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Tom LaPille
2011年12月02日
元記事:http://www.wizards.com/Magic/Magazine/Article.aspx?x=mtg/daily/ld/171

 私がウィザーズ社で働き始めたのは2008年の6月からだ。今はもう2011年の12月だ。

 2週間前、私はこの場を借りてマジックのR&DからダンジョンズアンドドラゴンズのR&Dへ移ることを伝えさせてもらった。それは嘘ではない。今日のこれが私にとって最後のLatest Developmentsの記事となる。

 私がマジックの仕事を通じて学んだことが1つあるとすれば、物事は既存のスタンダード(註)に対してさらに高いレベルのスタンダードを持ち込むことで変わってしまうものだということだ。これに関して私が好んで用いる例は、スティーブ・ジョブスがスタンフォード大学の卒業式で行ったスピーチ(註)だ。
(註) スタンダード
 ここで言うスタンダードはフォーマットのそれではなく、基準や基本レベルの話。スポーツなどで「環境全体のレベルが底上げされる」というときに使う「レベル」のような感じ。

(註) スティーブ・ジョブスがスタンフォード大学の卒業式で行ったスピーチ
 原文では以下のURLへリンクが張られている。スピーチが全文掲載されており、かつ動画も張られている。スピーチの中でスティーブ・ジョブスは3つの話をしており、その1つ目の中にタイポグラフィーの話が出てくる。
 http://news.stanford.edu/news/2005/june15/jobs-061505.html

 スピーチの日本語訳が入った動画は以下を参照のこと。
 http://www.youtube.com/watch?v=FNFX2RwOn54 (前編)
 http://www.youtube.com/watch?v=jQkJsyDUFhU (後編)

 そこで彼は初期のマッキントッシュ・コンピュータこそが初めて美しいタイポグラフィーを用いたコンピュータだと言った。彼のこの言葉が真実であるかどうかは私には分からない。しかし私はマッキントッシュ以前のコンピュータを用いたことはある。それらは非常に雑なタイポグラフィーを用いていた。

 そして私が父の高校で使ったマッキントッシュは私にとって初めて美しいフォントを表示してくれるコンピュータであり、それ以降見かけたコンピュータたちは大体において美しいフォントを持つようになっていた。この変化がどれほどスティーブ・ジョブスの功績だと君たちが思うかは分からない。しかしコンピュータの表示する文字は最初のマッキントッシュ以前と以後でまったく異なるものとなったのだ。

 私はマジックを仕事にするようになって3年半経つ。そのあいだ、多くの重要な事があった。それらは新たなスタンダードが持ち込まれてくれたことによるものだ。

 Duels of the Planeswalkersは、マジックの入門的な製品がデジタルにも必要だと考えた誰かが生み出したものだ。これによって多くの新たなマジックプレイヤーたちが生まれ、また多くのマジックを離れていたプレイヤーたちが戻ってきてくれた。

 基本セット2010は、全てが再録で面白くないフレイバーしか持たないそれまでのコアセットに飽き飽きしたAaron Forsytheが生み出したものだ。リリースとともに大成功となり、良いフレイバーと素晴らしい新たなカードたちとともにコアセットの新たな幕開けとなった。

 Erik Lauerは、私が働き始めたときにはまだどこにも存在していなかった開発ツール一式を構築してくれた。これは開発の非常に大きな助けとなってくれた。

 私たちは以前よりもずっと個々のカードの複雑性に気を遣うようになった。私たちは開発側がカードの重心と定めたポイントに実際のプレイヤーたちが興味をもってくれるよう時間を費やしている。これによってそれぞれのセットのもっとも重要な要素に対して的確なスポットライトが当たるようになった。

 これらの変化の多くは私の同僚たちが生み出したものだが、そのいくつかは私から生まれたものでもある。

 私はマスターズエディションIIIとマスターズエディションIVの仕事を誇りに思っている。これらによって、単体でドラフトを行うことを想定したセットを開発するノウハウが大きくステップアップした、と私は信じている。

 また私は個々のカードが明確に自身を表現できていないことがひどく我慢ならない性質だ。私の聞いたところによると、Mark Rosewaterは何人かにTom LaPilleこそがコアデベロッパーの中でもっともフレイバーに気を遣っている人間だ、と語ったらしい。

 個人的には《雲を追うケストレル/Cloudchaser Kestrel》や《風生みの魔道士/Windwright Mage》のようなカードが生み出される率は以前に比べて減少しているのではないか、そしてその一部は私のおかげなのではないか、と考えている。

 今のマジックのスタンダードは以前よりも高い位置にある。イニストラードは非常に良い例だ。

 私たちはコアセットではないセットでここまでメカニズムとフレイバーが見事に融和したセットを生み出したのは初めてのことだ。そこかしこに古典的ホラーの表現が散りばめられており、それらの表現を忠実に反映したカードテキストが記載されている。各友好色ごとに配置された部族はそれぞれ原点となる作品たちに登場している際にとるであろう振る舞いをカード上でもとるよう工夫が施されている。

 私たちのスタンダード向上に対する挑戦はデベロップメントの側でも同様に行われていた。

 イニストラードによるドラフトは複雑でバランスがとれていて、そして素晴らしいものだ。スタンダード環境はグランプリ、各種トーナメント、そして世界選手権という2カ月を経てもなお変化を続けている。

 もちろんゲームが変化を続けてきたように、人もまた変化している。

 私が初めて3年半前にウィザーズ社の敷居をまたいだとき、私は大学での4年間を終えたばかりだった。その4年間のうち、3分の1の週末はマジックのトーナメントのための長い旅行のため費やされていた。

 しかしその後の3年半について言えば、私のゲームに費やす時間はカードゲームから主にロールプレイングゲームへと移行していた。そして今年、私がロールプレイングゲームのコンベンションのために旅した回数はかつて私がマジックをプレイするために旅していた回数と同じくらいになっていることに気づいた。新たな発見は常に楽しいことではある。しかし今や私はマジックのスタンダードを向上させるのにふさわしい人間ではなくなっている。

 幸いなことに、ウィザーズ社はマジックとは別に広く知られるロールプレイングゲームも開発している。ダンジョンズアンドドラゴンズの仕事へと移ることは驚くほど簡単なことだった。

 すでに新たに与えられた役割に求められていることは分かっているつもりだ。私のスタンダードによって過去に成功させてきた挑戦と同じことをまた再び行うのだ。それはつまり私が正しい道へ向かっているということでもある。

 マジックは私の人生をあらゆる意味において変えてくれた。大きい変化も小さい変化もどっちもだ。

 そしてそれらは全て良い方向への変化だった。

 ハイスクール以前のマジックが私に教えてくれたことは、ある特定の事柄について他の人たちよりもずっとそれに長けている人たちというのが実際にいるということ、そしてそれが実世界において大きな違いとなることだ。

 ハイスクールでのマジックは、私に狭い世界から飛び出してより広く友達を作る方法を教えてくれた。

 大学時代でのマジックは私に旅することを教えてくれた。バンクーバー、ホノルル、バルセロナと旅することで私は広い見識を見につけることができた。さらにはその旅行の中で、私は故郷の国と大陸を離れても大丈夫だという自信を持つことができた。

 プロフェッショナルとして生きる日々の中でのマジックは私に、上下関係のある会社という組織の中で、良いものを生み出しつつも仕事は仕事としてきちんと片づけることを教えてくれた。

 君が私と同じ時期に同じことを学ぶとは思っていない。しかしそれでもなお私は君がマジックを経験する中で、同じように何か得るものがあればと願わないではいられない。

 今回のこの記事が私からの最後の便りということにはならないだろう。私は次のセットである闇の隆盛のデベロップメント・リーダーであり、リリースが近づけば1回か2回は顔を出すことになるはずだ。

 だけどそれまでは、あとをZacに任せることにするよ。
 原文の記事の最後には変身ボタンが用意されている。出来れば元のサイトにある原文の変身ボタンを一度押してみてから、次のリンク先を読んで欲しい。きっとびっくりするよ。
 元記事:http://www.wizards.com/Magic/Magazine/Article.aspx?x=mtg/daily/ld/171
 変身先:http://regiant.diarynote.jp/201112031619268384/

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