【翻訳】吸血いっとく?/Care for a Bite?【Daily MTG】
Mark Rosewater
2009年10月19日
元記事:http://www.wizards.com/magic/magazine/article.aspx?x=mtg/daily/mm/61
ヴァンパイア週間へようこそ!
このテーマを探求するにあたり、私はマジックの歴史に登場する著名なヴァンパイアたちを円卓に集めて座談会を開いてみたら楽しいんじゃないかと考えた。
え、もうやったことがあるって?(註)
それは変だな。私だったらそういうネタはヴァンパイア週間が訪れるまで大事にとっておくはずなんだけど。
ああ、なんだ。最初の記事を書いたときもヴァンパイア週間だったのか。トリビア好きな君のために書いておくと、同じテーマ週間が2度以上行われたのはサイクリング週間(註)が初だ。
そして2つ目はヴァンパイアだ。
なんでヴァンパイア週間を2回もやるのかって?
それはゼンディカーがヴァンパイアを派手に復活させたからさ (目立たないようにもやってるけどね。それはあとで説明するよ)。
今日のコラムではヴァンパイアのデザインの際にどのような判断が下されたか、またその際にどういった考察がなされたかについて話そうと思う。
現実との対比
今日のコラムのメインコースへ入る前に、2つのコンセプトの定義づけを済ませておきたいと思う。さらにこれらを定義づけるに当たって、話を分かりやすくするためにそれぞれのコンセプトに名前をつけておきたい。
名前に使う単語は本来の意味から多少外れた使い方をしていることは、私自身よく分かっている。しかし私が表現したいことをそのまま表してくれる言葉がない以上、そうせざるをえないのだ。(私のコラムの愛読者であれば、私が言葉の使い方を自分に都合よく捻じ曲げることに全く抵抗を持たない人間だということはご存知だろう)
定義づけたい2つのコンセプトに対して、それぞれ「アイコン/Iconic」と「キャラクター/Characteristic」というラベルを貼ろうと思う。これら2つのコンセプトはどちらも「特定の何かが自身よりも広い範囲を指し示す」現象だ。
これら2つのコンセプトについてより深く理解してもらうために他にもいくつか例を出しておこう。
ゴルフ
アイコン/Iconic :タイガーウッズ
キャラクター/Characteristic :ゴルフカート
ハリウッド
アイコン/Iconic :ハリウッドの看板
キャラクター/Characteristic :席が空くのを待っている俳優たち
バットマン
アイコン/Iconic :バットモビール
キャラクター/Characteristic :バッタラング(註)
さて、これら2つのコンセプトがマジックと関わりがあるのかどうか?
もちろんだ。
過去に何度となく話してきたように、私はマジックの核にあるものはカラーホイール(註)だと信じている。このゲームのありとあらゆる要素(クリエイティブ的なものも、メカニズム的なもの全て)は、このカラーホイールから生まれてくる。
よって、マジックの各色が何を象徴しているのか、それを明確にできるかどうかは非常に重要なことだ。アイコン/Iconicとキャラクター/Characteristicという2つのコンセプトを使って、これを説明してみよう。
まずは例として、赤という色を取り上げてみよう。
赤のアイコン/Iconic的なクリーチャーといえばドラゴンだ。そのとおり。彼らは巷にあふれかえってはいるわけではないが、確かな存在感をもつドラゴンたちはどれも赤という色の特長を示す良い例だ。
赤のキャラクター/Characteristic的なクリーチャーはゴブリンだ。赤という色においてゴブリンほど広くのさばっているクリーチャーは他にいない。赤の最も主要な種族だ。
集える仲間がいる。こんなに嬉しい事はない
ヴァンパイア週間なのにほとんどヴァンパイアについて語っていないって?
大丈夫、ここから話すよ。
さて、Magic 2010とゼンディカーでヴァンパイアたちに何が起きたかについて話そう。私たちはヴァンパイアを「アイコン/Icon」から「キャラクター/Characteristic」へと移した。
これが何を意味するのか?
その問いに答えるには、マジックのクリーチャーが「アイコン/Icon」から「キャラクター/Characteristic」へと変わるということが具体的にどういうことなのかを理解しておく必要がある。
Magic 2010以前のヴァンパイアは アイコン/Iconic の法則に従っていた。Magic 2010で彼らは キャラクター/Characteristic な存在となった。
何が起きたのだろうか?
これを説明するにはまず黒の アイコン/Iconic をかけて行われてきた2つの種族の争いについて語るべきだろう(前後の文脈がなかったら意味不明の文章にしか見えないだろうね。それは認める)。
赤と白は アイコン/Iconic なクリーチャーをちゃんと持っている。青は今なお アイコン/Iconic なクリーチャーを根付かせようとしているところであり、緑は、まあ、そのなんだ。努力はしている。
その一方、黒はその アイコン/Iconic のクリーチャー座をかけて長いこと争いが続いている。
そのとおり。
ヴァンパイア VS デーモンは黒の暗き魂の座をかけて戦い続けてきた。黒という色の特徴と、その特徴をどちらの種族がより色濃く反映しているかを分析してみよう。
見ての通り、デーモンはわずかにヴァンパイアより勝っている。
実際「バフィー ~恋する十字架~」という作品世界ではヴァンパイアとデーモンは同じものとして描かれている(素晴らしきかな、ウェドンの世界(註))。
それぞれの色には様々なクリーチャーが属しているが、最終的にその中で アイコン/Iconic なクリーチャーになれるのはただ1つだ。
さてここで次に黒の キャラクター/Characteristic の勢力争いに目を向けてみよう。
おっと、勘違いしないでくれよ。私も皆と同じくらいゾンビが大好きだ。いや、誰よりも好きだと言っても過言ではない(君に向けて言ってるんだよ、ガ・アーク!(註))。
問題は彼らがアンデッドであるということだ。自分の意志を持たない大群というものに黒のエッセンスを表現させるのは並大抵の苦労じゃない。
もちろん彼らは死そのものであり、手の届く範囲にある命を貪欲に喰らうことでその病毒をまき散らしている。
しかしそれでもなお、ゾンビが黒の主要な種族として適格であったことは一度もない。黒の核にあるもの、それは利己性であり力への貪欲性だ。ゾンビにはそれがないんだ。
そのようなわけで アイコン/Iconic の座をかけて2つの種族が争っている一方、キャラクター/Characteristic の座にはただ1種類のアンデッドがなんとなく居座っているという状態が続いていたわけだ。
どうすればこの問題が解決できるだろうか?
ここで最後の判断材料の出番だ。それは私が 現実世界/Outside World と呼んでいるものだ。(マジックの制作現場の話をするとき、私たちはマジックから離れた 現実世界/Outside World を持ちだすことは滅多にない(ああ、私のプライベートの話は別だ)。しかしここに初めて認めないといけないだろう。それは確かに存在する。)
マスメディアを信用するなら(基本的に私たちは生まれてこの方、そうするよう仕向けられているのだが)どうやら人々はヴァンパイアに親しみを感じているように思われる。
それにも関わらず、マジックにおける アイコン/Iconic の座はデーモンによって占められてしまっている。その一方で黒の キャラクター/Characteristic の座は他の誰かに担当されるべきだと声高に主張している。
どうする? さて、どうする?
クリエイティブ・チームは長年のあいだ「アイコン/Iconic と キャラクター/Characteristic の種族を入れ替えてみては」という考えを検討し続けていた。しかし知っての通り、長期に渡る慣習というものを変えるのはそう簡単ではない。
そこにやってきたのがMagic 2010であり、そのスローガンである「正しきをなせ、慣習を打ち破れ」だ。マジックのクリエイティブ・ディレクターであるBrady Dommermuthはそこに転換のチャンスを見た。
そのようなわけで、ヴァンパイアは黒の アイコン/Iconic なクリーチャーであることを止め、黒の キャラクター/Characteristic なクリーチャーへと切り替わったんだ。
(だからと言って、人目を引くクールなレアや神話レアのヴァンパイアを私たちがもう二度と作らないというわけじゃない。《マラキールの血魔女/Malakir Bloodwitch》を見てくれれば分かるだろう)
これによって、個々のヴァンパイアは単体ではそれほど特別じゃなくなるということだ。
結局のところ、マジックにはマナコストが(2)(黒)で2/2のバニラクリーチャー(たまにデメリットつき)が必要なんだ。(あー、はいはい、分かってるよ。確かにアイツ(註)はヴァンパイアじゃない)
明るい面を見れば、今後の構築済みデッキでヴァンパイアをテーマにしたものも作れるし、ドラフトでヴァンパイアデッキだって組める(本気で言ってるよ? ゼンディカードラフトの黒単ヴァンパイアデッキは3-0だって可能だ)。
量が増すことで選択肢も増える。
アンデッドに口なし
というわけで、ゼンディカーにはヴァンパイアがたくさん収録されることになったか……というと、実際はそうでもなかった。少なくともデザインの段階では。
ゼンディカーのデザインはMagic 2010のデザインよりも早い時期に行われたのだ。つまり、この ヴァンパイアの大転換/Great Vampire Swap が実際に起きたのはゼンディカーのデザインも後半に入ってからのことだった。
そのためゼンディカーがデベロップメント・チームの手に引き渡されたとき、そこにヴァンパイアの姿は無かった。コモンにもアンコモンにも、という意味でだ。
さて、デベロップメントの最中、セットのある側面を最適に仕上げるためにデザイン・チームの出番が生じた。デベロップメントの中で生じたいくつかの論点をデザイン面からのアプローチで解決しようとするものだった。
ポイントとなった事項の1つは、セットにヴァンパイアを加えたいというものだ。
このヴァンパイア(および、同様にデベロップメントの段階で加えることとなったもう1つの種族であるコー/Korやその他の少数のカード)を加える仕事は、チームリーダーにKen Nagleが据えられ、メンバーにはLatest Development(註)の著者として有名なTom Lapille、およびR&D屈指のプレイテスターであるSteve Warnerが参加した。
彼らの目標はヴァンパイア的なメカニズムを見つけ出すこと。皆がプレイする際に、これぞヴァンパイアデッキだ、と感じられるようなフレイバーあふれるテーマを生み出すことだ。
この問題へのヒントは2つの全く異なる場所からもたされた。
1つはアラーラの断片ブロックのグリクシス/Grixisの断片であり、もう1つはロールプレイングゲームのダンジョンズアンドドラゴンズ(註)だ。
デザイン・チームに課せられた目標を達成しようとしていたとき、Kenが思い出したのは1年前に他のデザイン・チームが提案したアイデアだった。
グリクシスのデザイン・チームのリーダーはDevin Lowで、そのチームメンバーにはデベロッパーとしてErik Laurer、デザインメンバーとしてBrian Tinsmanが加わっていた。
そのチームの目標の1つはグリクシスらしさを表現するメカニックを生み出すことだった。
アイデアの1つはErik Laurerによって生み出された。彼は「対戦相手のライフが一定のラインを切っているときに能力が向上するクリーチャー」という自分のアイデアを気に入っていた。
そのコンセプトをより明確にするために彼が提示したのは以下のようなサイクルだった。
対戦相手のライフが15以下のときに向上するコモンのクリーチャー、対戦相手のライフが10以下のときに向上するアンコモンのクリーチャー、そして対戦相手のライフが5以下のときに向上するレアのクリーチャー。
このアイデアはグリクシスには採用されなかったが、他のR&Dメンバーに深い印象を残した。そのメンバーの中にはKenも含まれていたというわけだ。
さてその頃、Tomはまったく違った面からインスピレーションを得ていた。
Tomは仕事の時間の大半をマジックに費やしていたが、同時にその一部をウィザーズオブザコースト社の別のゲームにも振り向けていた。
それは、とあるロールプレイングゲームで、そのゲームのファンには D&D と呼ばれているものだ。
Tomはウィザーズ社に来た当時、ダンジョンズアンドドラゴンズのキャンペーンに参加し、それがあまりに楽しかったため、その後も裏でそれに関わる仕事を手掛けていた。
D&Dのクリーチャーたちはヒットポイントと呼ばれる数値を持っており、これが彼らの生命力を表している(ちなみに双頭でないマジックの魔法使いはこのヒットポイントを20点もっていることになっている)。
そして、ヒットポイントがその最大値の半分以下になったクリーチャーは「重傷/Bloodied」(註)とみなされるというルールがある。
プレイヤーが「重傷/Bloodied」状態に陥ったときだけ効果を発する、というアイデアがTomには魅力的なものに思われた。
私自身はこのチームに参加していなかったので、この2つのアイデアがどのようにして混ざり合ったのかは分からないけど、とにかくこれらは混ざり合って1つのアイデアとなったようだ。
「対戦相手のヒットポイントの減少によって与えられるボーナス」と「君のクリーチャーによって対戦相手が重傷に陥った」というフレイバーと関連付けたらどうなるだろう?
《センギアの吸血鬼/Sengir Vampire》に代表されるような「ヴァンパイアが他のクリーチャーを喰らう」というフレイバーのかわりに「ヴァンパイアが対戦相手の命を喰らう」と考えてみたら?
対戦相手の生命力が一定のラインまで低下し、ヴァンパイアがその弱体化を嗅ぎつけたとき、ヴァンパイアたちはより勢いを増し、そしてより好戦的になるのだ。
デザイン・チームは閾値を10点に設定した。なぜならメカニズム的にも良いバランスのように感じられたし、それだけでなくD&Dでもクリーチャーが重傷に陥るのはそのヒットポイントが半分失われたときだ。試しに始めてみるには手ごろなラインと思われた。
10点のラインが適切なものだということはプレイテストによって早々と判明した。
デザイン・チームはこの「重傷/Bloodied」からアドバンテージを得られるヴァンパイアを大量に作った。最も多く作られたのは +2/+1 のボーナスを得るというものだ。
なぜ +2/+1 なのか?
その理由は3つある。その1として「平凡な +1/+1 との差別化」、その2として「マジック初期の象徴的な黒のカードであった《邪悪なる力/Unholy Strength》との紐づけ」、その3として「敵味方の両プレイヤーが10点という閾値に注意を払わざるを得なくなる程度に高いボーナス」として設定された。
ゼンディカーのデベロップメント・チームはヴァンパイアを用いたプレイテストに長い時間を費やした。
その結果として判明したのは、このボーナスは上手いことゲームで働いてくれる、ということだけでなく、ヴァンパイア・デザイン・チームが作ってくれた大量のヴァンパイアを全てこのセットに入れる必要はない、ということだった。
彼らは気に入ったものだけ残し、その他のカードについては違った方向にヴァンパイアのフレイバーを感じさせるデザインへと変更した。
ついでに述べておくと、デベロップメント・チームが気に入っているゼンディカーのデザインには《血の貢ぎ物/Blood Tribute》や《ソリン・マルコフ/Sorin Markov》のようなカードがある。これらは(声高に主張するのではなく)むしろひそやかにヴァンパイアのメカニズムへ紐づけがなされているところがいい。
そしてカードへ
さて今日のコラムを締め括る前に、セットに収録されているヴァンパイアの何枚かのデザインについてちょっと取り上げてみたら面白いかもしれない、と考えてみた。
これは10点のヒットポイントに関連するメカニズムを持つヴァンパイアのうち、デザインの段階ですでに生まれていた唯一のものだ。
念のために言っておくと、「ライフが10点以下である限り」のテキストは当然ヴァンパイア・デザイン・チームによって付け加えられたものだ。
上陸能力によって自力で墓地から帰って来られる黒のクリーチャーというアイデアがデザイン・チームによってすでに生み出されていたのだ。
私の覚えている限りでは、これの元々のバージョンはゼンディカーのデベロップメント・リーダーであるHenry Sternに生み出された。
彼は、あまりややこしくない「戦場に出たとき/Enters the battlefield」にトリガーするキッカー能力を欲していた。
最初の能力は合計 (3)(黒) を払うことで《闇への追放/Dark Banishing》の効果を誘発するものであった。のちのデベロップメントで、最終的には合計 (黒)(黒)(黒) を払うことによって《残酷な布告/Cruel Edict》の効果となった。
これは元々のKenのデザイン・チームの意図にもっとも近いカードだ。
+2/+1 のボーナスを残した唯一のカードでもある。
このカードは一見トップダウン式に生まれたように見える。つまり「伝説のヴァンパイアをデザインする」のがまず先にありきで作られたように思われるかもしれないが、実際はそうではない。
誰がデザインしたかは残念ながら忘れてしまったが、これは普通のレアとして生まれた。
その後、伝説のクリーチャーのリストをクリエイティブ・チームからもらったとき、その中の1つは伝説のヴァンパイアだった(そのとおり。最初の段階で、もうすでにヴァンパイアが多少はいたのだ。単にコモンとアンコモンにいなかったというだけのことだ)。
既に作られていたカードの中に実にしっくり来るレアがあったため(そしてデザイン・チームの中でも人気のある1枚だったため)、私はこれを伝説のヴァンパイアへと変更したのだ。
これ自体はヴァンパイアではないが、これは確かに「ヴァンパイア関連」のカードだ。そしてこいつに関してはなかなか面白い話があり、それをこれから語ろうと思う。
これの元々のバージョンも、今、君が見ているものと全く同じだった。ただ1つの違いはマナコストが (1)(黒)だったことだ。
このカードはKenがヴァンパイアのデザインをしている最中に生まれた。KenはこのカードデザインをHenry Sternへと預け、セットに加えておくように指示した。
Henryは(1)(黒)とするべきカードデータを誤って(2)(黒)と入力してしまった。間違いに気づいたとき、R&Dのメンバーの大半は「これは意外と面白いぞ」と思ったのでそのままにしておくことにした。
私はこのカードが気に入らなかった。
すでに弱すぎると皆に思われているカード(アルファから収録されている《スケイズ・ゾンビ/Scathe Zombies》のことだ)の明らかな下位互換をわざわざ作る意味があるとは思えなかったからだ。
私はこれをセットから抜くべきだ(もしくはせめてマナコストを (1)(黒) に戻すべきだ)と主張したが、Kenはこのままにすると言って譲らなかった。
Kenに同調するメンバーが多数派で、結局カードはそのまま印刷された。
さて、カードが世に出て世間一般の評判を聞くにつけ、私は自分が間違っていたこと、そして正しい選択がなされたことを素直に認めようと思う。
このカードはゼンディカーのリミテッドでデッキに入る可能性を持っている。
また私自身も過去にすでに出ているカードの下位互換でしかないバージョンを生み出そうとすることに賛成したことがある。下位互換であってもプレイするに値するカードだと思ったからだ。
(もし当時の私の意見が通っていたら、《無効/Annul》がミラディンに再録されるかわりに《Malfunction》というマナコストが (青) で、アーティファクトしか打ち消せない呪文が収録されていたはずだ)
デベロップメントの中で、低いレアリティのカードでプレインズウォーカーに対処する手段があるべきだ、ということでこのカードが生まれた。
そのとき私たちは想像もしなかったんだ。
まさかこれの真の使い道が「氷の塊の中から20/20の破壊されない飛行クリーチャーを掘り出すこと」(註)にあるとはね。つい先日のプロツアー・オースティンで見られたように。
このカードはKenのヴァンパイア・デザイン・チームによってではなく、デベロップメント・チームによって生み出された。
黒単色デッキのためによりアグレッシブな回答を探していた彼らは、お気に入りの黒いアグロなクリーチャーをヴァンパイアとして復活させることを決めたのだ。
そう、エクソダスの《カーノファージ/Carnophage》だよ。
トリビアネタを追加しておくと、そもそも私がエクソダスで《カーノファージ/Carnophage》を作ったのは、当時の黒単色のアグロなゾンビ・デッキを後押ししたかったからだ。
17番目のアンデッド
今日語るべきはこれで全部だ。
願わくばこのヴァンパイア世界へと足を踏み入れた記事のせいで君たちの血の気が引くようなことはなかったと思いたい。
来週は、惜しくも収録されることのなかった土地メカニズムについて話そうと思っているので、ぜひまたここに足を運んで欲しい。
それまで、君が対戦相手を重傷に陥らせることで得られるメリットを享受できていますように。
Mark Rosewater
2009年10月19日
元記事:http://www.wizards.com/magic/magazine/article.aspx?x=mtg/daily/mm/61
ヴァンパイア週間へようこそ!
このテーマを探求するにあたり、私はマジックの歴史に登場する著名なヴァンパイアたちを円卓に集めて座談会を開いてみたら楽しいんじゃないかと考えた。
え、もうやったことがあるって?(註)
(註) もうやったことがある
原文では以下のURLへリンクが張ってある。
http://www.wizards.com/magic/magazine/article.aspx?x=mtgcom/daily/mr215
内容は前述のとおり、マジックの有名どころのヴァンパイアたちによる座談会。
以下、上記コラムの拙訳。
http://regiant.diarynote.jp/201103050019455223/
それは変だな。私だったらそういうネタはヴァンパイア週間が訪れるまで大事にとっておくはずなんだけど。
ああ、なんだ。最初の記事を書いたときもヴァンパイア週間だったのか。トリビア好きな君のために書いておくと、同じテーマ週間が2度以上行われたのはサイクリング週間(註)が初だ。
(註) サイクリング週間
原文では以下のURLへリンクが張ってある。2009年のサイクリング週間のコラム。
http://www.wizards.com/magic/magazine/article.aspx?x=mtg/daily/mm/27
上記コラムが2回目のサイクリング週間のコラムで1回目は2004年に書かれている。
その2004年に書かれた1回目の記事の拙訳は以下(元記事へのリンクあり)
http://regiant.diarynote.jp/201203102223182661/
そして2つ目はヴァンパイアだ。
なんでヴァンパイア週間を2回もやるのかって?
それはゼンディカーがヴァンパイアを派手に復活させたからさ (目立たないようにもやってるけどね。それはあとで説明するよ)。
今日のコラムではヴァンパイアのデザインの際にどのような判断が下されたか、またその際にどういった考察がなされたかについて話そうと思う。
現実との対比
今日のコラムのメインコースへ入る前に、2つのコンセプトの定義づけを済ませておきたいと思う。さらにこれらを定義づけるに当たって、話を分かりやすくするためにそれぞれのコンセプトに名前をつけておきたい。
名前に使う単語は本来の意味から多少外れた使い方をしていることは、私自身よく分かっている。しかし私が表現したいことをそのまま表してくれる言葉がない以上、そうせざるをえないのだ。(私のコラムの愛読者であれば、私が言葉の使い方を自分に都合よく捻じ曲げることに全く抵抗を持たない人間だということはご存知だろう)
定義づけたい2つのコンセプトに対して、それぞれ「アイコン/Iconic」と「キャラクター/Characteristic」というラベルを貼ろうと思う。これら2つのコンセプトはどちらも「特定の何かが自身よりも広い範囲を指し示す」現象だ。
アイコン/Iconic
ある物がより大きなグループを代表してしまうことがある。なぜかというと、それが広く知れ渡っていたり、あまりに支配的であったりするため、代名詞的な存在となってしまうからだ。
例えば、自由の女神はアメリカ合衆国のアイコン/Iconicだ。
それは1つしかないが、あまりに印象的かつシンボル的であるため、自由の女神だけでアメリカを表してしまうことが出来る。
キャラクター/Characteristic
印象的でないにも関わらず、ある物が自身よりも大きなグループを表してしまうこともある。その存在があまりにも巷にあふれすぎているせいで、人々はより大きな何かにそれを結びつけて考えてしまうのだ。
例えば、アメリカに訪れた人はスターバックスとアメリカを結びつけて考えてしまうかもしれない。
なぜならまるでありとあらゆる交差点の角にそれがあるかのように見えるからだ(「まるで」という表現は事実上すでに正しくないかもしれないが)。
どこかにあるスターバックスの1店舗だけ見てもアメリカは想起されない。しかしその数による圧倒的なまでの存在感が連想を生み出してしまうのだ。
これら2つのコンセプトについてより深く理解してもらうために他にもいくつか例を出しておこう。
ゴルフ
アイコン/Iconic :タイガーウッズ
キャラクター/Characteristic :ゴルフカート
ハリウッド
アイコン/Iconic :ハリウッドの看板
キャラクター/Characteristic :席が空くのを待っている俳優たち
バットマン
アイコン/Iconic :バットモビール
キャラクター/Characteristic :バッタラング(註)
(註) バッタラング
Bat+Boomerang(こうもり+ブーメラン)の造語。
バットマンが用いる、コウモリの形をしたブーメラン状の道具。
さて、これら2つのコンセプトがマジックと関わりがあるのかどうか?
もちろんだ。
過去に何度となく話してきたように、私はマジックの核にあるものはカラーホイール(註)だと信じている。このゲームのありとあらゆる要素(クリエイティブ的なものも、メカニズム的なもの全て)は、このカラーホイールから生まれてくる。
(註) カラーホイール
原文では Color Wheel。カラーパイとも呼ばれる。マジックの様々な要素や分野を5つに切り分けた円形で表す概念。Mark Rosewaterは今までにもこの考え方についていくつも長文を書いている。
よって、マジックの各色が何を象徴しているのか、それを明確にできるかどうかは非常に重要なことだ。アイコン/Iconicとキャラクター/Characteristicという2つのコンセプトを使って、これを説明してみよう。
まずは例として、赤という色を取り上げてみよう。
赤のアイコン/Iconic的なクリーチャーといえばドラゴンだ。そのとおり。彼らは巷にあふれかえってはいるわけではないが、確かな存在感をもつドラゴンたちはどれも赤という色の特長を示す良い例だ。
赤のキャラクター/Characteristic的なクリーチャーはゴブリンだ。赤という色においてゴブリンほど広くのさばっているクリーチャーは他にいない。赤の最も主要な種族だ。
集える仲間がいる。こんなに嬉しい事はない
ヴァンパイア週間なのにほとんどヴァンパイアについて語っていないって?
大丈夫、ここから話すよ。
さて、Magic 2010とゼンディカーでヴァンパイアたちに何が起きたかについて話そう。私たちはヴァンパイアを「アイコン/Icon」から「キャラクター/Characteristic」へと移した。
これが何を意味するのか?
その問いに答えるには、マジックのクリーチャーが「アイコン/Icon」から「キャラクター/Characteristic」へと変わるということが具体的にどういうことなのかを理解しておく必要がある。
アイコン/Iconic なクリーチャー
(1) 1セットにつきわずかな枚数しか登場しない(多くの場合は1枚のみ)
(2) ほぼ例外なくレアもしくは神話レアである
(3) 人目を引くデザインである
キャラクター/Characteristic なクリーチャー
(1) 1セットにたくさん登場する
(2) 全てのレアリティに登場する(特にコモン)
(3) ありふれた基本的なカードとして登場する ※
※ バニラ・クリーチャーやフレンチバニラ・クリーチャーのようなクリーチャーたちだ(なおこれらはR&Dで使われている用語で、ルールテキストを一切もたないものをバニラ・クリーチャー、キーワード能力しか持たないシンプルなものをフレンチバニラ・クリーチャーと呼んでいる)
Magic 2010以前のヴァンパイアは アイコン/Iconic の法則に従っていた。Magic 2010で彼らは キャラクター/Characteristic な存在となった。
何が起きたのだろうか?
これを説明するにはまず黒の アイコン/Iconic をかけて行われてきた2つの種族の争いについて語るべきだろう(前後の文脈がなかったら意味不明の文章にしか見えないだろうね。それは認める)。
赤と白は アイコン/Iconic なクリーチャーをちゃんと持っている。青は今なお アイコン/Iconic なクリーチャーを根付かせようとしているところであり、緑は、まあ、そのなんだ。努力はしている。
その一方、黒はその アイコン/Iconic のクリーチャー座をかけて長いこと争いが続いている。
そのとおり。
ヴァンパイア VS デーモンは黒の暗き魂の座をかけて戦い続けてきた。黒という色の特徴と、その特徴をどちらの種族がより色濃く反映しているかを分析してみよう。
力への欲求?
- デーモン
寄生性?
- ヴァンパイア
利己性?
- デーモン(僅差で)
生け贄を欲する?
- ヴァンパイア(これも僅差だ)
堕落と腐敗?
- デーモン(僅差ばかりだな、しかし)
偽りと詐欺?
- デーモン
非道徳性?
- デーモン
見ての通り、デーモンはわずかにヴァンパイアより勝っている。
実際「バフィー ~恋する十字架~」という作品世界ではヴァンパイアとデーモンは同じものとして描かれている(素晴らしきかな、ウェドンの世界(註))。
(註) ウェドンの世界
原文では Whedonverse。「バフィー ~恋する十字架~」の製作者であるジョッシュ・ウェドンが生み出す世界観を指すらしい。
それぞれの色には様々なクリーチャーが属しているが、最終的にその中で アイコン/Iconic なクリーチャーになれるのはただ1つだ。
さてここで次に黒の キャラクター/Characteristic の勢力争いに目を向けてみよう。
原文のコラムでは、ここに《スケイス・ゾンビ/Scathe Zombies》のカードイラストに「脳みそくれー」という頭の悪いセリフが書き込まれている画像が置いてある。
以下がそのイラストのリンク(URLがちょっと面白い)。
http://www.wizards.com/mtg/images/daily/mm/mm61_brains.jpg
おっと、勘違いしないでくれよ。私も皆と同じくらいゾンビが大好きだ。いや、誰よりも好きだと言っても過言ではない(君に向けて言ってるんだよ、ガ・アーク!(註))。
(註) ガ・アーク
原文では以下のURLへリンクが張ってある。ゾンビ週間に書かれた記事。記事にはゾンビの地位向上に努めるゾンビの組合のリーダー、ガ・アークというゾンビが登場する。
http://www.wizards.com/magic/magazine/article.aspx?x=mtgcom/daily/mr61
以下、上記コラムの拙訳。
http://regiant.diarynote.jp/201102260801103424/
問題は彼らがアンデッドであるということだ。自分の意志を持たない大群というものに黒のエッセンスを表現させるのは並大抵の苦労じゃない。
もちろん彼らは死そのものであり、手の届く範囲にある命を貪欲に喰らうことでその病毒をまき散らしている。
しかしそれでもなお、ゾンビが黒の主要な種族として適格であったことは一度もない。黒の核にあるもの、それは利己性であり力への貪欲性だ。ゾンビにはそれがないんだ。
そのようなわけで アイコン/Iconic の座をかけて2つの種族が争っている一方、キャラクター/Characteristic の座にはただ1種類のアンデッドがなんとなく居座っているという状態が続いていたわけだ。
どうすればこの問題が解決できるだろうか?
ここで最後の判断材料の出番だ。それは私が 現実世界/Outside World と呼んでいるものだ。(マジックの制作現場の話をするとき、私たちはマジックから離れた 現実世界/Outside World を持ちだすことは滅多にない(ああ、私のプライベートの話は別だ)。しかしここに初めて認めないといけないだろう。それは確かに存在する。)
マスメディアを信用するなら(基本的に私たちは生まれてこの方、そうするよう仕向けられているのだが)どうやら人々はヴァンパイアに親しみを感じているように思われる。
それにも関わらず、マジックにおける アイコン/Iconic の座はデーモンによって占められてしまっている。その一方で黒の キャラクター/Characteristic の座は他の誰かに担当されるべきだと声高に主張している。
どうする? さて、どうする?
クリエイティブ・チームは長年のあいだ「アイコン/Iconic と キャラクター/Characteristic の種族を入れ替えてみては」という考えを検討し続けていた。しかし知っての通り、長期に渡る慣習というものを変えるのはそう簡単ではない。
そこにやってきたのがMagic 2010であり、そのスローガンである「正しきをなせ、慣習を打ち破れ」だ。マジックのクリエイティブ・ディレクターであるBrady Dommermuthはそこに転換のチャンスを見た。
そのようなわけで、ヴァンパイアは黒の アイコン/Iconic なクリーチャーであることを止め、黒の キャラクター/Characteristic なクリーチャーへと切り替わったんだ。
(だからと言って、人目を引くクールなレアや神話レアのヴァンパイアを私たちがもう二度と作らないというわけじゃない。《マラキールの血魔女/Malakir Bloodwitch》を見てくれれば分かるだろう)
これによって、個々のヴァンパイアは単体ではそれほど特別じゃなくなるということだ。
結局のところ、マジックにはマナコストが(2)(黒)で2/2のバニラクリーチャー(たまにデメリットつき)が必要なんだ。(あー、はいはい、分かってるよ。確かにアイツ(註)はヴァンパイアじゃない)
(註) アイツ
この記事の後半にも出てくる《愚鈍な虚身/Mindless Null》を指している。
明るい面を見れば、今後の構築済みデッキでヴァンパイアをテーマにしたものも作れるし、ドラフトでヴァンパイアデッキだって組める(本気で言ってるよ? ゼンディカードラフトの黒単ヴァンパイアデッキは3-0だって可能だ)。
量が増すことで選択肢も増える。
アンデッドに口なし
というわけで、ゼンディカーにはヴァンパイアがたくさん収録されることになったか……というと、実際はそうでもなかった。少なくともデザインの段階では。
ゼンディカーのデザインはMagic 2010のデザインよりも早い時期に行われたのだ。つまり、この ヴァンパイアの大転換/Great Vampire Swap が実際に起きたのはゼンディカーのデザインも後半に入ってからのことだった。
そのためゼンディカーがデベロップメント・チームの手に引き渡されたとき、そこにヴァンパイアの姿は無かった。コモンにもアンコモンにも、という意味でだ。
さて、デベロップメントの最中、セットのある側面を最適に仕上げるためにデザイン・チームの出番が生じた。デベロップメントの中で生じたいくつかの論点をデザイン面からのアプローチで解決しようとするものだった。
ポイントとなった事項の1つは、セットにヴァンパイアを加えたいというものだ。
このヴァンパイア(および、同様にデベロップメントの段階で加えることとなったもう1つの種族であるコー/Korやその他の少数のカード)を加える仕事は、チームリーダーにKen Nagleが据えられ、メンバーにはLatest Development(註)の著者として有名なTom Lapille、およびR&D屈指のプレイテスターであるSteve Warnerが参加した。
(註) Latest Development
原文では以下のURLへリンクが張ってある。ここで抽出されているDaily MTGに載っているコラムのカテゴリの1つ「Latest Development」は、Tom Lapilleが手掛けている。
http://www.wizards.com/magic/magazine/archive.aspx?tag=latest%20developments&description=latest%20developments
彼らの目標はヴァンパイア的なメカニズムを見つけ出すこと。皆がプレイする際に、これぞヴァンパイアデッキだ、と感じられるようなフレイバーあふれるテーマを生み出すことだ。
この問題へのヒントは2つの全く異なる場所からもたされた。
1つはアラーラの断片ブロックのグリクシス/Grixisの断片であり、もう1つはロールプレイングゲームのダンジョンズアンドドラゴンズ(註)だ。
(註) ダンジョンズアンドドラゴンズ
マジックザギャザリングと同じ会社から発売されているロールプレイングゲーム。ちなみにこのあとで挙げられているのはダンジョンズアンドドラゴンズ第4版のルール。
デザイン・チームに課せられた目標を達成しようとしていたとき、Kenが思い出したのは1年前に他のデザイン・チームが提案したアイデアだった。
グリクシスのデザイン・チームのリーダーはDevin Lowで、そのチームメンバーにはデベロッパーとしてErik Laurer、デザインメンバーとしてBrian Tinsmanが加わっていた。
そのチームの目標の1つはグリクシスらしさを表現するメカニックを生み出すことだった。
アイデアの1つはErik Laurerによって生み出された。彼は「対戦相手のライフが一定のラインを切っているときに能力が向上するクリーチャー」という自分のアイデアを気に入っていた。
そのコンセプトをより明確にするために彼が提示したのは以下のようなサイクルだった。
対戦相手のライフが15以下のときに向上するコモンのクリーチャー、対戦相手のライフが10以下のときに向上するアンコモンのクリーチャー、そして対戦相手のライフが5以下のときに向上するレアのクリーチャー。
このアイデアはグリクシスには採用されなかったが、他のR&Dメンバーに深い印象を残した。そのメンバーの中にはKenも含まれていたというわけだ。
さてその頃、Tomはまったく違った面からインスピレーションを得ていた。
Tomは仕事の時間の大半をマジックに費やしていたが、同時にその一部をウィザーズオブザコースト社の別のゲームにも振り向けていた。
それは、とあるロールプレイングゲームで、そのゲームのファンには D&D と呼ばれているものだ。
Tomはウィザーズ社に来た当時、ダンジョンズアンドドラゴンズのキャンペーンに参加し、それがあまりに楽しかったため、その後も裏でそれに関わる仕事を手掛けていた。
D&Dのクリーチャーたちはヒットポイントと呼ばれる数値を持っており、これが彼らの生命力を表している(ちなみに双頭でないマジックの魔法使いはこのヒットポイントを20点もっていることになっている)。
そして、ヒットポイントがその最大値の半分以下になったクリーチャーは「重傷/Bloodied」(註)とみなされるというルールがある。
(註) 重傷/Bloodied
ダンジョンズアンドドラゴンズ第4版のルール。
ヒットポイントが最大値の半分を切ると「重傷」というステータスとなる。敵のモンスターだけでなく、プレイヤーキャラクターも同様。「重傷」状態のときにしか効果のない特殊能力などがある。
プレイヤーが「重傷/Bloodied」状態に陥ったときだけ効果を発する、というアイデアがTomには魅力的なものに思われた。
私自身はこのチームに参加していなかったので、この2つのアイデアがどのようにして混ざり合ったのかは分からないけど、とにかくこれらは混ざり合って1つのアイデアとなったようだ。
「対戦相手のヒットポイントの減少によって与えられるボーナス」と「君のクリーチャーによって対戦相手が重傷に陥った」というフレイバーと関連付けたらどうなるだろう?
《センギアの吸血鬼/Sengir Vampire》に代表されるような「ヴァンパイアが他のクリーチャーを喰らう」というフレイバーのかわりに「ヴァンパイアが対戦相手の命を喰らう」と考えてみたら?
対戦相手の生命力が一定のラインまで低下し、ヴァンパイアがその弱体化を嗅ぎつけたとき、ヴァンパイアたちはより勢いを増し、そしてより好戦的になるのだ。
デザイン・チームは閾値を10点に設定した。なぜならメカニズム的にも良いバランスのように感じられたし、それだけでなくD&Dでもクリーチャーが重傷に陥るのはそのヒットポイントが半分失われたときだ。試しに始めてみるには手ごろなラインと思われた。
10点のラインが適切なものだということはプレイテストによって早々と判明した。
デザイン・チームはこの「重傷/Bloodied」からアドバンテージを得られるヴァンパイアを大量に作った。最も多く作られたのは +2/+1 のボーナスを得るというものだ。
なぜ +2/+1 なのか?
その理由は3つある。その1として「平凡な +1/+1 との差別化」、その2として「マジック初期の象徴的な黒のカードであった《邪悪なる力/Unholy Strength》との紐づけ」、その3として「敵味方の両プレイヤーが10点という閾値に注意を払わざるを得なくなる程度に高いボーナス」として設定された。
ゼンディカーのデベロップメント・チームはヴァンパイアを用いたプレイテストに長い時間を費やした。
その結果として判明したのは、このボーナスは上手いことゲームで働いてくれる、ということだけでなく、ヴァンパイア・デザイン・チームが作ってくれた大量のヴァンパイアを全てこのセットに入れる必要はない、ということだった。
彼らは気に入ったものだけ残し、その他のカードについては違った方向にヴァンパイアのフレイバーを感じさせるデザインへと変更した。
ついでに述べておくと、デベロップメント・チームが気に入っているゼンディカーのデザインには《血の貢ぎ物/Blood Tribute》や《ソリン・マルコフ/Sorin Markov》のようなカードがある。これらは(声高に主張するのではなく)むしろひそやかにヴァンパイアのメカニズムへ紐づけがなされているところがいい。
そしてカードへ
さて今日のコラムを締め括る前に、セットに収録されているヴァンパイアの何枚かのデザインについてちょっと取り上げてみたら面白いかもしれない、と考えてみた。
Bloodghast / 恐血鬼 (黒)(黒)
クリーチャー - 吸血鬼(Vampire) スピリット(Spirit)
恐血鬼ではブロックできない。
恐血鬼は、いずれかの対戦相手のライフが10点以下である限り速攻を持つ。
上陸 ― 土地が1つあなたのコントロール下で戦場に出るたび、あなたはあなたの墓地にある恐血鬼を戦場に戻してもよい。
2/1
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Bloodghast/
これは10点のヒットポイントに関連するメカニズムを持つヴァンパイアのうち、デザインの段階ですでに生まれていた唯一のものだ。
念のために言っておくと、「ライフが10点以下である限り」のテキストは当然ヴァンパイア・デザイン・チームによって付け加えられたものだ。
上陸能力によって自力で墓地から帰って来られる黒のクリーチャーというアイデアがデザイン・チームによってすでに生み出されていたのだ。
Gatekeeper of Malakir / マラキールの門番 (黒)(黒)
クリーチャー - 吸血鬼(Vampire) 戦士(Warrior)
キッカー(黒)(あなたがこの呪文を唱えるに際し、あなたは追加の(黒)を支払ってもよい。)
マラキールの門番が戦場に出たとき、それがキッカーされていた場合、プレイヤー1人を対象とする。そのプレイヤーはクリーチャーを1体生け贄に捧げる。
2/2
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Gatekeeper+of+Malakir/
私の覚えている限りでは、これの元々のバージョンはゼンディカーのデベロップメント・リーダーであるHenry Sternに生み出された。
彼は、あまりややこしくない「戦場に出たとき/Enters the battlefield」にトリガーするキッカー能力を欲していた。
最初の能力は合計 (3)(黒) を払うことで《闇への追放/Dark Banishing》の効果を誘発するものであった。のちのデベロップメントで、最終的には合計 (黒)(黒)(黒) を払うことによって《残酷な布告/Cruel Edict》の効果となった。
Guul Draz Vampire / グール・ドラズの吸血鬼 (黒)
クリーチャー - 吸血鬼(Vampire) ならず者(Rogue)
いずれかの対戦相手のライフが10点以下である限り、グール・ドラズの吸血鬼は+2/+1の修整を受けるとともに威嚇を持つ。(それはアーティファクト・クリーチャーかそれと共通の色を持つクリーチャー以外にはブロックされない。)
1/1
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Guul+Draz+Vampire/
これは元々のKenのデザイン・チームの意図にもっとも近いカードだ。
+2/+1 のボーナスを残した唯一のカードでもある。
Kalitas, Bloodchief of Ghet / ゲトの血の長、カリタス (5)(黒)(黒)
伝説のクリーチャー - 吸血鬼(Vampire) 戦士(Warrior)
(黒)(黒)(黒),(T):クリーチャー1体を対象とし、それを破壊する。これによりそのクリーチャーがいずれかの墓地に置かれた場合、黒の吸血鬼(Vampire)クリーチャー・トークンを1体戦場に出す。それのパワーはそのクリーチャーのパワーに等しく、それのタフネスはそのクリーチャーのタフネスに等しい。
5/5
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Kalitas%2C+Bloodchief+of+Ghet/
このカードは一見トップダウン式に生まれたように見える。つまり「伝説のヴァンパイアをデザインする」のがまず先にありきで作られたように思われるかもしれないが、実際はそうではない。
誰がデザインしたかは残念ながら忘れてしまったが、これは普通のレアとして生まれた。
その後、伝説のクリーチャーのリストをクリエイティブ・チームからもらったとき、その中の1つは伝説のヴァンパイアだった(そのとおり。最初の段階で、もうすでにヴァンパイアが多少はいたのだ。単にコモンとアンコモンにいなかったというだけのことだ)。
既に作られていたカードの中に実にしっくり来るレアがあったため(そしてデザイン・チームの中でも人気のある1枚だったため)、私はこれを伝説のヴァンパイアへと変更したのだ。
Mindless Null / 愚鈍な虚身 (2)(黒)
クリーチャー - ゾンビ(Zombie)
あなたが吸血鬼(Vampire)をコントロールしていない限り、愚鈍な虚身ではブロックできない。
2/2
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Mindless+Null/
これ自体はヴァンパイアではないが、これは確かに「ヴァンパイア関連」のカードだ。そしてこいつに関してはなかなか面白い話があり、それをこれから語ろうと思う。
これの元々のバージョンも、今、君が見ているものと全く同じだった。ただ1つの違いはマナコストが (1)(黒)だったことだ。
このカードはKenがヴァンパイアのデザインをしている最中に生まれた。KenはこのカードデザインをHenry Sternへと預け、セットに加えておくように指示した。
Henryは(1)(黒)とするべきカードデータを誤って(2)(黒)と入力してしまった。間違いに気づいたとき、R&Dのメンバーの大半は「これは意外と面白いぞ」と思ったのでそのままにしておくことにした。
私はこのカードが気に入らなかった。
すでに弱すぎると皆に思われているカード(アルファから収録されている《スケイズ・ゾンビ/Scathe Zombies》のことだ)の明らかな下位互換をわざわざ作る意味があるとは思えなかったからだ。
私はこれをセットから抜くべきだ(もしくはせめてマナコストを (1)(黒) に戻すべきだ)と主張したが、Kenはこのままにすると言って譲らなかった。
Kenに同調するメンバーが多数派で、結局カードはそのまま印刷された。
さて、カードが世に出て世間一般の評判を聞くにつけ、私は自分が間違っていたこと、そして正しい選択がなされたことを素直に認めようと思う。
このカードはゼンディカーのリミテッドでデッキに入る可能性を持っている。
また私自身も過去にすでに出ているカードの下位互換でしかないバージョンを生み出そうとすることに賛成したことがある。下位互換であってもプレイするに値するカードだと思ったからだ。
(もし当時の私の意見が通っていたら、《無効/Annul》がミラディンに再録されるかわりに《Malfunction》というマナコストが (青) で、アーティファクトしか打ち消せない呪文が収録されていたはずだ)
Vampire Hexmage / 吸血鬼の呪詛術士 (黒)(黒)
クリーチャー - 吸血鬼(Vampire) シャーマン(Shaman)
先制攻撃
吸血鬼の呪詛術士を生け贄に捧げる:パーマネント1つを対象とする。それの上に置かれているすべてのカウンターを取り除く。
2/1
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Vampire+Hexmage/
デベロップメントの中で、低いレアリティのカードでプレインズウォーカーに対処する手段があるべきだ、ということでこのカードが生まれた。
そのとき私たちは想像もしなかったんだ。
まさかこれの真の使い道が「氷の塊の中から20/20の破壊されない飛行クリーチャーを掘り出すこと」(註)にあるとはね。つい先日のプロツアー・オースティンで見られたように。
(註) 氷の塊の中から20/20の破壊されない飛行クリーチャーを掘り出す
《吸血鬼の呪詛術士/Vampire Hexmage》と《暗黒の深部/Dark Depths》のコンボのこと。
以下、《暗黒の深部/Dark Depths》のカードテキスト。Dark Depths / 暗黒の深部
伝説の氷雪土地
暗黒の深部はその上に氷(ice)カウンターが10個置かれた状態で戦場に出る。
(3):暗黒の深部から氷カウンターを1個取り除く。
暗黒の深部の上に氷カウンターが1個も置かれていないとき、それを生け贄に捧げる。そうした場合、飛行と「このクリーチャーは破壊されない」を持つ《マリット・レイジ/Marit Lage》という名前の黒の20/20の伝説のアバター(Avatar)・クリーチャー・トークンを1体戦場に出す。
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Dark+Depths/
Vampire Lacerator / 吸血鬼の裂断者 (黒)
クリーチャー - 吸血鬼(Vampire) 戦士(Warrior)
あなたのアップキープの開始時に、いずれかの対戦相手のライフが10点以下でない限り、あなたは1点のライフを失う。
2/2
引用元:http://whisper.wisdom-guild.net/card/Vampire+Lacerator/
このカードはKenのヴァンパイア・デザイン・チームによってではなく、デベロップメント・チームによって生み出された。
黒単色デッキのためによりアグレッシブな回答を探していた彼らは、お気に入りの黒いアグロなクリーチャーをヴァンパイアとして復活させることを決めたのだ。
そう、エクソダスの《カーノファージ/Carnophage》だよ。
トリビアネタを追加しておくと、そもそも私がエクソダスで《カーノファージ/Carnophage》を作ったのは、当時の黒単色のアグロなゾンビ・デッキを後押ししたかったからだ。
17番目のアンデッド
今日語るべきはこれで全部だ。
願わくばこのヴァンパイア世界へと足を踏み入れた記事のせいで君たちの血の気が引くようなことはなかったと思いたい。
来週は、惜しくも収録されることのなかった土地メカニズムについて話そうと思っているので、ぜひまたここに足を運んで欲しい。
それまで、君が対戦相手を重傷に陥らせることで得られるメリットを享受できていますように。