【翻訳】墓地にまつわるイニストラードのカードたち/Graveyard Shifts【Daily MTG】
Tom LaPille
2011年11月18日
元記事:http://www.wizards.com/magic/magazine/article.aspx?x=mtg/daily/ld/169
イニストラードのテーマは墓地であり、墓地はイニストラードのメカニズムの心臓そのものだ。
公式の検索機能であるGathererで軽く調べただけでも分かるように、イニストラードの基本地形を除いた全249枚のカードのうち69枚に「墓地」という言葉が含まれている。そのうちフラッシュバックを持つカードは27枚だけだ。
その他にも17枚のカードに「死亡する(dies)」という言葉が含まれ、9枚に「死亡した(died)」という言葉が含まれている。これらはつい最近まで「墓地」という言葉で表現されていたものだ。
なかなかのカード枚数だろう?
私たちはデベロッパーとして、墓地をデザインの対象として掘り返すことに潜む危険性については理解しているつもりだ。それにはいくつか理由があり、その大半はこのイニストラードの開発中にも様々な形で顔をのぞかせてきた。
今日はそれらの問題点を表面化させたカードたちを紹介していこうと思う。その過程で問題点そのものについても語ることになるだろう。
遠い昔、遠い宇宙の彼方で《弧炎撒き/Arc-Slogger》というカードが作られた。その頃、それはなかなか強いカードだった。ミラディンブロック構築で2つの異なるデッキのキーパーツとして活躍し、それらのデッキのうち片方は次の年にスタンダード環境へと持ち込まれた。
デカい図体と一緒に3発の《ショック/Shock》を内包したそいつは構築で使われるのに十分な強さだったが、それにも関わらず、このカードはトーナメントプレイヤーにしか受けなかったように思われる。
ほとんどのプレイヤーは自分のデッキのほとんどのカードが使われずに失われてしまうことにアレルギー反応を起こし、消費者調査によるとこの《弧炎撒き/Arc-Slogger》はミラディンで最も嫌われたカードの1枚だった。
それからのち、私たちはトーナメント仕様なカードとコモンカードの両方から、自分のデッキを自ら「すり減らす(mill)」効果を極力排除するようにしていた。
《甲冑のスカーブ/Armored Skaab》と《錯乱した助手/Deranged Assistant》の2枚はその例外だ。
これら2枚はイニストラードの限定環境においては青白以外の青デッキにとって重要なパーツとなる。しかしそうであっても大半のマジックプレイヤーにとっては《甲冑のスカーブ/Armored Skaab》は単に《角海亀/Horned Turtle》の下位互換に過ぎない存在だろう。
もし私たちが自身のデッキを「すり減らす(mill)」効果を避けたいのなら、なぜ今回もそうしなかったのだろうか? それは、いくつかの要素が上手く結びついたからだ。
私たちの目的としては、青のゾンビたちは構築に出番のない強さのかわりに全て墓地をたやすく肥やすことが出来るようになっており、その他の4色はどちらかというと真っ正直な効果が多い中で、使いづらく居心地の悪さを感じさせるカードはホラーのテーマに合っているように感じられたためだ。
これらを作ったことは成功だったと思っている。なぜなら自分のデッキを削りたおす青のデッキたちは私や他のスパイクなプレイヤーたちに大ヒットだったからだ。しかしそれでもこれらはやはり例外的な存在と言える。
私はまた青という色にこの役割が任せられたことにも満足している。奇妙な動きをするデッキに傾倒しているプレイヤーたちは総じて青を好む傾向があるからだ。
これがいつ開発用のファイルに加わったのか、イマイチ思い出せない。開発の後期だったことは確かだが、それ以上はさっぱりだ。ただこのカードの目的だけは覚えている。それは「クリーチャーにフラッシュバックを与える」ことだ。
またそれが実際に成功した瞬間も覚えている。シールドデッキによるプレイテスト時のことだ。
私が使っていたのは遅いデッキで自分で自分の山を削るタイプのデッキだった。こういうタイプのデッキはその頃まだ誰も試していなかったが、私はこのデッキこそ《瀬戸際からの帰還/Back from the Brink》のためのデッキだと感じられた。
《瀬戸際からの帰還/Back from the Brink》がその効果を発揮しだしたとき、次から次へとコピーしたクリーチャーたちを表すために馬鹿みたいに大量の紙切れが戦場を乱舞することなり、私たちは本当にこれは大丈夫なのかと目をむいた。
大量の《幻影の像/Phantasmal Image》と《ファイレクシアの変形者/Phyrexian Metamorph》でも同じ状況は生じ得るが、それは同じゲーム内でそれらを大量に引いた場合のみだ。たった1枚のカードから大量のクローン・トークンが生み出されるのとはまったく違う話だ。
3つの点がこのカードの命を救った。
1つ目として、これはマジックオンライン上では何の問題もなかった。プログラムがありがたくもプレイヤーのために全文記載された素晴らしいトークンを作ってくれるからだ。
2つ目に、このカードはフューチャーフューチャーリーグ(訳註:製品発売前に開発部でプレイテストのため、新カードを含めて開催されるリーグ戦)でも何の問題も起こさなかった。そのため、競技レベルのトーナメントでも大量の紙切れに困らされるような事態は起きないだろうと考えられた。
3つ目に、その時点ですでにカードイラストは出来あがってしまっており、そのイラストよりふさわしい効果を誰も思いつけなかったのだ。
それだけの理由があれば十分な話で、私たちはこのカードをそのまま世に出すことにした。
デザインの作業が行われているとき、Mark Rosewaterはしばしばホラーを感じさせる集団や群れを黒以外の色で作ってみるように、という課題を私たちにつきつけた。
私が作ってみたのは、先祖の霊がつきまとって助けてくれるというものだった。守護霊のような存在でありつつも薄気味悪さを感じさせてくれるクリーチャーだ。私のデザインしたそのコンセプトがこの《安らかに旅立つ者/Dearly Departed》となった。
しかし私の生み出したバージョンでは、+1/+1のカウンターは君のコントロールする全てのクリーチャーに対して与えられるというものだった。さて、何が起きたのだろう?
一言で言えば、-1/-1カウンターを相殺してしまうこの効果は《台所の嫌がらせ屋/Kitchen Finks》や《残忍なレッドキャップ/Murderous Redcap》のような輩たちと残念なループを形成してしまうのだ。
例えば、モダンのデッキに《出産の殻/Birthing Pod》を用いて《臓物の予見者/Viscera Seer》と《台所の嫌がらせ屋/Kitchen Finks》と《シルヴォクののけ者、メリーラ/Melira, Sylvok Outcast》を戦場に出し、無限ライフを得るデッキがある。
《安らかに旅立つ者/Dearly Departed》も同様の効果を生み出しうるカードとなる可能性があった。またKen Nagleは統率者戦においても不快なコンボのキーパーツとなる危険性について示唆した。
私がそれを避けるために思いついた修正は、特定の条件でカードが自身をゲームから追放するような効果を付加することだったが、Erik Lauerはもっとエレガントな修正を思いついてくれた。それが、ボーナスの対象を人間に限る、というものだった。
これによって、今後も常にこのカードの存在を気にし続けなければいけないという事態をほぼ回避し、かつ既存のカードたちとの組み合わせも綺麗に解決できた。
ありがとう、Erik!
私たちは今なお事あるごとに《取り消し/Cancel》を世に出したことについて苦情を寄せられている。私たちは基本的でシンプルな効果に適切なコストを与えることに喜びを感じている。そして《取り消し/Cancel》も構築レベルにまったく届かないというほど弱いカードだとは思っていない。
私たちはフューチャーフューチャーリーグで《雲散霧消/Dissipate》を唱えるのが楽しかったし、実際にセットがリリースしたあとのプレイヤーたちも同様のようだ。
先のシーズンでは、ほとんどアーティファクトの入っていないデッキにもたくさんの《冷静な反論/Stoic Rebuttal》が使われていた。楽しめる構築環境を作るために私たちが実践している理論の1つに「プレイに足るだけのパワーレベルを持たせつつも悩むことなくデッキに入るほどのレベルにはしない」がある。これによってフォーマットにバリエーションが生まれるからだ。
上級のプレイヤーたちが下位互換ともとれるようなカードたちを使ってくれる限り、私たちは今のやり方を続けようと思っている。
《グレイブディガー/Gravedigger》は多くのプレイヤーにとって明らかに弱すぎるカードにしか見えない。4マナで2/2? しかも4ターン目に出番があることがほとんどないカード? 誰がそんなカードを使いたがるというんだ?
慣れたプレイヤーであればこのカードがそれなりに強いことを知っている。しかしそれでもこのカードがときにゲームを長引かせ、戦場の優位を絶対的なものにしつつも実際に勝利するまで長い時間を要させるようなカードであることも知っている。
《グレイブディガー/Gravedigger》の最悪のケースはもちろん2枚目の《グレイブディガー/Gravedigger》によって延々と墓地からの回収が繰り返されることだ。
イニストラードのデザインで、Richard Garfieldは墓地から手札に回収するカードをランダムで選ぶというアイデアを思いついた。それによって私たちは《グレイブディガー/Gravedigger》と似たようなカードをより安いコストで作れることになった。なぜなら明らかにランダムに回収するほうが効果としては弱いし、かつ無限に回収が行われるような事態も起きづらくなるからだ。
これはいいアイデアに思えたが、実のところ、私は実際のプレイで回収が本当にランダムに行われるのかどうかについては確証がなかった。
2週間前の土曜日、私はドラフトで青黒のゾンビデッキを作った。それには2枚の《その場しのぎのやっかいもの/Makeshift Mauler》と《スカーブの大巨人/Skaab Goliath》と《死体の突進/Corpse Lunge》が入っていた。このデッキでは《グール起こし/Ghoulraiser》で掘り起こしたくないゾンビを回収してしまうことは実に稀だった。
もちろんそれは私にとって良いニュースだった。
なぜならそれはつまり私の《死体生まれのグリムグリン/Grimgrin, Corpse-Born》は素晴らしい働きを何度も何度も見せてくれたことにほかならないからだ(註)。
私が今までに何度も、デザインチームが問題の穴をふさごうと頭脳的で高尚なデザインを試みては、プレイヤーがそこに風穴を開けてくるのを見てきた。
今回の例は実に奇妙な出来事だった。何しろ私自身がその風穴を開ける役割を担ったのだ。後悔すべきことなのかどうなのか、今でもよく分かっていない。
このカードはある意味で《瀬戸際からの帰還/Back from the Brink》に似たところのあるカードだ。自身のデッキを削ることを前提とした長期戦用のカードであり、じっくりと時間をかけてアドバンテージを稼いでいくタイプのカードだ。
墓地をテーマとすることはこういったカードを特に生み出しやすくする。そして、実のところ私はそれをあまり好ましくは思っていない。それでもなお、そのカテゴリに属するカードであるにも関わらず《排水路の汚濁/Gutter Grime》はイニストラードのカードの中で私のお気に入りの1枚だ。
上記に述べたタイプのカードを私が好ましくないとする理由は、すでにゲームの勝敗がほぼ明らかな状態にも関わらず私と対戦相手がゲームを遊び続けなければならない状況を生み出しやすくなるからだ。
しかしこの《排水路の汚濁/Gutter Grime》は逆で、その指数関数的な成長によって早々にゲームを終わらせてくれる。このカードは動き始めるまでには時間がかかる。しかし私の元に6/6のウーズが6体もいれば? そう、あっという間に決着がつくだろう。
加えていうならゲームの結末としてはこれはなかなか楽しいものだ。特にデッキをゆっくりと削っていくような試合の結末としてはね。
これがデザインファイルに入っているのを見たとき、私にはこいつの使い道がまったく思いつかなかった。最終的にこいつがデベロップメントのファイルに加わったのを見たときも同様に、私は使い道がまったく思いつかないままだった。
そしていまだにこいつの使い道が分からないままだ。
すでに語ったと思うが、イニストラードのデザインにはRichard Garfieldも参加している。面白いゲーム環境を生み出す才能を持った彼は、一緒にいることで楽しい時間を過ごせるし、その才能はセットの構造を造りあげるために必要な鍵でもある。
しかし個別のカードデザインとなると、彼の才能はしばしば奇妙で奇抜な方向へと向かう。言うまでもないことだが、この《鏡狂の幻/Mirror-Mad Phantasm》もまたそういったカードのうちの1枚だ。
彼の作る奇抜なカードたちはあまりにもヘンテコ過ぎるため、全てをファイルに残すわけにはいかなかった。もしそんなことをすればセットに含まれる変なカードの割合はあまりに高くなり過ぎてしまうだろう。
そんな中、なんとか生き残った1枚がこれだ。
正直、誰もこのカードの本当の使い道を見つけ出すことができないんじゃないかと思っている。それとも君ならそれを見つけ出せるんだろうか?
次の領域へ
墓地をテーマとしたセットには「ある領域からある領域へ」他のカードを移動させるカードがあふれている。私はカードではないけれど、私もまたつい最近「ある領域へ」の移動を経験したばかりだ。
ウィザーズで働き始める前、私のゲームに関する経験は特にカードゲームに限られていた。この3年間で、私の地平は他のいくつもの分野へと拓けていった。ボードゲームやミニチュアゲームなどだ。
その中でも特に私が傾倒していったのは、卓上ロールプレイングゲームだ。ここ1年間は、昔マジックをそうして楽しんでいたように、ロールプレイングゲームのためにいくつものコンベンションを飛び回っている。
実のところ、つい先週の日曜日にコンベンションから帰って来たばかりだ。その週末に味わった楽しさは、私がマジックのプロツアーでプレイヤーとして味わったものに勝るとも劣らないものだった。
私はつい最近、ダンジョンズアンドドラゴンズのR&Dへと異動する機会を与えられた。
そうするべきか否かについては随分と悩んだけど、きっとこれがそのときなんだと思った。今、この瞬間も思っている。最初のうちはとまどうことになるかもしれない。だけどこうすることで私が今一番夢中なことに身を投じることが出来るんだ。
Latest Developmentのコラムを君たちに届けることが出来たこの3年間は私にとって非常に光栄で、かつ楽しい時間だった。だけど一歩足を踏み出す時間が来た。
君たちとコラムについては、デベロッパーのZac Hillにあとをお願いしてある。。サンクスギビングのあとの金曜日にもう少しだけ何か書くことになるかもしれない。だけどそれ以降はしばらく私の記事を見ることはないだろう。
1997年にマジックに出会わなかったら、私はきっとまったく違った人生を歩んでいたと思う。14年間ものあいだマジックと歩んできた時間が私に教えてくれたもの、それは人生そのものであり、きつい仕事であり、ゲームデザインであり、そしてほかのいかなるものであっても味わえなかった楽しい時間だ。
いつか君が、振り返って同じ思いを抱いてくれるよう祈ってる。
Tom LaPille
2011年11月18日
元記事:http://www.wizards.com/magic/magazine/article.aspx?x=mtg/daily/ld/169
イニストラードのテーマは墓地であり、墓地はイニストラードのメカニズムの心臓そのものだ。
公式の検索機能であるGathererで軽く調べただけでも分かるように、イニストラードの基本地形を除いた全249枚のカードのうち69枚に「墓地」という言葉が含まれている。そのうちフラッシュバックを持つカードは27枚だけだ。
その他にも17枚のカードに「死亡する(dies)」という言葉が含まれ、9枚に「死亡した(died)」という言葉が含まれている。これらはつい最近まで「墓地」という言葉で表現されていたものだ。
なかなかのカード枚数だろう?
私たちはデベロッパーとして、墓地をデザインの対象として掘り返すことに潜む危険性については理解しているつもりだ。それにはいくつか理由があり、その大半はこのイニストラードの開発中にも様々な形で顔をのぞかせてきた。
今日はそれらの問題点を表面化させたカードたちを紹介していこうと思う。その過程で問題点そのものについても語ることになるだろう。
Armored Skaab / 甲冑のスカーブ (2)(青)
クリーチャー - ゾンビ(Zombie) 戦士(Warrior)
甲冑のスカーブが戦場に出たとき、あなたのライブラリーの一番上から4枚のカードをあなたの墓地に置く。
1/4
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Armored+Skaab/
Deranged Assistant / 錯乱した助手 (1)(青)
クリーチャー - 人間(Human) ウィザード(Wizard)
(T),あなたのライブラリーの一番上のカードをあなたの墓地に置く:あなたのマナ・プールに(1)を加える。
1/1
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Deranged+Assistant/
遠い昔、遠い宇宙の彼方で《弧炎撒き/Arc-Slogger》というカードが作られた。その頃、それはなかなか強いカードだった。ミラディンブロック構築で2つの異なるデッキのキーパーツとして活躍し、それらのデッキのうち片方は次の年にスタンダード環境へと持ち込まれた。
デカい図体と一緒に3発の《ショック/Shock》を内包したそいつは構築で使われるのに十分な強さだったが、それにも関わらず、このカードはトーナメントプレイヤーにしか受けなかったように思われる。
ほとんどのプレイヤーは自分のデッキのほとんどのカードが使われずに失われてしまうことにアレルギー反応を起こし、消費者調査によるとこの《弧炎撒き/Arc-Slogger》はミラディンで最も嫌われたカードの1枚だった。
それからのち、私たちはトーナメント仕様なカードとコモンカードの両方から、自分のデッキを自ら「すり減らす(mill)」効果を極力排除するようにしていた。
《甲冑のスカーブ/Armored Skaab》と《錯乱した助手/Deranged Assistant》の2枚はその例外だ。
これら2枚はイニストラードの限定環境においては青白以外の青デッキにとって重要なパーツとなる。しかしそうであっても大半のマジックプレイヤーにとっては《甲冑のスカーブ/Armored Skaab》は単に《角海亀/Horned Turtle》の下位互換に過ぎない存在だろう。
もし私たちが自身のデッキを「すり減らす(mill)」効果を避けたいのなら、なぜ今回もそうしなかったのだろうか? それは、いくつかの要素が上手く結びついたからだ。
私たちの目的としては、青のゾンビたちは構築に出番のない強さのかわりに全て墓地をたやすく肥やすことが出来るようになっており、その他の4色はどちらかというと真っ正直な効果が多い中で、使いづらく居心地の悪さを感じさせるカードはホラーのテーマに合っているように感じられたためだ。
これらを作ったことは成功だったと思っている。なぜなら自分のデッキを削りたおす青のデッキたちは私や他のスパイクなプレイヤーたちに大ヒットだったからだ。しかしそれでもこれらはやはり例外的な存在と言える。
私はまた青という色にこの役割が任せられたことにも満足している。奇妙な動きをするデッキに傾倒しているプレイヤーたちは総じて青を好む傾向があるからだ。
Back from the Brink / 瀬戸際からの帰還 (4)(青)(青)
エンチャント
あなたの墓地にあるクリーチャー・カードを1枚追放し、それのマナ・コストを支払う:そのカードのコピーであるトークンを1体戦場に出す。この能力は、あなたがソーサリーを唱えられるときにのみ起動できる。
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Back+from+the+Brink/
これがいつ開発用のファイルに加わったのか、イマイチ思い出せない。開発の後期だったことは確かだが、それ以上はさっぱりだ。ただこのカードの目的だけは覚えている。それは「クリーチャーにフラッシュバックを与える」ことだ。
またそれが実際に成功した瞬間も覚えている。シールドデッキによるプレイテスト時のことだ。
私が使っていたのは遅いデッキで自分で自分の山を削るタイプのデッキだった。こういうタイプのデッキはその頃まだ誰も試していなかったが、私はこのデッキこそ《瀬戸際からの帰還/Back from the Brink》のためのデッキだと感じられた。
《瀬戸際からの帰還/Back from the Brink》がその効果を発揮しだしたとき、次から次へとコピーしたクリーチャーたちを表すために馬鹿みたいに大量の紙切れが戦場を乱舞することなり、私たちは本当にこれは大丈夫なのかと目をむいた。
大量の《幻影の像/Phantasmal Image》と《ファイレクシアの変形者/Phyrexian Metamorph》でも同じ状況は生じ得るが、それは同じゲーム内でそれらを大量に引いた場合のみだ。たった1枚のカードから大量のクローン・トークンが生み出されるのとはまったく違う話だ。
3つの点がこのカードの命を救った。
1つ目として、これはマジックオンライン上では何の問題もなかった。プログラムがありがたくもプレイヤーのために全文記載された素晴らしいトークンを作ってくれるからだ。
2つ目に、このカードはフューチャーフューチャーリーグ(訳註:製品発売前に開発部でプレイテストのため、新カードを含めて開催されるリーグ戦)でも何の問題も起こさなかった。そのため、競技レベルのトーナメントでも大量の紙切れに困らされるような事態は起きないだろうと考えられた。
3つ目に、その時点ですでにカードイラストは出来あがってしまっており、そのイラストよりふさわしい効果を誰も思いつけなかったのだ。
それだけの理由があれば十分な話で、私たちはこのカードをそのまま世に出すことにした。
Dearly Departed / 安らかに旅立つ者 (4)(白)(白)
クリーチャー - スピリット(Spirit)
飛行
安らかに旅立つ者があなたの墓地にある限り、あなたがコントロールする各人間(Human)クリーチャーは、その上に追加の+1/+1カウンターが1個置かれた状態で戦場に出る。
5/5
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Dearly+Departed/
デザインの作業が行われているとき、Mark Rosewaterはしばしばホラーを感じさせる集団や群れを黒以外の色で作ってみるように、という課題を私たちにつきつけた。
私が作ってみたのは、先祖の霊がつきまとって助けてくれるというものだった。守護霊のような存在でありつつも薄気味悪さを感じさせてくれるクリーチャーだ。私のデザインしたそのコンセプトがこの《安らかに旅立つ者/Dearly Departed》となった。
しかし私の生み出したバージョンでは、+1/+1のカウンターは君のコントロールする全てのクリーチャーに対して与えられるというものだった。さて、何が起きたのだろう?
一言で言えば、-1/-1カウンターを相殺してしまうこの効果は《台所の嫌がらせ屋/Kitchen Finks》や《残忍なレッドキャップ/Murderous Redcap》のような輩たちと残念なループを形成してしまうのだ。
例えば、モダンのデッキに《出産の殻/Birthing Pod》を用いて《臓物の予見者/Viscera Seer》と《台所の嫌がらせ屋/Kitchen Finks》と《シルヴォクののけ者、メリーラ/Melira, Sylvok Outcast》を戦場に出し、無限ライフを得るデッキがある。
《安らかに旅立つ者/Dearly Departed》も同様の効果を生み出しうるカードとなる可能性があった。またKen Nagleは統率者戦においても不快なコンボのキーパーツとなる危険性について示唆した。
私がそれを避けるために思いついた修正は、特定の条件でカードが自身をゲームから追放するような効果を付加することだったが、Erik Lauerはもっとエレガントな修正を思いついてくれた。それが、ボーナスの対象を人間に限る、というものだった。
これによって、今後も常にこのカードの存在を気にし続けなければいけないという事態をほぼ回避し、かつ既存のカードたちとの組み合わせも綺麗に解決できた。
ありがとう、Erik!
Dissipate / 雲散霧消 (1)(青)(青)
インスタント
呪文1つを対象とし、それを打ち消す。その呪文がこれにより打ち消された場合、それをオーナーの墓地に置く代わりに追放する。
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Dissipate/
私たちは今なお事あるごとに《取り消し/Cancel》を世に出したことについて苦情を寄せられている。私たちは基本的でシンプルな効果に適切なコストを与えることに喜びを感じている。そして《取り消し/Cancel》も構築レベルにまったく届かないというほど弱いカードだとは思っていない。
私たちはフューチャーフューチャーリーグで《雲散霧消/Dissipate》を唱えるのが楽しかったし、実際にセットがリリースしたあとのプレイヤーたちも同様のようだ。
先のシーズンでは、ほとんどアーティファクトの入っていないデッキにもたくさんの《冷静な反論/Stoic Rebuttal》が使われていた。楽しめる構築環境を作るために私たちが実践している理論の1つに「プレイに足るだけのパワーレベルを持たせつつも悩むことなくデッキに入るほどのレベルにはしない」がある。これによってフォーマットにバリエーションが生まれるからだ。
上級のプレイヤーたちが下位互換ともとれるようなカードたちを使ってくれる限り、私たちは今のやり方を続けようと思っている。
Ghoulraiser / グール起こし (1)(黒)(黒)
クリーチャー - ゾンビ(Zombie)
グール起こしが戦場に出たとき、あなたの墓地にあるゾンビ(Zombie)・カードを1枚無作為に選んであなたの手札に戻す。
2/2
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Ghoulraiser/
《グレイブディガー/Gravedigger》は多くのプレイヤーにとって明らかに弱すぎるカードにしか見えない。4マナで2/2? しかも4ターン目に出番があることがほとんどないカード? 誰がそんなカードを使いたがるというんだ?
慣れたプレイヤーであればこのカードがそれなりに強いことを知っている。しかしそれでもこのカードがときにゲームを長引かせ、戦場の優位を絶対的なものにしつつも実際に勝利するまで長い時間を要させるようなカードであることも知っている。
《グレイブディガー/Gravedigger》の最悪のケースはもちろん2枚目の《グレイブディガー/Gravedigger》によって延々と墓地からの回収が繰り返されることだ。
イニストラードのデザインで、Richard Garfieldは墓地から手札に回収するカードをランダムで選ぶというアイデアを思いついた。それによって私たちは《グレイブディガー/Gravedigger》と似たようなカードをより安いコストで作れることになった。なぜなら明らかにランダムに回収するほうが効果としては弱いし、かつ無限に回収が行われるような事態も起きづらくなるからだ。
これはいいアイデアに思えたが、実のところ、私は実際のプレイで回収が本当にランダムに行われるのかどうかについては確証がなかった。
2週間前の土曜日、私はドラフトで青黒のゾンビデッキを作った。それには2枚の《その場しのぎのやっかいもの/Makeshift Mauler》と《スカーブの大巨人/Skaab Goliath》と《死体の突進/Corpse Lunge》が入っていた。このデッキでは《グール起こし/Ghoulraiser》で掘り起こしたくないゾンビを回収してしまうことは実に稀だった。
もちろんそれは私にとって良いニュースだった。
なぜならそれはつまり私の《死体生まれのグリムグリン/Grimgrin, Corpse-Born》は素晴らしい働きを何度も何度も見せてくれたことにほかならないからだ(註)。
(註) 《死体生まれのグリムグリン/Grimgrin, Corpse-Born》と《グール起こし/Ghoulraiser》
推測だが、おそらく《グール起こし/Ghoulraiser》の能力が対象をとっていないことを利用してのコンボの話と思われる。
1. 墓地が空の状態でも構わずに《グール起こし》を戦場に出す
2. 能力をスタックに積む(対象をとらないので墓地が空でも問題なし)
3. 《死体生まれのグリムグリン》の能力で《グール起こし》を生け贄に捧げる
4. 《死体生まれのグリムグリン》をアンタップして+1/+1カウンターを置く
5. スタックに積んでおいた《グール起こし》の能力を解決する
6. 墓地に落ちている《グール起こし》を手札に回収する
7. 最初に戻る
私が今までに何度も、デザインチームが問題の穴をふさごうと頭脳的で高尚なデザインを試みては、プレイヤーがそこに風穴を開けてくるのを見てきた。
今回の例は実に奇妙な出来事だった。何しろ私自身がその風穴を開ける役割を担ったのだ。後悔すべきことなのかどうなのか、今でもよく分かっていない。
Gutter Grime / 排水路の汚濁 (4)(緑)
エンチャント
あなたがコントロールするトークンでないクリーチャーが1体死亡するたび、排水路の汚濁の上にスライム(slime)・カウンターを1個置く。その後、「このクリーチャーのパワーとタフネスはそれぞれ、排水路の汚濁の上に置かれているスライム・カウンターの数に等しい。」を持つ緑のウーズ(Ooze)・クリーチャー・トークンを1体戦場に出す。
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Gutter+Grime/
このカードはある意味で《瀬戸際からの帰還/Back from the Brink》に似たところのあるカードだ。自身のデッキを削ることを前提とした長期戦用のカードであり、じっくりと時間をかけてアドバンテージを稼いでいくタイプのカードだ。
墓地をテーマとすることはこういったカードを特に生み出しやすくする。そして、実のところ私はそれをあまり好ましくは思っていない。それでもなお、そのカテゴリに属するカードであるにも関わらず《排水路の汚濁/Gutter Grime》はイニストラードのカードの中で私のお気に入りの1枚だ。
上記に述べたタイプのカードを私が好ましくないとする理由は、すでにゲームの勝敗がほぼ明らかな状態にも関わらず私と対戦相手がゲームを遊び続けなければならない状況を生み出しやすくなるからだ。
しかしこの《排水路の汚濁/Gutter Grime》は逆で、その指数関数的な成長によって早々にゲームを終わらせてくれる。このカードは動き始めるまでには時間がかかる。しかし私の元に6/6のウーズが6体もいれば? そう、あっという間に決着がつくだろう。
加えていうならゲームの結末としてはこれはなかなか楽しいものだ。特にデッキをゆっくりと削っていくような試合の結末としてはね。
Mirror-Mad Phantasm / 鏡狂の幻 (3)(青)(青)
クリーチャー - スピリット(Spirit)
飛行
(1)(青):鏡狂の幻のオーナーは、それを自分のライブラリーに加えて切り直す。そのプレイヤーがそうした場合、そのプレイヤーはそのライブラリーの一番上のカードを、《鏡狂の幻/Mirror-Mad Phantasm》という名前のカードが公開されるまで公開し続ける。そのプレイヤーはそのカードを戦場に出し、これにより公開された他のすべてのカードを自分の墓地に置く。
5/1
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Mirror-Mad+Phantasm/
これがデザインファイルに入っているのを見たとき、私にはこいつの使い道がまったく思いつかなかった。最終的にこいつがデベロップメントのファイルに加わったのを見たときも同様に、私は使い道がまったく思いつかないままだった。
そしていまだにこいつの使い道が分からないままだ。
すでに語ったと思うが、イニストラードのデザインにはRichard Garfieldも参加している。面白いゲーム環境を生み出す才能を持った彼は、一緒にいることで楽しい時間を過ごせるし、その才能はセットの構造を造りあげるために必要な鍵でもある。
しかし個別のカードデザインとなると、彼の才能はしばしば奇妙で奇抜な方向へと向かう。言うまでもないことだが、この《鏡狂の幻/Mirror-Mad Phantasm》もまたそういったカードのうちの1枚だ。
彼の作る奇抜なカードたちはあまりにもヘンテコ過ぎるため、全てをファイルに残すわけにはいかなかった。もしそんなことをすればセットに含まれる変なカードの割合はあまりに高くなり過ぎてしまうだろう。
そんな中、なんとか生き残った1枚がこれだ。
正直、誰もこのカードの本当の使い道を見つけ出すことができないんじゃないかと思っている。それとも君ならそれを見つけ出せるんだろうか?
次の領域へ
墓地をテーマとしたセットには「ある領域からある領域へ」他のカードを移動させるカードがあふれている。私はカードではないけれど、私もまたつい最近「ある領域へ」の移動を経験したばかりだ。
ウィザーズで働き始める前、私のゲームに関する経験は特にカードゲームに限られていた。この3年間で、私の地平は他のいくつもの分野へと拓けていった。ボードゲームやミニチュアゲームなどだ。
その中でも特に私が傾倒していったのは、卓上ロールプレイングゲームだ。ここ1年間は、昔マジックをそうして楽しんでいたように、ロールプレイングゲームのためにいくつものコンベンションを飛び回っている。
実のところ、つい先週の日曜日にコンベンションから帰って来たばかりだ。その週末に味わった楽しさは、私がマジックのプロツアーでプレイヤーとして味わったものに勝るとも劣らないものだった。
私はつい最近、ダンジョンズアンドドラゴンズのR&Dへと異動する機会を与えられた。
そうするべきか否かについては随分と悩んだけど、きっとこれがそのときなんだと思った。今、この瞬間も思っている。最初のうちはとまどうことになるかもしれない。だけどこうすることで私が今一番夢中なことに身を投じることが出来るんだ。
Latest Developmentのコラムを君たちに届けることが出来たこの3年間は私にとって非常に光栄で、かつ楽しい時間だった。だけど一歩足を踏み出す時間が来た。
君たちとコラムについては、デベロッパーのZac Hillにあとをお願いしてある。。サンクスギビングのあとの金曜日にもう少しだけ何か書くことになるかもしれない。だけどそれ以降はしばらく私の記事を見ることはないだろう。
1997年にマジックに出会わなかったら、私はきっとまったく違った人生を歩んでいたと思う。14年間ものあいだマジックと歩んできた時間が私に教えてくれたもの、それは人生そのものであり、きつい仕事であり、ゲームデザインであり、そしてほかのいかなるものであっても味わえなかった楽しい時間だ。
いつか君が、振り返って同じ思いを抱いてくれるよう祈ってる。
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