【翻訳】デベロップメントチームの仕事って結局のところ何なの?/What Developers Do【Daily MTG】
Zac Hill
2011年12月9日
元記事:http://www.wizards.com/Magic/Magazine/Article.aspx?x=mtg/daily/ld/172
今日はこの10年ちょいの長い時間の中、Latest Developmentで驚くほどに触れられてこなかったあることについて話したいと思っている。それは「マジックのデベロップメントチームが具体的に何をしているのか」だ。
R&Dに入るまで、俺はデベロップメントチームというものが具体的にどうやって時間をつぶしているのか、本当の意味では分かっていなかった。
デベロップメントが責任を持つ分野とデザインが責任を持つ分野の切り分けがどうなっているのかについて分かっていなかったし、異なる様々な人たちが関わることでセットの構成がどのような広がりを見せるのかも分かっていなかった。
さてここに来てしばらく経つ。実際にセットのデベロップメントリーダーを務めたこともある。今では前よりは多少仕事の内容についても分かってきたつもりだ。どうやら俺が想像してたのとはちょっとばかし違うようだということもね。
俺たちデベロップメントにはイラストの割り当てからカードにプレイテスト用のシールを貼り付ける作業まで実に様々な作業がある。ただ俺たちが時間を費やす主な仕事をあげるとすれば5つだ。
いや、もし20軒以上あるシアトルのパブで「Black Horse and a Cherry Tree」を熱唱することも加えていいなら6つになるけどね。……俺だけかな。
あれ、今、口に出して言ってた?
ゲフンゲフン
見出しは便利だ。
お仕事その1:マジックのカードを作ること
個人的な意見だが、マジックのデベロップメントに求められるもっと重要なスキルは良いマジックのカードを「デザインする」能力だと思っている。
……はあぁあぁぁあ!? マジックのカードをデザインするだってぇえぇえええ!? それってデザインチームの仕事じゃないの!???
以前までの俺は、デザインチームがカードファイルを作り、そのスロットをこれ以上ないほどクールな呪文とメカニズムで埋め尽くしたあと、デベロップメントチームがコンスタントなプレイテストを通じてそれらのカードのコストが適正かどうか、バランスが取れているか、色が適切であり各色に適切に割り振られているか、などについて責任を持つと思っていた。
違うんだ。そういうんじゃないんだ。
どうなってるかというと、セットの開発の半ばで、もうデザインチームはカードファイルをデベロップメントへ渡してしまうんだ。
もっとも、渡すのはそれだけじゃないけどね。
通常、そのときデベロップメントチームは同時に詳細な「Vision Document」を受け取る。これにはそのセットのデザイン構想が詰め込まれている。セットのもっとも重要なテーマ、メカニズム、各カード、そしてそれらが思い起こさせるべき本質と情景。
最近ではこのセットの核となるべき「デザインチームの望む姿(Design Favorites)」は20個かそれ以上の数が用意され、これらは可能な限り全てが保たれるべきものとなる。ゲームをプレイする際にどうだからという理由で取り除かれてはならない。
ゲームをプレイする上でどのように用いられるかが明らかにされているスロットもあったりするけど、逆に実際のカードでどのように表現されるかが明らかになっていないものもある。
そう、それを明らかにするのはデベロップメントの仕事だ。
これは誰かが君に青写真と材料(コンクリートやらレンガやらモルタルやらコリント式柱やら)を持ってきて建物の建築を依頼するのと似ている。
重要なことは、デザインチームは最終的なセットの完成品に出来る限り近いものを「提出すべきではない」ということだ。彼らの仕事は、完成品を作るために必要な道具と材料をきちんと手渡すことにある。
これが何を意味するかというと、手渡された中からほとんどのカードは様々な理由により削除されてしまうということだ。その理由の1つとしては(特にコモンに見られる現象だが)あるカードの変更が「波紋効果」によってセット全体に及んでしまうためだ。
もし、とある (2)(赤) 3/2 が、その能力が強すぎるという理由によって (3)(赤) であるべきだということになった場合、同じセット内にいる他の3体の (3)(赤) をそのままにしておいてよいということにはならない。
そしてこれら3体のうちの1体を変更すれば、当然これはまた別の何かを押し出すことになる。この小さなお祭り騒ぎが終わる頃には7枚くらいのカードが変更されていたりする。
別の例としては、もし緑のコモン・バニラ・クリーチャーが赤のコモン2点火力に負けないために4/3に設定されていたとして、その2点火力のマナコストが2マナ引き上げられる際にコストに見合うよう火力も3点に変更になったとしたら……まあ、広がる波紋の速度は分かってもらえるだろう。
何が言いたいかと言うと、1つや2つのボタンを押しただけじゃセット全体がきちんと収まるべきところに収まっているかどうかなんて確認しようがないという話だ。
新たなカードを生み出す必要に迫られるのもまたよくあることだ。すでに述べたとおりこれはコモンに発生しやすい現象だが、様々な理由によりレアにだって生じうる。
例えば、再録する予定だったカードが(当時はバランスがとれていたにせよ)現在の環境では強すぎる場合。ルール上、上手く働かないことが分かってしまった場合。新しいスフィンクスのなぞなぞが既存のスフィンクスのなぞなぞとあまりにそっくりだった場合。デベロッパーが「これはセットに入れなきゃやべえ!」と思うような何かを思いついてしまった場合。
どの場合においても、良いマジックのカードを「デザインする」能力に長けている必要がある。これを実践するためのコツは、どうすればデザインチームの思い描くところを傷ひとつなくそのままの形に伝えられるかに注意を払うことだ。
いや、それだけじゃ十分とは言えない。さらに、どうすれば思い描くところがゲームのデベロップメントを通じて伝えられるかが大事なんだ。
お仕事その2:リミテッドのプレイテストをする
現在のR&Dにおいて何度も何度も際限なく行われる大量のプレイテストにシールドデッキ戦とブースタードラフト戦は欠かすことが出来ない。もちろん構築戦のプレイテストはあまり行わないというわけじゃない。それについてはまたあとで話すよ。
ただ、リミテッド形式のテストは非常に効率が良くて、一石二鳥どころか、一石三鳥にも一石四鳥にもなるんだ。
1つに、実際のブースタードラフト(特にマジックオンラインにおいて)は、とんでもない回数遊ばれることになる。そしてそのフォーマットのライフサイクルの間、ずっと遊び続けることが可能なほどに丈夫でなくてはならない。
つまり何回か遊んだだけで戦術やメカニズムが陳腐化してしまうようなことがないよう、あらかじめ膨大な回数のプレイテストを行っておく必要がある。
それに対してシールドデッキは非常に多くのプレイヤーにその新たなフォーマットを紹介するという大事な仕事がある。ああ、もちろんプレリリースのことを言ってるんだよ。
出発ゲートから飛び出した直後からすぐにプレイヤーたちに良い第一印象を持ってもらえるよう細心の注意を払う必要がある。
シールド戦があまりにかったるくてバランスが悪くて気まずいものになってしまい、あとから「いや、信じてくれ、この環境は本当に面白いんだって!」と口に出して言わないといけないような事態は避けたい。出来ればやっぱり「百聞は一見にしかず」で理解してもらいたいと思う。
ただ俺たちが気にしているのはいわゆる公式のリミテッド環境だけじゃない。
君たちのようにこの記事を読んでくれているということは、好きなゲームのデザインに関するコンテンツを読みふけるために時間を割いてくれるほどにマジックに入れ込んでくれているということだ(よね?)。
つまり君たちは頭からつま先まで「マジックプレイヤー」だってことだ。
おそらく君たちはブースタードラフトとは何か、そしてシールドデッキとは何かを知っているし、さらにリミテッド環境がどのように発展していくものか、とか、どういったカードがあるフォーマットの寿命を延ばしてくれるか、とか、そういったことを知ってくれているはずだ。
君たちはすでにたくさんマジックを遊んだことがあり、おそらくは「マジックのコミュニティ」と呼ばれるものの一部だろう。しかしそういった形でマジックに関わっていないプレイヤーもまた大勢いるんだ。
彼らは「赤デッキ」や「青黒デッキ」などを持っていて、セットが出るごとに何個かブースターパックを購入して、そこから出たカードをやりくりしながらマジックをプレイしている。
彼らは別に自分たちの遊んでいるのが「リミテッド」なのか「構築」なのかを気にしたりしない。目の前に現れたカードを単に使うだけだ。それらのカードの使い心地ひとつでセットがいいか悪いかを判断する。
シールドデッキ戦やブースタードラフト戦というプレイテスト形式はこういったプレイヤーたちの置かれている環境を擬似的に体験させてくれる。ブースターパックを5個開けて中身を並べてみたときにそのセットがどんな風に見えるか、という分析を可能にしてくれる、ってことだ。
また同時にこのプレイテスト形式は、なんというか、1つの小世界を生みださせてくれる。全体のうち、ほんの少しのカードしか存在しない世界と言えばいいのかな。そしてそんな条件下であっても環境の面白さが保たれているのか、を確認することができるんだ。
それはとてもとっても重要なことだ。なぜならもし俺たちがそんな環境でも面白いと感じられるほどにセットの面白さを引っ張り上げることが出来ないとなると、そのプレイヤーたちは「スタンダード環境」とか「サイドボードとは」といった事柄を知ろうとするレベルまで自身を鍛え上げようとすることがなくなるからだ。
このレベルを目指すことはゲームデザイナーたる自分に課せられた義務だと思っている。
俺たちは芸術的なまでに素晴らしい何かを作っており、自身がそう信じている何かをプレイヤーたちにも芯まで味わってもらいたいと思っている。
ただ、高いところで偉そうにふんぞりかえりながら「まあ、最初に見た数パックでこのゲームが好きになれないようなプレイヤーは、この美しいゲームの奥深さに気づけなかったってことなんだろうな」と上から目線で考えるようなことはしたくない。
プレイヤーのせいにはできない。もしそんなことが起きてしまえば、それは他の誰でもない、俺の失敗だ。その高みまでプレイヤーを導くのは俺の仕事だ。よって、どの段階にあってもゲームがプレイされるされるようにするのがデベロップメントの役割ってことだ。
お仕事その3:構築環境のプレイテストをする
この1つ前に話した内容のせいで、この章への興味が薄れちゃったんじゃないかと不安だ。
むむっ。
多くのプレイヤーはスタンダード環境で遊んでいる。俺はすでにここで前に一度長々とスタンダード環境のためのプレイテストがどうやって行われるかを話したことがあるが、あえて繰り返してみる。
俺たちは、オフィスにいる8人かそこらの人間で先を見通せてしまうような直球そのものな環境を作り出したいとは思わない。とはいえ、その環境がプレイしてみたら大体どんな風になるのかをつかんでおきたいとは思う。
これを達成するための手段の1つはバランスをとることだ。あまりにぶっ壊れたカードが日の目を見ることのないよう注意を払ったり、環境を全体的に面白くしてくれるような様々な戦術の存在が許されるように気をつけたりすることだ。
--- --- --- --- --- --- --- ちょっとした余談 ここから --- --- --- --- --- --- ---
余談だが「全体的な面白さ」って話題を始めると、あきれた顔でこっちを見ながら「はいはい、そうですね」って冷笑を浮かべるプレイヤーたちがいる。
「何が面白いか」ってテーマはこのサイトでもよく話題にあがるテーマだ。
例えば俺が「《停滞/Stasis》デッキは悲劇しか生まない。対戦相手は『なんで俺マジック遊んでんだろ。サッカー観たり、フリスビー遊んだり、友人と出かけたりしたほうがいいんじゃないかな。ああ、中世の拷問器具に自ら突っ込むってのもいいな』って考え始めるだろう」とか言おうものなら、絶対誰ががこう言い出すのさ。「ちょっと、待てよ! 《停滞/Stasis》デッキが大好きな奴だっているぜ! 俺みたいにな!」
俺には、何が面白くて何が面白くないかを人に押し付ける権利はない。絶対にない。また、念のために言っておくと、他人の個人的な経験から下される評価というものは特に尊大で、おこがましく、また実体の伴わないものになりがちだということは知っている。
だけど俺たちが何が面白いかを知るために当てにしているのはより客観的で、かつ量に支えられた情報だ。それはテーブルに座って相対している両方のプレイヤーがどうすればよりゲームを楽しめるかについての情報だ。
俺が対戦相手である君の土地を全部吹きとばしたり全ての呪文を打ち消したりするときに俺が感じる面白さの総量は、大抵の場合、君の抱えることになる悲しみの総量を上回れない。
俺たちはこういった情報をもう20年近く収集してきた。
プレイヤーたちがどういったときに黙りこくってしまうのか、プレイヤーたちがどういったときによりプレイしたいと感じるのか、プレイヤーたちから調査するためにトーナメントやショップやイベントやコンベンションへ出向いて彼らと会話をし、こういった情報を俺たちは面と向かって直接仕入れてきた。
トーナメントへの参加状況について、現実世界でもマジックオンラインでもチェックしてきた。カジュアルと競技フォーマットの両方のトーナメントで、それらへの参加状況とそのトーナメントで主流だったデッキタイプの比較を行ってきた。
ある種の傾向は何度も繰り返し出現する。
まあ、なんだ。少なくともどのゲームにも最低2人のプレイヤーがいるとかね。
--- --- --- --- --- --- --- 明らかに長過ぎた余談 ここまで --- --- --- --- --- --- ---
何にせよ、俺たちは構築フォーマットのプレイテストで何か「面白くないこと」を発見したらその環境にその「面白くないこと」に対する何かしらの対抗策となるツールを足しこむ。
俺たちは全てのフォーマットを気にかけている。なぜならプレイヤーたちもまた全てのフォーマットを気にかけているからだ。何かが壊れているなら、俺たちはそれに対する最善の策を模索し全力でそれに取り組む。
お仕事その4:話すこと
これに関しては本当に長い時間を割いている。
R&Dという意思決定機関は基本的にデータ重視な組織だ。R&Dの中には本格的な科学の専門分野の上級学位取得者が何人もいるし、また俺たちも当然ゲーマーなので適切なデータなしで決断を迫られるとあたふたしてしまう。
俺自身はどちらかというと「つべこべを言う前にとにかく繰り返し遊べ」という立場だ(ああ、もちろん俺自身が絶対に「つべこべ言わない」というわけではない。言わせてもらえるときは言ってる)。
さらに言うと、俺たちは誠実は美徳であるという文化を自分たちに繰り返し叩き込む努力をしているので、同僚の道理にかなった判断を受け入れることが出来ている。
しかしときにはファイルと1時間以上にらめっこしなければいけないこともある。ときには行き詰ることもある。ときには何をすればよいのか分からなくなってしまうこともある。
そんなときどうするのか?
ああ、そうさ、ミーティングを開催するんだ。
うん、ミーティングだよ。
どこの会社でも古くから伝統的に行われている風習、ミーティングだ。
大きなセットを手がけているデベロップメントチームなら1週間当たり4~6時間くらい、小さなセットなら1週間当たり3~5時間くらいをミーティングに費やす。
ときには面と向かって話すことでしか解決できないこともある。
もし君が俺たちの仕事に要求される目標の高さを知っていたら(つまり、今手がけているカードの1枚1枚が幾万ものプレイヤーたちにチェックされ遊ばれるということを知っていたら)当然君だってセットの完成のために熱のこもった議論を戦わせることになるだろう……ファイルのカード1枚1枚すべてのためにね。
俺たちのミーティングではプレイテストの結果について話し合う。
どのカードがどのアーキタイプをリミテッドで可能にしているのかを分析する。
特定の目的のために特定のカードをデザインしたりする。
そうだな、例えばの話だが、基本セット20X6のドラフトのプレイテストを3回繰り返してみた結果、誰1人として緑黒の組み合わせをドラフトしなかったことに気づいたとする。
さて……問題は個々の黒と緑のカードにあるのか? それらのカードのあいだにあまりにシナジーがなさ過ぎるのか? これら2色の強いカードの組み合わせがあまりに特定のマナ域に偏っているせいで、この2色をドラフトしてもある一定以上の強さが得にくくなってしまっているのか? アンコモンを1枚か2枚足すだけで自然とこの2色の組み合わせがドラフトしてもらえるようになる戦術(例えば速攻の感染デッキや墓地利用デッキ)はないか?
マジックのように複雑なシステムに取り組んでいると、ときには4~5人の頭の回転が早い人間たちを一部屋に集めて何時間も話し合うことによってしか問題解決の糸口がつかめないというときがあるんだ。
こういうことは本当によくある。
お仕事その5:メタゲームのデザイン
一般的にマジックのメタゲームについて話題に上げるときは、特定の環境で実際に遊ばれているデッキたちの構成と利用頻度について指している。
だけどこの「メタゲーム」という単語にはもっと大きな意味がある。広い意味では「ゲーム外を含めたゲーム全体(game outside the game)」と言える。
R&Dは、ウィザーズ・オブ・ザ・コースト社の中でゲームデザインを担当している部署の1つであり、レントンにあるオフィスだけでも400人以上の社員を抱えているこのウィザーズ社というのは、より大きなハスブロという会社の子会社の1つに過ぎない。
俺たちの時間の大半は実際のゲーム(君たちが目にすることになる店の棚に並ぶあれだ)をデザインすることに費やされているが、実はそれ以外にも結構な時間をそれとは異なる形で会社に貢献することに使っている。
マジックというゲームのメカニズムは、ゼウスの額からアテナが飛び出してきたかのように、いきなり自然発生的に生まれるわけじゃない。マジックというゲームが実際に存在し遊ばれるために、とても多くの人たちが舞台裏で目覚しい活躍を見せているんだ。
カードは物理的に生産され、印刷され、物流に乗せられる必要がある。
イラストは契約され、割り当てられ、カードに合わせられる必要がある。パッケージのデザインがなされる必要がある。
テキストをタイプする必要がある。
広告を折りたたむ必要がある。
トーナメントが開催される必要がある。
俺の読みにくいミミズののたくったような文章は、辛抱強いまじめな編集者によって校正される必要がある。
これら全ての工程は「メタゲームのデザイン」の一部だ。なぜならこれら全ての工程が「プレイヤーがマジックというゲームをどう体験するか」に関わってくるからだ。
もしマジックが全宇宙でもっとも優れたゲームだったとしても、それが店に並ぶことがなければ君たちの手に入ることもなく、このマジックというゲームはもがき苦しむことになる。
もしプレリリースもフライデーナイトマジックもショップ検索もプロイベントも存在せず、君たちが自らネットで遊ぶ相手を探さないといけないようなことになれば、マジックというゲームはもがき苦しむことになる。
一目でファンタジーと統一された世界観を感じさせてくれる舞台設定とイラストが存在せず、マジックのボックスが「俺の友達のいとこってすげえ絵が上手いんだぜ、マジで」みたいな人物に作られたりしたら、これまたマジックというゲームはもがき苦しむことになる。
ウィザーズは会社としてこのことを理解している。だからこそマジックのデベロップメントに関わるメンバーはマジックが生み出される工程の全てに何らかの形で携わるようにしているんだ。
ミラディンの傷跡のFaction Packのように、土曜日のシールドデッキのため、プレリリースのデザインを手伝ったりする。名前やコンセプトやフレイバーテキストの一部を考えたりすることでセットのクリエイティブな部分に貢献したりする。販売キャンペーンがセットのメカニズムやテーマにきちんと沿っていることを確認したりする。
そして、デベロップメントの多くのメンバーがマジックのプレミアイベントの上位に入賞したことがあるという強みを活かして、マジックのトーナメントシステムが全てのプレイヤーの要望に応えられているかどうかを定期的にそして継続的にチェックし続けている。
カードに記載されていることだけがマジックじゃない。
俺たちはその外側にあることも含めて、ゲーム開発を行っているんだ。
開発部を開発する
品質開発という作業の一部には需要を理解するということがあり、これは最終的には、自身の需要のために工程を最適化するということになる。よって、この作業(や他の作業)が定期的に行われるかどうかが各セットの成功(と失敗)へとつながる。
さらに言えば、各デベロップメント・リーダーごとにもっとも自分に合った流儀というものが存在している。
しかし一般的に言えば、ここであげた5つの仕事が俺たちの時間の大半を占めていると言える。俺たちはデザインチームから受け取ったものをこれらの作業を通じてととのえることで、今まさに君たちの手元で遊ばれているそのセットへと作り変えるわけだ。
君たちがそれを楽しんでくれているといいんだけどな。
Zac Hill
2011年12月9日
元記事:http://www.wizards.com/Magic/Magazine/Article.aspx?x=mtg/daily/ld/172
今日はこの10年ちょいの長い時間の中、Latest Developmentで驚くほどに触れられてこなかったあることについて話したいと思っている。それは「マジックのデベロップメントチームが具体的に何をしているのか」だ。
R&Dに入るまで、俺はデベロップメントチームというものが具体的にどうやって時間をつぶしているのか、本当の意味では分かっていなかった。
デベロップメントが責任を持つ分野とデザインが責任を持つ分野の切り分けがどうなっているのかについて分かっていなかったし、異なる様々な人たちが関わることでセットの構成がどのような広がりを見せるのかも分かっていなかった。
さてここに来てしばらく経つ。実際にセットのデベロップメントリーダーを務めたこともある。今では前よりは多少仕事の内容についても分かってきたつもりだ。どうやら俺が想像してたのとはちょっとばかし違うようだということもね。
俺たちデベロップメントにはイラストの割り当てからカードにプレイテスト用のシールを貼り付ける作業まで実に様々な作業がある。ただ俺たちが時間を費やす主な仕事をあげるとすれば5つだ。
いや、もし20軒以上あるシアトルのパブで「Black Horse and a Cherry Tree」を熱唱することも加えていいなら6つになるけどね。……俺だけかな。
あれ、今、口に出して言ってた?
ゲフンゲフン
見出しは便利だ。
お仕事その1:マジックのカードを作ること
個人的な意見だが、マジックのデベロップメントに求められるもっと重要なスキルは良いマジックのカードを「デザインする」能力だと思っている。
……はあぁあぁぁあ!? マジックのカードをデザインするだってぇえぇえええ!? それってデザインチームの仕事じゃないの!???
以前までの俺は、デザインチームがカードファイルを作り、そのスロットをこれ以上ないほどクールな呪文とメカニズムで埋め尽くしたあと、デベロップメントチームがコンスタントなプレイテストを通じてそれらのカードのコストが適正かどうか、バランスが取れているか、色が適切であり各色に適切に割り振られているか、などについて責任を持つと思っていた。
違うんだ。そういうんじゃないんだ。
どうなってるかというと、セットの開発の半ばで、もうデザインチームはカードファイルをデベロップメントへ渡してしまうんだ。
もっとも、渡すのはそれだけじゃないけどね。
通常、そのときデベロップメントチームは同時に詳細な「Vision Document」を受け取る。これにはそのセットのデザイン構想が詰め込まれている。セットのもっとも重要なテーマ、メカニズム、各カード、そしてそれらが思い起こさせるべき本質と情景。
最近ではこのセットの核となるべき「デザインチームの望む姿(Design Favorites)」は20個かそれ以上の数が用意され、これらは可能な限り全てが保たれるべきものとなる。ゲームをプレイする際にどうだからという理由で取り除かれてはならない。
ゲームをプレイする上でどのように用いられるかが明らかにされているスロットもあったりするけど、逆に実際のカードでどのように表現されるかが明らかになっていないものもある。
そう、それを明らかにするのはデベロップメントの仕事だ。
これは誰かが君に青写真と材料(コンクリートやらレンガやらモルタルやらコリント式柱やら)を持ってきて建物の建築を依頼するのと似ている。
重要なことは、デザインチームは最終的なセットの完成品に出来る限り近いものを「提出すべきではない」ということだ。彼らの仕事は、完成品を作るために必要な道具と材料をきちんと手渡すことにある。
これが何を意味するかというと、手渡された中からほとんどのカードは様々な理由により削除されてしまうということだ。その理由の1つとしては(特にコモンに見られる現象だが)あるカードの変更が「波紋効果」によってセット全体に及んでしまうためだ。
もし、とある (2)(赤) 3/2 が、その能力が強すぎるという理由によって (3)(赤) であるべきだということになった場合、同じセット内にいる他の3体の (3)(赤) をそのままにしておいてよいということにはならない。
そしてこれら3体のうちの1体を変更すれば、当然これはまた別の何かを押し出すことになる。この小さなお祭り騒ぎが終わる頃には7枚くらいのカードが変更されていたりする。
別の例としては、もし緑のコモン・バニラ・クリーチャーが赤のコモン2点火力に負けないために4/3に設定されていたとして、その2点火力のマナコストが2マナ引き上げられる際にコストに見合うよう火力も3点に変更になったとしたら……まあ、広がる波紋の速度は分かってもらえるだろう。
何が言いたいかと言うと、1つや2つのボタンを押しただけじゃセット全体がきちんと収まるべきところに収まっているかどうかなんて確認しようがないという話だ。
新たなカードを生み出す必要に迫られるのもまたよくあることだ。すでに述べたとおりこれはコモンに発生しやすい現象だが、様々な理由によりレアにだって生じうる。
例えば、再録する予定だったカードが(当時はバランスがとれていたにせよ)現在の環境では強すぎる場合。ルール上、上手く働かないことが分かってしまった場合。新しいスフィンクスのなぞなぞが既存のスフィンクスのなぞなぞとあまりにそっくりだった場合。デベロッパーが「これはセットに入れなきゃやべえ!」と思うような何かを思いついてしまった場合。
どの場合においても、良いマジックのカードを「デザインする」能力に長けている必要がある。これを実践するためのコツは、どうすればデザインチームの思い描くところを傷ひとつなくそのままの形に伝えられるかに注意を払うことだ。
いや、それだけじゃ十分とは言えない。さらに、どうすれば思い描くところがゲームのデベロップメントを通じて伝えられるかが大事なんだ。
お仕事その2:リミテッドのプレイテストをする
現在のR&Dにおいて何度も何度も際限なく行われる大量のプレイテストにシールドデッキ戦とブースタードラフト戦は欠かすことが出来ない。もちろん構築戦のプレイテストはあまり行わないというわけじゃない。それについてはまたあとで話すよ。
ただ、リミテッド形式のテストは非常に効率が良くて、一石二鳥どころか、一石三鳥にも一石四鳥にもなるんだ。
1つに、実際のブースタードラフト(特にマジックオンラインにおいて)は、とんでもない回数遊ばれることになる。そしてそのフォーマットのライフサイクルの間、ずっと遊び続けることが可能なほどに丈夫でなくてはならない。
つまり何回か遊んだだけで戦術やメカニズムが陳腐化してしまうようなことがないよう、あらかじめ膨大な回数のプレイテストを行っておく必要がある。
それに対してシールドデッキは非常に多くのプレイヤーにその新たなフォーマットを紹介するという大事な仕事がある。ああ、もちろんプレリリースのことを言ってるんだよ。
出発ゲートから飛び出した直後からすぐにプレイヤーたちに良い第一印象を持ってもらえるよう細心の注意を払う必要がある。
シールド戦があまりにかったるくてバランスが悪くて気まずいものになってしまい、あとから「いや、信じてくれ、この環境は本当に面白いんだって!」と口に出して言わないといけないような事態は避けたい。出来ればやっぱり「百聞は一見にしかず」で理解してもらいたいと思う。
ただ俺たちが気にしているのはいわゆる公式のリミテッド環境だけじゃない。
君たちのようにこの記事を読んでくれているということは、好きなゲームのデザインに関するコンテンツを読みふけるために時間を割いてくれるほどにマジックに入れ込んでくれているということだ(よね?)。
つまり君たちは頭からつま先まで「マジックプレイヤー」だってことだ。
おそらく君たちはブースタードラフトとは何か、そしてシールドデッキとは何かを知っているし、さらにリミテッド環境がどのように発展していくものか、とか、どういったカードがあるフォーマットの寿命を延ばしてくれるか、とか、そういったことを知ってくれているはずだ。
君たちはすでにたくさんマジックを遊んだことがあり、おそらくは「マジックのコミュニティ」と呼ばれるものの一部だろう。しかしそういった形でマジックに関わっていないプレイヤーもまた大勢いるんだ。
彼らは「赤デッキ」や「青黒デッキ」などを持っていて、セットが出るごとに何個かブースターパックを購入して、そこから出たカードをやりくりしながらマジックをプレイしている。
彼らは別に自分たちの遊んでいるのが「リミテッド」なのか「構築」なのかを気にしたりしない。目の前に現れたカードを単に使うだけだ。それらのカードの使い心地ひとつでセットがいいか悪いかを判断する。
シールドデッキ戦やブースタードラフト戦というプレイテスト形式はこういったプレイヤーたちの置かれている環境を擬似的に体験させてくれる。ブースターパックを5個開けて中身を並べてみたときにそのセットがどんな風に見えるか、という分析を可能にしてくれる、ってことだ。
また同時にこのプレイテスト形式は、なんというか、1つの小世界を生みださせてくれる。全体のうち、ほんの少しのカードしか存在しない世界と言えばいいのかな。そしてそんな条件下であっても環境の面白さが保たれているのか、を確認することができるんだ。
それはとてもとっても重要なことだ。なぜならもし俺たちがそんな環境でも面白いと感じられるほどにセットの面白さを引っ張り上げることが出来ないとなると、そのプレイヤーたちは「スタンダード環境」とか「サイドボードとは」といった事柄を知ろうとするレベルまで自身を鍛え上げようとすることがなくなるからだ。
このレベルを目指すことはゲームデザイナーたる自分に課せられた義務だと思っている。
俺たちは芸術的なまでに素晴らしい何かを作っており、自身がそう信じている何かをプレイヤーたちにも芯まで味わってもらいたいと思っている。
ただ、高いところで偉そうにふんぞりかえりながら「まあ、最初に見た数パックでこのゲームが好きになれないようなプレイヤーは、この美しいゲームの奥深さに気づけなかったってことなんだろうな」と上から目線で考えるようなことはしたくない。
プレイヤーのせいにはできない。もしそんなことが起きてしまえば、それは他の誰でもない、俺の失敗だ。その高みまでプレイヤーを導くのは俺の仕事だ。よって、どの段階にあってもゲームがプレイされるされるようにするのがデベロップメントの役割ってことだ。
お仕事その3:構築環境のプレイテストをする
この1つ前に話した内容のせいで、この章への興味が薄れちゃったんじゃないかと不安だ。
むむっ。
多くのプレイヤーはスタンダード環境で遊んでいる。俺はすでにここで前に一度長々とスタンダード環境のためのプレイテストがどうやって行われるかを話したことがあるが、あえて繰り返してみる。
俺たちは、オフィスにいる8人かそこらの人間で先を見通せてしまうような直球そのものな環境を作り出したいとは思わない。とはいえ、その環境がプレイしてみたら大体どんな風になるのかをつかんでおきたいとは思う。
これを達成するための手段の1つはバランスをとることだ。あまりにぶっ壊れたカードが日の目を見ることのないよう注意を払ったり、環境を全体的に面白くしてくれるような様々な戦術の存在が許されるように気をつけたりすることだ。
--- --- --- --- --- --- --- ちょっとした余談 ここから --- --- --- --- --- --- ---
余談だが「全体的な面白さ」って話題を始めると、あきれた顔でこっちを見ながら「はいはい、そうですね」って冷笑を浮かべるプレイヤーたちがいる。
「何が面白いか」ってテーマはこのサイトでもよく話題にあがるテーマだ。
例えば俺が「《停滞/Stasis》デッキは悲劇しか生まない。対戦相手は『なんで俺マジック遊んでんだろ。サッカー観たり、フリスビー遊んだり、友人と出かけたりしたほうがいいんじゃないかな。ああ、中世の拷問器具に自ら突っ込むってのもいいな』って考え始めるだろう」とか言おうものなら、絶対誰ががこう言い出すのさ。「ちょっと、待てよ! 《停滞/Stasis》デッキが大好きな奴だっているぜ! 俺みたいにな!」
俺には、何が面白くて何が面白くないかを人に押し付ける権利はない。絶対にない。また、念のために言っておくと、他人の個人的な経験から下される評価というものは特に尊大で、おこがましく、また実体の伴わないものになりがちだということは知っている。
だけど俺たちが何が面白いかを知るために当てにしているのはより客観的で、かつ量に支えられた情報だ。それはテーブルに座って相対している両方のプレイヤーがどうすればよりゲームを楽しめるかについての情報だ。
俺が対戦相手である君の土地を全部吹きとばしたり全ての呪文を打ち消したりするときに俺が感じる面白さの総量は、大抵の場合、君の抱えることになる悲しみの総量を上回れない。
俺たちはこういった情報をもう20年近く収集してきた。
プレイヤーたちがどういったときに黙りこくってしまうのか、プレイヤーたちがどういったときによりプレイしたいと感じるのか、プレイヤーたちから調査するためにトーナメントやショップやイベントやコンベンションへ出向いて彼らと会話をし、こういった情報を俺たちは面と向かって直接仕入れてきた。
トーナメントへの参加状況について、現実世界でもマジックオンラインでもチェックしてきた。カジュアルと競技フォーマットの両方のトーナメントで、それらへの参加状況とそのトーナメントで主流だったデッキタイプの比較を行ってきた。
ある種の傾向は何度も繰り返し出現する。
まあ、なんだ。少なくともどのゲームにも最低2人のプレイヤーがいるとかね。
--- --- --- --- --- --- --- 明らかに長過ぎた余談 ここまで --- --- --- --- --- --- ---
何にせよ、俺たちは構築フォーマットのプレイテストで何か「面白くないこと」を発見したらその環境にその「面白くないこと」に対する何かしらの対抗策となるツールを足しこむ。
俺たちは全てのフォーマットを気にかけている。なぜならプレイヤーたちもまた全てのフォーマットを気にかけているからだ。何かが壊れているなら、俺たちはそれに対する最善の策を模索し全力でそれに取り組む。
お仕事その4:話すこと
これに関しては本当に長い時間を割いている。
R&Dという意思決定機関は基本的にデータ重視な組織だ。R&Dの中には本格的な科学の専門分野の上級学位取得者が何人もいるし、また俺たちも当然ゲーマーなので適切なデータなしで決断を迫られるとあたふたしてしまう。
俺自身はどちらかというと「つべこべを言う前にとにかく繰り返し遊べ」という立場だ(ああ、もちろん俺自身が絶対に「つべこべ言わない」というわけではない。言わせてもらえるときは言ってる)。
さらに言うと、俺たちは誠実は美徳であるという文化を自分たちに繰り返し叩き込む努力をしているので、同僚の道理にかなった判断を受け入れることが出来ている。
しかしときにはファイルと1時間以上にらめっこしなければいけないこともある。ときには行き詰ることもある。ときには何をすればよいのか分からなくなってしまうこともある。
そんなときどうするのか?
ああ、そうさ、ミーティングを開催するんだ。
うん、ミーティングだよ。
どこの会社でも古くから伝統的に行われている風習、ミーティングだ。
大きなセットを手がけているデベロップメントチームなら1週間当たり4~6時間くらい、小さなセットなら1週間当たり3~5時間くらいをミーティングに費やす。
ときには面と向かって話すことでしか解決できないこともある。
もし君が俺たちの仕事に要求される目標の高さを知っていたら(つまり、今手がけているカードの1枚1枚が幾万ものプレイヤーたちにチェックされ遊ばれるということを知っていたら)当然君だってセットの完成のために熱のこもった議論を戦わせることになるだろう……ファイルのカード1枚1枚すべてのためにね。
俺たちのミーティングではプレイテストの結果について話し合う。
どのカードがどのアーキタイプをリミテッドで可能にしているのかを分析する。
特定の目的のために特定のカードをデザインしたりする。
そうだな、例えばの話だが、基本セット20X6のドラフトのプレイテストを3回繰り返してみた結果、誰1人として緑黒の組み合わせをドラフトしなかったことに気づいたとする。
さて……問題は個々の黒と緑のカードにあるのか? それらのカードのあいだにあまりにシナジーがなさ過ぎるのか? これら2色の強いカードの組み合わせがあまりに特定のマナ域に偏っているせいで、この2色をドラフトしてもある一定以上の強さが得にくくなってしまっているのか? アンコモンを1枚か2枚足すだけで自然とこの2色の組み合わせがドラフトしてもらえるようになる戦術(例えば速攻の感染デッキや墓地利用デッキ)はないか?
マジックのように複雑なシステムに取り組んでいると、ときには4~5人の頭の回転が早い人間たちを一部屋に集めて何時間も話し合うことによってしか問題解決の糸口がつかめないというときがあるんだ。
こういうことは本当によくある。
お仕事その5:メタゲームのデザイン
一般的にマジックのメタゲームについて話題に上げるときは、特定の環境で実際に遊ばれているデッキたちの構成と利用頻度について指している。
だけどこの「メタゲーム」という単語にはもっと大きな意味がある。広い意味では「ゲーム外を含めたゲーム全体(game outside the game)」と言える。
R&Dは、ウィザーズ・オブ・ザ・コースト社の中でゲームデザインを担当している部署の1つであり、レントンにあるオフィスだけでも400人以上の社員を抱えているこのウィザーズ社というのは、より大きなハスブロという会社の子会社の1つに過ぎない。
俺たちの時間の大半は実際のゲーム(君たちが目にすることになる店の棚に並ぶあれだ)をデザインすることに費やされているが、実はそれ以外にも結構な時間をそれとは異なる形で会社に貢献することに使っている。
マジックというゲームのメカニズムは、ゼウスの額からアテナが飛び出してきたかのように、いきなり自然発生的に生まれるわけじゃない。マジックというゲームが実際に存在し遊ばれるために、とても多くの人たちが舞台裏で目覚しい活躍を見せているんだ。
カードは物理的に生産され、印刷され、物流に乗せられる必要がある。
イラストは契約され、割り当てられ、カードに合わせられる必要がある。パッケージのデザインがなされる必要がある。
テキストをタイプする必要がある。
広告を折りたたむ必要がある。
トーナメントが開催される必要がある。
俺の読みにくいミミズののたくったような文章は、辛抱強いまじめな編集者によって校正される必要がある。
これら全ての工程は「メタゲームのデザイン」の一部だ。なぜならこれら全ての工程が「プレイヤーがマジックというゲームをどう体験するか」に関わってくるからだ。
もしマジックが全宇宙でもっとも優れたゲームだったとしても、それが店に並ぶことがなければ君たちの手に入ることもなく、このマジックというゲームはもがき苦しむことになる。
もしプレリリースもフライデーナイトマジックもショップ検索もプロイベントも存在せず、君たちが自らネットで遊ぶ相手を探さないといけないようなことになれば、マジックというゲームはもがき苦しむことになる。
一目でファンタジーと統一された世界観を感じさせてくれる舞台設定とイラストが存在せず、マジックのボックスが「俺の友達のいとこってすげえ絵が上手いんだぜ、マジで」みたいな人物に作られたりしたら、これまたマジックというゲームはもがき苦しむことになる。
ウィザーズは会社としてこのことを理解している。だからこそマジックのデベロップメントに関わるメンバーはマジックが生み出される工程の全てに何らかの形で携わるようにしているんだ。
ミラディンの傷跡のFaction Packのように、土曜日のシールドデッキのため、プレリリースのデザインを手伝ったりする。名前やコンセプトやフレイバーテキストの一部を考えたりすることでセットのクリエイティブな部分に貢献したりする。販売キャンペーンがセットのメカニズムやテーマにきちんと沿っていることを確認したりする。
そして、デベロップメントの多くのメンバーがマジックのプレミアイベントの上位に入賞したことがあるという強みを活かして、マジックのトーナメントシステムが全てのプレイヤーの要望に応えられているかどうかを定期的にそして継続的にチェックし続けている。
カードに記載されていることだけがマジックじゃない。
俺たちはその外側にあることも含めて、ゲーム開発を行っているんだ。
開発部を開発する
品質開発という作業の一部には需要を理解するということがあり、これは最終的には、自身の需要のために工程を最適化するということになる。よって、この作業(や他の作業)が定期的に行われるかどうかが各セットの成功(と失敗)へとつながる。
さらに言えば、各デベロップメント・リーダーごとにもっとも自分に合った流儀というものが存在している。
しかし一般的に言えば、ここであげた5つの仕事が俺たちの時間の大半を占めていると言える。俺たちはデザインチームから受け取ったものをこれらの作業を通じてととのえることで、今まさに君たちの手元で遊ばれているそのセットへと作り変えるわけだ。
君たちがそれを楽しんでくれているといいんだけどな。
コメント
個人的に面白かったのはリミテッドのプレイテストの箇所でした。ドラフトやシールドのためだけにドラフトやシールドのテストプレイをしているわけではないのだよ、という話。