《ドワーフの城塞攻防記》 第3話:分岐する未来
2014年11月22日 ドワーフの城塞 ゲームマーケットで買って来たポストカード1枚しかコンポーネントがない(!)1人用ゲーム「ドワーフの城塞」が面白いので、紹介がてら短編を書き出してみたら思いのほか長くなってしまったので、複数回に分けてみた、というのが事の次第。以下が公式の販促(?)ページ。
I Was Game:『ドワーフの城塞』
http://c3ba95dc5fb36b51a14310b783.doorkeeper.jp/events/16376
以下が第1話目。戦ったのはゴブリンからオークまで。
《ドワーフの城塞攻防記》 第1話:リョーマとジェシカ
http://regiant.diarynote.jp/201412041447355994/
以下が第2話目。ドラゴンパピーを撃破。
《ドワーフの城塞攻防記》 第2話:竜鱗甲と勝利の確率
http://regiant.diarynote.jp/201412050218092594/
第1話はどちらかというとゲームの中でも「砦やドワーフの強化」をフレイバーとしてとらえてみたもので、それに対して第2話は「戦闘ルールの際に発生する選択肢やジレンマの面白さ」について伝えようとしてみたもの。
《ドワーフの城塞攻防記》 第3話:分岐する未来
「何度でも言ってやる。おかしいのは貴様のほうだ」
「おかしいのはアンタのほうサ! この分からず屋の石頭!」
なんか最近似たような会話を聞いたなあ、と思いながらリョーマは食卓で目の前の怒鳴り合いを眺めていた。
「せっかくの竜鱗甲を白兵戦用の武器に使わないなんてどうかしている」
「一度に白兵戦が出来るのは2人が限度じゃないカ! それだったら増援を早めに回してもらうために軍司令部に進呈するほうが建設的だヨ!」
「頭でっかちに竜鱗甲の価値が分かるものか、私腹を肥やされるのが関の山だ」
「それで援軍を送ってもらえるならアタシは一向に構いやしないさネ!」
議論の内容は先日手に入れた竜鱗甲の使い道だった。生粋の戦士であるリンデルは、白兵戦用の武器以外に使うという選択肢を思い付きすらしなかったが、売り払うことを視野に入れた場合、砦を発展させる選択肢は大きく広がることをカルガンが指摘した。
なおカルガンの案としては「樽爆弾の改良とビール樽の追加」だった。ビール樽を消費するとはいえ、ドワーフ秘伝の樽爆弾の威力はやはり白兵戦や通常の相手に対する竜撃砲とは比べ物にならない。妖魔の攻撃がさらに激化することが予想される中、カルガンとしては平均的な強さではなく一点突破型の攻撃力を求めていた。
「よし、じゃあリョーマの意見を聞こうさネ!」
「それはいい、竜鱗甲の貴重さは十分伝授した。奴なら分かってくれるさ」
「え」
2人がいきなりリョーマに向き直る。部屋の暖炉で、生姜を入れたまま沸かした湯に砂糖を混ぜたものを飲んで石造りの部屋の寒さをしのいでいたリョーマは、突然向いた矛先に顔をひきつらせた。
「数は力だよネ、リョーマ!?」
「竜鱗甲の威力と美しさは教えたな、リョーマ!?」
どちらも一歩も引かぬ様子にリョーマは一瞬だけ、どうすればやり過ごせるのか模索しようとして、すぐにその考えを振り払った。
「僕は」
ジェシカとリンデルが真剣な顔でその言葉の先を待つ。
「防具に使うべきだと思う」
新たな選択肢にジェシカとリンデルが言葉を失う。傍で面白そうに3人の様子を見ていたカルガンがリョーマの言葉に興味深げな笑みを浮かべた。
「ふむ。それは面白いかもしれん。聞いてみようじゃないか」
「僕自身は鎧を着て前に出ないから、間違ってるかもしれない。そのときは言ってくれ。でもリンデルの言葉が本当なら、竜鱗甲の鎧は鉄で作るより強靭で、革で作るより軽いんだろ? だったら退却と再攻撃がもっと安全で楽になるはずだ」
リョーマの言葉のあと、少しの静寂が流れる。それを破ったのは、防具もありだな、というリンデルの呟きだった。彼としては竜鱗甲が手元の装備に還元されれば不満はなかった。リョーマはジェシカに向き直った。
「ジェシカはさ、みんなが生き延びられる確率を上げたくて援軍を要請しようと思ってたんじゃない? でもそれなら鎧を改良することでもなんとかなると思うんだ」
「まあ、うん、大体その通りだヨ」
みんなというかリョーマの生き延びられる確率だけど、とジェシカは思ったが、さすがに口に出すのは恥ずかしかったのでその言葉は呑み込んだ。彼女としては白兵戦重視になることでいつかリョーマまで前線に出るようになることを恐れていたのだ。
リョーマの言葉に場の空気が和らいだ。話がまとまった雰囲気の中、しかしリンデルが思い出したように3人を見やった。
「だが……あの量の竜鱗甲だ。この人数程度の鎧ならそこそこ余る」
リンデルの指摘に、まさかまた同じ議論を始めるのか、とジェシカが反論しようとしたが、その直後にリンデルが続けた言葉は予想外のものだった。
「余りは援軍要請に使ってもいいんじゃないのか? どちらにせよ次の戦闘には間に合わないが、早めに依頼してちょうどいいくらいだろう」
あっけにとられた様子のジェシカにリンデルが顔をしかめる。
「おい、俺を何だと思ってるんだ。数の有用性くらいは理解しているぞ」
「してないと思ってたヨ」
ジェシカのつい漏れた本音にリンデルは憤るより先に笑ってしまった。狭い砦の中のたったの4人なのに、まだまだ互いに理解すべきことがたくさんあるな。そう考えた。
「ワシは反対じゃな。いや、人数を増やすことは大事じゃが、今回の余った分を送っても大して援軍が早まるとは思えんのでな。それよりそろそろ得意な戦法を模索しても良い頃ではないかな」
「そうかもね」
リョーマも同意した。今はまだ白兵戦、竜撃砲、ユニゾン、樽爆弾と主要な攻撃手段はどれもそこそこのレベルにある。しかし今後のことを考えると、いずれかの攻撃に特化させないと爆発力に欠けることが懸念された。
「ただ鎧と違って戦術はすぐに効果が出るか分からん。未来への投資じゃな」
「うん、それが必要だと思う。僕としては……」
「もっともな話だ。では……」
「そうさネ。じゃあ……」
ユニゾンを強化しよう、という皆の言葉がまさにその名の通りに合唱となった。声を発したリョーマとジェシカとリンデルが顔を見合わせるのを見たカルガンが破顔一笑した。
鎧の改良が終わり、ユニゾンの練習が続けられる中、新たな妖魔が山のふもとから進撃してくるのを見張り台にいたリョーマが発見した。
それは緑の肌をした小屋ほどもあるトロールたちだった。手にした巨大な棍棒は巨木をそのまま引きぬいたかのように太く大きく、あまりに無慈悲に見えた。しかしリョーマから報告を受けたドワーフたちに臆する様子は見えなかった。
「なんか嬉しそうだネ、リンデル」
「新しい鎧の初陣だからな」
「気持ちは分かるがあまり過信するでないぞ」
竜の鱗の鎧を着た3人のドワーフが正門前に並ぶ。坂道を上がってくるトロールたちはその大きな歩幅で着々と接近し、ついにトロールがドワーフたちへとその巨大な棍棒を振り上げた!
トロールたちとの戦いは死闘となった。その馬鹿力で振り回される巨木のごとき棍棒は一撃で致命傷となる。3人のドワーフは互いの位置を確認しながら、あらゆる場合を想定し退いては攻め、攻めては退いた。
ジェシカとカルガンのユニゾンアタックが最後のトロールの両足を薙ぎ払い、トロールが死の間際に城塞へと放とうとした棍棒の一撃は、匠の技を発動していたリンデルによる槍斧が、棍棒ごとトロールの首を切り落とすことで阻止した。
トロール相手には竜撃砲もまともな戦果を上げる事はできず、援護に終始していたリョーマは落ち込んでいたが、その元へと上がってきたジェシカの更なる落ち込みようにむしろ元気づけられてしまったのは余談である。
それからしばらくのあいだ、ドワーフたちは当初の予定どおりコンビネーションの鍛錬に明け暮れた。攻守交代の精度向上、ユニゾンアタックの攻撃力増加。また残り1樽ではあまりに心細いという点でも意見は一致し、新たに3個の樽の補給依頼が出された。
見張り台のカルガンから敵接近の報が発せられたのは、補給物資が届いたわずか2日後のことだった。日没前にも関わらず、厚く垂れこめた黒雲は寒々しい冬の景色をさらに重苦しくしていた。
その黒雲を背景に白い閃光のようなものが、稲光のように鋭く右へ左へと飛び交いながら、徐々に砦に近づいてくるのが見える。
「おそらく風の精霊……ジンじゃな」
「こうなってみると、武器の改良より戦い方を工夫してきたのは正解だったな」
苦笑するリンデルの言葉にリョーマが怪訝な表情を浮かべる。それを見たリンデルがリョーマに、風の精霊たるジンは地上に降り立つことなくいくらでも自在に飛び回り続けられることを説明した。
「だからまともに接近戦をしようとしたら一生かけても傷一つ負わせられやしない。竜撃砲を命中させるか、1人が上手く注意をひきつけてる間にもう1人が攻撃するか……そういった連携攻撃しか通用しない。あとは樽爆弾だな。いずれにしても武器の強さは関係ない」
またビール樽の世話になるかもしれんのう、とカルガンが呟いた。ジェシカが愛用の戦斧を強く握りしめるのを見たリョーマは、そのまま階下へと急ごうとするジェシカを呼び止めた。最近の固い表情のまま振り向いたジェシカに、リョーマはあえて微笑んでみせた。
「ジェシカさ、勝とう、って思ってる?」
「あ、当たり前だヨ! あっさり勝ってみせるさネ!」
「いいよ、あっさり勝てなくても」
いつも以上に意気込むジェシカへリョーマがさらっと言い放つ。驚きに目を見開いたあと、言い返そうとするジェシカの頭に優しくリョーマの手を置かれる。
「負けなきゃいいんだ。みんなが無事ならそれが一番、だろ?」
「あ……、ああ、そっか。あはは。それもそうさネ」
オークを倒したときに他ならぬジェシカがリョーマにかけた言葉を繰り返され、思わずジェシカの頬が緩む。やっぱジェシカは笑顔が一番似合うな、とリョーマは思うも口には出さなかった。
遅れてやってきたジェシカに苦言を呈そうとしたリンデルは、彼女の明るくなった表情と肩の力の抜けた様子に何も言わないことにした。勝率が上がれば何でもいい。リンデルは現実主義者だった。
ジンの接近に対し、見張り台の竜撃砲から牽制の砲撃が放たれ、難なくそれを避けたジンは、見張り台を一瞥したあと、真の脅威である地上のドワーフたちへと閃光のごとく襲いかかった!
戦いは一瞬だった。ジンの生み出す凍りつくような強風にカルガンが体勢を崩す。それを好機と見て誘い出されたジンが上空から襲いかかろうとしたとき、突如、目の前にジェシカが出現し、巨大な戦斧がジンを一刀両断にした。
ジンは精霊力を失い、制御できなくなった風の力がその身から噴き出す。そのまま元のつむじ風へと戻る最後の瞬間まで、ジンには何が起きたのか理解できないままだった。
地を這うドワーフではあり得ない高度。それは、リンデルの長大な槍斧を足場とし、梃子の原理でジェシカを跳ね上げた連携によるものだった。
緊張の糸が切れ、倒れるように地面へ腰を下ろしたリンデルは、宙を舞うジェシカがジンから噴き出した突風に乗る形でそのまま2階の見張り台へと飛び込むのを見た。
「リョーマ!」
いつもと逆の方向から訪れたジェシカをリョーマが受け止める。晩秋の冷たい空気が強い風とともに満ちる中、互いの温もりが暖かかった。
(第4話へ続く)
I Was Game:『ドワーフの城塞』
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以下が第1話目。戦ったのはゴブリンからオークまで。
《ドワーフの城塞攻防記》 第1話:リョーマとジェシカ
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以下が第2話目。ドラゴンパピーを撃破。
《ドワーフの城塞攻防記》 第2話:竜鱗甲と勝利の確率
http://regiant.diarynote.jp/201412050218092594/
第1話はどちらかというとゲームの中でも「砦やドワーフの強化」をフレイバーとしてとらえてみたもので、それに対して第2話は「戦闘ルールの際に発生する選択肢やジレンマの面白さ」について伝えようとしてみたもの。
《ドワーフの城塞攻防記》 第3話:分岐する未来
「何度でも言ってやる。おかしいのは貴様のほうだ」
「おかしいのはアンタのほうサ! この分からず屋の石頭!」
なんか最近似たような会話を聞いたなあ、と思いながらリョーマは食卓で目の前の怒鳴り合いを眺めていた。
「せっかくの竜鱗甲を白兵戦用の武器に使わないなんてどうかしている」
「一度に白兵戦が出来るのは2人が限度じゃないカ! それだったら増援を早めに回してもらうために軍司令部に進呈するほうが建設的だヨ!」
「頭でっかちに竜鱗甲の価値が分かるものか、私腹を肥やされるのが関の山だ」
「それで援軍を送ってもらえるならアタシは一向に構いやしないさネ!」
議論の内容は先日手に入れた竜鱗甲の使い道だった。生粋の戦士であるリンデルは、白兵戦用の武器以外に使うという選択肢を思い付きすらしなかったが、売り払うことを視野に入れた場合、砦を発展させる選択肢は大きく広がることをカルガンが指摘した。
なおカルガンの案としては「樽爆弾の改良とビール樽の追加」だった。ビール樽を消費するとはいえ、ドワーフ秘伝の樽爆弾の威力はやはり白兵戦や通常の相手に対する竜撃砲とは比べ物にならない。妖魔の攻撃がさらに激化することが予想される中、カルガンとしては平均的な強さではなく一点突破型の攻撃力を求めていた。
「よし、じゃあリョーマの意見を聞こうさネ!」
「それはいい、竜鱗甲の貴重さは十分伝授した。奴なら分かってくれるさ」
「え」
2人がいきなりリョーマに向き直る。部屋の暖炉で、生姜を入れたまま沸かした湯に砂糖を混ぜたものを飲んで石造りの部屋の寒さをしのいでいたリョーマは、突然向いた矛先に顔をひきつらせた。
「数は力だよネ、リョーマ!?」
「竜鱗甲の威力と美しさは教えたな、リョーマ!?」
どちらも一歩も引かぬ様子にリョーマは一瞬だけ、どうすればやり過ごせるのか模索しようとして、すぐにその考えを振り払った。
「僕は」
ジェシカとリンデルが真剣な顔でその言葉の先を待つ。
「防具に使うべきだと思う」
新たな選択肢にジェシカとリンデルが言葉を失う。傍で面白そうに3人の様子を見ていたカルガンがリョーマの言葉に興味深げな笑みを浮かべた。
「ふむ。それは面白いかもしれん。聞いてみようじゃないか」
「僕自身は鎧を着て前に出ないから、間違ってるかもしれない。そのときは言ってくれ。でもリンデルの言葉が本当なら、竜鱗甲の鎧は鉄で作るより強靭で、革で作るより軽いんだろ? だったら退却と再攻撃がもっと安全で楽になるはずだ」
リョーマの言葉のあと、少しの静寂が流れる。それを破ったのは、防具もありだな、というリンデルの呟きだった。彼としては竜鱗甲が手元の装備に還元されれば不満はなかった。リョーマはジェシカに向き直った。
「ジェシカはさ、みんなが生き延びられる確率を上げたくて援軍を要請しようと思ってたんじゃない? でもそれなら鎧を改良することでもなんとかなると思うんだ」
「まあ、うん、大体その通りだヨ」
みんなというかリョーマの生き延びられる確率だけど、とジェシカは思ったが、さすがに口に出すのは恥ずかしかったのでその言葉は呑み込んだ。彼女としては白兵戦重視になることでいつかリョーマまで前線に出るようになることを恐れていたのだ。
リョーマの言葉に場の空気が和らいだ。話がまとまった雰囲気の中、しかしリンデルが思い出したように3人を見やった。
「だが……あの量の竜鱗甲だ。この人数程度の鎧ならそこそこ余る」
リンデルの指摘に、まさかまた同じ議論を始めるのか、とジェシカが反論しようとしたが、その直後にリンデルが続けた言葉は予想外のものだった。
「余りは援軍要請に使ってもいいんじゃないのか? どちらにせよ次の戦闘には間に合わないが、早めに依頼してちょうどいいくらいだろう」
あっけにとられた様子のジェシカにリンデルが顔をしかめる。
「おい、俺を何だと思ってるんだ。数の有用性くらいは理解しているぞ」
「してないと思ってたヨ」
ジェシカのつい漏れた本音にリンデルは憤るより先に笑ってしまった。狭い砦の中のたったの4人なのに、まだまだ互いに理解すべきことがたくさんあるな。そう考えた。
「ワシは反対じゃな。いや、人数を増やすことは大事じゃが、今回の余った分を送っても大して援軍が早まるとは思えんのでな。それよりそろそろ得意な戦法を模索しても良い頃ではないかな」
「そうかもね」
リョーマも同意した。今はまだ白兵戦、竜撃砲、ユニゾン、樽爆弾と主要な攻撃手段はどれもそこそこのレベルにある。しかし今後のことを考えると、いずれかの攻撃に特化させないと爆発力に欠けることが懸念された。
「ただ鎧と違って戦術はすぐに効果が出るか分からん。未来への投資じゃな」
「うん、それが必要だと思う。僕としては……」
「もっともな話だ。では……」
「そうさネ。じゃあ……」
ユニゾンを強化しよう、という皆の言葉がまさにその名の通りに合唱となった。声を発したリョーマとジェシカとリンデルが顔を見合わせるのを見たカルガンが破顔一笑した。
鎧の改良が終わり、ユニゾンの練習が続けられる中、新たな妖魔が山のふもとから進撃してくるのを見張り台にいたリョーマが発見した。
それは緑の肌をした小屋ほどもあるトロールたちだった。手にした巨大な棍棒は巨木をそのまま引きぬいたかのように太く大きく、あまりに無慈悲に見えた。しかしリョーマから報告を受けたドワーフたちに臆する様子は見えなかった。
「なんか嬉しそうだネ、リンデル」
「新しい鎧の初陣だからな」
「気持ちは分かるがあまり過信するでないぞ」
竜の鱗の鎧を着た3人のドワーフが正門前に並ぶ。坂道を上がってくるトロールたちはその大きな歩幅で着々と接近し、ついにトロールがドワーフたちへとその巨大な棍棒を振り上げた!
現在の戦力をおさらいしておく。人数は4人、振り直しは2回、重複配置は2個、ビール樽は3個。スキルは全て初期値のまま(ユニゾンにチェックが1つ)。
トロールの強さはドラゴンパピーと同じく16点。余分な労力を使わずに撃退できれば、城砦の強化もその分捗る。ちょうど16点が出せればよし……(コロコロ)……サイコロの出目は【1】【3】【5】【6】。合計15点。惜しい。
とりあえず【1】【3】【6】を確保すれば(【1】を樽爆弾に回して)樽1個の消費で16点が確定する(【1】を樽爆弾に回す)。とりあえず【5】を振り直さない理由はない。この余っている【5】を振り直して【6】が出れば、樽の消費無しで16点。その確率は1/6で、16.7%。
この1回目の振り直しで【6】が出なかった場合も考えてみる。再度その1個を振り直して【6】を狙うのは 1/6 で 16.7%どまり。だけど1回目の振り直しで出た目次第では、16点を叩き出す確率を上げられる。
まとめてみると、1回目の出目がそれぞれ……
■【1】の場合
1回目の振り直しで【1】が出た場合、残しておいた【6】を振り直す。その結果が【1】か【4】のいずれでも(【1】でユニゾンすることで)16点が作れる。その確率は2/6で、33.3%(※【1】が出た場合なので 1/6 する。実質 5.6%)
■【2】の場合
そのまま、もう1回振り直して【6】を狙う。確率は 1/6 で16.7%(※【2】が出た場合なので 1/6 する。実質 2.8%)
■【3】の場合
1回目の振り直しで【3】が出た場合、残しておいた【6】を振り直す。その結果が【3】か【4】のいずれでも(【3】でユニゾンすることで)16点が作れる。その確率は2/6で、33.3%(※【3】が出た場合なので 1/6 する。実質 5.6%)
■【4】の場合
1回目の振り直しで【4】が出た場合、残しておいた【3】【6】を振り直す。振り直した2個のどちらかが【1】ならユニゾン、2個合計で【11】なら総計で16点。この「どちらかが【1】もしくは合計で【11】」の確率は 13/36で 36.1%(※【4】が出た場合なので 1/6 する。実質 6.0%)
■【5】の場合
そのまま、もう1回振り直して【6】を狙う。確率は 1/6 で16.7%(※【5】が出た場合なので 1/6 する。実質 2.8%)
■【6】の場合
大人しく【6】が出てくれて振り直す必要がない確率は 1/6 で16.7%
……というわけで、全部合わせると39.4%。意外と低いな。なんかもっと確率上げられそうだけど(特に1回目の振り直しの際に、樽1個で16点を作るパターンを保持するというチキンな考えが問題なのかも)……いや、もう色々と限界なので、行く。
1回目の振り直し……(コロコロ)……【3】か。もうここで樽1個を消費して16点でいいんじゃないかな(おい)。いや、ここまできたら当初の予定通り行く!
【6】を振り直して……(コロコロ)……【2】、って、おいいいっ!?
ああ、もう、はいはい、分かった分かった。樽2個消費で「匠の技」を発動、【1】を【4】にして、【3】【3】のユニゾンと合わせて16点。
……くっ、なんという敗北感!? これが「ドワーフの城塞」か。恐るべし。考えてみたら最大値じゃなくて特定の値を狙うのなら、白兵戦で+2のほうが確率高いんじゃないのか?(いまさら過ぎる)
トロールたちとの戦いは死闘となった。その馬鹿力で振り回される巨木のごとき棍棒は一撃で致命傷となる。3人のドワーフは互いの位置を確認しながら、あらゆる場合を想定し退いては攻め、攻めては退いた。
ジェシカとカルガンのユニゾンアタックが最後のトロールの両足を薙ぎ払い、トロールが死の間際に城塞へと放とうとした棍棒の一撃は、匠の技を発動していたリンデルによる槍斧が、棍棒ごとトロールの首を切り落とすことで阻止した。
トロール相手には竜撃砲もまともな戦果を上げる事はできず、援護に終始していたリョーマは落ち込んでいたが、その元へと上がってきたジェシカの更なる落ち込みようにむしろ元気づけられてしまったのは余談である。
それからしばらくのあいだ、ドワーフたちは当初の予定どおりコンビネーションの鍛錬に明け暮れた。攻守交代の精度向上、ユニゾンアタックの攻撃力増加。また残り1樽ではあまりに心細いという点でも意見は一致し、新たに3個の樽の補給依頼が出された。
見張り台のカルガンから敵接近の報が発せられたのは、補給物資が届いたわずか2日後のことだった。日没前にも関わらず、厚く垂れこめた黒雲は寒々しい冬の景色をさらに重苦しくしていた。
その黒雲を背景に白い閃光のようなものが、稲光のように鋭く右へ左へと飛び交いながら、徐々に砦に近づいてくるのが見える。
「おそらく風の精霊……ジンじゃな」
「こうなってみると、武器の改良より戦い方を工夫してきたのは正解だったな」
苦笑するリンデルの言葉にリョーマが怪訝な表情を浮かべる。それを見たリンデルがリョーマに、風の精霊たるジンは地上に降り立つことなくいくらでも自在に飛び回り続けられることを説明した。
「だからまともに接近戦をしようとしたら一生かけても傷一つ負わせられやしない。竜撃砲を命中させるか、1人が上手く注意をひきつけてる間にもう1人が攻撃するか……そういった連携攻撃しか通用しない。あとは樽爆弾だな。いずれにしても武器の強さは関係ない」
またビール樽の世話になるかもしれんのう、とカルガンが呟いた。ジェシカが愛用の戦斧を強く握りしめるのを見たリョーマは、そのまま階下へと急ごうとするジェシカを呼び止めた。最近の固い表情のまま振り向いたジェシカに、リョーマはあえて微笑んでみせた。
「ジェシカさ、勝とう、って思ってる?」
「あ、当たり前だヨ! あっさり勝ってみせるさネ!」
「いいよ、あっさり勝てなくても」
いつも以上に意気込むジェシカへリョーマがさらっと言い放つ。驚きに目を見開いたあと、言い返そうとするジェシカの頭に優しくリョーマの手を置かれる。
「負けなきゃいいんだ。みんなが無事ならそれが一番、だろ?」
「あ……、ああ、そっか。あはは。それもそうさネ」
オークを倒したときに他ならぬジェシカがリョーマにかけた言葉を繰り返され、思わずジェシカの頬が緩む。やっぱジェシカは笑顔が一番似合うな、とリョーマは思うも口には出さなかった。
遅れてやってきたジェシカに苦言を呈そうとしたリンデルは、彼女の明るくなった表情と肩の力の抜けた様子に何も言わないことにした。勝率が上がれば何でもいい。リンデルは現実主義者だった。
ジンの接近に対し、見張り台の竜撃砲から牽制の砲撃が放たれ、難なくそれを避けたジンは、見張り台を一瞥したあと、真の脅威である地上のドワーフたちへと閃光のごとく襲いかかった!
現在の戦力をおさらいしておく。人数は4人、振り直しは3回、重複配置は2個、ビール樽は4個。スキルはユニゾンが2段階目に入ったほかは初期段階のまま。
ユニゾンが1発決まればちょうどジンの強さである 18 となるので、サイコロ4個を2回振って、1つでもゾロ目があればいい。1回もゾロ目が出ない確率が 7.7% なので、逆算して勝率は 92.3%。
……なんか逆にフラグを立ててる気がするけど、そんなこと気にしてもしょうがないので、サイコロを振る……(コロコロ)……出目は【2】【5】【6】【6】。ふう。
というわけで【6】【6】でユニゾンアタック、第2段階なので【9】の2倍で18点ちょうどとなる! 勝利!
戦いは一瞬だった。ジンの生み出す凍りつくような強風にカルガンが体勢を崩す。それを好機と見て誘い出されたジンが上空から襲いかかろうとしたとき、突如、目の前にジェシカが出現し、巨大な戦斧がジンを一刀両断にした。
ジンは精霊力を失い、制御できなくなった風の力がその身から噴き出す。そのまま元のつむじ風へと戻る最後の瞬間まで、ジンには何が起きたのか理解できないままだった。
地を這うドワーフではあり得ない高度。それは、リンデルの長大な槍斧を足場とし、梃子の原理でジェシカを跳ね上げた連携によるものだった。
緊張の糸が切れ、倒れるように地面へ腰を下ろしたリンデルは、宙を舞うジェシカがジンから噴き出した突風に乗る形でそのまま2階の見張り台へと飛び込むのを見た。
「リョーマ!」
いつもと逆の方向から訪れたジェシカをリョーマが受け止める。晩秋の冷たい空気が強い風とともに満ちる中、互いの温もりが暖かかった。
(第4話へ続く)
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