余談1:今週のCard of the Dayのテーマ

 今週のテーマは基本セット2014の新カードで、カード名に用いられているちょっと珍しい英単語の解説。月曜日から順に「Seraph, Cancrix, Bairn, Regathan, -weft」。

 この手のネタは、往々にして見慣れない地名や専門用語が用いられることが多い上に文章も長くなりがちで、訳すことを考えると大変だけど、個人的には非常に好きなタイプのネタ。言葉の意味や響き、語源や由来を知ると幸せな気持ちになれる。

余談2:月曜日 《剣の熾天使/Seraph of the Sword》

 ミルトンの「失楽園」の全文がネットに掲載されてることに驚いたのはさておき訳の話。
原文:
 The English word "seraph" is an assumed singular version of the Hebrew plural word "seraphim," which came to English from Latin (via Greek).

拙訳:
 ヘブライ語の複数形名詞である「Seraphim」から類推して作成された単数形名詞が英語の「Seraph」だ。正しくは、元々はラテン語でギリシャを通じて英語へともたらされた。

 前半の「an assumed singular version of」は、この現象に対する対訳(日本語)がすでに学術用語として存在するかどうかが気になった。既知の言葉のルールから変化形を類推(誤解?)する現象。

 単数/複数の類推の例としては「豆(Pea)」がある。英語で豆の単数形はPeaで複数形がPeaseとなっているが、そもそもはPeaseもしくはPeasが豆の単数形だったのを「-sがつくから複数形だろう。じゃあ単数形はPeaだろう」という類推(誤解)からPeaという単数形が生まれたらしい。

 日本語だとどうなるかな。あえていえば、まれに口語で用いられる「きれいくなる」とか「食べれ」とかがあげられるかもしれない。「正しい ⇒ 正しくなる、美味しい ⇒ 美味しくなる」だから「きれい ⇒ きれいくなる」、また「帰る ⇒ 帰れ、入る ⇒ 入れ」だから「食べる ⇒ 食べれ」のように変化形を類推(誤用)しているもの。

 この類推(誤用)の面白い点は、聞いた側が間違いに気づいている場合でも意味を理解できる、という……いかん、話が脱線してた。閑話休題。今回の訳についての話に戻ろう。

 難しかった点のもう1つとしてはコンマを挟んでいる2つの文の関係性。

   1 The English word "seraph" is
   2 an assumed singular version of the Hebrew plural word "seraphim,"
   3 which came to English from Latin (via Greek)

 上記の「2」と「3」のあいだにコンマがある。「3」の「which came to English from Latin」が指しているのが「seraph」なのか「seraphim」なのか。前者であれば「すでに単数類推後のseraphが英語に伝わってきた」ことになり、後者であれば「ヘブライ語のseraphimが英語に伝わってきてそれを英語圏の人が類推してseraphが生まれた」ことになる。

 結局、原文同様にどっちともとれるように訳した。迷いを決断できずに残したままなので、正直あまり良い訳とは言えない。

余談3:火曜日 《装甲のカンクリックス/Armored Cancrix》

 正直読みづらい訳になってしまった。
原文:
 whose name traces back to the Latin "cancer" (crab),

拙訳:
 その星座の名の由来はラテン語の「Cancer(= カニ)」からきており

 こういうとき日本語の表記はどうするのが良いんだろう。もしかしたら大人しく「ラテン語の Cancer (Crab)」で良いんだろうか。いや、それは訳とは言わないよな。「Crab」で「カニ」を指すかどうかって分からない人のために「訳」してるんだし。

 上記のような箇所は他にもあって……
原文:
 which in turn traces back to the Proto-Indo-European root "qarq–" (hard).

拙訳:
 インド・ヨーロッパ祖語の「Qarq-(= 固い~)」からきているのだ

 と訳してある。正解のない話だということは分かってるし、むしろこういったことに頭を悩ませるのが楽しくて翻訳をやってるから別に問題ではないんだけど。

余談4:水曜日 《血の幼子/Blood Bairn》

 読み方が分からない。バイルン? ビョルン?

余談5:木曜日 《レガーサの火猫/Regathan Firecat》

 マジックにおけるプレーンチェイスの立ち位置がよく分かってないのはさておき訳の話。
原文:
 Oh, and yes, in case you were wondering, there is a tie between Chandra (face of M14) and Regatha.

拙訳:
 ああ、そうそう、気になってる君のために教えてあげよう。基本セット2014の主人公であるチャンドラとレガーサ(Regatha)との間にはつながりがある。

 考えてみたら「face of M14」を「基本セット2014の主人公」と訳したのはちょっと違ったかもしれない。大人しく「基本セット2014の顔」で良かったかな。

 いや、ここであげたかったのはそこじゃなくて「there is a tie between Chandra and Regatha」の部分。この「tie」をどうしようかな、と迷った。「つながり、因縁、関連(性)、関係(性)」と色々思い付くんだけど、どれでもいいような……どれもピタリとハマってくれないような。

 なお原文では「there is a tie between Chandra」と強調が入っている。こういうのを日本語訳にも適用するとすれば、どうしたものか(今回は特にしてない)。

余談6:金曜日 《マナ編みスリヴァー/Manaweft Sliver》

 機織りの専門用語だらけで大変だったというのはさておき訳の話。
原文:
 It’s a weaving term for the yarn or thread carried by the shuttle across the warp. Hmm... lots of jargon there.

拙訳:
 織物用語で、シャトルによってワープを横切る糸や毛糸を指す言葉だ。……ん? ちょっと専門用語が多すぎだな。

 その後の文章で分かりづらかったかもしれないから簡単に言い直している箇所。つまり、わざと分かりづらく訳さないと後半につながらないということになる。

 最初は「梭(さん)によって縦糸を横切る糸や毛糸のこと」と訳してみたんだけど、それだと「意味が分かる」ようになってしまう。一読しただけでは分からないような織物の専門用語なんて分からないし、どうしようかな、と悩んだ挙句にとった手段が「英単語をそのままカタカナにする」という技。

 それ以外にも訳しづらい箇所はあって……
原文:
 So our little Sliver buddy here (and its Sliver kin) weaves mana together for your benefit!

拙訳:
 つまりこの頼れるスリバーくん(およびその親族の方々)は共に力を合わせて君のためにマナを織り上げてくれるというわけさ。

 文の初めの「our little Sliver buddy」はどうしたものか。「Little」をどうしよう、「Buddy」をどうしよう、と単語レベルで対応させるのは諦めて、全体的にこんな感じかな、という訳し方。

 あえていえば「Little」は「~くん」と小さい子供を呼び掛ける感じ、「Buddy」は「頼れる~」とすることで相棒っぽい感じを表現しようとしてみた。

 ところで「横糸には縦糸が必要」という話から「力を合わせて(together)」とつながっているみたいだけど、そもそも今回の《マナ編みスリヴァー/Manaweft Sliver》って単体でもマナが生み出せるんだよな……なんか解釈間違えてるのかもしれないと不安になる。

余談7:ルームサービスの話

 会社の先輩と一緒にオーストラリアへ海外出張したときのこと。オフィスへ向かうためのバスを先輩と一緒にホテルの前で待っていると、先輩が思いだしたように話しかけてきた。

 「そういえばさ、昨日の夜、ルームサービスって頼んだ?」
 「頼みましたよ。他に夕食の選択肢ありませんでしたし」
 「クラブサンドイッチってあったでしょ」
 「あった気がします」
 「あれ、頼んだんだよ。そしたら何度も聞き返されてさ」
 「何をですか?」
 「本当に食べたいのか、みたいな感じで」
 「注文できなかったんですか?」
 「いや、結局、注文は受けてくれたんだけど」
 「何か問題でもあったんですか?」
 「それがさ、うーん……クラブサンドイッチってどんなの想像する?」
 「え? そうですね、トーストされたパンで出てくるイメージがありますけど」
 「中身の話」
 「トマトとかレタスとかチキンとか……そういうオーソドックスな奴ですね」
 「だよねえ」
 「違ったんですか?」
 「なんか赤茶色な感じのペーストが挟まれてるだけのサンドイッチだった」
 「随分と地味な……あまりクラブサンドイッチって感じじゃないですね」
 「うん。食べてみたらカニの味がした」
 「えっ? ……あっ! ああっ!? まさか、え、そういうことですか!?」
 「そういうこと。日本人はLとRの発音の区別が下手だって言うけど本当らしいねえ」

 つまり先輩はメニューに載っている「Club Sandwich(クラブサンドイッチ)」を注文したつもりだったけど、Lの発音がRだったせいで相手のホテルマンは、メニューにない「Crab Sandwich(カニのサンドイッチ)」を注文されているのだと勘違いしてしまったのだ。

 ホテルマンも困惑しただろうな。

 「本当に(メニューにない)カニのサンドイッチが食べたいのですか?」と確認すると、相手の日本人が「はい、カニのサンドイッチが食べたいです」って平然と言ってくるんだから。

 しかしそこはプロのホテルマン。宿泊客がどうしても望むのなら最大限の努力をせざるを得ない。そんなわけでホテルにある材料を使ってメニューに載っていない「カニのサンドイッチ」を作って持ってきてくれた、ということらしい。

 ちなみに美味しかったとのこと。

 という話を《装甲のカンクリックス/Armored Cancrix》を訳しているときに思いだした。

コメント

高潮の
2013年8月18日23:32

あまり深く考えずに書きますが、seraphim にコンマ打ってその後ろに叙述用法の which ですから、seraphim が伝わってきたと考えるのが妥当のように思います。あと重箱ですが、Greek なので正確には「ギリシャ語を通じて」であるべきようにも。

re-giant
2013年8月19日11:07

>seraphim にコンマ打ってその後ろに叙述用法の which ですから

言われてみるとそう考えるのが自然ですね。
前者を修飾するならコンマで挟んで直後にもってきそうな気もしますし。

>Greek なので正確には「ギリシャ語を通じて」であるべきようにも

指摘ありがとうございます。言い訳のしようもありません(笑)

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