pm
素晴らしいね。
GOATにインタビューしたことは責められないね。
Kenseidenのコメント:February 2、2011 @ 10:52 pm
ファンタスティック!、と呼ぶにふさわしい
PKCOのコメント:February 2、2011 @ 10:59 pm
Carlos Pomaoには笑わせてもらった
Carlos Pomaoと言えば、彼のインタビュー記事を書く予定はないのかな? 同じ国のプレイヤーだし、前世界王者だし、今現在のMTGO WCだし、いいと思うんだけど。MTGOがどれだけブラジル人のマジックに影響を与えたか、それと彼のスイッチを切り替えるのに役立ったか、などなど、とても興味がある。
Name (required)のコメント:February 2、2011 @ 11:00 pm
>好きな「名前がPで始まる
>ブラジル人プレイヤー」は?
> Carlos Pomao
>(ちぇっ)
笑った
Sphynxxのコメント:February 2、2011 @ 11:07 pm
最後の質問が面白すぎる。
PVの自虐的なところもナルシスト的なところもどっちも好きだ。
Jeffのコメント:February 2、2011 @ 11:24 pm
素晴らしいインタビューだった
sigurdのコメント:February 2、2011 @ 11:57 pm
何かに関して公言することで、それがなんであれ受け入れられるようになるってのは面白いところだよね(上記のナルシストうんぬんに関して)
コメント
ところで、「質問:プロツアーに10回参加して~」の部分ですが、kaiはプロツアートップ8が10回でそのうち7回優勝しているはずです
あまりに信じられない成績なので誤訳してしまうのももっともですが(笑)
そんな馬鹿な、と思ったら本当ですね……Kai Buddeを甘くみてました。
ありがとうございます。訂正しておきました。
まさにカップリングです。
Gabriel/ChapinとLSV/Bradは調整チームメンバーとしてインタビュー当時は機能していました。
まさか本当にコンビだったとは……調べたつもりだったんですが、辿りつけませんでした。
人と人とのつながりを確認するのは意外と難しいです。ありがとうございました。
長文の翻訳お疲れ様でした!
翻訳出来るのは凄い。。。
リンクさせていただきました!
訳注のサンデープレイヤーについての説明ですが、PTは基本、金土日の3日開催です。
だからこそ3日目=Top8 only=サンデープレイヤーとなります。
一点、質問の上から二つ目が重複してるというかなんというか、うまく表現できませんがおかしなことになってますよー。
楽しんでもらえたようで何よりです。
同じく翻訳出来る人はすごいと思います。ちゃんと出来る人になりたい。
>読者の人
>サンデープレイヤーについての説明ですが、PTは基本、金土日の3日開催です。
うわ、本当だ。ありがとうございます、直しておきました。よくよく確認してみたら、
Kai Buddeの「2日目にトップ8まで決めるのに朝8時から深夜まで~」はGPに限った話ですね。
>みそさん
>一点、質問の上から二つ目が重複してるというかなんというか
確かに表現に困る事態になってましたね。
こういうのって自分だと気づきづらいので助かります。ありがとうございました。
(damn it) はブッディが書いたのかと思ってました。「カルロス・ポマオだ(なんだこのくそ質問)」みたいなニュアンスかと思ってたです。でも斜体になってるのは多分そういう意味なんでしょうね。
>(damn it) はブッディが書いたのかと思ってました。
>「カルロス・ポマオだ(なんだこのくそ質問)」みたいなニュアンスかと思ってたです。
個人的には「Damn it」は期待や予想が外れたとき(=今回のように)に使うイメージがあります。
まあ、最後には書いた本人しか分からない話になってくんですけどね。
ちなみに、「there was no real discussion as to what the line up for the next team event would be」の訳は単純に、「(Marcoが引っ越してきたんだけども、)次のチームイベントのメンバーについてはその時は深く話してなかったよ」って感じだと思いますー。Marcoが引っ越してきたことによって4人になっちゃいますからね。
>単純に、「(Marcoが引っ越してきたんだけども、)次のチームイベントの
>メンバーについてはその時は深く話してなかったよ」って感じだと
おそらくその場合「Line Up」というのは「チームメンバーの顔ぶれ」のような意味ですよね。うーん、偏見かもしれませんが、どうもラインナップというと非生物を指すイメージがあるのです。外来語で使われる際のニュアンスを引きずってるせいかも。