先日訳した以下の記事の裏話というか、苦労した点というか、楽しんだ点というか。

  【翻訳】アクローマ誕生秘話/Angels Among Us【DailyMTG】
   http://regiant.diarynote.jp/201805222338289406/

 言い訳がましくならないように気を付けつつ、それでは始まり始まり。
原文:
 When the story of Akroma’s creation gets turned into a movie of the week (“God of Wrath”), central casting is going to have to go out and find someone to play me.
拙訳:
 映画化するなら私の役を担当する俳優が必要になるだろうね。映画のタイトルはさしずめ「神の怒り」ならぬ「怒りの神」といったところか。

 ダブルクオテーションで括られている「God of Wrath」は映画名の候補であり、《怒りの天使アクローマ/Akroma, Angel of Wrath》のことを指している。そこまではほぼ確定。

 それに追加して、さらに「この頃はまだ《神の怒り/Wrath of God》というカードが誰にでも知られている頃だったから、それもかかっているのかもしれない」と考えた……ことを反映しているのが上記の拙訳。

 あらためて見ると、ちょっと考え過ぎだった可能性がある。さらには、そもそも最近のプレイヤーは《神の怒り/Wrath of God》というカードを(下環境でも使われていないし)まず知らないだろうから、分かりやすさを考えて(仮に原文にこのカードと絡める意図あったとしても)除くのが正解だったかもしれない。

原文:
 Because I played a vital role. You see, I’m the R&D member that tried to kill Akroma.
拙訳:
 なにしろアクローマ誕生に際して私はかなり重要な役割を担っていた。そう、アクローマの誕生を阻止するべく開発部に昂然と立ち向かったんだからね。

 最初の文章の「Role」は、訳すなら「役割」しかないんだけど、なんかしっくりこない。物語において特定の立ち位置についた登場人物が果たすべき行動や言動や態度……うーん、やっぱり「役割」しかないか。なんで日本語がしっくりこないんだろう。

 後半の文章は難しかった。簡単に訳すなら「分かるだろう、私はアクローマを殺そうとしたR&Dのメンバーだった」になる。ただ、彼が実際に行おうとしてたのは、今現在の形(能力)で世に出るのを阻止しようとしたことなので、ここで言う「Kill」は「殺す、命を絶つ」はイマイチふさわしくない気がした。

 それをどう言い換えようか悩んでいるうちに気が付いたらかなり修飾された意訳になってしまった。うーん。今だったらもっとシンプルに直すかもしれない。

 ところでちょうどいいのでここで書いてしまうと「R&D」をどう訳すかというのも悩ましくて、そもそも原文にある「R&D」「Development」「Design」をどう訳し分けるかという問題でもある。

 基本的に今回のコラムでは「R&D、Development、Design」をそれぞれ「開発部、デベロップメント、デザイン」としている。ただ「デベロップメント、デザイン」という部門がそれぞれ何をしている場所なのかについてどれだけ理解しているのか、かつ読む人も知っているのか、という問題がある。

原文:
 One of them is labeled “dev comments”. This is short for developer comments and is the place where R&D (designers too, despite the name of the field) talks to one another about upcoming cards.
拙訳:
 そしてその項目の中の1つに「デベロッパーのコメント(原文:dev comments)」がある。ここには新たなカードたちについてデベロッパーやデザイナーが開発中に残したコメントやメモが保存されている。

 前半の悩みポイントはやはり「Dev Comments」。前述のとおり「Development」をどう訳すか、という問題に通じるものがある。原文ママに「Dev Comments」とするか、原文に近づけた訳として「デベロッパーコメント」とするか、文章全体で統一感を出すために「デベロップメントコメント」とするか……色々ためした挙句に分かりやすさ優先にしてみた。

 後半はカッコ内の補足文をどうしようか迷った。原文に極力合わせようと、「項目名にデザイナーとは入っていないけど」というネタを残し、かつカッコを使って訳したのが以下。

 没案:
  ここ書かれているのは新たなカードたちについてデベロッパーたちと
  (項目名には含まれていないが)デザイナーたちとが会話したメモだ。

 最終的には分かりやすさと読みやすさを優先した。
原文:
 For historical purposes this allows us a nice glimpse back in time.
拙訳:
 履歴管理のためだったが、おかげで当時をより生き生きと垣間見ることが出来るというわけだ。

 前半の「historical purpose」を「履歴管理のため」としたのはなかなか上手い訳かもしれないと思った(自画自賛)。後半は……うーん、どうだろう。「nice glimpse」をどうするか、がポイントな気がする。「覗き見る」という選択肢もあったんだけど、個人的に「覗く」という言葉にはネガティブなものを感じてしまうので避けてしまった。
原文:
 At what point did you realize that we were pulling your leg? :)
拙訳:
 いつから俺らが足を引っ張る側に回ってるって気づいた?

 もっと短く、さらっと軽口っぽく訳したかったけどこれが限界だった、ということと、文末の顔文字をどうしようか迷って結局無視したこと、の2つがポイント。文末のこれは……うーん?
原文:
 “The card is not ridiculous enough.”
拙訳:
 まだ「常識の範囲内」

 まずは、ダブルクォーテーションをどうとるか。たぶん強調の意味だろう、と思ったのでそう訳した。そして内容。意味はよく分かる。うん。でもそのまま淡々と訳す文章じゃなくて明らかに「冗談めかしてる」内容だから……どうするかな。

 「このカードには非常識さが足りない」
 「このカードにはまだトンデモなさが足りない」
 「壊れすぎというにはまだ足りない」
 「まだ行けるだろ」

 色々考えてるうちに分からなくなってきて最後は、えいやっ、と。
原文:
 I think a card like this will get some notice when it is first seen, but I don’t think it will be memorable (no one will be able to tell you exactly what it does) or particularly flavorful.
拙訳:
 個人的にこの手のカードは初見時のインパクトしかない。何が言いたいかというと、本当の意味で印象的なカードにはならないと思うし、フレイバーにも欠けてる気がする。具体的に「よしこのカードがあればアレが出来る、コレが出来る」という形では話題にならないだろうね。

 序盤の「get some notice when it is first seen」は、訳しづらいというより、分かりやすすぎてむしろ訳す選択肢が多すぎて困る。素直に訳すなら「最初に見たときに多少の注意は引くだろう」という感じ?

 それは、まあ、なんとかなるとして、問題はカッコ内の「no one will be able to tell you exactly what it does」。そのまま訳すなら「ハッキリとこれが何をするかを説明できる人はいない」かな。でもそれじゃ、なんか違う気がして、色々ああでもないこうでもないといじくっているうちに上記の拙訳になった。

 あとこのカッコ内が特に強調したいところなのかな、と思ったので、この部分が文末に来るようにあえて原文と異なる語順に訳している。
原文:
 We took two iconic beloved cool legends and combined them into a pile of, well a word I’m not allowed to use on this site.
拙訳:
 ウィザーズは2つの素晴らしい伝説のクリーチャーを混ぜ合わせて、〇〇の役にも立たない△△(公式サイトでは使えない言葉)を生み出したわけだ。

 原文の「a pile of ~」は、よくある言い回しである「a pile of shit(クソのかたまり)」を言いたかったのではないかと思われるけど、まあ、あまり原文に縛られなくてもいいかな、と思って、伏字部分を2つにしてみた。個人的には気に入ってる。そして確かにカローナのデザインはどうかと思う。
原文:
 There’s not much finesse to it.
 As a designer, it seemed kind of uninspired to me. (Before the column is over, I’ll walk through some of the important design lessons of Akroma.)
拙訳:
 このデザインには技がない。
 デザイナーとして、このカードには何一つインスピレーションを感じなかったんだ(おっと、念のため。今日のこのコラムの最後では私がこの件(アクローマのデザイン)から学んだ重要な教訓をまとめている)

 うーん、「finesse」をどうしたら良かったのだろう、とあらためて考えるに、原文の単語をカッコで併記すればよかったかもしれない。実際、今回の記事の訳でその手段を取っている箇所はある。

 あと後半のカッコ内の文章も難しかった。直前の言葉を打ち消す言葉は入っていないのに、直前の言葉は間違いだと自分でも分かっていてその訂正はあとでやるよ、という意味になっている。直訳しても伝わるだろうとは思ったけど、補足を入れるのを止められなかった(「おっと、念のため」と付け加えたこと)。
原文:
 The funniest thing to me is that I’m not sure how many cards have dev comments with Mike and Randy agreeing on anything.
拙訳:
 個人的にランディのこのコメントは非常に興味深い。なぜならこのコメント欄に残された会話の中で、マイクとランディの意見が一致していたのはほぼこれだけだったからだ。

 原文の「言葉」ではなく「意味」を訳した箇所。「funniest thing to me」とか「I’m not sure」とか「how many cards」とかに対応する言葉は日本語側には存在しない。それでも筆者が伝えたかった全体的な「意味」は……ある程度は……再現されてるはずかもしれない(弱気)
原文:
 The fight was over whether this was a special enough occasion.
 I think time has shown that yes it was.
 (Or possibly no it wasn’t, if you don’t like high-profile cards setting incorrect precedents.)
拙訳:
 つまり論点は「例外が認められるほどにアクローマが特別なカードかどうか」ということになる。
 そしてこの判断が正しかったことは時間が証明してくれたと考えて良いだろう
(まあ人によっては「正しくなかった」と言うかもしれない。注目を集めるタイプのカードほど誤った先例を持つべきではない、と考える人もいるかもしれないからね)

 長々と引用してしまったけど、ポイントは最後の「if you don’t like high-profile cards setting incorrect precedents」をどうするか。原文を極力尊重して「君が~」とか「好きでなければ~」とか入れようとすると、どうしても日本語的に不自然な文章になるんだよなあ……というわけで諦めた。
原文:
 Yes, haste and trample were removed. That side won the battle. But, as we all know, not the war.
拙訳:
 お気づきのとおり、上記のコメントの時点では速攻とトランプルを取り除きたい派が戦術的勝利を収めている。しかし結果を知ってる君たちには分かるだろうが、これは戦略的勝利ではない。

 「局地的なBattleという意味では一方が勝利を収めた。しかしより大局的なWarという意味ではまだ戦いは終わっていない(アクローマが Haste と Trample を最終的に得たことを君たちは知っているわけだし)」という意味なのは分かるんだけど、日本語訳するとなると、これがなかなか。

 すべては、Battle と War をどう訳すか。「戦闘 と 戦争」とかも考えたけど、最終的には上記の通りと相成った。もうちょい上手い訳がありそうな気はする。
原文:
 So how exactly did Akroma get back her out-of-flavor keywords? Well it helps when the Head Designer/ Head Developer speaks up on their behalf.
拙訳:
 はてさて、結局のところ色のフレイバー的に外れてしまうキーワードはどうなったのか? ありがたいことに上に立つ者が皆を代表して発言してくれている。

 原文の「Head Designer/ Head Developer」という単語をバッサリ捨てた。どう訳しても、なんか見覚えのないカタカナ語が出来てしまうし、そもそもどの役職かは重要ではないと判断した。正直、あまり良くない。

 あともっと本質的な話として、そもそも上記の訳が正しいのかどうか。原文にある「speaks up on their behalf」が「~に代わって代弁する」なのは分かるんだけど、じゃあこの「their behalf」ってそもそも誰のことか、というのでちょっと悩んだ。部下でいいのかなあ……それ以外ないよなあ……
原文:
 Death Touch Woman versus Can’t Die Woman seemed awesome to me.
拙訳:
 「デスタッチウーマン VS イモータルウーマン」の対戦カードは間違いなく「イケる」と思ったんだ。

 悩み始めたら止まらなくなって、最後はもう大量に並べた候補の中から勢いで選んだ。ただやっぱり「キャントダイウーマン」だけはないと思ったんだ。
原文:
 At this point, the development team starts having some fun.
拙訳:
 見ての通り、明らかにネタに走り始めている。

 最初は「明らかに別方向に楽しみ始めている」としたんだけど、気が変わって、上記の訳にした。内容的にもっと冗談めかした軽い口調のほうがふさわしく感じられた。
原文:
 (And yes, “discussed” is misspelled - see I told you I didn’t change anything.)
拙訳:
 (そうそう、このコメントにはスペルミスがある。「discussed(相談をした)」が「dicussed」になってしまっている。ほら、約束しただろう? データベースに残された会話を「無編集かつ無修正のままお見せする」ってね)

 英語を使わずに、わざと間違えた日本語を使う(例:「相談した」が「装弾した」になってしまっている)のは違う気がして、最終的には英単語を併記して実際にどう間違っていたのかを明示した。
原文:
 For some reason I assumed over the years that we’d do a lot of kitchen sink creatures and they would blur.
 As it turns out, we’ve made them pretty special and not done too many.
拙訳:
 このアクローマのせいで将来的に生まれるそれらがかすんでしまうのではないか、と恐れていたのだ。
 その後どうなったかというと、新たに作られたカードたちもかすむことなく好評を博した。そもそも、それほど多くは作られなかった、ということもあるが。

 「Kitchen Sink」は、洗い物をまとめて放り込まれているところからなのか……は不明だけど、とにかく「なんもかんも全部入ってる」を表す言葉らしい。この記事では「全部盛り」と訳してる。

 それはさておき上記の文章で訳しづらかったのは後半部分の「we’ve made them pretty special and not done too many」。なんとなくは分かる。なんとなくしか分からない。

 まず「We have made them pretty special」は「私たち開発部は それら全部盛りなクリーチャーを それなりに素晴らしいものに出来た と思っている」というような意味だと思う。

 特別なものにできた、というそうした大量の能力持ちは「(We have) not done too many」、つまり「あまり多く作らなかった」らしい。

 ここで迷ったのは「素晴らしいものに出来たのは、あまり多く作らなかったから」という意味なのか「それらは素晴らしいものに出来た。そしてまたそれらはあまり多く作られなかった」という特に因果関係はない並列な事象なのか。

 上記の拙訳では因果関係があったものとして訳してる。
原文:
 When I look back at the comments, I realize that I was being a bit of a design snob.
 Just because the design was boring from a technical design-sense doesn’t mean the card is boring to players.
拙訳:
 コメントをあらためて読んで、自分があまりにデザイン第一主義者に陥っていたかに気づいた。
 カードのデザインが単純すぎてテクニカルな観点からはつまらなく思えたとしても、プレイヤーたちがそれをつまらないと思うかは全くの別問題だ。

 まずは一文目の「a design snob」をどう訳すか。「あまりにデザイン至上主義者になっていた」「あまりに自分のデザインに酔っていた」「デザインが得意なことを鼻にかけていた」などなど。

 前後の文とのつながりを考えて、最終的には上記の訳になった。

 後半については「a technical design-sense」と1つの単語になっている箇所をあえてバラした。「技術的なデザインセンス」とか「テクニカルデザインセンス」とか「技術的な面に偏ったデザイン」とか、無理に一語にすると、どうにも原語に引きずられてる感が否めなかったので。
原文:
 Aesthetics like simplicity and brevity.
 Visceral gut response, on the other hand, often enjoys indulgence for the sake of indulgence.
 Cards aren’t just things that are examined and processed. Cards are emotionally taken in. Hitting an emotional nerve can be just as potent as calming one.
拙訳:
 美は単純さと簡潔さから生まれる。
 その一方で人の欲は贅沢さだって楽しめる。
 カードとは理性的に分析したりプレイしたりするだけのものではない。カードは感情を介して受け取るものだ。理性に訴える強さと同じくらい、感情に訴える強さもまた重要なのだ。

 難しかった。

 英語がシンプルで美しい分、そのまま訳したいけど、なかなかそうもいかず。

 まず「Aesthetics like simplicity and brevity」は「Aesthetic、Simplicity、Brevity」をそれぞれどう訳すか。単に訳すだけなら「美しさ/美的、シンプルさ/明快さ/単純さ、簡約さ/簡潔さ」となるけど、並べる以上、ある程度の統一感が必要になるし、どうしたものか、と悩んだ結果が上記。

 次の文章からさらに「Visceral」とか「gut」とか「indulgence」とか見慣れない単語が乱舞し始めて……いや「gut」が「内臓」とか「Indulgence」が「贅沢を楽しむ」とかなんとなくは分かるんだけど、どう訳せばいいのやら。

 色々悩んだ挙句に「こう書けば前後の文章ともつながるし、日本語としての意味は通る気がする」という整合性を合わせることを目指したかなり後ろ向きな訳になった。正直、自信がない。
原文:
 Angels Among Us
 Angel in the Centerfold
 ACTION FIGURE
 Angels in the Outfield
拙訳:
 アクローマ誕生秘話
 エンゼルス、不動のセンター
 アクション・フィギュア
 エンゼルス、延長戦

 上記は、最初のがタイトル、あとはサブタイトルというか、チャプタータイトル。

 タイトルの訳は、まずは記事の内容が伝わるタイトルでないと読んでもらえないからしょうがない、と原題のネタ的な部分をばっさり諦めた。要は「訳していない」。

 2つ目と4つ目は、おそらく「Angels」という野球チームがあることから野球ネタとかけてるのだろう、と決め打ちしてネタ重視で訳した。3つ目は何かネタになってるのかどうかが分からず、そのまま。

 どっとはらい。

コメント

M中
2018年6月29日22:14

>タイトル
 angel in centerfoldは有名な洋楽「堕ちた天使」の一節ですね。この記事も曲も昔を振り返るものなので、訳はそのバンド名をモジって「振り返れば奴ガイル」とか…?
 angels in the outfieldは同名の映画タイトルらしいです。

re-giant
2018年6月30日0:58

教養がないのがバレる ( ´;ω;`)
でも情報嬉しいです。やっぱりマローといえば映画ネタなんですね。

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