はじめに。
 今回の記事は2002年に公式サイトで開催された企画「カードを作るのは君だ!(You Make the Card!)」の選考プロセスについて語られている。この企画は一般プレイヤーたちのアイデアや投票を元に、実際に収録されるカードを1枚作るというもので、2002年から2013年までのあいだに4回開催されている。

 その記念すべき第1回目では「どの色にするか?」「どのカードタイプにするか?」など24段階のステップをプレイヤーたちの投票で決めていく形式だった。この企画の推移などについては以下のサイトに詳しい。

 (MTG Wiki) 第1回:忘れられた古霊/Forgotten Ancient
 http://mtgwiki.com/wiki/%E3%82%AB%E3%83%BC%E3%83%89%E3%82%92%E4%BD%9C%E3%82%8B%E3%81%AE%E3%81%AF%E5%90%9B%E3%81%A0!#.E7.AC.AC1.E5.9B.9E.EF.BC.9A.E5.BF.98.E3.82.8C.E3.82.89.E3.82.8C.E3.81.9F.E5.8F.A4.E9.9C.8A.2FForgotten_Ancient

 今回翻訳した以下の記事は、5ステップ目の「カードの効果をどれにするか?」に関連した内容となっている。

 5ステップ目より前の段階で「色は緑」「タイプはクリーチャー」などの大枠はすでに決まっていて、これらの条件にふさわしい能力を募集したところ5000以上の応募があり、それを開発部側で10個まで絞り込まれたあと、ステップ5で読者投票が行われた。

 以下が絞り込まれたあとの10個の候補たち。

(1)
 CARDNAMEは打ち消されない。
 プロテクション(青)
 CARDNAMEが戦場に出るに際し、クリーチャー・タイプを1つ選ぶ。
 選ばれたクリーチャー・タイプを持つクリーチャー呪文は呪文や能力によって打ち消されない。

(2)
 CARDNAMEが戦場から墓地に置かれたとき、あなたはライブラリーを公開してもよい。そうした場合、対戦相手1人を対象とする。そのプレイヤーはその中から異なる名前のクリーチャー・カードを3枚選ぶ。あなたはその中から1枚を戦場に出し、残りをあなたの墓地に置く。その後、あなたのライブラリーを切り直す。

(3)
 CARDNAMEがいずれかのプレイヤーに戦闘ダメージを与えるたび、あなたはあなたのライブラリーからCARDNAMEという名前のカードを1枚探して、戦場に出してもよい。その後、あなたのライブラリを切り直す。

(4)
 CARDNAMEをブロックできるクリーチャーはすべて、これをブロックする。CARDNAMEがブロックされた状態になるたび、あなたはカードを1枚引いてもよい。

(5)
 クリーチャーでない呪文は、それがエンチャント(クリーチャー)呪文でない限り、それを唱えるためのコストが(1)多くなる。

(6)
 (X)(M),(T):あなたのライブラリーのカードを一番上からX枚公開する。あなたはそれらの中から点数で見たマナ・コストがX以下のクリーチャー・カードをすべて戦場に出す。その後、これにより公開されて戦場に出されなかったすべてのカードをあなたの墓地に置く。
(余談)
 ミラディンの傷跡の《起源の波/Genesis Wave》がかなり近い効果となっている。(X)(緑)(緑)(緑)のソーサリーで「あなたのライブラリーのカードを一番上からX枚公開する。あなたはそれらの中から点数で見たマナ・コストがX以下のパーマネント・カードを望む枚数戦場に出してもよい。その後、これにより公開されて戦場に出されなかったすべてのカードをあなたの墓地に置く」という効果。

(7)
 CARDNAMEは打ち消されない。
 CARDNAMEは呪文や効果の対象にならない。
 CARDNAMEがいずれかのプレイヤーに戦闘ダメージを与えるたび、このターン、そのプレイヤーはインスタント呪文を唱えることができない。

(8)
 CARDNAMEが戦場から墓地に置かれたとき、あなたはそのクリーチャーを次の終了ステップの開始時にオーナーのコントロール下で戦場に出してもよい。

(9)
 各プレイヤーのアップキープの開始時に、あなたがCARDNAMEという名前のパーマネントを4枚以上コントロールしている場合、あなたはこのゲームに勝利する。
(余談)
 ギルド門侵犯の《先端生物学者/Biovisionary》はほぼ同じ効果となっている。(1)(緑)(青)の 2/3 クリーチャーで「終了ステップの開始時に、あなたが《先端生物学者/Biovisionary》という名前のクリーチャーを4体以上コントロールしている場合、あなたはこのゲームに勝利する」という能力を持つ。

(10)
 プレイヤー1人が呪文を唱えるたび、あなたはCARDNAMEの上に+1/+1カウンターを1個置いてもよい。
 あなたのアップキープの開始時に、あなたはCARDNAMEの上からすべての+1/+1カウンターを取り除き、のぞむ数のクリーチャーの上に移動してもよい。

 さて開発部は5000以上もの応募をどうやってこの10個にまで絞り込んだのか? そしてその5000以上もの応募から浮かび上がってきたマジックプレイヤーたちの嗜好の傾向とは? ……というのが今回の記事の内容となる。


【翻訳】プレイヤーが緑に望む効果とそれでも緑には許されない効果について/With Trends Like These【DailyMTG】
Mark Rosewater
2002年04月08日
元記事:https://magic.wizards.com/en/articles/archive/making-magic/trends-these-2002-04-08

 さて「カードを作るのは君だ!(You Make the Card)」のステップ5「どのメカニズムにするか?」(註)のための投票が締め切られた。結果は水曜日に発表される予定だ。

 募集に対してなんと5000以上もの投稿があったわけだが、それらのプレイヤーたちのアイデアにはある種の傾向が見受けられた。せっかくなので今週のコラムでは私が発見したその傾向を皆と共有したい。
(註) ステップ5「どのメカニズムにするか?」
 ステップ5のURLは以下の通り(英語)。今回の投票先となった10個のメカニズム候補が並んでいる。
 https://magic.wizards.com/en/articles/archive/feature/you-make-card-step-5-2002-03-29

 ただその本題に入る前に、今回の企画である「カードを作るのは君だ!」に関連して皆から寄せられた質問に答えておこう。


■問い:どれだけプレイヤー側で決められるのか?(How Much Control?)

 最初に取り上げるのはこの質問だ。カードが作られるにあたって、どれだけプレイヤーの意向が反映されるのか。プレイヤーがどこまで決められるのか。

 シンプルに答えるなら、可能な限りプレイヤーたちに決めてもらうがすべてではない、となる。なぜプレイヤーが全てを決めてしまってはいけないのか?

 その理由は、カードの完成形がプレイヤーたちのデザインにできる限り近いものになって欲しいからだ。うん? どういうことだろうね。

 思い出して欲しいんだが、カードはデザインの段階を経たあと、必ず次の段階を経なければならない。それはデベロップメントだ。

 デベロップメントでは、そのカードと同じセットの他のカードたちとのバランスをみる。いや、セットに限らず、ブロック全体でバランスを崩さないかもみる。

 さらにはスタンダード環境だけでなく、他の構築環境でバランスを崩さないかもだ。そう、いかなる形であってもカードが環境のバランスを害さないよう、チェックするのがデベロップメントの仕事だ。
(余談)
 原文ではここに「これだけあってもプレイヤーたちの青に対する憎悪には足りなかったらしい」という文言が入っている。おそらく何かここに用意されていた画像に対するキャプションらしい。
 ソース見ても画像の内容は分からなかった。多分、青対策のカードだと思うけど……スクラーグノスとか? でも複数なんだよな。

 さて、デベロップメントという段階を経ることを考えたときに選択肢は2つある。

 1つ目は、プレイヤーたちに初めから終わりまで好きにカードを作らせて、出来上がったものをデベロップメントに手渡す。

 2つ目は、デベロップメント側が受け入れ可能な、つまりほぼ変更する必要のない範囲にカードが収まるよう、プレイヤーたちの選択と投票のプロセスを私たちが手助けする。

 そして私たちは後者の選択肢をとることにした。

 なぜか? プレイヤーが好き勝手に決められる自由を得られるかわりに実際のカードが決めた内容とまったく異なってしまうより、プレイヤー自身が選んだ結果と実際のカード内容が一致することのほうが大切だと思ったからだ。

 もちろん、次の質問は「そもそもデベロップメントを通さないといけないものなの?」だろうね。その答えは「すべてのカードは必ずデベロップメントを経る必要がある」だ。

 確かに今回作ろうとしているカードは特別なものだ。しかしスタンダードのバランスを2年間ものあいだ崩し続けるリスクを冒してもよいと思えるほどには特別ではない。

 そのようなわけで、私たちは可能な限りプレイヤーの選択がカードに反映されるように、可能な限りの段階を順に踏んでいるわけだ。

 プレイヤーたちはカードのあらゆる要素を決定してもらう。たとえばマナコストだ。しかしそれは限られた選択肢の中から選んでもらうことになる。バランスのとれた(そしてそのうえで強い)カードであるためにね。


■問い:140文字制限はどうなった?(What Happened to the 140-Character Limit?)

 今回絞り込まれたメカニズムの中にはいくつも「140文字制限」を守れていないものがあるじゃないか、という指摘をいただいている。その通り、私たちはメカニズムを募集するにあたって「140文字以内」という制限を設けていた。

 実は、応募された文章は応募された時点では全てきちんと140文字に収まっていたんだ。

 ただ皆に選んでもらうにあたり、きちんとカードの効果を理解してもらうため、正規のルールテンプレートに沿った形に直したらどうなるかのチェックを事前に行ったんだ。

 大体の応募作品はルールテンプレートに沿った形にすることで文字数が元より増えてしまい、結果として投票する候補作品には140文字以上のメカニズムが並んだというわけさ。


■問い:なぜ投票先は10個しかないのか?(Why Only Ten Choices?)

 なぜ応募された5000以上ものメカニズムのうち、投票可能なものがたった10個しかないのか。

 それは投票を簡単にするためだ。

 いや、まあ確かに君たちの中にも「5000個以上の応募? 簡単さ、全部目を通してやるよ!」なんて猛者もいるだろう。しかし読者の大半は正直なところそこまで求めてないはずだ。

 また全応募を掲載するデメリットは他にもある。たとえばその場合、すべてのカードをルールテンプレートに沿った形に直すことができなくなる。時間が足りない。

 君たちが楽しめるよう、私たちはかなりの労苦を支払って5000個以上の中から10個に絞り込んだ。応募されたメカニズムのアイデアのすべてとは言わないが、そのかなりの部分を取り入れることが出来たはずだ。


■問い:なぜこの10個なのか?(Why These Ten Choices?)

 最後に取り上げたいのは、私たちがどうしてこの10個に絞り込んだのか、という問いだ。まず、選ばれた10個のメカニズムの選択基準はいくつかある。

 1つ目として、私たちは面白そうと感じられるカード効果を選んだ。もちろんプレイヤーによって何を面白いと感じるかは異なるわけで(これについて論じた記事(註)があるので詳しく知りたい人は目を通してみてくれ)、私たちはより多くのプレイヤーにとって魅力的な品揃えとなるよう、可能な限りバラエティに富んだ投票先を用意したつもりだ。
(註) これについて論じた記事
 原文では以下のURLへリンクが張られている。タイトルが「Timmy, Johnny, and Spke」というコラムで、マジックのプレイヤーは大きく3つのタイプに分かれると分析した記事。
 https://magic.wizards.com/en/articles/archive/making-magic/timmy-johnny-and-spike-2002-03-11

 非公式の和訳版がDiarynoteにある。
 https://imatoki.diarynote.jp/201511031001008365/

 2つ目として、私たちは過去に緑のカードが成し得ていない効果を持つカードをより優先的に選んだ(応募作の中には過去に登場済みの効果を持ったものも多く存在した)

 最後に3つ目として、応募作の傾向から、より多くのプレイヤーが登場を望んでいるとおぼしき効果を選ぶことにした。応募作の傾向? どんな傾向があったというんだ?

 そう、それこそが今日のテーマだ。ようやくだね。


■傾向は手段を正当化する(The Trends Justify the Means)

 皆からの応募に目を通していて特に興味深かったのは、そこにある種の強い傾向が読み取れたことだ(その通り。私は実際にすべての、つまり5000個以上の応募作すべてに目を通した)。

 たとえば特定のアイデアを何度も何度も目にした。これには私もデザイナーとしてなかなか啓発されるものがあった。

 君たちが緑のクリーチャーというカードに何を求めているのか、何を望んでいるのか。それを知るとっかかりとなってくれたからね。

 さて、私が読み取った主な傾向を紹介してみよう。

▼ 青対策(Anti-Blue)

 黒対策となるカードのアイデアはいくつ投稿されたか、というと、そうだね、5000個の投稿うち大体30個くらいだろうか。

 それに対して、青対策となるカードはいくつあったか? おおよそ1000個だ。全体の約5分の1が青対策だったわけだ。

 私が数字を盛ってるんじゃないか,と疑う人もいるかもしれないね。いや、そんなことはないよ。どうやらかなりの数のプレイヤーが心の底から青を嫌っているようだ。

 ん? なぜか、って? いや、私の中でも一応すでにいくつかの仮説は思いついてはいるんだが、これについてはもう少し掘り下げてから話そうと考えている。いつかね。

▼ 呪文や能力の対象にならない(Can’t be the target of spells or abilities)

 おおよそだが10枚に1枚は「対象にならない」ことに関連したカードだった。ここから伝わってくるメッセージは「このクリーチャーをほっといてくれ、邪魔しないでくれ」という気持ちだ。

 6マナ以上を支払って緑のトランプル付きのクリーチャーを召喚した次のターンに、相手から2マナをタップして《終止/Terminate》を唱えられたことがあるプレイヤーたちのフラストレーションが伝わってくるようだ。よく分かるよ。

▼ 打ち消されない(Can’t be countered)

 ああ、うん、分かった分かった、その通り。確かにこれは1つ目に挙げた「青への対抗手段」のバリエーションの1つに過ぎない。ただ、これ単体で見かけることが本当に何度も何度もあって、別枠として取り上げるに値すると思われたんだ。

 おっと言い忘れるところだった。君たちのご想像の通り、この効果は前述の「対象にならない」とセットで登場することが多かったよ。

▼ +1/+1カウンター(+1/+1 counters)

 今回の試みで分かったことの1つは、君たちプレイヤーの中には+1/+1カウンター好きが非常にたくさんいる、ということだね。特に「~が起きるたび」にクリーチャーの上にカウンターを加える、という効果が多くみられた。

▼ クリーチャー・タイプ1つを選ぶ(Choose a creature type)

 そしてまた今回の試みで分かったことは、君たちプレイヤーの中には非常に多くの種族デッキ好きがいるということだ。選ぶことで何が起きるかの効果はバラエティに富んでいたが、特に多かったのはそのクリーチャー・タイプ全員に+1/+1の修整を付与するというものだ。

(余談)
 原文ではここに「皆から伝わってきたメッセージの中で特に目立ったものの1つは『大切な人を殺さないで』というメッセージだ」という文言が入っている。おそらく何かここに用意されていた画像に対するキャプションらしい。
 ソース見ても画像の内容は分からなかった。少し前に名前が挙がってる除去呪文の《終止/Terminate》かもしれない。

▼ 戦場から墓地に置かれたとき(When CARDNAME goes to graveyard from play)

 おそらくだが、この効果の根源にあるのは前述の「対象にならない」と同じ気持ちだろう。一言でいえば「このクリーチャーを殺さないでくれ」ということだ。

 また興味深い点として、この「戦場から墓地に置かれたとき」の効果のほうが「戦場に出たとき」の効果よりも多く投稿されていた。


 ……というわけで、先週の候補たちを見てもらえば分かる通り、最終候補に残った10個の効果はこれらの傾向と大きなかかわりを持っている。

 もちろんこれらとは異なる効果も確かに存在していた。他の色のものとされる効果を緑にも取り入れられないか、と頭をひねったプレイヤーたちの投稿作が以下だ。

▼ 対象のクリーチャーを破壊する(Destroy target creature)

 緑がもっとも苦手とすることはクリーチャー破壊だ。

 多くのプレイヤーが、今回作られるクリーチャーでこの弱点を補えないだろうか、と考えたようだ(その多くはタップ能力で相手を破壊しようとしていた)

 確かに私たちも緑の可能性を広げるアイデアを望んではいたが、緑という色を定義づける象徴的な弱点を失わせることまでは考えていなかった。

▼ クリーチャーかプレイヤーにX点のダメージを与える(Deal X damage to target creature or player)

 次に人気のあった弱点補強のアイデアがこれだ。そう、直接ダメージを与える能力をクリーチャーに与えるというものだ。

 対象が限定されてさえいれば問題のない能力だが(例えば飛行クリーチャーのみを対象にできるなど)、制限のない直接ダメージはクリーチャー破壊と同じ問題を抱えている。あまりに「緑ではない」んだ。

▼ 対象の呪文を打ち消す(Counter target spell)

 3番目に人気のあったのが呪文を打ち消す起動型能力をつけるというものだ。

 色の候補を皆に選んでもらったとき、1位の緑に次ぐ投票数を集めた色が青だった。その票を投じてくれたプレイヤーたちにこそ、この能力に人気があったことを伝えておきたい。

 いや、もしかしたらそのプレイヤーたちが青のクリーチャーのために温めていたアイデアをあらためて投稿したのかもしれないけどね。

 いずれにせよ、この能力は前述の2つの能力と同様、根本的に「緑ではない」という1点で却下されてしまった。


 ……というわけだ。今日の私の書いた内容がまたちょっとした議論の種となるであろうことは想像に難くない。

 もし「カードを作るのは君だ!(You Make the Card!)」の選考過程に君も一石を投じたいと思ったなら公式サイトの掲示板に君のコメントを書き込んでくれ。

 さて、来週は特に評判の悪かったあのカードタイプ(註)について語ろうと思う。それまでのあいだ、君が一票投じた能力が一番票を集めるよう祈ってるよ。

 マーク・ローズウォーター
(註) 特に評判の悪かったあのカードタイプ
 この次の週は「エンチャント(クリーチャー)」についてのコラムだった。2020年現在でいう、エンチャント・タイプがオーラの呪文のうち、クリーチャーを対象とするもの(この説明でルール的に正しいか自信がないけど)。

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