騙し討ち/Sneak Attack - ウルザズ・サーガ
私がこのカードを作った理由は、その色のフレイバーが自然とにじみ出るようなカードを各色にデザインしようとしていたからだ。
そこで赤のカードとして、これだ、と思ったのは「短期的アドバンテージで、長期的ディスアドバンテージ」というアイデアだった。
赤という色は衝動的に行動し、長期的な影響を視野に入れずに実行に移してしまう。このフレイバーに特化すればいいカードが出来るぞ、と私は考えたわけだ。
さて、後に得られる何かを諦めることをコストに即座に利益を与えてくれる、というのを赤で表現するにはどうすればいい?
加えて言うなら、赤という色のフレイバーに忠実であるべく、そのカードから得られる効果は攻撃的であるべきだと私は感じた。
赤が長期的なアドバンテージを諦めるのは、対戦相手の顔にドデカい何かを叩きつけてやりたいから……いや、「今すぐ叩きつけてやりたい」からだ。
過去の経験が、クリーチャーと絡めてはどうだろう、という考えへ導いてくれた。
どうすれば通常より早くクリーチャーを活用できるだろうか。マナをいくらか払うことで戦場に出せるとしたらどうだろう?(もちろん速攻付きでだ。攻撃できなきゃ意味が無い。私たちが今話しているのは「赤」についてなんだぜ?)
それは非常な強力な効果だろう。
じゃあ、デメリットはどうする?
それは悩むまでもないように思われた。そのクリーチャーはターン終了時に死んでしまうのさ。実に「赤」っぽいじゃないか。
このカードは結構古い時代のものだから、もしかしたら君たちの中にはこのカードを使ったり敵に回したりする機会に恵まれなかった人もいるかもしれない。
そこで、このカードが世に出たときに何が起きたかを教えておこうと思う。
このカードは強かった。
ただ私が予想していた方向とは少々異なる方向に、だった。このカードを強からしめたのは、戦場に出たそのターンに強さの大半を発揮するクリーチャーたちが存在していたためだ。
例えば「戦場に出たとき」の能力(もしくは同じように「戦場を離れたとき」)を持つクリーチャーは《騙し討ち/Sneak Attack》と素晴らしいシナジーを形成した。
なぜなら戦場に置いて1ターンあれば彼らの脅威は十分に発揮出来たからだ。
他のカードで言えば《ボール・ライトニング/Ball Lightning》(通常、ターン終了時に生け贄に捧げられてしまう)のようなカードも、2ターン目以降の命を失う代わりに少ないマナでプレイできるという取引に喜んで応じた。
最後に、このカードの起動コストは赤のみであったため、赤デッキに他の色のクリーチャーを(1ターンに限ればの話ではあるが)戦場へ出すことを可能にしてくれた。
このカードからは興味深い教訓を得たが、その教訓とは、長いこと《騙し討ち/Sneak Attack》をそのオリジナルほどの強さを発揮しないようにリメイクしようと試みた挙句に、ようやく得られたものでもある。
(リメイクについては、それなりに成功した例も多少はあったが、いずれも《騙し討ち/Sneak Attack》の出来には達しなかった)
デザイナーはカードの強さがどこから来ているのかを理解する必要がある。しかしそれはカードをリメイクするためではない(とはいえリメイクの必要が生じることはあるが)。
プレイテストに持ち込むのに妥当な強さのカードを作れるようになるためだ。
さて《騙し討ち/Sneak Attack》の何がそこまで強かったのだろうか。
(そのとおり、一般常識から鑑みて《騙し討ち/Sneak Attack》の強さは超えてはならないレベルを超えていた。だからこそ私たちはこのカードを決して再版しなかった。コアセットやエキスパートセット、そしてさらにはタイムシフトでも再版の候補として挙がったにも関わらず、これは再版されなかった)
もっとも大きな問題点は、マジックの基本に関わるものだ。私たちはプレイヤーにマナコストを踏み倒す手段を与えてしまった。マナコストはカードの強さをコントロールするためのキーとなるものなのに。
さらに、私たちの与えたその手段には十分なデメリットが付随せず、あまりにお手軽すぎた。当初、私が重いデメリットとなるであろうと考えていた「クリーチャーを1ターンしか得ることができない」という制約は、想像以上に軽すぎたことが証明された。
2つ目の問題点、プレイヤーに他の色のカードを簡単にプレイさせてくれるカードはパワーレベルが跳ね上がる、ということは、このカードによって証明された。
最終的に私が学んだのは、多くのクリーチャーは1ターンもあれば十分にその力を発揮できる、ということだ。
奸謀/Conspiracy - メルカディアン・マスクス
このカードが生まれた理由は 傭兵/Mercenary に負うところが大きい。
(念のため。R&Dが雇っている助っ人たちを指して傭兵と言っているわけではない。私たちは雇い入れた助っ人のうち、その大半をすでに切っている。あの大々的な「助っ人募集」(註12)を覚えている人も多いだろう)
そうじゃないんだ。
私が取り上げたいのはメルカディアン・マスクス・ブロックにいた、ライブラリーから次から次へと仲間を戦場へ引っ張りだしてくれるクリーチャーだ……違う、レベル/Rebel じゃない。
レベル/Rebel はこのメカニズムをあまりに強力な形で持ってしまった。その結果、いくつものフォーマットを歪めてしまった。
違うんだ。このメカニズムを持った、もう片方について話そうと思っている。
知ってのとおり、レベルたちは互いにつながっている。小さい奴らがデカい奴らを呼び出せる。
しかし、いかなる理由かは不明だが、傭兵/Mercenary は逆方向に働いた。小さい奴らがさらに小さい奴らを呼び出したんだ。
そんなこんなで、レベル/Rebel が 傭兵/Mercenary に多少優れていることはプレイテストの段階で明らかになった。
そしてこの「多少優れている」というのは、本当にありとあらゆる面で優れていたのだ。デザイナーとして、私はなんとか 傭兵/Mercenary デッキを援護したかった。
デッキの全てのカードを 傭兵/Mercenary にすることが出来たらどうだろう、というアイデアが浮かんだのはそのときだ。
そうすれば、君は手元の 傭兵/Mercenary を使ってデッキの中にいる好きなクリーチャーを呼び出せるようになる。
ああ、分かった分かった、デッキの中にいる好きなクリーチャー(ただしマナコストがより安いもの)を呼び出せるようになる。これ以上は譲れないぞ。
しかし「デッキの中にいる全てのクリーチャー・カードは 傭兵/Mercenary である」というカードは、少々用途が狭すぎるように感じられた。
じゃあ、こうしてみたらどうだろう。
それはライブラリーだけじゃなくて君の全てのカードを、傭兵/Mercenary に限らず好きなクリーチャー・タイプに変えてくれるんだ。
オンスロートブロック(すなわち部族デッキ)が到来するのまでにはまだ数年を残していたが、それでもクリーチャータイプを考慮するカードは当時からすでにそこかしこに存在していた。
全て上手く行くかに見えた。
たった1つの問題を除いては。
なんで黒の魔法が君の全てのクリーチャーのタイプを変更できるんだ? それは、青の仕事じゃないのか?
その通り、と認めざるを得ない。
しかしこのカードはあくまで 傭兵/Mercenary を助けるために作られたのだ。このカードを青に転じてしまっては本末転倒だ。そこで私は、フレイバー付け次第でこの問題は乗り越えられる、と主張した。
つまりね、なんでクリーチャータイプが変更されてしまうかというと、それは陰謀によるものだったのさ。
へえ、なるほど、陰謀ね。
それは確かに黒っぽいね。
私がこのカードから得たデザイン上の教訓は、それすなわち上記の決断をどれだけ後悔しているかということに他ならない。
この効果は黒の担当ではない。
(黒の効果でもっとも近いものがあるとすれば、全てのクリーチャーを既存の黒特有のクリーチャータイプで上書きするというものだろう。その場合でも、そこにはおそらく、なぜ全てのクリーチャーがゾンビだか何だかに変わってしまったのかを説明するような追加効果が付随するはずだ)
メカニズムを無理やりフレイバーで正当化しようとするのは、労力を惜しんだみっともないデザインでしかない。私が 傭兵/Mercenary を助けたかったのであれば、青い何かに頼るのではなく、あくまで黒い何かを模索すべきだったのだ。
破滅的な行為/Pernicious Deed - アポカリプス
マジックのデザインにおける楽しみの1つに、あるカードから別のカードが生まれる過程を観察することが挙げられる。
その好例が《ネビニラルの円盤/Nevinyrral’s Disk》だ。
このカードはシンプルで有能だった。あまりに有能であったため、特定の色が持つべき弱点を補完するために使われるようになり始めた。
例えば、青はパーマネント破壊が苦手だった。しかし《ネビニラルの円盤/Nevinyrral’s Disk》を手にした青はその問題を乗り越えてしまった。
またさらに言うと、このカードのパワーレベルはあまりに高いため、ついにはメタゲームを歪めるほどになった。
そのようなわけで、ラリー・ニーヴンの円盤(註13)は封印されることと相成った。
それから何年もの間、様々なデザイナーがこの《ネビニラルの円盤/Nevinyrral’s Disk》を新たな形で再誕させる方法を捜し求めた。
私もその例外ではない。
ウルザズ・デスティニーのデザインを担当していたとき、私は新たな円盤を手がける決心をした。私の生み出した再誕の解は《火薬樽/Powder Keg》だ。
このカードの意図するところは、リセット能力を持たせつつも(全てを破壊するのではなく)あくまで限られた一部のグループを破壊する、というものだった。
デベロップメントの段階で、何度も議論されたのは、このカードの効果が及ぶ範囲が「点数で見たマナ・コストが、火薬樽の上に置かれた導火線カウンターの数に等しい」であるべきか、それとも「点数で見たマナ・コストが、火薬樽の上に置かれた導火線カウンターの数以下」であるべきか、ということだ。
当時、私は「どちらの効果であっても十分に面白いが、デザインの観点から鑑みるに前者であるべきだ」と主張した。個人的に、一度に対処できるのが特定のマナ域のみ、というアイデアが気に入っていたからだ。
これによって、プレイするのが楽しいだけでなく、新たにカウンターを加えるかどうか決断する際に興味深い緊張感を生み出すはずだ、と感じていたのがその理由だ。
最終的に私の意見が通り、《火薬樽/Powder Keg》はそのように印刷された(つまり、十分な数のデベロッパーを私の側につくよう説得できたということだ)。
しかし頭の片隅では、もう片方のアイデアもカード化するに十分値するものだ、ということを理解していた。そこでインベイジョンのデザインをする際に、私は《破滅的な行為/Pernicious Deed》を作ったのだ。
破壊したいものはアーティファクト、クリーチャー、そしてエンチャントだということは分かっていた。
(土地は破壊したくなかった。なぜなら、円盤がそうであったように、マナを阻害することなくリセットすることでプレイヤーたちが素早く場を復帰出来るようにしたかったからだ)
色として、青は明らかにふさわしくない。また全体破壊をするときに何を破壊して何を破壊しないかを選択するという効果は白には似つかわしくないように感じられた。
残った色は黒、赤、そして緑だ。
黒も赤もエンチャントを破壊することが出来ないのだから、緑は必須だ。
赤よりも黒がふさわしかった理由は、ダメージによらないクリーチャー破壊は私には赤っぽくないように感じられたためだ。確かに黒は赤と違ってアーティファクト破壊が苦手だが、幸いそれは緑の得意分野だ。よって、それは問題にはならなかった。
そのような経緯で決断はなされ、《破滅的な行為/Pernicious Deed》の色は黒緑と相成った。
1つ、小さな問題があった。
インベイジョンのデザインの最中、私たちは全ての敵対色マルチカラーのカードは最後のセットまで温存しとこう、と決めた。そのほうが面白くなると考えたためだ。
しかしそれでは《破滅的な行為/Pernicious Deed》へ「アポカリプスが来るまで待っててねファイル」に閉じこもっていろ、と命ずることになる。
何らかの形で待機を命じられたカードは、そのまま時の狭間に消え去ってしまうことが多い。なぜなら新たなデザイン・チームは、自分たちのセットを自分たちのカードで構築しようとするためだ。
ところがアポカリプスのデザイン・チームは、Billの試みで、初めてデザイナーを務めるメンバーばかりで構成されていた。
彼らはインベイジョン・デザイン・チームが作ったカードに興味津々だった。結果、《破滅的な行為/Pernicious Deed》は無事セットに収録されたというわけだ。
《破滅的な行為/Pernicious Deed》に関する話で、私のお気に入りは、最後のぎりぎりになってその名前が変更された件だ。
当時、クリエィティブ・チームは急激な成長に伴う痛みの最中にあったため、新たなメンバーを雇い入れることができるまでは私がカード名とフレイバーテキストをチェックすることになっていた。
その一環として、私はアポカリプスのカード名に問題がないか、最後の最後になって目を通すこととなった。
ざっと眺めただけでも、問題のある名前が見つかった。
1つ目として、そこには Spirit Link 能力(註14)を持っていないにも関わらず《Spirit Lynx》と名づけられたカードがあった(Spirit Link 能力というのは、今でいう 絆魂/Lifelink の能力だ)。
これは混乱を招くことになるから変更する必要がある、と私は言った。
2つ目は《破滅的な行為/Pernicious Deed》だ。
変更前の名は《Planar Bombardment》だった。
この名前の何が問題かというと、《破滅的な行為/Pernicious Deed》は既に同じブロックに収録されていた《次元の門/Planar Portal》と《次元の被覆/Planar Overlay》のいずれとも関連性を持たないカードだということだ。
そこで私は最後の瞬間になって、このカードの名前を変える決断を下した。
ここで問題が生じた。
この決断は作業の本当に最後ギリギリになってから下されたため、すでにカード番号は変更不可能な段階だった。
それが何を意味するかというと、変更後の名前も現在と同じ順目に収まるカード名でなければならなかったのだ(マルチカラーは単体の色とみなして番号がふられている)。
《Spirit Lynx》の新しい名前は《義務と道理の盾/Shield of Duty and Reason》と《軍旗の旗手/Standard Bearer》の間に収まるものである必要があった。
幸運なことに解決策は意外と簡単に見つかり、このカードは《幽体オオヤマネコ/Spectral Lynx》と名づけられた。
それに対して《破滅的な行為/Pernicious Deed》の命名は難航した。
これの名前が入るべき隙間は《草茂る屋敷/Overgrown Estate》と《パワーストーンの地雷原/Powerstone Minefield》の間にあった。
《Spirit Lynx》と違い、なかなか天啓は降りてきてくれなかった。
このような事態が発生したときの常として(そして君たちが考えているよりもこの問題はずっと高い頻度で発生するのだが)、私たちは辞書へ向かった。
私たちは「Overgrown」の項目から読み始めた。
「Pernicious」まで来たとき、私はその意味を読む必要があった。正直に言おう。この単語を見たのはこのときが初めてだったからだ。
意味は「知らぬ間に損害や破滅を生じさせる; 死に至る危険性; 致死性の」だそうだ。
まさに私たちが捜し求めていたものじゃないか。
この単語に少々懐疑的なメンバーもいた。何しろそれはあまり聞きなれない単語だったからだ。
私の回答としては「これはレアだし、Pernicious という言葉の響きはカッコいい。そういうことをさておいても、MTGのプレイヤーたちのボキャブラリを増やすのは別に悪いことじゃないだろう?」
それから何年も経ったある日のこと、私はあるプレイヤーから手紙をもらった。彼はSAT(註15)を受験した直後だったそうだ(アメリカに住んでいない人のために説明しておくと、SATとは重要な大学入学試験の1つだ)。
彼の書いたところによると、その試験の単語を問う設問で「Pernicious」が出てきたらしい。そしてもしマジックを遊んでなかったら絶対に分からなかっただろう、とのことだ。
(余談だが、もし読者の中に「学校生活の中でマジックがこんな風に役に立った」という面白い話を知っていたら、ぜひとも私に知らせてくれ)
私がこのカードから得た教訓、それは他のカードで却下されたアイデアにも注意を払うこと、だ。
あるアイデアが、そのときのカードの問題を解決できなかったとしても、かわりに他のカードに対して有効に働くということはよくある話だ。
よいデザインを心がけたいのであれば、ある問題に対して提案はされたが使われなかった解決法が、もしそれ自体はいいアイデアであればきちんと記録しておくことだ。
ちょっと待った、まだまだあるぞ
このコラムを書き始めた段階では、10個のエンチャントについて書くつもり満々だった。何しろ、私は10個の異なるブロックそれぞれでエンチャントをデザインしたんだからね。
しかし、5つ目のエンチャントについて書き上げて文字数チェックを走らせたところ、すでに3000語を超えていることが判明した。
私は次のコラム担当者と同じくらい(もしくはそれ以上に)書くことが大好きだが、私はこれを毎週やらなくちゃいけないんだ。
来週またコラムを書かないといけないことを考えると、無理して6000語以上のコラムを書こうとするのはおかしな話だ。だから私はこれを前編と後編に分けることにした。
来週は、後半の5つのブロックぞれぞれのエンチャントについて分析し、デザインに関する話を披露しようと思う。君たちがこういうコラムを面白いと思ってくれることを願っているよ。
今週はこれまで。
来週のテーマは……って、聞いてなかったのか? たった今、来週何を話すか伝えたばかりだよ。それまで、平日が過ぎるのを楽しみに待っていてくれ。
Sneak Attack / 騙し討ち (3)(赤)
エンチャント
(赤):あなたは、あなたの手札にあるクリーチャー・カードを1枚戦場に出してもよい。そのクリーチャーは速攻を得る。次の終了ステップの開始時に、そのクリーチャーを生け贄に捧げる。
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Sneak+Attack/
私がこのカードを作った理由は、その色のフレイバーが自然とにじみ出るようなカードを各色にデザインしようとしていたからだ。
そこで赤のカードとして、これだ、と思ったのは「短期的アドバンテージで、長期的ディスアドバンテージ」というアイデアだった。
赤という色は衝動的に行動し、長期的な影響を視野に入れずに実行に移してしまう。このフレイバーに特化すればいいカードが出来るぞ、と私は考えたわけだ。
さて、後に得られる何かを諦めることをコストに即座に利益を与えてくれる、というのを赤で表現するにはどうすればいい?
加えて言うなら、赤という色のフレイバーに忠実であるべく、そのカードから得られる効果は攻撃的であるべきだと私は感じた。
赤が長期的なアドバンテージを諦めるのは、対戦相手の顔にドデカい何かを叩きつけてやりたいから……いや、「今すぐ叩きつけてやりたい」からだ。
過去の経験が、クリーチャーと絡めてはどうだろう、という考えへ導いてくれた。
どうすれば通常より早くクリーチャーを活用できるだろうか。マナをいくらか払うことで戦場に出せるとしたらどうだろう?(もちろん速攻付きでだ。攻撃できなきゃ意味が無い。私たちが今話しているのは「赤」についてなんだぜ?)
それは非常な強力な効果だろう。
じゃあ、デメリットはどうする?
それは悩むまでもないように思われた。そのクリーチャーはターン終了時に死んでしまうのさ。実に「赤」っぽいじゃないか。
このカードは結構古い時代のものだから、もしかしたら君たちの中にはこのカードを使ったり敵に回したりする機会に恵まれなかった人もいるかもしれない。
そこで、このカードが世に出たときに何が起きたかを教えておこうと思う。
このカードは強かった。
ただ私が予想していた方向とは少々異なる方向に、だった。このカードを強からしめたのは、戦場に出たそのターンに強さの大半を発揮するクリーチャーたちが存在していたためだ。
例えば「戦場に出たとき」の能力(もしくは同じように「戦場を離れたとき」)を持つクリーチャーは《騙し討ち/Sneak Attack》と素晴らしいシナジーを形成した。
なぜなら戦場に置いて1ターンあれば彼らの脅威は十分に発揮出来たからだ。
他のカードで言えば《ボール・ライトニング/Ball Lightning》(通常、ターン終了時に生け贄に捧げられてしまう)のようなカードも、2ターン目以降の命を失う代わりに少ないマナでプレイできるという取引に喜んで応じた。
最後に、このカードの起動コストは赤のみであったため、赤デッキに他の色のクリーチャーを(1ターンに限ればの話ではあるが)戦場へ出すことを可能にしてくれた。
このカードからは興味深い教訓を得たが、その教訓とは、長いこと《騙し討ち/Sneak Attack》をそのオリジナルほどの強さを発揮しないようにリメイクしようと試みた挙句に、ようやく得られたものでもある。
(リメイクについては、それなりに成功した例も多少はあったが、いずれも《騙し討ち/Sneak Attack》の出来には達しなかった)
デザイナーはカードの強さがどこから来ているのかを理解する必要がある。しかしそれはカードをリメイクするためではない(とはいえリメイクの必要が生じることはあるが)。
プレイテストに持ち込むのに妥当な強さのカードを作れるようになるためだ。
さて《騙し討ち/Sneak Attack》の何がそこまで強かったのだろうか。
(そのとおり、一般常識から鑑みて《騙し討ち/Sneak Attack》の強さは超えてはならないレベルを超えていた。だからこそ私たちはこのカードを決して再版しなかった。コアセットやエキスパートセット、そしてさらにはタイムシフトでも再版の候補として挙がったにも関わらず、これは再版されなかった)
もっとも大きな問題点は、マジックの基本に関わるものだ。私たちはプレイヤーにマナコストを踏み倒す手段を与えてしまった。マナコストはカードの強さをコントロールするためのキーとなるものなのに。
さらに、私たちの与えたその手段には十分なデメリットが付随せず、あまりにお手軽すぎた。当初、私が重いデメリットとなるであろうと考えていた「クリーチャーを1ターンしか得ることができない」という制約は、想像以上に軽すぎたことが証明された。
2つ目の問題点、プレイヤーに他の色のカードを簡単にプレイさせてくれるカードはパワーレベルが跳ね上がる、ということは、このカードによって証明された。
最終的に私が学んだのは、多くのクリーチャーは1ターンもあれば十分にその力を発揮できる、ということだ。
奸謀/Conspiracy - メルカディアン・マスクス
Conspiracy / 奸謀 (3)(黒)(黒)
エンチャント
奸謀が戦場に出るに際し、クリーチャー・タイプを1つ選ぶ。
あなたがオーナーである戦場に出ていないクリーチャー・カードと、あなたがコントロールするクリーチャー呪文と、あなたがコントロールするクリーチャーは選ばれたタイプである。
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Conspiracy/
このカードが生まれた理由は 傭兵/Mercenary に負うところが大きい。
(念のため。R&Dが雇っている助っ人たちを指して傭兵と言っているわけではない。私たちは雇い入れた助っ人のうち、その大半をすでに切っている。あの大々的な「助っ人募集」(註12)を覚えている人も多いだろう)
(註12) 助っ人募集
原文では「The Great Mercenary Search」。おそらく一般からMTGのデザイナーを公募した「The Great Designer Search」のことを指しているものと思われる。
以下、このコンテストに関する記事(リンク先は英語)。episodeは1から7まである。
http://www.wizards.com/Magic/Magazine/Article.aspx?x=mtgcom/designersearch/episode1
そうじゃないんだ。
私が取り上げたいのはメルカディアン・マスクス・ブロックにいた、ライブラリーから次から次へと仲間を戦場へ引っ張りだしてくれるクリーチャーだ……違う、レベル/Rebel じゃない。
レベル/Rebel はこのメカニズムをあまりに強力な形で持ってしまった。その結果、いくつものフォーマットを歪めてしまった。
違うんだ。このメカニズムを持った、もう片方について話そうと思っている。
知ってのとおり、レベルたちは互いにつながっている。小さい奴らがデカい奴らを呼び出せる。
しかし、いかなる理由かは不明だが、傭兵/Mercenary は逆方向に働いた。小さい奴らがさらに小さい奴らを呼び出したんだ。
そんなこんなで、レベル/Rebel が 傭兵/Mercenary に多少優れていることはプレイテストの段階で明らかになった。
そしてこの「多少優れている」というのは、本当にありとあらゆる面で優れていたのだ。デザイナーとして、私はなんとか 傭兵/Mercenary デッキを援護したかった。
デッキの全てのカードを 傭兵/Mercenary にすることが出来たらどうだろう、というアイデアが浮かんだのはそのときだ。
そうすれば、君は手元の 傭兵/Mercenary を使ってデッキの中にいる好きなクリーチャーを呼び出せるようになる。
ああ、分かった分かった、デッキの中にいる好きなクリーチャー(ただしマナコストがより安いもの)を呼び出せるようになる。これ以上は譲れないぞ。
しかし「デッキの中にいる全てのクリーチャー・カードは 傭兵/Mercenary である」というカードは、少々用途が狭すぎるように感じられた。
じゃあ、こうしてみたらどうだろう。
それはライブラリーだけじゃなくて君の全てのカードを、傭兵/Mercenary に限らず好きなクリーチャー・タイプに変えてくれるんだ。
オンスロートブロック(すなわち部族デッキ)が到来するのまでにはまだ数年を残していたが、それでもクリーチャータイプを考慮するカードは当時からすでにそこかしこに存在していた。
全て上手く行くかに見えた。
たった1つの問題を除いては。
なんで黒の魔法が君の全てのクリーチャーのタイプを変更できるんだ? それは、青の仕事じゃないのか?
その通り、と認めざるを得ない。
しかしこのカードはあくまで 傭兵/Mercenary を助けるために作られたのだ。このカードを青に転じてしまっては本末転倒だ。そこで私は、フレイバー付け次第でこの問題は乗り越えられる、と主張した。
つまりね、なんでクリーチャータイプが変更されてしまうかというと、それは陰謀によるものだったのさ。
へえ、なるほど、陰謀ね。
それは確かに黒っぽいね。
私がこのカードから得たデザイン上の教訓は、それすなわち上記の決断をどれだけ後悔しているかということに他ならない。
この効果は黒の担当ではない。
(黒の効果でもっとも近いものがあるとすれば、全てのクリーチャーを既存の黒特有のクリーチャータイプで上書きするというものだろう。その場合でも、そこにはおそらく、なぜ全てのクリーチャーがゾンビだか何だかに変わってしまったのかを説明するような追加効果が付随するはずだ)
メカニズムを無理やりフレイバーで正当化しようとするのは、労力を惜しんだみっともないデザインでしかない。私が 傭兵/Mercenary を助けたかったのであれば、青い何かに頼るのではなく、あくまで黒い何かを模索すべきだったのだ。
破滅的な行為/Pernicious Deed - アポカリプス
Pernicious Deed / 破滅的な行為 (1)(黒)(緑)
エンチャント
(X),破滅的な行為を生け贄に捧げる:点数で見たマナ・コストがX以下の、すべてのアーティファクトとすべてのクリーチャーとすべてのエンチャントを破壊する。
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Pernicious+Deed/
マジックのデザインにおける楽しみの1つに、あるカードから別のカードが生まれる過程を観察することが挙げられる。
その好例が《ネビニラルの円盤/Nevinyrral’s Disk》だ。
このカードはシンプルで有能だった。あまりに有能であったため、特定の色が持つべき弱点を補完するために使われるようになり始めた。
例えば、青はパーマネント破壊が苦手だった。しかし《ネビニラルの円盤/Nevinyrral’s Disk》を手にした青はその問題を乗り越えてしまった。
またさらに言うと、このカードのパワーレベルはあまりに高いため、ついにはメタゲームを歪めるほどになった。
そのようなわけで、ラリー・ニーヴンの円盤(註13)は封印されることと相成った。
(註13) ラリー・ニーヴンの円盤
《ネビニラルの円盤/Nevinyrral’s Disk》のこと。ネビニラル/Nevinyrral という名前の元ネタは、ラリー・ニーヴン/Larry Niven というSF作家の名前を逆に読んだもの。
それから何年もの間、様々なデザイナーがこの《ネビニラルの円盤/Nevinyrral’s Disk》を新たな形で再誕させる方法を捜し求めた。
私もその例外ではない。
ウルザズ・デスティニーのデザインを担当していたとき、私は新たな円盤を手がける決心をした。私の生み出した再誕の解は《火薬樽/Powder Keg》だ。
このカードの意図するところは、リセット能力を持たせつつも(全てを破壊するのではなく)あくまで限られた一部のグループを破壊する、というものだった。
デベロップメントの段階で、何度も議論されたのは、このカードの効果が及ぶ範囲が「点数で見たマナ・コストが、火薬樽の上に置かれた導火線カウンターの数に等しい」であるべきか、それとも「点数で見たマナ・コストが、火薬樽の上に置かれた導火線カウンターの数以下」であるべきか、ということだ。
当時、私は「どちらの効果であっても十分に面白いが、デザインの観点から鑑みるに前者であるべきだ」と主張した。個人的に、一度に対処できるのが特定のマナ域のみ、というアイデアが気に入っていたからだ。
これによって、プレイするのが楽しいだけでなく、新たにカウンターを加えるかどうか決断する際に興味深い緊張感を生み出すはずだ、と感じていたのがその理由だ。
最終的に私の意見が通り、《火薬樽/Powder Keg》はそのように印刷された(つまり、十分な数のデベロッパーを私の側につくよう説得できたということだ)。
しかし頭の片隅では、もう片方のアイデアもカード化するに十分値するものだ、ということを理解していた。そこでインベイジョンのデザインをする際に、私は《破滅的な行為/Pernicious Deed》を作ったのだ。
破壊したいものはアーティファクト、クリーチャー、そしてエンチャントだということは分かっていた。
(土地は破壊したくなかった。なぜなら、円盤がそうであったように、マナを阻害することなくリセットすることでプレイヤーたちが素早く場を復帰出来るようにしたかったからだ)
色として、青は明らかにふさわしくない。また全体破壊をするときに何を破壊して何を破壊しないかを選択するという効果は白には似つかわしくないように感じられた。
残った色は黒、赤、そして緑だ。
黒も赤もエンチャントを破壊することが出来ないのだから、緑は必須だ。
赤よりも黒がふさわしかった理由は、ダメージによらないクリーチャー破壊は私には赤っぽくないように感じられたためだ。確かに黒は赤と違ってアーティファクト破壊が苦手だが、幸いそれは緑の得意分野だ。よって、それは問題にはならなかった。
そのような経緯で決断はなされ、《破滅的な行為/Pernicious Deed》の色は黒緑と相成った。
1つ、小さな問題があった。
インベイジョンのデザインの最中、私たちは全ての敵対色マルチカラーのカードは最後のセットまで温存しとこう、と決めた。そのほうが面白くなると考えたためだ。
しかしそれでは《破滅的な行為/Pernicious Deed》へ「アポカリプスが来るまで待っててねファイル」に閉じこもっていろ、と命ずることになる。
何らかの形で待機を命じられたカードは、そのまま時の狭間に消え去ってしまうことが多い。なぜなら新たなデザイン・チームは、自分たちのセットを自分たちのカードで構築しようとするためだ。
ところがアポカリプスのデザイン・チームは、Billの試みで、初めてデザイナーを務めるメンバーばかりで構成されていた。
彼らはインベイジョン・デザイン・チームが作ったカードに興味津々だった。結果、《破滅的な行為/Pernicious Deed》は無事セットに収録されたというわけだ。
《破滅的な行為/Pernicious Deed》に関する話で、私のお気に入りは、最後のぎりぎりになってその名前が変更された件だ。
当時、クリエィティブ・チームは急激な成長に伴う痛みの最中にあったため、新たなメンバーを雇い入れることができるまでは私がカード名とフレイバーテキストをチェックすることになっていた。
その一環として、私はアポカリプスのカード名に問題がないか、最後の最後になって目を通すこととなった。
ざっと眺めただけでも、問題のある名前が見つかった。
1つ目として、そこには Spirit Link 能力(註14)を持っていないにも関わらず《Spirit Lynx》と名づけられたカードがあった(Spirit Link 能力というのは、今でいう 絆魂/Lifelink の能力だ)。
これは混乱を招くことになるから変更する必要がある、と私は言った。
(註14) Spirit Link 能力
文中にもある通り、絆魂/Lifelink の能力のことを指す。この効果の元祖である《魂の絆/Spirit Link》というカードから来ている。Spirit Link / 魂の絆 (白)
エンチャント - オーラ(Aura)
エンチャント(クリーチャー)(これを唱える際に、クリーチャー1体を対象とする。このカードはそのクリーチャーにつけられている状態で戦場に出る。)
エンチャントされているクリーチャーがダメージを与えるたび、あなたは同じ点数のライフを得る。
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Spirit+Link/
2つ目は《破滅的な行為/Pernicious Deed》だ。
変更前の名は《Planar Bombardment》だった。
この名前の何が問題かというと、《破滅的な行為/Pernicious Deed》は既に同じブロックに収録されていた《次元の門/Planar Portal》と《次元の被覆/Planar Overlay》のいずれとも関連性を持たないカードだということだ。
そこで私は最後の瞬間になって、このカードの名前を変える決断を下した。
ここで問題が生じた。
この決断は作業の本当に最後ギリギリになってから下されたため、すでにカード番号は変更不可能な段階だった。
それが何を意味するかというと、変更後の名前も現在と同じ順目に収まるカード名でなければならなかったのだ(マルチカラーは単体の色とみなして番号がふられている)。
《Spirit Lynx》の新しい名前は《義務と道理の盾/Shield of Duty and Reason》と《軍旗の旗手/Standard Bearer》の間に収まるものである必要があった。
幸運なことに解決策は意外と簡単に見つかり、このカードは《幽体オオヤマネコ/Spectral Lynx》と名づけられた。
それに対して《破滅的な行為/Pernicious Deed》の命名は難航した。
これの名前が入るべき隙間は《草茂る屋敷/Overgrown Estate》と《パワーストーンの地雷原/Powerstone Minefield》の間にあった。
《Spirit Lynx》と違い、なかなか天啓は降りてきてくれなかった。
このような事態が発生したときの常として(そして君たちが考えているよりもこの問題はずっと高い頻度で発生するのだが)、私たちは辞書へ向かった。
私たちは「Overgrown」の項目から読み始めた。
「Pernicious」まで来たとき、私はその意味を読む必要があった。正直に言おう。この単語を見たのはこのときが初めてだったからだ。
意味は「知らぬ間に損害や破滅を生じさせる; 死に至る危険性; 致死性の」だそうだ。
まさに私たちが捜し求めていたものじゃないか。
この単語に少々懐疑的なメンバーもいた。何しろそれはあまり聞きなれない単語だったからだ。
私の回答としては「これはレアだし、Pernicious という言葉の響きはカッコいい。そういうことをさておいても、MTGのプレイヤーたちのボキャブラリを増やすのは別に悪いことじゃないだろう?」
それから何年も経ったある日のこと、私はあるプレイヤーから手紙をもらった。彼はSAT(註15)を受験した直後だったそうだ(アメリカに住んでいない人のために説明しておくと、SATとは重要な大学入学試験の1つだ)。
(註15) SAT
Scholastic Assessment Testの略。日本の共通一次試験(通称センター試験)的な存在らしい。
彼の書いたところによると、その試験の単語を問う設問で「Pernicious」が出てきたらしい。そしてもしマジックを遊んでなかったら絶対に分からなかっただろう、とのことだ。
(余談だが、もし読者の中に「学校生活の中でマジックがこんな風に役に立った」という面白い話を知っていたら、ぜひとも私に知らせてくれ)
私がこのカードから得た教訓、それは他のカードで却下されたアイデアにも注意を払うこと、だ。
あるアイデアが、そのときのカードの問題を解決できなかったとしても、かわりに他のカードに対して有効に働くということはよくある話だ。
よいデザインを心がけたいのであれば、ある問題に対して提案はされたが使われなかった解決法が、もしそれ自体はいいアイデアであればきちんと記録しておくことだ。
ちょっと待った、まだまだあるぞ
このコラムを書き始めた段階では、10個のエンチャントについて書くつもり満々だった。何しろ、私は10個の異なるブロックそれぞれでエンチャントをデザインしたんだからね。
しかし、5つ目のエンチャントについて書き上げて文字数チェックを走らせたところ、すでに3000語を超えていることが判明した。
私は次のコラム担当者と同じくらい(もしくはそれ以上に)書くことが大好きだが、私はこれを毎週やらなくちゃいけないんだ。
来週またコラムを書かないといけないことを考えると、無理して6000語以上のコラムを書こうとするのはおかしな話だ。だから私はこれを前編と後編に分けることにした。
来週は、後半の5つのブロックぞれぞれのエンチャントについて分析し、デザインに関する話を披露しようと思う。君たちがこういうコラムを面白いと思ってくれることを願っているよ。
今週はこれまで。
来週のテーマは……って、聞いてなかったのか? たった今、来週何を話すか伝えたばかりだよ。それまで、平日が過ぎるのを楽しみに待っていてくれ。
長過ぎて1つの記事に収まらなかったため、前編/後編に分けた。なお、コラムのタイトルに[その1]とあるのは、エンチャント週間の記事が長過ぎたせいで、2週間に渡って掲載されたため。
【翻訳】より良いエンチャントのために (1)/Enchantment For Better Things, Part One【Daily MTG】
Mark Rosewater
2007年6月25日
元記事:http://www.wizards.com/Magic/Magazine/Article.aspx?x=mtgcom/daily/mr285
エンチャント週間へようこそ!
今まで時間をかけて各カードタイプそれぞれをテーマとして取り上げてきた。今時点で完了しているのはアーティファクト週間(註1)、インスタント週間(註2)、ソーサリー週間(註3)だ(なおソーサリー週間の記事は2つある「Slow and Steady」というタイトルのコラムの新しい方だ。何かの手違いで私はこのタイトルを2回使ってしまった)。
(註1) アーティファクト週間
原文では当時のコラムの題名(Just the Artifacts, Ma’am)とその記事へのリンク(以下のURL)が張られている。
http://www.wizards.com/default.asp?x=mtgcom/daily/mr165
(註2) インスタント週間
原文では当時のコラムの題名(Instant Winners)とその記事へのリンク(以下のURL)が張られている。
http://www.wizards.com/default.asp?x=mtgcom/daily/mr77
(註3) ソーサリー週間
原文では当時のコラムの題名(Slow and Steady)とその記事へのリンク(以下のURL)が張られている。
http://www.wizards.com/default.asp?x=mtgcom/daily/mr120
付け加えると、私たちはいくつかサブ・テーマ的なものもテーマ週間で取り扱ってきた。
エンチャント・クリーチャー週間(註4)、特殊地形週間(註5)、それらに加えて特定のクリーチャータイプに関するテーマ週間なら石を投げれば当たるほどある(その中でもゴブリン週間の記事である"Mons Made Me Do It"(註6)は私の中のオールタイムベストの1つだ)
(註4) エンチャント・クリーチャー週間
原文では当時のコラムの題名とその記事へのリンク(以下のURL)が張られている。なお文中ではコラムのタイトルが「Some Enchanted Creature」となっているがリンク先では「Some Enchanted Card Type」となっている。
http://www.wizards.com/magic/magazine/Article.aspx?x=mtgcom/daily/mr16
(註5) 特殊地形週間
原文では当時のコラムの題名(This Land Is My Land)とその記事へのリンク(以下のURL)が張られている。
http://www.wizards.com/default.asp?x=mtgcom/daily/mr65
(註6) "Mons Made Me Do It"
以下のURLへリンクが張られている。文中にあるとおり、ゴブリン週間に書かれた記事。
http://www.wizards.com/magic/magazine/article.aspx?x=mtgcom/daily/mr41
しかしここしばらくカードタイプはテーマとして扱っていなかった。そこで、まだ取り上げていないいくつかの題材から1つ選んでみてもよいのではと思った次第だ(私は、君たちが年内にもう1回はカードタイプ週間を見ることになるだろう、という予言をここに記しておく。何しろローウィンで新たなタイプがまた1つゲームに加わるんだからね。(註7))
(註7) ローウィンで新たなタイプがまた1つゲームに加わる
プレインズウォーカーというカードタイプが新たに加わったのローウィンから。
ここまで長々と書いてきたが、実質、私が語ったことと言えば今週がエンチャント週間であるということだけだ。
さて、じゃあここからは何について書いたらよいだろう?
少なくともエンチャントについて書かないといけないし、このコラムはデザインに関することを書く場所だ。よってここで語るべきはエンチャントのデザインについて、になるだろう。
よし、こうしよう。
過去の10個のブロックからそれぞれ1枚ずつ私がデザインしたエンチャントを選んでみた(私がエンチャントをデザインしたブロック数が10個だ。アライアンスでもいくつかカードをデザインしたけど、全てエンチャント以外のカードだった)。
それぞれのエンチャントについて、どのように(そしてどうして)そんなデザインになったかを紹介しようと思う。それと、語るに値する小ネタがあればそれもね。
加えて、そのカードから得たデザイン上の教訓についても語ろうと思う。
死体の花/Cadaverous Bloom - ミラージュ
Cadaverous Bloom / 死体の花 (3)(黒)(緑)
エンチャント
あなたの手札のカードを1枚追放する:あなたのマナ・プールに(黒)(黒)か(緑)(緑)を加える。
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Cadaverous+Bloom/
私が初めてデザインチームとして参加したのはテンペストだ(同時に、私がリーダーを務めたセットでもある。いやはや、今はこういうことは起こらないようにしているよ)。
とはいえ、私がデザインしたカードが初めて世に出たのがテンペストだったということを意味しているわけではない。
テンペストから遡ること1年半前(註8)、私はデベロップメントチームの一員として力いっぱい働いていた(当時のマジックR&Dの規模は小さく、全てのメンバーはいずれかのデベロップメントチームに属していた)。
(註8) 1年半前
要するに、ミラージュの開発。
デベロップメントの工程の最中、私たちはしばしばカードをふるいにかける。そうするとき、そこには私たちが「穴」と呼ぶものが生まれる。
デベロップメント・チームの作業の結果、一定数の「穴」が生みだされたとき、全てのR&Dのメンバー(特にデザイナー)に向けてメッセージが送信される。「穴」埋めに使えるカードを提出するよう依頼するメッセージだ。
《死体の花/Cadaverous Bloom》はそんな「穴埋め」カードの1枚だったのだ。
そのとき埋めなければいけない穴は明確だった。私たちに必要だったのは「レア」で、かつ「黒緑」の多色カードだった。
黒緑っぽさを感じさせてくれるカードに必要なものは2つある。黒っぽさを感じさせてくれる部分、そして緑っぽさを感じさせてくれる部分だ。
それについて思いをめぐらした結果、私が辿り着いたアイデアは、起動コストに片方の色の要素を持ちつつも、その効果に別の色の要素を持たせるというものだった。
手札からカードを捨てるという行為は今ほど広く認知されているコストではなかったため、当時はそこに自傷的な痛みを思わせる何かが存在していた。このフレイバーによってカードは「黒」もしくは「赤」に近づいた。
そしてマナを加えるのは非常に「緑」だ。
これら2つの効果を組み合わせることは非常に自然に思われた。そう、このエンチャントは君のカードをマナと交換させてくれる。この時点では、これがどれほどまでに壊れた効果なのかを私は知る由も無かった。
ところで《死体の花/Cadaverous Bloom》に関する逸話の中で私が好きなのは、プロツアーの悪童、かつ、2回の殿堂入り候補でもあるマイク・ロング(註9)その人が、《死体の花/Cadaverous Bloom》を中心に据えたコンボデッキ(プロスブルームという名で知られているデッキだ)を使ってプロツアー・パリ(註10)で優勝したあと、私に話しかけてきたときのことだ。
(註9) マイク・ロング
文中で悪童(原文ではBad Boy)と書かれているように、強いプレイヤーであると同時に悪いプレイヤーとしても評判だった、往年の強豪プレイヤー。
殿堂入りに関しては、2005年に行われた最初の投票では28人中 7位、2006年は47人中 11位、という風に決して低い順位ではない。良くも悪くも印象に残るプレイヤーっぽい。
なお、このコラムが書かれた2007年以降の結果について書くと、2007年は62人中 20位、2008年は66人中 14位、2009年は62人中 13位、2010年は73人中 13位。
もしかしたらいつかは、と思わせる順位ではある。
(註10) プロツアー・パリ
1997年にパリで行われたプロツアー。フォーマットは、ミラージュ・ブロック構築。
そこでマイクは私に歩み寄るとこう言ったのだ。
マイク:
R&Dにはマジで感謝しないとな。
私:
なんで?
マイク:
このデッキだよ。こいつは狂ってやがる。
私:
マイク、そのデッキを作ったのは私たちじゃない。
作ったのは君だ。
マイク:
はいはい、あんたの言うとおりだよ。《死体の花/Cadaverous Bloom》、《資源の浪費/Squandered Resources》、《自然の均衡/Natural Balance》、《繁栄/Prosperity》、それと《冥府の契約/Infernal Contract》。これの全部が全部、ミラージュとビジョンズに入ってたのが偶然だったとね。
私:
いや、そうだよ?
マイク:
マーク。
俺はこのデッキをプレイしたんだ。
今まで見てきたどんなデッキも、こいつほどシナジーにあふれてる奴はなかった。
ミラージュとビジョンズ以外のカードを使って改良していいと言われても加えるカードを思いつかない。
この2つのセットしか使っちゃいけないってプロツアーがあって、こいつが生まれたのが偶然だって?
ありえないだろ。
私:
何が言いたいんだ?
まさかとは思うが、私たちがこのデッキを作ったあとに、あらためてその必要なパーツをミラージュブロックの2つのセットにばらまいたとでも?
マイク:
お、認める気になったな。
私:
違うよ。まったく逆だ。
私は《死体の花/Cadaverous Bloom》をデザインしたのが誰か、よく知っている。私だ。だが《自然の均衡/Natural Balance》を作ったのはMike Elliottだ。《繁栄/Prosperity》は、Bill Roseが作った。
パリでの君のプロツアー優勝のために私たちがこれを作った、なんて陰謀論は捨てることだね。
マイク:
俺のため、とは言ってないぜ?
私:
マイク、私たちはこのデッキを作ったりはしていない。
マイク:
了解、了解(ウィンク)。
そういうことにしておこう。
私が思うに、今日に至ってもマイクはプロスブルームというデッキが可能だったのはR&Dが意図的にセットに仕込んだからであり、それ以外に説明がつかないと信じ込んでいるだろう。
さて、前述したとおり、紹介する各エンチャントごとにそこから得ることができたデザイン上の教訓について語ろう。
《死体の花/Cadaverous Bloom》からは、コストを必要としないエンジン・カードの秘める危険性に注意を払う必要があることを学んだ(エンジン・カードとは、定義するなら、あるリソースを他のリソースに変換するカードだ。例えば手札をマナに換えるような)。
リソースの変換は強い力を持つ。それを無料で行わせるのは、面倒を引き起こしてくれと頼んでいるようなものだ。
覚えておいて欲しいのは、プロスブルームデッキはマナを得るために上記のルールを破るエンチャントが2つも使われているということだ。
そう《死体の花/Cadaverous Bloom》と《資源の浪費/Squandered Resources》だ。
リソースをマナに変換するカードは特に危険だ。なぜならリソースの変換を制限する手段に「マナを使わせる」という選択肢がほとんど意味をなくしてしまうためだ。
このカードから得られた教訓。それは、エンジン・カードはデザイン時から制限を織り込んでおく必要がある、ということだ。
好きなだけのリソースAを好きなだけリソースBにコストなしで変換できるというのは、面倒を引き起こしてくれとこちらから頼んでいるようなものなのだ。
霊の鏡/Spirit Mirror - テンペスト
Spirit Mirror / 霊の鏡 (2)(白)(白)
エンチャント
あなたのアップキープの開始時に、反射(Reflection)トークンが戦場に存在しない場合、白の2/2の反射クリーチャー・トークンを1体戦場に出す。
(0):反射1つを対象とし、それを破壊する。
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Spirit+Mirror/
往々にして私はデザインをシンプルなアイデアから始めることにしている。
《霊の鏡/Spirit Mirror》に関する私のアイデアは、エンチャント破壊でしか対処できないクリーチャーを作りたい、というものだった。
エンチャントでもあるクリーチャーというアイデアもなんとなくは考えていたが、当時、その考えはあまりに時代を先取りしすぎているように思われた。
(もしかしたら君は、私が将来のためにアイデアを温存したんじゃないか?、と思っているかもしれない。正解だ。また、このアイデアに関して述べた私の他の記事を読んでいない君のために付け加えておくと、《輝く透光/Lucent Liminid》(註11)には、もっとはっきりと自身がエンチャントでもあると自己主張できる効果を持たせることが出来ていれば、と今でも残念に思っている)
(註11) 《輝く透光/Lucent Liminid》
どんなクリーチャーかは以下を参照。一見したところ、単なる5マナの割に能力値の低い飛行クリーチャーにしか見えないが、ポイントはカードタイプ欄。
まあ、マナの割に弱いという結論は変わらないんだけど。Lucent Liminid / 輝く透光 (3)(白)(白)
エンチャント クリーチャー - エレメンタル(Elemental)
飛行
3/3
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Lucent+Liminid/
私は、エンチャントをクリーチャーに変える、というアイデアを考えてみたが、それでは単なるクリーチャー除去で対処されてしまう。
そうじゃない。私の望みは「エンチャント破壊を持ってないだって? そりゃ大変だね」と書いてあるも同然のクリーチャーだ。
次に私が辿り着いたのは、クリーチャー・トークンを生み出すエンチャントだった。
もしトークンが破壊されてもエンチャントが戦場に残るのであれば、それは単に新たなトークンを生み出すだけであり、つまりクリーチャー除去はこのカードに対する回答にはならないわけだ。
もっとも、それだけではダメだ。このカードが単体でクリーチャー・トークンの軍団を生み出してしまわないようにしなくてはいけない。
この問題を避けるために、私は「反射(Reflection)トークンが戦場に存在しない場合」にしか、反射/Reflection トークンを生み出せないという一文を追記してみた。
ちなみにこれによってこのカードのためだけのクリーチャータイプが必要となった(なお、反射/Reflection は、のちにインベイジョンの《完全な反射/Pure Reflection》でまた顔を出すこととなった)。
そこで私が気づいたのは、エンチャントが新たなトークンを生み出すのに何らかの制限をつけないといけない、ということだ。
なぜなら、クリーチャー・トークンを生け贄に捧げたあと続けざまにクリーチャー・トークンを生み出すことが出来てしまうと、クリーチャーを生け贄に捧げることのみがコストであるカードで度を越す悪用が出来てしまうからだ。
これによってトークン生成は誘発型能力と相成った。
直後のプレイテストで、私が開けたパックからは《霊の鏡/Spirit Mirror》が出てきた(なかなかラッキーな話だ。これがレアであることを考えるとね)。
さっそくプレイしてみた。
4マナに到達するには少し時間がかかったが、私はなんとか《霊の鏡/Spirit Mirror》を戦場に叩き付けることに成功した。
次の私のアップキープ時に、2/2の 反射/Reflection トークンが場に出た。次の対戦相手のターンに、対戦相手は私のトークンに《平和な心/Pacifism》を唱えた。
私は対応して「そんなことのために作ったんじゃないぞ!」と叫んだ。
そんなわけで、最後の一文が加わることとなったのだ。このカードをどうにかしたかったら、トークンにかかずらっても無駄だ。このカード自体を破壊したまえ。
面白いことに、この「鏡」と「反射」というフレイバーは「なんでこのカードは絶え間なくトークンを生み出すことができるんだ?」という問いに対する答えを模索していたクリエイティブ・チームによって、かなり後半になってからようやく生み出されたものだ。
生みの親として、実に面白いと感じているのはこのカードの非常に幅広い汎用性だ。
あるプレイヤーは、これを「非常に除去しづらいクリーチャー」として用いた。
あるプレイヤーは、「毎ターン、2/2トークンを生み出せるカード」として用いた(これは多くの場合その2/2トークンが何らかのために毎ターン生け贄に捧げられていることを意味している)。
あるプレイヤーは、マナを用いずに対象を破壊できるという能力に目をつけた。私は《霊の鏡/Spirit Mirror》をクリーチャー破壊(ときにはパーマネント破壊)に用いるデッキを何種類も見たことがある(多くの場合、これには他のクリーチャーやパーマネントを「反射/Reflection」に変えることが出来るカードが一緒に用いられている)。
私のデザイナーノートがこのカードから得た教訓は、プレイヤーがどのようにカードを用いるかを恐れてはいけない、ということだ。
多くのプレイヤーが私が元々意図していなかった方法で《霊の鏡/Spirit Mirror》を用いたという事実はむしろ私を喜ばせた。
これは私が繰り返し述べている「道具をデザインする(designs as tools)」というメタファーに当てはまる事例だ。
職人が 道具/Tool を作るとき、エンドユーザがそれをどのように用いるかについてある程度の予想している。
しかし職人にとって真に成功した仕事とは、元々の目的のためだけに使える何かを作ることではなく、エンドユーザが色んな使い道を見出せる高い汎用性を秘めた道具を作り出すことだ。
カードのデザインにも同じことが言える。
デザイナーが、特定のデッキにしか入らないカードを作るようなことは滅多にない。むしろ、特定のことしかできないカードを、それらを最も効率よく活用できるデッキへ自然と収まるように作るのだ。
後編へ続く
http://regiant.diarynote.jp/201106220719143190/