2016年04月24日にウィザーズから以下の発表があった。
2016年および2017年におけるプレミア・プレイの更新
http://mtg-jp.com/publicity/0016818/
それに対して殿堂入りプレイヤーかつ先日のプロツアーでトップ8を決めたばかりのジョン・フィンケルが感じたところを25日にブログへ投稿した。以下はそのブログの翻訳。
【翻訳】 ジョン・フィンケルがプロプレイヤークラブ制度変更について思うところを語る/Pro Tour Player Club Thoughts【ブログ】
Jon Finkel
Monday, April 25, 2016
元記事:http://jonnymagic00.blogspot.jp/2016/04/pro-tour-player-club-thoughts.html
トップ8入賞を決めたあの素晴らしいバルセロナの大会から戻ってきたところだが、他のみんなと同じでプロツアーの話をしようなんて気分にはなれないでいる。そう、ウィザーズが日曜日に投下してくれた例の爆弾のおかげだ。
スティーブ・ルービンには申し訳ないと思ってる。彼は本当にいいヤツだったからね。何しろ引き分けならトップ8確定だというのに、3ゲーム目のサイドボーディングとシャッフルをできる限り手早く終えようとしてくれてたんだ。
まあ実は私としては彼のサイドボーディングテクを確認させてもらったあと引き分けで終わらせるつもりだったんだけど、彼はそんなこと知らなかったからね。そんな彼の記念すべき初優勝をこんな発表で台無しにするなんて本当にひどい話だ。
ウィザーズの「プラチナレベル」と「賞金額の変更」に関する発表には多くの問題点がある。まず初めに、今シーズンが4分の3も過ぎているこのタイミングで次シーズンのプラチナレベル褒賞の変更を発表したということ。
2つ目に、長期的な視野に欠けているということ。3つ目に、発表は正確性に欠けている可能性があるということ。そして4つ目はここ10年ほどのあいだ賞金額がほとんど増えていないということ(これは直接発表では触れられていないが触れられていないことが問題なのだ)。
発表された変更点の中で、明らかに非倫理的かつ道徳的に間違っていると言える変更が1つある。それは2016-17シーズンのプラチナレベル褒賞に関する変更だ。
私はこの発表記事を担当しているヘレンと長い付き合いで、彼女はマジックのコミュニティのことを深く気にかけてくれていることを知っている。だからおそらく次のいずれかではないかと推測する。彼女がこの決定を下したわけではなく単にババを引いただけか、もしくはこの変更がプレイヤーに対してどれほどまでの裏切り行為であるかを理解していなかったかだ。
私からするとこの変更自体がすでに問題だらけだが、それはさておいてもこういった変更はシーズンの開始時に宣言すべきだ。ウィザーズの公式サイトに記載されてきたプラチナレベル褒賞を目指して、すでに非常に多くのプレイヤーたちが膨大な時間とお金を費やしてきた。
すでにシーズンの75%が過ぎたこのタイミングでその褒賞を反故にしようだなんてとても受け入れられることじゃない。プレイヤーたちと交わした約束は守られるべきだ。
長期的な戦略として見ると、1つの大会の賞金を増額するためにプラチナレベル褒賞を削るのはマジックというゲームの魅力を減ずる無分別な行為だ。
殿堂入りプレイヤーの特典を削るのは許そう。しかしプラチナレベルプレイヤーというのがプロツアーという舞台を輝かせる最も重要な光でありブランドであることはウィザーズが一番よく分かっているはずだ。
そのプレイヤーたちの特権を取り上げ、かわりに年の最後の大会で一発逆転気味に取り返せというのは「マジックのプロ」という存在を脅かすのに十分な問題だ。
すでにマジックはそれだけで生計を立てるには非常に厳しい。現状でもわずかな違いが大きな差となってしまう。プロツアーは最後の試合の勝敗だけで賞金がほぼ倍違う。スイスドローを勝ち抜いての9位は、それより上の順位とかけ離れた結果をもたらす。プラチナレベル褒賞はそういった振れ幅に対して多少なりとも緩衝材として働いてくれるものだった。
その振れ幅をシーズン最後の大会での一発勝負にすべてゆだねることになる、という今回の変更を喜んでるプレイヤーは少なくとも私の知っている範囲内の(その大会で優勝するであろう)プレイヤーたちの中にすら1人もいない。
仮に減額される分と賞金として増額される分がプラスマイナスゼロであったとしても、その恩恵を受け取れるプレイヤー数は減る、という意味で問題は残る。
仮にプラスマイナスゼロであったとしても、と書いたが、そもそも総額は(ウィザーズの主張と違って)減額されている。私がどうしても理解できないのがここだ。ウィザーズはマジックプレイヤーが大抵数学に強いことを知っているはずだ。少なくとも算数ができることくらいはね。
それとも、そんな計算なんてできやしないと思ってるんだろうか。60枚に占める土地の枚数が24枚か25枚かで変わる確率に一喜一憂するような連中だってことを忘れてしまったんだろうか。
ヘレンがツイッターで計算すれば金額は問題ないことを説明できると言ったらしいので、もしかしたら私が計算ミスをしているだけかもしれない。ただ今時点でまだ彼女は実際に計算式を披露してくれたわけではない。
計算してみよう。ただ簡略化するために来年度のプレイヤー数は今年とほぼ同数としている。それによってズレが生じるぞという人もいるかもしれないが、全体的な総額を求める上で影響はそれほどでもないはずだ。いずれにせよ総額は減っている。大幅にね。
さて今現在、マジックには34人のプラチナレベルプレイヤーがいる。来年も同数だとして、来年度が変更によって減額される金額を算出してみよう。
まず各プレイヤーごとに11,000ドルをプロツアーに参加することで得られたはずだった。総額は374,000ドルだ。さらに34人のうちの20人が国別対抗戦のワールドマジックカップの予選に参加して、かつ本戦に進んだとしよう。これで得られるはずだったのは+20,000ドルだ。
発表によるとグランプリ参加による褒賞はないらしい。単に私が見落としているだけという可能性はあるが、実際にそうだという可能性も十分にある(訳註)。もし48回あるグランプリそれぞれに10人ずつプラチナプレイヤーが参戦したとすると、プレイヤーごとに+250ドル、年間で+120,000ドルが払われるはずだった。
(訳註)
ここはジョン・フィンケルの勘違いで実際はグランプリ参加褒賞は存続するらしい。つまりこの120,000は本来計算から除く必要がある(なおこの記事の最後にフィンケル自ら訂正を加えている)
さて、ここで殿堂顕彰者がイベントに参加した際の参加褒賞の減額も加えよう。
4回のプロツアーごとに20人のプレイヤーが参加したと仮定する。以前はそれぞれごとに1,500ドルがもらえて、年間で6,000ドルだった。変更後は1回のプロツアーでしかもらえないので1,500ドル。変更前との差は+90,000ドルだ(ワールドマジックカップを勝ち抜ければもう少し増える)。
ここまでの計算結果の総額は604,000ドル。これが制度の変更によって削減できるであろう金額だ。さて、それに対して世界選手権で増額された褒賞額がある。今シーズンの結果プラチナレベルに達することができたプレイヤーは世界選手権で+100,000得ることができる(もちろん予選を勝ち抜くことができればだ)。
差し引きで減額されるのは総額で504,000ドル、大体プロツアー2回分の賞金額だ。
さて来年度は(またウィザーズがいきなりちゃぶ台をひっくり返さないと仮定した場合)世界選手権の賞金総額が250,000ドル増額される。さっき計算した減少額からこの分も差し引くと、来年度は約250,000ドル削減されたことになる。大体プロツアー1回分だ。
ああ、そうそう。
ウィザーズの声明文によると「参加褒賞の授与は、「マジックのプロ・プレイヤー」というライフスタイルを維持する手助けを目的に行ってきました。しかし綿密に評価を行ったところ、私たちはこのプログラムがその目的を果たせていないと判断し、参加褒賞の減額に踏み切りました」とある。
つまり……どういうことだろう。「参加褒賞がライフスタイルを維持する手助けという目的を果たせていない」から「褒賞の減額に踏み切りました」? わけが分からないよ。たまにウィザーズは私たちを本当に取るに足らない存在だと思ってるんじゃないかと感じることがある。こういう文章を見たときとかね。
最後の、そして最大の問題点だ。
プロツアーは長いこと賞金総額が増えていない。
過去10年のあいだに、マジックの売上は少なく見積もっても3倍になっている。おそらくはもっとだ。もちろん正確な数字は分からない。彼らの財務諸表のレポートはゲームごとの収支を出しておらず、マジック単体での売上は不明だ。ただ個人的に信頼できる筋から得ている情報として「少なくとも3倍」というのはかなり固い数字だ。
それに対して賞金額はほとんど上がっていない。
2006年のプロツアーの賞金総額は240,000ドルで、今現在はというと250,000ドルだ。当時かそれ以前からのプラチナレベル褒賞はというと、同じくほとんど変わっていない。
ベン・ルービンが私をシカゴマスターズの決勝でコテンパンにしてくれた2001年の当時、プロツアーの優勝賞金は150,000ドルだった。プラチナレベル褒賞より上だ。それから約10年が過ぎたというのに賞金額はほとんど変わっていない、ということだ。こういった長期的視点に欠けた考えが長いことマジックを支配してきた。
私としては十分語らせてもらったが、もしもっと詳しく知りたいならマット・スパーリングがアップした記事(訳註)にもぜひ目を通して欲しい。
(訳註)
原文には以下のリンクが張られている。
http://sperlinggrove.blogspot.com/2016/04/platinum-pro-club-changes-corporate.html
最大限に理想を語るなら、今回の発表をすべて撤回した上で、今後機会を見つけて賞金総額を上げて欲しい(ああ、ただプロツアー殿堂入りプレイヤーの参加褒賞の減額はそのままでいい。不要だ)。
とはいえ、それは無理な話だろうから、最もリアルな歩み寄りとしてはプラチナレベル褒賞の変更はそのままにするかわりにせめて変更の開始を1年延ばしてもらうことだろう。
プレイヤーたちとそのファンたちはみんなマジックが大好きで、人生の一部を確かに占めている。マジックのプレイヤーたちはおそらく世間にあふれるあらゆる製品の消費者の中でも最も忠実な消費者(loyal consumers)であり、同時にもっとも利益をもたらしている消費者でもある。
そのプレイヤーたちをウィザーズがこれほどまでに軽んじていたと知ることは本当に悲しいことだ。その態度が彼らの将来的な収益に良い影響を与えることになるとはとても思えない。
<訂正1>
この記事やツイッターでもらったコメントによると、どうやらグランプリ参加褒賞は現在の250ドルがそのまま残るらしい。つまり再計算の結果、褒賞の減額は384,000ドル(訳註)ということになり、差額は134,000ドルだ。ご指摘に感謝。
<訂正2>
プロツアーの開催地はバルセロナじゃなくてマドリッドだった ( ´ω` )
(訳註)
差し引きで減額されるのは総額で504,000ドルとしていた額のうち「グランプリ参加褒賞 120,000ドル」を除くと384,000ドルとなり、ここから来年度の賞金額増 250,000ドルをバランスすると「来年度に実質的に下がった金額は134,000ドル」となる、ということ。
コメント
話題になっているのは知ってましたが
プロから見るとこんなに理不尽なことが起こってたんですねぇ。
おっと訳者に感謝です。ありがとうございます。
興味深く読ませて頂きました。
読んでいて目頭が熱くなりました!
読ませていただきました。
自分の英語力では何となくでしか読めてないので非常に助かります。。。
例の発表は、プロプレイヤーにも、衝撃を与えていたのですね。
>今シーズンが3分の4も過ぎている
これは、こういう言い回しですか?
3分の4という事は、今シーズンが終わっちゃってるような気がするのですが。
この数日間大変でしたが、大炎上の末一旦撤回になって、きっといい方向に着地するだろうと安心しました。
>listenerさん
オモロイですよね。表現も含めてやっぱり非凡なプレイヤーだな、と思いました。
>カナルさん
みんな気になってたんですね。そういう意味では訳して良かったです。
>監視者さん
読みやすい翻訳で定評のある監視者さんだ。読んで頂けて恐縮です。
>黒いのん
個人的に胸が熱くなったのは冒頭のルービンに関する部分です ( ´ω` )
>ジンさん
英語力には一抹の不安がある身なので、なんか変だなと感じる部分があったら
なんとか原文を読み解きにいくことをお勧めします……
>魔女エンジンさん
ジンさんと微妙に名前かぶってますね。
>レベラーさん
マジックでTRPGの試みは面白そう、と思いながら遠くで見守っております。
>3分の4という事は、今シーズンが終わっちゃってるような気がするのですが
ホントだ! 終わってる! 誤訳ですね。タイプミスのほうが正しいかも。
意外と誰も気づかないで読んでそうなので、もうしばらく放置してみます。
>シグマさん
一旦撤回になるまでがウィザーズの計画通りだったという人もいますけど、
とりあえずは一件落着といったところでしょうか。それともこれが始まりなのか。