【翻訳】マナと雪の情報/There’s No Business Like Snow Business【DailyMTG】
Mark Rosewater
2006年06月26日
元記事:https://magic.wizards.com/en/articles/archive/making-magic/there%E2%80%99s-no-business-snow-business-2006-06-26
コールドスナップのプレビュー週間の第1週目にようこそ! 今週はアイスエイジブロックの「失われたセット」をみんなで探索しようじゃないか。
しかも今日は新セットから皆の興味を引けそうなカードを1枚紹介しようと思っている。ただ、すぐにご紹介するわけにはいかない。ちょっとした準備がいるから、このコラムの最後に紹介させてもらうよ。
……おや? 読者が減ってしまった気配を感じるぞ。多分、記事の終わりまでスクロールしに行った人たちの分だな。
きっと戻ってこないだろうな。プレビューカード目当てで私の記事にきた人たちだろう(そうそう、それはそれとして今週はプレビュー週間だからこれからもどんどん記事が上がって来るぞ)
いや、それほど残念じゃないよ。何しろカードだけ先に見に行った人たちはそれはそれは混乱してることだろうからね……なんでそう思うのかって? 実はプレビューカードには君たちが見たこともないちょいとした新しいマナシンボルがお目見えしてるからさ。
こんな感じのマナシンボルだ(註)。
これがなんなのか気になるかい? 大丈夫、すぐに説明するよ。いやはや、君たちに記事をちゃんと読んでもらうためには色々と工夫が必要なのさ。
ただこれだけは言っておくよ。
このちょいとしたシンボルはデザインの革命そのものだとね。そう、革命さ。うん。それについてもちゃんと説明するよ。すぐにね。
だけどその前にまずは慣例通りコールドスナップのデザインチームメンバーを紹介させてくれ。何しろ私は慣例とか伝統とか大好きなんだ。
■ ビル・ローズ(リード・デザイナー)
ビルと私はウィザーズで働き始めた月が同じだ(トリビア好きの君のために記しておくと、1995年の10月のことだ。この月には元R&Dメンバーのウィリアム・ジョクシュ(註)も入社している)。
今やビルはR&D全体の副責任者となり、同期だった私は一介のデザインリーダーというわけだ。つまりビルは私の上司の上司だ。
どうしてそうなったのか、というと、ビルの選択した道が「おもに管理業務、たまにデザイン」であり、その一方で私の選択した道は「おもにデザイン、たまに管理業務」だったからだ。
実質的に私の勝ちだ。少なくとも私はそう思っている。
まあそれは冗談として、正直なところビルは本当にすごい奴だ。ビル以外にR&D全体の副責任者を務められる人材がいるとは思えない(私? いや私はあまりに「赤」な部分が多すぎてとてもリアルな外交手腕を必要とされる仕事には向いていない。会議でつい大声で怒鳴ってしまったりする私ではね)
彼がその仕事を務め上げてくれているおかげで私はほとんど時間をマジックという世界最高のゲームの制作にかかりっきりになれるわけだ。さらに幸運なことにビルは今でもたまにマジックのデザインに時間を割いてくれている。
そしてコールドスナップだ。
ビルはデザインの責任者だ(リードデザイナーと呼ばれる立場だ。ちなみに私が毎日何をしているかというとヘッドデザイナーとして働いている。これはリードデザイナーと対になる立場と考えてくれればいい)。
ビルは今までにいくつものデザインチームを率いてきている。
ミラージュ、ビジョンズ、ポータル、インベイジョン、トーメントは全てビルの手がけたセットだ。加えて、ウルザズ・ブロックと神河ブロックではヘッドデザイナーも務めた。(さらに言えば来年の初めに発売されるセット、次元の混乱のリードデザイナーでもある)
コールドスナップに関する最初の告知ではリードデザイナーの欄には私の名前があったが、あれは単なる間違いだ。コールドスナップではチームの一員として私が働き、ビルがチームを率いた。
ビルと一緒にデザインチームを組むのはいつだって楽しいし、それにこの前にデザインチームを組んだのは何しろトーメントの頃だからね(ちなみにその前となるとインベイジョンだ)。彼がまたマジックのデザインの仕事に足を突っ込んでくれて嬉しいよ。
君たちもきっと喜んでくれるだろう。
■ アーロン・フォーサイス
今までにも、一緒に働いてみたいと思わせてくれる様々なタイプのデザイナーがいた。もちろん相手はそのときどきで違ったけどね。
ここ数年、そう感じさせてくれたデザイナーがこのアーロンだった。
私たちが共にチームを組んだのは、フィフスドーン、ラヴニカ、ディセンション、時のらせん、ピーナッツ (仮)、そしてコールドスナップだ(なお、ピーナッツというのは2007年の秋に発売される予定のエキスパンション(註)のコードネームだ)。さらに今後はバター(ピーナッツの続き)とロック(2008年の秋に発売が予定されているセット)で一緒に働く予定だ。
さらにアーロンが新たにデベロッパーのトップとなったことを合わせて考えれば、私たちがどれだけ膨大な時間を共に働いてきたか分かってもらえると思う(アーロンがデベロップメントのトップになったことを知らない君は先週の記事(註)を読み落としてるね)
私がアーロンと一緒に仕事をするのが好きな理由は、彼が本当に、本当にマジでデキる奴だからだ。
彼の最初のデザインチームとしての仕事はフィフスドーンからだったが、そのときはあくまでデザインという仕事に本当に向いているのかどうかを確かめるための仮採用的な形での参加だった。しかしそれによってアーロンはR&Dに来て欲しいという逆オファーを得て入社することが出来たのだ(言ってみれば当時のアーロンは今でいうスコット・ジョンス(註)と同じような立場だった。当時の公式サイトは今と比べると小規模ではあったが)
その3年後、彼はデベロップメントのトップとなった(ご参考までに付け加えておくと、私はデベロップメントのトップになるまで8年かかった)。
アーロンは「理解する」という点において尋常ではないほど高い能力を持っている。彼に新たな環境をプレイテストをしてもらえば、ほんのわずかな時間でそれを正しい寸法に仕立て直してくれる(私はこれを知っているからこそ、彼が新たなデベロップメントのトップになると聞いても何一つ心配せずにいられるわけだ)。
彼をコールドスナップの開発に迎えられることは間違いなく僥倖だ。
■ デヴィン・ロー
よくある言い回しを借りれば、彼は「今まさに上昇気流に乗ってるデザイナー」といったところだが、ただ1つこの呼び方に問題があるとすれば、彼がもうすでにほぼ上昇しきってるということだ。
デザインのトップには様々な役割があるが、そのうちの2つは、次世代の才能あるデザイナーを育てるということ、同時にそういったデザイナーたちに能力向上のための機会と道具を与えることだ。
デヴィンはスポンジのように全てを吸収していった。
ちなみに今の私たちはちょうど未来予知の開発を終えたところだ(来年の春に発売されるエキスパンションだ)。彼はそこでも素晴らしい仕事をしてくれた。君たちも遠からず彼の仕事の成果を目にするはずだ。このセットはデザインに対する挑戦とでも言うべきセットだった。
彼がコールドスナップで担っている役割がそれ以下ということはない。それどころか、さっき君たちに見せたあの謎のシンボルこそデヴィンの脳髄から生まれたものなのだ。
今後も彼の名前は私のコラムに多く登場するだろうね。期待してくれ。
■ マーク・ローズウォーター
おや、なんと私もデザインチーム入りしてたとはね。これは驚きだ。
ただしコールドスナップではただの平のチームメンバーだ。チームのリーダーはビルが担当していた。私はその近くで彼の思い描くビジョンを具体化してもらうべく一言か二言(もしくは三言か四言かもう少し)のアイデアを出してたくらいだ。
おっと、私の紹介を終える前に、1つだけどうしても触れておきたい点がある。このコールドスナップのために集まったメンバーのマジックのデザインにかけた経験値のことだ。なんと全員がマジックのデザインに携わってきた年月を足し合わせると四半世紀にもなる。
おそらくかつて結成されたどのデザインチームもこの記録を抜くことはできないのではないかと思うね(唯一、上回る可能性があるとすればラヴニカのチームか。当時のメンバーは私、マイク・エリオット、アーロン・フォーサイス、タイラー・ビールマン、そしてリチャード・ガーフィールドだ。ただこれは数年前のことなので、今ではその数年分の経験がさらに各メンバーに足されていることになることに注意だ)
雪かき終了
というわけでチームの紹介は以上だ。デザインチームというものはどれもスター集団だが、今回のはその中でもまさに恒星群だ。
さて、無事チームを結成できたわけだが、次は?
うん、デザインそれ自体について語る前に、ちょっと一呼吸おかせてくれ。ここで、そもそもどういう経緯でコールドスナップが生まれたのかを手短に説明しておきたい。
ここ3年というもの、私たちは1年間に4つ目の単発セットをリリースしていた(第8版、アンヒンジド、そして第9版)。それを念頭においた上で、私たちは2006年のカレンダーを眺めていた。そして自らに問いかけてみた。
はてさて、今年も4つ目のセットを出すのか、出さないのか? それを決めるため、ランディは4つ目のセットに関して何かいいアイデアがないか皆から募ったんだ。
私かい? 私が最初に出したアイデアは、アングルードとアンヒンジドに続く3つ目の銀枠セットだった。なぜか銀枠かって? いや、何か新しいセットのアイデアがないかと聞かれたときは、まず「銀枠にしよう」と提案することにしているんだ。本能的なものだね。
しかし銀枠セットを出す間隔として2年では短すぎるということになった。
他にアイデアはなかったのか、といえばもちろんあった。
私はズボンのポケットに紙の切れ端を常備している。マジックに関するいいアイデアが浮かんだとき、それがカードに関するものだろうがメカニズムに関するものだろうが(そしてもちろん)セットに関するものだろうが、とにかく思いついた瞬間にそれを書き留められるようにだ。
何年ものあいだに、私はいくつもの「単発のセット」用のアイデアを思いついていた。私はブロック単位のデザインが大好きだが、3つのセットで構成されるブロックという単位では表現できないものもある。
単発の小さなセットでこそ表現できるものもあるはずだとね。
例えば「失われたセット」だ。
最近、TVシリーズ「ロザンヌ」について語ってなかったから知らない人もいるかもしれないし、私の前職についてあらためて紹介するのにいいタイミングと思われるので書いておくと、実は私はハリウッドで脚本を書いていたんだ。
その影響でハリウッドで流行ったネタが大好きなんだ。10年くらい前だったかな。有名なTVドラマシリーズの「幻の未放映回」が発掘されるのが流行った。
デザインについて考えていたとき、このことを思い出して、「未発売に終わった幻のセットというネタはどうだろう」と閃いたんだ。そして、このアイデアをもう少し深掘りしてみるべく、どんなセットが一番発掘されるのにふさわしいだろう、と考えてみた。
ものの数分で結論に辿り着いた。
全てのブロックは3つのセットで構成されている。ただ1つの例外を除いてね。
アイスエイジだ。
……え? ホームランドがアイスエイジの3つ目のセットだろう、って? それはそうだが、あれは単に後付けでそうなったに過ぎないし、明らかに場違いだ。
時系列的には確かにアイスエイジとアライアンスの2つに挟まれてはいるが、それだけの話だ。ホームランドとこれら2つのセットとのあいだに関連性は全く見られない。メカニズム的にも、背景世界的にも、そもそも基本的なデザインの段階からして関連性はない。
そんなわけで、もし失われたセットが「発掘される」とすれば、アイスエイジよりふさわしいブロックはない、と断言できる。
さて、私が当時ランディのオフィスを訪ねたときに時計の針を戻そう。
単発のエキスパンションセットというアイデアがいくつかあるんだ、とランディに伝えた。そして、その中で面白そうなのはアイスエイジの失われたセットというネタなんだ、と続けた。
ランディは興味をそそられた様子で「もう少し詳しく話してくれ」と言った。そこで私は古いブロックをネタにしてそこからインスピレーションを得るというアイデアを説明した。過去のセットを最新のデザイン技術で再デザインし直す、というアイデアだ。
ランディはこのアイデアを気に入った様子だった。
こうして雪玉は転がり始めたというわけさ。私は気が付いたらそのアイデアをまとめあがるためのチームを結成する担当者にアサインされていた。
読み進めてもらえば分かるが、これは最初に思っていたよりもずっと難事業だった。
雪の知らせは良き知らせ
さてそろそろ実際のデザインの話に入ろうか。
最初の会議は社外で行われた。場所は私の家だ(デザインチームはオフィス以外で会議をするのが好きだったし、そういったときには場所が私の家になることが多かった)。
そのときうちのリビングで開催された会議に参加していたのはビル、アーロン、デヴィン、そして私だった。確か、そのときの会話はこんな感じだった。
ビル:
よし。いいか、私たちはアイスエイジとアライアンスを元にメカニズムを構築する必要がある。この2つのセットで使われていたメカニズムがなんだったのかを再確認するところから始めるのが分かりやすそうだな。何があった?
私:
キャントリップ。
デヴィン:
今となっちゃ、キャントリップなんてどんなセットにも入ってるよ。キャントリップで独自性を出すのはかなり難しいんじゃないかな。
私:
当時そのままのスローキャントリップ(註)でいいじゃないか。
アーロン:
それはそれは、さぞかし売れ行きに貢献してくれるだろうね。カードを手に入れるまで丸々1ターン待たないといけなかった時代の再来だ。
ビル:
他には?
私:
累加アップキープ(註)
アーロン:
累加アップキープの可能性ならウェザーライトでやり尽くした気がするけど。
ビル:
他には?
私:
追加コスト的なテーマもあったような。
ビル:
他には?
私:
友好色テーマは?
デヴィン:
ついこないだまでどこにいたと思う? ラヴニカだよ。友好色に関しちゃアイスエイジの頃よりずっと上手くやれたと思うよ。
私:ピッチカード(註)は?
アーロン:
メルカディアン・マスクスと神河謀反でピッチ呪文やったよね。
ビル:
他には?
私:
雪かぶり土地。
デヴィン:
あれ、全然ダメじゃなかったっけ。
私:
そこがポイントさ。今度こそ上手くやれる。
ビル:
で、他には?
私:
他? 他はないよ。雪かぶり土地だ、上手くいくさ。アイスエイジの頃と違ったアプローチで行く必要はあるだろうけど、きっとその先に何か可能性が眠ってるはずさ。他に選択肢はあるかい? アイスエイジのために、何かはしなくちゃいけないんだ。
と、こうして雪かぶり土地の可能性を模索する旅が始まったわけさ。
これ以外に君たちの興味を引きそうなネタとしては、アイスエイジとアライアンスで登場した固有名詞を再登場させたことなどだろうか(さすがに全部というわけにはいかなかったが)。
しかし残念ながら今日のコラムは「雪」に関することなので、そこから外れるネタは無しにしよう。メカニズムに関してもまたあらためて別の機会に語らせてくれ(このコラムではこれまでも毎週デザインについて書いてきたんだ。ルールは守ろう)
おっと、デザインの話に戻る前に、今日のコラムを読みやすいものにするために1つだけルールを決めさせてくれ。コールドスナップのデザインを始めた初期の段階で、私たちはある問題に気づいたんだ。
「雪かぶり(Snow-Covered)」という名称だ。
第一に、この名称のせいで「雪かぶり(Snow-Covered)」に関連する何か(例えばイラストなど)だけは実際に雪に覆われている必要があった。冬の時代を舞台にしたセットにおいてこの制約はかなり厳しいものだ。
つまりイラストレーターに指示を出すときに「雪かぶり(Snow-Covered)」という性質(Quality)を持つカードについては「あー、このカードのイラストには雪を降らせないでくれ」といちいち言及しないといけない、ってことだ。
第二に、「雪かぶり(Snow-Covered)」と名称はカッコ悪いし、そもそも物理的に長い。長いことによる弊害はたとえばタイプ行だ。タイプ行の長さは限られており、他の加えたいタイプ名が加えられなくなる可能性がある(忘れないで欲しいのは「雪かぶり(Snow-Covered)」の土地は必ず基本土地タイプも書き記す必要がある、ということだ)
これらの問題もあり、私たちは「雪かぶり(Snow-Covered)」という名称を「氷雪(Snow)」に置き換えることにした。雪や冷気に関連したカードというフレイバーを表す特殊タイプだ。そんなわけで、このコラムでは今後「雪かぶり(Snow-Covered)」を単に「氷雪(Snow)」と呼ばせてもらう。
それでは本題に戻ろう。
私たちはまず過去の氷雪に言及しているカードを全て洗い出した。
予想どおり、大半はゴミだった……っと、さすがにちょっと言い過ぎかもしれないな。大半は「構築で」ゴミだった。何枚かはリミテッドでなら使いものになったからね。
その確認が終わったあと、ビルが私たちに、この氷雪というメカニズムが持ちうる可能性について考えるよう指示した。
アーロンは、氷雪っぽさを表す余地がまだあるのではないか、と考えた。私は、なぜ氷雪というタイプが土地に縛られる必要があるのか、と考えた。デヴィンは、何かこれまでとは異なる形で氷雪土地を生かす方法はないか、と考えた。何しろ氷雪土地はマナを生み出せるんだ。そうだろう?
アーロンの疑問について皆で考えたことで気づけたのは、アイスエイジの氷雪に関連するカードは多様性に欠けているということだった。氷雪関連のカードを生かそうと思えば、デッキの土地を全て氷雪土地にする以外の選択肢がなかった。1か0かの両極端だったんだ。
毎回同じ使い道しかないようなカードではなく、プレイヤーごとに違う使い道をしたくなるような氷雪カードは作れないだろうか。
パックから出てくる氷雪土地の枚数を限られたものにすることでドラフト時に回すかどうか迷うようなカードにできないだろうか(余談。このセットはドラフトを意識した非常に興味深いデザインが施されている。それについては今日ではなくまたいつか触れることにするよ)。
そしてここで私の提示した疑問だ。
氷雪という特殊タイプを土地に限定する理由があるのか?
氷雪クリーチャーがいたっておかしくないし、氷雪系の呪文というフレイバーを考えれば、エンチャントだって簡単に氷雪になり得る。ここまで考えたなら、当然アーティファクトを仲間外れにする理由はない。
氷雪という特殊タイプを他のパーマネントに押し広げるさらなるメリットとして、氷雪を用いるデザインの可能性も同時に押し広げられるということがある。
そう、デヴィンの挙げた可能性だ。氷雪土地が単にそれが氷雪土地であるという以外にそのタイプを生かす方法はないだろうか?
デヴィンは、氷雪土地の生み出すマナはどんなマナなのか、ということについて考えていた。もし特殊タイプの性質(Quality)がパーマネントから生み出されるマナに影響を与えるとしたら?
氷雪土地が……そう、たとえば氷雪マナを生み出したら?
このアイデアは革命的だと私は思った。そう感じた理由は以下の通りだ。
氷雪マナは、マナの色を変えるわけじゃない。氷雪土地の《山/Mountain》をタップして生み出したマナは氷雪マナだが、それは同時に赤マナでもある。氷雪という性質(Quality)は色に影響しない。別のレイヤーなのだ。
このコンセプトを初めて聞いたときは頭が爆発するかと思ったよ。何しろ私たちは何年ものあいだ、6色目のマナの可能性について議論していた。だがデヴィンのアイデアはその遥か斜め上をいくものだったんだ。新たな色を作るのではなく、どんな色とも競合せず同時に存在しうる新たな性質(Quality)だ。
確かに、似たようなアイデアであれば過去に試したことはあった。
私たちは、特定の用途にしか使えないマナを生み出すカードを作ったことがある(有名どころでは《Mishra’s Workshop》だ)。
私たちは、そこから生み出されたマナを用いて唱えた呪文に特別な効果を付与するカードを作ったことがある(この例としては《すべてを護るもの、母聖樹/Boseiju, Who Shelters All》が挙げられる)。
それに留まらず、私たちは特殊な性質を持つマナを生み出すカードを作ったこともある(例えば《夏の母、さき子/Sakiko, Mother of Summer》だ)
だがマナに新たな性質(Quality)を与えるというアイデアはこれまでとは全く違う新鮮なもので、私はそこに非常に深く豊かな未開のデザインの余地を見たのだ。
パーマネントに新たな性質(Quality)を付与する特殊タイプを見るのはこれが最初で最後ではないだろう。むしろこれが始まりだ(註)
さらに、氷雪マナのもたらした恩恵の1つが、アーロンの問題も解決してくれた。氷雪マナを起動コストに要するカードを作ったしよう。それは君のデッキに氷雪の土地を必要とする。しかし決して全ての土地が氷雪でなければいけないわけではないのだ。
ここまで説明したことでようやく今日のプレビューカードを紹介できる。見ていただければ分かると思うが、次に紹介するカードは氷雪土地がないからといって全くの無駄カードにはならない。ただ氷雪マナを用意できれば遥かに有用なカードとなる。
紳士淑女(と言いつつ市場調査を信じるならほとんどは紳士の方々だろうが私は淑女である読者の皆様から頂く感想も楽しみにしているしそれを頂くことで淑女の読者がいらっしゃるということを知ることそれ自体も楽しみにしている)の皆さん、今日のプレビューカードをご覧あれ(なお私のコラムだけでなくレイの記事でも別のプレビューカードが紹介されてるのでそっちもぜひチェックして欲しい)
イエティだ! どうやら道に迷わず氷河期に戻ってこれたようだね! 忘れないで欲しいのは、この氷雪マナの支払いは氷雪土地に限らず氷雪パーマネントから生み出されたマナであれば何でもいいってことだ(おっと、その通り。遠まわしなヒントに終わらせるつもりはないよ。土地以外にもマナを生み出せる氷雪パーマネントも今後登場するということさ)。
さて今日はこれで全部だ。
コールドスナップのデザインについてはまだまだ語りたいことはある。だがそれはまたいつか別の機会に語らせてもらおう。ちなみにいつかというのは来週を含むよ。
それまでのあいだ、ぜひ雪と戯れていてくれ。
Mark Rosewater
2006年06月26日
元記事:https://magic.wizards.com/en/articles/archive/making-magic/there%E2%80%99s-no-business-snow-business-2006-06-26
コールドスナップのプレビュー週間の第1週目にようこそ! 今週はアイスエイジブロックの「失われたセット」をみんなで探索しようじゃないか。
しかも今日は新セットから皆の興味を引けそうなカードを1枚紹介しようと思っている。ただ、すぐにご紹介するわけにはいかない。ちょっとした準備がいるから、このコラムの最後に紹介させてもらうよ。
……おや? 読者が減ってしまった気配を感じるぞ。多分、記事の終わりまでスクロールしに行った人たちの分だな。
きっと戻ってこないだろうな。プレビューカード目当てで私の記事にきた人たちだろう(そうそう、それはそれとして今週はプレビュー週間だからこれからもどんどん記事が上がって来るぞ)
いや、それほど残念じゃないよ。何しろカードだけ先に見に行った人たちはそれはそれは混乱してることだろうからね……なんでそう思うのかって? 実はプレビューカードには君たちが見たこともないちょいとした新しいマナシンボルがお目見えしてるからさ。
こんな感じのマナシンボルだ(註)。
(註) こんな感じ
原文ではここに氷雪マナのマナシンボルがデカデカと紹介されている。
これがなんなのか気になるかい? 大丈夫、すぐに説明するよ。いやはや、君たちに記事をちゃんと読んでもらうためには色々と工夫が必要なのさ。
ただこれだけは言っておくよ。
このちょいとしたシンボルはデザインの革命そのものだとね。そう、革命さ。うん。それについてもちゃんと説明するよ。すぐにね。
だけどその前にまずは慣例通りコールドスナップのデザインチームメンバーを紹介させてくれ。何しろ私は慣例とか伝統とか大好きなんだ。
■ ビル・ローズ(リード・デザイナー)
ビルと私はウィザーズで働き始めた月が同じだ(トリビア好きの君のために記しておくと、1995年の10月のことだ。この月には元R&Dメンバーのウィリアム・ジョクシュ(註)も入社している)。
(註) William Jockusch
公式サイトでは「ウィリアム・ジョクシュ」と「ウィリアム・ジョクス」の2つの読みが見られる。また非公式訳の中には「ウィリアム・ヨークシュ」の読みも見られる。
今やビルはR&D全体の副責任者となり、同期だった私は一介のデザインリーダーというわけだ。つまりビルは私の上司の上司だ。
どうしてそうなったのか、というと、ビルの選択した道が「おもに管理業務、たまにデザイン」であり、その一方で私の選択した道は「おもにデザイン、たまに管理業務」だったからだ。
実質的に私の勝ちだ。少なくとも私はそう思っている。
まあそれは冗談として、正直なところビルは本当にすごい奴だ。ビル以外にR&D全体の副責任者を務められる人材がいるとは思えない(私? いや私はあまりに「赤」な部分が多すぎてとてもリアルな外交手腕を必要とされる仕事には向いていない。会議でつい大声で怒鳴ってしまったりする私ではね)
彼がその仕事を務め上げてくれているおかげで私はほとんど時間をマジックという世界最高のゲームの制作にかかりっきりになれるわけだ。さらに幸運なことにビルは今でもたまにマジックのデザインに時間を割いてくれている。
そしてコールドスナップだ。
ビルはデザインの責任者だ(リードデザイナーと呼ばれる立場だ。ちなみに私が毎日何をしているかというとヘッドデザイナーとして働いている。これはリードデザイナーと対になる立場と考えてくれればいい)。
ビルは今までにいくつものデザインチームを率いてきている。
ミラージュ、ビジョンズ、ポータル、インベイジョン、トーメントは全てビルの手がけたセットだ。加えて、ウルザズ・ブロックと神河ブロックではヘッドデザイナーも務めた。(さらに言えば来年の初めに発売されるセット、次元の混乱のリードデザイナーでもある)
コールドスナップに関する最初の告知ではリードデザイナーの欄には私の名前があったが、あれは単なる間違いだ。コールドスナップではチームの一員として私が働き、ビルがチームを率いた。
ビルと一緒にデザインチームを組むのはいつだって楽しいし、それにこの前にデザインチームを組んだのは何しろトーメントの頃だからね(ちなみにその前となるとインベイジョンだ)。彼がまたマジックのデザインの仕事に足を突っ込んでくれて嬉しいよ。
君たちもきっと喜んでくれるだろう。
■ アーロン・フォーサイス
今までにも、一緒に働いてみたいと思わせてくれる様々なタイプのデザイナーがいた。もちろん相手はそのときどきで違ったけどね。
ここ数年、そう感じさせてくれたデザイナーがこのアーロンだった。
私たちが共にチームを組んだのは、フィフスドーン、ラヴニカ、ディセンション、時のらせん、ピーナッツ (仮)、そしてコールドスナップだ(なお、ピーナッツというのは2007年の秋に発売される予定のエキスパンション(註)のコードネームだ)。さらに今後はバター(ピーナッツの続き)とロック(2008年の秋に発売が予定されているセット)で一緒に働く予定だ。
(註) ピーナッツ
おそらく2007年10月に発売されたローウィンのこと。続くモーニングタイドのデザインチームにも両者の名が見えるので、ローウィンブロック全体を指しているのかもしれない。
(註) バターとロック
ローウィンの続きというバターが、同じブロックのモーニングタイドを指しているのか、同じ世界観を共有している別ブロックのシャドウムーアを指しているのかは不明。シャドウムーアでは両者はデザインとデベロップメントに所属チームが分かれているのでモーニングタイドかもしれない。なおロックは2008年10月発売のアラーラの断片のことと思われる。
さらにアーロンが新たにデベロッパーのトップとなったことを合わせて考えれば、私たちがどれだけ膨大な時間を共に働いてきたか分かってもらえると思う(アーロンがデベロップメントのトップになったことを知らない君は先週の記事(註)を読み落としてるね)
(註) 先週の記事
原文では以下にリンクが張られている。後半部分が人事に関する内容。
https://magic.wizards.com/en/articles/archive/making-magic/law-and-order-2006-06-19
ちなみに上記のコラムの前半部分については邦訳がある。
http://logicwolf.sakura.ne.jp/magic/lawandorder.html
私がアーロンと一緒に仕事をするのが好きな理由は、彼が本当に、本当にマジでデキる奴だからだ。
彼の最初のデザインチームとしての仕事はフィフスドーンからだったが、そのときはあくまでデザインという仕事に本当に向いているのかどうかを確かめるための仮採用的な形での参加だった。しかしそれによってアーロンはR&Dに来て欲しいという逆オファーを得て入社することが出来たのだ(言ってみれば当時のアーロンは今でいうスコット・ジョンス(註)と同じような立場だった。当時の公式サイトは今と比べると小規模ではあったが)
(註) スコット・ジョンス
ウェブのコラムニストからマジックの公式サイトのライターになったマジックプレイヤー。プロツアーベスト8が5回(うち優勝1回)、グランプリベスト8が2回の猛者。
その3年後、彼はデベロップメントのトップとなった(ご参考までに付け加えておくと、私はデベロップメントのトップになるまで8年かかった)。
アーロンは「理解する」という点において尋常ではないほど高い能力を持っている。彼に新たな環境をプレイテストをしてもらえば、ほんのわずかな時間でそれを正しい寸法に仕立て直してくれる(私はこれを知っているからこそ、彼が新たなデベロップメントのトップになると聞いても何一つ心配せずにいられるわけだ)。
彼をコールドスナップの開発に迎えられることは間違いなく僥倖だ。
■ デヴィン・ロー
よくある言い回しを借りれば、彼は「今まさに上昇気流に乗ってるデザイナー」といったところだが、ただ1つこの呼び方に問題があるとすれば、彼がもうすでにほぼ上昇しきってるということだ。
デザインのトップには様々な役割があるが、そのうちの2つは、次世代の才能あるデザイナーを育てるということ、同時にそういったデザイナーたちに能力向上のための機会と道具を与えることだ。
デヴィンはスポンジのように全てを吸収していった。
ちなみに今の私たちはちょうど未来予知の開発を終えたところだ(来年の春に発売されるエキスパンションだ)。彼はそこでも素晴らしい仕事をしてくれた。君たちも遠からず彼の仕事の成果を目にするはずだ。このセットはデザインに対する挑戦とでも言うべきセットだった。
彼がコールドスナップで担っている役割がそれ以下ということはない。それどころか、さっき君たちに見せたあの謎のシンボルこそデヴィンの脳髄から生まれたものなのだ。
今後も彼の名前は私のコラムに多く登場するだろうね。期待してくれ。
■ マーク・ローズウォーター
おや、なんと私もデザインチーム入りしてたとはね。これは驚きだ。
ただしコールドスナップではただの平のチームメンバーだ。チームのリーダーはビルが担当していた。私はその近くで彼の思い描くビジョンを具体化してもらうべく一言か二言(もしくは三言か四言かもう少し)のアイデアを出してたくらいだ。
おっと、私の紹介を終える前に、1つだけどうしても触れておきたい点がある。このコールドスナップのために集まったメンバーのマジックのデザインにかけた経験値のことだ。なんと全員がマジックのデザインに携わってきた年月を足し合わせると四半世紀にもなる。
おそらくかつて結成されたどのデザインチームもこの記録を抜くことはできないのではないかと思うね(唯一、上回る可能性があるとすればラヴニカのチームか。当時のメンバーは私、マイク・エリオット、アーロン・フォーサイス、タイラー・ビールマン、そしてリチャード・ガーフィールドだ。ただこれは数年前のことなので、今ではその数年分の経験がさらに各メンバーに足されていることになることに注意だ)
雪かき終了
というわけでチームの紹介は以上だ。デザインチームというものはどれもスター集団だが、今回のはその中でもまさに恒星群だ。
さて、無事チームを結成できたわけだが、次は?
うん、デザインそれ自体について語る前に、ちょっと一呼吸おかせてくれ。ここで、そもそもどういう経緯でコールドスナップが生まれたのかを手短に説明しておきたい。
ここ3年というもの、私たちは1年間に4つ目の単発セットをリリースしていた(第8版、アンヒンジド、そして第9版)。それを念頭においた上で、私たちは2006年のカレンダーを眺めていた。そして自らに問いかけてみた。
はてさて、今年も4つ目のセットを出すのか、出さないのか? それを決めるため、ランディは4つ目のセットに関して何かいいアイデアがないか皆から募ったんだ。
私かい? 私が最初に出したアイデアは、アングルードとアンヒンジドに続く3つ目の銀枠セットだった。なぜか銀枠かって? いや、何か新しいセットのアイデアがないかと聞かれたときは、まず「銀枠にしよう」と提案することにしているんだ。本能的なものだね。
しかし銀枠セットを出す間隔として2年では短すぎるということになった。
他にアイデアはなかったのか、といえばもちろんあった。
私はズボンのポケットに紙の切れ端を常備している。マジックに関するいいアイデアが浮かんだとき、それがカードに関するものだろうがメカニズムに関するものだろうが(そしてもちろん)セットに関するものだろうが、とにかく思いついた瞬間にそれを書き留められるようにだ。
何年ものあいだに、私はいくつもの「単発のセット」用のアイデアを思いついていた。私はブロック単位のデザインが大好きだが、3つのセットで構成されるブロックという単位では表現できないものもある。
単発の小さなセットでこそ表現できるものもあるはずだとね。
例えば「失われたセット」だ。
最近、TVシリーズ「ロザンヌ」について語ってなかったから知らない人もいるかもしれないし、私の前職についてあらためて紹介するのにいいタイミングと思われるので書いておくと、実は私はハリウッドで脚本を書いていたんだ。
その影響でハリウッドで流行ったネタが大好きなんだ。10年くらい前だったかな。有名なTVドラマシリーズの「幻の未放映回」が発掘されるのが流行った。
デザインについて考えていたとき、このことを思い出して、「未発売に終わった幻のセットというネタはどうだろう」と閃いたんだ。そして、このアイデアをもう少し深掘りしてみるべく、どんなセットが一番発掘されるのにふさわしいだろう、と考えてみた。
ものの数分で結論に辿り着いた。
全てのブロックは3つのセットで構成されている。ただ1つの例外を除いてね。
アイスエイジだ。
……え? ホームランドがアイスエイジの3つ目のセットだろう、って? それはそうだが、あれは単に後付けでそうなったに過ぎないし、明らかに場違いだ。
時系列的には確かにアイスエイジとアライアンスの2つに挟まれてはいるが、それだけの話だ。ホームランドとこれら2つのセットとのあいだに関連性は全く見られない。メカニズム的にも、背景世界的にも、そもそも基本的なデザインの段階からして関連性はない。
そんなわけで、もし失われたセットが「発掘される」とすれば、アイスエイジよりふさわしいブロックはない、と断言できる。
さて、私が当時ランディのオフィスを訪ねたときに時計の針を戻そう。
単発のエキスパンションセットというアイデアがいくつかあるんだ、とランディに伝えた。そして、その中で面白そうなのはアイスエイジの失われたセットというネタなんだ、と続けた。
ランディは興味をそそられた様子で「もう少し詳しく話してくれ」と言った。そこで私は古いブロックをネタにしてそこからインスピレーションを得るというアイデアを説明した。過去のセットを最新のデザイン技術で再デザインし直す、というアイデアだ。
ランディはこのアイデアを気に入った様子だった。
こうして雪玉は転がり始めたというわけさ。私は気が付いたらそのアイデアをまとめあがるためのチームを結成する担当者にアサインされていた。
読み進めてもらえば分かるが、これは最初に思っていたよりもずっと難事業だった。
雪の知らせは良き知らせ
さてそろそろ実際のデザインの話に入ろうか。
最初の会議は社外で行われた。場所は私の家だ(デザインチームはオフィス以外で会議をするのが好きだったし、そういったときには場所が私の家になることが多かった)。
そのときうちのリビングで開催された会議に参加していたのはビル、アーロン、デヴィン、そして私だった。確か、そのときの会話はこんな感じだった。
ビル:
よし。いいか、私たちはアイスエイジとアライアンスを元にメカニズムを構築する必要がある。この2つのセットで使われていたメカニズムがなんだったのかを再確認するところから始めるのが分かりやすそうだな。何があった?
私:
キャントリップ。
デヴィン:
今となっちゃ、キャントリップなんてどんなセットにも入ってるよ。キャントリップで独自性を出すのはかなり難しいんじゃないかな。
私:
当時そのままのスローキャントリップ(註)でいいじゃないか。
(註) スローキャントリップ
キャントリップとは、主な効果の他に「カードを1枚引く」と付け加えられているカード、もしくはその引く効果自体を指す俗語。アイスエイジの頃は「次のターンのアップキープの開始時に、カードを1枚引く」で、のちにすぐカードを引ける効果が主流となってからは、アイスエイジ時代の遅れて引ける効果は「スローキャントリップ」と呼ばれるようになった。
アーロン:
それはそれは、さぞかし売れ行きに貢献してくれるだろうね。カードを手に入れるまで丸々1ターン待たないといけなかった時代の再来だ。
ビル:
他には?
私:
累加アップキープ(註)
アーロン:
累加アップキープの可能性ならウェザーライトでやり尽くした気がするけど。
(註) 累加アップキープ
原語は Cumulative Upkeep で、毎ターン維持のために支払わないといけないコストが増えていく(維持するのが毎ターン大変になっていく)アップキープコスト。
初出はアイスエイジで、これが最初からついてるカードはあまりに維持が大変過ぎてほぼ使われなかった。覚えてる限りまともに使われたのはアライアンスの《Dystopia》くらいか。
アイスエイジブロックは日本語版が存在せず、しばらくあいだ Cumulative Upkeep は雑誌やプレイヤーのあいだで仮訳として「累積アップキープ」と呼ばれていた。
ビル:
他には?
私:
追加コスト的なテーマもあったような。
ビル:
他には?
私:
友好色テーマは?
デヴィン:
ついこないだまでどこにいたと思う? ラヴニカだよ。友好色に関しちゃアイスエイジの頃よりずっと上手くやれたと思うよ。
私:ピッチカード(註)は?
(註) ピッチカード
マナコストを支払うかわりに特定色の手札を捨てることで唱えることのできる呪文の俗称。マナコストなしで唱える手段がある呪文の総称としても使われることがある。
アーロン:
メルカディアン・マスクスと神河謀反でピッチ呪文やったよね。
ビル:
他には?
私:
雪かぶり土地。
デヴィン:
あれ、全然ダメじゃなかったっけ。
私:
そこがポイントさ。今度こそ上手くやれる。
ビル:
で、他には?
私:
他? 他はないよ。雪かぶり土地だ、上手くいくさ。アイスエイジの頃と違ったアプローチで行く必要はあるだろうけど、きっとその先に何か可能性が眠ってるはずさ。他に選択肢はあるかい? アイスエイジのために、何かはしなくちゃいけないんだ。
と、こうして雪かぶり土地の可能性を模索する旅が始まったわけさ。
これ以外に君たちの興味を引きそうなネタとしては、アイスエイジとアライアンスで登場した固有名詞を再登場させたことなどだろうか(さすがに全部というわけにはいかなかったが)。
しかし残念ながら今日のコラムは「雪」に関することなので、そこから外れるネタは無しにしよう。メカニズムに関してもまたあらためて別の機会に語らせてくれ(このコラムではこれまでも毎週デザインについて書いてきたんだ。ルールは守ろう)
おっと、デザインの話に戻る前に、今日のコラムを読みやすいものにするために1つだけルールを決めさせてくれ。コールドスナップのデザインを始めた初期の段階で、私たちはある問題に気づいたんだ。
「雪かぶり(Snow-Covered)」という名称だ。
第一に、この名称のせいで「雪かぶり(Snow-Covered)」に関連する何か(例えばイラストなど)だけは実際に雪に覆われている必要があった。冬の時代を舞台にしたセットにおいてこの制約はかなり厳しいものだ。
つまりイラストレーターに指示を出すときに「雪かぶり(Snow-Covered)」という性質(Quality)を持つカードについては「あー、このカードのイラストには雪を降らせないでくれ」といちいち言及しないといけない、ってことだ。
第二に、「雪かぶり(Snow-Covered)」と名称はカッコ悪いし、そもそも物理的に長い。長いことによる弊害はたとえばタイプ行だ。タイプ行の長さは限られており、他の加えたいタイプ名が加えられなくなる可能性がある(忘れないで欲しいのは「雪かぶり(Snow-Covered)」の土地は必ず基本土地タイプも書き記す必要がある、ということだ)
これらの問題もあり、私たちは「雪かぶり(Snow-Covered)」という名称を「氷雪(Snow)」に置き換えることにした。雪や冷気に関連したカードというフレイバーを表す特殊タイプだ。そんなわけで、このコラムでは今後「雪かぶり(Snow-Covered)」を単に「氷雪(Snow)」と呼ばせてもらう。
それでは本題に戻ろう。
私たちはまず過去の氷雪に言及しているカードを全て洗い出した。
予想どおり、大半はゴミだった……っと、さすがにちょっと言い過ぎかもしれないな。大半は「構築で」ゴミだった。何枚かはリミテッドでなら使いものになったからね。
その確認が終わったあと、ビルが私たちに、この氷雪というメカニズムが持ちうる可能性について考えるよう指示した。
アーロンは、氷雪っぽさを表す余地がまだあるのではないか、と考えた。私は、なぜ氷雪というタイプが土地に縛られる必要があるのか、と考えた。デヴィンは、何かこれまでとは異なる形で氷雪土地を生かす方法はないか、と考えた。何しろ氷雪土地はマナを生み出せるんだ。そうだろう?
アーロンの疑問について皆で考えたことで気づけたのは、アイスエイジの氷雪に関連するカードは多様性に欠けているということだった。氷雪関連のカードを生かそうと思えば、デッキの土地を全て氷雪土地にする以外の選択肢がなかった。1か0かの両極端だったんだ。
毎回同じ使い道しかないようなカードではなく、プレイヤーごとに違う使い道をしたくなるような氷雪カードは作れないだろうか。
パックから出てくる氷雪土地の枚数を限られたものにすることでドラフト時に回すかどうか迷うようなカードにできないだろうか(余談。このセットはドラフトを意識した非常に興味深いデザインが施されている。それについては今日ではなくまたいつか触れることにするよ)。
そしてここで私の提示した疑問だ。
氷雪という特殊タイプを土地に限定する理由があるのか?
氷雪クリーチャーがいたっておかしくないし、氷雪系の呪文というフレイバーを考えれば、エンチャントだって簡単に氷雪になり得る。ここまで考えたなら、当然アーティファクトを仲間外れにする理由はない。
氷雪という特殊タイプを他のパーマネントに押し広げるさらなるメリットとして、氷雪を用いるデザインの可能性も同時に押し広げられるということがある。
そう、デヴィンの挙げた可能性だ。氷雪土地が単にそれが氷雪土地であるという以外にそのタイプを生かす方法はないだろうか?
デヴィンは、氷雪土地の生み出すマナはどんなマナなのか、ということについて考えていた。もし特殊タイプの性質(Quality)がパーマネントから生み出されるマナに影響を与えるとしたら?
氷雪土地が……そう、たとえば氷雪マナを生み出したら?
このアイデアは革命的だと私は思った。そう感じた理由は以下の通りだ。
氷雪マナは、マナの色を変えるわけじゃない。氷雪土地の《山/Mountain》をタップして生み出したマナは氷雪マナだが、それは同時に赤マナでもある。氷雪という性質(Quality)は色に影響しない。別のレイヤーなのだ。
このコンセプトを初めて聞いたときは頭が爆発するかと思ったよ。何しろ私たちは何年ものあいだ、6色目のマナの可能性について議論していた。だがデヴィンのアイデアはその遥か斜め上をいくものだったんだ。新たな色を作るのではなく、どんな色とも競合せず同時に存在しうる新たな性質(Quality)だ。
確かに、似たようなアイデアであれば過去に試したことはあった。
私たちは、特定の用途にしか使えないマナを生み出すカードを作ったことがある(有名どころでは《Mishra’s Workshop》だ)。
私たちは、そこから生み出されたマナを用いて唱えた呪文に特別な効果を付与するカードを作ったことがある(この例としては《すべてを護るもの、母聖樹/Boseiju, Who Shelters All》が挙げられる)。
それに留まらず、私たちは特殊な性質を持つマナを生み出すカードを作ったこともある(例えば《夏の母、さき子/Sakiko, Mother of Summer》だ)
(註) 過去に試した似たようなアイデア
《Mishra’s Workshop》から生み出されたマナはアーティファクト呪文にしか使えない。《すべてを護るもの、母聖樹/Boseiju, Who Shelters All》から生み出されたマナで唱えたインスタント呪文もしくはソーサリー呪文は呪文や能力によって打ち消されない。《夏の母、さき子/Sakiko, Mother of Summer》から生み出されたマナはステップやフェイズをまたいでも消滅しない。
だがマナに新たな性質(Quality)を与えるというアイデアはこれまでとは全く違う新鮮なもので、私はそこに非常に深く豊かな未開のデザインの余地を見たのだ。
パーマネントに新たな性質(Quality)を付与する特殊タイプを見るのはこれが最初で最後ではないだろう。むしろこれが始まりだ(註)
(註) これが最初で最後ではない
色にまったく影響しない別のレイヤーの性質を持ったマナとしてはその後「無色マナ」が登場している。
過去にはパーマネントなどから生み出された無色マナは有色マナの下位互換だったが、ゲートウォッチの誓い以降、無色マナでしか支払えない◇というコストが新たに登場した。
さらに、氷雪マナのもたらした恩恵の1つが、アーロンの問題も解決してくれた。氷雪マナを起動コストに要するカードを作ったしよう。それは君のデッキに氷雪の土地を必要とする。しかし決して全ての土地が氷雪でなければいけないわけではないのだ。
ここまで説明したことでようやく今日のプレビューカードを紹介できる。見ていただければ分かると思うが、次に紹介するカードは氷雪土地がないからといって全くの無駄カードにはならない。ただ氷雪マナを用意できれば遥かに有用なカードとなる。
紳士淑女(と言いつつ市場調査を信じるならほとんどは紳士の方々だろうが私は淑女である読者の皆様から頂く感想も楽しみにしているしそれを頂くことで淑女の読者がいらっしゃるということを知ることそれ自体も楽しみにしている)の皆さん、今日のプレビューカードをご覧あれ(なお私のコラムだけでなくレイの記事でも別のプレビューカードが紹介されてるのでそっちもぜひチェックして欲しい)
(余談)
原文ではここにコールドスナップの新カードである《忍び寄るイエティ/Stalking Yeti》のカード画像が表示されている。ちなみに以下のようなカード。Stalking Yeti / 忍び寄るイエティ (2)(赤)(赤)
氷雪クリーチャー - イエティ(Yeti)
忍び寄るイエティが戦場に出たとき、それが戦場に出ている場合、対戦相手1人がコントロールするクリーチャー1体を対象とし、忍び寄るイエティはそれにこれのパワーに等しい点数のダメージを与え、そのクリーチャーはそのパワーに等しい点数のダメージを忍び寄るイエティに与える。
(2)(氷):忍び寄るイエティをオーナーの手札に戻す。この能力は、あなたがソーサリーを唱えられるときにのみ起動できる。((氷)は氷雪パーマネントからのマナ1点で支払うことができる。)
3/3
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Stalking+Yeti/
イエティだ! どうやら道に迷わず氷河期に戻ってこれたようだね! 忘れないで欲しいのは、この氷雪マナの支払いは氷雪土地に限らず氷雪パーマネントから生み出されたマナであれば何でもいいってことだ(おっと、その通り。遠まわしなヒントに終わらせるつもりはないよ。土地以外にもマナを生み出せる氷雪パーマネントも今後登場するということさ)。
さて今日はこれで全部だ。
コールドスナップのデザインについてはまだまだ語りたいことはある。だがそれはまたいつか別の機会に語らせてもらおう。ちなみにいつかというのは来週を含むよ。
それまでのあいだ、ぜひ雪と戯れていてくれ。
コメント
>パーマネントに新たな特性を付与する特殊タイプを見るのは
ルール用語に「特性/Characteristics」があるので紛らわしい気がします。
CRに「[性質]からの呪禁/Hexproof from [quality]」がありますし
qualityは「性質」がいいのではないでしょうか。
あとcumulative upkeepは「累加アップキープ」です。
>qualityは「性質」がいいのではないでしょうか。
確かに正式なルール用語とかぶる訳は避けるべきですね。それでいきます。
>あとcumulative upkeepは「累加アップキープ」です。
あー、そういえば変わったんでしたっけ。どうにも「Cumulative Upkeep」というと反射的に「累積~」が出てしまいます。良くない。
その他の用語も基本的に最新のものに合わせている中で、ここだけ古いままは確かにおかしいので、前述の修正と合わせて直そうと思います。
(´・ω・`) どうにも「累加~」は舌になじまないんですよねぇ……
「butter」はモーニングタイドでいいみたいです。シャドウムーアは Jelly、イーヴンタイドは Doughnuts とのこと。
ht tps://magic.wizards.com/en/articles/archive/announcing-morningtide-2007-03-29
最初は「マジック、雪と変わりしマナがたり」という案もあったんですが、絶対に元ネタ(ホビット)が伝わらないな、と思って他の案を模索しました。変えて良かったです。
>Butter
確認ありがとうございます。モーニングタイドであってましたか。
( ´ω` ) 良かった