<はじめに>
 この記事は、以前訳したマーク・ローズウォーターが Tumblr の記事「マジックと女性について」の発端となった親記事にあたるものだ。

   マークローズウォーターのTumblrから:マジックと女性について
   http://regiant.diarynote.jp/201506211246058496/

 著者本人もおそらく意識しているように感情的な表現を避けて通れない話題を取り扱っている。そのため読み方次第で(訳し方次第で)極端な意見とも攻撃的な意見とも感じられてしまうかもしれない。

 著者の意図したとおりに訳せているのであれば何の問題もないが、訳す際に用いた言葉のせいで著者の意図が曲解されることは極力避けたいと思い、迷った部分は原文を併記した(もちろん単なる誤訳もあるかもしれないので、主張がおかしいと思ったらまずは訳を疑うべき)。

 もう1つ、この文章によく登場する「(マジックの)コミュニティ」という単語についても付記しておく。これはマジックを取り巻く環境や人間関係の全てを指しており、イベントやプロプレイヤー、インターネット上のサイトや動画、カードショップの友人たちなど「全ての公式や非公式を問わないマジックを通じた関係」を示している(ような気がする)。

【翻訳】 MTGにおける女性の立場と私たちにできること/Women In Magic: the Gathering 【Star City Games】
Meghan Wolff
2015年06月15日
元記事:http://www.starcitygames.com/article/31023_Women-In-Magic-the-Gathering.html

 誇張抜きで、このテーマはこの8ヶ月間のあいだ片時も私の頭を離れることはなかった。数えきれないほどの下書きを書いては消した。書きたいことをメモした紙切れを捨てては屑かごを漁ってまた拾い上げ、そしてまた捨てるという行為を繰り返した。

 マジックにおける女性(原文:Women in Magic)について書きたかった。しかし同時にそんなことは不可能だとも思った。

 それについて書こうとすることはつまりこの世で特にきつい綱渡りをするということだ。理性と感情の狭間でバランスをとるということ、そして同時に、身近な話題を取り上げつつそれについて意義のある議論を行うということだ。
(メモ)
 原文は「Writing about it involves walking the world’s worst tightrope between reason and passion, between contributing something both meaningful and relatable」。2つ目の「between」が「何と何のあいだ」を指しているのかが掴み切れなかった。

 同時にこれは「変わらなければいけない」と訴える話だ。しかしそれを、誰一人として糾弾することなく、そして誰の気持ちも傷つけることなく、さらには行動を起こしてもらわなくてはいけない当事者たちを巻き込む形でそれを行わないといけない。本当にそんなことができるのだろうか。

 とはいえ、今もここには競技マジックをプレイしようとする女性を妨げる障壁がある。いくつもの乗り越えるのが困難でかつ無意味な問題があり、それらは潜在的な競技マジックプレイヤーたちが「台所のテーブル(訳註)」から羽ばたく機会を奪っている。これは議論するに値する問題であり、議論すべき問題でもある。
(訳註) 台所のテーブル
 原文では「Kitchen Table」。アメリカでは家族や友人と共有できるような広いテーブルというと大体ダイニングにある大きなテーブルなので、カジュアルプレイヤーたちの居場所を指す言葉として使われる。

 私はこの問題に真剣に取り組もうとしている。しかしこの問題について議論しようとすると、ときに私は微動だにしない強固な壁に体当たりしているような絶望感を覚えるのもまた事実だ。

 なぜならここに挙げようとしてる問題について、それをそもそも問題だと思っていない人たちや、また説得されてなるものかと身構える人たちがいるからだ。
(メモ)
 最後の一文は原文で「because there are people who don’t believe it’s even an issue and who don’t want to be convinced」。より忠実に訳すなら「問題ですらないと信じている人」と「説得されたくないと願っている人」か。

 この記事は次に挙げる人たちのためのものだ。

 説得されることを恐れない人たち。疑り深い友人たちに理解して欲しいと願っている人たち。それなりに理路整然としている議論を求めている人たち。

 さらには、マジックのコミュニティに自信を持って属している女性たち、逆にコミュニティのどこに属しているのか(そもそも属しているのかどうか)に自信がない女性たちも対象だ。

 もちろん説得されるつもりなどないという人たちだって対象だ。

 だけどそれよりも何よりも、この記事はあなたのためのものだ。マジックを愛し、平行宇宙のどこであろうと心安らかなままに優れたプレインズウォーカーになりたいと願っているあなたのためのものだ。なぜならそう願う人は誰に気兼ねすることなく、そうなれるべきだから。


可視性(Visibility)について

 競技マジックの世界において女性の姿はほとんど目に入らない存在(not visible)だ。私個人の意見としては、この存在感の欠落こそが競技マジックに参入しようとする女性プレイヤーが圧倒的少数派である理由の根幹を成しているのではないかと思っている。

 競技マジックのイベント会場に女性の姿が見られないことが、新たにこのゲームを遊びはじめた女性プレイヤーたちが競技マジックの環境へ身を投じようとすることを難しくしているのではないか、ということだ。

 つい最近、マーク・ローズウォーターが自身のブログでマジックプレイヤーの男女比に関する質問に答えていた。ウィザーズ社の市場調査によるとその割合は62%が男性で38%が女性だそうだ。
(メモ)
 上記で挙げられているのはおそらく以下の記事のことと思われる。マーク・ローズウォーターがTumblrで件の質問に回答している。
 http://markrosewater.tumblr.com/post/110840728088/do-you-guys-have-any-data-on-the-breakdown-of-the


 多くの人が触れているように、この男女比はグランプリやSCGオープンやプロツアーや、さらにはフライデーナイトマジックで見かける女性比率と大きく掛け離れたものだ。競技マジックの会場で女性の占める割合は、おそらく20人中 1人から100人中 1人のあいだ、おおよそ 1 ~ 5 %といったところだろう。

 競技マジックに姿を現していない女性たちは必然的に「台所のテーブル」で遊んでいるカジュアルプレイヤーということになる。さて、彼女らを競技マジックから遠ざけているものはなんなのだろう?

 何か新しいことを始めようとするとき、その場にあなたと共有する部分をもつ人がほとんどいなかったら、そこに入って行くことは非常に難しいことだ。17歳以上の人が Hot Topic(訳註)に入るのをためらう理由と同じだ。要は気後れするのだ。
(訳註) Hot Topic
 ティーネイジャー向きの安価な服を売るアメリカのチェーン店……らしい。
 参考:http://www.hottopic.com/hottopic/Homepage.jsp

 Hot Topicに入りづらい人がマイリトルポニー(訳註)のTシャツを手に入れそこなっているように、あなたが手に入れそこなっているのは狂おしいほどの熱気と爽快感に満ちた競技マジックの世界なのだ。
(訳註) マイリトルポニー
 翼の生えた子馬たちが主人公の根強い人気を誇る米国産アニメ。20年以上前にアメリカのテレビでやってたのは知ってたけど、まだ続いている上に日本でも放映されているのは知らなかった(さすがに絵柄は変わっているけど)
 参考:http://mylittleponyjapan.com/

 競技マジックのイベント会場に女性の姿がないというから、よりマクロなマジック世界の傾向が窺い知れる。それは女性の手によって書かれたり、記録されたり、作られたり、生み出されたりしたマジックのコンテンツが足りていないということだ。

 マジックのコミュニティというものはコンテンツと非常に密接に結び付いている。プレイヤーたちは、記事を読んだり、動画やストリーミングやイベントカバレージを見たり、ポッドキャストに耳をかたむけたりする。

 様々なプレイレベルのプレイヤーに応じた高クオリティのマジックのコンテンツがたくさん用意されている。しかしその中に、女性の手によるものは少ない。

 より女性の存在感が高まらない限り、イベント会場に女性陣を呼び寄せることは難しいだろう、と思う。そしてイベントに積極的に女性が参加することなくして潜在的なクリエイターたちが育つことはない。

 だからこそコンテンツを生み出す女性クリエイターが今早急に必要なのだ。
(メモ)
 原文は「This issue creates urgency in the need for female content creators」。「female content creators」を「コンテンツを生み出す女性クリエイター」、「urgency」を「早急に」としている。

 この先、数年をかけてでも、女性のカバレージライターが増えればいい、という話ではない。

 それは「今」必要なのだ。

 女性の存在感が「今」増えなかったら、この先の数年のあいだもその先も、競技マジックにおける男女比率は私たちが今現在立っているこの地点と何一つ変わらないだろう。

 数多くの大会が今も開かれている。そしてそのどこにも女性のカバレージライターの姿はない。これに対するもっともよく聞かれる反論は以下の通りだ。

 現在の男性支配的なカバレージチームを正当化する意見としてもっともよく聞かれるのは、カバレージを担当させられるほど能力のある女性がいない理由は彼女たちは(男性陣と異なり)競技マジックで結果を残していないからだそうだ。
(メモ)
 後半部分の原文は「there are no women qualified to do coverage because they lack the competitive track records of their male counterparts」。「競技マジックで結果を残していないことから、カバレージを書く能力がないことが分かる」ということを言いたいようにも思われるが、原文でそうは書かれていないので、訳は原文に即した形にしてある。

 カバレージチームは現役のプロプレイヤーや過去にプロプレイヤーだった人物をライターとして登用しているが(全員ではないにせよ)多くのライターたちは以前にほとんど、もしくはまったくプロツアーで活躍した経験がないままにデスクで記事を書き始めている。

 私は決して、プロツアー上位入賞の実績なくしてカバレージチームのメンバーになるべきではない、と言いたいわけではない。ブロードキャストに出ている人たちはインタビューのスキル、実況や解説のスキルなど、何らかのスキルに長けているからこそその場にいるのだ。そしてこれらの才能は競技マジックに求められる技術よりもずっとブロードキャストをする上で重要なものだ。

 現在のマジックのコミュニティには有能で、率直で、そして豊富な知識を持った女性がたくさんいる。彼女たちを競技マジックの実績がないからという理由だけでカバレージの場から遠ざけるとすれば、それは彼女たちを同様の立場にある男性たちとは違った評価基準に置いているということに他ならない。

 女性の存在感に欠けているのはカバレージだけでなく、ストリーミングやポッドキャスティング、そして記事の分野でも同様だ。

 これら3つの分野はカバレージより創作的な力に負うところが大きいが、それでもこれらの分野がカバレージと同様に、競技マジックで活躍する可能性を秘めた女性プレイヤーたちが存在感を示すのが難しい分野であることは記しておくべきことだろう。

 女性の存在感が薄いことが問題なのだ。なぜならそれは競技マジックに参入する障壁となるからだ。

 特に不快に感じることは、マジックにおける女性という話題が挙がった際に必ずわいてくる次のような意見だ。それは、女性が競技マジックの場にいないのは、彼女たちが競技性を楽しめないからだ、とか、それに興味がないからだ、とか、質の高いイベントを開催できるだけの能力を持った女性がいないからだ、というような意見だ。

 あらゆる人にとって競技マジックをプレイする際には障壁(barrier)がある。それは経済的なものであったり、時間的なものであったり、距離的なものであったりする。

 女性プレイヤーはそれらに加えて、彼女たちをコミュニティにふさわしい一員と見なしていない世界へ足を踏み入れなくてはいけない、という障壁(barrier)が追加で立ち塞がるわけだ。十分なスキルを伴っていない、歓迎したくない、敬意を払う必要がないと思っている人たちがいる世界だ。
(メモ)
 原文は「women face the additional barrier of walking into a world where there are few depictions of them as skillful, welcome, and respected members of the community」。
 そのまま訳すと「女性プレイヤーを skillful で welcome で respected な存在とする描写がほとんどない世界に足を踏み入れねばならないことが障壁である」という感じ。

 本気でゲームに身を投じるつもりならその程度は障壁にはならないはずだ、と信じる人たちもいるだろう。

 それに対し私から言えることは、実際にその障壁を乗り越える必要がない者にその障壁の高さが正しく測れるはずがない、ということだ。


ガールフレンド認定(Girlfriendification)

 ガールフレンド認定(Girlfriendification)は私が生み出した造語だ。

 これはマジックのコミュニティで、プレイヤーたちが女性に対してのみとっている、とある行為を指す言葉だ。そしてその行為は女性に対する誤った(もしくは問題のある)認識を促進しているのだ。

 この言葉は「競技マジックのイベント会場に来ている女性は、本人が競技マジックに本気だからではなく、競技マジックプレイヤーの彼氏の付き添いのために来ているに過ぎない」という一般的な誤解が元になっている。

 この誤解は男性にだけ見られるものではない。残念ながら、言い訳の余地なく私自身も他の女性プレイヤーを「ガールフレンド認定」したことのある1人だからだ。そのことからも、この問題がいかに根深く、また抗するのが難しい認識と行為であるかを分かってもらえると思う。

 私たちが女性プレイヤーをコミュニティの他のプレイヤーとどう違う風に見ているか、それを具体的に指し示したり、議論したりすることは難しい。なぜならそれは多くの異なる形で行われており、また必ずしも明確な見える形で行われているとは限らないためだ。

 私たちが実際どのように女性を他と違う目で見てしまっているかの具体例をあげていこうと思う。ただしこれらはあくまで代表例であり、決して漏れのない一覧表ではないことを忘れないで欲しい。私が描こうとしている地図は大陸であり、そこに含まれる国々はあまりに数多く、1つの記事で書ききれるものではないためだ。

 1つ目にしてもっとも恥ずべき行為は、公(おおやけ)の場で女性の外見を批評することだ。

 たとえそれがTwitchのチャットだろうが地元ショップの友人との会話だろうが関係ない。これは女性を競技マジックのイベントから遠ざける最も効果的で、かつ悪質な行為だ。
(メモ)
 原文は「Whether it’s in a Twitch chat or with a friend at your LGS, this is harmful behavior with great potential to drive women away from competitive events」。
 「もっとも効果的で、かつ悪質な行為」は、原文で「harmful behavior with great potential」の部分。

 あなた自身の身長、体重、化粧、服装などが不快な詮索の対象となる場に出向くのには、非常に強い精神力と決意が必要となる。これは比べようもないほど女性側にとって重い負担となっている。大抵の場合、男性はこの手の詮索からは免除されているからだ。
(メモ)
 原文は「it’s an inequitable burden on women since male players are generally exempt from this kind of scrutiny」。
 原文に「generally」とあるように、これは「あるかないか」ではなくて、女性の場合のほうがよりきついという「程度の問題」の話。

 幸か不幸か(どちらかといえば幸運なことだとは思うが)Twitchのチャットログは後から見ることができないようになっている。

 そこには胸が痛むような女性の外見に対するコメントが並んでいるであろうことが想像に難くない。特に体つきや体の大きい女性に対するものなどだ。同様の男性も批評や批判の対象となることはあるだろうが、女性の場合と比べると非常に小さいものだ。
(メモ)
 「特に体つきや体の大きい女性」は原文で「in particular, body-shaming and insulting larger women」。おそらく「larger women」は、太っている女性を指しているものと思われる。

 似たような行為はもっと身近な事柄にも見られる。やめて欲しいと声に出して訴えることにためらいはないが、それでも女性の外見に関する批評が耳に入ってしまうことや、ほとんど裸に近い女性が描かれたプレイマットがいきなり目に入ってしまうことは止められないのだ。

 女性プレイヤーたちが足を向けたくなるような競技マジックのイベント会場では、外見についての批評や感想会は行われるべきではない。

 そしてこれを実現するためには私たちは自分自身の行為を省みるだけでなく、友人や同僚たちの行為にも無関心ではいられない。

 外見についてあれこれ言うことは多くの場合特定の女性プレイヤーを槍玉にあげることになり、引いてはそのプレイヤーを友人たちから際立たせることにつながる。

 そして女性プレイヤーが心から競技マジックのイベントを楽しもうとする上で、クリアしなければいけない新たなハードルがまた生じるのだ。
(メモ)
 「友人たちから際立たせる」の原文は「differentiates them from their peers」。「差別」や「疎外」といった単語も浮かんだけど、日本語で強すぎる意味をもつ単語なので(日本語としては多少不自然に感じられつつも)「際立たせる」としておいた。

 ここまで挙げたもの以外で特筆すべき行為としては、女性プレイヤーに「誰からマジックを教わったのか?」もしくは「誰と一緒にイベントに来たのか」といった(男性プレイヤーであればまず聞かれないであろう)質問を尋ねるという行為がある。

 私を含む、多くの女性プレイヤーたちは「誰にマジックを教わったんだい?」という質問を飽きるほど何度も何度も聞かれ続けてきた。しかし男性プレイヤー同士のあいだでこの質問が交わされたという話はほとんど聞いたことがない。

 ここまであげてきた「論拠」が個人的なものだったり噂話的であったりするように見えると言われたら否定できない。

 しかしこれらの例によって、私たちが特に気をつけなくてはいけない行為がどのようなものなのか、その見えづらかったものを多少なりともあらわにすることができたのではないかと思っている。
(メモ)
 原文は「I’ll grant that the above evidence is both personal and anecdotal, but it still highlights a behavior we can all work to become more aware and critical of」。
 正直なところ、文頭にある「I’ll grant」がよく分からなかった。大意はズレてないと思いたいけど、「highlight」の取り扱いを含めて、ちょっと自信がない。

 私はマジックの試合と試合とのあいだの空き時間を使って対戦相手のことをより深く知るのが好きだ。そこで私が聞くことは、私が対戦相手のプレイスキルについてどう感じたかということではなく、例えばどこから来たのかとか、よく行く地元のゲームショップはどんな感じかとか、好きなフォーマットは何かとか、そういったことだ。

 そういった風に、プレイヤー同士の絆やコミュニティの一体感を育むべき時間に、「誰と一緒に来たの?」というような的外れな質問をされた女性プレイヤーは、自分が他のプレイヤーとは違った目で見られている、という不快な思いをさせられることになる。

 最後に挙げたいのは、私たちが抱いている「女性プレイヤーは男性プレイヤーと違う存在であって欲しい」という期待感から生まれてしまう、女性プレイヤーへの態度だ。これは一般的なものも個人間に生じるものも両方含まれる。
(メモ)
 後半部分の原文は「which further results in a difference in both general and individual treatment of female players」。
 「both general and individual treatment」をとりあえずはそのまま「一般的なものも個人間も両方」と訳したが、なんかしっくりこないものを自分でも感じる。

 この記事(訳註)では人気テレビ番組のキャラクター、レズリー・ノープとリズ・レモンの2人を使って私が言いたいことを解りやすく紹介してくれている。つまり、私たちが普段いかに女性キャラクターに対して(熱意にあふれ明確な目標に向かって歩を進める自立した人物像ではなく)「無害なトラブルメーカーであること」を望んでいる、ということだ。
(訳註) この記事
 原文では以下のURLへリンクが張られている。
 https://medium.com/@mshannabrooks/a-leslie-knope-in-a-world-full-of-liz-lemons-61726b6c6493

 マクロなトレンドはマジックのマクロコスムにも見られる

 これの一例として、ツイッターやRedditのスレッドで私が頻繁に遭遇する人たちの中には、女性はプレリリース会場でもっともよく見かけると言い、さらに基本的にカジュアルな(もしくは競技性の低い)環境でしか見かけないと言い出す。まるで競技性の高いルールが適用される大会に身を投じた女性は水に放り込まれた魔女のように溶けてしまうとでも言いたげに

 もちろんすべての女性が勝利至上主義者であるとか、戦闘狂であるとと言いたいわけではない。しかし個人が競技性にどれほど入れ込んでいるかどうか、ということと性別は関係ないはずだ。
(メモ)
 原文は「Not everyone is a guts-and-glory, fight-to-the-bitter-end player, but gender has nothing to do with how serious of a competitor any given individual is」。
 「guts-and-glory, fight-to-the-bitter-end」の訳が適切かどうかはちょっと自信ないけど、意味が正反対になるほどひどい訳ではないはず(だと思う。たぶん)

 昨秋のSCGオープンで試合が終わったときのことだ。不機嫌な様子の相手プレイヤーが、そのときテーブルを離れる前に(皮肉を込めてかどうかは不明だが)私に投げつけてきた言葉は「ここはお友達を探すには向いてない場所だと思うな」だった(実際は「向いてない」よりもっとアダルトな表現が使われた)。

 それから数ヶ月たったが私の中にはいまだに落ち着かない気持ちが残っている。

 私の振る舞いのどこかで彼に前述したような勘違いをさせるような、つまり、単に勝つために、もしくはより強いプレイヤーになるために大会に参加していると信じてもらえないプレイングをしていたのだろうか、という不安だ。

 もしかしたら私が女性であるという事実は上記の件とはなんら関係ないのかもしれない。しかし私が彼が対戦した他のプレイヤーたちと明らかに違う点の1つであることは間違いない。

 競技マジックをよりすべてのプレイヤーにとって居心地よい場所にするためには私たちは明確な方向性を持った認識をもつ必要がある

 なぜ女性がマジックをプレイするのか、そして彼女たちをテーブルの向こう側に座っている他の対戦相手たちと同じように真剣に敬意を払うべきだ。


いくつかの提案

 競技マジックの場をより女性にとっても居心地のよい場所にするもっとも良い方法の1つは女性の存在感を高めることだ。これはマジックのコミュニティにおける女性の声をサポートしより高めることでによって達成可能だ。

 残念ながらここにあげるリストはすべてを網羅しているとは言いがたい。リストに抜けがあると感じたならぜひとも教えて欲しい。

提案:フォローしよう

 @_Elantris_(Follow her on Twitch here!)
 @GabySpartz (Follow her on Twitch here!)
 @halcansan (Follow her on Twitch here!)
 @Kathleen_LRR (Follow her on Youtube here! )
 @KatieN_14
 @MelissaDeTora
 @MtACast
 @MTGLadySociety
 @OriginalOestrus
 @tehKriz
 @thequietfish
 @TheGFBracket
 @suzythegnat (Follow her on Twitch here! )
 各ツイッターID、および「Follow her on Twitch here!(ここから彼女のTwitchをフォローしよう!)」からはそれぞれリンクが張られている。リンク先は原文のページを参照のこと。これ以降の各サイト名なども同様。
 原文:http://www.starcitygames.com/article/31023_Women-In-Magic-the-Gathering.html

提案:見る、読む、そして聞く

 上記にあげた女性たちは同時にTwitchに動画をあげていたり、記事を書いたりしている。ツイッターでフォローすることで彼女らのコンテンツの最新状況をチェックしよう。

 そしてもしあなたがそれを役立つと感じたり、情報に価値があると感じたり、もしくは単に面白いと感じたなら、ぜひ他の人々と共有して欲しい。他にも「The Girlfriend Bracket」、「The Deck Tease」、「 Magic the Amateuring」といった女性が作成しているポッドキャストにもぜひ耳を傾けて欲しい(公平性のために書いておくと「Magic the Amateuring」は私も関わっている)

 さらに付け加えておくともしあなたがコンテンツを生み出す側だったとした場合、ジェンダー的に公平な(もしくはニュートラルな)表現を用いているサイトのやり方を参考にして欲しい。

 例えば Star City Games の記事では聴衆や大会参加者を指すときに「You」や「They」という表現を用いている。また Reid Duke は不特定の対戦相手を指す代名詞に「彼女」を用いたりしている。
(メモ)
 原文は「Star City GamesR structures their articles to use "you" and "they" when talking about both their audience and the competitive field」。
 つまり「He」「His」などを用いないということ。日本語で言う「彼」「彼ら」に当たる表現をさけて「相手」や「全員」などを性別を特定しない表現を使うこと。

 また、Sam Black や LSV といった動画コンテンツの制作者たちはマジックオンラインで見知らぬプレイヤーと対戦するときに相手を「My opponent(この対戦相手)」と呼んでいる。それ以外の例としては Cardboard Crack の漫画ではポニーテール状の髪型をしたプレイヤーが多く登場している。

 デジタルな世界でのこれらの変化は小さいことかもしれないが、長く続くことできっと現実世界の競技マジックに女性のための居場所を生み出し、女性プレイヤーが認められることへとつながっていくだろう。

提案:会話しよう

 次にあげることは現状を変えるためにできるおそらくもっとも重要なことであり、同時にもっとも難しいことだと思う。

 もし公共の場で誰かが女性(に限った話ではないが)に対して攻撃的であったり卑しめるような言葉を投げつけているのを目撃したり、あなた自身がその被害にあったときは、お店やトーナメント開催側の誰かに対し報告し、きちんとその事実がWotCへと伝わるようにすべきだ。
(メモ)
 原文は「If you encounter or witness someone being openly hostile or derogatory toward women (or anyone else, for that matter)」。
 訳で「公共の場で女性に対して攻撃的であったり卑しめるような」としたのは「openly hostile or derogatory toward women」の部分。

 もしそれの誰かがあなたの知り合いであったとしても、気まずい会話を避けずに勇気を持ってその誰かのあらためるべき態度について伝えるべきだ。

 優しさと敬意を持ちあなたの行動によってその誰かが女性に対して抱いている認識や、女性に対しての振る舞いや、女性の表現などを変えることができるということを信じて欲しい。

提案:応援団になろう

 自宅でプレイしている人やカジュアルプレイヤーを競技マジックに誘ってみよう

 いままで書いてきたようなことが待ってるかもしれないと思うと、それは厳しいとか難しいとか思うかもしれない。しかしその人たちがもし競技マジックに興味があるなら、一歩踏み出すことは決して無駄ではない。

 もしその人たちが何かネガティブな事態に遭遇するようなことがあればサポートしてあげて欲しい。そしてそんな嫌なことを上回る、楽しいことがいっぱいあるのだと教えてあげて欲しい。


 この記事を何度も書き直す中でずっと悩み続けた。もしかしたら私は、居もしないネッシーやベッドの下のお化けを自ら生み出そうとしているのではないか、と。

 しかしここまで書き記してきたような壁(Barrier)がもし私しか遭遇したことのないものだったとしたら、そもそも私はこの記事を書こうとは思わなかっただろう。

 自問自答のぬかるみにはまりかけていたとき、私は自分に何がしたいのか、何を伝えたいのかをあらためて問いかけた。

 私がこれらのプレイヤーたちを気にかけているということ、そしてこのプレイヤーたちに成功のチャンスを掴んでほしいということ。誰でも用意されている中でもっとも高いレベルに挑戦できるようになって欲しいということ。

 潮が満ちるとき、そのときはすべての船が高みへと持ち上げられる。

 競技マジックを女性プレイヤーにも気軽に参加してもらえる場所にすることで、私たちはマジックのコミュニティをさらに多くの人々にとってより前向きで、より互いに助け合い、より門戸の開けた場にできるのだ。

 あなたがマジックをプレイする理由が何であれ、この目標は達成するに値するものだと私は信じている。


<追記:著者について>
 Meghan Wolff は2012年の後半からマジックをプレイしはじめた。間をおかずして彼女はポッドキャストで Magic the Amateuring を立ち上げるサポートを始め、地元のミネアポリスのイベントに入り浸るようになり、そして毎年のグランプリやオープントーナメントの常連となった。

 彼女のもっとも好きなフォーマットは、1にリミテッドであり、2にリミテッドだ。それ以外で好きなことはスポーツマンシップに乗っ取ったプレイングを推奨すること、そして新規プレイヤーを増やすことだ。

 彼女は現在、MFA(Master of Fine Art=芸術系修士号)の取得を執筆(Writing)で目指している。

コメント

ムンナロー
2015年9月24日8:19

この記事、Twitterでみつけていつか訳そう、と思って挫折しておりました(笑
あらためてよい記事ですね。ありがとうございます!

UBBB
2015年9月24日13:25

初めまして、読ませて頂きました、
とても良い記事だと思います。
今は女性のMTGプレイヤーも過去に比べて増えつつあり、
互助会みたいな組織もあるようで、
性的な壁無くMTGというゲームを楽しめたらいいな、と思いました。
リンクさせて頂きます、よろしくお願いします。

re-giant
2015年9月24日18:26

コメントありがとうございました。

>ムンナさん
同じくTwitterで知りました。確か元はこの記事の冒頭でも紹介したマローのTumblrだったと思います。また、同じく何度か挫折しかかりましたが、一部開き直ることでなんとか終えることができました。

>UBBBさん
この手の話題はなかなか公式では扱われないので、多少なりとも需要があるかなと思い、訳してみました。ゲームを気持ち良く楽しめる人がもっと増えると良いですよね。

nophoto
azra
2015年9月26日9:15

この記事に出会えて良かった。
翻訳していただけて感謝です!

re-giant
2015年9月27日23:22

ありがとうございます。嬉しいです。
こちらとしては読んでいただけて感謝です。

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