はじめに。
この記事に公式訳があることを訳したあとに知った(というか教えてもらった)。ただその公式サイトはすでに消滅していて、データはウェブアーカイブ上にのみ存在する。なので、私訳は消さずに掲載し続けてみる。
公式日本語訳:ケ・セラ・“セラ”
http://web.archive.org/web/20040627001213/http://www.hobbyjapan.co.jp/magic/articles/files/20040623_01.html
【翻訳】ケセラセラの天使週間へようこそ/Que Serra, Serra【Daily MTG】
Mark Rosewater
2004年06月21日
元記事:http://www.wizards.com/default.asp?x=mtgcom/daily/mr129
今週の記事はマジックにおけるもっとも高邁なクリーチャータイプに捧げようと思う。そう、天使(Angel)だ。
そして今、私は胸の高鳴りを抑えることが出来ずにいる。何しろ全ての天使の祖たる存在をゲストにお招きすることに成功し、差し向かいで話をさせてもらうことになったんだからね。
さあ、これ以上の前置きは不要だろう。インタビューを始めようか。
ゲストは《セラの天使/Serra Angel》だ!
私:
あなたはあまり人前に出ないと聞いています。
本日はお越しいただけたことに感謝したいと思います。
セラの天使:
来なかったら第9版(註1)に収録しないって脅しておいて白々しい。
(註1) 第9版
原文では以下のURLへリンクが張られている。
http://archive.wizards.com/Magic/Magazine/Article.aspx?x=mtgcom/selecting9e/home
私:
では基本セット入りをそれほど熱望して頂けることに感謝したいと思います。
セラの天使:
それで、第9版入りは確定って考えていいのかしら?
私:
いえ「第9版に入れないこと決定リスト」に載ってないだけです。あ、投票(註2)で決めるのもいいかもしれませんね。どうです? 《ハルマゲドン/Armageddon》相手に対決してみませんか?
(註2) 投票
第8版から第10版にかけて、再録するカードを読者による投票で決めるという企画が開催されていた。2~3枚のカードが候補として挙げられ、そのうち最も得票数の多い1枚が収録された。
セラの天使:
笑えない冗談ね。
私:
では《神の怒り/Wrath of God》?
セラの天使:
あははは。面白いわー(目が笑ってない)
私:
《栄光の頌歌/Glorious Anthem》?
セラの天使:
いい加減にしなさい。インタビューするの? しないの?
私:
もちろんしますよ。
ではそもそもの始まりから聞かせてください。マジックとの出会いは?
セラの天使:
それなら面白い話になるわ。知ってるかもしれないけど、リチャード(編註:リチャード・ガーフィールド)が初めてアルファ版にとりかかったときは、ファンタジーを感じさせてくれるイメージをそこかしこから引っ張ってきたのよ。
もちろん大半のクリーチャーはゴブリンやエルフみたいに代表的なところから引っ張ってこられたわ。でもリチャードはもう少しマイナーな存在にも興味をひかれたのよ。その1つが戦天使(Warrior Angel)だった。
ちなみに歴史的には戦天使は男性として描かれることが多いわ。おそらく天使が出てくるもっとも代表的な書物である聖書を反映してのことでしょうけど。
私:
聖書に出てくる天使はみんな男性なのですか?
セラの天使:
本来、性別はないはずなんだけど、聖書に出てくる天使ってみんな男性名なのよね。そんなわけで戦天使の一般的なイメージはどうしても男性になるわけ。
だけどリチャードには「女性の」戦う天使というアイデアがあった。多分だけど戦う乙女のイメージは北欧神話のバルキリーから着想を得たんじゃないかしら。いずれにせよ、それが元でアルファ版には戦う天使が登場することになったの。
私:
最初はどんなカードだったか覚えてらっしゃいますか?
セラの天使:
カード名は、単に《天使/Angel》だったわ。コストは、今と同じで(3)(白)(白)。イラストは、リチャードがX-menの「Angel」を切り抜いて使ってた。能力は、最初からもう「飛行」と「攻撃してもタップしない」を持ってたわ。
私:
最近のプレイヤーからすると、天使という存在が当時のマジックにおいていかに特別なものだったか理解しづらいかもしれませんね。
セラの天使:
そうね。マジックが生まれてからアイスエイジが登場するまでの2年間、マジックにはわずかに2体の天使しかいなかった。アルファ版に私、そしてレジェンドにあの薄汚い《堕天使/Fallen Angel》。
私:
つまりアイスエイジまでは白い天使はあなたしか存在しなかった?
セラの天使:
そうね。それにアイスエイジがもたらしたのも《熾天使/Seraph》の1体だけで、その次の天使はミラージュの《メリース・スピリット/Melesse Spirit》ね。一応言っておくと《セラの天使/Serra Angel》の創造主であるセラ(Serra)はホームランドで登場しているけど、カードとしてではなく、単にストーリー上のキャラクターとしての登場ね。
私:
セラ(Serra)ですか。面白い名前ですね。何か由来が?
セラの天使:
ご期待に沿えるようなものじゃないと思うけどね。リチャードがアルファ版で最初の天使のカードを作ったとき、剣を帯びた力強い天使のイメージを思い浮かべていたの。剣のイメージはギザギザの刃をしたものだった。セラという名はそこからきたの。「ギザギザの(Serrated)」よ。多分だけどリチャードは力強い天使を想起させてくれるような言葉を創造したかったのね。
私:
これで1997年の冬まで来ました。ビジョンズの発売ですね。
セラの天使:
初めて2体以上の天使が登場したという点で興味深いセットね。ちなみに《大天使/Archangel》と《導きの聖霊/Guiding Spirit》よ。さらに言うと《導きの聖霊/Guiding Spirit》は1/2で、これは初めての3/3より小さい天使だったわ。現在のマジックだったら天使になりえなかったのは皮肉な話ね。
まず第一に開発部は、そのクリーチャータイプを持っていない場合、クリーチャータイプを表す語をカード名に入れてはならない、というルールを作ったの。クリーチャー名に「スピリット(Spirit)」とあるなら、クリーチャータイプは必ず「スピリット(Spirit)」になるわ(註3)。
第二に、数年前に決まったことなんだけど、天使は一定以上のサイズを持つことになったの。そんなわけで、開発部が3/3より小さいクリーチャーに天使のクリーチャータイプを持たせるようなことはもうありえない。
(註3) クリーチャータイプ
上記の話を裏付けるように、《導きの聖霊/Guiding Spirit》と《メリース・スピリット/Melesse Spirit》はそれぞれ2006年と2005年に「天使」のクリーチャータイプを失っている(かわりに「スピリット」のタイプを得た)。しかしそれぞれ2008年と2007年に「天使・スピリット」に変更されている。
私:
つまり2/2の《薄光の天使/Glimmering Angel》の再録は望めないと?
セラの天使:
少なくともクリーチャータイプは天使ではなくなるわね。
私:
ビジョンズのあとしばらくあなたにとっての暗黒時代が続きましたね。
セラの天使:
そうよ。開発部ときたら私が「ぶっ壊れてる」と思いこんだのよ!?
私:
ええっ!? 本当に!?
セラの天使:
本気で驚いてないでしょ? ……ってか、あなたもあの場にいたわよね。
私:
そういやそうだ。
セラの天使:
そしてあなた方は第5版から私を締め出したのよ。
私:
分かりました。正直に言いましょう。当時、白の大型クリーチャーをデザインする上であなたの強さが障害となっていたんです。過去5年間、私たちはクリーチャーの質を上げてきました。特に大型クリーチャーの質をね。しかしミラージュブロックの当時、白の大型クリーチャーに魅力的な強さを持たせることは非常に難しかったんです。あなたと比較されてしまうために。
セラの天使:
だから追い出した?
私:
はい。
セラの天使:
私の人気がどれだけのものか知らなかったわけないわよね!?
大抵のレアより価値のあるアンコモンだったわ!
私:
大抵のレア……もしかして色サイクル(註4)も数えてます?
(註4) 色サイクル
第4版まで各色に1枚ずつ収録されていたレアのサイクル。赤であれば「コスト(赤) インスタント 対象の呪文かパーマネントの色を赤にする」という効果で5種類あった。当時の使えないレアの代名詞。
セラの天使:
もちろん色サイクルよりも、そしてそれ以外のレアも含めての話よ。私はレアと同レベルの価値を持つアンコモンだったわ。
私:
ええ、分かってましたよ。実のところ、最初に第5版のカードリストを発表したときの反発はものすごいものでした。多くのプレイヤーはあなたがいなくなったことを信じられなかったみたいでした。
セラの天使:
私もよ。私はマジックを象徴するカードだったのよ?
私:
そうかもしれません。しかし開発部は他のいかなる要素よりもゲーム性(Gameplay)を優先します。そのせいでゲームが面白くなくなると判断すれば、それがいかに人気のあるカードであろうと取り除きます。信じてもらえるか分かりませんが、マジックの広報部は決して手放しで喜んでくれたりはしませんでしたよ。
セラの天使:
だけど結局は戻すのね。
私:
それについてはまたあとで話す機会がありますよ。ただね、今でも正しいことをしたと思ってます。当時の環境においてあなたは強すぎたんです。
セラの天使:
いまだに少し裏切られた気分よ
私:
個人的にはあなたを残そうと努力はしたんですよ。アングルードの続編のためにあなたを元にしたカードを作ろうとしたりしました。ちなみにカード名は今日の記事のタイトルでもあります。
セラの天使:
もうちょっと詳しく聞かせなさいよ。
私:
《Que Serra, Serra》というカードです。4/4で飛行持ちで攻撃してもタップしません。唯一の違いは「あなたのターンの間、あなたは対戦相手にQue Serra, Serraがどれだけ壊れていてゲームのバランスを崩しているかを説明する。そうしない場合、ターン終了時にQue Serra, Serraを生け贄に捧げる。」という能力を持っている点です(註5)
あなたをゲームに呼び戻すための試みでした。イラストですか? カードのアイデアとしては、カード全体を覆うイラストサイズの上にテキストを重ねるというものでした。しかも元のあなたのイラストを手掛けた Doug Shuler にイラストを頼んだんですよ。これがその《Que Serra, Serra》のイラストです。初のお披露目ですね(註6)。
(註5) 能力
上記の日本語訳は以下からの引用
http://mtgwiki.com/wiki/Que_Serra,_Serra
(註6) イラスト
原文では《Que Serra, Serra》の画像が「"Que Serra, Serra" art by Douglas Shuler (Card art was never used)」のキャプションとともに紹介されている。
http://archive.wizards.com/global/images/mtgcom_daily_mr129_pic1_en.jpg
セラの天使:
いいわね。
私:
ところがアングルードの続編は開発休止となり、しばらくしてアンヒンジドの企画が始まったときにはすでにあなたは復帰済みだったというわけです。
セラの天使:
どうして帰ってくることができたの? 何があったの?
私:
いや、すでに少し話しましたが、マジックの広報部はあなたが失われたことをそれはそれは悲しみましてね。第7版の開発が始まるとき、彼らが開発部にやってきてあなたを戻すように頼み込んできたんですよ。すごい勢いでね。
最初は私たちもちょっと抵抗したんですが、あらためて当時の環境を見て気づいたんです。何年もかけて大型クリーチャーの質を上げてきたおかげで、あなたの強さもバランスのとれたものになっていたことにね。
セラの天使:
電話をもらったときは嬉しかったわ。皆の目に触れていないと忘れられちゃうものだから、基本セットに戻れると知って本当に嬉しかった。
私:
イラストも新たに描かれました。
セラの天使:
そうね。Mark Zug が描いてくれたわ。素晴らしい出来よ。
私:
どっちがよりあなたの好みですか?
セラの天使:
どれも好きよ。3つともね。
私:
3つ?
セラの天使:
そうよ。Doug Shulerがアルファ版で描いてくれた私は第4版まで使われたわね。第7版と第8版の私は Mark Zug が描いてくれた。そして Rebecca Guay がプロモ版の私を描いてくれた(註7)。
(註7) イラスト
元記事ではここで《セラの天使/Serra Angel》のイラストが並べられている。
http://archive.wizards.com/global/images/mtgcom_daily_mr129_pic2_en.jpg
私:
どれが一番好きですか?
セラの天使:
それぞれの良さがあるわ。もちろん懐かしさという点で Shuler の絵を上回るものはないけど、でも Zug と Guay の絵も大好きよ。ただ私に届くファンレターの大半は Shuler のバージョンについて言及してるのは興味深い点かもしれないわね。
私:
あなたは天使という存在をマジックに広めたというだけでなく、同時に「このクリーチャーは攻撃してもタップしない」という能力をもった最初のクリーチャーという意味でも意義深い存在です。
セラの天使:
元々は「攻撃に参加してもタップしない」だけど、いずれにせよ、そうね、私が最初。不思議なのはこの能力が白のものと定義されるまで随分とかかったことかしら。
この能力をもった2体目のクリーチャーはどれか分かる? ……ねえ、この能力にキーワード名を付けましょうよ。そうすればいちいち長たらしい説明をしなくてすむわ。
私:
確かに、特にキーワード化を求められている能力ではありますね(註8)。
(註8) キーワード化
警戒(Vigilance)というキーワードは、神河物語で制定された。ちなみにこの記事が書かれたのは2004年06月で、神河物語の発売は2004年10月。記事が書かれたときにすでにキーワード化が決まっていたかどうかは定かではない。
セラの天使:
まあ、いいわ。それで、2体目のクリーチャーは分かる?
私:
分かりません。
セラの天使:
アンティキティの《ヨーティアの兵/Yotian Soldier》よ。じゃ、その次は?
私:
えーと、確かレジェンドに何体かいたような気がします。
セラの天使:
3体よ。まあ、4体と言えなくもないけどね。《Bartel Runeaxe》、《狂暴ウォンバット/Rabid Wombat》、そして《西風の隼/Zephyr Falcon》の3体は全て例の能力を持ってるわ。
それと《ヨハン/Johan》はこの能力を他のあなたの攻撃クリーチャーに与えてくれる。ただし彼が攻撃に参加せず、アンタップ状態の場合だけね。ちなみにここにあげたクリーチャーの色は「黒・赤・緑」と「緑」と「青」、そして「赤・緑・白」よ。
私:
白単色で例の能力を持ったクリーチャーはなんですか?
セラの天使:
ホームランドの《セラの聖騎士/Serra Paladin》は対象のクリーチャーに「攻撃に参加してもタップしない」を与えるタップ能力を持ってたわ。ミラージュの《フェメレフの騎士/Femeref Knight》は起動型能力で得ることができた。だけど白単色のクリーチャーでこの能力を条件抜きに持っていたのはビジョンズの《大天使/Archangel》まで待たないといけなかったわ。
私:
さて、最後になりますが、あなたによってその名を知られるようになったキャラクター、セラ(Serra)についてお聞かせください。
セラの天使:
彼女はプレインズウォーカーで、初めて姿を現したのはホームランドだった
私:
あなたと彼女の関係は?
セラの天使:
彼女が私を創造したのよ。だからこそ「セラの天使」の名が与えられた。私たちは純粋なる白きマナの顕現であり、生まれるのではなくプレインズウォーカーによって魔法的に作り出された存在であり、私たちの使命は正義と高潔さのために戦うことだった。
私:
時間が参りました。そろそろこのインタビューを締めくくりたいと思います
読者の皆さんへ伝えたいことはありますか?
セラの天使:
あるわ。
私を使ってね! 色んなデッキで活躍してたのよ!
あの「The Deck」にも入ってたし!
私:
「The Deck」は Brian Weissman というプレイヤーによって作られたデッキですね。多くのプレイヤーに史上最初のトーナメントレベルのデッキと信じられているデッキです。
セラの天使:
デッキの最初期はたった1体しかクリーチャーが入っていなかったの。それが私
私:
あれ? 最新の「The Deck」には入ってなかったような……確かクリーチャーは……
セラの天使:
うるさいわね!
試しに使ってみて、って読者に頼んでるだけでしょ! いいじゃない、それくらい。私はアルファ版を代表するクリーチャーなのよ? 当時の仲間のうち、何人が残っているっていうの。もうほとんど見かけないわ。
私:
あれ? そういえばこのあいだ《ハールーン・ミノタウルス/Hurloon Minotaur》(註8)が道端で物乞いしてるのを見たというのはもう話しましたっけ?
セラの天使:
そもそも、なんであれほどプッシュされてたのかが謎すぎるってだけよ。
……3マナ 2/3 の分際で!
(註8) 《ハールーン・ミノタウルス/Hurloon Minotaur》
ブースターパックやデニムなどのグッズの多くにイラストが用いられていたクリーチャーで、マジック黎明期における「顔」的な存在だった。
ただ《セラの天使》が言っているように、所詮は「(1)(赤)(赤) で 2/3 のバニラ」という平凡以下の強さでしかなく、同じくゲームの「顔」だった《セラの天使》に比べると、実際にゲームで使われることはほぼ無かった。
私:
お時間となりました。
セラの天使:
最後にもう1つだけ。悪魔(Demon)には気を付けて。あいつらは嘘つきよ
私:
分かりました。それでは皆さんさようなら。インタビューを楽しんでくれたのであれば幸いです。来週は私のメールボックスを漁ろうと思っています。それまでセラに今一度目を向けてあげてください。
コメント
読んでる間ずっとニヤニヤしてました。
コメントありがとうございました。