【翻訳】ファイレクシア化は道半ば/Halfway Compleated【Daily MTG】
Tom LaPille
2011年04月08日
元記事:http://www.wizards.com/Magic/Magazine/Article.aspx?x=mtg/daily/ld/137
ミラディン軍とファイレクシア軍が半分ずつを占めているミラディン包囲戦というセットの開発では、全体では統一感を持たせつつも同時に互いに明確な違いが見えるように、多大なる労力が支払われた。
どのようにしてそれが行われたか、その一例を前にも一度このサイトで紹介した(註)。その方法とは開発チームを2つに分けてそれぞれの陣営を担当させる、というものだった。
そのときには、私が担当したのはミラディン陣営のみだったが、互いの陣営の特徴が何なのかについては両陣営の全員が理解していたはずだ。
私たちは各グループの垣根を越え、今まではファイレクシア陣営に属していなかった色に関しては、どうすればその色に馴染むようなファイレクシア・カードが作れるのかということを長い時間かけて話し合った。
今日はミラディン包囲戦のファイレクシア陣営のカードに関して、当時どのようなことが話し合われたのかを紹介したいと思う。
ミラディン包囲戦のデベロップメント・リーダーであるErikが担当した3つのセット全てにおいて、私はデベロッパーとして参加していた。その開発の中で、彼がマジックのどのような要素を好んでいるのかについて、私は多くを知ることができた。
Erikは、ことリミテッドに関してはより長引きそうな試合を好んだ。彼の担当したセットに《角海亀/Horned Turtle》、《包囲マストドン/Siege Mastodon》、《装甲のカンクリックス/Armored Cancrix》などが入っている理由はそれだ。(註)
《嵐潮のリバイアサン/Stormtide Leviathan》、《古えのヘルカイト/Ancient Hellkite》、そして《法務官の相談/Praetor’s Counsel》のような高コストのカードはいつでも輝けるというカードではない。
しかし早い段階でそういったカードをピックした際には、それらのために必要な防御的なクリーチャーを十分にピックできるような可能性を用意したいとErikは考えている。
私は、《ノーンの僧侶/Priests of Norn》そういった防御的なクリーチャーの中でも、僧侶だけに精神力によってより高みへのぼりつめることが出来た存在だと考えている。
もっとも軽い希少度の立場に甘んじているにも関わらず、このカードを少し離れて全体的に眺めるとかなり奇妙なカードであることが分かる。
通常、警戒能力持ちの1/4というクリーチャーは目立った活躍ができるスペックではない。何しろ《ルーン爪の熊/Runeclaw Bear》ですら日がな一日ブロックし続けることができるのだ。
ところがここにある感染という能力が《ルーン爪の熊/Runeclaw Bear》にとって少々悩ましい状況を作り出してしまう。しかしブロックしないことを選んだ対戦相手は、またこの感染という能力によって毒カウンターがじりじりと溜まっていくのを落ち着かない気持ちで迎えることになる。
実際のところ、《ノーンの僧侶/Priests of Norn》は伝統的な《角海亀/Horned Turtle》的な存在として働いてくれることは間違いない。しかしそれだけでなく、これはファイレクシア陣営のカードだな、と断言できるほどに、目新しくまた奇妙なことが出来るカードだと思う。
最後に少し付け加えておくと、私は特にこのカードについて起こりがちなリミテッドのデッキ構築、つまり「非感染デッキにも関わらず感染を持つカード(=これ)を忍び込ませることになる」という、ファイレクシア陣営を暗示するようなメタ的な含意は面白いと思っている。
あれ、なんでこいつがこっち側にいるんだろう? いや、気にする必要はないよ。1ヶ月か2ヶ月ほどしたら全てがこいつらの支配下に置かれるだけだからね。
とりあえず今は3/3でこいつに向かって攻撃したりしないように気をつけていればいい。大丈夫、大丈夫、全て上手いこと片付くさ……。
Aaron Forsythe 3/19:
「大丈夫か、Ball Lightning!? 助けに来たぜ!」
Bill Rose 3/19:
「お断りします」
白という色はクリーチャーを救うことに喜びを感じる色だ。それはファイレクシアにあっても変わらないが、その救済には代価が伴う。
私は多くの経験の浅いプレイヤーがこのカードの使い方でつまずくのを見てきた。
自身のクリーチャーを再生したい、だけど-1/-1カウンターは相手のクリーチャーに乗せたい。このカードのルール的な動きは簡単に分かる。しかし実際どう使えばよいのかはそう簡単ではない。
私たちは、2通りのまったく異なる使い方が出来てしまう上に自身のクリーチャーに用いた場合にはデメリットを残すようなカードを滅多に作ったりはしない。
しかしこのカードを全体として見たときに生じるその奇怪さこそが、白のファイレクシア・カードとして機能している証だと私たちには受け取られた。皆がこのカードのために色の慣例を破るのをいとわなかったことに感謝したい。
白のカードがいつもとちょっと違うことを示す、3つ目の例がこれだ。
確かに、攻撃クリーチャーを罰するのは間違いなく白の分野だ。
しかし通常、その罰が複数のクリーチャーに与えられることはないし、ましてやそれが-1/-1カウンターの形で与えられることはまずありえないと言っていい。
白のファイレクシア・カードの中でいえば、それほど変わっていると言うほどでもないが、私からするとそれでもまだ十分に奇妙なカードだ。
全体除去は元々白の分野だ。そのためそれをあえてファイレクシアっぽく捻じ曲げるのには少々骨を折った。
ありがたいことに、ファイレクシア・チームが妙案を提供してくれた。
しかしこのカードについて皆がどれほどまでにコメントを飛ばしあったかを見てくれれば、ファイレクシア・チームが考え出してくれた「捻じ曲げ方」が、いかに白という役割のボーダーラインすれすれだったか、君たちにも分かってもらえると思う。
Erik Lauer 3/10:
ファイレクシアチームから新しいカードが来たよ。
Steve Warner 3/11:
これどっからどう見ても黒のカードじゃね……?
クリーチャータイプをスピリットか何かにすれば、もしかしたらありかも。
Zac Hill 3/11:
これは素晴らしい。
Aaron Forsythe 3/19:
素晴らしいとは思うけど【検閲削除】のほうがもっと好きだな。
両方作っちゃダメなの? 片方は黒にする必要あり?
Tom LaPille 3/19/2010:
【検閲削除】は黒っぽい気がするね。
Ken Nagle 3/21/2010:
これがもし聖なるX/Xアバター・トークンを作るのなら白で問題ない。
だけどその場合、ファイレクシアっぽさが無くなる。
4黒黒のコストにしてX/Xのデーモンを出すのはどうかな。
もしトークンが飛行持ちならPete Ventersのデーモン・トークンを再利用できる。
トークンってのは、見た目がReiver Demonに似てるあれね。
あー、でもそうすると、戦場に出たときに全てのクリーチャーを破壊する
Reiver Demonっぽいカードを作ればいい、ってことになっちゃうか。
Ryan Miller 3/23:
これでいいよ! 白のウィニーデッキに入る全体除去だ!
テーマに沿ってて面白い。
ただ白なのにクリーチャータイプがホラーなのは変、ってのには同意
(ダンス・ホールで踊ってる時なら別だけど)
Kelly Digges 3/23:
これは実に「白いファイレクシア」だと思う。
こんな感じの黒いカードはどんなセットでも入りうるけど、
白いバージョンはここでしかあり得ない。
だからこそ白にあって欲しいと思う。
異論は認める。
Mark Rosewater (3/25/10):
白のファイクレシアカードにふさわしいと思うよ。
これは確かに白だけど、いつもの白じゃない。
Zac Hill 4/5:
このカード自体はいい。
だけどエルズペス/これ/【検閲削除】と、全体除去が多すぎる気がする。
似たような効果が増えすぎないよう注意する必要があるね。
成績優秀で容姿端麗なDaily MTGの編集者であるKelly Diggesからのコメントこそが、そのままこのカードを白にした理由を簡潔に説明している。
ファイレクシアとは何か? それは「目立たないほどわずかに侵してはならない境界線を侵しているもの」だ。
カラーパイに敬意を払っていないわけではない。しかしそれは、このカードのような「わずかに踏み外したカード」を作るのを諦めるほどに絶対的なものでもない。
最後に1つ。コメントの中で【検閲削除】と伏せさせてもらったカードは《黒の太陽の頂点/Black Sun’s Zenith》のことではない。注意をおこたらずアンテナを高くしていれば、それが出てきたときにはすぐ気づけるはずだ。
このカードのデメリット部分は元々このクリーチャーのコントローラーにしか影響しなかった。その状態の際には、こいつはより大きなサイズとより低いコストを持っていた。
その後、変化が生じた。
Mark Rosewater (3/25/10):
単にでかいデメリットを持っているってのは、ファイレクシアっぽくない気がする。
やっぱり対戦相手が嫌がるような効果がないとね。
せめて効果が全員に及ぶようにはできないかな。
「~ が戦場からいずれかの墓地に置かれたとき、
あなたはカードを2枚捨て、他のプレイヤーはカードを1枚捨てる。」
Erik Lauer 3/25:
全員が1枚捨てる、にしてみた。
この変更のおかげでこのカードはファイレクシアっぽくなったとは思うが、私がそう思うのはMarkとは違う理由からだ。
ドラフトでピックしたときとその後のデッキ構築中、「死亡時にトリガーされる効果は敵味方に対して公平に働くんだ」と自分に言い聞かせることは簡単だ。
しかし実際には、青いデッキは長期戦に持ち込むことを想定していることが多い。土地は余すところなくプレイしたい……こいつの捨て札のために1枚とっておいたりすることなく。
とはいえ、このジレンマもファイレクシア陣営のメンバーをチームに加えた結果として仕方ないものと受け止めなくてはいけないのだろう。
ありがたいことに3/2飛行というスペックは、たまにしか発生しない捨て札というデメリットよりも価値があるものだ。
Erik Lauer 3/10:
ファイレクシアチームから新しいカードが来たよ。
Zac Hill 3/11:
Obey Your ~ ♪ ……いや、なんでもない。
Erik Lauer 3/15:
Your life burns faster ~ ♪
Aaron Forsythe 3/19:
うざい。
Tom LaPille 3/19/2010:
プレイしたくなるね。ロックバンドをだけど。
Tabak 3/23:
こいつはなかなかいいと思うよ。
ただこれの名前と同じ題名の歌があった気がする……なんだっけ……
Erikはスラッシュ・メタルの大ファンで、このカードをフォルダに入れる際に《Master of Puppets》という仮の名前(註)をつけていた。
Mark Rosewater (3/25/10):
私だったら効果は「タップまたはアンタップ」に変えるね。
そうしないと白のカードみたいだ。
《流血の臣下/Gore Vassal》ほどではないが、このカードもまた悩ましい選択肢を迫られる可能性を秘めている。
対戦相手のクリーチャーをタップするという使い方は誰でも簡単に思いつくだろう。
しかしこの「またはアンタップ」が付け加えられたことで、ブロックのために使えるコンバットトリックとしての用法があることを示唆している。
もちろんそれはタダじゃない。代価を支払う必要がある。
私はチームにファイレクシアっぽさを混ぜることで多少気持ち悪いような、不安定な要素が生まれてしまうのもありだと考えている。
さらに言うと、1枚か2枚のファイレクシア・カードがプレイヤーに悩ましい選択肢を与えてしまうのも悪くないと思っている。
ファイレクシアとは奪うことに他ならない。青という色もまた他から奪う色だ。またファイレクシアは、それすなわち感染/Infectでもある。
これほどまでに明確なカードが他に作れただろうか? いや、無理だっただろう。ただこれに関しては1つの問題点が指摘された……
Zac Hill 12/21:
すげー、素晴らしい。
MJG 1/12/10:
カッコいいね。
Aaron Forsythe 2/18:
うーん、SOM(註)にもむかつくConfiscate(註)があったし、
多分だけどACT(註)にも入ることになると思う。
目を離さないほうがいいかもね。
Mark Rosewater (3/25/10):
これは戦争をテーマにしたセットにふさわしいと思う。
それはそれとして、確かに気をつけたほうがいいだろうね。
何せActionは通常のセットよりも多くの奪取系カードが必要になるだろうから。
ここで注意が喚起されているように、何かを奪うということはあまりにファイレクシア的なため、今後そういったカードを作る余地をきちんと残しておくよう気をつける必要がある。
なお、結局のところこのカードは収録されることになった。
このカードはミラディン軍とファイレクシア軍の対立を理解してもらう舞台装置として、あまりにも効果的なカードであった、というのがその理由だ。
《聖別されたスフィンクス/Consecrated Sphinx》は一見したところただの飛んでるデカブツに見える。
しかし実のところ、こいつは長いマジックの歴史の中で作られてきた数多くのムカつくクリーチャーの中でも、特に人の神経を逆撫でする1匹であることに私は気づいた。
「お、いいドローステップ持ってるねえ、
ちょっと僕もご一緒させてもらおうかな。
あれ? もしかして僕のほうが君より多く引いてるのかな?」
カードを引くという行為は通常において、自分のターンの中でも楽しい時間のはずだが、同時に対戦相手が2枚引くとあっては、とてもそうはいかないだろう。
相手の健全な楽しみを奪ってしまうというこの行為は非常にファイレクシア的だ。その点で私はこのカードが気に入っている。
~~~~ ~~~~ ~~~~ ~~~~
さて、ファイレクシアとは何かをそれとなく伝えるために私たちが用いた巧妙なテクニックについてここまで長々と述べてきた。
しかし私たちにとっては、暗にほのめかすのではなくあからさまな形でファイレクシアの侵出が行われていることを示すのも、同じくらい重要なことだった。
そして、ミラディンブロックの有名カードたちを引っ張り出してきて、それらに「感染」と書き足すことよりもあからさまな手段はそうはなかっただろう。
実際にカードとなってしまうと、あまり語ることもないが、この処置を施す対象を選ぶのには熟慮に熟慮を重ねた。
候補を収めたファイルには上記の3枚以外にも実に大量のカードが出番を待ち望んでいた。
しかし私たちの最終的な決断は、少ない枚数であっても人気のあるカードたちであれば十分な効果を上げられるだろうし、その方が他のカードのためのスペースをより多く確保できるだろう、というものだった。
《墨蛾の生息地/Inkmoth Nexus》と《ヴィリジアンの堕落者/Viridian Corrupter》の選択については私たちのもう1つの目的のためでもあった。それは構築レベルの感染デッキが生まれて欲しいというものだ。
今日はこれだけだ。何しろミラディン包囲戦の中でもファイレクシア的なのは半分だけに過ぎない。
これだけじゃ物足りない? すぐに(註)君にも満足してもらえると思うよ。
Tom LaPille
2011年04月08日
元記事:http://www.wizards.com/Magic/Magazine/Article.aspx?x=mtg/daily/ld/137
最初に書いておくと《ボール・ライトニング/Ball Lightning》は「3マナ 6/1 トランプル、速攻、ターン終了時に生け贄」というクリーチャー。
あと、記事内で青文字で斜体の箇所は、開発中に行われた開発部メンバー同士のやりとり。
それでは本文をどうぞ。
ミラディン軍とファイレクシア軍が半分ずつを占めているミラディン包囲戦というセットの開発では、全体では統一感を持たせつつも同時に互いに明確な違いが見えるように、多大なる労力が支払われた。
どのようにしてそれが行われたか、その一例を前にも一度このサイトで紹介した(註)。その方法とは開発チームを2つに分けてそれぞれの陣営を担当させる、というものだった。
(註) サイトで紹介した
リンク先は以下のURL。ミラディン陣営のカード開発に関するコラム。
http://www.wizards.com/magic/magazine/article.aspx?x=mtg/daily/ld/131
以下、上記コラムの拙訳。
http://regiant.diarynote.jp/201104152100134979/
そのときには、私が担当したのはミラディン陣営のみだったが、互いの陣営の特徴が何なのかについては両陣営の全員が理解していたはずだ。
私たちは各グループの垣根を越え、今まではファイレクシア陣営に属していなかった色に関しては、どうすればその色に馴染むようなファイレクシア・カードが作れるのかということを長い時間かけて話し合った。
今日はミラディン包囲戦のファイレクシア陣営のカードに関して、当時どのようなことが話し合われたのかを紹介したいと思う。
Priests of Norn / ノーンの僧侶 (2)(白)
クリーチャー - クレリック(Cleric)
警戒
感染(このクリーチャーは、クリーチャーに-1/-1カウンターの形でダメージを与え、プレイヤーに毒(poison)カウンターの形でダメージを与える。)
1/4
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Priests+of+Norn/
ミラディン包囲戦のデベロップメント・リーダーであるErikが担当した3つのセット全てにおいて、私はデベロッパーとして参加していた。その開発の中で、彼がマジックのどのような要素を好んでいるのかについて、私は多くを知ることができた。
Erikは、ことリミテッドに関してはより長引きそうな試合を好んだ。彼の担当したセットに《角海亀/Horned Turtle》、《包囲マストドン/Siege Mastodon》、《装甲のカンクリックス/Armored Cancrix》などが入っている理由はそれだ。(註)
(註) 理由
全てここで紹介されているクリーチャーはすべてタフネス偏重なバニラ・クリーチャーもの。ちなみに「バニラ」というのは特に能力を持っていない無印的なクリーチャーを指す俗語。
《角海亀/Horned Turtle》はバニラの3マナ・1/4
《包囲マストドン/Siege Mastodon》はバニラの5マナ・3/5
《装甲のカンクリックス/Armored Cancrix》はバニラの5マナ・2/5
《嵐潮のリバイアサン/Stormtide Leviathan》、《古えのヘルカイト/Ancient Hellkite》、そして《法務官の相談/Praetor’s Counsel》のような高コストのカードはいつでも輝けるというカードではない。
しかし早い段階でそういったカードをピックした際には、それらのために必要な防御的なクリーチャーを十分にピックできるような可能性を用意したいとErikは考えている。
私は、《ノーンの僧侶/Priests of Norn》そういった防御的なクリーチャーの中でも、僧侶だけに精神力によってより高みへのぼりつめることが出来た存在だと考えている。
もっとも軽い希少度の立場に甘んじているにも関わらず、このカードを少し離れて全体的に眺めるとかなり奇妙なカードであることが分かる。
通常、警戒能力持ちの1/4というクリーチャーは目立った活躍ができるスペックではない。何しろ《ルーン爪の熊/Runeclaw Bear》ですら日がな一日ブロックし続けることができるのだ。
ところがここにある感染という能力が《ルーン爪の熊/Runeclaw Bear》にとって少々悩ましい状況を作り出してしまう。しかしブロックしないことを選んだ対戦相手は、またこの感染という能力によって毒カウンターがじりじりと溜まっていくのを落ち着かない気持ちで迎えることになる。
実際のところ、《ノーンの僧侶/Priests of Norn》は伝統的な《角海亀/Horned Turtle》的な存在として働いてくれることは間違いない。しかしそれだけでなく、これはファイレクシア陣営のカードだな、と断言できるほどに、目新しくまた奇妙なことが出来るカードだと思う。
最後に少し付け加えておくと、私は特にこのカードについて起こりがちなリミテッドのデッキ構築、つまり「非感染デッキにも関わらず感染を持つカード(=これ)を忍び込ませることになる」という、ファイレクシア陣営を暗示するようなメタ的な含意は面白いと思っている。
あれ、なんでこいつがこっち側にいるんだろう? いや、気にする必要はないよ。1ヶ月か2ヶ月ほどしたら全てがこいつらの支配下に置かれるだけだからね。
とりあえず今は3/3でこいつに向かって攻撃したりしないように気をつけていればいい。大丈夫、大丈夫、全て上手いこと片付くさ……。
Gore Vassal / 流血の臣下 (2)(白)
クリーチャー - 猟犬(Hound)
流血の臣下を生け贄に捧げる:クリーチャー1体を対象とし、それの上に-1/-1カウンターを1個置く。その後、そのクリーチャーのタフネスが1以上である場合、それを再生する。
2/1
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Gore+Vassal/
Aaron Forsythe 3/19:
「大丈夫か、Ball Lightning!? 助けに来たぜ!」
Bill Rose 3/19:
「お断りします」
白という色はクリーチャーを救うことに喜びを感じる色だ。それはファイレクシアにあっても変わらないが、その救済には代価が伴う。
私は多くの経験の浅いプレイヤーがこのカードの使い方でつまずくのを見てきた。
自身のクリーチャーを再生したい、だけど-1/-1カウンターは相手のクリーチャーに乗せたい。このカードのルール的な動きは簡単に分かる。しかし実際どう使えばよいのかはそう簡単ではない。
私たちは、2通りのまったく異なる使い方が出来てしまう上に自身のクリーチャーに用いた場合にはデメリットを残すようなカードを滅多に作ったりはしない。
しかしこのカードを全体として見たときに生じるその奇怪さこそが、白のファイレクシア・カードとして機能している証だと私たちには受け取られた。皆がこのカードのために色の慣例を破るのをいとわなかったことに感謝したい。
Choking Fumes / 窒息の噴煙 (2)(白)
インスタント
各攻撃クリーチャーの上に-1/-1カウンターを1個ずつ置く。
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Choking+Fumes/
白のカードがいつもとちょっと違うことを示す、3つ目の例がこれだ。
確かに、攻撃クリーチャーを罰するのは間違いなく白の分野だ。
しかし通常、その罰が複数のクリーチャーに与えられることはないし、ましてやそれが-1/-1カウンターの形で与えられることはまずありえないと言っていい。
白のファイレクシア・カードの中でいえば、それほど変わっていると言うほどでもないが、私からするとそれでもまだ十分に奇妙なカードだ。
Phyrexian Rebirth / ファイレクシアの再誕 (4)(白)(白)
ソーサリー
すべてのクリーチャーを破壊する。その後、無色のX/Xのホラー(Horror)・アーティファクト・クリーチャー・トークンを1体戦場に出す。Xは、これにより破壊されたクリーチャーの総数である。
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Phyrexian+Rebirth/
全体除去は元々白の分野だ。そのためそれをあえてファイレクシアっぽく捻じ曲げるのには少々骨を折った。
ありがたいことに、ファイレクシア・チームが妙案を提供してくれた。
しかしこのカードについて皆がどれほどまでにコメントを飛ばしあったかを見てくれれば、ファイレクシア・チームが考え出してくれた「捻じ曲げ方」が、いかに白という役割のボーダーラインすれすれだったか、君たちにも分かってもらえると思う。
Erik Lauer 3/10:
ファイレクシアチームから新しいカードが来たよ。
Steve Warner 3/11:
これどっからどう見ても黒のカードじゃね……?
クリーチャータイプをスピリットか何かにすれば、もしかしたらありかも。
Zac Hill 3/11:
これは素晴らしい。
Aaron Forsythe 3/19:
素晴らしいとは思うけど【検閲削除】のほうがもっと好きだな。
両方作っちゃダメなの? 片方は黒にする必要あり?
Tom LaPille 3/19/2010:
【検閲削除】は黒っぽい気がするね。
Ken Nagle 3/21/2010:
これがもし聖なるX/Xアバター・トークンを作るのなら白で問題ない。
だけどその場合、ファイレクシアっぽさが無くなる。
4黒黒のコストにしてX/Xのデーモンを出すのはどうかな。
もしトークンが飛行持ちならPete Ventersのデーモン・トークンを再利用できる。
トークンってのは、見た目がReiver Demonに似てるあれね。
あー、でもそうすると、戦場に出たときに全てのクリーチャーを破壊する
Reiver Demonっぽいカードを作ればいい、ってことになっちゃうか。
Ryan Miller 3/23:
これでいいよ! 白のウィニーデッキに入る全体除去だ!
テーマに沿ってて面白い。
ただ白なのにクリーチャータイプがホラーなのは変、ってのには同意
(ダンス・ホールで踊ってる時なら別だけど)
Kelly Digges 3/23:
これは実に「白いファイレクシア」だと思う。
こんな感じの黒いカードはどんなセットでも入りうるけど、
白いバージョンはここでしかあり得ない。
だからこそ白にあって欲しいと思う。
異論は認める。
Mark Rosewater (3/25/10):
白のファイクレシアカードにふさわしいと思うよ。
これは確かに白だけど、いつもの白じゃない。
Zac Hill 4/5:
このカード自体はいい。
だけどエルズペス/これ/【検閲削除】と、全体除去が多すぎる気がする。
似たような効果が増えすぎないよう注意する必要があるね。
成績優秀で容姿端麗なDaily MTGの編集者であるKelly Diggesからのコメントこそが、そのままこのカードを白にした理由を簡潔に説明している。
ファイレクシアとは何か? それは「目立たないほどわずかに侵してはならない境界線を侵しているもの」だ。
カラーパイに敬意を払っていないわけではない。しかしそれは、このカードのような「わずかに踏み外したカード」を作るのを諦めるほどに絶対的なものでもない。
最後に1つ。コメントの中で【検閲削除】と伏せさせてもらったカードは《黒の太陽の頂点/Black Sun’s Zenith》のことではない。注意をおこたらずアンテナを高くしていれば、それが出てきたときにはすぐ気づけるはずだ。
Serum Raker / 血清掻き (2)(青)(青)
クリーチャー - ドレイク(Drake)
飛行
血清掻きが戦場からいずれかの墓地に置かれたとき、各プレイヤーはカードを1枚捨てる。
3/2
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Serum+Raker/
このカードのデメリット部分は元々このクリーチャーのコントローラーにしか影響しなかった。その状態の際には、こいつはより大きなサイズとより低いコストを持っていた。
その後、変化が生じた。
Mark Rosewater (3/25/10):
単にでかいデメリットを持っているってのは、ファイレクシアっぽくない気がする。
やっぱり対戦相手が嫌がるような効果がないとね。
せめて効果が全員に及ぶようにはできないかな。
「~ が戦場からいずれかの墓地に置かれたとき、
あなたはカードを2枚捨て、他のプレイヤーはカードを1枚捨てる。」
Erik Lauer 3/25:
全員が1枚捨てる、にしてみた。
この変更のおかげでこのカードはファイレクシアっぽくなったとは思うが、私がそう思うのはMarkとは違う理由からだ。
ドラフトでピックしたときとその後のデッキ構築中、「死亡時にトリガーされる効果は敵味方に対して公平に働くんだ」と自分に言い聞かせることは簡単だ。
しかし実際には、青いデッキは長期戦に持ち込むことを想定していることが多い。土地は余すところなくプレイしたい……こいつの捨て札のために1枚とっておいたりすることなく。
とはいえ、このジレンマもファイレクシア陣営のメンバーをチームに加えた結果として仕方ないものと受け止めなくてはいけないのだろう。
ありがたいことに3/2飛行というスペックは、たまにしか発生しない捨て札というデメリットよりも価値があるものだ。
Vedalken Anatomist / ヴィダルケンの解剖学者 (2)(青)
クリーチャー - ヴィダルケン(Vedalken) ウィザード(Wizard)
(2)(青),(T):クリーチャー1体を対象とし、それの上に-1/-1カウンターを1個置く。あなたはそのクリーチャーをタップまたはアンタップしてもよい。
1/2
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Vedalken+Anatomist/
Erik Lauer 3/10:
ファイレクシアチームから新しいカードが来たよ。
Zac Hill 3/11:
Obey Your ~ ♪ ……いや、なんでもない。
Erik Lauer 3/15:
Your life burns faster ~ ♪
Aaron Forsythe 3/19:
うざい。
Tom LaPille 3/19/2010:
プレイしたくなるね。ロックバンドをだけど。
Tabak 3/23:
こいつはなかなかいいと思うよ。
ただこれの名前と同じ題名の歌があった気がする……なんだっけ……
Erikはスラッシュ・メタルの大ファンで、このカードをフォルダに入れる際に《Master of Puppets》という仮の名前(註)をつけていた。
(註) 《Master of Puppets》という名前
メタリカというヘヴィメタル・バンドの歌に「Master of Puppest」という題名のものがあり、その歌い出しが「Obey your master. Your life burns faster. Obey your master. Master Master of puppets I’m pulling your strings.」であるらしい。
Mark Rosewater (3/25/10):
私だったら効果は「タップまたはアンタップ」に変えるね。
そうしないと白のカードみたいだ。
《流血の臣下/Gore Vassal》ほどではないが、このカードもまた悩ましい選択肢を迫られる可能性を秘めている。
対戦相手のクリーチャーをタップするという使い方は誰でも簡単に思いつくだろう。
しかしこの「またはアンタップ」が付け加えられたことで、ブロックのために使えるコンバットトリックとしての用法があることを示唆している。
もちろんそれはタダじゃない。代価を支払う必要がある。
私はチームにファイレクシアっぽさを混ぜることで多少気持ち悪いような、不安定な要素が生まれてしまうのもありだと考えている。
さらに言うと、1枚か2枚のファイレクシア・カードがプレイヤーに悩ましい選択肢を与えてしまうのも悪くないと思っている。
Corrupted Conscience / 堕落した良心 (3)(青)(青)
エンチャント - オーラ(Aura)
エンチャント(クリーチャー)
あなたはエンチャントされているクリーチャーをコントロールする。
エンチャントされているクリーチャーは感染を持つ。(それはクリーチャーに-1/-1カウンターの形でダメージを与え、プレイヤーに毒(poison)カウンターの形でダメージを与える。)
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Corrupted+Conscience/
ファイレクシアとは奪うことに他ならない。青という色もまた他から奪う色だ。またファイレクシアは、それすなわち感染/Infectでもある。
これほどまでに明確なカードが他に作れただろうか? いや、無理だっただろう。ただこれに関しては1つの問題点が指摘された……
Zac Hill 12/21:
すげー、素晴らしい。
MJG 1/12/10:
カッコいいね。
Aaron Forsythe 2/18:
うーん、SOM(註)にもむかつくConfiscate(註)があったし、
多分だけどACT(註)にも入ることになると思う。
目を離さないほうがいいかもね。
Mark Rosewater (3/25/10):
これは戦争をテーマにしたセットにふさわしいと思う。
それはそれとして、確かに気をつけたほうがいいだろうね。
何せActionは通常のセットよりも多くの奪取系カードが必要になるだろうから。
(註) SOM
Scars of Mirrodinの略。つまりミラディンの傷跡のこと。
(註) Confiscate
永続的にコントロールを奪取するオーラ・カードである《押収/Confiscate》のこと。ここでは、相手のパーマネントのコントロールを奪うオーラ・カードの代名詞として使っており、遠まわしにミラディンの傷跡の《決断の手綱/Volition Reins》を指している。
(註) ACT
Actionの略。次に発売が予定されているセットの仮の名前。
ここで注意が喚起されているように、何かを奪うということはあまりにファイレクシア的なため、今後そういったカードを作る余地をきちんと残しておくよう気をつける必要がある。
なお、結局のところこのカードは収録されることになった。
このカードはミラディン軍とファイレクシア軍の対立を理解してもらう舞台装置として、あまりにも効果的なカードであった、というのがその理由だ。
Consecrated Sphinx / 聖別されたスフィンクス (4)(青)(青)
クリーチャー - スフィンクス(Sphinx)
飛行
いずれかの対戦相手がカードを1枚引くたび、あなたはカードを2枚引いてもよい。
4/6
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Consecrated+Sphinx/
《聖別されたスフィンクス/Consecrated Sphinx》は一見したところただの飛んでるデカブツに見える。
しかし実のところ、こいつは長いマジックの歴史の中で作られてきた数多くのムカつくクリーチャーの中でも、特に人の神経を逆撫でする1匹であることに私は気づいた。
「お、いいドローステップ持ってるねえ、
ちょっと僕もご一緒させてもらおうかな。
あれ? もしかして僕のほうが君より多く引いてるのかな?」
カードを引くという行為は通常において、自分のターンの中でも楽しい時間のはずだが、同時に対戦相手が2枚引くとあっては、とてもそうはいかないだろう。
相手の健全な楽しみを奪ってしまうというこの行為は非常にファイレクシア的だ。その点で私はこのカードが気に入っている。
~~~~ ~~~~ ~~~~ ~~~~
さて、ファイレクシアとは何かをそれとなく伝えるために私たちが用いた巧妙なテクニックについてここまで長々と述べてきた。
しかし私たちにとっては、暗にほのめかすのではなくあからさまな形でファイレクシアの侵出が行われていることを示すのも、同じくらい重要なことだった。
そして、ミラディンブロックの有名カードたちを引っ張り出してきて、それらに「感染」と書き足すことよりもあからさまな手段はそうはなかっただろう。
原文ではここに《ヴィリジアンの堕落者/Viridian Corrupter》、《荒廃鋼の巨像/Blightsteel Colossus》、《墨蛾の生息地/Inkmoth Nexus》の3枚の画像が並んでいる。
それぞれミラディンの《ヴィリジアンのシャーマン/Viridian Shaman》、《ファイレクシアの巨像/Phyrexian Colossus》、《ちらつき蛾の生息地/Blinkmoth Nexus》にそのまま感染を加えたようなカード。
実際にカードとなってしまうと、あまり語ることもないが、この処置を施す対象を選ぶのには熟慮に熟慮を重ねた。
候補を収めたファイルには上記の3枚以外にも実に大量のカードが出番を待ち望んでいた。
しかし私たちの最終的な決断は、少ない枚数であっても人気のあるカードたちであれば十分な効果を上げられるだろうし、その方が他のカードのためのスペースをより多く確保できるだろう、というものだった。
《墨蛾の生息地/Inkmoth Nexus》と《ヴィリジアンの堕落者/Viridian Corrupter》の選択については私たちのもう1つの目的のためでもあった。それは構築レベルの感染デッキが生まれて欲しいというものだ。
今日はこれだけだ。何しろミラディン包囲戦の中でもファイレクシア的なのは半分だけに過ぎない。
これだけじゃ物足りない? すぐに(註)君にも満足してもらえると思うよ。
(註) すぐに
原文では以下のリンクが張ってある。
リンク先は新たなるファイレクシアのカードプレビュー。
http://www.wizards.com/magic/magazine/article.aspx?x=mtg/daily/arcana/677