【翻訳】ラヴニカへの回帰のプロツアーで失格処分を受けた私について/Life Totals, Disqualification, and You (and Me)【TCG Player】
2013年1月3日 翻訳 コメント (9)翻訳をお読みいただく前に
個人的な意見として、この記事の主題は、ルールの制定や解釈がどうとか、ジャッジの裁定が正しかったか正しくなかったかとか、そんなことではないんだと思う。
失格裁定を受けたときどうすべきか、受けた人に対してどう接するべきか、同じコミュニティに属する人同士がどう助け合うか、須藤元気がいかに尊敬に値する人物であるか。そういったことを言いたいんだと思う。
またこの件について記事を書かれている方が何人かいらっしゃるので紹介しておく。大会に実際に参加される方はすずけんさんのブログを一読されることをおススメする。
黄昏通信社跡地処分推進室分室(高潮のさん)
http://drk2718.diarynote.jp/201211130201147241/
すずけんMagicメモ(すずけんさん)
http://37082.diarynote.jp/201210251311355106/
どちらの方も紹介されているように、この件についてはジャッジ側の記事が存在する。気力がある人はこの記事を読んだあとにそっち(以下参照)にも目を通して欲しい。
Policy Perspectives(レベル5ジャッジ:Toby Elliott)
http://blogs.magicjudges.org/telliott/2012/10/24/the-jackie-lee-dq/
【翻訳】ラヴニカへの回帰のプロツアーで失格処分を受けた私について/Life Totals, Disqualification, and You (and Me)【TCG Player】
Jackie Lee
2012年10月24日
元記事:http://magic.tcgplayer.com/db/article.asp?ID=10794
<その1>
プロツアー登録時、特製Tシャツは「Lサイズ」と「XLサイズ」しか残ってなかった。
<その2>
イベント当日の朝、家に忘れて来たせいで70ドル分のカードを買う羽目になった。
というようなことがいきなりあったわけで、さてシアトルでどんな目に合うにしてもこれよりひどいことはないだろう、って思ってた。ああ、それと初日にひどいデッキをドラフトしちゃうかもしれないって心配も少ししてた。
失格処分? これっぽっちも考えてなかった。
この記事で述べてることは私だけでなく、マジックのプレイヤー、ジャッジ、そしてマジックのコミュニティすべてに関わることだ。私たちみんなが同じ意見を持ってるわけじゃないってことは分かってる。だけど共有する部分も大きくあるはずだと思ってる。
私は今回のことから出来る限りのことを学ぼうと思ってる。そしてそれを皆に伝えられたら、とも思ってる。ここから述べることは基本的に私個人の話だ。私がしたいこと、それは人々にトーナメントレベルのプレイについて知ってもらうこと、そしてマジックのルール改定の改善だ。
何が起きたか
ラウンド6が終わったところでウィザーズ社はこの記事(訳註)をプロツアーのカバレージサイトにアップした。
(訳註) この記事
原文では以下のURLへリンクが張られている。著者 Jackie Leeの失格の発表。
http://www.wizards.com/Magic/Magazine/Article.aspx?x=mtg/daily/eventcoverage/ptrtr12/DisqualificationinRound6
実際に起きたことはかなり複雑で、まずはその全体像を知ってもらわないことには議論のしようがない。それは新しいルールの非常に奇妙な相互作用によるものなので、先入観を持たずにじっくり読んでもらう必要がある。
私がドラフトへと突入したときの成績は2-3で、そのドラフトは《思考を築く者、ジェイス/Jace, Architect of Thought》から始まるというなかなかのものだった。私はデッキに自信があったので少なくとも2-1は出来るだろうと、2日目に進めるだろうと思っていた。
最初のラウンドで当たったプレイヤーは、国全体でもマジックを遊んでいるのが80人程度という場所から来たというプレイヤーだった。もっと増えそう?、と私が聞くと返事は、そうなって欲しいとは思ってるんだけど、だった。
私から見ると彼はけっこう内気な感じがして、もしかしたら初のプロツアー参戦なのかな、と思った。それでも私たちは打ち解けた会話が出来て、あらためてゲームを開始した。
彼のラクドスデッキを上回るテンポで展開した私のデッキが1試合目を制した。
2試合目は転じて押される形となった。私の手札は青1色で、《凍結燃焼の奇魔/Frostburn Weird》が相手のパワー2や3のクリーチャーを防いでくれている間に10枚ある《山/Mountain》を1枚引ければなんとかなりそうだった。
しかし彼は私のその《凍結燃焼の奇魔/Frostburn Weird》に《刺し傷/Stab Wound》をプレイしてターンを返した。私はカードを引き、それが《山/Mountain》じゃないことにがっかりした。対戦相手の彼は何やら書きつけていた……《刺し傷/Stab Wound》によるライフの減少だ。
私はそのとき2つの新しいルールを思いだしていた。
1つは相手の誘発忘れを指摘する必要は無いということ、もう1つはライフの総計についてはきちんと声に出して宣言すること。私は相手が誘発について宣言するのを注意深く待ったけど、何も聞こえなかった。相手の口元を見たけど、微妙に開いているように見えただけだった。
ふむ、と私は考えた。
彼はライフの減少についてきちんと声に出して宣言しなければいけないのにそうしなかった、ということは、誘発を忘れたってことだ。
次のターン、彼は《冒涜の悪魔/Desecration Demon》をプレイした。1試合目で彼のデッキに《不気味な人足/Grim Roustabout》や《跳ね散らす凶漢/Splatter Thug》より大きいクリーチャーを見なかったので赤いマナソースを引くまでもう少し時間があると思っていた。
だけどこうなってしまうともう私に勝利をもたらしてくれそうなカードは見こめなかった。《刺し傷/Stab Wound》のついた《凍結燃焼の奇魔/Frostburn Weird》をパンプすることで自ら墓地へ送ろうと送るまいと関係ない状態だったので私はそれをそのままにしておいた。
この時点での私は、単にゲームを少し長引かせることでまだ見ていない彼のカードをもう何枚か見たり、もしくは彼のプレイの癖をチェックできたりしないかと期待していただけだった。
私はカードを1枚引き、彼が《刺し傷/Stab Wound》のライフ現象をメモするのを見ていた。今回も私は彼が何か言うか、注意深く口元を見ながら耳をすましたが、特に何も聞こえなかった。私は特に何もプレイせずにターンを返した。
「攻撃してもいいかな」と彼が聞いて来たので私は許可した。そして許可したあと、《凍結燃焼の奇魔/Frostburn Weird》を生け贄に捧げても良かったじゃないか、と内心で後悔した。どうせこのゲームに勝てる見込みはないんだから、と。
攻撃を受けてから私は、残りライフは14です、と伝えた。対戦相手は「僕のメモによると10だよ。《刺し傷/Stab Wound》のダメージは?」と言った。
私は事態を収拾するため、すぐにジャッジを呼んだ。対戦相手は少し抵抗があったみたいだったけど、ジャッジならきっと上手くさばいてくれるし時間の延長も認めてくれるはずだから、と私は落ち着いて説明した。
ジャッジが来たので私は「対戦相手が2ターンに渡って《刺し傷/Stab Wound》のダメージを記録したけど、その際に口頭による宣言がなかった。相手の《冒涜の悪魔/Desecration Demon》が攻撃したあと、私は自分のライフ総計が14だと言ったけど、相手は10だと言った」と伝えた。
ジャッジは次に私の対戦相手の言い分を聞いた。彼は口ごもりながらも「ちゃんと宣言した。『これで君のライフは18だ』って言ったはずだけど、もしかしたら小声だったかもしれない」とジャッジに伝えた。私は内心膨れ上がりつつあった恐怖を抑えつつ、そんなことなかった、と反論した。
20分後、ヘッドジャッジが追加の質問をいくつかするために私をテーブルから連れ出した。
「対戦相手がライフの総計をメモするところを見たかい?」と彼は私に尋ねて来た。私はゆっくりと「はい、見ました」と答えた。そう答えてはいけないと何かが告げていたけど、これは真実だ。
さらにジャッジは「ライフの総計が食い違っているのに気づいたときはジャッジを呼ばなくてはいけない、というルールがあることは知っているかい?」と聞いて来た。「はい」という私の返事はさらに弱々しいものになっていた。
私は必死に新しいルールについて思いだそうとしていた。ゲームロスが忍び寄っていることに気づいていたが、正直かつ注意深く対応しているのになぜ私の落ち度になるのかがイマイチ理解できないままだった。
結局のところ、ルールというものは正直者を守るためのもののはずで、誘発に関する新しいルールも、対戦相手より注意深くかつ鋭く観察しているプレイヤーが報われるはずのものだ。
そして判決が下された。
「君はこのルールをぎりぎりまで有利に用いようとしたが、私たちは超えてはいけないラインを超えてしまったものとみなす」
私は厳粛にうなずいた。
「複数ターンに渡って、対戦相手が記録しているライフ総計と異なるライフ総計を君は記録し続けてた。これによって君は相手から有利を得ようとしていた。これは不正行為(fraud)に当たる。よって君はトーナメントから除外される。失格(disqualified)だ」
驚きのあまり、顎が外れるかと思った。
私は反論した。
確かにルールを正しく理解していなかったかもしれないかもしれないが、それによってそこまで重い処罰を受けることには納得がいかなかった。
私は申し立て(appeal)をさせてもらうよう求めたが、裁定したのがヘッドジャッジだったためそれは却下された。私は処罰が軽くしてもらうよう求めたが、不正行為を行った場合は軽減されないと教えられただけだった。「これで君のプロツアーは終わりだ」と冷たく返された。
私たちは卓に戻り、ジャッジは対戦相手に私が失格処分になったことを告げた。相手はそれはそれは驚いた様子だった。「まさかそんなことになるなんて!」「ごめんよ!」と彼はつっかえつっかえ何度も私に繰り返した。「大丈夫よ」と私は答えた。「あなたは何も悪くないから心配しないで」と。
それでも謝罪を繰り返す相手を私はさえぎった。「謝らないで。こうなるかもしれないってあなたは知らなかったし、私も知らなかった。だけどジャッジがこれがルールだって言うんだから、これでいいのよ」
私たちは2人とも事の経緯を書いて提出するよう求められた。ジャッジの1人に、資格停止になる可能性はないけどこれはどんな失格処分の際にも求められる手続きだから、と説明された。私はどれだけ時間をかけて書いても良いし、何か聞きたいことがあればジャッジが答えるから、とも言われた。
私はぼんやりしながら、ありがとう、と礼を言った。
ふと見ると、対戦相手の彼はもらった白紙の片面を使いきってさらに裏側にまで書き込んでいた。初めて会ったばかりだったけど、このとき見た光景からしっかり伝わってきた。彼はとても正直で、そしてとても親身になってくれた。
とても嬉しかった。
私たちがマジックを遊ぶ理由は2ターンキルのコンボを決めたいからだったり、天使が好きだったり、と様々だ。私にとって、マジックはどこまでもルールとシステムだ。私がここまでマジックを好きなのは、このただただ不合理な世界に存在する合理性の砦だからだ。
私たち人間は社会的な生物として進化した過程で様々な認識の偏りと先入観を持ってしまった。マジックという一連のルールの集合体は人間のそういった性質から独立した存在だ。純粋な論理の領域。私はそこで過ごす時間を目いっぱい楽しんでいる。
汚いプレイや非紳士的なプレイといったものがある、という意見は私にとって常に理解しがたいものだった。Angle Shootingすら私には遠いものだった(訳註)。
(訳註)
Angle Shootingは、ルールの範囲内で相手のミスを誘ったり、相手の戦意喪失を狙ったりする行為を指す言葉らしい。日本語に対訳となる言葉が存在しないっぽい。
私にとってそこにあるのはルールだけだ。ルールの範疇こそがゲームそのものだ。
多くのプレイヤーに「それがルール的に正しいという確証がない限り、Angle Shootはすべきじゃない」と教えられた。不思議なことに、私は別に賢く立ち回ろうとか巧妙にやりぬけようとか考えていたわけですらなかった。
私は単にそういうルールだと思っていたのだ。
どこで間違えたか
個人的な意見として、今回の事態は関わった人たち誰もが少しずつ対処の仕方を間違えたのだと思う。私たちは奇妙なルールのグレーゾーンに踏み込み、そこはまるで竹沼みたいに私たちを呑みこんでしまった(上手いこと言った!)。
以下、今回問題になったマジック大会ルール(=MTR)の 2.14を引用してみる。
原文:
A change in a player’s life total should be accompanied by a verbal announcement by that player of the new life total.
If a player notices a discrepancy in a recorded or announced life total, he or she is expected to point it out as soon as the discrepancy is noticed. Failure to do so will be considered a Cheating - Fraud penalty
日本語訳:
2.14 ライフ総量
マッチの開始時に、各プレイヤーは自分のライフ総量を記録する手段を示さなければならない。その手段は、マッチ中に両プレイヤーが確認できるものでなければならない。マッチに参加している全てのプレイヤーが同意する場合、記録方法を共有してもよい。
プレイヤーのライフ総量が変化した場合、そのプレイヤーは口頭で新しいライフ総量を宣言すべきである。
記録されているライフ総量、あるいは宣言されたライフ総量に食い違いがあった場合、その食い違いに気づいた時点で指摘することが求められる。そうしなかった場合、〔故意の違反 ― 詐欺行為〕の対象となり得る。
引用元:http://mtg-jp.com/rules/docs/JPN_MTR_20120920.html
私にできたこと
私の判断が正しいかどうかをチェックするために即座に卓を離れてジャッジを呼ぶべきだった。実際、私はそうすべきかもしれないとも考えたが、そのときの私はルールを正確に把握しているという自信があった。
残念ながら私は間違っていた。そしてそのせいで修復不可能な事態を招き、すべては私が負うこととなった。現実問題として、私は誘発忘れのルールと上記のライフ総量のルールをごっちゃにしていた。
加えて、私のルール理解には不備があった。ルールの「食い違いに気づいた時点で指摘することが求められる」という点はよく覚えておらず「口頭で新しいライフ総量を宣言すべきである」にばかり焦点をおいていた。
対戦相手にできたこと
対戦相手の彼は誘発のときとライフ総量に変更があったときにきちんと口頭で宣言すべきだった。ゲームのその他の機会には、彼はきちんと口頭で宣言を行っていた。だからこそあのときの《沈黙/Silence》が私を混乱させたのだ。
上記のライフ総量のルールによれば、彼は誘発の宣言を行ってから私が新たなライフ総量を宣言するのを待つべきだった。そのかわり、彼は単に自分でメモをとっただけだった。
私はこの行動を誘発の宣言のかわりとはとらなかった。そして(イベント規定とマジック違反処置指針の権威である)ジャッジは、そうとった。
そしてジャッジが彼に何が起きたかを尋ねたとき、彼がもう少し考える時間を使って何が起きたかをもっときちんと明確に答えてくれていれば良かったのに、と思う。
誘発が解決されるべきとき、私は彼の顔を注意深く観察しつつ宣言を聞きとろうとしていた。だから私はあのときの自分の解釈をまったく疑っていない。
ただ、私は彼が嘘をついたとは全く思っていない。
彼の様子を見る限り、記憶違いしているか、気まずい状況の中でとっさに口をついて出てしまっただけなのではないかと私は考えている。もっとも、もし彼が本当にそうしたと信じているなら、単に私と彼とで認識が食い違っているということに過ぎない。
それはそれでしょうがないことだ。
ジャッジにできたこと
私はジャッジの出した判断(失格処分)を全面的に尊重している。私は明らかにライフ総量のルールである2.14を犯していた。「ライフ総量に食い違いがあった場合、その食い違いに気づいた時点で指摘」していなかったためだ。そうしなかった場合の処罰は失格(disqualification)であると明記されている。
ただ、取り調べを受けたのが私1人だったように思う。
ヘッドジャッジは「会場はうるさかったこと」そして「対戦相手はとても声が小さいプレイヤーだった」と疑いようもなく信じており、そのせいで私は彼がライフ総量をメモしているときに何も聞きとれなかっただけだと信じている。
私は、ゲームの他の場面とあのときの対戦相手のふるまいが明らかに違ったことを訴えたが、ヘッドジャッジは対戦相手の言い分が「明らかである」とし、それ以上の調査を(私が知る限りは)してくれなかった。
私はこの結果にちょっと納得がいっていない。なぜなら相手がライフ総量をメモしていたという私の言い分は額面通り受け取ってもらえつつも、それ以外の言い分(相手は口に出して何も言わなかった)については完全に否定された。
ただこれは書いておく必要があるだろう。私はジャッジではない。それにもしかしたら私が感じている以上の調査が裏では行われていたのかもしれない。
その後の対戦相手との会話からはそうであったとは思えないが。
なぜこのようなことが起きたか
グレーゾーン
マジック違反処置指針(IPG)によると、プレイヤーは誘発を忘れなかったことを相手に伝えるため「気付いているということを相手に示す(訳註)」必要がある。
(訳註)
記事の原文では「demonstrate awareness」が括弧書きされているが、英語版のIPG文書にこの言い回しを見つけることはできなかった。また日本語版IPGにもこれに当たるとおぼしき箇所は見つからなかった。版の違いのせいかな。
参考:マジック違反処置指針(英語版)
http://www.wizards.com/contentresources/wizards/wpn/main/documents/magic_the_gathering_infraction_procedure_guide_pdf2.pdf
追記:
コメントにて情報を頂いたので更新。以下の2012年10月に更新されたマジック違反処置指針(英語版)の「2.1. Game Play Error - Missed Trigger」の前文を参照のこと。
参照:マジック違反処置指針(英語版) ※2012年10月01日更新版
http://www.wizards.com/ContentResources/Wizards/WPN/Main/Documents/Magic_The_Gathering_Infraction_Procedure_Guide_PDF1.pdf
さらにMTRによると、ライフ総量については「プレイヤーのライフ総量が変化した場合、そのプレイヤーは口頭で新しいライフ総量を宣言すべきである」とある。これら2つのルールは関連したものではないが、今回の件については少々分かりづらいレベルで重なっている部分があるように思われる。
もし私たちが完全にルールに従ってプレイしていたとしたら、私の対戦相手は私が変更されたあとのライフ総量を宣言するまで私のターン進行を止めさせるべきだったし、また彼は私に誘発を忘れなかったことを明確に伝えるべきだった。
私が不思議に感じているのは、もし私が単純に彼の所作に気付かなければこんなことにならなかったということ、つまり注意深いばかりにあれやこれやを背負い込むことになったということだ。
現状のMTRがなぜそう書かれているのかについては理解できなくもない。なぜならそうでなければ対戦相手の彼は、私のライフ総量が「本来と異なる値である」ままにゲームを進める必要が生じるからだ(訳註)。
(訳註) なぜなら~
原文は「because he would be playing the game under an assumption that I was at a different life total」。拙訳の「そうでなければ」は原文にはないが、これを補わないと原文の言いたいことが伝わらないと思ったので追加。
私がその情報を隠しておければ、あとあとそれを利用して相手より優位に立つというイカサマが出来てしまう。
付け加えておくと、ジャッジは「コミュニケーションは口頭で行われるべき」と明言したがらない。なぜなら参加者全員が同じ言葉をしゃべれるわけではないからだ。そこで言葉に頼らないコミュニケーション手段も許容されることとなる。
もっともそのせいで奇妙なことになったわけだ。
私たちはお互いに同じ言葉をしゃべれたし、ゲームのあの時点までは言葉によるコミュニケーションをきちんととっていた。言葉によらないコミュニケーションこそが例外的だったのだ。
現在のルール文面には2つの点で賛同できない。
1つ目として、このルールは自身の認識について嘘をつくことを奨励している。もし私がこのルールをあらかじめ知っていたなら、私は相手のライフ総量メモに気づいていなかったと言うことが出来た。
そうすることで何が起きるか? 私が責任から逃れられるのみならず、対戦相手に責任を負わせることが出来るのだ。個人的にこれが良いとは思えない。なぜなら状況によってプレイヤーはルールを利用することが出来てしまうからだ。
2つ目として、もし対戦相手に悪意があったなら、故意に誘発を口に出さずに私を罠にはめることが出来る(念のため。今回の対戦相手の彼にその気があったとは欠片も思っていない)。
今なら私が自分がすべきことを分かっている。そういった状況になったらすぐにジャッジを呼び、テーブルから離れたところで現状を説明するだけだ。しかし今回の件が起きたときの私は(対戦相手の彼と同じくらい)このルールについて無知だった。
同じことがまた起きるかもしれないと考えるのは嫌なことだ。IPGやMTRが次に更新される際にはもっと明確な書き方になれば、と願う。
ジャッジと裁定
この状況を悪化させているのは、過去には「裁定者(judge)」であったジャッジが時を経るにつれて「処罰者(enforcer)」へと役割を変えつつあるということだ。
違反ポリシーは多くの場合においてジャッジに裁定(judgement)を出すのを避けるよう奨励している。そうすることで後続のジャッジが同じ状況に柔軟に対応できるからだ(訳註)。
(訳註)
原文では「The infraction policies dissuade judges from exercising judgment in most situations so that new judges will be able to handle them.」とある。この「judgment」について対訳を探してみたが、元の「MAGIC INFRACTION PROCEDURE GUIDE」にはこの単語が見つからなかったので、ここでは「裁定」と訳してある。
MAGIC INFRACTION PROCEDURE GUIDE(英語)
http://www.wizards.com/contentresources/wizards/wpn/main/documents/magic_the_gathering_infraction_procedure_guide_pdf2.pdf
違反処置指針(日本語)
http://mjmj.info/data/JPN_IPG_20120920.html
経験の浅いジャッジは大抵の状況に置いて裁定を下すことが難しく、そこで厳格に定められた文書が助けとなる。しかし残念なことにより高いレベルのゲームにおいてはこれが問題を引き起こすことがある。
私の例の場合、ジャッジは故意であったか否かについては、私を信じてくれていたように思われる。出場停止の措置はとられないことがすぐに公式サイトへ告知されたからだ。
しかし、ルール文書によると私の行為は「不正行為(fraud)」に当たるため、ジャッジは一字一句そこに定められていたとおりに私を処した(不正行為(fraud)の処罰は軽減不可)。
この状況は少々奇妙だ。なぜなら私が失格(disqualified)に値するだけの明白な証拠があるなら、私はイカサマ(cheating)の罪で調査されるはずだ。
ところがルール上では「イカサマ」をしたことになっているにも関わらず、「計画的でなかった(not premeditated)」ために出場停止処分に課されないことが告知されている。つまり、どういうこと? 「意図せずにイカサマする(accidentally cheat)」なんてありえるの?
念のため。私はゲームのルールに反した行動をとった人間が何の責任もとらずに済ませていいとは思ってない。無知は言い訳にならない。私は今回の件を教訓としてありがたく受け入れるつもりだ。
とはいえ、それはそれとして、こういったシチュエーションのためにもルールの文面がより明確になればよいのに、とは思う。
「イカサマ(cheating)」というレッテルはマジックのコミュニティではそこかしこで見られるものだ。その一線を超えるのは非常に容易く、簡単に起きてしまうものだから(訳註)。
(訳註)
原文は「The label, "cheating", is very loaded in our community because of the ease with which it can happen and the stakes on the line」となっている。自信がないのは「loaded」と「ease with which it can happen」。これらをつかみきれていないせいで全体の文意がとれていない。
フライデーナイトマジックがプロツアーにどのような影響を与えているか
ここ数ヶ月のあいだに嵐のようなルール変更があった。私がルールの理解でつまずいてしまった理由の1つにはIPGとMTRがコンスタントにマイナーチェンジを繰り返したことがある。
なぜそんな変更がなされたのか? この章のタイトルに挙げたとおり、これはカジュアルな環境でのプレイと非常に密接なつながりがある。
ゲームのデザイナーたちは「may(してもよい)」という誘発条件を用いないことにした。これには大きく2つの理由がある。1つ目としては、無駄にテキストが長くなるからだ。ライターの1人として、すっきりした文面の重要性は理解できる。2つ目としては、新規参入者を混乱させるからだ。
彼らは「僕は《ドラゴンの爪/Dragon’s Claw》でライフを得てもよいの?」と戸惑ってしまうかもしれない。
得てもよいのか、よくないのか、はどうやったら分かるのか。つまりカードの文面を「いずれかのプレイヤーが赤の呪文を唱えるたび、あなたは1点のライフを得られるかもしれない」と解釈する……かもしれない。
もちろんそうならないかもしれない。そんな賭けになるくらいなら最初から勝負を挑まなければいいのだ。
高いレベルでの競技フォーマットにおいて、ゲームの勝敗を決めるものは技術の優劣であって欲しいと私たちは望んでいる。もし対戦相手が自分の誘発を忘れたなら、それをわざわざ指摘して助けてあげるようなことはしたくない。
それこそがここ最近のルール変更の目的なのだろう。
しかし強制的な誘発能力は様々な状況に起きうるもので、単純に「こうすればよい」とひとくくりに決められるものではなく、そのためルールも流動的だ。
フライデーナイトマジックとプロレベルマジックのそれぞれに流れる空気(tension)は明らかに異なるものだ。そのあいだをとることは非常に難しく、誰もちょうどよい落とし所を見つけられずにいる。
次のルール変更の際にはこの点についても考慮に入れて欲しいと私は願っている。最近の頻繁かつ大きなルール変更が続くようであれば、さらに多くの失格裁定が生まれる可能性がある。
Ben StarkとJosh Utter-Leytonのあいだで議論になっているのは、MTR 2.14が新規のルールなのかどうか、だ(註)。
(註) Ben StarkとJosh Utter-Leyton
Ben StarkとJosh Utter-Leytonは2人とも米国のマジックプレイヤーであり、2人ともChannel Fireballの一員。なお余談だが、ウェザーライトサーガに登場するキャラクター「スターク」の名前のつづりは「Starke」であり、Benとは微妙に違う。
多分、ここ最近の状況をかんがみるに、このルールは「過去長いことグレーゾーンだったルール」を整備するために「ここ数ヶ月のあいだに新しくできたもの」であるようだ。
もっとも私がここで気にしているのはこのルールが新しいか古いか、という点じゃない。世界でもトップレベルのマジックプレイヤーのうちの2人がこのルールについて異なる認識を持っているという点だ。ルールの変更とその発表に問題があるのではないか?、と思ってしまう。
コミュニティ
対戦相手に気落ちしないよう励まし、報告書を記入するのに特に休憩時間は必要ないとジャッジに伝えてから私は荷物をまとめテーブルを離れた。
そして初めて心に負った傷の大きさに気がついた。
お前は用無しだ
プロポイントなしにグレイビートレインに乗り続けられるわけがない
職を続けられるわけがない
お前はマジックオンラインコミュニティ杯に泥を塗った
お前を信頼していた人たち全てを裏切った
お前がどれだけのクズか、すでにネット上に広められていることだろう
ところが、私がツイッターとフェイスブックで報告を済ませたとき、その反応は予想外のものだった。人々はルールの方に首をかしげた。ルールのややこしさに困惑し、私の陥った状況にとても大きな同情の意を示してくれた。
マジックという世界においてもトップレベルの素晴らしいプレイヤーたちが周囲にいてくれているんだと知ることが出来たのも大きな助けだった。多くのプロから、ジャッジからそしてカバレージをとってくれる人たちから抱きしめられた。
1人以上のプロから、自分もまったく同じことをしただろう、という言葉をもらえた。同じ状況であれば、彼らもまた失格になっただろう。
あるプレイヤーは私にこう言った。「David Williams と Bob Maher も処分を受けたことがあるよ。彼らがそのあとどうなったか知ってるかい?」
私は「どうなったの?」と尋ねると、そのプレイヤーは「1人は殿堂入りして、もう1人はプロツアーへのフリーパスを持ってるよ」と教えてくれた。
彼らに何があったのかを聞かずにはいられなかった。実際に何があったのかというと、Bob Maherが出場停止処分を受けた理由は、意図的に虚偽のトーナメント結果を報告していたためで、David Williamsが失格処分となったのは友人から借りた《蓄積した知識/Accumulated Knowledge》がシャッフル時に判別可能なほど反り返っていたためマークドの裁定を受けたためだった。
最後に、過去に失格処分を受けたことがあるプレイヤーたちから多くのメッセージをもらった。彼らは皆、自分は処分を受けたときには涙した、と教えてくれた。認めるのは恥ずかしいことかもしれない。それでも教えてくれた彼らの心の暖かさに私は心を動かされた。
私も、泣いた。
非常に多くの人たちから同情の言葉をもらった。全部に返事を返せないのが残念だ。
私が予想していたのは、イカサマ師に対する魔女狩りの言葉だった。そのかわりに知ったことは、思いやりと相互理解が私たちのプレイしているマジックというゲームの一部であるということだった。そのことが非常に嬉しくてしょうがない。
これがマジックというコミュニティの確かに存在する一面であり、そのコミュニティに自分が属しているという事実を幸せに思う。今週のマジックオンラインコミュニティカップに参加できることをこれまでにないほど誇りに思う。
今回の経験から得られたもの、それは過去に同じ目にあったプレイヤーたちの気持ちを理解することが出来るようになったこと、そして二度と同じような目に合うプレイヤーを生み出さないための手助けができるようになったことだ。他人の経験から学ぶという稀な能力を人間は持ち合わせている。今回の件から、皆が何かを学んでくれれば、と思う。
私たちの遊んでいるマジックというゲームは不完全なものだ。
私たちもまた不完全なのだ。
私たちは間違うこともある。そして傷つくこともある。だけどそのとき傍にいてくれる人がいて、傍にいてあげることが出来るということは、何ものにかえがたいことだ。今回のプロツアーは、ある意味、今まで参加した中で最高のプロツアーだった。
最後に、私の個人的に尊敬する人の話をしたい。それは須藤元気という人だ。彼は私の理想であり、敬虔な仏教徒でもある。彼はプロの総合格闘家であり、書道家であり、ダンサーであり、作家であり、音楽家でもある。ぜひ彼の動画をチェックしてみて欲しい。例えばこのミュージックビデオや、このリング入場時の動画などだ(註)。
(註) このミュージックビデオや、このリング入場時の動画
原文では「ミュージックビデオ」の文字に以下のURLへのリンクが張られている。
http://www.youtube.com/watch?v=r-qhj3sJ5qs&feature=relmfu
また原文では「リング入場時の動画」の文字に以下のURLへのリンクが張られている。
http://www.youtube.com/watch?v=V-GpQm_YdMk
私が彼を尊敬するもっとも大きな理由は、彼の哲学にある。
「私たちは1つだ(We are all one)」
読んでくれてありがとう。そして私とつながってくれて、ありがとう。
Love and battle,
Jackie Lee
@JackieL33 on Twitter
www.twitch.tv/jackiel33
コメント
この文章は現在もジャッジの間で議論が続けられている話題の中心の一つになっています。
わかるところだけ補足っぽいことを。
・Angel shooting
元はポーカー用語ですね。訳するとすれば「(明示的なルール違反にならない)姑息な行為」くらいでしょうか。
・Demonstrate awareness
IPG2.1 の前文に以下のような文章があります。
A triggered ability triggers, but the player controlling the ability doesn’t demonstrate awareness of the trigger’s existence and/or forgets to announce its effect.
つまりは誘発したことを何かしらの行為で示さないとその誘発は忘れられたものとして扱われる、ということです。
・「loaded」と「ease with which it can happen」
「イカサマ」というレッテルは、マジックのコミュニティーへの不安を煽ってしまうが、その一線を超えるのは非常に容易く、簡単に起きてしまうものだ。
load (v) には(人に)心配させる という意味もあります。イカサマ師と噂される人物が近くにいた場合、あなたは無用な心配をしてしまうでしょう。けど、イカサマの判断はいともたやすく行われることなのです。
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長々とコメントしてしまい申し訳ありませんでした。
これからの翻訳も楽しみにしています。
古い版(2012年06月更新版)を参照していました。ご指摘ありがとうございます。最新版(2012年10月更新版)では確かに原文にある文言を確認できたので、追記しました。
>load (v) には(人に)心配させる という意味もあります。
なるほど、すっきりしました。「load」には多くの意味があり迷いつつ訳したのですが、やはり迷いがあるとダメですね。助かりました。もっと修行しないと。
某の英語力では読めない良記事が多数あり勉強になります。
こちらも勉強しながら訳しているような状態で、上で指摘があったようにたまに怪しいところがあります。極力、誤訳は無いよう努力しているのですが、疑問に思われる点があれば原文も併読してみてください。
>高潮のさん
>お疲れさまでした。
疲れました(笑)。長いというのが主な理由ですが、ルールの確認が大変でした。
やはりプロ相手ともなると油断出来ませんね
貴重な文章を読ませていただきました。
読んで頂いてありがとうございました。嬉しいです。
原因はサイドボードのカードの抜き忘れとそれを使用してしまった事。
すぐさま失格処分を受けました。
自身の不甲斐なさと情けなさ、悔しさと後悔があり、未だになかなか吹っ切ることが出来ません。未だにふとした時に脳裏をよぎりやりきれない後悔にもやもやします。
しかしプロプレイヤーでも失格処分を受けたりするものなのかと、この記事を読んで少しだけ傷んだ心が癒された気がします。
正直次のGPに挑むのが怖いですが、次こそは失格処分を受けないように気を付けてMTGをプレイしたいと思います。