【翻訳】なぜ基本セットに1マナ1/1のバニラが入ってたりするのか/No Two See the Same Game【DailyMTG】
Mark Rosewater
2002年07月01日
元記事:https://magic.wizards.com/en/articles/archive/making-magic/no-two-see-same-game-2002-07-01
2週間前に私が書いたコラム、「I’ve Got Mail」(註)は、君たちからもらったメールについて書いた記事だった。これはなかなか好評だったので、ぜひまたやりたいと思っている。何しろあのコラムのあと、またさらに勢いを増した大量のメールを君たちから受け取ることになってしまったからね。
今週はそのメールの中の1つ、ジョン・ナドラーによって送られてきたメールについて、正しくはそのメールで提起されたいくつかの問題について紙面を割きたいと思う(そうそう、ジョン・ナドラーからのメールも先日のコラムに登場していたよ。実のところ、彼は非常に熱心なメール投稿者の1人だ)
まず初めにジョンから受け取ったメールを紹介させてくれ。
私に言わせていただけるのであれば、今回の「第8版を選ぼう」の投票は、興味を引くところのない非常につまらないものでした。
プレイヤーたちが選択肢からそれぞれ《双頭のドラゴン/Two-Headed Dragon》と《ネクラタル/Nekrataal》とを選ぶことは明白でした。簡単です。何しろ対抗馬に挙げられているカードのマナコストが高すぎるからです。
個人的には、《暗黒の雛/Dark Hatchling》が選ばれなかったことを嬉しく思っています。まったく、最近は高コストなクリーチャー(原文:over-costed creatures)があまりに多すぎます。
あくまで個人的な意見ですが、今後の投票結果でも私たちマジックプレイヤーの前から重すぎるクリーチャーが一掃される結果となるよう祈ってやみません。
さらにイラストの投票の対象に選ばれたカードから、R&Dの視野の狭さが分かります。そう、重すぎてとても使用に耐えないクリーチャーたちです。
ええ、何を言っているかはお分かりでしょう。《茨の精霊/Thorn Elemental》に《慈悲の天使/Angel of Mercy》が本気で選ばれると思っていたんですか?
これらのカードを使っているプレイヤーなんていやしませんし、今後も現れません(あり得るとしたらや《ドルイドの誓い/Oath of Druids》デッキや《適者生存/Survival of the Fittest》と《繰り返す悪夢/Recurring Nightmare》のコンボデッキくらいでしょう)
もっとも、《茨の精霊/Thorn Elemental》はまだ初心者が使っているのを見ることもあります。しかし《慈悲の天使/Angel of Mercy》? 初心者だって使いやしませんよ。
その理由は2つあります。
まず1つ目の理由としては、白が弱すぎる色だからです。さらにそれが改善される見込みもないからです(なぜならR&D自体が白を嫌いだからです。ライフゲインやダメージ軽減といった役に立たない能力を持ったカードばかり作っています。適切なマナコストのより役に立つ能力を持ったカードは作られません。例えばプロテクションやダメージ移し替えや先制攻撃や回避能力、その他にもたくさんの有用な白に割り当てられた能力があるにも関わらず)
2つ目として、5マナのクリーチャーを入れるならより良い選択肢が他にありすぎるからです(もちろん《セラの天使/Serra Angel》も候補です)実際のところ、《慈悲の天使/Angel of Mercy》みたいな使えない能力持ちの5マナクリーチャーを使うプレイヤー(初心者でもベテランでもいいですが)を見たことありますか? ないですよね?
どうしてもクリーチャーでライフを回復したいなら《ありがたい老修道士/Venerable Monk》か《ティーロの信者/Teroh’s Faithful》でも使いますよ。《慈悲の天使/Angel of Mercy》にいいところがあるとすれば、4マナかかるグリフィンよりサイズがデカいこと、かつ余計にかかるマナの分だけちゃんと能力が付いてることくらいです(ちなみに過去にメールでお伝えしたとおり、グリフィンのコストは3マナ以下に抑えるべきだと思います)
それはそれとして他にもお伝えしたいことがあります。
ポータルとスターターは売上的に大失敗でしたが、その理由はカードがあまりにも弱すぎて、初心者たちは普通のエキスパンションを購入したほうがいいとすぐに気づいたからです。「ビギナー用のセット」を買うのをやめて、もっと上級者向けとされるセットしか買わなくなったということです。
同じことが第8版にも言えると思います。あまりにもひどいカードだらけです。すぐにプレイヤーたちはエキスパンションを購入し始めることでしょう。第8版の発売はマジックの売上に貢献するどころか、これが原因でマジックの売上は大きく落ち込むことになるでしょうね。調べたところどうやらマジックの売上は開示されていないようですが、大きく減少したであろうことを確信しています。
以下は私個人の経験談です。
メルカディアン・マスクスが発売されたころ、ボックス当たり70ドル以下で購入するのは(輸入品を含めても)非常に難しかったです。ところが今ではオデッセイのボックスが(輸入品も含めて)60ドルから65ドルで手に入ります。マスクスからオデッセイにかけて、需要が落ちていることは明白です。
それに対してテンペストやウルザズサーガのボックスはいまだに100ドル以上の値段を付けています(それ以外のセット、たとえばネメシスやプロフェシーは、40ドルから55ドルくらいです)
これで何が分かるか? そう、プレイヤーたちは強さをとことん押し進めた(ときに禁止カードが発生してしまうような)強いセットを求めているということです。「バランスのとれた」セットなんてプレイヤーを退屈死させるだけですよ。
私の住まいはサンフランシスコにあります。大都市です。それにも関わらず私はマジックをプレイするために車に乗って別の町まで出かける必要があります。なぜか分かりますか?
近隣のマジックを扱うカードショップが全て閉店してしまい、公式大会も開かれなくなったからです。なぜそうなったか分かりますか? 需要が無くなったからです。
カード開発のポリシーを変えて頂く必要があることをこれで分かっていただけたと思います。プレイヤーは熱狂と興奮を求めています。退屈なカードではありません。
ローズウォーターさんは10周年を記念してすごいサプライズがあると匂わせていますが、少なくとも第8版はそれではないですね。
(マジックがよりよくなるよう願っているジョン・ナドラーより)
以下、私からの返信だ:
ジョンへ
まず初めに、君がマジックのことを本気で気にかけてくれているということ、そしてマジックをより良きものにしたいという情熱を実のある形で発散してくれていることに感謝したい。
その上で、私は君がいくつか誤った仮定の上に議論を進めようとしているのではないかと懸念している。ここからは読みやすさのために君のメールの文面を併記しながら回答していこうと思う。
選択肢についての話
1つ目として「第8版を選ぼう」についてだ。一般プレイヤーにカードやイラストを決定してもらおうというこのプロモーション企画に対して君は非常に否定的だ(ちなみにカードやイラストだけでなく、フレイバーテキストの制作にも君たちに関わってもらおうと思っている。これは来週から始まるよ)
私に言わせていただけるのであれば、今回の「第8版を選ぼう」の投票は、興味を引くところのない非常につまらないものでした。
プレイヤーたちが選択肢からそれぞれ《双頭のドラゴン/Two-Headed Dragon》と《ネクラタル/Nekrataal》とを選ぶことは明白でした。簡単です。何しろ対抗馬に挙げられているカードのマナコストが高すぎるからです。
個人的には、《暗黒の雛/Dark Hatchling》が選ばれなかったことを嬉しく思っています。まったく、最近は高コストなクリーチャー(原文:over-costed creatures)があまりに多すぎます。
あくまで個人的な意見ですが、今後の投票結果でも私たちマジックプレイヤーの前から重すぎるクリーチャーが一掃される結果となるよう祈ってやみません。
君は、そもそもこのプロモーションがどう立ち上がったのか、というところから誤解している気がするね。全ての基本セットは、次の版のためにR&Dからまず1人の責任者が割り当てられる。エキスパンションに対するデザイナー的な立ち位置だ。もっともいくつの点で大きな違いもあるが。
第8版については、Randy Buehler が担当することになった。彼がセットに関して必要な仕事を終えたところで、各種データはR&Dのデベロップメントへと引き渡された。それからデベロップメント側でセットをより具体的に定める諸々の作業が数ヶ月かけて行われた。
ここで言っている具体化という作業は、たとえばテストプレイも含むし、それ以外にも様々な懸念点(カードのパワーレベル、色のフレイバー、新規プレイヤーにふさわしいかどうか、などなど)についてのディスカッションも含む。
気になる人のために付け加えておくと、第8版のデベロップメントチームは、ランディ・ビューラー、ロバート・グートシェラ、ウィリアム・ジョクス(おっと、信じてない人もいるみたいだが彼は実在の人物だ)、そして マーク・ローズウォーターこと私だ。
第8版の「デザイン」段階で、ランディは2枚のカードのうち、どっちのカードを入れるべきか迷うということが何度もあった。そういった場合、彼は一旦全ての選択肢を残したままとした。
通常は、このあと、どちらが適切かという決断をデベロップメントに委ねる。しかしランディはここでもっといい案を思いついたんだ。
そう、このどちらのカードがより適切かという決断をデベロップメントチームに委ねるのではなくてプレイヤーたちに委ねたらどうだろう、と言う案だ(おそらく私とアーロン・フォーサイスが「公式サイトをもっと読者とインタラクティブなものにしたい」と事あるごとに言い続けてきたのがここにきて効いたんだろうね)
つまり何が言いたいかと言うと、これらの投票は「どっちがカッコいいか、強いか」といった観点から選ばれた2枚ではないのだ。プロモーションの一環としてプレイヤーたちに委ねられていなければ、本来はデベロップメントチームが決断を下していたであろう選択なのだ。
ただ1つ認めざるを得ないとすれば、ある投票が他の投票より面白そうにみえる、ということはあるかもしれない(そうそう、今後発表される投票は、きっともっと面白いものになるはずだよ)
1つ忘れないで欲しいのは、今回の企画は単にプレイヤーたちの声を聞くためだけではない。これは、私たちR&Dが普段どのような決断を下しているかを君たちと共有するための場でもあるんだ。
人それぞれという話
次は君が嫌っている「高コストでサイズの大きいクリーチャー」についてだ。
さらにイラストの投票の対象に選ばれたカードから、R&Dの視野の狭さが分かります。そう、重すぎてとても使用に耐えないクリーチャーたちです。
ええ、何を言っているかはお分かりでしょう。《茨の精霊/Thorn Elemental》に《慈悲の天使/Angel of Mercy》が本気で選ばれると思っていたんですか?
これらのカードを使っているプレイヤーなんていやしませんし、今後も現れません(あり得るとしたらや《ドルイドの誓い/Oath of Druids》デッキや《適者生存/Survival of the Fittest》と《繰り返す悪夢/Recurring Nightmare》のコンボデッキくらいでしょう)
もっとも、《茨の精霊/Thorn Elemental》はまだ初心者が使っているのを見ることもあります。しかし《慈悲の天使/Angel of Mercy》? 初心者だって使いやしませんよ。
その理由は2つあります。
まず1つ目の理由としては、白が弱すぎる色だからです。さらにそれが改善される見込みもないからです(なぜならR&D自体が白を嫌いだからです。ライフゲインやダメージ軽減といった役に立たない能力を持ったカードばかり作っています。適切なマナコストのより役に立つ能力を持ったカードは作られません。例えばプロテクションやダメージ移し替えや先制攻撃や回避能力、その他にもたくさんの有用な白に割り当てられた能力があるにも関わらず)
2つ目として、5マナのクリーチャーを入れるならより良い選択肢が他にありすぎるからです(もちろん《セラの天使/Serra Angel》も候補です)実際のところ、《慈悲の天使/Angel of Mercy》みたいな使えない能力持ちの5マナクリーチャーを使うプレイヤー(初心者でもベテランでもいいですが)を見たことありますか? ないですよね?
ここで挙げられている問題は、君が思っているよりも遥かに複雑な問題だ。率直に言わせてもらえば、君は「木を見て森を見ず」の状態に陥っている。
マジックがなぜ特別なゲームか。それはカスタマイズ可能な点にある。他の多くのゲームと異なる点として、マジックは君たちプレイヤー自身に「マジックとはどのようなゲームなのか」を決めさせてくれる。マジックの本質の1つに、君たち全員がデザイナーたり得るという点があるのだ。
それを踏まえた上で……さて一体どこに問題があるというんだ?
レイ・ブラッドベリの短編集「火星年代記(The Martian Chronicles)」に「火星の人 (The Martian)」というタイトルの短編が収録されており、それにはトムと呼ばれるキャラクターが登場する。
トムには大きな秘密があった。実は彼は本物のトムではない。本物のトムは小さい頃に肺炎で亡くなっている。トムの両親にとって彼はまぎれもなくトムだが、実は彼は火星人なのだ。
ここで問題となるのは、トム以外の人間にとって、トムは可愛らしい人間の子供以外の何物でもないということだ。この火星人が「誰なのか」は見る人によって異なる。
自身が信じるものをトムに見る。そしてマジックが私たちにとってのトムだ。
プレイヤーたちは皆、自分だけの異なる形状のレンズを通してマジックというゲームを見ている。自身のレンズを通じて見える景色がそのプレイヤーにとってのマジックだ。
問題は、他人の視点から見える景色を共有することは非常に難しいということだ。
ジョン、君が《茨の精霊/Thorn Elemental》や《慈悲の天使/Angel of Mercy》をパックから引いたときに怒りを覚えるのは、それらのカードが君にとって無用のカードだからだ。
しかしそれが無用なのは「君から見たマジック」における話でしかない。一部のプレイヤーにとってはそれらのカードを引くことはとても嬉しいことなんだ。それらのカードはそのプレイヤーたちにとってのマジックそのものなんだ。
他のプレイヤーがマジックを全く異なるゲームとして楽しんでいる、という事実を認めることができないプレイヤーは多い。
自分が信じるのとはまったく違ったゲームとしてマジックを見ているプレイヤーがいる、と信じることが非常に受け入れがたいと感じるプレイヤーたちだ。
分かりやすい例を挙げよう。
先週のコラム(註)で私はインベイジョンの市場調査結果レポート(原文:Godbook)を紹介した。その結果では、2番目に人気があったカードは《勇士の再会/Heroes’ Reunion》だとされていたことに対して、本当に大量の「信じられない」という反応を頂いた。
しかしそれと同時にまた別のプレイヤーたちからは、自分たちみたいなタイプのプレイヤーの存在もちゃんと認めてくれていると分かってとても嬉しい、というメールももらっているんだ。
勘違いされやすい点、それは、R&Dは特定のプレイヤーの観点からマジックをデザインしているわけじゃない、という点だ。私たちは、全てのプレイヤーの観点からマジックをデザインしなければいけないんだ。
これを達成するためには、様々なプレイヤーたちに向けて、それぞれ異なる様々なカードをデザインする必要がある。
つまり、各プレイヤーの個々の目から見ると、どのエキスパンションにも必ず絶対にプレイしないであろう「死にふだ(原文:"dead" cards)」が存在することになる。
これは必要悪だ。ある特定の観点だけを参考にマジックをデザインすれば、プレイ人口は縮小していくことだろう。それは経営的な死を意味する。
私が君にお願いしたいことは、君にとっての「死にふだ」に寛容になって欲しいということだ。私が同じくカジュアルプレイヤーたちに対し、そのプレイヤーにとっての(そして君が好んでプレイしているであろう)「死にふだ」を受け入れてくれ、とお願いしているように。
信じて欲しい。そういったカジュアルプレイヤーたちの存在がもたらすメリットはデメリットを最終的には上回る。必ずね。
まだ息がある点について
最後に、君が心配しているマジックの未来についてだ。
それはそれとして他にもお伝えしたいことがあります。
ポータルとスターターは売上的に大失敗でしたが、その理由はカードがあまりにも弱すぎて、初心者たちは普通のエキスパンションを購入したほうがいいとすぐに気づいたからです。「ビギナー用のセット」を買うのをやめて、もっと上級者向けとされるセットしか買わなくなったということです。
同じことが第8版にも言えると思います。あまりにもひどいカードだらけです。すぐにプレイヤーたちはエキスパンションを購入し始めることでしょう。第8版の発売はマジックの売上に貢献するどころか、これが原因でマジックの売上は大きく落ち込むことになるでしょうね。調べたところどうやらマジックの売上は開示されていないようですが、大きく減少したであろうことを確信しています。
以下は私個人の経験談です。
メルカディアン・マスクスが発売されたころ、ボックス当たり70ドル以下で購入するのは(輸入品を含めても)非常に難しかったです。ところが今ではオデッセイのボックスが(輸入品も含めて)60ドルから65ドルで手に入ります。マスクスからオデッセイにかけて、需要が落ちていることは明白です。
それに対してテンペストやウルザズサーガのボックスはいまだに100ドル以上の値段を付けています(それ以外のセット、たとえばネメシスやプロフェシーは、40ドルから55ドルくらいです)
これで何が分かるか? そう、プレイヤーたちは強さをとことん押し進めた(ときに禁止カードが発生してしまうような)強いセットを求めているということです。「バランスのとれた」セットなんてプレイヤーを退屈死させるだけですよ。
私の住まいはサンフランシスコにあります。大都市です。それにも関わらず私はマジックをプレイするために車に乗って別の町まで出かける必要があります。なぜか分かりますか?
近隣のマジックを扱うカードショップが全て閉店してしまい、公式大会も開かれなくなったからです。なぜそうなったか分かりますか? 需要が無くなったからです。
カード開発のポリシーを変えて頂く必要があることをこれで分かっていただけたと思います。プレイヤーは熱狂と興奮を求めています。退屈なカードではありません。
ローズウォーターさんは10周年を記念してすごいサプライズがあると匂わせていますが、少なくとも第8版はそれではないですね。
マーク・トウェインの言葉に「最近、私が死んだという噂が流れているがそれはあまりにも誇張が過ぎる」とある。
マジックはもうおしまいだ、という予言はかなり昔から……実際のところマジックが生まれた当初からある。「マジックはもう終わりだ!」と叫ぶ人たちの声にノスタルジーを感じないでもないが、そろそろこの噂にきちんと蹴りをつけようと思う。
マジックは問題ない。
マジックは今もこれまでにないほど元気だ。マジックの売上は急落していない。マジックは水をかき出し続けなければならない沈没船ではない。実際はむしろ逆だ。売上は好調だ。第7版の売上すら好調だ。プレイ人口も十分だ。
少なくともここ最近に関しては言えばマジックは非常に良い結果を出している。マジックが明日にも死ぬと思っている人たちは安心して寝て欲しい。明日もマジックはそこにあるよ。
次にポータルとスターターについてだ。これらの販売を取りやめた理由は、売上不振ではない。顧客からのフィードバックの結果だ。初心者プレイヤーたちは自分たちがマジックの他のコミュニティに加われないことに不満を抱いていたんだ。
集めたカードでデッキを作って、いざ大会に参加しようとしたとき、公式大会では使用できないカードだと言われてしまうわけだからね。この問題を解決するため、私たちはそういったプレイヤーたち向けのカードを基本セットに求めることにした。
この《熱心な士官候補生/Eager Cadet》が第7版に収録されているのはそういう理由だ(ちなみに第8版にも収録される)。おっと、怒りのコメントはちょっと待ってくれ。これが君たちにとっての「死にふだ」であることを理解して欲しい。
このカードは君に割り当てられたカードではない。このカードを必要としているプレイヤーのためにデザインされたカードなんだ。
ちょうど良い機会なので、ここでついでに触れておきたいのは、私たちが初心者をあまりに大事に扱い過ぎているという意見だ。これは多くのメールや書き込みを通じて伝えられる意見だ。
つまり私たちが初心者に対する気遣いとしてのシンプル過ぎるカードを収録することは、時間(と紙資源)の無駄というわけだ(「私は泳ぎを習うときに足のつかないプールに放り込まれましたが別に溺れませんでしたよ」)
私の回答としては、こういった意見をくれるプレイヤーたちが知らず、かつ私たちが知っている情報がある、ということだ。
それは「市場テスト」(原文:Market Testing)だ。
どういったことかというと、私たちは定期的にマジックの顧客層に当たる人をランダムに選定し、私たちが用意した場でその人たちにマジックを教えてプレイしてもらっている。私や他の社員はマジックミラーを通じてそのプレイしている様子を見学するわけだ。
私たちがそこから何を学んだか? それは「初心者にとってマジックは本当に非常にややこしいゲームである」ということだ。
念のため。ここでマジックを遊んでもらっているのは、ゲームに全く触れたことのない家事手伝いの人や未就学児などではない。これらのテストを受けてくれているのは、マジックや他のゲームに多少なりとも興味のある20歳前後の人たちだ。
そういった人たちにとってすら、マジックを学ぶということはそう簡単な話ではないんだ。
それと「バランスのとれた」セットのつまらなさはプレイヤーを退屈死させる、という君の意見に対しては、インベイジョンブロックをその反証としたい。
このブロックの3つのセット(インベイジョン、プレーンシフト、アポカリプス)は禁止カードを1枚も出さなかったにもかかわらず評判は上々だった。この結果を受けて、私(とR&D)はもう少し強気にデザインと開発を進めても良いのではないか、もう一歩踏み込んでも大丈夫なのではないか、と考えた。
最後に言っておこう。私たちの10周年記念イベントはきっと最高に盛り上がるだろうし、第8版も間違いなくそのパーティの盛り上げ役の1人だろうね。
先へと進む力
このコラムの最後に、特に強調しておきたいこと、それは私がこのジョンから送ってくれたような投稿を心から喜ばしく思っているということだ。
マジックとは私にとって本当にとてつもなく大きな位置を占めるものであり、その私と同じようにマジックに大きな情熱を傾けている誰かがいると知るのはとても嬉しい。
今日のコラムの目的は、皆に誤解されているのではないかと私が思っているいくつかの事柄について説明することだった。そしてそれは私がこのコラムを連載している目的の1つでもある。だから今後もきっと同じような内容の記事を何度も見ることになるだろうね。
さて、あらためて伝えておこう。
もし君にマジックをより良くするための案があれば(もしくは君が今後も変わらずそうあって欲しいと願うマジックの何かがあれば)、ぜひこの公式サイト(註)を通じて私にメッセージを送って欲しい。
ちょっと忙しすぎるので全てのお便りに返信することはできないと思うが、全てに目を通してはいる。意見を直接送れることこそがこの公式サイトの誇るべき特長の1つだと私は考えている。君の意見を聞いてくれる耳が少なくとも1人分、ゲームの心臓部分にあるわけだ(ランディも数えるなら2人分だね)。ぜひ活用してくれ。
来週はデザイナーが好んで用いる、とある道具について書く予定だ。それまで、君のためにデザインされたレアをパックから引けるよう祈ってるよ。
マーク・ローズウォーター/Mark Rosewater
Mark Rosewater
2002年07月01日
元記事:https://magic.wizards.com/en/articles/archive/making-magic/no-two-see-same-game-2002-07-01
2週間前に私が書いたコラム、「I’ve Got Mail」(註)は、君たちからもらったメールについて書いた記事だった。これはなかなか好評だったので、ぜひまたやりたいと思っている。何しろあのコラムのあと、またさらに勢いを増した大量のメールを君たちから受け取ることになってしまったからね。
(註) 2週間前に私が書いたコラム
原文では以下のURLにリンクが張られている。読者からのメールを紹介して、それに対して回答しているコラム。
https://magic.wizards.com/en/articles/archive/making-magic/ive-got-mail-2002-06-17
今週はそのメールの中の1つ、ジョン・ナドラーによって送られてきたメールについて、正しくはそのメールで提起されたいくつかの問題について紙面を割きたいと思う(そうそう、ジョン・ナドラーからのメールも先日のコラムに登場していたよ。実のところ、彼は非常に熱心なメール投稿者の1人だ)
まず初めにジョンから受け取ったメールを紹介させてくれ。
私に言わせていただけるのであれば、今回の「第8版を選ぼう」の投票は、興味を引くところのない非常につまらないものでした。
プレイヤーたちが選択肢からそれぞれ《双頭のドラゴン/Two-Headed Dragon》と《ネクラタル/Nekrataal》とを選ぶことは明白でした。簡単です。何しろ対抗馬に挙げられているカードのマナコストが高すぎるからです。
個人的には、《暗黒の雛/Dark Hatchling》が選ばれなかったことを嬉しく思っています。まったく、最近は高コストなクリーチャー(原文:over-costed creatures)があまりに多すぎます。
Two-Headed Dragon / 双頭のドラゴン (4)(赤)(赤)
クリーチャー - ドラゴン(Dragon)
飛行
威迫(このクリーチャーは2体以上のクリーチャーによってしかブロックされない。)
双頭のドラゴンは、各戦闘で追加で1体のクリーチャーをブロックできる。
(1)(赤):ターン終了時まで、双頭のドラゴンは+2/+0の修整を受ける。
4/4
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Two-Headed+Dragon/
Nekrataal / ネクラタル (2)(黒)(黒)
クリーチャー - 人間(Human) 暗殺者(Assassin)
先制攻撃
ネクラタルが戦場に出たとき、アーティファクトでも黒でもないクリーチャー1体を対象とし、それを破壊する。それは再生できない。
2/1
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Nekrataal/
Dark Hatchling / 暗黒の雛 (4)(黒)(黒)
クリーチャー - ホラー(Horror)
飛行
暗黒の雛が戦場に出たとき、黒でないクリーチャー1体を対象とし、それを破壊する。それは再生できない。
3/3
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Dark+Hatchling/
あくまで個人的な意見ですが、今後の投票結果でも私たちマジックプレイヤーの前から重すぎるクリーチャーが一掃される結果となるよう祈ってやみません。
さらにイラストの投票の対象に選ばれたカードから、R&Dの視野の狭さが分かります。そう、重すぎてとても使用に耐えないクリーチャーたちです。
ええ、何を言っているかはお分かりでしょう。《茨の精霊/Thorn Elemental》に《慈悲の天使/Angel of Mercy》が本気で選ばれると思っていたんですか?
これらのカードを使っているプレイヤーなんていやしませんし、今後も現れません(あり得るとしたらや《ドルイドの誓い/Oath of Druids》デッキや《適者生存/Survival of the Fittest》と《繰り返す悪夢/Recurring Nightmare》のコンボデッキくらいでしょう)
もっとも、《茨の精霊/Thorn Elemental》はまだ初心者が使っているのを見ることもあります。しかし《慈悲の天使/Angel of Mercy》? 初心者だって使いやしませんよ。
Thorn Elemental / 茨の精霊 (5)(緑)(緑)
クリーチャー - エレメンタル(Elemental)
あなたは茨の精霊の戦闘ダメージを、これがブロックされなかったかのように割り振ってもよい。
7/7
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Thorn+Elemental/
Angel of Mercy / 慈悲の天使 (4)(白)
クリーチャー - 天使(Angel)
飛行
慈悲の天使が戦場に出たとき、あなたは3点のライフを得る。
3/3
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Angel+of+Mercy/
Oath of Druids / ドルイドの誓い (1)(緑)
エンチャント
各プレイヤーのアップキープの開始時に、そのプレイヤーは自分の対戦相手であるとともに、自分よりも多くのクリーチャーをコントロールしているプレイヤーを対象として選ぶ。前者のプレイヤーは、自分のライブラリーの一番上のカードを、クリーチャー・カードが公開されるまで公開してもよい。前者のプレイヤーがそうしたなら、そのプレイヤーはそのカードを戦場に出し、これにより公開された他のすべてのカードを自分の墓地に置く。
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Oath+of+Druids/
Survival of the Fittest / 適者生存 (1)(緑)
エンチャント
(緑),クリーチャー・カードを1枚捨てる:あなたのライブラリーからクリーチャー・カードを1枚探す。そのカードを公開し、あなたの手札に加える。その後あなたのライブラリーを切り直す。
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Survival+of+the+Fittest/
Recurring Nightmare / 繰り返す悪夢 (2)(黒)
エンチャント
クリーチャーを1体生け贄に捧げる,繰り返す悪夢をオーナーの手札に戻す:あなたの墓地にあるクリーチャー・カード1枚を対象とし、それを戦場に戻す。この能力は、あなたがソーサリーを唱えられるときにのみ起動できる。
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Recurring+Nightmare/
その理由は2つあります。
まず1つ目の理由としては、白が弱すぎる色だからです。さらにそれが改善される見込みもないからです(なぜならR&D自体が白を嫌いだからです。ライフゲインやダメージ軽減といった役に立たない能力を持ったカードばかり作っています。適切なマナコストのより役に立つ能力を持ったカードは作られません。例えばプロテクションやダメージ移し替えや先制攻撃や回避能力、その他にもたくさんの有用な白に割り当てられた能力があるにも関わらず)
2つ目として、5マナのクリーチャーを入れるならより良い選択肢が他にありすぎるからです(もちろん《セラの天使/Serra Angel》も候補です)実際のところ、《慈悲の天使/Angel of Mercy》みたいな使えない能力持ちの5マナクリーチャーを使うプレイヤー(初心者でもベテランでもいいですが)を見たことありますか? ないですよね?
どうしてもクリーチャーでライフを回復したいなら《ありがたい老修道士/Venerable Monk》か《ティーロの信者/Teroh’s Faithful》でも使いますよ。《慈悲の天使/Angel of Mercy》にいいところがあるとすれば、4マナかかるグリフィンよりサイズがデカいこと、かつ余計にかかるマナの分だけちゃんと能力が付いてることくらいです(ちなみに過去にメールでお伝えしたとおり、グリフィンのコストは3マナ以下に抑えるべきだと思います)
Venerable Monk / ありがたい老修道士 (2)(白)
クリーチャー - 人間(Human) モンク(Monk) クレリック(Cleric)
ありがたい老修道士が戦場に出たとき、あなたは2点のライフを得る。
2/2
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Venerable+Monk/
Teroh’s Faithful / ティーロの信者 (3)(白)
クリーチャー - 人間(Human) クレリック(Cleric)
ティーロの信者が戦場に出たとき、あなたは4点のライフを得る。
1/4
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Teroh%27s+Faithful/
それはそれとして他にもお伝えしたいことがあります。
ポータルとスターターは売上的に大失敗でしたが、その理由はカードがあまりにも弱すぎて、初心者たちは普通のエキスパンションを購入したほうがいいとすぐに気づいたからです。「ビギナー用のセット」を買うのをやめて、もっと上級者向けとされるセットしか買わなくなったということです。
同じことが第8版にも言えると思います。あまりにもひどいカードだらけです。すぐにプレイヤーたちはエキスパンションを購入し始めることでしょう。第8版の発売はマジックの売上に貢献するどころか、これが原因でマジックの売上は大きく落ち込むことになるでしょうね。調べたところどうやらマジックの売上は開示されていないようですが、大きく減少したであろうことを確信しています。
以下は私個人の経験談です。
メルカディアン・マスクスが発売されたころ、ボックス当たり70ドル以下で購入するのは(輸入品を含めても)非常に難しかったです。ところが今ではオデッセイのボックスが(輸入品も含めて)60ドルから65ドルで手に入ります。マスクスからオデッセイにかけて、需要が落ちていることは明白です。
それに対してテンペストやウルザズサーガのボックスはいまだに100ドル以上の値段を付けています(それ以外のセット、たとえばネメシスやプロフェシーは、40ドルから55ドルくらいです)
これで何が分かるか? そう、プレイヤーたちは強さをとことん押し進めた(ときに禁止カードが発生してしまうような)強いセットを求めているということです。「バランスのとれた」セットなんてプレイヤーを退屈死させるだけですよ。
私の住まいはサンフランシスコにあります。大都市です。それにも関わらず私はマジックをプレイするために車に乗って別の町まで出かける必要があります。なぜか分かりますか?
近隣のマジックを扱うカードショップが全て閉店してしまい、公式大会も開かれなくなったからです。なぜそうなったか分かりますか? 需要が無くなったからです。
カード開発のポリシーを変えて頂く必要があることをこれで分かっていただけたと思います。プレイヤーは熱狂と興奮を求めています。退屈なカードではありません。
ローズウォーターさんは10周年を記念してすごいサプライズがあると匂わせていますが、少なくとも第8版はそれではないですね。
(マジックがよりよくなるよう願っているジョン・ナドラーより)
以下、私からの返信だ:
ジョンへ
まず初めに、君がマジックのことを本気で気にかけてくれているということ、そしてマジックをより良きものにしたいという情熱を実のある形で発散してくれていることに感謝したい。
その上で、私は君がいくつか誤った仮定の上に議論を進めようとしているのではないかと懸念している。ここからは読みやすさのために君のメールの文面を併記しながら回答していこうと思う。
選択肢についての話
1つ目として「第8版を選ぼう」についてだ。一般プレイヤーにカードやイラストを決定してもらおうというこのプロモーション企画に対して君は非常に否定的だ(ちなみにカードやイラストだけでなく、フレイバーテキストの制作にも君たちに関わってもらおうと思っている。これは来週から始まるよ)
私に言わせていただけるのであれば、今回の「第8版を選ぼう」の投票は、興味を引くところのない非常につまらないものでした。
プレイヤーたちが選択肢からそれぞれ《双頭のドラゴン/Two-Headed Dragon》と《ネクラタル/Nekrataal》とを選ぶことは明白でした。簡単です。何しろ対抗馬に挙げられているカードのマナコストが高すぎるからです。
個人的には、《暗黒の雛/Dark Hatchling》が選ばれなかったことを嬉しく思っています。まったく、最近は高コストなクリーチャー(原文:over-costed creatures)があまりに多すぎます。
あくまで個人的な意見ですが、今後の投票結果でも私たちマジックプレイヤーの前から重すぎるクリーチャーが一掃される結果となるよう祈ってやみません。
君は、そもそもこのプロモーションがどう立ち上がったのか、というところから誤解している気がするね。全ての基本セットは、次の版のためにR&Dからまず1人の責任者が割り当てられる。エキスパンションに対するデザイナー的な立ち位置だ。もっともいくつの点で大きな違いもあるが。
第8版については、Randy Buehler が担当することになった。彼がセットに関して必要な仕事を終えたところで、各種データはR&Dのデベロップメントへと引き渡された。それからデベロップメント側でセットをより具体的に定める諸々の作業が数ヶ月かけて行われた。
ここで言っている具体化という作業は、たとえばテストプレイも含むし、それ以外にも様々な懸念点(カードのパワーレベル、色のフレイバー、新規プレイヤーにふさわしいかどうか、などなど)についてのディスカッションも含む。
気になる人のために付け加えておくと、第8版のデベロップメントチームは、ランディ・ビューラー、ロバート・グートシェラ、ウィリアム・ジョクス(おっと、信じてない人もいるみたいだが彼は実在の人物だ)、そして マーク・ローズウォーターこと私だ。
第8版の「デザイン」段階で、ランディは2枚のカードのうち、どっちのカードを入れるべきか迷うということが何度もあった。そういった場合、彼は一旦全ての選択肢を残したままとした。
通常は、このあと、どちらが適切かという決断をデベロップメントに委ねる。しかしランディはここでもっといい案を思いついたんだ。
そう、このどちらのカードがより適切かという決断をデベロップメントチームに委ねるのではなくてプレイヤーたちに委ねたらどうだろう、と言う案だ(おそらく私とアーロン・フォーサイスが「公式サイトをもっと読者とインタラクティブなものにしたい」と事あるごとに言い続けてきたのがここにきて効いたんだろうね)
つまり何が言いたいかと言うと、これらの投票は「どっちがカッコいいか、強いか」といった観点から選ばれた2枚ではないのだ。プロモーションの一環としてプレイヤーたちに委ねられていなければ、本来はデベロップメントチームが決断を下していたであろう選択なのだ。
ただ1つ認めざるを得ないとすれば、ある投票が他の投票より面白そうにみえる、ということはあるかもしれない(そうそう、今後発表される投票は、きっともっと面白いものになるはずだよ)
1つ忘れないで欲しいのは、今回の企画は単にプレイヤーたちの声を聞くためだけではない。これは、私たちR&Dが普段どのような決断を下しているかを君たちと共有するための場でもあるんだ。
人それぞれという話
次は君が嫌っている「高コストでサイズの大きいクリーチャー」についてだ。
さらにイラストの投票の対象に選ばれたカードから、R&Dの視野の狭さが分かります。そう、重すぎてとても使用に耐えないクリーチャーたちです。
ええ、何を言っているかはお分かりでしょう。《茨の精霊/Thorn Elemental》に《慈悲の天使/Angel of Mercy》が本気で選ばれると思っていたんですか?
これらのカードを使っているプレイヤーなんていやしませんし、今後も現れません(あり得るとしたらや《ドルイドの誓い/Oath of Druids》デッキや《適者生存/Survival of the Fittest》と《繰り返す悪夢/Recurring Nightmare》のコンボデッキくらいでしょう)
もっとも、《茨の精霊/Thorn Elemental》はまだ初心者が使っているのを見ることもあります。しかし《慈悲の天使/Angel of Mercy》? 初心者だって使いやしませんよ。
その理由は2つあります。
まず1つ目の理由としては、白が弱すぎる色だからです。さらにそれが改善される見込みもないからです(なぜならR&D自体が白を嫌いだからです。ライフゲインやダメージ軽減といった役に立たない能力を持ったカードばかり作っています。適切なマナコストのより役に立つ能力を持ったカードは作られません。例えばプロテクションやダメージ移し替えや先制攻撃や回避能力、その他にもたくさんの有用な白に割り当てられた能力があるにも関わらず)
2つ目として、5マナのクリーチャーを入れるならより良い選択肢が他にありすぎるからです(もちろん《セラの天使/Serra Angel》も候補です)実際のところ、《慈悲の天使/Angel of Mercy》みたいな使えない能力持ちの5マナクリーチャーを使うプレイヤー(初心者でもベテランでもいいですが)を見たことありますか? ないですよね?
ここで挙げられている問題は、君が思っているよりも遥かに複雑な問題だ。率直に言わせてもらえば、君は「木を見て森を見ず」の状態に陥っている。
マジックがなぜ特別なゲームか。それはカスタマイズ可能な点にある。他の多くのゲームと異なる点として、マジックは君たちプレイヤー自身に「マジックとはどのようなゲームなのか」を決めさせてくれる。マジックの本質の1つに、君たち全員がデザイナーたり得るという点があるのだ。
それを踏まえた上で……さて一体どこに問題があるというんだ?
レイ・ブラッドベリの短編集「火星年代記(The Martian Chronicles)」に「火星の人 (The Martian)」というタイトルの短編が収録されており、それにはトムと呼ばれるキャラクターが登場する。
トムには大きな秘密があった。実は彼は本物のトムではない。本物のトムは小さい頃に肺炎で亡くなっている。トムの両親にとって彼はまぎれもなくトムだが、実は彼は火星人なのだ。
ここで問題となるのは、トム以外の人間にとって、トムは可愛らしい人間の子供以外の何物でもないということだ。この火星人が「誰なのか」は見る人によって異なる。
自身が信じるものをトムに見る。そしてマジックが私たちにとってのトムだ。
プレイヤーたちは皆、自分だけの異なる形状のレンズを通してマジックというゲームを見ている。自身のレンズを通じて見える景色がそのプレイヤーにとってのマジックだ。
問題は、他人の視点から見える景色を共有することは非常に難しいということだ。
ジョン、君が《茨の精霊/Thorn Elemental》や《慈悲の天使/Angel of Mercy》をパックから引いたときに怒りを覚えるのは、それらのカードが君にとって無用のカードだからだ。
しかしそれが無用なのは「君から見たマジック」における話でしかない。一部のプレイヤーにとってはそれらのカードを引くことはとても嬉しいことなんだ。それらのカードはそのプレイヤーたちにとってのマジックそのものなんだ。
他のプレイヤーがマジックを全く異なるゲームとして楽しんでいる、という事実を認めることができないプレイヤーは多い。
自分が信じるのとはまったく違ったゲームとしてマジックを見ているプレイヤーがいる、と信じることが非常に受け入れがたいと感じるプレイヤーたちだ。
分かりやすい例を挙げよう。
先週のコラム(註)で私はインベイジョンの市場調査結果レポート(原文:Godbook)を紹介した。その結果では、2番目に人気があったカードは《勇士の再会/Heroes’ Reunion》だとされていたことに対して、本当に大量の「信じられない」という反応を頂いた。
しかしそれと同時にまた別のプレイヤーたちからは、自分たちみたいなタイプのプレイヤーの存在もちゃんと認めてくれていると分かってとても嬉しい、というメールももらっているんだ。
(註) 先週のコラム
原文では以下のURLにリンクが張られている。ライフを回復する効果について書かれたコラムで、その中で《勇士の再会/Heroes’ Reunion》(対象のプレイヤーのライフを7点回復する2マナのインスタント)について触れている。
https://magic.wizards.com/en/articles/archive/making-magic/game-life-2002-06-24
勘違いされやすい点、それは、R&Dは特定のプレイヤーの観点からマジックをデザインしているわけじゃない、という点だ。私たちは、全てのプレイヤーの観点からマジックをデザインしなければいけないんだ。
これを達成するためには、様々なプレイヤーたちに向けて、それぞれ異なる様々なカードをデザインする必要がある。
つまり、各プレイヤーの個々の目から見ると、どのエキスパンションにも必ず絶対にプレイしないであろう「死にふだ(原文:"dead" cards)」が存在することになる。
これは必要悪だ。ある特定の観点だけを参考にマジックをデザインすれば、プレイ人口は縮小していくことだろう。それは経営的な死を意味する。
私が君にお願いしたいことは、君にとっての「死にふだ」に寛容になって欲しいということだ。私が同じくカジュアルプレイヤーたちに対し、そのプレイヤーにとっての(そして君が好んでプレイしているであろう)「死にふだ」を受け入れてくれ、とお願いしているように。
信じて欲しい。そういったカジュアルプレイヤーたちの存在がもたらすメリットはデメリットを最終的には上回る。必ずね。
まだ息がある点について
最後に、君が心配しているマジックの未来についてだ。
それはそれとして他にもお伝えしたいことがあります。
ポータルとスターターは売上的に大失敗でしたが、その理由はカードがあまりにも弱すぎて、初心者たちは普通のエキスパンションを購入したほうがいいとすぐに気づいたからです。「ビギナー用のセット」を買うのをやめて、もっと上級者向けとされるセットしか買わなくなったということです。
同じことが第8版にも言えると思います。あまりにもひどいカードだらけです。すぐにプレイヤーたちはエキスパンションを購入し始めることでしょう。第8版の発売はマジックの売上に貢献するどころか、これが原因でマジックの売上は大きく落ち込むことになるでしょうね。調べたところどうやらマジックの売上は開示されていないようですが、大きく減少したであろうことを確信しています。
以下は私個人の経験談です。
メルカディアン・マスクスが発売されたころ、ボックス当たり70ドル以下で購入するのは(輸入品を含めても)非常に難しかったです。ところが今ではオデッセイのボックスが(輸入品も含めて)60ドルから65ドルで手に入ります。マスクスからオデッセイにかけて、需要が落ちていることは明白です。
それに対してテンペストやウルザズサーガのボックスはいまだに100ドル以上の値段を付けています(それ以外のセット、たとえばネメシスやプロフェシーは、40ドルから55ドルくらいです)
これで何が分かるか? そう、プレイヤーたちは強さをとことん押し進めた(ときに禁止カードが発生してしまうような)強いセットを求めているということです。「バランスのとれた」セットなんてプレイヤーを退屈死させるだけですよ。
私の住まいはサンフランシスコにあります。大都市です。それにも関わらず私はマジックをプレイするために車に乗って別の町まで出かける必要があります。なぜか分かりますか?
近隣のマジックを扱うカードショップが全て閉店してしまい、公式大会も開かれなくなったからです。なぜそうなったか分かりますか? 需要が無くなったからです。
カード開発のポリシーを変えて頂く必要があることをこれで分かっていただけたと思います。プレイヤーは熱狂と興奮を求めています。退屈なカードではありません。
ローズウォーターさんは10周年を記念してすごいサプライズがあると匂わせていますが、少なくとも第8版はそれではないですね。
マーク・トウェインの言葉に「最近、私が死んだという噂が流れているがそれはあまりにも誇張が過ぎる」とある。
マジックはもうおしまいだ、という予言はかなり昔から……実際のところマジックが生まれた当初からある。「マジックはもう終わりだ!」と叫ぶ人たちの声にノスタルジーを感じないでもないが、そろそろこの噂にきちんと蹴りをつけようと思う。
マジックは問題ない。
マジックは今もこれまでにないほど元気だ。マジックの売上は急落していない。マジックは水をかき出し続けなければならない沈没船ではない。実際はむしろ逆だ。売上は好調だ。第7版の売上すら好調だ。プレイ人口も十分だ。
少なくともここ最近に関しては言えばマジックは非常に良い結果を出している。マジックが明日にも死ぬと思っている人たちは安心して寝て欲しい。明日もマジックはそこにあるよ。
原文ではここに《熱心な士官候補生/Eager Cadet》の画像がある。ポータルのカードで、能力を一切持たない 1マナ 1/1 の白のクリーチャー。
次にポータルとスターターについてだ。これらの販売を取りやめた理由は、売上不振ではない。顧客からのフィードバックの結果だ。初心者プレイヤーたちは自分たちがマジックの他のコミュニティに加われないことに不満を抱いていたんだ。
集めたカードでデッキを作って、いざ大会に参加しようとしたとき、公式大会では使用できないカードだと言われてしまうわけだからね。この問題を解決するため、私たちはそういったプレイヤーたち向けのカードを基本セットに求めることにした。
この《熱心な士官候補生/Eager Cadet》が第7版に収録されているのはそういう理由だ(ちなみに第8版にも収録される)。おっと、怒りのコメントはちょっと待ってくれ。これが君たちにとっての「死にふだ」であることを理解して欲しい。
このカードは君に割り当てられたカードではない。このカードを必要としているプレイヤーのためにデザインされたカードなんだ。
ちょうど良い機会なので、ここでついでに触れておきたいのは、私たちが初心者をあまりに大事に扱い過ぎているという意見だ。これは多くのメールや書き込みを通じて伝えられる意見だ。
つまり私たちが初心者に対する気遣いとしてのシンプル過ぎるカードを収録することは、時間(と紙資源)の無駄というわけだ(「私は泳ぎを習うときに足のつかないプールに放り込まれましたが別に溺れませんでしたよ」)
私の回答としては、こういった意見をくれるプレイヤーたちが知らず、かつ私たちが知っている情報がある、ということだ。
それは「市場テスト」(原文:Market Testing)だ。
どういったことかというと、私たちは定期的にマジックの顧客層に当たる人をランダムに選定し、私たちが用意した場でその人たちにマジックを教えてプレイしてもらっている。私や他の社員はマジックミラーを通じてそのプレイしている様子を見学するわけだ。
私たちがそこから何を学んだか? それは「初心者にとってマジックは本当に非常にややこしいゲームである」ということだ。
念のため。ここでマジックを遊んでもらっているのは、ゲームに全く触れたことのない家事手伝いの人や未就学児などではない。これらのテストを受けてくれているのは、マジックや他のゲームに多少なりとも興味のある20歳前後の人たちだ。
そういった人たちにとってすら、マジックを学ぶということはそう簡単な話ではないんだ。
それと「バランスのとれた」セットのつまらなさはプレイヤーを退屈死させる、という君の意見に対しては、インベイジョンブロックをその反証としたい。
このブロックの3つのセット(インベイジョン、プレーンシフト、アポカリプス)は禁止カードを1枚も出さなかったにもかかわらず評判は上々だった。この結果を受けて、私(とR&D)はもう少し強気にデザインと開発を進めても良いのではないか、もう一歩踏み込んでも大丈夫なのではないか、と考えた。
最後に言っておこう。私たちの10周年記念イベントはきっと最高に盛り上がるだろうし、第8版も間違いなくそのパーティの盛り上げ役の1人だろうね。
先へと進む力
このコラムの最後に、特に強調しておきたいこと、それは私がこのジョンから送ってくれたような投稿を心から喜ばしく思っているということだ。
マジックとは私にとって本当にとてつもなく大きな位置を占めるものであり、その私と同じようにマジックに大きな情熱を傾けている誰かがいると知るのはとても嬉しい。
今日のコラムの目的は、皆に誤解されているのではないかと私が思っているいくつかの事柄について説明することだった。そしてそれは私がこのコラムを連載している目的の1つでもある。だから今後もきっと同じような内容の記事を何度も見ることになるだろうね。
さて、あらためて伝えておこう。
もし君にマジックをより良くするための案があれば(もしくは君が今後も変わらずそうあって欲しいと願うマジックの何かがあれば)、ぜひこの公式サイト(註)を通じて私にメッセージを送って欲しい。
(註) 公式サイト
原文にはここにメールアドレスが書かれていたがもう使われていないアドレスのようなので省略。
ちょっと忙しすぎるので全てのお便りに返信することはできないと思うが、全てに目を通してはいる。意見を直接送れることこそがこの公式サイトの誇るべき特長の1つだと私は考えている。君の意見を聞いてくれる耳が少なくとも1人分、ゲームの心臓部分にあるわけだ(ランディも数えるなら2人分だね)。ぜひ活用してくれ。
来週はデザイナーが好んで用いる、とある道具について書く予定だ。それまで、君のためにデザインされたレアをパックから引けるよう祈ってるよ。
マーク・ローズウォーター/Mark Rosewater
コメント
長いのに読んでもらえた、ということが嬉しいです。
このころからマジックを取り巻く状況とR&Dはそれぞれずいぶん変わったかもしれませんが、プレイヤーの姿はあまり変わらないみたいです。
カード名を最近のものに入れ替えるだけで、今でもそのまま掲載できそうです。
>>様々なプレイヤーたちに向けて、それぞれ異なる様々なカードをデザイン
最近はカードの弱さの最低基準が、ドラフトで使われなくも無いレベルになったなーと思います。また近頃種族のサポートに力を入れてるのはEDHやキューブを意識してるんだなとも。ありがたい話です。
ルールブック読んだらちゃんと遊べるかというとそんな簡単でもないですし、分からないことがあるたびにルールブック参照すればいいかというとそうでもないし、ハードル高いですよね、MTG。
昔はホントに弱いだけのカードもあって「使い方を工夫すれば」とかする余地もなくて、それを見抜けるようになる前にそういうのに振り回されて「つまらないな」で終わった人もいるんじゃないかなあ、という気もします。