【翻訳】開発中のセットに付けられるコードネームの歴史/Codename of the Game【DailyMTG】
Mark Rosewater
2002年08月12日
元記事:https://magic.wizards.com/en/articles/archive/making-magic/codename-game-2002-08-12-0
そこそこ高級なレストランに行くとコース料理の合間にウェイターが小さなシャーベットを持って来てくれる。次の料理に備えて口の中を一度さっぱりさせてくれる箸休め的な理由だ。
今日のコラムもそれだと思ってくれ。
実のところ、ここ数回に渡って非常に「重たい」内容の記事が続いてしまった。そこで今週は少し「軽い」内容を扱ってもいいかと思った次第だ。
開発部の分厚いカーテンの裏に広がる世界の中でもこれまで紹介してきたものとはまた少し違った一面であり、そして(ここ数回の内容と違って)賛否の議論を生じさせないような内容(だと私が考えている)ネタだ。
セットの開発中の仮の名前、俗に言う「コードネーム」はマジックを構成する要素の中では決して重要度の高いものではない。しかし1つのコラムで取り上げてみるには十分面白いネタではある。
まずはコードをつないで
なぜセットにコードネームが存在するのか? どんな理由があって付けられるのか? うん、よくぞ聞いてくれた。
まずコードネームを必要とする最初にして最大の理由は、単純に開発部がウィザーズオブザコースト社のどの部署よりも製品開発において先んじているからだ。セットに名前を付ける仕事してる部署よりもさらにね。
そのため、今現在どのセットの話をしているのかが分かるような工夫が必要となる……というのがコードネームが必要な理由だ。
さて、なぜコードネームにはいつもふざけた名前が選ばれるのか? いやいや、最初からそうだったわけじゃないんだ。マジックが生まれた当初は、デザインチームが考案したちゃんとした名前が開発中のセットにコードネームとして与えられていた。
そして多くの場合、ウィザーズオブザコースト社がそれを発売する段階になった際、わざわざ変える必要もないか、と判断してコードネーム時の名前のままでセットは出荷されていった。
これで何の問題もなかったんだ。アラビアンナイトやアイスエイジといった名前だった頃はね。じゃあいつ問題になったか、というと、ザ・ダークという名前のセットが生まれてしまったときだ。
セットに問題があったわけじゃない。
ザ・ダークにはいくつもの素晴らしいカードが収録されていた。例えば《ボール・ライトニング/Ball Lightning》や《Preacher》といったカードだ。ここで言及している問題というのはセットの名前、それだけだ。
とりあえず文法的な問題は脇に置いておくとして(正しい英語の文法として「The Dark set」ではなくて「the The Dark set」になってしまうという点とかね)、単純にこの名前には意志が感じられない。
この秋に君たちの元に届くであろう新セット、その名はザ・ダーク!(うおー!)どんなセットかって? えーと、うん、舞台はドミナリアで、とても……ダークな感じだ。(おおー)色々と見えづらくてね。ホラーな感じもあって……ダークな感じで。(おお……)
コードネームの問題点は、というかネーミングという行為それ自体の問題点として、それが根付いてしまうということだ。最初に聞いたときは「なんじゃそりゃ」と思ってしまうような変な名前であっても何百回と聞いてれば「まあ、ありかな」と思えてくる。
そこで開発部は、間違ってもその開発中のコードネームのままでリリースしようなんて考えが起きないように、対策を考えた。コードネームのルールその1、それは「間違ってもそのまま製品化してしまうことのないような馬鹿げた変な名前でなければならない」というルールだ。
そうすることで、関係者全員が「ああ、実際に発売されるときはこの名前のままじゃないんだな」と聞いたその日から理解できるわけだ。
これがルールその1だ。つまりその後も様々なネーミングに関するルールが続々と生まれている(その通り。マジックでルールが定められているのはゲームプレイに関する部分だけじゃない)
どんなルールが生まれたかについては、このあとマジックのコードネームの歴史をご案内していく中で合わせて紹介させてもらおう。さあ歴史ツアーの始まりだ!
▼ アライアンス以前のセットについて
前述のとおり、アライアンス以前のセットに付けられていたコードネームは製品版の名前と同じだ。じゃあ、次にいこうか。
▼ アライアンスのコードネーム:Quack
実は以前にも私のコラムで紹介したことがあるが、アライアンスなど初期のセットは、コードネームをマッキントッシュ(註)のシステム用サウンドファイル名からとっている。
開発部のメンバーがコンピュータ(当時は全てマッキントッシュだった)を立ち上げ、開発ファイルの入ったフォルダを開くとその音が鳴るわけだ。馬鹿げてるって? その通り。だからこそそうしたのさ。
▼ ミラージュのコードネーム:Sosumi
元々のデザイン段階では、ミラージュは「Menagerie(動物園)」と呼ばれていた(ちなみにミラージュのデザイン自体は、アルファ版が発売されるよりも前から始まっている)
その後、ウィザーズオブザコースト社が設立され、このセットが開発部へと渡ったとき、あらためてマッキントッシュのシステム用サウンドファイル名からコードネームを名づけられることとなった。それが Sosumi だ。
という話を記事で紹介したとき、読者からこんな情報が送られてきた:
「なんで「Sosumi」なんていう名前のシステム用サウンドファイルがあるのかについてですが、まずそもそもアップルは以前にアップルレコード(ビートルズ)ともめ事を起こしたことがあって、これは最終的にアップルコンピュータは二度と音楽事業に関わらないという誓約書を交わしたことで決着しました。
その後、アップルが無料のサウンドファイル込みでコンピュータを販売したんですが、あるプログラマが、サウンドを同梱することによってアップルレコードに訴訟を起こされる可能性があるのでは、と考えてシステム用サウンドファイルの1つを『So sue me(訴えてみろよ)』とも読める『Sosumi』(註)と名づけたらしいです」
▼ ビジョンズのコードネーム:Mirage Jr.
実のところ、このセットはコードネームを持たなかった。開発のかなり初期の段階で正式名が決まってしまっていたからだ(これほど早く決まったのはビジョンズが最後だ)
ただ、その正式名(ビジョンズ)が決まるまでのごく短いあいだ、私たちはそれを「Mirage Jr.」というコードネームで呼んでいた。
ああ、そうそう、言い忘れてた。前述した「Menagerie」だが、あまりに大きなセットだったので私たちはそれを2つに分けてリリースすることにした。それが「ミラージュ」と「ビジョンズ」だ。
▼ ウェザーライトのコードネーム:Mochalatte
コードネームにマッキントッシュのシステム用サウンドファイル名を使おうというネタの継続を開発部が諦めたのはこのセットからだ。
諦めた理由はごく単純で、サウンドファイル名のストックが尽きたからだ(念のため付け加えておくと、サウンドファイル名を元ネタにコードネームを付けるという慣習は開発中のセットだけでなく、他のマジック関連商品でも同様に行われていた)
結局、デザインチームはその開発中のセットを空想上のコーヒー的な飲み物の名前で呼ぶことにした。なぜそうなったのかはよく分からないが、おそらくデザインチームのミーティングがよく近くのスターバックスで行われていたからだろうね。
▼ テンペストのコードネーム:Bogavhati
このコードネーム以上に聞いた人を戸惑わせたコードネームはなかったね。
命名の経緯としては、まずテンペストというセットは主要テーマの1つに毒(Poison)があった。そしてマイク・エリオットの提出してきたカード案の1つに《Bogavhati》という名の土地があった。その土地は、対象のクリーチャーを「毒性」にしてくれる代わりにあとで手札へ戻ってしまうというデメリットとセットとなる起動型能力を持っていた。
作成者のマイクにカード名称の由来について尋ねたところ、マイクは「インドの神話が元ネタだ」と教えてくれた。なんでも Bogavhati というのは毒蛇の地だそうだ。毒に関するセット(になると当時は思っていた)の名前にちょうどいいと思われたので、私はセットのコードネームにそれを用いることにした。
ちなみにこの英語名のつづりは、名称を口頭で聞いた私が勝手に作ったものだ。だからグーグルで検索してもマジック関連の記事しか見つからないだろうね。
そうそう。テンペストはその開発中のコードネームをセットに収録されたカードでネタにしている最初のセットでもある。そのカードとは、もちろん《ヴァティ・イル=ダル/Vhati il-Dal》だ。
▼ ストロングホールドのコードネーム:Rachimulot
私は別サイトでトリビアネタのコラム「Question Mark」を連載している(ちなみにsideboard.comだ)。そこでいつか使うかもしれないクイズのネタをここで披露しよう。
問題:マジックのセットのコードネームのうち、マジック以外のトレーディングカードゲームのカードが元ネタとなっているものは?
答えは、Rachimulot だ。これはダンジョンズアンドドラゴンズTCG「Spellfire」に収録されているカード名なんだ。さて、なぜこれが採用されたか。
ストロングホールドのデザインが行われていた頃に Spellfire がカード画像つきで紹介された。その中の1枚である Rachimulot というモンスターのイラストがあまりにも間が抜けてて開発部の皆の印象に残った(排水溝にいるゴム製のネズミのイラストだ)。
それがあまりに面白かったのでストロングホールドのコードネームとして使うことにしたわけさ。
▼ エクソダスのコードネーム:Gorgonzola
開発部が単語それ自体が面白い響きを持っているという理由だけでコードネームに採用し始めたのはこのセットからだったようだ。もしくは、これもダンジョンズアンドドラゴンズTCG「Spellfire」が元ネタだったかもしれないし、そうでなければ単に当時「そろそろ『味の濃い』セットを作らないな」と冗談めかして言っていたことが原因かもしれない。
▼ ウルザズ・サーガのコードネーム:Armadillo
開発部以外がコードネームを決めた最初のセットがこれだ。マジックのブランドチームが未来のセットについて話す必要が生じて際に、そのセットに仮の名前として Armadillo と付けた。
しかし開発部としては、コードネームを決めるのはうちらの分野だという意地があったから、この勝手な行動を厳しく取り締まり、以降そういうことはなくなった(コードネームのことを誰よりも気にしてるのがうちの部署だった、というだけのことかもしれないが)
何にせよ、この Armadillo が採用されたことによってコードネームのルール(面白い響き)はきちんと守られたわけだ。
そうそう、このセットは収録カードでコードネームがネタにされている2つ目のセットでもある。《冬眠/Hibernation》のカードイラストをよく見てくれ。アルマジロがいるだろう?
▼ ウルザズ・レガシーのコードネーム:Guacamole (註)
面白い響きの単語をコードネームにするというアイデアが生まれたとき、真っ先に思いついた候補は Guacamole だった。私が特に好きな「変な名前なもの」だったからだ(もっとも皮肉なことに Guacamole 自体はそれほど好きなじゃない)。思いついてから3セット目でようやく使うことができたよ。
▼ ウルザズ・デスティニーのコードネーム:Chimichanga
先週、アラビアンナイトに革新的なデザインがいくつも含まれていたという話をした。ここでコードネームの革新について紹介しよう。
そう、コードネームのシリーズ化だ。
おっと勘違いしないでくれよ。Chimichanga という単語はそれ単体で十分面白い響きを持っている。しかし同時にそれは1つ前のセットのコードネームと同じテーマ……メキシコ料理という点でも共通しているんだ。
そしてここで起きた命名ルールの革新は、その後のコードネームの方向性を完全に決定づけることとなった。
▼ メルカディアン・マスクス/ネメシス/プロフェシーのコードネーム:Archimedes、Euripides、Dionysius
ブロック全体を通して同じテーマでコードネームが名づけられた最初の例がこのマスクスブロックだ。さて、なぜギリシャ人の名前が並んだのか?
開発部が面白い響きの単語を思いつこうとしていたところ、当時の私のガールフレンド(現在の私の妻)であるローラから Archimedes という提案があった。さて同時にテーマを考える必要があるぞ、というわけで残りの2つもギリシャ人の名前にしたというわけさ。
付け加えると、他のテーマではなくギリシャ人の名前というテーマを選んだ理由は、単に変な響きというだけでなく、つづりが難しいからだ。
開発部はこう考えたんだ。単に響きが変だというだけでも面白いけど、他部署のメンバーが聞いたときにつづりで混乱するような名前だとさらに面白いんじゃないか、とね。
▼ インベイジョン/プレーンシフト・アポカリプスのコードネーム:Beijing、Hong Kong、Shanghai
ご覧のとおりインベイジョンブロックのコードネームは中国の都市名から取られている。マイク・エリオットがこのテーマを選んだ理由は、つづりが分かりづらい名前という直近の方向性に沿ったものだからだろう。ちなみに最初は違う名前が候補だったが、あまりにつづりが難しすぎたため変更を余儀なくされた。
▼ オデッセイ/トーメント/ジャッジメントのコードネーム:Argon、Boron、Carbon
つづりが分かりづらい単語を使って皆を困らせようという私たちの流れに待ったをかけたのがこのオデッセイブロックでのブランドチームのネーミングだった。
ブランドチームは間違えづらくシンプルなコードネームにしたいと考えたんだ。さらにここでコードネームに新たな革新がもたらされた。順序良く並ぶネーミングだ。見ての通りこれらの名前は「A、B、C」とアルファベット順になっている。
しかしなぜ元素名にしたのか……見当もつかない。いずれにせよ「化学なんて人生で使い道ないだろ」って言う人は考えを改めないといけないね。
▼ オンスロート/レギオン/2003年春発売予定のセットのコードネーム:Manny、Moe、Jack
ブランドチームの編み出したABC順の名前の付け方に開発部はちょっとイラッと来たので、代わりにあらかじめ順序の決まっている「3つでセットになっている名称」を使うことにした。
具体的には、オンスロートブロックの開発リーダーであったビル・ローズは Manny、Moe、Jack というコードネームを選択した。これの元ネタはアメリカで車のパーツなどを扱っている会社の名前(Pep Boys: Manny, Moe, and Jack)だ。
だがこのネーミングには1つ問題があった。名前自体に順序があるというルールは満たしていたが、大半の開発部メンバーは Pep Boys が近くにない地域で生まれ育ったせいで「Manny、Moe、Jack」の順序が分からず混乱したんだ。
▼ 2003年秋/2004年冬/2004年春発売予定のセット:Bacon、Lettuce、Tomato
ベーコンのデザインチームのリーダーは私だ。来月、このセットの開発はデベロップメントチームへと引き渡される(ちなみにデベロップメントチームのリーダーはランディ・ビューラーだ)
レタスのデザインはもう間もなく始まる。誰でもすぐにセットの順序が分かるコードネームを用いた初めてのブロックということになる。
▼ 2004年秋/2005年冬/2005年春発売予定のセット:Earth、Wind、Fire
信じるか否かは君次第だが、随分先に思えるこのブロックすらもすでにデザインの初期段階にある(訳注:この記事は2002年08月掲載)。
これらのコードネームはあと少しで Blood、Sweat、Tearsに決まるところだったが、2回続けてブロック最初のセットのコードネームが頭文字「B」で始まるのは好ましくない、という判断で下されたことで別の名称が採用された。
▼ 2005年秋/2006年冬/2006年春発売予定のセット
このブロックにはまだコードネームがないが、現時点の最有力候補は Huey、Dewey、Louie だ。
というわけでこれが現存する全てのコードネームだ。箸休めとしてはちょうど良かったんじゃないかな。次のコース料理はまた7日後に振る舞われるよ。メニューは「マナを必要としないカード」だ(おっと、念のため。土地じゃないぞ)
それまで、私と同じように君たちも自分の仕事を楽しめるよう祈ってるよ。
Mark Rosewater
2002年08月12日
元記事:https://magic.wizards.com/en/articles/archive/making-magic/codename-game-2002-08-12-0
そこそこ高級なレストランに行くとコース料理の合間にウェイターが小さなシャーベットを持って来てくれる。次の料理に備えて口の中を一度さっぱりさせてくれる箸休め的な理由だ。
今日のコラムもそれだと思ってくれ。
実のところ、ここ数回に渡って非常に「重たい」内容の記事が続いてしまった。そこで今週は少し「軽い」内容を扱ってもいいかと思った次第だ。
開発部の分厚いカーテンの裏に広がる世界の中でもこれまで紹介してきたものとはまた少し違った一面であり、そして(ここ数回の内容と違って)賛否の議論を生じさせないような内容(だと私が考えている)ネタだ。
セットの開発中の仮の名前、俗に言う「コードネーム」はマジックを構成する要素の中では決して重要度の高いものではない。しかし1つのコラムで取り上げてみるには十分面白いネタではある。
まずはコードをつないで
なぜセットにコードネームが存在するのか? どんな理由があって付けられるのか? うん、よくぞ聞いてくれた。
まずコードネームを必要とする最初にして最大の理由は、単純に開発部がウィザーズオブザコースト社のどの部署よりも製品開発において先んじているからだ。セットに名前を付ける仕事してる部署よりもさらにね。
そのため、今現在どのセットの話をしているのかが分かるような工夫が必要となる……というのがコードネームが必要な理由だ。
(余談)
元々はここに画像が説明文と共に表示されていたらしいが、現在のアーカイブではその文章のみ表示されている。ちなみに説明文は「開発の初期の段階ではプレイテスト用のカードにもセットの実際の名前ではなくコードネームが記載されることになる」とある。
さて、なぜコードネームにはいつもふざけた名前が選ばれるのか? いやいや、最初からそうだったわけじゃないんだ。マジックが生まれた当初は、デザインチームが考案したちゃんとした名前が開発中のセットにコードネームとして与えられていた。
そして多くの場合、ウィザーズオブザコースト社がそれを発売する段階になった際、わざわざ変える必要もないか、と判断してコードネーム時の名前のままでセットは出荷されていった。
これで何の問題もなかったんだ。アラビアンナイトやアイスエイジといった名前だった頃はね。じゃあいつ問題になったか、というと、ザ・ダークという名前のセットが生まれてしまったときだ。
セットに問題があったわけじゃない。
ザ・ダークにはいくつもの素晴らしいカードが収録されていた。例えば《ボール・ライトニング/Ball Lightning》や《Preacher》といったカードだ。ここで言及している問題というのはセットの名前、それだけだ。
とりあえず文法的な問題は脇に置いておくとして(正しい英語の文法として「The Dark set」ではなくて「the The Dark set」になってしまうという点とかね)、単純にこの名前には意志が感じられない。
この秋に君たちの元に届くであろう新セット、その名はザ・ダーク!(うおー!)どんなセットかって? えーと、うん、舞台はドミナリアで、とても……ダークな感じだ。(おおー)色々と見えづらくてね。ホラーな感じもあって……ダークな感じで。(おお……)
コードネームの問題点は、というかネーミングという行為それ自体の問題点として、それが根付いてしまうということだ。最初に聞いたときは「なんじゃそりゃ」と思ってしまうような変な名前であっても何百回と聞いてれば「まあ、ありかな」と思えてくる。
そこで開発部は、間違ってもその開発中のコードネームのままでリリースしようなんて考えが起きないように、対策を考えた。コードネームのルールその1、それは「間違ってもそのまま製品化してしまうことのないような馬鹿げた変な名前でなければならない」というルールだ。
そうすることで、関係者全員が「ああ、実際に発売されるときはこの名前のままじゃないんだな」と聞いたその日から理解できるわけだ。
これがルールその1だ。つまりその後も様々なネーミングに関するルールが続々と生まれている(その通り。マジックでルールが定められているのはゲームプレイに関する部分だけじゃない)
どんなルールが生まれたかについては、このあとマジックのコードネームの歴史をご案内していく中で合わせて紹介させてもらおう。さあ歴史ツアーの始まりだ!
▼ アライアンス以前のセットについて
前述のとおり、アライアンス以前のセットに付けられていたコードネームは製品版の名前と同じだ。じゃあ、次にいこうか。
▼ アライアンスのコードネーム:Quack
実は以前にも私のコラムで紹介したことがあるが、アライアンスなど初期のセットは、コードネームをマッキントッシュ(註)のシステム用サウンドファイル名からとっている。
開発部のメンバーがコンピュータ(当時は全てマッキントッシュだった)を立ち上げ、開発ファイルの入ったフォルダを開くとその音が鳴るわけだ。馬鹿げてるって? その通り。だからこそそうしたのさ。
(註) マッキントッシュ
今では「マック」のほうが通りが良いコンピュータおよびOSの名称。90年代後半は冗談抜きでパソコンと言えばマック(アップル)だった。部室に転がっていた当時のパソコン雑誌の表紙にデカデカと「10年後、パソコンは全てマックになる」と書いてあったのを未だに覚えている。
▼ ミラージュのコードネーム:Sosumi
元々のデザイン段階では、ミラージュは「Menagerie(動物園)」と呼ばれていた(ちなみにミラージュのデザイン自体は、アルファ版が発売されるよりも前から始まっている)
その後、ウィザーズオブザコースト社が設立され、このセットが開発部へと渡ったとき、あらためてマッキントッシュのシステム用サウンドファイル名からコードネームを名づけられることとなった。それが Sosumi だ。
という話を記事で紹介したとき、読者からこんな情報が送られてきた:
「なんで「Sosumi」なんていう名前のシステム用サウンドファイルがあるのかについてですが、まずそもそもアップルは以前にアップルレコード(ビートルズ)ともめ事を起こしたことがあって、これは最終的にアップルコンピュータは二度と音楽事業に関わらないという誓約書を交わしたことで決着しました。
その後、アップルが無料のサウンドファイル込みでコンピュータを販売したんですが、あるプログラマが、サウンドを同梱することによってアップルレコードに訴訟を起こされる可能性があるのでは、と考えてシステム用サウンドファイルの1つを『So sue me(訴えてみろよ)』とも読める『Sosumi』(註)と名づけたらしいです」
(註) Sosumi
個人的に確認した範囲では、最初に名づけたサウンドファイル名があまりに音楽的(ChimeもしくはXylophone)だったことで、それを理由に訴訟を起こされるのではと保守的な判断を下した上司に名称の変更を指示され、それ以前にも係争のせいで多くの修正が飛んできていたことに苛立っていた担当者(Jim Reekes)は「じゃあ訴えてみろよ」という怒りをオブラートとジョークに包んで「これは音楽とは何ら関係ない日本語です」という説明で「Sosumi」という名で提出した……らしい。
▼ ビジョンズのコードネーム:Mirage Jr.
実のところ、このセットはコードネームを持たなかった。開発のかなり初期の段階で正式名が決まってしまっていたからだ(これほど早く決まったのはビジョンズが最後だ)
ただ、その正式名(ビジョンズ)が決まるまでのごく短いあいだ、私たちはそれを「Mirage Jr.」というコードネームで呼んでいた。
ああ、そうそう、言い忘れてた。前述した「Menagerie」だが、あまりに大きなセットだったので私たちはそれを2つに分けてリリースすることにした。それが「ミラージュ」と「ビジョンズ」だ。
▼ ウェザーライトのコードネーム:Mochalatte
コードネームにマッキントッシュのシステム用サウンドファイル名を使おうというネタの継続を開発部が諦めたのはこのセットからだ。
諦めた理由はごく単純で、サウンドファイル名のストックが尽きたからだ(念のため付け加えておくと、サウンドファイル名を元ネタにコードネームを付けるという慣習は開発中のセットだけでなく、他のマジック関連商品でも同様に行われていた)
結局、デザインチームはその開発中のセットを空想上のコーヒー的な飲み物の名前で呼ぶことにした。なぜそうなったのかはよく分からないが、おそらくデザインチームのミーティングがよく近くのスターバックスで行われていたからだろうね。
▼ テンペストのコードネーム:Bogavhati
このコードネーム以上に聞いた人を戸惑わせたコードネームはなかったね。
命名の経緯としては、まずテンペストというセットは主要テーマの1つに毒(Poison)があった。そしてマイク・エリオットの提出してきたカード案の1つに《Bogavhati》という名の土地があった。その土地は、対象のクリーチャーを「毒性」にしてくれる代わりにあとで手札へ戻ってしまうというデメリットとセットとなる起動型能力を持っていた。
作成者のマイクにカード名称の由来について尋ねたところ、マイクは「インドの神話が元ネタだ」と教えてくれた。なんでも Bogavhati というのは毒蛇の地だそうだ。毒に関するセット(になると当時は思っていた)の名前にちょうどいいと思われたので、私はセットのコードネームにそれを用いることにした。
ちなみにこの英語名のつづりは、名称を口頭で聞いた私が勝手に作ったものだ。だからグーグルで検索してもマジック関連の記事しか見つからないだろうね。
そうそう。テンペストはその開発中のコードネームをセットに収録されたカードでネタにしている最初のセットでもある。そのカードとは、もちろん《ヴァティ・イル=ダル/Vhati il-Dal》だ。
(余談)
元々はここに画像が説明文と共に表示されていたらしいが、現在のアーカイブではその文章のみ表示されている。ちなみに説明文は「この Bogavhati というカードはその名をテンペストのコードネームに転用され、かつテンペストのカード名《ヴァティ・イル=ダル/Vhati il-Dal》としても使われることとなった」とある。
▼ ストロングホールドのコードネーム:Rachimulot
私は別サイトでトリビアネタのコラム「Question Mark」を連載している(ちなみにsideboard.comだ)。そこでいつか使うかもしれないクイズのネタをここで披露しよう。
問題:マジックのセットのコードネームのうち、マジック以外のトレーディングカードゲームのカードが元ネタとなっているものは?
答えは、Rachimulot だ。これはダンジョンズアンドドラゴンズTCG「Spellfire」に収録されているカード名なんだ。さて、なぜこれが採用されたか。
ストロングホールドのデザインが行われていた頃に Spellfire がカード画像つきで紹介された。その中の1枚である Rachimulot というモンスターのイラストがあまりにも間が抜けてて開発部の皆の印象に残った(排水溝にいるゴム製のネズミのイラストだ)。
それがあまりに面白かったのでストロングホールドのコードネームとして使うことにしたわけさ。
▼ エクソダスのコードネーム:Gorgonzola
開発部が単語それ自体が面白い響きを持っているという理由だけでコードネームに採用し始めたのはこのセットからだったようだ。もしくは、これもダンジョンズアンドドラゴンズTCG「Spellfire」が元ネタだったかもしれないし、そうでなければ単に当時「そろそろ『味の濃い』セットを作らないな」と冗談めかして言っていたことが原因かもしれない。
▼ ウルザズ・サーガのコードネーム:Armadillo
開発部以外がコードネームを決めた最初のセットがこれだ。マジックのブランドチームが未来のセットについて話す必要が生じて際に、そのセットに仮の名前として Armadillo と付けた。
しかし開発部としては、コードネームを決めるのはうちらの分野だという意地があったから、この勝手な行動を厳しく取り締まり、以降そういうことはなくなった(コードネームのことを誰よりも気にしてるのがうちの部署だった、というだけのことかもしれないが)
何にせよ、この Armadillo が採用されたことによってコードネームのルール(面白い響き)はきちんと守られたわけだ。
そうそう、このセットは収録カードでコードネームがネタにされている2つ目のセットでもある。《冬眠/Hibernation》のカードイラストをよく見てくれ。アルマジロがいるだろう?
▼ ウルザズ・レガシーのコードネーム:Guacamole (註)
面白い響きの単語をコードネームにするというアイデアが生まれたとき、真っ先に思いついた候補は Guacamole だった。私が特に好きな「変な名前なもの」だったからだ(もっとも皮肉なことに Guacamole 自体はそれほど好きなじゃない)。思いついてから3セット目でようやく使うことができたよ。
(註) Guacamole
メキシコ料理の一種でアボカドを主原料としたペースト状の食べ物。日本語ではグワカモーレ、ワカモレ、ワカモーレなどと表記される。
▼ ウルザズ・デスティニーのコードネーム:Chimichanga
先週、アラビアンナイトに革新的なデザインがいくつも含まれていたという話をした。ここでコードネームの革新について紹介しよう。
そう、コードネームのシリーズ化だ。
おっと勘違いしないでくれよ。Chimichanga という単語はそれ単体で十分面白い響きを持っている。しかし同時にそれは1つ前のセットのコードネームと同じテーマ……メキシコ料理という点でも共通しているんだ。
そしてここで起きた命名ルールの革新は、その後のコードネームの方向性を完全に決定づけることとなった。
▼ メルカディアン・マスクス/ネメシス/プロフェシーのコードネーム:Archimedes、Euripides、Dionysius
ブロック全体を通して同じテーマでコードネームが名づけられた最初の例がこのマスクスブロックだ。さて、なぜギリシャ人の名前が並んだのか?
開発部が面白い響きの単語を思いつこうとしていたところ、当時の私のガールフレンド(現在の私の妻)であるローラから Archimedes という提案があった。さて同時にテーマを考える必要があるぞ、というわけで残りの2つもギリシャ人の名前にしたというわけさ。
付け加えると、他のテーマではなくギリシャ人の名前というテーマを選んだ理由は、単に変な響きというだけでなく、つづりが難しいからだ。
開発部はこう考えたんだ。単に響きが変だというだけでも面白いけど、他部署のメンバーが聞いたときにつづりで混乱するような名前だとさらに面白いんじゃないか、とね。
▼ インベイジョン/プレーンシフト・アポカリプスのコードネーム:Beijing、Hong Kong、Shanghai
ご覧のとおりインベイジョンブロックのコードネームは中国の都市名から取られている。マイク・エリオットがこのテーマを選んだ理由は、つづりが分かりづらい名前という直近の方向性に沿ったものだからだろう。ちなみに最初は違う名前が候補だったが、あまりにつづりが難しすぎたため変更を余儀なくされた。
▼ オデッセイ/トーメント/ジャッジメントのコードネーム:Argon、Boron、Carbon
つづりが分かりづらい単語を使って皆を困らせようという私たちの流れに待ったをかけたのがこのオデッセイブロックでのブランドチームのネーミングだった。
ブランドチームは間違えづらくシンプルなコードネームにしたいと考えたんだ。さらにここでコードネームに新たな革新がもたらされた。順序良く並ぶネーミングだ。見ての通りこれらの名前は「A、B、C」とアルファベット順になっている。
しかしなぜ元素名にしたのか……見当もつかない。いずれにせよ「化学なんて人生で使い道ないだろ」って言う人は考えを改めないといけないね。
▼ オンスロート/レギオン/2003年春発売予定のセットのコードネーム:Manny、Moe、Jack
ブランドチームの編み出したABC順の名前の付け方に開発部はちょっとイラッと来たので、代わりにあらかじめ順序の決まっている「3つでセットになっている名称」を使うことにした。
具体的には、オンスロートブロックの開発リーダーであったビル・ローズは Manny、Moe、Jack というコードネームを選択した。これの元ネタはアメリカで車のパーツなどを扱っている会社の名前(Pep Boys: Manny, Moe, and Jack)だ。
だがこのネーミングには1つ問題があった。名前自体に順序があるというルールは満たしていたが、大半の開発部メンバーは Pep Boys が近くにない地域で生まれ育ったせいで「Manny、Moe、Jack」の順序が分からず混乱したんだ。
(余談)
2003年春発売予定だったセットは「スカージ」という名でリリースされた。
▼ 2003年秋/2004年冬/2004年春発売予定のセット:Bacon、Lettuce、Tomato
ベーコンのデザインチームのリーダーは私だ。来月、このセットの開発はデベロップメントチームへと引き渡される(ちなみにデベロップメントチームのリーダーはランディ・ビューラーだ)
レタスのデザインはもう間もなく始まる。誰でもすぐにセットの順序が分かるコードネームを用いた初めてのブロックということになる。
(余談)
2003年秋/2004年冬/2004年春発売予定だったセットは実際のリリース時にはそれぞれ「ミラディン/ダークスティール/フィフス・ドーン」という名になった。
▼ 2004年秋/2005年冬/2005年春発売予定のセット:Earth、Wind、Fire
信じるか否かは君次第だが、随分先に思えるこのブロックすらもすでにデザインの初期段階にある(訳注:この記事は2002年08月掲載)。
これらのコードネームはあと少しで Blood、Sweat、Tearsに決まるところだったが、2回続けてブロック最初のセットのコードネームが頭文字「B」で始まるのは好ましくない、という判断で下されたことで別の名称が採用された。
(余談)
2004年秋/2005年冬/2005年春発売予定だったセットは実際のリリース時にはそれぞれ「神河物語/神河謀叛/神河救済」という名になった。
▼ 2005年秋/2006年冬/2006年春発売予定のセット
このブロックにはまだコードネームがないが、現時点の最有力候補は Huey、Dewey、Louie だ。
(余談)
2005年秋/2006年冬/2006年春発売予定だったこれらセットは、実際には「Ctrl/Alt/Delete」というコードネームを与えられた。なお実際の製品名はそれぞれ「ラヴニカ:ギルドの都/ギルドパクト/ディセンション」という名前だった。
というわけでこれが現存する全てのコードネームだ。箸休めとしてはちょうど良かったんじゃないかな。次のコース料理はまた7日後に振る舞われるよ。メニューは「マナを必要としないカード」だ(おっと、念のため。土地じゃないぞ)
それまで、私と同じように君たちも自分の仕事を楽しめるよう祈ってるよ。
コメント
あと、やけに喧嘩腰のハンドル名だなあ……と思ったあと、待てよどこかで聞いたことあるセリフだな、と調べてみてハースストーンだと気づけました。危なかった。