【翻訳】アーティファクト週間にようこそ!/Welcome to Artifact Week!【Daily MTG】
Mark Rosewater
2005年2月28日
元記事:http://www.wizards.com/Magic/Magazine/Article.aspx?x=mtgcom/daily/mr165

奥さん、そりゃアーティファクトが悪いよ

 アーティファクト週間へようこそ! 足かけ2年に渡ったマジックの色に関する壮大なテーマ週間の最後を飾るコラムはこれ以外ないとスコット・ジョン(このサイトのコンテンツリーダー)が思い描いていたテーマ週間がこれだ。

 それぞれの色に関するテーマ週間ごとに、私はその色はこうあるべきという哲学について記事を書いてきた(緑の「It’s Not Easy Being Green」、白の「The Great White Way」、青の「True Blue」、黒の「In the Black」、赤の「Seeing Red」(註))つまり今週はアーティファクトの「こうあるべき」について書かざるをえないということになる。

 しかしここで1つ問題が生じる。アーティファクトにはそれがないんだ。
(註) それぞれの色に関するテーマ週間ごと
 原文では各テーマ週間の名前ごとに以下のURLへリンクが張られている。
 緑:http://www.wizards.com/Magic/Magazine/Article.aspx?x=mtgcom/daily/mr43
 白:http://www.wizards.com/Magic/Magazine/Article.aspx?x=mtgcom/daily/mr57
 青:http://www.wizards.com/Magic/Magazine/Article.aspx?x=mtgcom/daily/mr84
 黒:http://www.wizards.com/Magic/Magazine/Article.aspx?x=mtgcom/daily/mr109
 赤:http://www.wizards.com/Magic/Magazine/Article.aspx?x=mtgcom/daily/mr133


ないものはない

 様々な帝国が生まれては消えていく中で、ローマ帝国は頭1つ抜けていた。彼らの国はありとあらゆる面で発達していた。街道、上水道、建築術、カレンダー、サラダ、エンターテイメント、排水管などだ(え? ああ、そうだね。確かに彼らは排水管に鉛を使ってたからそこはまだ発達の余地があったかもしれないね)。

 しかしそんなローマ帝国にも無かったものがあるんだ。何か知ってるかい? それは「ゼロ」の概念だ。ローマ数字をどう使っても「何もない」を表現することができないことに気づいただろうか。それは彼らが思いつきすらしなかったからだ。

 さて、なぜ私はこんな歴史の話を持ち出してきたのか? 2つの理由がある。

 1つ目として、私は記事を書くときにテーマを外れて雑多な小ネタとトリビアを書き散らしたくなるという強迫観念を持っているからだ。しかしそれより2つ目の理由のほうが重要だ。私がここで言いたかったのは「何もない」を表現することはそれだけ難しいということだ。

 リチャード・ガーフィールドは数学の博士だった。だから当然のように彼はゼロの概念に精通していた(もちろん私も知ってはいるが、私の場合は Schoolhouse Rockの“My Hero Zero”で学んだ)。

 そのためまず初めにカラーパイを作ったとき、彼はそのどれにも当てはまらない何かを作るべきだとも考えた。カラーパイという概念に反するものだ。それは色を持たないのだ。

 そう、それこそがアーティファクト……ではなかった。

 それは無色マナだ。

 なぜ「どれでもない」がそれほど重要だったのか? リチャードは全ての要素が必ず特定の色と結びつくような状況を避けたかったのだ。5マナかかる赤の呪文が5点の赤マナでないと唱えられないとしたら、プレイヤーたちは単色デッキしかプレイできなくなってしまう。

 そこでリチャードはプレイヤーを色で縛らずに済むコストが必要だと考えた。そこまで思いつけば、包括的なマナコストにたどり着くまでは簡単なホップステップジャンプだ。さて、もしコストを部分的に無色マナにすることができるなら、全部をそうしたっていいだろう?

 しかしこの無色の呪文ってのは何なのだろう。幸いなことに開発の初期からリチャードにはマジックアイテムを入れたいという願望があった。結局、ダンジョンズアンドドラゴンズ(註)(もしくはそれに類するファンタジーロールプレイングゲームであればなんでも)を遊んだことがあるプレイヤーなら誰だってマジックアイテムの素晴らしさを知っている。
(註) ダンジョンズアンドドラゴンズ
 原文では以下のURLへリンクが張られている。
 http://www.wizards.com/Magic/Magazine/Article.aspx?x=dnd/welcome

 どんな魔法使いだって魔法のワンドや、魔法の兜や、魔法のアボリジニの笛を使いたいに決まっているのだ。色にこだわる必要性は感じられず、まさに完璧なアイデアだった。

 そのようなわけでアーティファクトは色に含まれないことになった。アーティファクトは色から外れた存在なんだ。色のように特定の役割(philosophy)を表現する必要はなく、むしろ彼らは「役割(philosophy)がない」を表現する存在なのだ。

 アーティファクトの扱いに長けている魔法使いがいるとすれば彼は決して生命の神秘を解き明かそうとしているわけではない。特定の何かに執着していないことを示しているんだ。

まさに似合いのタイプ

 アーティファクトに役割がないからといって、そこにフレイバーがないということにはならない。ポイントはカードのどこに目をつけるか、ということだ。

 アーティファクトのグループ分けはそのマナコストではなくカードタイプでなされている。カードは、白か青か黒か赤か緑かアーティファクトか、ではないのだ。

 カードは、クリーチャーかエンチャントかインスタントか土地かソーサリーかアーティファクトか、なのだ(インタラプトはカードタイプの一族からその名を消されている)(註)。これらそれぞれのカードタイプには十分にフレイバーが存在している。
(註) カードタイプの一族
 当時はまだプレインズウォーカーが登場していない。


■アーティファクト

 まずアーティファクトから始めよう。それには2つの理由がある。1つ目の理由は今日のコラムの主題だからであり、今週の主題だからでもある。2つ目の理由はABC順で最初に来るからだ(ちょうどよかったね)。

 アーティファクトは物体だ。実体があり、有形資産であり、手に持つことのできるアイテムだ……いや、正しくは、実体があり、有形資産であり、手に持つことのできるマジックアイテムだ。

 ここで付け加えた単語は実は非常に重要だ。アーティファクトは単なるアイテムではない。それは魔法的な何かを持つアイテムなのだ。

 神河救済に椅子のアーティファクトは登場しないだろう(玉座ならあり得るかもね。それが骨か何かで作られているなら。……って、ああ、もう明日には噂になるだろうなあ、神河救済で《骨の玉座/Throne of Bone》を再録されるってマローが言ってたぞ! ってさ。それが起きないとは誰にも断言できないけどね)。

 アーティファクトは特別で希少な魔法の品物だ。だからこそコモンのアーティファクトを見かける機会は少ない。アーティファクトの特徴の1つは一般的でないことだ(はいはい、金属で出来た世界は例外だよ)。

 じゃあ、何が「アーティファクトではない」のか? 「アーティファクト以外の全て」だ(その通り。ここ、「Making Magic」のコラムでは答えづらい難しい質問にだって私はちゃんと答えるのさ)。

 じゃあ「アーティファクト以外の全て」には何が含まれるのか? いい質問だね。それに答えるためには、アーティファクト以外のカードタイプに言及する必要がある。

■クリーチャー

 クリーチャーとは生きていて、息をしていて、感覚を持つ生命体だ。

 いや、それはちょっと違うか。ゾンビはちょっと生きてるとは言えないし、エレメンタルが実際に息をしているかどうか知らないし、突き詰めて考えると植物は感覚を持っていると言えるかどうか怪しい。

 まあ、それはさておき彼らは全員とも生命体ではある。生きている。少なくとも一度は生きていたことがある。そうでなくとも生きているもののように振る舞うことが出来る。

 つまり「クリーチャーではない」ものは、実体を持つ物体でありつつも生きておらず、息をせず、考えたりしないものだ。生命を吹き込まれていない本当の意味での物体でしかないものをクリーチャーという枠から取り除いたのはそれが理由だ。

 例えば《石の壁/Wall of Stone》だ。これはクリエイティブな観点から言えばクリーチャーではない。レンガとモルタルの積み重ねに過ぎない(レンガとモルタルが恐怖のあまり死んでしまうのを見たことあるかい? イマイチだよね)。

 勘違いしないで欲しいが、マジックに石で出来た壁を登場させる余地などない、などと言っているわけではない。ただ、それはクリーチャーではない、という話だ。

■エンチャント

 ここから少々話はこみいってくる。エンチャントとは、持続的な魔法の効果のことだ。形ある物体としても描かれるが、そうであったとしてもその本質はあくまで魔法的なエネルギーによるものだ。

 たとえば、かの闇の時代にかわいそうなバールが閉じこめられていた実体のある檻、《バールの檻/Barl’s Cage》はアーティファクトであるべきだ(もちろんなんらかの魔法はかかっているだろうが)

 一方、神河物語の《手の檻/Cage of Hands》は違う。これは魔法的な力によって生み出された概念的な檻(視覚的には手のひらの外見をしている)であり、不幸にも対象となった相手をその内に閉じこめる。

 しかしエンチャントが物質的な見た目で表現されることがあるからといって、常に物質的な実体を伴わなければいけない、ということにはならない。

 多くのエンチャントは、魔法の効果そのものではなく、単にその効果の結果のみを残す。エンチャントの重要性はその持続性であり、その理由はインスタントやソーサリーとの差別化のためだ。

■インスタント/ソーサリー

 スターターにおけるインスタントとソーサリーのイラストは、コンセプトという点において特に違いはない。どちらも魔法の呪文が解決した結果を見せている。しかしそもそも瞬間的なイメージだけではインスタントとソーサリーのもつタイミング的な差違を表現することはできない。

 インスタント/ソーサリーとエンチャントがイラストで表現されるときのもっとも大きな違いとしては、前者は唱えられている最中が描かれることが多く、後者は効果を発揮したあとが描かれることが多い、という点があげられる。

■土地

 土地とは場所だ。物理的な場所だ。土地は「何か」よりも「どこ」であるかを表現すべきだ。何が言いたいかというと、これによって土地は人工物を表現する役割を担当することになった、ということだ(その通り、建物や石の壁などだ)。

 土地とアーティファクトはどちらも人工物を扱うが、その最も大きな違いは何かと言えば、アーティファクトはそれ自体が魔法的なものであり、かつ持ち運び可能なものである、という点があげられる(土地に描かれる建物の場合、それ自体が魔法的である必要はない。土地カードとは何か。それはマナの豊富な場所を指し示すものだ)。

念のため

 何百通というメールが送られてくる前に言っておこう。私が説明しているのは「今現在」私たちがどのようにカードタイプを定義しているかということだ。過去もそうだったわけではない。

 君たちもご存知のとおり、過去には《城壁/Castle》という名のエンチャントもあったし、《水銀の短剣/Quicksilver Dagger》という名のオーラもあった。

 土地のコンセプトを持つアーティファクトもあったし、アーティファクトのコンセプトを持つ土地もあった。ああ、そうそう、もちろん《石の壁/Wall of Stone》もあった。

 それにいつかはここに書いたガイドラインすらまた破られるかもしれない。ただそのとき私たちがルールを破るのはそうしなければいけない理由があるからであり、ルールがなぜ作られたかが分からなかったからではない。

命あるアーティファクト

 カード上に書かれていること以上に多くのコンセプトがアーティファクトには含まれている。実際、私がミラディンのデザインチーム(Tyler Bielman、Mike Elliott、Brian Tinsmanと私)を立ち上げたとき、一番最初に皆に尋ねた質問は「アーティファクトの本質とはなんぞや」だった。

 そしてチームの回答は以下の通りだ。

■その1 アーティファクトのマナコストは無色である

 当たり前だと思っていることから始めるのは大事なことだ。ときに当たり前が当たり前でないと判明することもある。それはとても興味深いことだ。

 アーティファクトのマナコストが常に無色だったからといってルールがそう定めているわけではない。たとえば、やろうと思えば(赤)のマナコストを持つアーティファクトを作ることだって出来るのだ。

 その場合、カードの色は赤となる(カードの色はそのマナコストに含まれる色マナで決まるからだ)。しかしそれでもそのカードはアーティファクトだ。

 ミラディンチームは無色マナコストという特色を保持すべきだと強く感じていた。主にフレイバー的な理由からだったが、次に挙げるアーティファクトの本質もその大きな理由の1つだ。

■その2 アーティファクトは誰にでも扱える

 私はときどき冗談交じりにアーティファクトというカードタイプは「みんなのカードタイプ(the people’s card type)」と呼んだりしている。私とチームは、アーティファクトの持つこの普遍的な本質性こそがもっともアーティファクトらしさを定義づけていると感じていた。

 献血でいうならアーティファクトとは万能ドナーだ。アーティファクトを見たプレイヤーは誰でもそれをデッキに放り込むことができる。いや、デッキのどんなカードとでもシナジーを生み出せるという意味じゃない。マナコストが妨げにならないという話だ。

 この本質性が、私たちに2通りの起動コストをデザインさせるに至った(ミラディンの破片サイクルのようなアーティファクトだ)。特定のアーティファクトが特定の色とより結びついているという考え方だ。特定の色のデッキだとより効率が良い。

 しかしいざというときには(たとえばシールドデッキを組むときには)多少パワーレベルが下がるとはいえ、どんな色のデッキでもそのカードを使うことはできる。

 私たちとしては《Gauntlet of Might》や《コーマスの鐘/Kormus Bell》のような特定の色1つにに偏ったアーティファクトの存在もありだと思っている。なぜならそれぞれ一応他の色でも有用性がないわけではないからだ。

 たとえば、プレイヤーが黒デッキへの対策としてサイドボードに《コーマスの鐘/Kormus Bell》を用いた時代もあったのだ。

 ただこの説明ではミラディンの2枚のカード、《変幻の杖/Proteus Staff》と《レオニンの陽準器/Leonin Sun Standard》について疑問に思う人がいるかもしれない。

 これらはミラディンブロックたった2枚の特定の色マナがないと使えないアーティファクトカードだ(特定の色マナがあれば付加価値を得られるというカードはたくさんある)。

 このカードたちはR&Dでも大論争を引き起こした。

 個人的な意見としてはこれらのカードは間違いだったと思っている。特定の色マナが無くては使えないというのは、アーティファクトが越えてはいけない一線を越えていると感じるからだ。しかし私の意見も大勢の意見の中の1つに過ぎず、私の意見は通らなかった。

 これに関しては、きわどいところである、と言いたい。《コーマスの鐘/Kormus Bell》と《変幻の杖/Proteus Staff》を分けるごくわずかな差があり、どこかで線を引かなければならないとすれば、私はこの2枚のあいだにその線があると思っている。

 しかしR&Dの仕事とは個人の視点によるものではない。集団の成果なのだ。そのため、私個人の意見として「これらは間違いだった」と言うのは、正しくは「これらのカードは私個人が考えるアーティファクトのあるべき姿と一致していない」ということだ。

 私であれば異なる決定を下したであろうとはいえ、《変幻の杖/Proteus Staff》と《レオニンの陽準器/Leonin Sun Standard》に至った開発プロセスに対しては敬意を払っている。

 これらが意味するところは、特定の色にしか使えないアーティファクトもまたマジックが向かうべきデザインの一部に含まれている、ということだ。

■その3 アーティファクトはアーティファクト破壊に弱い

 この本質(Quality)はあまりに当たり前過ぎてときに忘れられることがある。各パーマネントはそれぞれ対応する除去呪文がある。対応する除去呪文がなければ特定のカードタイプを排除できないというこの仕組みがゲームに与える影響は非常に大きい。

 たとえば、大抵の環境においてアーティファクトとエンチャントと土地はクリーチャーよりも場に残りやすい。これはなぜかというと、全てのデッキはクリーチャー対策を積んでいるが、全てのデッキがアーティファクトとエンチャントと土地に対して策を講じているわけではないからだ。

 実際のところ、もしメタゲームが特定のカードタイプを含まない方向へ動いていた場合、逆にそのカードタイプをプレイすることで対戦相手を困らせることができる。

 この本質(Quality)は私たちがアーティファクト土地を作る決断を下す際に大きな意味を持った。当時の私たちはアーティファクト破壊を多めにすることで土地もアーティファクトに数えるというアドバンテージが強くなり過ぎないようバランスがとれると考えたのだ。

 そして私たちは間違っていたというわけだが、それはさておき当時の思考プロセスは前述の通りだ。

■その4 アーティファクトのフレイバーは非常に明確なコンセプトを持っている

 これに関してはすでに説明済みか。

■その5 汎用的であるアーティファクトは自然とその効果も包括的なものとなる

 ここで今一度カラーホイール(色の役割)の話に戻ることになる。アーティファクトは無色マナで唱えることができる。そのため他の色の縄張りを侵さないように作ることが非常に難しいのだ。

 開発部における私たちの考えはこうだ。アーティファクトに何らかの能力を持たせるということは、その分野にもっとも劣る色にその能力を与えることに等しい。

 エンチャント破壊を例にとってみよう。黒と赤はエンチャント破壊がとてつもなく苦手だ。しかしアーティファクトに与えられたエンチャント破壊能力はそれすなわち黒と赤に与えられたことに等しい。アーティファクトが基本的にエンチャント破壊能力をもたないのはこういうわけだ。
 色を定義づけてしまうような基本的な能力を持たせることができないとなったとき、どうすればよいのか?

 基本に立ち返るのだ。

(1) マナ能力

 マナ能力より基本的なものはない。どの色だってマナを生み出すことはできる。アーティファクトがとりつかれたようにマナを生み出したがるのはそういうわけだ。

(2) マナフィルター

 これは緑の領域だが、他の色も扱えたほうがマジックはもっと楽しくなる。他の能力に比べ、マナフィルター能力を開発部が多少強めに設定しているのはそれが理由だ。

(3) カードを引く

 マジックはカードゲームだ。そのため、どの色も多かれ少なかれカードを引くことができる。これにより「みんなやってるよ!」といういいわけが成立するわけだ。

(4) パワー・タフネス強化

 私はつねづね、マジックとはクリーチャーを中心としたゲームだと言っている。だからこそどの色も自分たちのクリーチャーを何らかの形で強化することができるのだ。もちろんアーティファクトも。

(5) クリーチャー

 誰だってクリーチャーを持ってる。その上で、アーティファクトクリーチャーたちは色つきのクリーチャーが見逃した「何か」をいつも必死に探している。

 平均並のアーティファクト量を含むセットを見てもらえば分かると思うが、アンコモンのアーティファクトはほぼ全て前述の5つのカテゴリいずれかに含まれる。そしてありがたいことに私たちにはレアカードが残されている。


(6) アーティファクトはヘンテコである

 すでに普通じゃない領域に踏み込んでいるというのに、ぎりぎりまで踏み込まない理由はないだろう。そう、アーティファクトは2種類の方法で、色の役割(Color Pie)との衝突を避けることに成功した。

 1つはどの色にもできる基本的な能力しか持たないこと。もう1つはどの色にもできない能力しか持たないこと。この未知の領域への挑戦によってアーティファクトはヘンテコであるという評価を得ることに成功したのだ。

 ミラディンのデザインチームは(通常ならレアにされるであろう)ヘンテコな効果を持つアーティファクトをアンコモンに押しやることに多大な労力を払った。セット全体に「ヘンテコさ」が広がるようにするためだ。

 ミラディンブロックにおけるアンコモンのアーティファクトの多くが、通常のセットならレアでしかお目にかかれないようなカードなのはそういうわけだ。

(7) アーティファクトと決めたらどこまでも

 アーティファクトは正式にはカラーパイの一部ではないことになっているが、いくつかのメカニズムは彼ら専用ということになっている。有名なところでは石臼能力だ(ライブラリから直接墓地へカードを置く効果のことだ)。

 これは計画的にそうなったわけではなく、徐々に自然とそうなっていった。分かってもらえるだろうが、アーティファクトがデザインされるとき、デザイナーは過去に自分が好きだったアーティファクトを参照する。

 そのため、一度アーティファクトがそれまでにない新たなメカニズムを獲得すると、それは「アーティファクトっぽい効果」として定着してしまう。

 これは一朝一夕に起きる現象ではないが、新しいアイデアを根付かせようとするには時間がかかることをアーティファクトたちはよく分かっているのだ(対象のプレイヤーのコントロールを得る、の効果を彼らは随分と長いこと狙ってたんじゃないかな?)。

(8) アーティファクトは自らを機械(=コンボ)の一部としたがる

 マジックのデザインは「開かれた」形になっている。カードの組み合わせを可能としているのだ。そして、無色のマナコストでありつつヘンテコな効果を持つアーティファクトは潜在的にコンボ向きだ。

 実際、互いに影響を及ぼし合う複数のアーティファクトが集まって1つの巨大な固まりであるかのように振る舞うのはよくあることだ。私はこういった固まりを機械に見立てることが多い。

 フィフスドーンはこの考え方を特に押し進めたものだ。なにしろフィフスドーンのデザイナーたち(Randy Buehler, Aaron Forsythe, Greg Marques, そして私)は機械デッキの大ファンだったからね。

アーティファクトチェック

 このようにアーティファクトには多くの制限がある。役割(Philosophical)に限ったものではない(そっちを確認するのはさらに大変な作業だ)。

 今日の記事を読んでくれた君たちに開発部がアーティファクトをどうとらえているか、その考えを(メカニズムの面だけでなくクリエイティブな面からも)多少なりともつかんでもらえたのではないかと願っている。

 また来週の私の記事を楽しみにしていてくれ。来週は……来週は……ああ、そうだ。まだ分からないんだった。何しろ君たちがまだ私に教えてくれていないんだからね。

 どうやって決めるのか? 投票する選択肢は2つある。1つはマジックのデザインに関するトピックの一覧、もう1つはマジックでないもののデザインに関するトピックの一覧だ。

 さらにつけ加えておくと、2つ目のリストはその中でもマジックに関係のあるものとそれほどデザインプロセスに関係のないものの2種類が含まれている。

 君たちは1つ目のリストAと2つ目のリストBから1つずつ選択してくれればいい。それらを組み合わせて面白いコラムを来週までに用意するのは私の仕事だ。注意して欲しいのは、火曜日の3月1日の昼が締め切りということだ。何しろ記事を書く時間が必要なわけだからね。

 よし、君たちの選ぶリストは以下の通りだ。先に言っておくと、君たちが送ってくれた要望のうち9割は採用されていない。どうして不採用になったのかって?

 理由の1つ目は、それが過去のコラムですでに語った内容だったからだ。私のコラムのファンなら、ぜひともアーカイブされている過去の記事に目を通して欲しい。

 さらに付け加えておくと、私の記事の中に「One Hundred and Counting」という記事がある。これは私が今までに書いた1番目から100番目までの記事について5段階の評価と分析を行っている記事だ(「Two Hundred and Counting」の記事は今年のうちに書かれる予定だ)。

 トピックとして採用されない2つ目の理由としては、未来の記事のためにとっておいてあるネタだからだ。それらは将来それに見合ったセットが出たときに語られることとなるだろう。3つ目の理由としては単にそれが私がいまいち語りたいと感じないトピックだからだ。

 色々書いてきたが、以下にリストにはかなりのヘンテコなネタを大量に並べてある。

リストA:マジックのデザイン(1つ選ぶこと)

 ・エンチャントワールドについて
 ・マジックでしてはならないことについて
 ・マナコストについて
 ・私の個人的な人生がどのようにマジックのデザインに影響を与えたか
 ・失敗したデザイン(思い通りにいかなかったカードとメカニズムについて)
 ・KindleとBurstのメカニズム
 ・多人数戦のためのデザイン
 ・パワーの進化について(マジックのパワーレベルの変遷について)
 ・アルファ版の「Boon」サイクルについて
 ・マジックのもっとも大きな変化(の中で実際には起きていないものについて)
 ・マジック外にありつつマジックのデザインに影響を与えているものについて
 ・なぜ青が開発部がいじめられているかについて
 ・様々なフォーマットのためにデザインするということについて
 ・6つ目の色を導入するに当たっての賛美両論について
 ・マジックにカエルが生まれたわけについて
 ・新たな種族と職業のシステムについて
 ・マジックの向かう先について
 ・エレガントでないカードたちについて
 ・カードをデザインするということ:《炎の嵐/Firestorm》編について
 ・マジックの根本的な選択について(なぜ5色か? なぜ基本地形か? など)
 ・世間がどのようにマジックに影響を与えるかについて
 ・1マナでパワー2のクリーチャーについて
 ・タイミングとテンポとそれがどうデザインに影響を与えるかについて
 ・デザインの失敗から学べることについて
 ・マジックにレアリティがなかったら
 ・第2回 カードを作るのは君だ! の中でも特によいメカニズムについて
 ・青のカードのデザインについて
 ・各種破壊カードのデザインについて
 ・クリーチャータイプの盛衰について
 ・デザインしたカードのワースト10
 ・なぜカードが自身のパワーレベルに見合ったマナコストを得られないかについて
 ・マジックのデザインが紙飛行機の作り方と似ている点について
 ・よくあるデッキのタイプ(手札破壊、土地破壊、パーミッションデッキ)に
   合わせて、注意深くデザインが行われていることについて
 ・デザインの並列性について
 ・デザインのチェックを通らなかったカードたちについて
 ・コストを軽減するメカニズムのデザインについて
 ・リミテッドのためのデザインについて
 ・セットのテーマの選び方について
 ・人気のあるカード vs 良いカード(それぞれのデザインについて)
 ・多色カードのデザインについて
 ・エンチャントのデザインについて
 ・カオスを生み出すカードの役割について
 ・カラーホイールの変化について
 ・相手のカードを奪うクリーチャーについて
 ・色の変遷について
 ・第6版ルールの変更がどのようにデザインに影響を及ぼしたのかについて
 ・アンティカード、リシド、《Nettling Imp》のようなデザインについて
 ・なぜ既存のカードの上位・下位互換が生まれるのかについて

リストB デザインと関係ないテーマ(1つ選ぶこと)

 ・Roseanne について
 ・マジックのデザインが私の人生に及ぼした影響について
 ・スリヴァーについて
 ・苗木について
 ・Dune Chronicles について
 ・は虫類について
 ・女の子について
 ・私がトピックをどう決めるか(コラムがどう生まれているか)について
 ・私がどうやってマジックのデザイナーになったかについて
 ・カードを引かずにカードアドバンテージを得る方法について
 ・新規プレイヤーに向けた10のレッスンについて
 ・ゲームを学ぶにあたって陥りがちな落とし穴について
 ・マジックの古参プレイヤーについて
 ・数学とマジックについて
 ・持ってるカードが禁止されたときについて
 ・マジックに家族で関わっている人(Ruel兄弟、PhilとKajaの夫婦など)について
 ・《霧衣の究極体/Mistform Ultimus》について
 ・タイムトラベルについて
 ・デザイナーに読んで欲しい本について
 ・マークローズウォーターが頭がおかしいに違いない
 ・モンティ・パイソンについて
 ・《ルアゴイフ/Lhurgoyf》
 ・インターネットがマジックに与えた影響について
 ・ダンジョンズアンドドラゴンズについて
 ・お金について
 ・恐竜について
 ・愛について
 ・マジックに有袋類がいない点について
 ・シチュエーションコメディがミッドショーの役者に与えた影響について
 ・ロック(音楽)について
 ・《強奪する悪魔/Reiver Demon》について
 ・グリーマックスについて
 ・透明なバナナスプリットについて
 ・空飛ぶブタについて

 君たちがどれを選ぶのか非常に気になっているところだ。また来週、結果を見に来てくれると嬉しい。それまでのあいだ、「何もない」という考え方の価値についてあらためて考えを巡らせてみてくれ。

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