【翻訳】交代、反転、そして翻訳/Rotations, Reflections, and Translations【Daily MTG】
Zac Hill
2011年12月02日
元記事:http://www.wizards.com/Magic/Magazine/Article.aspx?x=mtg/daily/ld/171

 アオオォォオオォォォン!(遠吠え)

 ……エヘン。

 俺の悪い癖だ。

 満月を見るとどうしてもね。こう、どっかに意識が飛んでしまうんだ。衝動をコントロールできないというかなんというか……そういうの苦手なんだ。

 よーし、まずは深呼吸して……

 おっす! 俺はZacだ。

 TomがD&D側の仕事に移るに当たって、彼のコラムを引き継ぐことになったのが俺だ。

 今日はデベロップメントがどのようにしてホラーというジャンルそのもの(つまりはイニストラードそのもの)である「変身」を「両面カード」によって表現しようとしたかについて語ろうと思う。

 狼男たちはすでに彼らだけのテーマ週間をもらってることだし(まったく幸運な奴らだ!)、今日は狼男でない両面カードの中でも特に俺が気に入っている「変身する」カードたちを取り上げてみよう。狼男たちはすでに日の目をみているわけだから……いや、月の目を……えーと……まあいいや。

Civilized Scholar / 礼儀正しい識者 (2)(青)
クリーチャー - 人間(Human) アドバイザー(Advisor)
(T):カードを1枚引き、その後カードを1枚捨てる。これによりクリーチャー・カードを捨てた場合、礼儀正しい識者をアンタップし、その後それを変身させる。
0/1
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Civilized+Scholar/

Homicidal Brute / 人殺しの粗暴者
〔赤〕 クリーチャー - 人間(Human) ミュータント(Mutant)
あなたの終了ステップの開始時に、このターン、人殺しの粗暴者が攻撃していなかった場合、人殺しの粗暴者をタップし、それを変身させる。
5/1
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Homicidal+Brute/

 いやあ、実に上品な紳士だね。

 こいつが開発中のファイルに入っていたときの名前は「ジキル博士とハイド氏」だった。そしてそのテーマから外れたことは最後まで一度も無い。

 アイデアは要するに、礼儀正しくて賢くて「青」っぽい能力をもったシステムクリーチャーが自分の研究に没頭しているのに、ときどき何かの拍子で気が狂ったように顔を真っ「赤」にして戦闘に突入してしまう、って寸法だ。

 俺は色んなプレイヤーからカードテキストの一部について質問を受けることがある。その1つに、なんで《人殺しの粗暴者/Homicidal Brute》はターン終了時に自身をタップするの?、というのがある。

 デザインの初期から、クリーチャーカードを捨てるのをトリガーに変身するという点を俺たちは結構気に入っていた。彼は研究の最中、何かをきっかけに自身の動物的本能が刺激されてしまい、コントロールが効かなくなってしまうんだ。

 最初の頃は、粗暴な側には単に「可能ならば攻撃に参加する」と書かれていた。

 しかしそれによって何が起きたかというと、テストプレイでプレイヤーたちは「ルーター能力」を第二メインフェイズで使ってカードを「粗暴者」に変身させつつ、そのままエンドステップを迎えることで「識者」に戻し、対戦相手のターンに「ルーター能力」をさらにもう1回起動したんだ!

 もちろん、このカードの目指すところはそんな使われ方じゃなかったので、俺たちは「粗暴者」に自身をタップさせることでこの問題を解決したんだ。

Screeching Bat / 金切り声のコウモリ (2)(黒)
クリーチャー - コウモリ(Bat)
飛行
あなたのアップキープの開始時に、あなたは(2)(黒)(黒)を支払ってもよい。そうした場合、金切り声のコウモリを変身させる。
2/2
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Screeching+Bat/

Stalking Vampire / 忍び寄る吸血鬼
〔黒〕 クリーチャー - 吸血鬼(Vampire)
あなたのアップキープの開始時に、あなたは(2)(黒)(黒)を支払ってもよい。そうした場合、忍び寄る吸血鬼を変身させる。
5/5
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Stalking+Vampire/

 俺からすると、このカードは両面カードがデザイン面に関していかに新たな可能性を切り開いてくれたかを説明する最高の例だ。

 吸血鬼はコウモリに変身できるし、逆もまたしかりだ。よく知られた伝説だよな。イラストもコンセプトも分かりやすいし、ゲームプレイ時の動きも素晴らしいし、「このカードが何を表したいのか」が超簡単に伝わってくる。

 しかし両面カード以前のこの「変身」の表現は実にぎこちなかった。メカニズムは非常に複雑で、大抵の場合はカードが何を表したいのかを直観的に伝えることに(反対意見もあるだろうけど俺の意見としては)失敗していた。

 例えば《センギアの吸血魔/Sengir Nosferatu》だ。
Sengir Nosferatu / センギアの吸血魔 (3)(黒)(黒)
クリーチャー - 吸血鬼(Vampire)
飛行
(1)(黒),センギアの吸血魔を追放する:飛行を持つ黒の1/2のコウモリ(Bat)・クリーチャー・トークンを1体戦場に出す。それは「(1)(黒),このクリーチャーを生け贄に捧げる:追放されている《センギアの吸血魔/Sengir Nosferatu》という名前のカード1枚をオーナーのコントロール下で戦場に戻す。」を持つ。
4/4
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Sengir+Nosferatu/

 勘違いしないで欲しいのは、別にこれをデザインしたチームの努力を否定したいわけじゃないってこと。何が起こっているのかは分からないでもない。《センギアの吸血魔/Sengir Nosferatu》が危険に陥ったとき、それはコウモリに変身して難を逃れるんだ。

 だけどそれをカードテキストからそれを理解するには、かなり想像の翼を大きく広げないといけない。

《センギアの吸血魔/Sengir Nosferatu》は自身を守るために能力を用いるのに、君はこいつをまずどっかに追放しないといけない。……どゆこと? 次にこいつが生み出したコウモリトークンがどこからともなく彼を戦場に呼び戻すためには変身後であるコウモリを生け贄に捧げないといけない。

 最後に実際のゲーム上の話をすると、君は戦場に小さなビーズか布切れかコインか紙切れか、とにかく何かを出す必要があり、さらにそれには5行にも及ぶ目に見えないカードテキストがついてくる。ああ、それと目に見えないパワーとタフネスもだ。

 これは到底エレガントなデザインとは呼べないよ。

Delver of Secrets / 秘密を掘り下げる者 (青)
クリーチャー - 人間(Human) ウィザード(Wizard)
あなたのアップキープの開始時に、あなたのライブラリーの一番上のカードを見る。あなたはそのカードを公開してもよい。これによりインスタント・カードかソーサリー・カードが公開された場合、秘密を掘り下げる者を変身させる。
1/1
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Delver+of+Secrets/

Insectile Aberration / 昆虫の逸脱者
〔青〕 クリーチャー - 人間(Human) 昆虫(Insect)
飛行
3/2
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Insectile+Aberration/

 このチビ助は最近のレガシー環境で暴れまわっており、先週開催された世界選手権にもその名を刻んでいる。

 こいつの気前の良いスペックを見てくれ。全てが計画通りに進めば《月鷺/Moon Heron》から丸々3マナそぎ落としたクリーチャーとなり、2ターン目からアタックできる。

 《渦まく知識/Brainstorm》や《思案/Ponder》といったカードでライブラリのトップを操作すれば、通常よりもずっと高い確率でこいつを反転させることができる。さて、どうしてこんなカードが検閲を抜けて印刷されたんだろう?

 俺たちはこいつがリミテッドではあまりにも反転しなさすぎることに気づいた。デッキに入れること自体が損に感じられるほどにだ。結局のところ、誰だって40枚しかないデッキに《脱走魔術師/Fugitive Wizard》同然のクリーチャーを入れたいとは思わない。

 ときたまこいつは序盤に出て来てゲームを決めてくれるが、ごく稀にしか起きないその展開が楽しいものかどうかはまた別問題だ。こういったランダムな効果でゲームが決まってしまうような環境を好きなプレイヤーはいない。

 ゲームの終盤に引く《秘密を掘り下げる者/Delver of Secrets》のがっかり感は満点で、俺たちはまるでこのままこいつを印刷してもリミテッド環境にとっては壁のしみみたいなもんなんじゃないかと思った。

 ところがどっこい、スタンダード環境では《秘密を掘り下げる者/Delver of Secrets》を《昆虫の逸脱者/Insectile Aberration》に変身させるのは普通のリミテッド環境に比べるとずっと簡単だし、対戦相手からしてみても序盤に出て来た3/2飛行クリーチャーというテンポアドバンテージから巻き返すのはそれほど難しいことじゃない。

 大抵のデッキは序盤に出てくるクリーチャーに対してなんらかの対抗策を講じているものだ。そう考えると他のクリーチャーと比べて多少高いサイズアドバンテージを持っているということは「なかなか強いカード」であって「ゲームをぶっ壊すカード」には成り得ない。

 レガシーやモダンのようなさらに古いカードも使えるフォーマットとなると、クリーチャー除去呪文は相対的に弱くなる。なぜならこれらの環境でメタの一線を張っている多様なデッキたちはクリーチャーに乏しく、クリーチャー除去呪文は腐ることが多いからだ。

 そういった環境なので、逆にこの《昆虫の逸脱者/Insectile Aberration》のようなカードで勝つことがより容易くなる。このカードを守るためのカードが色々用意されていることや《渦まく知識/Brainstorm》やその類似品が早期の変身を手助けしてくれることも考えるとなおさらだ。

 とはいえ、幸いなことにこれらの環境は、いくら強いとはいえ結局は単に殴ることしか出来ないようなクリーチャーごときに破壊されるようなやわな環境じゃないので安心だ。

Ludevic’s Test Subject / ルーデヴィックの実験材料 (1)(青)
クリーチャー - トカゲ(Lizard)
防衛
(1)(青):ルーデヴィックの実験材料の上に孵化(hatchling)カウンターを1個置く。その後、それの上に孵化カウンターが5個以上置かれている場合、それらをすべて取り除き、それを変身させる。
0/3
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Ludevic%27s+Test+Subject/

Ludevic’s Abomination / ルーデヴィックの嫌悪者
〔青〕 クリーチャー - トカゲ(Lizard) ホラー(Horror)
トランプル
13/13
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Ludevic%27s+Abomination/

 多くのプレイヤーたちがこのカードとエルドラージ覚醒のメカニズムであるLvアップカードとの類似性について指摘する。確かに比べたくなる気持ちはよく分かる。結局のところ、どっちの場合も特定量のマナを特定回数支払うことでクリーチャーのサイズを大きくする。

 じゃあなんでこいつは両面カードになったんだろう?

 俺からすると、ポイントは「謎」ってことだ。卵を見たら何が入ってるか気になるだろ?さらに何か実験してるって言われたらその結果も気になるだろ?

 俺の考えを述べさせてもらえるなら、Lvアップシステムの欠点は、つぎ込んだ労力の結果を視覚的に得られないことにある。ゲームのルールはメカニズムを通じて確かにそれを抽象化してくれている。だけどそれはイコールじゃない。

 俺の《ハリマーの波見張り/Halimar Wavewatch》が6/6になったよ、とか、《虚身の勇者/Null Champion》が7/3になったよ、って言われたら、まあ、そうだよ。だけど俺の目の前にいるカードは小さかったときとまったく同じ外見をしてるんだ。

 まるで盤面にある駒をいじくってるような感じだ。彼らが何を表現しているのかを、そう見えるからではなくて、そうだと言われたから信じないといけない状態だ。直観的な分かりやすさに乏しい。

 とはいえ、ゲームってものは本質的そういうものなんだろう、とも思っている。……だからこそ表現できる機会を逃しちゃいけないんだともね。

石を引っくり返してみる

 Tomが言ってたように、これは彼の最後のLatest Developmentのコラムだ。しかし来年のどこかで少なくとも1回は次のセットである闇の隆盛について語ってくれるはずだ。彼がデベロップメントのリーダーを務めたセットだからね。

 新参者としては埋めなければいけない穴の大きさにおののいているところだ。直前の前任者であるTomだけじゃなくて、その前の担当者たち、デベロップメントのヘッドであるDevin Low、R&DのディレクターであるRandy BuehlerとAaron Forsythe。

 そこで最初の数週間は色々違ったことをやってみて君らの反応をうかがおうと思っている。

 どう思ってるかを知るのに一番いい方法は、そりゃもちろん俺に伝えてくれることだ!

 もちろんフォーラムに書かれた君たちのコメントは読んでるし、記事の末尾にあるリンクから感想を送ってもらってもいいし、ツイッターでもいい。俺のツイッターアカウントは@zdchだ。

 皆に好かれるような記事にしたいと思ってるよ。

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