先日アップした以下の記事の訳の苦労した点というか、楽しんだ点というか。

 【翻訳】伝説のセットから生まれたカードたち/Designing Under the Influence
  https://regiant.diarynote.jp/201903310244432225/

 言い訳がましくならないように気を付けつつ。

原文:
 We’ve pulled out all the stops to explore the many facets of Magic’s first large expansion.
拙訳:
 マジック初の大型エキスパンションであるレジェンドをありとあらゆる側面から掘り下げて、興味深いネタを根こそぎ引っ張り出そうというわけだ。

 最初に訳そうとしたとき「the many facts」と誤読してそのまま訳しそうになった。危ない。正しくは上にあるとおり「the many facets(多面的に)」だった。

 あと細かい点としては「pull out all the stops」の「stops」が意外と面倒だった。各駅停車というか立ち止まるというか……要は全部ってことでしょう、というわけでそう訳した(訳してない)

原文:
 We have a spoiler to let you peruse all the cards. And we have some pretty cool Arcana and behind the scene goodies.
拙訳:
 さらにはレジェンドの全カードリストを君たちに公開して見せた。さらにさらに、君たちにレジェンドにまつわる興味深い裏話をいくつも紹介してきた。

 2文目の真ん中あたりにある「some pretty cool Arcana」とあって、大文字だから固有名詞と考えると公式サイトのコラム名のあれだろう、と思いつつも一応辞書で調べて見たところ「arcana:arcanumの複数形」という検索結果が出てきてビックリした。あれか。「criteria」が「criterion」の複数形みたいなものか。

原文:
 Back in those days sets sold out within a day, so you had to know when they were coming in.
拙訳:
 何しろ当時はマジックのセットが発売日当日に売り切れるなんてざらだったからね。入荷するその日が勝負だったのさ。

 末尾の「when they were coming in」を訳そうとしたときに、店が売るための品物を購入して受け取ることをなんて言うのかド忘れして困った。

 購入、納入、買い入れ……どれも違う。なんかしっくりくる日本語があったはずだ。そうだ、カードショップのブログを読めば見つかるはず、と頼らせてもらったのが以下。

  Diarynote:道の上 空の下
  https://56849.diarynote.jp/

 カードショップはすでに閉店されている(あらためて確認したらちょうど1年前だった)。この方のブログもDiarynoteに入り浸るようになったきっかけの1つだったのでちょっと感慨深いものがある。一度はお店に立ち寄ってみたいと思いつつも果たせずじまいだった。お疲れさまでした。

 閑話休題。そんなわけで新しいエキスパンションが出たときの日記などを探しまくったおかげで、ようやっと「入荷する」という適切な言葉に辿り着けた。スッキリした。

原文:
 I bought three boxes. (Remember that I started playing in Alpha so I was pretty entrenched by Legends.)
拙訳:
 私はまず3ボックス購入した(知ってるかもしれないが私は初代アルファからマジックを始めていた。レジェンドの頃にはもうずっぽりハマっていたわけだ。迷わず3ボックス買うほどにね)

 いくつかある。1つ目は「pretty entrenched by」という箇所が良く分からなかった点。初見時は「Trenchが塹壕だから……?」と考え込んでしまった。調べたところ「entrenched」は「固定観念を持った、考えが染みついた、定着してしまった、根強い」などの意味があるらしい。

 考えてみたら「Trench」の元々の意味は「深い溝」だから、何かを刻み込むという意味から転じての「塹壕」なんだな。「トレンチコート」のせいで「塹壕」以外の意味を忘れてた。まさに「entrenched by」だな。

 上記の箇所の2つ目のポイントとしては、なんでいきなり「当時はマジックにハマっていた」ということを説明しだしたのかを分かりやすくするために原文には無い補足(= 迷わず3ボックス買うほどにね)を加えていること。

 3ボックスもマジックを買うことの異常性ってどれだけ伝わるんだろう、という不安感があったので足してしまった。そういえばレジェンド当時の「1ボックス」のパック量も良く知らないな。

原文:
 The reason I bring this story up is that Legends had a profound effect on me as a player. Years later, it would have profound influence on me as a designer.
拙訳:
 ……と、私がなんでいきなりこんな話を始めたか不思議かもしれないね。何が言いたかったかというと、当時私がレジェンドから受けた影響は「プレイヤーとしてのものだった」ということを強調したかったからだ。この出会いがもし数年後であれば、おそらく私はデザイナーとしての立場で影響を受けていただろう。

 日本語訳が原文に比して異様に長い、という点は後で触れるとして。

 まず「profound effect」でつまずいた。「profound」の意味が分からなかったので調べたところ「深遠な、深みにある、奥深い」というような意味だった。うーん、意味は分かったけど会話で実際に使える自信はないな。

 あと「it would have influence on me」の「would have」があるってことは、実際はそうではなかった(デザイナーとして影響を受けたわけではなかった = プレイヤーとして影響を受けた)ってことでいいのかな……とちょっと悩んだ。

 さてこの部分の本題、日本語のほうの文章が原文に比して異様に長いという一番の理由は原文にはまったくない「私がなんでいきなりこんな~」という補足を冒頭にガッツリ足しこんでいること。

 さて、なぜ足しこんでいるのか?

 元々、英語版のコラムは1つ1つの段落(パラグラフ)がこのブログの日本語訳に比べてずっと長い。このブログでそれを(原文のパラグラフの長さを)無視してなぜブツ切りにしているか、というと読みやすさのため。

 ブログ系の記事を読むとき、1段落が4行以上あると非常に読みづらく感じてしまう。何行目まで読んだかを画面で追い続けるのはMaxで4行が限界だろう、というのが個人的な見解なので、訳した文章は原文のパラグラフを無視して細かく区切ってしまっている。

 ただそのせいで、原文では「ここで一息ついて話が変わったよ」というのをパラグラフの変更で示している場合に、話の切れ目が分かりづらくなってしまう。その分かりづらさを補うために大幅な意訳(というか補足)を入れているのがこのブログの訳。

 ……という話をずっと前からしたかったけど、なかなか触れる機会がなかった。やっと説明できた(もっとも、だからどうしたと言われると返す言葉もないけど)

原文:
 This card inspired me to design numerous other “cloaks”. Among them: Mystic Veil (Visions), Robe of Mirrors (Exodus), Diplomatic Immunity (Mercadian Masques), and Aboshan’s Desire (Odyssey).
拙訳:
 元となったこのレジェンドのカードたちから、私はいくつもの「外套(Cloak)」をデザインした。例えば、ビジョンズの《神秘のヴェール/Mystic Veil》、エクソダスの《鏡のローブ/Robe of Mirrors》、メルカディアン・マスクスの《外交特権/Diplomatic Immunity》、オデッセイの《アボシャンの願望/Aboshan’s Desire》などだ。

 元となったレジェンドのカードはカードテキストを全て記載するのは当然として、問題はこれらの「レジェンドのカードの影響を受けた結果として生まれたカードたち」のカードテキストを全て載せるかどうか、で迷った。

 さすがに全カードのテキストを載せていくと文字数が膨大になってブログの文字数制限を超過しすぎる(ただでさえ1記事に収まらないのに)。

 カードテキストの合間にコラムの文章が挟まってるような状態になるのも避けたかったので、結局上記のように複数枚ズラズラと並んでいるときはカード紹介を諦めた。

 それ以外では「文章内で括弧でカード内容を簡易的に紹介する」とか「1枚だけなら末尾に置く形で紹介する」など、都度対応を変えてみた。

原文:
 This card ended up being one of the first cards I designed to see print, as Consuming Ferocity in Mirage. As you can see, not every new variation is a home run (or even a single).
拙訳:
 のちのこのアイデアは、私が初めてデザインしたカードの中の1枚である《血の狂乱/Consuming Ferocity》となって世に出た(ミラージュのカードだ)。まあ、ご覧のとおり、元ネタがあるからといって全てがホームラン級の大当たりになるとは限らないというわけさ(もっともこの《血の狂乱/Consuming Ferocity》はヒット性の当たりですらないが……)

 訳としては間違っていないとは思う。ただ、ホームランどころかヒットですらない、という原文の短く軽快なジョークを再現できたかどうかが気になるところ。

原文:
 This card was the direct inspiration for Celestial Convergence in Prophecy. The one tweak was to have the game end when the counters finally ran out.
拙訳:
 プロフェシーの《天界の収斂/Celestial Convergence》はまさにこの《Divine Intervention》から着想を得たものだ。大きな変更点として、カウンターが全て取り除かれたときにちゃんとゲームに決着がつくようにした。

 上に乗ったカウンターが尽きるとゲームが引き分けになるという不思議なエンチャントの《Divine Intervention》に関する部分。

 訳す際に困ったのは「when the counters finally ran out」の「finally」。何を指して「finally」なんだろう。

 素直に訳すなら「カウンターがようやく尽きたとき」なんだろうけど「カウンターがようやく尽きたときにゲームが終わること(が元ネタのカードと異なる点)」という文章がイマイチしっくり来なかった。

 結局、上記の訳では「finally」に当たる日本語を挟んでいない。負け。

原文:
 This tricky little card is one of my favorites. I’m responsible for it being repeated in Urza’s Saga and created its sneaky cousin in Odyssey, Aura Graft.
拙訳:
 それは例えばこの《Enchantment Alteration》のように派手さはないがトリッキーなカードだ。そう、これがウルザズ・サーガに再録されたのも、またこれによく似た《オーラの移植/Aura Graft》がオデッセイに収録されたのも、いずれも私に責任がある。

 迷ったのは「I’m responsible for」の箇所。

 要は、この著者のせいで再録されたり似たようなカードが作られたりした、という話なんだけど「私が原因で、私のせいで」とかを使うと、イマイチしっくり来る日本語文にできなかった。

 それ以外で「~となったのには私が一枚噛んでいる」というのも試してみたけど、これもカチッとハマらず、最終的には「私に責任がある」とかなり原文に寄せた直訳風味で逃げてしまった。うーん。難しい。

原文:
 Tempted by the “dark side”, I got lured into this spell’s “cards for free” flavor.
拙訳:
 おそらく私の中に潜む闇の部分がささやいたのだろうが、私はこのカードの「カードのお代は無料」な効果にすっかり魅了されてしまった。

 マナ踏み倒しの元祖は《Eureka》だった、ということらしい。

 あらためて読むと「dark side」の訳は「ダークサイド」で良かったような気もする。おそらく「日本語に訳そう」という気持ちが強いせいでか、カタカナ訳を避けてしまいがち。

 次のカッコの「cards for free」の訳は、ベストではないけど、まあ悪くもないかな、と思ってる。もっといい訳がありそう、という気持ちはどうしてもあるけど。

 余談だけど、ここで紹介された《ドリーム・ホール/Dream Halls》以外にも、唱えた分の土地がアンタップする「実質的にマナ踏み倒し」なフリースペルたちとか、0マナアーティファクトを生け贄に捧げれば好きなアーティファクトを(マナを踏み倒しつつ)場に出せる《修繕/Tinker》とかも同一犯による犯行。

原文:
 One of my favorites was a deck revolving around a Martyr’s Cry/Heaven’s Gate/Millstone combo.
 (I never said my decks were good, just interesting.)
拙訳:
 色々組んだその色変更デッキの中で特にお気に入りだったのは《Martyr’s Cry》と《Heaven’s Gate》によるライブラリ破壊コンボを狙った山札破壊デッキだった。《石臼/Millstone》も入ってたはずだ。
 ん? ああ、バレたか。私は強いデッキを作るのが得意だったわけじゃない……面白いデッキを作るのが得意だったんだ。

 原文に合わせようとすると読みづらい日本語にしか訳せず、諦めた結果が上記の「ざっくりとは同じ意味」な文章。訳としてはどうかという気もするけど、文章自体はそこそこ気に入ってる。

原文:
 Many people think Root Maze (Tempest) was inspired by Kismet. In reality, Root Maze originally gave all permanents summoning sickness.
拙訳:
 テンペストに《根の迷路/Root Maze》というカードがある。多くのプレイヤーはこのカードが《宿命/Kismet》が元になったと思っている。違うんだ。そもそもこの《根の迷路/Root Maze》は「全てのパーマネントに召喚酔いを与える」というカードになる予定だった。

 翻訳と全然関係ない話。

 マジックを始めた頃は色んなデッキを80枚くらいで組んでた。あるとき雑誌で青白パーミッションデッキを知ったときから、ほぼずっと青白デッキを使い続けた。

 フィニッシャーは《セラの天使/Serra Angel》や《大気の精霊/Air Elemental》に始まり、《またたくスピリット/Blinking Spirit》や《霧のドラゴン/Mist Dragon》や《虹のイフリート/Rainbow Efreet》などローテーションごとに変わっていった。

 その変遷の中で、一度だけノンクリーチャーの青白コンボデッキを経た。それがこの《宿命/Kismet》も入ったステーシスロックデッキ(註)。
(註) ステーシスロック
 どんなデッキかは以下のリンク先を参照のこと。リンク先の区分一覧の中で言うと、タイムステイシスとターボステイシスとクロノステイシスは使った記憶がある。
 http://mtgwiki.com/wiki/%E3%82%B9%E3%83%86%E3%82%A4%E3%82%B7%E3%82%B9

 あらためて思うと本当に相手するにはつまらないデッキだっただろうけど、使う側としては結構楽しかった。あと《宿命/Kismet》と《停滞/Stasis》のイラストも好きだったな。

 そんな思い出話。

原文:
 I put into numerous designs until it was finally accepted in Judgment as the card… wait a minute. Judgment isn’t out yet. Ignore this paragraph. You didn’t read it.
拙訳:
 以降、それに改良を加えていき、そしてようやくジャッジメントで収録してもらえたわけさ。そう、そのカードこそが《陰謀だ……ん? んん? ちょっと待ってくれ……ジャッジメントはまだ発売前じゃないか!?
 ふう。危ないところだった。この段落はあとで消しておかないとね。
 もちろん、君は何も聞いてない。いいね? よし、じゃ次だ。

 ここは訳しててとても楽しかった。あと、一応補足しておくと、おそらく原文で紹介しかけて止めたカードはジャッジメントの《陰謀団式療法/Cabal Therapy》と思われたので、上記のように訳した。

原文:
 I always enjoyed the guessing game this card creates.
拙訳:
 このスフィンクスの謎かけは実に楽しい能力だ。

 ここで元ネタとして紹介されてる《ペトラ・スフィンクス/Petra Sphinx》は個人的に好きなカードで、「敵に使って良し、自分に使って良し」な能力も確かに面白かったし、加えてイラストの淡い色合いも好みだった。

  カード画像:ペトラ・スフィンクス/Petra Sphinx
  https://scryfall.com/card/me1/23/petra-sphinx

 イラストで見事な翼が描かれてるせいで、実は飛行を持っていないと気づくまでちょっとかかった。いや、普通これ見たら飛んでるって思うよね……?

原文:
 Often times in Magic’s past, there was a cool card that was created in the wrong color. These cards provide a perfect ability for designers to reintroduce the card in the proper color.
拙訳:
 マジックの古いカードには、残念なことに、とても良いカードなのに色の設定だけ間違っているというカードが何枚かある。こういったカードを正しい色で再登場させるのもデザイナーの大事な仕事だ。

 これは緑とは思えない直接ダメージ呪文である《嵐の運び手/Storm Seeker》の箇所で、見てのとおり、後半部分はかなり意訳になっている。

 最初は原文に忠実に訳そうと「こういったカードは正しい色で良いカードを再登場させるという素晴らしい機会をデザイナーに提供してくれる」とした。

 ただ原文に引きずられ過ぎてあまりにも歪(いびつ)な日本語に感じられてしまい、悩んだ挙句に上記の意訳と相成った。ここも勝ち負けで言うと負けかもしれない。

原文:
 This card was the inspiration for Temporal Adept in Urza’s Destiny.
拙訳:
 このカードから着想を得て作られたカードはウルザズ・デスティニーの《時間の名人/Temporal Adept》だ。

 これは《時の精霊/Time Elemental》の箇所。

 すでに書いたとおり、《時の精霊/Time Elemental》は当時のステイシスロックで使ったことがあった。そして使ってみて分かったのは「無駄に能力多くてややこしいな」だった。

 パワー0なのにわざわざ「攻撃かブロックしたとき、戦闘終了時にそれを生け贄に捧げ、それはあなたに5点のダメージを与える」とか持ってるし、手札に戻すの能力も、無駄に「エンチャントされていないパーマネント1つを対象」という条件が付いてるし。

 しかも余計なテキストはたくさん付いてるのにも関わらず(どっからどう見ても飛んでるイラストに対して)飛行は持っていないというややこしさ。

  カード画像:時の精霊/Time Elemental
  https://scryfall.com/card/me1/53/time-elemental

 でもイラスト自体は好き。

原文:
 When mining past sets for ideas, designers love to find weak cards that had a cool effect.
拙訳:
 過去のカードの中に「アイデアは良いのに弱すぎて使われなかったカード」を見つけたとき、デザイナーとしてはお宝を掘り当てた気持ちになるね。

 難しかったのは「weak cards that had a cool effect」をどうするか、という点。結果、かなりの意訳となったけど、ここに関しては個人的にいい仕事できたと思ってる。

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